説明

成形可能なバイオセラミックス

ヒドロキシアパタイトナノ結晶、ゼラチン及びゾル−ゲル含有材料を含む成形可能なバイオセラミックを記載する。バイオセラミックの作製方法及び使用方法も記載される。成形可能なバイオセラミックは、優れた機械的強度、弾性、生体適合性及び形成能力を示し、骨の修復及びテンプレート補助組織工学用途を対象とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本発明は、一般的に、成形可能なバイオセラミックに関し、より詳細にはゾル−ゲルベースの(sol-gel based)ヒドロキシアパタイト−ゼラチンバイオセラミック(GEMOSOL)に関し、さらにより詳細にはアミノシリカベースの(animosilica based)ヒドロキシアパタイト−ゼラチンバイオセラミック(GEMOSIL)に関する。
【背景技術】
【0002】
[0002]骨の置換及び代替には多種多様な材料が使用されてきたが、使用された材料は、今日まで天然骨と同様には機能していなかった。このような骨の代替物は非常に異なる機械的特性を有し、しばしば所望の生体適合性よりも低い生体適合性を示すことから、理想的ではなかった。
【0003】
[0003]骨置換の試みにおいては、種々の異物が使用されてきたが、これに関連した問題が生じていた。骨構造を置換するために使用されてきたステンレス鋼及びチタンのような金属は、それらが移植又は付着される骨の特性とは機械的に不一致であることが判明している。さらに、これらの材料は、研磨粒子並びにニッケルイオン、コバルトイオン、クロムイオン、アルミニウムイオン及びバナジウムイオンのような浸出したイオンが原因で、しばしばアレルギー反応及び炎症を引き起こす。テフロン(登録商標)製の関節インプラントが使用されてきたが、顎インプラントとしての使用のような反復及び強さを要する用途において使用される場合には、これは粉砕し腐食されることが公知であった。アルミナセラミック及びジルコニアセラミックのような生体不活性材料は、金属インプラントに関連する同一の臨床的問題の多くを示す。
【0004】
[0004]他の手法においては、より存続可能で持続性のある骨置換材料を作製しようとして、天然骨中に見出されるのと同一の材料の多くが使用されてきた。天然骨は、主としてヒドロキシアパタイト結晶及びコラーゲンから成る細胞外基質であり、ヒドロキシアパタイトが体温下でコラーゲン上に十分に石化されている。ヒドロキシアパタイト/コラーゲン結合の強度とコラーゲン繊維の質及び成熟度は、骨の機械的特性にとって重要である。従って、これらの試みの多くは、骨の代替物としてヒドロキシアパタイトとコラーゲンの混合物を開発することに焦点を合わせてきたが、コラーゲンは高価な材料であり、コラーゲンとヒドロキシアパタイトとの反応は制御が困難であり得る。このような制御を欠くと、物理的強度が低下し及び/又は物理的強度が一定しない材料をもたらしていた。
【0005】
[0005]リン酸カルシウムなどのセメント及びセラミック材料を用いるインプラントも作製されてきた。これらのセメント及びセラミックスは、骨と直接結合でき、他の多くのインプラントに共通する反応及び炎症を示さないため、上述した問題の多くを克服する。さらに、これらの材料は生体適合性であるため、天然骨材料が時間をかけてゆっくりとインプラント内に成長する。しかしながら、これらのセメント及びセラミックスは脆性であり、しばしば曲げ強さに劣り、エネルギー吸収が弱い。また、使用される材料は一般に彫ることが困難であり、不規則な欠陥に関連する問題をもたらし、インプラント部位から粒体が移動する。従って、これらの材料は広く使用されておらず、使用された場合でも一般に荷重のかからない適応症に限定されていた。
【0006】
[0006]天然骨は大きな片又は組成物のいずれでも使用され、骨粒子の凝集体を用いる組成物は高い関心を集めてきた。その目標は、天然骨をより厳密に模倣しインプラントの強度を向上させることであった。これは生体適合性を維持し、骨の内殖と同化をも可能とする。しかしながら、骨成分の収集と入手可能性についての問題が存在する。加えて、感染、ウイルス伝染、疾病、拒絶反応及び他の免疫系反応の危険性を含む、骨の移植片又は組成物に関連した危険性及び合併症が存在する。
【0007】
[0007]骨置換に加えて、その他の体組織を置換する試みもなされてきた。種々の試みにおいては、ヒト組織を置換するために動物組織を使用し、体内の他の部位からの組織を使用し、又は合成材料を使用する試みがなされてきた。これらの方法は全て、欠点及び短所を伴っていた。
【0008】
[0008]従って、周囲の組織及び構造との迅速な統合を示しつつ、軽量で、強固で、対費用効率が高く、弾性があり、高度な生体適合性を提供する合成インプラント材料に対する要求が存在する。この材料は、修復、置換、テンプレート補助組織工学(template-assisted tissue engineering)及びその他の工学的用途を含むがこれらに限定されない用途に有用であってよい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
[0009]本発明は、一般的に新規な複合バイオセラミックスに関する。より具体的には、本発明はゾル−ゲルベースのヒドロキシアパタイト−ゼラチンの成形可能なバイオセラミックス並びにこの作製方法及び使用方法に関する。
【0010】
[0010]一態様においては、リン酸カルシウム/ゼラチン修飾(gelatin-modified)シリカ(GEMOSIL)ナノ複合材料を含む成形可能なバイオセラミックを記載する。
【0011】
[0011]別の態様においては、リン酸カルシウム/ゼラチン修飾ゾル−ゲル(GEMOSOL)ナノ複合材料を含む成形可能なバイオセラミックを記載する。
【0012】
[0012]別の態様においては、リン酸カルシウム/ゼラチン修飾シリカ(GEMOSIL)ナノ複合材料及び/又はリン酸カルシウム/ゼラチン修飾ゾル−ゲル(GEMOSOL)ナノ複合材料を含む成形可能なバイオセラミックを含む、組織工学での使用のための製品を記載する。
【0013】
[0013]さらに別の態様においては、リン酸カルシウム/ゼラチン修飾シリカ(GEMOSIL)ナノ複合材料及び/又はリン酸カルシウム/ゼラチン修飾ゾル−ゲル(GEMOSOL)ナノ複合材料を含む成形可能なバイオセラミックを含む、置換での使用のための製品を記載する。好ましくは、置換は、骨置換、歯置換、関節置換、軟骨置換、腱置換及び靭帯置換からなる群から選択される。
【0014】
[0014]さらに別の態様においては、成形可能なバイオセラミックの作製方法であって、
水酸化カルシウム、リン酸及びゼラチンを水性条件下で混合して、共沈したリン酸カルシウム−ゼラチン材料を作製すること;並びに
少なくとも1種のシラン反応体を前記リン酸カルシウム−ゼラチン材料に添加してリン酸カルシウム/ゼラチン修飾シリカ(GEMOSIL)ナノ複合材料を作製すること
を含む方法を記載する。
【0015】
