成形品の劣化予測方法、それにより得られた設計に基づく成形品の製造方法および成形品
【課題】本発明は、樹脂材料成形品の劣化を速やかに簡便に予測する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】樹脂材料で製造された成形品の、1種以上の劣化因子による劣化を予測する方法であって、各劣化因子の前記樹脂材料中への一次元浸透−時間関数を取得するステップ(S1)、前記成形品の形状データを取得するステップ(S2)、前記成形品の使用環境データを取得するステップ(S3)、前記形状データおよび環境データに基づき、前記成形品の内部への各劣化因子の3次元浸透プロファイルを計算するステップ(S4)、各劣化因子濃度と劣化の関係式を取得するステップ(S5)、および前記各劣化因子濃度と劣化の関係式を、前記各劣化因子の3次元浸透プロファイルに適用し、前記成形品の内部における3次元劣化プロファイルを計算するステップ(S6)を有する劣化予測方法。
【解決手段】樹脂材料で製造された成形品の、1種以上の劣化因子による劣化を予測する方法であって、各劣化因子の前記樹脂材料中への一次元浸透−時間関数を取得するステップ(S1)、前記成形品の形状データを取得するステップ(S2)、前記成形品の使用環境データを取得するステップ(S3)、前記形状データおよび環境データに基づき、前記成形品の内部への各劣化因子の3次元浸透プロファイルを計算するステップ(S4)、各劣化因子濃度と劣化の関係式を取得するステップ(S5)、および前記各劣化因子濃度と劣化の関係式を、前記各劣化因子の3次元浸透プロファイルに適用し、前記成形品の内部における3次元劣化プロファイルを計算するステップ(S6)を有する劣化予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品の材料劣化を、少ない実験データに基づき、コンピュータシミュレーションにより予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料(プラスチック)成形品は、構造部材、機械部品として、あらゆる用途に使用され、かつその用途により種々の環境下で使用される。樹脂材料成形品が、その製品の予定された寿命の間、充分に性能が維持されるかどうかを確かめるため、耐環境試験が行われる。従来、耐環境試験は、テストピースや実製品を作成し、通常の使用環境よりも過酷な条件による加速試験を行うのが一般的である。
【0003】
しかし、テストピースでの劣化と実成形品の使用状態での劣化は必ずしも一致しない場合が多い。これは、テストピースによる評価は、材料間の比較などの相対評価には適するが、成形品の形状が異なる場合に劣化の進行が異なることによると考えられる。
【0004】
従って、使用環境や部品構造の変更を行う場合、その都度、耐環境試験を行って、製品寿命を見積ったり、劣化を防止するための手段を講じたりする必要がある。また、近年、商品寿命が長期間化しており、従来からの加速試験によって得られた結果が充分に信頼性を有するかどうか、疑問をもたれるようになってきている。
【0005】
一方、成形品を設計・開発する立場の設計者および開発者にとって、テストピースの劣化データは、上記のとおり材料の相対的評価を与えるだけで、実際の成形品の寿命を予測するために役立つものではない。実際に成形品を作って耐環境試験を行うのが好ましいとしても、耐環境試験は、加速試験であっても時間を要する。加えて、部品形状の変更には、金型を変える必要があり多大な費用を要するため、何種類もの設計変更を試すことは困難である。このため、成形品を設計する上で大きな制約があり、従って、予め劣化に対して余裕を持った過大な設計とせざるを得ないことも多かった。
【0006】
材料の劣化予測に関しては、特許文献1(特開2011−21903号公報)には、化合物の品質劣化を予測する方法が記載されている。しかし、特許文献1の予測方法は、成形品の環境劣化を予測するものではない。
【0007】
特許文献2(特開平7−214629号公報)には、熱劣化樹脂の成形時の劣化度を予測する方法が記載されている。しかし、特許文献2の予測方法は、成形時の劣化を扱ったものであって、使用環境における成形品の劣化を予測するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−21903号公報
