説明

成型加工後の樹脂密着性に優れたキャップ成型用アルミニウム板及びその製造方法

【課題】 顔料を多く含む非常に厳しい加工を受け耐レトルト性も要求されるアルミニウム製キャップ塗膜の加工後塗膜密着性を高める。
【解決手段】 厚さ200nm以下かつ表面のC量が50mg/m以下かつ最表面から酸化皮膜/アルミ界面までの深さ方向での最大濃度がMg:5mass%以下、H:10mass%以下のAlおよびOを主成分とする酸化皮膜の上に、重量平均分子量1000につき1個以上のカルボキシル基を含有するアクリル酸化合物の重合体を5mg/m以上5000mg/m以下の付着量にて設け、その上に重量平均分子量500につき1個以上のカルボキシル基を含有し、かつ重量平均分子量が1000以上100万以下であるアクリル酸化合物の重合体を5mg/m以上5000mg/m以下の付着量にて設けた下地上に乾燥重量に対し5mass%以上の顔料を含有する塗膜を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも片面に、顔料を含有する樹脂塗料を塗装したアルミニウム板に関し、特にプレス成形などの成形加工後において樹脂密着性に優れたキャップ成型用アルミニウム板に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム板またはアルミニウム合金板(以下、アルミニウム板と呼称する)は、軽量で適度な機械的特性を有し、かつ美感、成形加工性、耐食性等に優れた特徴を有しているため、各種容器類、構造材、機械部品等に広く使われている。
【0003】
上記用途のアルミニウム板は、耐食性・耐溶出性のさらなる向上、外観の向上およびキズつき防止等のため、その表面に樹脂塗料の塗装および樹脂フィルムのラミネート加工が施されることが多い。このときアルミニウム板には、樹脂密着性ならびに耐食性を向上させるため、既存技術に基づいた下地処理(例えばリン酸クロメート、クロム酸クロメートおよびリン酸ジルコニウム等の化成型下地処理)が施されるのが一般的である。アルミニウム製キャップの場合、材料のアルミニウム板に下地処理および樹脂被覆を施してから成型加工する、いわゆるプレコート材料が多く用いられている。
【0004】
キャップ成型用プレコートアルミニウム合金板に対しては、成型加工しても樹脂の剥離が生じないための樹脂密着性や、腐食雰囲気に侵されない耐食性、ならびに高度な成型に耐えうる加工性が要求される。こうした要求に対し、特に塗膜密着性向上の立場から、広範な分野においてさまざまな提案がなされている。特に下地処理方法においては、従来技術に基づく化成型下地処理に加え、その上に密着性を向上させる有機物を設けた後、それらの上に樹脂を設ける方法が提案されている。例えば特許文献1は、アルミニウム板にリン酸クロメート処理を施した後、特定のフェノール重合体を含む溶液中で処理するか、またはアルミニウム板にリン酸クロメート処理を施し、次いでシラン処理を施して表面処理アルミニウム板を作成し、これに熱可塑性樹脂を被覆して樹脂被覆アルミニウム板とし、絞りしごき加工を施してコンデンサー外装用容器に成形する方法を提案している。また特許文献2は、アルミニウム製缶材料において、少なくともアルミニウム基体の容器内面側の表面に無機物を主体とする表面処理層、その上に水性フェノール樹脂を主体とする有機表面処理層、及び更にその上にポリエステル系樹脂被覆層の多層構造を有することを特徴とするアルミニウム製缶材料を提供している。
【0005】
また近年、環境意識の高まりから、製品および製造プロセスにおける重金属化合物の低減および削減の必要性が叫ばれている。こうした観点から、アルミニウム板表面に対する化成型下地処理を実施せず、アルミニウム酸化皮膜自体に塗膜密着性を付与する方法も提案されている。例えば特許文献3では、アルミニウム板表面に、厚さ=1〜200nmで、かつ最表面〜酸化皮膜/アルミ界面までの深さ方向での最大濃度がMgで5mass%以下、Hで10mass%以下、かつ最表面のC量が50mass%以下のAlおよびOを主成分とする酸化皮膜を設け、その上に樹脂皮膜を塗装する缶蓋用アルミニウム材が提案されている。
