説明

成型用積層フィルム

【課題】
成型加工適性を有し、かつ初期密着力と紫外線暴露後の密着力が共に改良された成型用積層フィルムを提供する。
【解決手段】
基材フィルム上にクラック伸度が10%以上の紫外線硬化性樹脂層を有する成型用積層フィルムであって、前記紫外線硬化性樹脂層が紫外線吸収剤を含有し、かつ紫外線硬化性樹脂層の透過スペクトルにおいて320〜350nmの波長域に透過率が5%以上の透過ピークを有することを特徴とする、成型用積層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材フィルム上にクラック伸度が10%以上の紫外線硬化性樹脂層を有する成型用積層フィルムに関する。詳しくはインモールド成型等の成型加工時における変形に追随可能な成型性を有する紫外線硬化性樹脂層が基材フィルム上に積層された成型用積層フィルムに関する。更に詳しくは、基材フィルムと紫外線硬化性樹脂層との初期密着力と紫外線暴露後の密着力が改良された成型用積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯型パーソナルコンピュータ、モバイル機器、携帯電話、電子手帳等の電子機器筐体の保護や加飾のために、成型用積層フィルムの使用によるインモールド成型法が広く用いられるようになってきている。成型用積層フィルムには、成形加工時における変形に追随できるようにクラックが発生せずにある程度伸びる特性が要求されている(特許文献1、2)。
【0003】
上述したような電子機器等の筐体等に適用される成型用積層フィルムは、屋外や強い蛍光灯の光の環境下において使用されるため、紫外線に曝されることが多くなる。そのため長期間紫外線に曝されると、成型用積層フィルムを構成する基材フィルムと樹脂層との密着力が低下して、樹脂層が剥がれ易くなると言う問題点があった。
【0004】
一方、長期間の紫外線暴露による成型用積層フィルムの耐候性を向上させるために、成型用積層フィルムを構成する基材フィルムや樹脂層に紫外線吸収剤を含有させることが知られている(特許文献3、4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−184284号公報
【特許文献2】特開2011−148964号公報
【特許文献3】特開2011−126161号公報
【特許文献4】特開2011−126165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、紫外線暴露後の基材フィルムと樹脂層との密着力を向上させるために、あるいは特許文献4に開示されているように積層フィルムの耐候性を改良するために、樹脂層に紫外線吸収剤を含有させると、初期密着力が低下してしまう。特に、この問題は、樹脂層が成型加工性を有する場合(樹脂層がクラックを発生せずに10%以上伸びる機能(クラック伸度が10%以上)を有する場合)に起こりやすく、成型用積層フィルムにおいて重大な問題となる。
【0007】
従って、本発明の目的は、上記従来技術の問題に鑑み、成型加工適性を有し、かつ初期密着力と紫外線暴露後の密着力が共に改良された成型用積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、以下の発明によって基本的に達成された。
1)基材フィルム上にクラック伸度が10%以上の紫外線硬化性樹脂層を有する成型用積層フィルムであって、前記紫外線硬化性樹脂層が紫外線吸収剤を含有し、かつ紫外線硬化性樹脂層の透過スペクトルにおいて320〜350nmの波長域に透過率が5%以上の透過ピークを有することを特徴とする、成型用積層フィルム。
2)前記透過ピークの透過率が5%以上40%以下である、前記1)の成型用積層フィルム。
3)前記透過ピークを320〜340nmの波長域に有する、前記1)または2)の成型用積層フィルム。
4)前記紫外線吸収剤がトリアジン系紫外線吸収剤である、前記1)〜3)のいずれかの成型用積層フィルム。
5)前記トリアジン系紫外線吸収剤が一般式1で表される化合物である、前記4)のいずれかの成型用積層フィルム。
【0009】
【化1】

【0010】
式中、R〜Rはそれぞれ独立的に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。
6)前記トリアジン系紫外線吸収剤が一般式2で表される化合物である、前記4)または5)の成型用積層フィルム。
【0011】
【化2】

【0012】