[0015]さらに別の態様においては、成形可能なバイオセラミックの作製方法であって、
水酸化カルシウム、リン酸及びゼラチンを水性条件下で混合して、共沈したリン酸カルシウム−ゼラチン材料を作製すること;並びに
少なくとも1種のゾル−ゲル前駆体を前記リン酸カルシウム−ゼラチン材料に添加してリン酸カルシウム/ゼラチン修飾ゾル−ゲル(GEMOSOL)ナノ複合材料を作製すること
を含む方法を記載する。
【0016】
[0016]別の態様においては、成形可能なバイオセラミックの作製方法であって、
水酸化カルシウム、リン酸及びゼラチンを水性条件下で混合して、共沈したリン酸カルシウム−ゼラチン材料を作製すること;
前記リン酸カルシウム−ゼラチン材料を濃縮して過剰の水を除去すること;
前記濃縮されたリン酸カルシウム−ゼラチン材料を少なくとも1種のアルコール中で懸濁させること;
前記リン酸カルシウム−ゼラチン材料を濃縮して過剰のアルコールを除去すること;並びに
少なくとも1種のシラン反応体を前記リン酸カルシウム−ゼラチン材料に添加して、リン酸カルシウム/ゼラチン修飾シリカ(GEMOSIL)ナノ複合材料を作製すること
を含む方法を記載する。
【0017】
[0017]別の態様においては、成形可能なバイオセラミックの作製方法であって、
水酸化カルシウム、リン酸及びゼラチンを水性条件下で混合して、共沈したリン酸カルシウム−ゼラチン材料を作製すること;
前記リン酸カルシウム−ゼラチン材料を濃縮して過剰の水を除去すること;
前記濃縮されたリン酸カルシウム−ゼラチン材料を少なくとも1種のアルコール中で懸濁させること;
前記リン酸カルシウム−ゼラチン材料を濃縮して過剰のアルコールを除去すること;並びに
少なくとも1種のゾル−ゲル反応体を前記リン酸カルシウム−ゼラチン材料に添加してリン酸カルシウム/ゼラチン修飾ゾル−ゲル(GEMOSOL)ナノ複合材料を作製すること
を含む方法を記載する。
【0018】
[0018]別の態様においては、成形可能なバイオセラミックの作製方法であって、リン酸カルシウム−ゼラチン材料を少なくとも1種のシラン反応体と混合して、リン酸カルシウム/ゼラチン修飾シリカ(GEMOSIL)ナノ複合材料を作製することを含む方法を記載する。
【0019】
[0019]別の態様においては、成形可能なバイオセラミックの作製方法であって、リン酸カルシウム−ゼラチン材料を少なくとも1種のゾル−ゲル反応体と混合してリン酸カルシウム/ゼラチン修飾ゾル−ゲル(GEMOSOL)ナノ複合材料を作製することを含む方法を記載する。
【0020】
[0020]さらに別の態様は、バイオセラミックを含む製品を移植することを含む、バイオセラミックに関し、前記バイオセラミックはリン酸カルシウム/ゼラチン修飾シリカ(GEMOSIL)ナノ複合材料及び/又はリン酸カルシウム/ゼラチン修飾ゾル−ゲル(GEMOSOL)ナノ複合材料を含む。
【0021】
[0021]さらに別の態様は、リン酸カルシウム/ゼラチン修飾シリカ(GEMOSIL)ナノ複合材料及び/又はリン酸カルシウム/ゼラチン修飾ゾル−ゲル(GEMOSOL)ナノ複合材料を使用することを含む、骨の再生方法に関する。
【0022】
[0022]別の態様は、リン酸カルシウム/ゼラチン修飾シリカ(GEMOSIL)ナノ複合材料及び/又はリン酸カルシウム/ゼラチン修飾ゾル−ゲル(GEMOSOL)ナノ複合材料を使用することを含む、軟骨の再生方法に関する。
【0023】
[0023]他の態様、特徴及び実施形態は、次の開示及び添付した特許請求の範囲からより完全に明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】[0024]図1は、本明細書中に記載した成形可能なバイオセラミックの実施形態を表すものである。
【図2】[0025]図2は、本明細書中に記載したバイオセラミックを作製するためのプロセス工程を示すフローチャートである。
【図3】[0026]図3は、本明細書中に記載したバイオセラミックを作製するためのプロセス工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[0027]種々の身体用途のための置換材料として使用し得る成形可能なバイオセラミックを記載する。この成形可能なバイオセラミックには、ヒドロキシアパタイトナノ結晶、ゼラチン繊維、及びヒドロキシアパタイト−ゼラチン複合材料に介在するゾル−ゲルバイオセラミックネットワークを含む混合され実質的に均一に分散された組成物が含まれる。
【0026】
[0028]本明細書中に記載する実施形態を表す図1に示すように、ヒドロキシアパタイトナノ結晶は、シリコン含有鎖及びゼラチン繊維から形成された基質中に包埋される。この成分の全てが複合材料内に実質的に分散され、複合材料全体に亘り比較的一定の特性をもたらす。本明細書中で定義するように、「実質的に分散される」及び「実質的に均一に分散される」とは、サンプリングが内部であるか又は外部であるかにかかわらず、複合材料全体にわたり化学的組成の変化が10%未満、好ましくは5%未満の変化、最も好ましくは2%未満の変化であることに相当する。
【0027】
[0029]有利には、本明細書中に記載する方法はゾル−ゲル法に基づき、溶液からの生体材料の合成は低温、例えば室温で起こり、これにより前記生体材料中に生体分子及び生細胞の取り込みが可能となる。このゾル−ゲル法は湿式の化学的技術であり、これにより化学溶液は加水分解反応及び重縮合反応を経て金属酸化物のようなコロイド粒子(「ゾル」)が作製される。ゾルは液相(「ゲル」)を含む無機ネットワークを形成する。「ゾル−ゲル」材料は、本明細書中で定義するように、SiO、TiO、ZrO及びこれらの組み合わせを含む。
【0028】
[0030]本明細書中で定義するように、「シリカ」はSiOに相当する。
【0029】
[0031]ゼラチンは、ヒドロキシアパタイトの結晶成長を誘起するための生体活性表面を提供することができることが見出されている。好適なゼラチンには、高ブルーム及び低ブルームゼラチンの両方が含まれる。好ましくは、約100〜約300のブルーム値を有するゼラチンが使用される。「ブルーム値」とは、摂氏10度の一定の温度浴中に18時間保持されたゼラチンの6足す2/3%溶液により形成されたゲルの強度の測定値である。最終的なバイオセラミックの特性は、使用されるゼラチンの特徴に部分的に依存する。雌ウシ及びブタを含む様々な動物から作製されるゼラチンを種々に得てもよい。ゼラチンは、骨及び皮膚を含むコラーゲンを含有する種々の身体部分から抽出してもよい。ゼラチンは、供給源及び変性の程度に依存して様々なゼラチンとして所望の用途に応じて選択してもよく、所望の機械的特性又は生体活性レベルに依存して、複合材料のためのより良い選択肢を提供してもよい。一般的に、ウシのゼラチンは、多くの用途のためにより良い複合材料を提供することが判明している。好適なゼラチンの例は、標準的な風味のないゼラチン(カナダ、ナチュラルフーズ・コーポレーション(Natural Foods Inc.)から入手可能)である。ゼラチンは使用前に溶液中に溶解させて、好ましくは水溶液を形成してもよい。ゼラチンは精製段階又はその他の準備段階なしで使用してもよい。
