説明

成型加飾材用ポリエステルフィルム

【課題】
成型時にフィルムの破断や白化、印刷のずれが発生せず、かつ深絞りや複雑な形状でも成型が可能であり、さらに、外観や生産性に優れた成型加飾材用ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】
エチレンテレフタレート単位またはエチレンナフタレート単位を主たる構成成分とする融点が245℃〜270℃であるポリエステル層Aが、単層もしくは複合層構成を有する基材ポリエステルフィルムの少なくとも片側最外層に設けられており、かつ、該ポリエステル層A側表面における面配向係数が0.120〜0.160で、該基材ポリエステルフィルムの全方位での引張り強さが150MPa以上、全方位での超音波伝導速度の最大値と最小値の比率(最大値/最小値)が1.0〜1.4であることを特徴とする成型加飾材用ポリエステルフィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成型加飾材用ポリエステルフィルムに関するものであり、特に、射出成型と同時にその表面に加飾を行うインサート成型およびインモールド転写時における成型性に優れた、成型加飾材用のポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
家庭用電化製品、自動車用製品、住宅建材製品、グラフィック製品、セキュリティー製品および安全表示関係製品などに使用されるプラスチック製品や金属部品などは、その意匠性の多様化が進み、複雑な立体形状をしており、かつ従来とは比べ物にならないほどに表面に精密な図柄が施されたものが用いられるようになってきている。これらのプラスチック製品や金属部品などに加飾を施す方法としては、あらかじめフィルムに図柄の印刷を施しておき、樹脂や紙、金属などの基体と貼り合わせた後に成型を行う方法や、樹脂の成型と同時に加飾を行う方法がある。成型同時加飾方法としては、具体的にはインモールド転写、真空プレス転写、あるいはインサート成型などが挙げられる。インモールド転写法は、加飾用転写材を形成する金型に予め位置決めをしておき、その後射出成型器により金型内に樹脂を圧入して、成型と同時に転写材の図柄を絵付けする方法である。また、真空プレス転写法は、加飾用転写材を成型品に対向させ、転写材と成型品間の空気を減圧することにより転写材を成型品表面に接触させ、加圧加熱することにより転写材の図柄を絵付けする方法である。また、インサート成型法としては、基材シートと図柄層とからとから構成された加飾シートを射出成型用の金型内にセットし、樹脂成型品を成型するのと同時にその表面に加飾シートを一体化接着することにより、図柄を絵付けする方法である。
【0003】
これらの成型同時加飾方法に用いられる成型加飾材用の基材フィルムとしては、ポリ塩化ビニルフィルムやポリオレフィンフィルムが成型性の観点から好適に用いられるが、ポリ塩化ビニルフィルムにおいては、使用する可塑剤による諸特性の悪化、耐熱性や耐薬品性などの不足、あるいは焼却時の有毒ガス発生などの問題がある。また、ポリオレフィンフィルムにおいては、耐熱性や白化などの点が問題である。一方、ポリエステルフィルムにおいては、成型性は劣っているが、耐熱性、耐薬品性および外観の点が特に優れており、ポリエステルフィルムに成型性が付与できれば、成型加飾材用フィルムとして好適に使用することが可能となる。
【0004】
従来の技術としては、ポリエステルフィルムの成型性を改善する目的で、共重合物を添加して柔軟性を高める方法(特許文献1、特許文献2および特許文献3参照)、面配向係数を規定した基材フィルムも用いる方法(特許文献1および特許文献4参照)、および未延伸フィルムを用いる方法(特許文献5参照)などが提案されている。しかしながら、成型性に良い共重合物を添加する方法を用いた場合、ポリエステル樹脂の融点が低下するため、成型用フィルムの表面が高温の金型と接触する部分でフィルム表面が白化し、外観が著しく劣る問題がある。また、特許文献1に示されるような低配向フィルム、特許文献5に示される未延伸フィルム、あるいは特許文献2に示されるような低剛性フィルムを用いた場合は、フィルムの強度が不足するため、加飾用フィルムを製造する工程で、印刷のピッチずれなどの問題が発生したり、また絞り加工時等においてフィルム破断が発生する等の問題がある。
【0005】
一方、破れ防止のために、特許文献4に示されるような範囲にフィルムの強伸度や配向度を制御した場合は、逆に深絞り時の成型性が悪化する等の問題がある。このように、深絞り時にフィルムの破断が無くかつ金型形状に沿って成型することが出来、さらに耐熱性にも優れた、生産性の良い成型加飾材用フィルムは未だ存在しておらず、改良が求められている。
【特許文献1】特開平 09−300892号公報
【特許文献2】特開昭 64−040400号公報
【特許文献3】特開平 06−210799号公報
【特許文献4】特開2002−036796号公報
【特許文献5】特開平 09−123694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点に着目し、成型時にフィルムの破断や白化、印刷のずれが発生せず、かつ深絞りや複雑な形状でも成型が可能であり、さらに、外観や生産性に優れた成型加飾材用ポリエステルフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を対用するものである。すなわち、本発明の成型加飾材用ポリエステルフィルムは、エチレンテレフタレート単位または/およびエチレンナフタレート単位を主たる構成成分とする融点が245℃〜270℃であるポリエステル層Aが、単層もしくは複合層構成を有する基材ポリエステルフィルムの少なくとも片側最外層に設けられており、かつ、該ポリエステル層A側表面における面配向係数が0.120〜0.160で、該基材ポリエステルフィルムの全方位での引張り強さが150MPa以上、全方位での超音波伝導速度の最大値と最小値の比率(最大値/最小値)が1.0〜1.4であることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の成型加飾材用ポリエステルフィルムの好ましい態様によれば、前記の基材ポリエステルフィルムは、エチレンテレフタレート単位または/およびエチレンナフタレート単位を主たる構成成分とするポリエステル層Bを有する複合層フィルムであり、該ポリエステル層Bの融点がポリエステル層Aの融点よりも低いことである。
【0009】
本発明の成型加飾材用ポリエステルフィルムの好ましい態様によれば、前記のポリエステル層Bは、共重合成分として、イソフタル酸、ブタンジオールおよびシクロヘキサンジメタノールのうち少なくとも1成分を含有するものである。
【0010】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の成型加飾材用ポリエステルフィルムは、少なくとも片側表面での粗さ(SRa)が15nm以下で、かつ最大山高さ(SRmax)が800nm以下である。
【0011】
本発明の成型加飾材用ポリエステルフィルムの好ましい態様によれば、前記の基材ポリエステルフィルムの少なくとも片側表面上に帯電防止処理層が設けられており、該帯電防止処理層の温度25℃、相対湿度65%における表面比抵抗値(R1)は1012Ω/□以下である。
【0012】
本発明の成型加飾材用ポリエステルフィルムの好ましい態様によれば、前記の帯電防止処理層が、チオフェンまたは/およびチオフェン誘導体を含んでおり、また、その帯電防止処理層表面の接触角が80°以上であることである。
【0013】
本発明の成型加飾材用ポリエステルフィルムの好ましい態様によれば、前記の帯電防止処理層中に、ワックス系化合物、長鎖アルキルアクリレート、フッ素アクリレート、シリコーン化合物およびポリオレフィン系化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物が、10重量部〜200重量部含有されている。
【0014】
本発明の成型加飾材用ポリエステルフィルムの好ましい態様によれば、前記の基材ポリエステルフィルムのポリエステル樹脂重合触媒にチタン化合物が使用されており、そして、その基材ポリエステルフィルムが同時2軸延伸フィルムであることである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来技術では同時達成が困難であった、成型時のフィルムの破断や白化、印刷のずれを抑制しつつ、かつ深絞りや複雑な形状においても優れた成型性を有し、さらに、外観や生産性にも優れた成型加飾材用ポリエステルフィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明者らは、前記課題の解決、すなわち絞り時にフィルムの破断や白化、印刷のずれが発生せず、かつ深絞りや複雑な形状でも成型が可能であり、さらに、外観や生産性に優れた成型加飾材用ポリエステルフィルムについて鋭意検討した結果、特定の構成を有するポリエステルフィルムを、特定の配向状態、引張り強さに制御することにより、かかる課題を一挙に解決することができることを見出し究明したものである。
【0017】