式中、R、R、Rはそれぞれ独立的に、ヒドロキシ基、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表し、R、R、R、Rはそれぞれ独立的に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、成型加工適性を有し、かつ、初期密着力と紫外線暴露後の密着力が共に改良された成型用積層フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の成型用積層フィルムにおける紫外線硬化性樹脂層の透過スペクトルの一例を示す。
【図2】図2は、実施例1〜3および比較例1における紫外線硬化性樹脂層の透過スペクトルを表す。
【図3】図3は、比較例2〜5における紫外線硬化性樹脂層の透過スペクトルを表す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の成型用積層フィルム(以下、積層フィルムと略記する)は、基材フィルム上にクラック伸度が10%以上の紫外線硬化性樹脂層を有する。ここで、クラック伸度とは、積層フィルムの片側を固定して引張速度50mm/minで積層フィルムを引っ張ったときに、紫外線硬化性樹脂層にクラックが発生するときの伸び率である。
【0016】
従来から一般的に知られているハードコートフィルムは、ハードコート層の硬度が高く設定されているためクラック伸度は小さく(通常5%以下)、成型用には通常用いられない。
本発明の紫外線硬化性樹脂層はクラック伸度が10%以上であるので、成型加工適性を有する。本発明の紫外線硬化性樹脂層のクラック伸度は、15%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、特に25%以上が好ましい。上限は250%以下が好ましく、200%以下がより好ましく、特に150%以下が好ましい。
【0017】
紫外線硬化性樹脂層のクラック伸度が10%未満であると成型加工性が劣り、一方、クラック伸度が250%以上となると紫外線硬化性樹脂層の硬度が不足して傷が入りやすくなる。
【0018】
[紫外線硬化性樹脂層]
本発明における紫外線硬化性樹脂層は、紫外線吸収剤を含有し、かつ紫外線硬化性樹脂層の透過スペクトルにおいて320〜350nmの波長域に透過率が5%以上の透過ピークを有する。
【0019】
本発明における紫外線硬化性樹脂層の透過スペクトルは、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に紫外線硬化性樹脂層が積層された状態で測定された透過スペクトルである。
【0020】
一般的なポリエチレンテレフタレートフィルムは、400〜320nmの紫外線領域には、紫外線硬化性樹脂層の透過スペクトルに実質的に影響与えるような吸収を有しないので、本発明では上記の測定法で得られた透過スペクトルを紫外線硬化性樹脂層の透過スペクトルとする。
【0021】
本発明における紫外線硬化性樹脂層の特徴的な透過スペクトルについて、図1を参照して説明する。図1は、本発明の積層フィルムにおける紫外線硬化性樹脂層の透過スペクトルの一例を示す。
【0022】
紫外線硬化性樹脂層に紫外線吸収剤を含有させることによって、400nm以下の紫外線領域の透過率が急激に大きく低下する。そして、本発明の透過スペクトルの特徴は、320〜350nmの波長域に透過率が5%以上の透過ピーク(符号1)を有する。
【0023】
本発明において、320〜350nmの波長域に透過率が5%以上の透過ピークを有するとは、透過ピークの波長から370nmの波長域に、透過ピークの透過率より1%以上小さい透過率の領域(ボトム;符号2)を有することを意味する。
【0024】
紫外線硬化性樹脂層に紫外線吸収剤を含有させることによって紫外線暴露後の密着力が向上し、更に紫外線硬化性樹脂層に上記したような本発明の特徴的な透過スペクトルを付与することによって初期密着力が向上する。
一般的には、紫外線硬化性樹脂層の紫外線照射による硬化反応は、紫外線硬化性樹脂層に紫外線吸収剤を含有させることにより低下する。しかしながら、上記した本発明の特徴的な透過スペクトルを付与することにより硬化反応の低下が抑制され、その結果、十分な初期密着力が確保できると推測される。
【0025】
本発明の紫外線硬化性樹脂層における透過スペクトルにおいて、透過ピークは320〜340nmの波長域に存在することが好ましく、特に325〜335nmの波長域に存在することが好ましい。
【0026】
透過ピークの透過率は、7%以上がより好ましく、8%以上がより好ましく、更に9%以上が好ましく、特に10%以上が好ましい。透過ピークの上限の透過率は40%以下が好ましく、30%以下がより好ましい。透過ピークの透過率が40%を越えると、紫外線暴露後の密着力が低下する場合がある。
【0027】
