説明

成人T細胞白血病の急性転化を判定するための方法

【課題】くすぶり型又は慢性型の成人T細胞白血病(ATL)患者におけるATLの急性転化を判定するための方法及びキットを提供する。
【解決手段】くすぶり型又は慢性型の成人T細胞白血病患者より採取された試料中のCD30を測定することを含む、当該患者におけるATLの急性転化を判定するための方法;CD30測定用試薬を含有することを特徴とする、くすぶり型又は慢性型ATL患者におけるATLの急性転化判定用キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、くすぶり型又は慢性型の成人T細胞白血病(以下、ATLと記す)患者より採取された試料中のCD30を測定することを含む、当該患者におけるATLの急性転化を判定するための方法や、この方法に用いるキットに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトTリンパ球向性ウィルスは、レトロウィルスの1種であり、1型と2型の2つの型が存在する。このうち、1型、すなわち、HTLV−1は、日沼らによって成人T細胞白血病/リンパ腫の原因ウィルスとして同定されている(非特許文献1、2、3参照)。
【0003】
ヒトにおけるHTLV−1感染は、主に母から子への垂直感染ならびに夫から妻への水平感染であるが、輸血による医原性感染も知られている。輸血による医原性感染は、1986年から開始された抗HTLV−1(または2)抗体を検査することにより防止されてきた。輸血による医原性感染の疫学的研究から、HTLV−1感染は血球細胞成分が介在していることが知られている。HTLV−1に感染すると、生体中に抗HTLV−1抗体が生成してくるので、抗HTLV−1抗体を測定することにより、HTLV−1の感染を知ることができる。
【0004】
抗HTLV−1抗体を測定する方法としては、免疫学的手法を用いた測定方法が知られており、ゼラチン粒子凝集法(PA法)、蛍光抗体法(FA法)、間接蛍光抗体法(IF法)、酵素免疫法(ELISA法)、ウェスタンブロット法(WB法)などが知られている。
【0005】
しかしながら、単独の方法でのHTLV−1感染の判定は確実ではなく、一次スクリーニングで陽性と判断された場合でも、FA法、WB法といった二次スクリーニングを行う必要がある。さらに当該被験者がHTLV−1に感染しているという診断を最終的に下すためには、末梢血またはリンパ節細胞のリンパ球ゲノムにHTLV−1プロウィルスDNAが組み込まれていることをサザンブロット法あるいはPCR法を用いて遺伝子的に証明する必要がある。
【0006】
HTLV−1が引き起こす疾患としては、例えば血流内やリンパ器官内で発症する成人T細胞性白血病/リンパ腫、脊髄内で発症するHTLV−1関連脊髄症(HAM/TSP)、眼球内で発症したブドウ膜炎(HU)等が知られている。
【0007】
ATLは、HTLV−1の感染が原因となって起こる独立した疾患である。HTLV−1キャリア(HTLV−1に感染した者で、上記のHTLV−1が引き起こす疾患を発症していない者)は日本国内で120万人と推定されており、HTLV−1キャリアの1000人に1人が感染から平均50年後にATLを発症すると言われている。発症率は非常に低いがひとたび発症するときわめて短期間で重篤な結果もたらすと言われている。
【0008】
ATLは、急性型、リンパ腫型、慢性型、くすぶり型の4種類の臨床病型に分類され、この臨床病型は化学療法を含めた治療方針の決定に広く使用されている。リンパ腫型や急性型はがん細胞の増殖が早く、急速に症状が出現するために予後(生存率)が悪いと言われており、早急な治療が必要となる。一方、くすぶり型は血液中のがん細胞の数が少なく症状をあまり伴わないため、無治療で長期間変わらず経過することが多い。慢性型は、血液中のがん細胞の増殖が早くなく症状もあまり伴わないため、無治療で経過を観察することが一般的に行われている。このように、急性型、リンパ腫型に比べると、慢性型やくすぶり型は生存率が高いと言われている。
【0009】
しかしながら、慢性型やくすぶり型から、急性型やリンパ腫型の病状へと急性転化する場合があると言われている。くすぶり型ATL、慢性型ATL患者の長期追跡結果によるとくすぶり型ATLの3割は急性転化し、慢性型ATLの8割が経過中に急性転化していたと報告されている。急性転化した場合は、急性型やリンパ腫型と同様に、早急に治療を開始する必要がある。現在、血清中のLDH活性や可溶型インターロイキン−2受容体(以下、sIL−2Rと記す)濃度、白血球数、末梢血ATL細胞数、カルシウム濃度などを検査し、異常がみられた場合には、リンパ節腫脹の有無と数、皮膚病変の有無、肺病変の有無、肝脾腫の有無、その他の病変の有無、画像診断としてのCT(Computed Tomography)検査ならびにガリウムシンチグラフィ検査あるいはPET(陽電子放射断層撮影)検査を行い、急性型やリンパ腫型への急性転化の確定診断を行っているが、急性転化を早期に予知することは困難である。
【0010】
1990〜1995年の本邦全国ATL実態調査によると、ATL2123例中、急性型は1328例(62.6%)、リンパ腫型は505例(23.8%)、慢性型は176例(8.3%)、くすぶり型は114例(5.4%)であった。
【0011】
ATLについては、化学療法のみの治療成績では完全寛解率は16〜41%、生存期間中央値は3〜13ヵ月であり、その予後は極めて不良であることが報告されていたが、化学療法による着実な進歩が見られ、最近では生存期間中央値が12ヶ月を越える治療法も報告されている。また、化学療法で十分な効果が期待できない場合は、骨髄移植(同種造血幹細胞移植)が積極的に行われるようになり、一部の患者では治癒も期待できるようになってきた(非特許文献4参照)。
【0012】
ATL発症を予測する方法がJSPFAD(Joint Study of Predisposing Factors of ATL Development)により研究されているが、未だ有用な方法は報告されていない。
【0013】
