説明

慢性炎症性疾患治療剤

【課題】2型糖尿病にも有効な慢性炎症性疾患治療剤の提供。
【解決手段】次式(I):


(式中、Rは置換もしくは非置換の芳香族基及びカルボキシル基から選ばれる少なくとも1つの基で置換されたC1−6−アルキル基を表し;Rは水素原子を表し;Rは水素原子、置換もしくは非置換の5員環基又は6員環基、又は置換もしくは非置換の芳香族基で置換されたC1−6−アルキル基を表し;R及びRは同一又は異なり、水素原子、C1−6−アルキル基又は置換もしくは非置換の芳香族基を表す。)で示される化合物又はその塩を含有する慢性炎症性疾患治療剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性炎症性疾患治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性炎症性疾患治療剤として、広く非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDs)が用いられている。
【0003】
炎症性サイトカインTNFαの過剰分泌が、インスリン抵抗性を惹起し2型糖尿病の成因として重要な役割を果たしていることが明らかにされ、2型糖尿病は慢性炎症性疾患であるとみなされているが、メトホルミンやインスリンといった糖尿病治療剤は、血糖値は下げるが炎症マーカーの値を下げることはできない。
【0004】
以前から、非ステロイド系抗炎症剤であるアスピリン(アセチルサリチル酸)が血糖降下作用を有することは知られているが、血糖降下に必要な用量を投与すると出血リスクが上昇するため、臨床適用は不可能と考えられている。
【0005】
非特許文献1には、サリチル酸の非アセチル化プロドラッグで、非ステロイド系抗炎症剤の1つであるサルサレートが血糖降下作用を有することが報告されている。
【0006】
一方、特許文献1には、2−(3−アミノアルキルフェニルアミノ)−6−置換−3−ニトロピリジンが一酸化窒素合成酵素阻害作用を有し、一酸化窒素生成を抑制することにより、過剰なNO或いはNOの代謝産物の関与が考えられている脳血管障害、慢性関節リウマチ、変形性関節症、糖尿病に対して有用であることが記載されている。
【0007】
特許文献2には、2−アミノ−3−ニトロピリジン及びその類縁体が一酸化窒素合成酵素阻害作用を有し、関節炎治療剤、アレルギー治療剤として有用であることが記載されている。
【0008】
特許文献3には、2−(インダゾリルアミノ)−6−置換−3−ニトロピリジンがB型肝炎ウイルス及びヒト免疫不全ウイルスの増殖を抑制し、B型肝炎及びエイズの予防及び治療に効果的であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−237028号公報(特に、請求項14、37、38、40、段落0001参照)
【特許文献2】特開平10−1435号公報(特に、請求項12、16参照)
【特許文献3】特表2003−523952号公報(特に、請求項1、段落0013参照)
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Goldfine AB, et al., Ann Intern Med. 2010 Mar 16; 152(6): 346-357.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、2型糖尿病にも有効な慢性炎症性疾患治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記の目的を達成すべく、特許文献1〜3に記載の3−ニトロピリジン誘導体とは異なる多数の3−ニトロピリジン誘導体をスクリーニングした結果、2位に特定の置換アミノ基を有する3−ニトロピリジン誘導体が抗炎症作用を有し、かつ2型糖尿病にも有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)次式(I):
【化1】