本発明の紫外線硬化性樹脂層における透過スペクトルにおいて、透過ピークとボトムの透過率差は2%以上が好ましく、3%以上がより好ましく、特に4%以上が好ましい。上記差の上限は15%以下が好ましく、10%以下が好ましい。
【0028】
紫外線硬化性樹脂層に前述した本発明の特徴的な透過スペクトルを付与するには、紫外線吸収剤の種類と添加量を選択する必要がある。紫外線吸収剤として従来から一般的に知られているベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤やベンゾフェノン系紫外線吸収剤では、本発明の特徴的な透過スペクトルは得られにくい。一方、トリアジン系紫外線吸収剤の中に本発明の特徴的な透過スペクトルを付与するものがあることが分かった。
【0029】
従って、紫外線硬化性樹脂層に含有させる紫外線吸収剤は、トリアジン系紫外線吸収剤の中から選択することが好ましい。特に、下記一般式1で表されるトリアジン系紫外線吸収剤の中から選択することが好ましい。
【0030】
【化1】

【0031】
式中、R〜Rはそれぞれ独立的に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。
【0032】
上記一般式1の中でも、特に下記の一般式2の化合物が好ましい。
【0033】
【化2】

【0034】
式中、R、R、Rはそれぞれ独立的に、ヒドロキシ基、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表し、R、R、R、Rはそれぞれ独立的に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。
【0035】
一般式2の中でも、R、R、Rはそれぞれ、炭素数が1〜12のアルコキシ基であることが好ましい。
【0036】
上記一般式1もしくは一般式2で表されるトリアジン系紫外線吸収剤を以下に例示する。
2,4−ビス(2−ヒドロキシ−4−ブチロキシフェニル)−6−(2,4−ビス−ブチロキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、
2,4−ビス((4−(2−エチル−ヘキシルオキシ)−2−ヒドロキシ)−フェニル))−6−(4−メトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、
2,4−ビス(2,4−ジヒドロキシフェニル)−6−(4−メトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、
2,4−ビス((4−(3−(2−プロピルオキシ)−2−ヒドロキシ−プロピルオキシ)−2−ヒドロキシ)−フェニル)−6−(4−メトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、
2,4−ビス(2−ヒドロキシ−4−オクトキシフェニル−6−(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、
2,4−ビス(2−ヒドロキシ−4−プロピルオキシフェニル)−6−(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、
2−フェニル−4,6−ビス(2−ヒドロキシ−4−(3’−(メトキシヘプタエトキシ)−2’−ヒドロキシプロポキシ)−フェニル)−1,3,5−トリアジン、
2−フェニル−4,6−ビス(2−ヒドロキシ−4−((メトキシトリエトキシカルボニル)−2−エトキシ)−フェニル)−1,3,5−トリアジン、
2−(4’−メトキシフェニル)−4,6−ビス(2’−ヒドロキシ−4’−n−オクチルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン。
【0037】
紫外線吸収剤の添加量は、紫外線硬化性樹脂層の固形分総量100質量%に対して8質量%以下の範囲で選択することが好ましく、7質量%以下の範囲で選択することが好ましく、特に5質量%以下の範囲で選択することが好ましい。下限の添加量は、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、特に1.5質量%以上が好ましい。
【0038】
紫外線吸収剤の添加量が8質量%を越えると、本発明の特徴的な透過スペクトルを付与できず、初期密着力が低下することがある。また、紫外線吸収剤の添加量が8質量%を越えると、紫外線吸収剤がブリードアウトするという不都合や耐擦傷性が低下するという不都合が生じることがある。
【0039】
紫外線吸収剤の添加量が0.5質量%未満であると、本発明の特徴的な透過スペクトルを付与できず、紫外線暴露後の密着力が低下することがある。
