説明

慢性関節リウマチの治療に有用な、マクロファージの活性を調整するペプチド

本発明は、抗炎症特性を有するシトルリンペプチドに関する。本発明はまた、慢性関節リウマチの特化したIgGとそれらのシトルリン標的との免疫複合体により誘導されるマクロファージの活性化のインビトロモデルに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性関節リウマチ(以下「RA」と略す)に特異的なIgGとそのシトルリン化標的との間の免疫複合体により誘導されるマクロファージ活性化のインビトロモデルに関し、また炎症調整特性(inflammation-modulating properties)を有する分子を同定するためのその使用に関する。
【0002】
慢性関節リウマチは、最も一般的な慢性炎症性リウマチである。これは自己免疫疾患であり、罹患患者の血清は自己抗体を含有し、自己抗体の幾つかは特異的であり、この疾患のマーカーを構成し得、よって初期段階でさえその診断が可能になる。したがって、従来の免疫学的診断技法で使用することができる血清からの精製調製物を得るために、これら抗体により認識される抗原を同定するという観点で研究が行われてきた。
【0003】
RA特異的自己抗体(IgG)は(プロ)フィラグリンの種々の等電性変形体を認識することが示されている(概説としては、例えば、Autoantibodies, PETER及びSHOENFELD編, Elsevier Science PublishersのSERRE及びVINCENT, 271-276, 1996を参照)。このため、これら自己抗体は、「抗フィラグリン自己抗体(AFA)」と名付けられている。欧州特許出願0 511 116は、これら抗体により認識されるフィラグリンファミリーの抗原の精製及び特徴付け、並びに慢性関節リウマチの診断のためのその使用を記載している。
【0004】
その後、AFAにより認識されるフィラグリンエピトープは、ペプチジルアルギニンデイミナーゼによるアルギニル残基の転換から生じたシトルリル残基を有するフィラグリン分子の領域として同定された(Girbal Neuhauser E.ら, J. Immunol, 162, 585-94, 1999;Schellekens GAら, J. Clin Invest, 101, 273-81, 1998)。ヒトフィラグリン配列から誘導した種々の合成ペプチドの分析により、AFA(今日、抗シトルリン化ペプチド自己抗体(ACPA)とも呼ばれる)により認識されるエピトープを作るためには脱イミン化(シトルリン化)が必要であることが示されている。
【0005】
ACPAにより特異的に認識され、RAを診断するために使用することができる非常に多くのシトルリン化ペプチドが、フィラグリン(出願EP 0 929 669、出願EP 1 475 438)から、また他のシトルリン化タンパク質(とりわけ、フィブリン(出願WO 01/02437)及びビメンチン(Vossenaar ERら, Arthritis Res Ther 2004;6:R142-R150)から作られたものが挙げられる)からも取得されている。
【0006】
並行して、ACPAは、滑液膜組織の形質細胞により分泌されること(Masson-Bessiere Cら, Clin Exp Immunol, 119, 544-52, 2000)、及びこの組織中に存在するフィブリンのα鎖及びβ鎖のシトルリン化形態を特異的に指向すること(Masson-Bessiere Cら, J Immunol, 166, 4177-84, 2001)が示されている。
【0007】
本発明者らは、ACPAと滑液膜組織中に存在する該ACPAに特異的なシトルリン化エピトープとの間の免疫複合体(以下、「IC」と略す)の形成は、慢性関節リウマチの病因において、特に炎症性反応を誘引し維持することにおいて、或る役割を演じているとの仮説及び非常に高い確率でマクロファージがこの反応の主要なエフェクター細胞であるとの仮説を提唱した。
【0008】
この仮説を実証するために、本発明者らは、ACPA及びそのシトルリン化エピトープから形成されたICとマクロファージとの間の相互作用により誘導されるマクロファージ活性化のインビトロモデルを開発した。
【0009】
このモデル(これは、リウマチ様滑液膜組織の生理病理学的状態を模倣する)は、ACPAと該ACPAにより認識されるシトルリン化ポリペプチドとにより形成されたICとマクロファージをインビトロで接触させた後のマクロファージ活性化の評価を与える。
【0010】
マクロファージ活性化(これは、炎症促進性サイトカインの産生を刺激する)は、マクロファージをICと接触させた後に、該マクロファージの培養上清において、これらサイトカイン(例えば、TNF-α、IL-1β、IL-6、IL-8、GM-CSF、IL-15など)の1又はそれより多くをアッセイすることにより評価することができる。
【0011】
このモデルは、分子の炎症調整特性、殊に抗炎症特性の評価に特に適切である。
【0012】
これは、特に、ACPAと該ACPAにより認識されるシトルリン化抗原との間の免疫複合体の形成を妨害することによってか、又はマクロファージへの該複合体の結合を妨害することによってかのいずれかでICによるマクロファージ活性化に対する拮抗効果を有し得る薬理学的物質のインビトロ同定に使用することができる。
【0013】
試験分子の炎症調整特性の評価は、該試験分子の非存在下及び存在下で、上記のようにICにより活性化されたマクロファージの培養上清中、1又はそれより多くの炎症促進性サイトカインの産生を比較することによって簡単に実施することができる。
【0014】
本発明の1つの主題は、
a)抗シトルリン化ペプチド自己抗体(ACPA)を該ACPAと反応性のシトルリン化ペプチド抗原と、該ACPAと該シトルリン化抗原との間の免疫複合体の形成を可能にする条件下で接触させ;
b)a)で形成した前記免疫複合体をマクロファージと、該免疫複合体による該マクロファージの活性化を可能にする条件下で接触させ、該マクロファージにより産生される少なくとも1つの炎症促進性サイトカインの量を決定し;
c)工程a)及び工程b)を繰返し(ここで、該両工程の一方及び/又は他方は試験分子の存在下で繰り返される);
d)産生される炎症促進性サイトカインの量を前記試験分子の非存在下と該試験分子の存在下とで比較すること
を含んでなることを特徴とする、分子の炎症調整特性をインビトロで評価する方法である。
【0015】
有利には、工程a)の後には、シトルリン化抗原との免疫複合体の形成に関与していないIgGを排除するための工程が続く。これらIgGは、例えば、遊離IgG(これは、工程a)の終わりの時点で、シトルリン化抗原と反応していない)、又は適切な場合には、試験分子との免疫複合体の形成に関与する可能性のあるIgGである。
