説明

成形体、その製造方法、電子デバイス用部材及び電子デバイス

【課題】ガスバリア性、透明性及び耐折り曲げ性に優れる成形体、その製造方法、この成形体からなる電子デバイス用部材、及びこの電子デバイス用部材を備える電子デバイスを提供する。
【解決手段】ポリシラザン化合物と粘土鉱物とを含む層からなり、40℃、相対湿度90%雰囲気下での水蒸気透過率が、6.0g/m2/day以下であることを特徴とする成形体、その製造方法、この成形体からなる電子デバイス用部材、及びこの電子デバイス用部材を備える電子デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体、その製造方法、この成形体からなる電子デバイス用部材、及びこの電子デバイス用部材を備える電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチックフィルム等の高分子成形体は、低価格であり加工性に優れるため、所望の機能を付与して種々の分野で用いられている。
例えば、食品や医薬品の包装用フィルムには、蛋白質や油脂等の酸化や変質を抑制して味や鮮度を保持するため、水蒸気や酸素の透過を防ぐガスバリア性のプラスチックフィルムが用いられている。
【0003】
また、近年、液晶ディスプレイやエレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ等のディスプレイには、薄型化、軽量化、フレキシブル化等を実現するために、電極を有する基板として、ガラス板に代えて透明プラスチックフィルムを用いることが検討されている。しかしながら、プラスチックフィルムは、ガラス板に比べて水蒸気や酸素等を透過しやすく、ディスプレイ内部の素子の劣化を起こしやすいという問題があった。
【0004】
この問題を解決すべく、特許文献1には、透明プラスチックフィルムに金属酸化物からなる透明ガスバリア層を積層したフレキシブルディスプレイ基板が提案されている。
しかしながら、この文献記載のフレキシブルディスプレイ基板は、透明プラスチックフィルム表面に、蒸着法、イオンプレーティング法、スパッター法等により、金属酸化物からなる透明ガスバリア層を積層したものであるため、該基板を丸めたり折り曲げたりすると、ガスバリア層にクラックが発生してガスバリア性が低下するという問題があった。
【0005】
また、特許文献2には、プラスチックフィルムと、該プラスチックフィルムの少なくとも一方の面に、ポリオルガノシルセスキオキサンを主成分とする樹脂層を積層してなるガスバリア性積層体が開示されている。
しかしながら、酸素、水蒸気等のガスバリア性を得るためには、さらに無機化合物層を積層する必要があるため、工程が煩雑であったりコストがかかったり、毒性を有するガスを使用する危険性がある等の問題があった。
【0006】
特許文献3には、フィルムの少なくとも一方の面にポリシラザン膜を形成し、該ポリシラザン膜にプラズマ処理を施してガスバリア性フィルムを製造する方法が開示されている。
しかしながら、この方法では、ガスバリア層の厚みをミクロンオーダーにしなければ充分なガスバリア性能を出せないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−338901号公報
【特許文献2】特開2006−123307号公報
【特許文献3】特開2007−237588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来技術に鑑みてなされたものであり、ガスバリア性、透明性及び耐折り曲げ性に優れる成形体、その製造方法、この成形体からなる電子デバイス用部材、及びこの電子デバイス用部材を備える電子デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリシラザン化合物と粘土鉱物とを含む層を表面部に有する成形物の、前記ポリシラザン化合物と粘土鉱物とを含む層に、イオンを注入することにより、目的とする成形体を簡便かつ効率よく製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして本発明の第1によれば、下記(1)〜(6)の成形体が提供される。
(1)ポリシラザン化合物と粘土鉱物とを含む層からなり、40℃、相対湿度90%雰囲気下での水蒸気透過率が、6.0g/m2/day以下であることを特徴とする成形体。
(2)ポリシラザン化合物と粘土鉱物とを含む層にイオンが注入されて得られる層を有することを特徴とする請求項1に記載の成形体。
(3)前記イオンが、水素、窒素、酸素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、クリプトン、ケイ素化合物及び炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも一種のガスがイオン化されたものであることを特徴とする(2)に記載の成形体。
(4)前記ポリシラザン化合物と粘土鉱物を含む層に、プラズマイオン注入によりイオンが注入されて得られる層を有することを特徴とする(2)又は(3)に記載の成形体。
(5)前記ポリシラザン化合物が、ペルヒドロポリシラザンであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の成形体。
(6)前記ポリシラザン化合物と粘土鉱物とを含む層中の粘土鉱物の含有量が、ポリシラザン化合物と粘土鉱物の合計量を100質量%として、0.01質量%〜10質量%であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の成形体。
【0011】
本発明の第2によれば、下記(7)〜(10)の成形体の製造方法が提供される。
(7)ポリシラザン化合物と粘土鉱物とを含む層を表面部に有する成形物の、前記ポリシラザン化合物と粘土鉱物とを含む層の表面部に、イオンを注入する工程を有する(2)〜(6)のいずれかに記載の成形体の製造方法。
(8)ポリシラザン化合物と粘土鉱物とを含む表面部を有する成形物の、前記ポリシラザン化合物と粘土鉱物とを含む層の表面部に、水素、窒素、酸素、アルゴン、ヘリウム、キセノン、ネオン、クリプトン、ケイ素化合物及び炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも一種のガスをイオン注入する工程を有する(7)に記載の成形体の製造方法。
(9)前記イオン注入する工程が、プラズマイオン注入する工程であることを特徴とする(7)又は(8)に記載の成形体の製造方法。
(10)ポリシラザン化合物と粘土鉱物とを含む層を表面部に有する長尺状の成形物を一定方向に搬送しながら、前記ポリシラザン化合物と粘土鉱物とを含む層に、イオンを注入することを特徴とする(2)〜(6)のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【0012】
本発明の第3によれば、下記(11)の電子デバイス用部材が提供される。
(11)(1)〜(6)のいずれかに記載の成形体からなる電子デバイス用部材。
本発明の第4によれば、下記(12)の電子デバイスが提供される。
(12)(11)に記載の電子デバイス用部材を備える電子デバイス。
【発明の効果】
【0013】
本発明の成形体は、優れたガスバリア性、透明性及び耐折り曲げ性を有する。本発明の成形体は、フレキシブルなディスプレイや太陽電池等の電子デバイス用部材(例えば太陽電池バックシート)として好適に用いることができる。
本発明の製造方法によれば、優れたガスバリア性、透明性、耐折り曲げ性を有する本発明の成形体を簡便かつ効率よく製造することができる。また、ガスバリア膜として無機膜が成膜された成形体に比して、低コストにて容易に大面積化を図ることができる。
本発明の電子デバイス用部材は、優れたガスバリア性、透明性及び耐折り曲げ性を有するため、ディスプレイ、太陽電池等の電子デバイスに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に使用するプラズマイオン注入装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明に使用するプラズマイオン注入装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を、1)成形体、2)成形体の製造方法、並びに、3)電子デバイス用部材及び電子デバイスに項分けして詳細に説明する。
【0016】
1)成形体
本発明の成形体は、ポリシラザン化合物と粘土鉱物とを含む層(以下、「粘土鉱物等含有層」ということがある。)からなり、40℃、相対湿度90%雰囲気下での水蒸気透過率が、6.0g/m2/day以下であることを特徴とする。
【0017】
