説明

成型および塗布用樹脂組成物ならびにそれを用いたノイズ抑制材

本発明の目的は、フェライトコアを用いたノイズ対策における問題点(形状が通常円筒状であるため大きい、強度が低いため樹脂ケースやモールド成型による保護が必要、ノイズ対策を施す製品ごとの形状に合った各種フェライトコアが必要)を解決し、さらに高周波領域においてはフェライトコアよりもノイズ抑制(伝送特性)に優れる成型および塗布用樹脂組成物ならびに該成型および塗布用樹脂組成物を用いたノイズ抑制材を提供することである。下記に記載の成型および塗布用樹脂組成物により上記目的が達成される。本発明に係る成型および塗布用樹脂組成物は、芳香族ポリエステル(a)と磁性粉(b)とを含有する成型および塗布用樹脂組成物であって、該芳香族ポリエステル(a)100重量部に対して、該磁性粉(b)を10〜500重量部含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、芳香族ポリエステルと磁性粉とを含有する成型および塗布用樹脂組成物ならびにそれを用いたノイズ抑制材に関する。
【背景技術】
近年、パーソナルコンピュータ(PC)、オーディオシステム等の電子機器の需要の急速な拡大に伴い、このような電子機器の動作時に発生する不要輻射(例えば、不要電磁波)のノイズ対策が取り組まれてきている。
電子機器のノイズ対策としては、電子基板上での対策については、コイル、コンデンサおよびこれらを組み合わせた部品、シールド筐体、電波吸収体等が使用されている。コイルおよびコンデンサを組み合わせた部品のノイズ対策としては、例えば、特許第3367683号明細書に従来技術が記載されている。前記明細書には、積層コンデンサと積層インダクタとが一体的に形成された複合積層部品について、前記積層インダクタは、導電体層とフェライトを含む磁性体層とが交互に積層されており、また、前記フェライトとして特定のフェライト焼結体を用いることによって電子部品の磁気特性を向上させることができることが記載されている。前記磁性体層用のペーストとして、混合フェライト粉末と、エチルセルロース、アクリル樹脂等のバインダーと、テルピネオール、ブチルカルビトール等の溶媒とを混合し、ロール等で混練してペースト(スラリー)とすることが開示されている。前記磁性体層用ペーストは、磁性体層ペーストや他の積層用ペーストとともに積層一体化され、焼成される。得られた焼結体表面に外部電極用ペーストが印刷あるいは転写され、さらに焼成されて、複合積層部品が製造されることが開示されている。
一方、電子基板に接続されている信号線もしくは電源線については、フェライトコア、シールドケーブル等が使用されている。特に、フェライトコアによるノイズ対策は、上述した基板上のノイズ対策が施せなかった場合に頻繁に使用されている有効な手段であることが知られている。
例えば、特開2001−185308号公報においては、ノイズを除去するために、筒状フェライトコアを備えたパソコン用テーブルタップが開示されている。前記パソコン用テーブルタップは、ケーブル接続部とハウジングからなる。前記ハウジングは、上下に二分割され、前記ケーブル接続部の反対側の端部でヒンジにて連結される。前記ハウジングには、その上下の接合面に沿って、貫通孔が形成され、この貫通孔に前記筒状フェライトコアが固定されている。パソコン等から延びたケーブルは、前記筒状フェライトコアに挿通され、これによってノイズを除去することが開示されている。
また、特開2000−200715号公報には、低周波数帯で大電流を通じて使用してもノイズ低減に効果的なフェライトコアおよびこれを用いたチョークコイルが開示されている。ここでフェライトコアは、特定のフェライト粉末に結合剤を加え所定の形状に成形し、不活性雰囲気中で焼成して製造することが開示されている。前記結合剤について、具体的な開示はなされていない。
しかしながら、上記のようなフェライトコアを用いたノイズ対策では、フェライトコアの形状が通常円筒状であるためフェライトコア自体が大きくなってしまうという問題点があった。また、フェライトコアを使用すると、これと挿通されたコードとの間に隙間ができる。すると、フェライトコア内でのノイズ、およびコードを伝わってフェライトコアの端部から外に漏れるノイズを十分に抑制できないという問題点があった。さらに、フェライトコアの強度が低いため樹脂ケースやモールド成型による保護が必要であり、さらにノイズ対策を施す製品ごとの形状に合った各種フェライトコアが必要となるといった問題があった。
【発明の開示】
そこで、本発明は、上述した種々の問題を解決し、さらに高周波領域においてはフェライトコアよりもノイズ抑制(伝送特性)に優れる成型および塗布用樹脂組成物ならびに該成型および塗布用樹脂組成物を用いたノイズ抑制材を提供することを目的とする。
本発明者らは、特定の芳香族ポリエステルと磁性粉とを含有する成型および塗布用樹脂組成物が、上述した種々の問題を解決し、さらに高周波領域においてはフェライトコアよりもノイズ抑制(伝送特性)に優れた成型および塗布用樹脂組成物となることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記(1)〜(8)に記載の成型および塗布用樹脂組成物、(9)に記載のノイズ抑制材、(10)に記載のノイズ抑制材の製造方法、(11)〜(14)に記載のノイズ抑制材の使用方法を提供する。
(1)芳香族ポリエステル(a)と磁性粉(b)とを含有する成型および塗布用樹脂組成物であって、
該芳香族ポリエステル(a)100重量部に対して、該磁性粉(b)を10〜500重量部含有する成型および塗布用樹脂組成物。
(2)さらに、上記芳香族ポリエステル(a)100重量部に対して、高誘電率材料粉末(c)を1〜100重量部含有する上記(1)に記載の成型および塗布用樹脂組成物。