sIL−2RはATLの病態モニタリングや予後予測の有用な指標として活用されており、ATLの発症予測因子として期待されている。しかしながら、sIL−2Rは腫瘍細胞数を反映すると同時に生体内における免疫反応の活性化も反映していることや、慢性関節リウマチや間質性肺炎、C型肝炎患者では、sIL−2R濃度が基準値を遙かに超えて数千U/mLを示す事があることが報告されていることから、HTLV−1キャリアがこのような疾患に罹患していた場合、ATLの発症予測の指標としてsIL−2R濃度を用いることが適さない可能性がある。
【0014】
LDHは、体内の組織中に広く分布し、嫌気的解糖系最終段階に働く酵素である。血清・血漿中のLDH活性は、急性肝炎、心筋梗塞、悪性貧血、白血病、悪性腫瘍などで上昇が見られることより、これらの疾患の診断および経過観察に有用である。ATLにおいて、LDH活性は腫瘍量を反映し病勢とよく相関することから、診断基準の1つとして用いられている。
【0015】
CD30は、TNFRスーパーファミリーに属する受容体で、ホジキン病細胞、ステルンベルグ−リード(Sternberg-Reed)細胞、未分化大細胞リンパ腫(ALCL)細胞、ATL細胞で発現していることが報告されている(非特許文献5、6参照)。その後、CD30の細胞外部分が切断された可溶型CD30(以下、sCD30と記す)が血中に存在すること事が報告されている。ATL患者とCD30との関連については、健常人と比べATL患者血液中のsCD30量が多いこと、すでに増悪化した急性型ATLおよびリンパ腫型ATLにおいて、化学療法により寛解となるとsCD30量が低下すること、寛解した後に再発した際にsCD30量が増加することが報告されている(非特許文献7参照)。
【0016】
【非特許文献1】Proceeding of the National Academy of Sciences of the United States of America, 78, 6476. 1981
【非特許文献2】Proceeding of the National Academy of Sciences of the United States of America, 79, 2031. 1982
【非特許文献3】Sciences, 219, 856. 1983
【非特許文献4】International journal of hematology, 69(3):203-5. 1999 Apr
【非特許文献5】Nature, 2;299(5878):65-7. 1982 Sep
【非特許文献6】Histopathology, 26(6):539-46. 1995 Jun
【非特許文献7】Cancer science, 96(11):810-5. 2005 Nov
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、HTLV−1キャリアにおけるATL発症の早期診断によるHTLV−1キャリアのQOLの向上、ATL患者、特にくすぶり型又は慢性型ATL患者における急性転化の早期診断によるくすぶり型又は慢性型ATL患者のQOLの向上を指向し、HTLV−1キャリアにおけるATL発症リスク、ATL患者における骨髄移植後の予後、くすぶり型又は慢性型のATL患者におけるATLの急性転化を判定する方法、及び、くすぶり型又は慢性型のATL患者における治療時期決定のための優れた方法、並びにこれらの方法に用いるためのキットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
発明者は、本課題の解決のために鋭意検討し、TNFスーパーファミリーに属する因子であるCD30を測定することにより、ATL患者における骨髄移植後の予後、HTLV−1キャリアにおけるATL発症リスク、及びくすぶり型又は慢性型のATL患者におけるATLの急性転化の判定が可能となるという知見を見出し、さらに、CD30と、IL−2R又はLDH活性とを測定することにより、くすぶり型又は慢性型のATL患者における治療時期を決定できる、という知見を見出し、本発明を完成させた。
【0019】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[10]に関する。
[1] ヒトTリンパ球向性ウィルス1型キャリアより採取された試料中のCD30を測定し、得られる測定値により、当該キャリアにおける成人T細胞白血病発症リスクを判定する方法。
[2] 成人T細胞白血病患者より採取された試料中のCD30を測定し、得られる測定値により、当該患者における骨髄移植後の予後を判定する方法。
[3] くすぶり型又は慢性型の成人T細胞白血病患者より採取された試料中のCD30を測定し、得られる測定値により、当該患者における成人T細胞白血病の急性転化を判定する方法。
[4] くすぶり型又は慢性型の成人T細胞白血病患者より採取された試料中のCD30と、インターロイキン−2受容体及び/又は乳酸脱水素酵素活性とを測定し、得られる測定値により、当該患者の急性転化後の治療方針を決定する方法。
[5] CD30が、可溶型である[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6] CD30測定用試薬を含有することを特徴とする、ヒトTリンパ球向性ウィルス1型キャリアにおける成人T細胞白血病発症リスク判定用キット。
[7] CD30測定用試薬を含有することを特徴とする、成人T細胞白血病患者における骨髄移植後の予後判定用キット。
[8] CD30測定用試薬を含有することを特徴とする、くすぶり型又は慢性型の成人T細胞白血病(ATL)患者におけるATLの急性転化判定用キット。
[9] CD30測定用試薬と、インターロイキン−2受容体測定用試薬及び/又は乳酸脱水素酵素活性測定用試薬とを含有することを特徴とする、くすぶり型又は慢性型の成人T細胞白血病患者の急性転化後の治療方針決定用キット。
