説明

慢性C型肝炎患者における肝臓線維化進行速度を予測するための方法およびキット

個体が肝臓線維化の早い進行速度を示す素因を有するかどうかを明らかにする方法およびキットが提供される。肝臓線維化の早い進行を防止するのに有用な薬剤および医薬組成物、並びに肝臓線維化を加速または誘導させる薬物分子を同定する方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C型肝炎患者における線維化進行速度を予測するための方法およびキットに関連し、より具体的には、抗ウイルス治療についてのHCV患者の適合性を明らかにすることにおけるかかる方法およびキットの使用に関連する。さらに、本発明は、肝臓線維化および/または肝硬変の早い進行を防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性C型肝炎は、世界中で約1億7千万人が罹患する一般的な疾患である(Lauer GMおよびWalker BD、C型肝炎ウイルス感染、N.Eng.J.Med.2001、345:41〜52)。ほとんどのC型肝炎ウイルス(HCV)感染者は良性型の感染を示す一方で、感染者の15%〜20%が、究極的には末期肝硬変に進行する肝臓線維化を発症する(Seeff LB他、2000、Ann.Intern.Med.132:105〜11)。線維化進行速度はHCV感染者間で異なり、現時点では所与の個体において予測することができない。
【0003】
2235名のHCV感染者の研究では、感染日から肝硬変の出現までの平均推定継続期間が30年であるが、患者の約33%は20年未満で肝硬変に進行していたことが明らかにされた(Poynard T他、1997;慢性C型肝炎患者における肝臓線維化進行の自然史:OBSVIRC群、METAVIR群、CLINIVIR群およびDOSVIRC群、Lancet、349:825〜32)。線維化進行速度におけるこれらのばらつきは、C型肝炎ウイルスそのものではなく、いくつかの宿主要因(すなわち、感染者に関連した要因)が線維化進行の一因であることを示唆している。
【0004】
例えば、高齢、男性、アルコール摂取および免疫抑制治療が、肝臓線維化に関してあまり好ましくない結果に関連することが見出されていた[Poynard、1997(上掲)]。線維化速度に影響を及ぼし得る他の宿主要因(例えば、喫煙およびボディーマス指数など)が依然として研究中である(Feldman M他、2002、Sleisenger&Fordtran’s “Gastrointestinal and Liver disease”(第7版)、SAUNDERS An Imprint of Elsevier Science)。
【0005】
加えて、肝臓疾患の自然史および肝臓線維化の進行を明らかにすることにおいて様々な遺伝的要因についての重要な役割を関係づける相当量の証拠が蓄積している。これらには、免疫調節タンパク質、前炎症性サイトカインおよび線維形成促進因子をコードする遺伝子における遺伝子多型が挙げられる(Bataller R他、2003、肝臓線維化の遺伝子多型および進行:批評的評価、Hepatology、37:493〜503)。例えば、apoE−ε4対立遺伝子が、HCVにより引き起こされる肝臓損傷に対抗する保護的結果と関連することが見出されていた(Wozniak MA他、2002、Trent HCV研究群:アポリポタンパク質E−ε4はC型肝炎ウイルスにより引き起こされる重篤な肝臓疾患を保護する、Hepatology、36:456〜63)。他方で、ヘモクロマトーシス遺伝子(HFE)のC282Y多型が肝硬変に関連することが見出されていた(Smith BC他、1998、遺伝性ヘモクロマトーシスについてのヘテロ接合性は慢性C型肝炎においてより多くの線維化に関連する、Hepatology、27:1695〜9)。しかしながら、316名のC型肝炎患者を含んだ別の研究では、著しい差が代償性肝臓疾患および末期肝臓疾患の患者の間でのHFE変異の存在率において認められなかった(Tung BY他、2003、C型肝炎、鉄状態および疾患重篤性:HFE変異との関係性、Gastroenterology、124:318〜26)。
【0006】
他の研究では、酵素のチトクロームP450複合体(CYP450)のいくつかの多型形態が様々な肝臓疾患に関連することが見出されている。最も特筆すべき例は、CYP2E1の遺伝子多型とアルコール性肝臓疾患の進行との間での関連である(Lee HC他、2001、韓国男性集団におけるエタノール代謝酵素の多型とアルコール性肝硬変に対する感受性との関連、J.Korean Med.Sci.16:745〜50)。
【0007】
CYP2D6(チトクロームP450酵素のファミリーに属する)は、50を超える臨床的に重要な薬物の代謝に関与している(Hasler JA、1999、チトクロームP450の薬理遺伝学、Mol.Aspects Med.20:12〜24、25〜137)。CYP2D6には、いくつかの多型形態が含まれ、それらのうちのCYP2D63、CYP2D64およびCYP2D65が不良な薬物代謝酵素をもたらす。そのような多型対立遺伝子の存在率により、一部の個体における不良な薬物代謝を説明することができる。例えば、全白人の5%〜10%が薬物代謝不良である。この集団において、CYP2D64の存在率は23%もの高さである[Hasler、1999(上掲)]。他方で、それ以外の2つの一般的な代謝不良酵素対立遺伝子(CYP2D63およびCYP2D65)の存在率ははるかに低い(2%〜5%)。
【0008】
CYP2D6多型の遺伝子研究では、CYP2D6の活性な形態と様々な発ガンプロセス(例えば、肺または咽頭のガンなど)との関連が明らかにされた(Agundez JA他、2001、CYP2D6遺伝子の機能的に活性な複製は咽頭ガン患者および肺ガン患者の間ではより優勢である、Oncology、61:59〜63)。同様に、CYP2D6の不良な代謝酵素の遺伝子型(すなわち、CYP2D64およびCYP2D63)が、健康なコントロールおよびHCV非症状保因者では肝炎/肝硬変患者および肝細胞ガン(HCC)患者の場合よりも高頻度であることが見出されていた[Silvestri L他、2003、CYP酵素多型ならびにHCV関連の慢性肝臓疾患および肝臓ガンに対する感受性、Int.J.Cancer、104:310〜7;Agundez JA他、1995、CYP2D6遺伝子および肝臓ガンの危険性、Lancet、345(8953):830〜1]。
【0009】
しかしながら、上記の研究はすべてが肝硬変患者を非肝硬変患者と比較しており、HCV感染者における治療の評価に対して著しい影響を有する線維化進行速度に対する考慮を行っていない。
【0010】
慢性C型肝炎感染の診断はアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)レベルの異常によって示唆されることが多く、酵素免疫アッセイ(EIA)、続く、HCV RNAの確認測定によって確立される。C型肝炎ウイルスに感染している個体は、肝臓生検の組織病理学的評価を使用して疾患の進行についてモニターされる。NIH CONCENSUS FROM JUNE 2002によれば、軽度の線維化を有し、門脈F1を示す患者は、正常な酵素の存在下でさえ、PEG−インターフェロンおよびリバビリンを使用する抗ウイルス治療のための候補者である(Shiffman ML他、2004;以前の治療に失敗している慢性C型肝炎患者におけるペグインターフェロンα−2aおよびリバビリン、Gastroenterology、126:1015〜23)。これらの患者の中でも、HCV遺伝子型のタイプ1およびタイプ4の保因者はそのような抗ウイルス治療に対してあまり効率的に応答しないことが予想される(NIH Consens State Sci Statements、2002、19:1〜46)。しかしながら、ウイルスレベルおよび遺伝子型の決定ならびに肝臓酵素の測定は非侵襲的手法を伴う一方で、疾患段階の決定は、全身麻酔および感染などから生じる他の合併症を伴い得る度重なる肝臓生検に基づいている。
【発明の開示】
【0011】
従って、上記制限を有しない、HCV感染者における線維化進行速度を予測する方法が必要であることが広く認識されており、また、そのような方法を有することは非常に好都合である。
【0012】
本発明の1つの態様によれば、個体が肝臓線維化の早い進行に対する素因を有するかどうかを明らかにする方法が提供され、この場合、この方法は、この個体のCYP2D6遺伝子座、または、このCYP2D6遺伝子座と連鎖不平衡にある隣接遺伝子座における少なくとも1つの早い進行の肝臓線維化関連遺伝子型のホモ接合形態またはヘテロ接合形態での存在または非存在を明らかにし、それにより、個体が肝臓線維化の早い進行に対する素因を有するかどうかを明らかにすることを含む。
【0013】
本発明の別の態様によれば、個体が肝臓線維化の早い進行に対する素因を有するかどうかを明らかにするためのキットが提供され、この場合、このキットは、この個体のCYP2D6遺伝子座、または、このCYP2D6遺伝子座と連鎖不平衡にある隣接遺伝子座における少なくとも1つの早い進行の肝臓線維化関連遺伝子型のホモ接合形態またはヘテロ接合形態での存在または非存在を明らかにするための少なくとも1つの試薬を含む。
【0014】
本発明のさらに別の態様によれば、その必要性のある個体において肝臓線維化の早い進行を防止する方法が提供され、この場合、この方法は、この個体の肝臓におけるCYP2D6の発現レベルおよび/または活性をアップレギュレーションすることができ、それにより、この個体における肝臓線維化の早い進行を防止することができる薬剤をこの個体に投与することを含む。
【0015】
本発明のなおさらに別の態様によれば、薬物分子が個体において肝臓線維化の早い進行の発達を誘導または促進することができるかどうかを明らかにする方法が提供され、この場合、この方法は、CYP2D6およびCYP2D6の不良な代謝酵素変化体によるこの薬物分子の代謝率を比較することを含み、CYP2D6ではなく、CYP2D6の不良な代謝酵素変化体によるこの薬物分子の不良な代謝により、その薬物分子はこの個体における肝臓線維化の早い進行の発達を誘導または促進することができることが示される。
【0016】
本発明のさらなる態様によれば、個体が肝臓線維化の早い進行に対する素因を有するかどうかを明らかにする方法が提供され、この場合、この方法は、この個体のCYP3A5、CYP2E1およびAPO Eからなる群から選択される遺伝子座、または、この遺伝子座と連鎖不平衡にある隣接遺伝子座における少なくとも1つの早い進行の肝臓線維化関連遺伝子型のホモ接合形態またはヘテロ接合形態での存在または非存在を明らかにし、それにより、この個体が肝臓線維化の早い進行に対する素因を有するかどうかを明らかにすることを含む。
【0017】
本発明のさらにさらなる態様によれば、個体が肝臓線維化の早い進行に対する素因を有するかどうかを明らかにするためのキットが提供され、この場合、このキットは、この個体のCYP3A5、CYP2E1およびAPO Eからなる群から選択される遺伝子座、または、この遺伝子座と連鎖不平衡にある隣接遺伝子座における、少なくとも1つの早い進行の肝臓線維化関連遺伝子型のホモ接合形態またはヘテロ接合形態での存在または非存在を明らかにするための少なくとも1つの試薬を含む。
【0018】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、前述の個体はC型肝炎ウイルスに感染している。
【0019】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらにさらなる特徴によれば、CYP2D6遺伝子座における少なくとも1つの早い進行の肝臓線維化関連遺伝子型は、配列番号1に示されるようなCYP2D64SNPのアデノシンヌクレオチド含有対立遺伝子である。
【0020】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらにさらなる特徴によれば、前述の少なくとも1つの早い進行の肝臓線維化関連遺伝子型は短縮型のCYP2D6ポリペプチドをコードする。
【0021】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらにさらなる特徴によれば、前述の遺伝子型の存在により、前述の個体における肝臓線維化の早い進行を発症させる増大した素因リスクが示される。
【0022】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらにさらなる特徴によれば、前述の遺伝子型の存在により、肝硬変を発症させる増大した素因リスクが示される。
【0023】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらにさらなる特徴によれば、CYP2D6遺伝子座と連鎖不平衡にある隣接遺伝子座は、配列番号10に示されるゲノム配列に含まれる。
【0024】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらにさらなる特徴によれば、前述の遺伝子型の存在または非存在を明らかにすることは、DNA配列決定、制限フラグメント長多型(RFLP分析)、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO)分析、変性/温度勾配ゲル電気泳動(DGGE/TGGE)、一本鎖DNA高次構造多型(SSCP)分析、ジデオキシフィンガープリンティング(ddF)、パイロシーケンシング分析、アシクロプライム分析、リバースドットブロット、GeneChipマイクロアレイ、動的対立遺伝子特異的ハイブリダイゼーション(DASH)、ペプチド核酸(PNA)プローブおよびロックド核酸(LNA)プローブ、TaqMan、分子ビーコン、インターカレーション色素、FRETプライマー、AlphaScreen、SNPstream、遺伝子ビット分析(GBA)、多重ミニシーケンシング、SNaPshot、MassEXTEND、MassArray、GOODアッセイ、Microarray miniseq、アレイ型プライマー伸張(APEX)、マイクロアレイプライマー伸張、Tagアレイ、コード化ミクロスフェア、テンプレート誘導取り込み(TDI)、蛍光分極化、比色法オリゴヌクレオチド連結アッセイ(OLA)、配列コード化OLA、マイクロアレイ連結、リガーゼ連鎖反応、Padlockプローブ、ローリングサークル増幅、ならびに、Invaderアッセイからなる群から選択されるSNP検出法を使用して行われる。
【0025】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらにさらなる特徴によれば、キットはさらに、少なくとも1つの試薬を包装する包装材と、この包装材内またはこの包装材上における通知とを含み、この場合、この通知により、個体が肝臓線維化の早い進行に対する素因を有するかどうかを明らかにすることにおける使用についてキットが特定される。
【0026】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらにさらなる特徴によれば、前述の少なくとも1つの試薬は、配列番号4によって示されるCYP2D6タンパク質の少なくとも1つの多型体と示差的に結合することができる抗体である。
【0027】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらにさらなる特徴によれば、前述の個体は、肝炎ウイルス感染、肝毒性、肝臓ガン、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)、自己免疫疾患、代謝性肝臓疾患、および、肝臓の二次的関与による疾患からなる群から選択される疾患に罹患している。
【0028】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらにさらなる特徴によれば、前述の肝炎ウイルス感染は、C型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルスおよびD型肝炎ウイルスからなる群から選択されるウイルスによって引き起こされる。
【0029】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらにさらなる特徴によれば、前述の肝毒性はアルコール誘導の肝毒性および/または薬物誘導の肝毒性である。
【0030】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらにさらなる特徴によれば、前述の自己免疫疾患は、自己免疫肝炎(AIH)、原発性胆汁性肝硬変(PBC)および原発性硬化性胆管炎(PSC)からなる群から選択される。
【0031】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらにさらなる特徴によれば、前述の代謝性肝臓疾患は、ヘモクロマトーシス、ウイルソン病およびアルファ1アンチトリプシンからなる群から選択される。
【0032】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらにさらなる特徴によれば、肝臓の二次的関与による前述の疾患はセリアック病および/またはアミロイドーシスである。
【0033】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらにさらなる特徴によれば、アップレギュレーションは、
(a)CYP2D6の少なくとも機能的な部分をコードする外因性ポリヌクレオチドを個体の肝臓細胞において発現させること;
(b)個体の肝臓細胞における内因性CYP2D6の発現を増大させること;
(c)個体の肝臓細胞における内因性のCYP2D6活性を増大させること;および
(d)CYP2D6発現細胞を個体の肝臓に投与すること
からなる群から選択される少なくとも1つの方法によって行われる。
【0034】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらにさらなる特徴によれば、CYP2D6は、初期設定済みパラメーターを使用するNational Center of Biotechnology Information(NCBI)のBlastPソフトウエアを使用して決定されたとき、配列番号4によって示されるポリペプチドに対して少なくとも75%同一であるポリペプチドである。
【0035】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらにさらなる特徴によれば、CYP2D6は配列番号4によって示される。
【0036】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらにさらなる特徴によれば、前述のポリヌクレオチドは配列番号5によって示される。
【0037】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらにさらなる特徴によれば、CYP2D6の前述の不良な代謝酵素変化体は、CYP2D64、CYP2D63およびCYP2D65からなる群から選択される。
【0038】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらにさらなる特徴によれば、CYP2D6は、CYP2D6の少なくとも機能的な形態をコードするポリヌクレオチドから発現される。
【0039】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらにさらなる特徴によれば、前述のCYP2D6の前述の不良な代謝酵素変化体は、短縮型のCYP2D6ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドから発現される。
【0040】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらにさらなる特徴によれば、前述のCYP3A5遺伝子座における前述の少なくとも1つの早い進行の肝臓線維化関連遺伝子型は、配列番号18のヌクレオチド座標174におけるアデノシンヌクレオチド含有対立遺伝子である。
【0041】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらにさらなる特徴によれば、前述のCYP2E1遺伝子座における前述の少なくとも1つの早い進行の肝臓線維化関連遺伝子型は、配列番号17のヌクレオチド座標1772におけるチミジンヌクレオチド含有対立遺伝子である。
【0042】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらにさらなる特徴によれば、前述のAPO E遺伝子座における前述の少なくとも1つの早い進行の肝臓線維化関連遺伝子型は、配列番号19のヌクレオチド座標55におけるシトシンヌクレオチド含有対立遺伝子である。
【0043】
本発明は、肝臓線維化の早い進行に対する素因を明らかにする方法を提供することによって、現在知られている形態の欠点に対処することに成功している。
【0044】
別途定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中に記載される方法および材料と類似または同等である方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、好適な方法および材料が下記に記載される。矛盾する場合には、定義を含めて、本特許明細書が優先する。加えて、材料、方法および実施例は例示にすぎず、限定であることは意図されない。
【0045】
図面の説明
本明細書では本発明を単に例示し図面を参照して説明する。特に詳細に図面を参照して、示されている詳細が例示として本発明の好ましい実施態様を例示考察することだけを目的としており、本発明の原理や概念の側面の最も有用でかつ容易に理解される説明であると考えられるものを提供するために提示していることを強調するものである。この点について、本発明を基本的に理解するのに必要である以上に詳細に本発明の構造の詳細は示さないが、図面について行う説明によって本発明のいくつもの形態を実施する方法は当業者には明らかになるであろう。
【0046】
図1は、感染継続期間および感染時年齢を関数とする肝硬変への進行速度を例示する、Poynard T.他、2001、J.of Hepatology、34:730〜739から採用されたグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
本発明は、抗ウイルス治療に対するC型肝炎感染者の適合性を明らかにするために使用することができる、肝臓線維化の早い進行に対する素因を明らかにする方法に関する。加えて、本発明は、肝臓線維化の早い進行を防止することにおいて有用な方法および医薬組成物を提供する。
【0048】
本発明による肝臓線維化の素因を明らかにしその早い進行を防止する方法の原理および作用が、図面および付随する説明を参照してより十分に理解することができる。
【0049】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳しく説明する前に、本発明は、その適用において、下記の説明において示される細部、または、実施例によって例示される細部に限定されないことを理解しなければならない。本発明は他の実施形態が可能であり、または、様々な方法で実施することができ、または、様々な方法で実施される。また、本明細書中で用いられる表現法および用語法は記述のためであって、限定であると見なしてはならないことを理解しなければならない。
【0050】
慢性C型肝炎は、世界中で約1億7千万人が罹患する一般的な疾患である[LauerおよびWalker、2001(上掲)]。HCV感染者の中で、15%〜20%が、多くの場合には末期肝硬変に進行する肝臓線維化を発症する[Seeff、2000(上掲)]。現在、HCV感染者のどのくらいが肝臓線維化を発症するかを予測する手段は何一つない。加えて、感染した時から肝硬変の出現までの継続期間は個体間で異なり、予測することができない[Poynard、1997(上掲)]。その上、いくつかの宿主要因(例えば、高齢、男性、アルコール摂取および免疫抑制治療など)が肝臓線維化および肝硬変に関連することが見出されていた[Poynard、1997(上掲)]。線維化速度に影響を及ぼし得る他の宿主要因(例えば、喫煙およびボディーマス指数など)が依然として研究中である[Feldman、2002(上掲)]。
【0051】
肝臓線維化の一因となる遺伝的要因を特定しようとする以前の試みでは、ヘモクロマトーシス遺伝子(HFE)[Smith、1998(上掲)]、グルタチオンS−トランスフェラーゼ遺伝子(Ghobadloo SM他、2004、J.Gastrointest.Surg.8:423〜7)、IL1RAサイトカイン遺伝子(Bahr MJ他、2003、Liver Int.23:420〜5)およびミエロペルオキシダーゼ(MPO)遺伝子(Reynolds WF他、2002、Genes Immun.3:345〜9)における遺伝子多型が肝硬変に関連することが明らかにされていた。他の研究では、肝硬変におけるC282Y多型の役割に関して矛盾する結果が明らかにされていた[Smith、1998(上掲);Tung、2003(上掲)]。しかしながら、これらの研究はすべてが肝硬変患者と非肝硬変患者との間での遺伝子多型の存在率を比較しており、HCV感染者における治療の評価に対する著しい影響を有する線維化進行速度に対する考慮を行っていなかった。
【0052】
本発明を実施に移しているとき、本発明者らは、肝臓線維化および肝硬変に早く進行するHCV感染者(すなわち、「早い線維形成者」)、または、遅く進行するHCV感染者(すなわち、「遅い線維形成者」)の間での遺伝子多型の存在率を比較し、CYP2D6遺伝子座における遺伝子型を肝硬変の早い進行と関連づけている。
【0053】
下記の実施例の節の実施例1において示されるように、本研究は結論として、CYP2D6の不良な代謝酵素形態をコードするCYP2D64対立遺伝子が、早い肝臓線維形成者の間では遅い肝臓線維形成者の場合よりも一般的であることを示している。その上、CYP2D64対立遺伝子のヘテロ接合個体および/またはホモ接合個体の頻度が、早い肝臓線維形成者の間では遅い肝臓線維形成者の場合よりも大きく、このことは、CYP2D64対立遺伝子が、早い肝臓線維化に対する素因を明らかにすることにおいて使用されることを示唆している。
【0054】
従って、本発明の1つの態様によれば、個体が肝臓線維化の早い進行に対する素因を有するかどうかを明らかにする方法が提供される。
【0055】
本明細書中で使用される用語「個体」には、老若男女が含まれる。好ましくは、この用語は、肝臓線維化を発症する危険性がある個体、例えば、C型肝炎ウイルスまたは他の肝毒性ウイルス(例えば、B型肝炎、D型肝炎)に感染している個体、毎日2単位を超えるアルコールの摂取または肝毒性薬物に起因する肝毒性に苦しんでいる個体、肝臓ガン、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)、自己免疫疾患(例えば、自己免疫肝炎(AIH)、原発性胆汁性肝硬変(PBC)および原発性硬化性胆管炎(PSC)など)、代謝性肝臓疾患(例えば、ヘモクロマトーシス、ウイルソン病およびアルファ1アンチトリプシンなど)、および/または、肝臓の二次的関与による疾患(例えば、セリアック病またはアミロイドーシスなど)を有する個体を包含する。好ましくは、本発明の個体は、C型肝炎ウイルスに感染しているヒトである。
【0056】
本明細書中で使用される用語「素因を有する」は、肝臓線維化の早い進行に関連して使用されるとき、素因を有しない個体よりも、肝臓線維化の早い進行を発症する可能性が大きい個体を示す。
【0057】
肝臓線維化は、肝臓組織内の線維性組織(すなわち、死細胞の瘢痕組織)の存在によって特徴づけられる。肝臓線維化は、例えば、C型肝炎ウイルスによる感染に起因する肝臓の慢性的炎症の結果であることが多い。慢性的炎症は、肝臓構造の変化、血液循環の低下および肝臓細胞の壊死(すなわち、死)をもたらす。肝臓線維化の存在を評価する様々な方法が当該分野では知られている。例えば、下記の実施例の節の実施例1において示されるように、肝臓線維化の存在を、肝臓生検の組織病理学所見を使用して検出することができる。従って、肝臓生検の悪性度および段階を、下記の分類からなるBattsおよびLudwigのシステム(B&L)に従って評価することができる:1−門脈の線維化;2−門脈周囲の線維化;3−中隔の線維化;4−肝硬変。加えて、肝臓線維化を、臨床的所見(例えば、門脈高圧症の徴候など)、ならびに、研究室所見および適切な放射線学所見を使用して検出することができる。