(式中、Rは置換もしくは非置換の芳香族基及びカルボキシル基から選ばれる少なくとも1つの基で置換されたC1−6−アルキル基を表し;Rは水素原子を表し;R及びRは、隣接する窒素原子と共同して、置換もしくは非置換の5員環又は6員環を形成してもよく;Rは水素原子、置換もしくは非置換の5員環基又は6員環基、又は置換もしくは非置換の芳香族基で置換されたC1−6−アルキル基を表し;R及びRは同一又は異なり、水素原子、C1−6−アルキル基又は置換もしくは非置換の芳香族基を表す。)
で示される化合物又はその塩を含有する慢性炎症性疾患治療剤。
【0014】
(2)Rが置換もしくは非置換のフェニル基、置換もしくは非置換のインドリル基及びカルボキシル基から選ばれる少なくとも1つの基で置換されたC1−2−アルキル基である前記(1)に記載の慢性炎症性疾患治療剤。
(3)R及びRが、隣接する窒素原子と共同して、置換もしくは非置換のモルホリノ基、置換もしくは非置換の1−ピロリジニル基を表す前記(1)に記載の慢性炎症性疾患治療剤。
【0015】
(4)Rが水素原子、モルホリノ基、又は置換もしくは非置換のフェニル基で置換されたC1−2−アルキル基である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の慢性炎症性疾患治療剤。
(5)R及びRが水素原子である前記(1)〜(4)のいずれかに記載の慢性炎症性疾患治療剤。
(6)慢性炎症性疾患が2型糖尿病である前記(1)〜(5)のいずれかに記載の慢性炎症性疾患治療剤。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、2型糖尿病にも有効な慢性炎症性疾患治療剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】図1Aは、被験化合物(化合物番号1)のGalNAc4S-6STに対する結合活性を競合阻害試験によって調べた結果を示す図である。
【図1B】図1Bは、被験化合物(化合物番号2)のGalNAc4S-6STに対する結合活性を競合阻害試験によって調べた結果を示す図である。
【図1C】図1Cは、被験化合物(化合物番号3)のGalNAc4S-6STに対する結合活性を競合阻害試験によって調べた結果を示す図である。
【図1D】図1Dは、被験化合物(化合物番号4)のGalNAc4S-6STに対する結合活性を競合阻害試験によって調べた結果を示す図である。
【図1E】図1Eは、被験化合物(化合物番号5)のGalNAc4S-6STに対する結合活性を競合阻害試験によって調べた結果を示す図である。
【図1F】図1Fは、被験化合物(化合物番号6)のGalNAc4S-6STに対する結合活性を競合阻害試験によって調べた結果を示す図である。
【図2】図2は、PPEにより誘導されたマウス肺気腫モデルの臨床像を示す図である。被験化合物(化合物番号1)の投与により、組織学的な肺胞壁破壊が顕著に抑制されている。
【図3】図3は、マウス肺気腫モデルにおけるマクロファージ浸潤像を示す図である。肺組織のマクロファージ染色像(茶)。被験化合物(化合物番号1)の投与によりマクロファージの肺胞間質における浸潤が抑制されている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において、芳香族基としては、例えばフェニル基、トリル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基;フリル基、チエニル基、ピロリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、ピラジニル基、キノリル基、イソキノリル基、インドリル基等の芳香族複素環基が挙げられる。
【0019】
1−6−アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。
【0020】
前記芳香族基は、C1−6−アルキル基、C2−6−アルケニル基、C2−6−アルキニル基、芳香族基、アシル基、水酸基、カルボキシル基、シアノ基、ハロゲン原子、C1−6−アルコキシ基、アラルキル基、ニトロ基、アミノ基、C1−6−アルキルアミノ基、ジC1−6−アルキルアミノ基等から選ばれる1以上の置換基で置換されていてもよい。
【0021】