本発明の成型加飾材用ポリエステルフィルムは、エチレンテレフタレート単位またはエチレンナフタレート単位を主たる構成成分とする融点245℃〜270℃であるポリエステル層Aを基材ポリエステルフィルムの少なくとも片面最外層に設けた構成を有するものである。ポリエステル層Aの融点が245℃未満である場合は、加熱成型時に高温の金型と接触する部分でフィルムが白化する等の問題が発生し、また、融点が270℃より高い場合は、生産性が劣る。ポリエステル層Aの融点は、好ましくは250℃〜265℃であり、さらに好ましくは255℃〜265℃である。また、ポリエステル層Aは、成型時の白化を抑制し易いという点で、成型時に金型と接触する側に設けることが好ましい。
【0018】
本発明の成型加飾材用ポリエステルフィルムにおいて、基材ポリエステルフィルムは単層構成でも複合層構成でも良いが、複合層構成とした方が表面粗さの制御や成型性の改善が容易ある。成型性の観点から、本発明で用いられる基材ポリエステルフィルムは、ポリエステル層Aよりも融点が低いポリエステル層Bを有することが好ましく、その構成としては、少なくともポリエステル層Aを片側最外層としたA/Bの2層、あるいはA/B/Aの3層構成が好ましい例として挙げられるが、目的に応じて3種以上のポリエステル層を3層以上に積層してもよい。ポリエステル層Bの融点がポリエステル層Aより高い場合は、成型性が悪化するため好ましくない。また、ポリエステル層Bの融点は、好ましくは180〜255℃であり、さらに好ましくは200℃〜245℃である。
【0019】
本発明の成型加飾材用ポリエステルフィルムの厚さは特に限定されないが、取り扱い性および成型性の観点から3〜500μmが好ましく、より好ましくは10〜250μmであり、特に好ましくは20〜100μmである。フィルムの厚さが薄すぎると、工程中での取り扱い性が悪くなったり、成型時に破れることがある。また、フィルムの厚さが厚すぎると、成型しにくくなる場合がある。本発明の成型加飾材用ポリエステルフィルムにおいて基材ポリエステルフィルムが複合層構成である場合、ポリエステル層Aの厚さ(ポリエステル層Aが基材ポリエステルフィルム中に複数層存在する場合はそれらの総和)がポリエステルフィルム全体の厚さの5〜95%であることが好ましく、より好ましくは5〜50%であり、特に好ましくは5〜30%である。また、ポリエステル層Aの厚さは、1μm以上であることが好ましく、より好ましくは2μm以上である。ポリエステル層Aの厚み比率が低いと成型性が良くなる傾向がある。しかしながら、ポリエステル層Aが薄すぎると、A層中に含有される易滑粒子が脱落することがあったり、成型時に白化しやすくなる傾向がある。
【0020】
本発明の成型加飾材用ポリエステルフィルムの基材ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂としては、エステル結合の点からエチレンテレフタレートおよび/またはエチレンナフタレート単位を主構成成分とするものが好ましく、耐熱性と製膜性の点から、ポリエステルの融点が245℃以上270℃以下であることが好ましい。本発明の成型加飾材ポリエステルフィルムにおいて、成型性を向上する目的やポリエステル樹脂の融点を調整する目的で、上記した好ましいポリエステル主構成成分以外に、種々の共重合成分を用いることができる。
【0021】
その場合の酸成分として、例えば、テレフタル酸,イソフタル酸,フタル酸,ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸,アジピン酸,アゼライン酸,セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸,シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸、p-オキシ安息香酸等のオキシカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の多官能酸等を用いることができる。
【0022】
一方、グリコール成分としては、例えば、エチレングリコール,ジエチレングリコール,ブタンジオール,ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環族ジオール、ビスフェノールA、ビスフェノールS等の芳香族グリコール、ジエチレングリコール、ポリアルキレングリコール等を用いることができる。さらに、ポリエチレングリコールやポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルを共重合してもよい。
【0023】
これらのジカルボン酸成分とグリコール成分は2種類以上を併用してもよく、2種類以上のポリエステルをブレンドして使用してもよい。
【0024】
基材ポリエステルフィルムのポリエステル層Bを構成するポリエステル樹脂としては、成型性の観点から、イソフタル酸、ブタンジオールおよびシクロヘキサンジメタノールのうち少なくとも1成分を含有することが好ましい。また、これらの共重合成分は2種類以上を併用してもよく、特に1,4−ブタンジオールと1,4−シクロヘキサンジメタノールを併用したものが好ましい。
【0025】
また、ポリエステル層Bに近接するポリエステル層A、あるいは、ポリエステル層A以外のポリエステル層においては、ポリエステル層Bとの界面による剥離を防止するために、ポリエステル層Bに含まれる共重合成分と同成分を、ポリエステル層B中に含まれる量の0.01〜0.1倍程度含有することが好ましい。共重合成分については、例えば、ポリエステルフィルムを1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノールの水素原子を重水素化した溶媒に溶かし、核磁気共鳴法(NMR)にて測定されたピークを分析することにより、共重合成分と共重合率の同定が可能である。
【0026】
上記ポリエステル樹脂の重縮合反応に使用する触媒としては、例えば、アンチモン化合物、チタン化合物、ゲルマニウム化合物およびマンガン化合物などが好ましく挙げられる。これら触媒は単独で、あるいは組み合わせで用いることができる。これらの触媒のうち、チタン化合物やゲルマニウム化合物が金属触媒凝集物を生成しにくいため好ましく、コストの観点からチタン化合物が好ましい。チタン化合物としては、具体的には、チタンテトラブトキシドやチタンテトライソプロポキシド等のチタンアルコキシド、二酸化チタン二酸化ケイ素複合酸化物等の主たる金属元素がチタンおよびケイ素からなる複合酸化物やチタン錯体等を使用することができる。また、アコーディス社製チタン・ケイ素複合酸化物(商品名:C−94)等の超微粒子酸化チタンを使用することもできる。
【0027】
上記で述べたようなポリエステル系樹脂の極限粘度(25℃のオルソクロロフェノール中で測定)は、0.40〜1.20dl/gが好ましく、より好ましくは0.50〜0.80dl/gであり、さらに好ましくは0.55〜0.75dl/gである。
【0028】
さらに、基材となるポリエステルフィルムのカルボキシル末端基量は25〜60当量/トンが好ましく、さらに好ましくは35〜55当量/トンである。カルボキシル末端基量が25当量/トン未満である場合、帯電防止層と基材ポリエステルフィルムとの密着性が低下する傾向がある。また、カルボキシル末端基量が60当量/tを超えると着色したり、ポリエステルフィルムの製膜性が悪化する傾向がある。また、本発明の効果を損なわない範囲において、基材ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂の中に添加剤、例えば、耐熱安定剤、耐酸化安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、充填剤、帯電防止剤および核剤などを配合してもよい。
【0029】
また、基材ポリエステルフィルムは、フィルムの滑り性や取り扱い性を改善するために、滑剤としてシリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、カオリン、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ゼオライト、酸化チタン、カーボンブラックなどに代表される無機の粒子や、架橋シリコーン樹脂、メラミン樹脂、架橋ポリスチレン樹脂および架橋アクリル樹脂などの有機微粒子を含有することが好ましい。これら滑剤の粒子径は特に限定されないが、通常はコールターカウンター法により測定した平均粒径が0.05〜8.0μmであることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜2.0μmである。また、平均粒径が1.0μm以上の粒子の場合、粒子の比表面積は気体吸着BET法にて250m/g以上の多孔質粒子であると、延伸追従性に優れ周囲に陥没構造を伴いにくい。
【0030】
本発明の成型加飾材用ポリエステルフィルムにおいて、ポリエステル層A側表面の面配向係数は0.120〜0.160であり、好ましくは0.130〜0.155であり、さらに好ましくは0.135〜0.150であり、特に好ましくは0.140〜0.150である。面配向係数が0.160より大きくなると、成型時に破れが発生したり形状追従性が悪化する。面配向係数が0.120より小さくなるとフィルムの強度が不足するために印刷加工時に伸びによる印刷ずれ等が発生したり、フィルムの厚みムラが大きくなる。
【0031】
