説明

成形体、その製造方法、光学部材および光学素子

【課題】 熱可塑性樹脂と、金属酸化物微粒子を含有する有機無機複合体組成物からなる熱膨張係数が小さい成形体、光学部材を提供する。
【解決手段】 熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂に対して5.0体積%以上60.0体積%以下の金属酸化物微粒子を含有する有機無機複合組成物からなる成形体(0)に電子線を照射して得られた成形体(1)からなり、前記成形体(1)の熱膨張係数αC1と、前記熱可塑性樹脂と金属酸化物微粒子の有機無機複合組成物の加成性に則る熱膨張係数αC0とが下記の式(1)を満たし、且つ、式(1)の熱膨張変化係数βが0.70≦β≦0.95の範囲である成形体、および前記成形体からなる光学部材。
式(1) αC1=β・αC0

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機無機複合組成物からなる熱膨張係数の低い成形体、例えばカメラ等のレンズとして有用な成形体、その製造方法、光学部材およびその光学部材を用いた光学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に物質は加熱により膨張するが、有機物質の熱膨張係数は無機物質と比較して大きいことが知られている。例えばカメラ等のレンズに代表される精密光学系に有機樹脂から成る部材を使用する場合、上記の熱膨張による部材の寸法変化が光学系の位置ずれを引き起こす原因となり得る。この寸法変化の課題を解決すべく、従来は有機樹脂中にナノオーダーの無機微粒子を均一に分散させて有機無機複合組成物とすることで、熱膨張係数の低減を図ってきた。
【0003】
例えば、特許文献1には、熱可塑性樹脂中に無機微粒子を含有させることにより、熱膨張係数を低減した無機有機複合熱可塑性材料の製造方法が開示されている。
【0004】
また、上述したような材料に依存した熱膨張係数の低減に加えて、別の方法として有機樹脂と金属酸化物微粒子等を複合させた材料を用いて作製した成形体にエネルギー照射等の後処理をすることで、更に熱膨張係数の向上を図ることが行われている。
【0005】
例えば、特許文献2には、粒子径が20nmのシリカ超微粒子を、熱可塑性樹脂である不飽和基含有脂環式構造を有する重合体に5重量%分散させた材料を溶融成形して得たフィルムに、後処理として電子線を照射することで熱膨張係数を70×10−6/℃以下にする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−160779号公報
【特許文献2】特開2007−008994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法では、無機微粒子の添加量に比べて、熱膨張係数の低減効果が少なく、得られた無機有機複合熱可塑性材料を精密光学系の光学部材として用いるには不十分である。具体的には熱可塑性樹脂に無機微粒子を31重量%添加しているにもかかわらず、熱膨張係数は最低でも55×10−6/℃と樹脂単体の熱膨張係数に比べて10%程度の低減効果しかない。そのために、添加した無機微粒子が熱膨張の低減に十分機能しているとは言いがたい。
【0008】
一方、架橋を目的に特定の強度の電子線を照射する方法では、多くの熱可塑性樹脂の場合、電子線のエネルギーによる架橋より、分子鎖の断裂による分子構造の崩壊が優先的に発生し、むしろ熱膨張係数は上昇する。特許文献2に記載されているような不飽和基含有の熱可塑性樹脂中に金属酸化物の微粒子を数重量%分散させた材料系の場合、照射された電子線は比重の違いから金属酸化物微粒子に優先的に吸収され有機樹脂が受けるエネルギー量は少なくなる。しかし、この場合でも金属酸化物微粒子の添加量が少ないため、有機樹脂の崩壊が架橋構造の形成と同等若しくはそれ以上で発生するものとなり、その結果、熱膨張係数を低減させる効果は依然として不十分であった。
【0009】
本発明は、上記に記載した従来技術の実状を鑑みたものであり、熱可塑性樹脂と、金属酸化物微粒子を含有する有機無機複合体組成物からなる熱膨張係数が小さい成形体、その製造方法、光学部材、その光学部材を用いた光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決する成形体は、熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂に対して5.0体積%以上60.0体積%以下の金属酸化物微粒子を含有する有機無機複合組成物からなる成形体(0)に電子線を照射して得られた成形体(1)からなり、前記成形体(1)の熱膨張係数αC1と、前記熱可塑性樹脂と金属酸化物微粒子の有機無機複合組成物の加成性に則る熱膨張係数αC0とが下記の式(1)を満たし、且つ、式(1)の熱膨張変化係数βが0.70≦β≦0.95の範囲であることを特徴とする。
式(1) αC1=β・αC0