【0016】
この場合、シトルリン化抗原は、この排除をリンスによって容易に行うことを可能にするために、固相支持体(例えば、マイクロタイトレーションプレート又は磁性ビーズ)上に固定する。
【0017】
本発明による方法を実施するために使用することができるACPAは、例えば、慢性関節リウマチに罹患している1又は複数の患者の血清から、有利には血清の混合物から得られ、ACPA検出用の1又は好ましくは複数の参照試験(例えば、Vincent Cら, Ann Rheum Dis 48, 712-22, (1989)により記載されたラット食道の凍結切片における間接免疫蛍光試験、又はChapuy-Regaud Sら, Clin Exp Immunol, 139:542-50, 2005により記載されたシトルリン化ヒトフィブリノゲンにおけるELISAアッセイ)に対して陽性反応を示すIgGである。有利には、このIgGはまた、シトルリン化抗原(例えば、シトルリン化フィブリノゲン、シトルリン化フィラグリン、シトルリン化ビメンチンなど)を使用するクロマトグラフィーにより精製してもよい。選択肢の1つとして、モノクローナルACPA又は遺伝子組換えにより産生されるACPAが使用されてもよい。
【0018】
ACPAとのICの形成に使用されるシトルリン化抗原は、該ACPAと反応し得る任意のシトルリン化ポリペプチド又はシトルリン化ポリペプチドの混合物(天然、又は遺伝子組換え若しくは化学合成により得、次いでインビトロでのシトルリン化)であり得る。これには、具体的には、使用したACPA調製物と反応し得る、シトルリン化フィラグリン(出願EP 0 511 116、出願EP 0 929 669、出願EP 1 475 438)、シトルリン化フィブリン若しくはフィブリノゲン(出願WO 01/02437)、シトルリン化ビメンチン(Hill Aら, The Journal of Immunology, 2003, 171:538-541;Vossenaar ERら, Arthritis Res 2000, 2:429-432)又はこれらタンパク質のシトルリン化フラグメントが含まれる。当業者は、基本的な免疫学的試験により、ACPA調製物とのシトルリン化抗原(これが何であろうと)の反応性を容易に検証することができる。
【0019】
有利には、シトルリン化抗原は、(下記で規定するものから選択される)フィブリンから誘導されるシトルリン化ポリペプチド又はこれらポリペプチドの2若しくはそれより多くの混合物を含んでなる。
【0020】
好ましくは、使用するマクロファージは、哺乳動物マクロファージ、特にヒト起源のマクロファージである。マクロファージは、例えば、抗-CD14抗体を使用して単離した単球から得ることができ、M-CSF(マクロファージ-コロニー刺激因子)の存在下での培養によりマクロファージに分化させることができる。
【0021】
マクロファージの活性化を測定するために、1つ(又は任意にそれより多く)の炎症促進性サイトカイン(好ましくは、TNF-α(腫瘍壊死因子-α)、インターロイキン-1β(IL-1β)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-8(IL-8)、GM-CSF(顆粒球マクロファージ-コロニー刺激因子)及びインターロイキン-15(IL-15)から選択されるもの)をアッセイすることができる。好ましい炎症促進性サイトカインはTNF-αであり、これはリウマチ様滑液膜組織のマクロファージにより豊富に産生され、関節の炎症及び破壊に主要な役割を演じる(Feldmann Mら, Annu Rev Immunol 14:397-440, 1996)。
【0022】
免疫複合体の最適な形成及びマクロファージの最適な活性化を可能にするACPA及びシトルリン化ペプチド抗原の濃度は、特に、使用するACPA調製物及びペプチド抗原調製物に依存し得る。当業者は、単純なルーチンの較正試験(例えば下記の実施例に記載のもの)を行うことによって、最適反応条件を容易に決定することができる。
【0023】
本発明の1つの主題はまた、任意に固相に固定化されていてもよいシトルリン化ペプチド抗原と、該抗原と免疫複合体を形成し得る抗シトルリン化ペプチド自己抗体(ACPA)とを含んでなることを特徴とする、本発明による方法を実施するためのパック(又はキット)である。
【0024】
このパックはまた、1又はそれより多くの炎症促進性サイトカインをアッセイする手段を含んでなってもよい。
【0025】
任意に、このパックはまた、M-CSFと、単球を選択する手段(例えば、抗CD14抗体でコーティングされた支持体)とを含んでなる。
【0026】
本発明の主題はまた、
− 試験分子の各々を用いて、上記のように、該分子の炎症調整特性を評価する方法を実施し;
− マクロファージにより産生される炎症促進性サイトカインの量を改変し得る分子を選択すること
を含んでなることを特徴とする、炎症調整分子を選択する方法である。
【0027】
本発明による選択方法の好適な実施形態によれば、それは抗炎症性分子を選択する方法であって、マクロファージにより産生される炎症促進性サイトカインの量を減少させ得る分子を選択することを含んでなる。
【0028】
本発明による方法の実施の間にマクロファージにより産生される炎症促進性サイトカインの量を減少させ得る抗炎症性分子は、特に、ACPAとシトルリン化抗原とが会合した免疫複合体が関与する炎症性疾患(特には、慢性関節リウマチ)の治療において使用する医薬の製造に使用することができる。
【0029】
これに関して、本発明の主題はまた、医薬として、特には炎症性疾患(特に慢性関節リウマチ)の治療用医薬として使用するための、本発明による方法の実施の間にマクロファージにより産生されるTNF-αの量を減少させ得るシトルリン化ペプチドである。
【0030】
そのようなペプチドは、以下のペプチドを含んでなる群から選択される:
−配列X1PAPPPISGGGYX2AX3 (配列番号1)(ここで、X1、X2及びX3は各々シトルリル残基又はアルギニル残基を表し、残基X2又はX3の少なくとも一方はシトルリル残基である)により規定されるペプチド;
−配列GPX1VVEX2HQSACKDS (配列番号2)(ここで、X1及びX2は各々シトルリル残基又はアルギニル残基を表し、残基X1又はX2少なくとも一方はシトルリル残基である)により規定されるペプチド;
−配列SGIGTLDGFX1HX2HPD (配列番号3)(ここで、X1及びX2は各々シトルリル残基又はアルギニル残基を表し、残基X1又はX2少なくとも一方はシトルリル残基である)により規定されるペプチド;
【0031】