面配向係数を0.120〜0.160に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、縦延伸条件や横延伸条件を特定の範囲に制御することで達成することが可能となる。通常、面配向係数を下げるためには、延伸倍率を落とす手法が取られるが、単に延伸倍率を落とした場合は、引張り強さが不足したり、フィルムの厚みムラが悪化するため、好ましくない。引張り強さやフィルムの厚みムラを悪化させずに、かつ面配向係数を低下させるためには、例えば、未延伸フィルムを延伸前に、ポリエステル樹脂のガラス転移点温度(Tg)より25℃以上高い温度、好ましくは30℃以上高い温度で、1秒以上好ましくは2秒以上前処理を施した後、長手方向もしくは幅方向に2.5倍〜4.0倍、好ましくは3.0倍〜4.0倍に延伸し、その後最初の延伸方向と直角方向に2.0倍〜3.5倍に延伸する手法が挙げられる。
【0032】
未延伸フィルムに前処理を施すことにより、ポリエステル樹脂の分子鎖が部分的に拘束されるため、厚みムラを悪化させない程度に延伸倍率を上げても分子鎖が伸びきらないため成型性が悪化しない。ポリエステルフィルムの非晶部分の分子鎖が部分的に拘束されていることは、炭素−13固体核磁気共鳴分光法(13C 固体NMR)において、カルボニル炭素原子の緩和時間(T1ρ)により観測することが可能である。カルボニル炭素原子の緩和時間(T1ρ)は非晶成分に由来すると考えられる緩和時間の短い成分と結晶成分に由来する緩和時間の長い成分に分けられるが、例えば、緩和時間の短い成分の緩和時間(T1ρ)は通常の2軸延伸ポリエステルフィルムと比較して、1.5倍〜10倍程度大きな値である5ミリ秒〜30ミリ秒といった値が観測される。このように、前処理が行われたフィルムを、例えば、長手方向に3.0倍〜4.0倍に延伸することで、長手方向の延伸ムラに由来する厚みムラを抑制しつつ、フィルムの配向を低い状態に制御することが可能となる。
【0033】
次に、引き続いて行われる最初の延伸方向と直角方向に行われる延伸においては、最初の延伸倍率よりも若干低い値とすることが、長手方向と幅方向の配向バランスを同程度に制御できるために好ましい態様である。また、前述の前処理が行われた未延伸フィルムを長手方向と幅方向に同時に延伸する同時二軸延伸法を用いると、長手方向の幅方向のバランスが取り易く、かつロールを用いた延伸でないため、延伸ムラや表面のキズが発生しにくい。
【0034】
本発明の成型加飾材用ポリエステルフィルムにおいては、全方位での引張り強さが150MPa以上であり、好ましくは160MPa以上であり、さらに好ましくは180MPa以上である。引張り強さの上限値については特に限定されないが、本発明における面配向係数(fn)の範囲を満たすためには、通常350MPa未満である。
【0035】
また、全方位での超音波伝導速度の最大値と最小値の比率(最大値/最小値)が1.0〜1.4であり、好ましくは1.0〜1.3であり、特に好ましくは1.0〜1.2である。成型加飾材用フィルムにおいては、成型時に基材ポリエステルフィルムが金型に沿って成型、追従する必要があり、フィルムの強度バランスや配向バランスが悪いと、フィルム破れや印刷図柄に歪みやずれが生ずるため、通常の長手方向と幅方向のみでなく、全方位に渡って強い引張り強さと配向バランスが必要である。全方位の引張り強さの最小値が150MPa未満になると、引張り強さの低い方向でフィルム破れが発生するため好ましくない。また、全方位での超音波伝導速度の最大値と最小値の比率(最大値/最小値)が1.4を超えると、超音波伝導速度の低い方向でフィルム破れが発生したり、高い方向と低い方向で転写後の図柄のずれや歪みが生じるため好ましくない。なお、超音波伝導速度はポリエステルフィルムの分子配向と相関があり、全方位での超音波伝導速度の最大値と最小値の比率が大きいということは、フィルム面内の分子配向が角度により偏りがあるということである。
【0036】
全方位での引張り強さおよび超音波伝導速度の最大値と最小値の比率を上記範囲にする方法としては、特に限定されないが、例えば、直行する2軸に延伸する工程で、長手方向と幅方向の延伸倍率を近い倍率に合わせる方法や、製品幅方向端部のボーイングによる歪みを防止するために、横延伸パターンを延伸前半部分に大きくとる倍率配分を行う方法や、熱処理温度を徐々に上げていく方法などが好ましい方法として挙げられる。例えば、代表的な2軸延伸フィルムの製造方法である、初めに長手方向に、次に幅方向に延伸を行う逐次2軸延伸法においては、長手方向と幅方向の延伸倍率のバランスを、中間製品の中央部におけるフィルムの長手方向の屈折率(nMD)と幅方向の屈折率(nTD)の差ΔN(ΔN=nMD−nTD)が−0.030〜+0.005となるように配分することが好ましく、さらに好ましい△Nは−0.025〜0.000であり、最も好ましくは−0.020〜−0.005である。引張り強さと超音波伝導速度のバランスの観点から、中間製品中央部における屈折率はやや幅方向が大きくなるように調整することが好ましい。
【0037】
中間製品端部におけるボーイングによる歪みを防止するための好ましい方法としては、例えば、幅方向延伸条件や熱処理工程を以下の方法で行うことが挙げられる。通常幅方向延伸終了後に行われる熱処理工程において、フィルムが軟化しクリップにより保持されていない中央部が幅方向延伸ゾーン方向へ引き込まれることにより、端部での斜め方向における配向歪みが大きくなる。これを防止するために、例えば、幅方向延伸条件としては、延伸時のフィルム温度をガラス転移温度(Tg)+10℃以上、熱結晶化温度(Tmc)−25℃以下とし、平均延伸速度を180%/秒以下、幅方向延伸ゾーンの中間点における延伸倍率を、幅方向延伸終了時の倍率の55〜80%、好ましくは60〜75%とする方法が挙げられる。
【0038】
また、フィルムの熱処理工程においては、横延伸工程のあと一度冷却工程を経てフィルム温度をガラス転移点(Tg)以下に下げてから、熱処理工程を行う方法や、熱処理工程での温度を段階的に上昇させることも好ましい方法として挙げられる。段階処理の方法としては、例えば、熱処理工程初期においては、まず、ガラス転移点(Tm)+50℃〜100℃において2秒以上の処理を行い、さらに、最大温度と初期温度との中間温度にて2秒間の処理を行い、かつ最大温度をフィルムの融点(Tm)−15〜50℃、好ましくは−20〜40℃とする方法などが挙げられる。このように、熱処理工程の初期の段階において、処理温度を低く押さえ段階的に昇温することで、幅方向中央部が延伸工程側に引き込まれる量を減少させ、端部における斜め方向の歪みを押さえることができる。幅方向の延伸方法と熱処理工程での方法の両方を同時に行うと、端部における配向歪みがより小さくなり好ましい。
【0039】
本発明の成型加飾材用ポリエステルフィルムにおいて、少なくとも片側表面での表面粗さ(SRa)は15nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは10nm以下である。また、最大山高さ(SRmax)は800nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは500nm以下である。成型加飾材用ポリエステルフィルムにおいては、図柄印刷や蒸着加工面の表面が平滑であることが好ましい。光沢性や見た目の意匠性に優れているからである。
【0040】
表面粗さ(SRa)や最大山高さ(SRmax)の下限値は特に限定されないが、ポリエステルフィルムをロール状に巻いたときの巻き易さや取り扱い性の観点から、少なくとも片面側の最大山高さ(SRmax)は300nm以上であることが好ましい。表面粗さ(SRa)や最大山高さ(SRmax)を上記の範囲とする方法については、特に限定されないが、添加する粒子種、粒子径や積層構成により調整することが可能である。例えば、フィルム中での粒径比(粒子の長径/短径)が1.0〜1.5である球形の形状を有し、沈降法あるいは光散乱法により測定したフィルム中での平均粒径(直径)が0.05〜1.5μm、好ましくは0.05〜1.0μmの範囲の粒子を使用することが望ましい。上記の好ましい粒子特性を満足するものとしては、合成炭酸カルシウム、コロイダルシリカに起因する実質的に球形のシリカ粒子、アルミナ珪酸塩、架橋高分子による粒子(例えば、架橋ポリスチレン)などを代表として挙げることができる。これらの粒子を有する層を、複合層構成とした基材ポリエステルフィルムの最外層に配置することが、表面状態の制御を行いやすく、また易滑に寄与する粒子を主に最外層に添加することにより、ポリエステルフィルムの透明性を損なうことなく、易滑化が可能である。これらの積層構成は、共押出しによる積層フィルムとして製造することができる。特にA/Bの2層構成の場合は、粒子が少なく表面が平滑で印刷後もしくは蒸着後の光沢性に優れた層の逆面側に易滑粒子を多く含むことで、加飾成型品の外観の光沢性と、加飾成型用フィルムの取り扱い性、巻き取り性を同時に達成することができる。
【0041】
本発明の成型加飾材用ポリエステルフィルムにおいては、ヘイズ値は10%未満であることが好ましく、さらに好ましくは5%未満である。ヘイズ値が10%を超える場合、フィルムの透明性が損なわれる。ヘイズ値は、例えば、基材ポリエステルフィルムに含まれる滑剤の含有量を好ましい範囲に調整することなどで達成される。
【0042】
本発明の成型加飾材用ポリエステルフィルムにおいては、基材ポリエステルフィルムの少なくとも片側表面上に、帯電防止処理層を有し、該帯電防止処理層の温度25℃、相対湿度65%における表面比抵抗値(R1)が1012Ω/□以下であることが好ましく、さらに好ましくは1010Ω/□であり、特に好ましくは10Ω/□以下である。帯電防止処理層を有することで、成型加飾材用フィルムを製造する工程における、静電気によるゴミの付着や印刷、蒸着欠点の防止や、成型工程における金型とのずれの防止等の効果が認められ、生産性が向上する。また、帯電防止処理層は、金型と接する側の表面に設けることが好ましい。金型と接する側の表面に帯電防止処理層を設けることで、成型加飾材の製造工程から転写工程に渡って、帯電防止処理層の機能を発現することが可能となる。
