説明

成形体の製造方法、成形体、眼鏡および防護製品

【課題】平板状の熱可塑性樹脂シートまたは積層体を用いて成形加工する成形体を任意の色合い、濃度に効率よく染色でき、かつ耐熱加工性に優れる成形体の製造方法を提供するものである。
【解決手段】平板状の熱可塑性樹脂シートまたは積層体を用いて成形加工する成形体の製造方法であって、
平板状に加工された熱可塑性樹脂シートまたは積層体に対して、少なくとも片面に染色可能な表面層を設ける工程、
成形加工する工程、
染色処理する工程を含む成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体の製造方法、成形体、眼鏡、および防護製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、眼鏡、ゴーグル、サングラス、バイザーに使用されるプラスチックレンズやヘルメットシールド、風防、防護面などに使用されるプラスチック防護体はガラス製品と比較して耐衝撃性が高いこと、透明であり軽量であることなどからガラス製品に代わり多方面で使用されている。(例えば、特許文献1参照。)
特にそれらは紫外線遮断効果やファッション性などから着色されて使用されることも多い。またレンズ上部の透過率が低く、レンズ下部の透過率を高くすることで着色濃度に階調をつけたレンズは遠方や空を見る際は防眩性が高く、手元の視界は明るく作業性が良いなどの機能性も付与される。
プラスチックをレンズや防護体などの成形体に加工する方法として、熱硬化製の液状プラスチック材料を所望の形状の金型に流し込み、熱硬化させる方法や、所望の形状の金型に対して熱可塑性樹脂を射出する方法などが挙げられる。
前述の方法で用意されたプラスチックレンズや防護体などの成形体を染色する方法は、これまで様々な方法が実施されている。代表的な方法として、
(1)気相中にて染料を昇華させ基材表面を染色する方法
(2)染料をスプレーやインクジェットなどで噴霧する方法
などが挙げられる。
(3)染料を分散させた染液を加熱し、プラスチックを浸漬させ染色する方法、
(4)染色困難なプラスチックに染色されやすい表面層を設け、該プラスチックを前記(1)の方法で染める方法、
【0003】
染色方法(1)は染料の色味によって昇華する条件がことなるため任意の色をプラスチック表面に付着させる工程が効率的ではなく、量産性に適していない。
染色方法(2)のスプレー法は噴霧範囲が広く、比較的小さな眼鏡レンズなどの色調を細かくコントロールすることは難しい。またインクジェット法を用いる際には染料の細かな吐出量などを設定できる専用のプリンターなどが必要となる。
染色方法(3)では、プラスチックを染色させるために染料を分散助剤などで分散させた染色液の中に浸漬させる。染色後、場合によっては染料を抜けにくくするために加熱処理などを行う。しかしこの方法ではプラスチック材料が染色されやすい材質に限られる。染色困難であるプラスチックを染色する場合、一般的には濃色まで染めることが困難であった。
染色方法(4)は、前述した染色困難な材料に用いられる。染色困難な材料の表面に染色可能な表面層を設けた後に染色方法(1)と同様の方法を用いて基材の染色を行う。しかしこの染色方法においては形状加工、成形後に、基材に対して表面処理を施す必要があり経済上有利ではないという問題点があった。
このように現状では染色されたプラスチック体を得るためには、染色方法が限られる、染色される材料が限られる、染色困難な材料を染色する際は成形後に染色可能な表面処理を施す工程が必要であることなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特願平8−038455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題に顧みてなされたものであり、熱可塑性樹脂シートまたは積層体に対して、染色可能な表面層を設ける工程、染色処理する工程、成形加工する工程を含むことによって、一般的な染色方法によって任意の色合い、濃度に効率よく染色できる成形体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、下記(1)〜(11)に記載の本発明により達成される。
(1) 平板状の熱可塑性樹脂シートまたは積層体を用いて成形加工する成形体の製造方法であって、
