説明

成分分析装置

【課題】適切な測定結果を得ることのできる成分分析装置を提供する。
【解決手段】成分分析装置1は、血液70を内包する密閉容器60に対して近赤外光を照射する機能および照射した近赤外光を受光する機能を有する測定部20と、血液70を流動させる流動装置50とを備えている。流動装置50は、密閉容器60を傾斜させることにより血液70を流動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象を内包する密閉容器に対して近赤外光を照射する機能および照射した近赤外光を受光する機能を有する測定部を備える成分分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記成分分析装置として、例えば特許文献1の装置が知られている。
この成分分析装置は、縦に支持した状態の密閉容器に近赤外光を照射する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−210973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、血液においては、赤血球等の重い成分が下方に沈殿するため、密閉容器内の成分の分布が不均一となる。このため、特許文献1の成分分析装置により赤血球を含む液体の成分を測定する場合、成分の分布の不均一さに起因して適切な測定結果が得られないおそれがある。
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、適切な測定結果を得ることのできる成分分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
・本発明の成分分析装置は、測定対象を内包する密閉容器に対して近赤外光を照射する機能および照射した前記近赤外光を受光する機能を有する測定部を備える成分分析装置において、前記測定対象は赤血球を含む液体であること、前記測定対象を流動させる流動装置を備えることを特徴としている。
【0007】
・この成分分析装置においては、前記流動装置は、前記密閉容器を傾斜させることにより前記測定対象を流動させることが好ましい。
・この成分分析装置においては、前記測定部は前記近赤外光の拡散反射光を受光することが好ましい。
【0008】
・この成分分析装置においては、前記測定部は前記流動装置の駆動により前記測定対象が流動しているときに前記近赤外光を照射することが好ましい。
・この成分分析装置においては、前記測定部のうちの前記近赤外光を照射する部分および前記近赤外光を受光する部分の一方を第1光部とし、他方を第2光部として、複数の前記第1光部が前記第2光部を中心として円状に配置されることが好ましい。
【0009】
・この成分分析装置においては、前記測定対象の流速を測定する流速測定装置を備えることが好ましい。
・この成分分析装置においては、前記密閉容器において前記近赤外光が照射される部分の厚さを調節する調節装置を備えることが好ましい。
【0010】
・この成分分析装置においては、前記流動装置は、前記密閉容器の一部を圧縮することにより前記測定対象を流動させることが好ましい。
・この成分分析装置においては、前記測定部は前記近赤外光の拡散透過光を受光することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、適切な測定結果を得ることのできる成分分析装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態の成分分析装置について、その全体構成を示す構成図。
【図2】同実施形態の成分分析装置について、光ファイバーの構造を示す正面図。
【図3】同実施形態の成分分析装置について、(a)は密閉容器が水平状態にあるときの断面構造を示す断面図、(b)は密閉容器が傾斜状態にあるときのその一部の断面構造を示す断面図。
【図4】本発明の第2実施形態の成分分析装置について、(a)は流動装置が基本状態にあるときのその一部の断面構造を示す断面図、(b)は流動装置が動作状態にあるときのその一部の断面構造を示す断面図。
【図5】本発明の第3実施形態の成分分析装置について、その全体構成を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
本実施形態では、密閉容器に封入された血液について、そのグルコース濃度を測定する成分分析装置として本発明を具体化した一例を示している。
【0014】
図1に示されるように、成分分析装置1は、近赤外光を照射する機能および近赤外光を受光する機能を備える測定部20と、密閉容器60を支持する支持装置30と、密閉容器60の内部の血液70を流動させる流動装置50と、密閉容器60の厚さを調節する調節装置40とを備えている。また、各種の制御を行う制御部11と、測定結果を表示する表示部12と、測定のためにユーザーにより操作される操作部13とを備えている。