(3)上記芳香族ポリエステル(a)として、テレフタル酸および/またはイソフタル酸を含有する酸成分と、エチレングリコール(EG)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)、ネオペンチルグリコール(NPG)および1,4−ブタンジオール(1,4−BD)からなる群より選択される少なくとも1種を含有する水酸基成分と、を反応させて得られるポリエステルを含有する上記(1)または(2)に記載の成型および塗布用樹脂組成物。
(4)上記芳香族ポリエステル(a)として、テレフタル酸およびイソフタル酸を含有する酸成分と、エチレングリコールおよびネオペンチルグリコールを含有する水酸基成分と、を反応させて得られるポリエステルAと、
テレフタル酸およびイソフタル酸を含有する酸成分と、1,4−ブタンジオールおよびポリテトラメチレンエーテルグリコールを含有する水酸基成分と、を反応させて得られるポリエステルBと
を含有する上記(1)〜(3)のいずれかに記載の成型および塗布用樹脂組成物。
(5)上記芳香族ポリエステル(a)として、さらに、テレフタル酸とイソフタル酸とセバシン酸とを含有する酸成分と、1,4−ブタンジオールを含有する水酸基成分と、を反応させて得られるポリエステルCを含有する上記(4)に記載の成型および塗布用樹脂組成物。
(6)上記芳香族ポリエステル(a)として、さらに、テレフタル酸とイソフタル酸とε−カプロラクトンとを含有する酸成分と、1,4−ブタンジオールを含有する水酸基成分と、を反応させて得られるポリエステルDを含有する上記(4)または(5)に記載の成型および塗布用樹脂組成物。
(7)上記ポリエステルBの溶融指数(MI)が、200℃において10以上である上記(4)〜(6)のいずれかに記載の成型および塗布用樹脂組成物。
(8)上記芳香族ポリエステル(a)が、該芳香族ポリエステル(a)の総重量に対して、上記ポリエステルAを10〜50重量%、上記ポリエステルBを10〜50重量%、上記ポリエステルCを0〜30重量%、上記ポリエステルDを0〜30重量%含有してなる上記(4)〜(7)のいずれかに記載の成型および塗布用樹脂組成物。
(9)上記(1)〜(8)のいずれかに記載の成型および塗布用樹脂組成物を用いて形成されるノイズ抑制材。
(10)上記(1)に記載の成型および塗布用樹脂組成物を用いて形成されるノイズ抑制材の製造方法であって、上記成型および塗布用樹脂組成物を溶融する溶融工程と、該溶融工程後の溶融した成型および塗布用樹脂組成物を5MPa未満の圧力で吐出成型または塗布する吐出成型・塗布工程とを具備するノイズ抑制材の製造方法。
(11)上記(1)に記載の成型および塗布用樹脂組成物を用いて形成されるノイズ抑制材を信号線もしくは電源線のノイズ抑制に使用するノイズ抑制材の使用方法であって、上記成型および塗布用樹脂組成物を溶融させた後、溶融した成型および塗布用樹脂組成物を信号線もしくは電源線に5MPa未満の圧力で吐出成型または塗布するノイズ抑制材の使用方法。
(12)上記信号線もしくは電源線が、電子回路を構成するプリント基板上にある上記(11)に記載のノイズ抑制材の使用方法。
(13)上記(1)に記載の成型および塗布用樹脂組成物を用いて形成されるノイズ抑制材を集積回路のノイズ抑制に使用するノイズ抑制材の使用方法であって、上記成型および塗布用樹脂組成物を溶融させた後、溶融した成型および塗布用樹脂組成物を、集積回路に塗布するノイズ抑制材の使用方法。
(14)上記(1)に記載の成型および塗布用樹脂組成物を用いて形成されるノイズ抑制材をプリント基板とケースとで構成される電子装置のノイズ抑制に使用するノイズ抑制材の使用方法であって、上記成型および塗布用樹脂組成物を溶融させた後、溶融した成型および塗布用樹脂組成物を、プリント基板とケースとで構成される電子装置の内部に充填するノイズ抑制材の使用方法。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例1〜6、比較例2の成型および塗布用樹脂組成物を用いて形成されるノイズ抑制材におけるノイズ抑制効果を示す電磁波の周波数(GHz)と減衰量(dB)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に、本発明の成型および塗布用樹脂組成物、ノイズ抑制材、ノイズ抑制材の製造方法、ノイズ抑制材の使用方法についてより詳細に説明する。
本発明の成型および塗布用樹脂組成物は、芳香族ポリエステル(a)と磁性粉(b)とを含有する成型および塗布用樹脂組成物であって、
該芳香族ポリエステル(a)100重量部に対して、該磁性粉(b)を10〜500重量部、好ましくは50〜400重量部、より好ましくは100〜300重量部含有する成型および塗布用樹脂組成物である。
さらに、本発明の成型および塗布用樹脂組成物は、上記芳香族ポリエステル(a)100重量部に対して、高誘電率材料粉末(c)を1〜100重量部含有していることが好ましく、5〜80重量部含有していることがより好ましく、10〜50重量部含有していることがさらに好ましい。
また、本発明の成型および塗布用樹脂組成物は、溶融時の粘度が10Pa・s〜2kPa・s、好ましくは10Pa・s〜1kPa・sであり、圧力が5MPa未満、好ましくは0.2〜1.0MPa、より好ましくは0.3〜0.5MPaである条件で、吐出成型が可能な成型および塗布用樹脂組成物であることが好ましい。
ここで、上記吐出成型は、120〜230℃の範囲で行われることが好ましく、180〜210℃の範囲で行われることがより好ましい。この温度範囲であれば、上記吐出成型に用いる成型および塗布用樹脂組成物の安定性が向上し、さらに溶融時の粘度が上述した範囲内となる理由から好ましい。また、圧力とは、上記吐出成型時において、吐出口から上記成型および塗布用樹脂組成物を吐出させる際の圧力のことである。
以下に、芳香族ポリエステル(a)、磁性粉(b)および高誘電率材料粉末(c)について詳細に説明する。
<芳香族ポリエステル(a)>