[10] CD30が、可溶型である[6]〜[9]のいずれかに記載のキット。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、HTLV−1キャリアにおけるATL発症リスク、ATL患者における骨髄移植後の予後、くすぶり型又は慢性型のATL患者におけるATLの急性転化を判定することや、くすぶり型又は慢性型のATL患者の急性転化後の治療方針を決定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明におけるCD30は、可溶型CD30(sCD30)と非可溶型CD30の両方を包含するが、可溶型CD30(sCD30)が好ましい。また、本発明におけるCD30は、全長型のみならず一部が切れた断片型をも包含する。本発明におけるIL−2Rは、可溶型IL−2R(sIL−2R)と非可溶型IL−2Rの両方を含むが、可溶型IL−2R(sIL−2R)が好ましい。
【0022】
[HTLV−1キャリアにおけるATL発症リスク判定方法]
本発明において、HTLV−1キャリアにおけるATL発症の判定は、例えば以下の工程を含有する方法により行うことが出来る。
(1)HTLV−1キャリアより採取された試料を用いて、当該試料中のCD30を測定する工程;
(2)予め作成したCD30濃度と情報量との関係を表す検量線と、(1)での測定値とから、当該生体試料中のCD30の濃度を決定する工程;
(3)(2)で決定した当該試料中のCD30濃度を基準値に照らし合わせて、CD30濃度が当該基準値よりも高い場合、当該キャリアをATL発症のリスクが高いと判定し、CD30濃度が当該基準値よりも低い場合、当該キャリアをATL発症のリスクが低いと判定する工程。
【0023】
HTLV−1キャリアとは、前記の通り、HTLV−1に感染しているがATL等の疾患を発症していない者を指すが、HTLV−1キャリアより採取された試料中のCD30の測定は、例えば後述のCD30測定方法により行うことができる。
【0024】
上記基準値は、測定値の平均値±2SD(SD:標準偏差)で規定することが好ましい。ここで、測定値としては、健常人に対する測定値であっても、HTLV−1キャリアに対する測定値であってもよいが、測定によって決定されるCD30濃度は、測定に使用する試薬の種類や測定法等の測定条件により変わり得るので、基準値は、同一の測定条件下で、あらかじめ選択した母集団に対して行った測定により規定することが好ましい。HTLV−1キャリアにおけるATL発症リスクの予測に際して、母集団としては、ATLを発症していない健常人及び/又はHTLV−1キャリアからなる集団であり、母集団の人数としては、通常10名以上、好ましくは30人以上、より好ましくは50人以上である。
【0025】
例えば、HTLVに感染していない健常人32名の血液中に含まれるsCD30濃度を測定した際の平均値±SDが38.7±28.0U/mLである場合は、健常人のsCD30濃度を規定する基準値としては、平均値+2SDである、94.7U/mLと規定することができる。
【0026】
また、HTLV−1キャリアの血液中に含まれるsCD30濃度を測定した際17名の平均値±SDが40.2±23.2U/mLである場合は、HTLV−1キャリアのsCD30濃度を規定する基準値としては、平均値+2SDである、86.6U/mLと規定することができる。
【0027】
同様に、急性型ATL6症例、リンパ腫型ATL5症例、及び慢性型ATL2症例の血清中のsCD30濃度がそれぞれ、1977〜14900U/mL(平均±2SD:5408±10290)、415〜3748U/mL(平均±2SD:3626±8418)、314〜369U/mL(平均±2SD:341±79)である場合は、sCD30の濃度が270U/mL以上であれば、ATLを発症していると判定でき、100U/mL未満であればATLを発症していない、と判定できる。
【0028】
HTLV−1キャリアにおけるATL発症リスクは、HTLV−1キャリアより採取された試料中のCD30濃度から判定できるが、基準値からの割合によっても判定することができる。HTLV−1キャリアに対してATL発症のリスクが高いと判定できる場合の基準値に対する割合は、1.1以上であり、好ましくは3以上であり、より好ましくは4以上である。また、HTLV−1キャリアに対してATL発症のリスクが高いと判定できる場合のCD30濃度としては、100U/mL以上であり、好ましくは270U/mL以上であり、より好ましくは360U/mL以上である。
【0029】
このように、HTLV−1キャリアより採取された試料中のCD30濃度が基準値よりも高濃度である場合に該キャリアがATLを発症するリスクが高いと判定することができる。また、基準値を適当に規定することにより、くすぶり型又は慢性型ATLと、リンパ腫型又は急性型ATLとを判別することもできる。当該判別は、例えば400U/mLを基準値として規定することにより行うことができる。
【0030】
[ATL患者における骨髄移植後の予後を判定する方法]
本発明において、ATL患者における骨髄移植後の予後判定は、例えば以下の工程を含有する方法により行うことが出来る。
(1)急性型又はリンパ腫型ATLと判定された患者より採取された試料を用いて、当該試料中のCD30を測定する工程;
(2)予め作成したCD30濃度と情報量との関係を表す検量線と、(1)での測定値とから、当該生体試料中のCD30の濃度を決定する工程;
(3)(2)で決定した当該試料中のCD30濃度を基準値と照らし合わせて、CD30濃度が当該基準値よりも高い場合、当該患者を骨髄移植後の予後が不良と判定し、CD30濃度が当該基準値よりも低い場合、当該患者を骨髄移植後の予後が良好と判定する工程。
【0031】
通常、骨髄移植は、移植に先立ち病態を安定化させるために、化学療法、またはCHOP療法[(i)アドリアシン(ドキソルビシン、慣用名:アドリアマイシン、抗がん剤抗生物質)、(ii)エンドキサン(シクロホスファミド、アルキル化剤)、(iii)オンコビン(ビンクリスチン、植物アルカロイド)、(iv)プレドニゾロン(プレドニン、副腎皮質ホルモン剤)の4剤を組み合わせて治療を行う方法]等の治療を行って病態を安定させ、移植の数日前に抗がん剤や放射線による前処理により骨髄中の細胞を死滅させた後に行われる。
【0032】