【0030】
[0032]一態様においては、ヒドロキシアパタイトナノ結晶、ゼラチン及びゾル−ゲル含有材料を含むゾル−ゲルベースのヒドロキシアパタイト−ゼラチンバイオセラミックを記載する。別の態様においては、ヒドロキシアパタイトナノ結晶、ゼラチン及びシリカ含有材料を含むシリカベースのヒドロキシアパタイト−ゼラチンバイオセラミックを記載する。
【0031】
[0033]ゼラチンは、反応混合物中での使用前に修飾してもよい。好ましくは、ゼラチンは、反応体としての使用前に少なくとも部分的にリン酸化される。例えば、ゼラチンは、リン酸、リン酸アンモニウム((NHPO)、リン酸水素二アンモニウム((NHHPO)、リン酸二水素アンモニウム(NHPO)、リン酸一アンモニウム(NH・HPO)又はこれらの組み合わせ(フィッシャーサイエンティフィック・アンド・シグマケミカル(Fisher Scientific and Sigma Chemical)などの化学用品会社から入手可能)をゼラチン溶液に添加することによりリン酸化してもよく、又はゼラチンをリン酸溶液に添加してもよい。リン酸化は、ヒドロキシアパタイトナノ結晶のより良好な分散と成長をもたらし、可能とすると考えられる。リン酸化ゼラチンを含む溶液中には、典型的には、後の結晶形成及び/又は結晶成長に利用できる過剰のリン酸が存在する。
【0032】
[0034]ヒドロキシアパタイトナノ結晶は、リン酸及び/又はゼラチン繊維上のリン酸化部位および水酸化カルシウムの間の反応により形成される。リン酸化部位は、しばしばヒドロキシアパタイト結晶の成長開始部位であるが、ヒドロキシアパタイト結晶の成長は、リン酸成分と水酸化カルシウム成分との間の溶液中で生じてもよい。これらの結晶は成長し、ゼラチン分子上のカルボキシル基及びアミド基などの基に結合することにより、ゼラチン基質構造内に包理されてもよい。一旦開始すると、結晶は、より多くの水酸化カルシウム成分及びリン酸成分を結晶内に取り込むことにより成長する。この反応の生成物には、共沈したヒドロキシアパタイト−ゼラチンコロイド材料が含まれる。
【0033】
[0035]水酸化カルシウムは、フィッシャーサイエンティフィック・アンド・シグマケミカルなどの化学用品会社から入手可能である。しかしながら、水酸化カルシウムは、二酸化炭素を除去して酸化カルシウムを形成する、炭酸カルシウムの焼成を含む方法で作製してもよい。焼成後に、酸化カルシウムを水和して水酸化カルシウムを形成する。水和に続き、水酸化カルシウムを品質検査として秤量してもよい。水酸化カルシウムの反応特性と、水酸化カルシウムの迅速な劣化傾向により、水酸化カルシウムの高い品質レベルを保証するためには、水酸化カルシウムには特別な配慮をすべきである。水酸化カルシウムの品質に対してはこのような懸念があるため、使用の直前に水酸化カルシウムを作製することが好ましい。
【0034】
[0036]ヒドロキシアパタイト−ゼラチンコロイドは、図2に模式的に示すように、除去可能な活性充填剤及び/又は他の添加剤と共に又は無しで、ゾル−ゲル又はシリカ基質内に取り込まれて、本明細書中に記載する成形可能なバイオセラミックを作製してもよい。理論によって拘束するのを望むものではないが、ヒドロキシアパタイト−ゼラチンコロイドは、少なくとも部分的にゾル−ゲル又はシリカ基質に溶解し、これにより強い結合が生じると考えられる。ゾル−ゲル又はシリカ基質のために企図されるシラン反応体には、テトラメチルオルトシリケート(TMOS)、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−エチレンジアミン、ビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−エチレンジアミン、メチルトリメトキシシラン(MTMS)、ポリジメチルシラン(PDMS)、プロピルトリメトキシシラン(PTMS)、メチルトリエトキシシラン(MTES)、エチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)−N−メチルアミン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、N−プロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、メチルシクロヘキシルジメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、3−[2(ビニルベンジルアミノ)エチルアミノ]プロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(アミノプロピル)ジメチルエトキシシラン、3−(アミノプロピル)メチルジエトキシシラン、3−(アミノプロピル)メチルジメトキシシラン、3−(アミノプロピル)ジメチルメトキシシラン、N−ブチル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−ブチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、4−アミノ−ブチルジメチルエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、又はこれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、シラン反応体には、少なくとも1種のアミノ含有シラン反応体が含まれる。ゾル−ゲル基質のために意図されるチタン反応体には、チタンイソプロポキシドが含まれるがこれに限定されない。ゾル-ゲル基質のために企図されるジルコニウム反応体には、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムプロポキシド及び酸化ジルコニウムが含まれるがこれらに限定されない。
【0035】
[0037]ヒドロキシアパタイト−コラーゲンコロイドは、当該技術分野において周知であるように、除去可能な活性充填剤及び/又は他の添加剤と共に又は無しで、ゾル−ゲル又はシリカ基質内に取り込まれて、成形可能なバイオセラミックを作製してもよいことも、本明細書中において意図される。
【0036】