で表されるC1−6−アルキル基は、置換もしくは非置換の芳香族基(好ましくは、置換もしくは非置換のフェニル基、置換もしくは非置換のインドリル基)及びカルボキシル基から選ばれる少なくとも1つの基で置換されている。
【0022】
で表されるC1−6−アルキル基は、置換もしくは非置換の芳香族基で置換されている。
【0023】
2−6−アルケニル基としては、例えばビニル基、1−プロペニル基、アリル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基が挙げられる。
【0024】
2−6−アルキニル基としては、例えばエチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル(プロパルギル)基、3−ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基が挙げられる。
【0025】
アシル基としては、例えばホルミル基、アセチル基、プロピオニル基(プロパノイル基)、ブチリル基(ブタノイル基)、バレリル基(ペンタノイル基)、ヘキサノイル基等のC1−6−脂肪族アシル基;ベンゾイル基、トルオイル基等の芳香族アシル基(アロイル基)が挙げられる。
【0026】
ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0027】
1−6−アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基が挙げられる。
アラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基が挙げられる。
【0028】
及びRが隣接する窒素原子と共同して表す5員環基又は6員環基としては、例えば1−ピロリジニル基、1−イミダゾリジニル基、1−ピラゾリジニル基、モルホリノ基、ピペリジノ基、1−ピペラジニル基が挙げられ、これらの5員環基及び6員環基は、C1−6−アルキル基、C2−6−アルケニル基、C2−6−アルキニル基、芳香族基、アシル基、水酸基、カルボキシル基、シアノ基、ハロゲン原子、C1−6−アルコキシ基、アラルキル基、ニトロ基、アミノ基、C1−6−アルキルアミノ基、ジC1−6−アルキルアミノ基等から選ばれる1以上の置換基で置換されていてもよい。前記5員環基又は6員環基としては、好ましくは、置換もしくは非置換のモルホリノ基、置換もしくは非置換の1−ピロリジニル基が挙げられる。
【0029】
で表される5員環基又は6員環基としては、例えば1−ピロリジニル基、1−イミダゾリジニル基、1−ピラゾリジニル基、モルホリノ基、ピペリジノ基、1−ピペラジニル基が挙げられ、これらの5員環基及び6員環基は、C1−6−アルキル基、C2−6−アルケニル基、C2−6−アルキニル基、芳香族基、アシル基、水酸基、カルボキシル基、シアノ基、ハロゲン原子、C1−6−アルコキシ基、アラルキル基、ニトロ基、アミノ基、C1−6−アルキルアミノ基、ジC1−6−アルキルアミノ基等から選ばれる1以上の置換基で置換されていてもよい。
【0030】
としては、水素原子、モルホリノ基、又は置換もしくは非置換のフェニル基で置換されたC1−2−アルキル基が好ましい。R及びRとしては、水素原子が好ましい。
【0031】
前記式(I)で示される化合物の塩としては、薬学的に許容される塩が好ましく、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、ピロ硫酸、メタリン酸等の無機酸、又はクエン酸、安息香酸、酢酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、スルホン酸(例えば、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸)等の有機酸との塩が挙げられる。また、フェノール性水酸基又はカルボキシル基を有する場合には、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩として用いることもできる。
【0032】
前記式(I)で示される化合物は、例えば、以下に示すように、3−ニトロピリジン化合物(1)とアミン化合物(2)を塩基の存在下において反応させることにより製造することができる(例えば、特表2003−523952号公報参照)。
【0033】
【化2】