【0043】
本発明の成型加飾材用ポリエステルフィルムが好ましく有する帯電防止処理層においては、使用環境によりゴミ付着防止機能や放電防止機能にバラツキがあると、工程条件をその都度変更する等の問題が生じるため、環境による機能変化、特に湿度による帯電防止性の変化が少ないことが好ましい。具体的には、帯電防止処理層表面の温度25℃、相対湿度30%における表面比抵抗値(R2)は1012Ω/□以下であることが好ましく、さらに好ましくは1010Ω/□であり、特に好ましくは10Ω/□以下である。また、温度25℃、相対湿度30%における表面比抵抗値(R2)をR1で除した値の常用対数( log(R2/R1) )は3.0以下が好ましく、更に好ましくは2.0以下であり、特に好ましくは1.0以下である。R1、R2が1012Ω/□以上となれば、帯電によるゴミの付着や放電による欠陥が発生する。log(R2/R1)の値が3.0より大きくなると、湿度による帯電防止性の差異が大きくなるため、使用環境により工程条件を調整したりする必要がある。
【0044】
このような特性を満たす帯電防止剤としては、例えば、カチオン性導電体である4級アンモニウム塩基を有する化合物、共役電子性導電体であるポリアニリン系導電剤、酸化スズ系導電剤およびリチオフェン系導電剤などが挙げられる。一般的に広く使用されているスルホン酸基などを有するアニオン性導電対は湿度による帯電防止性能の変化が大きく、また耐水性にも劣るため好ましくない。カチオン性導電体である4級アンモニウム塩基を有する化合物を使用した場合は、比較的湿度による帯電防止性能の変化が小さく、また耐水性も比較的強いため、好ましい態様である。一方、共役電子導電体であるポリアニリン系導電剤、酸化スズ系導電剤およびポリチオフェン系導電剤を使用した場合は、その電子導電メカニズムが空気中の水分に依らないため湿度による帯電防止性能の変化量が非常に小さく好適である。なかでも特にポリチオフェンおよびポリチオフェン誘導体を用いた場合は、加えて塗膜の透明性や基材ポリエステルフィルムとの密着性と塗布外観に優れており特に好ましい態様である。
【0045】
カチオン系導電体である4級アンモニウム塩基を有する化合物とは、分子鎖の主鎖や側鎖に、4級アンモニウム塩基を含む構成要素を持つ化合物のことであり、それらの構成要素としては、例えば、ピロリジウム、アルキルアミンの4級化合物、さらにこれらをアクリル酸やメタクリル酸と共重合したもの、N−アルキルアミノアクリルアミドの4級化合物およびビニルベンジルトリメチルアンモニウム塩等を挙げることができる。4級アンモニウム塩基の対イオンとなるアニオンとしては、例えば、ハロゲン、アルキルサルフェート、アルキルスルホネートおよび硝酸などが挙げられる。
【0046】
また、4級アンモニウム塩基を有する化合物は、高分子化合物であることが望ましい。分子量が低すぎる場合は、帯電防止層表面から逆面側、あるいは工程中のロールや金型などに帯電防止剤が転移し、逆面側の接着不良の原因となったり、製品の欠点となる。4級アンモニウム塩基を有する化合物の数平均分子量は、通常2000以上さらには5000以上であることが好ましい。また、分子量が大きくなりすぎると、塗布液の粘度が高くなりすぎたり、延伸時の追従性が悪化するなどの問題があるため、数平均分子量は100000以下であることが好ましい。
【0047】
共役電子導電体であるポリチオフェンおよびポリチオフェン誘導体は、例えば、下記の化学式(1)または下記の化学式(2)で示される化合物を、ポリ陰イオンの存在下で重合することによって得ることができる。
【0048】
【化1】

【0049】
【化2】

【0050】
上記の化学式(1)において、R1とR2は、それぞれ独立に、水素元素、炭素数1〜12の脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、もしくは芳香族炭化水素基をあらわし、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、シクロヘキシレン基およびベンゼン基などである。
【0051】
上記の化学式(2)では、nは1〜4の整数である。
【0052】
本発明で好ましく用いられる帯電防止層としては、上記の化学式(2)で示される構造式からなるポリチオフェンまたはポリチオフェン誘導体を用いることが好ましく、例えば、化学式(2)で、n=1(メチレン基)、n=2(エチレン基)、n=3(プロピレン基)の化合物が好ましい。中でも特に好ましいのは、n=2のエチレン基の化合物、すなわち、ポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェンである。ポリチオフェンまたはポリチオフェン誘導体としては、例えば、チオフェン環の3位と4位の位置に官能基が結合した化合物が例示される。上記のとおり、3位と4位の炭素原子に酸素原子が結合した化合物が好ましい。該炭素原子に直接炭素原子あるいは水素原子が結合した構造を有する化合物については、塗液の水性化が容易でない場合がある。
【0053】
本発明の成型転写用ポリエステルフィルムにおいて好ましく設けられる帯電防止処理層は、上記ポリチオフェンとポリ陰イオン化合物からなる組成物、または、上記ポリチオフェン誘導体とポリ陰イオン化合物からなる組成物を含有することが好ましい。本発明におけるポリ陰イオン化合物は、遊離酸状態の酸性ポリマーであり、高分子カルボン酸、あるいは、高分子スルホン酸およびポリビニルスルホン酸などが好ましい。高分子カルボン酸としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸が例示される。また、高分子スルホン酸としては、例えば、ポリスチレンスルホン酸が例示される。中でも、導電性の点で、ポリスチレンスルホン酸が最も好ましい。高分子カルボン酸は、遊離酸の一部が中和された塩の形をとってもよい。
【0054】
これらポリ陰イオン化合物を重合時に用いることにより、本来、水に不溶なポリチオフェン系化合物を水分散あるいは水性化しやすく、かつ、酸としての機能がポリチオフェン系化合物のドーピング剤としての機能も果たすものと考えられる。本発明においては、高分子カルボン酸や高分子スルホン酸は、共重合可能な他のモノマー、例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレンなどと共重合した形で用いることもできる。ポリ陰イオン化合物として用いられる高分子カルボン酸や高分子スルホン酸の分子量は特に限定されないが、塗剤の安定性や導電性の点で、その重量平均分子量は1000〜1000000が好ましく、より好ましくは5000〜150000である。これらは、本発明の特性を阻害しない範囲で、一部リチウム塩やナトリウム塩などのアルカリ塩やアンモニウム塩などを含んでいても良い。また、中和された塩の場合も、非常に強い酸として機能するポリスチレンスルホン酸とアンモニウム塩は、中和後の平衡反応の進行により、酸性側に平衡がずれることが分かっており、これによりドーパントとして作用するものと考える。
【0055】
本発明において、ポリチオフェンまたはポリチオフェン誘導体に対して、ポリ陰イオン化合物は、導電性の点で、固形分重量比で過剰に存在させた方が好ましく、ポリチオフェンまたはポリチオフェン誘導体が1重量部に対し、ポリ陰イオン化合物は1重量部から5重量部が好ましく、より好ましくは1重量部から3重量部である。
【0056】
また、上記ポリチオフェンまたはポリチオフェン誘導体とポリ陰イオン化合物からなる組成物は、例えば、特開平6−295016号公報、特開平7−292081号公報、特開平1−313521号公報、特開2000−6324号公報、ヨーロッパ特許EP602731号明細書、米国特許US5391472号明細書などに記載の方法により製造することができるが、これら以外の方法であってもよい。製造方法について例を挙げると、3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボキシエステルのアルカリ金属塩を出発物質として、3,4−エチレンジオキシチオフェンを得たのち、ポリスチレンスルホン酸水溶液にペルオキソ二硫酸カリウムと硫酸鉄と、先に得た3,4―エチレンジオキシチオフェンを導入し、反応させ、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)などのポリチオフェンに、ポリスチレンスルホン酸などのポリ陰イオンが複合体化した組成物を得る。
【0057】
本発明において好ましく設けられる帯電防止処理層は、上記ポリチオフェンまたはポリチオフェン誘導体とポリ陰イオン化合物からなる組成物と架橋剤を含有することが好ましい。架橋剤としては、例えば、メラミン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、イソシアネート系架橋剤およびアクリルアミド系架橋剤などを用いることができる。該架橋剤は、分子量が1000以下の架橋剤であることが好ましく、分子量はより好ましくは800以下であり、さらに好ましくは600以下である。特に水溶性かつ分子量1000以下の架橋剤を用いることで、延伸工程での柔軟性や流動性が発現し、積層膜を形成する混合体の乾燥後の延伸追従性を高め、塗膜の亀裂による白化現象を抑制し、透明性が付与される。分子量が大きくなりすぎた場合は、塗布や乾燥後の延伸時において塗膜に亀裂が入るため、透明性が低下する傾向がある。また、エポキシ系架橋剤の熱減量率5%となる温度は230℃以上が好ましく、より好ましくは250℃以上であり、特に好ましくは270℃以上である。熱減量率5%となる温度が230℃未満の場合、ポリエステルフィルムの製造工程、特に横延伸〜熱処理のオーブン中にエポキシ成分が分散され工程を汚すことがある。