[0038]重要なことには、少なくとも1種のゾル−ゲル反応体を使用することにより、包埋され(entrapped)実質的に分散したヒドロキシアパタイト−ゼラチンコロイド材料を有する短鎖のバイオセラミック酸化物ネットワークが形成される。例えば、少なくとも1種のシラン反応体により、包埋され実質的に分散したヒドロキシアパタイト−ゼラチンコロイド材料を有する短鎖のバイオセラミックシリカネットワークが形成される。好ましくは、少なくとも1種のシラン反応体には、少なくとも1種のアミノ含有シラン化合物が含まれる。アミノシラン化合物は、無機相及び有機ゼラチン分子の両方を結びつけるための十分な結合強度を提供する。さらに、アミノ含有シラン化合物を使用する場合には、凝固反応がより迅速となる。そうは言うものの、反応速度と最終生成物をより良く制御するためには、アミノ含有シラン化合物と共に、所定量の少なくとも1種のアミノ非含有シラン化合物が含まれていてもよい。凝固反応速度および全生成物の制御は、アミノ含有シラン化合物に対するアミノ非含有シラン化合物の量を調節することにより制御してもよい。さらに、シリカベースのネットワークにはチタニア及びジルコニアがさらに含まれていてもよい。
【0037】
[0039]不活性充填剤材料には、乳酸・グリコール酸共重合体、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリアクリル酸、ポリ(エチレンオキシド)、リン酸カルシウム、塩化カリウム、炭化カルシウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、ポリスチレン及びこれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの不活性充填剤をGEMOSILナノ複合材料と共に凝固させて、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)及び塩化カルシウムを含むがこれらに限定されない構造テンプレートとして機能させることができる。ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)は、バイオセラミックの形成後に、インキュベーション温度を下げることによりバイオセラミックから除去してもよい。塩化カルシウムは、バイオセラミックの形成後に、水を用いてバイオセラミックから除去してもよい。これらの充填剤は必要に応じて除去して、生物医学的用途のための多孔質構造を作製してもよい。
【0038】
[0040]多孔度に関しては、バイオセラミック内の孔径を制御するために、塩浸出技術、気泡の導入(例えば、不活性ガスを使用して)、及び低温気泡剤の添加が企図される。
【0039】
[0041]本明細書中に記載する新規なゾル−ゲルベースのヒドロキシアパタイト−ゼラチンバイオセラミックに関連する利点には、炭素ベースの生物(carbon-based lifeform)との適合性、ヒドロキシアパタイト−ゼラチン複合材料と類似した良好な機械的強度、従来のバイオガラスよりも良好な弾性、優れた圧縮強度、足場形成のための優れた成形性及びアップレギュレーションされた細胞分化が含まれるが、これらに限定されない。
【0040】
[0042]別の態様においては、加水分解及び縮合を含むゾル−ゲル反応を用いるゾル−ゲルベースのヒドロキシアパタイト−ゼラチンバイオセラミックの作製方法を記載する。一実施形態においては、加水分解及び縮合を含むゾル−ゲル反応を用いるシリカベースのヒドロキシアパタイト−ゼラチンバイオセラミックの作製方法を記載する。シリカベースのヒドロキシアパタイト−ゼラチンバイオセラミックの作製方法を以下に論じる。
【0041】
[0043]有利には、本明細書中に記載する生体材料を作製するゾル−ゲル法は、使用した場合には試料が過剰に収縮し、工程所要時間が延長され、材料が損失する結果となる、ヒドロキシアパタイト粉末乾燥法を必要としない。そうは言うものの、所望の生成物及び加工条件に依存して、乾燥したヒドロキシアパタイト−ゼラチンコロイドが望ましい場合がある。加えて、本法は、多量のヒドロキシアパタイト−ゼラチン材料を消費することはなく、従来報告された方法よりも実質的に小さい密度を有する生体材料になる。
【0042】
[0044]所望により、他の成分又は添加剤を成形可能なバイオセラミックに添加してもよい。これらの添加剤は、種々の理由により添加することができる。例えば、生体適合性を向上させるため、拒絶反応の可能性を低下させるため、感染の危険性を低下させるため、バイオセラミック内での天然骨の成長速度を高めるため、又はインプラント付近の天然の細胞増殖速度を高めるために添加剤を添加してもよい。添加剤は、バイオセラミックの特性のいくつかを変化させ又は向上させるために添加してもよい。例えば、バイオセラミックには、増殖因子、細胞、その他の材料及び要素、硬化成分(curing components)又は硬化成分(hardening components)、並びにその他の可能な添加剤が含まれていてもよい。重要なことには、本明細書中に記載するゾル−ゲルベースのヒドロキシアパタイト−ゼラチンバイオセラミックは、材料の表面上又は材料内部に添加剤を含有することができる。
【0043】
[0045]他の利点の中でも、増殖因子は、生体模倣ナノ複合材料領域内への天然の組織及び骨の成長を含む天然の成長の増大を補助し得る。適切な増殖因子の例には、骨形態形成タンパク質(BMP)、トランスフォーミング増殖因子(TGF−β)、血管内皮増殖因子(VEGF)、マトリックスGlaタンパク質(MGP)、骨シアロタンパク質(BSP)、オステオポンチン(OPN)、オステオカルシン(OCN)、インスリン様増殖因子(IGF−I)、ビグリカン、NFκBリガンドの受容体アクチベーター(Receptor activator of nuclear factor kappa B ligand)(RANKL)、及びプロコラーゲンI型(Pro COL−α1)が包含されるがこれらに限定されない。
【0044】
[0046]あるいは、バイオセラミック領域内での天然骨の成長速度を速めるために、細胞をバイオセラミックに添加してもよい。天然の細胞増殖速度を速めるために、前駆体細胞をバイオセラミックに添加してもよい。適切な細胞には、骨芽細胞、破骨細胞、骨細胞及び多能性幹細胞が包含されるがこれらに限定されない。
【0045】
[0047]所望により、他の材料及び要素をバイオセラミックに添加してもよい。更なる特徴、特性若しくは外観をバイオセラミックに提供するため、又はその他の理由により要素及び材料を添加してもよい。適切な要素の例には、フッ化物、カルシウム、これらのイオン、又はその他の要素若しくはイオンが含まれる。その他の適切な材料の例には、ポリマー、セラミック粒子、放射線不透過性成分、金属及びその他の材料が含まれる。バイオセラミックには、セラミック粒子、フッ化物、カルシウム及び/又は放射線不透過性材料が種々に含まれ得る。
【0046】
[0048]別の選択肢として、硬化添加剤をバイオセラミックに添加してもよい。適切な硬化剤には、光硬化剤及び紫外線硬化剤(例えば、紫外線硬化シラン)が含まれる。硬化剤は、バイオセラミックがより迅速に固くするのを可能とし、バイオセラミックがより幅広い使用のために使用されるのを可能とする。例えば、バイオセラミックのペースト又は粘性混合物を骨又は歯の領域に適用し、その後迅速に硬化させて所定位置で固くすることができる。この手法は結果を改善し患者の回復期間を短縮させる可能性を有している。
【0047】