(式中、R〜Rは前記と同義である。)
【0034】
また、3−ニトロピリジン化合物(1)の代わりに、Rが塩素原子である3−ニトロピリジン化合物を用いて、アミン化合物(2)を3−ニトロピリジン化合物に対して2当量以上用いれば、Rが−N(R)(R)である3−ニトロピリジン誘導体(I)を製造することができる。
【0035】
前記塩基としては、通常有機塩基が用いられ、トリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、N−メチルモルホリン、N−メチルピぺリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチルアニリン、2,6−ルチジン、ピリジン等のような一般的な三級アミンが好ましい。
【0036】
反応時間及び温度は、好ましくは、それぞれ、4〜15時間、20〜60℃である。また、クロロホルム、塩化メチレン、アセトニトリル及びメタノール、エタノール等のアルコール類から選ばれる単一溶媒又は混合溶媒を用いることが好ましい。
【0037】
前記のようにして得られる生成物を精製するには、通常用いられる手法、例えばシリカゲル等を担体として用いたカラムクロマトグラフィーやメタノール、エタノール、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、水等を用いた再結晶法によればよい。カラムクロマトグラフィーの溶出溶媒としては、メタノール、エタノール、クロロホルム、アセトン、ヘキサン、ジクロロメタン、酢酸エチル、及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0038】
前記式(I)で示される化合物及びその塩(以下「3−ニトロピリジン誘導体(I)」という。)としては、種々の化合物が市販されており、これらの市販品をそのまま、又は必要に応じて精製して本発明の慢性炎症性疾患治療剤の有効成分として用いることができる。
【0039】
本発明の慢性炎症性疾患治療剤は、皮膚をはじめとする外皮及び上皮組織における弾性線維症、強皮症、慢性腹膜炎、後腹膜腔線維化症など、結合組織などの支持組織、筋肉における多発性筋炎、皮膚筋炎、結節性多発動脈炎、軟組織線維症、慢性関節リウマチ、手掌線維腫、腱炎、腱鞘炎、アキレス腱炎、足菌腫など、骨髄、心臓などの血液組織、脈管系における骨髄線維症、脾機能亢進症、脈管炎、徐脈性不整脈、動脈硬化、閉塞性血栓性血管炎、結節性線維症、狭心症、拡張型うっ血性心筋症、心不全、拘束型心筋症、びまん性非閉塞性心筋症、閉塞性心筋症、肺性心、僧帽弁狭窄、大動脈弁狭窄、慢性心膜炎、心内膜線維症、心内膜心筋線維症など、肝臓などの消化器系では慢性膵炎、クローン病、潰瘍性大腸炎、アルコール性肝炎、慢性B型肝炎、慢性C型肝炎、ウィルソン病、肝硬変、ウイルス性肝炎、ゴーシェ病、糖原病、α抗トリプシン欠損、ヘモクロマトーシス、チロシン血症、果糖血症、ガラクトース血症、ゼルウェガー症候群、先天性肝線維症、門脈圧亢進症、肝肉芽腫症、バッド−キアリ症候群、原発性硬化性胆管炎、脂肪肝、非アルコール性肝炎、肝線維症、先天性肝線維症、アルコール性肝硬変、ウイルス性肝硬変、寄生虫性肝硬変、中毒性肝硬変、栄養障害性肝硬変、うっ血性肝硬変、肝硬化症、シャルコー肝硬変、トッド肝硬変、続発性胆汁性肝硬変、単葉性肝硬変、慢性非化膿性破壊性胆炎から移行した肝硬変、閉塞性肝硬変、胆細管性肝硬変、胆汁性肝硬変、萎縮性肝硬変、壊死後性肝硬変、肝炎後肝硬変、結節性肝硬変、混合型肝硬変、小結節性肝硬変、代償性肝硬変、非代償性肝硬変、大結節性肝硬変、中隔性肝硬変、突発性肝硬変、門脈周囲性肝硬変、門脈性肝硬変、原発性胆汁性肝硬変など、肺などの呼吸系におけるコクシジオイデス症、ブラストミセス症、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、グッドパスチャー症候群、成人呼吸促迫症候群における肺線維症、慢性閉塞性肺疾患、無気肺、肺炎、珪肺症、石綿肺症、過敏性肺炎、特発性肺線維症、リンパ球性間質性肺炎、ランゲルハンス細胞肉芽腫症、嚢胞性線維症、膿胞性線維症、肺線維症、特発性肺線維症、線維化性肺胞隔炎、間質性線維症、びまん性肺線維症、慢性間質性肺炎、気管支拡張症、細気管支炎線維症、気管支周囲線維症、胸膜線維症、特発性間質性肺炎、塵肺、肺結核後遺症、慢性呼吸不全など、腎臓などの泌尿器、生殖器系における男性性腺機能低下症、筋強直性ジストロフィー、ペイロニー病などによる線維症、慢性尿細管間質性腎炎、常染色体劣性嚢胞腎、骨髄腫腎、水腎症、急速進行性糸球体腎炎、腎毒性疾患、黄色肉芽腫性腎盂腎炎、鎌状赤血球腎症、腎性尿崩症、常染色体優性多発性嚢胞腎疾患、慢性糸球体腎炎、IgA腎症、腎硬化症、巣状糸球体硬化症、膜性腎炎、膜増殖性糸球体腎炎、慢性腎盂腎炎、腎アミロイドーシス、多発性嚢胞腎、後腹膜線維症、ループス腎炎など膠原病に伴う腎病変、糖尿病性腎症、慢性前立腺炎、住血吸虫症による膀胱炎、乳腺線維症、乳腺線維腺腫など、脊椎などの神経系における先天性斜頸、強直性脊椎炎、神経線維腫や脊髄損傷後の神経機能欠損等の脊髄疾患、パーキンソン病やアルツハイマー病等の脳神経疾患、眼球における後部水晶体線維化症、増殖性網膜症など、また、全身に病変の生じるサルコイドーシス、全身性エリテマトーデスによる線維症や全身性強皮症、多発性筋炎、皮膚筋炎など、並びに2型糖尿病等の種々の慢性炎症性疾患の治療剤として有用である。
【0040】
本発明の慢性炎症性疾患治療剤は、他の慢性炎症性疾患治療剤、例えば非ステロイド系抗炎症剤、ステロイド製剤、免疫抑制剤などと併用することができる。この場合には、必要に応じて、後述の投与量を適宜増減することができる。