−配列VDIDIKIX1SCX2GSCS (配列番号4)(ここで、X1及びX2は各々シトルリル残基又はアルギニル残基を表し、残基X1又はX2少なくとも一方はシトルリル残基である)により規定されるペプチド;
−配列X1GHAKSX2PVX3GIHTS (配列番号5)(ここで、X1、X2及びX3は各々シトルリル残基又はアルギニル残基を表し、残基X1、X2又はX3の少なくとも1つはシトルリル残基である)により規定されるペプチド;
−上記ペプチドの1つの少なくとも5つの連続アミノ酸、好ましくは少なくとも7つの連続アミノ酸、有利には8〜14の連続アミノ酸(このうちの少なくとも1つはシトルリル残基である)を含んでなるペプチド。この場合、ペプチドは、好ましくは5〜25アミノ酸のサイズ、全く好ましくは10〜20アミノ酸のサイズを有する。
【0032】
有利には、このペプチドは、以下のペプチドを含んでなる群より選択される:
−配列番号1の配列(ここで、少なくともX3はシトルリル残基である)により規定されるペプチド、又は該配列の前記シトルリル残基を含有する少なくとも5つの連続アミノ酸のフラグメントを含んでなるペプチド;
−配列番号2の配列(ここで、少なくともX2はシトルリル残基である)により規定されるペプチド、又は該配列の前記シトルリル残基を含有する少なくとも5つの連続アミノ酸のフラグメントを含んでなるペプチド;
【0033】
−配列番号3の配列(ここで、少なくともX2はシトルリル残基である)により規定されるペプチド、又は該配列の前記シトルリル残基を含有する少なくとも5つの連続アミノ酸のフラグメントを含んでなるペプチド;
−配列番号4の配列(ここで、少なくともX1はシトルリル残基である)により規定されるペプチド、又は該配列の前記シトルリル残基を含有する少なくとも5つの連続アミノ酸のフラグメントを含んでなるペプチド;
−配列番号5の配列(ここで、少なくともX3はシトルリル残基である)により規定されるペプチド、又は該配列の前記シトルリル残基を含有する少なくとも5つの連続アミノ酸のフラグメントを含んでなるペプチド。
【0034】
特に有利には、ペプチドは、以下からなる群より選択される:
−配列番号1の配列(ここで、X1、X2及びX3はシトルリル残基である)により規定されるペプチド、又は該配列を含んでなる少なくとも16アミノ酸のペプチド;
−配列番号2の配列(ここで、X1及びX2はシトルリル残基である)により規定されるペプチド、又は該配列の前記シトルリル残基を含有する少なくとも5つの連続アミノ酸のフラグメントを含んでなるペプチド;
【0035】
−配列番号3の配列(ここで、X1及びX2はシトルリル残基である)により規定されるペプチド、又は該配列の前記シトルリル残基を含有する少なくとも5つの連続アミノ酸のフラグメントを含んでなるペプチド;
−配列番号4の配列(ここで、X1及びX2はシトルリル残基である)により規定されるペプチド、又は該配列の前記シトルリル残基を含有する少なくとも5つの連続アミノ酸のフラグメントを含んでなるペプチド;
−配列番号5の配列(ここで、X1、X2及びX3はシトルリル残基である)により規定されるペプチド、又は該配列の前記シトルリル残基を含有する少なくとも10連続アミノ酸のフラグメントを含んでなるペプチド。
【0036】
非常に有利には、ペプチドは、配列番号1の配列(ここで、X1、X2及びX3はシトルリル残基である)、又は配列番号2の配列(ここで、X1及びX2はシトルリル残基である)により規定されるペプチドである。
【0037】
本発明による医薬として使用することができるシトルリン化ペプチドはまた、配列番号1〜5のペプチドの誘導体(この誘導体は、ACPAによる認識を改善することを意図した改変を有する)又は上記で規定されるそのフラグメントを包含する:そのような誘導体の例としては以下が挙げられる:環状化ペプチド;レトロタイプのペプチド(L-アミノ酸が、再現されるべきペプチドとは逆向きの配列で連結されている);再現されるべきペプチドとは逆向きの配列で連結されている(天然ペプチドのL系列のアミノ酸の代わりに)D系列のアミノ酸からなるレトロ-インヴェルソ(retro-inverso)タイプのペプチド。
【0038】
非常に有利には、それらは、末端カルボキシル(COOH)官能基がカルボキサミド(CONH2)官能基で置換されているペプチドである。これに関して、特に好ましいペプチドは、C末端残基がシトルリル残基であり、そのカルボキシル官能基カルボキサミド官能基で置換されているもの(例えば配列番号1の配列(少なくともX3はシトルリル残基である)により規定されるペプチドの場合)である。
【0039】
本発明による医薬として使用することができるシトルリン化ペプチドはまた、配列番号1〜5のペプチドの誘導体(この誘導体は、合成を容易にすること及び/又は安定性を向上することを意図した改変を有する)又は上記で規定されるそのフラグメントを包含する。そのような誘導体の例としては、カルボキシル基がエステル化されているか又はアミド基に変換されているアミノ酸及び/又はアミノ基がアルキル化(例えば、メチル化又はアセチル化)されているアミノ酸を含むペプチドが挙げられる。このペプチドのアミン基及びカルボキシル基は、その塩基又は酸に対応する塩の形態で存在してもよい。
【0040】
上記のシトルリン化ペプチドから、本発明による医薬として使用することもできる、少なくとも1つのシトルリル残基を含んでなるミモトープペプチド(シトルリン化ミモトープペプチド)を得ることもまた可能である。
【0041】
これらミモトープペプチドは、シトルリン化ペプチドのライブラリを合成し、これらペプチドの抗炎症性特性を評価するために本発明による方法を実施することによって得ることができる。前記シトルリン化ペプチドの配列は、このことに関して「モデルペプチド」として使用する配列番号1〜5のペプチドの配列に基づいて規定される。
【0042】
好ましくは、これらペプチドライブラリは、10〜20アミノ酸、好ましくは12〜17アミノ酸、特には15アミノ酸のサイズの種々のペプチドを合成することにより製造する。これらペプチドの各々は、選択したモデルペプチドの配列の少なくとも1つのシトルリル残基を含む少なくとも2、好ましくは少なくとも4、有利には少なくとも6、特に好ましくは少なくとも8、非常に有利には少なくとも10アミノ酸を該モデルペプチド上と同じ位置で保存する(他の位置は可変である)。
【0043】
ミモトープペプチドを合成する方法はそれ自体周知である。例えば、「Chemical approaches to the synthesis of peptides and proteins」(Paul Lloyd-Williams, Fernando Albericio and Ernest Giralt, CRC Press New York, 1997)の第6章「Peptides libraries」(237〜270頁)が挙げられる。
