説明

成分濃度測定装置及び成分濃度測定方法

【課題】散乱光の時間分解波形を高い分解能で取得するための新しい手法の提案。時間分解波形に基づいて、被検体が含有する成分の濃度を高精度に測定する手法の提案。
【解決手段】光源部301からの光源光が分岐部302によって分岐され、その一方の光が測定光として照射部303によって被検体に照射される。そして、被検体からの出射光が集光部304によって集光され、中継部305によって光変換部307に中継される。他方、分岐部302によって分岐された他方の光はゲート光として光駆動シャッター部311に導光される。この際、ゲート光は、ゲート光導光部309によって光路長が変更され、光路長が異なるゲート光がカー材質部311Aに導光される。そして、変更された光路長における光強度の検出結果から時間分解波形が求められて、被検体に含まれている成分濃度が算出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体に含まれている成分濃度を測定する装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、被検体に含まれている成分濃度を測定する濃度測定方法が考案されている。その1つとして、例えば、人間の皮膚を被検体として、その血糖値を測定する技術が考案されている。従来、血糖値の測定は、指先などから採血を行い、血中のグルコースに対する酵素活性を測定することで行っていた。
【0003】
しかし、上記のような血糖値の測定方法では、指先などから血液を採取する必要がある。つまり、従来の測定方法は、侵襲式の測定方法であり、被検者にとって痛みや不快感を伴うという問題があった。そこで、非侵襲式の測定方法として、人体の一部(例えば手の表面)に近赤外光を照射し、その光吸収量から血糖値を測定する技術が考案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、皮膚に照射した光の反射光の時間分解波形を利用して真皮層に含まれるグルコースの濃度を算出する技術が記載されている。特許文献2,3には、ストリークカメラを用いて時間分解波形を測定する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−237139号公報
【特許文献2】特開2004−219426号公報
【特許文献3】特開2001−133396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、被検体に含まれている成分濃度を測定する上で、実用性のある時間分解波形を実測する方法は実現されていなかった。詳細に説明すると、特許文献1には散乱光の時間分解波形の具体的な実測方法について開示されていない。特許文献2,3には、ストリークカメラを用いて時間分解波形を測定する技術が記載されているが、近赤外光用のストリークカメラは時間的な分解能がせいぜいピコ秒のオーダーである。より高い分解能で散乱光の時間分解波形を取得する場合には、特許文献2,3の技術をそのまま利用することはできない。
【0007】
本発明は上述した課題に鑑みて為されたものであり、その第1の目的は、散乱光の時間分解波形を高い分解能で取得するための新しい手法を提案することにある。また、第2の目的は、時間分解波形に基づいて、被検体に含有されている成分の濃度を高精度に測定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するための第1の形態は、パルス光である測定光を被検体に照射する照射部と、前記測定光が照射されることによる被検体からの出射光を集光する集光部と、光強度を検出する検出部と、前記測定光に同期したパルス光でなるゲート光を導光する光路長が変更可能に構成されたゲート光導光部と、前記ゲート光導光部が導光したゲート光に基づき前記集光部が集光した光を前記検出部に向けて透過させる光駆動シャッター部と、前記ゲート光導光部の光路長を変更制御する光路長制御部と、前記光路長制御部によって変更された光路長における前記検出部の検出結果から時間分解波形を求めて、前記被検体に含まれている成分濃度を算出する算出部と、を備えた成分濃度測定装置である。
【0009】
また、他の形態として、パルス光である測定光が照射されることによる被検体からの出射光をゲート光に基づいて透過させる光駆動シャッター部に、前記測定光に同期したパルス光を前記ゲート光として導光することと、前記光駆動シャッター部に導光する前記ゲート光の光路長を変更制御することと、前記光駆動シャッター部を透過した光の強度を検出することと、前記光路長を変えて検出された前記光の強度から時間分解波形を求めて、前記被検体に含まれている成分濃度を算出することと、を含む成分濃度測定方法を構成することとしてもよい。
【0010】
この第1の形態等によれば、パルス光である測定光を被検体に照射する。そして、測定光が照射されることによる被検体からの出射光を集光し、その光強度を検出する。その一方、測定光に同期したパルス光でなるゲート光に基づき、集光部が集光した光を検出部に向けて透過させる。ゲート光は、導光する光路長が変更可能に構成されたゲート光導光部によって導光される。そのゲート光導光部の光路長を変更制御し、変更された光路長における光強度の検出結果から時間分解波形を求めて、被検体に含まれている成分濃度を算出する。
【0011】
測定光に同期したパルス光でなるゲート光の光路長を変更しながらゲート光を導光し、集光部が集光した光を検出部に向けて透過させることで、被検体からの出射光の時間分解波形を取得することができる。ゲート光のパルス幅を、例えばフェムト秒といった短い時間幅とすることで、出射光の時間分解波形を高い分解能で取得することができる。また、このようにして求めた時間分解波形を用いることで、被検体に含まれている成分濃度を高精度に算出することができる。
【0012】
また、第2の形態として、第1の形態の成分濃度測定装置において、前記算出部は、前記時間分解波形と、予め定められた前記被検体を伝播する前記パルス光の光路モデルとを用いて、前記被検体の光吸収係数を算出する光吸収係数算出部を有し、この光吸収係数算出部により算出された光吸収係数を用いて、前記被検体に含まれている成分濃度を算出する、成分濃度測定装置を構成することとしてもよい。
【0013】
この第2の形態によれば、上記の形態で取得した時間分解波形と、予め定められた被検体を伝播するパルス光の光路モデルとを用いて、被検体の光吸収係数を算出する。そして、この光吸収係数を用いることで、被検体に含まれている成分濃度を正しく算出することができる。
【0014】
また、第3の形態として、第1又は第2の形態の成分濃度測定装置において、前記算出部は、前記時間分解波形と、光学特性が既知の参照物質に前記測定光を照射した場合に測定された時間分解波形である参照用時間分解波形との差違を用いて、前記被検体に含まれている成分濃度を算出する、成分濃度測定装置を構成することとしてもよい。
【0015】
この第3の形態によれば、上記の形態で取得した時間分解波形と、光学特性が既知の参照物質に測定光を照射した場合に測定された時間分解波形である参照用時間分解波形との差違を用いて、被検体に含まれている成分濃度を算出する。参照物質は光学特性が既知である。そのため、被検体に測定光を照射した場合に測定される時間分解波形と参照用時間分解波形とが類似する参照物質を用いることで、被検体と参照物質との光学特性の僅かな違いを捉えることができる。その結果、被検体に含まれている成分濃度を高い正確性で算出することが可能となる。
【0016】
また、第4の形態として、第1〜第3の何れかの形態の成分濃度測定装置において、前記光駆動シャッター部は、透過軸が直交となる偏光子対の間にカー材質を設けて構成され、前記ゲート光導光部は、前記ゲート光を前記カー材質に導光する、成分濃度測定装置を構成することとしてもよい。