上記(3)において、骨髄移植後の予後を判定するための基準値は、骨髄移植後の予後が良好な患者と予後が不良な患者とを母集団として、各々の母集団のCD30濃度から適宜決めることができるが、通常、150〜200U/mLである。例えば、骨髄移植前の急性型又はリンパ腫型ATLと判定された患者より採取された試料中のCD30濃度が442U/mL以上では、骨髄移植後の予後が不良と判定でき、111U/mL以下であれば、骨髄移植後の予後が良好と判定することができる。
【0033】
[くすぶり型又は慢性型ATL患者における急性転化を判定する方法]
慢性型ATL、くすぶり型ATLは一般的に無治療で経過観察が行われるが、リンパ腫型や急性型に急性転化する。くすぶり型ATL、慢性型ATL患者の長期追跡結果によると、くすぶり型ATLの3割は急性転化し、慢性型ATLの8割が経過中に急性転化していたと報告されている。急性転化した場合は、急性型やリンパ腫型と同様に、早急に治療を開始する必要がある。
【0034】
本発明において、くすぶり型又は慢性型ATL患者における急性転化の判定は、例えば以下の工程を含有する方法により行うことが出来る。
(1)くすぶり型又は慢性型ATLと判定された患者より採取された試料を用いて、当該試料中のCD30を測定する工程;
(2)予め作成したCD30濃度と情報量との関係を表す検量線と、(1)での測定値とから、当該試料中のCD30濃度を決定する工程;
(3)(2)で決定した当該試料中のCD30濃度を基準値と照らし合わせて、CD30濃度が当該基準値よりも高い場合、当該患者を急性転化が進行したと判定し、CD30濃度が当該基準値よりも低い場合、当該患者を急性転化が進行していないと判定する工程。
【0035】
くすぶり型又は慢性型ATL患者における急性転化は基準値を基に判定することができ、該患者より採取された試料中のCD30濃度そのものからも、該CD30濃度の基準値に対する割合からも判定することができる。くすぶり型又は慢性型ATL患者より採取された試料中のCD30濃度の基準値に対する割合は、2.0倍以上、好ましくは3.0倍以上、より好ましくは4.0倍以上である。また、くすぶり型又は慢性型ATL患者より採取された試料中のCD30濃度の基準値は、400U/mL以上、好ましくは600U/mL以上、より好ましくは800U/mL以上である。
【0036】
[くすぶり型又は慢性型ATL患者が急性転化したときの治療方針を決定する方法]
本発明において、くすぶり型又は慢性型ATL患者における治療開始時期の決定は、例えば以下の工程を含有する方法により行うことが出来る。
(1)くすぶり型又は慢性型ATLと判定された患者より採取された試料を用いて、当該試料中のCD30と、IL−2R及び/又はLDH活性とを測定する工程;
(2)予め作成したCD30濃度と情報量との関係を表す検量線と、(1)でのCD30の測定値とから、当該試料中のCD30濃度を決定する工程;
(3)(2)で決定した当該試料中のCD30濃度を基準値と照らし合わせて、CD30濃度が当該基準値よりも高い場合、当該患者を急性転化したと判定し、CD30濃度が当該基準値よりも低い場合、当該患者を急性転化していないと判定する工程;
(4)(3)で急性転化したと判定された患者について、(1)でのIL−2Rの測定値の、くすぶり型又は慢性型ATLと判定されたときのIL−2Rの測定値に対する割合(基準値)、及び/又は、(1)でのLDH活性の測定値の、くすぶり型又は慢性型ATLと判定されたときのLDH活性の測定値に対する割合(基準値)を算出する工程;及び
(5)(4)で算出された割合に基づいて、急性転化と判定された患者の急性転化後の治療方針を決定する工程。
【0037】
上記(3)におけるCD30濃度に係る基準値は、前記くすぶり型又は慢性型ATL患者における急性転化を判定する方法の基準値を用いることができる。また、(4)におけるIL−2Rに係る基準値は、1.5以上であり、2.0以上が好ましく、3.0以上がより好ましい。また、LDH活性に係る基準値は、1.5以上であり、2.0以上が好ましい。
【0038】
上記(4)において、IL−2RまたはLDH活性に係る基準値を超えない場合は、弱めの治療を施せばよく、当該基準値を超える場合は強めの治療を施す必要がある。弱めの治療としては、3週間隔で投与するCOP療法、THP−CHOP療法[CHOP療法のアドリアマイシンをピラルビシンに置き換えた方法]等が挙げられ、強めの治療としては、2週間隔CHOP療法やLSG15(Leukemia Study Group 15)療法等が挙げられる。
【0039】
本発明において使用される試料は、被検者より採取された試料であって、CD30、IL−2R及びLDH活性が測定され得る試料であれば特に制限はないが、血漿、血清等が好ましい。
【0040】
本発明において、試料中のCD30、IL−2R及びLDH活性の測定は、例えば公知の方法およびキットを用いることにより行うことができる。
【0041】
当該測定方法としては、生体試料中のCD30、IL−2R又はLDH活性を測定可能とする方法であれば特に制限はないが、例えば免疫学的測定法、酵素学的測定方法等が挙げられる。
【0042】
免疫学的測定法としては、任意の公知の免疫学的測定方法があげられ、例えば放射免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIAまたはELISA)、蛍光免疫測定法(FIA)、間接蛍光抗体法(Indirect Fluorescence assay)、発光免疫測定法(Luminescent immunoassay)、物理化学的測定法[比濁免疫測定法(TIA)、ラテックス凝集法(LAPIA)、微粒子計数免疫凝集測定法(PCIA)]、ウェスタンブロッティング法等が挙げられるが、ELISA法が好ましく用いられる[単クローン抗体実験マニュアル(講談社サイエンティフィック、1987)、続生化学実験講座5免疫生化学研究法(東京化学同人、1986)]。
【0043】
免疫学的測定法においては、サンドイッチ法、競合法等を用いることができ、また、ホモジアニス法、ヘテロジニアス法等も用いることができる。
【0044】
酵素学的測定法としては、任意の公知の酵素学的測定方法があげられる。
【0045】