【0044】
本発明によれば、上記で規定したシトルリン化ペプチドは、単独で、互いに組み合せて又は適切な場合には他のシトルリン化ペプチドと組み合せて使用することができる。
【0045】
よって、本発明の主題は、活性成分として少なくとも1つの上記で規定したシトルリン化ペプチドを含んでなることを特徴とする医薬組成物である。
【0046】
本発明による組成物は、例えば、上記で規定したものから選択した種々のシトルリン化ペプチド同士を組み合せてもよいし、又はそのようなペプチドの1又はそれより多くを、1又はそれより多くのシトルリン化ペプチド(特にフィラグリンから誘導したもの)と組み合せてもよい。
【0047】
本発明による医薬組成物の好適な実施形態によれば、それは、上記のような、少なくとも1つの配列番号1の配列のペプチドと少なくとも1つの配列番号2の配列のペプチドとを含んでなり、また、任意に、上記のような、配列番号3の配列のペプチド及び/又は配列番号4の配列のペプチド及び/又は配列番号5の配列のペプチドを含んでもよい。
【0048】
本発明による医薬組成物はまた、薬学において通常使用される賦形剤又は添加剤を含んでなってもよい。
【0049】
本発明は、図面及び下記の非制限的実施例からより明確に理解されるが、それらは説明の目的で提供される。
【0050】
図面
図1:シトルリン化フィブリノゲン又は非シトルリン化フィブリノゲンと種々の濃度(0、0.28、0.56、1.13、2.25、4.50及び9.00mg/ml)のACPA(IgG ACPA+)又はコントロールIgGとの存在下でマクロファージが分泌するTNF-αの量(pg/ml)の測定。TNF-αの量は、熱凝集IgG(凝集IgG)又は細菌リポ多糖(LPS)の存在下に置いたか、又はマクロファージ-SFM培地単独(培地)中に放置したマクロファージでも測定する。
【0051】
図2:シトルリン化フィブリノゲンに関するACPA+の反応性のパーセンテージ阻害に対する、漸増濃度(0.006〜1.56mg/ml)のシトルリン化フィブリノゲン(十字)又は非シトルリン化フィブリノゲン(線)、α36-50Cit38,42ペプチド(菱形)、α36-50ペプチド(アスタリスク)、β60-74Cit60,72,74ペプチド(四角)、β60-74ペプチド(丸)、α36-50Cit38,42ペプチドとβ60-74Cit60,72,74ペプチドとの混合物(三角)又はα36-50ペプチドとβ60-74ペプチドとの混合物(縦線)の効果。
【0052】
図3:シトルリン化フィブリノゲン又は非シトルリン化フィブリノゲンの存在下(コントロール)、並びに以下の競合物質:シトルリン化若しくは非シトルリン化フィブリノゲン(4.0mg/ml)、β60-74Cit60,72,74ペプチド又はβ60-74ペプチド(0.8又は4.0mg/ml)の存在下又は非存在下の1.13mg/mlのIgG ACPA+の存在下に置いたマクロファージが分泌するTNF-αの量(pg/ml)の測定。
【実施例】
【0053】
実施例1:シトルリン化フィブリノゲンとACPAとが会合した免疫複合体の炎症促進効果のインビトロ評価
本実施例は、ACPAと該ACPAと反応性のシトルリン化エピトープとから形成された免疫複合体でのマクロファージのインビトロ刺激用モデルの作製に関する。
【0054】
単球は、磁性ビーズにカップリングした抗CD14抗体を用いて、健常個体の血液単核細胞から精製する。これら単球をM-CSFの存在下で7日間培養することによりマクロファージに分化させ、次いで固定したICで刺激する。
【0055】
RAに罹患している患者の血清から精製したACPAを、培養プレートの底に吸着させたシトルリン化ヒトフィブリノゲンに対して反応させることによって、ICを再構築する。マクロファージの活性化はTNF-αの分泌により評価し、接触の24時間後に培養上清中でアッセイする。
【0056】
このマクロファージ刺激モデルの作製を可能にする技術的詳細は下記に説明する。
【0057】
マクロファージの調製:
健常個体からの血液又は白血球濃縮物のサンプル(フランス血液バンク(Etablissement Francais du Sang), Toulouse, France)を使用し、フィコール(Ficoll 400(登録商標), Biocoll isoton分離溶液1.077g/ml, Biochrom AG, Berlin, Germany)で1200gにて20分間の遠心分離により、0.1%の血清アルブミン(BSA, Sigma-Aldrich Chimie, St Quentin Fallavier, France)及び0.6%のクエン酸ナトリウムを含有するpH7.4のPBS(リン酸緩衝化生理食塩水)(今後、この溶液をPBNaCitと呼ぶ)中50/50に希釈した30mlの細胞懸濁液あたり15mlのフィコールの速度で、残渣及び他の血液細胞から単核細胞を分離する。25mlのPBNaCitでの2回の洗浄後、0.4%トリパンブルーで染色された細胞を数えることにより生存細胞を計数する。磁性ビーズ(CD14 MicroBeads, Miltenyi Biotec, Paris, France)にカップリングした抗ヒトCD14抗体を用いて、単球系統の細胞(CD14マーカーを発現する)のポジティブ選別を行う。140×106の単核細胞あたり140μlの抗CD14抗体と1200μlのPBNaCitの比率で加えた混合物を4℃にて15分間インキュベートする。25mlのPBNaCitでの洗浄後、細胞上清を、1mlのPBNaCitで条件付けし磁界中に配置した強磁性ビーズを含有するカラム(MS column, Miltenyi Biotec)に負荷する。CD14を発現しない細胞を排除するための500μlのPBNaCitでの3回の洗浄後、カラムを磁界から取り出し、抗CD14抗体で標識された細胞を500μlのPBNaCitでフラッシュする。0.4%トリパンブルーで染色された細胞を数えることにより生存細胞を計数する。続いて、単球を、106生存細胞/mlで、テフロン(登録商標)ウェルにおいて、ウシ胎仔血清(10%, v/v, Biowest, Nuaille, France)及び100ng/mlのM-CSF(マクロファージコロニー刺激因子)(Peprotech, Levallois-Perret, France)を補充したマクロファージ-SFM培地(ヒト末梢単球及びマクロファージの培養用に設計された無血清培地;Gibco, Invitrogen, Cergy Pontoise, France)中、5%CO2を含有する雰囲気下37℃にて7日間培養する。このインキュベーションの終時にマクロファージを得る。マクロファージをマクロファージ-SFM培地中で洗浄し、次いで0.4%トリパンブルーで染色された細胞を数えることにより生存細胞を計数する。
