説明

懸濁粒子デバイス用フィルム及びその製造方法

【課題】調光層と導電性基板の接着強度を高め、かつ、調光特性、生産性を低下させず、さらに90℃以上の高温下でも接着強度が低下しないような懸濁粒子デバイス及びその製造方法を提供する。
【課題手段】固体シリコーン樹脂マトリックス中に、偏光性粒子のアクリル系重合体懸濁液の液泡が分散されている調光層を有し、その両外側が支持体で挟持されており、その支持体の少なくとも一方が導電性基板である懸濁粒子デバイス用フィルムにおいて、調光層と導電性基板の間に、硬化したシランカップリング剤を含む接着層を有することを特徴とする懸濁粒子デバイス用フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物用の窓・間仕切り(パーティッション)、乗り物(自動車、航空機、船舶、鉄道車両、宇宙船等)用の窓・サンルーフ・サンバイザー・ミラー・間仕切り、家庭電化製品の窓、眼鏡・サングラス、サンバイザー、パーソナルコンピュータ・計器板・広告・案内標示板等の表示素子、光シャッター、農作物・植物用温室の屋根・壁材等の用途に使用する、懸濁粒子デバイス用フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光弁(Light Valve)のうち、電圧により配向を変える粒子を懸濁した組成物を利用したデバイスを懸濁粒子デバイス(Suspended Particle Device、以下、SPDという場合がある)という。
【0003】
SPDは、電界印加の有無により光の透過率が変化することによって、全体入射光量の調整が可能な光弁である。つまりSPDは光の遮蔽、透過を制御する働きを有する。SPDのマトリックス中において、無秩序な懸濁状態となっていた偏光性粒子は、電圧を加えると電場が形成され、粒子自体の配向性によって、配向する。電界印加下で配向した偏光性粒子を有する液泡は光を透過する。ここで、電圧をかけない状態に戻すと、配向していた偏光性粒子は再度無秩序に分散し、液泡は光透過性を失う。例えば透明導電性基板を通じて偏光性粒子に電界印加することによって、光の透過/遮断を制御するデバイスとすることができる。このような電圧のON/OFFによって、光の透過、遮断を行う材料は次世代調光材料として期待されている。
【0004】
SPDのマトリックスは、例えば、第一に光の透過、遮断を可能とする、アルカリ土類金属過沃化物と含窒素複素環式化合物との分子間化合物からなる偏光性粒子及び液状で透明な(メタ)アクリレート樹脂とからなる液泡と、第二に、液泡に対して相溶し難い、シリコーン樹脂からなる固体分散媒とから構成されている。そして、電界印加により、偏光性粒子を配向させることが出来るように、SPDマトリックスの外側には、それに接する様に、透明である導電性基板が設けられる。
【0005】
こうして、固体シリコーン樹脂マトリックス中に、偏光性粒子のアクリル系重合体懸濁液の液泡が分散されている調光層を有し、その両外側の少なくとも一方が、透明である導電性基板で挟まれた構造の懸濁粒子デバイス用フィルムが得られる。
【0006】
しかしながら、上記した様な層構成の懸濁粒子デバイス用フィルムは、調光層と導電性基板との間の接着性が不充分であった。つまり、前記基板を湾曲させると調光層と基板の導電面の間で容易に剥離することが問題であった。そのため、生産性を上げるためのロール状で製造することが不可能になるだけでなく、シート状で製造する場合や必要な大きさに裁断する場合にも剥離しないよう細心の注意が必要であった。
【0007】
この様な背景のもと、調光層と導電性基板との間に、別途の粘着層を設けたり、固体シリコーン樹脂マトリックスを形成する紫外線硬化性シリコーン樹脂にエポキシ基を導入して、導電性基板との接着性を高めることが提唱されている(特許文献1及び2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2003−525468公報(第8頁第25行)
【特許文献2】WO2007097796A2公報(第8頁第25行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、調光層と導電性基板の接着強度を高め、かつ、調光特性、生産性を低下させず、さらに90℃以上の高温下でも接着強度が低下しないような懸濁粒子デバイス及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記実状に鑑みて鋭意検討したところ、調光層と導電性基板の間に硬化したシランカップリング剤を含む接着層を設けることで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち本発明は、固体シリコーン樹脂マトリックス中に、偏光性粒子のアクリル系重合体懸濁液の液泡が分散されている調光層を有し、その両外側が支持体で挟持されており、その支持体の少なくとも一方が導電性基板である懸濁粒子デバイス用フィルムにおいて、調光層と導電性基板の間に、硬化したシランカップリング剤を含む接着層を有することを特徴とする懸濁粒子デバイス用フィルムを提供する。
また本発明は、固体シリコーン樹脂マトリックス中に、偏光性粒子のアクリル系重合体懸濁液の液泡が分散されている調光層を有し、その両外側が支持体で挟持されており、その支持体の少なくとも一方が導電性基板である懸濁粒子デバイス用フィルムの調光層と導電性基板の間に、硬化したシランカップリング剤を含む接着層を有する懸濁粒子デバイス用フィルムの製造方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする懸濁粒子デバイス用フィルムの製造方法を提供する。
a)導電性基板の導電面側にシランカップリング剤を塗布する工程、
b)導電性基板のシランカップリング剤の塗布乾燥面に、液状の硬化性シリコーン樹脂に偏光性粒子のアクリル系重合体懸濁液の液泡が分散されている液状調光層を形成する工程、
c)導電性基板上に塗布乾燥されたシランカップリング剤及びその上の液状の硬化性シリコーン樹脂を硬化させることによって、固体シリコーン樹脂マトリックス中に偏光性粒子のアクリル系重合体懸濁液の液泡が分散されている調光層を形成すると同時に、この調光層と導電性基板とを、硬化したシランカップリング剤を介して接着させる工程。
【発明の効果】
【0012】
本発明の懸濁粒子デバイス用フィルムは、従来のものと比較して、調光層と導電性基板の接着強度がより強く、かつ、その接着層を加えても調光特性、生産性を低下させず、さらに90℃以上の高温下でも接着強度が低下しない、という格別顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。最初に、本発明の懸濁粒子デバイス用フィルムについて説明する。
