説明

成分分離機構と成分分離方法

【課題】 小型かつ簡単な構成で、流体中の有形成分を容易に分離して液体成分のみを抽出できるようにする。
【解決手段】 血液が供給される導入路3から、先細の絞り部4を介してメイン流路5に接続されており、メイン流路5の絞り部4との接続部分の両側方には、幅方向の外側かつ上流側に向かって延びる、幅の狭い分岐流路6が接続されている。メイン流路5と分岐流路6には、独立して作動するポンプ9a,9bがそれぞれ接続されている。全流路は、幅方向の中心線10を中心とする線対称形状であり、深さは全て一定である。血液が導入路3に供給されると、絞り部4において流速が速くなり、かつ有形成分が中心線10付近に集中して、メイン流路5に流入する。有形成分は、中心線10付近に集中させられたまま高速で押し流されてメイン流路5を直進する。1対の分岐流路6には有形成分は進入して来ず血漿のみが流れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液の分析等に用いられる流体の成分の分離、特に有形成分を分離して液体成分のみを抽出するための成分分離機構と成分分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオテクノロジー等の分野において、流体の分析を行う装置として、小型の1枚のチップ内に、分析されるべき流体が流される被検査体流路と、分析すべき流体の反応(生体反応や化学反応など)を生じさせる場となる反応槽部等が設けられた、いわゆるマイクロリアクター(マイクロフルイディクスとも言う)と呼ばれる、分析ができるマイクロ流路機構が注目されている。このマイクロ流路機構は、コンパクトで安価に作ることができ、例えばヘルスケア用の家庭用検査チップとして用いることが考えられている。
【0003】
マイクロ流路機構がヘルスケア用として用いられ、血液を検査する場合の例を挙げると、人体から採取した血液をマイクロ流路機構の被検査体流路に供給し、その血液中における、病気に起因する抗原の有無や種類を、反応槽部内で生じた反応を検知することによって調べる構成となっている。分析すべき血液は、人体から採取された後に、マイクロ流路機構に供給されるが、抗原は血液中の血漿に含まれるので、抗原の検出等の分析を行う場合には血漿のみが検査対象となり、赤血球、白血球、血小板等の有形成分は不要である。従って、流路中に、血液中の血漿のみを分離抽出して有形成分を除去する機構が設けられている場合が多い。
【0004】
例えば特許文献1には、被検査体流路中にろ過手段が設けられているマイクロ流路機構が開示されている。このマイクロ流路機構によると、被検査体流路中で血液が複数段階にわたってろ過されて血漿のみが反応槽に到達する。
【0005】
また、特許文献1の従来例として記載されているように、血漿を分離抽出するための遠心分離機構が設けられた流路機構も存在する。これは、例えば、ろ過手段によってある程度ろ過された血液を、マイクロ流路機構内に設けられたU字型の分離流路中に保持した状態で、遠心分離用モータを駆動してマイクロ流路機構自体を高速回転させ、遠心分離によって分離流路中の血漿と有形成分とを分離させるものである。
【0006】
さらに、非特許文献1には、マイクロ流路機構内に、被検査体流路と平行に、独立したバッファー流路が設けられており、被検査体流路とバッファー流路の境界となる壁面に微小な貫通穴が多数設けられた構成が開示されている。そして、分析すべき流体を被検査体流路に、バッファー液である生理食塩水をバッファー流路にそれぞれ同じ方向に流すと、浸透圧の違いにより、貫通穴を通して流体成分がバッファー流路へ移動して分離抽出される。特に、バッファー流路を多数平行に並べて設け、各バッファー流路の境界となる壁面にはそれぞれ貫通穴を多数設け、各貫通穴は、被検査体流路に近い壁面に設けられたものから遠い壁面に設けられたものまで徐々に小径になるように形成されていると、有形成分の段階的な分離抽出が可能である。
【特許文献1】特開2003−102710号公報(第2〜3頁)