【0058】
上記架橋剤としては、特にエポキシ系架橋剤、特に水溶性エポキシ系架橋剤が特に好ましく、透明性、帯電防止性および塗膜外観に優れた帯電防止層を形成することができる。エポキシ系架橋剤の種類は特に限定はされないが、例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル系、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル系、ジグリセロールポリグリシジルエーテル系、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル系、およびポリエチレングリコールジグリシジルエーテル系など架橋剤を用いることができる。例えば、ナガセケムテック株式会社製のエポキシ化合物“デナコール”(登録商標)(EX−611、EX−614、EX−512、EX−521、EX−412、EX−313、EX−810、EX−830,EX−850など)、坂本薬品工業株式会社製のジエポキシ・ポリエポキシ系化合物(SR−EG、SR−8EG,SR−GLGなど)、大日本インキ工業株式会社製のエポキシ架橋剤“EPICLON” (登録商標)EM−85−75W、あるいはCR−5Lなどを好適に用いることができる。
【0059】
上記のポリチオフェンまたはポリチオフェン誘導体とポリ陰イオンからなる組成物の固形分と架橋剤の固形分の混合比は、ポリチオフェンまたはポリチオフェン誘導体とポリ陰イオンからなる組成物の固形分量と架橋剤の固形分量の和を100重量部としたとき、架橋剤の固形分量は30重量部〜90重量部が好ましく、より好ましくは50重量部〜85重量部である。架橋剤の固形分量が90重量部よりも多い場合は、帯電防止性が発現しにくくなる。また、架橋剤の固形分量が30重量部よりも少ない場合は、帯電防止層にクラックが生じやすく、透明性が劣ったり、帯電防止性が発現しにくくなる。
【0060】
本発明において好ましく設けられる帯電防止処理層表面における水との接触角は、80°以上が好適であり、さらに好ましくは90°以上である。接触角が80°未満である場合は、耐水性が劣ったり、背面とのブロッキングが発生しやすい。接触角を80°以上にするためには、帯電防止層中にワックス系化合物、長鎖アルキルアクリレート、フッ素アクリレート、シリコーン化合物、ポリオレフィン系化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことにより達成することができる。接触角の上限値は特に限定されないが、通常は110°未満である。
【0061】
ワックス系化合物としては、常温で固体または反固体の有機物からなる組成物であれば特に限定されないが、例えば、天然ワックス、動物系ワックス、鉱物系ワックス、あるいは石油系ワックスなどに分類され、合成ワックスは、ポリエチレンワックスなどの合成炭化水素、変性ワックス、水性ワックス、脂肪酸、酸アミド、エステルおよびケトンなどに分類される。また、配合ワックスは、上記ワックスに合成樹脂類を配合したものである。植物系ワックスとしては、キャンでリラワックス、カルナバワックス、ライスワックス、木ロウ、ホホバ油、パームワックス、などを用いることができる。動物系ワックスとしては、みつろう、ラノリン、鯨ロウ、イボタロウおよびセラックワックスなどを用いることができる。鉱物系ワックスとしては、モンタンワックス、オゾケライト、セレシンなどを用いることが出来る。石油ワックスとしては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスおよびペトロラクタムなどを用いることができる。
【0062】
本発明においては、上記ワックスであれば特に限定されず用いることができるが、耐熱性の点で、合成ワックス、鉱物系ワックスおよび石油系ワックスが好ましく、特に、ポリエチレンワックスなどの合成ワックスが最も好ましい。ワックス系化合物の融点は、90〜200℃が好ましく、より好ましくは100〜150℃である。特に、融点が低すぎる場合は、耐ブロッキング性に劣る傾向がある。
【0063】
長鎖アルキルアクリレートとしては、炭素数12〜25個のアルキル基を側鎖に持つアクリル系モノマーと、このアクリル系モノマーと共重合可能なモノマーとの共重合アクリル樹脂が挙げられ、該共重合アクリル樹脂中の炭素数は12〜25個のアルキル基を側鎖に持つアルキルアクリレートモノマーの共重合比率が35重量%以上のものである。該共重合量は、耐ブロッキング性や耐水性の点で、35〜85重量%が好ましく、さらに好ましくは50〜80重量%である。
【0064】
このようなアルキルアクリレートモノマーとしては、上記の要件を満たすもので有れば特に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸ドデシル、アクリル酸トリデシル、アクリル酸テトラデシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ヘキサデシル、アクリル酸ヘプタデシル、アクリル酸オクタデシル、アクリル酸ノナデシル、アクリル酸エイコシル、アクリル酸ドコシル、アクリル酸トリコシル、アクリル酸テトラコシル、アクリル酸ペンタコシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸エイコシル、およびメタクリル酸ペンタコシルなどの長鎖アルキル基含有アクリル系モノマーが用いられる。
【0065】
本発明で用いられる長鎖アルキルアクリレートは、水系の塗剤を用いることが好ましく、例えば、エマルション化するために、他の共重合可能なモノマーとしては、下記のアクリル系モノマーを用いることができる。モノマーとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エトキシエチル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸2−ブトキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、スチレン、イタコン酸、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシエチルリン酸エステル、ビニルスルホン酸ソーダ、スチレンスルホン酸ソーダ、および無水マレイン酸等を例示することができる。長鎖アルキルアクリレートは、ワックス系化合物やシリコーン系化合物などと比較して、背面あるいは工程ロールや金型への転写が起こりにくく、最も好ましい化合物である。
【0066】
本発明の成型加飾材用フィルムにおいては、180℃の温度で30分間加熱処理した後の帯電防止層側表面でのオリゴマー量が2.0mg/m以下であることが好ましく、さらに好ましくは1.5mg/mであり、特に好ましくは1.0mg/m以下である。180℃の温度において30分間加熱処理した後の帯電防止層側表面でのオリゴマー量が2.0mg/mを超えると、成型時の金型が汚れやすく、連続生産時間が短縮されるため生産性に劣ったり、付着したオリゴマーにより製品に欠点が発生しやすい。
【0067】
オリゴマー析出量を抑える方法としては特に限定されないが、帯電防止処理層がオリゴマー析出防止機能を有することが好ましい。オリゴマー析出防止機能を有する成分としては、アクリル系共重合体、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム塩のような長鎖アルキル基を有するスルホン酸塩やカルボン酸塩、セルロース系樹脂、メラミン系樹脂およびワックス系樹脂などが挙げられるが、中でも水分散性アクリル系樹脂がオリゴマー析出防止機能や塗布性、外観等の点で好適であり、特に前述の長鎖アルキルアクリレートモノマーの共重合比率が35重量%以上のものを、帯電防止層中に好ましくは10〜200重量部、より好ましくは15〜100重量部含有させることで、オリゴマー析出量を抑え、かつ耐水性や耐ブロッキング性にも優れるため最も好適である。長鎖アルキルアクリレートが帯電防止層中に10重量部未満である場合は、オリゴマー析出抑制能力が劣り、また、200重量部を超える場合は、塗布外観や帯電防止機能が劣る傾向がある。
【0068】
また、基材であるポリエステルフィルムの原料に、オリゴマー含有量が少ない原料を使用することも加熱処理後のヘイズ変化値を押さえるために有効である。オリゴマー含有量が少ないポリエステルチップが得られる方法としては特に限定されないが、例えば、固層重合法やチップの加熱処理によるオリゴマー低減法などが挙げられ、製造コストの面から加熱処理法がより好ましい。加熱処理法とは、ポリエステルチップを加熱処理し結晶化することにより内部に含有するオリゴマー量を減少させる方法であり、チップの着色防止や分解による粘度低下防止のため、例えば、窒素などの不活性ガス雰囲気下で行われる。前述の帯電防止処理層中にオリゴマー析出防止を行う方法と、基材ポリエステルフィルム原料にオリゴマー含有量が少ない原料を使用する方法を、両方同時に用いるとオリゴマー析出量が非常に少なくなる。