本発明の懸濁粒子デバイス用フィルムは、固体シリコーン樹脂マトリックス中に、偏光性粒子のアクリル系重合体懸濁液の液泡が分散されている調光層を有し、その両外側が支持体で挟持されており、その支持体の少なくとも一方が導電性基板である懸濁粒子デバイス用フィルムにおいて、調光層と導電性基板の間に、硬化したシランカップリング剤を含む接着層を有することを特徴とする。
【0014】
従来の懸濁粒子デバイス用フィルムと、本発明のそれとは、端的に言えば、調光層と導電性基板の間の、硬化したシランカップリング剤を含む接着層の有無において相違する。接着層に含まれるシランカップリング剤は、調光層の固体シリコーン樹脂マトリックスと導電性基板とを強力に接着させる機能を有する。
【0015】
シランカップリング剤とは、硬化した際、ガラス表面と反応しうるケイ素原子に直接結合した塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、水酸基等から選ばれる活性基と、固体シリコーン樹脂マトリックスと相溶し、もしくは反応することができる(メタ)アクリロイル基、ビニル基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基から選ばれる反応性基が有機基に結合された化合物である。
【0016】
具体的には、(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、プロペニルトリメトキシシラン、プロペニルトリエトキシシラン等の不飽和結合含有シランカップリング剤、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、エポキシシクロヘキセニルエチルトリエトキシシラン等のエポキシ基含有シランカップリング剤、モルフォリノプロピルトリメトキシシラン、モルフォリノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニルアミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基含有シランカップリング剤、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプト基含有シランカップリング剤を挙げることができる。シランカップリング剤は、一種のみを用いても良いし、異なる二種以上を併用しても良い。
【0017】
シランカップリング剤としては、ケイ素原子に結合する水酸基あるいは加水分解して水酸基を生成するアルコキシ基またはハロゲン原子(a)と、ビニル基または(メタ)アクリロイル基(b)の両者を分子内に有したシランカップリング剤が好ましい。中でも、シランカップリング剤中の水酸基は、同一分子内に2つ以上存在するまたは生成し得るものがより好ましい。
【0018】
導電性基板を形成する導電性材料には、通常無機酸化物が使用されており、表面には加水分解された水酸基が存在する。シランカップリング剤として、水酸基を含有するものを用いた場合、導電性材料の水酸基と前記シランカップリング剤中の水酸基が脱水縮合することにより、導電性材料とシランカップリング剤とが共有結合によって強固に接着することができる。また、シランカップリング剤中の水酸基は多いほど、導電性材料との結合のみならず、シランカップリング剤同志の結合が可能となり、シランカップリング剤同志が共有結合することにより、強靭な接着層を形成することができる。
【0019】
調光層の固体シリコーン樹脂マトリックスを形成する材料として、ビニル基または(メタ)アクリロイル基を有するシリコーン樹脂を用いる場合には、このシランカップリング剤も、分子内にビニル基または(メタ)アクリロイル基を有したシランカップリング剤であることが好ましい。ビニル基または(メタ)アクリロイル基を有するシリコーン樹脂が重合硬化して固体シリコーン樹脂マトリックスを形成する際に、シランカップリング剤をも硬化させる様にすれば、このシランカップリング剤中のビニル基または(メタ)アクリロイル基とも重合し、固体シリコーン樹脂マトリックスとシランカップリング剤とが共有結合することで、強固に接着させることが出来る。
【0020】
以上のような要求を満足する最適なシランカップリング剤としては、例えば3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシランが挙げられる。
【0021】
本発明において、硬化したシランカップリング剤を含む接着層は、例えば、導電性基板と調光層のいずれか一方または両方に、シランカップリング剤を塗布して硬化することで得ることが出来る。このシランカップリング剤処理は、例えばシランカップリング剤の単独又は2種以上の原液を塗布する方法、その有機溶剤溶液を塗布する方法、又は加水分解物を塗布する方法で処理される。
【0022】
シランカップリング剤は、調光層、好ましくは導電性基板に塗布積層される。積層方法としては、例えば、まずシランカップリング剤を有機溶媒で希釈し、必要に応じて脱水触媒と水とを加え、公知慣用の塗工手段により支持体に塗布する。これを乾燥することで、シランカップリング剤を導電性基板または調光層に塗布すると同時に、余分な有機溶媒、脱水触媒、水等を蒸発除去する。この状態においては、シランカップリング剤は乾燥した状態である。
【0023】
この際に使用できる有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール等のアルコール系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコールエーテル系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステルエーテル系溶剤、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル等のエーテル系溶剤の単独又は2種以上の混合物が使用できる。
【0024】
有機溶媒としては、例えば、シランカップリング剤、触媒、水のすべてを溶解することができ、かつ、導電性基板との界面張力が低いものから選定することが好ましい。さらに、乾燥工程で容易に除去できるよう、沸点が導電性基板の耐熱温度以下であることが好ましい。この様な観点から、好適な有機溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、イソプロパノール等が挙げられる。有機溶媒の使用量は特に限定されないが、通常、接着層の膜厚に応じて使用量が決められる。
【0025】
脱水縮合触媒としては、例えばアルコキシシラン、ヒドロキシシランを脱水縮合させることが可能なもの、すなわちpHを7以外に保つことが出来るもの挙げられる。固体シリコーン樹脂マトリックスからなる調光層は酸、塩基の存在により劣化が促進されることがあるため、この脱水触媒としては、有機溶媒と水の乾燥時に同時に蒸発可能な酢酸が最も望ましい。酢酸の使用量は、シランカップリング剤に対して、質量換算で、0.001〜10%とすることが好ましく、0.1〜3%であることが特に好ましい。