【0017】
この第4の形態によれば、光駆動シャッター部が、透過軸が直交となる偏光子対の間にカー材質を設けて構成される。そして、ゲート光をカー材質に導光することで、光駆動シャッターを簡易な構成により実現することができる。
【0018】
また、第5の形態として、第1〜第4の何れかの形態の成分濃度測定装置において、パルス光を生成する光源と、前記パルス光を前記測定光と前記ゲート光とに分岐させる分岐部と、を更に備えた成分濃度測定装置を構成することとしてもよい。
【0019】
この第5の形態によれば、光源によって生成されたパルス光を分岐させることで、互いに同期した測定光とゲート光とを簡単に得ることができる。
【0020】
また、第6の形態として、第1〜第5の何れかの形態の成分濃度測定装置において、前記算出部は、少なくとも前記被検体に含まれているグルコースの成分濃度を算出する、成分濃度測定装置を構成することとしてもよい。
【0021】
この第6の形態によれば、少なくとも被検体に含まれているグルコースの成分濃度を高い正確性で算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】成分濃度測定装置の機能構成の一例を示すブロック図。
【図2】光学装置の構成の一例を示す図。
【図3】散乱光時間分解波形生成処理の流れを示すフローチャート。
【図4】モデルデータのデータ構成の一例を示す図。
【図5】散乱光時間分解波形データのデータ構成の一例を示す図。
【図6】濃度測定処理の流れを示すフローチャート。
【図7】第2実施形態における光学装置の構成の一例を示す図。
【図8】第2実施形態における処理部の機能構成の一例を示す図。
【図9】第2実施形態における記憶部のデータの一例を示す図。
【図10】散乱光時間分解差異波形データのデータ構成の一例を示す図。
【図11】第2濃度測定処理の流れを示すフローチャート。
【図12】散乱光時間分解差異波形生成処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下図面を参照して、光学装置を用いて被検体に含まれている成分濃度を測定する成分濃度測定装置の実施形態について説明する。但し、本発明を適用可能な実施形態が以下説明する実施形態に限定されるわけではないことは勿論である。
【0024】
1.第1実施形態
図1は、本実施形態における成分濃度測定装置1の機能構成の一例を示すブロック図である。成分濃度測定装置1は、主要な構成として、光学装置3と、演算装置5とを備えて構成される。成分濃度測定装置1は、例えば、果物の糖分を測定する糖分測定装置や、人間の血糖値を測定する血糖値測定装置といった測定用機器に組み込まれて利用される。
【0025】
1−1.光学装置3の構成
図2は、光学装置3の光学的な構成の概略を示す図である。光学装置3は、例えば、光源部301と、分岐部302と、照射部303と、集光部304と、中継部305と、光変換部307と、ゲート光導光部309と、光駆動シャッター部311と、光検出部313とを有して構成される。
【0026】
光源部301は、パルス光を生成して出射する光源であり、例えばフェムト秒レーザー等といったパルス光の生成装置を有して構成される。光源部301は、演算装置5から入力した波長制御信号に応じた波長のパルス光を生成する。
【0027】
分岐部302は、光源部301から射出されたパルス光を分岐させる光分岐器であり、例えばハーフミラーを有して構成される。分岐部302によって分岐された光のうちの一方の光は、測定光として照射部303によって被検体に照射される。また、分岐された光のうちの他方の光は、ゲート光としてゲート光導光部309に導光される。従って、測定光とゲート光とは、互いに同期したパルス光であると言える。
【0028】
被検体は、成分濃度の測定対象とする物質又は溶液であり、本実施形態では人間の皮膚とする。人間の皮膚は、大きく分けて、表皮層、真皮層及び皮下組織層の3層で構成されている。本実施形態では、この3層のうち、真皮層に含まれているグルコースの成分濃度を測定することを目的とする。
【0029】
集光部304は、外部から被検体に向けて測定光が照射されることによる被検体からの出射光を集光する。具体的には、測定光が被検体に照射された場合の後方散乱光(以下、簡潔に「散乱光」と称す。)を出射光として集光し、中継部305に導く。集光部304は、いわば散乱光を入光(受光)する入光部(受光部)とも言え、例えばレンズを有して構成される。
【0030】
中継部305は、集光部304で集光された散乱光を光変換部307に中継する機能を有し、例えば光ファイバーを有して構成される。
【0031】
光変換部307は、中継部305によって中継された出射光を平行光に変換する機能を有し、例えばコリメートレンズを有して構成される。
【0032】
ゲート光導光部309は、分岐部302によって分岐された光のうちのゲート光の光路長を変更可能に構成され、ゲート光を光駆動シャッター部311に導光する導光路を形成する装置である。例えば、光路長可変セルなどを有する機構として構成することとしてもよいし、図2に示すように、ゲート光を光駆動シャッター部311に導くための2枚の反射板の位置をスライドさせるなどして、光駆動シャッター部311に入射するゲート光の距離を物理的に変化させる機構を設けてもよい。
【0033】
光駆動シャッター部311は、ゲート光導光部309が導光した光に基づき、集光部304によって集光され、中継部305によって中継された光を光検出部313に向けて透過させる。光駆動シャッター部311は、カー材質部311Aと、第1偏光部311Bと、第2偏光部311Cとを有して構成される。
【0034】
カー材質部311Aは、光カー効果を引き起こす材料で構成された結晶や非晶質であり、例えば二硫化炭素などの有機溶剤や、カルコゲン系のガラス、鉛含有ガラスなどで構成される。このカー材質部311Aの両側には、一対の偏光部(第1偏光部311B及び第2偏光部311C)が配置される。
【0035】
第1偏光部311B及び第2偏光部311Cは、入射した光を直線偏光に変換する偏光子であり、透過軸が直交するように位置決めされている。つまり、光駆動シャッター部311は、透過軸が直交となる偏光子対の間にカー材質を設けて構成される。
【0036】
透過軸が直交しているため、通常時には、カー材質部311Aに入射した光は第2偏光部311Cを通過することができない。しかし、ゲート光がカー材質部311Aに入射したタイミングで、カー材質部311Aの屈折率がゲート光の振動方向にのみ変化して、カー材質部311Aが複屈折性を持つ。その結果、パルス光のパルス長に応じた時間だけ散乱光の偏光状態が変調され、散乱光が第2偏光部311Cを通過する。ゲート光導光部309は、ゲート光をカー材質部311Aに導光する。
【0037】
なお、ゲート光と測定光とは、その偏光方向が45度の関係となるようにすると好適である。ゲート光と測定光の偏光方向が同じである場合、散乱光の偏光状態が変調されず、カーシャッターとして機能しなくなるためである。
【0038】
光検出部313は、光駆動シャッター部311を透過した散乱光の光強度を検出する検出部であり、例えば受光素子と光電変換素子とを有して構成される。受光素子によって受光され、光電変換素子によって光電変換された光強度は、電圧値のデータとして演算装置5に出力される。
【0039】
1−2.原理
光源部301から被検体(皮膚)内に入射した光は、散乱過程を繰り返しながら伝播して被検体から出射すると、中継部305等を通過して最終的に光検出部313で受光される。光検出部313に到達した光は、その検出時刻によって、被検体内の所定部位(皮膚の各層)を選択的に通過してくると考えることができる。すなわち、被検体内を伝播した光子の伝播経路が光散乱係数により特徴付けられ、その光路に沿った光強度変化が光吸収係数によって特徴付けられると考えられる。