【0058】
本明細書中で使用される表現「肝臓線維化の早い進行」は、Poynardの線維化進行モデル(Poynard他、2001、慢性C型肝炎患者における肝臓線維化進行の速度および危険性因子、J.Hepatol.34:730〜9)に基づいて感染時の個体の年齢に従って予想されるよりも短い期間での肝臓線維化の発症を示す。例えば、20歳未満の若年個体における肝臓線維化の通常の進行速度は40年である。他方で、40歳以上で感染する個体は感染時から10年〜20年の後に肝臓線維化を発症する。従って、早く進行する肝臓線維化は、本明細書中では、Poynardの線維化進行モデルに従って予想されるよりも少なくとも5年短い(より好ましくは、予想されるよりも少なくとも10年短い、最も好ましくは、予想されるよりも少なくとも20年短い)期間で発生する線維化として定義される。
【0059】
この方法は、個体のCYP2D6遺伝子座、または、このCYP2D6遺伝子座と連鎖不平衡にある隣接遺伝子座における少なくとも1つの早い進行の肝臓線維化関連遺伝子型のホモ接合形態またはヘテロ接合形態での存在または非存在を明らかにし、それにより、個体が肝臓線維化の早い進行に対する素因を有するかどうかを明らかにすることによって行われる。
【0060】
本明細書中で使用される用語「CYP2D6遺伝子座」は、チトクロームP450/ファミリー2/サブファミリー2/ポリペプチド6(CYP2D6)をコードし、第22染色体の長腕(22q13.1)において2つのチトクロームP450偽遺伝子の間に位置する遺伝子を包含するヒトゲノム内の特定のDNA配列領域を示す。CYP2D6タンパク質は、デブリソキン(アドレナリン作動性遮断薬)、スパルテインおよびプロパフェノン(ともに抗不整脈剤)、ならびに、アミトリプチリン(抗うつ薬)をはじめとする50を超える臨床的に重要な薬物の代謝に関与するモノオキシゲナーゼ酵素である[Hasler、1999(上掲)]。CYP2D6遺伝子における遺伝子多型は様々な形態のCYP2D6タンパク質をもたらし、そのうちのCYP2D63、CYP2D64およびCYP2D65(Hersberger M他、2000、Clin.Chem.46:1072〜7)は不良な薬物代謝酵素を表す(Nelson DR、チトクロームP450命名法、Methods Mol.Biol.1998、107:15〜24)。用語「ホモ接合」または用語「ヘテロ接合」は、ある種の多型の2つの同一対立遺伝子または2つの異なる対立遺伝子をそれぞれ示す。
【0061】
用語「多型」は、より希な形態(または最も希な形態)が頻発的な変異だけによって維持され得ない頻度で、特定の核酸または核酸配列(例えば、遺伝子)の2つ以上の遺伝子的に決定された変化体形態(対立遺伝子)が存在することを示す。多型の非限定的な一例が、配列番号1によって示され、CYP2D64多型をコードする、CYP2D6遺伝子(配列番号6、GenBankアクセション番号M33388)の3465位でのG/A置換である。
【0062】
下記の実施例の節の表3に示されるように、本発明者らは、不良な代謝酵素の多型体をコードする、配列番号1に示されるようなCYP2D64SNPのアデノシンヌクレオチド含有対立遺伝子が、早い線維形成者(すなわち、肝臓線維化の早い進行を示す個体)の間では遅い線維形成者(すなわち、肝臓線維化の進行が遅い個体)よりも一般的であることを発見している(p値=0.0166)。その上、下記の実施例の節の表3および表4に示されるように、不良な代謝酵素の対立遺伝子(すなわち、CYP2D64SNPのアデノシンヌクレオチド含有対立遺伝子)に対してヘテロ接合個体および/またはホモ接合個体は、早い線維形成者群では遅い線維形成者群よりも著しく一般的であった(p値=0.022、OR=11.7、95%のCI 1.4〜95.27)。
【0063】
加えて、さらには、下記の実施例の節の表7および表8に示され、また、実施例2に記載されるように、さらなる32名の慢性hCV患者がCYP2D64SNPの存在または非存在について調べられた際、CYP2D64対立遺伝子の頻度の全体的な差が、早い線維形成者群では約33%であり、遅い線維形成者群では約13%にすぎなかった。加えて、CYP2D64保因者の全体的な頻度が、早い線維形成者群の間では約51%であり、遅い線維形成者群の間では約22%にすぎなかった。
【0064】
CYP2D64多型は、CYP2D6遺伝子の第3イントロンと第4エキソンとの接合部におけるAGスプライスアクセプター部位のグアニンヌクレオチドがアデノシンヌクレオチドにより置換され(GenBankアクセション番号M33388における3465でのG−>A)、これにより、短縮型のCYP2D6タンパク質をもたらすスプライス変異をコードする。
【0065】
従って、本発明の好ましい実施形態によれば、CYP2D6遺伝子座における少なくとも1つの早い進行の肝臓線維化関連遺伝子型は、(少なくとも1つの内部アミノ酸領域または末端アミノ酸領域の欠失を有する)CYP2D6ポリペプチドの短縮型形態(例えば、CYP2D64多型体、CYP2D63多型体および/またはCYP2D65多型体など)をコードする。好ましくは、本発明のそのような早い進行の肝臓線維化関連遺伝子型は、配列番号1に示されるようなCYP2D64SNPのアデノシンヌクレオチド含有対立遺伝子である。
【0066】
本明細書中上記で述べられたように、本発明の方法はまた、隣接遺伝子座に存在し、かつ、CYP2D6遺伝子座における早い進行の肝臓線維化関連SNPと連鎖不平衡にあるSNPを特定することによって行うことができる。
【0067】
表現「隣接遺伝子座」は、CYP2D6遺伝子座の極近傍に存在し、かつ、CYP2D6遺伝子座におけるSNPと連鎖不平衡にある他のSNPを含むDNA配列(遺伝子または遺伝子間配列のいずれか)を記載するために本明細書中では使用される。
【0068】
表現「連鎖不平衡」(LD)は、2つの隣接する多型遺伝子型の間での統計学的相関を記載するために使用される。典型的には、LDは、配偶子間でのHardy−Weinberg平衡(統計学的独立性)を仮定したときの2つの遺伝子座における任意の配偶子の対立遺伝子の間での相関を示す。LDは、Lewontinの関連パラメーター(D’)またはPearson相関係数(r)のいずれかを用いて定量化される[Devlin B、Risch N(1995)、詳細なマッピングのための連鎖不平衡量の比較、Genomics、29:311〜322]。LD値が1である2つの遺伝子座は完全LDであると言われる。もう一方の極端な場合において、LDが0である2つの遺伝子座は連鎖平衡にあると称される。連鎖不平衡は、ハプロタイプの頻度を推定するための期待値最大化アルゴリズム(EM)の適用に従って計算される[Slatkin M、Excoffier L(1996)、期待値最大化アルゴリズムを使用する遺伝子型データにおける連鎖不平衡についての試験、Heredity、76:377〜83]。好ましくは、隣接遺伝子型/遺伝子座についての本発明によるLD値は0.1超(好ましくは0.2超、より好ましくは0.5超、より好ましくは0.6超、さらに一層より好ましくは0.7超、好ましくは0.8超、より好ましくは0.9超、理想的には約1.0)〜1.0で選択される。
【0069】
隣接遺伝子座に存在するが、CYP2D64多型との連鎖不平衡状態が未だ不明であるSNPが本発明とともに使用され得ることが理解される。そのようなSNPが、配列番号10に示されるゲノム配列において見出され得る。
【0070】
その上、他のチトクロームP450タンパク質の不良な代謝酵素変化体、例えば、CYP2C19[例えば、CYP2C192、CYP2C193、CYP2C194、CYP2C197、CYP2C198(Ibeanu GC他、1999、J.Pharmacol.Exp.Ther.290、635〜40)]、CYP2A6[例えば、CYP2A64、T1412C(Ile471Thr、Ariyoshi,N.他、2001、Biochem.Biophys.Res.Commun.281:810〜4)、CガンマP2A6v1、CガンマP2A6v2、または、CガンマP2A6遺伝子の欠失対立遺伝子(Nakajima M他、2000、Clin.Pharmacol.Ther.67:57〜69)]、CYP2C9(例えば、CYP2C91、CYP2C93)、CYP3A4およびCYP2E1(例えば、CYP2E15B、Abdel−Rahman,SZ.他、2000、Pharmacogenetics、10:239〜49)などもまた本発明とともに使用することができる。
【0071】
肝臓線維化の早い進行に対する素因は、遺伝子型の相対的危険性(GRR)値を作製および使用することによって定量化することができる。GRRは、肝臓線維化の早い進行を発症する特定の遺伝子型を有する個体の増大した可能性である。従って、保護的な遺伝子型Gに対する危険性遺伝子型GのGRRは、肝臓線維化の早い進行を発症する遺伝子型Gを保有する個体の危険性と、肝臓線維化の早い進行を発症する遺伝子型Gを保有する個体の危険性との比率である。本明細書中で使用されるGRRは、症例者および対照者におけるG対Gの適切なオッズ比(OR)に換算して表される。その上、ハプロタイプのGRRのコンピューター計算は、ホモ接合体個体のGRRがヘテロ接合体個体のGRRの平方である乗法モデルに基づいている。さらなる詳細については、RischおよびMerikangas、1996[複雑なヒト疾患の遺伝子研究の将来、Science、273:1516〜1517]を参照のこと。
【0072】
計算すると、GRRは、肝臓線維化の早い進行を発症する特定のCYP2D6遺伝子型を有する個体における増大した素因リスクを反映し得る。
【0073】
肝臓線維化の早い進行はまた、肝実質が悪化し、小葉に脂肪が浸潤し、高密度の小葉周囲での結合組織が形成される変性疾患である肝硬変をもたらし得る。生存する細胞は再生し、血液供給が低下した生細胞の「島」を形成する。肝硬変プロセスが継続するにつれ、肝臓を通過する血液の流れが低下し、門脈高圧症、低下した肝機能、および、究極的には死をもたらす。
【0074】
CYP2D64多型体と、肝臓線維化の発症に対する増大した素因との関連により、肝臓線維化の早い進行および/または肝硬変に対する素因を有する個体を特定するために使用することができ、従って、そのような個体における適正な治療療法の選択を可能にし得るツールが提供される。
【0075】
そのような個体の特定は、DNAサンプルを個体から得ること、および、CYP2D6遺伝子座における少なくとも1つの早い進行の肝臓線維化関連遺伝子型(すなわち、配列番号6によって示されるようなCYP2D6遺伝子の3465位でのG/A遺伝子型またはA/A遺伝子型)の存在または非存在についてサンプルを調べることによって行われる。DNAサンプルは、末梢血細胞(シリンジを使用して得られる)、皮膚細胞(皮膚生検物から得られる)、口内上皮細胞(口内洗浄液から得られる)など(これらに限定されない)をはじめとする個体の任意の細胞供給源から得ることができる。好ましくは、DNAサンプルは末梢血サンプルから得られる。DNAを血液サンプルから抽出する様々な方法が当該分野では広く知られている。
【0076】
遺伝子型に関連して本明細書中で使用される用語「非存在」は特定の遺伝子型決定試験の負の結果を記載する。例えば、遺伝子型決定試験が、配列番号1に示されるようなCYP2D64SNPのグアニンヌクレオチド含有対立遺伝子を特定するために好適であり、かつ、検査が行われる個体がCYP2D64SNPのアデノシンヌクレオチド含有対立遺伝子についてホモ接合体であるならば、試験の結果は「遺伝子型の非存在」である。
【0077】
肝臓線維化の早い進行に関連する遺伝子型は、配列の異常を特定するために好適な様々な方法を使用して特定することができる。1つの選択肢は、PCR反応生成物の全遺伝子配列を決定することである。あるいは、核酸の所与のセグメントをいくつかの他のレベルで特徴づけることができる。最も低い分解能では、分子のサイズを、同じゲルでの既知の標準物の泳動に対して比較することにより電気泳動によって決定することができる。分子のより詳細な像が、整理されたマップの構築を可能にするための電気泳動前の制限酵素の組合せによる切断によって達成され得る。フラグメント内の特定の遺伝子の存在を、標識されたプローブのハイブリダイゼーションによって検出することができ、あるいは、精密なヌクレオチド配列を部分的な化学的分解または鎖停止ヌクレオチドアナログの存在下でのプライマー伸張によって決定することができる。
【0078】
下記は、上記で記載されたSNPの1つまたは複数を特定するために使用することができるSNP検出方法の非限定的な列挙である。
【0079】
制限フラグメント長多型(RFLP):この方法では、RFLPの生成または破壊をもたらす、制限酵素のための認識部位を変化させるシングルヌクレオチド(SNPヌクレオチド)での変化が使用される。
【0080】
例えば、RFLPを、個体のゲノムDNAにおけるCYP2D64変化体を検出するために使用することができる。簡単に記載すると、ゲノムDNAを、CYP2D64フォワードPCRプライマー(配列番号2)およびCYP2D64リバースPCRプライマー(配列番号3)を使用して増幅し、得られたPCR産物を、制限酵素(例えば、配列番号6の3465位に(A対立遺伝子ではなく)G対立遺伝子を含有するPCR産物を示差的に消化することができるMvaIなど)を使用する消化に供する。
【0081】
DNAヘテロ二重鎖におけるシングルヌクレオチドのミスマッチはまた、いくつかの化学試薬によって認識および切断され、これにより、「ミスマッチ化学的切断」(MCC)と一般には呼ばれる、一塩基置換を検出する代わりの方法が提供される(Gogos他、Nucl.Acids Res.18:6807〜6817、1990)。しかしながら、この方法では、四酸化オスミウムおよびピペリジン(臨床研究室での使用には適さない2つの非常に有害な薬品)の使用が要求される。
【0082】
対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO):この方法では、プライマー伸張または連結の事象がマッチまたはミスマッチの指標として使用され得るように、対立遺伝子特異的なオリゴヌクレオチド(ASO)が、多型ヌクレオチドの近くでハイブリダイゼーションするように設計される。放射能標識された対立遺伝子特異的なオリゴヌクレオチド(ASO)とのハイブリダイゼーションはまた、特定のSNPの検出にも適用されている(Conner他、Proc.Natl.Acad.Sci.80:278〜282、1983)。この方法は、シングルヌクレオチドによって異なる短いDNAフラグメントの融解温度が異なることに基づいている。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件および洗浄条件により、変異型対立遺伝子および野生型対立遺伝子を識別することができる。
【0083】
CYP2D64多型の存在を特定するために本発明とともに使用することができる好適なASOプローブには、CYP2D64対立遺伝子に示差的にハイブリダイゼーションすることができる5’−AGGGGCGTCTTGGGGプローブ(配列番号9)、および、野生型対立遺伝子(すなわち、CYP2D6)に示差的にハイブリダイゼーションすることができる5’−AGGGGCGTCCTGGGGプローブ(配列番号8)が含まれる。
【0084】
変性/温度勾配ゲル電気泳動(DGGE/TGGE):2つの他の方法は、小さな配列変化に対する応答における電気泳動移動度の変化を検出することに依る。これらの方法の1つが「変性勾配ゲル電気泳動」(DGGE)と呼ばれており、これは、わずかに異なる配列が、勾配ゲルで電気泳動により分離されたとき、局所的融解の異なるパターンを示すという観察結果に基づいている。このように、シングルヌクレオチドが異なるヘテロ二重鎖に対するホモ二重鎖の融解特性の違いにより、それらの電気泳動移動度が対応して変化するために標的配列におけるSNPの存在を検出することができるので、変化体を区別することができる。分析されるフラグメント(通常の場合にはPCR産物)は、鎖の完全な解離を伴うことなく目的とする配列の完全な変性を可能にするために長い領域のG−C塩基対(30〜80)によって一方の端部で「固定」される。DNAフラグメントへのGC「クランプ」の結合は、DGGEによって認識され得る変異の割合を増大させる(Abrams他、Genomics、7:463〜475、1990)。GCクランプを1つのプライマーに結合することは、増幅された配列が低い解離温度を有すること確保するために重要である(Sheffield他、Proc.Natl.Acad.Sci.86:232〜236、1989;LermanおよびSilverstein、Meth.Enzymol.155:482〜501、1987)。この技術の様々な改変が、温度勾配を使用して開発されており(Wartell他、Nucl.Acids Res.18:2699〜2701、1990)、この方法はまたRNA:RNA二重鎖にも適用することができる(Smith他、Genomics、3:217〜223、1988)。
【0085】
DGGEの有用性に対する制限には、変性条件を、試験されるDNAの各タイプについて最適化しなければならないことが要求されることが含まれる。さらには、この方法では、ゲルを調製し、かつ、必要となる高い温度を電気泳動期間中に維持するための特別な設備が要求される。それぞれの配列が試験されるための1つのオリゴヌクレオチドでの固定用テールの合成に関連する費用もまた大きな検討事項である。加えて、長い泳動時間がDGGEのために要求される。DGGEの長い泳動時間は、定常変性ゲル電気泳動(CDGE)と呼ばれるDGGEの改変法では短縮された(Borrensen他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、88:8405、1991)。CDGEでは、SNPの検出のための高い効率を達成するために、ゲルが種々の変性条件のもとで行われることが要求される。
【0086】
温度勾配ゲル電気泳動(TGGE)と呼ばれる、DGGEに類似する技術では、化学的な変性勾配ではなく、温度勾配が使用される(Scholz他、Hum.Mol.Genet.2:2155、1993)。TGGEでは、電場に対して直交的に配向する温度勾配を生じさせることができる特別な設備を使用することが要求される。TGGEでは、変異をDNAの比較的小さいフラグメントにおいて検出することができ、従って、大きい遺伝子セグメントの走査では、ゲルを泳動する前に、多数のPCR産物の使用が要求される。
【0087】
一本鎖DNA高次構造多型(SSCP):「一本鎖DNA高次構造多型」(SSCP)と呼ばれる別の一般的な方法が、Hayashi、Sekyaおよび共同研究者によって開発され(Hayashi(PCR Meth.Appl.1:34〜38、1991)によって総説される)、これは、核酸の一本鎖が非変性条件では特徴的な立体配座を取ることができ、このような立体配座が電気泳動度に影響を及ぼすという観察結果に基づいている。相補的な鎖は、一方の鎖が反対側の鎖から分離し得る十分に異なる構造を取る。フラグメント内の配列の変化は立体配座をも変化させ、その結果として、移動度を変化させ、かつ、このことを配列変化についてのアッセイとして使用することを可能にする(Orita他、Genomics、5:874〜879、1989)。
【0088】
SSCPプロセスでは、両方の鎖において標識されるDNAセグメント(例えば、PCR産物)を変性させること、その後、分子内相互作用が泳動期間中に形成され、かつ、破壊され得ないように非変性ポリアクリルアミドゲルでのゆっくりとした電気泳動分離を行うことが伴う。この技術はゲルの組成および温度における変動に対して極めて敏感である。この方法の一連の制限は、明らかに類似する条件のもとでも、異なる研究室で得られたデータを比較する際に直面する相対的な困難である。
【0089】
ジデオキシフィンガープリンティング(ddF):ジデオキシフィンガープリンティング(ddF)は、変異の存在について遺伝子を走査するために開発された別の技術である(LiuおよびSommer、PCR Methods Appli.4:97、1994)。ddF技術は、Sangerジデオキシ配列決定の構成要素をSSCPと組み合わせたものである。ジデオキシ配列決定反応が、1つのジデオキシターミネーターを使用して行われ、その後、反応生成物が、SSCP分析でのように停止セグメントの移動度の変化を検出するために非変性ポリアクリルアミドゲルで電気泳動される。ddFは、増大した感度の点でSSCPを上回る改善である一方で、ddFでは、高価なジデオキシヌクレオチドの使用が要求され、また、この技術は依然として、SSCPのために好適なサイズのフラグメント(すなわち、変異の最適な検出のためには200塩基〜300塩基のフラグメント)の分析に限定されている。
【0090】
上記の制限に加えて、これらの方法はすべてが、分析することができる核酸フラグメントのサイズに関して制限される。直接的な配列決定法については、600塩基対を超える配列では、フラグメント全体を覆うために、クローン化が必要であり、その結果としての遅延、および、欠失サブクローニングまたはプライマーウォーキングのいずれかの負担が伴う。SSCPおよびDGGEでは、さらに一層厳しいサイズ制限がある。配列変化に対する低下した感度のために、これらの方法は、より大きなフラグメントには適していないと考えられる。SSCPは、報告によれば、200塩基対のフラグメントにおいて90%の一塩基置換を検出することができるが、その検出は400塩基対のフラグメントについては50%未満に低下する。同様に、DGGEの感度は、フラグメントの長さが500塩基対に達するにつれて低下する。ddF技術は、直接的な配列決定およびSSCPの組合せとして、スクリーニングすることができるDNAの比較的小さいサイズによってもまた制限される。
【0091】
Pyrosequencing(商標)分析(Pyrosequencing,Inc.Westborough、MA、米国):この技術は、DNAポリメラーゼ、ATPスルフリラーゼ、ルシフェラーゼおよびアピラーゼの各酵素ならびにアデノシン5’ホスホスルファート(APS)およびルシフェリン基質の存在下での一本鎖のPCR増幅されたDNAテンプレートに対する配列決定用プライマーのハイブリダイゼーションに基づいている。第2工程において、4つのうちの最初のデオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP)が反応に加えられ、そのデオキシヌクレオチド三リン酸がテンプレート鎖において塩基に対して相補的であるならば、DNAポリメラーゼがDNA鎖内へのそのデオキシヌクレオチド三リン酸の取り込みを触媒する。それぞれの取り込み事象には、取り込まれたヌクレオチドの量に対して等モル量でのピロリン酸(PPi)の放出が付随する。最後の工程において、ATPスルフリラーゼがアデノシン5’ホスホスルファートの存在下でPPiをATPに定量的に変換する。このATPは、ATPの量に比例する量で可視光を生じさせるオキシルシフェリンへのルシフェリンのルシフェラーゼ媒介の変換を行わせる。ルシフェラーゼにより触媒される反応で生じた光が電荷結合素子(CCD)カメラによって検出され、pyrogram(商標)におけるピークとして見られる。それぞれの光シグナルが、取り込まれたヌクレオチドの数に比例している。
【0092】
Acycloprime(商標)分析(Perkin Elmer、Boston、Massachusetts、米国):この技術は蛍光分極化(FP)検出に基づいている。目的するSNPを含有する配列のPCR増幅後、過剰なプライマーおよびdNTP類がエビアルカリホスファターゼ(SAP)およびエキソヌクレアーゼIとのインキュベーションにより除かれる。これらの酵素が熱により不活化されると、Acycloprime−FPプロセスでは、熱安定ポリメラーゼが、2つの蛍光ターミネーターの一方を、SNP部位のすぐ上流側で停止するプライマーに付加するために使用される。添加されたターミネーターはその増大したFPによって特定され、元のDNAサンプルに存在する対立遺伝子を表す。Acycloprimeプロセスでは、AcycloPol(商標)(Archeon科から得られる新規な変異型熱安定ポリメラーゼ)、ならびに、目的とするSNPについての可能性のある対立遺伝子を表す、R110およびTAMRAにより標識された1対のAcycloTerminator(商標)が使用される。AcycloTerminator(商標)非ヌクレオチドアナログは様々なDNAポリメラーゼとともに生物学的に活性である。2’,3’−ジデオキシヌクレオチド−5’−三リン酸と同様に、非環状アナログは鎖ターミネーターとして機能する。このアナログはDNA鎖の3’末端に塩基特異的な様式でDNAポリメラーゼによって取り込まれ、そして、3’−ヒドロキシルが存在しないので、鎖のさらなる伸張において機能することができない。AcycloPolは、様々なTaq変異体が誘導体化2’,3’−ジデオキシヌクレオチドターミネーターに対して有するよりも、誘導体化されたAcycloTerminatorに対する大きな親和性および特異性を有することが見出されている。
【0093】
リバースドットブロット:この技術では、標識された配列特異的なオリゴヌクレオチドプローブと、非標識の核酸サンプルとが使用される。活性化された第一級アミンコンジュゲート化オリゴヌクレオチドがカルボキシル化ナイロンメンブランに共有結合的に結合させられる。ハイブリダイゼーションおよび洗浄の後、標識されたプローブまたはプローブの標識されたフラグメントを、オリゴマー制限(すなわち、制限酵素による二重鎖ハイブリッドの消化)を使用して放出させることができる。円形のスポットまたは線が、ストレプトアビジン−西洋ワサビペルオキシダーゼのインキュベーションの使用、それに続く、テトラメチルベンジジンおよび過酸化水素を使用する発色によって、または、アビジン−アルカリホスファターゼコンジュゲートと、酵素活性化に敏感な発光性基質(例えば、CSPDなど)とのインキュベーションの後での化学発光、それに続く、X線フィルムへの感光によって、ハイブリダイゼーションの後で比色的に可視化される。
【0094】
LightCycler(商標)分析(Roche、Indianapolis、IN、米国)。LightCycler(商標)装置は、サーモサイクラーおよびオンライン検出用の蛍光計成分からなる。増幅によって形成されたPCR産物が、2つの配列特異的なオリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションプローブにカップリングされた蛍光団によってオンラインで検出される。オリゴヌクレオチドの一方がその3’末端にフルオレセイン標識を有し(ドナーオリゴヌクレオチド)、もう一方のオリゴヌクレオチドがその5’末端においてLightCycler(商標)−Red640により標識される(アクセプターオリゴヌクレオチド)。両方の標識されたDNAプローブがそれらのテンプレートにハイブリダイゼーションしたとき、エネルギーが、特定の波長を有する外部光源を使用するドナー蛍光団の励起の後でドナー蛍光団からアクセプター蛍光団に移動する。アクセプター蛍光団によって放射される光を規定された波長で検出することができる。この光シグナルの強度はPCR産物の量に比例している。
【0095】
例えば、下記の実施例の節の実施例1において示されるように、CYP2D64フォワードPCRプライマーおよびCYP2D64リバースPCRプライマー(それぞれ、配列番号2および配列番号3)が、CYP2D64多型の存在を検出するためにアンカープローブおよび変異プローブ(それぞれ、配列番号7および配列番号8)を使用してLightCycler(商標)によってさらに分析することができる347bpのPCR産物を増幅するために使用された。
【0096】