【非特許文献1】Kazuhiro Iida, 外4名、「Planar Ultra-Filtration Chip For Rapid Plasma Separation By Diffusion」、Micro TAS 2002, Vol.2, p.627-629
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の構成では、血液の血漿と有形成分とを分離するために、マイクロ流路機構の流路内に複数のろ過手段が設けられている。ろ過を行うためのフィルタ構造が粗いと十分なろ過が行えない可能性があるが、細かいフィルタ構造を設けると、目詰まりが生じて血液の流れが悪くなり、十分な流速が得られなくなる可能性がある。また、細かいフィルタ構造を含む流路は血液にストレスを与え易く、これによって血液凝集が生じる可能性がある。血液凝集によって血液詰まりが生じると、血液の流れがせき止められて、血漿の分離抽出が行えなくなるおそれがある。
【0008】
また、フィルタ構造を簡素化し、前記したように遠心分離を併用することも考えられるが、遠心分離用のモータを搭載することによってマイクロ流路機構を含むシステム全体が非常に大掛かりになり、高コスト化と、構成の複雑化および大型化を招く。そして、マイクロ流路機構自体が回転させられることによって、マイクロ流路機構に搭載された他のデバイスにダメージを与えるおそれがある。
【0009】
さらに、非特許文献1に記載の構成では、特許文献1に記載の構成と同様に、小径の貫通穴の付近で目詰まりが起こり、血漿の分離抽出が行えなくなるおそれがある。また、マイクロ流路機構内に設置された2つの流路(検査流路とバッファー流路)に別々の液体を同時に流す必要があるため、各流体の制御が難しい。2つの流路の流量のバランスが狂うと、例えば生理食塩水がバッファー流路から貫通穴を介して被検査体流路へ浸入するおそれがある。しかも、有形成分が除去されて最終的に得られた流体における生理食塩水と血漿との混合比が明確に判らないため、血漿に含まれている抗原の正確な濃度が判らず、分析の精度が低くなる。バッファー流路が2つ以上設けられている場合には、これらの問題がさらに顕著になる。
【0010】
以上、分析すべき流体が血液である場合について説明したが、血液以外の、有形成分を含む流体を被検査対象とする場合にも、前記したのと同様の問題、またはそれに類似した問題が生じると考えられる。
【0011】
そこで、本発明は、モータを用いて遠心分離を行うような大掛かりな機構を用いることなく、マイクロ流路機構の内部に構成可能であり、分析すべき流体にストレスを与えることなく、また、分析すべき流体と他の薬液とが混ざることなく有形成分を分離して抽出できる成分分離機構と成分分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の成分分離機構は、有形成分を含む流体が供給される導入路と、導入路の下流側に接続されており幅が狭くなっている絞り部と、絞り部の下流側に接続されており絞り部よりも広い幅を有するメイン流路と、メイン流路の絞り部との接続部分の近傍から外方へ延び、導入路およびメイン流路よりも幅が狭く、有形成分を含まない流体、もしくは、メイン流路を流れる流体と比較して有形成分の割合が少ない流体が流れる分岐流路とを有することを特徴とする。なお、分岐流路はメイン流路の幅方向外側かつ上流側に向かって延びている。
【0013】
この構成によると、分岐流路には、有形成分を含まない流体、もしくは有形成分の割合が少ない流体が流れるため、液体成分の抽出が容易にでき、液体成分の分析等の様々な処理が容易に精度よく行える。特に、絞り部によって流速が速くなるとともに有形成分が流路の幅方向の中心線付近に集中するため、液体成分の抽出が行いやすい。この構成を採用すると、外部部材を必要とせず、流路の構成および形状を工夫するだけで高精度の分離抽出が可能になるため、装置の大型化および高コスト化を招かず、構成もさほど複雑にならない。
【0014】