[0049]その他の所望による添加剤の例には、成長抑制物質、医薬、抗炎症薬、抗生物質及びその他の化学物質、組成物、色素又は薬物が含まれる。これらはバイオセラミックの種々の用途において使用することができる。例えば、望ましくない特定の細胞の内殖を抑制してバイオセラミックが最も効率的に機能し続けるために、成長抑制物質を使用してもよい。治療領域周辺での感染の可能性を低減するために、抗生物質を使用してもよい。炎症を低減し、出血を最小限とし、治癒を増進するため、又はその他の使用のために、調合薬、抗炎症薬及び抗生物質を使用してもよい。
【0048】
[0050]バイオセラミックは、広範囲の人工生体移植材(alloplastic)の使用のため、種々の目的のため、及び種々の用途において使用してもよい。人工生体移植材は、同一個体(オートジェネシス)、同一種(同種間)、又は異なる種(異種間)に由来してもよい天然の生体材料とは対照的に、合成生体材料に関する。バイオセラミックの特性は、それが意図される使用、目的又は用途の要求をより良く満たすために改変してもよい。この特性は、使用するゼラチン、繊維及び鎖の配置、ナノ粒子形成の程度及びその化学量論、並びに使用するシラン反応体の量及び種類に一部が依存する。従って、得られるバイオセラミックは幅広い機械的特性を有していてもよい。例えば、バイオセラミックの多孔度は使用するシラン反応体に依存して変化してもよい。一般に凝固時間が長いとより多孔質のバイオセラミックが形成する結果となるが、ここでより長い凝固時間は、アミノ含有シラン反応体に対するアミノ非含有シラン反応体の量を増加することにより達成してもよい。
【0049】
[0051]これら種々の特性は、幅広い組織工学用途において使用されるバイオセラミックの能力につながる。例えば、バイオセラミックは、細胞、増殖因子及びその他の添加剤を治癒部位に送達し得る足場に作製できる。これは、骨、軟骨及びその他の組織を再生するために使用できる。ナノスケールの微細構造は、細胞の付着、増殖及び分化を促進するために使用できる。あるいは、バイオセラミックは、人工生体移植材の移植片を設計するために使用してもよい。従って、多くの天然の体組織を置換し増強するために、組織工学を使用してもよい。組織はこれらの種類の構造を用いて再生してもよく、添加剤は患者内の欠損を補償するために使用してもよい。バイオセラミックの天然組織との迅速な統合を促進するその他の構造を効果的に使用してもよい。例えば、バイオセラミックの構造を骨内部に移植してもよく、その後このバイオセラミックは骨の再生を刺激するよう作用する。別の例として、バイオセラミックを軟骨置換のために移植してもよく、このバイオセラミックは軟骨の再生を刺激してもよい。
【0050】
[0052]バイオセラミックは、意図される使用及び目的に依存して様々な形態で作製してもよい。適切な形態には、固体、パテ、ペースト及び液体が含まれる。バイオセラミックが固体形態の場合には、それは、例えば造形された(shaped)又は造形されていない固体であってもよく、予め成形された固体であってもよく、フレーム若しくは格子、又は別の固体形態であってもよい。バイオセラミックは、多孔質の足場に形成してもよい。固体形態は、非常に硬い、硬い、わずかに柔らかい、柔らかい、弾性のある、又はその他であってもよい。バイオセラミックはパテであってもよい。パテ形態の場合には、濃いパテ又は薄いパテのいずれであってもよい。バイオセラミックはペーストであってもよい。ペーストの場合には、濃いペースト又は薄いペーストのいずれであってもよい。液体の場合には、非常に粘性であることから非常に希薄であってよい。
【0051】
[0053]バイオセラミックが作製されてもよい広範囲な形態により、バイオセラミックはそれ自体広範囲に使用される。バイオセラミックの使用には、骨移植材料、骨セメント又は骨置換のためのような骨のため;歯のインプラント、充填物、顎強化又は歯置換のためのような歯の処置のため;関節置換のため;軟骨の置換又は強化のため;腱又は靭帯の置換又は修復のため;及び体組織の再生の補助を含む幅広い組織工学用途が含まれるが、これらに限定されない。
【0052】
[0054]バイオセラミックの一用途は、体内で骨材料を置換することである。バイオセラミックは、天然骨と同様の特性を有していてもよい。例えば、本明細書中に記載するバイオセラミックは、天然骨と同様の強度係数(strength modulus)を有していてもよい。同様の強度係数を有することの利点は、応力遮蔽のような生体力学的に不一致の問題を最小限とし得ることである。ナノインデンテーションは、強度係数及び硬度を直接且つ同時に測定できる機械式マイクロプローブ法(mechanical microprobe method)である。この試験方法の解像度では、骨及び材料を非常に微細なレベルで測定することが可能となる。ナノインデンテーションは、Ko,C. C.らの「Intrinsic mechanical competence of cortical and trabecular bone measured by nanoindentation and microindentation probes」(Advances in Bioengineering ASME、BED-29:415-416 (1995))においてより詳細に論じられている。この試験は、MTSナノインデンターXP(ミネソタ州エデンプレーリー、エムティーエスシステムズ社(MTS Systems Corporation)により入手可能)を用いて実施してもよい。使用された方法は、Chang M. C.らの「Elasticity of alveolar bone near dental implant-bone interfaces after one month’s healing」(J. Biomech. 36: 1209-1214 (2003))において記載される通りであってよい。
【0053】
[0055]さらに、バイオセラミック及び種々の天然骨の圧縮強度を試験して比較してもよい。バイオセラミックは、天然骨の圧縮強度に匹敵する圧縮強度を有していてもよい。圧縮強度試験は、インストロン4204試験機(Instron 4204 Tester)(マサチューセッツ州カントン、インストロン社(Instron Corporation)より入手可能)を用いて実施してもよい。試験は、ASTM C39「Standard Test Method for Compressive Strength of Cylindrical Concrete Specimens」に従い実施され、高さ/直径比2:1の円筒状サンプルを使用することを含んでいてもよい。
【0054】
