説明

成分濃度分析装置及び成分濃度分析方法

【課題】試料に含まれる複数成分のばらつきや温度等の環境因子の擾乱を除外でき、測定対象の成分濃度を高精度に同定することを可能にする成分濃度分析装置及び成分濃度分析方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本成分濃度分析装置は、波長可変な2つの光を逆位相の同一周波数の信号でそれぞれ強度変調して混合した混合光を生成し、前記混合光を試料に照射して前記試料から発生する音波を検出し、前記音波から前記2つの光毎のスペクトルデータを取得する光音響信号検出手段11と、光音響信号検出手段11が取得した前記2つの光毎のスペクトルデータの差分を計算し、前記試料に含まれる測定対象成分の濃度を測定する演算手段12と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の成分濃度を光音響法で測定する成分濃度分析装置及び成分濃度分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化が進み、成人病の患者数の増大に対する対応が大きな社会的な課題になりつつある。血糖値などの検査においては血液の採取が必要なために患者にとって大きな負担となるので、血液を採取しない非侵襲な成分濃度分析装置が注目されている。現在までに開発された非侵襲な成分濃度分析装置としては、皮膚内に電磁波を照射し、測定対象とする血液成分、例えば、血糖値の場合はグルコース分子に吸収され、局所的に加熱して熱膨張を起こして生体内から発生する音波を観測する、光音響法が注目されている。なお、光パルスの光音響励起にとって発生する音圧は試料に吸収される光の量である吸光度に比例することが知られている。
【0003】
従来の光音響装置の光源には、パルス、および連続波(CW)が用いられる。図1は光パルスを電磁波として用いた従来の成分濃度分析装置である(例えば、非特許文献1を参照。)。本例では試料として血液成分の血糖、すなわちグルコースを測定対象としている。図1において、駆動回路604はパルス状の励起電流をパルス光源617に供給し、パルス光源617はサブマイクロ秒の持続時間を有する光パルスを発生し、発生した光パルスは試料610に照射される。光パルスは試料610の内部にパルス状の光音響信号と呼ばれる音波を発生させ、発生した音波は音波検出器613により検出され、さらに音圧に比例した電気信号に変換される。電気信号は増幅器615で増幅され波形観測器621で平均化され、記録器630に電気信号のピーク振幅を記録する。異なる濃度におけるピーク振幅を計測した検量線から、試料610の成分濃度を測定する。
【0004】
水の吸光度は温度によって変化することが知られている。水を含む試料の温度が変わると吸光度が変わるため、光音響励起で生じる音圧が変わることになる。このため、測定対象の濃度とピーク振幅の関係である検量線の切片がシフトする可能性があり、成分濃度算定の誤差が生じることが課題であった。
【0005】
上記課題を解決するために、複数波長を用いることが容易なCW法における2波長差分方式の成分濃度分析装置も知られている(例えば、特許文献1を参照。)。図2はCW法を用いた従来の成分濃度分析装置である。第1の光源601は、駆動回路604により、発振器603に同期して強度変調されている。一方、第2の光源602は、駆動回路604により、発振器603に同期して強度変調されている。更に、第2の光源602の駆動回路604には、発振器603の出力が遅延調整器605を介して給電される。その結果、第2の光源602は、第1の光源601に対して、位相(周波数)が、逆相に変調されるように構成されている。第1の光源601及び第2の光源602の出力光は、光合波器616により重畳され、1本の光束として、試料610に照射される。試料610内で発生された光音響信号は、音波検出器613により検出され、音圧に比例した電気信号に変換される。電気信号の振幅が、発振器603に同期した波形観測器621によって計測され、記録器630に記録される。図2の成分濃度分析装置は、2つの波長の測定結果について差分をとることで水の温度変動による音圧変動を相殺することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K.M.Quan, G.B.Christison, H.A.MacKenzie and P.Hodgson, “Glucose determination by a pulsed photoacoustic technique: an experimental study usinga gelatin−based tissue phantom,” Phys.Med.Biol.,38(1993),pp1911−1922.