【0026】
水は、シランカップリング剤中にアルコキシ基が存在する場合には、それを水酸基に変換するために必須である。水の使用量は、シランカップリング剤に対して、質量換算で、例えば0.1〜10%とすることが好ましい。尚、一部が水酸基に変換されれば脱水反応により水が系内に生成するため、アルコキシ基と等モル当量となる様に水を加える必要はない。
【0027】
シランカップリング剤は、導電性基板と調光層のいずれか一方または両方に塗布、乾燥、そして硬化させることで、接着層を形成できる。調光特性を低下させないためには、塗布厚は、乾燥膜厚換算で5μm以下となる様にすることが好ましく、1μm以下とすることがさらに好ましい。この乾燥後と硬化後とでは実質的に膜厚に変化はない。シランカップリング剤の乾燥膜厚が前記した範囲であると、固体シリコーン樹脂マトリックスと導電性基板との密着性が大きく改善されると共に、接着層自体の強度が低下することもなく、必要以上のシランカップリング剤の消費を抑制できるため、経済的にも好ましい。また、懸濁粒子デバイス用フイルムの柔軟性や可撓性の観点から、この接着層は硬化したシランカップリング剤のみを含有していることが好ましい。
【0028】
塗布方法は特に制限されるものではなく、スプレー塗布、コーター塗布、浸漬塗布のいずれでも良いが、例えば、バーコーター、アプリケーター、ドクターブレード、ロールコーター、ダイコーター、コンマコーター等でのコーター塗布が好ましい。
【0029】
乾燥工程は室温で風乾しても良いが、反応時間、乾燥時間の短縮のため、加温して良い。ただし温度の上限は、導電性基板が軟化、変形しない温度である。塗布後の乾燥は、例えば、50〜200℃の温風で1秒〜10分間で乾燥することで行なうことが出来る。ここでは、単にシランカップリング剤の乾燥を行なうだけで、硬化はさせないようにする。
【0030】
懸濁粒子デバイス用フィルムは、上記した接着層を有する以外は、公知慣用の懸濁粒子デバイス用フィルムと同一である。従来の懸濁粒子デバイス用フィルムは、固体シリコーン樹脂マトリックス中に、偏光性粒子のアクリル系重合体懸濁液の液泡が分散されている調光層を有し、その両外側が支持体で挟持されており、その支持体の少なくとも一方が導電性基板である懸濁粒子デバイス用フィルムの調光層と導電性基板の間に、硬化したシランカップリング剤を含む接着層を有する懸濁粒子デバイス用フィルムである。
【0031】
本発明における偏光性粒子のアクリル系重合体懸濁液は、偏光性粒子と、アクリル系重合体とからなる。アクリル系重合体としては、公知慣用の透明なものがいずれも使用出来るが、例えば、炭素原子数1〜24の直鎖または分岐アルキル基を有するモノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルや、フルオロアルキル基を含有するモノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルと、アルキレンオキシドの繰り返し単位を有するモノアルコールまたはジアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルとの共重合体を用いることが出来る。
【0032】
この様なアクリル系重合体としては、具体的には、例えば、炭素原子数1〜6の直鎖または分岐アルキル基を有するモノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルと、トリフルオロメチル基を含有するモノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルと、ヒロドロキシアルキル(メタ)アクリレートとの共重合体や、炭素原子数8〜18のモノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルと、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートやエチレンレンオキシドの繰り返し単位を含有するメタクリレートモノマーとの共重合体を用いることが出来る。尚、本発明において(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸とメタクリル酸の総称であり、(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートの総称である。
【0033】
このアクリル系重合体は、後記する固体シリコーン樹脂マトリックス及びそれを形成する硬化性シリコーン樹脂と出来るだけ同一の屈折率となる様にすることで、両者間の屈折率差を無くし、透明性を高めることが出来る。
【0034】
このアクリル系重合体を調製する際の、炭素原子数1〜6の直鎖または分岐アルキル基を有するモノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルとしては、例えば、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート等が、炭素原子数8〜18のモノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルとしては、例えば、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等が、フルオロアルキル基を含有するモノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルとしては、例えば、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0035】
アクリル系重合体が、側鎖に、炭素原子数8〜18という様な長鎖アルキル基を含有する重合体である場合には、それより炭素原子数が小さいアルキル基を含有する共重合体に比べて、樹脂粘度をより低く抑えることができるため、それを用いた際のSPDにおける偏光性粒子の応答速度をより速くすることが出来る。
【0036】
一方、前記エステルと共重合すべき単量体としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートや、日油(株)製ブレンマーPME−400、同ブレンマーPE−200等のエチレンオキシドの繰り返し単位を含有するメタクリレートモノマーが挙げられる。
【0037】
モノマーは、メタクリロイル基を有するものである場合には、アクリロイル基を有するものである場合に比べて、フリーラジカルによる水素引き抜きが起こり難く、共重合体の分解も起こり難くなるため、耐光性に優れたものとなる。