SNP検出の分野における進歩により、下記のようなさらなる正確で、容易で、かつ、費用のかからない大規模なSNP遺伝子型決定技術が提供されていることが理解される:例えば、動的対立遺伝子特異的ハイブリダイゼーション(DASH、Howell,W.M.他、1999、動的対立遺伝子特異的ハイブリダイゼーション(DASH)、Nat.Biotechnol.17:87〜8)、マイクロプレートアレイ対角ゲル電気泳動[MADGE、Day,I.N.他、1995、マイクロプレートアレイ対角ゲル電気泳動(MADGE)のために配置されたウエルを伴う水平ポリアクリルアミドゲルを使用するハイスループット遺伝子型決定、Biotechniques、19:830〜5]、TaqManシステム(Holland,P.M.他、1991、Thermus aquaticusのDNAポリメラーゼの5’−>3’エキソヌクレアーゼ活性を利用することによる特異的なポリメラーゼ連鎖反応生成物の検出、Proc Natl Acad Sci USA、88:7276〜80)、ならびに、様々なDNA「チップ」技術、例えば、米国特許第6300063号(Lipshutz他、2001)(これは参照として全てが本明細書中に組み込まれる)に開示されるGeneChipマイクロアレイ(例えば、Affymetrix SNPチップ)、Goelet,P.他(PCT出願番号92/15712)によって記載されるGenetic Bit Analysis(GBA(商標))、ペプチド核酸プローブ(PNA、Ren B他、2004、Nucleic Acids Res.32:e42)およびロックド核酸プローブ(LNA、Latorra D他、2003、Hum.Mutat.22:79〜85)、分子ビーコン(Abravaya K他、2003、Clin Chem Lab Med、41:468〜74)、インターカレーション色素[Germer,S.およびHiguchi,R.オリゴヌクレオチドプローブを用いないシングルチューブでの遺伝子型決定、Genome Res.9:72〜78(1999)]、FRETプライマー(Solinas A他、2001、Nucleic Acids Res.29:E96)、AlphaScreen(Beaudet L他、Genome Res.2001、11(4):600〜8)、SNPstream(Bell PA他、2002、Biotechniques.Suppi.70〜2、74、76〜7)、多重ミニ配列決定(Curcio M他、2002、Electrophoresis、23:1467〜72)、SnaPshot(Turner D他、2002、Hum Immunol、63:508〜13)、MassEXTEND(Cashman JR他、2001、Drug Metab Dispos、29:1629〜37)、GOODアッセイ(Sauer SおよびGut IG、2003、Rapid Commun.Mass.Spectrom.17:1265〜72)、マイクロアレイミニ配列決定(Liljedahl U他、2003、Pharmacogenetics、13:7〜17)、アレイ型プライマー伸張(APEX)(Tonisson N他、2000、Clin.Chem.Lab.Med.38:165〜70)、マイクロアレイプライマー伸張(O’Meara D他、2002、Nucleic Acids Res.30:e75)、Tagアレイ(Fan JB他、2000、Genome Res.10:853〜60)、テンプレート誘導取り込み(TDI)(Akula N他、2002、Biotechniques、32:1072〜8)、蛍光分極化(Hsu TM他、2001、Biotechniques、31:560、562、564〜8)、比色法オリゴヌクレオチド連結アッセイ(OLA、Nickerson DA他、1990、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.87:8923〜7)、配列コード化OLA(Gasparini P他、1999、J.Med.Screen.6:67〜9)、マイクロアレイ連結、リガーゼ連鎖反応,Padlockプローブ、ローリングサークル増幅、Invaderアッセイ(総説、Shi MM、2001、ハイスループットな変異検出技術および遺伝子型決定技術による大規模な薬理遺伝学研究が可能になる、Clin Chem.47:164〜72)、コード化マイクロスフェア(Rao KV他、2003、Nucleic Acids Res.31:e66)およびMassArray(Leushner J、Chiu NH、2000、Mol Diagn.5:341〜80)など。
【0097】
タンパク質のコード配列に存在し、タンパク質配列の変化を生じさせる遺伝子多型が、CYP2D6のタンパク質遺伝子産物またはその一部分を分析することによって直接に検出できることが理解される。そのような遺伝子多型の非限定的な例には、ミスセンス変異(すなわち、アミノ酸の置換)、ナンセンス変異(すなわち、アミノ酸の代わりに停止コドンの挿入)、欠失(すなわち、少なくとも1つのアミノ酸の欠失)、重複化および/または挿入(すなわち、さらなるアミノ酸の挿入)、ならびに、コード配列(すなわち、エキソン)または非コード配列(すなわち、イントロン)の排除または含有をそれぞれもたらし得るスプライス変異が含まれる。例えば、CYP2D6遺伝子(配列番号6)における3465でのG−>Aのスプライス変異は、コード配列の排除の結果としての短縮型のタンパク質をもたらす。CYP2D6のタンパク質遺伝子産物またはその一部分の直接的な分析を、免疫学的検出方法を使用して達成することができる。
【0098】
免疫学的検出方法:本発明の関連で使用される免疫学的検出方法が、例えば、“Using Antibodies:A Laboratory Manual”[Ed Harlow、David Lane編、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1999)]に詳しく説明されており、当業者は、本発明の一部として本明細書中下記に要約される様々な技術を実行することができる。免疫学的検出方法はすべて、CYP2D6対立遺伝子の少なくとも1つに対して特異的な抗体を必要とする。本発明の一部としての使用に好適な免疫学的検出方法には、放射免疫アッセイ(RIA)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ウエスタンブロット、免疫組織化学分析および蛍光活性化細胞分取(FACS)が含まれるが、これらに限定されない。
【0099】
放射免疫アッセイ(RIA):1つの形式において、この方法では、所望の基質(この場合にはCYP2D6)を、特異的な抗体と、沈殿可能なキャリア(例えば、アガロースビーズなど)に固定化されている放射能標識された抗体結合タンパク質(例えば、I125で標識されたプロテインA)とを用いて沈殿させることが伴う。沈殿ペレットにおけるカウント数が基質の量に比例している。
【0100】
RIAに代わる形式では、標識された基質および非標識の抗体結合タンパク質が用いられる。未知量の基質を含有するサンプルが様々な量で加えられる。標識された基質からの沈殿カウントの減少が、添加されたサンプルにおける基質の量に比例している。
【0101】
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA):この方法では、表面(例えば、マイクロタイタープレートのウエルなど)への、タンパク質基質を含有するサンプル(例えば、固定処理細胞またはタンパク質性溶液)の固定が伴う。酵素にカップリングされた基質特異的な抗体が添加され、基質に結合させられる。その後、抗体の存在が、抗体にカップリングされた酵素を用いる比色反応によって検出および定量される。この方法において一般的に用いられる酵素には、西洋ワサビペルオキシダーゼおよびアルカリホスファターゼが含まれる。十分に校正され、かつ、応答の直線範囲内にある場合、サンプルに存在する基質の量は、生じた色の量に比例している。基質標準物が、定量精度を改善するために一般に用いられる。
【0102】
ウエスタンブロット:この方法では、基質をアクリルアミドゲルによって他のタンパク質から分離し、その後、基質をメンブラン(例えば、ナイロンまたはPVDF)に転写することが伴う。その後、基質の存在が基質に特異的な抗体によって検出され、次いで、抗体が抗体結合試薬によって検出される。抗体結合試薬は、例えば、プロテインAまたは他の抗体であり得る。抗体結合試薬は、本明細書中上記で記載されたように放射能標識または酵素連結することができる。検出を、オートラジオグラフィー、比色反応または化学発光によって行うことができる。この方法では、基質量の定量と、電気泳動期間中のアクリルアミドゲルにおける移動距離を示すメンブラン上での相対的な位置によるその正体の決定との両方が可能である。
【0103】
免疫組織化学分析:この方法では、基質特異的な抗体による、固定処理された細胞におけるin situでの基質の検出が伴う。基質特異的な抗体は酵素連結することができるか、または蛍光団に連結することができる。検出が顕微鏡および主観的評価によって行われる。酵素連結された抗体が用いられる場合、比色反応が必要となる場合がある。
【0104】
蛍光活性化細胞分取(FACS):この方法では、基質特異的な抗体による細胞におけるin situでの基質の検出が伴う。基質特異的な抗体は蛍光団に連結される。検出が、細胞が光ビームを通過するときにそれぞれの細胞から放射される光の波長を読み取る細胞分取装置によって行われる。この方法では、2つ以上の抗体を同時に用いることができる。
【0105】
個体のCYP2D6表現型を決定することが、直接的(例えば、タンパク質多型体を検出することによって)または遺伝子的(例えば、SNP遺伝子型の存在または非存在を検出することによって)のいずれかであっても、血液、血漿、血液細胞、唾液、または、口腔洗浄によって得られる細胞、および、身体分泌物(例えば、尿および涙など)(これらに限定されない)をはじめとする、被検査個体に由来するか、あるいは、生検物などに由来する任意の好適な生物学的サンプルを使用して行われ得ることが当業者によって理解される。あるいは、核酸検査を乾燥サンプル(例えば、毛髪または皮膚)で行うことができる。サンプルは、ゲノムDNA、cDNAまたはRNAを含有することができる。ゲノムDNAまたはcDNAおよびRNAを調製する様々な方法が当該分野では広く知られている。
【0106】
本発明の方法において使用される抗体は、CYP2D64の多型によってコードされるCYP2D6タンパク質の少なくとも1つの形態と示差的に相互作用可能であるように選択され、かつ、野生型タンパク質(すなわち、CYP2D6)および不良な代謝酵素多型体(例えば、CYP2D63、CYP2D64、CYP2D65)を示差な抗体相互作用によって区別することができる。本発明のこの実施形態の関連での有用な抗体は、当業者に広く知られている抗体調製の様々な方法を使用して調製することができ、例えば、CYP2D6タンパク質の様々なドメインに由来する合成ペプチドを抗体産生動物へのワクチン接種のために使用し、その後、抗体産生動物から抗体を単離することにより調製することができる。CYP2D6変化体のそれぞれに対して特異的なモノクローナル抗体もまた、例えば、“Current Protocols in Immunology”(第I巻〜第III巻、Coligan J.E.編(1994);Stites他(編)、“Basic and Clinical Immunology”(第8版)、Appleton&Lange、Norwalk、CT(1994);MishellおよびShiigi(編)、“Selected Methods in Cellular Immunology”(W.H.Freeman and Co.New York(1980))に記載されるように調製することができる。
【0107】
本明細書中で使用される用語「抗体」は、無傷の分子、ならびに、マクロファージに結合することができるその機能的フラグメント(例えば、Fab、F(ab’)およびFvなど)が含まれる。これらの機能的な抗体フラグメントは下記のように定義される:Fab、これは、抗体分子の一価の抗原結合性フラグメントを含有し、無傷の軽鎖と、1つの重鎖の一部とを生じさせるために完全な抗体を酵素パパインで消化することによって作製することができるフラグメントである;Fab’、これは、無傷の軽鎖と、重鎖の一部とを生じさせるために完全な抗体をペプシンで処理し、その後、還元することによって得ることができる抗体分子のフラグメントであり、2つのFab’フラグメントが1個の抗体分子について得られる;F(ab’)、これは、完全な抗体を酵素ペプシンで処理し、続く還元を行わないことによって得ることができる抗体のフラグメントであり、F(ab’)は、2つのジスルフィド結合によって一緒になっている2つのFab’フラグメントの二量体である;Fv、これは、2つの鎖として発現された軽鎖の可変領域および重鎖の可変領域を含有する遺伝子操作されたフラグメントとして定義される;および、単鎖抗体(「SCA」)、これは、軽鎖の可変領域および重鎖の可変領域を、遺伝子融合された単鎖分子として好適なポリペプチドリンカーによって連結されて含有する遺伝子操作された分子である。
【0108】
これらのフラグメントを作製する様々な方法が当該分野では知られている。例えば、HarlowおよびLane、Antibodies:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory、New York、1988)を参照のこと(これは参考として本明細書中に組み込まれる)。
【0109】
本発明による抗体フラグメントは、抗体のタンパク質分解的加水分解によって、あるいは、フラグメントをコードするDNAの大腸菌細胞または哺乳動物細胞(例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞培養物または他のタンパク質発現系)における発現によって調製することができる。
【0110】
抗体フラグメントは、従来の方法による完全な抗体のペプシン消化またはパパイン消化によって得ることができる。例えば、抗体フラグメントを、F(ab’)として示される5Sフラグメントを提供するためにペプシンによる抗体の酵素切断によって作製することができる。このフラグメントは、チオール還元剤と、場合により、ジスルフィド連結の切断から生じるスルフヒドリル基に対する保護基とを使用してさらに切断して、3.5SのFab’一価フラグメントを生じさせることができる。あるいは、ペプシンを使用する酵素切断は、2つの一価Fab’フラグメントと、1つのFcフラグメントとを直接に生じさせる。これらの方法は、例えば、Goldenberg、米国特許第4036945号および同第4331647号、ならびに、それらに含まれる参考文献によって記載される(これらの特許はその全てが参照として本明細書に組み込まれる)。Porter,R.R.Biochem.J.73:119〜126、1959もまた参照のこと。抗体を切断する他の方法、例えば、一価の軽鎖フラグメントを形成させるための重鎖の分離、フラグメントのさらなる切断、あるいは、他の酵素的技術、化学的技術または遺伝子的技術などもまた、フラグメントが、無傷の抗体によって認識される抗原に結合する限り、使用することができる。
【0111】
FvフラグメントはV鎖およびV鎖の会合を含む。この会合は、Inbar他、Proc.Nat’l Acad.Sci.USA、69:2659〜62、1972に記載されるように、非共有結合的である場合がある。あるいは、可変鎖を分子間ジスルフィド結合によって連結することができるか、または、グルタルアルデヒドなどの化学試薬によって架橋することができる。好ましくは、Fvフラグメントは、ペプチドリンカーによってつながれたV鎖およびV鎖を含む。これらの単鎖の抗原結合性タンパク質(sFv)は、オリゴヌクレオチドによってつながれた、VドメインおよびVドメインをコードするDNA配列を含む構造遺伝子を構築することによって調製される。構造遺伝子は発現ベクターに挿入され、続いて、大腸菌などの宿主細胞に導入される。組換え宿主細胞により、2つのVドメインを架橋するリンカーペプチドを含む1つのポリペプチド鎖が合成される。sFvを作製するための様々な方法が、例えば、WhitlowおよびFilpula、Methods、2:97〜105、1991;Bird他、Science、242:423〜426、1988;Pack他、Bio/Technology、11:1271〜77、1993;Ladner他、米国特許第4946778号(これは参照として全てが本明細書中に組み込まれる)によって記載される。
【0112】
抗体フラグメントの別の形態が、1つだけの相補性決定領域(CDR)をコードするペプチドである。CDRペプチド(「最小認識ユニット」)は、目的とする抗体のCDRをコードする遺伝子を構築することによって得ることができる。そのような遺伝子は、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応を使用して、抗体産生細胞のRNAから可変領域を合成することによって調製される。例えば、LarrickおよびFry、Methods,2:106〜10、1991を参照のこと。
【0113】
本発明による、また、本明細書中上記に記載される、肝臓線維化の早い進行に対する素因を明らかにするための方法によって利用される試薬はキットの一部を形成し得ることが理解される。
【0114】
そのようなキットは、CYP2D6遺伝子座、または、CYP2D6遺伝子座と連鎖不平衡にある隣接遺伝子座における少なくとも1つの早い進行の肝臓線維化関連遺伝子型のホモ接合形態またはヘテロ接合形態での存在または非存在を明らかにするための少なくとも1つ試薬を含む。
【0115】
好ましい実施形態によれば、キットはさらに、包装材と、個体が肝臓線維化の早い進行に対する素因を有するかどうかを明らかにすることにおける使用についてキットを特定するこの包装材内またはこの包装材上における通知とを含む。
【0116】
キットはまた、使用のための適切な説明書、および、診断における使用についてのFDA承認を示す標識を含む。
【0117】
肝臓線維化の早い進行を発症する個体の素因を明らかにする、本発明による方法およびキットは、抗ウイルス治療または他の治療に対する、HCV、B型肝炎ウイルス(HBV)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に感染した個体の適合性を明らかにするために使用することができる。PEG−インターフェロンおよびリバビリンの組合せを使用するそのような治療はすべてのHCV感染者には提供されていないので、これは特に重要である。結果として、一部の場合には、そのような抗ウイルス治療が、肝臓線維化をその生涯において発症する可能性がない個体に対して用いられ、そして、より重要なことに、他の場合には、抗ウイルス治療が、肝臓線維化の早い進行を発症する危険性があるが、誤診されている個体から(予算上の制限のために)控えられる。
【0118】
下記は、本発明の方法が、抗ウイルス治療に対する適合性を明らかにすることを助けるために使用され得る臨床的状況の列挙である。
【0119】
正常なALT/ASTレベルを有し、組織学で線維化を有しないHCV感染患者。この患者群はHCV患者の25%からなり(Hepatology、1998、27:1213)、その約80%は線維化に向かって著しく進行しない(Gastroenterology、2004、126:1409)ので、進行があるならば、進行の程度を評価するために5年間隔で肝臓生検により経過を見ることができる。肝臓線維化の早い進行を発症するそのような個体の素因リスクを知ることは、例えば、肝臓生検を行わなければならない間隔を決定することを助けることができる。
【0120】
HCV遺伝子型タイプ1を有するHCV感染者の50%は、混合治療に対する完全な非応答者である。すなわち、その混合治療により、HCVのRNAレベルを、4週間、12週間または24週間の治療の後で、対数値で2ほど低下させることができない(J.Hepatol.1999、30:192〜198;Hapatology、2003、38:248A;Hapatology、2003、38:208A)。加えて、HCV遺伝子型タイプ1を有するHCV感染者の50%は24週間の混合治療の後で部分的応答者である。すなわち、そのようなHCV感染者の50%は、対数値で2を超える低下したレベルのHCV RNAを有するが、24週間目においてHCVウイルスを排除していない(Hapatology、2003、38:645〜652)。そのような患者は、持続したウイルス応答を48週間目において達成する可能性が低下している。近年の研究では、18ヶ月の治療は12ヶ月の治療よりも高い成功をもたらしそうであることが示されている。しかしながら、そのような長期間の治療は費用有効性のために広く受け入れられていない(慢性C型肝炎における18ヶ月の治療による再発率の低下:300名の患者におけるベネルクス無作為化治験、J.Hepatol.2004、40(4):689〜695)。従って、線維化が遅い非応答者または部分的応答者は、開発されるより良好な治療を待つことができるが、部分的応答者または完全非応答者である早い線維形成者は、より長い継続期間(すなわち、18ヶ月)にわたって、現在利用可能な抗ウイルス治療を受けなければならない。
【0121】
HCV遺伝子型タイプ1を有し、かつ、AST/ALTが上昇しているが、正常な腹部超音波検査を有する、肝臓生検を拒否するHCV感染者。この場合、そのような患者が肝臓線維化の早い進行に対する素因を有するならば、患者は、生検が行われない場合でさえ、治療されなければならない。
【0122】
非代償性肝硬変のHCV感染者(イスラエルにおけるHCV感染者の10%未満)は通常、抗ウイルス治療ではなく、肝臓移植について検討される。しかしながら、多くの場合において、移植された肝臓もまた、肝臓線維化および肝硬変にさらされる。そのような場合、肝臓線維化の早い進行を発症する増大した素因リスクを明らかにすることを、肝臓移植の成功または失敗を予想するために使用することができる。
【0123】
70歳を超えるHCV患者(全HCV感染者の約5%)は、特に、命を脅かす医学的状態を1回以上有するならば、通常、PEGインターフェロンが与えられず、通常型インターフェロンが与えられている。しかしながら、そのような個体が肝臓線維化の早い進行に対する素因を有するならば、そのような個体は治療について同様に検討されなければならない。
【0124】
著しい肥満(30Kg/mを超えるBMI)のHCV感染者は、治療に対する応答率が低下している。そのような患者は、PEGインターフェロン治療が検討される前に、厳しい減量プログラムを受けなければならない(Hepatology、2003、38:639)。この場合、そのような患者が肝臓線維化の早い進行に対する素因を有するならば、患者は、命を脅かすこの状況に関してカウンセリングを受け、相当量の体重を減らすための動機づけがなされなければならない。
【0125】
著しい量のアルコール(すなわち、1日あたり2単位を超えるアルコール)を毎日飲み続けている、上昇した血清ALT/ASTレベルを示すHCV感染者は、抗ウイルス治療が施される前に、飲酒を止めるように勧告される。この患者群はイスラエルのHCV感染者の5%未満を構成する。肝臓線維化の早い進行を発症する素因リスク、ならびに、アルコール摂取中断後6ヶ月で検出されたときの血清中のALT/ASTレベルが、抗ウイルス治療の組合せを施す前に考慮に入れられる場合がある。
【0126】
一部のHCV感染者は鉄の過負荷(すなわち、上昇した身体鉄貯蔵マーカーに関連する肝臓生検での過度な鉄)を示す。そのような患者には、放血治療が、ヘモグロビンレベルの著しい低下が生じるまで毎月提供される。血清ALT/ASTレベルが正常化しているならば、このような患者は、通常、HCVの第1群患者として管理される。酵素レベルが依然として上昇したままであるならば、このような患者は、通常、抗ウイルス治療の組合せについて検討される。これらの場合において、肝臓線維化の早い進行を発症する素因リスクの知識は治療の選択に影響を及ぼし得る。
【0127】
血小板減少症が現れる(すなわち、血小板数が50000個未満である)HCV感染者には、抗ウイルス治療の組合せが提供されていない。しかしながら、そのような患者が肝臓線維化の早い進行に対する素因を有するならば、そのような患者は、費用効果的な観点から日常的には与えられないG−CSFなどの因子により、また、同様に、リバビリンのみにより治療することができる。
【0128】
抗うつ治療の使用を必要とする、うつ病の病歴を有するHCV感染者には、自殺未遂の有無にかかわらず、通常、抗ウイルス治療が提供されていない。そのような場合、患者が肝臓線維化の早い進行を発症する素因を有しないならば(すなわち、患者が遅い線維形成者であるならば)、患者は、治療を施すことなく定期的に追跡調査することが望ましい。
【0129】
加えて、肝臓線維化の早い進行を発症する個体の素因状態はまた、遺伝子カウンセリングにおいて使用することができ、それにより、その個体に、肝臓線維化および/または肝硬変の発症を防止および/または遅延するかもしれない推奨される指針が提供される。例えば、肝臓線維化の早い進行に対する素因を有するHCV感染者は、いかなるアルコール消費を避け、脂肪摂取を減らし、かつ、身体活動を増大させなければならない。
【0130】
CYP2D6の不良な代謝酵素形態(CYP2D64)が、肝臓線維化および/または肝硬変の早い進行を発症する増大した素因リスクに関連するので、そのアップレギュレーションが、肝臓線維化の早い進行を防止するために利用できることが理解される。
【0131】
従って、本発明の別の態様によれば、その必要性のある個体において肝臓線維化の早い進行を防止する方法が提供される。
【0132】
本明細書中で使用される用語「防止する」は、肝臓線維化の進行を回避すること、および/または、肝臓線維化の発症を遅らせることを示す。
【0133】
本明細書中で使用される表現「その必要性のある個体」は、肝臓線維化の早い進行を発症する可能性がある、本明細書中上記で記載されたような任意の個体を示す。表現「その必要性のある個体」はまた、肝臓線維化の早い進行に対する素因を有するとして本発明の教示に従って特定される個体を包含することが理解される。
【0134】
この方法は、個体の肝臓におけるCYP2D6の発現レベルおよび/または活性をアップレギュレーションすることができる薬剤を個体に投与し、それにより、個体における肝臓線維化の早い進行を防止することによって行われる。
【0135】
本明細書中で使用される用語「アップレギュレーションする」は、CYP2D6の発現および/または活性を増大させることを示す。
【0136】
CYP2D6のアップレギュレーションは、ゲノムレベル(すなわち、プロモーター、エンハンサー、調節エレメントを介する転写の活性化)で、転写物レベル(すなわち、正しいスプライシング、ポリアデニル化、翻訳の活性化)で、または、タンパク質レベル(すなわち、翻訳後修飾、基質との相互作用など)で行うことができる。
【0137】
下記は、CYP2D6の発現レベルおよび/または活性をアップレギュレーションすることができる薬剤の列挙である。
【0138】
CYP2D6の発現レベルをアップレギュレーションすることができる薬剤は、CYP2D6タンパク質の機能的部分を少なくとも発現するように設計および構築された外因性のポリヌクレオチド配列である場合がある。従って、そのような外因性のポリヌクレオチド配列は、様々な薬物(例えば、デブリソキン、スパルテイン、プロパフェノンおよびアミトリプチリンなど)を代謝することができるCYP2D6分子をコードするDNA配列またはRNA配列であり得る。
【0139】
本明細書中で使用される表現「機能的部分」は、酵素の機能的性質(例えば、基質と結合すること、または、基質を分解することなど)を示す、CYP2D6タンパク質の一部分(すなわち、ポリペプチド)を示す。本発明の好ましい実施形態によれば、CYP2D6の機能的部分は、配列番号4に示されるような(チトクロームP450の)アミノ酸58〜493(の領域)を含むポリペプチド配列である。好ましくは、CYP2D6の機能的部分は、配列番号4に示されるようなアミノ酸58〜497(より好ましくは、アミノ酸1〜497)を含むポリペプチド配列である。
【0140】
CYP2D6がヒトおよびウシ(Bos taurus)の供給源からクローン化されている。従って、CYP2D6についてのコード配列情報が、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/を介して利用可能なGenBankデータベースを含むいくつかのデータベースから入手可能である。
【0141】
外因性CYP2D6を哺乳動物細胞において発現させるために、CYP2D6をコードするポリヌクレオチド配列(GenBankアクセション番号NM_000106、配列番号5)が、好ましくは、哺乳動物細胞発現のために好適な核酸構築物に連結される。そのような核酸構築物には、ポリヌクレオチド配列の転写を構成的または誘導可能な様式で細胞において行わせるためのプロモーター配列が含まれる。