【特許文献2】特開平7−214629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、設計者・開発者を過度の実験から開放し、樹脂材料成形品の劣化を速やかに簡便に予測する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の事項に関する。
【0011】
1. 樹脂材料で製造された成形品の、1種以上の劣化因子による劣化を予測する方法であって、
各劣化因子の前記樹脂材料中への一次元浸透−時間関数を取得するステップ(S1)、
前記成形品の形状データを取得するステップ(S2)、
前記成形品の使用環境データを取得するステップ(S3)、
前記形状データおよび環境データに基づき、前記成形品の内部への各劣化因子の3次元浸透プロファイルを計算するステップ(S4)、
各劣化因子濃度と劣化の関係式を取得するステップ(S5)、
前記各劣化因子濃度と劣化の関係式を、前記各劣化因子の3次元浸透プロファイルに適用し、前記成形品の内部における3次元劣化プロファイルを計算するステップ(S6)
を有することを特徴とする成形品の劣化予測方法。
【0012】
2. 得られた3次元劣化プロファイルに基づいて、成形品の劣化後の機械的性能を予測するステップ(S7)をさらに有する上記1記載の劣化予測方法。
【0013】
3. 前記ステップ(S1)において、前記一次元浸透−時間関数を、物質拡散方程式により予測することを特徴とする上記1または2記載の劣化予測方法。
【0014】
4. 前記劣化因子が2以上であり、前記ステップ(S6)において、各劣化因子に基づく劣化に重み付け係数を乗じたものの総和を劣化度とすることを特徴とする上記1〜3のいずれか1項に記載の劣化予測方法。
【0015】
5. 上記1〜4のいずれか1項に記載の劣化予測方法により得られた設計に基づいて成形品を製造することを特徴とする樹脂材料成形品の製造方法。
【0016】
6. 上記1〜4のいずれか1項に記載の劣化予測方法により得られた設計に基づいて製造された成形品。
【0017】
7. 上記1〜4のいずれか1項に記載の劣化予測方法を実行する装置であって、前記各ステップを実行する機能を有する装置。
【0018】
8. 上記1〜4のいずれか1項に記載の劣化予測方法を実行するコンピュータプログラム。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、プラスチック成形品の劣化を速やかに予測する方法を提供することができる。従って、本発明を使用することにより、長期の環境試験をしなくても、種々の形状の成形品の劣化を容易に予測することができ、さらに、形状の変更を予定している場合に、実際の成形品を製造しなくても、劣化の予測が可能であるため、材料選定、形状設計等の成形品の設計において有用な指針となり、求められる性能に適合する成形品を容易に設計することができる。従って、短い開発期間で成形品を提供することができ、新製品、改良品の開発スピードを向上することができる。
【0020】
また、本発明による予測結果に基づいて製造される成形品は、コストと性能のバランスに優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の劣化予測方法を説明するフローチャートである。
【図2】2層劣化モデルを模式的に示す図である。
【図3】樹脂材料内部における劣化因子の濃度示す図である。
【図4】2層劣化モデルにおいて、劣化層の厚さの時間変化を示すグラフである。
【図5】使用環境の例を示すグラフである。
【図6】劣化因子濃度と機械的特性の関係を示すグラフである。
【図7】2層劣化モデルにおいて、劣化因子濃度と機械的特性の関係を示すグラフである。
【図8】劣化層と未劣化層の積層構造で生じる可能性のある考慮すべき破断の例を示す図である。
【図9】機械的特性が、吸水率により変化(劣化)する様子を模式的に示すグラフである。
【図10】予測対象成形品の形状を示す図である。
【図11】予測対象の成形品の荷重と押し込み量の関係を実測した結果を示す図である。
【図12】樹脂材料内部への水分の浸透(拡散)を示すグラフである。
【図13】成形品に多層劣化モデルを適用した、劣化因子の内部プロファイルの例を示す図である。