上記芳香族ポリエステル(a)は、脂肪酸とグリコールとの縮合反応から得られる芳香族ポリエステルであることが好ましい。上記芳香族ポリエステル(a)としては、具体的には、例えば、テレフタル酸および/またはイソフタル酸を含有する酸成分と、エチレングリコール(以下、EGと略す)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(以下、PTMGと略す)、ネオペンチルグリコール(以下、NPGと略す)および1,4−ブタンジオール(以下、1,4−BDと略す)からなる群より選択される少なくとも1種を含有する水酸基成分とを反応させて得られるポリエステルを含有する芳香族ポリエステルが挙げられ、その他の酸成分としてセバシン酸を含有していてもよい。芳香族ポリエステル(a)の具体例としては、下記に示すポリエステルA〜Dを含有する芳香族ポリエステルが好適に例示される。
上記ポリエステルAは、酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸との混合物を用い、水酸基成分としてNPGとEGとの混合物を用いて、縮合反応により得られるポリエステルであり、市販品としてユニチカ社製のエリーテルUE−3320を用いることができる。該ポリエステルAの190℃での粘度は、0.5〜2Pa・sであることが好ましく、0.7〜1.5Pa・sであることがより好ましい。
同様に、上記ポリエステルBは、酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸との混合物を用い、水酸基成分としてPTMGと1,4−BDとの混合物を用いて、縮合反応により得られるポリエステルである。該ポリエステルBの溶融状態における流動性を示す尺度である溶融指数(メルトインデックス)(以下、MIと略す)が、200℃において10以上であることが好ましく、13〜50であることがより好ましい。上記ポリエステルBのMIがこの範囲であると成型時の粘度を低く保ち、成型後の耐熱性が優れるため好ましい。ここで、上記PTMGは1,4−BDを重合させて得られる重合体であれば特に限定されず、数平均分子量が2000以上であることが好ましく、市販品として三菱化学社製のH−283、東レ・デュポン社製のハイトレル4057等を用いることができる。
また、上記ポリエステルCは、酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸とセバシン酸との混合物を用い、水酸基成分として1,4−BDを用いて、縮合反応により得られるポリエステルであり、市販品としてユニチカ社製のエリーテルUE−3410を用いることができる。該ポリエステルCの190℃での粘度は200〜700Pa・sであることが好ましく、400〜600Pa・sであることがより好ましい。
上記ポリエステルDは、酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸とε−カプロラクトンとの混合物を用い、水酸基成分として1,4−BDを用いて、縮合反応により得られるポリエステルであり、市販品としてユニチカ社製のエリーテルUE−3800を用いることができる。該ポリエステルDの190℃での粘度は100〜300Pa・sであることが好ましく、150〜200Pa・sであることがより好ましい。
上記芳香族ポリエステル(a)は、上記ポリエステルA、B、CおよびDからなる群より選択させる少なくとも2種を含有していることが好ましく、上記ポリエステルAと上記ポリエステルBとを含有していることがより好ましい。これは、柔軟性、耐熱性、耐薬品性、耐油性および延伸性に優れたポリエステルBと、低粘度で成型性に優れているポリエステルAとを含有させることにより、得られる成型および塗布用樹脂組成物の成型時における粘度を低く保ち、さらに成型後の固化物に柔軟性を与えるという理由からである。また、同様の理由から、上記芳香族ポリエステル(a)は、上記ポリエステルAとポリエステルBと、ポリエステルCおよび/またはポリエステルDとを含有していることが好ましい。
上記芳香族ポリエステル(a)における上記ポリエステルA、B、CおよびDの含有割合は、該芳香族ポリエステル(a)の総重量に対して、上記ポリエステルAを10〜50重量%、上記ポリエステルBを10〜50重量%、上記ポリエステルCを0〜30重量%、上記ポリエステルDを0〜30重量%含有していることが好ましく、上記ポリエステルAを25〜45重量%、上記ポリエステルBを20〜40重量%、上記ポリエステルCを0〜20重量%、上記ポリエステルDを0〜25重量%含有していることがより好ましく、上記ポリエステルAを30〜40重量%、上記ポリエステルBを25〜35重量%、上記ポリエステルCを0〜15重量%、上記ポリエステルDを0〜20重量%含有していることがさらに好ましい。
上記ポリエステルA、B、CおよびDの含有割合がこの範囲であると、得られる成型および塗布用樹脂組成物の成型時の粘度を低く保ちながら成型後の硬化物に柔軟性、および耐熱性を与えることが可能となり、成型後の硬化物が耐油性、耐ガソリン性に優れるため好ましい。さらに、成型後の硬化時間が短く、養生の必要性がないことからも好ましい。
また、このような性質を有する本発明の成型および塗布用樹脂組成物は、耐ヒートショック性に優れ、ヒートサイクル時の被着体の膨張収縮に追従することが可能であるため成型用ホットメルト材として用いることができるため好ましい。
本発明の成型および塗布用樹脂組成物は、被着体(例えば、電子回路基板において被覆に使用される樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル(PVC)等)や配線に使用される銅線、金線、メッキ、など。以下同様)に密着しているので、フェライトコアのように被着体との間に大きな隙間を生じることはない。これにより、成型および塗布用樹脂組成物と被着体とが密着している部分について、効果的にノイズを抑止することができる。また、本発明の成型および塗布用樹脂組成物の外部に、被着体を伝わって生じるノイズを効果的に抑制することができる。