【0040】
本実施形態では、パルス光を被検体に照射した場合の出射光である後方散乱光の時間特性のことを「散乱光時間分解波形」と称して説明する。散乱光時間分解波形において、早い時刻に検出された光ほど表面から浅い部分のみを通ってきており、逆に遅い時刻に検出された光ほど表面から深い領域まで到達してきている。このように異なる検出時刻における検出光の強度は、異なる経路分布を経てきた光成分に対応する。つまり、ある検出時刻の光強度には、その時刻に応じた光経路分布中の吸光情報が含まれている。従って、時間分解波形の検出時刻毎の光経路を実測により予め求めておけば、逆問題解法により、光吸収係数の分布を推定することができる。
【0041】
本実施形態では、上記の原理に基づき、被検体からの散乱光の時間分解波形を、パルス光を被検体(皮膚)に実際に照射して測定(実測)する。そして、測定した時間分解波形をもとに、皮膚内部の各層の光吸収係数を算出し、当該光吸収係数を用いて、皮膚の真皮層に含まれているグルコース濃度を算出する。
【0042】
被検体に入射した測定光は、被検体の散乱特性のために様々な経路を辿り、反射光(散乱光)として出射したところを集光部304によって集光される。このとき、光子(フォトン)が被検体を辿った経路は様々である。つまり、散乱光として捕捉される光は、辿った経路が異なる光子を含む光となるため、時間軸で考えた場合、捕捉される光子数の時間分布の波形で表される。
【0043】
捕捉される光子数は、捕捉された光の強度と同義である。従って、上記のようにして観測される光の波形は、散乱光の強度の時間的な変化を観測した波形となる。本実施形態では、この波形のことを「散乱光時間分解波形」と称する。そして、光駆動シャッター部311による超高速シャッターを利用して、以下説明する手順で散乱光時間分解波形を求める。
【0044】
図3は、散乱光時間分解波形の生成に係る処理である散乱光時間分解波形生成処理の流れを示すフローチャートである。
【0045】
最初に、パルス光の候補波長を決定する(ステップA1)。候補波長は、任意の波長の中から選択すればよいが、被検体の主成分について光吸収スペクトルの直交性が高くなる波長を候補波長として選択すると効果的である。具体的には、皮膚の真皮層の主成分である水、たんぱく質、脂質及びグルコースの光吸収スペクトルの直交性が高くなる波長を候補波長として選択すると好適である。
【0046】
次いで、ゲート光の光路長範囲及び光路長刻み幅を決定する(ステップA3)。具体的には、散乱光時間分解波形の略全体形状が得られる範囲を光路長範囲とし、散乱光時間分解波形の精度(分解能)に応じて光路長刻み幅を決定する。図5に示したように、散乱光時間分解波形の略全体形状が得られる範囲を光路長範囲とすると好適である。
【0047】
その後、ステップA1で決定した各候補波長それぞれについて、ループAの処理を行う(ステップA5〜A19)。ループAの処理では、光路長を初期設定する(ステップA7)。つまり、ゲート光の光路長が、ステップA3で決定した光路長範囲の初期値となるように、ゲート光導光部309を制御する。
【0048】
次いで、当該候補波長のパルス光を生成するように光源部301を制御する(ステップA9)。そして、被検体(皮膚)からの散乱光の光駆動シャッター部311の透過タイミングと対応付けて、光検出部313において検出された散乱光の強度を取得する(ステップA11)。
【0049】
次いで、光路長範囲の全体について光強度を取得できたか否かを判定し(ステップA13)、まだ取得できていないと判定した場合は(ステップA13;No)、ステップA3で決定した光路長刻み幅だけゲート光の光路長を変更するように、ゲート光導光部309を制御する(ステップA15)。そして、ステップA9に戻る。
【0050】
一方、ステップA13において光路長範囲の全体について光強度を取得できたと判定した場合は(ステップA13;Yes)、ステップA11で取得した各々の光路長についての光強度で表される散乱光時間分解波形を記憶する(ステップA17)。そして、次の候補波長へと処理を移行する。全ての候補波長についてステップA7〜A17の処理を行ったならば、ループAの処理を終了する(ステップA19)。これにより、散乱光時間分解波形生成処理は終了となる。
【0051】
上記のようにして散乱光時間分解波形を生成したならば、当該散乱光時間分解波形に基づいて、異なる時刻における光強度を取得する。そして、皮膚の各層の光吸収係数を算出し、算出した光吸収係数を用いて、真皮層に含まれているグルコース濃度を算出する。この詳細については、フローチャートを用いて後述する。
【0052】
1−3.演算装置5の構成
演算装置5は、光学装置3の制御を行う制御装置であり、且つ、光学装置3から取得した光強度に基づいて、真皮層に含有されているグルコース濃度を算出・測定する演算装置である。
【0053】
図1に示すように、演算装置5は、処理部510と、入力部520と、表示部530と、音出力部540と、通信部550と、I/F(Inter Face)部560と、記憶部570とを備え、各部がバス580を介して接続されるコンピューターシステムである。
【0054】
処理部510は、記憶部570に記憶されているシステムプログラム等の各種プログラムに従って、演算装置5の各部や光学装置3を統括的に制御する制御装置及び演算装置であり、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)等のプロセッサーを有して構成される。
【0055】
処理部510は、主要な機能部として、モデル生成部511と、散乱光時間分解波形生成部513と、光吸収係数算出部515と、成分濃度算出部517と、光路長制御部519とを有する。但し、これらの機能部は、一実施例として記載したものに過ぎず、必ずしもこれら全ての機能部を必須構成要素としなければならないわけではない。
【0056】
モデル生成部511は、例えばモンテカルロ法を利用したシミュレーション(モンテカルロシミュレーション)を行うことで、入射光子数が「Nin」の場合における皮膚の各層の伝播光路長分布「Lm(t)」を算出する。また、モンテカルロシミュレーションを行うことで、光吸収係数がゼロ、入射光子数が「Nin」の場合における無吸収時の散乱光強度時間特性「N(t)」を算出する。
【0057】
散乱光時間分解波形生成部513は、記憶部570に記憶された散乱光時間分解波形生成プログラム571Aに従って、図3で説明した散乱光時間分解波形生成処理を行うことで、散乱光の時間分解波形「R(t)」を求める。
【0058】
光吸収係数算出部515は、皮膚の各層それぞれについて光吸収係数を算出する。また、成分濃度算出部517は、真皮層が含有する成分それぞれについて濃度を算出する。
【0059】
光路長制御部519は、光学装置3のゲート光導光部309に光路長制御信号を出力することで、ゲート光導光部309の光路長を変更制御する。
【0060】
入力部520は、例えばキーボードやボタンスイッチ等を有して構成される入力装置であり、押下されたキーやボタンの信号を処理部510に出力する。この入力部520の操作により、各種データの入力や、成分濃度の測定開始指示といった各種指示入力がなされる。
【0061】
表示部530は、処理部510から出力される表示信号に基づいた各種表示を行う表示装置であり、例えばLCD(Liquid Crystal Display)等を有して構成される。表示部530には、成分濃度算出部517によって算出された成分濃度の情報等が表示される。
【0062】