【特許文献1】特開2006−326223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
水の吸光度スペクトルは温度によって変化することが知られている。このため、図2の成分濃度分析装置の2つの固定波長の測定結果を差分した差分信号には温度依存性があることが明らかである。従って、図2の成分濃度分析装置は、温度変動による検量線の切片シフトで発生する成分濃度測定の誤差を解消することが課題であった。
【0008】
さらに、水と測定対象成分以外の複数の成分が試料に含まれる場合、2つの固定波長では測定対象成分以外の複数の成分のばらつきが測定対象成分の濃度の精度に影響するという課題もある。
【0009】
上記のように、試料に含まれる複数成分のばらつきや温度等の環境因子の擾乱が成分濃度測定の測定誤差発生の主な要因となっている。ところが、従来の単一波長を用いるパルス光音響法や2波長を用いたCW光音響法では、測定対象成分が当該波長に対して著しく吸収を呈する場合を除き、試料に含まれる複数成分のばらつきや温度等の環境因子の擾乱影響を受けずに測定対象成分のみを精度よく定量するのは困難という課題があった。
【0010】
そこで、本発明は、試料に含まれる複数成分のばらつきや温度等の環境因子の擾乱に関わらず、測定対象成分の濃度を高精度に同定することを可能にする成分濃度分析装置及び成分濃度分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る成分濃度分析装置は、2つの可変波長光源を用いて、交互に測定物に照射することで2つの光による光音響信号のスペクトルを取得し、その差分から測定対象成分の濃度を特定することとした。
【0012】
具体的には、本発明に係る成分濃度分析装置は、波長可変な2つの光を逆位相の同一周波数の信号でそれぞれ強度変調して混合した混合光を生成し、前記2つの光の波長を掃引しながら前記混合光を試料に照射して前記試料から発生する音波を検出し、前記音波から前記2つの光毎のスペクトルデータを取得する光音響信号検出手段と、前記光音響信号検出手段が取得した前記2つの光毎のスペクトルデータの差分を計算し、前記試料に含まれる測定対象成分の濃度を測定する演算手段と、を備える。
【0013】
本発明に係る成分濃度分析方法は、波長可変な2つの光を逆位相の同一周波数の信号でそれぞれ強度変調して混合した混合光を生成し、前記2つの光の波長を掃引しながら前記混合光を試料に照射して前記試料から発生する音波を検出し、前記音波から前記2つの光毎のスペクトルデータを取得する光音響信号検出手順と、前記光音響信号検出手順で取得した前記2つの光毎のスペクトルデータの差分を計算し、前記試料に含まれる測定対象成分の濃度を測定する演算手順と、を備える。
【0014】
本成分濃度分析装置は波長を掃引して光音響信号のスペクトルを取得している。このため、このスペクトルのうち測定対象成分の光音響効果の高い波長範囲を選択的に検出することで、精度良く濃度を定量することが可能となる。
【0015】
従って、本発明は、試料に含まれる複数成分のばらつきや温度等の環境因子の擾乱に関わらず、測定対象成分の濃度を高精度に同定することを可能にする成分濃度分析装置及び成分濃度分析方法を提供することができる。
【0016】
本発明に係る成分濃度分析装置の前記光音響信号検出手段は、前記2つの光のうち一方の光による水の吸光度と前記2つの光のうち他方の光による水の吸光度とが等しい状態を保ちつつ、前記2つの光の波長を掃引することが好ましい。
【0017】
本発明に係る成分濃度分析方法の前記光音響信号検出手順で、前記2つの光のうち一方の光による水の吸光度と前記2つの光のうち他方の光による水の吸光度とが等しい状態を保ちつつ、前記2つの光の波長を掃引することが好ましい。
【0018】
本成分濃度分析装置は、2つの光の波長を、両波長における水の吸光度が等しくなるように掃引することで、試料の水の吸収スペクトルの差分による除去や測定対象外の成分のピークを検出することができ、対象測定物の測定精度を高めることができる。
【0019】
本発明に係る成分濃度分析装置の前記演算手段は、前記スペクトルデータの差分を波長について一次微分することが好ましい。
【0020】
本発明に係る成分濃度分析方法の前記演算手順で、前記スペクトルデータの差分を波長について一次微分することが好ましい。