【特許文献1】特開2001−303273号公報
【特許文献2】特開2001−121648号公報
【特許文献3】特許第3850253号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のような従来技術には、以下のような問題があった。
すなわち、ボトル缶を始めとする再密閉可能な容器に用いられるアルミニウム製キャップは、深絞り成型、スクリュー成型、更にはピルファープルーフ化に伴うミシン目加工など、特許文献1の対象であるコンデンサーケースや、特許文献2および3の対象であるアルミニウム缶と比べ、非常に厳しい加工を受ける。加えて、外観・意匠上の要求から、樹脂塗膜に顔料を添加することも多くなり、塗膜密着性に不利な状況になっている。さらに近年は、ボトル缶がホット飲料に採用されるようになったため、キャップの樹脂塗膜に耐レトルト性をも要求されるようになった。
こうした条件に対し、特許文献1、2および3のような技術では、厳しい加工を受けた後の樹脂密着性が不足するため、レトルト後の塗膜剥離のような問題が発生していた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、地球環境への負荷を軽減しつつ、顔料および染料を含有した塗料における加工後塗膜密着性を高めるためには、アルミニウム板の表面において、特定の組成を有したアルミニウム酸化皮膜の上に、重合単位あたり1個以上のカルボキシル基を含有するアクリル酸化合物の重合体を5mg/m以上5000mg/m以下の付着量にて設けることが極めて有効であることを見出した。
【0008】
すなわち請求項1の発明は、乾燥重量に対し5mass%以上の顔料を含有する塗膜を設けるキャップ成型用アルミニウム板の下地処理において、厚さ200nm以下かつ表面のC量が50mg/m以下かつ最表面から酸化皮膜/アルミ界面までの深さ方向での最大濃度がMg:5mass%以下、H:10mass%以下のAlおよびOを主成分とする酸化皮膜の上に、重量平均分子量1000につき1個以上のカルボキシル基を含有するアクリル酸化合物の重合体を5mg/m以上5000mg/m以下の付着量にて設けることを特徴とする、成型加工後の樹脂密着性に優れたキャップ成型用アルミニウム板である。
【0009】
また請求項2の発明は、冷間圧延後のアルミニウム合金板に対し、浴温度が30℃以上95℃以下かつ、25℃におけるpHが8以上12未満のアルカリ性溶液にて、エッチング量が10mg/m以上となるアルカリ脱脂を行い、途中工程にて95℃を超える水に触れることなく、全炭素含有量が0.5mass%以下の水で最終洗浄した後、重量平均分子量1000につき1個以上のカルボキシル基を含有する水性または溶剤性のアクリル酸化合物の重合体溶液を塗布し、30℃以上300℃以下の雰囲気にて1秒以上600秒乾燥させることを特徴とする、請求項1に記載の成型加工後の樹脂密着性に優れたキャップ成型用アルミニウム板の製造方法である。
【0010】
さらに請求項3の発明は、冷間圧延後のアルミニウム合金板に対し、浴温度が30℃以上95℃以下かつ、25℃におけるpHが8以上のアルカリ性溶液にて、エッチング量が10mg/m以上となるアルカリ脱脂を行い、浴温度が95℃以下かつ、25℃におけるpHが4.0以下かつ、Alイオン濃度、Mgイオン濃度がそれぞれ1mass%以下の酸で酸洗浄を行い、途中工程にて95℃を超える水に触れることなく、全炭素含有量が0.5mass%以下の水で最終洗浄した後、重量平均分子量1000につき1個以上のカルボキシル基を含有する水性または溶剤性のアクリル酸化合物の重合体溶液を塗布し、30℃以上300℃以下の雰囲気にて1秒以上600秒乾燥させることを特徴とする、請求項1に記載の成型加工後の樹脂密着性に優れたキャップ成型用アルミニウム板の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に従って作られたキャップ成型用アルミニウム板は、顔料および染料を含有する塗膜に対し高い密着性および優れた成型加工性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の詳細を順に説明する。
