説明

成分濃度分析装置及び成分濃度分析方法

【課題】試料に含まれる複数成分のばらつきや温度等の環境因子の擾乱を除外でき、測定対象の成分濃度を高精度に同定することを可能にする成分濃度分析装置及び成分濃度分析方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本成分濃度分析装置は、波長可変な2つの光を逆位相の同一周波数の信号でそれぞれ強度変調して混合した混合光を生成し、前記混合光を試料に照射して前記試料から発生する音波を検出し、前記音波から前記2つの光毎のスペクトルデータを取得する光音響信号検出手段と、光音響信号検出手段が取得した前記2つの光毎のスペクトルデータの差分を計算し、前記試料に含まれる測定対象成分の濃度を測定する演算手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の成分濃度を光音響法で測定する成分濃度分析装置及び成分濃度分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化が進み、成人病の患者数の増大に対する対応が大きな社会的な課題になりつつある。血糖値などの検査においては血液の採取が必要なために患者にとって大きな負担となるので、血液を採取しない非侵襲な成分濃度分析装置が注目されている。現在までに開発された非侵襲な成分濃度分析装置としては、皮膚内に電磁波を照射し、測定対象とする血液成分、例えば、血糖値の場合はグルコース分子に吸収され、局所的に加熱して熱膨張を起こして生体内から発生する音波を観測する、光音響法が注目されている。
【0003】
従来の光音響装置の光源には、パルス、および連続波(CW)が用いられる。図1は光パルスを電磁波として用いた従来の成分濃度分析装置である(例えば、非特許文献1を参照。)。本例では試料として血液成分の血糖、すなわちグルコースを測定対象としている。図1において、駆動回路604はパルス状の励起電流をパルス光源617に供給し、パルス光源617はサブマイクロ秒の持続時間を有する光パルスを発生し、発生した光パルスは試料610に照射される。光パルスは試料610の内部にパルス状の光音響信号と呼ばれる音波を発生させ、発生した音波は音波検出器613により検出され、さらに音圧に比例した電気信号に変換される。電気信号は増幅器615で増幅され波形観測器621で平均化され、記録器630に電気信号のピーク振幅を記録する。異なる濃度におけるピーク振幅を計測した検量線から、試料610の成分濃度を測定する。
【0004】
光パルスの光音響励起によって発生する音圧は試料の吸光度に比例する。このため、温度や水体積分率の変動などの水の影響で音圧変動し、検量線の切片がシフトする可能性がある。検量線の切片がシフトした場合、成分濃度算定に誤差が生じるという課題があった。
【0005】
上記課題を解決するために、複数波長を用いることが容易なCW法における2波長差分方式の成分濃度分析装置も知られている(例えば、特許文献1を参照。)。図2はCW法を用いた従来の成分濃度分析装置である。第1の光源601は、駆動回路604により、発振器603に同期して強度変調されている。一方、第2の光源602は、駆動回路604により、発振器603に同期して強度変調されている。更に、第2の光源602の駆動回路604には、発振器603の出力が遅延調整器605を介して給電される。その結果、第2の光源602は、第1の光源601に対して、位相(周波数)が、逆相に変調されるように構成されている。第1の光源601及び第2の光源602の出力光は、光合波器616により重畳され、1本の光束として、試料610に照射される。試料610内で発生された光音響信号は、音波検出器613により検出され、音圧に比例した電気信号に変換される。電気信号の振幅が、発振器603に同期した波形観測器621によって計測され、記録器630に記録される。図2の成分濃度分析装置は、2つの波長の測定結果について差分をとること(差分検出)で、水のみの影響による音圧変動を相殺することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K.M.Quan, G.B.Christison, H.A.MacKenzie and P.Hodgson, “Glucose determination by a pulsed photoacoustic technique: an experimental study using a gelatin−based tissue phantom,” Phys.Med.Biol.,38(1993),pp1911−1922.