【0142】
本発明の核酸構築物ではまた、所望する活性(すなわち、薬物代謝)を示すCYP2D6ホモログが利用できることが理解される。そのようなホモログは、例えば、ギャップの重みが50であり、長さの重みが3であり、平均マッチは10であり、平均ミスマッチが−9である、SmithおよびWatermanのアルゴリズムを利用するWisconsin配列分析パッケージのBestFitソフトウエアを使用して決定されたとき、配列番号5に対する同一性が、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%であり得る。
【0143】
本発明との使用のために好適な構成的プロモーターは、ほとんどの環境的条件およびほとんどのタイプの細胞のもとで活性であるプロモーター配列である(例えば、サイトメガロウイルス(CMV)およびラウス肉腫ウイルス(RSV)など)。本発明との使用のために好適な誘導可能なプロモーターには、例えば、テトラサイクリン誘導可能なプロモーター(Zabala M他、Cancer Res.2004、64(8):2799〜804)が含まれる。CYP2D6をコードするポリヌクレオチドの発現を行わせる応答性プロモーターと、新規なリガンド結合部位を含有するリガンド誘導可能なキメラな転写因子とを含む二重システムもまた、CYP2D6タンパク質を肝臓細胞において発現させるために使用できることが理解される(さらなる詳細については、Zerby D他、Hum Gene Ther.2003、14:749〜61を参照のこと)。
【0144】
本発明の核酸構築物(これはまた、本明細書中では「発現ベクター」として示される)には、このベクターを、原核生物、真核生物、または、好ましいことではあるが、(例えば、シャトルベクターでのように)両者における複製および組み込みのために好適にするさらなる配列が含まれる。加えて、典型的なクローニングベクターはまた、転写開始配列および翻訳開始配列、転写ターミネーターおよび翻訳ターミネーター、ならびにポリアデニル化シグナルを含有する場合がある。
【0145】
真核生物プロモーターは、典型的には、2つのタイプの認識配列(TATAボックスおよび上流側プロモーターエレメント)を含有する。TATAボックスは転写開始部位の25塩基対〜30塩基対上流側に位置し、RNA合成を開始することをRNAポリメラーゼに命令することに関与すると考えられる。もう一方の上流側プロモーターエレメントは、転写が開始される速度を決定する。
【0146】
エンハンサーエレメントは、連結された同族プロモーターまたは異種プロモーターから転写を1000倍まで刺激することができる。エンハンサーは、転写開始部位の下流または上流に置かれたときに活性である。ウイルスに由来する多くのエンハンサーエレメントは広い宿主範囲を有し、様々な組織において活性である。例えば、SV40の初期遺伝子エンハンサーは多くの細胞タイプに対して好適である。本発明のために好適である他のエンハンサー/プロモーター組合せには、ポリオーマウイルス、ヒトまたはマウスのサイトメガロウイルス(CMV)、様々なレトロウイルス(例えば、マウス白血病ウイルス、マウス肉腫ウイルスまたはラウス肉腫ウイルスおよびHIVなど)から得られる長末端反復に由来するエンハンサー/プロモーター組合せが含まれる。Enhancers and Eukaryotic Expression(Cold Spring Harbor Press、Cold Spring Harbor、N.Y.1983)を参照のこと(これは参考として本明細書中に組み込まれる)。
【0147】
発現ベクターの構築において、プロモーターは、好ましくは、プロモーターがその天然の環境において転写開始部位から配置されるのとほぼ同じ距離で異種の転写開始部位から配置される。しかしながら、当該分野では知られているように、この距離におけるある程度の変化が、プロモーター機能の喪失を伴うことなく受け入れられ得る。
【0148】
ポリアデニル化配列もまた、CYP2D6のmRNAの翻訳効率を増大させるために発現ベクターに加えることができる。2つの異なった配列エレメントが正確かつ効率的なポリアデニル化のために要求される(ポリアデニル化部位の下流側に位置するGUリッチ配列またはUリッチ配列、および、11ヌクレオチド〜30ヌクレオチド上流側に位置する6ヌクレオチドの高度に保存された配列(AAUAAA))。本発明のために好適である終結シグナルおよびポリアデニル化シグナルには、SV40に由来するそのようなシグナルが含まれる。
【0149】
既に記載されたエレメントに加えて、本発明の発現ベクターは典型的には、クローン化された核酸の発現レベルを増大させるために、または、組換えDNAを有する細胞の同定を容易にするために意図される他の特殊化したエレメントを含有する場合がある。例えば、数多くの動物ウイルスは、許容性細胞タイプにおけるウイルスゲノムの染色体外での複製を促進させるDNA配列を含有する。これらのウイルスレプリコンを有するプラスミドは、適切な因子が、プラスミドで運ばれる遺伝子、または、宿主細胞のゲノムとともに運ばれる遺伝子のいずれかによって提供される限り、エピソーム的に複製する。
【0150】
ベクターは真核生物レプリコンを含んでもよく、または、真核生物レプリコンを含まなくてもよい。真核生物レプリコンが存在するならば、ベクターは、適切な選択マーカーを使用して真核生物において増幅可能である。ベクターが真核生物レプリコンを含まないならば、エピソーム増幅は不可能である。その代わり、組換えDNAは、操作された細胞のゲノムに一体化し、操作された細胞において、プロモーターが所望の核酸の発現を行わせる。
【0151】
本発明の発現ベクターはさらに、例えば、1個のmRNAからの数個のタンパク質の翻訳を可能にするさらなるポリヌクレオチド配列(例えば、内部リボソーム進入部位(IRES)など)、および、プロモーターキメラなポリペプチドのゲノム組み込みのための配列を含むことができる。
【0152】
哺乳動物発現ベクターの例には、pcDNA3、pcDNA3.1(+/−)、pGL3、pZeoSV2(+/−)、pSecTag2、pDisplay、pEF/myc/cyto、pCMV/myc/cyto、pCR3.1、pSinRep5、DH26S、DHBB、pNMT1、pNMT41、pNMT81(これらはInvitrogenから入手可能である)、pCI(これはPromegaから入手可能である)、pMbac、pPbac、pBK−RSVおよびpBK−CMV(これらはStrategeneから入手可能である)、pTRES(これはClontechから入手可能である)、ならびに、それらの誘導体が含まれるが、これらに限定されない。
【0153】
真核生物ウイルス(例えば、レトロウイルスなど)に由来する調節エレメントを含有する発現ベクターもまた使用することができる。SV40ベクターには、pSVT7およびpMT2が含まれる。ウシ乳頭腫ウイルスに由来するベクターには、pBV−1MTHAが含まれ、エプスタイン・バールウイルスに由来するベクターには、pHEBOおよびp2O5が含まれる。他の例示的なベクターには、pMSG、pAV009/A、pMTO10/A、pMAMneo−5、バキュロウイルスpDSVE、および、SV−40初期プロモーター、SV−40後期プロモーター、メタロチオネインプロモーター、マウス乳腫瘍ウイルスプロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、ポリヘドリンプロモーター、または、真核生物細胞における発現のために効果的であることが示されている他のプロモーターの命令のもとでのタンパク質の発現を可能にする任意の他のベクターが含まれる。
【0154】
上記で記載されたように、ウイルスは、多くの場合には宿主の防御機構から逃れるように進化してきた非常に特殊化された感染性媒介因子である。典型的には、ウイルスは特定の細胞タイプにおいて感染し、増殖する。ウイルスベクターの標的化特異性では、その天然の特異性が、所定の細胞タイプを特異的に標的化し、それにより、組換え遺伝子を感染細胞に導入するために利用される。従って、本発明によって使用されるベクターのタイプは、形質転換された細胞タイプに依存する。形質転換された細胞タイプに従って好適なベクターを選択することができることは十分に当業者の能力の範囲内であり、そのため、選択の検討の一般的な記述は本明細書中には提供されない。例えば、肝臓細胞を、Zerby D他、Hum Gene Ther、2003、14(8):749〜61に記載されるようなヒト低毒性(gutless)アデノウイルスベクターシステムを使用して標的化することができる。
【0155】
組換えウイルスベクターは、様々な利点(例えば、横方向感染および標的化特異性など)を提供するので、CYP2D6のインビボ発現のために有用である。横方向感染は、例えば、レトロウイルスの生活環において固有のものであり、出芽し、周りの細胞に感染する多くの子孫ビリオンを1個の感染細胞が産生するプロセスである。その結果は、最初のウイルス粒子によってそのほとんどが最初に感染していなかった広い面積が素早く感染することである。このことは、感染性因子が娘子孫を介してのみ広がるだけである垂直型の感染とは対照的である。横方向に広がることができないウイルスベクターもまた作製することができる。この特徴は、所望する目的が、指定された遺伝子を局在化した多数の標的化された細胞のみに導入することであるならば、有用であり得る。
【0156】
様々な方法を、本発明の発現ベクターを幹細胞に導入するために使用することができる。そのような方法が、一般には、Sambrook他、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Springs Harbor Laboratory、New York(1989、1992)Ausubel他、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley and Sons、Baltimore、Md.(1989);Chang他、Somatic Gene Therapy、CRC Press、Ann Arbor、Mich.(1995);Vega他、Gene Targeting、CRC Press、Ann Arbor Mich.(1995);Vectors:A Survey of Molecular Cloning Vectors and Their Uses、Butterworths、Boston Mass.(1988);Gilboa他[Biotechniques 4(6):504〜512、1986]に記載され、そのような方法には、例えば、組換えウイルスベクターを用いた安定的トランスフェクションまたは一過性トランスフェクション、リポフェクション、エレクトロポレーションおよび感染が含まれる。加えて、陽性−陰性の選択法については米国特許第5464764号および同第5487992号を参照のこと。
【0157】
ウイルス感染による核酸の導入は、より大きなトランスフェクション効率をウイルスの感染的性質のために得ることができるので、リポフェクションおよびエレクトロポレーションなどの他の方法を上回る利点をいくつか提供する。
【0158】
例えば、TGF−β1遺伝子のアンチセンス配列をヒトCMVプロモーターの制御下に含有する組換えE1欠失アデノウイルスベクターは、胆管結紮ラットにおいて肝臓線維化を防止することが示された(Arias,M.他、2003、BMC Gastroenterol.3:29)。
【0159】
CYP2D6のアップレギュレーションはまた、CYP2D6発現細胞を個体の肝臓に投与することによって行われ得ることが理解される。
【0160】
CYP2D6発現細胞は、その個体に由来し、本明細書中上記で記載されたようにCYP2D6を発現するために設計されたポリヌクレオチドを含有する発現ベクターによりエクスビボでトランスフェクションされる任意の好適な細胞(例えば、肝細胞および骨髄細胞など)が可能である。
【0161】
本発明のCYP2D6発現細胞の投与は、任意の好適な経路(例えば、静脈内、門脈内、腹腔内、肝臓内、胃腸管内、脾臓内、任意の他の器官の被膜下など)を使用して行うことができる。現時点で好ましい実施形態によれば、本発明のCYP2D6発現細胞は、静脈内投与、肝臓内投与、胃腸管内投与および/または腹腔内投与を使用して個体に導入される。
【0162】
本発明のCYP2D6発現細胞は、自家供給源(例えば、自己の骨髄細胞または肝細胞など)または同種供給源(例えば、非自家供給源に由来する骨髄細胞または肝細胞など)のいずれかに由来し得る。非自家細胞は、身体に投与されたとき、免疫反応を誘導する可能性があるので、いくつかの方法が、非自家細胞の拒絶の可能性を低下させるために開発されている。これらには、受容者の免疫系を抑制すること、あるいは、非自家の細胞または組織を移植前に免疫隔離性の半透過性膜でカプセル化することのいずれかが含まれる。
【0163】
カプセル化技術は一般に、マイクロカプセル化(これは小さい球状ビヒクルを伴う)およびマクロカプセル化(これはより大きい平らなシート膜および中空線維膜を伴う)に分類される(Uludag,H.他、哺乳動物細胞カプセル化技術、Adv Drug Deliv Rev、2000、42:29〜64)。
【0164】
マイクロカプセルを調製する様々な方法が当該分野では知られており、これらには、例えば、Lu MZ他(アルギン酸塩およびα−フェノキシシンナミリデン−アセチル化ポリ(アリルアミン)を用いた細胞カプセル化、Biotechnol Bioeng、2000、70:479〜83);Chang TMおよびPrakash S(酵素、細胞および遺伝子操作微生物のマイクロカプセル化法、Mol Biotechnol、2001、17:249〜60);Lu MZ他(光感受性ポリ(アリルアミン α−シアノシンナミリデンアセタート)を使用する新規な細胞カプセル化方法、J Microencapsul、2000、17:245〜51)によって開示される方法が含まれる。
【0165】
例えば、マイクロカプセルが、修飾コラーゲンを、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEMA)、メタクリル酸(MAA)およびメタクリル酸メチル(MMA)のターポリマー外皮と複合体化し、これにより、2μm〜5μmのカプセル厚さを生じさせることによって調製される。そのようなマイクロカプセルはさらに、負荷電の滑らかな表面を与えるために、また、血漿タンパク質の吸収を最小限に抑えるために、さらなる2μm〜5μmのターポリマー外皮でカプセル化することができる(Chia,S.M.他、細胞カプセル化のための多層マイクロカプセル、Biomaterials、2002、23:849〜56)。
【0166】
他のマイクロカプセルがアルギン酸塩(海洋多糖)(Sambanis,A.糖尿病治療におけるカプセル化小島、Diabetes Technol.Ther.2003、5:665〜8)またはその誘導体に基づく。例えば、マイクロカプセルを、ポリアニオンのアルギン酸ナトリウムおよび硫酸セルロースナトリウムと、ポリカチオンのポリ(メチレン−co−グアニジン)塩酸塩との、塩化カルシウムの存在下での多電解質複合体化によって調製することができる。
【0167】
より小さいカプセルが使用されるとき、細胞マイクロカプセル化が改善されることが理解される。例えば、カプセルサイズが1mmから400μmに低下したとき、カプセル化細胞の品質管理、機械的安定性、拡散特性およびインビトロ活性が改善された(Canaple L.他、サイズ制御による細胞カプセル化の改善、J Biomater Sci Polym Ed.2002、13:783〜96)。さらに、7nmもの小さい十分に制御された細孔サイズ、用途に合わせて調製された表面化学性、および、的確な微細構造を有するナノ多孔性のバイオカプセルは、細胞のための微小環境を免疫隔離することに成功したことが見出された(Williams D.小さいことは美しい:医療デバイスにおけるマイクロ粒子技術およびナノ粒子技術、Med Device Technol.1999、10:6〜9;Desai,T.A.膵臓細胞カプセル化のための微細製造技術、Expert Opin Biol Ther.2002、2:633〜46)。
【0168】
肝臓におけるCYP2D6発現をアップレギュレーションすることができる薬剤は、CYP2D6をコードする内因性のDNAまたはmRNAの肝臓における転写および/または翻訳を増大させることができる任意の化合物である場合がある。
【0169】
肝臓におけるCYP2D6活性をアップレギュレーションすることができる薬剤は、CYP2D6の(本明細書中上記で記載されたような)機能的部分を少なくとも含む外因性のポリペプチドである場合がある。本発明の好ましい実施形態によれば、そのようなポリペプチドは、初期設定済みパラメーターを使用するNational Center of Biotechnology Information(NCBI)のBlastPソフトウエアを使用して決定されたとき、配列番号4によって示されるポリペプチドに対する同一性が、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、より好ましくは、少なくとも88%、少なくとも90%、より好ましくは、少なくとも95%、最も好ましくは、少なくとも99%である。
【0170】
現時点で好ましい実施形態によれば、CYP2D6ポリペプチドは配列番号4によって示される。
【0171】
CYP2D6の発現レベルおよび/または活性をアップレギュレーションすることができる薬剤はまた、慢性的HCV、肝毒性ウイルス感染(例えば、B型肝炎、D型肝炎)、肝臓ガン、肝毒性のアルコールまたは薬物、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)、自己免疫疾患(例えば、自己免疫肝炎(AIH)、原発性胆汁性肝硬変(PBC)および原発性硬化性胆管炎(PSC)など)、代謝性肝臓疾患(例えば、ヘモクロマートシス、ウイルソン病およびアルファ1アンチトリプシンなど)、ならびに、肝臓の二次的関与による疾患(例えば、セリアック病またはアミロイドーシスなど)などの疾患に罹患している個体において肝硬変を防止することにおいて使用できることが理解される。
【0172】
本明細書中上記で記載されたアップレギュレーション薬剤、または、CYP2D6をコードする発現ベクターはそれぞれが、個々に、または、生理学的に許容され得るキャリアもまた含む医薬組成物の一部として個体に投与され得る。医薬組成物の目的は、生物に対する有効成分の投与を容易にすることである。
【0173】
本明細書中で使用される「医薬組成物」は、本明細書中に記載される有効成分の1つまたは複数と、他の化学的成分(例えば、生理学的に好適なキャリアおよび賦形剤)との調製物を示す。医薬組成物の目的は、生物に対する化合物の投与を容易にすることである。
【0174】
本明細書中において、用語「有効成分(活性成分)」は、生物学的効果を説明することができるアップレギュレーション薬剤またはCYP2D6をコードする発現ベクターを示す。
【0175】
以降、表現「生理学的に許容され得るキャリア」および表現「医薬的に許容され得るキャリア」は交換可能に使用することができ、生物に対する著しい刺激を生じさせず、かつ、投与された調合物の生物学的活性および生物学的性質を阻害しないキャリアまたは希釈剤を示す。佐剤がこれらの表現に含まれる。
【0176】
本明細書中において、用語「賦形剤」は、有効成分の投与をさらに容易にするために医薬組成物に添加される不活性な物質を示す。賦形剤の非限定的な例には、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖およびタイプのデンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油およびポリエチレングリコールが含まれる。
【0177】
薬物の配合および投与のための様々な技術が“Remington’s Pharmaceutical Sciences”(Mack Publishing Co.、Easton、PA、最新版)(これは参考として本明細書中に組み込まれる)に見出され得る。
【0178】
好適な投与経路には、例えば、経口送達、直腸送達、経粘膜送達(特に経鼻送達)、腸管送達または非経口送達(これには、筋肉内注射、皮下注射および髄内注射、ならびに、クモ膜下注射、直接的な脳室内注射、静脈内注射、腹腔内注射、鼻内注射または眼内注射が含まれる)が含まれ得る。
【0179】
あるいは、例えば患者の組織領域中への医薬組成物の直接注射によって医薬組成物を系統的な方法によりむしろ局所的な方法で投与してもよい。
【0180】
本発明の医薬組成物は、この分野で十分に知られている様々なプロセスによって、例えば、混合、溶解、造粒、糖衣錠作製、研和、乳化、カプセル化、包括化または凍結乾燥の従来のプロセスによって製造することができる。
【0181】
本発明に従って使用するための医薬組成物は有効成分を医薬として使用可能な製剤にする加工を容易にする賦形剤及び補助剤を含む一つ以上の医薬的に許容され得るキャリアを使用して従来のように配合されてもよい。適切な配合は選択された投与経路に依存する。
【0182】
注射の場合、医薬組成物の活性成分は、水溶液において、好ましくは生理学的に適合し得る緩衝液(例えば、ハンクス溶液、リンゲル溶液、または生理学的な生理的食塩水緩衝液など)において配合することができる。
【0183】
経口投与の場合、医薬組成物は、活性な化合物を、この分野で十分に知られている薬学的に受容可能なキャリアと組み合わせることによって容易に配合することができる。そのようなキャリアにより、医薬組成物は、患者によって経口摂取される錠剤、ピル、糖衣錠、カプセル、液剤、ゲル、シロップ、スラリー剤、懸濁物などとして配合することが可能になる。経口使用される薬学的調製物は、錠剤または糖衣錠コアを得るために、固体の賦形剤を使用し、得られた混合物を場合により粉砕し、そして所望する場合には好適な補助剤を添加した後、顆粒の混合物を加工して作製することができる。好適な賦形剤は、具体的には、ラクトース、スクロース、マンニトールまたはソルビトールを含む糖などの充填剤;セルロース調製物、例えば、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ナトリウムカルボメチルセルロースなど;および/またはポリビニルピロリドン(PVP)などの生理学的に受容可能なポリマーである。所望する場合には、架橋型ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはその塩(アルギン酸ナトリウムなど)などの崩壊剤を加えることができる。
【0184】
糖衣錠コアには、好適なコーティングが施される。この目的のために、高濃度の糖溶液を使用することができ、この場合、糖溶液は、場合により、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコール、二酸化チタン、ラッカー溶液および好適な有機溶媒または溶媒混合物を含有し得る。色素または顔料が、活性な化合物の量を明らかにするために、または活性な化合物の量の種々の組合せを特徴づけるために、錠剤または糖衣錠コーティングに添加され得る。
【0185】
経口使用され得る医薬組成物には、ゼラチンから作製されたプッシュ・フィット型カプセル、ならびにゼラチンおよび可塑剤(グリセロールまたはソルビトールなど)から作製された軟密閉カプセルが含まれる。プッシュ・フィット型カプセルは、充填剤(ラクトースなど)、結合剤(デンプンなど)、滑剤(タルクまたはステアリン酸マグネシウムなど)および場合により安定化剤と混合された有効成分を含有し得る。軟カプセルでは、活性な化合物を好適な液体(脂肪油、流動パラフィンまたは液状のポリエチレングリコールなど)に溶解または懸濁させることができる。さらに、安定化剤を加えることができる。経口投与される配合物はすべて、選ばれた投与経路に好適な投薬形態でなければならない。
【0186】
口内投与の場合、組成物は、従来の様式で配合された錠剤またはトローチの形態を取ることができる。
【0187】
鼻腔吸入による投与の場合、本発明に従って使用される有効成分は、好適な噴射剤(例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタンまたは二酸化炭素)の使用により加圧パックまたはネブライザーからのエアロゾルスプレー提示物の形態で都合よく送達される。加圧されたエアロゾルの場合、投薬量単位は、計量された量を送達するためのバルブを提供することによって決定され得る。吸入器または吹き入れ器で使用される、例えば、ゼラチン製のカプセルおよびカートリッジで、化合物と好適な粉末基剤(ラクトースまたはデンプンなど)との粉末混合物を含有するカプセルおよびカートリッジを配合することができる。
【0188】
本明細書で記述される医薬組成物は非経口投与、例えばボーラス注射または連続点滴のために配合されることができる。注射のための配合は、単位用量形態(例えばアンプルまたは多用量コンテナ)で提供されることができ、これらには所望により保存剤が添加されている。組成物は懸濁物、溶液または油性もしくは水性ビヒクル中のエマルションであることができ、懸濁剤、安定化剤および/または分散剤の如き配合剤を含むことができる。
【0189】
非経口投与される医薬組成物には、水溶性形態における活性な調製物の水溶液が含まれる。さらに、活性な化合物の懸濁物を、適切なオイル状のまたは水ベースの注射用懸濁物として調製することができる。好適な親油性の溶媒またはビヒクルには、脂肪油(ゴマ油など)、または合成脂肪酸エステル(オレイン酸エチルなど)、トリグリセリドまたはリポソームが含まれる。水性の注射用懸濁物は、懸濁物の粘度を増大させる物質、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトールまたはデキストランなどを含有し得る。場合により、懸濁物はまた、高濃度の溶液の調製を可能にするために化合物の溶解性を増大させる好適な安定化剤または薬剤を含有し得る。
【0190】
あるいは、有効成分は、使用前に好適なビヒクル(例えば、滅菌されたパイロジェン非含有水)を用いて構成される粉末形態にする。
【0191】
本発明の医薬組成物はまた、例えば、カカオ脂または他のグリセリドなどの従来の座薬基剤を使用して、座薬または停留浣腸剤などの直腸用組成物に配合することができる。
【0192】
本発明に関連した使用のために好適な医薬組成物には、有効成分が、意図された目的を達成するために効果的な量で含有される組成物が含まれる。より具体的には、治療効果がある量は、処置されている対象の障害(例えば肝臓線維化および/または肝硬変の早い進行)の症状を防止、軽減または改善するために、あるいは、処置されている対象の生存を延ばすために効果的な有効成分(アップレギュレーション薬剤またはCYP2D6をコードする発現ベクター)の量を意味する。
【0193】
治療効果がある量の決定は、特にここに提供される詳細な開示の観点から十分に当業者の範囲内である。
【0194】
本発明の方法に使用される調製物に対して、治療的に有効な量又は用量は最初にインビトロ分析および細胞培養分析から分析されることができる。例えば、用量は動物モデルで配合され所望の濃度または力価が達成されることができる。かかる情報は人間に有用な用量をより正確に決定するために使用されることができる。
【0195】
本明細書中に記載される有効成分の毒性および治療効力は、インビトロ、細胞培養または実験動物における標準的な薬学的手法によって明らかにすることができる。これらのインビトロアッセイおよび細胞培養アッセイならびに動物研究から得られたデータは、ヒトへの使用のための投薬量範囲を定める際に使用することができる。投薬量は、用いられる投薬形態物および利用される投与経路に依存して変化し得る。正確な配合、投与経路および投薬量は、患者の状態を考慮して個々の医師によって選ぶことができる(例えば、Fingl他、1975、“The Pharmacological Basis of Therapeutics”(第1章、1頁)を参照のこと)。
【0196】
投薬量および間隔は、肝臓線維化および/または肝硬変の早い進行を防止するのに十分な活性成分の血漿レベル(最小有効濃度、MEC)を与えるために各個体について調整されることができる。MECは各々の調剤について異なるであろうが、インビトロデータから推定されることができる。MECを達成するのに必要な投薬量は個体の特性および投与経路に依存するであろう。検出アッセイは血漿濃度を決定するために使用されることができる。