【0041】
以下、3−ニトロピリジン誘導体(I)の投与量及び製剤化について説明する。
3−ニトロピリジン誘導体(I)はそのまま、あるいは慣用の製剤担体と共に動物及びヒトに投与することができる。投与形態としては、特に限定がなく、必要に応じ適宜選択して使用され、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、徐放性製剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エリキシル剤等の経口剤、注射剤、坐剤、塗布剤、貼付剤等の非経口剤が挙げられる。
【0042】
経口剤は、例えばデンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を用いて常法に従って製造される。
【0043】
この種の製剤には、適宜前記賦形剤の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を使用することができる。
【0044】
結合剤としては、例えばデンプン、デキストリン、アラビアゴム末、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴールが挙げられる。
【0045】
崩壊剤としては、例えばデンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロースが挙げられる。
【0046】
界面活性剤としては、例えばラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート80が挙げられる。
【0047】
滑沢剤としては、例えばタルク、ロウ類、水素添加植物油、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ポリエチレングリコールが挙げられる。
【0048】
流動性促進剤としては、例えば軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムが挙げられる。
【0049】
注射剤は常法に従って製造され、希釈剤として一般に注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、オリーブ油、ゴマ油、ラッカセイ油、ダイズ油、トウモロコシ油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等を用いることができる。更に必要に応じて、殺菌剤、防腐剤、安定剤を加えてもよい。また、注射剤は安定性の点から、バイアル等に充填後冷凍し、通常の凍結乾燥技術により水分を除去し、使用直前に凍結乾燥物から液剤を再調製することもできる。更に、必要に応じて適宜、等張化剤、安定剤、防腐剤、無痛化剤等を加えてもよい。
【0050】
その他の非経口剤としては、外用液剤、軟膏等の塗布剤、貼付剤、直腸内投与のための坐剤等が挙げられ、常法に従って製造される。
【0051】
本発明の製剤は、剤形、投与経路等により異なるが、1日1〜数回から1〜数回/週〜月の投与が可能である。
【0052】
経口剤として所期の効果を発揮するためには、患者の年令、体重、疾患の程度により異なるが、通常成人で3−ニトロピリジン誘導体(I)の重量として1〜200mgを、1日数回に分けての服用が適当である。
【0053】
非経口剤として所期の効果を発揮するためには、患者の年令、体重、疾患の程度により異なるが、通常成人で3−ニトロピリジン誘導体(I)の重量として1日1〜50mgの静注、点滴静注、皮下注射、筋肉注射が適当である。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
GalNAc4S-6ST(N-acetylgalactosamine 4-sulfate 6-O sulfotransferase)に結合し、阻害活性を有する物質は、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの合成を阻害する作用を有することから、2型糖尿病を含む慢性炎症性疾患治療剤として有用であることが知られている(例えば、WO2008/020489、特開2009−234916号公報)。
【0056】
そこで、種々の低分子化合物のGalNAc4S-6STに対する結合活性を以下の競合阻害試験によって調べた。
【0057】
ナミキ商事及び住商ファーマインターナショナル株式会社より購入した低分子化合物について、GalNAc4S-6ST リコンビナントタンパク質(R&D systems社製)、PAPS (Sigma社製)、[35S]PAPS(American Radiolabeled Chemicals 社製)及びPVT Copper His-Tag SP Assay beads (GE Healthcare社製)を用いて、[35S]PAPSとの競合阻害試験を行った。反応は、22℃、18時間で行い、[35S]PAPSの結合量の減少に応じたSPシグナルの阻害率%を算出した。この阻害率%を化合物濃度に対してプロットし(図1A〜図1F)、50%阻害(IC50)に必要とされる濃度をグラフから計算した(表1)。
【0058】
その結果、17μMから73μMの結合阻害活性を持つ6個の低分子化合物(下記式の化合物番号1〜6)が見出され、GalNAc4S-6ST とPAPSの結合を阻害する化合物が明らかにされた。
【0059】
<SP: Scintillation Proximity の略>
【化3】