【図14】シミュレーションによる予測と実測との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1に示すフローチャートに従って、本発明の代表的形態について説明する。この形態に従う成形品の劣化予測方法は、以下のステップ、即ち、
各劣化因子の樹脂材料(バルク)中への一次元浸透−時間関数を取得するステップ(S1)、
成形品の形状データを取得するステップ(S2)、
成形品の使用環境データを取得するステップ(S3)、
形状データおよび環境データに基づき、前記成形品の内部への各劣化因子の3次元浸透プロファイルを計算するステップ(S4)、
各劣化因子濃度と劣化の関係式を取得するステップ(S5)、
前記各劣化因子濃度と劣化の関係式を、前記各劣化因子の3次元浸透プロファイルに適用し、前記成形品の内部における3次元劣化プロファイルを計算するステップ(S6)、および
得られた3次元劣化プロファイルに基づいて、成形品の劣化後の機械的性能を予測するステップ(S7)
を有する。
【0023】
ここでいう「樹脂材料」は、成形品を構成する材料の全体を意味し、通常、ベースポリマーと、必要によりベースポリマーに加えて添加される各種添加剤を含む。
【0024】
用語「劣化因子濃度」は、対象となる媒体中における劣化因子の強度をあらわすものとして使用する。物質については、そのまま「濃度」を意味し、温度については「温度°K」を意味し、または光については例えば「光強度W」を意味するなど、劣化因子の影響を表すのに適切な物理量が選択される。
【0025】
用語「関数」、「関係式」は、2つ以上のパラメータについて、パラメータ間の相互の関係が示されるものを意味し、数式として表されてもよいし、グラフデータ等のように測定から求まる関係でもよい。
【0026】
ステップS1の前段として、まず、対象となる特定の樹脂に対して劣化因子を選択する。劣化因子は、樹脂材料を劣化させる原因となるものであり、成形品が使用される環境により異なる。例えば、酸素、水分、温度、潤滑剤、燃料、冷媒、融雪剤、オゾン、光(紫外線等)、その他、種々のものが因子として挙げられる。本発明において、成形品が使用される環境において、劣化の原因となるすべての因子を考慮してシミュレーションを行ってもよいが、一般的には、成形品が使用される環境において、劣化の原因となる主要な因子を考慮すればよい。例えば使用環境中に大量に存在する因子であっても他の因子と比較して劣化の原因としての影響が小さいもの、あるいは使用環境中にごくわずかしか存在しないものは、その存在を無視してもよい。樹脂材料の種類によっても選択すべき劣化因子は異なってくる。
【0027】
少なくとも1つの劣化因子を選択した後、各劣化因子について、樹脂材料中への劣化因子の浸透−時間関数を取得する(S1)。
【0028】
樹脂材料への劣化因子の浸透、即ち拡散は、環境に曝されている周囲より起こる。樹脂材料薄片10の内部への劣化因子の浸透を、図2および図3を用いて説明する。図2に模式的に示すように、樹脂材料10の内部に、時間経過と共に浸透層(劣化層)12が浸透し、内部の未浸透層(未劣化層)11が縮小する。図3(a)は、樹脂材料薄片の断面を示し、図3(b)は、劣化因子の濃度を縦軸にとって、樹脂材料薄片10への劣化因子の拡散を示す模式図である。
【0029】
図3(b)に示すように、劣化因子濃度は、界面で高く、内部で低い。劣化因子濃度は、時間と共に変化する。劣化因子濃度が、ある特定の臨界値以上になった領域を劣化層12とすると、劣化層12の厚さは、図4に示すように時間と共に増大する。
【0030】
即ち、このステップS1で用意すべき「樹脂材料中への劣化因子の浸透−時間関数」は、図3(b)に示すような、劣化因子の拡散プロファイルの時間変化、即ち劣化因子の浸透挙動である。材料の劣化を、劣化層と非劣化層の2層構造とする非常に簡略化したモデルでは、図4に示すように、劣化層の厚さを時間関数として得ればよい。
【0031】
浸透−時間関数は、樹脂材料のサンプル薄片を使用して、全て実験的に求めることも可能である。しかし、すべてを実験的に求めるのは多数の長期わたる実験が必要になり煩雑であるので、公知の物質拡散方程式(1):
【0032】
【数1】
(式中、C:質量濃度、 ρ:密度、 Dm:物質拡散係数、 d:湧き出し、 u:流速)