本発明に用いるポリシラザン化合物は、分子内に−Si−N−結合(シラザン結合)を含む繰り返し単位を有する高分子化合物である。具体的には、式(1)
【0018】
【化1】

【0019】
で表される繰り返し単位を有する化合物が好ましい。また、用いるポリシラザン化合物の数平均分子量は、特に限定されないが、100〜50,000であるのが好ましい。
【0020】
式(1)中、nは任意の自然数を表す。
Rx、Ry、Rzは、それぞれ独立して、水素原子、無置換若しくは置換基を有するアルキル基、無置換若しくは置換基を有するシクロアルキル基、無置換若しくは置換基を有するアルケニル基、無置換若しくは置換基を有するアリール基又はアルキルシリル基等の非加水分解性基を表す。
【0021】
前記無置換若しくは置換基を有するアルキル基のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−へキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等の炭素数1〜10のアルキル基が挙げられる。
【0022】
無置換若しくは置換基を有するシクロアルキル基のシクロアルキル基としては、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基等の炭素数3〜10のシクロアルキル基が挙げられる。
【0023】
無置換若しくは置換基を有するアルケニル基のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基等の炭素数2〜10のアルケニル基が挙げられる。
【0024】
前記アルキル基、シクロアルキル基及びアルケニル基の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;ヒドロキシル基;チオール基;エポキシ基;グリシドキシ基;(メタ)アクリロイルオキシ基;フェニル基、4−メチルフェニル基、4−クロロフェニル基等の無置換若しくは置換基を有するアリール基;等が挙げられる。
【0025】
無置換又は置換基を有するアリール基のアリール基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等の炭素数6〜10のアリール基が挙げられる。
【0026】
前記アリール基の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;ニトロ基;シアノ基;ヒドロキシル基;チオール基;エポキシ基;グリシドキシ基;(メタ)アクリロイルオキシ基;フェニル基、4−メチルフェニル基、4−クロロフェニル基等の無置換若しくは置換基を有するアリール基;等が挙げられる。
【0027】
アルキルシリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリt-ブチルシリル基、メチルジエチルシリル基、ジメチルシリル基、ジエチルシリル基、メチルシリル基、エチルシリル基等が挙げられる。
【0028】
これらの中でも、Rx、Ry、Rzとしては、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、又はフェニル基が好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0029】
前記式(1)で表される繰り返し単位を有するポリシラザン化合物としては、Rx、Ry、Rzが全て水素原子である無機ポリシラザン、Rx、Ry、Rzの少なくとも1つが水素原子ではない有機ポリシラザンのいずれであってもよい。
無機ポリシラザンとしては、下記式
【0030】
【化2】

【0031】
(式中、aは任意の自然数を表す。)で表される繰り返し単位を有する直鎖状構造を有し、690〜2000の分子量を持ち、一分子中に3〜10個のSiH基を有するペルヒドロポリシラザン(特公昭63−16325号公報)、式(A)
【0032】
【化3】

【0033】
〔式中、b、cは任意の自然数を表し、Yは、水素原子又は式(B)
【0034】
【化4】

【0035】
(式中、dは任意の自然数を表し、*は結合位置を表し、Yは水素原子、又は前記(B)で表される基を表す。)で表される基を表す。〕で表される繰り返し単位を有する、直鎖状構造と分岐構造を有するペルヒドロポリシラザン、式(C)
【0036】
【化5】

【0037】
で表されるペルヒドロポリシラザン構造を有する、分子内に、直鎖状構造、分岐構造及び環状構造を有するペルヒドロポリシラザン等が挙げられる。
【0038】
有機ポリシラザンとしては、
(i)−(Rx’SiHNH)−(Rx’は、無置換若しくは置換基を有するアルキル基、無置換若しくは置換基を有するシクロアルキル基、無置換若しくは置換基を有するアルケニル基、無置換若しくは置換基を有するアリール基、又はアルキルシリル基を表す。以下のRx’も同様である。)を繰り返し単位として、主として重合度が3〜5の環状構造を有するもの、
(ii)−(Rx’SiHNRz’)−(Rz’は、無置換若しくは置換基を有するアルキル基、無置換若しくは置換基を有するシクロアルキル基、無置換若しくは置換基を有するアルケニル基、無置換若しくは置換基を有するアリール基、又はアルキルシリル基を表す。)を繰り返し単位として、主として重合度が3〜5の環状構造を有するもの、
(iii)−(Rx’Ry’SiNH)−(Ry’は、無置換若しくは置換基を有するアルキル基、無置換若しくは置換基を有するシクロアルキル基、無置換若しくは置換基を有するアルケニル基、無置換若しくは置換基を有するアリール基、又はアルキルシリル基を表す。)を繰り返し単位として、主として重合度が3〜5の環状構造を有するもの、
(iv)下記式で表される構造を分子内に有するポリオルガノ(ヒドロ)シラザン、
【0039】
【化6】

【0040】
(v)下記式
【0041】
【化7】

【0042】
〔Rx’、Ry’は前記と同じ意味を表し、e、fは任意の自然数を表し、Yは、水素原子又は式(E)
【0043】
【化8】

【0044】
(式中、gは任意の自然数を表し、*は結合位置を表し、Yは水素原子、又は前記(E)で表される基を表す。)で表される基を表す。〕
で表される繰り返し構造を有するポリシラザン等が挙げられる。
【0045】
上記有機ポリシラザンは、公知の方法により製造することができる。例えば、下記式(2)で表される無置換若しくは置換基を有するハロゲノシラン化合物と2級アミンとの反応生成物に、アンモニア又は1級アミンを反応させることにより得ることができる。
【0046】
【化9】

【0047】
式(2)中、mは2又は3を表し、Xはハロゲン原子を表し、Rは、前述した、Rx、Ry、Rz、Rx’、Ry’、Rz’のいずれかの置換基を表す。)
用いる2級アミン、アンモニア及び1級アミンは、目的とするポリシラザン化合物の構造に応じて、適宜選択すればよい。
【0048】
また、本発明においては、ポリシラザン化合物として、ポリシラザン変性物を用いることもできる。ポリシラザン変性物としては、例えば、金属原子(該金属原子は架橋をなしていてもよい。)を含むポリメタロシラザン、繰り返し単位が〔(SiH(NH))〕及び〔(SiHO〕(式中、g、h、iはそれぞれ独立して、1、2又は3である。)で表されるポリシロキサザン(特開昭62−195024号公報)、ポリシラザンにボロン化合物を反応させて製造するポリボロシラザン(特開平2−84437号公報)、ポリシラザンとメタルアルコキシドとを反応させて製造するポリメタロシラザン(特開昭63−81122号公報等)、無機シラザン高重合体や改質ポリシラザン(特開平1−138108号公報等)、ポリシラザンに有機成分を導入した共重合シラザン(特開平2−175726号公報等)、ポリシラザンにセラミックス化を促進するための触媒的化合物を付加又は添加した低温セラミックス化ポリシラザン(特開平5−238827号公報等)、
【0049】
ケイ素アルコキシド付加ポリシラザン(特開平5−238827号公報)、グリシドール付加ポリシラザン(特開平6−122852号公報)、アセチルアセトナト錯体付加ポリシラザン(特開平6−306329号公報)、金属カルボン酸塩付加ポリシラザン(特開平6−299118号公報等)、
【0050】
上記ポリシラザン又はその変性物に、アミン類及び/又は酸類を添加してなるポリシラザン組成物(特開平9−31333号公報)、ペルヒドロポリシラザンにメタノール等のアルコール或いはヘキサメチルジシラザンを末端N原子に付加して得られる変性ポリシラザン(特開平5−345826号公報、特開平4−63833号公報)等が挙げられる。
【0051】
これらの中でも、本発明において用いるポリシラザン化合物としては、入手容易性、及び優れたガスバリア性を有するという観点から、Rx、Ry、Rzが全て水素原子であるペルヒドロポリシラザンが好ましい。
【0052】