【0058】
ヒトフィブリノゲンのシトルリン化(脱イミン化)
Gタンパク質カラム(HiTrap Protein G, GE Healthcare, Orsay, France)での製造業者が推奨する条件に従うアフィニティークロマトグラフィーにより、精製ヒトフィブリノゲン(Calbiochem, Meudon, France)の市販調製物から、残留する夾雑IgGを取り除く。続いて、フィブリノゲンを、10mM CaCl2及び5mMのジチオスレイトールを含有する0.1M Tris-HCl緩衝液(pH7.4)中、7U酵素/mgフィブリノゲンの割合のウサギ骨格筋ペプチジルアルギニンデイミナーゼ(Sigma-Aldrich)の存在下又は非存在下で37℃にて2時間インキュベートする。続いて、(このジスルフィド架橋還元緩衝液中でのインキュベーション後に解離した)フィブリノゲンを構成する種々の鎖を、PBSに対しての透析により再会合させる(当該種々の鎖の完全な再会合が得られるまで行い、再会合は非還元条件下でのSDS-PAGEにより検証する)。こうして2つのフィブリノゲン調製物を得る:シトルリン化フィブリノゲン調製物(酵素の存在下でインキュベート)及び非シトルリン化フィブリノゲン調製物(酵素の非存在下でインキュベート)。
【0059】
熱凝集化ヒトIgGの調製物
PBS中2mg/mlの健常個体からの精製ヒトIgG(Sigma-Aldrich)の溶液を63℃にて20分間インキュベートすることにより、可溶性の凝集化ヒトIgG(以後、凝集化IgGと呼ぶ)を調製する。12000gでの遠心分離後、可溶性凝集化ヒトIgGを含有する上清を回収し、即時(extemporaneously)に使用する。
【0060】
ACPA陽性IgG混合物の調製
5mlのGタンパク質カラム(HiTrap Protein G, GE Healthcare, Orsay, France)でのアフィニティークロマトグラフィーにより、RAに罹患し高い血清ACPA価を有している患者からの38血清の等量混合物のIgG画分を単離することによって、ACPA陽性IgG(以後、IgG ACPA+と呼ぶ)の混合物を調製する。0.02M KH2PO4/K2HPO4緩衝液(pH7.0)中でのカラムの平衡化後、同じ緩衝液中1/4に希釈し0.22μmフィルターを通過させた40mlの血清混合物を、このカラムに2ml/分の速度で負荷する。カラムを、1MのNaClを含有する5容量の0.02M KH2PO4/K2HPO4(pH7.0)で洗浄した後、総IgG ACPA+を、0.2M、pH2.7のグリシン-HCl緩衝液中に溶出させる。2M Trisの添加により、溶出画分を直ぐに中性pHにする。IgGに最も富む画分は、280nmの光学密度(Biophotometer Eppendorf, Eppendorf, Dominique Dutscher, Brumath, France)をモニターすることによって検出し、一緒にして、0.5MのNaClを含有し0.22μmフィルターを通過させた0.02M KH2PO4/K2HPO4(pH7.0)に対して透析し、次いでアリコートに小分けして使用まで−20℃にて保存する。精製の質は、SDS-12.5% PAGEゲル中、PHAST-system automat (GE Healthcare, Orsay, France)での電気泳動後にクーマシーブルーで染色することによって検証する。
【0061】
ACPA陰性IgG混合物の調製
全てが2つの参照アッセイ:ラット食道の凍結切片に対する間接免疫蛍光(Vincent Cら, Ann Rheum Dis 48, 712-22, 1989)及びヒトシトルリン化フィブリノゲンに対するELISA(Chapuy-Regaud Sら, Clin Exp Immunol, 139:542-50, 2005)によるACPAのアッセイ後に0の力価を有する20のヒト血清の等量混合物のIgG画分を単離することによって、ACPA陰性IgG(以後、コントロールIgGと呼ぶ)の混合物を調製する。IgG画分の単離は、IgG ACPA+の調製に使用したプロトコルに正確に従って、Gタンパク質カラムでのアフィニティークロマトグラフィーにより行う。
【0062】
ACPAとシトルリン化フィブリノゲンとが会合する免疫複合体(IC)の再構成:
ACPAとシトルリン化フィブリノゲンとが会合するICの再構成は、滅菌条件下で、平底96ウェル培養プレート(Nunclon delta, Nunc, Roskilde, Denmark)を、50μl/ウェルの割合で加え4℃にて一晩インキュベートして10μg/mlのヒトシトルリン化フィブリノゲンでコーティングすることによって行う。続いて、プレートをPBS(pH7.4)、2% BSA(180μl/ウェル)中で1時間4℃にて飽和させる。PBS(pH7.4)、0.1% Tween-20中で3回の洗浄後、ウェルを、2% BSA及び2M NaClを含有するPBS中で希釈した種々の濃度(9〜0.28mg/mlの範囲)の100μlのIgG ACPA+と2時間4℃にてインキュベートする。プレートの底にコーティングする抗原として非シトルリン化ヒトフィブリノゲンを用いるか又は抗体としてコントロールIgGを用い同様にして陰性コントロールを作成する。シトルリン化ヒトフィブリノゲン又は非シトルリン化ヒトフィブリノゲンのみでコーティングし、PBS(pH7.4)、2% BSA中で飽和させたウェルもまた、陰性コントロールとして使用する。
【0063】
マクロファージの刺激:
PBS(pH7.4)、0.1% Tween-20中での3回の洗浄、次いでPBS中での3回の洗浄後、200μlの容量中に50000生存細胞/ウェルの割合でマクロファージを加える。5% CO2を含有する雰囲気下で37℃にて24時間のインキュベーション後、上清を回収し(160μl/ウェル)、分析するまで、迅速に−20℃に凍結させる。活性化についての陰性コントロールは、マクロファージ-SFM培地単独中のマクロファージを使用して行う。受動吸着により培養プレートの底に固定化された凝集化IgG(ウェルあたり5μg/mlの溶液100μlの割合で)上に播種されたか、又はリポ多糖(LPS、0.5μg/mlの最終濃度のEscherichia coli 0.55:B5;Sigma-Aldrich Chimie)の存在下で播種されたマクロファージを、TNF-α合成を誘導する刺激に対して応答するマクロファージの能力についてのコントロールとして使用する。
【0064】
培養上清中のTNF-αのアッセイ