CD30測定用試薬を含有する本発明のキットは、HTLV−1キャリアにおけるATL発症リスクの判定、ATL患者における骨髄移植後の予後判定、くすぶり型又は慢性型のATL患者におけるATLの急性転化の予測に用いることができ、CD30測定用試薬及びIL−2R測定用試薬又はLDH活性測定用試薬を含有する本発明のキットは、くすぶり型又は慢性型のATL患者における急性転化後の治療方針の決定に用いることができる。
【0046】
CD30測定用試薬としては、CD30に特異的に結合する第1の抗体が結合した固相、及びCD30に特異的に結合する第2の抗体に標識が結合した標識化第2抗体を含む試薬を例示することができる。第1の抗体におけるCD30の抗原決定部位と、第2の抗体におけるCD30の抗原決定部位とは同じであっても異なっていてもよい。標識化第2抗体における標識としては、例えば酵素や放射性物質等が挙げられる。酵素としては、例えばペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ等が挙げられる。放射性物質としては、例えば125I等が挙げられる。
【0047】
第1の抗体が結合した固相における該抗体と固相との結合としては、例えば非共有結合、共有結合等が挙げられる。非共有結合としては、例えば物理吸着等が挙げられる。共有結合としては、例えば該抗体と固相との直接的な結合や、リンカー等を介した該抗体と固相との間接的な結合等が挙げられる。
【0048】
固相としては、第1の抗体を固定化し、CD30の免疫学的測定法を可能にする固相であれば特に制限はなく、例えばマイクロタイタープレートなどのポリスチレンプレート、ガラス製または合成樹脂製の粒子物(ビーズ)、ガラス製または合成樹脂製の球状物(ボール)、ラッテクス、磁性粒子、ニトロセルロース膜などの各種メンブレン、合成樹脂製の試験管などがあげられる。
【0049】
第1の抗体が結合した固相を用いることにより、検体中のCD30と、該固相上の該抗体との反応後、固相を洗浄することにより、未反応の物質を固相から除去することができるので好ましい。このCD30測定用試薬を用いることにより、試料中のCD30を測定することができる。試料中のCD30濃度は、例えば以下の工程を含む方法により決定することが出来る。
[1]固相上に結合した第1の抗体と試料中のCD30とを反応させて、固相上に第1の抗体−CD30複合体を形成させる工程;
[2]工程[1]で生成した複合体と標識化第2抗体とを反応させて、固相上に第1の抗体−CD30−標識化第2抗体複合体を形成させる工程;
[3]工程[2]での固相を洗浄し、未反応の物質を固相上から除去する工程;
[4]工程[3]の後、固相上に生成した第1の抗体−CD30−標識化第2抗体複合体中の標識量を測定する工程;
[5]工程[4]での測定値と、予め作成したCD30濃度と標識量との関係を表す検量線とから、該試料中のCD30濃度を決定する工程。
【0050】
尚、上記[1]工程と[2]工程との間に洗浄工程を挿入してもよい。
【0051】
試料中のCD30濃度を決定するに際して使用する検量線は、既知濃度のCD30を用いて作成することができる。すなわち、既知濃度のCD30を含む試料を、例えば上記の測定法に供し、得られる情報量とCD30濃度とを関係付けることにより検量線を作成することができる。ここで、情報量としては、例えば吸光度、蛍光強度、発光強度、放射活性、濁度等が挙げられる。作成した検量線と測定値とから、測定に使用した試料中のCD30濃度を決定することができる。
【0052】
検量線作成および試料中のCD30の測定においては、市販のCD30測定用キットを用いることもできる。市販のCD30測定用キットとしては、例えばhuman sCD30 ELISA(Bender MedSystems社製)等を挙げることができる。
【0053】
本発明において、試料中のIL−2Rは、IL−2R測定用試薬を用いて測定することができる。IL−2R測定用試薬としては、例えばIL−2Rに特異的に結合する第1の抗体が結合した固相、及びIL−2Rに特異的に結合する第2の抗体に標識が結合した標識化第2抗体を含む試薬を例示することができる。第1の抗体におけるIL−2Rの抗原決定部位と、第2の抗体におけるIL−2Rの抗原決定部位とは同じであっても異なっていてもよい。
【0054】
標識化第2抗体における標識としては、例えば前述の標識等が挙げられる。
【0055】
第1の抗体が結合した固相における該抗体と固相との結合としては、例えば前述の結合等が挙げられる。
【0056】
固相としては、第1の抗体を固定化し、IL−2Rの免疫学的測定法を可能にする固相であれば特に制限はなく、例えば前述の固相等が挙げられる。
【0057】
第1の抗体が結合した固相を用いることにより、検体中のIL−2Rと、該固相上の該抗体との反応後、固相を洗浄することにより、未反応の物質を固相から除去することができるので好ましい。このIL−2R測定用試薬を用いることにより、試料中のIL−2Rを測定することができる。試料中のIL−2R濃度は、例えば上記のCD30濃度測定方法と同様の方法で測定することができる。
【0058】
検量線作成および試料中のIL−2Rの測定においては、市販のIL−2R測定用キットを用いることもできる。市販のIL−2R測定用キットとしては、例えばセルフリー(R)IL−2Rメデックス(協和メデックス株式会社製)等が挙げられる。
【0059】
LDH活性測定用試薬を用いたLDH活性の測定方法としては、ピルビン酸から乳酸への反応を利用したWroblewski-LaDue法や、L−乳酸からピルビン酸への反応を利用したIFCC(国際臨床化学連合)勧告法やJSCC(日本臨床化学会)常用基準法がある。ピルビン酸から乳酸への反応は、検体中のLDHがNADH[ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(還元型)]の存在下でピルビン酸と反応し、乳酸とNAD[ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(酸化型)]へと変化することを利用し、このときのNADHの減少速度を測定することでLD活性を測定することができる。