[0056]成形可能なバイオセラミックの作製方法を記載する。本明細書中に記載するバイオセラミックを作製するための主要なプロセス工程を含むフローチャートを図2及び3に示す。温度制御及び撹拌を備える反応器を組み立てる。水酸化カルシウム、リン酸及びゼラチンの混合物を高度の撹拌を用いて一緒に混合する。これらの成分は、得られるバイオセラミックを弱体化し得る何らかの混入物を最小限とするために、可能な限り純粋なものであるべきである。購入物であれ作製物であれ、この成分は、好ましくは使用前に溶液中に入れられる。より好ましくは、この成分は水溶液中に存在する。種々の成分は全てを一度に添加してもよく、又は徐々に添加してもよい。徐々に添加する場合には、溶液中の成分を蠕動ポンプ(例えば、コールパーマー(Cole-Parmer)より入手可能なマスターフレックス(Masterflex))のようなポンプを使用して添加してもよい。
【0055】
[0057]ゼラチンは別々に添加してもよく(図2を参照)、あるいは、添加前にその他の成分のうちの1種と共に予め混合してもよい。好ましくは、ゼラチンを少なくとも部分的にリン酸化するために、ゼラチンはリン酸と予め混合される(図3を参照)。これにより、ナノ結晶のより良い分散及び成長をもたらすことが判明している。ゼラチンは溶液中に溶解させてもよく、リン酸をその溶液に添加するか、又はゼラチンをリン酸に添加してその中に溶解させてもよく、好ましくは後者である。この混合物の溶解を補助するために、温度は約35℃〜40℃に制御してもよく、前記添加及び溶解の間に混合物を撹拌してもよい。広範囲のゼラチン濃度を使用してもよい。好ましくは、この濃度は約0.001mmolよりも高く、約0.01mmolよりも高く又は約0.025mmolよりも高い。好ましくは、この濃度は100mmol以下、10mmol以下又は1mmol以下である。
【0056】
[0058]ゼラチンの十分なリン酸化を可能とするためには、この混合はある期間継続しなければならない。好適には、この混合は少なくとも約2時間継続される。好ましくは、この混合物は少なくとも約5時間混合される。好適には、この混合は約24時間未満継続される。好ましくは、この混合は約18時間未満、より好ましくは約12時間未満継続される。不十分な混合時間は、望ましい量よりも少ない量のゼラチンのリン酸化を引き起こし、結果的にプロセスの後半において、より大きく、分散が不十分な結晶となることが判明している。より長い期間混合した場合には、ゼラチンはその他の成分と反応する能力を失い始め、プロセスの後半において、ゼラチンによるのと同様に結晶がこれ以上維持されない結果となる。結晶を維持し、ゼラチンをヒドロキシアパタイトと配位させる能力は、この能力が24時間の混合後に急激に低下するまで時間と共に減少し続ける。得られた中間のスラリーは、リン酸化時間に基づき異なる特質及びゲル化状態を示すことが判明した。
【0057】
[0059]調製後は、撹拌を用い、pH及び温度を制御しながら、カルシウム成分、リン酸成分及びゼラチン成分(又はカルシウム、リン酸化ゼラチン、及び所望により更なるリン酸)が一緒に添加される。成分の流体が添加されると、共沈が起こり始める。この共沈により、ゼラチン内及び/又はゼラチン上にヒドロキシアパタイトナノ結晶が形成する。好ましくは、継続された高速撹拌と制御された条件により、結果的に巨大結晶の成長よりもむしろ、ヒドロキシアパタイトナノ結晶の形成が継続するように条件と成分濃度が維持される。速い撹拌下では、この混合物はコロイドスラリーを形成する。
【0058】
[0060]撹拌中と同様に成分を添加する間においても、混合物のpHを制御してもよい。好適には、pHは約7.0よりも大きく、好ましくは約7.5よりも大きく、より好ましくは約7.8よりも大きく制御される。好適には、pHは約9.0未満、好ましくは約8.5未満、より好ましくは約8.2未満に制御される。pHは、反応工程の成分を用い、当該技術分野で公知の手段を用いて制御してもよい。例えば、pHコントローラー(Bukertより入手可能なBukert 8280H等)を使用してpHを測定し、種々の成分を添加するのに使用されるポンプの作動を制御してもよい。
【0059】
[0061]混合物の温度を、成分を添加する間及び撹拌中に制御してもよい。好ましくは、温度は、他の多くの温度制御手段も好適であるが、水浴(例えば、Boekelより入手可能)を使用して制御される。好適には、温度は、約30℃より高く、好ましくは約34℃より高く、より好ましくは約36℃より高くなるよう制御される。好適には、温度は約48℃未満、好ましくは約45℃未満、より好ましくは約40℃未満に制御される。温度が低すぎると、良好な結晶成長に至るにはエネルギーが不十分となる。温度が高すぎると、結晶は望ましい大きさよりも大きく成長する。
【0060】
[0062]共沈は、低コストで、工業生産に容易に適用でき適合できる簡単な方法であることにより特徴付けられる。さらに、共沈により調製されたヒドロキシアパタイト結晶は、一般に非常に大きさが小さく、結晶化度が低く、表面活性が高いという利点を有する。これにより、バイオセラミックが多くの様々な要求を満たすことが可能となる。
【0061】
[0063]適切に制御された場合には、共沈により結果的にヒドロキシアパタイトナノ結晶が均一に分散される。好適には、カルシウム及びリン酸塩が、ヒドロキシアパタイトナノ結晶の形成と成長を可能とするのに十分な量で存在する。好ましくは、(遊離リン酸塩及び/又はリン酸化ゼラチンとして)存在するリン酸塩のモル数に対するカルシウムのモル数の比は、約1.5〜約2.0であり、より好ましくは約1.6〜約1.75の比で存在し、最も好ましくは約1.65〜約1.70である。形成されたナノ結晶は、針状、プレート状であってもよく、又はその他の結晶形状を有していてもよい。好ましくは、形成されたヒドロキシアパタイト結晶は針状である。
【0062】
[0064]全ての成分を共沈反応に添加した後に、撹拌を停止する。ヒドロキシアパタイト−ゼラチンスラリーは、遠心分離を用いて濃縮して過剰の水を除去してもよい。その後、ヒドロキシアパタイト−ゼラチンコロイド残渣を、0.1〜100の比(濃縮中に除去された水に対するアルコール)、好ましくは1:1にてアルコール中で再懸濁させ、次いで遠心分離してアルコール中のヒドロキシアパタイト−ゼラチンコロイド残渣を得てもよい。アルコールは、直鎖又は分岐C〜Cアルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール)、C〜Cジオール及びポリビニルアルコールであってもよい。好ましくは、アルコールにはメタノールが含まれる。あるいは、グリセリンをアルコールの代わりに又はアルコールと組み合わせて使用してもよい。
【0063】
[0065]形成方法は、加水分解及び縮合を含むゾル−ゲル反応に基づく。重要なことには、この方法が、当該技術分野で公知の他の方法で必要とされるような粉末乾燥工程を必要としないことであるが、所望の生成物及び加工条件に依存して乾燥ヒドロキシアパタイト−ゼラチンコロイドが望ましい場合もある。アルコール中のヒドロキシアパタイト−ゼラチンコロイド残渣は、高速撹拌及び温度制御を備えた別の反応フラスコに移される。1種以上のゾル−ゲル反応体、例えばシラン反応体並びに所望により少なくとも1種の不活性充填剤及び/又はその他の添加剤が、約−30℃〜約30℃の範囲の温度で激しく撹拌されているフラスコに添加される。撹拌を停止した後、混合物を十分な時間凝固させ、例えば凝固時間は約1分〜約1時間、好ましくは約1分〜約30分の範囲であってもよい。好ましくは、ゾル−ゲル反応体、例えばシラン反応体には少なくとも1種のアミノ含有シラン化合物が含まれ、ゼラチン:ゾル−ゲル反応体の比は、バイオセラミック生成物の所望の機械的強度に依存して約10〜約0.1の範囲である。