また、本発明のもう1つの成分分離機構は、有形成分を含む流体が供給される導入路と、導入路の下流側に接続されており幅が狭くなっている絞り部と、絞り部の下流側に接続されており絞り部よりも広い幅を有するメイン流路と、メイン流路の絞り部との接続部分の近傍から外方へ延び、流体に対して遠心力を作用させ、有形成分を含む流体が流れる第1の層と、有形成分を含まない流体、もしくは、メイン流路を流れる流体および第1の層を流れる流体と比較して有形成分の割合が少ない流体が流れる第2の層とを含む層流が流れる分岐流路とを有することを特徴とする。この構成でも、前記した構成と同様に、容易かつ精度よく液体成分の抽出が行え、装置の大型化および高コスト化を招かない。
【0015】
この構成では、絞り部は導入路側からメイン流路側に向かって徐々に幅が狭くなっており、メイン流路は絞り部との接続部分から徐々に幅が広くなっており、分岐流路はメイン流路との接続部分から徐々に幅が広くなっており、メイン流路の徐々に幅が広くなっている部分の側壁と、分岐流路の徐々に幅が広くなっている部分の一方の側壁が連続して、流路の内側に向かって凸状の円弧形状を形成しているのが好ましい。
【0016】
これによると、モータ等の駆動手段を用いずに、流路構成のみによって遠心分離が行えるため、効率的であるとともに、装置の小型化および低コスト化に寄与する。なお、この成分分離機構においては、分岐流路中には、第1の層と第2の層とを分離させるための仕切り壁が形成されていると、仕切り壁で分離された第2の層のみを供給することによって、液体成分を抽出することが容易にできる。
【0017】
また、導入路と絞り部とメイン流路はそれぞれの中心線が一致しその中心線を中心として線対称になる形状であり、1対の分岐流路が、その中心線を中心として線対称に形成されていることが好ましい。それによると、流体の流れが安定して1対の分岐流路に等しい条件で液体成分が流れ、流体の流れの制御が容易にできるため、各種条件の設定および微調整が容易である。
【0018】
本発明の成分分離方法は、有形成分を含む流体を導入路に供給し、流体を導入路から、幅が狭くなっている絞り部を通過させて、流速を速くするとともに有形成分を流路の中心線付近に集中させ、流体を絞り部から、有形成分を流路の中心線付近に集中させた状態のままで、速くなった流速で、絞り部よりも広い幅を有するメイン流路に流入させて、有形成分を含む流体をメイン流路内を流れさせるとともに、メイン流路の絞り部との接続部分の近傍から幅方向外側かつ上流側に向かって延びている、導入路およびメイン流路よりも幅が狭い分岐流路に、有形成分を含まない流体、もしくは、メイン流路を流れる流体と比較して有形成分の割合が少ない流体を流れさせることを特徴とする。
【0019】
本発明のもう1つの成分分離方法は、有形成分を含む流体を導入路に供給し、流体を導入路から、幅が狭くなっている絞り部を通過させて流速を速くし、流体を絞り部から、速くなった流速で、絞り部よりも広い幅を有するメイン流路に流入させて、有形成分を含む流体をメイン流路内を流れさせるとともに、流体を、メイン流路から、メイン流路の流路側壁と分岐流路の流路側壁とが連続して形成している、流路の内側に向かって凸状の円弧に沿って、遠心力を作用させながら分岐流路へ流入させて、分岐流路内を、有形成分を含む流体が流れる第1の層と、有形成分を含まない流体、もしくは、メイン流路を流れる流体および第1の層を流れる流体と比較して有形成分の割合が少ない流体が流れる第2の層とを含む層流を流れさせることを特徴とする。さらに、分岐流路内に設けられている仕切り壁によって第2の層を第1の層から分離させて、有形成分を含まない流体、もしくは有形成分の少ない流体を取り出してもよい。
【0020】
これらの成分分離方法は、流体が血液であり、液体成分は血漿である場合に特に効果的である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、流体の分析に不要な有形成分を分離して、分析に必要な液体成分を容易に抽出することができ、容易に高精度の分析が可能になる。しかも、モータ等の外部部材を必要とせず、フィルタ構造のように非常に微細で複雑な構造も不要であり、比較的簡単で、目詰まりや流体への過大なストレスも生じない構造で、効果的に液体成分の抽出が行える。液体成分にバッファー液等が混入することがなく濃度が一定であるため、高精度の分析が行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0023】