さらに、本発明においては、ポリシラザン化合物は、ガラスコーティング材等として市販されている市販品をそのまま使用することもできる。
【0053】
前記粘土鉱物等含有層は、ポリシラザン化合物に加えて、粘土鉱物の少なくとも一種を含有する。粘土鉱物を配合することにより、耐折り曲げ性に優れ、透明性が良好なガスバリア性成形体を得ることができる。
【0054】
本発明に用いる粘土鉱物は、粘土を構成する鉱物で、主成分は層状珪酸塩鉱物である。 粘土鉱物は、層状の小板からなり、小板は、ギャラリー(小板同士を結合する様々なイオンを含む、各小板の平行層間の空間)で隔離されている。
各小板の大きさは、厚さが、通常3〜3000Åであり、平面方向の長さが通常0.01〜100μmである。また、アスペクト比は、通常10〜10000である。
【0055】
粘土鉱物としては、モンモリロナイト、サポナイト、バイデライト、ノントロナイト、ヘクトライト、スティブンサイト等のスメクタイト系粘土鉱物;バーミキュライト;ハロイサイト等が挙げられる。なかでも、優れたガスバリア性を有する成形体が得られる観点から、スメクタイト系粘土鉱物が好ましく、モンモリロナイトがより好ましい。
これらは、一種単独で、或いは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0056】
本発明においては、粘土鉱物として市販品をそのまま使用することができる。
市販品としては、例えば、有機化モンモリロナイトSouthern Clay Products社製、CLOISITE(登録商標)10A(小板の厚み:約0.001μm(10Å)、平面方向長さ:約0.15〜約0.20μm)、三洋貿易株式会社製、Dellite67G(小板の厚み:約0.001μm(10Å)、平面方向長さ:約1μm)等が挙げられる。
【0057】
粘土鉱物等含有層中の、ポリシラザン化合物と粘土鉱物の合計含有量は、優れたガスバリア性等を有するという観点から、50質量%以上であるのが好ましく、70質量%以上であるのがより好ましい。
【0058】
粘土鉱物等含有層中の、粘土鉱物の含有量は、ポリシラザン化合物と粘土鉱物の合計量を100質量%として、0.01質量%〜10質量%であるのが好ましく、0.05質量%〜5.0質量%であるのがより好ましく、0.1質量%〜1.0質量%であるのが特に好ましい。
【0059】
粘土鉱物等含有層は、ポリシラザン化合物及び粘土鉱物の他に、本発明の目的を阻害しない範囲で他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、他の高分子、硬化剤、老化防止剤、光安定剤、難燃剤、充填剤、顔料、レベリング剤、消泡剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、pH調整剤、分散剤、表面改質剤、可塑剤、乾燥促進剤、流れ止め剤等が挙げられる。
【0060】
粘土鉱物等含有層を形成する方法としては、特に制約はなく、例えば、ポリシラザン化合物の少なくとも一種、粘土鉱物の少なくとも一種、所望により他の成分、及び溶剤等を含有する層形成用溶液を、適当な基材層の上に塗布し、得られた塗膜を適度に乾燥して形成する方法が挙げられる。
【0061】
用いる溶剤としては、ポリシラザンと粘土鉱物の両方を安定的に溶解するものが好ましく、例えば、キシレン、トルエン、ブチルカルビトールアセテート、酢酸n−ブチル、酢酸エチル等のエステル類;セロソルブ、セロソルブアセテート等のグリコールエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;等が挙げられる。
【0062】
溶剤を使用する場合、前記ポリシラザン化合物等の溶解度や溶剤の蒸発速度を調節するために、2種類以上の溶剤を混合してもよい。溶剤の使用量(割合)は、コーティング方法、用いるポリシラザン化合物等の種類等にもよるが、層形成用溶液の、通常1〜99質量%、好ましくは5〜60質量%である。
【0063】
塗工装置としては、スピンコーター、ナイフコーター、グラビアコーター等の公知の装置を使用することができる。
【0064】
得られた塗膜の乾燥、成形体のガスバリア性向上のため、塗膜を加熱することが好ましい。加熱は80〜150℃で、数十秒から数十分行う。
【0065】
このような加熱によって、ポリシラザン化合物は架橋、縮合、場合によっては酸化、加水分解して硬化し、セラミックス相を形成する。そして、Si−N結合或いはSi−O結合を主体とするセラミックス相と、粘土鉱物相とが微細な構造レベルで複合化した緻密な膜を得ることができる。
【0066】
形成される粘土鉱物等含有層の厚みは、特に制限されないが、通常20nm〜100μm、好ましくは30〜500nm、より好ましくは40〜200nmである。
本発明においては、粘土鉱物等含有層の厚さがナノオーダーであっても、充分なガスバリア性能を有する成形体を得ることができる。
【0067】
本発明の成形体において、ポリシラザン化合物と粘土鉱物とを含む層にイオンが注入されて得られる層(以下、「イオン注入層」ということがある。)を有することが好ましい。イオン注入層は、粘土鉱物等含有層中にイオンが注入されてなるものであれば特に制約はない。
【0068】
注入されるイオンとしては、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノンなどの希ガス、フルオロカーボン、水素、窒素、酸素、二酸化炭素、塩素、フッ素、硫黄、ケイ素化合物、炭化水素等のイオン;金、銀、銅、白金、ニッケル、パラジウム、クロム、チタン、モリブデン、ニオブ、タンタル、タングステン、アルミニウム等の導電性の金属のイオン;が挙げられる。
【0069】
なかでも、より簡便に注入することができ、特に優れたガスバリア性と透明性を有するイオン注入層が得られることから、水素、窒素、酸素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、クリプトン、ケイ素化合物、及び炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも一種のイオンが好ましい。
【0070】
ケイ素化合物としては、シラン(SiH)又は有機ケイ素化合物が挙げられる。
有機ケイ素化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトラt−ブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン;
ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン等の無置換若しくは置換基を有するアルキルアルコキシシラン;
【0071】
ジフェニルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のアリールアルコキシシラン;
ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)等のジシロキサン;
ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン、ビス(エチルアミノ)ジメチルシラン、ジエチルアミノトリメチルシラン、ジメチルアミノジメチルシラン、テトラキスジメチルアミノシラン、トリス(ジメチルアミノ)シラン等のアミノシラン;
ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、ヘプタメチルジシラザン、ノナメチルトリシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン、テトラメチルジシラザン等のシラザン;
テトライソシアナートシラン等のシアナートシラン;
トリエトキシフルオロシラン等のハロゲノシラン;
ジアリルジメチルシラン、アリルトリメチルシラン等のアルケニルシラン;
ジ−t−ブチルシラン、1,3−ジシラブタン、ビス(トリメチルシリル)メタン、トリメチルシラン、テトラメチルシラン、トリス(トリメチルシリル)メタン、トリス(トリメチルシリル)シラン、ベンジルトリメチルシラン等の無置換若しくは置換基を有するアルキルシラン;
ビス(トリメチルシリル)アセチレン、トリメチルシリルアセチレン、1−(トリメチルシリル)−1−プロピン等のシリルアルキン;
【0072】
1,4−ビストリメチルシリル−1,3−ブタジイン、シクロペンタジエニルトリメチルシラン等のシリルアルケン;
フェニルジメチルシラン、フェニルトリメチルシラン等のアリールアルキルシラン;
プロパルギルトリメチルシラン等のアルキニルアルキルシラン;
ビニルトリメチルシラン等のアルケニルアルキルシラン;
ヘキサメチルジシラン等のジシラン;
オクタメチルシクロテトラシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルシクロテトラシロキサン等のシロキサン;