(式中、前記熱膨張係数αC0は、下記の式(2)および式(3)で表される。
式(2) αC0=(1−X)・αm0+X・αP0 (0.05≦X≦0.60)
式(3) αm1>αm0
αC1は熱可塑性樹脂と金属酸化物微粒子の有機無機複合組成物の成形体(0)に電子線を照射した成形体(1)の熱膨張係数を示す。
αC0は熱可塑性樹脂と金属酸化物微粒子の有機無機複合組成物の加成性に則る熱膨張係数を示す。
αm0は熱可塑性樹脂単体の成形体の熱膨張係数を示す。
αm1は熱可塑性樹脂単体の成形体に電子線を照射したものの熱膨張係数を示す。
αP0は金属酸化物微粒子の熱膨張係数を示す。
βは有機無機複合組成物からなる成形体に電子線を照射した前後の熱膨張変化係数を示す。
Xは熱可塑性樹脂に対する金属酸化物微粒子の体積分率を示す。)
【0011】
上記の課題を解決する成形体の製造方法は、熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂に対して5.0体積%以上60.0体積%以下の金属酸化物微粒子を含有する有機無機複合組成物からなる成形体(0)に、電子線を照射して成形体(1)を得る工程を有し、前記電子線を照射する際の成形体(0)の温度TEBが下記の式(4)を満たすように制御されていることを特徴とする。
(式4) T−70≦TEB≦T+20
(式中、Tは熱可塑性樹脂のガラス転移温度を示す。)
【0012】
上記の課題を解決する光学部材は、上記の成形体からなることを特徴とする光学部材である。
上記の課題を解決する光学素子は、上記の光学部材を用いたことを特徴とする光学素子である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、熱可塑性樹脂と、金属酸化物微粒子を含有する有機無機複合体組成物からなる熱膨張係数が小さい成形体、その製造方法、光学部材、その光学部材を用いた光学素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
本発明に係る成形体は、熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂に対して5.0体積%以上60.0体積%以下の金属酸化物微粒子を含有する有機無機複合組成物からなる成形体(0)に電子線を照射して得られた成形体(1)からなり、前記成形体(1)の熱膨張係数αC1と、前記熱可塑性樹脂と金属酸化物微粒子の有機無機複合組成物の加成性に則る熱膨張係数αC0とが下記の式(1)を満たし、且つ、式(1)の熱膨張変化係数βが0.70≦β≦0.95の範囲であることを特徴とする。
式(1) αC1=β・αC0
式(1)において、αC1は熱可塑性樹脂と金属酸化物微粒子の有機無機複合組成物の成形体(0)に電子線を照射した成形体(1)の熱膨張係数を示す。
αC0は熱可塑性樹脂と金属酸化物微粒子の有機無機複合組成物の加成性に則る熱膨張係数を示す。
βは有機無機複合組成物からなる成形体に電子線を照射した前後の熱膨張変化係数を示す。熱膨張変化係数βは、0.70≦β≦0.95の範囲が望ましい。本発明の成形体は、βが0.70≦β≦0.95の範囲であることにより、熱膨張係数が小さい成形体となる。本発明の有機無機複合組成物からなる成形体に電子線を照射することで、該成形体の熱膨張係数が電子線照射前より低下することができる。
【0016】
式(1)中、前記熱膨張係数αC0は、下記の式(2)および式(3)で表される。
式(2) αC0=(1−X)・αm0+X・αP0 (0.05≦X≦0.60)
式(3) αm1>αm0
式(2)において、熱可塑性樹脂と金属酸化物微粒子からなる有機無機複合組成物の熱膨張係数αC0は加成性に則り、熱可塑性樹脂および金属酸化物微粒子の熱膨張係数と、金属酸化物微粒子の体積分率Xに依存した値を示す。Xは熱可塑性樹脂に対する金属酸化物微粒子の体積分率を示す。なお、加成性に則りとは、式(2)に示すように、熱可塑性樹脂と金属酸化物微粒子の体積分率に応じて、線形的に有機無機複合組成物の熱膨張係数が変化する性質を示す。
αm0は熱可塑性樹脂単体の成形体の熱膨張係数を示す。
αP0は金属酸化物微粒子の熱膨張係数を示す。
【0017】
また式(3)中、αm1は熱可塑性樹脂単体の成形体に電子線を照射したものの熱膨張係数を示す。式(3)より本発明で用いる熱可塑性樹脂は、樹脂単体の成形体の熱膨張係数が電子線の照射前後で上昇する樹脂、即ち、樹脂単体に電子線を照射した場合、分子鎖の架橋より崩壊が優先的に進行する樹脂であることを示す。
【0018】
本発明における電子線を照射して得られた成形体(1)の熱膨張係数αC1が20℃から60℃の温度範囲において18×10−6/℃から63×10−6/℃であることが好ましい。
【0019】
本発明における熱可塑性樹脂は、電子線照射によって架橋より崩壊が優先的に進行する式(3)を満たす樹脂であれば特に制限されない。例えば、シクロオレフィンポリマー、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリイソブチレン、ポリαメチルスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリルアミド、ポリオキシメチレン、セルロース、ポリアラニンが挙げられる。