【0021】
温度の変動に対する水の吸光度スペクトルの変動はほぼ線形である。水の吸光度スペクトルの差分スペクトルを微分することで、水の吸光度スペクトルの温度による線形成分を除去することができる。このため、本成分濃度分析装置は、水の吸光度の温度変化の影響を排除することができ、測定精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、試料に含まれる複数成分のばらつきや温度等の環境因子の擾乱に関わらず、測定対象成分の濃度を高精度に同定することを可能にする成分濃度分析装置及び成分濃度分析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】従来の成分濃度分析装置を説明するブロック図である。
【図2】従来の成分濃度分析装置を説明するブロック図である。
【図3】水の吸光度スペクトルの模式図である。
【図4】グルコース水溶液の差吸光度スペクトルの模式図である。
【図5】温度の変動に対する水の吸光度スペクトルの変動を説明する図である。
【図6】本発明に係る成分濃度分析装置を説明するブロック図である。
【図7】本発明に係る成分濃度分析装置を説明するブロック図である。
【図8】本発明に係る成分濃度分析方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0025】
(成分濃度分析装置の動作原理)
まず、本成分濃度分析装置の動作を説明する。光音響効果で発生する音波を音波検出器で検出した光音響信号Sは次式で表すことができる。
【数1】

ここで、Pは光源パワー、Vは水の体積分率、Mは測定対象成分のモル濃度、αはモル濃度当たりの吸光度、αは水の吸光度、ρは測定対象成分が含まれた水溶液の密度、βは該水溶液の熱膨張率、Cpは該水溶液の比熱、Kは測定対象の形状や検出器の感度や接触状態などの測定系のシステムによって決まるパラメータである。
【0026】
以下の説明では測定試料の測定対象成分をグルコースとして説明する。図3は、水の吸光度スペクトル(実線)と2g/dLのグルコース水溶液の吸光度スペクトル(破線)の模式図である。水の吸光度スペクトルは波長1.5μm近傍にOH振動ピークをもつ。また、水の吸光度スペクトルは、波長1.5μmの長波側の波長1.6μm近傍にグルコースのC−Hの一次結合振動吸収をもつ。さらに、水の吸光度スペクトルは、波長1.5μmの短波側1.4μm近傍で水とグルコースの相互作用による負の吸収がある。
【0027】
図8は、本成分濃度分析装置の成分濃度分析方法を説明するフローチャートである。図8も参照して本成分濃度分析方法を説明する。まず、ステップS01でグルコースのC−Hの一次結合振動吸収のある波長範囲λ10〜λ11を設定する。次に、ステップS02で、図3の水の吸光度スペクトルを参照し、波長範囲λ10〜λ11のそれぞれの波長λ1iにおける吸光度と等しい吸光度をもつ波長λ2iを探し出す。波長λ2iの範囲が波長範囲λ20〜λ21となる。λ1iは波長範囲λ10〜λ11の任意の波長を意味する。λ2iは波長範囲λ20〜λ21の任意の波長を意味する。
【0028】
続いて、ステップS03で、2つの可変波長光源の可変波長範囲を波長λ10からλ11へ、もう一方を波長λ20からλ21へ掃引する。掃引中は、波長λ1iによる水の吸光度と波長λ2iによる水の吸光度が等しい状態を保つように2つの可変波長光源の波長を調整する。なお、掃引方向は波長λ11からλ10へ、もう一方を波長λ21からλ20でも構わない。
【0029】
ステップS04で、これら2つの波長で取得した吸光度スペクトルの差分である差吸光度スペクトルを求める。この差吸光度スペクトルは2つの波長で取得した吸光度スペクトルの差分であるため水の吸光度スペクトルがベースラインとして除去されている。さらに、以下に説明するように差吸光度スペクトルを用いることでグルコース濃度の測定が容易になる。
【0030】
図4は、図3の水とグルコース水溶液との吸光度の差分のスペクトルである。ここで、参照試料を水、測定試料をグルコース水溶液とし、両者に逆位相の検査光を照射する。音波検出器113は、前述のように両者の差分音波を検出する。光音響信号は数式1のように吸光度に比例するため、グルコース水溶液の吸光度スペクトルと水の吸光度スペクトルとの差分をとれば、グルコースの吸光度スペクトルを得ることができる。すなわち、図4はグルコースの吸光度スペクトルとなる。なお、図4のグルコース水溶液の濃度は2g/dLである。