[第1の実施形態]
図1には、分析すべき流体、例えば血液が流される被検査体流路の一部をなす、本発明の第1の実施形態の成分分離機構2の拡大図が示されている。この構成について説明すると、分析すべき流体の一例である血液が供給される所定の幅の導入路3から、先細になっている絞り部4を介して、導入路3よりも幅の広い下流側のメイン流路5に接続されている。メイン流路5の絞り部4との接続部分の両側方には、流路の幅方向の外側かつ上流側に向かって延びる、幅の狭い1対の分岐流路6が接続されている。各分岐流路6は、次第に幅が広がっている拡張部7を介して、幅の広い取出し流路8に接続されている構造である。メイン流路5にはポンプ9aが、1対の取出し流路8には、ポンプ9aと独立して作動するポンプ9bがそれぞれ接続されている。本実施形態では、導入路3と絞り部4とメイン流路5はそれぞれの中心線10が一致し、この中心線10を中心とする線対称形状になるように形成されている。さらに、1対の分岐流路6も、中心線10を中心として線対称になるように形成されている。なお、流路の各部分において、その幅にかかわらず深さは全て一定である。このようにして、被検査体流路中に含まれる成分分離機構2が構成されている。
【0024】
この成分分離機構2の内部の血液の流れについて説明すると、分析すべき血液が導入路3に供給され、所定の流速で図1の左方から右方に向けて流れる。そして、絞り部4において流れの幅が狭められることによって流速が速くなってメイン流路5に流入する。このようにして、血液が導入路3から絞り部4を介してメイン流路5へと図1の左方から右方へ流れる一方、メイン流路5に流入した血液の一部が、1対の分岐流路6にそれぞれ流れて行く。このような血液の流れにおける、血液中の血漿(流体成分)と有形成分(赤血球、白血球、血小板など)との挙動について説明する。導入路3を流れている段階では、有形成分は血液中にほぼ均等にまたはランダムに分散した状態であるが、絞り部4において流れの幅が狭くなることによって、前記したように流速が速くなるとともに、有形成分が中心線10付近に集中する。そして、血液が絞り部4からメイン流路5に流入する際には、有形成分が流路の中心線10の近傍に集中させられた状態のままで、高速でメイン流路5に流入する。従って、この高速の流れに乗って有形成分は、流路の幅方向にはあまり分散することなく、流路の幅方向の中心線10付近に集中したまま押し流される。
【0025】
特に、本出願人は、マイクロ流路のような微細な流路内では物質の拡散に非常に長い時間が必要であり、乱流は生じにくく層流が生じやすいことを見出した。すなわち、マイクロ流路のような微細な流路ではレイノルズ数が小さくなる。そのため、有形成分は、メイン流路5の幅方向の中心線10付近に集中したまま流れていき、幅方向外側にはあまり広がらない。
【0026】
有形成分が流路の中心線10付近に集中させられた状態で、血液が絞り部4からメイン流路5に高速で流入すると、メイン流路5を直進するのみならず、絞り部4とメイン流路5の接続部の近傍かつ幅方向の外側に接続されている1対の分岐流路6にも流れる。ただし、分岐流路6は、有形成分が集中している幅方向中心線10から離れた位置から分岐しているので、有形成分が幅方向に広がって分散して分岐流路6内に流入する可能性は低い。また、有形成分は血漿に比べて重いため、慣性によってメイン流路5内を直進する傾向が強く、幅方向外側かつ上流側に延びる分岐流路6内に流入する可能性は低い。従って、分岐流路6内には、有形成分を除く液体成分、すなわち血漿のみが流れる。
【0027】
以上説明したように、本実施形態の成分分離機構によると、血液の有形成分は、ほとんどメイン流路5のみに存在し、1対の分岐流路6とそれに連通する拡張部7および取出し流路8には、有形成分は存在せず、血漿のみが流れる。こうして、有形成分と血漿との分離が行われ、取出し流路8内を流れる流体を取り出すと、分析のために必要な血漿のみを抽出することができる。特に、本実施形態では、各流路の深さが一定であるため、深さが場所によって変化している構成に比べて乱流が発生しにくく層流が形成されやすいので、流体成分の分離抽出に適している。