N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド;
ビス(トリメチルシリル)カルボジイミド;
等が挙げられる。
【0073】
炭化水素としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等のアルカン;エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン等のアルケン;ペンタジエン、ブタジエン等のアルカジエン;アセチレン、メチルアセチレン等のアルキン;ベンゼン、トルエン、キシレン、インデン、ナフタレン、フェナントレン等の芳香族炭化水素;シクロプロパン、シクロヘキサン等のシクロアルカン;シクロペンテン、シクロヘキセン等のシクロアルケン;等が挙げられる。
これらのイオンは、一種単独で、或いは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0074】
イオンの注入量は、形成する成形体の使用目的(必要なガスバリア性、透明性等)等に合わせて適宜決定すればよい。
【0075】
イオンを注入する方法は特に限定されず、例えば、粘土鉱物等含有層(以下、「イオンを注入する層」ということがある。)を形成した後、この層にイオンを注入する方法が挙げられる。
【0076】
イオンを注入する方法としては、電界により加速されたイオン(イオンビーム)を照射する方法、プラズマ中のイオンを注入する方法(プラズマイオン注入法)等が挙げられる。なかでも、本発明においては、簡便に優れたガスバリア性等を有する成形体が得られることから、後者のプラズマイオン注入法が好ましい。
【0077】
プラズマイオン注入法は、例えば、プラズマ生成ガスを含む雰囲気下でプラズマを発生させ、イオンを注入する層に負の高電圧パルスを印加することにより、該プラズマ中のイオン(陽イオン)を、イオンを注入する層の表面部に注入して行うことができる。
【0078】
イオン注入層が形成される部分の厚みは、イオンの種類や印加電圧、処理時間等の注入条件により制御することができ、イオンを注入する層の厚み、成形体の使用目的等に応じて決定すればよいが、通常、10〜1000nmである。
【0079】
イオンが注入されたことは、X線光電子分光分析(XPS)を用いて表面から10nm付近の元素分析測定を行うことによって確認することができる。
【0080】
本発明の成形体の形状は、特に制限されず、例えば、フィルム状、シート状、直方体状、多角柱状、筒状などが挙げられる。後述するごとき電子デバイス用部材として用いる場合には、フィルム状、シート状であることが好ましい。該フィルムの厚みは、目的とする電子デバイスの用途によって適宜決定することができる。
【0081】
本発明の成形体は、ポリシラザン化合物と粘土鉱物とを含む層あるいはイオン注入層のみからなるものであってもよいし、さらに他の層を含むものであってもよい。また、他の層は単層であっても、同種又は異種の2層以上であってもよい。
他の層としては、基材層、無機化合物層、衝撃吸収層、導電体層、プライマー層等が挙げられる。
【0082】
本発明の成形体が他の層を含む積層体である場合、各層の積層順はどのようなものであってもよい。また、ポリシラザン化合物と粘土鉱物とを含む層あるいはイオン注入層の配置位置は特に限定されないが、効率よく製造できること等の理由から、ポリシラザン化合物と粘土鉱物とを含む層あるいはイオン注入層を表面に有するのが好ましい。さらに、ポリシラザン化合物と粘土鉱物とを含む層あるいはイオン注入層は、他の層の片面のみに形成されていても、他の層の両面に形成されていてもよい。
【0083】
また、本発明の成形体が積層体である場合、積層体の厚みは、特に制限されず、目的とする電子デバイスの用途によって適宜決定することができる。
【0084】
(基材層)
基材層の素材は、成形体の目的に合致するものであれば特に制限されず、例えば、
ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、粘土鉱物、シクロオレフィン系ポリマー、芳香族系重合体等が挙げられる。
【0085】
これらの中でも、透明性に優れ、汎用性があることから、ポリエステル、ポリアミド又はシクロオレフィン系ポリマーが好ましく、ポリエステル又はシクロオレフィン系ポリマーがより好ましい。
【0086】
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート等が挙げられる。
ポリアミドとしては、全芳香族ポリアミド、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン共重合体等が挙げられる。
【0087】
シクロオレフィン系ポリマーとしては、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、及びこれらの水素化物が挙げられる。その具体例としては、アペル(三井化学社製のエチレン−シクロオレフィン共重合体)、アートン(JSR社製のノルボルネン系重合体)、ゼオノア(日本ゼオン社製のノルボルネン系重合体)等が挙げられる。
【0088】
(無機化合物層)
無機化合物層は、無機化合物の一種又は二種以上からなる層である。無機化合物層を構成する無機化合物としては、一般的に真空成膜可能で、ガスバリア性を有するもの、例えば無機酸化物、無機窒化物、無機炭化物、無機硫化物、これらの複合体である無機酸化窒化物、無機酸化炭化物、無機窒化炭化物、無機酸化窒化炭化物等が挙げられる。本発明においては、これらの中でも、無機酸化物、無機窒化物、無機酸化窒化物が好ましい。
【0089】
無機酸化物としては、一般式MOxで表される金属酸化物が挙げられる。
式中、Mは金属元素を表す。xはMによってそれぞれ範囲が異なり、例えば、Mがケイ素(Si)であれば0.1〜2.0、アルミニウム(Al)であれば0.1〜1.5、マグネシウム(Mg)であれば0.1〜1.0、カルシウム(Ca)であれば0.1〜1.0、カリウム(K)であれば0.1〜0.5、スズ(Sn)であれば0.1〜2.0、ナトリウム(Na)であれば0.1〜0.5、ホウ素(B)であれば0.1〜1.5、チタン(Ti)であれば0.1〜2.0、鉛(Pb)であれば0.1〜1.0、ジルコニウム(Zr)であれば0.1〜2.0、イットリウム(Y)であれば、0.1〜1.5の範囲の値である。
【0090】
これらの中でも、透明性等に優れることから、Mがケイ素であるケイ素酸化物、アルミニウムであるアルミニウム酸化物、チタンであるチタン酸化物が好ましく、ケイ素酸化物がより好ましい。なお、xの値としては、Mがケイ素であれば1.0〜2.0が、アルミニウムであれば0.5〜1.5が、チタンであれば1.3〜2.0の範囲のものが好ましい。
【0091】
無機窒化物としては、一般式MNyで表される金属窒化物が挙げられる。
式中、Mは金属元素を表す。yはMによってそれぞれ範囲が異なり、Mがケイ素(Si)であればy=0.1〜1.3、アルミニウム(Al)であればy=0.1〜1.1、チタン(Ti)であればy=0.1〜1.3、すず(Sn)であればy=0.1〜1.3の範囲の値である。
【0092】
これらの中でも、透明性等に優れることから、Mがケイ素であるケイ素窒化物、アルミニウムであるアルミニウム窒化物、チタンであるチタン窒化物、スズであるスズ窒化物が好ましく、ケイ素窒化物(SiN)がより好ましい。なお、yの値としては、Mがケイ素であればy=0.5〜1.3、アルミニウムであればy=0.3〜1.0、チタンであればy=0.5〜1.3、スズであればy=0.5〜1.3の範囲のものが好ましい。
【0093】
無機酸化窒化物としては、一般式MOxNyで表される金属酸化窒化物が挙げられる。
式中、Mは金属元素を表す。x及びyの値は、Mによってそれぞれ範囲が異なる。すなわち、x、yは、例えば、Mがケイ素(Si)であればx=1.0〜2.0、y=0.1〜1.3、アルミニウム(Al)であればx=0.5〜1.0、y=0.1〜1.0、マグネシウム(Mg)であればx=0.1〜1.0、y=0.1〜0.6、カルシウム(Ca)であればx=0.1〜1.0、y=0.1〜0.5、カリウム(K)であればx=0.1〜0.5、y=0.1〜0.2、スズ(Sn)であればx=0.1〜2.0、y=0.1〜1.3、ナトリウム(Na)であればx=0.1〜0.5、y=0.1〜0.2、ホウ素(B)であればx=0.1〜1.0、y=0.1〜0.5、チタン(Ti)であればx=0.1〜2.0、y=0.1〜1.3、鉛(Pb)であればx=0.1〜1.0、y=0.1〜0.5、ジルコニウム(Zr)であればx=0.1〜2.0、y=0.1〜1.0、イットリウム(Y)であればx=0.1〜1.5、y=0.1〜1.0の範囲の値である。
【0094】