【0020】
上記熱可塑性樹脂中に金属酸化物微粒子を均一に分散させる工程を考慮すると、該熱可塑性樹脂は有機溶媒に溶解し、更には加工性を考慮すると熱溶融可能なことが好ましい。前記特性に加え、透明性、寸法安定性、低吸湿特性等の観点から判断すれば、シクロオレフィンポリマー、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネートのいずれかであり、特にシクロオレフィンポリマーがより好適である。
【0021】
シクロオレフィンポリマーとして、具体例を挙げれば、日本ゼオン株式会社のゼオネックス(480、480R、E48R、330R)、JSR株式会社のアートン(F5023、F4520、D4531F、D4531、D4532、FX4727)、三井化学株式会社のアペル(APL5014DP、APL6011T、APL6013T、APL6015T)が挙げられる。
【0022】
本発明における金属酸化物微粒子としては、比重が1.8から6.5のものが好ましい。上記の比重の金属酸化物は電子線の吸収が大きく、微粒子を分散させる媒体である熱可塑性樹脂への電子線の影響をより小さくすることができる。比重が1.8から6.5の金属酸化物微粒子を用いることで、電子線を効果的に吸収させることができ、熱膨張係数の上昇要因となる熱可塑性樹脂の分子鎖の崩壊をより緩和することができる。
【0023】
また金属酸化物微粒子の平均粒子径は2nmから50nmであることが好ましい。好ましくは2nmから30nmであり、更に好ましくは2nmから20nmである。金属酸化物微粒子の粒子径を2nmから50nmとすることで、成形体の透明性を確保しつつ、微粒子を介した架橋構造の形成を促すことができる。平均粒子径が大きすぎると有機樹脂と複合組成物にした場合、熱膨張係数の低減効果が失われる可能性がある。これは金属酸化物微粒子の表面積が減少し、微粒子を介した架橋構造の形成が少なくなることが原因と考えられる。また平均粒子径がより小さい方が微粒子を均一分散させた際、透明性を得られ易く、光学散乱は小さいものとなる。尚、金属酸化物微粒子の凝集によって光学散乱が悪化するのを避けるため、表面処理剤を用いて金属酸化物微粒子の分散性を制御してやることが好ましい。成形体の厚みが大きくなる程、微粒子の凝集による透明性や光学散乱への影響は顕著になる。
【0024】
金属酸化物微粒子の形状は特に限定されず、球状、楕円状、針状、棒状、不定形状等、いずれでも良く、目的に応じて適宜選択することができる。
【0025】
金属酸化物微粒子の添加量も、目的とする物性に応じて適宜選択することができる。金属酸化物微粒子は、熱可塑性樹脂の体積に対して5.0体積%以上60.0体積%以下の含有量とすることが好ましい。金属酸化物微粒子を前記範囲の含有量にすることで熱可塑性樹脂の分子鎖の崩壊を効果的に抑制、緩和することができる。透明性と光学散乱をより小さくするために、より好ましくは5.0体積%以上40.0体積%以下、更に好ましくは5.0体積%以上30.0体積%以下である。ここで本発明における金属酸化物微粒子の含有量とは、熱量計測定装置(TGA)により成形体を800℃まで昇温した際に得られる残存重量パーセントを体積分率に換算した数値を指すものとする。
【0026】
金属酸化物微粒子の種類は特に制限はなく、具体的にはシリカ、ジルコニア、アルミナ、チタニア、ITO等が挙げられる。金属酸化物微粒子は一種類のみの組成からなる単一粒子でも、複数の組成からなる複合粒子でも良い。またコアシェル構造のように、例えばコア部がジルコニアでシェル部がシリカで形成されているものでも良く、その構成に制限はない。上記金属酸化物微粒子は、種類、構成を一種類で用いても良く、複数の金属酸化物微粒子を併用しても良い。
【0027】
金属酸化物微粒子の表面処理剤としては、特に熱可塑性樹脂中で金属酸化物微粒子を均一分散させることができ、また電子線照射により分子鎖の崩壊より架橋が優先して生じるものが好ましい。具体的にはジシクロペンテニルアクリレート、トリシクロデカンジメタノールアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリスアクリロキシエチルイソシアヌレート、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0028】
表面処理剤は一種類で用いても良く、複数の表面処理剤を併用しても良い。併用することで、微粒子の均一分散と電子線による架橋の機能を別々の表面処理剤で付与させることもできる。
【0029】
<有機無機複合組成物の調製>