【0197】
処置される状態の重篤度および応答性に依存して、投薬は単回投与または多回投与が可能であり、処置の経過が、数日から数週間まで、あるいは、治癒が達成されるまで、または、疾患状態の縮小が達成されるまで続く。
【0198】
投与される組成物の量は、当然のことではあるが、処置されている対象、苦痛の重篤度、投与様式、主治医の判断などに依存する。
【0199】
本発明の医薬組成物は、所望される場合には、活性成分を含有する一つ以上の単位投薬形態物を含有し得る、FDA承認キットなどのパックまたはディスペンサーデバイスで提供され得る。パックは、例えば、金属箔またはプラスチック箔を含むことができ、例えば、ブリスターパックなどである。パックまたはディスペンサーデバイスには、投与のための説明書が添付され得る。パックまたはディスペンサーにはまた、医薬品の製造、使用または販売を規制する政府当局により定められた形式で容器に付けられた通知が伴い得る。この場合、そのような通知は、組成物の形態またはヒトもしくは動物への投与の当局による承認を反映する。そのような通知は、例えば、処方薬物についての米国食品医薬品局により承認されたラベル書きであり得るか、または承認された製品添付文書であり得る。適合し得る医薬用キャリアに配合された本発明の調製物を含む組成物はまた、あたかもさらに詳しく上述されているように、適応状態の処置のために調製し、適切な容器に入れ、表示することができる。
【0200】
個体の細胞におけるCYP2D6のアップレギュレーションを評価する様々な方法が当該分野では知られており、これらには、免疫学的検出方法(本明細書中上記で記載されたような方法)、細胞化学的方法(例えば、in situ活性アッセイおよびインビトロ活性アッセイ)および分子的方法(例えば、ノーザンブロットハイブリダイゼーション、RT−PCR分析、RNAin situハイブリダイゼーション染色、in situRT−PCR染色など)が含まれる(Nuovo GJ他、Am J Surg Pathol、1993、17:683〜90;Komminoth P他、Pathol Res Pract、1994、190:1017〜25)。
【0201】
従って、本発明の教示は、慢性C型肝炎に罹患している個体において肝臓線維化および/または肝硬変の早い進行を防止するために使用することができる。例えば、CYP2D6のmRNA(配列番号5)をコードするポリヌクレオチド配列と、肝細胞における発現を可能にするための好適なプロモーター配列とを含む発現ベクター(例えば、ウイルスベクター)が、静脈内投与または肝臓内投与によって個体に導入される。肝臓におけるそのようなベクターの発現は、肝臓におけるCYP2D6の発現レベルおよび/または活性をアップレギュレーションすること、従って、肝臓線維化および/または肝硬変の早い進行を防止することが予想される。そのような発現ベクターの投薬量は、細胞培養実験および動物モデルを使用して修正しなければならない。治療の成功は、好ましくは、実質的にはどこか他のところ(Rodriguez CA他、2004、J Clin Pharmacol、44:276〜83)に記載されるように、個体をCYP2D6基質(例えば、デブリソキン)に供し、その代謝産物の血漿中レベルを治療前および治療後に測定することによって評価される。
【0202】
そのような治療がHCV感染直後(すなわち、肝臓線維化の何らかの徴候が現れる前)に用いられるならば、治療は個体における肝臓線維症の進行を防止し得ることが理解される。加えて、発現ベクターは、(形質導入された細胞系統に依存して)限られた寿命を示す体細胞に標的化されるので、そのような治療は、肝臓線維化、あるいは、肝臓線維化および/または肝硬変の早い進行を防止するために定期的に繰り返されることが予想される。
【0203】
前述で述べられるように、CYP2D6は、50を超える臨床的に重要な薬物の代謝に関与している。従って、CYP2D6の不良な代謝酵素形態(例えば、CYP2D64)の存在下では、これらの薬物分子の一部(すなわち、CYP2D6の標的、例えば、メトプロロール、プロパノロール、エンカイニド、コデイン、クロザピン、デクストロメトルファン、ハロペリドール、アミトリプチリン、イミプラミンおよびスパルテインなど)が個体の体内に蓄積することが予想され、肝臓線維化の促進の一因となり得る。
【0204】
どの薬物分子が肝臓線維化を促進し得るかを特定するためには、どの薬物の代謝率が、野生型形態と比較して、CYP2D6の不良な代謝酵素形態(例えば、CYP2D64)の存在下で低下するかを特定する必要がある。
【0205】
従って、本発明ではまた、薬物分子が、個体における肝臓線維化の早い進行の発症を誘導または促進することができるかを明らかにする方法が包含される。
【0206】
この方法は、CYP2D6およびCYP2D6の不良な代謝酵素変化体による薬物分子の代謝率を比較することによって行われ、この場合、CYP2D6ではなく、CYP2D6の不良な代謝酵素変化体による薬物分子の不良な代謝により、その薬物が個体における肝臓線維化の早い進行の発症を誘導または促進することができることが示される。
【0207】
本明細書中で使用される表現「CYP2D6の不良な代謝酵素変化体」は、特定の基質の不良な代謝活性を示す任意のCYP2D6変化体、または、そのようなCYP2D6変化体の機能的部分を少なくとも発現するポリヌクレオチドを示す。そのような変化体の非限定的な例には、CYP2D63、CYP2D64およびCYP2D66がある。好ましくは、本発明によって使用される、CYP2D6の不良な代謝酵素変化体はCYP2D64であるか、または、それを発現するポリヌクレオチドである。
【0208】
薬物代謝率は、薬物の代謝産物の蓄積を、例えば、細胞株(例えば、ヒトリンパ芽球様細胞株など)に由来するインビトロ発現システムのミクロソーム調製物を使用してインビトロで測定することによって検出することができる。これらのシステムにおいて、野生型CYP2D6またはその不良な代謝酵素変化体(例えば、CYP2D64)を候補の薬物分子および適切なインキュベーション緩衝液とともに加えることができ、薬物代謝率を検出することができる(例えば、Goto A他、2004、抗アレルギー薬オキサトミドの代謝に関与するヒトp450イソ型の同定および酵素活性に対するその阻害的作用、Biol.Pharm.Bull.27:684〜90を参照のこと)。
【0209】
加えて、薬物代謝率は、例えば、実質的には、Wojcikowski J他、2004(ヒトチトクロームP−450イソ酵素によるピペラジン型フェノチアジン系神経遮断薬ペラジンの代謝、Eur.Neuropsychopharmacol.14:199〜208)に記載されるように、ヒト肝臓ミクロソームを使用して、エクスビボで測定することができる。
【0210】
ヒト肝臓ミクロソームを調製する様々な方法が当該分野では知られており、これらには、例えば、Nelson他、2001(Drug Metab Dispos、29:319〜25)に記載される方法が含まれる。簡単に記載すると、肝臓生検から得られた肝臓組織の一片(約10g)を、はさみで細かく切り、さらに、25mlの氷冷した均質化緩衝液(0.125M 塩化カリウムおよび1.0mM EDTAを含有する0.1M リン酸カリウム緩衝液、pH7.4)においてTeflon−ガラスホモジナイザー(870rpm)の10ストローク(それぞれ15秒)を使用してホモジネートする。ホモジネートをサンプル重量の4体積(約40ml)に希釈し、Sorvall SA−600ローター(Sorvall、Newtonm、CT)を使用してSorvall RC−5Bにおいて12000rpmで20分間遠心分離する。上清を取り出し、ミトコンドリアのペレットを25mlの同じ緩衝液に再懸濁し、再び遠心分離する。上清を一緒にし、Sorvall T−1270ローターを使用してSorvall Ultra Pro80において138000rpmで60分間遠心分離する。上部の脂質層を除き、細胞質ゾル上清を集める。ミクロソームペレットを、3回の均質化ストローク、その後、138000rpmでの60分間遠心分離を使用して、0.125M KCl/0.1M Tris(pH7.4)に再懸濁する。得られたペレットは肝臓ミクロソームを含有する。薬物代謝を測定する前に、ミクロソームペレットを好適なインキュベーション緩衝液(例えば、5mM 塩化マグネシウムである0.15M Tris緩衝液、pH7.4)に再懸濁する。
【0211】
例えば、デブリソキン(CYP2D6の標的薬物分子)の代謝率は、下記のプロトコルを使用して測定することができる:0.15mg〜0.30mgのミクロソームタンパク質を、60分間、0.25mlの最終体積で、1mM [グアニジン−14C]デブリソキン(0.5μCi/チューブ)、1.0mM NADP、7.5mM DL−イソクエン酸、2U/mlのイソクエン酸デヒドロゲナーゼ、5mM MgSOおよび0.1M リン酸塩緩衝液(pH7.4)とインキュベーションする。薬物代謝反応を、0.02mlの70%(v/v)過塩素酸を使用して停止させ、上清を、HPLC分析を使用して分析する。クロマトグラフィーを、Supelcosil−5 LC−ABZの20mmx4mmのカラムによって保護されたSupelcosil−5 LC−ABZの150mmx4.6mmのカラムを用い、かつ、12%(v/v)のアセトニトリルおよび88%(v/v)の20mM 過塩素酸ナトリウム(pH2.5)からなる移動相を2ml/分の流速で用いて行う。HPLC溶出液の定量を、液体シンチレーション計数を使用して行う(Anthony B.R.他、2000、Drug Metabolism and Disposition、28:1202〜1209)。
【0212】
CYP2D6の2つの変化体による薬物の代謝率を比較するために、使用された肝臓ミクロソームは2名の異なる個体に由来しなければならなず、この場合、そのうちの一方がCYP2D6の野生型についてホモ接合であり、他方がCYP2D6の不良な代謝酵素形態(例えば、CYP2D64)についてホモ接合であることが理解される。
【0213】
従って、標的薬物分子の代謝率を、野生型CYP2D6と不良な代謝酵素変化体(例えば、CYP2D64)との間で(本明細書中上記で記載された方法のいずれかを使用して)比較することができる。CYP2D6の野生型形態を使用した場合ではなく、CYP2D6の不良な代謝酵素形態を使用したときに低下した代謝率を示す薬物分子が、肝臓線維化の早い進行を誘導および/または促進することができるとして特定される。これらの薬物がそのようなものとして認識されると、そのような薬物は、肝臓線維化を発症する危険性があるどの個体にも処方すべきではない。
【0214】
さらに本発明を実施に移しているとき、本発明者らは、さらなる遺伝子座におけるSNPもまた肝臓線維化の早い進行に関連することを発見している。表9、表10および表11においてさらに示され、また、下記の実施例の節の実施例2において記載されるように、配列番号18のヌクレオチド座標174におけるアデノシンヌクレオチド含有対立遺伝子(CYP3A51対立遺伝子)、配列番号17のヌクレオチド座標1772におけるチミジンヌクレオチド含有対立遺伝子(CYP2E1のT−RsaI対立遺伝子)、および/または、配列番号19のヌクレオチド座標55におけるシトシンヌクレオチド含有対立遺伝子(APO E4対立遺伝子)が、慢性hCV患者の遅い線維形成者群よりも、早い線維形成者群では非常に高頻度である。
【0215】
従って、本発明のさらなる態様によれば、個体が肝臓線維化の早い進行に対する素因を有するかどうかを明らかにする方法が提供される。この方法は、CYP3A5、CYP2E1およびAPO Eからなる群から選択される個体の遺伝子座、または、この遺伝子座と連鎖不平衡にある隣接遺伝子座における、少なくとも1つの早い進行の肝臓線維化関連遺伝子型のホモ接合型形態またはヘテロ接合型形態での存在または非存在を明らかにし、それにより、個体が肝臓線維化の早い進行に対する素因を有するかどうかを明らかにすることによって行われる。
【0216】
本明細書中で使用される表現「CYP3A5遺伝子座」は、チトクロームP450タイプ3A5(ファミリー3、サブファミリーA)をコードする遺伝子を包含し、第7染色体(7q21.1)に存在するヒトゲノム内の特定のDNA配列領域を示す。CYP3A5のゲノム配列は、GenBankアクセション番号AF355800(配列番号18)だけでなく、GenBankアクセション番号NG_000004のヌクレオチド座標253080〜284889によって示される核酸配列に含まれる。CYP3A5のmRNA配列がGenBankアクセション番号NM_000777.2によって示され、CYP3A5ポリペプチドのアミノ酸配列がGenBankアクセション番号NP_000768によって示される。
【0217】
好ましくは、CYP3A5遺伝子座における少なくとも1つの早い進行の肝臓線維化関連遺伝子型は、CYP3A51変化体、すなわち、配列番号18(GenBankアクセション番号AF355800)に示されるようなヌクレオチド座標174におけるアデノシンヌクレオチド含有対立遺伝子である。
【0218】
表現「隣接遺伝子座」は、CYP3A5遺伝子座に関連して本発明のこの態様に従って使用されるとき、CYP3A5遺伝子座の極近傍にあり、かつ、CYP3A5遺伝子座のCYP3A51/3のSNPと連鎖不平衡にある他のSNPを含むDNA配列(遺伝子または遺伝子間配列のいずれか)を記載することを示す。隣接遺伝子座に存在するが、CYP3A51多型とのその連鎖不平衡状態が未だ不明であるSNPもまた本発明とともに使用され得ることが理解される。そのようなSNPが、GenBankアクセション番号NG_000004に示されるゲノム配列において、好ましくは、GenBankアクセション番号NG_000004のヌクレオチド座標253080〜284889の間に、かつ/または、配列番号18によって示される核酸配列において見出され得る。
【0219】
本明細書中で使用される表現「CYP2E1遺伝子座」は、チトクロームP450(ファミリー2、サブファミリーE、ポリペプチド1)をコードする遺伝子を包含し、第10染色体(10q24.3−qter)に存在するヒトゲノム内の特定のDNA配列領域を示す。CYP2E1のゲノム配列は、GenBankアクセション番号J02843(配列番号18)だけでなく、GenBankアクセション番号NC_000010のヌクレオチド座標135229746〜135241501によって示される核酸配列に含まれる。CYP2E1のmRNA配列がGenBankアクセション番号NM_000773によって示され、CYP2E1ポリペプチドのアミノ酸配列がGenBankアクセション番号NP_000764によって示される。
【0220】
好ましくは、CYP2E1遺伝子座における少なくとも1つの早い進行の肝臓線維化関連遺伝子型は、配列番号17に示されるようなヌクレオチド座標1772におけるチミジンヌクレオチド含有対立遺伝子である。
【0221】
表現「隣接遺伝子座」は、CYP2E1遺伝子座に関連して本発明のこの態様に従って使用されるとき、CYP2E1遺伝子座の極近傍にあり、かつ、CYP2E1遺伝子座の(配列番号17に示されるようなヌクレオチド1772における)CYP2E1のT/CのSNPと連鎖不平衡にある他のSNPを含むDNA配列(遺伝子または遺伝子間配列のいずれか)を記載することを示す。隣接遺伝子座に存在するが、(配列番号17に示されるようなヌクレオチド1772における)CYP2E1/T対立遺伝子とのその連鎖不平衡状態が未だ不明であるSNPもまた本発明とともに使用され得ることが理解される。そのようなSNPが、GenBankアクセション番号NG_000010に示されるゲノム配列において、好ましくは、GenBankアクセション番号NG_000010のヌクレオチド座標135229746〜135241501の間に、かつ/または、配列番号17によって示される核酸配列において見出され得る。
【0222】
本明細書中で使用される表現「APO E遺伝子座」は、リポタンパク質Eをコードする遺伝子を包含し、第19染色体(19q13.2)に存在するヒトゲノム内の特定のDNA配列領域を示す。APO Eのゲノム配列は、GenBankアクセション番号NC_000019のヌクレオチド座標50100902〜50104489によって示される核酸配列に含まれる。APO EのmRNA配列がGenBankアクセション番号NM_000041によって示され、APO Eポリペプチドのアミノ酸配列がGenBankアクセション番号NP_000032によって示される。
【0223】
好ましくは、APO E遺伝子座における少なくとも1つの早い進行の肝臓線維化関連遺伝子型は、配列番号19に示されるようなヌクレオチド座標55におけるシトシンヌクレオチド含有対立遺伝子である。
【0224】
表現「隣接遺伝子座」は、APO E遺伝子座に関連して本発明のこの態様に従って使用されるとき、APO E遺伝子座の極近傍にあり、かつ、APO E遺伝子座のAPO EのE4/E3のSMP(配列番号19に示されるようなヌクレオチド55におけるC/TのSNP)と連鎖不平衡にある他のSNPを含むDNA配列(遺伝子または遺伝子間配列のいずれか)を記載することを示す。隣接遺伝子座に存在するが、APO E4対立遺伝子(配列番号19のヌクレオチド55におけるC対立遺伝子)とのその連鎖不平衡状態が未だ不明であるSNPもまた本発明とともに使用され得ることが理解される。そのようなSNPが、GenBankアクセション番号NG_000019に示されるゲノム配列において、好ましくは、GenBankアクセション番号NG_000019のヌクレオチド座標50100902〜50104489の間に見出され得る。
【0225】
上記の遺伝子型、例えば、CYP3A51対立遺伝子(配列番号18のヌクレオチド座標174においてA)、CYP2E1のT対立遺伝子(配列番号17のヌクレオチド1772においてT)、APO E4対立遺伝子(配列番号19のヌクレオチド座標55においてC)、および/または、そのようなSNPと連鎖不平衡にあるSNPの遺伝子型を、本明細書中上記で記載されたSNP検出方法のいずれかによって検出することができ、従って、肝臓線維化の早い進行に対する個体の素因を明らかにするために使用することができる。
【0226】
本明細書中で使用される用語「約」は±10%を示す。
【0227】
本発明の追加の目的、利点及び新規な特徴は、下記実施例を考察すれば、当業技術者には明らかになるであろう。なおこれら実施例は本発明を限定するものではない。さらに、先に詳述されかつ本願の特許請求の範囲の項に特許請求されている本発明の各種実施態様と側面は各々、下記実施例の実験によって支持されている。
【実施例】
【0228】
上記説明とともに、以下の実施例を参照して本発明を例示する。なおこれら実施例によって本発明は限定されない。
【0229】
本願で使用される用語と、本発明で利用される実験方法には、分子生化学、微生物学及び組み換えDNAの技法が広く含まれている。これらの技法は文献に詳細に説明されている[例えば以下の諸文献を参照されたい。「Molecular Cloning:A laboratory Manual」Sambrookら1989年;Ausubel, R.M.編1994年「Current Protocols in Molecular Biology」I〜III巻;Ausubelら著1989年「Current Protocols in Molecular Biology」John Wiley and Sons,米国メリーランド州バルチモア;Perbal著「A Practical Guide to Molecular Cloning」John Wiley & Sons,米国ニューヨーク1988年;Watsonら、「Recombinant DNA」Scientific American Books、米国ニューヨーク;Birrenら編「Genome Analysis:A Laboratory Manual Series」1〜4巻、Cold Spring Harbor Laboratory Press、米国ニューヨーク1998年;米国特許の4666828号、4683202号、4801531号、5192659号及び5272057号に記載される方法;Cellis, J.E.編「Cell Biology:A Laboratory Handbook」I〜III巻1994年;「Culture of Animal Cell−A Manual of Bosic Techique」Freshney著、Wiley−Liss,N.Y.(1994)、第3版;Coligan, J.E.編「Current Protocols in Immunology」I〜III巻1994年;Stitesら編「Basic and Clinical Immunology」(第8版)、Appleton & Lange、米国コネティカット州ノーウォーク1994年;MishellとShiigi編「Selected Methods in Cellular Immunology」、W.H. Freeman and Co.、米国ニューヨーク1980年;また利用可能な免疫検定法は、例えば以下の特許と科学文献に広範囲にわたって記載されている。米国特許の3791932号、3839153号、3850752号、3850578号、3853987号、3867517号、3879262号、3901654号、3935074号、3984533号、3996345号、4034074号、4098876号、4879219号、5011771号及び5281521号;Gait,M.J.編「Oligonucleotide Synthesis」1984年;Hames, B.D.及びHiggins S.J.編「Nucleic Acid Hybridization」1985年;Hames,B.D.及びHiggins S.J.編「Transcription and Translation」1984年;Freshney, R.I.編「Animal Cell Culture」1986年;「Immobilized Cells and Enzymes」IRL Press 1986年;Perbal, B.著「A Practical Guide to Molecular Cloning」1984年及び「Methods in Enzymology」1〜317巻、Academic Press;「PCR Protocols:A Guide To Methods And Applications」、Academic Press、米国カリフォルニア州サンディエゴ1990年;Marshakら、「Strategies for Protein Purification and Characterization−A Laboratory Course Manual」、CSHL Press、1996年;Approaches to Gene Mapping in Complex Human Diseases Jonathan L.HainesおよびMargaret A.Pericak−Vance編、Wiley−Liss(1998);Genentic Dissection of Complex Traits D.C.RaoおよびMichael A.Province編、Academic Press(1999);Introduction to Quantitative Genetics D.S.FalconerおよびTrudy F.C.Mackay, Addison Wesley Longman Limited(1996);なおこれらの文献類は、あたかも本願に完全に記載されているように援用するものである]。その外の一般的な文献は、本明細書を通じて提供される。本明細書に記載の方法は当業技術界で周知であると考えられ、読者の便宜のために提供される。本明細書に含まれるすべての情報は本願に援用するものである。
【0230】
(実施例1)
CYP2D64(不良な代謝酵素)はHCV患者における肝臓線維化の早い進行に関連する
【0231】
末期肝臓疾患はC型肝炎ウイルス保有者の15%〜20%に影響を及ぼす。進んだ線維化進行速度および末期肝硬変に至る機構は未だ明らかにされてない。CYP2D6の不良な代謝酵素対立遺伝子(CYP2D64)により、線維化進行速度が予測できるかどうかを調べるために、本発明者らは、下記のようにCYP2D64の対立遺伝子頻度を「遅い」線維形成者と「早い」線維形成者との間で比較している。
【0232】
材料および方法
研究症例者。慢性のC型肝炎ウイルス(HCV)患者を、2003年8月〜2004年1月の間、Department of Gastroenterology(Tel Aviv Sourasky Medical Center、イスラエル)の肝臓部門の外来診療室から募集した。参加基準は、白人起源であること、および、PCRを使用してHCV RNAについて検査陽性であることであった。患者を人口学的詳細(性別、出生日、年齢)および臨床的データ(ウイルス暴露年齢、感染様式、アルコール消費、ウイルスの遺伝子型、以前の治療、および肝臓移植を含む)について面接した。臨床記録、研究室研究、画像化研究および肝臓の組織病理学を再検討した。除外基準は、HCVに加えての肝臓疾患(例えば、自己免疫肝炎、アルコール性肝臓疾患、B型肝炎またはHIVについての陽性の血清学)の存在であった。1日あたり30grを超えるアルコールを消費する患者も除外された。19名の健康な白人新生児の血液サンプルをコントロールとして使用した。研究は、施設倫理委員会、および、保健大臣付属の国家遺伝学委員会によって承認された。
【0233】
肝硬変の決定。肝硬変の存在は肝臓生検の組織病理学評価および非生検患者での臨床診断に基づいていた。
【0234】
肝臓生検の組織病理学。36名の患者から得られた肝臓生検物が同じ組織病理学者によって調べられた。悪性度および段階がBattsおよびLudwigのシステム(B&L)に従って評価され、1−門脈線維化;2−門脈周囲の線維化;3−中隔の線維化;4−肝硬変として分類された。
【0235】
非生検患者における肝硬変の臨床診断。肝硬変の臨床診断は、門脈高圧症の徴候、ならびに、研究室所見および適切な放射線学的所見に基づいていた。
【0236】
「早い」線維形成者および「遅い」線維形成者の定義。「早い」線維形成者対「遅い」線維形成者をPoynardの線維化進行モデルに従って定義した(Poynard,T.他、2001、慢性C型肝炎患者における肝臓線維化進行の速度および危険性因子、J.Hepatol.34:730〜9)。それぞれの場合において、感染期間の継続期間を最初の肝臓生検までの暴露日から推定した。モデル曲線によって予測されるように疾患が進行した患者を「遅い」線維形成者として分類した。対照的に、疾患が予測よりも早く進行した患者を「早い」線維形成者として分類した。肝臓生検が行われなかった場合には、感染の継続期間を、暴露日と、臨床診断が行われた日との間の期間として決定した。生検が行われず、かつ、門脈高圧症の証拠がなく、しかし、患者が、モデルに従って肝硬変に達するように十分に長い間、感染している場合、その患者は含められ、「遅い」線維形成者として分類された。暴露日が不明である45歳未満の肝硬変患者は、たとえ、出生時に感染したとしても、45歳以前に、モデルに従って線維化に達することは予想されなかったので、「早い」線維形成者と見なした。
【0237】
CYP2D6のアッセイ。ゲノムDNAを塩析法(Miller S.A.他、1988、Nucleic Acid Res.16:1215)によって末梢血から抽出した。チトクロームP450の2D64変異(配列番号6(GenBankアクセション番号M33388)に示されるような3465位でのG−>Aの置換)の存在を、実質的にはどこか他のところ(Bjerke,J.他、2001、LightCyclerを使用する蛍光ハイブリダイゼーションプローブを用いたチトクロームP450の2D64変異の遺伝子型決定、“Rapid Cycle Real−Time PCR”、Methods and Aplications;Springer Verlaog)に記載されるように、CYP2D64フォワードPCRプライマー(配列番号2)およびCYP2D64リバースPCRプライマー(配列番号3)ならびにLightCycler(商標)のアンカープローブ(配列番号7)および変異プローブ(配列番号8)を使用して検出した(本明細書中下記の表1を参照のこと)。
【表1】