音出力部540は、処理部510から出力される音出力信号に基づく音出力を行う音出力装置であり、例えばスピーカー等を有して構成される。音出力部540からは、成分濃度測定に係る音声ガイダンスやアラーム音等が音出力される。
【0063】
通信部550は、演算装置5が外部の情報処理装置との間で有線通信又は無線通信を行うための通信装置である。通信部550は、例えば、有線ケーブルを介して通信を行う有線通信モジュールや、無線LANやスペクトラム拡散通信等を行う無線通信モジュール等を有して構成される。
【0064】
I/F部560は、光学装置3と演算装置5との間で、光強度のデータの入力や、各種の制御信号の出力といった信号やデータの授受を行うための入出力インターフェイスである。
【0065】
記憶部570は、ROM(Read Only Memory)やフラッシュROM、RAM(Random Access Memory)等の記憶装置(メモリー)を有して構成され、演算装置5のシステムプログラムや、散乱光時間分解波形生成機能、成分濃度測定機能といった各種機能を実現するための各種プログラム、各種データ等を記憶している。また、各種処理の処理中データ、処理結果などを一時的に記憶するワークエリアを有する。
【0066】
記憶部570には、プログラムとして、処理部510によって読み出され、成分濃度測定処理(図6参照)として実行される成分濃度測定プログラム571が記憶されている。成分濃度測定プログラム571は、散乱光時間分解波形生成処理(図3参照)として実行される散乱光時間分解波形生成プログラム571Aをサブルーチンとして含む。
【0067】
また、記憶部570には、データとして、例えば、モデルデータ572と、散乱光時間分解波形データ573と、被検体物性値データ574と、層別光吸収係数データ575と、成分濃度データ576とが記憶される。
【0068】
モデルデータ572は、モデル生成部511がモンテカルロシミュレーション等を行うことで生成したモデルに係るデータであり、そのデータ構成の一例を図4に示す。モデルデータ572には、候補波長と、伝播光路長分布と、無吸収時散乱光強度時間特性とが対応付けて記憶されている。
【0069】
伝播光路長分布は、入射光子数が「Nin」のときのパルス光の光子の伝播光路長を、モンテカルロシミュレーションにより求めたモデルである。具体的には、光吸収係数がゼロの皮膚モデルを構成し、当該皮膚モデルの各層において光子が次に進む点までの距離及び方向を、単位時間毎に乱数を用いて繰り返し行う。このシミュレーションを多数の光子について行い、光検出部313に到達した光子の各々の移動経路を、移動経路が通過する層毎に分類する。そして、単位時間毎に到達した光子の移動経路の平均長を、分類された層毎に算出することで、例えば図4に示すような層別の伝播光路長分布「Lm(t)」を得る。
【0070】
また、無吸収時散乱光強度時間特性は、光吸収係数がゼロ、入射光子数が「Nin」のときの散乱光強度を、モンテカルロシミュレーションにより求めたモデルである。具体的には、上記の光吸収係数がゼロの皮膚モデルについて、当該皮膚モデルにパルス光を照射した場合に光検出部313において検出される光子の個数(=散乱光強度)を単位時間毎に算出することで、図4に示すような無吸収時散乱光強度時間特性「N(t)」を得る。縦軸の散乱光強度は、光検出部313において検出される光子の個数(光子数)と同義である。
【0071】
散乱光時間分解波形データ573は、散乱光時間分解波形生成部513が生成した散乱光時間分解波形に係るデータであり、そのデータ構成の一例を図5に示す。散乱光時間分解波形データ573には、候補波長と、散乱光時間分解波形とが対応付けて記憶されている。散乱光時間分解波形は、上記の光学装置3において、光駆動シャッター部311による光駆動シャッターを利用して測定される被検体からの散乱光の時間分解波形(散乱光強度の時間特性)である。
【0072】
被検体物性値データ574は、皮膚の真皮層が含有する成分に係る物性値が記憶されたデータであり、例えば、水、たんぱく質、脂質及びグルコースの4成分の光吸収係数を定めた成分別光吸収係数データ574Aがこれに含まれる。このデータは、被検体の物性値として予め測定・記憶されたデータであり、既知の値である。
【0073】
層別光吸収係数データ575は、皮膚の表皮層、真皮層及び皮下組織層それぞれについて、後述するように、所定の連立方程式を解くことで算出される光吸収係数の値が記憶される。
【0074】
成分濃度データ576は、真皮層が含有する水、たんぱく質、脂質及びグルコースの測定データであり、後述するように、所定の連立方程式を解くことで算出される。
【0075】
1−4.処理の流れ
図6は、記憶部570に記憶されている成分濃度測定プログラム571が処理部510によって読み出されて実行されることで、成分濃度測定装置1において実行される成分濃度測定処理の流れを示すフローチャートである。
【0076】
最初に、モデル生成部511が、モデル生成処理を行う(ステップS1)。具体的には、例えばモンテカルロシミュレーションを行って、伝播光路長分布「Lm(t)」と、無吸収時散乱光強度時間特性「N(t)」とを生成する。そして、これらのモデルを記憶部570にモデルデータ572として記憶させる。
【0077】
次いで、散乱光時間分解波形生成部513が、記憶部570に記憶されている散乱光時間分解波形生成プログラム571Aに従って、図3の散乱光時間分解波形生成処理を行う(ステップS3)。
【0078】
その後、処理部510は、複数の候補波長の中から、被検体の主成分数と同数の波長を選定する(ステップS5)。真皮層の主成分は、水、たんぱく質、脂質及びグルコースの4成分である。そのため、ステップS5では、複数の候補波長の中から4つの波長「(λ1、λ2、λ3、λ4)」を選定する。
【0079】
次いで、処理部510は、被検体の層数と同数の異なる時刻を選定する(ステップS7)。皮膚は、表皮層、真皮層及び皮下組織層の3層でなる。そのため、ステップS7では、異なる3つの時刻「tk=(t1、t2、t3)」を選定する。
【0080】
その後、処理部510は、ステップS5で選定した各選定波長についてループBの処理を行う(ステップS9〜S23)。ループBの処理では、処理部510は、ステップS7で選定した各選定時刻についてループCの処理を行う(ステップS11〜S19)。
【0081】
ループCの処理では、処理部510は、当該選定波長について、当該選定時刻「tk」における被検体の各層の伝播光路長「Lm(tk)」をモデルデータ572の伝播光路長分布「Lm(t)」から取得する(ステップS13)。また、処理部510は、当該選定波長について、当該選定時刻「tk」における無吸収時散乱光強度「N(tk)」をモデルデータ572の無吸収時散乱光強度時間特性「N(t)」から取得する(ステップS15)。
【0082】
次いで、処理部510は、当該選定波長について、当該選定時刻「tk」における散乱光強度「R(tk)」を散乱光時間分解波形データ573から取得する(ステップS17)。そして、処理部510は、次の選定時刻へと処理を移行する。
【0083】
3つの選定時刻の全てについてステップS13〜ステップS17の処理を行ったならば、処理部510は、ループCの処理を終了する(ステップS19)。次いで、光吸収係数算出部515は、当該選定波長について、層別の光吸収係数「μam」を算出する(ステップS21)。
【0084】
具体的には、式(1)及び(2)に従って、3つの選定時刻についての連立方程式を解くことで、表皮層の光吸収係数「μa1」、真皮層の光吸収係数「μa2」及び皮下組織層の光吸収係数「μa3」を算出する。そして、算出した光吸収係数を層別光吸収係数データ575として記憶部570に記憶させる。
【数1】