に従うと仮定し、実験的に求めた物質拡散係数Dm、または文献記載の物質拡散係数Dmを当てはめることができる。
【0033】
尚、樹脂材料薄片を使用した劣化因子の浸透実験では、d=0、u=0として、実験的に得られる浸透(拡散)プロファイルから、拡散係数Dmを求めることができる。
【0034】
ステップS2では、成形品の形状データを取得する。例えば汎用のCADソフトによりデータを作成する。
【0035】
ステップS3では、使用環境データを用意する。使用環境データの1例としては、図5に示すように、使用環境における劣化因子の濃度(強度)の時間変化を示すグラフ(関数)が挙げられる。また、劣化因子の濃度が、成形品外面の位置により異なるときは、形状データとあわせて、その位置ごとに使用環境データを用意する。
【0036】
次に、ステップS4では、劣化因子の浸透−時間関数を、使用環境データに基づいて、成形品の形状データに適用し、所望の時間経過後における成形品中の劣化因子濃度の3次元プロファイルを求める。計算は、汎用の有限要素解析ソフト(FEM)、例えば、MSCソフトウェア社のMSC.MARC(商標)等を使用して行うことができる。
【0037】
このステップS4により得られる劣化因子濃度の3次元プロファイルは、次以降のステップで計算する機械的特性(弾性率、強度、伸び等)の劣化の基礎となる。また、劣化因子濃度の3次元プロファイルは、ステップS1の前段で選択した劣化因子のすべてについて求める。
【0038】
次に、ステップS5として、機械的特性(弾性率、強度、伸び等)を計算する前段階として、各劣化因子濃度と劣化の関係を取得する。理想的には、図6に示すように、機械的特性の変化を劣化因子の濃度の関数として用意する。簡便なモデルとして、未劣化層と劣化層の2層モデルでは、図7に示すように。劣化因子濃度が臨界濃度未満の未劣化領域と、臨界濃度以上の劣化領域において、それぞれ機械的特性が決まればよい。
【0039】
各劣化因子と劣化との相関データは、実験的に求められるか、既知のデータについては文献値を採用してもよい。実験的に求めるには、例えば薄いテストピースを使用して、所定の環境(例えば劣化因子濃度が異なる複数の環境)においた後に機械的特性を測定し、内部の劣化因子濃度から、劣化因子濃度と機械的特性の関係(即ち、劣化との関係)を得ることができる。
【0040】
また、劣化層(多段階の劣化層)、未劣化層をそれぞれ単独で測定することに加え、またはその代わりに、テストピース中に劣化層(多段階の劣化層)と未劣化層が存在する状態で、あるいは、テストピース中に有意の濃度勾配が存在する状態で、機械的特性を測定することも有用である。例えば、図8に示すように、劣化層12が先に破断して表面にノッチ状亀裂が生じたとき、いわゆるノッチ効果により、未劣化層11が早期に破断する場合もありうる。より実情に近い結果を得るために、このような測定を行うことは有用である。
【0041】
機械的特性は、例えば弾性率(例えば、引っ張り、曲げ弾性率)、強度(例えば、引っ張り強度、曲げ強度)、伸び、tanδ等の他、融点、軟化温度、Tg、結晶化温度等から選ばれる。これらは単に例示であり、成形品の用途で必要とされる物性を過不足なく評価できればよい。
【0042】
ステップS6において、成形品中の機械的特性プロファイル、即ち劣化プロファイルを計算する。成形品中のある点の機械的特性(例えば弾性率)の劣化度は、例えば式(2):
Ctotal=A1C1+A2C2+A3C3+・・・+C0 (2)
(ここで、Ctotal:ある点の機械的特性の劣化度、 Ci:劣化因子iに基づく劣化度、 Ai:係数、 C0:定数、 但し、i=1、2、3・・・である。)
で表すことができる。
【0043】
成形品中のある点における劣化因子iの濃度は、前記ステップS4で求められている。また、劣化因子iの濃度と機械的特性の関係は、ステップS5で求められている。劣化度Ciを、例えば、機械的特性の初期特性からの低下値とし、複数の劣化因子による劣化を重畳した場合に各劣化因子が及ぼす影響度の重みづけ係数Aiを、Ciに掛け合わせて総和をとることで、ある特定の点においての劣化度(即ち、その点での特性低下値)を求めることができる。ここで、C0は、劣化因子によらない劣化に基づくもので、そのような要素がなければ、C0=0とすることができる。このような成形品の各点における劣化度から、成形品中の劣化度プロファイル、および劣化後の機械的特性(例えば弾性率)プロファイルが得られる。