【特許文献1】特開2006−326223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
血糖値の算出は、2つの波長間の差分光音響信号を2つのうちの一方の光音響信号で規格化した規格化差分光音響信号、グルコースのモル濃度当たりの吸光度、及び水の吸光度で計算される。通常、水の吸光度を水分100%と仮定して計算しているが、体中の水分量(水体積分率)は環境要因(気温、湿度)や水分摂取量に伴い、±10%程度変動することが知られている。このため、グルコース定量精度も±10%程度の変動が予測され、環境要因等の変動がグルコース検出精度に大きく影響するという課題があった。
【0008】
さらに、実用的な精度を得るために、グルコースの特異吸収である近赤外波長域の光を測定に用いるが、この領域の光は、水への吸収が生理範囲のグルコースへの吸収に比べ1000倍と大きい。このため、試料中の水体積分率の変動がグルコース検出精度に大きく影響するという課題があった。
【0009】
そこで、本発明は、試料の水体積分率が変化する条件下においても、試料の測定対象成分の濃度を高精度に測定できる成分濃度分析装置及び成分濃度分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る成分濃度分析装置及び成分濃度分析方法は、試料の測定対象成分の濃度と試料の水体積分率を測定し、測定対象成分の濃度を水体積分率で補正することとした。
【0011】
具体的には、本発明に係る成分濃度分析装置は、互いに異なる波長且つ互いに水の吸光度が等しくなる波長の2つの光を逆位相の同一周波数の信号でそれぞれ強度変調して混合した混合光を生成し、前記混合光を試料に照射して前記試料から発生する光音響信号を検出し、前記光音響信号から前記試料に含まれる測定対象成分の濃度を演算する濃度演算手段と、前記光音響信号を検出する際に前記試料の水体積分率を測定する水体積分率測定手段と、前記濃度演算手段で演算した前記測定対象成分の濃度を前記水体積分率測定手段で測定した前記水体積分率で補正する補正手段と、を備える。
【0012】
本発明に係る成分濃度分析方法は、互いに異なる波長且つ互いに水の吸光度が等しくなる波長の2つの光を逆位相の同一周波数の信号でそれぞれ強度変調して混合した混合光を生成し、前記混合光を試料に照射して前記試料から発生する光音響信号を検出し、前記光音響信号から前記試料に含まれる測定対象成分の濃度を演算するとともに、前記光音響信号を検出する際に前記試料の水体積分率を光学的に測定し、前記測定対象成分の濃度を前記水体積分率で補正する。
【0013】
試料の測定対象成分の濃度を測定するとともに、試料の水体積分率を測定し、試料の測定対象成分の濃度を試料の水体積分率で補正することで、試料内の水体積分率が変化したとしても試料の測定対象成分の濃度を正確に測定することができる。
【0014】
従って、本発明は、試料の水体積分率が変化する条件下においても、試料の測定対象成分の濃度を高精度に測定できる成分濃度分析装置及び成分濃度分析方法を提供することができる。
【0015】
本発明に係る成分濃度分析装置の前記水体積分率測定手段は、前記混合光に含まれる少なくとも一方の光について前記試料に照射前の光強度と前記試料を透過後の光強度との比率を用いて前記水体積分率を測定することとしてもよい。
【0016】
本発明に係る成分濃度分析方法は、前記混合光に含まれる少なくとも一方の光について前記試料に照射前の光強度と前記試料を透過後の光強度との比率を用いて前記水体積分率を測定することとしてもよい。
【0017】
本水体積分率測定手段及び本水体積分率測定方法は、透過又は内部で反射した混合光を利用して水体積分率を測定する。本水体積分率測定手段及び本水体積分率測定方法は、試料の内部の水体積分率を測定することができる。
【0018】
本発明に係る成分濃度分析装置の前記水体積分率測定手段は、前記混合光に含まれる一方の光と同位相で、且つ前記混合光に含まれるいずれの光とも波長が異なる水体積分率測定用光を前記試料に照射し、前記水体積分率測定用光で前記試料から発生する光音響信号を検出し、前記混合光に含まれる一方の光に基づく光音響信号との比率を用いて前記水体積分率を測定することとしてもよい。
【0019】
本発明に係る成分濃度分析方法は、前記混合光に含まれる一方の光と同位相で、且つ前記混合光に含まれるいずれの光とも波長が異なる水体積分率測定用光を前記試料に照射し、前記水体積分率測定用光で前記試料から発生する光音響信号を検出し、前記混合光に含まれる一方の光に基づく光音響信号との比率を用いて前記水体積分率を測定することとしてもよい。