平板状に加工された熱可塑性樹脂シートまたは積層体に対して、
少なくとも片面に染色可能な表面層を設ける工程、
成形加工する工程、
染色処理する工程を含む成形体の製造方法。
(2) 染色可能な表面層を設けられた工程、成形加工する工程、染色処理する工程の順に製造する前記(1)に記載の成形体の製造方法。
(3) 表染色可能な表面層を設けられた工程、染色処理をする工程、成形加工する工程の順に製造する前記(1)に記載の成形体の製造方法。
(4) 前記染色可能な表面層がアクリレート重合体を含む前記(1)〜(3)項のいずれか1項に記載の成形体の製造方法。
(5) 前記アクリレート重合体が、少なくとも炭素数2以上5以下、繰り返し単位が6以上であるアルキレングリコールを一種以上有するアクリレートモノマーまたはアクリレートオリゴマーである前記(4)に記載の成形体の製造方法。
(6) 前記熱可塑性樹脂シートまたは積層体に用いる熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂を含む前記(1)〜(5)項のいずれか1項に記載の成形体の製造方法。
(7) 前記熱可塑性樹脂積層体が、偏光性薄膜を含む積層体である前記(1)〜(6)項のいずれか1項に記載の成形体の製造方法。
(8) 前記成形体が、成形加工する工程、染色処理する工程の後に硬化性塗膜を成形体表面に形成していない成形体である前記(1)〜(7)項のいずれか1項に記載の成形体の製造方法。
(9) 前記(1)〜(8)項のいずれか1項に記載の成形体の製造方法により製造された成形体。
(10) 前記(9)項に記載の成形体を用いて作製した眼鏡。
(11) 前記(9)項に記載の成形体を用いて作製した防護製品。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、熱可塑性樹脂シートまたは積層体に対して染色可能な表面層を設ける工程、染色処理する工程、成形加工する工程の順序を問わず、染色された成形体を製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、平板状の熱可塑性樹脂シートまたは積層体を用いて成形加工する成形体の製造方法であって、平板状に加工された熱可塑性樹脂シートまたは積層体に対して、
少なくとも片面に染色可能な表面層を設ける工程、
成形加工する工程、
染色処理する工程を含む成形体の製造方法を用いることで染色された成形体を得ることができる。
【0009】
本発明で用いる平板状に加工された熱可塑性樹脂シートとは、透明な熱可塑性樹脂を溶液キャスト成形、押出成形、カレンダー成形、溶融キャスト成形など成形加工して作製した平板状の熱可塑性樹脂シートである。
熱可塑性樹脂積層体としては、異なる種類の熱可塑性樹脂を用いた積層体や熱可塑性樹脂と偏光性薄膜を有する積層体である。
【0010】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、環状ポリオレフィン樹脂などのオレフィン類の樹脂、ポリメチルメタクリレートなどのメタクリル樹脂、ポリジエチレングリコールビスアリルカーボネートなどのポリジアリルグリコールカーボネート類、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、メチルメタクリレート−スチレン共重合体、ゴム強化メタクリル樹脂、セルロースアセテートなどのセルロースエステル類、ポリ塩化ビニル、ABS(アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂などを挙げることができる。
またこれら樹脂からなる混合物を用いた熱可塑性樹脂シートや異なる種類の熱可塑性樹脂を積層した積層体を用いても良い。さらに、樹脂自体を濃色に染色することが困難な樹脂である、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、環状ポリオレフィン樹脂などのオレフィン類の樹脂が、特に適している。
なお、前記熱可塑性樹脂には、着色剤、離型剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、エステル交換防止剤、帯電防止剤などの各種添加剤を適宜配合してもよい。