【0028】
図2には、図1に示している成分分離機構2の具体的な寸法の一例を示している。なお、図2中に記載している長さの単位は全て[mm]である。そして、図3には、ポンプ9a(図1参照)を作動させてメイン流路5に及ぼす圧力を−30kPaとして、ポンプ9b(図1参照)を作動させて1対の分岐流路6にそれぞれ及ぼす圧力を−34kPa程度にした場合の、血液中の有形成分の流れをシミュレーションした結果を示している。図3では有形成分の流れが図示されており、血漿の流れは図示されていない。この図3から明らかなように、分岐流路6には有形成分が流れ込まず、血漿が完全に分離されて抽出できた。成分分離機構2の各部の寸法や細部の形状を変化させたり、ポンプ9a〜9cの圧力をはじめとした処理条件を変化させることによって、血漿および有形成分の流れに多少の変化が生じることが考えられるが、少なくとも、本実施形態の流路構成によって、有形成分を含まない血漿のみ、もしくは、メイン流路5を流れる流体と比較して有形成分の割合が著しく少ない血液が抽出でき、血漿と有形成分の分離抽出にある程度の効果が得られる。
【0029】
[第2の実施形態]
図4には、本発明の第2の実施形態の成分分離機構32の拡大図が示されている。本実施形態の成分分離機構32は、第1の実施形態の成分分離機構2と同様に、導入路33から絞り部34を介してメイン流路35に接続されており、メイン流路35の絞り部34との接続部分の両側方に1対の分岐流路36が接続されている。本実施形態では、絞り部34は導入路33側からメイン流路35側に向かって徐々に幅が狭くなっており、メイン流路35は絞り部34との接続部分から徐々に幅が広くなっており、分岐流路36はメイン流路35との接続部分から徐々に幅が広くなっている。そして、絞り部34の徐々に幅が狭くなっている部分の流路側壁34aと、メイン流路35の徐々に幅が広くなっている部分の流路側壁35aと、分岐流路36の徐々に幅が広くなっている部分の一方の側壁36aがそれぞれ連続して、流路の内側に向かって凸状の円弧形状を形成している。さらに、分岐流路36の徐々に幅が広くなっている部分の他方の側壁36cは、一方の側壁36aと線対称な円弧形状を形成している。同様に、絞り部34の徐々に幅が狭くなっている部分の流路側壁34bと、メイン流路35の徐々に幅が広くなっている部分の流路側壁35bと、分岐流路36の徐々に幅が広くなっている部分の一方の側壁36bがそれぞれ連続して、流路の内側に向かって凸状の円弧形状を形成しており、分岐流路36の徐々に幅が広くなっている部分の他方の側壁36dは、一方の側壁36bと線対称な円弧形状を形成している。
【0030】
メイン流路35にはポンプ39aが、1対の分岐流路38には、ポンプ39aと独立して作動するポンプ39bがそれぞれ接続されている。導入路33と絞り部34とメイン流路35はそれぞれの中心線40が一致し、この中心線40を中心とする線対称形状になるように形成されている。さらに、1対の分岐流路36も、中心線40を中心として線対称になるように形成されている。
【0031】
本実施形態の成分分離機構32では、各分岐流路36内に仕切り壁41が形成されており、分岐流路36は仕切り壁41によって第1流路部42と第2流路部43に分かれている。この分岐流路36には、後述するように層流が流れるため、この層流の第1の層が第1流路部42を流れ、第2の層が第2流路部43を流れる。なお、流路の各部分において、その幅にかかわらず深さは全て一定である。このようにして、被検査体流路中に含まれる成分分離機構32が構成されている。
【0032】