【数2】

【0085】
但し、式(1)において、「μam」は層別の光吸収係数を表し、添え字の「m」は皮膚の層の番号を表している。便宜的に、表皮層の番号を「m=1」、真皮層の番号を「m=2」、皮下組織層の番号を「m=3」と表記する。「M」は皮膚の層数であり、ここでは「M=3」である。つまり、「μa1」は表皮層の光吸収係数であり、「μa2」は真皮層の光吸収係数であり、「μa3」は皮下組織層の光吸収係数である。
【0086】
また、「Lm(t)」は、皮膚の第m層における伝播光路長分布を示している。例えば、「Lm(t1)」は、時刻「t1」において検出される光子が第m層を伝播した距離の総和を示す。また、「Nin」は、パルス光の光子の総数(入射光子数)であり、既知である。「Iin」は、パルス光の強度(入射光強度)であり、既知である。
【0087】
式(1)は、時刻「t」において検出される光強度「R(t)」が、次式(3)によって近似的に書き表すことができることに基づいて導出される。
【数3】

【0088】
式(3)において、「L´m(t)」は、皮膚の第m層を伝播した距離の1光子あたりの平均値であり、伝播距離の総和「Lm(t)」を「N´(t)」で除算した値であり、次式(4)で与えられる。
【数4】

式(4)を用いて式(3)を変形すると、式(1)が導出される。
【0089】
4つの選定波長の全てについてステップS11〜ステップS21の処理を行ったならば、処理部510は、ループBの処理を終了する(ステップS23)。
【0090】
次いで、成分濃度算出部517が、被検体の各成分それぞれについて濃度を算出する(ステップS25)。成分の総数が「N個」である場合の各成分の体積分率「cvi」を求める式は、次式(5)で与えられる。
【数5】

【0091】
真皮層の主成分は、水、たんぱく質、脂質及びグルコースの4成分である(N=4)。そのため、式(5)を4成分の式として書き表すと、次式(6)のようになる。この式(6)に従って、水、たんぱく質、脂質及びグルコースそれぞれの体積分率を算出する。
【数6】

【0092】
但し、「μai」は成分別の光吸収係数を表しており、添え字の「i」は成分の記号を表している。便宜的に、水を「i=w」、たんぱく質を「i=p」、脂質を「i=l」、グルコースを「i=g」と表記する。つまり、「μaw」、「μap」、「μal」及び「μag」は、それぞれ水、たんぱく質、脂質及びグルコースの光吸収係数を示す。
【0093】
また、式(6)の右辺において、「μaw(λ1)〜μaw(λ4)」、「μap(λ1)〜μap(λ4)」、「μal(λ1)〜μal(λ4)」及び「μag(λ1)〜μag(λ4)」は、それぞれ波長毎に定まる水、たんぱく質、脂質及びグルコースの光吸収係数であり、これらのデータは成分別光吸収係数データ574Aとして被検体物性値データ574に予め記憶されている既知の値である。
【0094】
また、「cvi」は成分別の体積分率を表しており、添え字の「i」は上記と同じである。つまり、「cvw」、「cvp」、「cvl」及び「cvg」は、それぞれ水、たんぱく質、脂質及びグルコースの体積分率を示す。これらの体積分率は未知数である。
【0095】
式(6)の左辺は、4つの選定波長それぞれについてステップS21で算出した真皮層(i=2)の光吸収係数「μa2(λ1)」、「μa2(λ2)」、「μa2(λ3)」及び「μa2(λ4)」の値であり、式(2)の連立方程式を解くことで、ステップS21において求まっている。
【0096】
また、式(6)の右辺の「μaw(λ1)〜μaw(λ4)」、「μap(λ1)〜μap(λ4)」、「μal(λ1)〜μal(λ4)」及び「μag(λ1)〜μag(λ4)」は、上記の通り既知の値として定まっている。従って、4種類の選定波長「λ1〜λ4」についての連立方程式を解くことで、各成分の体積分率「cvw」、「cvp」、「cvl」及び「cvg」を算出することができる。
【0097】
各成分の体積分率「cvw」、「cvp」、「cvl」及び「cvg」が求まったならば、体積分率を重量体積濃度等に変換し、最終的な各成分の濃度とする。なお、体積分率を重量体積濃度等に変換する方法は公知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0098】
1−5.作用効果
第1実施形態によれば、光源部301からの光源光が分岐部302によって分岐され、その一方の光が測定光として照射部303によって被検体に照射される。そして、被検体からの出射光が集光部304によって集光され、中継部305によって光変換部307に中継される。他方、分岐部302によって分岐された他方の光はゲート光として光駆動シャッター部311に導光される。この際、ゲート光は、ゲート光導光部309の光路長が変更され、光路長が異なるゲート光がカー材質部311Aに導光される。結果、光駆動シャッターが異なる時刻(タイミング)で作用することとなり、異なる光路長、すなわち異なる時刻(タイミング)での出射光の強度が得られる。このことは、被検体内での散乱経路の異なる出射光を捉えることに相当する。従って、出射光の強度から時間分解波形を精度良く取得することができる。
【0099】
また、光源部301は、例えばフェムト秒レーザーを有して構成されるため、フェムト秒といった極めて微小な時間分解能で精細な時間分解波形を得ることができる。また、このようにして取得した時間分解波形を用いることで、被検体に含まれている成分濃度を高精度に求めることができる。
【0100】
本実施形態では、上記のようにして実測で求めた散乱光時間分解波形と、予めモデル化した被検体を伝播するパルス光の伝播光路長分布及び無吸収時における散乱光強度の時間特性とを用いて、人間の皮膚の各層の光吸収係数を算出する。そして、この光吸収係数を用いることで、被検体に含まれている成分濃度を正しく算出することができる。
【0101】
また、本実施形態の光学系の構成によれば、光源部301によって生成されたパルス光が、分岐部302において測定光とゲート光とに分岐される。かかる構成により、光源部301によって生成されたパルス光から、互いに同期したパルス光でなる測定光とゲート光とを簡単に生成することができる。
【0102】
1−6.変形例
1−6−1.光吸収係数の算出
上記の実施形態では、式(2)に従って皮膚の各層の光吸収係数を算出した。しかし、式(2)ではなく、式(1)を積分型に発展させた次式(7)を用いて各層の光吸収係数を算出してもよい。
【数7】