【0238】
統計学的分析。SPSS(バージョン11)統計学アプリケーションをデータ管理および統計学的分析のために用いた。「早い」線維形成者群および「遅い」線維形成者群のカテゴリーデータについての速度および割合を、χ検定を使用して比較し、連続データについての平均値および標準誤差を、t検定を使用して比較し、オッズ比を、95パーセントの信頼区間によりロジスティック回帰モデルを使用して推定した。逆ロジスティック回帰を用いて、年齢、性別、暴露時年齢、疾患継続期間、および、CYP2D64の保因者状況と、早い線維化の可能性との関係性を調べた。
【0239】
実験結果
線維化の進行はHCV感染の年齢および継続期間に依存する。線維化進行に対する感染年齢の影響を明らかにするために、線維化進行(これは、組織病理学を使用して決定される)の確率を、2313名のHCV患者のデータを使用して感染年齢に対してプロットした。図1に示されるように、HCVに20歳未満の年齢で感染した患者は感染後40年以内に肝硬変を発症しなかった。他方で、20歳代または30歳代でHCVに感染した患者は感染後35年以内に肝硬変に進行した(線維化の速度がこの群では感染後30年以降で急激に増大した)。加えて、40歳代でHCVに感染した患者は感染後20年以内で肝硬変を発症した。後者の群では、線維化の速度が感染後10年以降で非常に急になった。最後に、50歳を超える年齢でHCVに感染した患者は最も有害な経過を有し、感染後15年以内で肝硬変を示した。従って、これらの結果は、線維化の進行が年齢および感染からの継続期間に依存することを明らかにしている。
【0240】
HCV患者を「早い」線維形成者および「遅い」線維形成者として分類した。50名のHCV白人患者が研究に含まれた。患者の人口学的データのまとめを本明細書中下記の表2に示す。50名の患者のうち、33名の患者が「早い」線維形成者として分類され、17名が「遅い」線維形成者として分類された。「早い」線維形成者における7名の患者は肝臓生検を受けなかったが、臨床診断に基づいて肝硬変を有するとして診断された。「遅い群」における6名の患者は肝臓生検を受けなかった。そのうちの1名が臨床的および画像化の証拠に基づいて肝硬変の診断を有した。残る5名の患者は肝硬変の証拠がなかった(臨床的、画像的または研究室的に)。それらの患者は、モデルに従って評価のときまでに肝硬変に達することが予想されたので、「遅い」線維形成者として分類された。45歳未満である6名の肝硬変患者は、暴露事象、従って、暴露継続期間を思い出すことができなかったので、「早い」線維形成者として分類された。まとめると、「早い」線維形成者群における患者はより若く、かつ、感染継続期間がより短かった。しかしながら、暴露年齢はこれら2つの群の間で著しく異なっていなかった。
【表2】