本発明は、大きく分けて二つの要素により構成されている。すなわち、「塗膜密着性に優れたアルミニウム酸化皮膜」と、「上記酸化皮膜と塗膜との間にアクリル樹脂を設けること」である。
【0013】
まず、塗膜密着性に優れたアルミニウム酸化皮膜について説明する。
キャップ成型用アルミニウム材には、機械的強度および加工性を満足させるために、2〜5mass%程度のMgを添加したアルミニウム合金(JIS−5021、5052、5151、5182等)が使われており、これらの材料は、加熱−圧延時にアルミニウム材マトリクス中のMgが表面に偏析濃化することが知られている。発明者らはGDS(グロー放電発光分光分析)、AES(オージェ電子スペクトル)といった解析機器を用い、酸化皮膜の深さ方向の元素分布、いわゆるデプスプロファイルを詳細に調査した。その結果、各元素は酸化皮膜全体に均一に存在するのではなく、また明確な二層を形成しているのでもなく、元素ごとの濃度分布が異なることを確認した。なお、測定対象とした元素は、H,C,O,Mg,Al,Mn,Si,Fe,Zn,CrおよびZrであり、以後、各元素のmass%は、この11元素を母集団として議論するが、これらはアルミニウム材表面のほとんど全てを網羅していると考えられるため、議論の一般性を何ら損なうものではない。また、その深さ方向の測定精度は1nmの精度が十分に保証されるものである。
【0014】
Mgは酸化皮膜全体に均一に存在するわけではなく、最表面よりやや深い部位が最も濃化した濃度勾配を有して分布していた。この時、最表面〜酸化皮膜/アルミ界面までの深さ方向でのMgの最大濃度が5mass%以下となるよう調製した酸化皮膜は、キャップ用塗料樹脂とアルミニウム材の塗膜密着性、特に、板厚減少を伴う強加工後の塗膜密着性が十分高いのに対し、最大濃度が5mass%を超えていると、加工後の塗膜密着性が著しく低下することを見出した。その理由として、Mg化合物は純粋なアルミ酸化物との親和性に乏しく、Mg化合物/アルミ酸化物の界面から塗膜剥離しやすいためと考えられる。また、Mg化合物は水への溶解度が高いので、多量に存在すると耐食性をも低下させる。そしてそれらの悪影響は、深さ方向でのMgの最大濃度が5mass%を超えた時に顕著に現れる。
【0015】
また、主に水酸化物に由来するH(水素)も、Mgと同様に深さ方向に傾斜構造を有していた。そして、最表面〜酸化皮膜/アルミ界面までの深さ方向での最大濃度が10mass%以下となるよう調製した時、塗料の塗膜とアルミニウム材の加工後の塗膜密着性が十分高いのに対し、最大濃度が10mass%を超えていると、加工後の塗膜密着性が低下することを見出した。その理由として、Hを含む化合物(水酸化Al,水酸化Mg,他)はもろいので、キャップ成型における絞り成型、スクリュー加工ならびにミシン目加工のような強加工を行うと、Hを含む化合物を起点にして酸化皮膜が破壊されるためと考えられる。そしてその悪影響は、Hの最大濃度が10mass%を超えた時に顕著に現れる。
【0016】
さらに、上記酸化皮膜の表面に付着した、主として有機物に由来するC(炭素)も、MgやHとともに規制する必要がある。Cの付着量が50mg/mを超えると、後述するアクリル樹脂の濡れ性を阻害し、ピンホール等の塗布欠陥を誘発する。加えて、酸化膜とアクリル樹脂層との接着力を低下させるため、結果として密着性の低い領域を形成してしまう。
【0017】
なお、上記のMg、HおよびCの効果はいずれも大きいので、その最大濃度は同時に規定されるべきであり、一元素のみを規定しただけでは十分な塗膜密着性を発揮することはできない。
【0018】
また、上記酸化皮膜の厚みは、200nm以下でなければならない。これは、キャップ成型のような厳しい加工を行う場合においては、酸化皮膜に強い応力が加わるため、200nmを超える厚い酸化皮膜は凝集破壊を生じ、塗膜密着性が極端に低下するためである。
【0019】
次に、アルミニウム酸化皮膜の上にアクリル樹脂を設ける効果について説明する。