この成分分離機構32の内部の流れについて説明すると、分析すべき血液が導入路33に供給され、絞り部34において流れの幅が狭められて流速が速くなりつつメイン流路35へと図4の左方から右方へ流れる一方、メイン流路35に流入した血液の一部が、1対の分岐流路36にそれぞれ流れて行く。このような血液の流れにおける、血液中の血漿(流体成分)と有形成分(赤血球、白血球、血小板など)との挙動について説明する。導入路33を流れている段階では、有形成分は血液中にほぼ均等にまたはランダムに分散した状態であるが、絞り部34において流れの幅が狭くなることによって、前記したように流速が速くなるとともに、有形成分が中心線40付近に集中する。そして、血液が絞り部34からメイン流路35に流入する際には、流路の中心線40の近傍で、有形成分が集中させられた状態のままで高速でメイン流路35に流入する流れの他に、流路側壁34a,35a,36aが連続して形成している円弧に沿って図4上方の一方の分岐流路36に流入する流れと、流路側壁34b,35b,36bが連続して形成している円弧に沿って図4下方の他方の分岐流路36に流入する流れとが生じる。
【0033】
このように流路側壁からなる円弧に沿って進行する流れには遠心力が作用して、重い有形成分と軽い液体成分(血漿)とは遠心分離する。しかも、前記したように、有形成分が流路の中心線40の近傍に集中させられた状態から流れが分岐するので、有形成分を含む第1の層と、有形成分を含まない血漿のみの第2の層とが容易に分離しやすい。そして、前記したように、マイクロ流路のような微細な流路内では物質の拡散に非常に長い時間が必要であり、乱流は生じにくく層流が生じやすいため、遠心分離によって第1の層と第2の層とに一旦分離した層流は、その分離状態を保ったまま分岐流路36を進行する。仕切り壁41を、第1の層と第2の層との境界位置に精度よく形成することによって、第2流路部43には有形成分を除く血漿のみが流れる。
【0034】
以上説明したように、本実施形態の成分分離機構によると、1対の分岐流路36の第2流路部43には有形成分は存在せず血漿のみが流れる。こうして、有形成分と血漿との分離が行われる。第2流路部43内を流れる流体を取り出すと、分析のために必要な血漿のみを抽出することができる。特に、本実施形態では、各流路の深さが一定であるため、深さが場所によって変化している構成に比べて乱流が発生しにくく層流が形成されやすく、流体成分の分離抽出に適している。
【0035】
図5には、図4に示している成分分離機構32の具体的な寸法の一例を示している。なお、図5中に記載している長さの単位は全て[mm]である。そして、図6には、ポンプ39a(図4参照)を作動させてメイン流路5に及ぼす圧力(−30kPa)と、ポンプ39b(図4参照)を作動させて1対の分岐流路6にそれぞれ及ぼす圧力(−30kPa)とを等しくして、その際の血液中の有形成分の流れを観察した結果を示している(ただし左右が図4,5とは逆になっている)。図6では有形成分の流れが濃く明確に図示されており、血漿の流れはごく薄くしか図示されていない。この図面から明らかなように、流路側壁が連続して形成されている円弧形状に沿って流れる部分から、流体の流れは、有形成分を含む第1の層と、有形成分を除く血漿のみが流れる第2の層とからなる層流となり、屈曲している部分も含めて、下流の分岐流路36全体にわたって、層流が保たれていることがわかる。したがって、第1の層と第2の層を仕切り壁41によって分離させると、分岐流路36の第2流路部43には有形成分が流れ込まず、血漿が完全に分離されて抽出できた。成分分離機構32の各部の寸法や細部の形状を変化させたり、ポンプの圧力をはじめとした処理条件を変化させることによって、血漿および有形成分の流れに多少の変化が生じることも考えられるが、少なくとも、本実施形態の流路構成によって、血漿のみ、もしくは、メイン流路35を流れる流体および第1の層を流れる流体と比較して有形成分の割合が少ない血液が抽出でき、血漿と有形成分の分離抽出にある程度の効果が得られる。
【0036】