【0069】
本発明のおいて好ましく設けられる帯電防止処理層の厚さは特に限定されないが、通常は10〜1000nmであり、より好ましくは15〜200nmであり、最も好ましくは30〜100nmである。帯電防止処理層の厚さが薄すぎると、帯電防止性機能やオリゴマー析出防止性機能が不良となる。また、厚すぎると塗布外観が劣ったり、帯電防止処理層が転写材の製造工程および成型工程で脱落したり、成型加飾材用フィルムの製造コストが高くなる。
【0070】
また、本発明において好ましく設けられる帯電防止処理層中には、本発明の効果が損なわれない範囲内で、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機の易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、耐電防止剤、および核剤などを配合しても良い。易滑剤や微粒子については、フィルムのすべり性を向上させ、取り扱いを容易にする効果がある。易滑剤や微粒子の平均粒径は、帯電防止処理層厚みの50%〜500%の大きさのものが好ましい。50%未満では易滑効果が不十分であり、500%を超えると易滑剤や微粒子が脱落しやすくなる。また、ポリエステル樹脂やウレタン樹脂は、基材ポリエステルフィルムとの密着性を高める効果が期待される。
【0071】
基材ポリエステルフィルム上に帯電防止層を設ける方法は種々存在するが、本発明で用いられる複合層構成の積層フィルムを製造する場合、フィルム製膜工程中で塗液を塗布し、乾燥、延伸した後、熱処理する、いわゆるインラインコーティング法を好適に用いることができる。インラインコーティング法を用いることで、オフライン加工に比べ、例えば、積層膜を薄くできる、基材ポリエステルフィルムとの密着性が向上する、熱処理時にクリップにより幅方向の両端が把持されているためフィルムにシワが発生しにくいなどの長所がある。基材ポリエステルフィルムへの塗布の方法は特に限定されないが、例えば、リバースコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、バーコート法、メイヤーバーコート法、ダイコート法およびスプレーコート法などを用いることができる。また、塗液を塗布する前に、基材ポリエステルフィルムの表面にコロナ放電処理などを施し、基材ポリエステルフィルム表面の塗れ張力を好ましくは47mN/m以上、より好ましくは50mN/m以上とすることが好ましい。帯電防止処理層との密着性や塗布性を向上させることができるからである。さらに、イソプロピルアルコール、ブチルセロソルブおよびN−メチル2−ピロリドンなどの有機溶媒を塗液中の若干量含有させて、塗れ性や基材フィルムとの接着性を向上させることも好適である。
【0072】
本発明の成型加飾材用ポリエステルフィルムは、2軸配向されたフィルムであることが好ましい。2軸配向ポリエステルフイルムとは、無延伸状態のポリエステルシートまたはフイルムを、長手方向及び幅方向に、いわゆる2軸方向に延伸することによって作られるものであり、広角X線回折で2軸配向のパターンを示すものである。2軸方向へ延伸する方法は、逐次2軸延伸法、同時2軸延伸法のどちらでもよい。本発明の2軸配向ポリエステルフイルムの厚さは特に限定されないが、通常は0.5〜500μm、好ましくは1〜300μm、さらに好ましくは12〜50μmである。
【0073】
本発明の成型加飾材用ポリエステルフィルムにおていは、印刷インキや蒸着密着力を向上するなどの目的により、コロナ処理を施したり、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル変性ポリエステル樹脂、メラミン樹脂およびそれらの混合物などを表面にコーティングしても良い。
【0074】
本発明の成型加飾材用ポリエステルフィルムにおいては、幅方向、190℃、20分における熱収縮率の値が、−2.0%〜+3.0%の範囲にあることが好ましく、さらに好ましくは−1.0%〜2.0%であり、特に好ましくは−0.5%〜1.0%である。成型加飾材を製造する工程や成型する工程において、幅方向は張力などによる把持力がないため、熱収縮率が−2.0%未満あるいは3.0%を超えると、基材フィルムにしわが発生したり、転写時の画像のずれや歪みが大きくなる傾向がある。
【0075】
本発明の成型加飾材用ポリエステルフィルム中において、長径50μm以上であるの金属触媒凝集物、粗大粒子および異物個数の合計は50ヶ/1000cm以下(0ヶ/1000cmを含む)が好ましく、さらに好ましくは30ヶ/1000cm以下であり、特に好ましくは10ヶ/1000cm以下である。これらフィルム中の異物個数の合計が50ヶ/1000cmを超えると、異物部分が表面に突起を形成し、印刷図柄の欠点となる。これらの金属触媒凝集物、粗大粒子および異物の個数を低減する方法は特に限定されないが、例えば、製膜時のポリエステル樹脂のフィルターとして平均目開き5〜15μm、好ましくは5〜10μmのステンレス鋼繊維を焼結圧縮したフィルター(FSS)を使用することが好ましい。また、上記ステンレス繊維を焼結圧縮したフィルターの後に、平均目開き10〜30μmのステンレス鋼粉体を焼結したフィルター(PSS)をこの順で連続濾過する、あるいは一つのカプセル中に上記2種類のフィルターを併せ持つ複合フィルター(FP)を使用することで、触媒凝集物や粗大粒子を取り除くことができると同時に、製膜エッジや巻き芯部分をリサイクルチップとして再利用した時に生じやすい樹脂のゲル化物や熱劣化物を効率良く取り除くことができるためリサイクルチップを多く使用できたり、かつフィルター寿命が長くなるため生産性が向上する。また、前述のように凝集物を生成にしくいような金属触媒として、例えばチタン化合物やゲルマニウム化合物を重合時の触媒として用いることがより効果的である。
【0076】
本発明における特性の測定方法および効果の評価方法は、次のとおりである。
【0077】
(1)ポリエステル層Aとポリエステル層Bの融点
基材ポリエステルフィルムが単層の場合はその一部を、また、基材ポリエステルフィルムが複合層の場合は顕微鏡下で各層に分離し、試料をサンプリングした。各試料約10mgをそれぞれPERKIN−ELMER社製DSC7を用いて、温度30〜300℃、昇温速度20℃/分の条件下で測定を行い、融解熱量のピーク温度を各ポリエステル層の融点とした。
【0078】
(2)面配向係数(fn)
ポリエステルフィルムのポリエステル層A側表面の屈折率を、ナトリウムD線(波長589nm)を光源として、中間液としてジヨードメタンを用い、アッベ屈折計により測定した。面配向係数は長手方向、幅方向、厚さ方向の屈折率(nMD、nTD、nZD)から、fn={(nMD+nTD)/2}−nZD の計算により求めた。
【0079】
(3)全方位における引張り強さ
フィルム製品ロールの両端と中央部分から300mm×300mmの試料を採取した。次に、それぞれの位置において、ポリエステルフィルムの長手方向を基準(0゜)とし、時計回りに22.5゜毎に幅10mm、長さ300mmの測定用試料を計8サンプル採取した。定速緊張形引張試験機にて引張り速度200mm/分、初期長100mmで長さ方向に引張り、フィルムが破断したときの引張り荷重値を試料の試験前の断面積で除した値(MPa)を算出した。測定は各試料5回ずつ行い、5回の平均値を引張り強さとした。なお、測定値については、製品ロールの両端と中央部分のすべての位置において、特定の値を満たしているかどうかで判断を行った。
【0080】
(4)超音波伝導速度比(最大値/最小値)
フィルム製品ロールの両端と中央部分から幅300mm、長さ300mmの試料を採取し、野村商事(株)製SONIC SHEET TESTER SST−250にて、ポリエステルフィルムの長手方向を基準(0゜)とし5°毎に0〜180°まで超音波伝導速度(km/s)を測定した。測定結果から算出された超音波伝導速度の最大値を最小値で除した値(最大値/最小値)を、超音波伝導速度比とした。なお、測定値については、製品ロールの両端と中央部分のすべての位置において特定の値を満たしているかどうかで判断を行った。
【0081】
(5)表面粗さ(SRa)と最大山高さ(SRmax)
3次元表面粗さ計(小坂研究所製、ET−30HK)を用い、次の条件で触針法により測定を行った。なお、表面粗さ(SRa)は、粗さ曲面と粗さ曲面の中心面との高さ方向の差ととり、その絶対値の平均値を表したものであり、最大山高さ(SRmax)は、粗さ曲面の最大値と最小値の差である。
針径 2(μmR)
針圧 10(mg)
測定長 500(μm)
縦倍率 20000(倍)
CUT OFF 250(μm)
測定速度 100(μm/s)
測定間隔 5 (μm)
記録本数 80本
ヒステリシス幅 ±6.25(nm)
基準面積 0.1(mm2)。
【0082】
(6)表面比抵抗
表面比抵抗の測定は、試料を測定条件(温度25℃、相対湿度65%、あるいは温度25℃、相対湿度30%)において24時間放置後、その雰囲気下でデジタル超高抵抗/微小電流計R8340A(アドバンテスト(株)製)を用い、印可電圧100Vで10秒間印可後測定を行った。
【0083】
(7)水との接触角
温度25℃、相対湿度65%の雰囲気下で試料を24時間放置後、協和界面化学(株)製接触角計CA−D型を用いて、滴下1分後における蒸留水との接触角を測定した。なお、各試料につき3回測定を行い、平均値を接触角とした。