発明者は、TEM(透過型電子顕微鏡)により塗装板の断面観察を行い、アルミニウム板と塗膜の界面を精査した結果、乾燥重量に対し5mass%以上の顔料を含む塗膜がアルミニウム板表面に直接塗布された場合、顔料の粒子が板表面に直接接触していることを確認した。なお多くの場合、キャップ用塗料における顔料とは、酸化チタン粒子およびシリカ粒子を指す。これらの物質は、アルミニウム酸化皮膜との相互作用をほとんど持たないため、塗膜の密着性に全く寄与しない。そればかりか、酸化皮膜と塗膜樹脂成分との接触面積を横取りする形になるため、むしろ塗膜密着性を減少させる方向に作用する。限られた接触面積を最大限に活用する手段として、酸化皮膜と塗膜との間に、重量平均分子量1000につき1個以上のカルボキシル基を含有するアクリル酸化合物の重合体(以下アクリル樹脂と呼称)を設けることにより、塗膜の樹脂成分とアクリル樹脂とが熱振動等により絡み合って一種の溶融接着層を形成し、結果として酸化皮膜と塗膜樹脂成分との接触面積が増大する。以上の理由により密着性が向上することを発見し、本発明に至ったものである。
【0020】
本発明において、酸化皮膜と塗膜との中間に設ける物質としては、重量平均分子量1000につき1個以上のカルボキシル基を含有するアクリル樹脂が最も適している。これは、アクリル樹脂に含まれるカルボキシル基が、アルミニウム酸化皮膜のAl−O部分と強固に結びつくとともに、樹脂の骨格部が塗膜の樹脂成分と溶融接着層形成効果を発揮するため、アルミニウム酸化皮膜と塗膜の双方に強力に作用するためである。この他、アクリル樹脂は一般的に、屈折率が高く無色であることや、内分泌かく乱性物質(いわゆる環境ホルモン)であることが指摘されるビスフェノールAを含有しないこと等、食品包装用途として好ましい性質を備えている。本発明に対しては、カルボキシル基の含有量の要件を満たす公知のアクリル樹脂をそのまま適用できる。具体的には、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル、ポリヒドロキシアクリル酸、ポリヒドロキシアクリル酸エステルおよびそれらの共重合体などが好適である。加えて、アンモニア、アミン類あるいはアルカリ金属水酸化物等でpH調整した樹脂も、同様に好適に用いることができる。さらに、メラミン系化合物およびユリア系化合物を架橋剤として添加した樹脂も、同様に好適に用いることができる。なお、これらの樹脂の分子量は、重量平均分子量にして1,000以上1,000,000以下のものが、特に好適に用いられる。これは、重量平均分子量が1,000を下回ると、樹脂自体の水溶性が高まり、レトルト処理等におけるアクリル樹脂層の溶出が懸念されるためであり、1,000,000を上回ると、粘度が増大することによる塗装ムラ等が生じやすいためである。
【0021】
本発明において、上記のアクリル樹脂を設ける量は、5mg/m以上5000mg/m以下であることが必須である。これは、アクリル樹脂の量が5mg/mを下回ると、上述の熱振動等による接触面積増大効果が不足し、塗膜密着性が確保できないためである。また5000mg/mを上回ると、アクリル樹脂層の残留応力が大きくなり、強い加工を行った際にアクリル樹脂層の凝集破壊を招くためである。
【0022】
このようにして得られたキャップ成型用アルミニウム板は、乾燥重量に対し5mass%以上の顔料を含む塗膜との加工密着性を発揮する。この場合において顔料とは、多くの場合において酸化チタン粒子または/およびシリカ粒子であり、その発色効果ならびに下地色隠蔽効果を発揮するためには、5mass%以上の配合量とすることがほとんど必須である。また、塗膜の本体をなす樹脂には、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂および塩化ビニル系樹脂等、一般的に塗料に用いられる樹脂をそのまま用いることができる。また、顔料を含む塗料は、水溶性であっても溶剤性であってもよい。さらに本発明は、顔料を含む塗膜とアルミニウムの加工密着性を向上させるものであるから、顔料を含む塗膜の上に色彩付与を目的として各種インキ層を設けてもよく、さらにトップコートとして各種仕上げクリアー塗膜を設けてもよい。