さらに、上記ポリエステルA、B、CおよびDの含有割合がこの範囲であると、得られる成形および塗布用樹脂組成物の、電子回路基板において被覆に使用される樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル(PVC)等)や配線に使用される銅線、金線、メッキなどに対する接着性が良好となることからも好ましい。
一方、脂肪酸とグリコールとの縮合体であるポリエステル樹脂として、柔軟性、耐熱性、耐薬品性、耐油性、延伸性および成型性などの特徴を有した各種ポリエステル樹脂が知られているが、従来より知られている上記いくつかの特徴を兼ね備えたポリエステル樹脂では、成型性と柔軟性のバランスが悪く成型および塗布用樹脂組成物(例えば、成型用ホットメルト材)として用いることができない問題(例えば、低粘度で成型し易い樹脂であると成型後の柔軟性が非常に低く、逆に柔軟性を有する樹脂では成型が困難である等の問題)を有している。
また、ポリエステル樹脂以外の、ウレタン系ホットメルト、ポリアミド系ホットメルト、EVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)系ホットメルト、シリコーン系充填剤等に関しても成型用ホットメルト材として用いることができていない。EVA系ホットメルトの先行技術としては、例えば、特開平6−182920号公報には、自動車の立面、天井等に施工するための磁着型制振材用として、フェライト粉末を含有するエチレン酢酸ビニル系ホットメルト材料を使用することが開示されている。しかしながら、前記エチレン酢酸ビニル系ホットメルト材料は、機械的強度が小さいので、機械的強度が要求される本発明の成型および塗布用樹脂組成物に用いることはできない。このほか、前記エチレン酢酸ビニル系ホットメルト材料は、材質自体にべたつき感がある。電子機器のコードなど露出した部分に前記エチレン酢酸ビニル系ホットメルト材料を使用すると、前記エチレン酢酸ビニル系ホットメルト材料に汚れやホコリが付着して電子機器を使用する環境としては好ましくない。また、前記エチレン酢酸ビニル系ホットメルト材料が電子機器内外のほかの部分に付着するなど、取扱いが面倒であるという問題がある。
これに対し、上記芳香族ポリエステル(a)は、従来知られている各種ポリエステル樹脂あるいはポリエステル樹脂以外のホットメルト材のなかでも、特に、成型性と柔軟性のバランスが良好(つまり、低粘度で成型し易い樹脂であると同時に成型後の柔軟性が非常に高い)であり、成型および塗布用樹脂組成物(例えば、成型用ホットメルト材)として用いることが可能であり、成型後のべたつきがないことから、本発明の成型および塗布用樹脂組成物として有用である。
<磁性粉(b)>
上記磁性粉(b)としては、フェライト系粉末もしくは金属磁性体粉末を用いることができる。
上記フェライト系粉末は、化学式MO・Fe(Mは2価の金属)で表される磁性酸化物(フェライト)の粉体であれば特に限定されず、粒状、板状、不定形等のいずれの形態の粒子をも使用することができる。また、フェライト系粉末は、複合する金属酸化物によって軟質磁気特性や硬質磁気特性を示し、軟質磁性を示す材料としては、具体的には、高透磁率、高磁束密度のMn−Zn系、比抵抗が極めて高いNi−Zn系等が例示される。
上記金属磁性体粉末としては、具体的には、例えば、パーマロイ合金、鉄−ケイ素合金、鉄−ケイ素−アルミ合金等が挙げられる。
このような磁性粉(b)は、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよく、これらのうち、鉄−ケイ素合金粉末を用いることが、高透磁率を得ることができるため好ましい。また、市販品としては、Fe−6%SI扁平品(福田金属箔粉工業社製)が好適に例示される。
上記磁性粉(b)の含有量は、上述したように、上記芳香族ポリエステル(a)100重量部に対して、10〜500重量部、好ましくは50〜400重量部、より好ましくは100〜300重量部である。磁性粉(b)の含有量がこの範囲であれば、磁性粉(b)と上記芳香族ポリエステル(a)との混練性が良好となるため、得られる成型および塗布用樹脂組成物中に該磁性粉(b)を適度に分散させることが可能となり、さらに、得られる成型および塗布用樹脂組成物の透磁率が向上するため、優れたノイズ抑制効果を発現させることができる理由から好ましい。
ここで、ノイズ抑制効果とは、電子機器の動作時に該電子機器に繋がった信号線もしくは電源線中を伝送する不要輻射(例えば、不要電磁波)を抑制する効果である。ノイズ対策を施していない信号線もしくは電源線の減衰量(dB)を0(ゼロ)とした場合における、ノイズ対策を施した信号線もしくは電源線の減衰量(dB)をマイナスの値として算出し評価する。
具体的には、周波数100MHz〜3GHzの電磁波に対して、減衰量(dB)が−1dB以下となることがより好ましい。
<高誘電率材料粉末(c)>
本発明に用いる高誘電率材料粉末(c)としては、具体的には、例えば、カーボン粉、グラファイト粉末、カーボン繊維、グラファイト繊維、酸化チタン等が挙げられ、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。また、市販品としては、酸化チタン(石原産業社製)が好適に例示され、粒状、板状、不定形等のいずれの形態の粒子をも使用することができる。
上記高誘電率材料粉末(c)の含有量は、上述したように、上記芳香族ポリエステル(a)100重量部に対して、1〜100重量部含有していることが好ましく、5〜80重量部含有していることがより好ましく、10〜50重量部含有していることがさらに好ましい。高誘電率材料粉末(c)の含有量がこの範囲であれば、高誘電率材料粉末(c)と上記芳香族ポリエステル(a)との混練性が良好となるため、得られる成型および塗布用樹脂組成物中に該高誘電率材料粉末(c)を適度に分散させることが可能となり、さらに、得られる成型および塗布用樹脂組成物の誘電率が向上するため、優れたノイズ抑制効果を発現させることができる理由から好ましい。
