説明

成形加工用織編物および複合体および成形体および繊維製品

【課題】所定の形状に成形加工して使用する成形加工用織編物であって、接着剤や両面粘着シートを用いることなく他の素材に接着が可能な成形加工用織編物および複合体および成形体および繊維製品を提供する。
【解決手段】成形加工用織編物であって、融点が240℃以下の熱可塑性樹脂が少なくとも繊維表面に露出した熱接着性繊維を含む成形加工用織編物を、必要に応じて他の素材に熱接着させた後、スピーカーネットなどの成形体を成形加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の形状に成形加工して使用する成形加工用織編物であって、接着剤や両面粘着シートを用いることなく他の素材に接着が可能な成形加工用織編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スピーカー等の防塵ネットやフィルターなどの用途において、織編物を所定の形状に成形加工している。その際、接着剤や両面粘着シートなどを用いて織編物を他の素材、例えば多数の穿孔を有するプラスチックシートなどに接着させた後、所定の形状に成形加工している(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
しかしながら近年、環境問題等の点で、接着剤や両面粘着シートなどを用いずに織編物を他の素材に接着させることが望まれていた。
【0003】
【特許文献1】特開平7−46683号公報
【特許文献2】特開平6−55704号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、所定の形状に成形加工して使用する成形加工用織編物であって、接着剤や両面粘着シートを用いることなく他の素材に接着が可能な成形加工用織編物および複合体および成形体および繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を達成するため鋭意検討した結果、織編物を成形加工する際、通常織編物を加熱していることに着眼し、織編物中に熱接着性繊維を含ませることにより接着剤や両面粘着シートを用いることなく他の素材に接着が可能な成形加工用織編物が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0006】
かくして、本発明によれば「成形加工用織編物であって、融点が240℃以下の熱可塑性樹脂が少なくとも繊維表面に露出した熱接着性繊維を含むことを特徴とする成形加工用織編物」が提供される。
【0007】
その際、前記の熱可塑性樹脂としては、低融点ポリアミド系樹脂、ポリプロピレン、およびポリエチレンからなる群より選択されるいずれか1種であることが好ましい。また、熱接着性繊維が、融点が240℃以下の熱可塑性樹脂とポリエステルとからなり、熱可塑性樹脂が鞘部に配され、一方ポリエステルが芯部に配された芯鞘構造を有する複合繊維であることが好ましい。
【0008】
本発明の織編物において熱接着性繊維を織編物全重量に対し5重量%以上含まれることが好ましい。また、織編物中に他の繊維としてポリエステル繊維が含まれることが好ましい。また、織編物が2層構造を有し、1層は熱接着性繊維で構成され、他層はポリエステル繊維で構成されることが好ましい。
【0009】
また、本発明によれば、前記の成形加工用織編物が他の素材に熱接着されてなる複合シートが提供される。その際、他の素材が、多数の穿孔を有するプラスチックシートであることが好ましい。
【0010】
また、本発明によれば、前記の成形加工用織編物または複合体が所定形状に加圧成形された成形体、および、バックインジェクションモールデイング法により、前記の成形加工用織編物に溶融ポリマーがインジェクションされ、所定形状に成形された成形体が提供される。
【0011】
さらに、本発明によれば、前記の成形加工用織編物または複合シートまたは成形体を用いてなる、スピーカネット、防塵ネット、コンピューターまたは家電製品の放熱スリット用防塵フィルター、換気扇フィルター、および通気孔用フィルターから群より選択されるいずれかの繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、所定の形状に成形加工して使用する成形加工用織編物であって、接着剤や両面粘着シートを用いることなく他の素材に接着が可能な成形加工用織編物および複合体および成形体および繊維製品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明の成形加工用織編物は、融点が240℃以下の熱可塑性樹脂が少なくとも繊維表面に露出した熱接着性繊維を含む。ここで、前記熱可塑性樹脂としては、融点が240℃以下のものであれば特に限定されないが、低融点ポリアミド系樹脂(例えば、富士紡績(株)製ジョイナー(商品名))、ポリエチレン、ポリプロピレン、共重合ポリエステルなどが好適に例示される。かかる熱可塑性樹脂はポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマーなどのエラストマーでもよいが、賦型性の点で非エラストマーの方が好ましい。
【0014】