【0011】
本発明で用いる熱可塑性樹脂積層体は、偏光性薄膜を有する積層体であってもよい。
偏光性薄膜としては、偏光機能を有する薄膜であれば特に限定されず、例えばポリビニルアルコール系フィルムなどの高分子フィルムに、二色性色素を吸着させて配向せしめたものなどが挙げられる。二色性色素としては、ヨウ素系染料、二色性染料などが用いられる。特に耐熱性の観点から二色性染料などの二色性色素を吸着させて配向せしめたものなどが好ましい。
二色性染料としては、例えばアゾ系、アントラキノン系などの染料が挙げられ、具体的にはクロラチンファストレッド、コンゴーレッド、ブリリアントブルー6B、ベンゾパープリン、クロラゾールブラックBH、ダイレクトブルー2B、ジアミングリーン、クリソフェノン、シリウスイエロー、ダイレクトファーストレッド、アシドブラックなどが挙げられる。
上記方法によって得られた偏光性薄膜に、熱可塑性樹脂シートを片面または両面に貼り合わせて熱可塑性樹脂積層体を作製することができる。
また、熱可塑性樹脂シートと熱可塑性樹脂積層体は、シートや積層体にされた後、金型などにより、ある形状に加工されたものであっても構わない。
【0012】
熱可塑性樹脂シートまたは積層体の少なくとも片面に染色可能な表面層を設ける工程としては、表面層に樹脂組成物をコートして表面塗膜を設ける方法や、転写法、プレス法、ラミネーター法が挙げられる。特に樹脂組成物をコートし表面塗膜を設ける方法には浸漬法、フローコート法、ナイフコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、スピンコート法、ロールコート法、ダイコート法、バーコート塗布法などが挙げられる。十分な密着性が得られやすく、成形時の熱によって不具合が生じにくい樹脂組成物をコートした後に硬化させて表面塗膜を設ける方法が好ましい。
上記熱可塑性樹脂シートまたは積層体に染色可能な表面層を形成する樹脂組成物を塗布し、その後、硬化処理を行うことで、表面層とする。
上記熱可塑性樹脂シートまたは積層体に塗布する樹脂組成物の厚みは1μm〜20μmになるのが好ましい。1μm以下では、濃色まで染めることが困難となり、また20μm以上では耐熱成形性や熱可塑性樹脂シートまたは積層体への密着性が得られにくい。特に、表面層は熱可塑性樹脂シートまたは積層体の片面もしくは、両面に層を設けてもよい。
【0013】
熱可塑性樹脂シートまたは積層体上に樹脂組成物を上記方法などにより塗布した後の硬化方法は、紫外線照射または電子線照射する方法が好ましい。
なお、溶剤を含む樹脂組成物を使用する場合は、硬化工程の前に熱可塑性樹脂シートおよび塗布された樹脂組成物の温度を上げ、充分に溶剤を蒸発させる工程を経ることが好ましい。また樹脂組成物の硬化に電子線照射装置を用いることもできる。このとき電子線は紫外線よりもエネルギーが高く、光重合開始剤の存在なしに重合開始種(ラジカル種)を発生でき、樹脂組成物の硬化が起こるため、光重合開始剤の添加はなくてもよい。
【0014】
前記熱可塑性樹脂シートまたは積層体を成形加工する工程としては、一般的な真空成形、プレス成形、圧空成形、または予め所望の形状にかたどられた成形型に密着させた後に成形可能な温度まで加熱し賦形する方法などが挙げられる。
なお、雄型と雌型によるプレス成形を行った後に真空吸引を行い賦形する方法など、これらの方法を組み合わせた方法を用いても良い。
また上記の成形加工は成形温度に耐えうる保護フィルムであれば用いてもよい。そのほかにシートまたは積層体の凹側に、インサートモールド射出成形法により樹脂を射出して、厚みのある積層体を作製する場合もある。もちろん用途によっては、樹脂を加熱せずに強制曲げあるいは平面状のシートのままでもよい。
【0015】
熱可塑性樹脂シートまたは該積層体を染色処理する工程としては、インクジェット法、スプレー法、着色したフィルムを用いた貼付法などの公知の染色方法を用いることができるが、染色可能な表面層を用いることにより、いかなる染色困難な熱可塑性樹脂シートまたは積層体を用いても浸漬法により実施することができ、任意の色調、濃度に効率よく染色することが可能となる。
浸漬法で使用する染料は分散染料などが挙げられ、場合によっては水中に染料を分散させるために分散助剤などを使用する。染色は全面的に均一な色調にする必要はなく、色調に濃度勾配があっても、複数の色調に染色してもよく、染色後にその表面に対して、他の耐摩耗性膜や反射防止膜、防曇性膜などを設けてもよい。