【0015】
制御部11は、操作部13の操作に基づいて各種の処理を実行する。その一例として以下のものが挙げられる。
・調節装置40を駆動して測定距離を調節する処理。
・流動装置50を駆動して血液70を流動させる処理。
・測定部20が受光した近赤外光に基づいてグルコース濃度を算出する処理。
【0016】
測定部20は、近赤外光を発生させるハロゲン光源21と、血液70中を通過した近赤外光を分光する分光部22と、分光部22において分光された近赤外光に基づいて受光信号を生成する受光素子22Aとを備えている。またこの他に、ハロゲン光源21の光を遮光することができるシャッター26を備えている。
【0017】
また、測定部20は、近赤外光を伝達するための発光ファイバー24および受光ファイバー25を備えている。発光ファイバー24は、ハロゲン光源21から発生した近赤外光を血液70に伝達する。受光ファイバー25は、血液70を通過した拡散反射光を分光部22に伝達する。
【0018】
なお、発光ファイバー24のハロゲン光源21側とは反対側の端部が血液70に対して近赤外光を照射する照射部24Aとして構成されている。また、受光ファイバー25の分光部22とは反対側の端部が血液70を通過した近赤外光を受光する受光部25Aとして構成されている。なお、照射部24Aは「第1光部」に相当する。また、受光部25Aは「第2光部」に相当する。
【0019】
発光ファイバー24および受光ファイバー25としては、例えば、クラッド径が「0.2mm」、コア径が「0.175mm」、および開口数が「0.2」の石英製の光ファイバーを用いることができる。
【0020】
発光ファイバー24および受光ファイバー25は、照射部24A側および受光部25A側の端部において束ねられているとともに、他方の端部において分岐する2分岐光ファイバーバンドル23として形成されている。
【0021】
ハロゲン光源21から発生する近赤外光には、1300nmから2500nmまでの波長の光が含まれる。血液70の分析のための演算に用いる光の波長の範囲は、測定対象および目的に応じて1300nmから2500nmまでの範囲から任意の範囲を選択することができる。
【0022】
図2を参照して、光ファイバーバンドル23の構造について説明する。
光ファイバーバンドル23の照射部24A側および受光部25A側の端面においては、1つの受光部25Aの周囲に複数の照射部24Aが同心円上に配置されている。照射部24Aのクラッドの外周面と1つの受光部25Aのクラッドの外周面との距離(以下、「ファイバー間距離LF」)は、「0.2mm」以上かつ「1mm」以下の範囲で設定される。例えば、「0.65mm」に設定されている。
【0023】
図1を参照して、密閉容器60の構造について説明する。
密閉容器60は、長方形状のポリオレフィン製シートの四辺が接着された袋状の容器として構成されている。ポリオレフィン製シートとしては、近赤外光を透過するものが用いられている。密閉容器60の内部には、血液70が封入されている。
【0024】
支持装置30について説明する。
支持装置30は、密閉容器60を下方から支持するバッグ固定盤31と、密閉容器60の上面に接触して密閉容器60に圧力を付与する可動測定盤32とを備えている。バッグ固定盤31および可動測定盤32は、密閉容器60との接触面が互いに平行になるように設けられている。
【0025】
可動測定盤32には、光ファイバーバンドル23の照射部24A側および受光部25A側の端部23Aを挿入するための測定孔32Aが形成されている。
可動測定盤32は、調節装置40の駆動により、バッグ固定盤31に近づく方向またはバッグ固定盤31から離れる方向に移動する。バッグ固定盤31および可動測定盤32は、流動装置50の駆動により、水平面に対して一体的に傾斜する。
【0026】
測定部20の動作について説明する。
ハロゲン光源21は、操作部13の電源ボタンが押されたことに基づいて近赤外光を発光する。シャッター26は、操作部13の測定開始ボタンが押されたことに基づいて開放される。シャッター26が開放されているとき、ハロゲン光源21から発生した近赤外光は、照射部24A、密閉容器60の壁部、血液70、および受光部25Aを通過して分光部22に到達する。分光部22は、入力された近赤外光を分光した受光素子22Aに出力する。受光素子22Aは、分光部22から入力された分光に応じた信号(以下、「受光信号SA」)を制御部11に送信する。
【0027】
図1および図3を参照して、調節装置40の動作について説明する。
調節装置40は、制御部11から送信される指令信号に基づいて、可動測定盤32をバッグ固定盤31に対して移動させる。これにより、バッグ固定盤31の密閉容器60と接触する面から可動測定盤32の密閉容器60と接触する面までの距離(以下、「測定距離LD」)が変更される。