本発明の織編物に含まれる熱接着性繊維は、前記の熱可塑性樹脂のみからなる繊維でもよいし、他の樹脂、例えばポリエステルとの複合繊維であって、熱可塑性樹脂が少なくとも繊維表面に露出するよう、前記の熱可塑性樹脂成分と他成分とがサイドバイサイド型または芯鞘型に接合していてもよい。なお、ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、これらに第3成分を共重合させたものなどが例示される。
【0015】
また、熱接着性繊維を形成する樹脂中には、必要に応じて少量の添加剤、例えば滑剤、顔料、染料、酸化防止剤、固相重合促進剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤、艶消剤等を含んでいてもよい。特に艶消剤として酸化チタンなどは好ましく添加される。
【0016】
かかる熱接着性繊維の繊維形態としては特に限定されず、長繊維でもよいし短繊維であってもよいが、賦型性の点で長繊維が好ましい。また、熱接着性繊維の総繊度、単糸繊度、フィラメント数は、総繊度30〜2000dtex、単糸繊度30〜2000dtex、フィラメント数1〜10本の範囲内であることが好ましい。
【0017】
本発明の織編物に前記の熱接着性繊維が含まれる。かかる熱接着性繊維は単独糸条として織編物を構成していてもよいし、他糸条との混繊糸や引き揃え糸として織編物を構成していてもよい。さらには、これらの糸条と他糸条とが交織、交編されていてもよい。その際、他糸条としては、ポリエステル繊維糸条が好ましい。また、熱接着性繊維を織編物全重量に対して5重量%以上(好ましくは15〜50重量%)含まれることが好ましい。
【0018】
織編物の構造としては、その織編組織、層数は特に限定されるものではない。例えば、平織、綾織、サテンなどの織組織や、天竺、スムース、フライス、鹿の子、デンビー、トリコットなどの編組織が好適に例示されるが、これらに限定されるものではない。層数も単層でもよいし、2層以上の多層であってもよい。
【0019】
特に、2層構造とし、1層を熱接着性繊維で構成し、他層をポリエステル繊維などの他の繊維で構成することは好ましいことである。他素材と熱接着させる側の層だけを熱接着性繊維で構成し、他層に他の繊維を配すことにより、バリエーション豊かな製品が得られる。
【0020】
なお、前記の織編物には、染色加工、減量加工、吸水加工、さらには、常法の起毛加工、紫外線遮蔽あるいは抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤、撥水剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0021】
次に、本発明の複合シートは、前記の織編物が他の素材に熱接着されてなる複合シートである。その際、他の素材としては、使用目的に応じて適宜選定することができ、例えば、特開平7−46683号公報の図3に開示されたような、0.3mm厚程度のPVC(ポリ塩化ビニル)シートに、直径が2mmの穿孔を多数設けた、開効率10%以上(好ましくは20〜30%)のプラスチックシートが例示される。なお、熱接着させる方法は特に限定されず、両者を適宜加熱しながら加圧する通常の方法でよい。
【0022】
次に、本発明の成形体において、前記の織編物または複合シートを所定形状に加圧成形されていることが好ましい。成形加工は特開平7−46683号公報の図4〜図14に開示されているような、雌型と雄型との間に前記の織編物または複合シートをはさみ、加熱しながら加圧する方法でよい。本発明の織編物には、前記のような熱接着性繊維が含まれているので、構造が強固であり他素材と接着させなくても使用が可能である。また、複合シートは予め織編物と他の素材とを熱接着させたものでもよいし、成形加工と同時に熱接着させてもよい。
【0023】
また、本発明の成形体において、バックインジェクションモールデイング法により、前記の成形加工用織編物に溶融ポリマーがインジェクションされ、所定形状に成形されていることが好ましい。その際、溶融ポリマーとしては、ポリエステルやポリオレフィンなど、通常のインジェクション用熱可塑性ポリマーを適宜使用することができる。かかる方法によれば、接着性の不織布が不要であり、また、1枚布であることから位置合わせが容易となる。
【0024】
かかる成形体は、スピーカーネット、防塵ネット、コンピューターまたは家電製品の放熱スリット用防塵フィルター、換気扇フィルター、および通気孔用フィルターなどの繊維製品として好適に使用することができる。
【実施例】
【0025】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない
【0026】
[実施例1]
糸種A:総繊度56dtex/フィラメント数36本の通常のポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(帝人ファイバー(株)製 FO210W B56T36 融点256℃の)と、糸種B:熱接着性繊維として融点130℃のポリエチレンが鞘成分に配され、一方融点256℃のポリエチレンテレフタレートが芯部に配された、単糸繊度1100dtex/フィラメント数1の芯鞘型モノフィラメント(帝人モノフィラメント(株)製 TYPE700NQ、線径0.33mm)とを用いて、マイヤーシー社製編機OVJA 14G 30インチを使用し、図1の編成図に従って、2層構造のかの子編物を製編した後、温度200℃、2分間乾熱セットした。かかる編物において、1層は糸種Aで構成され、他層は糸種Bで構成されていた。