【0020】
補正精度を高めるためには、光音響効果で音源分布が生じている対象領域中の水体積分率を求めることが必要である。本水体積分率測定手段及び本水体積分率測定方法は、水体積分率測定用光を用いている。水体積分率測定用光で発生した光音響信号を使い水体積分率を産出しているため、光音響効果で音源分布が生じている対象領域中の水体積分率を求めることができる。従って、本成分濃度分析装置及び本成分濃度分析方法は、試料の測定対象成分の濃度をより高精度に測定できる。
【0021】
本発明に係る成分濃度分析装置及び成分濃度分析方法の前記水体積分率測定用光は、水の吸光度が最大となる波長とすることができる。試料の水体積分率を測定精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、試料の水体積分率が変化する条件下においても、試料の測定対象成分の濃度を高精度に測定できる成分濃度分析装置及び成分濃度分析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】従来の成分濃度分析装置を説明するブロック図である。
【図2】従来の成分濃度分析装置を説明するブロック図である。
【図3】水とグルコースの吸光度スペクトルの模式図である。
【図4】グルコース水溶液の差吸光度スペクトルの模式図である。
【図5】本発明に係る成分濃度分析装置を説明するブロック図である。
【図6】本発明に係る成分濃度分析装置を説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。また、以下の説明では測定対象成分をグルコースとして説明するが、測定対象成分がグルコース以外の成分であっても同様に測定できる。
【0025】
(成分濃度の算出)
円筒セル中の縦モードのみを考慮した音圧式(横モードカットオフ周波数ωcutoff以下)は、Navier−Stakes方程式の固有値を解くことで求めることができる。n次縦モードにおける音圧Snは以下のように表せる。
【数1】

【数2】

ここで、Pは光源パワー、jは虚数、ωは音波周波数、ωはn次の共振周波数、Qはn次の共振モードのQ値、νは音速、Lは共振器長、αは吸収係数、ρは密度、βは熱膨張率、Cpは比熱である。
【0026】
2つの波長で発生する光音響信号S,Sとすれば、
【数3】

ここで、Vは水の体積分率、Mはグルコースモル濃度、αg1,αg2はモル濃度当たりの吸光度、αw1,αw2は水の吸光度であり、Cは検出器の感度や光音響信号測定対象と検出器の音響的接触状態などの検出測定系のシステムによって決まるパラメータである。また、Kは次式である。
【数4】

【0027】
式(3),(4)の連立方程式をグルコースモル濃度Mについて解けば、
【数5】

となる。ここで、Snormは規格化差分光音響信号であり、(S2−S1)/S1を表す。
【0028】
図3は、水とグルコースの吸光度スペクトルの模式図である。図3に示すような水の吸光度がαw1=αw2となる2つの波長λ1,λ2を選択し、グルコースの吸光度が小さいためにαg1+αg2=αw1なる近似を用いている。図4は、グルコース水溶液の差吸光度スペクトルの模式図である。図4に示すように、2つの波長でのαg1,αg2は等しくないため、水からの信号のみが差分によって打ち消される。
【0029】
ここで、体積分率をV%とすれば、生体中ではおよそ80%とされているが、環境要因(気温、湿度)や水分摂取量に伴い、±10%程度変動する。そのため、グルコース定量精度も式(5)に従い、算定値Mにおよそ±10%程度の誤差が予測され、医療機器基準が±15%であることを鑑みれば無視できない誤差である。従って、水体積分率の補正をすることが必要となる。
【0030】
角質や表皮層の水分計測は、アトピー性皮膚炎をもたらすドライスキン、皮膚ガン、化粧品や薬効、美容などの分野で重要であり、様々な皮膚水分量測定がある。例えば、伝導率や誘電率の計測から皮膚水分量を計測する静電容量方式も知られている。水体積分率を補正するための測定対象の水体積分率の測定は、このような公知の水分量測定方法を利用してもよい。
【0031】
なお、静電容量方式で測定できる水体積分率は、角質層30〜40μm程度の厚さである。光音響法による皮膚内の光到達深度が真皮層を超えて数mmに及ぶ場合には、次に説明する、可視光や近赤外光の光透過分光法や光拡散反射分光法、あるいは水体積分率測定用光使用法で測定対象の水体積分率を測定する。