【0038】
本発明おけるアクリル系重合体は、前記各モノマーを重合することにより得ることが出来る。各モノマーの共重合割合は特に制限されるものではないが、前記エステルと、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートやエチレンオキシドの繰り返し単位を含有するメタクリレートモノマーとの合計を100モル%としたとき、両者仕込み時のモル比〔(前者):(後者)〕が、99:1〜85:15で重合を行なった共重合体であることが、得られるSPDのコントラストの耐熱性、耐候性に優れる点で好ましい。本発明におけるアクリル系重合体は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であっても良い。
【0039】
アクリル系重合体は、公知慣用の製造方法にて容易に製造することが出来る。この際の製造方法としては、例えば溶液重合、乳化重合、懸濁重合等が挙げられる。この際の重合開始剤としては、例えば有機アゾ化合物系重合開始剤や有機過酸化物系重合開始剤を用いることができる。溶液重合を行なう際の有機溶媒としては、シランカップリング剤溶液を調製する際に用いたものを、同様に用いることが出来る。
【0040】
こうして得られたアクリル系重合体は、液泡中で後記する偏光性粒子の分散樹脂として機能するためには、重量平均分子量8,000〜30,000であることが好ましい。この重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)法により測定することができる。
【0041】
偏光性粒子としては、公知慣用のもの、例えばアルカリ土類金属過沃化物と含窒素複素環式化合物(粒子の前駆体)との分子間化合物(ポリ沃化物の針状小結晶粒子)が挙げられる。より具体的には、沃素と沃化カルシウムからなるポリ沃化物とピラジンジカルボン酸とから構成された分子間化合物があり、一般式 CaI(C・ZHO(x:3〜7、y:1〜2、Z:1〜3)で表される。この様な分子間化合物は、沃素と、アルカリ土類金属沃化物と、含窒素複素環式化合物とをニトロセルロースの様な分散剤の存在下、溶媒中で反応させることにより得られる。
【0042】
液泡を形成する際の偏光性粒子とアクリル系重合体(不揮発分)との割合は、例えば、質量換算で、アクリル系重合体(不揮発分)100部当たり、1〜20部である。
【0043】
アクリル系重合体に対して偏光性粒子を分散させることで、液泡を調製することが出来る。偏光性粒子としてその溶媒分散液を用いた場合は、このアクリル系重合体と偏光性粒子の溶媒分散液とを混合した後に、溶媒の除去を行なって、液泡とする。液泡の粘度が高く応答速度が低い場合は、必要に応じて、液泡に可塑剤を加えることも出来る。この可塑剤としては、硬化性シリコーン樹脂への溶解性が低く、液泡成分への溶解性が高く、硬化性シリコーン樹脂や液泡成分との反応性が低い低分子量エステルを好適に用いることが出来る。
【0044】
次に懸濁粒子デバイス用硬化性組成物について説明する。この懸濁粒子デバイス用硬化性組成物は、偏光性粒子、アクリル系重合体を含有してなる液泡及び固体シリコーン樹脂マトリックスを形成する硬化性シリコーン樹脂とを含有するものである。
【0045】
SPDを作製する際、液泡の分散安定性、フィルム化した後の液泡との相分離状態の安定性、透明性、液泡成分との屈折率差、硬化性、ないしは硬化後の柔軟性の点から、固体樹脂マトリックスを形成する樹脂として、従来液状の硬化性シリコーン樹脂が用いられている。特に、分子中にビニル基または(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂は、例えば光重合開始剤の存在下で紫外線を照射すると重合硬化する性質を有しているので好ましい。この性質を利用して、硬化前は前記液泡の分散媒とすることが出来、硬化することで調光層の固体マトリックスとすることが出来る。また、シランカップリング剤として、分子内にビニル基や(メタ)アクリロイル基を有したシランカップリング剤を用いる様にして、それとビニル基または(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂と同時に重合硬化することで、調光層と導電性基板とをより強固に密着させることが出来る。
【0046】
分子中にビニル基または(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂としては、例えば、直鎖状オルガノポリシロキサンの両末端に(メタ)アクリロイル基を有する構造の二官能オルガノポリシロキサンや、直鎖状オルガノポリシロキサンの片末端に(メタ)アクリロイル基を有する構造の単官能オルガノポリシロキサンが挙げられる。尚、(メタ)アクリロイルとは、アクリロイルとメタクリロイルの総称である。
【0047】
直鎖状オルガノポリシロキサンとしては、シロキサンの繰り返し単位中の珪素原子上の置換基の種類や直鎖状分子の末端基の種類により各種のオルガノポリシロキサンが知られている。オルガノポリシロキサンの繰り返し単位における珪素原子上の二つの置換基は、水素原子、メチル基、フェニル基からなる群から選ばれ、この様なオルガノポリシロキサンとしては、例えばポリジメチルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン、ポリ(ジメチルジフェニル)シロキサンなどが知られている。後記する液泡と相溶せず、液泡に対して放射状に配位するためには、オルガノポリシロキサンの直鎖構造の末端は、メチル基、ブチル基の様な炭素原子数1〜6の直鎖また分岐アルキル基か、フェニル基のいずれかの非反応性基であることが好ましい。
【0048】
分子中にビニル基または(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂としては、SPDとした際に、分散媒及び液泡との親和性のバランスが良好で屈折率への影響も少ないものが好ましい。
【0049】
分子中にビニル基または(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂としては、液泡への溶解性が低く、かつ、懸濁粒子デバイス用硬化性組成物を容易に均一に調製でき、塗工も容易となることから、重量平均分子量で20,000〜100,000であることが好ましい。
【0050】