<添加剤>
本発明の成型および塗布用樹脂組成物は、必要に応じて、充填剤、可塑剤、顔料、染料、老化防止剤、酸化防止剤、チクソトロピー性付与剤、帯電防止剤、難燃剤、接着性付与剤、分散剤、溶剤等の添加剤を配合してもよい。
充填剤としては、各種形状の有機または無機のものがあり、具体的には、例えば、炭酸カルシウム、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ;けいそう土;酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム;炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛;ろう石クレー、カオリンクレー、焼成クレー;あるいはカーボンブラック、あるいはこれらの脂肪酸、樹脂酸、脂肪酸エステル処理物等を挙げることができ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
可塑剤としては、具体的には、例えば、ジオクチルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)、アジピン酸ジオクチル、コハク酸イソデシル、ジエチレングリコールジベンゾエート、ペンタエリスリトールエステル、オレイン酸ブチル、アセチルリシノール酸メチル、リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル、トリメリット酸エステル、アジピン酸プロピレングリコールポリエステル、アジピン酸ブチレングリコールポリエステル等を挙げることができ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
顔料は、無機顔料および有機顔料のいずれでも両方でもよい。顔料としては、具体的には、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、群青、ベンガラ、リトポン、鉛、カドミウム、鉄、コバルト、アルミニウム、塩酸塩、硫酸塩の無機顔料、アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料等の有機顔料等を用いることができる。
老化防止剤としては、具体的には、例えば、ヒンダードフェノール系化合物やヒンダードアミン系化合物等が挙げられる。
酸化防止剤としては、具体的には、例えば、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等が挙げられる。
チクソトロピー性付与剤としては、具体的には、例えば、エアロジル(日本エアロジル社製)、ディスパロン(楠本化成社製)、炭酸カルシウム、テフロン(登録商標)等を、また帯電防止剤としては、一般的に、第4級アンモニウム塩、あるいはポリグリコールやエチレンオキサイド誘導体などの親水性化合物を挙げることができる。
難燃剤としては、具体的には、例えば、クロロアルキルホスフェート、ジメチル・メチルホスホネート、臭素・リン化合物、アンモニウムポリホスフェート、ネオペンチルブロマイドポリエーテル、臭素化ポリエーテル等が挙げられる。
接着性付与剤としては、具体的には、例えば、テルペン樹脂、フェノール樹脂、テルペン−フェノール樹脂、ロジン樹脂、キシレン樹脂等が挙げられる。
上記各添加剤は適宜に組み合わせて併用してもよい。
上記芳香族ポリエステル(a)、上記磁性粉(b)、所望により添加することができる上記高誘電率材料粉末(c)および上記添加剤を含有する本発明の成型および塗布用樹脂組成物は、上述したように、成型材料として使用できるホットメルト材なので、フェライトコアのような円筒状の形状である必要がなく、スペースを有効に利用することができる。また信号線もしくは電源線に密着させることができるため、優れたノイズ抑制効果を有し、さらに型により形状は自由に決めることができるため、フェライトコアのようなノイズ対策を施す製品ごとの形状に合った在庫が必要となることがなく、ペレット等の原材料の形として管理することができる。
また、本発明の成型および塗布用樹脂組成物は、上述したように、成型後の硬化物(後述するノイズ抑制材)が柔軟性を有することから、フェライトコアのような樹脂ケースやモールド成型による保護の必要がなくコスト面で有利である。また成型後の硬化物が耐熱性および耐ヒートショック性に優れ、接着剤として使用した際の接着時間が短く、養生の必要がないことから好ましく、さらに電子回路基板において被覆に使用される樹脂や配線に使用される銅線、金線、メッキなどに対する接着性が良好となることからも好ましい。
このような効果を有する本発明の成型および塗布用樹脂組成物は、後述するノイズ抑制材として有用であり、また、コネクタ・ハーネス等の端部の封止剤・防水保護剤、ポッティング材(電気回路を衝撃、振動もしくは湿気等から守るために、電気回路全体に埋め込まれる充填材)として用いることもできるため有用である。
本発明の成型および塗布用樹脂組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、上記芳香族ポリエステル(a)、上記磁性粉(b)、所望により添加することができる上記高誘電率材料粉末(c)および上記添加剤を混合し、ロール、ニーダ、押出し機、万能攪拌機、ボールミル等の混合装置を用いて十分に混練し、均一に分散させることにより得られる。
本発明のノイズ抑制材は、上述した本発明の成型および塗布用樹脂組成物を用いて形成されるノイズ抑制材であれば特に限定されず、後述する本発明のノイズ抑制材の製造方法により得られるノイズ抑制材であることが好ましい。