【0060】
【化4】

【0061】
【化5】

【0062】
【化6】

【0063】
【化7】

【0064】
【化8】

【0065】
【表1】

【0066】
(実施例2)マウス肺気腫モデルにおける3−ニトロピリジン誘導体の肺胞間質における効果
本実施例では、基本的な肺気腫マウスモデルであるブタ膵臓由来エラスターゼ(PPE)気管内投与モデルを使用した。このマウスモデルは古典的ではあるが再現性にすぐれ、簡便であることより肺気腫モデルとして広く使用されている。組織学的には肺胞間質への炎症細胞浸潤が認められるため、肺気腫や慢性気管支炎等の慢性閉塞肺疾患(COPD:chronic obstructive pulmonary disease)に加えて、特発性間質性肺炎(IIPs:idiopathic interstitial pneumonias)、塵肺、肺結核後遺症など、慢性呼吸不全に至る疾患の組織所見に共通する。
【0067】
(非特許文献:Karlinsky JB et al. Am Rev Respir Dis 1978;117:1109-1133.
Otto-Verberne CJ et al. Protective effect of pulmonary surfactant on elastase-induced emphysema in mice. Eur Respir J 1992;5:1223-1230.
Janoff A et al. Prevention of elastase-induced experimental emphysema by oral administration of a synthetic elastase inhibitor. Am Rev Respir Dis 1980;121:1025-1029.
Christensen TG, et al. Irreversible bronchial goblet cell metaplasia in hamsters with elastase-induced panacinar emphysema. J Clin Invest 1977;59:397-404.
Lucey EC, et al. Remodeling of alveolar walls after elastase treatment of hamsters: results of elastin and collagen mRNA in situ hybridization. Am J Respir Crit Care Med 1998;158:555-564.
Snider GL, Lucey EC, Stone PJ. Animal models of emphysema. Am Rev Respir Dis 1986;133:149-169.)
【0068】
この実施例では肺気腫モデルマウスの肺組織サンプルを使用してヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)を行い、3−ニトロピリジン誘導体の気腫性病変抑制効果について比較検討を行った。
【0069】
最初に、C57BL6/J マウス(メス、8週齢、日本クレア社製)に、PPE(4単位;Calbiochem-Novabiochem社製)を気管内投与してマウスモデルを作製した。投与後2週間飼育し肺組織を採取した。
【0070】
PPE投与後より連日、化合物番号1の3−ニトロピリジン誘導体(80mg/kg)、又は対照群としてVehicle(0.5% Methylcellulose)を経口投与した。
【0071】
採取した右肺組織を凍結用包埋剤OCTコンパウンド(Miles社製)に包埋し、液体窒素を用いて凍結ブロックを作製した。その凍結ブロックからクライオスタット(Microm社製)を用いて厚さ6μmの切片を作製した。
【0072】
得られた切片を1%グルタルアルデヒド(ナカライテスク社製)で10分間固定後、更にホルモールカルシウム液で10分間固定した。リン酸緩衝液で洗浄後、リリマイヤーヘマトキシリン液(シグマアルドリッチジャパン社製)で室温、5分間染色し脱色液(0.5%HCl含有70%エタノール、いずれもナカライテスク社製試薬を用いて作製)にて軽く洗浄した。その後10分間水洗いを行う。エオジンアルコールで室温、5分間染色し10分間水洗いを行った。100%エタノールで軽く洗浄後、3分間静置した。更にキシレン(ナカライテスク社製)で軽く洗浄後、10分間静置した。この標本を光学顕微鏡(ライカ社製)用いて観察し組織の様子を確認した。
【0073】
得られた組織図を図2に示した。対照群(PPE投与、Vehicle投与)では、肺気腫に特徴的な所見である肺胞隔壁の破壊消失と気腔の拡大に伴う気腫性病変が観察できた。これに対して治療群(PPE投与、3−ニトロピリジン誘導体投与)では若干の肺胞隔壁の消失と気腫性病変が見られるものの、その程度は大幅に改善されていることが観察できる所見であった。
【0074】
(実施例3)マウス肺気腫モデルにおける3−ニトロピリジン誘導体の組織学的マクロファージ浸潤抑制効果
実施例2と同様の方法でCOPDモデルを作成した。採取した肺組織を用いて、実施例2と同様の方法で凍結ブロック及び組織切片を作成した。得られた切片をアセトン(和光社製)で10分間固定後、リン酸緩衝液で洗浄し、一次抗体として抗F4/80抗体(クローンA3-1、ラットモノクローナル抗体、2μg/ml:CALTAG LABORATORIES社製)を添加し、室温で1時間反応させた。続いて、ペルオキシダーゼ標識抗ラットIgG(1:200希釈)を用いて二次抗体反応を行った後、DAB基質(ニチレイバイオサイエンス社製)を添加し発色させた。その後リリー・マイヤーヘマトキシリン(武藤化学社製)により核染色を行い、光学顕微鏡(ライカ社製)下で試料を観察し、茶色のシグナルで可視化された抗体結合を観察した。
【0075】
その結果、3−ニトロピリジン誘導体(化合物番号1)治療群では対照群に比し、マクロファージの肺胞間質への浸潤が明確に抑制されていた(図3)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(I):
【化1】