【0064】
[0066]前記の少なくとも1種のゾル−ゲル反応体は、バイオセラミックの所望の特性及びその他の成分の濃度に依存して種々の量で添加してもよい。ゾル−ゲル反応体は直接添加してもよく、又はより好ましくは、水溶液又は混合物として添加される。その量は、所望の特性を有するバイオセラミックの達成を補助するために選択される。ゾル−ゲル反応体は、その他の成分に一度に又はある期間に亘って添加してもよい。上で紹介したように、好ましくは前記の少なくとも1種のゾル−ゲル反応体には、アミノ含有シラン反応体が含まれる。そうは言うものの、アミノ非含有シラン反応体を含有させるとゾル−ゲル反応が遅延し、結果的により多孔質でより扱いやすいバイオセラミックとなる。
【0065】
[0067]凝固の後には、ゾル−ゲルベースのヒドロキシアパタイト−ゼラチン生体材料から水を除去してもよい。例えば、水は、(a)温度及び湿度に依存して乾燥に約2時間〜約12時間の範囲を要してもよい、室温及び大気圧下で、(b)より迅速に水を除去するための高い温度及び大気圧下で、(c)当業者が理解するように、乾燥剤として超臨界流体、例えばCOを使用する超臨界条件下で;又は(d)乾燥剤を備える減圧下の密閉空間を使用して、除去してもよい。十分なイオン交換再蒸留水を使用して、乾燥前に生体模倣ナノ複合材料を洗浄してもよい。
【0066】
[0068]作製物又は造形品(shape)は、(乾燥する前に)湿ったバイオセラミックから成形してもよく、又はバイオセラミックは造形品に成形せずに乾燥させることができる。湿った材料又は湿った造形品は後の使用のために保管してもよく、又は乾燥させてもよい。バイオセラミックは大気圧において安定であるため、造形された又は造形されていないバイオセラミックは、湿ったものであれ乾燥したものであれ、後の使用のために保管してもよい。さらに、生成物は、未成形で造形されていないバイオセラミックから後に切断するか又は造形してもよい。
【0067】
[0069]所望により、本願において前述したような他の成分又は添加剤をバイオセラミックに添加してもよい。成分は、工程の過程で、初期段階から最終段階までのいずれの段階で添加してもよい。さらに、その他の成分を最終的なバイオセラミックに、湿っていようと乾燥していようと、また未成形であろうと成形されていようと添加してもよい。
【0068】
[0070]別の態様においては、本明細書中に記載するヒドロキシアパタイト−ゼラチン材料は乾燥してもよく、本明細書中に記載するような少なくとも1種のゾル−ゲル反応体、例えばシラン反応体とその後混合してもよい。乾燥したヒドロキシアパタイト−ゼラチン材料を使用する方法は、時間が重要である場合、例えば外科的処置の間に、バイオセラミックの調製時間を最小限とする利点を有する。
【0069】
[0071]さらに別の態様においては、加水分解及び縮合を含むゾル−ゲル反応を使用するゾル−ゲルベースのヒドロキシアパタイト−コラーゲンバイオセラミックの作製方法であって、前記方法が、ゾル−ゲル反応を使用するゾル−ゲルベースのヒドロキシアパタイト−ゼラチンバイオセラミックの前述した作製方法に類似する方法が意図される。
【0070】
[0072]別の態様においては、機能性GEMOSOLは、「二重封入(double encapsulation)」技術を使用して作製することができ、ここで、タンパク質、増殖因子、活性薬物(active drug)及び生細胞を含むがこれらに限定されない包埋された薬剤は、GEMOSOL材料内に包埋され得る。二重封入の態様はGEMOSOL構造内部の球状膜に関連し、ここで膜にはポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、GEMOSOL又はこれらの組み合わせが含まれる。
【0071】
[0073]従って、本発明を、本発明の具体的な態様、特徴及び図解した実施形態を参照して本明細書中に記載してきたが、本発明の有用性はこのように限定されるものではなく、吸着された巨大分子と巨大分子集合体との(化学的及び物理的な)分子結合における吸着誘起張力(adsorption-induced tension)に由来する他の多くの態様、特徴及び実施形態まで拡張され、これらを包含するものであることが理解される。従って、以下に説明する請求項は、かかる全ての態様、特徴及び実施形態をその思想及び範囲内に包含するように、これに対応するよう広く解釈されることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸カルシウム/ゼラチン修飾ゾル−ゲル(GEMOSOL)ナノ複合材料を含む成形可能なバイオセラミック。
【請求項2】
前記リン酸カルシウムがヒドロキシアパタイトを含む、請求項1記載のバイオセラミック。
【請求項3】
前記リン酸カルシウムが、約1.65〜約1.70の範囲のカルシウム:リン酸塩比を有する、請求項1又は2記載のバイオセラミック。
【請求項4】
前記GEMOSOLナノ複合材料がシリカを含む、請求項1又は2記載のバイオセラミック。
【請求項5】
前記GEMOSOLナノ複合材料がリン酸化ゼラチンを含む、請求項1又は2記載のバイオセラミック。
【請求項6】
前記バイオセラミックのリン酸カルシウム、ゼラチン及びゾル−ゲル成分が実質的に分散されている、請求項1記載のバイオセラミック。
【請求項7】
前記バイオセラミックのリン酸カルシウム、ゼラチン及びシリカ成分が実質的に分散されている、請求項4記載のバイオセラミック。
【請求項8】
増殖因子、細胞、調合薬、抗炎症薬、抗生物質、色素及びこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種の添加剤をさらに含む、請求項1記載のバイオセラミック。
【請求項9】
前記増殖因子が、BMP、TGF−β、VEGF、MGP、BSP、OPN、OCN、IGF−I、ビグリカン、RANKL、Pro COL−α1及びこれらの組み合わせを含む、請求項8記載のバイオセラミック。
【請求項10】
前記細胞が、骨芽細胞、破骨細胞、骨細胞及び/又は多能性幹細胞を含む、請求項8記載のバイオセラミック。
【請求項11】
組織工学において使用するための製品であって、請求項1記載のバイオセラミックを含む製品。
【請求項12】
置換における使用のための製品であって、請求項1記載のバイオセラミックを含む製品。
【請求項13】
前記置換が、骨置換、歯置換、間接置換、軟骨置換、腱置換及び靭帯置換からなる群から選択される、請求項12記載の製品。
【請求項14】
成形可能なバイオセラミックを作製する方法であって、