【0040】
本発明の紫外線硬化性樹脂層は、紫外線硬化性樹脂組成物に紫外線を照射することによって硬化せしめた層である。
【0041】
紫外線硬化性樹脂層を構成する樹脂としては、(メタ)アクリロイル基等の重合性二重結合基を有するポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等のオリゴマー、プレポリマー、モノマー等のラジカル重合性化合物が挙げられる。
【0042】
これらの中でも、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーもしくはモノマーが好ましく用いられる。ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーもしくはモノマーとしては、具体的には、共栄社化学社製のAT−600、UA−101l、UA−306H、UA−306T、UA−306l、UF−8001、UF−8003等、日本合成化学社製のUV7550B、UV−7600B、UV−1700B、UV−6300B、UV−7605B、UV−7640B、UV−7650B等、新中村化学社製のU−4HA、U−6HA、UA−100H、U−6LPA、U−15HA、UA−32P、U−324A、U−2PPA、UA−NDP等、ダイセルユーシービー社製のEbecryl−270、Ebecryl−284、Ebecryl−264、Ebecryl−9260、Ebecryl−1290、Ebecryl−1290K、Ebecryl−5129等、根上工業社製のUN−3220HA、UN−3220HB、UN−3220HC、UN−3220HS等、三菱レイヨン製のRQシリーズ、荒川化学工業製のビームセットシリーズ等が挙げられる。
【0043】
紫外線硬化性樹脂層は、光重合開始剤を含有することが好ましい。光重合開始剤としては、例えば、イソプロピルベンゾインエーテル、イソブチルベンゾインエーテル、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、o−ベンゾイルメチルベンゾエート、アセトフェノン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、エチルアントラキノン、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1,ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、メチルベンジルホルメートなどが挙げられる。
【0044】
また、光重合開始剤は一般に市販されており、それらを使用することができる。例えば、
チバ・スペシャリティー・ケミカルズ(株)製のイルガキュア907、イルガキュア379、イルガキュア819、イルガキュア127、イルガキュア500、イルガキュア754、イルガキュア250、イルガキュア1800、イルガキュア1870、イルガキュアOXE01、DAROCUR TPO、DAROCUR1173等、日本シイベルヘグナー(株)製のSpeedcureMBB、SpeedcurePBZ、SpeedcureITX、SpeedcureCTX、SpeedcureEDB、Esacure ONE、Esacure KIP150、Esacure KTO46等、日本化薬(株)製のKAYACURE DETX−S、KAYACURE CTX、KAYACURE BMS、KAYACURE DMBI等が挙げられる。
【0045】
光重合開始剤の含有量は、紫外線硬化性樹脂層の固形分総量100質量%に対して0.1〜10質量%の範囲が適当であり、0.5〜8質量%の範囲が好ましい。
【0046】
紫外線硬化性樹脂層には、更に、酸化防止剤、光安定剤、無機粒子、有機粒子、滑剤、帯電防止剤等を含有させることができる。
【0047】
本発明における紫外線硬化性樹脂層の厚みは、1〜30μmの範囲が好ましく、2〜15μmの範囲がより好ましく、特に3〜10μmの範囲が好ましい。
【0048】
[基材フィルム]
本発明における基材フィルムの材料は、特に限定される物ではないが、ポリエステル(例、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなど)、ポリメチルメタクリレート、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、トリアセチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、金属イオン架橋エチレン−メタクリル酸共重合体、ポリウレタン、セロファン等が挙げられる。好ましくは、熱、溶剤、折り曲げ等の加工時の負荷に対する耐性が高く、透明性が特に高い点で、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート等が挙げられ、より好ましくは、加工性に優れている点でポリエチレンテレフタレートが使用される。