【0016】
熱可塑性樹脂シートまたは積層体に対して、染色可能な表面層を設ける工程、成形加工する工程、染色処理する工程の順番は特に規定されず、いずれの工程順序でもよい。
染色可能な表面層を設ける工程、成形加工する工程、染色処理する工程の順に成形体を製造する製造方法、または、染色可能な表面層を設ける工程、染色処理をする工程、成形加工する工程の順に成形体を製造する製造方法であることが好ましい。
染色可能な表面層を設ける工程、成形加工する工程、染色処理する工程の順に成形体を製造する製造方法の場合は、複雑な染色方法、例えば色調に濃淡をつけたグラデーション染色や、複数色での染色など、個々の成形体に任意の色合いで染色、また所望の数量を生産する際に好適である。
また、染色可能な表面層を設ける工程、染色処理をする工程、成形加工する工程の順に成形体を製造する製造方法の場合は、熱可塑性樹脂シートまたは積層体を一括で染色した後に所望の形に成形する際に好ましい。従来であれば成形加工後に染色可能な表面処理を個々の成形体に対して施すのに対して、該工程順の通り染色可能な表面層を設ける工程を最初に行うことでシート状の熱可塑性樹脂に対し、一括で表面層を設けることができ、効率的に染色された成形体を得ることができる。
また従来通り成形加工後に表面処理工程を経て、染色工程を経る製造方法でも染色された成形体を得ることができる。なお、本発明で用いる表面層は染色性、成形性に影響がない範囲であれば、他の機能、例えば耐磨耗性や防曇性を付与させてもよい。
【0017】
本発明の染色可能な表面層に用いる樹脂組成物としては、アクリレート重合体を含むことで、成形性だけでなく、耐磨耗性や防曇性などを付与することが容易であるため好まし
い。
アクリレート重合体としては、例えば脂肪族(メタ)アクリレートモノマー(オリゴマー)、芳香族(メタ)アクリレートモノマー(オリゴマー)、ウレタン(メタ)アクリレートモノマー(オリゴマー)、エポキシ(メタ)アクリレートモノマー(オリゴマー)、ポリエステル(メタ)アクリレートモノマー(オリゴマー)ポリエーテル(メタ)アクリレートモノマー(オリゴマー)などを用いて重合させたアクリレート重合体が使用可能である。
上記のモノマーやオリゴマーの構造を分子中に複数含むアクリレート重合体が好ましく、例えば脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートモノマー(オリゴマー)、または2種類以上のモノマー(オリゴマー)を用いてもよい。
なかでも炭素数2以上5以下、繰り返し単位が6以上であるアルキレングリコールを一種以上有する(メタ)アクリレートモノマーまたはオリゴマーを用いて重合させたアクリレート重合体が好ましい。
上記範囲内である(メタ)アクリレートモノマーまたはオリゴマーを用いることで染色性に寄与するために十分な親水性を有することができる。
それらのなかでも炭素数が2〜3のエチレン、プロピレングリコールを有し、繰り返し単位数が6〜12であるアクリレートモノマーを用いて重合させたアクリレート重合体であることが好ましい。被染色層としての染色性を得やすいとともに、耐熱成形性を得ることができるからである。
また、4官能以上のアクリレートを用いて重合させたアクリレート重合体であることで耐磨耗性を付与することもできる。
【0018】
なお、本発明で用いる染色可能な表面層に用いられる樹脂組成物は、染色性、成形性を保つ範囲内であれば、他の添加剤を添加してもよい。
例えば、光重合開始剤、増粘剤、溶剤、表面調整剤、紫外線吸収剤、近赤外線吸収剤、フォトクロミック性色素などの添加剤が挙げられる。特に紫外線硬化型樹脂組成物を硬化させるため、光重合開始剤を添加することが望ましい。
なお、前出の電子線照射装置による重合を行う際には、上記光重合開始剤は用いなくてもよい。
【0019】
本発明で用いる染色可能な表面層に他の機能(例えば、耐摩耗性、防曇性、反射防止性)も付与していれば、染色処理する工程、成形加工する工程の後に、上記の他の機能を付与することは不要となる。
例えば、染色可能な表面層に用いる樹脂組成物に耐磨耗性を付与させるには、樹脂組成物に含まれるアクリレートモノマーやオリゴマーの官能基数を調整することで得られる。