本実施形態では、絞り部34の流路側壁34aが、メイン流路35の流路側壁35aおよび分岐流路36の一方の側壁36aに連続して、流路の内側に向かって凸状の円弧形状を形成しているが、絞り部34の流路側壁34aは直線的に延びており、メイン流路35の流路側壁35aと分岐流路36一方の側壁36aのみが、流路の内側に向かって凸状の円弧形状を形成する構成であってもよい。また、分岐流路36の他方の側壁36cは、一方の側壁36aと線対称な円弧形状を形成していなくてもよい。また、分岐流路は1対でなくても片側に1つまたはそれ以上の分岐流路があってもよい。
【0037】
以上説明したように、本発明の第1の実施形態の成分分離機構2では分岐流路6に、第2の実施形態の成分分離機構32では分岐流路36の第2流路部43に、有形成分を除いた血漿(または、少なくとも有形成分の含有量の少ない血液)が抽出可能である。従って、これらの成分分離機構6,36を用いることによって、抗原検出等の分析に不要な有形成分を分離して、分析に必要な血漿を容易に抽出することができる。しかも、マイクロ流路機構に形成される凹部の形状を変えて分岐流路6,36を追加するだけで、モータ等の外部部材を必要とせず、また、フィルタ構造のように非常に微細な構造も不要であり、比較的簡単で、目詰まりや流体への過大なストレスも生じない構造で、効果的に血漿の抽出が行える。しかも、バッファー液等は使用しないため、血漿の濃度が変動するおそれがなく、高精度の分析が行える。
【0038】
なお、本発明の成分分離機構2,32は、血液以外の、有形成分を含む流体を対象としても広く応用でき、前記したのと同様な効果が得られる。そして、抗原検出等の流体分析に限られず、有形成分を分離し流体成分を抽出した後にいかなる処理を行う場合であっても、本発明は有効である。有形成分の一種として、流体に混入したごみやちりなどの不純物の除去のためにも使用可能であり、その場合には、単に流体の純度を高めるための目的に使用することも、本発明の範囲内に含まれる。
【0039】
前記した各実施形態では、独立して作動する複数のポンプを用いているが、これに限定されるものではなく、単一のポンプから、独立して作動する複数のレギュレータを介して各流路に接続してもよい。また、流路の形状や流速等を適宜に調節して、圧力差をつけなくても前記したような成分分離が可能である場合には、単一のポンプから直接各流路に接続する構成にすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1の実施形態の成分分離機構を示す概略図である。
【図2】図1に示す成分分離機構の具体的な寸法の一例を示す概略図である。
【図3】図1,2に示す成分分離機構を用いた成分分離方法のシミュレーション結果を示す模式図である。
【図4】本発明の第2の実施形態の成分分離機構を示す概略図である。
【図5】図4に示す成分分離機構の具体的な寸法の一例を示す概略図である。
【図6】図4,5に示す成分分離機構を用いた成分分離方法の実際の流れの観察結果を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
2,32 成分分離機構
3,33 導入路
4,34 絞り部
5,35 メイン流路
6,36 分岐流路
7 拡張部
8 取出し流路
9a〜9c ポンプ
10,40 中心線
34a,34b,35a,35b 流路側壁
36a,36b 一方の側壁
36c,36d 他方の側壁
39a,39b ポンプ
41 仕切り壁
42 第1流路部
43 第2流路部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有形成分を含む流体が供給される導入路と、
該導入路の下流側に接続されており幅が狭くなっている絞り部と、
該絞り部の下流側に接続されており該絞り部よりも広い幅を有するメイン流路と、
前記メイン流路の前記絞り部との接続部分の近傍から外方へ延び、前記導入路および前記メイン流路よりも幅が狭く、前記有形成分を含まない流体、もしくは、前記メイン流路を流れる流体と比較して前記有形成分の割合が少ない流体が流れる分岐流路と
を有することを特徴とする成分分離機構。
【請求項2】
前記分岐流路は前記メイン流路の幅方向外側かつ上流側に向かって延びている、請求項1に記載の成分分離機構。
【請求項3】
有形成分を含む流体が供給される導入路と、
該導入路の下流側に接続されており幅が狭くなっている絞り部と、