【0032】
(光透過分光法、光拡散反射分光法)
試料への入射光をI、試料内部で反射あるいは透過して試料外部に出射する出射光をIとした場合、入射光Iと出射光Iの比は、ダランベールの法則より光路長Lと仮定して、
【数6】

となる。以上から、Vについて求めると、
【数7】

となる。
【0033】
光路長Lは、皮膚の多成分(メラニンなど)や多重散乱の影響で変動する。しかし、例えば、耳朶を挟むように透過型の光センサを装着し透過光を測定した場合には、光路中に散乱への影響が大きい顕著な血管が存在しないこと、及び、グルコースの吸収する1.6μmの波長帯域で水が支配的な吸収成分であることから、上述の影響は小さく、水の吸収量から水体積分率Vを正確に測定することできる。
【0034】
(水体積分率測定用光使用法)
より補正精度を高めるためには、光音響効果で音源分布が生じている対象領域中の水体積分率Vを求めることが必要となる。すなわち、光音響法でグルコースを測定する光波長を用いて水体積分率Vを求めることが最も正確な測定方法である。以下で説明する水体積分率Vの測定手段は、試料の測定対象成分の濃度を測定するための光の他に水体積分率Vを測定するための光を用いる。この光で光音響効果を起こすとともに透過した光強度を測定することで光音響効果で音源分布が生じている対象領域中の吸光度を知ることができる。
【0035】
光吸収長に比べ、音波の波長が十分長い場合、光音響信号は吸光度の変化、即ち体積分率Vやグルコースモル濃度Mに依存しない。例えば,OH吸収バンドの極大吸収の波長λ3(1.46μm)における光音響信号S3とすると、水の吸光度αw3=1.2mm−1となり、およそ1mm(=αw3−1)で光パワーの90%は吸収され、同サイズの音源分布が生成する。
【0036】
ここで、音波波長が1mm以上、例えば3mm程度であるとすれば、発生する光音響効果の音源分布が波長に比べ十分小さい。即ち、(ω/ν)<<αw3と見なせるため、式(2)のF(L,α)のαに対する変化が非常に小さく無視できる。従って、光音響信号Sはほぼ光吸収パワーを測定することに等しくなり、次のように書くことができる。
【数8】

ここで、Kは式(3),(4)と同様のシステムパラメータであるが、吸収係数で決定される音源形状が他の2波長と大きく異なるために、前述のKとは値が異なる。
【0037】
例えば,λ3での音源深さは1mmであり、λ1,λ2での音源深さは5mmである。次に、光音響信号Sと光音響信号Sの比をとることによって、水の体積分率Vを以下のように求めることができる。
【数9】

ここで、αw1+αg1=αw1なる近似を用いている。上式を用いて、グルコース算定式は、次のように、
【数10】

となる.ここで、初期的に既知のグルコース濃度によって、K3を決定し、その後は、K3を用いて式(8)に従ってグルコースモル濃度Mを算出する。
【0038】
以上の説明のように、水の吸収が大きい光波長で発生する光音響信号を用いることで、対象測定物の水分の体積分率を補正する精度を高めることができる。
【0039】
(第1実施形態)
図5は、本実施形態の成分濃度分析装置を説明するブロック図である。本成分濃度分析装置は、互いに異なる波長且つ互いに水の吸光度が等しくなる波長の2つの光を逆位相の同一周波数の信号でそれぞれ強度変調して混合した混合光を生成し、前記混合光を試料に照射して前記試料から発生する光音響信号を検出し、前記光音響信号から前記試料に含まれる測定対象成分の濃度を演算する濃度演算手段と、前記光音響信号を検出する際に前記試料の水体積分率を測定する水体積分率測定手段と、前記濃度演算手段で演算した前記測定対象成分の濃度を前記水体積分率測定手段で測定した前記水体積分率で補正する補正手段と、を備える。
【0040】
まず、濃度演算手段について説明する。濃度演算手段は、第1波長の光を出射する第1光源101と、第2波長の光を出射する第2の光源102と、第1光源101及び第2光源102から出射された2つの光を混合した混合光を試料110に照射する光合波器116と、混合光の照射で試料110内で発生した音波(光音響信号)を検出する音波検出器113と、を有する。さらに、濃度演算手段は、光源駆動器(111、112)、遅延調整器105、発振器107、前置増幅器115、位相検波器121、及び記録器130を有する。
【0041】