これらの中でも、透明性等に優れることから、Mがケイ素であるケイ素酸化窒化物、アルミニウムであるアルミニウム酸化窒化物、チタンであるチタン酸化窒化物が好ましく、ケイ素酸化窒化物がより好ましい。なお、x及びyの値としては、Mがケイ素であればx=1.0〜2.0、y=0.1〜1.3、アルミニウムであればx=0.5〜1.0、y=0.1〜1.0、チタンであればx=1.0〜2.0、y=0.1〜1.3の範囲のものが好ましい。
なお、金属酸化物、金属窒化物及び金属酸化窒化物には、2種類以上の金属が含まれていても良い。
【0095】
無機化合物層の形成方法としては特に制限はなく、例えば、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、熱CVD法、プラズマCVD法、ダイナミックイオンミキシング法等が挙げられる。なかでも、本発明においては、簡便にガスバリア性に優れた積層体が得られることから、マグネトロンスパッタリング法が好ましい。
【0096】
無機化合物層の厚さは、特に限定されないが、ガスバリア性が得られる観点から、10〜1000nmであることが好ましく、20〜500nmであることがより好ましく、50〜200nmであることが特に好ましい。
【0097】
(衝撃吸収層)
衝撃吸収層は、前記無機化合物層に衝撃が加わった際に、割れを防止するためのものであり、衝撃吸収層を形成する素材としては、特に限定されないが、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、オレフィン系樹脂、ゴム系材料等を用いることができる。これらの中でも、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、ゴム系材料が好ましい。
【0098】
アクリル系樹脂としては、主成分として、(メタ)アクリル酸エステル単独重合体、2種以上の(メタ)アクリル酸エステル単位を含む共重合体、及び(メタ)アクリル酸エステルと他の官能性単量体との共重合体の中から選ばれた少なくとも1種を含有するものが挙げられる。なお、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸又はメタクリル酸の意である(以下同様。)
【0099】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、エステル部分の炭素数が1〜20の(メタ)アクリル酸が好ましく、エステル部分の炭素数が4〜10の(メタ)アクリル酸エステルがより好ましい。
このような(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル等が挙げられる。
【0100】
官能性単量体としては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等のヒドロキシル基含有単量体、(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有単量体、(メタ)アクリル酸等のカルボン酸基含有単量体等が挙げられる。
【0101】
(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体は、例えば、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法等の公知の重合方法により得ることができる。なお、(共)重合体は、単独重合体又は共重合体の意である(以下、同様)。
【0102】
(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体は、架橋剤と混合して、少なくとも一部に架橋体を形成して用いることもできる。
架橋剤としては、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアナート等、或いはそれらのアダクト体等のイソシアネート系架橋剤;エチレングリコールグリシジルエーテル等のエポキシ系架橋剤;ヘキサ〔1−(2−メチル)−アジリジニル〕トリフオスファトリアジン等のアジリジン系架橋剤;アルミニウムキレート等のキレート系架橋剤;等が挙げられる。
【0103】
架橋剤の使用量は、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体の固形分100質量部に対して通常0.01〜10質量部、好ましくは0.05〜5質量部である。架橋剤は1種単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0104】
シリコーン系樹脂としては、ジメチルシロキサンを主成分とするものが挙げられる。
ゴム系材料としては、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ポリイソブチレンゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンゴム等を主成分とするものが挙げられる。
【0105】
衝撃吸収層には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、粘着付与剤、可塑剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤等の他の成分を含んでいてもよい。
【0106】
衝撃吸収層を形成する素材は、粘着剤、コート剤、封止剤等として市販されているものを使用することもでき、特に、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ゴム系粘着剤等の粘着剤が好ましい。
【0107】
衝撃吸収層の形成方法としては特に制限はなく、例えば、前記ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層の形成方法と同様に、前記衝撃吸収層を形成する素材(粘着剤等)、及び、所望により、溶剤等の他の成分を含む衝撃吸収層形成溶液を、積層すべき層上に塗布し、得られた塗膜を乾燥し、必要に応じて加熱等して形成する方法が挙げられる。
また、別途、剥離基材上に衝撃吸収層を成膜し、得られた膜を、積層すべき層上に転写して積層してもよい。
衝撃吸収層の厚みは、通常1〜100μm、好ましくは5〜50μmである。
【0108】
(導電体層)
導電体層を構成する材料としては、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、これらの混合物等が挙げられる。具体的には、アンチモンをドープした酸化スズ(ATO);フッ素をドープした酸化スズ(FTO);酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の導電性金属酸化物;金、銀、クロム、ニッケル等の金属;これら金属と導電性金属酸化物との混合物;ヨウ化銅、硫化銅等の無機導電性物質;ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール等の有機導電性材料;等が挙げられる。導電体層は、これらの材料からなる層が複数積層されてなる積層体であってもよい。
これらの中でも、透明性の点から、導電性金属酸化物が好ましく、ITOが特に好ましい。
【0109】
導電体層の形成方法としては、例えば、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、熱CVD法、プラズマCVD法等が挙げられる。これらの中でも、簡便に導電体層が形成できることから、スパッタリング法が好ましい。
【0110】
スパッタリング法は、真空槽内に放電ガス(アルゴン等)を導入し、ターゲットと基板との間に高周波電圧或いは直流電圧を加えて放電ガスをプラズマ化し、該プラズマをターゲットに衝突させることでターゲット材料を飛ばし、基板に付着させて薄膜を得る方法である。ターゲットとしては、前記導電体層を形成する材料からなるものが使用される。
【0111】
導電体層の厚さはその用途等に応じて適宜選択すればよい。通常10nm〜50μm、好ましくは20nm〜20μmである。
得られる導電体層の表面抵抗率は、通常1000Ω/□以下である。
【0112】
形成された導電体層には、必要に応じてパターニングを行ってもよい。パターニングする方法としては、フォトリソグラフィー等による化学的エッチング、レーザ等を用いた物理的エッチング等、マスクを用いた真空蒸着法やスパッタリング法、リフトオフ法、印刷法等が挙げられる。
【0113】
(プライマー層)
プライマー層は、基材層とポリシラザン化合物と粘土鉱物とを含む層あるいはイオン注入層との層間密着性を高める役割を果たす。プライマー層を設けることにより、層間密着性及び表面平滑性に極めて優れるガスバリア性フィルムを得ることができる。
【0114】