【0060】
L−乳酸からピルビン酸への反応は、検体中のLDHがNADの存在下で乳酸と反応し、ピルビン酸とNADHへと変化することを利用し、このときのNADHの増加速度を測定することでLDH活性を測定することができる。
【0061】
検量線作成および試料中のLDH活性の測定においては、市販のLDH活性測定キットを用いることもできる。市販のLDH活性測定キットとしては、例えばデタミナー(R)LD(協和メデックス株式会社製)等が挙げられる。
【0062】
このように、試料中のCD30を測定することにより、HTLV−1キャリアにおけるATL発症リスク、ATL患者における骨髄移植後の予後、及び、くすぶり型又は慢性型のATL患者におけるATLの急性転化の判定ができる。さらにくすぶり型又は慢性型のATL患者より採取された試料中のCD30と共に、sIL−2R及び/又はまたはLDH活性を測定することにより、急性転化した患者に対する治療方針を決定することができる。このことは、CD30が、HTLV−1キャリアにおけるATL発症リスク判定用マーカー、ATL患者における骨髄移植後の予後判定用マーカー、くすぶり型又は慢性型のATL患者における急性転化判定用マーカーとして機能し得ることを意味する。
【0063】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
本実施例においては、以下のメーカーの試薬類を使用した[human sCD30 ELISA(Bender MedSystems社製)]。
【実施例1】
【0064】
HTLV−1キャリア17症例のsCD30濃度とsIL-2R濃度
インフォームドコンセントを得たHTLV−1キャリア17人(HTLV−1感染以外に疾患に罹患していない人)の血清中のsCD30濃度を、sCD30測定用キット[human sCD30 ELISA(Bender MedSystems社製)]、および可溶性IL−2R測定キット[セルフリー(R)IL−2Rメデックス(協和メデックス社製)]を用いて測定した。また、17名のsCD30およびsIL−2Rの測定値が正規分布であることを確認した後、この群より平均値と標準偏差(SD)を算出した。その結果を表1に示す。
【0065】
【表1】


【0066】
sCD30測定キット[human sCD30 ELISA]の添付文書に記載された健常人のsCD30基準値の上限(平均+2SD)は、94.7U/mL、可溶性IL−2Rの基準値は220〜530U/mL(株式会社エスアールエルの検査案内書を参照)であった。17症例のsCD30値はいずれも基準値である94.7U/mL以下で、発症リスクが低いと判断される。一方、IL−2R値は、17症例のうち6症例で基準値を超えていた。17名のHTLV−1キャリアはいずれもATLを発症していないが、IL−2R値を指標とした場合、基準値を超えている人がいる。
【0067】
IL−2R濃度は、ATLを発症していないHTLV−1キャリアであっても基準値を超えており、誤って発症のリスクが高いと判断してしまう恐れがある。一方、sCD30濃度は、17症例における濃度がいずれも健常人の基準値以下でありATL発症リスクが低いことを証明している。つまり、この結果は、HTLV−1キャリアより採取された試料中のsCD30を測定することでATL発症リスクを判定できることを示している。
【実施例2】
【0068】
HTLV−1キャリアのATL発症例および未発症例のモニター
HTLV−1キャリアの血液中のsCD30濃度とsIL−2R濃度をモニターした結果を表2および図1に示す。日数とは、sCD30濃度及びsIL−2R濃度の追跡調査を始めた日を基準(0日)とした時の相対的な日数を示す。
【0069】
【表2】

【0070】
336日目で、ATLを発症していないHTLV−1キャリアの血液中のsCD30濃度は、健常人基準値上限である94.7U/mLを越えていないことが分かる。
【実施例3】
【0071】
急性型ATL患者、リンパ腫型ATL患者、慢性型ATL患者の血清中のsCD30濃度
インフォームドコンセントを得た、急性型ATL7症例、リンパ腫型ATL4症例、慢性型ATL2症例の血清中のsCD30濃度を、sCD30測定用キットを用いて測定し、その結果を表3に示した。
【0072】
急性型7症例は1154〜14900U/mL、リンパ腫型は415〜9533U/mL、慢性型は314〜369U/mLであった。実施例1で示したとおり、健常人のsCD30基準値の上限(平均+2SD)は、94.7U/mL、HTLVキャリアのsCD30の上限(平均+2SD)は、97.7U/mLであり、急性型、リンパ腫型及び慢性型ATL患者のsCD30濃度は何れも健常人及びHTLVキャリアのsCD30濃度の上限を超えていた。
【0073】
【表3】

【実施例4】
【0074】
インフォームドコンセントを得たATL患者4症例(患者A、B、E、V)について、骨髄移植前のsCD30濃度およびsIL−2R濃度を測定し、移植後の患者の状態を観察した。その結果を第4表〜第7表、および第2図〜第5図に示す。第4表〜第7表における移植後日数とは、移植日を基準(0日)とした時の相対的な日数を示す。また、化学療法(先がダイヤ型の矢印)、CHOP療法(実線矢印)、前処理(点線矢印)が施された日を、図に矢印で示した。
【0075】
【表4】


【0076】
患者A(表4、図2)は、化学療法中のsCD30濃度が741〜808U/mLと基準値よりもはるかに高い値を示した。移植6日前に前処理が施され移植が行われた。その後、既存マーカーであるsIL−2R濃度は落ち着いていたが、移植後52日目にsIL−2R濃度が急激に上昇し、移植後99日目に死亡した。
【0077】
【表5】


【0078】
患者B(表5、図3)は、化学療法中のsCD30濃度が2788U/mLと基準値よりもはるかに高い値を示した。移植7日前に前処置が施され、骨髄移植が行われた。移植後20日目、sIL−2R濃度、sCD30濃度はいずれも高値を示していた。移植後64日目に死亡した。
【0079】
【表6】


【0080】