【0084】
(8)180℃の温度において30分間加熱処理した後の帯電防止層側表面におけるオリゴマー量
ポリエステルフィルムを180℃の温度のオーブン中で30分間熱処理を行った。その後帯電防止処理層を外側にして、50mm×50mm×30mmの直方体アルミ製治具の50mm×50mm面にフィルムを貼り付け端を治具に沿って折り曲げ固定した。この治具をフィルム面を下にして、深さ5mmの位置までジメチルホルムアミド溶媒に3分間浸し、表面析出オリゴマーを抽出した。
【0085】
次に、標準溶液として、ポリエチレンテレフタレートの環状オリゴマー(三量体純度89%)11.2mgを100mLメスフラスコに取り、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール/クロロホルム混合溶媒(=1/1)2mLに溶解後、クロロホルムで100mLに希釈したものを標準原液(三量体濃度100μg/mL)とした。この溶液をジメチルホルムアミドで順次希釈し、三量体濃度10μg/mL、1μg/mLおよび0.1μg/mLの標準溶液を調整した。
【0086】
上記表面オリゴマー抽出溶媒と標準溶液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて下記の条件で分析し、環状三量体量を定量し、オリゴマー量とした。
【0087】
装置 :島津LC−10A
カラム:Inertsil ODS−3
移動相:アセトニトリル/水=70/30
流速 :1.5mL/分
検出器:UV242nm
注入量:10μL
(9)基材ポリエステルフィルム中の金属触媒凝集物、粗大粒子および異物個数
ポリエステルフィルム中に含まれる金属触媒凝集物、粗大粒子および異物個数は、偏光顕微鏡(40倍)を用い長径50μm以上のフィルム中に含まれる金属触媒凝集物、粗大粒子および異物を1000cmに渡り観察し、その合計をカウントした。
【0088】
(10)熱収縮率
JIS C2151(1990)16.寸法変化に基づき測定した。
【0089】
(11)ヘイズ
JIS K7105(1981)6.4ヘーズ(曇価)に基づいてフイルムのヘイズを測定した。測定は3回行い平均値をヘイズ値とした。
【0090】
(12)成型性と外観
成型加飾材用ポリエステルフィルムの易接着層塗布側に、ブチル化尿素メラミン樹脂とパラトルエンスルホン酸の混合液をグラビアコート法にて塗布し、80℃の温度で硬化させ、離型層を形成した。次に、その離型層上にアクリル系樹脂を用いてグラビアコート法で剥離層を形成し、その上に図柄層として、ビニル樹脂系インキによるメタリック色(アルミニウム顔料20%含有)のベタパターンと、黒色(カーボンブラック15%含有)の文字パターンをグラビア印刷にて形成し、次いで、アクリル系樹脂の接着層をグラビアコート法にて形成し、転写材を得た。
【0091】
得られた転写材を、50mm×50mm、最大深さ10mm、コーナー部分のRが1mmの金型を用い、金型温度235℃にて金型内で真空成型した後、型締めを行い、その後アクリル樹脂を成型樹脂として25MPaの射出圧力条件で成型同時転写加工を行った。
【0092】
(a)成型性(フィルム破断)
フィルム破断については、下記の基準により判定した。なお、△以上が合格範囲である。
○ フィルムの破断が全くない。
△ フィルムの1カ所以下の破断が1%未満で発生。
× フィルムの破断が1%を超えて発生。
【0093】
(b)成型性(金型形状の再現性)
コーナー部分Rの再現性については、成型品のRをラジアスゲージで測定し、下記の基準により判定した。なお、△以上が合格である。
○ コーナー部分Rが3mm未満。
△ コーナー部分を再現可能なRが3mm以上5mm以下。
× コーナー部分を再現可能なRが5mmより大きい。
【0094】
(c)外観
外観は、下記の基準で判定した。なお、△以上が合格範囲である。
○ 成型転写後の印画の歪み、ズレ、表面白化による不良がない。
△ 成型転写後の印画の歪み、ズレ、表面白化による不良が1%未満。
× 成型転写後の印画の歪み、ズレ、表面白化による不良が1%を越えて発生。
【実施例】
【0095】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0096】
(実施例1)
平均粒径1.4μm、比表面積300m/gの二酸化珪素粒子を0.06重量%含有するカルボキシル末端基量40当量/トン、ガラス転移温度(Tg)78℃、環状三量体含有量1.1重量%のポリエチレンテレフタレートペレット(極限粘度0.62dl/g)を、水分率20ppmに真空乾燥した後、押出機に供給して、280℃の温度で溶融押出し、14μmカットのステンレス鋼粉体焼結フィルター(PSS)で濾過した後、T字型口金からシート状に押出し、これを表面温度25℃の冷却ドラムに静電密着させ冷却固化せしめた。このようにして得られた未延伸ポリエステルフフィルムを、120℃の温度で3秒間前処理を行った後、長手方向に110℃の温度で3.2倍に延伸して1軸延伸フィルムとした。この1軸延伸フィルムの両面に空気中でコロナ放電処理を施し、表面張力を50mN/m以上とし、転写面側の面に、下記の組成の易接着層塗液を塗布し、次いで反対面側(非転写面側)に、下記の組成の帯電防止層塗液を塗布した。
【0097】
<易接着塗液>
酸性分としてテレフタル酸70モル%、イソフタル酸23モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸7モル%と、ジオール成分としてエチレングリコール70モル%とジエチレングリコール30モル%からなる共重合ポリエステル樹脂(ガラス転移点:55℃)の水性分散剤と、メラミン架橋剤として、大日本インキ化学工業(株)製の“ベッカミン”(登録商標)APMを固形分比95:5となるように混合した水性溶液。
【0098】
<帯電防止層塗液>
次の塗液A1と塗液B1と塗液C1を30重量部/70重量部/50重量部で混合した水性溶液。
・塗液A1
ポリエチレンジオシキチオフェン/ポリスチレンスルホン酸からなる複合体を水に分散させた水性塗液(Bayer社製の“Baytron P”) ”(登録商標)
・塗液B1
ポリグリセロールポリグリシジルエーテル系エポキシ架橋剤(ナガセケムテックス(株)製“デナコール”(登録商標)EX−512)を水に溶解させた水性溶液。
・塗液C1
下記の共重合成分からなる長鎖アルキルアクリレートを、イソプロピルアルコール10重量%とブチルセロソルブ5重量%を含む水に溶解させた水性溶液。
(共重合成分)
メタクリル酸 40重量部
ステアリルメタクリレート 60重量部
N−メチロールアクリルアミド 2重量部
アニオン性反応性乳化剤 2重量部
なお、上記のアニオン性反応乳化剤は、“エレミノール”(登録商標)JS−2(三洋化成工業(株)製)を用いた。
【0099】
上記の塗液が両面に塗布された一軸延伸フィルムを、クリップで把持しながら予熱ゾーンに導き、115℃の温度で乾燥後、引き続き幅方向に3.05倍延伸を行った。なお、この時延伸ゾーンの中間点における幅方向延伸倍率は2.1倍であった。幅方向延伸後に50℃の温度でフィルムを一旦冷却後、更に加熱ゾーンにて熱処理を施した。熱処理は150℃の温度で2.6秒、190℃の温度で2.6秒、220℃の温度で2.6秒、230℃の温度で2.6秒の順でおこなった。その後、200℃の温度で幅方向に5%のリラックス処理を行い、厚さ50μm、幅4.3m、易接着層厚さ70nm、帯電防止層厚さ25nmの成型加飾材用ポリエステルフィルムの中間製品を得た。得られた中間製品の両端150mmをエッジカットし、中央部4000mm幅を800mm幅×5本の製品ロールサイズにスリットし、成型加飾材用ポリエステルフィルムの製品を得た。採取した幅方向5本の製品ロールのうち、端部品と中央部品について評価を行った。条件と結果を表1〜表4に示す。
【0100】
表3、表4から明らかなように、得られた製品は成型性や外観が良好であり、特に帯電によるゴミの付着が少なく、また、金型のくもり速度も遅く、生産性に優れていた。
【0101】
(実施例2)
表1、表2に示された条件と、以下に記すポリエステルペレットを使用したこと以外は、実施例1に従い成型加飾材用ポリエステルフィルムの製品を得た。
【0102】
重合触媒として、下記のように調整したクエン酸キレートチタン化合物のエチレングリコール溶液を得られるポリエステルに対してチタン元素が5ppmとなるように添加したこと以外は、実施例1と同様にして得たポリエステルペレットを用いた。得られたポリエステルペレットは、極限粘度0.63dl/g、カルボキシル末端基量42当量/トン、ガラス転移温度(Tg)78℃、環状三量体含有量1.1重量%であった。
【0103】
(クエン酸キレートチタン化合物の合成方法)
撹拌機、凝縮器および温度計を備えた1Lのフラスコ中に、温水92.8g当たり、クエン酸・一水和物132.5g(0.63モル)を溶解させた。この撹拌されている溶液に、滴下漏斗からチタンテトライソプロポキシド72.0g(0.25モル)を加えた。この混合物を1時間加熱、還流させて曇った溶液を生成させ、これよりイソプロパノール/水混合物を真空下で蒸留した。その生成物を20℃の温度まで冷却し、そしてその撹拌された溶液に、NaOH94.86g(0.76モル)の32重量/重量%水溶液を滴下漏斗により加えた。得られた生成物をろ過し、次いでエチレングリコール125.54g(2モル)と混合し、そして真空下で加熱してイソプロパノール/水を除去し、わずかに曇った淡黄色の生成物(Ti含有量3.85重量%)を得た。条件と結果を表1〜表4に示す。