懸濁粒子デバイス用硬化性組成物は、液泡が粒子として、固体樹脂マトリックスを形成する硬化性シリコーン樹脂中に分散した形態がとれれば、液泡と固体樹脂マトリックスを形成する硬化性シリコーン樹脂の、どちらにどちらを加えて分散を行なっても良い。懸濁粒子デバイス用硬化性組成物を調製するに当たっては、例えば、シリコン界面活性剤やシリコーンポリマー型乳化剤を必要に応じて併用することが出来る。好適なシリコーンポリマー型乳化剤としては、例えば、直鎖状オルガノポリシロキサンの片末端に(メタ)アクリロイル基を有する構造の単官能オルガノポリシロキサンマクロモノマーと、長鎖モノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルとの共重合体が挙げられる。
【0051】
これら各成分を混合するに当たっては、通常の混合機、攪拌機、分散機でも十分安定な硬化性組成物が得られるが、分散時間と分散物の乳化安定性の面から、乳化機として市販されているホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、スタティックミキサーなどを用いることが好ましい。
【0052】
尚、分散媒である硬化性シリコーン樹脂と、液泡である偏光性粒子が分散した液泡とは、任意の割合で用いることが出来るが、硬化性シリコーン樹脂の硬化物が連続相を形成し、その連続相中に液泡が粒子として点在して分散する様な構造形態にすることで、調光特性の良好なSPDを作製出来ることから、質量換算で硬化性シリコーン樹脂100部当たり、液胞は20〜100部となる様に用いることが好ましい。硬化後の連続相に分散した点在する個々の液泡は、硬化物の固体シリコーン樹脂マトリックス中に液滴として存在しているため、液泡中の偏光性粒子も何ら拘束はされておらず流動性を維持しており、電界印加により配向が出来るようになっている。
【0053】
分散媒中における液泡の平均径は、1〜10μmとなる様にすることが好ましい。この平均径は、光学顕微鏡で確認することができる。液泡は偏光性粒子により着色しており、一方、分散媒が無色透明である場合には、着色した液泡の径を測定することが出来る。
【0054】
懸濁粒子デバイス用硬化性組成物は、任意の方法にて硬化させることが出来る。この硬化により、分散媒である硬化性シリコーン樹脂が重合硬化し、偏光性粒子が分散したアクリル系重合体からなる液泡が重合硬化物に固定されSPDが作製される。ビニル基または(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂を重合硬化させるためには、熱や、紫外線や電子線の様な活性エネルギー線を用いることができる。熱源よりも光源を用いた活性エネルギー線硬化のほうが、省エネルギーに貢献でき短時間での硬化が容易であるため、光源を用いて活性エネルギー線を照射して硬化することが好ましい。紫外線を用いる場合は、照射光の波長でラジカルを発生する光重合開始剤を併用したり窒素パージしたりすることで、硬化性はより良好になる。
【0055】
光重合開始剤としては、水素引き抜き型、直接開裂型のいずれも使用できるが、硬化速度の面から直接開裂型のアリールアルキルケトン系、オキシム系、アシルフォスフィンオキサイド系、メタロセン系が好ましい。特に分散媒が(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂の場合は、アシルフォスフィンオキシド系重合開始剤を用いることが好ましい。アシルフォスフィンオキサイド系としてはビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド(同IRGACURE 819),2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(BASF社製Lucirin TPO),2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルフォスフィンオキサイド(同Lucirin TPO−L)が挙げられる。また、上記重合開始剤は二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0056】
懸濁粒子デバイス用硬化性組成物には、後記するSPD用フィルムの効果を阻害しない範囲で、前記した光重合開始剤の他、紫外線吸収剤や酸化防止剤、安定剤、粘着付与剤、離型剤等の添加剤を添加することが出来る。懸濁粒子デバイス用硬化性組成物の性状は、25℃において液状であり、流動性を示すものであることがSPDを作製する際の作業性が良好であるため好ましい。
【0057】
懸濁粒子デバイス用硬化性組成物が液状であると、塗布、吐出、あるいは注型等の方法で容易に任意形状とすることができ、これを硬化すれば所望の形状のSPDを容易に得ることが出来る。その性状は、全体として25℃において固体状であり流動性を示さないことが、取扱いが良好であるため好ましい。
【0058】
本発明の懸濁粒子デバイス用フィルムは、どの様な方法で製造しても良いが、調光層と導電性基板との間に、硬化したシランカプッリング剤を含む接着層が存在する様に製造される。
【0059】
本発明における支持体は、前記調光層の両外側に配置され、その調光層を挟んだ形で保持するものである。即ち本発明の懸濁粒子デバイスは、固体シリコーン樹脂マトリックス中に、偏光性粒子のアクリル系重合体懸濁液の液泡が分散されている調光層を有し、その両外側が支持体で挟持されており、その支持体の少なくとも一方が導電性基板である。懸濁粒子デバイスを作動させるに当たっては、この支持体の一方、好ましくは両方が、導電性基板である必要がある。
【0060】
導電性基板とは、表面に透明電極が担持された基板である。基板のベース基材としてはガラスや熱可塑性樹脂フィルム等を、透明電極としては酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛・酸化錫等の蒸着膜やそれらの微粒子を含有する塗膜、有機導電体薄膜等を好適に用いることが出来る。柔軟性や可撓性に優れた懸濁粒子デバイス用フィルムを得る場合には、透明PETフィルムをベース基材とする導電性基板を用いることが好ましい。調光層の両外側における支持体の一方として導電性基板を用いた場合における、他方の支持体として、導電性基板以外を用いる場合には、柔軟性や可撓性に優れた透明PETフィルムの様な熱可塑性樹脂フィルム自体を用いることが出来る。また、調光層の両外側における支持体として、いずれも導電性基板を用い、活性エネルギー線硬化性の懸濁粒子デバイス用硬化性組成物を用いる場合には、シランカップリング剤を含む接着層に面した外側の導電性基板としては、その硬化性組成物を硬化するための活性エネルギー線が透過できる様な厚み或いは光線透過性を有するものが用いられる。
【0061】
上記した懸濁粒子デバイス用硬化性組成物と、導電性基板とから懸濁粒子デバイス用フィルムを得る好適な製造方法は、以下の通りである。