【0241】
チトクロームP450−2D6のCYP2D64対立遺伝子は肝硬変の進行に関連する。P450−2D64変異が肝硬変の早い進行に関連するかどうかを明らかにするために、CYP2D64対立遺伝子の存在を、「早い」線維形成者および「遅い」線維形成者から得られたDNA、ならびに、健康な新生児コントロールから得られたDNAにおいて明らかにした。本明細書中下記の表3に示されるように、コントロール群におけるCYP2D64対立遺伝子の存在率は10.5%であり、「遅い」群におけるその存在率(14.7%)との有意な統計学的差はなかった。対照的に、「早い」群におけるCYP2D64対立遺伝子の存在率は著しくより大きく、37.8%であった(P値=0.0166)。
【表3】

【0242】
加えて、ロジスティック回帰分析では、CYP2D64保因者(すなわち、ヘテロ接合個体またはホモ接合個体)の頻度が、「早い」線維形成者群(57.6%)では「遅い」線維形成者群(23.6%)よりも著しく高いことが明らかにされた(P値=0.022、本明細書中上記の表3)。加えて、CYP2D64保因者状況のオッズ比が11.7であった(C.I.95%、信頼区間1.4〜95.27、本明細書中下記の表4)。
【0243】
対照的に、感染継続期間は早い線維化に対して逆の関係を有した(本明細書中下記の表4)。他方で、より若い暴露年齢、性別および年齢は、促進された線維化速度との著しい関連性はなかった(示さず)。
【表4】

【0244】
従って、これらの結果は、CYP2D64変異を有するHCV患者は、肝硬変に早く進行する危険性が増大していることを明らかにしている。
【0245】
このように、本発明者らは、CYP2D6遺伝子における遺伝子型がHCV患者における線維化進行速度を有意に予測するものであることを初めて発見している。
【0246】
分析および考察。HCV感染の治療における著しい進歩がこの10年間に生じており、治療可能な患者の集団が拡大している。軽度の疾患(無症状、生検での最小限の線維化、若年での感染)を有する患者は遅進性の経過をたどると従来的には見なされていた。その後は、治療の重篤な副作用に照らして、生活の質が重要であり、また、費用有効性が発生し、治療に対するこのような患者の適格性が依然として議論されている(Heathcote J、慢性C型肝炎患者のための抗ウイルス治療、Semin.Liver Dis.2000、20:185〜99)。患者の一部が、肝硬変への迅速な進行を伴う有害経過を有すること[Poynard、2001(上掲)]を知ることにより、このような患者を特定し、かつ、感染の経過の早期に治療を開始することは非常に重要である。
【0247】
本発明の結果は、CYP2D64(不良な代謝酵素の遺伝子型)が、促進された線維化速度と著しく関連するという証拠を提供している。この対立遺伝子の存在率は、「早い線維形成者」の方が「遅い線維形成者」の場合よりも著しく大きかった。しかしながら、遅い群およびコントロールにおけるこの対立遺伝子の存在率には著しい差がなかった。その上、ロジスティック回帰分析では、CYP2D64対立遺伝子の保因者状況は、肝硬変への迅速な進行について、より大きな危険性を有することが明らかにされた。
【0248】
感染継続期間および線維化段階に関する「早い」群および「遅い」群の間での著しい差(本明細書中上記の表2)により、「早い」および「遅い」と分類することの方法論が有効であることが確認された。これに関して、肝硬変への進行についての感染のメジアン推定継続期間が30年であることが以前に明らかにされていた[Poynard、1997(上掲)]。本研究では、「遅い」群における感染のメジアン期間が、「早い」群における18.7年の感染と比較して、36.4年であった。
【0249】
C型肝炎での線維形成プロセスにおけるCYP2D6の正確な役割をいつかは明らかにしなければならない。近年、アラキドン酸およびエイコサノイドの代謝におけるCYP450スーパーファミリーおよびCYP2ファミリーの役割がますます認識されている。これらの物質の様々な代謝経路における複合体の各酵素の正確な関わりが依然として集中的に研究されている(Nebert,D.W.他、2002、チトクロームP450の臨床的重要性、Lancet、360(9340):1155〜62)。アラキドン酸が肝臓の星細胞系におけるコラーゲン遺伝子の転写活性化を介してI型コラーゲンの合成をアップレギュレーションしたことが以前に明らかにされていた(Nieto N他、2000、エタノールおよびアラキドン酸は、チトクロームP450 2E1を過剰発現するラット肝臓星細胞におけるアルファ2(I)コラーゲンの発現を増大させる:Hおよびシクロオキシゲナーゼ−2の役割、J.Biol.Chem.275:20136〜45)。従って、CYP2D6活性の喪失はアラキドン酸分解を低下させ、従って、肝臓の星細胞からのI型コラーゲンの産生を増大させているかもしれない。
【0250】
(実施例2)
早い線維化に対する素因におけるCYP2D6、CYP3A5、CYP2E1およびAPO EでのSNPの関与
【0251】
肝臓線維化および肝硬変の早い進行についてのさらなる危険性因子を特定するために、慢性のC型肝炎ウイルス(HCV)感染を有するユダヤ人起源のさらに32名の白人患者を研究のために集めた。これら32名の患者は、本明細書中上記の実施例1の材料および方法のところで記載された研究プロトコルに従って、「早い線維形成者」(14名の患者)または「遅い線維形成者」(18名の患者)として分類された。合計で、現在、82名の慢性HCV患者がこの研究に含まれる。
【0252】
材料および方法
研究対象者および血液サンプル。32名の慢性hCV患者を人口学的データおよび臨床データに関して面接し、患者の医学記録を、本明細書中上記の実施例1における材料および方法のところで記載されたように再検討した。血液サンプルを各患者から集め、DNAを、本明細書中上記の実施例1における材料および方法のところで記載されたように末梢血リンパ球から抽出した。
【0253】
非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)患者。今日までに、ユダヤ人起源の15名の白人NAFLD患者が登録された。患者を(hCV患者と同様に)面接し、すべての医学記録を再検討し、記録した。血液サンプルを集め、DNAを抽出した。
【0254】
慢性hCV患者におけるCYP2D6遺伝子、CYP3A5遺伝子、CYP2E1遺伝子およびAPO E遺伝子でのSNPの存在についての分子的分析。本明細書中下記の表5は、多型ヌクレオチドを含む関連したPCR産物を増幅するために使用されたPCRプライマーを示す。
【0255】
チトクロームP450の2D64変異(配列番号6(Genbankアクセション番号M33388)に示されるような3465位でのG−>Aの置換)。これを、本明細書中上記の実施例1に記載されるように検出した。CYP2D6についてのへテロ接合体は4(A対立遺伝子)/WT(G対立遺伝子)であり、ホモ接合体は4(A対立遺伝子)/4(A対立遺伝子)である。
【0256】
配列番号17(GenBankアクセション番号J02843)に示されるようなヌクレオチド1532でのCYP2E1プロモーターにおけるCYP2E1のSNP(G−>C)。これを、本明細書中下記の表5に列挙されるフォワードPCRプライマー(配列番号11)およびリバースPCRプライマー(配列番号12)を用いてゲノムDNAを増幅することによって検出した。PCR増幅後、G−>Cの多型(TGCAG−>TGCAG;下線部のヌクレオチドが多型である)を、TGCAG配列(下線部のCが多型ヌクレオチドである)を認識するPstI制限酵素でPCR産物(413bp)を消化することによって検出した。従って、SNPが存在しない場合(野生型、配列番号17の1532位においてGの共通する対立遺伝子)では、PstI消化は413bpの1個のフラグメントをもたらす。他方で、SNPが存在する場合(希な対立遺伝子、配列番号17の1532位においてC)では、PstI消化は118bpおよび295bpの2つのフラグメントをもたらす。
【0257】
配列番号17(GenBankアクセション番号J0284)に示されるようなヌクレオチド1772でのCYP2E1プロモーターにおけるCYP2E1のSNP(C−>T)。これを、本明細書中下記の表5に列挙されるフォワードPCRプライマー(配列番号11)およびリバースPCRプライマー(配列番号12)を用いてゲノムDNAを増幅することによって検出した。PCR増幅後、制限部位をRsaIに変化させる、C−>Tの多型(GTA−>GTA;下線部のCおよびTが多型ヌクレオチドである)を、RsaI制限酵素でPCR産物(413bp)を消化することによって検出する。従って、SNPが存在しない場合(野生型、配列番号17の1772位においてCの共通する対立遺伝子)では、RsaI消化は61bpおよび352bpの2つのフラグメントをもたらす。他方で、SNPが存在する場合(配列番号17の1772位においてTの希な対立遺伝子)では、RsaI消化は413bpの1個のフラグメントをもたらす。
【0258】
配列番号18(GenBankアクセション番号AF355800)の174位でのCYP3A53(第3イントロン)のSNP(A−>G)。これを、本明細書中下記の表5に列挙されるフォワードPCRプライマー(配列番号13)およびリバースPCRプライマー(配列番号14)を使用して検出した。PCR増幅後、A−>Gの多型を、CTNAG配列(N=任意のヌクレオチド)を認識するDdeI制限酵素でPCR産物(200bp)を消化することによって検出した。従って、SNPが存在しない場合(配列番号18の174位にヌクレオチドAを有するCYP3A51対立遺伝子)では、DdeI消化は129bpおよび71bpの2つのフラグメントをもたらす。他方で、SNPが存在する場合(CYP3A53対立遺伝子、配列番号18の174位においてGヌクレオチド)では、DdeI消化は、22bp、71bpおよび107bpの3つのフラグメントをもたらす。CYP3A53と呼ばれる変化体G、および、CYP3A51と呼ばれる変化体A。CYP3A5についてのヘテロ接合体は3/1(配列番号18の174位においてG/A)であり、ホモ接合体は3/3(配列番号18の174位においてG/G)であり、非存在(1対立遺伝子のホモ接合体)は配列番号18の174位においてA/Aを示す。さらなる情報については、Shuichi Fukuen他、2002、PCR−RFLPによる新規な検出アッセイおよび日本人集団におけるCYP3A5のSNP(CYP3A53およびCYP3A56)の頻度、Pharmacogenetics、12:331〜334を参照のこと(これは全体が参考として本明細書中に組み込まれる)。
【0259】
配列番号19の55位(これは、GenBankアクセション番号NC_000019:50100902〜50104489におけるヌクレオチド2880に対応する)でのAPO E4変化体のSNP(T−>C)。これを、本明細書中下記の表5に列挙されるフォワードPCRプライマー(配列番号15)およびリバースPCRプライマー(配列番号16)を使用して検出した。PCR増幅後、T−>Cの多型を、GCGC配列を認識するHin6I制限酵素でPCR産物(227bp、配列番号19)を消化することによって検出した。従って、SNPが存在しない場合(野生型、配列番号19の55位においてTの共通する対立遺伝子)では、Hin6I消化は下記のフラグメントをもたらす:21bp、16bp、91bp、18bpおよび81bp。他方で、APO E4変化体が存在する場合(配列番号19の55位においてCの希な対立遺伝子)では、Hin6I消化は下記のフラグメントをもたらす:21bp、16bp、19bp、72p、18bpおよび81bp(従って、91bpのフラグメントが19bpおよび72pの2つのフラグメントに切断される)。このSNPは、APO Eタンパク質(GenBankアクセション番号NP_000032)の130位においてアミノ酸残基Cys(コドン、TGC)をArg(コドン、CGC)に変化させる。
【0260】
配列番号19の193位(これは、GenBankアクセション番号NC_000019:50100902〜50104489におけるヌクレオチド3018に対応する)でのAPO E2変化体のSNP(C−>T)。これを、本明細書中下記の表5に列挙されるフォワードPCRプライマー(配列番号15)およびリバースPCRプライマー(配列番号16)を使用して検出した。PCR増幅後、C−>Tの多型を、GCGC配列を認識するHin6I制限酵素でPCR産物(227bp、配列番号19)を消化することによって検出した。従って、SNPが存在しない場合(野生型、配列番号19の193位においてCの共通する対立遺伝子)では、Hin6I消化は下記のフラグメントをもたらす:21bp、16bp、91bp、18bp、48bpおよび33bp。他方で、APO E2変化体が存在する場合(配列番号19の193位においてTの希な対立遺伝子)では、Hin6I消化は下記のフラグメントをもたらす:21bp、16bp、91bp、18bpおよび81bp(従って、Hin6I制限部位の消失により、48bpおよび33bpのフラグメントの代わりに、81bpのフラグメントが生じた)。このSNPは、APO Eタンパク質(GenBankアクセション番号NP_000032)の176位においてアミノ酸残基Arg(コドン、CGC)をCys(コドン、TGC)に変化させる。
【表5】