【0023】
ところで、請求項1に言及された酸化皮膜を得るためには、一例として、浴温度が30℃以上95℃以下かつ、25℃におけるpHが8以上12未満のアルカリ性溶液にて、エッチング量が10mg/m以上のアルカリ脱脂を行う方法を挙げることができる。従来、アルミニウム板表面に濃縮したMgは、アルカリエッチングによっては除去されないとされてきたが、浴温度が30℃以上95℃以下かつ、25℃におけるpHが8以上12未満かつエッチング量が10mg/m以上である場合に限り、表面Mgが除去され、かつ水酸化物の生成が抑制されることが判明した。アルカリ浴温度が30℃を下回ると、エッチング速度が低下するため生産性に悪影響を及ぼし、95℃を超えると、高温の水分によりベーマイト様の水酸化物が急速に形成されるほか、酸化皮膜厚も増大しやすい。25℃における液のpHが8を下回ると、アルミニウムのエッチングが進行せず、また12以上になると、表面Mgが減少するばかりか却って濃化する。エッチング量が10mg/mを下回ると、表面のMgが十分に除去されず、また均質な酸化皮膜も形成されにくい。また、エッチング量が多い場合、酸化皮膜の性能への影響はないものの、200mg/mを超えるとアルミニウム板厚の精度に悪影響を及ぼすほか、スラッジが増加して表面品質を損なう場合があるので、200mg/m以下とするのがより好ましい。
【0024】
また、上記方法のほか、浴温度が30℃以上95℃以下かつ、25℃におけるpHが8以上のアルカリ性溶液にて、エッチング量が10mg/m以上となるアルカリ脱脂を行い、次に浴温度が95℃以下かつ、25℃におけるpHが4.0以下かつ、Alイオン濃度、Mgイオン濃度がそれぞれ1mass%以下の酸で酸洗浄を行う方法を用いても良い。アルカリ浴温度が30℃を下回ると、エッチング速度が低下するため生産性に悪影響を及ぼし、95℃を超えると、高温の水分によりベーマイト様の水酸化物が急速に形成されるほか、酸化皮膜厚も増大しやすい。アルカリ脱脂によるエッチング量が10mg/mでは、表面のMgが十分に除去されず、また均質な酸化皮膜が形成されない。エッチング量が多い場合、酸化皮膜の性能への影響はないものの、200mg/mを超えるとアルミニウム板厚の精度に悪影響を及ぼすほか、スラッジが増加して表面品質を損なう場合があるので、200mg/m以下とするのがより好ましい。また、酸洗浄がMgの低減に寄与することは公知であるが、95℃を超えると、高温の水分によりベーマイト様の水酸化物が急速に形成されるほか、酸化皮膜厚も増大しやすい。浴温度の下限に特に制限はないものの、実用的には30℃以上が好ましく、特に50℃前後がさらに好ましい。また、pHが4.0を超えると、表面Mgの除去効果が半減する。さらに本発明の特徴である酸化皮膜中のMgおよびH濃度の規定にあたって、酸洗浴中のAlイオン濃度が1mass%を超えると表面に水酸化Al等が残存するのでHが、Mgイオン濃度が1mass%を超えると表面にMg化合物が析出するのでMgが、それぞれ酸化皮膜中に濃縮するので好ましくない。
【0025】
そして、アルカリ脱脂後ならびにアルカリ脱脂・酸洗後に行う水洗工程においては、95℃を超える水に触れてはならない。これは、95℃を超える水に接触することにより、ベーマイト様の水酸化物が急速に形成されるほか、酸化皮膜厚も増大しやすいためである。さらに、その最終段階の水洗においては、全炭素含有量が0.5mass%以下の水を用いなければならない。これは、炭素含有量が0.5mass%を超える水にて最終洗浄を行うと、アルミニウム酸化皮膜の表面にCが残存し、カルボキシル基含有アクリル樹脂の密着の妨げになるためである。
【0026】