本発明のノイズ抑制材は、上述した本発明の成型および塗布用樹脂組成物の有する特性から、下記(イ)〜(ヘ)に示す特性を有しているため有用である。(イ)成形性に優れている。(ロ)脱型性に優れている。(ハ)柔軟性に優れている。(ニ)耐衝撃性に優れている。(ホ)1mm厚で、周波数1〜3GHzの電磁波に対して、減衰量(dB)が−1dB以下となる。(ヘ)PVCおよび金属との接着性に優れている。
本発明のノイズ抑制材の製造方法は、上述した本発明の成型および塗布用樹脂組成物を溶融する溶融工程と、該溶融工程後の溶融した成型および塗布用樹脂組成物を5MPa未満の圧力で吐出成型または塗布する吐出成型・塗布工程とを具備する製造方法である。ここで、上記吐出成型時または塗布時の圧力は、0.2〜1.0MPaであることが好ましく、0.3〜0.5MPaであることがより好ましい。
上記溶融工程は、本発明の成型および塗布用樹脂組成物を溶融する工程であり、具体的には、該成型性樹脂組成物を160〜230℃、好ましくは180〜210℃に加熱して溶融させる工程である。
上記吐出成型・塗布工程は、上記溶融工程により溶融した成型および塗布用樹脂組成物を5MPa未満の圧力で吐出成型または塗布する工程である。
具体的には、上記吐出成型は、溶融した成型および塗布用樹脂組成物を、5MPa未満、好ましくは1〜4MPaの圧力で、ホットメルトガン、ホットメルトアプリケータ等を用いて吐出し、該モールド内で成型する工程である。またはホットメルトガン、ホットメルトアプリケータで吐出し、ポッティングする工程である。
一方、上記塗布は、溶融した成型および塗布用樹脂組成物を、5MPa未満、好ましくは1〜4MPaの圧力で、ホットメルトガンスプレー等を用いて塗布する工程である。
一般的な射出成型では、圧力が40〜120MPa、溶融温度が250〜300℃と高いのに対し、本発明の成型および塗布用樹脂組成物を用いたノイズ抑制材の製造方法を用いれば、圧力が0.3〜0.5MPa、溶融温度が180〜210℃で使用できるため非常に優れている。
本発明のノイズ抑制材の使用方法は、上記ノイズ抑制材を信号線もしくは電源線のノイズ抑制に使用するノイズ抑制材の使用方法であって、上記成型および塗布用樹脂組成物を溶融させた後、溶融した成型および塗布用樹脂組成物を電子機器に繋がった信号線もしくは電源線に5MPa未満の圧力で吐出成型または塗布するノイズ抑制材の使用方法である。
ここで、上記成型および塗布用樹脂組成物の溶融、および、溶融した成型および塗布用樹脂組成物の吐出成型または塗布の条件は、それぞれ上述した本発明のノイズ抑制材の製造方法における溶融工程、および、吐出成型・塗布工程に記載した条件と同様である。すなわち、上記成型および塗布用樹脂組成物の溶融とは、本発明の成型および塗布用樹脂組成物を160〜230℃、好ましくは180〜210℃に加熱して溶融させることであり、上記吐出成型または塗布とは、溶融した成型および塗布用樹脂組成物を5MPa未満の圧力で吐出成型または塗布することである。
本発明のノイズ抑制材の使用方法を用いれば、このような低温・低圧力でのノイズ抑制材の使用(成型)が可能となり、上記吐出成型または塗布時に信号線もしくは電源線等を傷つけることなくノイズ抑制材を成型することができるため有用である。
本発明のノイズ抑制材を使用して製造される信号線あるいは電源線等の配線は、金属線材あるいは絶縁された金属線材にノイズ抑制材を成型あるいは塗布して得られるノイズ抑制された被覆線である。成型は、押し出し射出成型等で特定の形状にするもので金属線材に同じ円状に被覆層を形成すること等が例示できる。
ここで金属線材は、断面円形、断面距形、断面異形状であってもよい。金属線材としては、例えば、銅線、金線、メッキなどであってもよい。
金属線材にノイズ抑制材を成型あるいは塗布する場合、1本の金属線材を直線にした状態で少なくともその一部に、1本の金属線材を1回あるいは複数回ループさせた状態でループ部分の少なくとも1箇所(例えば、金属線材が交差する箇所)を束ねるように、複数本の直線状の金属線材を少なくとも一箇所で束ねるように、あるいは、複数本の金属線材をまとめてこれを1回あるいは複数回ループさせた状態でループ部分の少なくとも1箇所(例えば、金属線材が交差する箇所)を束ねるように、ノイズ抑制材を成型あるいは塗布すればよい。このとき、成型あるいは塗布される部分内の金属線材は、金属線材同士が接触していてもよいが、金属線材同士の隙間を本発明の成型および塗布用樹脂組成物が埋めるように成型あるいは塗布されているほうが、ノイズ抑制効果の観点から好ましい。
本発明の成型および塗布用樹脂組成物は、電子機器の外部の配線などに使用する場合は、当該配線上で当該電子機器に近い部分に成型および塗布すると、効果的にノイズを抑制することができる。
また、上記被覆線は、電子回路を構成するプリント基板上にあることが好ましい。
また、本発明のノイズ抑制材のその他の使用方法としては、上記ノイズ抑制材を集積回路のノイズ抑制に使用するノイズ抑制材の使用方法であって、上記成型および塗布用樹脂組成物を溶融させた後、溶融した成型および塗布用樹脂組成物を、集積回路に塗布するノイズ抑制材の使用方法が挙げられる。このように製造された集積回路は、1つの基板上に回路部品を具備しており、その表面にノイズ抑制材を塗布されることによりノイズを抑制することができる。
さらに、上記ノイズ抑制材をプリント基板とケースとで構成される電子装置のノイズ抑制に使用するノイズ抑制材の使用方法であって、上記成型および塗布用樹脂組成物を溶融させた後、溶融した成型および塗布用樹脂組成物を、プリント基板とケースとで構成される電子装置の内部に充填するノイズ抑制材の使用方法が挙げられる。このように製造された電子装置は、プリント基板と、前記プリント基板を保護するためのケースとで構成され、前記プリント基板と前記ケースとの間の空間に上記ノイズ抑制材を充填することによりノイズを抑制することができる。
ここで、集積回路としては、具体的には、例えば、IC(集積回路)、LSI(大規模集積回路)等が挙げられ、プリント基板とケースとで構成される電子装置としては、具体的には、例えば、車のリモコン等の落下などの外部衝撃が加わる可能性のある電子部品が挙げられる。