【0031】
図4のスペクトル領域1ではグルコースは正の吸光度変動を示し、図4のスペクトル領域2ではグルコースは負の吸光度変動を示す。例えば、グルコースの吸光度は、グルコース水溶液の濃度により、スペクトル領域1(1.6μm帯)のうち1.6μmでは1g/dL当たり1.85×10−3mm−1程度上昇する。一方、グルコースの吸光度は、スペクトル領域2(1.4μm帯)のうち1.4μmでは1g/dL当たり−4.50×10−3mm−1程度下降する。従って、ステップS04でスペクトル領域1とスペクトル領域2との差吸光度スペクトルを取得すれば、スペクトル領域1の負のスペクトル形状とスペクトル領域2の正のスペクトル形状が足し合わされ、鮮明なスペクトルが得られる。このため、グルコース濃度の測定が容易になる。
【0032】
グルコースの特異吸収である近赤外波長域では、水の吸光度が生理範囲の濃度のグルコースの吸光度に比べ1000倍と大きく、試料中の水による吸光度の温度変動がグルコース検出精度を著しく悪化させる要因となる。そこで、水の吸収度スペクトルの温度シフトを事前に記録しておき、グルコース以外からの発生する光音響信号の変化に対して、計測した試料温度を用いて補正を行うことで、グルコース濃度の測定精度をより高めることが可能である。しかしながら、例えば、近赤外波長域では、光音響波の音源は試料内部に数mm程度の一定の深さ分布を持っており、試料の表面温度では正確な温度を計測できず補正誤差が生じる可能性がある。
【0033】
そこで、近赤外分光法においては重要な前処理として、スペクトルの微分処理が用いられる。例えば、スペクトルの微分処理は、バイアスや線形成分の除去、ピークの先鋭化や分離、微小なピークの強調化などの機能があり、1次または2次の微分処理が主に使われる。
【0034】
本成分濃度分析方法では、吸光度の温度変化が線形とみなせることを利用し、ステップS05で1次の微分処理を用いて線形成分の除去を行う。図5にスペクトル領域1、2における代表的な波長(1384nm、1384nm、1380nm、1608nm)における吸光度の温度変化を示した。10℃前後の温度変化に対して、4つの波長の水の吸光度変化はほぼ線形とみなせ、差吸光度スペクトルでは、温度に対してスペクトルのベースラインが上下にシフトする。従って、差吸光度スペクトルの一次微分を演算することで線形成分を除去することができる。さらに、差吸光度スペクトルの一次微分を施した一次微分スペクトルを多変量解析し(ステップS06)、グルコース濃度を算出する(ステップS07)。微分処理を行うことで、従来必要であった温度センサや制御回路等の部品点数が削減でき、省スペース化や安価になるといったメリットがある。
【0035】
(第1実施形態)
図6は、本実施形態の成分濃度分析装置を説明するブロック図である。本成分濃度分析装置は、波長可変な2つの光を逆位相の同一周波数の信号でそれぞれ強度変調して混合した混合光を生成し、前記2つの光の波長を掃引しながら前記混合光を試料に照射して前記試料から発生する音波を検出し、前記音波から前記2つの光毎のスペクトルデータを取得する光音響信号検出手段11と、光音響信号検出手段11が取得した前記2つの光毎のスペクトルデータの差分を計算し、前記試料に含まれる測定対象成分の濃度を測定する演算手段12と、を備える。
【0036】
波長可変な2つの光は、それぞれ第1可変波長光源101及び第2可変波長光源102から出力される。第1可変波長光源101からの光(波長λ1i)は、光変調器111で発振器103に同期して強度変調されている。一方、第2可変波長光源102からの光(波長λ2i)は、光変調器112で発振器103に同期して強度変調されている。なお、発振器103の出力は、遅延調整器105により180°移相を調整されて光変調器112に入力される。すなわち、第2可変波長光源102からの光は、第1可変波長光源101からの光に対して、位相(周波数)が、逆相に変調されている。
【0037】