捕捉抗体、検出抗体及び7.8〜500pg/mlの較正範囲を作成するための組換えヒトTNF-αを含んでなるヒトTNF-α用のELISAアッセイキットを使用して、培養上清中のこのサイトカインをアッセイした(human TNF-alpha BD OptEIA(商標) ELISA Set, BD Biosciences Pharmingen, Pont-de-Claix, France)。
【0065】
結果:
得られた結果を図1に示す。これらデータは、異なる個体のマクロファージを用いて行った合計10の実験のうちの7つの異なる実験の結果を表す。
【0066】
シトルリン化フィブリノゲン又は非シトルリン化フィブリノゲンへのコントロールIgGの非特異的付着及び非シトルリン化フィブリノゲンへのIgG ACPA+の非特異的付着は、40pg/ml未満の基礎レベルTNF-α合成を誘導することが可能である。この刺激は、1.13mg/mlより高いIgG ACPA+濃度を使用すると、IgG ACPA+とシトルリン化フィブリノゲンとの相互作用後に特異的ICが再構成したとき、非常に増加する。最大刺激は、2.25mg/mlのIgG ACPA+濃度について観察され、TNF-αレベルは120pg/mlに近い値に達する。
【0067】
どんなIgGを使用しても、IgGの濃度を増加させるとTNF-α誘導は増大するが、続いて同じく用量依存様式で減少する(「ベル型曲線」効果)ことに留意すべきである。このことにより、固定化IgGが或る濃度を超えると、TNF-α産生に対して負の調節効果(negative-regulation effect)を発揮する経路が活性化するという仮説が導かれる。
【0068】
予測されるように、熱凝集化ヒトIgGにより構成されるIC置換物での刺激は、TNF-αの大量産生を誘導する。非常に大量のTNF-αはまた、LPSに応答して産生される。
【0069】
完全にヒト起源のこの細胞性分子モデルにより、マクロファージと、シトルリン化フィブリノゲンとACPAが会合したICとの間の相互作用の炎症促進効果を証明することが可能になる。なぜなら、インビトロで再構成されたこれら複合体は、これら細胞によるTNF-α産生を特異的に誘導するからである(図1)。この産生は、実際、何らかの特異性のIgG(おそらくシトルリン化フィブリノゲン又は非シトルリン化フィブリノゲンとの非特異的結合により培養プレートに固定された)と接触させた後に観察される産生と比較して明らかに増大する。これはまた、加えるIgG ACPA+の量に依存する。このことにより、活性化するICの形成を容易にする最適濃度を規定することが可能になる。
【0070】
実施例2:ACPAにより認識されるエピトープを有するフィブリノゲン由来シトルリン化ペプチドによる、シトルリン化フィブリノゲンに関するIgG ACPA+の反応性の阻害
本発明者らは、ACPAにより特異的に認識されるエピトープを有する幾つかのフィブリン由来シトルリン化ペプチドを同定した。
これらペプチドを表1に列挙する。
アミノ酸残基については標準的な一文字表記を使用する。Xはシトルリル残基を示す。
【0071】
使用した命名法は以下のとおりである:その配列が由来するフィブリノゲンのポリペプチド鎖の起源の名称(α又はβ)、次にこの配列中での、該ペプチドのアミノ末端残基の位置−該ペプチドのカルボキシ末端残基の位置。これら位置は、フィブリノゲン鎖(シグナルペプチドを含む)のN末端に関して番号付けられる。記号「cit」は、当該ペプチドのシトルリン化形態であることを示す。シトルリル残基で置換されているアルギニル残基の位置は末尾の添字として示す。非シトルリン化形態のペプチドについての命名法も、記号「cit」及びアルギニル残基の位置が省略されていることを除き同じである。ペプチドβ60-74cit60,72,74はアミド化されたC末端官能基(カルボキサミド官能基:CONH2)を有する。
【0072】
【表1】

【0073】
これらペプチドのうち、免疫優性エピトープ(RAに罹患している患者からの多数の血清により認識される)を有するものを表2に与える。試験した20の血清は、RAに罹患している患者に由来し、これら自己抗体を検出するための複数の試験によって検出可能なACPAを有する系列に対応する。これにより、全体として、患者において遭遇する特異性プロフィールの不均質性を表すことが可能になる。
【0074】
【表2】

【0075】
本実施例は、これら免疫優性ペプチドのうちの2つ(α36-50cit38,42及びβ60-74cit60,72,74)がシトルリン化ヒトフィブリノゲンに関するACPAの免疫反応性を阻害する能力(ELISAにより測定)を示す。
ELISA法によるこの競合アッセイの技術的詳細を下記に示す。
【0076】
96ウェルマイクロタイトレーションプレート(MaxiSorp, Nunc, VWR International, Fontenay sous Bois, France)を、シトルリン化ヒトフィブリノゲン(実施例1に示すように調製)で、PBS(pH7.4)中5μg/mlの溶液100μl/ウェルの割合にて4℃で一晩コーティングする。次いで、プレートを2%のBSAを含有するPBSの溶液(PBS-2% BSA)で飽和させる(180μl/ウェル)。この工程後、ELISAアッセイの2時間前に加えた漸増量の競合ペプチドα36-50cit38,42及び/又はβ60-74cit60,72,74(各々、0.006〜1.56mg/mlの範囲の濃度で)の存在下又は非存在下で前もってPBS-2% BSA中16μg/mlに希釈したIgG ACPA+(実施例1に示したように調製)を加える。IgG ACPA+について使用した濃度は、競合ペプチドの非存在下で1〜1.5のODを得ることができるように選択した。シトルリン化フィブリノゲン又は非シトルリン化フィブリノゲン(0.0002〜1.56mg/ml)及び非シトルリン化形態のα36-50cit38,42及びβ60-74cit60,72,74ペプチド(それぞれ、α36-50及びβ60-74と呼ぶ)をコントロールとして使用する。次いで、PBS-2% BSA中1/9000に希釈したペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgGヤギIgG(SouthernBiotech, Birmingham, Alabama)でACPA結合を検出する。全てのインキュベーションを4℃にて1時間行い、続いてPBS-0.1% Tween 20中で洗浄する。ペルオキシダーゼ活性は、過酸化水素(0.03% - Sigma-Aldrich)中オルト-フェニレンジアミン(2mg/ml - Sigma-Aldrich)溶液で顕在化させ、プレートリーダー(Multiskan plate reader, Thermo Labsystem, Cergy-Pontoise, France)を用いて492nmのODを測定する。
【0077】
結果:
このELISA競合アッセイの結果を図2に示す。データは、IgG ACPA+の2つの異なる調製物を用いて行った3つの実験を代表するものである。結果は、競合ペプチドの存在下で得られた反応性の阻害の程度として表す。
【0078】
ELISAプレートに付着させたシトルリン化フィブリノゲンへのACPA結合のパーセンテージ阻害は、シトルリン化フィブリノゲンでは約80%のプラトーな値に、α36-50cit38,42+β60-74cit60,72,74混合物では約70%のプラトーな値に、β60-74cit60,72,74では約60%のプラトーな値に、α36-50cit38,42では約15%のプラトーな値に達する。パーセンテージ阻害は、シトルリン化されていない同じ分子では零である。
【0079】
これら結果により、フィブリン由来シトルリン化ペプチドα36-50cit38,42及びβ60-74cit60,72,74がACPAにより認識される主要なエピトープを有することが確証される。なぜなら、それらは、ELISAプレートの底に固定化したシトルリン化フィブリノゲンに関するACPAの異質混合物の反応性の顕著な阻害を誘導することができるからである。この阻害は、これら2つのペプチドの混合物を使用すると、増大する。このことにより、両者がACPAの異なるサブファミリーによって認識されることが確証される。
【0080】
実施例3:ACPAにより認識されるエピトープを有するフィブリノゲン由来シトルリン化ペプチドを用いる、ACPAとシトルリン化フィブリノゲンとが会合するICによるヒトマクロファージ刺激の阻害
マクロファージの調製及び刺激は、ICの再構成を、培養プレートの底に固定化したシトルリン化フィブリノゲンとのインキュベーションの2時間前に加えた2種類の濃度(0.8及び4mg/ml)の競合ペプチドβ60-74cit60,72,74の存在下又は非存在下、2MのNaCl及び2%のBSAを含有するPBS中1.13mg/mlに希釈したIgG ACPA+を用いて行ったこと以外は、正に実施例1に記載の条件下で行う。シトルリン化フィブリノゲン又は非シトルリン化フィブリノゲン(0.4 mg/ml)及び非シトルリン化ペプチドβ60-74(0.8及び4mg/ml)との競合もまた、コントロールとして行う。
【0081】
結果:
この阻害アッセイの結果を図3に示す。これらデータは、2つの異なる個体からのマクロファージを用いて行った2つの異なる実験の結果を表す。
【0082】
IgG ACPA+単独との又はシトルリン化分子又は非シトルリン化分子の存在下でのIgG ACPA+との非シトルリン化フィブリノゲンをコーティングしたプレートのインキュベーション、続くマクロファージの刺激により、10pg/ml未満の基礎レベルTNFαを規定することが可能になる。この刺激は、シトルリン化フィブリノゲンをコーティングしたプレートをIgG ACPA+単独と又は非シトルリン化分子の存在下でIgG ACPA+とインキュベートすると増大し、TNFαレベルは80pg/mlより大きな値に達する。この刺激は、ACPA+をシトルリン化フィブリノゲン(約20pg/ml)又はβ60-74cit60,72,74ペプチド(シトルリン化ペプチド濃度4mg/mlについては20pg/ml未満、シトルリン化ペプチド濃度0.8mg/mlについては約40pg/ml)の存在下に置いたときは、小さい。
【0083】
これら結果は、β60-74cit60,72,74ペプチドがICに応答して用量依存性のTNF-α産生阻害を誘導することを示す。シトルリン化フィブリノゲンを競合物質として使用したとき、同じ結果が観察される。一方、非シトルリン化形態のペプチド及びフィブリノゲンは、阻害効果を有さない。
【0084】
これら結果は、フィブリン由来シトルリン化ペプチドβ60-74cit60,72,74が、ACPAとシトルリン化フィブリノゲンとが会合した固定化ICの形成を妨げ得ることを示す。これは、これらICに応答したTNF-α産生の阻害を生じる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】シトルリン化フィブリノゲン又は非シトルリン化フィブリノゲンと種々の濃度(0、0.28、0.56、1.13、2.25、4.50及び9.00mg/ml)のACPA(IgG ACPA+)又はコントロールIgGとの存在下でマクロファージが分泌するTNF-αの量(pg/ml)の測定を示す。
【図2】シトルリン化フィブリノゲンに関するACPA+の反応性のパーセンテージ阻害に対する、漸増濃度(0.006〜1.56mg/ml)のシトルリン化フィブリノゲン(十字)又は非シトルリン化フィブリノゲン(線)、α36-50Cit38,42ペプチド(菱形)、α36-50ペプチド(アスタリスク)、β60-74Cit60,72,74ペプチド(四角)、β60-74ペプチド(丸)、α36-50Cit38,42ペプチドとβ60-74Cit60,72,74ペプチドとの混合物(三角)又はα36-50ペプチドとβ60-74ペプチドとの混合物(縦線)の効果を示す。
【図3】シトルリン化フィブリノゲン又は非シトルリン化フィブリノゲンの存在下(コントロール)、並びに以下の競合物質:シトルリン化若しくは非シトルリン化フィブリノゲン(4.0mg/ml)、β60-74Cit60,72,74ペプチド又はβ60-74ペプチド(0.8又は4.0mg/ml)の存在下又は非存在下の1.13mg/mlのIgG ACPA+の存在下に置いたマクロファージが分泌するTNF-αの量(pg/ml)の測定を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
請求項5に記載の方法の実施の間に、ACPAと該ACPAにより認識されるシトルリン化抗原との免疫複合体でインビトロで活性化されたマクロファージにより産生されるTNF-αの量を減少させることができ、以下のペプチド:
a)配列X1PAPPPISGGGYX2AX3(配列番号1)(ここで、X1、X2及びX3は各々シトルリル残基又はアルギニル残基を表し、残基X2又はX3の少なくとも一方はシトルリル残基である)により規定されるペプチド;
b)配列GPX1VVEX2HQSACKDS(配列番号2)(ここで、X1及びX2は各々シトルリル残基又はアルギニル残基を表し、残基X1又はX2の少なくとも一方はシトルリル残基である)により規定されるペプチド;
c)配列SGIGTLDGFX1HX2HPD(配列番号3)(ここで、X1及びX2は各々シトルリル残基又はアルギニル残基を表し、残基X1又はX2の少なくとも一方はシトルリル残基である)により規定されるペプチド;
d)配列VDIDIKIX1SCX2GSCS(配列番号4)(ここで、X1及びX2は各々シトルリル残基又はアルギニル残基を表し、残基X1又はX2の少なくとも一方はシトルリル残基である)により規定されるペプチド;