光源駆動器111は、発振器107に同期して第1光源101から出力される第1波長の光を強度変調する。一方、光源駆動器112は、同じく発振器107に同期して第2光源102から出力される第2波長の光を強度変調する。遅延調整器105は、発振器107の出力を180度移相するように調整して光源駆動器111に給電する。この結果、第1光源101からの第1波長の光は、第2光源102からの第2波長の光に対して、周波数位相が逆相になるように変調される。
【0042】
第1光源101からの第1波長の光及び第2光源102からの第2波長の光は、光合波器116により混合され、1の光束の混合光として、試料110に照射される。音波検出器113は試料110内で発生した光音響信号を検出し、音圧に比例した電気信号に変換して出力する。前置増幅器115はこの電気信号を増幅する。位相検波器121は、この電気信号を発振器107から参照信号線106を介して入力される発振信号を用いて第1波長の光の光音響による信号と第2波長の光の光音響による信号とに分けて同期検波する。記録器130は、位相検波器121が出力する第1波長の光の光音響による信号と第2波長の光の光音響による信号との差分を計算し、グルコースモル濃度Mを記録する。
【0043】
ここでは、3つの水体積分率測定手段について説明する。まず、1つ目の水体積分率測定手段は、前述のように公知の水体積分率を測定する手段(不図示)が成分濃度分析装置に組み込まれており、これで水体積分率Vを取得してもよい。
【0044】
2つ目の水体積分率測定手段は光透過分光法である。本水体積分率測定手段は、混合光に含まれる少なくとも一方の光について試料110に照射前の光強度Iと試料110を透過後の光強度Iとの比率を用いて水体積分率Vを測定する。この水体積分率測定手段は、試料110を透過した混合光を検出する光検出器122と記録器130を有する。試料110に照射前の光強度Iは、各光源(101、102)が内蔵するフォトディテクタの値を利用することができる。また、光合波器117の出力を光検出器(不図示)で測定してもよい。
【0045】
記録器130は、試料110を透過した第1光源からの第1波長の光又は第2光源からの第2波長の光を光検出器122が検出した信号も光透過信号として記録する。水体積分率測定手段は、試料110が収められた試料室の厚さを光路長Lとし、式(7)に基づいて、水体積分率Vを求める。補正手段は、取得された水体積分率Vを式(5)に代入し、濃度演算手段が演算したグルコース濃度Mを補正する。なお、図5では光透過分光法の水体積分率測定手段を説明したが、試料110の内部で反射する光を利用する光拡散反射分光法の水体積分率測定手段でも同様に水体積分率Vを求めることができる。
【0046】
3つ目の水体積分率測定手段は水体積分率測定用光使用法である。本水体積分率測定手段は、混合光に含まれる一方の光と同位相で、且つ混合光に含まれるいずれの光とも波長が異なる水体積分率測定用光を試料110に照射し、水体積分率測定用光で試料110から発生する光音響信号を検出し、混合光に含まれる一方の光に基づく光音響信号との比率を用いて水体積分率Vを測定する。この水体積分率測定手段は、第3波長の光を出力する第3光源103、及び混合光に第3波長の光をさらに混合する光混合器117を有する。さらに、水体積分率測定手段は、音波検出器113、前置増幅器115及び位相検波器121を有する。第3光源103は、光源駆動器111と接続しており、第3波長の光は周波数位相が第1波長の光と同相になるように強度変調される。音波検出器113は第3波長の光で発生した光音響信号も検出し、記録機130はこれを記録する。
【0047】
補正手段は記録器130である。1つ目及び2つ目の水体積分率測定手段で水体積分率Vを得た場合、補正手段はこれを式(5)に代入し、濃度演算手段が演算したグルコース濃度Mを補正する。一方、3つ目の水体積分率測定手段で水体積分率Vを得た場合、補正手段は既知のグルコース濃度によるKの導出を経て、補正式(10)により、グルコース濃度Mを補正する。
【0048】
本成分濃度分析装置では、3つの水体積分率測定手段があることを説明したが、水体積分率測定手段はいずれか1つだけでもよく、3つのうち2つでもよい。例えば、成分濃度分析装置が光透過分光法と水体積分率測定用光使用法の水体積分率測定手段を備える場合、それぞれの水体積分率測定手段で測定した水体積分率で補正した2つのグルコース濃度のうち、数日間に亘って記録した複数のグルコース濃度に対する標準誤差範囲と比較し、異常値を示さない値を選択してもよい。