特に耐摩耗性、防曇性に優れた表面層を用いることで染色された成形体を得た後に、耐摩耗性または防曇性改善を目的とした表面処理を行わなくてもよいため、成形体を得た後の工程を省くことができる。
また、上記の他の機能を付与することで染色可能な熱可塑性樹脂シートや積層体に対しても、表面層を設ける工程を最初に行い、後に順序は問わないが成形加工する工程、染色処理する工程行う製造方法により、効率的に染色された耐磨耗性、もしくは防曇性に優れた成形体を得ることができる。
【0020】
本発明の製造方法で作製される眼鏡としては、サングラス、ゴーグル、眼鏡、水中眼鏡、などが挙げられる。
本発明の製造方法で作製される防護製品としては、保護眼鏡、保護ゴーグル、ヘルメットシールド、防毒マスク用透視板、自動車のサンルーフ、船舶の窓板、各種監視カメラ用カバー、風防、防護面などの防眩性のある防護製品である
【実施例】
【0021】
次に、本発明の具体的な実施例および比較例について説明する。
<実施例1>
1)染色可能な表面層に用いられる樹脂組成物の調製
炭素数2以上5以下、繰り返し単位が6以上であるアルキレングリコールを一種以上有するアクリレートモノマーまたはアクリレートオリゴマーとして、ウレタンアクリレートモノマー(ダイセルサイテック社製、EBECRYL2000)2.25g、ウレタンアクリレートオリゴマー(第一工業製薬社製、GX8644D)2.25g、その他のアクリレート成分として、ウレタンアクリレートオリゴマー(ダイセルサイテック社製、EBECRYL5129)、3.15g、アクリレートモノマー(新中村化学社製、NKエステルA−TMMT)1.35g、を混合させ、混合物を得た。
この混合物に溶剤として2−プロパノール2.25g、1−メトキシ−2−プロパノール15.58gを使用、重合開始剤(ランベルティ社製、KIP100F) 0.63g
、レベリング剤(共栄社製、G410)を0.016g、増粘剤(山一化学社製、Z48
2)2.25gを混合させ染色可能な表面層に用いられる樹脂組成物1を調製した。
【0022】
2)平板状に加工された熱可塑性樹脂シートまたは積層体の少なくとも片面に染色可能な表面層を設ける工程
熱可塑性樹脂シートに用いられる熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチック社製、ユーピロンE−2000FN)を押出成形して、厚み1.5mmの熱可塑性樹脂シートを得た。得られた熱可塑性樹脂シートに対して、前記樹脂組成物をバーコーターを用い、均一になるように片面に塗布した。
その後に50℃に保ったオーブン内に10分間放置、乾燥させた。乾燥後、80W/cmメタルハライドランプ(ウシオ電機社製)にて紫外線積算照射量900mJ/cm2の紫外線を照射し、樹脂組成物を硬化させた。
熱可塑性樹脂シートのもう片面にも上記と同様の方法により、樹脂組成物の塗布、乾燥、紫外線照射による硬化を行い、厚さ15μmの樹脂組成物(塗膜)を両面に有する熱可塑性樹脂シートを得た。
【0023】
3)成形加工する工程と染色処理する工程
上記作製した表面層を設けた熱可塑性樹脂シートを78Φの円形状に打ち抜き、成形機CPL32(レマ社製)を用いて150℃、8分間、0.09MPaで成形型中央から真空を引き、曲率半径88mmのレンズ状成形体を得た。
作製したレンズ状成形体を用いて、1Lの水中に染料(日本化薬製、kayaron
black)を2g、ラウリル酸ナトリウムを3g溶かし染液とした。この染液を90℃に熱し、レンズ状成形体を20分間浸漬させ、染色レンズを得た。
上記作製したレンズ状成形体、染色レンズを以下の評価方法で評価し、評価結果を表1に示した。
【0024】
[評価方法]
1)染色性
上記作製した染色レンズを用いて染色後透過率によって評価した。
透過率測定はスガ試験機社製のSC−2−SCHで測定し、評価基準は以下の通りとした。このときポリカーボネートシートの染色前透過率は90%であった。
A:染色後透過率が15%以上30%未満
B:染色後透過率が30%以上50%未満、または5%以上15%未満
C:染色後透過率が50%以上、または5%未満
評価基準「A」は、目的の染色濃度へ効率よく染色を行う上で適している。
評価基準「C」は非常に染まりやすい、または染まりにくいため目的の染色濃度へ染色を行うのに適していない。