水酸化カルシウム、リン酸及びゼラチンを水性条件下で混合して、共沈したリン酸カルシウム−ゼラチン材料を作製すること;並びに
少なくとも1種のゾル−ゲル反応体を前記リン酸カルシウム−ゼラチン材料に添加して、リン酸カルシウム/ゼラチン修飾ゾル−ゲル(GEMOSOL)ナノ複合材料を作製すること
を含む方法。
【請求項15】
前記リン酸カルシウムがヒドロキシアパタイトを含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記リン酸カルシウムが、約1.65〜約1.70の範囲のカルシウム:リン酸塩比を有する請求項14又は15記載の方法。
【請求項17】
前記ゼラチンがリン酸化ゼラチンを含む、請求項14記載の方法。
【請求項18】
前記少なくとも1種のゾル−ゲル反応体が、少なくとも1種のシランを含む、請求項14記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも1種のシラン反応体が、テトラメチルオルトシリケート(TMOS)、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−エチレンジアミン、ビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−エチレンジアミン、メチルトリメトキシシラン(MTMS)、ポリジメチルシラン(PDMS)、プロピルトリメトキシシラン(PTMS)、メチルトリエトキシシラン(MTES)、エチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、N−プロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、メチルシクロヘキシルジメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、3−[2(ビニルベンジルアミノ)エチルアミノ]プロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(アミノプロピル)ジメチルエトキシシラン、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)−N−メチルアミン、3−(アミノプロピル)メチルジエトキシシラン、3−(アミノプロピル)メチルジメトキシシラン、3−(アミノプロピル)ジメチルメトキシシラン、N−ブチル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−ブチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノ−プロピルトリエトキシシラン、4−アミノ−ブチルジメチルエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン及びこれらの組み合わせからなる群から選択される種を含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも1種のシラン反応体がアミノ含有シラン化合物を含む、請求項18記載の方法。
【請求項21】
前記リン酸カルシウム−ゼラチン材料が、約7.0〜約9.0の範囲のpHで作製される、請求項14記載の方法。
【請求項22】
前記リン酸カルシウム−ゼラチン材料が、約30℃〜約48℃の範囲の温度で作製される、請求項14記載の方法。
【請求項23】
前記リン酸カルシウム−ゼラチン材料を濃縮して、前記少なくとも1種のゾル−ゲル反応体を添加する前に過剰の水を除去することをさらに含む、請求項14記載の方法。
【請求項24】
前記リン酸カルシウム−ゼラチン材料が遠心分離を用いて濃縮される、請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記少なくとも1種のゾル−ゲル反応体を添加する前に、前記濃縮されたリン酸カルシウム−ゼラチン材料を少なくとも1種のアルコール中で懸濁させることをさらに含む、請求項23記載の方法。
【請求項26】
前記リン酸カルシウム−ゼラチン材料を濃縮して、前記少なくとも1種のゾル−ゲル反応体を添加する前に過剰のアルコールを除去することをさらに含む、請求項25記載の方法。
【請求項27】
前記少なくとも1種のゾル−ゲル反応体を、約−30℃〜約30℃の範囲の温度で添加する、請求項14記載の方法。
【請求項28】
前記リン酸カルシウム/ゼラチン修飾ゾル−ゲル(GEMOSOL)ナノ複合材料を約1分〜約1時間の範囲の時間で凝固させる、請求項14記載の方法。
【請求項29】
前記リン酸カルシウム/ゼラチン修飾ゾル−ゲル(GEMOSOL)ナノ複合材料を乾燥させることをさらに含む、請求項14記載の方法。
【請求項30】
成形可能なバイオセラミックを作製する方法であって、リン酸カルシウム−ゼラチン材料を少なくとも1種のシラン反応体と混合して、リン酸カルシウム/GEMOSILナノ複合材料を作製することを含む方法。
【請求項31】
成形可能なバイオセラミックを作製する方法であって、リン酸カルシウム−コラーゲン材料を少なくとも1種のゾル−ゲル反応体と混合して、リン酸カルシウム/コラーゲン修飾ゾル−ゲルナノ複合材料を作製することを含む方法。
【請求項32】
バイオセラミックを含む製品を移植することを含むバイオセラミックを使用する方法であって、前記バイオセラミックがリン酸カルシウム/ゼラチン修飾ゾル−ゲル(GEMOSOL)ナノ複合材料を含む、方法。
【請求項33】
請求項1に記載のバイオセラミックを使用することを含む、骨の再生方法。
【請求項34】
請求項1に記載のバイオセラミックを使用することを含む、軟骨の再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−533048(P2010−533048A)
【公表日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−516293(P2010−516293)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【国際出願番号】PCT/US2008/069923
【国際公開番号】WO2009/009784
【国際公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(501345323)ザ ユニバーシティ オブ ノース カロライナ アット チャペル ヒル (52)
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF NORTH CAROLINA AT CHAPEL HILL
【住所又は居所原語表記】308 Bynum Hall,Campus Box 4105,Chapel Hill,North Carolina 27599−4105, United States of America
【Fターム(参考)】