以下、有機無機複合組成物の調製方法を記載する。本発明にかかる成形体の作製にあたり、有機無機複合組成物の調製方法として、予め熱可塑性樹脂に所定量の金属酸化物微粒子および表面処理剤等を配合する方法を用いる。前記有機無機複合組成物は、まず熱可塑性樹脂を溶媒に溶解させ、その後、金属酸化物微粒子と必要に応じて表面処理剤等を添加し、十分に均一分散させた後、溶媒を除去することで得られる。
【0030】
まず有機無機複合組成物を調製する工程を記載する。所定の溶媒中に熱可塑性樹脂を完全に溶解させ、熱可塑性樹脂が溶解した溶液を調製する。溶媒は使用する熱可塑性樹脂を溶解できるものであれば特に制限はなく、例えばアセトン、トルエン、キシレン、テトラリン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、酢酸エチル、酢酸ブチル、ジメチルホルムアミド、シクロヘキサン等が挙げられるが、最終的に溶媒の除去を行うため、使用する溶媒は比較的沸点の低いものが好ましい。
【0031】
続いて熱可塑性樹脂が溶解した溶液に、金属酸化物微粒子、必要に応じて表面処理剤等を混合する。混合の仕方として、金属酸化物微粒子、表面処理剤等を直接、熱可塑性樹脂が溶解した溶液に混合することができる。または予め、金属酸化物微粒子、表面処理剤等を前記溶液と同種の溶媒、または相溶性の良い異なった溶媒、若しくはそれらの混合溶媒に分散させた金属酸化物微粒子等含有溶液を調整し、熱可塑性樹脂の溶解した溶液に混合することもできる。目的、用途に応じて表面処理剤の他、離型剤、酸化防止剤、難燃剤、粘度調整剤等を添加することもできる。溶媒の量は任意とし、最終的に除去可能であれば適宜追加しても構わない。金属酸化物微粒子は予め所定の表面処理剤で処理しておいても良い。熱可塑性樹脂が溶解した溶液と金属酸化物微粒子等を混合した後、ホモジナイザーや超音波処理機、ビーズミミル、ディスクミル等の分散装置により混合溶液を均一分散化することが望ましい。それにより最終的に得られる成形体の光学散乱をより低くすることができる。
【0032】
次に前記混合溶液中の溶媒の除去をする。溶媒はエバポレーター等の減圧溶媒留去ができる装置を用いて除去する。必要に応じて加熱することもできる。残留溶媒は成形体の熱膨張係数を高くさせる要因となるため、加熱、減圧等により残留溶媒の量を可能な限り減らす必要がある。具体的には残留溶媒を全体の質量に対して1.5重量%以下、望ましくは0.5重量%以下に制御することが望ましい。
【0033】
以上により溶媒を除去することで、成形体を作製する有機無機複合組成物を得ることができる。
【0034】
<成形体(0)の作製>
次に、上記で得られた有機無機複合組成物を用いて成形体(0)を作製する工程を説明する。有機無機複合組成物は所望の成形用金型を用いた射出成形やヒートプレス成形等の手法を用いて、加熱下で加圧することで任意の形状に加工された成形体(0)となる。成形時の温度は低すぎると所望の形状の成形体(0)を作製できず、高すぎると樹脂成分の分解等によって熱膨張係数が上昇する原因となることがある。そのため熱可塑性樹脂の熱物性に応じて150から300℃の範囲で適宜調整する。成形圧力は特に限定されないが、所望の形状を転写させるために50MPa以上であることが好ましい。より精密な形状を転写させる場合は、100MPa以上であることが好ましい。目的とする形状、転写精度に応じて成形圧力を適宜調整することが必要である。
【0035】
成形体(0)は用途に応じて厚みを調整することが必要であり、例えばカメラレンズ等の光学部材を目的とした場合、厚い部分は0.5mmから15mmの範囲に加工できることが好ましい。
【0036】
以下、具体的にヒートプレス成形をする場合の工程を記載する。熱膨張係数の評価には、5×5×5mm角(以下、5mm角)、10×10×10mm角(以下、10mm角)の立方体形状に加工された成形体(0)を用いる。まず所定サイズのヒートプレス成形用金型の表面に離型剤としてノベック−1720(住友スリーエム社製)を塗布してよく拭き取る。続いて窒素雰囲気の条件下にてヒートプレス成形用金型を所定の温度に加熱、保持後、成形対象の材料をプレス成形用金型内に充填する。充填した材料が金型温度と同程度の温度に十分に温まったところで、所定の圧力でプレスする。そのまま10分保持後、温度と圧力を徐々に下げていき、室温になったところで成形用金型から離型し、成形体(0)を得る。
【0037】
<本発明の成形体の製造方法>
本発明に係る成形体の製造方法は、熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂に対して5.0体積%以上60.0体積%以下の金属酸化物微粒子を含有する有機無機複合組成物からなる成形体(0)に、電子線を照射して成形体(1)を得る工程を有し、前記電子線を照射する際の成形体(0)の温度TEBが下記の式(4)を満たすように制御されていることを特徴とする。
(式4) T−70≦TEB≦T+20
(式中、Tは熱可塑性樹脂のガラス転移温度を示す。)
【0038】