【0049】
(第2実施形態)
図6は、本実施形態の成分濃度分析装置を説明するブロック図である。第1光源101及び第2光源102の光出力は、光ファイバを介して光合波器116に結合される。また、第3光源103の光出力及び光合波器116の光出力は、光ファイバを介して光合波器117に結合される。光源駆動器(111、112)は、第1光源101、第2光源102および第3光源103の駆動電流を発振器107であるファンクションジェネレータからの駆動電圧(周波数380kHz)に同期させる。遅延調整器105は、第1光源101の駆動電流を第2光源102の駆動電流に対して180度遅延するように調整する。その結果、第2光源102からの光は、第1光源101からの光に対して、周波数位相が逆相に変調される。
【0050】
第1光源101、第2光源102および第3光源103は、例えば、半導体レーザである。第1光源101の半導体レーザの波長は1.61μmであり、第2光源102の半導体レーザの波長は1.40μm、第3光源103の半導体レーザの波長は1.46μmとした。半導体レーザは内部にフォトディテクタを内蔵しており、光出力をモニターしつつ注入電流を制御し、異なる波長での光パワーを一定に保つ。平均光パワーの設定は5mW程度とした。なお、グルコースの吸収バンドはブロードであるため、光源の線幅は広くてもよく、例えば、広帯域光源からの広帯域光を波長可変フィルタによって波長選択を行う方式をとってもよい。
【0051】
光合波器117の光出力から光ファイバを介して光コリメータ205へ接続し、試料フォルダ201内の試料室へガラス窓206を介してコリメート光を出射した。すなわち、図6の成分濃度分析装置は、第1光源101、第2光源102及び第3光源103の出力光を混合し、1本の光束の混合光として試料110へ照射できる。さらに、成分濃度分析装置は、試料110へ混合光を照射する際に、光コリメータ205を用いて、光ビーム径を直径2mm程度のガウシアンプロファイルを持つビームへと変換する。試料フォルダ201や試料110は照射光エネルギーがほぼ吸収される吸収長以上の光路長が得られるサイズであることが好ましい。図6の試料110は光軸方向の長さが10mmである。この時に試料フォルダ201を透過した光強度は入射光強度の1%程度である。また、不要な多重光反射による雑音を防ぐために、ガラス窓206には反射防止膜を形成しておくことが好ましく、上記波長帯で1%以下の反射率となるようにした。
【0052】
は、試料フォルダ201に搭載した圧電素子である音波検出器113は、試料110内で発生した光音響信号を検出する。音波検出器113は共振特性を利用した狭帯域型の圧電素子を用い、感度が高い共振周波数と駆動周波数とを一致させた。具体的には、音波検出器113の共振周波数を試料フォルダ201の音響共鳴特性による音波増幅から、縦モードの共鳴ピークに設定した。音波検出器113の受音面にはより受音効率を高めるために、水と圧電素子との両者の音響インピーダンスが整合するように中間層207(シリコーンゴム)を設けた。
【0053】
音波検出器113は検出した音圧に比例した電気信号を出力する。前置増幅器115はこの電気信号を増幅する。発振器107に同期した位相検波器121は、この電気信号の振幅を計測した。位相検波器121の積分時間は3秒である。音波検出器113が出力する電気信号は、例えば波長1.38μmで、1.56mV、2つの波長の差分信号は32μVと記録器130に記録された。両者の比を求めると0.02となり、異なるグルコース濃度(0〜2g/dL、100mg/dL間隔)に対して検量用データを用いた処理することで、補正前のグルコース成分濃度が150mg/dLと算出された。
【0054】
次に第1光源101の光が試料110を透過した光を光検出器122で検出した。試料110中のグルコース濃度を採取によって測定して、130mg/dLと算定され、測定した光パワーから初期的に求まった水体積分率は0.7である。モニター開始後に所定毎に測定した光パワーから逐次補正を行った。例えば、水の体積分率は0.75と算定され、113mg/dLと補正された。次に、第3光源の光によって発生した音波は、1.65mVと検出された。試料中のグルコース濃度を採取によって測定して、130mg/dLと算定され、それから初期的に求まったKは0.2であり、水の体積分率は0.82と推定された。モニター開始後に所定毎に測定した光音響信号から、Kの初期値を用いて逐次補正を行った。例えば、水体積分率は0.85と算定され、127mg/dLと補正された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る成分濃度分析装置及び成分濃度分析方法は、液体中の成分濃度を測定する分野、例えば果実の糖度測定に適用することができる。また、本発明に係る成分濃度分析装置及び成分濃度分析方法は、日常の健康管理や美容上のチェックに利用することができる。また、人間ばかりでなく、動物についても健康管理に利用することができる。