【0028】
制御部11には、血液70の測定に用いるための測定距離LDとして、2つの測定距離、すなわち測定準備のための準備測定距離LDP(図1参照)および分析のための分析測定距離LDS(図2参照)が予め設定されている。
【0029】
(A)準備測定距離LDPは、可動測定盤32がバッグ固定盤31から最も離れているときの測定距離LDとして設定されている。この準備測定距離LDPは、密閉容器60の可動測定盤32と対応する部分の厚さH以上の大きさに設定されている。
【0030】
(B)分析測定距離LDSは、血液中のグルコース濃度の測定に適した測定距離LDとして設定されている。この分析測定距離LDSは、密閉容器60の可動測定盤32と対応する部分の厚さHよりも小さい。なお、分析測定距離LDSは「1mm」以上、かつ「10mm」以内の範囲で設定されている。また、分析測定距離LDSは、密閉容器60の容量および封入される血液70の容量に応じて変更される。
【0031】
分析測定距離LDSを「1mm」以上に設定する理由について説明する。
照射部24Aから照射された近赤外光は、血液70中をバナナシェイプと呼ばれる光分布で拡散反射し、受光部25Aに到達する。ファイバー間距離LFを0.65mmとした場合、1400nm〜1900nmの波長の近赤外光が血液に照射されたときの平均光路長は約「1mm」、平均的な到達深さは約「0.5mm」であることが実験により推定された。このため、分析測定距離LDSを「1mm」以上にすることにより、密閉容器60の受光部25Aと対向する部分に達する近赤外光の量を少なくすることができる。
【0032】
シート状の熱可塑性樹脂等で製造された密閉容器60においては、たわみが生じる。このたわみにより、実際の測定距離LDが分析測定距離LDSからずれることがある。また、調節装置40により設定される分析測定距離LDSと実際の測定距離LDとの間には誤差が生じる。そして、密閉容器60のたわみによる分析測定距離LDSからのずれ、および分析測定距離LDSの誤差に起因して、測定毎に血液70の流速がばらつく。密閉容器60のたわみによる分析測定距離LDSからのずれ、および分析測定距離LDSの誤差は「1mm」よりも十分に小さい。このため、分析測定距離LDSを「1mm」以上にすることにより、密閉容器60のたわみによる分析測定距離LDSからのずれ、および分析測定距離LDSの誤差に起因する血液70の流速のばらつきを低減することができる。このため、分析測定距離LDSを「1mm」以上にすることにより、測定結果の再現性、および測定精度を向上させることができる。
【0033】
調節装置40は、制御部11からの指令信号に基づいて次のように動作する。
(A)測定距離LDを分析測定距離LDSから準備測定距離LDPに変更する旨の指令信号を制御部11から受信したとき、可動測定盤32をバッグ固定盤31から遠ざける方向に移動させる。
【0034】
(B)測定距離LDを準備測定距離LDPから分析測定距離LDSに変更する旨の指令信号を制御部11から受信したとき、可動測定盤32をバッグ固定盤31に近づける方向に移動させる。
【0035】
測定距離LDの変更により密閉容器60は次のように圧縮される。
すなわち、バッグ固定盤31に密閉容器60が置かれた状態において、測定距離LDが準備測定距離LDPから分析測定距離LDSに変更されるとき、密閉容器60の可動測定盤32と対応する部分の厚さHが分析測定距離LDSとなるまで圧縮される。
【0036】
図3を参照して、流動装置50の動作について説明する。
流動装置50は、制御部11から送信される指令信号に基づいて、バッグ固定盤31および可動測定盤32を一体的に傾ける。これにより、密閉容器60の状態が図3(a)に示す水平状態から図3(b)に示す傾斜状態に変更される。
【0037】
流動装置50は、バッグ固定盤31および可動測定盤32の傾斜角度Aが所定角度AXに変更されたとき、バッグ固定盤31および可動測定盤32の傾斜角度Aが所定角度AXの状態を維持する。このとき、密閉容器60に封入された血液70は重力に基づいて移動する。すなわち、密閉容器60内において血液70の流動が生じる。
【0038】
流動装置50は、制御部11から送信される指令信号が停止したとき、バッグ固定盤31および可動測定盤32を一体的に水平状態に戻し、駆動を停止する。これにより、密閉容器60の状態が傾斜状態から水平状態に変更される。
【0039】
図1を参照して、制御部11により実行される測定動作について説明する。
測定動作の準備作業として、ユーザーにより操作部13の電源ボタンが操作されることにより、電源がオフからオンに変更される。また、ユーザーによりバッグ固定盤31上に密閉容器60が配置される。
【0040】
制御部11は、操作部13の測定開始ボタンが操作されたことに基づいてハロゲン光源21を点灯し、点灯から所定時間が経過した後、すなわちハロゲン光源21の点灯状態が安定した後に測定動作を開始する。