また、2液型のウレタンやエポキシの成型には加熱などを要し、さらに硬化には15〜120分程かかるのに対し、本発明の成型および塗布用樹脂組成物を用いれば、成型後の硬化時間が自然冷却で数秒〜数十秒で終了し、数分以内にモールドより脱型することが可能であるため好ましい。具体的には、本発明の成型および塗布用樹脂組成物を用いれば、成型用ホットメルト材の注入時間が10秒で終了し、自然冷却で1分以内にモールドより脱型することが可能であるため好ましい。さらに、脱型後の変形がなく、養生の必要がないことから生産性にも優れているため有用である。
【実施例】
以下、実施例を用いて、本発明について詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
(ポリエステルA〜D)
ポリエステルA〜Dは、目的となる酸成分および水酸基成分が含まれていればよく、ポリエステルAとしては、ユニチカ社製のエリーテルUE−3320を用い、ポリエステルBとしては、東レ・デュポン社製のハイトレル4057を用い、ポリエステルCとしては、ユニチカ社製のエリーテルUE−3410を用い、ポリエステルDとしては、ユニチカ社製のエリーテルUE−3800を用いた。ここで、本実施例で用いたポリエステルA〜Dの各成分のモル比を下記表1に示す。

(実施例1〜6、比較例1および2)
下記表2に示す組成成分(重量部)でポリエステルA〜Dを含有する芳香族ポリエステル(a)100重量部に対して、下記表2に示す組成成分(重量部)で、磁性粉(b)、高誘電率材料粉末(c)をニーダを用いて混合し、成型および塗布用樹脂組成物とした。
上記組成成分のニーダによる混合は、200℃において、下記表2に示す各組成成分を粘度が高い順に4Lニーダに投入して行った。2回目以降の投入は、先に投入された組成成分が溶融したことを確認した後に行った。30分で芳香族ポリエステル(a)を投入し、50分で磁性粉(b)および高誘電率材料粉末(c)を投入した。1時間後にこれらの混練物を取り出し、成型および塗布用樹脂組成物を得た。
上記各組成成分として、以下に示す化合物を用いた。
磁性粉:Fe−6%SI扁平品(福田金属箔粉工業社製)
高誘電率材料粉末:酸化チタン(石原産業社製)
得られた各成型および塗布用樹脂組成物において、以下に示す各測定を行った。結果を下記表2に示す。
(1)混練性
上述したニーダによる混合時において、磁性粉および/または高誘電率材料粉末が表面に析出せずに混練できるものを○とし、析出してしまうものを×とする。
(2)柔軟性
得られた各成型および塗布用樹脂組成物を用いて形成されるシート状物(シート厚:1mm)の柔軟性を評価した。1mmシート厚のシート状物を180度に折り曲げることができるものを○とした。なお、比較例1の成型および塗布用樹脂組成物は、混練性の評価において磁性粉および/または高誘電率材料粉末が表面に析出してしまい混練できなかったので、柔軟性について評価不可能であった。表2では、比較例1の柔軟性に関する評価結果は「−」とした。
ここで、上記シート状物は、140℃のプレスを用い、シート厚が1mmになるようにプレス成型させて得られた。
(3)ノイズ抑制
ノイズ抑制効果は、マイクロストリップライン上に、得られた各成型および塗布用樹脂組成物を用いて形成されるノイズ抑制材を設置し、減衰量(dB)の変化により評価した。何も設置しない場合を基準値(ゼロ)として、得られた各成型および塗布用樹脂組成物を用いて形成されるノイズ抑制材を設置した場合の減衰量(dB)値(マイナスの値)から評価した。測定装置は、マイクロストリップ線路とネットワークアナライザ(8722、アジレントテクノロジー社製)を用いた。
ここで、1GHzの周波数の電磁波においては、減衰量が−0.5dB以下となればノイズ抑制効果が良好であり、減衰量が−0.3〜−0.5dBとなれば実用上問題ない。また、2GHzおよび3GHzの周波数の電磁波においては、減衰量が−1.0dB以下となればノイズ抑制効果が良好であり、減衰量が−0.5〜−1.0dBとなれば実用上問題ない。
下記表2には、1GHz、2GHzおよび3GHzの周波数の電磁波における減衰量(dB)値を示す。
また、得られた成型および塗布用樹脂組成物を用いて形成されるノイズ抑制材は、200℃で溶融させた各成型および塗布用樹脂組成物を、モールド内において、電子機器に繋がった信号線もしくは電源線にホットメルトガンを用いて0.4MPaの圧力で吐出成型させて得られた。
また、実施例1〜6、比較例2の成型および塗布用樹脂組成物を用いて形成されるノイズ抑制材において、ノイズ抑制効果を示す電磁波の周波数(GHz)と減衰量(dB)との関係を表すグラフを図1に示す。
図1に示されたグラフから明らかなように、磁性粉の含有量が本発明の範囲内にある成型および塗布用樹脂組成物(実施例1〜6)は、比較例2に比べて減衰量が実用上充分あり、ノイズ抑制効果が良好であることが分かる。
(4)ホットメルト性
得られた各成型および塗布用樹脂組成物を用いて形成されるノイズ抑制材を200℃下に1時間放置し、放置後の溶融の有無および放置後に冷却し上述したノイズ抑制効果を再び保持し得るかどうかから評価した。放置後に溶融がなく、かつ、冷却後再びノイズ抑制効果を保持する場合を○とした。なお、比較例1の成型および塗布用樹脂組成物は、混練性の評価において磁性粉および/または高誘電率材料粉末が表面に析出してしまい混練できなかったので、ホットメルト性について評価不可能であった。表2では、比較例1に関するホットメルト性の評価結果は「−」とした。

表2から明らかなように、混練性について、実施例1〜6の成型および塗布用樹脂組成物を用いて形成されるノイズ抑制材は、磁性粉が600重量部である比較例1に比べて、磁性粉および/または高誘電率材料粉末を成型および塗布用樹脂組成物の表面に析出させず混練することができた。磁性粉(b)の含有量が多い比較例1は、磁性粉が表面に析出してしまい混練することができなかった。