患者E(表6、図4)は、移植117日前、97日前、76日前に化学療法を、移植50日前にCHOP療法を行った。前処置直前のsCD30濃度は2384U/mLと基準値をはるかに超える値を示した。移植8日前に前処置が施され、骨髄移植が行われた。移植後32日目に死亡した。
【0081】
【表7】


【0082】
患者V(表7、図5)は、化学療法中のsCD30濃度が932U/mLと基準値よりもはるかに高い値を示した。移植7日前に前処置が施され、骨髄移植が行われた。移植後41日目以降、sIL−2R濃度、sCD30濃度はいずれも高値を示していた。移植後58日目に死亡した。
【0083】
【表8】


【0084】
患者W(表8、図6)は、化学療法中のsCD30濃度が442U/mLと基準値よりもはるかに高い値を示した。移植7日前に前処置が施され、骨髄移植が行われた。移植後56日目に死亡した。
【0085】
【表9】


【0086】
患者AF(表9、図7)は、化学療法中のsCD30濃度が720U/mLと基準値よりもはるかに高い値を示した。移植5日前に前処置が施され、骨髄移植が行われた。移植後14日目に死亡した。
【0087】
【表10】


【0088】
患者G(表10、図8)は、化学治療中のsCD30濃度が111U/mLと健常人の基準値の上限付近の値となっていた。移植4日前に前処理が施され、骨髄移植が行われた。移植後190日目まで、sCD30濃度は200U/mL以下で落ち着いており、容態も安定していた。移植後442日目現在も容態は安定しており、生存している。sIL−2Rは移植後に免疫反応の影響を受けるため2125U/mLと高値であった。
【0089】
これらの結果をまとめると、骨髄移植前(前処置直前)にsCD30濃度を測定し、200U/mL以上であれば、骨髄移植後の予後は不良となり、200U/mL以下であれば骨髄移植後の予後が良好であると判定することができる。すなわち、骨髄移植前にsCD30濃度を測定することで、骨髄移植後の予後を判定することができる。
【0090】
sIL−2Rは、ATLにおいて病態を把握する指標として用いられている。しかしながら、sIL−2Rは腫瘍細胞数を反映すると同時に、生体内における免疫反応の活性化も反映しているため、ATLやリンパ腫特異的な指標とはならない。また、慢性関節リウマチや間質性肺炎、C型肝炎患者では、sIL−2R値が基準値を遙かに超えて数千U/mLを示す事があることが報告されている。このため、骨髄移植前のsIL−2R濃度を測定することで、誤って予後が悪いと判断してしまう恐れがある。よって、sIL-2R濃度を測定するのと同時にsCD30濃度を測定することで、sIL−2R濃度を単独で測定するよりも優れた予後判定ができる。
【実施例5】
【0091】
慢性型ATLから急性転化した患者の血液中sCD30濃度の経時的変化
インフォームドコンセントを得た慢性型ATL患者2症例(患者AI、BA)について、血液中のLDH活性、sCD30濃度およびsIL−2R濃度を測定し、患者の状態を観察した。その結果を第11表〜第12表、および第9図〜第10図に示す。第11表〜第12表における日数とは、sCD30濃度およびsIL−2R濃度の観察を開始した日を基準(0日)とした時の相対的な日数を示す。また、第11表〜第12表における上昇率とは、慢性型ATL患者のsCD30濃度を観察し始めた日(0日)のsCD30濃度を基準として、それぞれの日数における濃度との比を示している。
【0092】
【表11】


【0093】
患者BA(表11、図9)は、慢性型ATL患者で、57日目に急性型ATLと診断された症例であった。
【0094】
外来受診で、sCD30濃度を観察し始めて21日目にLDHが280IU/Lと高値を示したため27日目より入院した。同日(27日目)の血液検査の結果増悪傾向を示さず、頚部リンパ節腫脹も自然に縮小していたため、28日目に退院した。56日目(sCD30は未測定)にLDHが450IU/Lと急上昇しため翌57日目に入院し急性型ATLと診断された(急性転化)。
【0095】
sCD30の濃度観測開始後58日目から1回目の化学療法、71日目から2回目の化学療法、84日目より3回目の化学療法を実施した。3回目の化学療法後にLDHの上昇がみられたため117日目から4回目の化学療法が実施され軽快したため退院した(寛解はしていない)。その後、通院治療が施され、ATL細胞も減少しているが完全寛解には至っていない。
【0096】
sCD30の濃度観測開始当日(0日目)のsCD30が369U/mL、sIL−2Rが3756U/mLとHTLV−1キャリアの基準値より高い値を示したが、急性型やリンパ腫型のような高値を示していなかった(表3参照)。42日目で807U/mL、49日目で1048U/mLまで上昇し、急性型ATLと診断された直後の58日目では1554U/mLとなった。また、慢性型ATLのsCD30濃度の基準値(平均+2SD、表3参照)を基準とした上昇率を観察すると、sCD30濃度の上昇率は42日目で1.93倍、49日目で2.50倍まで上昇し、急性転化が確認された直後の58日目では3.71倍まで上昇した。一方、既存マーカーであるsIL−2R濃度やLDH活性の上昇も見られたが、sIL−2R濃度が42日目で1.50倍、49日目で1.66倍、LDH活性が42日目で1.22倍、49日目で1.36倍であった。既存マーカーであるsIL−2RやLDH活性に比べてsCD30濃度の上昇率は高かった。また、治療を開始した58日目のLDH活性およびsIL−2R濃度の上昇率は、それぞれ3.13倍、2.27倍であった。患者BAは、完全に寛解には至っていないが、ATL細胞が減少し慢性型ATLとなった。
【0097】
【表12】


【0098】
患者AI(表12、図10)は、慢性型ATL患者で、189日目にリンパ腫型ATLと診断された症例であった。
【0099】
担当医による詳細な情報は以下の通りである。
sCD30測定の観察を始める98日前、胸部異常陰影、末梢血中のATL細胞を認め受診を開始した。胸腔鏡下右肺部分切除術の施行後から末梢血中にATL細胞が増加し慢性型ATLと診断された。その後、168日目に胸部レントゲンの異常に気づき169日目に入院した(この時点で、LDHの上昇はみられず)。189日目に、胸部CT検査の結果、縦郭と右肺門部のリンパ節腫脹が認められリンパ腫型ATLと診断された(急性転化)。おそらく168〜189日目で急性転化したと推測された。