【0041】
測定動作は、以下の順に行われる。
(動作1)測定距離LDを準備測定距離LDPから分析測定距離LDSに変更する。
(動作2)流動装置50を駆動する。
(動作3)シャッター26を開放する。
(動作4)受光信号SAを記憶する。
(動作5)シャッター26を閉鎖する。
(動作6)流動装置50を停止する。
(動作7)測定距離LDを分析測定距離LDSから準備測定距離LDPに変更する。
【0042】
制御部11は、上記の(動作4)により得られた受光信号SAに基づいて、血液中のグルコース濃度を定量する。具体的には、次の順にグルコース濃度を定量するための演算を行なう。
(A)波長毎の受光信号SAの光強度を算出する。
(B)上記(A)の演算により得られた値の常用対数を吸光度として算出する。
(C)波長毎に得られる吸光度を用いて吸光度スペクトルを生成する。
(D)生成した吸光度スペクトルに基づいてグルコース濃度を演算する。
【0043】
なお、測定対象とする密閉容器60が複数ある場合には、(動作1)〜(動作7)およびグルコース濃度を定量するための演算が密閉容器60ごとに繰り返される。そして、全ての密閉容器60の測定動作が終了した後、ユーザーによる操作部13の電源ボタンの操作に基づいて電源がオンからオフに変更される。これにより、ハロゲン光源21が消灯する。
【0044】
(実施形態の効果)
本実施形態の成分分析装置1によれば以下の効果が得られる。
(1)成分分析装置1は、血液70を密閉容器60の内部で流動させる流動装置50を備えている。この構成によれば、血液70の流動により赤血球等の重い成分の沈殿が移動するため、密閉容器60の内部の成分の偏りを小さくすることができる。このとき、扁平な円盤形状である赤血球が流動により流れ方向に対して平行に配向される。これにより、近赤外光の散乱状態の位置的、時間的な変動が小さくなる。この結果、測定する近赤外光の吸光度スペクトルのばらつきを低減することができる。これにより、適切な測定結果を得ることができる。
【0045】
また、血液中のグルコースなどの微量な成分の濃度を分析する場合、吸光度スペクトルのばらつきを小さくすることにより適切な測定結果を得ることができる。成分分析装置1は、流動装置50により近赤外光の吸光度スペクトルのばらつきが小さいため、血液中の微量な成分であるグルコース濃度の測定精度が向上する。
【0046】
(2)流動装置50は、密閉容器60を傾斜させることにより血液70を流動させる。この構成によれば、密閉容器60を水平面に対して平行に移動させることにより血液70を流動させる構成と比較して、密閉容器60の内部の成分の偏りをより小さくすることができる。
【0047】
また、密閉容器60を水平面に対して平行に移動させる仮想の成分分析装置においては、密閉容器60の端部に血液70が接触するため、血液70の流れ方向が安定しない。このため、近赤外光の吸光度スペクトルがばらついてしまう。成分分析装置1においては、バッグ固定盤31および可動測定盤32の傾斜角度Aを所定角度AXに維持した状態で測定を行っているため、密閉容器60を水平面に対して平行に移動させる場合と比較して、流れ方向が安定した状態で測定を行うことができる。
【0048】
また、密閉容器60の内部に空気が混入している場合において、照射部24Aおよび受光部25Aと対応する部位に空気が存在しているとき、測定精度が低下する。成分分析装置1は密閉容器60を傾斜させているため、空気を照射部24Aおよび受光部25Aよりも上方に移動させることができる。
【0049】
(3)赤血球は近赤外光を透過性しにくい。このため、仮に拡散透過光を用いて血液70中のグルコース濃度を分析するとき、分析測定距離LDSを小さくする必要がある。すなわち、密閉容器60の圧縮量を大きくする必要があるため、密閉容器60に大きな圧力がかかってしまう。これにより、密閉容器60が過度に変形してしまうおそれがある。
【0050】
成分分析装置1は、拡散反射光を用いて血液70中のグルコース濃度を分析している。この構成によれば、拡散透過光を用いるときと比較して分析測定距離LDSを大きくすることができるため、密閉容器60に大きな圧力がかかることを抑制することができる。
【0051】
(4)成分分析装置1は、流動装置50の駆動しているときに近赤外光を照射する。この構成によれば、流動装置50の駆動が停止しているときに血液70に近赤外光を照射する構成と比較して、グルコース濃度の測定精度が向上する。また、流動装置50の駆動が停止しているときと比較して近赤外光の吸光度スペクトルのばらつきがより小さくなる。
【0052】
(5)成分分析装置1は、複数の照射部24Aが受光部25Aを中心として円状に配置される。この構成によれば、流動装置50による血液70の流動の方向が異なることに起因して測定結果がばらつくことを抑制することができる。