このようにして得られたアルミニウム表面に対し、適当な濃度に調製した水性または溶剤性のカルボキシル基含有アクリル樹脂溶液を塗布し乾燥させることにより、請求項1のキャップ成型用アルミニウム板を得ることができる。この際、乾燥温度が30℃を下回ると、水または溶剤の揮発速度が遅いため、生産性に悪影響を及ぼし、また乾燥温度が300℃を上回ると、温度維持のためのエネルギーが無駄になる他、特に水溶性アクリル樹脂を用いた場合に酸化皮膜が成長する場合があり、いずれも好ましくない。乾燥時間が1秒を下回る条件設定では、水または溶剤の揮発が十分に行われず、また600秒を上回ると生産性に悪影響を及ぼし、いずれも好ましくない。なお、アクリル樹脂溶液の塗布方法については特に制限はなく、板を溶液に浸漬した後ロールで絞る方法や、コーターロールにより板に塗りつける方法、およびスプレーにより板に吹き付ける方法等を用いることができる。中でも、アクリル樹脂の付着量が5mg/m以上5000mg/m以下となるように制御するためには、コーターロールを用いた方法が特に好ましい。なお、アクリル樹脂の付着量を測定するためには、付着量の狙い値が約500mg/m以下の場合は反射赤外吸収スペクトル測定法、それ以上の場合は重量法を用いることができる。
【実施例1】
【0027】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明する。
アルミニウム合金材料として、板厚0.25mmのJIS5151−H39合金板を使用した。またアルカリ脱脂浴として、市販のアルカリ脱脂剤「EC−370(日本ペイント)」を使用した。使用条件は、濃度1.0%、スプレー圧1.5kgf/cm、浴のpHは気体の二酸化炭素を吹き込むことにより調整した。浴の温度および25℃におけるpHの数値は、表1に記載したとおりである。また、エッチング量はスプレー時間により表1のとおり調整した。また実施例9〜16および比較例7〜13は、上記アルカリ脱脂の実施後、1%硫酸による酸洗浄(5秒間浸漬)を実施した。酸洗浄の温度および浴組成は、表1に示したとおりである。
【0028】
【表1】

【0029】
これらのアルカリ脱脂またはアルカリ脱脂・酸洗浄の後、中間水洗および最終水洗を、それぞれスプレー圧1.5kgf/cmにて5秒ずつ実施した。水洗の温度および水質は、表1に示したとおりである。
アクリル樹脂は、水溶性アクリル樹脂(重量平均分子量20000、カルボキシル基含有量=3.5個/1000重量平均分子量)、溶剤性アクリル樹脂1(重量平均分子量50000、カルボキシル基含有量=1.3個/1000重量平均分子量)および溶剤性アクリル樹脂2(重量平均分子量65000、カルボキシル基含有量=0個/1000重量平均分子量)を用いた。アルミ板への塗布はロールコーターにより実施し、所定の雰囲気温度および風速10m/秒に設定した乾燥炉に、所定の時間投入した。アクリル樹脂塗布条件は、表2に示したとおりである。
【0030】
【表2】

【0031】
上記のサンプルの酸化皮膜組成を調査するため、GDS(グロー放電発光分光分析)による表面分析を実施した。装置は堀場製作所製JY−5000RFを使用し、定量分析モードにて、酸化皮膜の厚み、Mgの最大濃度およびHの最大濃度を測定した。測定結果を表3に示す。
また、アクリル樹脂の塗布量は、実施例4,6,8,11,12,15,16および比較例5は重量法により、それ以外は反射赤外吸収スペクトルの検量線により、それぞれ求めた。測定結果を表3に示す。
【0032】
【表3】

【0033】
このようにして得られたサンプルに対し、以下の上塗りを実施した。
(顔料を含む塗料の塗布)
サンプル両面に対し、市販のキャップ用溶剤型塗料「ホワイトコーチング」(酸化チタン顔料含有,含有量=6.3mass%,ポリエステル系樹脂,塗膜量13g/m狙い,焼付温度=190℃,焼付時間=600秒)を両面に塗布し、塗装サンプルとした。
【0034】
このようにして得られたサンプルに対し、以下の評価を実施した。
(加工後の樹脂密着性評価)
上記の塗装サンプルの両面に、市販のシリコン系潤滑剤を50mg/mずつ塗布し、キャップ成型機により絞り成型加工(キャップ径=38mm、キャップ高さ=18mm)を行った後、ミシン目加工・スクリュー加工の順に行った。得られたキャップに対し、ミシン目部、キャップ下端およびビード部の塗膜剥離状態を、成型直後/レトルト後(125℃×30分)にて目視観察した。ミシン目部、キャップ下端およびビード部の全長に対する剥離発生部位の長さを%単位で記録し、全てにおいて10%以下のものを合格とした。