【0049】
本発明における基材フィルムは、透明であることが好ましい。ここでいう透明とは、JISK7136(2000年版)に定める全光線透過率が70%以上であり、ヘイズが3.0%以下のものをいう。
【0050】
本発明における基材フィルムの厚みは、50〜250μmの範囲が好ましく、75〜200μmの範囲がより好ましい。
【0051】
基材フィルムとしてポリエチレンテレフタレートフィルムを用いる場合は、紫外線硬化性樹脂層を積層する面に易接着層を有するポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。易接着層を有するポリエチレンテレフタレートフィルムを用いることにより、基材フィルムと紫外線硬化性樹脂層との密着力を更に強化することができる。
【0052】
易接着層は、樹脂成分と架橋剤とを主成分とすることが好ましい。樹脂成分としてはポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂が挙げられ、架橋剤としては、メラミン系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、アジリジン系架橋剤、エポキシ系架橋剤が挙げられる。
【0053】
易接着層は、更に易滑性向上のために、無機微粒子を含有することが好ましい。無機微粒子としては、コロイダルシリカが好ましく用いられる。
【0054】
易接着層の厚みは、5〜300nmの範囲が好ましく、10〜250nmの範囲がより好ましく、特に15〜200nmの範囲が好ましい。
【0055】
[積層フィルム]
本発明の積層フィルムには、基材フィルムと紫外線硬化性樹脂層易接着層との間、紫外線硬化性樹脂層の上、あるいは基材フィルムの紫外線硬化性樹脂層が積層された面とは反対面に、帯電防止層、耐摩耗性層、反射防止層、色補正層、印刷層、透明導電層、ガスバリア層、ホログラム層、剥離層、粘着層、接着層などの機能性層を積層してもよい。
【0056】
また、本発明の積層フィルムは加飾成型やインモールド成型に好適であり、携帯電話、ノートパソコンの筐体の外装用フィルムとして、あるいは携帯電話のアイコンシートとして好適である。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。尚、実施例で用いた各物性値の評価法を以下に記載する。
【0058】
(1)透過スペクトル
ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に紫外線硬化性樹脂層が積層された積層フィルムを作製し、常温で1日保管してから、島津製作所製の分光光度計(U−3410)にて波長300〜800nmの範囲で透過スペクトルを測定した。
実施例および比較例の積層フィルムは、いずれも基材フィルムがポリエチレンテレフタレートフィルムなので、作製した積層フィルムを常温で1日保管したものを、そのまま透過スペクトル測定用のサンプルとした。
【0059】
(2)密着力
実施例および比較例で作製した積層フィルムを5cm×5cmに切り出して試験サンプルとした。23℃、45%RHの雰囲気下で、この試験サンプルの紫外線硬化性樹脂層上に、縦方向と横方向にそれぞれ1mm間隔の直線状カットを11本入れて1mmのクロスカットマス目を100個作製した。このクロスカットマス目上にニチバン(株)製セロハンテープを貼り付けた後、セロハンテープを180度方向に剥離し、紫外線硬化性樹脂層の残存した個数により以下の基準で評価した。
1級:100個残存
2級:90〜99個残存
3級:0〜89個残存
1級と2級は実用上問題なく、3級は実用上問題となるレベルである。
【0060】
<初期密着力>
実施例および比較例で作製した積層フィルムを常温で1日保管後に上記方法で密着力を評価した。
【0061】
<紫外線暴露後の密着力>
実施例および比較例で作製した積層フィルムを常温で1日保管後、紫外線蛍光ランプ式耐光性試験機(Q−Panel社製の「QUV」;紫外線蛍光ランプUVA340nmを搭載)を使用して、下記条件での紫外線照射と紫外線未照射とを8サイクル繰り返し行って、積層フィルムに紫外線を照射した。その後積層フィルムを試験機から取り出し、23℃−45%RHの雰囲気下で60分間放置した後、上記方法で密着力を評価した。
・紫外線照射時の条件;63℃−50%RHの雰囲気下で8時間紫外線を照射。