第1可変波長光源101からの光及び第2可変波長光源102からの光は、光合波器116により重畳され、1の光束として、試料室中の試料110に照射される。音波検出器113は試料110内で発生した光音響信号を検出し、音圧に比例した電気信号に変換して出力する。前置増幅器115はこの電気信号を増幅する。位相検波器121は、この電気信号を発振器103から参照信号線106を介して入力される発振信号を用いて波長λ1iの光音響による信号と波長λ2iの光音響による信号とに分けて同期検波する。記録器130は、位相検波器121が出力する波長λ1iの光音響による信号と波長λ2iの光音響による信号との差分を計算し、差吸光度スペクトラムとして記録する。
【0038】
記録器130は記録した差吸光度スペクトラムを一次微分演算し、予め取得してある濃度の異なるグルコース水溶液の検量用スペクトルデータに照らし合わせ、多変量解析アルゴリズムを利用して試料110のグルコース濃度を算出する。
【0039】
本実施形態では、光変調器(111、112)により光の強度変調を行ったが、第1可変波長光源101と第2可変波長光源102の駆動電流をそれぞれ駆動回路で変調し、光の強度変調を行っても良い。また、光合波器116を用いない構成として、第1可変波長光源101と第2可変波長光源102を2×1光スイッチに接続し、交互に切替を行い、2×1光スイッチの出力ポートで互いに逆相で混合した光を作成してもよい。
【0040】
(第2実施形態)
第1可変波長光源101および第2可変波長光源102の各光出力は、光ファイバ(205、206)を介して音響光学変調器201に入力される。音響光学変調器201はパルス発生器202からの駆動電圧に同期して2入力×1出力のスイッチングを周波数380kHzで繰返すように動作させた。これにより、第2可変波長光源102からの光は、第1可変波長光源101からの光に対して位相(周波数)が逆相に変調される。
【0041】
本実施例での可変波長光源には、外部共振器による方式を用いたが、広帯域光源からの広帯域光を波長可変フィルタによって波長選択を行う方式をとってもよい。第1可変波長光源101の波長範囲は1.56μm〜1.68μmであり、第2可変波長光源102の波長範囲は1.33μm〜1.45μmとした。可変波長光源は内部にフォトディテクタを内蔵しており、光出力をモニターしつつ注入電流を制御し、異なる波長での光パワーを一定に保つ。平均光パワーの設定は10mW程度とした。波長掃引は第1可変波長光源101が1.56μmから始め、第2可変波長光源102が1.45μmから始め、波長掃引速度は1秒当たり2nmであり、一連の波長掃引測定におよそ60秒を要した。
【0042】
第1可変波長光源101からの光と第2可変波長光源102からの光は音響光学変調器201で重畳され、1本の光束となっている。音響光学変調器201の光出力は、光ファイバを介して光コリメータ203へ接続する。光コリメータ203は、光ビーム径を直径2mm程度のガウシアンプロファイルを持つビームへと変換する。光コリメータ203からのコリメート光は試料容器210内の試料110へ照射された。試料容器210や試料110が配置される試料室は照射光エネルギーがほとんど吸収される吸収長以上の光路長が得られるサイズであることが好ましい。本例では光軸方向の試料110の長さを10mmとした。また、不要な多重光反射による雑音を防ぐために、ガラス窓211には反射防止膜を形成しておくことが好ましく、上記波長帯で1%以下の反射率となるようにした。
【0043】
試料室内に未知のグルコース水溶液を導入し、同該試料室内で発生された光音響信号は、音波検出器113により検出した。音波検出器113は圧電素子の共振特性を利用した狭帯域型を用い、感度が高い共振周波数と駆動電圧は同一となるようにした。音波検出器113の受音面は直接グルコース水溶液と接しており、より受音効率を高めるために、水とPZTとの両者の音響インピーダンスが整合するように中間層(シリコーンゴム)を設けた。
【0044】
音波検出器113は、検出した音圧に比例した電気信号を出力し、前置増幅器115は該電気信号を増幅する。位相検波器121は、増幅した電気信号の振幅をパルス発生器202からのパルス信号を使い同期検波した。位相検波器121の積分時間は波長掃引速度に依存し、1/3秒とした。例えば、位相検波器121は、前置増幅器115から出力される増幅された電気信号として波長1.6μmの波長λ2iの光でおよそ1.5mVの振幅を測定した。記録器130は掃引される各波長(λ1i、λ2i)の結果を記録した。これらが波長λ1iの吸光度スペクトル及び波長λ2iの吸光度スペクトルとなる。