【0044】
尚、重み付け係数Aiは、複数の劣化因子が存在する環境下おいたテストピースから、実験的に得ることができる。また、すでに有している劣化データと合うように、Aiを計算から決めることもできる。
【0045】
このようにして、ステップS6で、成形品の劣化後の機械的特性(例えば弾性率)プロファイルが得られるので、ステップS7では、成形品全体として、部品としての劣化後性能を計算する。
【0046】
部品としての性能としては、成形品が使用される用途により適宜選択して計算する。例えば、特定部位での引っ張り、圧縮、特定方向の曲げ、振動に対する強度、変形、破壊等を計算により予測する。この計算も、汎用の有限要素解析ソフト(FEM)、例えば、MSCソフトウェア社のMSC.MARC(商標)等を使用して行うことができる。
【0047】
このようにして得られた予測された劣化後性能を元に、設計者、開発者は、成形品の形状および材料のアセスメントを行う。用途に対して結果が不満足であったり、さらに向上を求めたりする場合には、形状を変更したり、樹脂材料を変更したりして、再度本発明のシミュレーションを行うことができる。例えば、添加剤として高価な劣化防止剤を多量に含有する樹脂材料を使用した成形品は、劣化が小さいかもしれないがコスト高になる。本発明によれば、少ない実験に基づいて、迅速に劣化後性能を予測できるため、性能とコストのバランスの取れた成形品を容易に設計することができる。
【0048】
以上、本発明の劣化予測方法を説明したが、本発明はさらに上記劣化予測方法を実行するコンピュータソフトウェア、および本発明の劣化予測方法の各ステップを実行する機能を有する装置にも関する。
【0049】
また、ステップS1において取得する一次元浸透−時間関数、ステップS5において取得する劣化因子濃度と劣化の関係式、さらにはステップS6において成形品中の劣化プロファイルを計算する際の係数Aiの1つ以上を、予めデータベースとして記憶装置に記憶しておき、ステップを実行する際に呼び出すように構成することで、より簡便にシミュレーションを実施することができる。また、製品またはテストピースでの劣化データが新たに得られたとき、新たな実測データを加えて、各基礎データを修正し更新することが好ましく、より確度の高いシミュレーションが可能になる。
【実施例】
【0050】
劣化因子として水分(吸湿)を選択し、シミュレーションの結果を実測の結果と対比した。
【0051】
まず、吸湿と機械的特性の変化の相関を得るために(ステップS5に対応)、ポリアミド6樹脂を使用して、ダンベル型テストピース(JIS2号試験片)を作製した。テストピースを、調湿条件下において絶乾(吸水率≒0)した後、所定数のテストピースを、所定温度の水中に、所定時間、浸漬した。浸漬後のテストピースを、水蒸気不透過性の袋に入れて密閉し放置した。テストピース内の水分の分布が平衡に達する程度まで放置した後、機械的特性を試験した。水中での浸漬時間、浸漬温度を変更することで、吸水率の異なるテストピースを得た。吸水率は重量変化から求めた。
【0052】
図9に、テストピースの測定から得られた歪み(strain)−応力(stress)曲線を模式的に示す。この結果から、ステップS5での劣化因子濃度と、機械的特性の関係式が得られたことになる。
【0053】
次に、機械的特性を求める予測対象の成形品を、図10に示す断面コの字型形状とした(ステップS2に対応)。使用環境データについては(ステップS3に対応)、表1に示す水中での浸漬条件とした。また、シミュレーションと実測とを比較するために、同形状の成形品を作製した。すべての成形品を、調湿条件下において、絶乾(吸水率≒0)し、所定数の成形品を、表1に示す条件にて水中に浸漬した。
【0054】
【表1】
【0055】
テストピースを、3点曲げ試験機により、テストピースの上方から荷重をかけ、荷重と押し込み量のデータを得た。得られた結果を図11に示す。この図において、参考のために成形品全体としての平均吸水率も示した。
【0056】
一方、水分の浸透を、物質拡散方程式を用いて予測した(ステップS1に対応)。その結果を、図12(a)、(b)に示す。
【0057】