【0035】
表4から明らかなように、実施例1〜16は、本発明要件を満たし、強加工を行ったときの酸化チタン顔料含有塗料に対する密着性が高いため、キャップ成型試験において、成型直後/レトルト後とも良好な結果を示した。
【0036】
一方、比較例1〜13は、本発明の要件を満たしていないため、強加工を行った場合における酸化チタン含有塗料に対する密着性が低く、特にレトルト実施後に塗膜剥離が目立つ結果となった。具体的には、比較例1は、アクリル樹脂を設けていないため、ホワイトコーチング層に対する密着性が不足している。比較例2はアルカリ脱脂の温度が低すぎるため表面Mgが除去されず、比較例3は逆に温度が高すぎるため水酸化物が過剰に生成し、加工密着性が劣っている。比較例4はアクリル樹脂の量が不足したため密着性が発揮されず、また比較例5はアクリル樹脂の量が多すぎるため、樹脂層の凝集破壊が発生している。比較例6は、アクリル樹脂におけるカルボキシル基が不足しているため、密着性が発揮されない。比較例7、10および12は、酸化皮膜中のMgが多すぎ、また比較例11は、酸化皮膜中のHが多すぎ、比較例8は、酸化皮膜中のMgとHがともに多すぎ、いずれも塗膜密着性が不足している。比較例3および9は、酸化皮膜中のHが多いと共に、厚みが本発明の規定を上回っており、やはり塗膜密着性が劣る。比較例13は、酸化皮膜中のHが多く、厚みが本発明の規定を満たさない上に、表面にCが多量に付着しているため、塗膜密着性が不足する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥重量に対し5mass%以上の顔料を含有する塗膜を設けるキャップ成型用アルミニウム板の下地処理において、厚さ200nm以下かつ表面のC量が50mg/m以下かつ最表面から酸化皮膜/アルミ界面までの深さ方向での最大濃度がMg:5mass%以下、H:10mass%以下のAlおよびOを主成分とする酸化皮膜の上に、重量平均分子量1000につき1個以上のカルボキシル基を含有するアクリル酸化合物の重合体を5mg/m以上5000mg/m以下の付着量にて設けることを特徴とする、成型加工後の樹脂密着性に優れたキャップ成型用アルミニウム板。
【請求項2】
冷間圧延後のアルミニウム合金板に対し、浴温度が30℃以上95℃以下かつ、25℃におけるpHが8以上12未満のアルカリ性溶液にて、エッチング量が10mg/m以上となるアルカリ脱脂を行い、途中工程にて95℃を超える水に触れることなく、全有機炭素含有量が0.5mass%以下の水で最終洗浄した後、重量平均分子量1000につき1個以上のカルボキシル基を含有する水性または溶剤性のアクリル酸化合物の重合体溶液を塗布し、30℃以上300℃以下の雰囲気にて1秒以上600秒以下乾燥させることを特徴とする、請求項1に記載の成型加工後の樹脂密着性に優れたキャップ成型用アルミニウム板の製造方法。
【請求項3】
冷間圧延後のアルミニウム合金板に対し、浴温度が30℃以上95℃以下かつ、25℃におけるpHが8以上のアルカリ性溶液にて、エッチング量が10mg/m以上となるアルカリ脱脂を行い、浴温度が95℃以下かつ、25℃におけるpHが4.0以下かつ、Alイオン濃度、Mgイオン濃度がそれぞれ1mass%以下の酸で酸洗浄を行い、途中工程にて95℃を超える水に触れることなく、全有機炭素含有量が0.5mass%以下の水で最終洗浄した後、重量平均分子量1000につき1個以上のカルボキシル基を含有する水性または溶剤性のアクリル酸化合物の重合体溶液を塗布し、30℃以上300℃以下の雰囲気にて1秒以上600秒以下乾燥させることを特徴とする、請求項1に記載の成型加工後の樹脂密着性に優れたキャップ成型用アルミニウム板の製造方法。

【公開番号】特開2008−127625(P2008−127625A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−313681(P2006−313681)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】