【0045】
記録器130は、これらの吸光度スペクトルに対して、予め計測しておいた波長ごとの光パワーを除算し、パワー補正を行った。記録器130は、補正後の波長λ1iの吸光度スペクトルと波長λ2iの吸光度スペクトルとの差分との差分である差吸光度スペクトルを算出した。記録器130は、この差吸光度スペクトルを一次微分演算をした後に、異なるグルコース濃度(0〜2g/dL、100mg/dL間隔)の検量用スペクトルを用いた多変量解析アルゴリズムで処理することで、グルコース成分濃度を150mg/dLと算出した。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係る成分濃度分析装置及び成分濃度分析方法は、液体中の成分濃度を測定する分野、例えば果実の糖度測定に適用することができる。また、本発明に係る成分濃度分析装置及び成分濃度分析方法は、日常の健康管理や美容上のチェックに利用することができる。また、人間ばかりでなく、動物についても健康管理に利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
11:光音響信号検出手段
12:演算手段
101:第1可変波長光源
102:第2可変波長光源
103:発振器
105:遅延調整器
106:参照信号線
110:試料
111、112:光変調器
113:音波検出器
115:前置増幅器
116:光号波器
121:位相検波器
130:記録器
201:音響光学変調器
202:パルス発生器
203:光コリメータ
205、206:光ファイバ
210:試料容器
211:ガラス窓
601:第1光源
602:第2光源
603:発振器
604:駆動回路
605:遅延調整器
606:参照信号線
610:試料
613:音波検出器
615:前記増幅器
616:光合波器
617:パルス光源
621:波形観測器
630:記録器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長可変な2つの光を逆位相の同一周波数の信号でそれぞれ強度変調して混合した混合光を生成し、前記2つの光の波長を掃引しながら前記混合光を試料に照射して前記試料から発生する音波を検出し、前記音波から前記2つの光毎のスペクトルデータを取得する光音響信号検出手段と、
前記光音響信号検出手段が取得した前記2つの光毎のスペクトルデータの差分を計算し、前記試料に含まれる測定対象成分の濃度を測定する演算手段と、
を備える成分濃度分析装置。
【請求項2】
前記光音響信号検出手段は、
前記2つの光のうち一方の光による水の吸光度と前記2つの光のうち他方の光による水の吸光度とが等しい状態を保ちつつ、前記2つの光の波長を掃引することを特徴とする請求項1に記載の成分濃度分析装置。
【請求項3】
前記演算手段は、
前記スペクトルデータの差分を波長について一次微分することを特徴とする請求項1又は2に記載の成分濃度分析装置。
【請求項4】
波長可変な2つの光を逆位相の同一周波数の信号でそれぞれ強度変調して混合した混合光を生成し、前記2つの光の波長を掃引しながら前記混合光を試料に照射して前記試料から発生する音波を検出し、前記音波から前記2つの光毎のスペクトルデータを取得する光音響信号検出手順と、
前記光音響信号検出手順で取得した前記2つの光毎のスペクトルデータの差分を計算し、前記試料に含まれる測定対象成分の濃度を測定する演算手順と、
を備える成分濃度測定方法。
【請求項5】
前記光音響信号検出手順で、
前記2つの光のうち一方の光による水の吸光度と前記2つの光のうち他方の光による水の吸光度とが等しい状態を保ちつつ、前記2つの光の波長を掃引することを特徴とする請求項4に記載の成分濃度分析方法。
【請求項6】
前記演算手順で、
前記スペクトルデータの差分を波長について一次微分することを特徴とする請求項4又は5に記載の成分濃度分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−243261(P2010−243261A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90466(P2009−90466)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】