【産業上の利用可能性】
以上で説明したように、本発明の成型および塗布用樹脂組成物、ノイズ抑制材、ノイズ抑制材の製造方法、ノイズ抑制材の使用方法は、フェライトコアを用いたノイズ対策における問題(形状が通常円筒状であるためフェライトコア自体が大きい、強度が低いため樹脂ケースやモールド成型による保護が必要、ノイズ対策を施す製品ごとの形状に合った各種フェライトコアが必要)を解決し、さらに高周波領域においては優れたノイズ抑制効果を示すため有用である。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリエステル(a)と磁性粉(b)とを含有する成型および塗布用樹脂組成物であって、
該芳香族ポリエステル(a)100重量部に対して、該磁性粉(b)を10〜500重量部含有する成型および塗布用樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、前記芳香族ポリエステル(a)100重量部に対して、高誘電率材料粉末(c)を1〜100重量部含有する請求の範囲第1項に記載の成型および塗布用樹脂組成物。
【請求項3】
前記芳香族ポリエステル(a)として、テレフタル酸および/またはイソフタル酸を含有する酸成分と、エチレングリコール(EG)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)、ネオペンチルグリコール(NPG)および1,4−ブタンジオール(1,4−BD)からなる群より選択される少なくとも1種を含有する水酸基成分と、を反応させて得られるポリエステルを含有する請求の範囲第1項または第2項に記載の成型および塗布用樹脂組成物。
【請求項4】
前記芳香族ポリエステル(a)として、テレフタル酸およびイソフタル酸を含有する酸成分と、エチレングリコールおよびネオペンチルグリコールを含有する水酸基成分と、を反応させて得られるポリエステルAと、
テレフタル酸およびイソフタル酸を含有する酸成分と、1,4−ブタンジオールおよびポリテトラメチレンエーテルグリコールを含有する水酸基成分と、を反応させて得られるポリエステルBと
を含有する請求の範囲第1項〜第3項のいずれかに記載の成型および塗布用樹脂組成物。
【請求項5】
前記芳香族ポリエステル(a)として、さらに、テレフタル酸とイソフタル酸とセバシン酸とを含有する酸成分と、1,4−ブタンジオールを含有する水酸基成分と、を反応させて得られるポリエステルCを含有する請求の範囲第4項に記載の成型および塗布用樹脂組成物。
【請求項6】
前記芳香族ポリエステル(a)として、さらに、テレフタル酸とイソフタル酸とε−カプロラクトンとを含有する酸成分と、1,4−ブタンジオールを含有する水酸基成分と、を反応させて得られるポリエステルDを含有する請求の範囲第4項または第5項に記載の成型および塗布用樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリエステルBの溶融指数(MI)が、200℃において10以上である請求の範囲第4項〜第6項のいずれかに記載の成型および塗布用樹脂組成物。
【請求項8】
前記芳香族ポリエステル(a)が、該芳香族ポリエステル(a)の総重量に対して、前記ポリエステルAを10〜50重量%、前記ポリエステルBを10〜50重量%、前記ポリエステルCを0〜30重量%、前記ポリエステルDを0〜30重量%含有してなる請求の範囲第4項〜第7項のいずれかに記載の成型および塗布用樹脂組成物。
【請求項9】
請求の範囲第1項〜第8項のいずれかに記載の成型および塗布用樹脂組成物を用いて形成されるノイズ抑制材。
【請求項10】
請求の範囲第1項に記載の成型および塗布用樹脂組成物を用いて形成されるノイズ抑制材の製造方法であって、前記成型および塗布用樹脂組成物を溶融する溶融工程と、該溶融工程後の溶融した成型および塗布用樹脂組成物を5MPa未満の圧力で吐出成型または塗布する吐出成型・塗布工程とを具備するノイズ抑制材の製造方法。
【請求項11】
請求の範囲第1項に記載の成型および塗布用樹脂組成物を用いて形成されるノイズ抑制材を信号線もしくは電源線のノイズ抑制に使用するノイズ抑制材の使用方法であって、前記成型および塗布用樹脂組成物を溶融させた後、溶融した成型および塗布用樹脂組成物を信号線もしくは電源線に5MPa未満の圧力で吐出成型または塗布するノイズ抑制材の使用方法。
【請求項12】
前記信号線もしくは電源線が、電子回路を構成するプリント基板上にある請求の範囲第11項に記載のノイズ抑制材の使用方法。
【請求項13】
請求の範囲第1項に記載の成型および塗布用樹脂組成物を用いて形成されるノイズ抑制材を集積回路のノイズ抑制に使用するノイズ抑制材の使用方法であって、前記成型および塗布用樹脂組成物を溶融させた後、溶融した成型および塗布用樹脂組成物を、集積回路に塗布するノイズ抑制材の使用方法。
【請求項14】
請求の範囲第1項に記載の成型および塗布用樹脂組成物を用いて形成されるノイズ抑制材をプリント基板とケースとで構成される電子装置のノイズ抑制に使用するノイズ抑制材の使用方法であって、前記成型および塗布用樹脂組成物を溶融させた後、溶融した成型および塗布用樹脂組成物を、プリント基板とケースとで構成される電子装置の内部に充填するノイズ抑制材の使用方法。

【国際公開番号】WO2004/092268
【国際公開日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【発行日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505424(P2005−505424)
【国際出願番号】PCT/JP2004/005305
【国際出願日】平成16年4月14日(2004.4.14)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】