説明

懸吊具

【課題】被懸吊体の戻りを弱くすること、被懸吊体の戻り強さとスプリング部の耐久性を両立させた伸縮可能な懸吊具を提供する。
【解決手段】懸吊紐1が、線条部1aと、この線条部1aよりも長い長尺線条部1bと、コイル捲きされるスプリング部1cを有し、線条部1aにクリップ2が吊着されて被懸吊体3を取り付け、線条部1aを挟むようにスプリング部1cが一対形成され、これらスプリング部1cの端部を長尺線条部1bとそれぞれ連結させて形成することにより、スプリング部1cの近傍に一対のスプリング部1cが配置され、懸吊紐1を首に掛けた状態で、被懸吊体3をスプリング部1cが伸長変形するように引っ張った後に、被懸吊体3から手を離しても、スプリング部1cが短縮変形するものの、被懸吊体3の戻り速度が遅い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばIDカードや名札などの被懸吊体を首から吊り下げて使用する際に利用される伸縮可能な懸吊具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の懸吊具として、非伸縮性で曲げたとき元に戻る弾撥力の大きい素材の線条を用い、首に掛ける下げ紐の輪の半分程度の長さの部分を真直な線条のままとし、その線条部分に続く残りの半分の部分を密巻きコイル状に巻いてスプリングとし、これら線条部分の端とスプリング部分の端とを接続して首に掛ける一つの輪とし、スプリング部分の中央にIDカード等の名札を保持するクリップを取付けることにより、スプリング部分の伸縮性を利用して、IDカード等を首に掛けたままで、IDカード等をセンサに近づけ得るようにした名札下げ紐がある(例えば、特許文献1参照)。
さらに、前記スプリング部分は二つ折りされて、折曲した部分を小さな輪にし、この輪の元の部分を締め具で締め付けるとともに、輪に名札を保持させるクリップの環の部分が鎖交させてあり、またスプリング部分の自由端と線条部分の自由端には、相互に嵌合する雌雄の安全具が固着され、これら安全具を相互嵌合させることにより、下げ紐が何かに捲き込まれて下げ紐に異常な張力が作用したとき、安全具の相互嵌合が外れて下げ紐の輪が解けるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】登録実用新案第3110826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし乍ら、このような従来の懸吊具では、下げ紐の下半分をコイル状のスプリングとし、このスプリング部分の二つ折りされた中央にクリップを取着してIDカード等の名札が吊り下げられるため、首に掛けたままでIDカードを引っ張ってスプリング部分が伸長変形されるとともに、IDカードをセンサーに近づけてから手を離すと、スプリング部の短縮変形により、特にスプリング部分の中央に位置するクリップやIDカードの戻りが強くて、使用者の顔面などに激しく突き当たるおそれがあり、最悪の場合にはケガをする可能性もあって危険であるという問題があった。
また、これを防止するために、比較的に伸縮力が弱い材料でスプリング部分を形成した場合には、伸縮変形の繰り返しやIDカード等の重みでスプリング部分が伸びてしまい、期待する戻り力を発揮できない可能性があった。
さらに、下げ紐の下半分のスプリング部分が使用者の肩近くに配置されるため、特に女性ユーザのように髪の毛が長いと、スプリング部分に絡まってしまい、下げ紐をスムーズに着脱できないという問題もあった。
【0005】
本発明は、このような問題に対処することを課題とするものであり、被懸吊体の戻りを弱くすること、被懸吊体の戻り強さとスプリング部の耐久性を両立させること、などを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するために本発明は、線条からなる輪状の懸吊紐と、この懸吊紐に吊着されるクリップと、このクリップに対して取り付けられる被懸吊体とを備え、前記懸吊紐は、前記線条が輪状の一部に沿って周方向へ延びる線条部と、この線条部の周方向長さよりも長い長尺線条部と、前記線条がコイル捲きされるスプリング部を有し、前記線条部に前記クリップが吊着され、該線条部を挟むように前記スプリング部を一対形成し、これらスプリング部の端部を前記長尺線条部とそれぞれ連続させて形成したことを特徴とする。
【0007】
前述した特徴に加えて、前記線条として硬度が80〜100度で線径が1.5mm以下のものを用い、前記スプリング部の捲き外径を3.9mm以上にするとともに、前記スプリング部の合計長さを20cm以下にしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
前述した特徴を有する本発明は、懸吊紐が、線条部と、この線条部よりも長い長尺線条部と、コイル捲きされるスプリング部を有し、線条部にクリップが吊着されて被懸吊体を取り付け、線条部を挟むようにスプリング部が一対形成され、これらスプリング部の端部を長尺線条部とそれぞれ連結させて形成することにより、スプリング部の近傍に一対のスプリング部が配置され、懸吊紐を首に掛けた状態で、被懸吊体をスプリング部が伸長変形するように引っ張った後に、被懸吊体から手を離しても、スプリング部が短縮変形するものの、被懸吊体の戻り速度が遅いので、被懸吊体の戻りを弱くすることができる。