【0104】
表3、表4から明らかなように、得られた成型加飾材用ポリエステルフィルムの製品は、成型性や外観が良好であり、また帯電によるゴミの付着が少なく、さらにフィルム内部にも異物が少なく、外観と生産性が特に優れていた。金型のくもり速度については未処理のフィルムよりもやや遅くなるが、実施例1には劣るものであった。
【0105】
(実施例3、比較例5)
表1、表2に示された条件以外は、実施例1に従い成型加飾材用ポリエステルフィルムの製品を得た。得られた成型加飾材用ポリエステルフィルムの中央部製品が実施例3であり、端部製品が比較例5である。条件と結果を表1〜表4に示す。
【0106】
表3、表4から明らかなように、得られた実施例3の中央部製品は、成型性や外観が良好であった。比較例5の端部製品については、転写後の外観(図柄のずれ)が不良であった。
【0107】
なお、帯電防止層塗液の各成分は、以下のとおりである。
・塗液D1
ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(平均分子量:約30000)
・塗液E1
メラミン架橋剤、大日本インキ化学工業(株)製、“ベッカミン”J101
・塗剤G1
酸化ポリエチレン水分散体(ジョンソンポリマー社製、ジョンワックス)
(実施例4)
表1、表2と以下に示された条件以外は、実施例1に従い成型加飾材用ポリエステルフィルムの製品を得た。実施例4のポリエステル層Aとしては、イソフタル酸17mol%を共重合したポリエチレンテレフタレートペレット(ガラス転移点(Tg)55℃、融点215℃、以下PET−Iと略記する)2重量%とポリエチレンテレフタレートペレット(ガラス転移温度(Tg)78℃、環状三量体含有量1.1重量%、極限年度0.62dl/g、以下PETと略記する)98重量%の混合物を使用し、また、ポリエステル層Bとしては、上記PET−Iペレット75重量%と平均粒径2.1μm、比表面積300m/gの二酸化珪素粒子を0.2重量%含有するとPETペレット25重量%の混合物を使用し、ポリエステル層A側、ポリエステル層B側ともにフィルターカプセルの外側に8μmカットステンレス繊維焼結フィルター(FSS)を、フィルターカプセル内側に14μmカットのステンレス鋼粉体焼結フィルター(PSS)を接合させた複合フィルター(FP08/14)を用いて濾過を行った。
【0108】
なお、実施例4については、押出機Aと押出機Bからそれぞれポリエステル層A、ポリエステル層Bを押出し、濾過を行い、口金直前のフィードブロックにてA/Bの2層に積層してからシート状に押出しを行った。また、B層側に易接着層をA層側に帯電防止層を塗布した。条件と結果を表1〜表4に示す。
【0109】
表3、表4から明らかなように、得られた成型加飾材用ポリエステルフィルムの製品は成型性や外観が良好であり、特に金型形状再現性や製品表層の光沢度に優れていた。金型のくもり速度についてはオリゴマー析出を防止する層を設けていないため、やや劣る結果であった。
【0110】
(実施例5)
表1、表2と以下に示された条件以外は、実施例1に従い成型加飾材用ポリエステルフィルムの製品を得た。実施例5のポリエステル層Bとしては、シクロヘキサンジメタノール33mol%を共重合したポリエチレンテレフタレートペレット(ガラス転移点(Tg)80℃、融点260℃、以下PET−Gと略記する)25重量%と1、4−ブタンジオールとテレフタル酸を重合したポリブチレンテレフタレートペレット(ガラス転移点(Tg)25℃、融点228℃、以下PBTと略記する)20重量部とPETペレット55重量部の混合物を使用した。なお、実施例5については、押出機Aと押出機Bからそれぞれポリエステル層A、ポリエステル層Bを押出し、濾過を行い、口金直前のフィードブロックにてA/B/Aの3層に積層してからシート状に押出しを行った。条件と結果を表1〜表4に示す。
【0111】
表3、表4から明らかなように、得られた成型加飾材用ポリエステルフィルムの製品は成型性や外観が良好であり、特に金型形状再現性や製品表層の光沢度、帯電によるゴミの付着が少ない点、金型のくもり速度が遅い点が優れていた。
【0112】
(比較例1〜3)
表1、表2に示された条件以外は、実施例1に従い成型加飾材用ポリエステルフィルムの製品を得た、結果を表3、表4に示す。
・比較例1:成型性(フィルム破断、金型形状再現性)が劣っていた。
・比較例2:成型性(フィルム破断)、外観(印刷ずれ)が劣っていた。また厚みムラが非常に悪い製品であった。
・比較例3:成型後の外観(白化)が劣っていた。
【0113】
(比較例4)
表1、表2と以下に示された条件以外は、実施例1に従い成型加飾材用ポリエステルフィルムの製品を得た。
【0114】
比較例4のポリエステル層Aとしては、平均粒径1.1μmの炭酸カルシウム粒子を0.05重量%含有する、PET−Iペレットを使用した。なお、比較例4については、押出機Aと押出機Bからそれぞれポリエステル層A、ポリエステル層Bを押出し、濾過を行い、口金直前のフィードブロックにてA/B/Aの3層に積層してからシート状に押出しを行った。条件と結果を表1〜表4に示す。表3、表4から明らかなように、成型後の外観(白化)が劣っていた。
【0115】
【表1】

【0116】
【表2】

【0117】
【表3】

【0118】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、成型加飾材用ポリエステルフィルムとして好適に使用することができる。なかでも、あらかじめポリエステルフィルムに加飾を施し、射出成型と同時に成型物に加飾を行うインサート成型及びインモールド成型おいて、本発明の成型加飾材用ポリエステルフィルムは、成型性と外観上の品位を著しく改善することから、特に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンテレフタレート単位または/およびエチレンナフタレート単位を主たる構成成分とする融点が245℃〜270℃であるポリエステル層Aが、単層もしくは複合層構成を有する基材ポリエステルフィルムの少なくとも片側最外層に設けられており、かつ、該ポリエステル層A側表面における面配向係数(fn)が0.120〜0.160で、該基材ポリエステルフィルムの全方位での引張り強さが150MPa以上、全方位での超音波伝導速度の最大値と最小値の比率(最大値/最小値)が1.0〜1.4であることを特徴とする成型加飾材用ポリエステルフィルム。
【請求項2】
基材ポリエステルフィルムが、エチレンテレフタレート単位または/およびエチレンナフタレート単位を主たる構成成分とするポリエステル層Bを有する複合層フィルムであり、該ポリエステル層Bの融点がポリエステル層Aの融点よりも低いことを特徴とする請求項1記載の成型加飾材用ポリエステルフィルム。
【請求項3】
ポリエステル層Bが共重合成分として、イソフタル酸、ブタンジオールおよびシクロヘキサンジメタノールのうち少なくとも1成分を含有することを特徴とする請求項2記載の成型加飾材用ポリエステルフィルム。
【請求項4】
少なくとも片側表面での粗さ(SRa)が15nm以下で、かつ最大山高さ(SRmax)が800nm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の成型加飾材用ポリエステルフィルム。
【請求項5】
基材ポリエステルフィルムの少なくとも片側表面上に帯電防止処理層が設けられており、該帯電防止処理層の温度25℃、相対湿度65%における表面比抵抗値(R1)が1012Ω/□以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の成型加飾材用ポリエステルフィルム。
【請求項6】
帯電防止処理層が、チオフェンまたは/およびチオフェン誘導体を含むことを特徴とする請求項5記載の成型加飾材用ポリエステルフィルム。
【請求項7】
帯電防止処理層表面の接触角が80°以上であることを特徴とする請求項5または6記載の成型加飾材用ポリエステルフィルム。
【請求項8】
帯電防止処理層中に、ワックス系化合物、長鎖アルキルアクリレート、フッ素アクリレート、シリコーン化合物およびポリオレフィン系化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物が、10重量部〜200重量部含有されていることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の成型加飾材用ポリエステルフィルム。
【請求項9】
基材ポリエステルフィルムのポリエステル樹脂重合触媒にチタン化合物が使用されてなることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の成型加飾材用ポリエステルフィルム。
【請求項10】
基材ポリエステルフィルムが同時2軸延伸フィルムであることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の成形加飾材用ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2006−264136(P2006−264136A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−86137(P2005−86137)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】