固体シリコーン樹脂マトリックス中に、偏光性粒子のアクリル系重合体懸濁液の液泡が分散されている調光層を有し、その両外側が支持体で挟持されており、その支持体の少なくとも一方が導電性基板である懸濁粒子デバイス用フィルムの調光層と導電性基板の間に、硬化したシランカップリング剤を含む接着層を有する懸濁粒子デバイス用フィルムの製造方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする懸濁粒子デバイス用フィルムの製造方法。
a)導電性基板の導電面側にシランカップリング剤を塗布する工程、
b)導電性基板のシランカップリング剤の塗布乾燥面に、液状の硬化性シリコーン樹脂に偏光性粒子のアクリル系重合体懸濁液の液泡が分散されている液状調光層を形成する工程、
c)導電性基板上に塗布乾燥されたシランカップリング剤及びその上の液状の硬化性シリコーン樹脂を硬化させることによって、固体シリコーン樹脂マトリックス中に偏光性粒子のアクリル系重合体懸濁液の液泡が分散されている調光層を形成すると同時に、この調光層と導電性基板とを、硬化したシランカップリング剤を介して接着させる工程。
【0062】
上記製造方法における各工程a)、b)及びc)は、通常、この順に行なわれる。
【0063】
上記の製造方法においては、まず、支持体の少なくとも一方が導電性基板の導電面側にシランカップリング剤を塗布する(工程a)。シランカップリング剤の導電性基板の導電面への密着性を向上させるため、シランカップリング剤は塗布した後、乾燥させることが好ましい。導電性基板は通常二枚用いるが、その場合は、少なくともその一枚が、透明であることが好ましい。支持体としては導電性基板を二枚用いることが特に好ましい。導電性基板を二枚用いる場合には、基板と調光層との密着性向上のため、二枚の基板のいずれの導電面にも、シランカップリング剤を塗布することが好ましい。
【0064】
後記する様に、調光層を形成する硬化性シリコーン樹脂を紫外線等の活性エネルギー線で硬化させる場合や、シランカップリング剤として、ビニル基や(メタ)アクリロイル基を含有するシランカップリング剤を用いる場合には、乾燥されているが未硬化状態にあるシランカップリング剤が導電面側に塗布された基板に、その非導電面側から活性エネルギー線照射を行うことが、硬化工程の簡素化や調光層と導電性基板との密着性向上の観点からも好適である。
【0065】
次に、導電性基板のシランカップリング剤の塗布乾燥面に、液状の硬化性シリコーン樹脂に偏光性粒子のアクリル系重合体懸濁液の液泡が分散されている液状調光層を形成する(工程b)。シランカップリング剤の塗布乾燥面では、既に、基板の導電面の導電性材料とシランカップリング剤との両者水酸基間の脱水縮合等に基づく共有結合や、シランカップリング剤同志の反応に基づく共有結合によって、シランカップリング剤と基板とが強固に接着している。そこでこれを支持体として、この乾燥塗布面に、液状の硬化性シリコーン樹脂に偏光性粒子のアクリル系重合体懸濁液の液泡が分散されている上記した懸濁粒子デバイス用硬化性組成物を更に積層することで液状調光層を形成する。
【0066】
こうして、導電性基板の導電面上に塗布乾燥されたシランカップリング剤の未硬化状態にある接着層及びその上に未硬化状態にある調光層が積層した積層フィルムが得られるが、液状調光層は、硬化前は流動性があるため、その上にもう一方の導電性基板を重ね合わせることで、密着性や取り扱い性を高める。この際の導電性基板として、乾燥されているが未硬化状態にあるシランカップリング剤が導電面側に塗布された導電性基板を用いた場合には、液状調光層とそのシランカップリング剤の塗布乾燥面とが対向して接する様に、液状調光層に導電性基板を重ね合わせることが好ましい。
【0067】
最後に、導電性基板上に塗布乾燥されたシランカップリング剤及びその上の液状調光層を硬化させることによって、固体シリコーン樹脂マトリックス中に偏光性粒子のアクリル系重合体懸濁液の液泡が分散されている硬化した調光層を形成すると同時に、この調光層と導電性基板とを、硬化したシランカップリング剤を介して接着させる(工程c)。
【0068】
シランカップリング剤及び液状調光層中のシリコーン樹脂の硬化は、硬化したシランカップリング剤による接着層の形成と、硬化した調光層すなわち固体シリコーン樹脂マトリックスの形成をもたらす。これら両者の硬化を同時に行うことで、接着層と調光層との優れた密着性が得られるが、調光層を形成する硬化性シリコーン樹脂とシランカップリング剤の両方が、ビニル基や(メタ)アクリロイル基を含有するものを用いる場合には、接着層中のシランカップリング剤と調光層中の硬化性シリコーン樹脂とが、更に重合反応により硬化して共有結合するため、接着層と調光層とはより優れた密着性が得られる。
【0069】
シランカップリング剤及び液状調光層中の硬化性シリコーン樹脂の硬化は、熱硬化にて行っても良いが、硬化時間の短縮化や支持体である導電性基板の反りを抑制できる観点から、紫外線等の活性エネルギー線による硬化が好ましい。硬化は、調光層を形成するための上記懸濁粒子デバイス用硬化性組成物に対して、例えば熱重合開始剤を添加しておくことによって熱で、光重合開始剤を添加しておくことによって紫外線ないし可視光で、また重合開始剤無添加系であっても、電子線で促進することができる。
【0070】
上記好適な懸濁粒子デバイス用フィルムの製造方法においては、支持体の少なくとも一枚に透明な導電性基板を用いているため、この基板の非導電面側から活性エネルギー線を照射することで、シランカップリング剤及び液状調光層中の硬化性シリコーン樹脂を同時に硬化させることが出来る。二枚の透明な導電性基板を用いている場合には、基板の両方の非導電面側から活性エネルギー線を照射することも出来る。
【0071】
硬化に用いる活性エネルギー線としては、低圧水銀灯、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、無電極放電ランプ、キセノンランプ、エキシマランプ等の紫外線ランプ類、走査型、非走査型の電子線照射装置等を用いることができる。活性エネルギー線の照射量としては、紫外線の場合は100〜10000mJ/cm2、電子線の場合は1〜50Mradが好ましい。懸濁粒子デバイス用硬化性組成物が有機溶媒を含む場合には、その塗布後に50〜200℃の温風で1秒〜10分間乾燥させて、有機溶媒を蒸発させた後に活性エネルギー線を照射することが好ましい。
【0072】
こうして得られた懸濁粒子デバイス用フィルムは、調光材料として、例えば、室内外の仕切り(パーティション)、建築物用の窓硝子/天窓、電子産業及び映像機器に使用される各種平面表示素子、各種計器板と既存の液晶表示素子の代替品、光シャッター、各種室内外広告及び案内表示板、航空機/鉄道車両/船舶用の窓硝子、自動車用の窓硝子/バックミラー/サンルーフ、眼鏡、サングラス、サンバイザー等の用途に使用することが出来る。
【0073】
以下、製造例、実施例、比較例により本発明を詳細に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「部」および「%」は質量基準である。