【0103】
1−6−2.濃度の算出
上記の実施形態では、光吸収係数と体積分率との関係により定まる式(5)及び(6)に従って、皮膚の真皮層の各成分の濃度を算出した。しかし、モル吸光係数とモル濃度との関係により定まる次式(8)及び(9)に従って、皮膚の真皮層の各成分の濃度を算出することとしてもよい。
【数8】

【数9】

【0104】
また、上記以外にも、例えば、特許文献1の第12ページに記載されている第7式に基づいて、皮膚の真皮層の各成分の濃度を算出することとしてもよい。
【0105】
2.第2実施形態
本発明を適用可能な実施形態は、上記の第1実施形態に限定されるわけではない。以下、本発明を適用した第2実施形態について説明するが、第1実施形態と同一の構成要素や、フローチャートの同一のステップについては、同一の符号を付して、再度の説明を省略する。
【0106】
2−1.光学装置の構成
図7は、第2実施形態における光学装置3の構成の一例を示す図である。光学装置3は、例えば、光源部301と、第1分岐部302Aと、第2分岐部302Bと、第1照射部303Aと、第2照射部303Bと、第1集光部304Aと、第2集光部304Bと、第1中継部305Aと、第2中継部305Bと、第1光変換部307Aと、第2光変換部307Bと、ゲート光導光部309と、第2光駆動シャッター部321と、第1光検出部313Aと、第2光検出部313Bとを有して構成される。
【0107】
第1分岐部302Aによって分岐された光のうちの一方の光は、測定光として第2分岐部302Bによって再び分岐される。そして、第2分岐部302Bによって分岐された光のうちの一方の光は、第1照射部303Aによって被検体に照射される。他方の光は、第2照射部303Bによって参照体に照射される。
【0108】
本実施形態において、参照体は、被検体と光吸収特性や光散乱特性が類似した、光学特性が既知の参照物質とする。例えば、人間を被検体とする場合には、参照体として、(1)着色された磨り硝子、(2)水+黒インク+静注用脂肪乳剤の混合液、といった参照物質を用いると好適である。参照体を着色するのは、透明な材質を用いた場合、光を透過してしまうためである。また、静注用脂肪乳剤を用いるのは、皮膚の真皮層等に含まれる脂肪分を人工的に作り出すためである。なお、静注用脂肪乳剤の代わりにダイズ油を用いてもよい。
【0109】
被検体に特性が類似する物質や溶液を参照体として用いるのには理由がある。その理由は、パルス光を被検体に照射して光駆動シャッターによりその一部をサンプリングした場合の光強度(以下、「第1光強度」と称す。)と、パルス光を参照体に照射して光駆動シャッターによりその一部をサンプリングした場合の光強度(以下、「第2光強度」と称す。)との比を「1」に近づけることを狙いとしているためである。第1光強度と第2光強度との差をゼロに近づける狙いがあると言うこともできる。
【0110】
第2光駆動シャッター部321は、カー材質部321Aと、それに対して対称となる位置に配置される偏光子対を2組有して構成される。具体的には、第1偏光部321B及び第2偏光部321Cでなる第1偏光部組と、第3偏光部321D及び第4偏光部321Eでなる第2偏光部組との2組の偏光部対を有する。
【0111】
カー材質部321Aに入射した第1散乱光は、通常は第2偏光部321Cを通過することができない。また、カー材質部321Aに入射した第2散乱光は、通常は第4偏光部321Eを通過することができない。しかし、ゲート光がカー材質部321Aに入射したタイミングで、カー材質部321Aが複屈折性を持つことで、第1実施形態と同様に、第1散乱光及び第2散乱光が、光駆動シャッター部320を透過する。その結果、第1光検出部313A及び第2光検出部313Bで光が検出される。
【0112】
2−2.演算装置の構成
図8は、第2実施形態における演算装置5の処理部510の機能構成の一例を示す図である。処理部510は、モデル生成部511と、散乱光時間分解差異波形生成部514と、光吸収係数算出部515と、成分濃度算出部517と、光路長制御部519とを機能部として有する。
【0113】
散乱光時間分解差異波形生成部514は、第1光検出部313A及び第2光検出部313Bによってそれぞれ検出された第1光強度と第2光強度との比(以下、「光強度比」と称す。)に基づいて、散乱光時間分解差異波形を生成する。散乱光時間分解差異波形は、被検体に測定光を照射した場合に測定された時間分解波形と、参照物質に測定光を照射した場合に測定された参照用時間分解波形との差異に相当する波形である。
【0114】
図9は、第2実施形態における演算装置5の記憶部570のデータ構成の一例を示す図である。記憶部570には、第2成分濃度測定処理(図11参照)として実行される第2成分濃度測定プログラム577が記憶されている。第2成分濃度測定プログラム577は、散乱光時間分解差異波形生成処理(図12参照)として実行される散乱光時間分解差異波形生成プログラム577Aをサブルーチンとして含む。
【0115】
また、記憶部570には、データとして、モデルデータ572と、被検体物性値データ574と、層別光吸収係数データ575と、成分濃度データ576と、散乱光時間分解差異波形データ578と、参照体光学特性データ579とが記憶される。
【0116】
モデルデータ572には、被検体について伝播光路長分布「Lsm(t)」及び無吸収時散乱光強度時間特性「Ns(t)」をシミュレーションにより求めた被検体モデルデータ572Aと、参照体について伝播光路長分布「Lrm(t)」及び無吸収時散乱光強度時間特性「Nr(t)」をシミュレーションにより求めた参照体モデルデータ572Bとが含まれる。詳細は数式を用いて後述するが、被検体に対する特性に下付きの添え字“s”を付し、参照体に対する特性に下付きの添え字“r”を付して、それぞれ区別する。
【0117】
散乱光時間分解差異波形データ578は、第1光強度と第2光強度との比の時間特性として表される散乱光時間分解差異波形に係るデータであり、そのデータ構成の一例を図10に示す。散乱光時間分解差異波形データ578には、候補波長と、散乱光時間分解差異波形とが対応付けて記憶される。本実施形態では、光学特性が被検体に類似する参照体を用いるため、図10に示すように、生成される散乱光時間分解差異波形は、「1」の近傍で値が振動する波形となる。なお、実際に格納されるデータとしては、後述する換算処理において、光強度比「0.9〜1.1」の範囲に、例えば16ビットの数値を割り当てた場合のステップ数のデータが換算データ578Aとして記憶される。