次に予測対象の成形品の機械的特性を求めることになるが、ここでは簡便のため、成形品中の劣化因子の浸透プロファイル(ステップS4に対応)については、ステップS1で予測した浸透プロファイルから、図13に示すように、多層劣化モデルを用いて、計算することとした。前述のとおり、使用環境データ(ステップS3)が表1のとおりであるので、従って、図12は、使用環境データに対応した浸透プロファイルを示している。
【0058】
このような多層劣化モデルについて、先の図9から求められる劣化因子と機械的特性の関係を適用することで、成形品の機械的特性を予測する(ステップS6に対応)。ここでは、押し込み量と反力の関係を求めた。予測データと実測データを図14に示す。尚、実測データは、先の図11を補正したものである。この結果から、シミュレーションにより予測した結果は、実測と概ね±10%の範囲で一致していた。
【0059】
実施例では、水分のみを劣化因子として簡単な構造の成形品を対象としたが、本発明の原理によれば、劣化因子が複数の場合でも少数の実験から得られるデータに基づいて、複雑な形状の成形品についても劣化が予測可能である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、樹脂材料の成形品の設計に有利に使用される。
【符号の説明】
【0061】
10 樹脂材料薄片
11 未劣化層
12 劣化層
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品の材料劣化を、少ない実験データに基づき、コンピュータシミュレーションにより予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料(プラスチック)成形品は、構造部材、機械部品として、あらゆる用途に使用され、かつその用途により種々の環境下で使用される。樹脂材料成形品が、その製品の予定された寿命の間、充分に性能が維持されるかどうかを確かめるため、耐環境試験が行われる。従来、耐環境試験は、テストピースや実製品を作成し、通常の使用環境よりも過酷な条件による加速試験を行うのが一般的である。
【0003】
しかし、テストピースでの劣化と実成形品の使用状態での劣化は必ずしも一致しない場合が多い。これは、テストピースによる評価は、材料間の比較などの相対評価には適するが、成形品の形状が異なる場合に劣化の進行が異なることによると考えられる。
【0004】
従って、使用環境や部品構造の変更を行う場合、その都度、耐環境試験を行って、製品寿命を見積ったり、劣化を防止するための手段を講じたりする必要がある。また、近年、商品寿命が長期間化しており、従来からの加速試験によって得られた結果が充分に信頼性を有するかどうか、疑問をもたれるようになってきている。
【0005】
一方、成形品を設計・開発する立場の設計者および開発者にとって、テストピースの劣化データは、上記のとおり材料の相対的評価を与えるだけで、実際の成形品の寿命を予測するために役立つものではない。実際に成形品を作って耐環境試験を行うのが好ましいとしても、耐環境試験は、加速試験であっても時間を要する。加えて、部品形状の変更には、金型を変える必要があり多大な費用を要するため、何種類もの設計変更を試すことは困難である。このため、成形品を設計する上で大きな制約があり、従って、予め劣化に対して余裕を持った過大な設計とせざるを得ないことも多かった。
【0006】
材料の劣化予測に関しては、特許文献1(特開2011−21903号公報)には、化合物の品質劣化を予測する方法が記載されている。しかし、特許文献1の予測方法は、成形品の環境劣化を予測するものではない。
【0007】
特許文献2(特開平7−214629号公報)には、熱劣化樹脂の成形時の劣化度を予測する方法が記載されている。しかし、特許文献2の予測方法は、成形時の劣化を扱ったものであって、使用環境における成形品の劣化を予測するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−21903号公報
【特許文献2】特開平7−214629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、設計者・開発者を過度の実験から開放し、樹脂材料成形品の劣化を速やかに簡便に予測する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の事項に関する。