【実施例】
【0074】
[偏光性粒子の製造]
温度センサーを備えた500mL4つ口フラスコに10%のニトロセルロース(エス・エヌ・ピー・イー・ジャパン(株)製HIG1/16。窒素分11.9%、重量平均分子量29,000)を酢酸イソアミルに溶解した溶液265g、メタノール4.00g、純水(所要量は1.77gからニトロセルロースの酢酸イソアミル溶液、沃化カルシウム、メタノール中の水分を差し引き算出した)、沃化カルシウム5.30g、沃素9.00gを加え、45℃に保持した湯浴に漬けて1時間攪拌することによって沃化カルシウム、沃素を完全に溶解した。この溶液に、ピラジン− 2,5 −ジカルボン酸2水和物6.00gを投入し、同温度で攪拌を3時間継続し、さらに超音波分散機で2時間分散した。得られた分散液を遠心分離機に入れ、12,000Gの重力で3時間遠心分離し、偏光性粒子を沈降させた。上澄みを廃棄し、沈降物に酢酸イソアミルを75g加えて超音波分散機で2時間分散し、偏光性粒子分散液を製造した。
【0075】
[アクリル系重合体の製造]
滴下ロート、温度センサー、窒素導入管、ジムロートコンデンサーを備えた500mL4つ口フラスコにトルエン(国産化学(株)製試薬一級)を50mL仕込み、磁気攪拌子を用い攪拌しながら、室温にて窒素を30分間トルエンにバブリングさせ、系内を窒素置換した。ついで窒素導入管を少し引き上げてバブリングさせずに導入するようにすると同時に、オイルバスによる加熱を開始した。オイルバス温度が142〜145℃に達し系内が還流状態になったのを確認した後、ドデシルメタクリレート(和光純薬(株)製試薬一級)122.10g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(和光純薬(株)製試薬一級)2.60g、N−オクチル3−メルカプトプロピオネート(日油(株)製連鎖移動剤、品名NOMP)16.00g、t−ブチルペルオキシ2−エチルヘキサノエート(日油(株)製有機過酸化物系重合開始剤、品名パーブチルO)12.50gの混合液を1時間かけて滴下した。さらに加熱還流を4時間継続し、重合反応を進行させた。加熱を止め、60℃、2hPa、1時間の条件にて、エバポレーターを用いてトルエンを除去した。こうして、透明の油状物が147.85g得られた。ついで得られた油状物を、200℃、2Paの条件下で薄膜蒸留により揮発性不純物を除去して、炭素原子数12のアルキル基とヒドロキシルエチル基とを側鎖に有する液状のメタクリレート樹脂を得た。
【0076】
[偏光性粒子懸濁液の製造]
200mLビーカーに上記で得たメタクリレート樹脂25g、トリメリット酸トリイソデシル13g、パーフルオロスベリン酸ジメチル1g、実施例1で得た偏光性粒子分散液33gを加え、攪拌機により30分間混合した。次いで、酢酸イソアミルをロータリーエバポレーターにて1330Paの真空で70℃、3時間減圧除去し、粒子沈降および凝集現象のない、安定な液状の偏光粒子懸濁液を得た。
【0077】
[硬化性シリコーン樹脂の製造]
温度センサー、ディーンスタークトラップを備えた2Lの4つ口フラスコに未精製量末端シラノール基ジメチルジフェニルシロキサンコポリマー158g、3−アクリロキシプロピルジメトキシメチルシラン20g、ヘプタン800mlを投入し、磁気攪拌子を用い攪拌しながら、75分間加熱還流を行なった。留出水は0.4mlであった。一旦90℃に冷却し、2−エチルヘキサン酸スズ(II)66mgを少量のヘプタンに溶解した溶液に加え、再び105分間加熱還流し脱水を行なった。留出水は1.6mlであった。次いで、ディーンスタークトラップの冷却管上部より、メトキシトリメチルシラン120mlを注意深く加えた。2時間還流を継続後、冷却・部分的に脱溶剤を行い、無色透明油状の粗シリコーン樹脂316gを得た。該粗シリコーン樹脂を560gのメタノールで4回洗浄し、脱溶剤を行って、無色透明油状のアクリロイル基を含有するシリコーン樹脂166gを得た。
【0078】
[懸濁竜粒子デバイス用硬化性組成物の製造]
上記製造例で得たアクリロイル基を含有する硬化性シリコーン樹脂10g、光重合開始剤としてのビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製IRGACURE 819)0.03gを混合し、これに上記製造例で得た偏光性粒子懸濁液4.0gを添加し、1分間機械的に混合し、懸濁粒子デバイス用硬化性組成物を得た。
【0079】
[シランカップリング剤処理された導電性基板の製造]
3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン1.0部、メチルエチルケトン6.5部及び2%酢酸水溶液0.5部を混合し、均一なシランカップリング剤溶液を得た。この溶液をITO蒸着PETフィルム(10cm×10cm、表面電気抵抗値300Ω/sq)のITO面側に5cm幅アプリケーターを用いて0.5milの厚さで塗工し、100℃の乾燥機で5分間乾燥した。この時、ITO蒸着PETフィルム上の乾燥したシランカップリング剤層は1μm以下であった。前記フィルムを2枚用意した。
【0080】
実施例1
上記で得られた、乾燥シランカップリング剤塗布層が設けられた導電性基板の1枚のシランカップリング剤層の上に、上記製造例で調製した懸濁粒子デバイス用硬化性組成物を、5cm幅アプリケーターで4milの厚さで塗布し、もう1枚のITO蒸着PETフィルムの乾燥シランカップリング剤層と重ね合わせた。
【0081】
この積層体に、コンベア型UV照射機を使用して積算光量がUVA成分で2.8J/cm になるように紫外線を照射し、懸濁粒子デバイス用硬化性組成物中のシリコーン樹脂および乾燥シランカップリング剤層中のアクリロイル基を同時に重合させ、固体シリコーン樹脂マトリックスに液泡が分散した調光層と、シランカップリング剤からなる接着層とを共有結合にて一体化させた。こうすることで、調光層と接着層と導電性基板の導電面とを強固に接着させた。
得られた懸濁粒子デバイス用フィルムは、PET/ITO/硬化したシランカップリング剤層/調光層/硬化したシランカップリング剤層/ITO/PETという構造をしている。
【0082】
この10cm角の懸濁粒子デバイス用フィルム(調光層は5cm幅×8cm長)を長さ方向に5cmRで湾曲させ、次に元の平面に戻したが、剥離は起こらず、シランカップリング剤が調光層とITO蒸着PETフィルムを強力に接着させていることを示した。また、2枚のITO蒸着PETフィルムを強引に剥がそうとしたところ、両PETフィルムに長さ方向に約1cm幅の帯状の調光層がそれぞれ2本と3本残り、2つのシランカップリング剤層が調光層と均等に強力に接着していることを示していた。90℃以上の高温下でも接着強度が低下しなかった。