以下に成形体(0)に電子線を照射することにより成形体(1)を製造する方法について説明する。電子線の線量は20kGyから300kGyであり、より好ましくは30kGyから150kGyである。ここで線量とは電子線に照射されている物質が単位質量あたりに吸収したエネルギー量を示す。例えば1kgの物質中に1Jのエネルギーを吸収した量を1kGyと表す。即ち、線量の数値は照射する対象物への影響度、効果を表す。
【0039】
また加速電圧は1000kVから5000kVであり、より好ましくは1000kVから3000kVである。ここで加速電圧は物質への電子線の浸透深さに影響する。即ち、加速電圧の数値が大きい程、線量の数値に関わらず照射する対象物への影響度、効果は大きくなる。より厚みが大きい物ほど、加速電圧を大きくして電子線の浸透深さを大きくすることで、膜厚方向で均一な物性が得られる。
【0040】
電子線照射時の成形体の温度は特に制限されないが、式(4)を満たすように制御されていることが好ましい。
(式4) T−70≦TEB≦T+20
式4中、TEBは電子線照射時の成形体の温度、Tは熱可塑性樹脂のガラス転移温度を示す。照射時の温度は架橋反応を促進させる上で重要なものであり、そのため温度が低すぎると熱膨張係数の低減の効果が得られにくく、高すぎると成形体の形が変形する。また電子線を照射するにあたり、照射時の成形体の温度上昇を考慮する必要がある。例えばポリエチレンテレフタレートを照射する場合を説明する。照射による上昇温度は、下記の式で表される。
上昇温度(K)=線量(kGy)/比熱(kJ・kg−1・K−1
【0041】
ポリエチレンテレフタレートの比熱は約1.05なので、線量100kGyの照射で約95℃の温度上昇となり、ポリエチレンテレフタレートのTを超えてしまう。それにより形状の変形を引き起こす。このような場合は低線量で分割照射をすることで必要以上の温度上昇を回避できる。例えば50kGyで二回照射することでT以下に上昇温度を制御できる。
【0042】
電子線を照射する際の成形体(0)の周囲は不活性ガスの雰囲気であることが好ましい。電子線による硬化の際、酸素の存在によりラジカル反応が停止し、架橋反応を妨げることが想定されるからである。特に加熱下では酸素の存在による酸化から樹脂の黄変も懸念されるため、透明性を要求する成形体の場合には不活性ガス雰囲気下での照射が好ましい。具体的には窒素ガス、アルゴンガスのいずれかの雰囲気に制御することが望ましい。通常、安価である点から、窒素ガス雰囲気下での照射が好適である。
【0043】
以上の工程により、本発明にかかる有機無機複合組成物から作製される熱膨張係数の低い成形体(1)を得ることができる。本発明の成形体の厚みは0.5mmから15mmであることが好ましい。
【0044】
本発明に係る光学部材は、上記の成形体からなることを特徴とする光学部材である。光学部材の具体例としては、レンズ、ミラー、フィルター、プリズム、ファイバー、基板等が挙げられる。
【0045】
本発明に係る光学素子は、上記の光学部材を用いたことを特徴とする光学素子である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例および比較例を示して、本発明を説明する。
【0047】
(実施例1)
<有機無機複合組成物の調製>
熱可塑性樹脂としてシクロオレフィンポリマーのゼオネックスE48R(日本ゼオン株式会社製)(以下、COP)をキシレンに対して5.0wt%になるように混合、溶解させ、COP/キシレン溶液を調製した。
【0048】
金属酸化物微粒子として平均粒子径12nmのシリカ微粒子(比重2.2)をキシレンに対して2.5wt%になるように混合し、シリカ微粒子/キシレン溶液を調製した。
【0049】
上記で調製したCOP/キシレン溶液にシリカ微粒子/キシレン溶液を添加し、混合溶液を得た。得られた前記混合溶液をビーズミル装置を用いて分散処理後、エバポレーターにてキシレンを減圧留去し、COPにシリカ微粒子が分散した組成物を得た。続いて前記組成物を真空加熱処理(200℃、6時間)にて再度、溶媒除去を行い、COPにシリカ微粒子が分散した有機無機複合組成物を得た。実施例1においては、COPに対してシリカ微粒子が50.0体積%になるように配合を調整した。
【0050】
<成形体(0)の作製>
成形体(0)は、前記記載のヒートプレス成形の手順に従って行い、5mm角、10mm角のそれぞれの成形体を得た。
ヒートプレス成形には、小型熱プレス機(アズワン社製)を用いた。
【0051】
<電子線照射>
前記で得られた成形体(0)を、加速電圧2000kV、線量50kGy、窒素雰囲気の条件下にて、二回繰り返し電子線を照射して成形体(1)を得た。その際、成形体の温度は90±10℃になるように調節した。成形体の温度調節には、ホットプレートを用いた。
【0052】
以上にて、本発明にかかる実施例1の成形体1を得た。成形体1の熱膨張係数αC1を表1に示す。
【0053】
(実施例2)
COPに対してシリカ微粒子が25.0体積%になるように配合を調整した以外は、実施例1と同様にし、実施例2の成形体2を得た。成形体2の熱膨張係数αC1を表1に示す。