【0118】
参照体光学特性データ579は、参照体の光学特性に係るデータであり、例えば層別光吸収係数データ579Aがこれに含まれる。層別光吸収係数データ579Aは、参照体の各層それぞれの光吸収係数(参照体の層別光吸収係数)が記憶されたデータである。このデータは、予め測定等により求められた既知のデータであり、被検体の各層それぞれの光吸収係数(被検体の層別光吸収係数)を算出するために用いられる。
【0119】
2−3.処理の流れ
図11は、処理部510が、記憶部570に記憶されている第2成分濃度測定プログラム577に従って実行する第2成分濃度測定処理の流れを示すフローチャートである。
【0120】
先ず、モデル生成部511が、被検体モデル生成処理を行う(ステップT1)。具体的には、被検体を対象として、第1実施形態と同様に、例えばモンテカルロシミュレーションを行って、伝播光路長分布「Lsm(t)」及び無吸収時散乱光強度時間特性「Ns(t)」を求める。そして、これらのモデルを被検体モデルデータ572Aとして記憶部570に記憶させる。
【0121】
また、モデル生成部511は、参照体モデル生成処理を行う(ステップT2)。具体的には、参照体を対象として、第1実施形態と同様に、例えばモンテカルロシミュレーションを行って、伝播光路長分布「Lrm(t)」及び無吸収時散乱光強度時間特性「Nr(t)」を求める。そして、これらのモデルを参照体モデルデータ572Bとして記憶部570に記憶させる。
【0122】
次いで、散乱光時間分解差異波形生成部514は、記憶部570に記憶されている散乱光時間分解差異波形生成プログラム577Aに従って、散乱光時間分解差異波形生成処理を行う(ステップT3)。
【0123】
図12は、散乱光時間分解差異波形生成処理の流れを示すフローチャートである。
ステップA3の後、散乱光時間分解差異波形生成部514は、各候補波長についてループEの処理を行う(ステップB5〜B23)。ループEの処理では、ステップA9の後、散乱光時間分解差異波形生成部514は、第1光検出部313A及び第2光検出部313Bから、第1光強度及び第2光強度をそれぞれ取得する(ステップB11)。そして、散乱光時間分解差異波形生成部514は、取得した第1光強度及び第2光強度の比(光強度比)を算出する(ステップB13)。
【0124】
次いで、散乱光時間分解差異波形生成部514は、換算処理を行う(ステップB15)。本実施形態では、上述したように、被検体と光吸収特性や光散乱特性が類似した物質や溶液でなる参照体を用いて、第1光強度と第2光強度との比を求める。被検体と参照体とは光学特性が類似しているため、算出される光強度比は「1」に近い値となる。そこで、本実施形態では、「1」を中心とする所定範囲に、予め定められたビット数の数値を割り当てる。
【0125】
具体的には、例えば、光強度比「0.9〜1.1」の範囲に、16ビットの数値を割り当てる。つまり、「0.2=216ステップ」とし、1ステップを「(0.2)/216」とする。この場合、光強度比を「X」と表記し、ステップ数を「Y」と表記すると、「X=0.9+((0.2)/216)×Y」と表すことができる。この場合、例えば、散乱光時間分解差異波形データ578として、ステップ数「Y=(X−0.9)×216/0.2」を格納した換算データ578Aを記憶部570に記憶させる(ステップB17)。そして、散乱光時間分解差異波形生成部514は、ステップB19へと処理を移行する。
【0126】
次いで、散乱光時間分解差異波形生成部514は、ステップA13においてした光路長範囲の全体について光強度比を取得できたか否かを判定し(ステップB19)、まだ取得できていないと判定した場合は(ステップB19;No)、ステップA15へと移行する。また、取得できたと判定した場合は(ステップB19;Yes)、次の候補波長へと処理を移行する。
【0127】
図11の第2成分濃度測定処理に戻り、散乱光時間分解差異波形生成処理を行った後、ループB及びループCの処理において、処理部510は、当該選定波長について、当該選定時刻「tk」における被検体の各層の伝播光路長「Lsm(tk)」を被検体モデルデータ572Aの伝播光路長分布「Lsm(t)」から取得する(ステップS13)。また、処理部510は、当該選定波長について、当該選定時刻「tk」における無吸収時散乱光強度「Ns(tk)」を被検体モデルデータ572Aの無吸収時散乱光強度時間特性「Ns(t)」から取得する(ステップS15)。
【0128】
同様に、処理部510は、当該選定波長について、当該選定時刻「tk」における参照体の各層の伝播光路長「Lrm(tk)」を参照体モデルデータ572Bの伝播光路長分布「Lrm(t)」から取得する(ステップT13)。また、処理部510は、当該選定波長について、当該選定時刻「tk」における無吸収時散乱光強度「Nr(tk)」を参照体モデルデータ572Bの無吸収時散乱光強度時間特性「Nr(t)」から取得する(ステップT15)。
【0129】
次いで、処理部510は、逆換算処理を行う(ステップT16)。具体的には、ステップB15の換算処理で換算データ578Aとして記憶させたステップ数「Y」から、光強度比「X」に逆換算する演算を行う。その結果として、処理部510は、当該選定波長について、当該選定時刻「tk」における散乱光の第1光強度「Rs(tk)」と第2光強度「Rr(tk)」との比「Rr(tk)/Rs(tk)」を取得する(ステップT17)。そして、処理部510は、次の選定時刻へと処理を移行する。
【0130】
3つの選定時刻の全てについてステップS13〜ステップT17の処理を行ったならば、処理部510は、ループCの処理を終了する(ステップS19)。次いで、光吸収係数算出部515は、当該選定波長について、層別の光吸収係数「μam」を算出する(ステップT21)。
【0131】
皮膚の各層の光吸収係数の算出方法について説明する。式(3)において、被検体に対する特性に下付きの添え字の“s”を付し、参照体に対する特性に下付きの添え字の“r”を付している。このとき、第1光強度「Rs(t)」と第2光強度「Rr(t)」との比「Rs(t)/Rr(t)」は、次式(10)のように表すことができる。
【数10】