・紫外線未照射時の条件;50℃−100%RHの雰囲気下で紫外線を照射せず4時間放置。
【0062】
(3)クラック伸度
実施例および比較例で作製した積層フィルムを常温で1日保管後、長さ110mm×幅20mmの短形に切り出して試験サンプルを作製した。引張試験機(島津製作所製の「オートグラフAGS−500NX」)を用いて、チャック間距離50mm、引張速度50mm/minで、目視にて紫外線硬化性樹脂層のクラック発生状態を確認しながら引張試験を行った。クラックが発生したときの伸度をクラック伸度とした。それぞれ5回測定し、平均した。
【0063】
(実施例1)
易接着層を有する厚み100μmポリエチレンテレフタレートフィルムの易接着層を有する面に、下記の紫外線硬化性樹脂層形成用組成物をグラビアコーターで塗工し、90℃で熱風乾燥した後、紫外線(積算光量400mJ/cm)を照射して厚みが5μmの紫外線硬化性樹脂層を形成し、積層フィルムを得た。
<紫外線硬化性樹脂層形成用組成物>
荒川化学工業(株)製のUV硬化性ハードコーティング剤「ビームセット1200」に、紫外線吸収剤として2,4−ビス(2−ヒドロキシ−4−ブチロキシフェニル)−6−(2,4−ビス−ブチロキシフェニル)−1,3,5−トリアジンを、紫外線硬化性樹脂層の固形分総量100質量%に対して2.4質量%となるように添加して、紫外線硬化性樹脂層形成用組成物を調製した。
【0064】
(実施例2)
紫外線吸収剤の添加量を5質量%に変更する以外は、実施例1と同様にして紫外線硬化性樹脂層形成用組成物を調製し、実施例1と同様にして積層フィルムを作製した。
【0065】
(実施例3)
下記の紫外線硬化性樹脂層形成用組成物に変更する以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを作製した。
<紫外線硬化性樹脂層形成用組成物>
大日精化工業(株)製の紫外線硬化型樹脂「セイカビーム IL−PC2」に、紫外線吸収剤として2,4−ビス(2−ヒドロキシ−4−ブチロキシフェニル)−6−(2,4−ビス−ブチロキシフェニル)−1,3,5−トリアジンを、紫外線硬化性樹脂層の固形分総量100質量%に対して2.4質量%となるように添加して、紫外線硬化性樹脂層形成用組成物を調製した。
【0066】
(比較例1)
紫外線吸収剤の添加量を9質量%に変更する以外は、実施例1と同様にして紫外線硬化性樹脂層形成用組成物を調製し、実施例1と同様にして積層フィルムを作製した。
【0067】
(比較例2)
下記の紫外線硬化性樹脂層形成用組成物に変更する以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを作製した。
<紫外線硬化性樹脂層形成用組成物>
荒川化学工業(株)製のUV硬化性ハードコーティング剤「ビームセット1200」に、紫外線吸収剤として2−[4−{2−ヒドロキシ−3−(2’−エチル)へキシルオキシ}−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジンを、紫外線硬化性樹脂層の固形分総量100質量%に対して4.8質量%となるように添加して、紫外線硬化性樹脂層形成用組成物を調製した。
【0068】
(比較例3)
下記の紫外線硬化性樹脂層形成用組成物に変更する以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを作製した。
<紫外線硬化性樹脂層形成用組成物>
荒川化学工業(株)製のUV硬化性ハードコーティング剤「ビームセット1200」に、紫外線吸収剤として2−(2−ヒドロキシ−5−tブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールを、紫外線硬化性樹脂層の固形分総量100質量%に対して4.8質量%となるように添加して、紫外線硬化性樹脂層形成用組成物を調製した。
【0069】
(比較例4)
下記の紫外線硬化性樹脂層形成用組成物に変更する以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを作製した。
<紫外線硬化性樹脂層形成用組成物>
荒川化学工業(株)製のUV硬化性ハードコーティング剤「ビームセット1200」に、紫外線吸収剤として2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールを、紫外線硬化性樹脂層の固形分総量100質量%に対して9質量%となるように添加して、紫外線硬化性樹脂層形成用組成物を調製した。
【0070】
(比較例5)
下記の紫外線硬化性樹脂層形成用組成物に変更する以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを作製した。