【0054】
(実施例3)
COPに対してシリカ微粒子が5.5体積%になるように配合を調整した以外は、実施例1と同様にし、実施例3の成形体3を得た。成形体3の熱膨張係数αC1を表1に示す。
【0055】
(実施例4)
金属酸化物微粒子として、予め表面処理剤としてメチルトリメトキシシランで表面処理された平均粒子径12nmのシリカ微粒子を用いた以外は、実施例2と同様にし、実施例4の成形体4を得た。成形体4の熱膨張係数αC1を表1に示す。
【0056】
(実施例5)
金属酸化物微粒子として、予め表面処理剤としてビニルトリメトキシシランで表面処理された平均粒子径12nmのシリカ微粒子を用いた以外は、実施例2と同様にし、実施例5の成形体5を得た。成形体5の熱膨張係数αC1を表1に示す。
【0057】
(実施例6)
金属酸化物微粒子として、予め表面処理剤としてジシクロペンテニルアクリレートで表面処理された平均粒子径12nmのシリカ微粒子を用いた以外は、実施例2と同様にし、実施例6の成形体6を得た。成形体6の熱膨張係数αC1を表1に示す。
【0058】
(実施例7)
金属酸化物微粒子として、予め表面処理剤としてシクロヘキサンジメタノールジビニルエーテルで表面処理された平均粒子径12nmのシリカ微粒子を用いた以外は、実施例2と同様にし、実施例7の成形体7を得た。成形体7の熱膨張係数αC1を表1に示す。
【0059】
(実施例8)
金属酸化物微粒子として、予め表面処理剤として3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランで表面処理された平均粒子径4nmのジルコニア微粒子(比重6.0)を用いた以外は、実施例2と同様にし、実施例8の成形体8を得た。成形体8の熱膨張係数αC1を表1に示す。
【0060】
(実施例9)
金属酸化物微粒子として、予め表面処理剤としてヘキシルトリメトキシシランで表面処理された平均粒子径18nmのアルミナ微粒子(比重3.9)を用いた以外は、実施例2と同様にし、実施例8の成形体8を得た。成形体8の熱膨張係数αC1を表1に示す。
【0061】
(実施例10)
熱可塑性樹脂としてポリメチルメタクリレートのデルペット70NH(旭化成ケミカルズ株式会社製)(以下、PMMA)を用いた以外は、実施例2と同様にし、実施例10の成形体10を得た。成形体10の熱膨張係数αC1を表1に示す。
【0062】
(実施例11)
金属酸化物微粒子として、予め表面処理剤としてメチルトリメトキシシランで表面処理された平均粒子径12nmのシリカ微粒子を用いた以外は、実施例10と同様にし、実施例10の成形体10を得た。成形体10の熱膨張係数αC1を表1に示す。
【0063】
(実施例12)
熱可塑性樹脂としてポリカーボネートのパンライトAD−5503(帝人化成株式会社製)(以下、PC)を用いた以外は、実施例2と同様にし、実施例12の成形体12を得た。成形体12の熱膨張係数αC1を表1に示す。
【0064】
(実施例13)
金属酸化物微粒子として、予め表面処理剤としてメチルトリメトキシシランで表面処理された平均粒子径12nmのシリカ微粒子を用いた以外は、実施例12と同様にし、実施例12の成形体12を得た。成形体12の熱膨張係数αC1を表1に示す。
【0065】
(比較例1)
COPに対してシリカ微粒子が3.5体積%になるように配合を調整した以外は、実施例1と同様にし、比較例1の成形体14を得た。成形体14の熱膨張係数αC1を表1に示す。
【0066】
(比較例2)
COPに対してジルコニア微粒子が3.5体積%になるように配合を調整した以外は、実施例1と同様にし、比較例2の成形体15を得た。成形体15の熱膨張係数αC1を表1に示す。
【0067】
(比較例3)
COPに対してアルミナ微粒子が3.5体積%になるように配合を調整した以外は、実施例1と同様にし、比較例3の成形体16を得た。成形体16の熱膨張係数αC1を表1に示す。
【0068】
(比較例4)
PMMAに対してシリカ微粒子が3.5体積%になるように配合を調整した以外は、実施例1と同様にし、比較例4の成形体17を得た。成形体17の熱膨張係数αC1を表1に示す。
【0069】
(比較例5)
PCに対してシリカ微粒子が3.5体積%になるように配合を調整した以外は、実施例1と同様にし、比較例5の成形体18を得た。成形体18の熱膨張係数αC1を表1に示す。
【0070】
<熱膨張係数の評価>
熱膨張係数の測定には、熱機械測定装置(TMA Q400;ティー・エイ・インスツルメント社製)を用いた。
【0071】
成形体に0℃から80℃の範囲で3サイクル温度負荷を与え、20℃から60℃の範囲の平均の熱膨張係数を算出する。測定は5mm角および10mm角のそれぞれの成形体のX、Y、Z軸面に対して行い、全ての平均値を熱膨張係数αC1とする。
【0072】
<金属酸化物微粒子の含有量の評価>
金属酸化物微粒子の含有量は、熱重量分析(TGA)装置によって成形品を800℃まで昇温したときの残存重量パーセントを測定し、体積換算した数値を表す。