プライマー層を構成する材料としては、特に限定されず、公知のものが使用できる。例えば、ケイ素含有化合物;光重合性モノマー及び/又は光重合性プレポリマーからなる光重合性化合物、及び少なくとも可視光域の光でラジカルを発生する重合開始剤を含む光重合性組成物;ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂(特にポリアクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等とイソシアネート化合物との2液硬化型樹脂)、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール系樹脂、ニトロセルロース系樹脂等の樹脂類;アルキルチタネート;エチレンイミン;等が挙げられる。これらの材料は一種単独で、或いは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0115】
プライマー層は、プライマー層を構成する材料を適当な溶剤に溶解又は分散してなるプライマー層形成用溶液を、基材層の片面又は両面に塗付し、得られた塗膜を乾燥させ、所望により加熱することより形成することができる。
【0116】
プライマー層形成用溶液を基材層に塗付する方法としては、通常の湿式コーティング方法を用いることができる。例えばディッピング法、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、エアナイフコート、ロールナイフコート、ダイコート、スクリーン印刷法、スプレーコート、グラビアオフセット法等が挙げられる。
【0117】
プライマー層形成用溶液の塗膜を乾燥する方法としては、熱風乾燥、熱ロール乾燥、赤外線照射等、従来公知の乾燥方法が採用できる。プライマー層の厚みは、通常、10〜1000nmである。
【0118】
また、得られたプライマー層に、後述する、イオン注入層にイオン注入する方法と同様な方法によりイオン注入を行ってもよい。プライマー層にもイオン注入を行うことにより、より優れたガスバリア性フィルムを得ることができる。
【0119】
本発明の成形体は、40℃、相対湿度90%雰囲気下での水蒸気透過率が、6.0g/m2/day以下であることを特徴とする。該水蒸気透過率は、1.0g/m/day以下であるのが好ましく、0.7g/m/day以下であるのがより好ましく、0.4g/m/day以下であるのが特に好ましい。なお、水蒸気透過率は、公知のガス透過率測定装置を使用して測定することができる。
【0120】
本発明の成形体は、さらに、優れた透明性を有し、また、その形状がフィルム状又はシート状(以下、「フィルム状」という。)の場合、耐折り曲げ性に優れ、かつ折り曲げなどを行ってもガスバリア性を維持するものが好ましい。
【0121】
本発明の成形体が優れた透明性を有していることは、本発明の成形体の全光線透過率が高いことから確認することができる。全光線透過率は波長550nmにおける透過率であり、86%以上が好ましい。成形体の全光線透過率は、公知の全光線透過率測定装置を使用して測定することができる。
【0122】
本発明の成形体が耐折り曲げ性に優れ、折り曲げなどを行ってもガスバリア性を維持できることは、フィルム状の成形体をふたつに折り曲げて圧力をかけ、再び開いたときに折り曲げた部分が劣化しておらず、水蒸気透過率もほとんど低下しないことから確認することができる。本発明の成形体は、下記式
【0123】
【数1】

【0124】
で算出される水蒸気透過上昇率が、600%以下であるのが好ましく、500%以下であるのがより好ましく、150%以下であるのがさらに好ましく、120%以下であるのが特に好ましい。本発明のフィルム状の成形体は、同じ厚みの無機膜に比較して、折り曲げ後もガスバリア性を維持することに優れている。
【0125】
2)成形体の製造方法
本発明の成形体の製造方法は、粘土鉱物等含有層を表面部に有する成形物の、前記粘土鉱物等含有層に、イオンを注入する工程を有することを特徴とする。
【0126】
本発明の成形体の製造方法においては、粘土鉱物等含有層を表面部に有する長尺状の成形物を一定方向に搬送しながら、粘土鉱物等含有層にイオンを注入させて成形体を製造するのが好ましい。
この製造方法によれば、例えば、長尺状の成形物を巻き出しロールから巻き出し、それを一定方向に搬送しながらイオンを注入し、巻き取りロールで巻き取ることができるので、イオンが注入された成形体を連続的に製造することができる。
【0127】
長尺状の成形物の形状はフィルム状であり、粘土鉱物等含有層のみからなるものでもよいし、粘土鉱物等含有層を表面部に有する、他の層を含む積層体であってもよい。
【0128】
成形物の厚さは、巻き出し、巻き取り及び搬送の操作性の観点から、1μm〜500μmが好ましく、5μm〜300μmがより好ましい。
【0129】
粘土鉱物等含有層に、イオンを注入する方法は、特に限定されない。なかでも、プラズマイオン注入法により前記層の表面部にイオン注入層を形成する方法が特に好ましい。
【0130】
プラズマイオン注入法は、プラズマ中に曝した、粘土鉱物等含有層を表面に有する成形物に、負の高電圧パルスを印加することにより、プラズマ中のイオンを前記層の表面部に注入してイオン注入層を形成する方法である。
【0131】
プラズマイオン注入法としては、(A)外部電界を用いて発生させたプラズマ中に存在するイオンを、前記層の表面部に注入する方法、又は(B)外部電界を用いることなく、前記層に印加する負の高電圧パルスによる電界のみで発生させたプラズマ中に存在するイオンを、前記層の表面部に注入する方法が好ましい。
【0132】
前記(A)の方法においては、イオン注入する際の圧力(プラズマイオン注入時の圧力)を0.01〜1Paとすることが好ましい。プラズマイオン注入時の圧力がこのような範囲にあるときに、簡便にかつ効率よく、ガスバリア性等に優れた均一なイオン注入層を形成することができる。
【0133】
前記(B)の方法は、減圧度を高くする必要がなく、処理操作が簡便であり、処理時間も大幅に短縮することができる。また、前記層全体にわたって均一に処理することができ、負の高電圧パルス印加時にプラズマ中のイオンを高エネルギーで層の表面部に連続的に注入することができる。さらに、radio frequency(高周波、以下、「RF」と略す。)や、マイクロ波等の高周波電力源等の特別の他の手段を要することなく、層に負の高電圧パルスを印加するだけで、層の表面部に良質のイオン注入層を均一に形成することができる。
【0134】
前記(A)及び(B)のいずれの方法においても、負の高電圧パルスを印加するとき、すなわちイオン注入するときのパルス幅は、1〜15μsecであるのが好ましい。パルス幅がこのような範囲にあるときに、透明で均一なイオン注入層をより簡便にかつ効率よく形成することができる。
【0135】
また、プラズマを発生させるときの印加電圧は、好ましくは−1kV〜−50kV、より好ましくは−1kV〜−30kV、特に好ましくは−5kV〜−20kVである。印加電圧が−1kVより大きい値でイオン注入を行うと、イオン注入量(ドーズ量)が不十分となり、所望の性能が得られない。一方、−50kVより小さい値でイオン注入を行うと、イオン注入時に成形体が帯電し、また成形体への着色等の不具合が生じ、好ましくない。
【0136】
プラズマイオンを生成する原料ガスとしては、前記1)成形体の項で例示したのと同様のものが挙げられる。
【0137】
層の表面部にプラズマ中のイオンを注入する際には、プラズマイオン注入装置を用いる。
プラズマイオン注入装置としては、具体的には、(α)イオン注入する層に負の高電圧パルスを印加するフィードスルーに高周波電力を重畳してイオン注入する層の周囲を均等にプラズマで囲み、プラズマ中のイオンを誘引、注入、衝突、堆積させる装置(特開2001-26887号公報)、(β)チャンバー内にアンテナを設け、高周波電力を与えてプラズマを発生させてイオン注入する層周囲にプラズマが到達後、イオン注入する層に正と負のパルスを交互に印加することで、正のパルスでプラズマ中の電子を誘引衝突させてイオン注入する層を加熱し、パルス定数を制御して温度制御を行いつつ、負のパルスを印加してプラズマ中のイオンを誘引、注入させる装置(特開2001−156013号公報)、(γ)マイクロ波等の高周波電力源等の外部電界を用いてプラズマを発生させ、高電圧パルスを印加してプラズマ中のイオンを誘引、注入させるプラズマイオン注入装置、(δ)外部電界を用いることなく高電圧パルスの印加により発生する電界のみで発生するプラズマ中のイオンを注入するプラズマイオン注入装置等が挙げられる。
【0138】
これらの中でも、処理操作が簡便であり、処理時間も大幅に短縮でき、連続使用に適していることから、(γ)又は(δ)のプラズマイオン注入装置を用いるのが好ましい。