【0011】
1. 樹脂材料で製造された成形品の、1種以上の劣化因子による劣化を予測する方法であって、
各劣化因子の前記樹脂材料中への一次元浸透−時間関数を取得するステップ(S1)、
前記成形品の形状データを取得するステップ(S2)、
前記成形品の使用環境データを取得するステップ(S3)、
前記形状データおよび環境データに基づき、前記成形品の内部への各劣化因子の3次元浸透プロファイルを計算するステップ(S4)、
各劣化因子濃度と劣化の関係式を取得するステップ(S5)、
前記各劣化因子濃度と劣化の関係式を、前記各劣化因子の3次元浸透プロファイルに適用し、前記成形品の内部における3次元劣化プロファイルを計算するステップ(S6)
を有することを特徴とする成形品の劣化予測方法。
【0012】
2. 得られた3次元劣化プロファイルに基づいて、成形品の劣化後の機械的性能を予測するステップ(S7)をさらに有する上記1記載の劣化予測方法。
【0013】
3. 前記ステップ(S1)において、前記一次元浸透−時間関数を、物質拡散方程式により予測することを特徴とする上記1または2記載の劣化予測方法。
【0014】
4. 前記劣化因子が2以上であり、前記ステップ(S6)において、各劣化因子に基づく劣化に重み付け係数を乗じたものの総和を劣化度とすることを特徴とする上記1〜3のいずれか1項に記載の劣化予測方法。
【0015】
5. 上記1〜4のいずれか1項に記載の劣化予測方法により得られた設計に基づいて成形品を製造することを特徴とする樹脂材料成形品の製造方法。
【0016】
6. 上記1〜4のいずれか1項に記載の劣化予測方法により得られた設計に基づいて製造された成形品。
【0017】
7. 上記1〜4のいずれか1項に記載の劣化予測方法を実行する装置であって、前記各ステップを実行する機能を有する装置。
【0018】
8. 上記1〜4のいずれか1項に記載の劣化予測方法を実行するコンピュータプログラム。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、プラスチック成形品の劣化を速やかに予測する方法を提供することができる。従って、本発明を使用することにより、長期の環境試験をしなくても、種々の形状の成形品の劣化を容易に予測することができ、さらに、形状の変更を予定している場合に、実際の成形品を製造しなくても、劣化の予測が可能であるため、材料選定、形状設計等の成形品の設計において有用な指針となり、求められる性能に適合する成形品を容易に設計することができる。従って、短い開発期間で成形品を提供することができ、新製品、改良品の開発スピードを向上することができる。
【0020】
また、本発明による予測結果に基づいて製造される成形品は、コストと性能のバランスに優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の劣化予測方法を説明するフローチャートである。
【図2】2層劣化モデルを模式的に示す図である。
【図3】樹脂材料内部における劣化因子の濃度示す図である。
【図4】2層劣化モデルにおいて、劣化層の厚さの時間変化を示すグラフである。
【図5】使用環境の例を示すグラフである。
【図6】劣化因子濃度と機械的特性の関係を示すグラフである。
【図7】2層劣化モデルにおいて、劣化因子濃度と機械的特性の関係を示すグラフである。
【図8】劣化層と未劣化層の積層構造で生じる可能性のある考慮すべき破断の例を示す図である。
【図9】機械的特性が、吸水率により変化(劣化)する様子を模式的に示すグラフである。
【図10】予測対象成形品の形状を示す図である。
【図11】予測対象の成形品の荷重と押し込み量の関係を実測した結果を示す図である。
【図12】樹脂材料内部への水分の浸透(拡散)を示すグラフである。
【図13】成形品に多層劣化モデルを適用した、劣化因子の内部プロファイルの例を示す図である。
【図14】シミュレーションによる予測と実測との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1に示すフローチャートに従って、本発明の代表的形態について説明する。この形態に従う成形品の劣化予測方法は、以下のステップ、即ち、
各劣化因子の樹脂材料(バルク)中への一次元浸透−時間関数を取得するステップ(S1)、