【0132】
式(10)を整理すると、次式(11)のようになる。
【数11】

【0133】
なお、式(11)は、式(4)を用いて次式(12)のように表すこともできる。
【数12】

【0134】
式(11)又は式(12)は、第1実施形態の式(1)に相当する式である。従って、式(11)又は式(12)を利用することで、第1実施形態と同様に、表皮層の光吸収係数「μa1」、真皮層の光吸収係数「μa2」及び皮下組織層の光吸収係数「μa3」を算出することができる。
【0135】
より具体的には、3つの異なる時刻について式(12)を書き表すと、次式(13)のようになる。
【数13】

【0136】
このとき、被検体についてステップS13及びS15で取得した各層の伝播光路長「Lsm(tk)」及び無吸収時散乱光強度「Ns(tk)」と、参照体についてステップT13及びT15で取得した各層の伝播光路長「Lrm(tk)」及び無吸収時散乱光強度「Nr(tk)」と、ステップT17で取得した光強度比「Rr(tk)/Rs(tk)」と、層別光吸収係数データ579Aに含まれる参照体の層別の光吸収係数「μar1」、「μar2」及び「μar3」とを用いて、式(13)の連立方程式を解く。その結果、被検体の皮膚の表皮層の光吸収係数「μas1」、真皮層の光吸収係数「μas2」及び皮下組織層の光吸収係数「μas3」が求まる。
【0137】
被検体の真皮層の光吸収係数「μas2」が求まった後は、第1実施形態と同様の手法により、式(6)に従って、真皮層に含まれている各成分の濃度を算出することができる(ステップS25)。
【0138】
2−4.作用効果
第2実施形態によれば、被検体に測定光を照射した場合に測定された時間分解波形と、光学特性が既知の参照物質に測定光を照射した場合に測定された時間分解波形である参照用時間分解波形との差異を用いて、被検体に含まれている成分濃度を算出する。具体的には、被検体に測定光を照射した場合に測定された時間分解波形と、参照用時間分解波形との比で表される散乱光時間分解差異波形に基づいて、所定の演算式に従って、皮膚の各層の光吸収係数を算出する。そして、算出した光吸収係数を用いて、皮膚の真皮層に含まれているグルコース濃度を算出する。
【0139】
散乱光時間分解差異波形の生成では、所定の換算処理を行う。測定光の光強度そのものに着目した場合、その時間分解波形は、例えば図5に示したような波形となる。つまり、光強度は、微小な値から大きな値まで広範囲な値を取り得る。この広範な数値の範囲を所定数のビット(例えば16ビット)で表す場合には、1ビット値当たりの数値は大きくなる。しかし、第2実施形態では、時間分解波形の比として表される数値の範囲を想定し、この数値範囲を同じ所定数のビットで表すため、1ビット値当たりの数値を小さくすることができる。その結果、光強度(光強度比)としてより精細(高分解能)な値を取り扱うことができるようになり、第1実施形態と比べて、成分濃度の算出精度を向上させることが可能となる。
【0140】
2−5.変形例
上記の実施形態では、式(13)に従って皮膚の各層の光吸収係数を算出した。しかし、式(13)ではなく、式(13)を積分型に発展させた次式(14)を用いて各層の光吸収係数を算出してもよい。
【数14】

【0141】
3.他の実施例
3−1.適用例
上記の実施形態では、被検体を人間の皮膚として説明したが、被検体は何もこれに限られるわけではない。例えば、果物の糖分を測定する糖分測定装置といった測定用機器に本発明の成分濃度測定装置を組み込んで利用することも可能である。
【0142】
また、グルコースの成分濃度を算出する用途に限らず、例えば、スクロースやラクトースといった他の糖分の成分濃度を測定してもよいし、食塩水といった各種の溶液の成分濃度を測定することも可能であることは勿論である。上記の実施形態の場合には、グルコースの他に、水やたんぱく質、脂質の成分濃度も併せて算出することができる。
【0143】
3−2.光源
上記の実施形態では、測定光及びゲート光の光源を共通光源として説明したが、同期したパルス光を生成することができれば、測定光の光源とゲート光の光源とを別光源としてもよい。
【0144】
また、光源は、パルス光を単発で発生させる光源に限らず、パルス光を繰り返し発生させる光源でもよい。そして、この場合は、例えば、光検出部において検出された光強度を所定時間分積算し、その積算された光強度を用いて後段の処理を行うこととしてもよい。
【0145】
3−3.光駆動シャッター
光駆動シャッターによる効果を効率良く得るために、例えばカー材質の前段にレンズ等を配置して、カー材質内で集光させることとしてもよい。
【0146】
3−4.光強度検出
測定光が微弱である場合などを想定し、フォトンカウンティング検出によって光子の数を計数することによって光強度を取得してもよい。
【0147】
3−5.光吸収係数及び成分濃度の算出
光吸収係数及び成分濃度を算出するための手法として、例えば、主成分分析やPLS(Partial Least Squares)法などの多変量解析に基づく手法を用いてもよい。
【0148】
3−6.散乱光時間分解波形の取得
上記の実施形態では、散乱光時間分解波形の略全体形状が得られる範囲を光路長範囲とすることで、散乱光時間分解波形の略全体形状を取得するものとして説明した。しかし、必ずしも散乱光時間分解波形の略全体形状を取得する必要はなく、演算に必要な時間帯に応じた一部分の形状のみを取得するようにしてもよい。つまり、散乱光時間分解波形の一部又は全体の形状が得られる範囲を光路長範囲として設定すればよい。
【符号の説明】
【0149】
1 成分濃度測定装置、 3 光学装置、 5 演算装置、 301 光源部、 302 分岐部、 303 照射部、 304 集光部、 305 中継部、 307 光変換部、 309 ゲート光導光部、 311 光駆動シャッター部、 311A カー材質部、 311B 第1偏光部、 311C 第2偏光部、 313 光検出部、 510 処理部、520 入力部、 530 表示部、 540 音出力部、 550 通信部、 560 I/F部、 570 記憶部、 580 バス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス光である測定光を被検体に照射する照射部と、
前記測定光が照射されることによる被検体からの出射光を集光する集光部と、
光強度を検出する検出部と、
前記測定光に同期したパルス光でなるゲート光を導光する光路長が変更可能に構成されたゲート光導光部と、
前記ゲート光導光部が導光したゲート光に基づき前記集光部が集光した光を前記検出部に向けて透過させる光駆動シャッター部と、
前記ゲート光導光部の光路長を変更制御する光路長制御部と、
前記光路長制御部によって変更された光路長における前記検出部の検出結果から時間分解波形を求めて、前記被検体に含まれている成分濃度を算出する算出部と、
を備えた成分濃度測定装置。
【請求項2】
前記算出部は、前記時間分解波形と、予め定められた前記被検体を伝播する前記パルス光の光路モデルとを用いて、前記被検体の光吸収係数を算出する光吸収係数算出部を有し、この光吸収係数算出部により算出された光吸収係数を用いて、前記被検体に含まれている成分濃度を算出する、
請求項1に記載の成分濃度測定装置。
【請求項3】
前記算出部は、前記時間分解波形と、光学特性が既知の参照物質に前記測定光を照射した場合に測定された時間分解波形である参照用時間分解波形との差違を用いて、前記被検体に含まれている成分濃度を算出する、
請求項1又は2に記載の成分濃度測定装置。
【請求項4】
前記光駆動シャッター部は、透過軸が直交となる偏光子対の間にカー材質を設けて構成され、
前記ゲート光導光部は、前記ゲート光を前記カー材質に導光する、
請求項1〜3の何れか一項に記載の成分濃度測定装置。
【請求項5】
パルス光を生成する光源と、
前記パルス光を前記測定光と前記ゲート光とに分岐させる分岐部と、
を更に備えた請求項1〜4の何れか一項に記載の成分濃度測定装置。
【請求項6】
前記算出部は、少なくとも前記被検体に含まれているグルコースの成分濃度を算出する、
請求項1〜5の何れか一項に記載の成分濃度測定装置。
【請求項7】
パルス光である測定光が照射されることによる被検体からの出射光をゲート光に基づいて透過させる光駆動シャッター部に、前記測定光に同期したパルス光を前記ゲート光として導光することと、
前記光駆動シャッター部に導光する前記ゲート光の光路長を変更制御することと、
前記光駆動シャッター部を透過した光の強度を検出することと、
前記光路長を変えて検出された前記光の強度から時間分解波形を求めて、前記被検体に含まれている成分濃度を算出することと、
を含む成分濃度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−88244(P2013−88244A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227932(P2011−227932)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】