<紫外線硬化性樹脂層形成用組成物>
日本化薬(株)製のアクリル系ハードコート剤「KAYANOVA FOP−1700」に、紫外線吸収剤として2−[4−{2−ヒドロキシ−3−(2’−エチル)へキシルオキシ}−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジンを、紫外線硬化性樹脂層の固形分総量100質量%に対して4.8質量%となるように添加して、紫外線硬化性樹脂層形成用組成物を調製した。
【0071】
<評価>
実施例および比較例で作製した積層フィルムについて、クラック伸度、密着力、透過スペクトルを測定し評価した。その結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
また、実施例1〜3、および比較例1〜5の透過スペクトルを図2、3に示す。本発明の実施例1〜3の透過スペクトルには、波長域320〜350nmに透過率が5%以上の透過ピークが存在する。
【0074】
具体的には実施例1、3の透過スペクトルは、329nmに透過率が25%の透過ピークを有し、波長347nmに透過率が20%のボトムを有する。実施例2の透過スペクトルは、327nmに透過率が10%の透過ピークを有し、波長349nmに透過率が5%のボトムを有する。
【0075】
このような透過スペクトルを有する実施例1〜3は、初期密着力と紫外線暴露後の密着力がともに良好であった。
【0076】
一方、比較例1の透過スペクトルは324nm透過ピークが存在するが、透過率が2%であり、本発明の特徴的な透過スペクトルは付与されなかった。その結果、初期密着力が低下した。
【0077】
比較例2〜4には、本発明の特徴的な透過スペクトルは付与されなかった。その結果、比較例2〜4はいずれも初期密着力が低下した。比較例4は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の添加量が9質量%と比較的多く、紫外線暴露後の密着力も低下した。
【0078】
比較例5の紫外線硬化性樹脂層は硬度の高い一般的なハードコート層であり、クラック伸度が10%未満であった。比較例5の紫外線硬化性樹脂層(ハードコート層)には本発明の特徴的な透過スペクトルは付与されていなかったが、初期密着力は問題なかった。このことから、紫外線硬化性樹脂層が紫外線吸収剤を含有するときの初期密着力の低下は、通常の高硬度でクラック伸度が小さいハードコート層の場合はあまり問題とはならず、紫外線硬化性樹脂層のクラック伸度が10%以上と大きい場合に問題となり易いことが分かる。
【符号の説明】
【0079】
1 透過ピーク
2 ボトム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム上にクラック伸度が10%以上の紫外線硬化性樹脂層を有する成型用積層フィルムであって、前記紫外線硬化性樹脂層が紫外線吸収剤を含有し、かつ紫外線硬化性樹脂層の透過スペクトルにおいて320〜350nmの波長域に透過率が5%以上の透過ピークを有することを特徴とする、成型用積層フィルム。
【請求項2】
前記透過ピークの透過率が5%以上40%以下である、請求項1の成型用積層フィルム。
【請求項3】
前記透過ピークを320〜340nmの波長域に有する、請求項1または2の成型用積層フィルム。
【請求項4】
前記紫外線吸収剤がトリアジン系紫外線吸収剤である、請求項1〜3のいずれかの成型用積層フィルム。
【請求項5】
前記トリアジン系紫外線吸収剤が一般式1で表される化合物である、請求項4の成型用積層フィルム。
【化1】

式中、R〜Rはそれぞれ独立的に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。
【請求項6】
前記トリアジン系紫外線吸収剤が一般式2で表される化合物である、請求項4または5の成型用積層フィルム。
【化2】

式中、R、R、Rはそれぞれ独立的に、ヒドロキシ基、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表し、R、R、R、Rはそれぞれ独立的に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−56424(P2013−56424A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194532(P2011−194532)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000222462)東レフィルム加工株式会社 (142)
【Fターム(参考)】