【0073】
無機微粒子の含有量の測定はTGA(TGA Q500;TAインスツルメント社製)を用いて行った。金属酸化物微粒子の含有量を重量パーセント(wt%)から体積パーセント(vol%)への換算に際し、COPの比重値は1.01、PMMAの比重値は1.19、PCの比重値は1.2、シリカの比重値は2.2、ジルコニアの比重値は6.0、アルミナの比重値は3.9を使用した。なお評価に際して各成形品は適宜適当な大きさにカットした。
【0074】
以上の実施例および比較例の成形体(1)の熱膨張係数αC1を表1に示す。
【0075】
また、実施例および比較例の成形体(0)の組成から、式(2)を用いて算出される加成性に則る熱膨張係数αC0を表1に示す。なお、式(2) αC0=(1−X)・αm0+X・αP0において、αm0およびαP0の値は、表2の記載による。Xは表1の値による。金属酸化物微粒子のαP0は下記の通りである。
(1)シリカαP0:0.5×10−6/℃
(2)ジルコニアαP0:9.5×10−6/℃
(3)アルミナαP0:6.5×10−6/℃
【0076】
また、αC1とαC0から計算される熱膨張変化係数β(β=αC1/αC0)を表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
(注1)
COPはシクロオレフィンポリマーのE48R(日本ゼオン株式会社製)を示す。
PMMAはポリメチルメタクリレートのデルペット70NH(旭化成ケミカルズ株式会社製)を示す。
PCはポリカーボネートのパンライトAD−5503(帝人化成株式会社製)を示す。
【0079】
(参考例1)
熱可塑性樹脂としてCOP単体を用い、実施例1と同様の方法で成形し、得られた成形体を電子線照射することで、参考例1の成形体19を得た。成形体19の熱膨張係数αm1を表2に示す。
【0080】
(参考例2)
熱可塑性樹脂としてPMMA単体を用い、実施例1と同様の方法で成形し、得られた成形体を電子線照射することで、参考例2の成形体20を得た。成形体20の熱膨張係数αm1を表2に示す。
【0081】
(参考例3)
熱可塑性樹脂としてPC単体を用い、実施例1と同様の方法で成形し、得られた成形体を電子線照射することで、参考例3の成形体21を得た。成形体21の熱膨張係数αm1を表2に示す。
【0082】
表2に、参考例1から3の熱可塑性樹脂単体の成形体の熱膨張係数αm0、および熱可塑性樹脂単体の成形体に電子線を照射したものの熱膨張係数αm1を示す。
【0083】
【表2】

【0084】
(注1)式(3) αm1>αm0は、表2の参考例1から3の記載により明示されている。
【0085】
表1の結果から、実施例1から実施例13で得られた成形体1から成形体13はいずれも所定の条件下にて電子線を照射することで熱膨張係数は低減し、熱膨張変化係数βは本発明の範囲にかかる0.95以下であることが分かる。また最適な表面処理剤で表面処理した金属酸化物微粒子を用いることでβはより低い値をとることが分かる。
【0086】
一方、参考例1から参考例3より、成形体19から成形体21はいずれも所定の条件下にて電子線を照射することで熱膨張係数は上昇し、平均熱膨張変化係数βは本発明の範囲にかかる0.95を超えることが分かる。
【0087】
また比較例1から比較例5より、成形体14から成形体18は、金属酸化物微粒子の含有量が5.0体積%未満の少ない場合を示している。それらはいずれも所定の条件下にて電子線を照射することで熱膨張係数はほぼ変わらないか若しくは上昇し、平均熱膨張変化係数βは本発明の範囲にかかる0.95を超えることが分かる。
【0088】
以上より、熱可塑性樹脂中に金属酸化物微粒子が5.0体積%から60.0体積%分散した有機無機複合組成物からなる成形体(0)に電子線を照射して得られる本発明にかかる成形体(1)は、式(1)から式(3)を満たし、熱膨張係数が小さいことが分かる。
【0089】
<光学素子の作製>
実施例5で得られた有機無機複合組成物を用いて、光学素子を作製した。作製はヒートプレス成形で行い、転写したい所望の素子形状の成形用金型を用いた。前記成形用金型の表面に離型剤としてノベック−1720を塗布してよく拭き取り、続いて窒素雰囲気の条件下で該成形用金型を220℃に加熱、保持後、有機無機複合組成物を該成形用金型内に充填した。充填した有機無機複合組成物が金型温度と同程度の温度に十分に温まったところで、90MPaの圧力でプレスし、そのまま10分保持後、温度と圧力を徐々に下げていき、室温になったところで成形体を離型し、光学素子を得た。
【0090】