【0261】
実験結果
さらなる32名のhCV患者の人口学的特徴。本明細書中下記の表6は、本研究のために集められたさらに30名のhCV患者の人口学的データのまとめである。表に示されるように、男性が早い線維化に関連していた。加えて、遅い線維形成者群における平均感染継続期間は23.7±10.36であったが、早い線維形成者群における感染継続期間は15.43±4.6であった。
【表6】

【0262】
さらに32名のhCV患者の遺伝子型決定により、早い線維形成者の間ではCYP2D64変化体に対するヘテロ接合体の頻度が高いことが明らかにされた。CYP2D6の不良な代謝酵素変化体が、本明細書中下記の表7に示されるように、さらに32名の患者の間ではまた、早い線維化に関連することが見出された。
【表7】

【表8】

【0263】
本明細書中上記の表8に示されるように、本発明のhCV症例者の全体的な遺伝子型データを早い線維形成者または遅い線維形成者に従って分類したとき、著しい差が、対立遺伝子頻度と、CYP2D64対立遺伝子のホモ接合体、ヘテロ接合体または全体的な保因者との両方の間で得られた。例えば、早い線維形成者の間でのCYP2D64対立遺伝子の存在率は約33%であったが、遅い線維形成者および健康なコントロールの間でのその対立遺伝子の存在率は約13%であった。加えて、CYP2D64対立遺伝子の全体的な保因者状況は、遅い線維形成者または健康なコントロールと比較したとき、早い線維形成者の間では2倍を超えていた。
【0264】
これらの結果は、本明細書中上記の実施例1で示された以前の知見についてのさらなる支持を提供しており、また、CYP2D64変異を保有するhCV患者は、肝臓線維化および肝硬変に早く進行する危険性が増大していることを明らかにしている。
【0265】
早い線維形成者および遅い線維形成者の間でのCYP3A5遺伝子座、CYP2E1遺伝子座およびAPO E遺伝子座におけるSNPの遺伝子型状況。CYP3A5遺伝子座、CYP2E1遺伝子座およびAPO E遺伝子座におけるさらなるSNPの遺伝子型状況を、本明細書中上記の材料および方法のところで記載されたように本研究のさらに32名のhCV患者について明らかにした。それらの遺伝子型状況を本明細書中下記の表9〜表11にまとめる。
【表9】

【0266】
本明細書中上記の表9に示されるように、CYP3A51対立遺伝子が早い線維形成者の間(14.3%)では遅い線維形成者の間(5.6%)よりも一般的であるように、CYP3A53対立遺伝子の頻度におけるわずかな差が早い線維形成者と遅い線維形成者との間で観測された。
【表10】

【0267】
本明細書中上記の表10に示されるように、著しい差が、早い線維形成者および遅い線維形成者の間で、CYP2E1のG−>C(PstI;配列番号17に示されるようなヌクレオチド1532)SNPの頻度において観測されなかった。他方で、CYP2E1のC−>T(RsaI;配列番号17に示されるようなヌクレオチド1772)の頻度における差が早い線維形成者および遅い線維形成者の間で存在した。従って、遅い線維形成者では、すべての患者が野生型対立遺伝子(配列番号17のヌクレオチド1772においてC)に対してホモ接合体であったが、T対立遺伝子(配列番号17のヌクレオチド1772において)に対するヘテロ接合体の頻度は早い線維形成者の間では約7%であった。
【表11】

【0268】
本明細書中上記の表11に示されるように、APO E2対立遺伝子の存在率における著しい差が早い線維形成者(約7%)と遅い線維形成者(約8%)との間に存在しなかったが、APO E4対立遺伝子の存在率における差が早い線維形成者(約7%)と遅い線維形成者(約3%)との間に存在していた。加えて、ほぼ3倍の差が、APO E4対立遺伝子の保因者(ヘテロ接合個体)の頻度において観測された。早い線維形成者では、ヘテロ接合体の頻度が14.3%であったが、遅い線維形成者では、ヘテロ接合体の頻度が5.5%であった。
【0269】
まとめると、これらの結果は、CYP2D64、すなわち、チトクロームP450の2D64変異(配列番号6に示されるような3465位でのG−>Aの置換)が、肝臓線維化の早い進行と大きく関連することを明らかにしており、また、そのような多型が、肝臓線維化の早い進行に対する素因を明らかにすることにおいて使用されることを示唆している。
【0270】
加えて、それ以外の候補遺伝子(例えば、CYP3A5、CYP2E1およびAPO E)の遺伝子型データは、これらの遺伝子および遺伝子座におけるSNPが、肝臓線維化の早い進行に対する個体の素因を明らかにすることにおいて使用されることを示唆している。従って、配列番号18に示されるようなヌクレオチド座標174におけるアデノシンヌクレオチド含有対立遺伝子(CYP3A51対立遺伝子)、配列番号17に示されるようなヌクレオチド座標1772におけるチミジンヌクレオチド含有対立遺伝子(CYP2E1のT−RsaI対立遺伝子)、および/または、配列番号19に示されるようなヌクレオチド座標55におけるシトシンヌクレオチド含有対立遺伝子(APO E4対立遺伝子)を、肝臓線維化の早い進行に対する素因を明らかにするために使用することができる。
【0271】
明確にするため別個の実施形態で説明されている本発明の特定の特徴は単一の実施形態に組み合わせて提供することもできることは分かるであろう。逆に、簡潔にするため単一の実施形態で説明されている本発明の各種の特徴は別個にまたは適切なサブコンビネーションで提供することもできる。
【0272】
本発明はその特定の実施形態によって説明してきたが、多くの別法、変更及び変形があることは当業者には明らかであることは明白である。従って、本発明は、本願の請求項の精神と広い範囲の中に入るこのような別法、変更及び変形すべてを包含するものである。本願で挙げた刊行物、特許および特許願はすべて、個々の刊行物、特許および特許願が各々あたかも具体的にかつ個々に引用提示されているのと同程度に、全体を本明細書に援用するものである。さらに、本願で引用又は確認したことは本発明の先行技術として利用できるという自白とみなすべきではない。


【図面の簡単な説明】
【0273】
【図1】感染継続期間および感染時年齢を関数とする肝硬変への進行速度を例示する、Poynard T.他、2001、J.of Hepatology、34:730〜739から採用されたグラフである。
【配列表フリーテキスト】
【0274】
配列番号2,3,7〜9及び11〜16は一本鎖DNAオリゴヌクレオチドの配列である。
配列番号19はSNP評価のためのPCR産物の配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体が肝臓線維化の早い進行に対する素因を有するかどうかを明らかにする方法であって、前記個体のCYP2D6遺伝子座、または、前記CYP2D6遺伝子座と連鎖不平衡にある隣接遺伝子座における少なくとも1つの早い進行の肝臓線維化関連遺伝子型のホモ接合形態またはヘテロ接合形態での存在または非存在を明らかにし、それにより、個体が肝臓線維化の早い進行に対する素因を有するかどうかを明らかにすることを含む方法。
【請求項2】
前記個体はC型肝炎ウイルスに感染している請求項1に記載の方法。
【請求項3】
CYP2D6遺伝子座における前記少なくとも1つの早い進行の肝臓線維化関連遺伝子型は、配列番号1に示されるCYP2D64SNPのアデノシンヌクレオチド含有対立遺伝子である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの早い進行の肝臓線維化関連遺伝子型は短縮型のCYP2D6ポリペプチドをコードする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記遺伝子型の前記存在により、前記個体における肝臓線維化の早い進行を発症させる増大した素因リスクが示される請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記遺伝子型の前記存在により、肝硬変を発症させる増大した素因リスクが示される請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記CYP2D6遺伝子座と連鎖不平衡にある前記隣接遺伝子座は、配列番号10に示されるゲノム配列に含まれる請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記遺伝子型の存在または非存在を明らかにすることは、DNA配列決定、制限フラグメント長多型(RFLP分析)、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO)分析、変性/温度勾配ゲル電気泳動(DGGE/TGGE)、一本鎖DNA高次構造多型(SSCP)分析、ジデオキシフィンガープリンティング(ddF)、パイロシーケンシング分析、アシクロプライム分析、リバースドットブロット、GeneChipマイクロアレイ、動的対立遺伝子特異的ハイブリダイゼーション(DASH)、ペプチド核酸(PNA)プローブおよびロックド核酸(LNA)プローブ、TaqMan、分子ビーコン、インターカレーション色素、FRETプライマー、AlphaScreen、SNPstream、遺伝子ビット分析(GBA)、多重ミニシーケンシング、SNaPshot、MassEXTEND、MassArray、GOODアッセイ、Microarray miniseq、アレイ型プライマー伸張(APEX)、マイクロアレイプライマー伸張、Tagアレイ、コード化ミクロスフェア、テンプレート誘導取り込み(TDI)、蛍光分極化、比色法オリゴヌクレオチド連結アッセイ(OLA)、配列コード化OLA、マイクロアレイ連結、リガーゼ連鎖反応、Padlockプローブ、ローリングサークル増幅、ならびに、Invaderアッセイからなる群から選択されるSNP検出法を使用して行われる。
【請求項9】
個体が肝臓線維化の早い進行に対する素因を有するかどうかを明らかにするためのキットであって、前記個体のCYP2D6遺伝子座、または、前記CYP2D6遺伝子座と連鎖不平衡にある隣接遺伝子座における少なくとも1つの早い進行の肝臓線維化関連遺伝子型のホモ接合形態またはヘテロ接合形態での存在または非存在を明らかにするための少なくとも1つの試薬を含むキット。
【請求項10】
前記個体はC型肝炎ウイルスに感染している請求項9に記載のキット。
【請求項11】
CYP2D6遺伝子座における前記少なくとも1つの早い進行の肝臓線維化関連遺伝子型は、配列番号1に示されるCYP2D64SNPのアデノシンヌクレオチド含有対立遺伝子である請求項9に記載のキット。
【請求項12】
前記少なくとも1つの早い進行の肝臓線維化関連遺伝子型は短縮型のCYP2D6ポリペプチドをコードする請求項9に記載のキット。
【請求項13】
前記遺伝子型の前記存在により、前記個体における肝臓線維化の早い進行を発症させる増大した素因リスクが示される請求項10に記載のキット。
【請求項14】
前記遺伝子型の前記存在により、肝硬変を発症させる増大した素因リスクが示される請求項10に記載のキット。
【請求項15】
前記CYP2D6遺伝子座と連鎖不平衡にある前記隣接遺伝子座は、配列番号10に示されるゲノム配列に含まれる請求項9に記載のキット。
【請求項16】
少なくとも1つの試薬を包装する包装材と、前記包装材内または前記包装材上における通知とをさらに含み、前記通知により、個体が肝臓線維化の早い進行に対する素因を有するかどうかを明らかにすることにおける使用についてキットが特定される請求項9に記載のキット。
【請求項17】
前記少なくとも1つの試薬は、配列番号1に示されるCYP2D64SNPの少なくとも1つの対立遺伝子と特異的にハイブリダイズすることができる少なくとも1つのオリゴヌクレオチドである請求項16に記載のキット。
【請求項18】
前記少なくとも1つの試薬は、DNA配列決定、制限フラグメント長多型(RFLP分析)、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO)分析、変性/温度勾配ゲル電気泳動(DGGE/TGGE)、一本鎖DNA高次構造多型(SSCP)分析、ジデオキシフィンガープリンティング(ddF)、パイロシーケンシング分析、アシクロプライム分析、リバースドットブロット、GeneChipマイクロアレイ、動的対立遺伝子特異的ハイブリダイゼーション(DASH)、ペプチド核酸(PNA)プローブおよびロックド核酸(LNA)プローブ、TaqMan、分子ビーコン、インターカレーション色素、FRETプライマー、AlphaScreen、SNPstream、遺伝子ビット分析(GBA)、多重ミニシーケンシング、SNaPshot、MassEXTEND、MassArray、GOODアッセイ、Microarray miniseq、アレイ型プライマー伸張(APEX)、マイクロアレイプライマー伸張、Tagアレイ、コード化ミクロスフェア、テンプレート誘導取り込み(TDI)、蛍光分極化、比色法オリゴヌクレオチド連結アッセイ(OLA)、配列コード化OLA、マイクロアレイ連結、リガーゼ連鎖反応、Padlockプローブ、ローリングサークル増幅、ならびに、Invaderアッセイからなる群から選択される方法において利用可能なように設計されている請求項16に記載のキット。
【請求項19】
前記少なくとも1つの試薬は、配列番号4に示されるCYP2D6タンパク質の少なくとも1つの多型体と示差的に結合することができる抗体である請求項16に記載のキット。
【請求項20】
必要性のある個体において肝臓線維化の早い進行を防止する方法であって、前記個体の肝臓におけるCYP2D6の発現レベルおよび/または活性をアップレギュレーションすることができ、それにより、前記個体における肝臓線維化の早い進行を防止することができる薬剤を前記個体に投与することを含む方法。
【請求項21】
前記個体はC型肝炎ウイルスに感染している請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記個体は、肝炎ウイルス感染、肝毒性、肝臓ガン、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)、自己免疫疾患、代謝性肝臓疾患、および、肝臓の二次的関与による疾患からなる群から選択される疾患に罹患している請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記肝炎ウイルス感染は、C型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルスおよびD型肝炎ウイルスからなる群から選択されるウイルスによって引き起こされる請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記肝毒性はアルコール誘導の肝毒性および/または薬物誘導の肝毒性である請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記自己免疫疾患は、自己免疫肝炎(AIH)、原発性胆汁性肝硬変(PBC)および原発性硬化性胆管炎(PSC)からなる群から選択される請求項22に記載の方法。
【請求項26】
前記代謝性肝臓疾患は、ヘモクロマトーシス、ウイルソン病およびアルファ1アンチトリプシンからなる群から選択される請求項22に記載の方法。
【請求項27】
肝臓の二次的関与による前記疾患はセリアック病および/またはアミロイドーシスである請求項22に記載の方法。
【請求項28】
前記アップレギュレーションは、
(a)CYP2D6の少なくとも機能的な部分をコードする外因性ポリヌクレオチドを個体の肝臓細胞において発現させること;
(b)個体の肝臓細胞における内因性CYP2D6の発現を増大させること;
(c)個体の肝臓細胞における内因性のCYP2D6活性を増大させること;および
(d)CYP2D6発現細胞を個体の肝臓に投与すること
からなる群から選択される少なくとも1つの方法によって行われる請求項20に記載の方法。
【請求項29】
前記CYP2D6は、初期設定済みパラメーターを使用するNational Center of Biotechnology Information(NCBI)のBlastPソフトウエアを使用して決定されたとき、配列番号4によって示されるポリペプチドに対して少なくとも75%同一であるポリペプチドである請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記CYP2D6は配列番号4によって示される請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記ポリヌクレオチドは配列番号5によって示される請求項28に記載の方法。
【請求項32】
薬物分子が個体において肝臓線維化の早い進行の発達を誘導または促進することができるかどうかを明らかにする方法であって、CYP2D6およびCYP2D6の不良な代謝酵素変化体によるこの薬物分子の代謝率を比較することを含み、前記CYP2D6ではなく、前記CYP2D6の不良な代謝酵素変化体による前記薬物分子の不良な代謝により、前記薬物分子はこの個体における肝臓線維化の早い進行の発達を誘導または促進することができることが示される方法。
【請求項33】
前記個体はC型肝炎ウイルスに感染している請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記個体は、肝炎ウイルス感染、肝毒性、肝臓ガン、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)、自己免疫疾患、代謝性肝臓疾患、および、肝臓の二次的関与による疾患からなる群から選択される疾患に罹患している請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記肝炎ウイルス感染は、C型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルスおよびD型肝炎ウイルスからなる群から選択されるウイルスによって引き起こされる請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記肝毒性はアルコール誘導の肝毒性および/または薬物誘導の肝毒性である請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記自己免疫疾患は、自己免疫肝炎(AIH)、原発性胆汁性肝硬変(PBC)および原発性硬化性胆管炎(PSC)からなる群から選択される請求項34に記載の方法。
【請求項38】
前記代謝性肝臓疾患は、ヘモクロマトーシス、ウイルソン病およびアルファ1アンチトリプシンからなる群から選択される請求項34に記載の方法。
【請求項39】
肝臓の二次的関与による前記疾患はセリアック病および/またはアミロイドーシスである請求項34に記載の方法。
【請求項40】
前記CYP2D6の前記不良な代謝酵素変化体は、CYP2D64、CYP2D63およびCYP2D65からなる群から選択される請求項32に記載の方法。
【請求項41】
前記CYP2D6は配列番号4によって示される請求項32に記載の方法。
【請求項42】
前記CYP2D6は、CYP2D6の少なくとも機能的な形態をコードするポリヌクレオチドから発現される請求項32に記載の方法。
【請求項43】
前記ポリヌクレオチドは配列番号5によって示される請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記CYP2D6の前記不良な代謝酵素変化体は、短縮型のCYP2D6ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドから発現される請求項32に記載の方法。
【請求項45】
個体が肝臓線維化の早い進行に対する素因を有するかどうかを明らかにする方法であって、前記個体のCYP3A5、CYP2E1およびAPO Eからなる群から選択される遺伝子座、または、前記遺伝子座と連鎖不平衡にある隣接遺伝子座における少なくとも1つの早い進行の肝臓線維化関連遺伝子型のホモ接合形態またはヘテロ接合形態での存在または非存在を明らかにし、それにより、前記個体が肝臓線維化の早い進行に対する素因を有するかどうかを明らかにすることを含む方法。
【請求項46】
個体が肝臓線維化の早い進行に対する素因を有するかどうかを明らかにするためのキットであって、前記個体のCYP3A5、CYP2E1およびAPO Eからなる群から選択される遺伝子座、または、前記遺伝子座と連鎖不平衡にある隣接遺伝子座における、少なくとも1つの早い進行の肝臓線維化関連遺伝子型のホモ接合形態またはヘテロ接合形態での存在または非存在を明らかにするための少なくとも1つの試薬を含むキット。
【請求項47】
前記CYP3A5遺伝子座における前記少なくとも1つの早い進行の肝臓線維化関連遺伝子型は、配列番号18のヌクレオチド座標174におけるアデノシンヌクレオチド含有対立遺伝子である請求項45または46に記載の方法またはキット。
【請求項48】
前記CYP2E1遺伝子座における前記少なくとも1つの早い進行の肝臓線維化関連遺伝子型は、配列番号17のヌクレオチド座標1772におけるチミジンヌクレオチド含有対立遺伝子である請求項45または46に記載の方法またはキット。
【請求項49】
前記APO E遺伝子座における前記少なくとも1つの早い進行の肝臓線維化関連遺伝子型は、配列番号19のヌクレオチド座標55におけるシトシンヌクレオチド含有対立遺伝子である請求項45または46に記載の方法またはキット。

【図1】
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【公表番号】特表2008−506369(P2008−506369A)
【公表日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−519976(P2007−519976)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【国際出願番号】PCT/IL2005/000700
【国際公開番号】WO2006/003654
【国際公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(507004886)メディカル リサーチ ファンド オブ テル アヴィヴ ソラスキー メディカル センター (2)
【Fターム(参考)】