【0100】
LSG(Leukemia Study Group)15のプロトコールに従い、198日目、233日目、286日目に、3回の化学療法を行った。同時に肺病変が消失した。357日目に完全寛解した。
【0101】
sCD30測定の観察を始めた当日(0日目)のsCD30濃度が314U/mL、sIL−2R濃度が2691U/mLとHTLVキャリアの基準値より高い値を示したが、急性型やリンパ腫型のような高値を示していなかった(表3参照)。91日目で613U/mL、126日目で735U/mL、168日目で1983U/mL、180日目に2831U/mL、急性転化が確認された直前の187日目では3569U/mLまで上昇した。また、0日目のsCD30濃度を基準とした場合の上昇率を観察すると、sCD30濃度の上昇率は126日目で1.75倍、168日目で4.73倍まで上昇した。一方、既存マーカーであるsIL−2R濃度やLDH活性の上昇はほとんど見られず、sIL−2R濃度が126日目で0.97倍、168日目で1.16倍、LDH活性が126日目で0.83倍、168日目で0.92倍であった。sCD30濃度の急激な上昇を確認したことにより確定診断が行われ、リンパ腫型ATLに急性転化していることが確認された。また、治療を開始する直前の197日目のLDH活性およびsIL−2R濃度の上昇率は、それぞれ1.52倍、1.54倍であった。3回の化学療法で患者AIの肺病変が完全に消失し、357日目に完全寛解した。
【0102】
急性転化した2症例の治療効果を比べてみると、患者AIが完全寛解に至ったのに対し、患者BAは完全寛解には至らなかった。両症例の違いを比較してみると、症例AIではLDH活性およびsIL−2R濃度の上昇が起こらないうちに治療を開始しているのに対し、症例BAでは、LDH活性の上昇率が2.27倍、sIL−2R濃度の上昇率が3.13倍になったときに治療を開始している。LDHやsIL−2Rは腫瘍細胞数を反映している診断マーカーであるので、腫瘍細胞数が少ない段階で治療を開始した症例AIの方が治療の効果が出たと判断される。つまり、LDH活性やsIL−2R濃度の上昇率が低い症例の方が、上昇率が高い症例に比べて、同じ化学療法を施行した場合、高い治療効果を期待することができる。また、急性転化が予測され、LDH活性やsIL−2R濃度の上昇率に応じて治療の強弱を選択することもできる。すなわち、LDH活性やsIL−2R濃度の上昇率が低いときには弱めの治療でも効果が期待できるが、上昇率が高いときには強めの治療を施す必要がある。このように、sCD30濃度により急性転化が判定できた段階で、LDH活性とsIL−2R濃度を観察することで、治療法や治療の開始時期などの治療方針を決定することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明により、HTLV−1キャリアやATL患者のQOL向上に有用な、HTLV−1キャリアにおけるATL発症リスク、ATL患者における骨髄移植後の予後、及び、くすぶり型又は慢性型のATL患者におけるATLの急性転化を判定する方法、及び、くすぶり型又は慢性型のATL患者における急性転化後の治療方針を決定する方法、並びにこれらの方法に用いるキットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】HTLV−1キャリア(キャリアM)の血清中sIL−2R濃度、およびsCD30濃度を経時的に示した図である。
【図2】ATL患者Aの血清中sIL−2R濃度、およびsCD30濃度を経時的に示した図である。
【図3】ATL患者Bの血清中sIL−2R濃度、およびsCD30濃度を経時的に示した図である。
【図4】ATL患者Eの血清中sIL−2R濃度、およびsCD30濃度を経時的に示した図である。
【図5】ATL患者Vの血清中sIL−2R濃度、およびsCD30濃度を経時的に示した図である。
【図6】ATL患者Wの血清中sIL−2R濃度、およびsCD30濃度を経時的に示した図である。
【図7】ATL患者AFの血清中sIL−2R濃度、およびsCD30濃度を経時的に示した図である。
【図8】ATL患者Gの血清中sIL−2R濃度、およびsCD30濃度を経時的に示した図である。
【図9】慢性型ATL患者(患者BA)について、血液中のLDH活性、sCD30濃度およびsIL−2R濃度の上昇率を経時的に示した図である。
【図10】慢性型ATL患者(患者AI)について、血液中のLDH活性、sCD30濃度およびsIL−2R濃度の上昇率を経時的に示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
くすぶり型又は慢性型の成人T細胞白血病患者より採取された試料中のCD30を測定することを含む、当該患者における成人T細胞白血病の急性転化を判定するための方法。
【請求項2】
CD30が、可溶型である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
CD30測定用試薬を含有することを特徴とする、くすぶり型又は慢性型の成人T細胞白血病(ATL)患者におけるATLの急性転化判定用キット。
【請求項4】
CD30が、可溶型である請求項3に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−83670(P2013−83670A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−13206(P2013−13206)
【出願日】平成25年1月28日(2013.1.28)
【分割の表示】特願2008−116144(P2008−116144)の分割
【原出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(504136993)独立行政法人国立病院機構 (37)
【出願人】(000162478)協和メデックス株式会社 (42)
【Fターム(参考)】