【0027】
次いで、特開平7−46683号に記載された実施例の製造方法に従って、接着剤およびプラスチックフィルムを用いず、上記の編物だけを用いてスピーカーネット成形体を成形した。
【0028】
[実施例2]
糸種A:総繊度84dtex/フィラメント数36本の通常のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント(帝人ファイバー(株)製 BC84T36 融点256℃の)と、糸種B:熱接着性繊維として融点145℃の総繊度100dtex/フィラメント数5の低融点ポリアミド系マルチフィラメント(富士紡績(株)製 ジョイナー(商品名))と総繊度110dtex/フィラメント数10本との引きそろえ糸条とを用いて、福原精機社製編機LPJ 24G 33インチを使用し、図2の編成図に従って、2層構造のメッシュかの子編物を製編した後、温度160℃、2分間乾熱セットした。かかる編物において、1層は糸種Aで構成され、他層は糸種Bで構成されていた。
【0029】
次いで、特開平7−46683号に記載された実施例の製造方法に従って、接着剤およびプラスチックフィルムを用いず、上記の編物だけを用いてスピーカーネット成形体を成形した。
【0030】
[実施例3]
実施例1において、スピーカーネット成形体を成形する際、編物と同時に、0.3mm厚のPVC(ポリ塩化ビニル)シートに、直径が2mmの穿孔を多数設けたのプラスチックシートを使用すること以外は実施例1と同様にした。
【0031】
[実施例4]
実施例1と同じ編物を使用し、通常のバックインジェクションモールデイング装置により、溶融ポリマー(ポリエチレンテレフタレート)をインジェクションし、スピーカーネット成形体を成形した。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、所定の形状に成形加工して使用する成形加工用織編物であって、接着剤や両面粘着シートを用いることなく他の素材に接着が可能な成形加工用織編物および複合体および成形体および繊維製品が得られ、その工業的価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の成形加工用織編物において、採用することのできる編成図の1例である。
【図2】本発明の成形加工用織編物において、採用することのできる編成図の他の例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形加工用織編物であって、融点が240℃以下の熱可塑性樹脂が少なくとも繊維表面に露出した熱接着性繊維を含むことを特徴とする成形加工用織編物。
【請求項2】
前記の熱可塑性樹脂が低融点ポリアミド系樹脂、ポリプロピレン、およびポリエチレンからなる群より選択されるいずれか1種である、請求項1に記載の成形加工用織編物。
【請求項3】
熱接着性繊維が、融点が240℃以下の熱可塑性樹脂とポリエステルとからなり、熱可塑性樹脂が鞘部に配され、一方ポリエステルが芯部に配された芯鞘構造を有する複合繊維である、請求項1または請求項2に記載の成形加工用織編物。
【請求項4】
熱接着性繊維を織編物全重量に対し5重量%以上含む、請求項1〜3のいずれかに記載の成形加工用織編物。
【請求項5】
織編物中に他の繊維としてポリエステル繊維が含まれる、請求項1〜4のいずれかに記載の成形加工用織編物。
【請求項6】
織編物が2層構造を有し、1層は熱接着性繊維で構成され、他層はポリエステル繊維で構成される、請求項5に記載の成形加工用織編物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の成形加工用織編物が他の素材に熱接着されてなる複合シート。
【請求項8】
他の素材が、多数の穿孔を有するプラスチックシートである、請求項7に記載の複合シート。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の成形加工用織編物または複合シートが所定形状に加圧成形されてなる成形体。
【請求項10】
バックインジェクションモールデイング法により、請求項1〜6のいずれかに記載の成形加工用織編物に溶融ポリマーがインジェクションされ、所定形状に成形された成形体。
【請求項11】
請求項9または請求項10に記載の成形体を用いてなる、スピーカーネット、防塵ネット、コンピューターまたは家電製品の放熱スリット用防塵フィルター、換気扇フィルター、および通気孔用フィルターから群より選択されるいずれかの繊維製品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−257561(P2006−257561A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−72747(P2005−72747)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】