【0053】
(6)成分分析装置は、密閉容器60の厚さHを調節する調節装置40を備えている。この構成によれば、血液70の分析に用いる近赤外光の波長、分析対象とする成分の種類、測定対象の種類、および密閉容器60の種類等に応じて、適切な分析測定距離LDSを設定することができる。
【0054】
(7)ファイバー間距離LFが大きいほど血液70の成分の偏りによる影響を低減することができる。一方、照射部24Aと受光部25Aとのファイバー間距離LFが大きいほど、受光部25Aが受光する光強度が小さくなる。
【0055】
成分分析装置1は、ファイバー間距離LFが0.2mm以上かつ1mm以下に設定されている。この構成によれば、同距離LFが0.2mm未満の場合と比較して、血液70の成分の偏りによって測定精度が低下することを抑制することができる。また、ファイバー間距離LFが1mmよりも大きい場合と比較して、受光部25Aが受光する光強度を大きくすることができるため、光強度が小さいことに起因して測定精度が低下することを抑制することができる。
【0056】
(8)成分分析装置1は、1300nm〜2500nmの波長の近赤外光を測定に用いている。この構成によれば、1300nm未満の波長の近赤外光、および2500nmよりも大きい波長の近赤外光を用いるときと比較して、血液70中のグルコース濃度の測定精度が向上する。
【0057】
(9)成分分析装置1は、分析測定距離LDSを「1mm」以上に設定している。この構成によれば、赤血球(直径7〜8μm)および白血球(直径6〜30μm)のような大きな血球成分が密閉容器60の可動測定盤32と対応する部分で閉塞することを抑制することができる。
【0058】
また、ファイバー間距離LFが「0.65mm」以上の場合、1400nm〜1900nmの波長の近赤外光が血液に照射されたときの平均的な到達深さは約「0.5mm」であるため、分析測定距離LDSが「1mm」未満の構成と比較して、密閉容器60のうちの照射部24Aが接触する部分と対向する部分に達する近赤外光の量、およびこの部分から反射して受光部25Aに達する近赤外光を少なくすることができる。
【0059】
分析測定距離LDSを「1mm」以上にすることにより、分析測定距離LDSが「1mm」未満の場合と比較して、密閉容器60内における血液70の流速のばらつきが小さくなるため、安定した流速で測定することができる。また、分析測定距離LDSが「1mm」未満の場合と比較して、圧力損失が小さいため、比較的小さな傾斜角度においても密閉容器60内に適切な流速の流動を生じさせることができる。
【0060】
また、血液70を内包する一般的な密閉容器60においては、分析測定距離LDSが「1mm」以上、かつ「10mm」以下の場合、短時間で安定した流速を得ることができる。これにより、バッグ固定盤31および可動測定盤32を傾斜状態から水平状態に変更し、再び傾斜状態に変更する動作を繰り返す必要がない。
【0061】
(10)成分分析装置1では、密閉容器60の容量および封入される血液70の容量に応じて分析測定距離LDSが変更される。この構成によれば、バッグ固定盤31および可動測定盤32の傾斜角度Aが所定角度AXの状態において血液70の流速を所定の範囲内にする分析測定距離LDSを設定することができる。このため、流れ方向および所定の範囲内の流速を維持した状態で1回の測定を行うことができる。
【0062】
(11)成分分析装置1においては、ハロゲン光源21から発生する近赤外光に基づいて血液70の分析を行なう。この構成によれば、紫外光、放射線、または試薬等を用いて血液70を分析する構成と比較して、血液70の状態の変化が生じにくい。
【0063】
(12)血液70中において細菌が増殖したとき、血液70中のグルコース濃度が著しく減少する。本実施形態の成分分析装置1においては、血液70中のグルコース濃度を検出することで血液70中の細菌汚染の有無をユーザーが確認することができる。
【0064】
(第2実施形態)
本実施形態の成分分析装置1は、第1実施形態の成分分析装置1の流動装置50を、密閉容器60を圧縮することにより血液70を流動させる流動装置80に変更している。
【0065】
以下、この変更された部分についての詳細を示す。なお、その他の点については第1実施形態と同様の構成が採用されているため、同実施形態と共通する構成については同一の符号を付してその説明の一部または全部を適宜省略する。
【0066】
図4を参照して、流動装置80について説明する。
図4(a)に示されるように、流動装置80は、密閉容器60の可動測定盤32に対応する部位とは異なる部位を圧縮する第1圧縮盤81および第2圧縮盤82を備えている。第1圧縮盤81および第2圧縮盤82は、可動測定盤32を挟んで互いに対向する位置に設けられている。第1圧縮盤81および第2圧縮盤82は、それぞれバッグ固定盤31と互いに平行するように配置されている。