【0083】
比較例1
乾燥したシランカップリング剤層を有さない2枚のITO蒸着PETフィルムを用いた以外は実施例1と同様に懸濁粒子デバイス用フィルムを作製した。
得られた懸濁粒子デバイス用フィルムは、PET/ITO/調光層/ITO/PETという構造をしている。この10cm角のライトバルブ(調光層は5cm幅×8cm長)を長さ方向に5cmRで湾曲させ、次に元の平面に戻したところ、湾曲の外側のITOと調光層の間に空気が入り、一部が剥離した。また、2枚のITO蒸着PETフィルムを剥がそうとしたところ、一方のITOと調光層の間で容易に剥離した。これらの事実は、ITOと調光層の接着力が非常に低いことを示していた。
【0084】
試験例(接着特性の評価)
<剥離強度の測定方法>
エー・アンド・ディー社製テンシロン計を用いて、JIS K6854−3(接着剤―剥離接着強さ試験方法―第3部:T型はく離)に準じて剥離強度を測定した。懸濁粒子デバイス用フィルムを裁断し、試験片を25mm幅、接着長さを5cm以上とし、剥離強度が安定したところの数値を読み取った。
【0085】
上記の実施例1と比較例1で得られた2枚の懸濁粒子デバイス用フィルム試験片の接着特性を表1に示した。
【0086】
【表1】

【0087】
表1の結果から明らかなように、従来の調光層と導電性基板の導電面との間に、硬化したシランカップリング剤を含む接着層が存在することにより、その接着層が存在しない場合に比べて、接着強度が4倍に増加していることがわかる。
【0088】
調光特性の評価
上記の実施例1と比較例1で得られた2枚の懸濁粒子デバイス用フィルムの透過率、コントラスト及びヘーズを以下の方法に従って測定した。
【0089】
(透過率、コントラストの測定方法)
BYK−Gardner社製Haze−Gard Dual計を用い、JIS K7361−1に基づいてD65光源における電圧を印加していない状態の全光線透過率(T(OFF)(%))と、100V、400Hzの交流電圧を印加した状態の全光線透過率(T(ON)(%))を測定した。また、両者の差(T(ON)−T(OFF))をコントラストΔT(%)と定義した。この数値が大きいほど調光特性として好ましい。
【0090】
(ヘーズの測定方法)
上記同様Haze−Gard Dual計を用い、JIS K7136に基づいて100V、400Hzの交流電圧を印加した状態のヘーズ(H(ON)(%))を測定した。この数値が小さいほど調光特性として好ましい。
【0091】
上記の実施例1と比較例1で得られた2枚の懸濁粒子デバイス用フィルムの調光特性をまとめて表2に示した。
【0092】
【表2】

【0093】
表2の結果から明らかなように、硬化したシランカップリング剤を含む接着層が2つ増えることによる調光特性に変化は無く、接着層の存在が懸濁粒子デバイス用フィルムの調光特性を妨害しなかった。
【0094】
本発明の懸濁粒子デバイス用フィルムは、従来の懸濁粒子デバイス用フィルムよりも調光層と導電性基板の間の接着力に優れており、また、接着層の存在が、調光特性、生産性に影響を与えない、最適な懸濁粒子デバイス用フィルムである。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の懸濁粒子デバイス用フィルムは、固体シリコーン樹脂マトリックス中に、偏光性粒子のアクリル系重合体懸濁液の液泡が分散されている調光層を有し、その両外側の少なくとも一方が、透明である導電性基板で挟まれた構造の懸濁粒子デバイス用フィルムにおいて、調光層と導電性基板の間に、硬化したシランカップリング剤を含む接着層を有することを特徴とする懸濁粒子デバイス用フィルムであり、調光層と導電性基板の接着強度がより強く、かつ、その接着層を加えても調光特性、生産性を低下させず、さらに90℃以上の高温下でも接着強度が低下しないため、建築物用の窓・間仕切り(パーティッション)、乗り物(自動車、航空機、船舶、鉄道車両、宇宙船等)用の窓・サンルーフ・サンバイザー・ミラー・間仕切り、家庭電化製品の窓、眼鏡・サングラス、サンバイザー、パーソナルコンピュータ・計器板・広告・案内標示板等の表示素子、光シャッター、農作物・植物用温室の屋根・壁材等の用途に使用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体シリコーン樹脂マトリックス中に、偏光性粒子のアクリル系重合体懸濁液の液泡が分散されている調光層を有し、その両外側が支持体で挟持されており、その支持体の少なくとも一方が導電性基板である懸濁粒子デバイス用フィルムにおいて、調光層と導電性基板の間に、硬化したシランカップリング剤を含む接着層を有することを特徴とする懸濁粒子デバイス用フィルム。
【請求項2】
接着層に含まれる硬化したシランカップリング剤が、ケイ素原子に結合する水酸基あるいは加水分解して水酸基を生成するアルコキシ基またはハロゲン原子(a)とビニル基(b)の両者を分子内に有したシランカップリング剤の硬化物である請求項1記載の懸濁粒子デバイス用フィルム。
【請求項3】
固体シリコーン樹脂マトリックスが、ビニル基または(メタ)アクリロイル基を含む液状シリコーン樹脂の重合によって形成された固体シリコーン樹脂マトリックスである請求項1または2記載の懸濁粒子デバイス用フィルム。
【請求項4】
固体シリコーン樹脂マトリックス中に、偏光性粒子のアクリル系重合体懸濁液の液泡が分散されている調光層を有し、その両外側が支持体で挟持されており、その支持体の少なくとも一方が導電性基板である懸濁粒子デバイス用フィルムの調光層と導電性基板の間に、硬化したシランカップリング剤を含む接着層を有する懸濁粒子デバイス用フィルムの製造方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする懸濁粒子デバイス用フィルムの製造方法。
a)導電性基板の導電面側にシランカップリング剤を塗布する工程、
b)導電性基板のシランカップリング剤の塗布乾燥面に、液状の硬化性シリコーン樹脂に偏光性粒子のアクリル系重合体懸濁液の液泡が分散されている液状調光層を形成する工程、
c)導電性基板上に塗布乾燥されたシランカップリング剤及びその上の液状の硬化性シリコーン樹脂を硬化させることによって、固体シリコーン樹脂マトリックス中に偏光性粒子のアクリル系重合体懸濁液の液泡が分散されている調光層を形成すると同時に、この調光層と導電性基板とを、硬化したシランカップリング剤を介して接着させる工程。

【公開番号】特開2010−237265(P2010−237265A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82242(P2009−82242)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)