【符号の説明】
【0056】
101:第1光源
102:第2光源
103:第3光源
105:遅延調整器
106:参照信号線
107:発振器
108:鏡
110:試料
111、112:光源駆動器
113:音波検出器
115:前置増幅器
116、117:光号波器
121:位相検波器
122:光検出器
130:記録器
201:試料フォルダ
205:光コリメータ
206:ガラス窓
207:中間層
601:第1光源
602:第2光源
603:発振器
604:駆動回路
605:遅延調整器
606:参照信号線
610:試料
611:較正試料
613:音波検出器
615:前記増幅器
616:光合波器
617:パルス光源
621:波形観測器
630:記録器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる波長且つ互いに水の吸光度が等しくなる波長の2つの光を逆位相の同一周波数の信号でそれぞれ強度変調して混合した混合光を生成し、前記混合光を試料に照射して前記試料から発生する光音響信号を検出し、前記光音響信号から前記試料に含まれる測定対象成分の濃度を演算する濃度演算手段と、
前記光音響信号を検出する際に前記試料の水体積分率を測定する水体積分率測定手段と、
前記濃度演算手段で演算した前記測定対象成分の濃度を前記水体積分率測定手段で測定した前記水体積分率で補正する補正手段と、
を備える成分濃度分析装置。
【請求項2】
前記水体積分率測定手段は、
前記混合光に含まれる少なくとも一方の光について前記試料に照射前の光強度と前記試料を透過後の光強度との比率を用いて前記水体積分率を測定することを特徴とする請求項1に記載の成分濃度分析装置。
【請求項3】
前記水体積分率測定手段は、
前記混合光に含まれる一方の光と同位相で、且つ前記混合光に含まれるいずれの光とも波長が異なる水体積分率測定用光を前記試料に照射し、前記水体積分率測定用光で前記試料から発生する光音響信号を検出し、前記混合光に含まれる一方の光に基づく光音響信号との比率を用いて前記水体積分率を測定することを特徴とする請求項1に記載の成分濃度分析装置。
【請求項4】
前記水体積分率測定用光は、水の吸光度が最大となる波長であることを特徴とする請求項3に記載の成分濃度分析装置。
【請求項5】
互いに異なる波長且つ互いに水の吸光度が等しくなる波長の2つの光を逆位相の同一周波数の信号でそれぞれ強度変調して混合した混合光を生成し、前記混合光を試料に照射して前記試料から発生する光音響信号を検出し、前記光音響信号から前記試料に含まれる測定対象成分の濃度を演算するとともに、
前記光音響信号を検出する際に前記試料の水体積分率を光学的に測定し、前記測定対象成分の濃度を前記水体積分率で補正する成分濃度分析方法。
【請求項6】
前記混合光に含まれる少なくとも一方の光について前記試料に照射前の光強度と前記試料を透過後の光強度との比率を用いて前記水体積分率を測定することを特徴とする請求項5に記載の成分濃度分析方法。
【請求項7】
前記混合光に含まれる一方の光と同位相で、且つ前記混合光に含まれるいずれの光とも波長が異なる水体積分率測定用光を前記試料に照射し、前記水体積分率測定用光で前記試料から発生する光音響信号を検出し、前記混合光に含まれる一方の光に基づく光音響信号との比率を用いて前記水体積分率を測定することを特徴とする請求項5に記載の成分濃度分析方法。
【請求項8】
前記水体積分率測定用光は、水の吸光度が最大となる波長であることを特徴とする請求項7に記載の成分濃度分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−281747(P2010−281747A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136590(P2009−136590)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】