評価基準「B」は評価基準「A」と比較して好適ではないが、使用上十分な染色性である

【0025】
2)耐熱成形性
上記作製したレンズ状成形体の外観評価を行い塗膜面にクラックや、その他外観不良がないか目視で確認を行った。クラックやその他外観不良がある場合を不可、ない場合を良とした。
【0026】
<実施例2>
炭素数2以上5以下、繰り返し単位が6以上であるアルキレングリコールを一種以上有するアクリレートモノマーとして、アクリレートモノマー(ダイセルサイテック社製、EBECRYL11)4.05g、その他のアクリレート成分として、アクリレートモノマー(新中村化学社製、NKエステルA−TMMT)0.9g、アクリレートモノマー(新中村化学社製、NKエステルA−9550)4.05g、を混合させ、この混合物を用いたこと以外は実施例1と同様の方法にて、溶剤、重合開始剤、レベリング剤、増粘剤を混合させ、染色可能な表面層に用いられる樹脂組成物2を調製した。
得られた樹脂組成物を用いたこと以外は実施例1と同様の方法にて、染色された成形体を作製し、実施例1同様の染色性評価、耐熱成形性評価を行った。
【0027】
<実施例3>
炭素数2以上5以下、繰り返し単位が6以上であるアルキレングリコールを一種以上有するアクリレートオリゴマーとして、メタクリレートオリゴマー(新中村化学社製、BPE−900)を5.15g、その他のアクリレート成分として、ウレタンアクリレートオリゴマー(ダイセルサイテック社製、EBECRYL5129)を3.85g、混合させ、この混合物を用いたこと以外は実施例1と同様の方法にて、溶剤、重合開始剤、レベリング剤、増粘剤を混合させ、染色可能な表面層に用いられる樹脂組成物3を調製した。
得られた樹脂組成物を用いたこと以外は実施例1と同様の方法にて、染色された成形体を作製し、実施例1同様の染色性評価、耐熱成形性評価を行った
<実施例4>
炭素数2以上5以下、繰り返し単位が6以上であるアルキレングリコールを一種以上有するアクリレートモノマーとして、ウレタンアクリレートモノマー(ダイセルサイテック社製、EBECRYL2000)を4.5g、その他のアクリレート成分として、アクリレートモノマー(新中村化学社製、A−TMMT)を4.5g、混合させ、この混合物を用いたこと以外は実施例1と同様の方法にて、溶剤、重合開始剤、レベリング剤、増粘剤を混合させ、染色可能な表面層に用いられる樹脂組成物4を調製した。
得られた樹脂組成物を用いたこと以外は実施例1と同様の方法にて、染色された成形体を作製し、実施例1同様の染色性評価、耐熱成形性評価を行った。
【0028】
<実施例5>
熱可塑性樹脂として、ポリエステル樹脂(SKケミカル社製、スカイグリーンJ−2003)60重量部と、ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチック社製、ユーピロンE−2000FN)40重量部とをミキサーで混合しベント式単軸押出機により厚み1.5mmの熱可塑性樹脂シートを得た。得られた熱可塑性樹脂シートを110℃で熱成形加工を行ったこと以外は実施例1と同様の方法にて、染色された成形体を作製し、実施例1同様の染色性評価、耐熱成形性評価を行った。
<実施例6>
熱可塑性樹脂として、環状ポリオレフィン樹脂(日本ゼオン社製、ゼオノア#1020R)を押出成形し、厚み1.5mmの熱可塑性樹脂シートを得た。得られた熱可塑性樹脂シートを105℃で熱成形加工したこと以外は実施例1と同様の方法にて、染色された成形体を作製し、実施例1同様の染色性評価、耐熱成形性評価を行った。
<実施例7>
熱可塑性樹脂として、透明ナイロン樹脂(EMS社製、グリルアミドXE3805)を押出成形し、厚み1.5mmの熱可塑性樹脂シートを得たこと以外は実施例1と同様の方法にて、染色された成形体を作製し、実施例1同様の染色性評価、耐熱成形性評価を行った。
【0029】
<実施例8>
熱可塑性樹脂積層体として、偏光性薄膜を有する厚み0.8mmのポリカーボネート樹脂製積層体(住友ベークライト社製、PDH1401)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法にて、染色された成形体を作製し、実施例1同様の染色性評価、耐熱成形性評価を行った。