【0067】
流動装置80が停止している基本状態においては、第1圧縮盤81およびバッグ固定盤31の距離と、第2圧縮盤82およびバッグ固定盤31の距離とは等しい。
図4(b)に示されるように、制御部11(図1参照)により流動装置80を駆動させる指令が入力されたとき、流動装置80は基本状態から動作状態に変更する。流動装置80が動作状態になったとき、第1圧縮盤81はバッグ固定盤31から離れる方向に移動し、かつ第2圧縮盤82はバッグ固定盤31に近づく方向に移動する。このとき、密閉容器60の内部において、第2圧縮盤82と対応する部分の血液70は第1圧縮盤81と対応する部分に向かって流動する。
【0068】
また、第2圧縮盤82がバッグ固定盤31に対して最も接近したとき、流動装置80の駆動により、第1圧縮盤81はバッグ固定盤31に近づく方向に移動し、かつ第2圧縮盤82はバッグ固定盤31から離れる方向に移動する。このとき、密閉容器60の内部において、第1圧縮盤81と対応する部分の血液70は第2圧縮盤82と対応する部分に向かって流動する。
【0069】
なお、第2圧縮盤82がバッグ固定盤31に対して最も接近したとき、バッグ固定盤31の密閉容器60との接触面から第2圧縮盤82の密閉容器60との接触面までの距離は分析測定距離LDSよりも小さい。またこのとき、バッグ固定盤31の密閉容器60との接触面から第1圧縮盤81の密閉容器60との接触面までの距離は分析測定距離LDSよりも大きい。
【0070】
また、第1圧縮盤81がバッグ固定盤31に対して最も接近したとき、流動装置80の駆動により、第2圧縮盤82はバッグ固定盤31から離れる方向に移動し、かつ第1圧縮盤81はバッグ固定盤31に近づく方向に移動する。
【0071】
なお、第1圧縮盤81がバッグ固定盤31に対して最も接近したとき、バッグ固定盤31の密閉容器60との接触面から第1圧縮盤81の密閉容器60との接触面までの距離は分析測定距離LDSよりも小さい。またこのとき、バッグ固定盤31の密閉容器60との接触面から第2圧縮盤82の密閉容器60との接触面までの距離は分析測定距離LDSよりも大きい。
【0072】
このように、制御部11(図1参照)により流動装置80を駆動させる指令が継続されているとき、流動装置80は第1圧縮盤81および第2圧縮盤を繰り返し移動させる。
(実施形態の効果)
本実施形態の成分分析装置1によれば、第1実施形態の(1)、(3)〜(9)、(11)、および(12)の効果、および(14)の効果に準じた効果に加えて以下の効果が得られる。
【0073】
(13)密閉容器60の最大の厚さHが分析測定距離LDSよりも小さいとき、密閉容器60の表面と可動測定盤32との間に空隙ができた状態でグルコース濃度が測定されるため、測定精度が低下する。成分分析装置1は、密閉容器60を圧縮することにより血液70を流動させている。
【0074】
この構成によれば、第1圧縮盤81および第2圧縮盤82の一方により密閉容器60を圧縮するため、血液が可動測定盤32と対応する部分に移動する。これにより、密閉容器60の表面と可動測定盤32との間に空隙ができることを抑制することができる。なお、この場合、調節装置40および流動装置80が「調節装置」として機能する。
【0075】
(第3実施形態)
本実施形態の成分分析装置1は、第2実施形態の成分分析装置1の測定部20を以下のように変更したものとして構成されている。すなわち、本実施形態の測定部90は、バッグ固定盤31から可動測定盤32に向けて近赤外光を照射する機能および可動測定盤32おいて近赤外光の拡散透過光を受光する機能を有している。
【0076】
以下、この変更された部分についての詳細を示す。なお、その他の点については第1実施形態と同様の構成が採用されているため、同実施形態と共通する構成については同一の符号を付してその説明の一部または全部を適宜省略する。
【0077】
図5を参照して、測定部90について説明する。
バッグ固定盤31には近赤外光を通過させるための照射孔91が形成されている。また、可動測定盤32の照射孔91と対応する位置には、血液70中を通過した近赤外光を通過させるための受光孔92が形成されている。
【0078】
測定部90は、バッグ固定盤31に配置されるハロゲン光源21と、可動測定盤32に配置される分光部22と、受光素子22Aと、シャッター26と、照射孔91と、受光孔92とを含めて構成されている。
【0079】
照射孔91は、ハロゲン光源21から発生した近赤外光を伝達する。受光孔92は、拡散透過光を分光部22に伝達する。なお、照射孔91の密閉容器60が配置される側の端部が血液70に対して近赤外光を照射する照射部91Aとして構成されている。また、受光孔92の密閉容器60が配置される側の端部が血液70中を通過した近赤外光を受光する受光部92Aとして構成されている。なお、分析測定距離LDSとしては、「0.5mm」以下が設定される。