以下、前記(γ)及び(δ)のプラズマイオン注入装置を用いる方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0139】
図1は、前記(γ)のプラズマイオン注入装置を備える連続的プラズマイオン注入装置の概要を示す図である。
図1(a)において、1aは粘土鉱物等含有層を表面部に有する長尺フィルム状の成形物(以下、「フィルム」という。)、11aはチャンバー、20aはターボ分子ポンプ、3aはイオン注入される前のフィルム1aを送り出す巻き出しロール、5aはイオン注入されたフィルム(成形体)1aをロール状に巻き取る巻取りロール、2aは高電圧印加回転キャン、6aはフィルムの送り出しロール、10aはガス導入口、7aは高電圧パルス電源、4aはプラズマ放電用電極(外部電界)である。図1(b)は、前記高電圧印加回転キャン2aの斜視図であり、15は高電圧導入端子(フィードスルー)である。
【0140】
用いるイオン注入する層を表面部に有する長尺状のフィルム1aは、基材層上に、粘土鉱物等含有層を形成したフィルムである。
【0141】
図1に示す連続的プラズマイオン注入装置においては、フィルム1aは、チャンバー11a内において、巻き出しロール3aから図1中矢印X方向に搬送され、高電圧印加回転キャン2aを通過して、巻き取りロール5aに巻き取られる。フィルム1aの巻取りの方法や、フィルム1aを搬送する方法等は特に制約はないが、本実施形態においては、高電圧印加回転キャン2aを一定速度で回転させることにより、フィルム1aの搬送を行っている。また、高電圧印加回転キャン2aの回転は、高電圧導入端子15の中心軸13をモーターにより回転させることにより行われる。
【0142】
高電圧導入端子15、及びフィルム1aが接触する複数の送り出し用ロール6a等は絶縁体からなり、例えば、アルミナの表面をポリテトラフルオロエチレン等の樹脂で被覆して形成されている。また、高電圧印加回転キャン2aは導体からなり、例えば、ステンレスで形成することができる。
【0143】
フィルム1aの搬送速度は適宜設定できる。フィルム1aが巻き出しロール3aから搬送され、巻き取りロール5aに巻き取られるまでの間にフィルム1aの表面部(粘土鉱物等含有層)にイオン注入され、所望のイオン注入層が形成されるだけの時間が確保される速度であれば、特に制約されない。フィルムの巻取り速度(搬送速度)は、印加電圧、装置規模等にもよるが、通常0.1〜3m/min、好ましくは0.2〜2.5m/minである。
【0144】
まず、チャンバー11a内をロータリーポンプに接続されたターボ分子ポンプ20aにより排気して減圧とする。減圧度は、通常1×10−4Pa〜1×10Pa、好ましくは1×10−3Pa〜1×10−2Paである。
【0145】
次に、ガス導入口10aよりチャンバー11a内に、イオン注入用のガス(以下、「イオン注入用ガス」ということがある。)を導入して、チャンバー11a内を減圧イオン注入用ガス雰囲気とする。なお、イオン注入用ガスはプラズマ生成ガスでもある。
【0146】
次いで、プラズマ放電用電極4(外部電界)によりプラズマを発生させる。プラズマを発生させる方法としては、マイクロ波やRF等の高周波電力源等による公知の方法が挙げられる。
【0147】
一方、高電圧導入端子15を介して高電圧印加回転キャン2aに接続されている高電圧パルス電源7aにより、負の高電圧パルス9aが印加される。高電圧印加回転キャン2aに負の高電圧パルスが印加されると、プラズマ中のイオンが誘因され、高電圧印加回転キャン2aの周囲のフィルムの表面に注入され(図1(a)中、矢印Y)、フィルム状の成形体1bが得られる。
【0148】
前述のように、イオン注入する際の圧力(チャンバー11a内のプラズマガスの圧力)は、0.01〜1Paであるのが好ましく、イオン注入するときのパルス幅は、1〜15μsecであるのが好ましく、高電圧印加回転キャン2aに負の高電圧を印加する際の印加電圧は、−1kV〜−50kVであるのが好ましい。
【0149】
次に、図2に示す連続的プラズマイオン注入装置を使用して、粘土鉱物等含有層を表面部に有するフィルムの、前記粘土鉱物等含有層にイオン注入する方法を説明する。
【0150】
図2に示す装置は、前記(δ)のプラズマイオン注入装置を備える。このプラズマイオン注入装置は、外部電界(すなわち、図1におけるプラズマ放電用電極4)を用いることなく印加する高電圧パルスによる電界のみでプラズマを発生させるものである。
【0151】
図2に示す連続的プラズマイオン注入装置においては、フィルム(フィルム状の成形物)1cは、前記図1の装置と同様に、高電圧印加回転キャン2bを回転させることによって、巻き出しロール3bから図2中矢印X方向に搬送され、巻き取りロール5bに巻き取られる。
【0152】
図2に示す連続的プラズマイオン注入装置では、前記フィルムの粘土鉱物等含有層の表面部へのイオン注入は次のように行われる。
【0153】
まず、図1に示すプラズマイオン注入装置と同様にしてチャンバー11b内にフィルム1cを設置し、チャンバー11b内をロータリーポンプに接続されているターボ分子ポンプ20bにより排気して減圧とする。そこへ、ガス導入口10bよりチャンバー11b内に、イオン注入用ガスを導入して、チャンバー11b内を減圧イオン注入用ガス雰囲気とする。
【0154】
イオン注入する際の圧力(チャンバー11b内のプラズマガスの圧力)は、10Pa以下、好ましくは0.01〜5Pa、より好ましくは0.01〜1Paである。
【0155】
次に、フィルム1cを、図2中Xの方向に搬送させながら、高電圧導入端子(図示せず)を介して高電圧印加回転キャン2bに接続されている高電圧パルス電源7bから高電圧パルス9bを印加する。
【0156】
高電圧印加回転キャン2bに負の高電圧が印加されると、高電圧印加回転キャン2bの周囲のフィルム1cに沿ってプラズマが発生し、そのプラズマ中のイオンが誘因され、高電圧印加回転キャン2bの周囲の成形体フィルム1cの表面に注入される(図2中、矢印Y)。フィルム1cの粘土鉱物等含有層の表面部にイオンが注入されると、フィルム表面部にイオン注入層が形成され、フィルム状の成形体1dが得られる。
【0157】
高電圧印加回転キャン2bに負の高電圧を印加する際の印加電圧、パルス幅及びイオン注入する際の圧力は、図1に示す連続的プラズマイオン注入装置の場合と同様である。
【0158】
図2に示すプラズマイオン注入装置では、プラズマを発生させるプラズマ発生手段を高電圧パルス電源によって兼用しているため、RFやマイクロ波等の高周波電力源等の特別の他の手段を要することなく、負の高電圧パルスを印加するだけで、プラズマを発生させ、フィルムの粘土鉱物等含有層の表面部にプラズマ中のイオンを注入し、イオン注入層を連続的に形成し、フィルムの表面部にイオン注入層が形成された成形体を量産することができる。
【0159】
3)電子デバイス用部材及び電子デバイス
本発明の電子デバイス用部材は、本発明の成形体からなることを特徴とする。従って、本発明の電子デバイス用部材は、優れたガスバリア性を有しているので、水蒸気等のガスによる素子の劣化を防ぐことができる。また、光の透過性が高いので、液晶ディスプレイ、ELディスプレイ等のディスプレイ部材;太陽電池用バックシート;等として好適である。
【0160】
本発明の電子デバイスは、本発明の電子デバイス用部材を備える。具体例としては、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイ、電子ペーパー、太陽電池等が挙げられる。
本発明の電子デバイスは、本発明の成形体からなる電子デバイス用部材を備えているので、優れたガスバリア性、透明性及び耐折り曲げ性を有する。
【実施例】
【0161】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例になんら限定されるものではない。
【0162】
用いたプラズマイオン注入装置、水蒸気透過率測定装置と測定条件、全光線透過率測定装置、及び折り曲げ試験の方法は以下の通りである。なお、用いたプラズマイオン注入装置は外部電界を用いてイオン注入する装置である。
【0163】
(プラズマイオン注入装置)
RF電源:日本電子社製、型番号「RF」56000
高電圧パルス電源:栗田製作所社製、「PV−3−HSHV−0835」
【0164】
(水蒸気透過率の測定)
ガス透過率測定装置:水蒸気透過率が0.01g/m2/day以上のとき、LYSSY社製、「L89−500」を用い、水蒸気透過率が0.01g/m2/day未満のとき、TECHNOLOX社製、「deltaperm」を用いた。
測定は相対湿度90%、40℃の条件下で行った。
【0165】
(全光線透過率の測定)
全光線透過率測定装置:島津製作所社製、「UV−3101PC」を使用して、波長550nmの全光線透過率を測定した
【0166】