その結果、下げ紐の下半分をコイル状のスプリングとし、このスプリング部分の二つ折りされた中央にクリップを取着してIDカード等の名札が吊り下げられる従来のものに比べ、IDカードなどの被懸吊体が使用者の顔面などに激しく突き当たることはなく、ケガの発生も防止できて安全に取り扱うことができる。
また、スプリング部を比較的に伸縮力が弱い材料で形成する必要がないので、被懸吊体の重みでスプリング部が伸びるおそれもなく、長期に亘って期待する伸縮力を発揮できる。
さらに、下げ紐の下半分のスプリング部分が使用者の肩近くに配置される従来のものに比べ、スプリング部分が使用者の胸元に配置されるため、特に女性ユーザのように髪の毛が長くても、スプリング部分に絡まることがなく、懸吊紐をスムーズに着脱できて利便性に優れる。
【0009】
さらに、前記線条として硬度が80〜100度で線径が1.5mm以下のものを用い、前記スプリング部1cの捲き外径を3.9mm以上にするとともに、前記スプリング部1cの合計長さを20cm以下にした場合には、スプリング部の短縮変形による被懸吊体の戻り速度と、スプリング部の形状復元力とのバランスが良いので、被懸吊体の戻り強さとスプリング部の耐久性を両立させることができる。
その結果、スプリング部のダレを防止することができ、長期に亘って使用できて経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る懸吊具を示す説明図であり、クリップを一部切欠している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本発明の実施形態に係る懸吊具Aは、図1に示すように、線条からなる輪状(ループ状)の懸吊紐1と、この懸吊紐1に吊着されるクリップ2と、このクリップ2に対して取り付けられる例えばIDカードや名札などの被懸吊体3とを、主要な構成要素として備えている。
【0012】
懸吊紐1は、例えばポリウレタンなどの弾性変形可能な合成樹脂で断面円形や断面楕円形又は断面四角形や断面多角形などに成形された一本の線条により、使用者の首が通るような大きさの輪状に形成され、この輪状の一部に沿って周方向へ線条が周方向へ延びる線条部1aと、この線条部1aの周方向長さよりも長い長尺線条部1bと、線条がコイル捲きされるスプリング部1cを有している。
線条の具体例としては、その硬度が約80〜100度のポリウレタンを用い、その線径を1.5mm以下(好ましくは1.2mm以下)とし、全周の長さを約700mm以上にすることが好ましい。
【0013】
線条部1aは、その周方向中央付近に後述するクリップ2を吊着することでV字形に形成され、この線条部1aの周方向両端には、線条部1aを挟むように一対のスプリング部1cが連続して形成され、これらスプリング部1cの端部を長尺線条部1bの周方向両端とそれぞれ連続させて形成している。
その具体例としては、各スプリング部1cの捲き外径を約3.9mm以上にするとともに、両スプリング部1cの周方向長さを合計した値が約20cm以内となるように形成することが好ましい。
【0014】
クリップ2は、懸吊紐1の線条部1aと、例えばIDカードや名札などの被懸吊体3とを連結させる部材であり、線条部1aに対して被懸吊体3を着脱自在に連結させる構造のものが好ましい。
【0015】
このような懸吊具Aによると、懸吊紐1を使用者の首に掛けると、両スプリング部1cが使用者の胸元に配置される。
この状態で、IDカードなどの被懸吊体3を手で持って使用者の体から離すように引っ張ることにより、両スプリング部1cが伸長変形され、その後、IDカードなどの被懸吊体3をセンサーなどに近づけてから手を離すと、両スプリング部1cが短縮変形する。
それに伴って、線条部1aの中央付近に吊着されたクリップ2やIDカードなどの被懸吊体3は、使用者に向けて戻り移動するものの、その戻り速度が遅くなって、被懸吊体3の戻りを使用者の胸元に軽く当たる程度に弱くすることができる。
さらに、両スプリング部1cが使用者の胸元に配置されるため、特に女性ユーザのように髪の毛が長くても、各両スプリング部1cに絡まることがない。
次に、本発明の一実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0016】
この実施例は、図1に示すように、線条部1aの周方向中央に対して、クリップ2の基端に形成される横軸2aを鎖交させることにより、線条部1aがV字形になってクリップ2が吊着形成され、クリップ2の先端フック2bをカードケース4の取り付け孔4aに挿通して吊持するとともに、このカードケース4の透明なポケット4b内に、例えばIDカードや名札などの被懸吊体3を着脱自在に収納している。
【0017】
さらに、図1に示される例では、長尺線条部1bの途中に、懸吊紐1に異常な張力が作用した時に分離して懸吊紐1の輪が解けるように構成された安全具5と、懸吊紐1の輪の大きさを調節するための調節具6が設けられている。
【0018】
また、クリップ2及びカードケース4は、軟質材料で成形することにより、両スプリング部1cの短縮変形に伴い使用者に当たっても衝撃を緩和することが好ましい。
【0019】