【0080】
(実施形態の効果)
本実施形態の成分分析装置1によれば、第1実施形態の(1)、(2)、(4)〜(8)、および(10)〜(12)の効果が得られる。
【0081】
(その他の実施形態)
本発明の実施態様は第1〜第3実施形態に限られるものではなく、例えば以下に示すように変更することもできる。また以下の各変形例は、第1〜第3実施形態についてのみ適用されるものではなく、異なる変形例同士を互いに組み合わせて実施することもできる。
【0082】
・第3実施形態(図5)では、バッグ固定盤31に照射孔91を設け、可動測定盤32に受光孔92を設けたが、バッグ固定盤31に受光孔92を設け、可動測定盤32に照射孔91を設けることもできる。
【0083】
・第1および第3実施形態(図3)では、バッグ固定盤31および可動測定盤32の傾斜角度Aを所定角度AXに維持した状態でグルコース濃度の測定を行ったが、バッグ固定盤31および可動測定盤32の傾斜角度Aを変更しながら測定を行うこともできる。この場合、バッグ固定盤31および可動測定盤32の傾斜角度が最大のとき、流動装置50は、バッグ固定盤31および可動測定盤32を水平状態に戻す方向に駆動する。さらに、バッグ固定盤31および可動測定盤32が水平状態のとき、再びバッグ固定盤31および可動測定盤32を傾斜させる方向に駆動する。このように、制御部11により流動装置50を駆動させる指令が継続されているとき、流動装置50はバッグ固定盤31および可動測定盤32を繰り返し傾斜させる(変形例A)。
【0084】
・上記(変形例A)において、グルコース濃度の測定は、傾斜角度Aが所定角度Aを中心とした所定の範囲内にあるときのみ行うこともできる。
・上記(変形例A)において、傾斜が開始してから傾斜角度Aが最大の傾斜角度に達するまでの期間にグルコース濃度の測定を行うこともできる。この場合、傾斜角度が最大のとき、流動装置50は、バッグ固定盤31および可動測定盤32を水平状態に戻す。または、バッグ固定盤31および可動測定盤32を傾斜角度が最大の状態に維持することもできる。
【0085】
・第1および第3実施形態(図3)では、密閉容器60の容量および血液70の容量に基づいて分析測定距離LDSを変更したが、分析測定距離LDSを一定とすることもできる。この場合、可動測定盤32とは異なる位置において密閉容器60を圧縮することにより流速を制御する流速制御盤を設けることもできる。流速制御盤は、同流速制御盤および可動測定盤32が血液70の流れ方向に対して直交する位置に設けることもできる。
【0086】
・第1および第3実施形態(図3)では、密閉容器60および血液70の容量に基づいて分析測定距離LDSを変更したが、密閉容器60および血液70の容量に基づいて所定角度AXを変更することにより流速を所定の範囲内に設定することもできる。
【0087】
・第1および第2実施形態(図2)では、1つの受光ファイバー25を中心として複数の発光ファイバー24を円状に配置したが、1つの発光ファイバー24を中心として複数の受光ファイバー25を円状に配置することもできる。この場合、照射部24Aは「第2光部」に相当する。また、受光部25Aは「第1光部」に相当する。
【0088】
・第1および第2実施形態(図2)では、複数の発光ファイバー24を設けたが、発光ファイバー24を1つのみ設けることもできる。
・第1および第2実施形態(図2)では、1つの受光ファイバー25を設けたが、受光ファイバー25を複数設けることもできる。
【0089】
・第1および第2実施形態(図2)では、発光ファイバー24および受光ファイバー25を光ファイバーバンドル23により束ねたが、発光ファイバー24および受光ファイバー25を束ねずに各別の光ケーブルとして構成することもできる。
【0090】
・第1〜第3実施形態(図1)では、ハロゲン光源を用いたが、LED光源を用いることもできる。また、レーザー光源を用いることもできる。
・第1〜第3実施形態(図1)では、近赤外光として1300nm〜2500nmの波長の近赤外光を用いたが、1300nm未満を含む波長範囲の中から任意の範囲を設定することもできる。また、2500nmよりも大きい近赤外光の波長を含む波長範囲の中から任意の範囲を設定することもできる。
【0091】
・第1〜第3実施形態(図1)に、血液70の流速を測定する流速測定装置を設けることもできる。そして、測定された血液70の流速に基づいて流動装置50,80の駆動速度を制御することにより、血液70の流速をグルコース濃度の測定に適したものにすることもできる。また、流動装置50,80の駆動速度の制御に代えてまたは加えて、血液70の流速に基づいてグルコース濃度を補正する補正処理を行うこともできる。なお、流速測定部としては、レーザードップラー流速計、超音波流速計、またはピトー管を採用することができる。