(折り曲げ試験)
得られた成形体のイオン注入面(比較例1はペルヒドロポリシラザン等を含む層側、比較例2は窒化ケイ素膜側)を外側にし、中央部分で半分に折り曲げてラミネーター(フジプラ社製、「LAMIPACKER LPC1502」)の2本のロール間を、ラミネート速度5m/min、温度23℃の条件で通した後、折り曲げた部分を顕微鏡で観察(100倍)してクラック発生の有無を観察した。クラックの発生が認められなかった場合を「なし」、クラックの発生が認められた場合を「あり」と評価した。さらに、水蒸気透過率(折り曲げ後の水蒸気透過率)を測定し、下記式により水蒸気透過上昇率を計算した。
【0167】
【数2】

【0168】
(実施例1)
基材層としてのポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂社製、「PET38 T−100」、厚さ38μm、以下、「PETフィルム」という。)に、ポリシラザン化合物としてのペルヒドロポリシラザンを主成分とするコーティング剤(クラリアントジャパン社製、「アクアミカNL110−20」)と、粘土鉱物(三洋貿易株式会社製、Dellite67G)が分散した0.2質量%キシレン溶液との混合液を、乾燥後の塗膜の厚みが150nmとなる量塗布し、120℃で2分間加熱して、PETフィルム上に、ペルヒドロポリシラザンと粘土鉱物とを含む層を形成した。粘土鉱物の添加量は全固形分(ポリシラザン化合物と粘土鉱物の合計量)を100質量%として、0.1質量%〔粘土鉱物:ペルヒドロポリシラザン=0.1:99.9(質量比)〕とした。
次に、前記ペルヒドロポリシラザンと粘土鉱物を含む層の表面に、図1に示すプラズマイオン注入装置を用いて、アルゴン(Ar)を以下に示す条件にてプラズマイオン注入して成形体1を作製した。
【0169】
〈プラズマイオン注入の条件〉
・プラズマ生成ガス:アルゴン
・ガス流量:100sccm
・Duty比:0.5%
・繰り返し周波数:1000Hz
・印加電圧:−5kV
・RF電源:周波数 13.56MHz、印加電力 1000W
・チャンバー内圧:0.2Pa
・パルス幅:5μsec
・処理時間(イオン注入時間):5分間
・搬送速度:0.2m/min
【0170】
(実施例2)
実施例1において、粘土鉱物の添加量を、全固形分の0.1質量%ではなく1質量%〔粘土鉱物:ペルヒドロポリシラザン=1:99(質量比)〕とした以外は、実施例1と同様にして成形体2を作製した。
【0171】
(実施例3)
実施例1において、粘土鉱物の添加量を、全固形分の0.1質量%ではなく10質量%〔粘土鉱物:ペルヒドロポリシラザン=10:90(質量比)〕とした以外は、実施例1と同様にして成形体3を作製した。
【0172】
(比較例1)
イオン注入を行わない以外は、実施例1と同様にして成形体を作製した。すなわち、PETフィルム上にペルヒドロポリシラザンと粘土鉱物を含む層を形成し、このものを成形体4とした。
【0173】
(比較例2)
PETフィルムに、スパッタリング法により、厚さ60nmの窒化ケイ素(SiN)の膜を形成して、成形体5を作製した。
【0174】
(比較例3)
PETフィルム上にペルヒドロポリシラザンと粘土鉱物とを含む層を形成しない以外は、実施例1と同様にして成形体を作製した。すなわち、PETフィルムの表面にアルゴン(Ar)を実施例1と同様の条件にてプラズマイオン注入して成形体6を作製した。
【0175】
(参考例1)
実施例1において、粘土鉱物を使用しない以外は、実施例1と同様にして成形体7を作製した。
【0176】
実施例1〜3、比較例3、4で得られた成形体1〜3、6、7について、XPS(アルバックファイ社製)を用いて、表面から深さ10nm付近の元素分析測定を行うことにより、イオンが注入されたことを確認した。
【0177】
実施例1〜3、比較例1〜4で得られた成形体1〜7につき、水蒸気透過率及び全光線透過率を測定した。測定結果を下記第1表に示す。
【0178】
また、成形体1〜7について、折り曲げ試験を行い、クラックの発生の有無を確認した。結果を第1表に示す。
さらに、折り曲げ試験後の水蒸気透過率を測定し、水蒸気透過上昇率を算出した。結果を第1表に示す。
【0179】
【表1】

【0180】
第1表から、実施例1〜3の成形体1〜3は、水蒸気透過率が小さく、全光線透過率が高いことから、高いガスバリア性を有し、透明性に優れることがわかった。
また、折り曲げ試験後においてクラックの発生がみられず、水蒸気透過上昇率も600%以下であり、耐折り曲げ性に優れていることがわかった。
【0181】
一方、比較例1、3の成形体4、6は、水蒸気透過率が高く、ガスバリア性に劣っていた。比較例2、4の成形体5、7は、折り曲げ試験後に水蒸気透過上昇率が大きく、比較例2の成形体5は、クラックも発生し、耐折り曲げ性に劣っていた。
【符号の説明】
【0182】
1a、1c・・・フィルム状の成形物
1b、1d・・・フィルム状の成形体
2a、2b・・・回転キャン
3a、3b・・・巻き出しロール
4・・・プラズマ放電用電極
5a、5b・・・巻き取りロール
6a、6b・・・送り出し用ロール
7a、7b・・・パルス電源
9a、9b・・・高電圧パルス
10a、10b・・・ガス導入口
11a、11b・・・チャンバー
13・・・中心軸
15・・・高電圧導入端子
20a、20b・・・ターボ分子ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリシラザン化合物と粘土鉱物とを含む層からなり、40℃、相対湿度90%雰囲気下での水蒸気透過率が、6.0g/m2/day以下であることを特徴とする成形体。
【請求項2】
ポリシラザン化合物と粘土鉱物とを含む層にイオンが注入されて得られる層を有することを特徴とする請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
前記イオンが、水素、窒素、酸素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、クリプトン、ケイ素化合物及び炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも一種のガスがイオン化されたものであることを特徴とする請求項2に記載の成形体。
【請求項4】
前記ポリシラザン化合物と粘土鉱物とを含む層に、プラズマイオン注入法によりイオンが注入されて得られる層を有することを特徴とする請求項2又は3に記載の成形体。
【請求項5】
前記ポリシラザン化合物が、ペルヒドロポリシラザンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の成形体。
【請求項6】
前記ポリシラザン化合物と粘土鉱物とを含む層中の粘土鉱物の含有量が、ポリシラザン化合物と粘土鉱物の合計量を100質量%として、0.01質量%〜10質量%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の成形体。
【請求項7】
ポリシラザン化合物と粘土鉱物とを含む層を表面部に有する成形物の、前記ポリシラザン系化合物と粘土鉱物とを含む層の表面部に、イオンを注入する工程を有する請求項2〜6のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項8】
ポリシラザン化合物と粘土鉱物とを含む層を表面部に有する成形物の、前記ポリシラザン系化合物と粘土鉱物とを含む層の表面部に、水素、窒素、酸素、アルゴン、ヘリウム、キセノン、ネオン、クリプトン、ケイ素化合物及び炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも一種のガスをイオン注入する工程を有する請求項7に記載の成形体の製造方法。
【請求項9】
前記イオン注入する工程が、プラズマイオン注入する工程であることを特徴とする請求項7又は8に記載の成形体の製造方法。
【請求項10】
ポリシラザン化合物と粘土鉱物とを含む層を表面部に有する長尺状の成形物を、一定方向に搬送しながら、前記ポリシラザン化合物と粘土鉱物とを含む層に、イオンを注入することを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれかに記載の成形体からなる電子デバイス用部材。
【請求項12】
請求項11に記載の電子デバイス用部材を備える電子デバイス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−213907(P2011−213907A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84227(P2010−84227)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】