なお、染色性評価については、実施例1〜7と染色前の透過率が異なるため評価基準は以下の通りとし、上記作製した染色レンズを用いて染色後透過率によって評価した。
A:染色後透過率が7.5%以上15%未満
B:染色後透過率が15%以上25%未満、または2%以上7.5%未満
C:染色後透過率が25%以上、または2%未満
なお評価基準「A」、「B」、「C」の優劣は実施例1〜7と同様とした。
評価基準「A」は、目的の染色濃度へ効率よく染色を行う上で適している。
評価基準「C」は非常に染まりやすい、または染まりにくいため目的の染色濃度へ染色を行うのに適していない。
評価基準「B」は評価基準「A」と比較して好適ではないが、使用上十分な染色性である。
<実施例9>
実施例1と同様の樹脂組成物を表面層に形成したポリカーボネート樹脂シートを用いて、実施例1の工程の順を染色処理する工程、その後成形加工する工程の順に行った以外は、実施例1と同じ方法にて染色された成形体を作製した。得られた成形体に対して実施例1と同様の染色性評価、耐熱成形性評価を行った。
【0030】
<比較例1>
200mm×400mm、厚み1.5mmのポリカーボネート樹脂シート(住友ベークライト社製、ポリカエースEC100)に対して、実施例1と同様の成形する工程、染色処理する工程、を経た成形体を得た。得られた成形体を実施例1と同様の染色性評価、成形性評価を行った。
【0031】
【表1】

【0032】
実施例1〜9においては、用いた熱可塑性樹脂シートまたは積層体や染色可能な表面層の樹脂組成物が異なること、工程順が異なるが、いずれの実施例においても染色性、耐熱成形性に優れた成形体を得ることができた。
一方、比較例1においては、ポリカーボネート樹脂シートに対して、染色可能な表面層を設けずに染色を行ったため、成形性は優れるが、非常に染まりにくい結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の熱可塑性樹脂シートまたは積層体を用いて成形加工する成形体の製造方法であって、
平板状に加工された熱可塑性樹脂シートまたは積層体に対して、少なくとも片面に染色可能な表面層を設ける工程、
成形加工する工程、
染色処理する工程を含む成形体の製造方法。
【請求項2】
染色可能な表面層を設ける工程、成形加工する工程、染色処理する工程の順に製造する請求項1に記載の成形体の製造方法。
【請求項3】
染色可能な表面層を設ける工程、染色処理をする工程、成形加工する工程の順に製造する請求項1に記載の成形体の製造方法。
【請求項4】
前記染色可能な表面層が、アクリレート重合体を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の成形体の製造方法。
【請求項5】
前記アクリレート重合体が、少なくとも炭素数2以上5以下、繰り返し単位が6以上であるアルキレングリコールを一種以上有するアクリレートモノマーまたはアクリレートオリゴマーを含む請求項4に記載の成形体の製造方法。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂シートまたは積層体に用いる熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の成形体の製造方法。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂積層体が、偏光性薄膜を含む積層体である請求項1〜6のいずれか1項に記載の成形体の製造方法。
【請求項8】
前記成形体が、成形加工する工程、染色処理する工程の後に硬化性塗膜を成形体表面に形成していない成形体である請求項1〜7のいずれか1項に記載の成形体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の成形体の製造方法により製造された成形体。
【請求項10】
請求項9の成形体を用いて作製した眼鏡。
【請求項11】
請求項9の成形体を用いて作製した防護製品。

【公開番号】特開2011−79256(P2011−79256A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234591(P2009−234591)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】