【0092】
・第1〜第3実施形態(図1)では、流動装置50,80を駆動しているときに血液70中のグルコース濃度を測定したが、流動装置50,80を停止しているときに血液70中のグルコース濃度を測定することもできる。この場合、流動装置50,80の停止後において血液70の流動が停止するまでの期間において測定を行うこともできる。
【0093】
・第1〜第3実施形態(図1)では、バッグ固定盤31と可動測定盤32とを互いに平行に設けているが、バッグ固定盤31が可動測定盤32に対して傾斜するようにバッグ固定盤31と可動測定盤32を設けることもできる。
【0094】
・第1〜第3実施形態(図1)では、ポリオレフィン製シートにより形成された密閉容器60を採用しているが、密閉容器60の材料はこれに限られない。例えば、ポリ塩化ビニルまたはフッ素樹脂に変更することもできる。すなわち、近赤外光を透過する材料により形成された密閉容器であれば、いずれの密閉容器を採用することもできる。
【0095】
・第1〜第3実施形態(図1)では、血液70中のグルコース濃度を測定したが、グルコース濃度以外の血液70中の成分を測定することもできる。例えば、赤血球数、白血球数、血小板数、タンパク質濃度、尿素等の低分子化合物濃度、または二酸化炭素濃度等を測定することができる。また、赤血球数、白血球数、または血小板の形状を測定することもできる。
【0096】
・第1〜第3実施形態(図1)では、血液70を測定対象としたが、赤血球を含む血液以外の液体を測定対象とすることもできる。例えば、赤血球に保存液を添加した赤血球製剤のグルコース濃度を測定することもできる。
【符号の説明】
【0097】
1…成分分析装置、20,90…測定部、50,80…流動装置、60…密閉容器、70…血液(測定対象)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象を内包する密閉容器に対して近赤外光を照射する機能および照射した前記近赤外光を受光する機能を有する測定部を備える成分分析装置において、
前記測定対象は赤血球を含む液体であること、
前記測定対象を流動させる流動装置を備えること
を特徴とする成分分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の成分分析装置において、
前記流動装置は、前記密閉容器を傾斜させることにより前記測定対象を流動させること
を特徴とする成分分析装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の成分分析装置において、
前記測定部は前記近赤外光の拡散反射光を受光すること
を特徴とする成分分析装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の成分分析装置において、
前記測定部は前記流動装置の駆動により前記測定対象が流動しているときに前記近赤外光を照射すること
を特徴とする成分分析装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の成分分析装置において、
前記測定部のうちの前記近赤外光を照射する部分および前記近赤外光を受光する部分の一方を第1光部とし、他方を第2光部として、複数の前記第1光部が前記第2光部を中心として円状に配置されること
を特徴とする成分分析装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の成分分析装置において、
前記測定対象の流速を測定する流速測定装置を備えること
を特徴とする成分分析装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の成分分析装置において、
前記密閉容器において前記近赤外光が照射される部分の厚さを調節する調節装置を備えること
を特徴とする成分分析装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の成分分析装置において、
前記流動装置は、前記密閉容器の一部を圧縮することにより前記測定対象を流動させること
を特徴とする成分分析装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の成分分析装置において、
前記測定部は前記近赤外光の拡散透過光を受光すること
を特徴とする成分分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−50425(P2013−50425A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189753(P2011−189753)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】