ここで、線条の硬度が80〜100度のポリウレタンで、線径が1.0mmの線条を複数用意し、これらの線条を用いて、各スプリング部1cの捲き外径が3.0mm又は3.5mm若しくは4.0mmにするとともに、両スプリング部1cの合計長さが18cm又は20cm若しくは22cmのものをそれぞれ作製し、戻りテストと耐久テストを行った。
さらに、線条の硬度が80〜100度のポリウレタンで、線径が1.2mmの線条を複数用意し、これらの線条を用いて、各スプリング部1cの捲き外径が3.4mm又は3.9mm若しくは4.4mmにするとともに、両スプリング部1cの合計長さが14cm又は18cm若しくは20cmのものをそれぞれ作製し、戻りテストと耐久テストを行った。
なお、これらの試作品は、懸吊紐1の全周長さが約70mm、クリップ2や被懸吊体3などを除いた懸吊紐1の全体重量が約20g以下となるように作製した。
また、比較品として、例えば登録実用新案第3110826号公報に記載されるように、線形が1.0mmの線条を用いて、懸吊紐の下半分に捲き外径が3.4mmで長さが40cmのスプリング部を形成し、このスプリング部の二つ折りされた中央にクリップを取着してIDカードが吊り下げられるものも用意して、戻りテストを行った。
試作品及び比較品の戻りテストは、懸吊紐1を使用者の首に掛けた状態でIDカードを持ち、使用者から水平方向へ60cm離れた位置まで引っ張った後、IDカードを離すと、使用者に対してどのように突き当たるかを確かめた。
試作品の耐久テストは、前述した戻りテストを1000回行い、各スプリング部1cの形状復元状態を目視により確認した。
【0020】
これらの実験結果は、比較品の戻りテストでは、IDカードの戻り速度が速くて使用者の胸又はその周辺の体へ向け勢いよく戻って激しく突き当たり、IDカードを斜め下向きに引っ張った時には、使用者の顔面や顔面近くへ向け勢いよく戻って激しく突き当たることがあった。
これに対し、試作品の戻りテストでは、各スプリング部1cの捲き外径が3.9mm以上で、両スプリング部1cの合計長さが22cmになると、比較品の戻りテストと同様に、IDカードの戻り速度が速くて使用者の胸又はその周辺の体へ向け激しく突き当たることがあった。しかし、各スプリング部1cの捲き外径が3.9mm以上であっても、両スプリング部1cの合計長さが20cm以下のものになると、比較品の戻りテストに比べ、戻り速度が比較的に遅くなって、IDカードを斜め下向きに引っ張っても使用者の顔面に届くほどの戻り力は無かった。
さらに、試作品の耐久テストでは、各スプリング部1cの捲き外径が3.9mm未満の3.5mm以下のものや、両スプリング部1cの合計長さが20cm未満となる18cm以下のものは、戻りテストを約750回以上行った時点で、各スプリング部1cが伸び変形したまま元の長さに戻らずにダレてしまい、それ以降は当初の戻り力が得られなくなってしまった。
これらの理由から、硬度が約80〜100度で線径が1.5mm以下(好ましくは1.2mm以下)の線条を用いた場合には、各スプリング部1cの捲き外径が3.9mm以上、両スプリング部1cの合計長さが20cm以下にすると、戻りテストと耐久テストで最も優れることが判った。
特に、懸吊紐1の全体重量を約20g以下にすると、懸吊具Aの軽さとスプリング部1cの戻り強さのバランスが良いことも判った。
【0021】
なお、前示実施例では、クリップ2基端の横軸2aに対して線条部1aの周方向中央を鎖交させ、クリップ2の先端にカードケース4を吊持するとともに、このカードケース4の透明なポケット4b内に被懸吊体3を着脱自在に収納したが、これに限定されず、クリップ2やカードケース4は図示例とは別の形状や構造であっても良く、カードケース4を設けずにクリップ2で被懸吊体3を直接吊持するようにしても良い。
【符号の説明】
【0022】
1 懸吊紐 1a 線条部
1b 長尺線条部 1c スプリング部
2 クリップ 3 被懸吊体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線条からなる輪状の懸吊紐と、
この懸吊紐に吊着されるクリップと、
このクリップに対して取り付けられる被懸吊体とを備え、
前記懸吊紐は、前記線条が輪状の一部に沿って周方向へ延びる線条部と、この線条部の周方向長さよりも長い長尺線条部と、前記線条がコイル捲きされるスプリング部を有し、
前記線条部に前記クリップが吊着され、該線条部を挟むように前記スプリング部を一対形成し、これらスプリング部の端部を前記長尺線条部とそれぞれ連続させて形成したことを特徴とする懸吊具。
【請求項2】
前記線条として硬度が80〜100度で線径が1.5mm以下のものを用い、前記スプリング部の捲き外径を3.9mm以上にするとともに、前記スプリング部の合計長さを20cm以下にしたことを特徴とする請求項1記載の懸吊具。

【図1】
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【公開番号】特開2011−221135(P2011−221135A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87934(P2010−87934)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(594010249)株式会社アイールインターナショナル (3)
【Fターム(参考)】