(式中、Rは置換もしくは非置換の芳香族基及びカルボキシル基から選ばれる少なくとも1つの基で置換されたC1−6−アルキル基を表し;Rは水素原子を表し;R及びRは、隣接する窒素原子と共同して、置換もしくは非置換の5員環又は6員環を形成してもよく;Rは水素原子、置換もしくは非置換の5員環基又は6員環基、又は置換もしくは非置換の芳香族基で置換されたC1−6−アルキル基を表し;R及びRは同一又は異なり、水素原子、C1−6−アルキル基又は置換もしくは非置換の芳香族基を表す。)
で示される化合物又はその塩を含有する慢性炎症性疾患治療剤。
【請求項2】
が置換もしくは非置換のフェニル基、置換もしくは非置換のインドリル基及びカルボキシル基から選ばれる少なくとも1つの基で置換されたC1−2−アルキル基である請求項1記載の慢性炎症性疾患治療剤。
【請求項3】
及びRが、隣接する窒素原子と共同して、置換もしくは非置換のモルホリノ基、置換もしくは非置換の1−ピロリジニル基を表す請求項1記載の慢性炎症性疾患治療剤。
【請求項4】
が水素原子、モルホリノ基、又は置換もしくは非置換のフェニル基で置換されたC1−2−アルキル基である請求項1〜3のいずれか1項に記載の慢性炎症性疾患治療剤。
【請求項5】
及びRが水素原子である請求項1〜4のいずれか1項に記載の慢性炎症性疾患治療剤。
【請求項6】
慢性炎症性疾患が2型糖尿病である請求項1〜5のいずれか1項に記載の慢性炎症性疾患治療剤。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図1F】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−62286(P2012−62286A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209056(P2010−209056)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(505156709)株式会社ステリック再生医科学研究所 (16)
【Fターム(参考)】