該絞り部の下流側に接続されており該絞り部よりも広い幅を有するメイン流路と、
前記メイン流路の前記絞り部との接続部分の近傍から外方へ延び、前記流体に対して遠心力を作用させ、前記有形成分を含む流体が流れる第1の層と、前記有形成分を含まない流体、もしくは、前記メイン流路を流れる流体および前記第1の層を流れる流体と比較して前記有形成分の割合が少ない流体が流れる第2の層とを含む層流が流れる分岐流路と
を有することを特徴とする成分分離機構。
【請求項4】
前記絞り部は前記導入路側から前記メイン流路側に向かって徐々に幅が狭くなっており、前記メイン流路は前記絞り部との接続部分から徐々に幅が広くなっており、前記分岐流路は前記メイン流路との接続部分から徐々に幅が広くなっており、
前記メイン流路の徐々に幅が広くなっている部分の側壁と、前記分岐流路の徐々に幅が広くなっている部分の一方の側壁が連続して、流路の内側に向かって凸状の円弧形状を形成している、請求項3に記載の成分分離機構。
【請求項5】
前記分岐流路中には、前記第1の層と前記第2の層とを分離させるための仕切り壁が形成されている、請求項3または4に記載の成分分離機構。
【請求項6】
前記導入路と前記絞り部と前記メイン流路はそれぞれの中心線が一致し該中心線を中心として線対称になる形状であり、1対の前記分岐流路が、前記中心線を中心として線対称に形成されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の成分分離機構。
【請求項7】
有形成分を含む流体を導入路に供給し、
前記流体を前記導入路から、幅が狭くなっている絞り部を通過させて、流速を速くするとともに前記有形成分を流路の中心線付近に集中させ、
前記流体を前記絞り部から、前記有形成分を流路の中心線付近に集中させた状態のままで、速くなった流速で、前記絞り部よりも広い幅を有するメイン流路に流入させて、前記有形成分を含む前記流体を前記メイン流路内に流れさせるとともに、
前記メイン流路の前記絞り部との接続部分の近傍から幅方向外側かつ上流側に向かって延びている、前記導入路および前記メイン流路よりも幅が狭い分岐流路に、前記有形成分を含まない流体、もしくは、前記メイン流路を流れる流体と比較して前記有形成分の割合が少ない流体を流れさせることを特徴とする成分分離方法。
【請求項8】
有形成分を含む流体を導入路に供給し、
前記流体を前記導入路から、幅が狭くなっている絞り部を通過させて流速を速くし、
前記流体を前記絞り部から、速くなった流速で、前記絞り部よりも広い幅を有するメイン流路に流入させて、前記有形成分を含む前記流体を前記メイン流路内に流れさせるとともに、
前記流体を、前記メイン流路から、前記メイン流路の流路側壁と分岐流路の流路側壁とが連続して形成している、流路の内側に向かって凸状の円弧形状に沿って、遠心力を作用させながら前記分岐流路へ流入させて、前記分岐流路内を、前記有形成分を含む前記流体が流れる第1の層と、前記有形成分を含まない流体、もしくは、前記メイン流路を流れる流体および前記第1の層を流れる流体と比較して前記有形成分の割合が少ない流体が流れる第2の層とを含む層流を流れさせることを特徴とする成分分離方法。
【請求項9】
前記分岐流路内に設けられている仕切り壁によって前記第2の層を前記第1の層から分離させて、前記有形成分を含まない流体、もしくは、前記メイン流路を流れる流体および前記第1の層を流れる流体と比較して前記有形成分の割合が少ない流体を取り出す、請求項8に記載の成分分離方法。
【請求項10】
前記流体は血液であり、前記液体成分は血漿である、請求項7〜9のいずれか1項に記載の成分分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−226753(P2006−226753A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−38835(P2005−38835)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】