e)配列X1GHAKSX2PVX3GIHTS(配列番号5)(ここで、X1、X2及びX3は各々シトルリル残基又はアルギニル残基を表し、残基X1、X2又はX3の少なくとも1つはシトルリル残基である)により規定されるペプチド;
f)上記ペプチドa)〜e)の1つの、少なくとも1つのシトルリル残基を含む少なくとも5つの連続アミノ酸を含んでなるペプチド
から選択されることを特徴とする、医薬としての使用のためのシトルリン化ペプチド。
【請求項2】
以下:
−配列番号1の配列(ここで、少なくともX3はシトルリル残基である)により規定されるペプチド、又は該配列の前記シトルリル残基を含有する少なくとも5つの連続アミノ酸のフラグメントを含んでなるペプチド;
−配列番号2の配列(ここで、少なくともX2はシトルリル残基である)により規定されるペプチド、又は該配列の前記シトルリル残基を含有する少なくとも5つの連続アミノ酸のフラグメントを含んでなるペプチド;
−配列番号3の配列(ここで、少なくともX2はシトルリル残基である)により規定されるペプチド、又は該配列の前記シトルリル残基を含有する少なくとも5つの連続アミノ酸のフラグメントを含んでなるペプチド;
−配列番号4の配列(ここで、少なくともX1はシトルリル残基である)により規定されるペプチド、又は該配列の前記シトルリル残基を含有する少なくとも5つの連続アミノ酸のフラグメントを含んでなるペプチド;
−配列番号5の配列(ここで、少なくともX3はシトルリル残基である)により規定されるペプチド、又は該配列の前記シトルリル残基を含有する少なくとも5つの連続アミノ酸のフラグメントを含んでなるペプチド
からなる群より選択されることを特徴とする、請求項1に記載の医薬としての使用のためのシトルリン化ペプチド。
【請求項3】
以下:
−配列番号1の配列(ここで、X1、X2及びX3はシトルリル残基である)により規定されるペプチド、又は該配列を含んでなる少なくとも16アミノ酸のペプチド;
−配列番号2の配列(ここで、X1及びX2はシトルリル残基である)により規定されるペプチド、又は該配列の前記シトルリル残基を含有する少なくとも5つの連続アミノ酸のフラグメントを含んでなるペプチド;
−配列番号3の配列(ここで、X1及びX2はシトルリル残基である)により規定されるペプチド、又は該配列の前記シトルリル残基を含有する少なくとも5つの連続アミノ酸のフラグメントを含んでなるペプチド;
−配列番号4の配列(ここで、X1及びX2はシトルリル残基である)により規定されるペプチド、又は該配列の前記シトルリル残基を含有する少なくとも5つの連続アミノ酸のフラグメントを含んでなるペプチド;
−配列番号5の配列(ここで、X1、X2及びX3はシトルリル残基である)により規定されるペプチド、又は該配列の前記シトルリル残基を含有する少なくとも10の連続アミノ酸のフラグメントを含んでなるペプチド
からなる群より選択されることを特徴とする、請求項2に記載の医薬としての使用のためのシトルリン化ペプチド。
【請求項4】
配列番号1の配列(ここで、X1、X2及びX3はシトルリル残基である)により規定されるペプチド及び配列番号2の配列(ここで、X1及びX2はシトルリル残基である)により規定されるペプチドから選択されることを特徴とする、請求項3に記載の医薬としての使用のためのシトルリン化ペプチド。
【請求項5】
末端カルボキシル(COOH)官能基がカルボキサミド(CONH2)官能基で置換されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の医薬としての使用のためのシトルリン化ペプチド。
【請求項6】
炎症性疾患の治療における使用のためであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の医薬としての使用のためのシトルリン化ペプチド。
【請求項7】
前記炎症性疾患が慢性関節リウマチであることを特徴とする、請求項6に記載の医薬としての使用のためのシトルリン化ペプチド。
【請求項8】
a)抗シトルリン化ペプチド自己抗体(ACPA)を該ACPAと反応性のシトルリン化ペプチド抗原と、該ACPAと該シトルリン化抗原との免疫複合体の形成を可能にする条件下で接触させ;
b)a)で形成した前記免疫複合体をマクロファージと、該免疫複合体による該マクロファージの活性化を可能にする条件下で接触させ、該マクロファージにより産生される少なくとも1つの炎症促進性サイトカインの量を決定し;
c)工程a)及び工程b)を繰返し(ここで、該両工程の一方及び/又は他方の工程は試験分子の存在下で繰り返される);
d)産生される炎症促進性サイトカインの量を前記試験分子の非存在下と存在下とで比較すること
を含んでなることを特徴とする、分子の炎症調整特性をインビトロで評価する方法。
【請求項9】
− 前記試験分子の各々を用いて請求項8に記載の方法を実施し;
− マクロファージにより産生される炎症促進性サイトカインの量を改変し得る分子を選択すること
を含んでなることを特徴とする、炎症調整分子を選択する方法。
【請求項10】
抗炎症性分子を選択する方法であり、マクロファージにより産生される炎症促進性サイトカインの量を減少させ得る分子を選択することを含んでなることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記シトルリン化ペプチド抗原が、シトルリン化フィブリノゲン、シトルリン化フィラグリン、シトルリン化ビメンチン及びそれらのシトルリン化フラグメント並びにそれらの混合物を含んでなる群より選択されることを特徴とする、請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
定量される前記炎症促進性サイトカインがTNF-αであることを特徴とする、請求項8〜11のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−536182(P2009−536182A)
【公表日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−508423(P2009−508423)
【出願日】平成19年5月3日(2007.5.3)
【国際出願番号】PCT/FR2007/000758
【国際公開番号】WO2007/125226
【国際公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(500307823)ユニヴェルシテ ポール サバティエ (2)
【住所又は居所原語表記】118,route de Narbonne,F−31062 Toulouse Cedex 4 FRANCE
【Fターム(参考)】