得られた前記光学素子に加速電圧2000kV、線量50kGy、窒素雰囲気の条件下にて、二回繰り返し電子線を照射した。その際、光学素子の温度は90±10℃になるように調節した。以上にて、本発明にかかる光学素子を得た。得られた光学素子は低熱膨張特性等の耐熱性に優れており、温度に対する屈折率変化が十分に小さいものであることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明に係る熱可塑性樹脂と、金属酸化物微粒子を含有する有機無機複合体組成物からなる熱膨張係数が小さい成形体は、例えばカメラ等のレンズとして有用な成形体、光学部材、前記光学部材を用いた光学素子に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂に対して5.0体積%以上60.0体積%以下の金属酸化物微粒子を含有する有機無機複合組成物からなる成形体(0)に電子線を照射して得られた成形体(1)からなり、前記成形体(1)の熱膨張係数αC1と、前記熱可塑性樹脂と金属酸化物微粒子の有機無機複合組成物の加成性に則る熱膨張係数αC0とが下記の式(1)を満たし、且つ、式(1)の熱膨張変化係数βが0.70≦β≦0.95の範囲であることを特徴とする成形体。
式(1) αC1=β・αC0
(式中、前記熱膨張係数αC0は、下記の式(2)および式(3)で表される。
式(2) αC0=(1−X)・αm0+X・αP0(0.05≦X≦0.60)
式(3) αm1>αm0
αC1は熱可塑性樹脂と金属酸化物微粒子の有機無機複合組成物の成形体(0)に電子線を照射した成形体(1)の熱膨張係数を示す。
αC0は熱可塑性樹脂と金属酸化物微粒子の有機無機複合組成物の加成性に則る熱膨張係数を示す。
αm0は熱可塑性樹脂単体の成形体の熱膨張係数を示す。
αm1は熱可塑性樹脂単体の成形体に電子線を照射したものの熱膨張係数を示す。
αP0は金属酸化物微粒子の熱膨張係数を示す。
βは有機無機複合組成物からなる成形体に電子線を照射した前後の熱膨張変化係数を示す。
Xは熱可塑性樹脂に対する金属酸化物微粒子の体積分率を示す。)
【請求項2】
前記電子線を照射して得られた成形体(1)の熱膨張係数αC1が20℃から60℃の温度範囲において18×10−6/℃から63×10−6/℃であることを特徴とする請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂がシクロオレフィンポリマー、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネートのいずれかであることを特徴とする請求項1または2に記載の成形体。
【請求項4】
前記金属酸化物微粒子の比重が1.8から6.5であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記載の成形体。
【請求項5】
前記金属酸化物微粒子の平均粒子径が2nmから50nmであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかの項に記載の成形体。
【請求項6】
前記金属酸化物微粒子がシリカ、ジルコニア、アルミナの少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかの項に記載の成形体。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂および金属酸化物微粒子から成る有機無機複合組成物が、前記金属酸化物微粒子の表面処理剤としてアルコキキシランを含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかの項に記載の成形体。
【請求項8】
前記成形体の厚みが0.5mmから15mmであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかの項に記載の成形体。
【請求項9】
熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂に対して5.0体積%以上60.0体積%以下の金属酸化物微粒子を含有する有機無機複合組成物からなる成形体(0)に、電子線を照射して成形体(1)を得る工程を有し、前記電子線を照射する際の成形体(0)の温度TEBが下記の式(4)を満たすように制御されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の成形体の製造方法。
(式4) T−70≦TEB≦T+20
(式中、Tは熱可塑性樹脂のガラス転移温度を示す。)
【請求項10】
前記電子線を不活性ガスの雰囲気で照射することを特徴とする請求項9に記載の成形体の製造方法。
【請求項11】
前記不活性ガスが窒素ガス、アルゴンガスのいずれかであることを特徴とする請求項9または10に記載の成形体の製造方法。
【請求項12】
請求項1乃至8のいずれかに記載の成形体からなることを特徴とする光学部材。
【請求項13】
請求項12に記載の光学部材を用いたことを特徴とする光学素子。

【公開番号】特開2013−28747(P2013−28747A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166800(P2011−166800)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】