成形品の形状データを取得するステップ(S2)、
成形品の使用環境データを取得するステップ(S3)、
形状データおよび環境データに基づき、前記成形品の内部への各劣化因子の3次元浸透プロファイルを計算するステップ(S4)、
各劣化因子濃度と劣化の関係式を取得するステップ(S5)、
前記各劣化因子濃度と劣化の関係式を、前記各劣化因子の3次元浸透プロファイルに適用し、前記成形品の内部における3次元劣化プロファイルを計算するステップ(S6)、および
得られた3次元劣化プロファイルに基づいて、成形品の劣化後の機械的性能を予測するステップ(S7)
を有する。
【0023】
ここでいう「樹脂材料」は、成形品を構成する材料の全体を意味し、通常、ベースポリマーと、必要によりベースポリマーに加えて添加される各種添加剤を含む。
【0024】
用語「劣化因子濃度」は、対象となる媒体中における劣化因子の強度をあらわすものとして使用する。物質については、そのまま「濃度」を意味し、温度については「温度°K」を意味し、または光については例えば「光強度W」を意味するなど、劣化因子の影響を表すのに適切な物理量が選択される。
【0025】
用語「関数」、「関係式」は、2つ以上のパラメータについて、パラメータ間の相互の関係が示されるものを意味し、数式として表されてもよいし、グラフデータ等のように測定から求まる関係でもよい。
【0026】
ステップS1の前段として、まず、対象となる特定の樹脂に対して劣化因子を選択する。劣化因子は、樹脂材料を劣化させる原因となるものであり、成形品が使用される環境により異なる。例えば、酸素、水分、温度、潤滑剤、燃料、冷媒、融雪剤、オゾン、光(紫外線等)、その他、種々のものが因子として挙げられる。本発明において、成形品が使用される環境において、劣化の原因となるすべての因子を考慮してシミュレーションを行ってもよいが、一般的には、成形品が使用される環境において、劣化の原因となる主要な因子を考慮すればよい。例えば使用環境中に大量に存在する因子であっても他の因子と比較して劣化の原因としての影響が小さいもの、あるいは使用環境中にごくわずかしか存在しないものは、その存在を無視してもよい。樹脂材料の種類によっても選択すべき劣化因子は異なってくる。
【0027】
少なくとも1つの劣化因子を選択した後、各劣化因子について、樹脂材料中への劣化因子の浸透−時間関数を取得する(S1)。
【0028】
樹脂材料への劣化因子の浸透、即ち拡散は、環境に曝されている周囲より起こる。樹脂材料薄片10の内部への劣化因子の浸透を、図2および図3を用いて説明する。図2に模式的に示すように、樹脂材料10の内部に、時間経過と共に浸透層(劣化層)12が浸透し、内部の未浸透層(未劣化層)11が縮小する。図3(a)は、樹脂材料薄片の断面を示し、図3(b)は、劣化因子の濃度を縦軸にとって、樹脂材料薄片10への劣化因子の拡散を示す模式図である。
【0029】
図3(b)に示すように、劣化因子濃度は、界面で高く、内部で低い。劣化因子濃度は、時間と共に変化する。劣化因子濃度が、ある特定の臨界値以上になった領域を劣化層12とすると、劣化層12の厚さは、図4に示すように時間と共に増大する。
【0030】
即ち、このステップS1で用意すべき「樹脂材料中への劣化因子の浸透−時間関数」は、図3(b)に示すような、劣化因子の拡散プロファイルの時間変化、即ち劣化因子の浸透挙動である。材料の劣化を、劣化層と非劣化層の2層構造とする非常に簡略化したモデルでは、図4に示すように、劣化層の厚さを時間関数として得ればよい。
【0031】
浸透−時間関数は、樹脂材料のサンプル薄片を使用して、全て実験的に求めることも可能である。しかし、すべてを実験的に求めるのは多数の長期わたる実験が必要になり煩雑であるので、公知の物質拡散方程式(1):
【0032】
【数1】
(式中、C:質量濃度、 ρ:密度、 Dm:物質拡散係数、 d:湧き出し、 u:流速)
に従うと仮定し、実験的に求めた物質拡散係数Dm、または文献記載の物質拡散係数Dmを当てはめることができる。
【0033】
尚、樹脂材料薄片を使用した劣化因子の浸透実験では、d=0、u=0として、実験的に得られる浸透(拡散)プロファイルから、拡散係数Dmを求めることができる。
【0034】
ステップS2では、成形品の形状データを取得する。例えば汎用のCADソフトによりデータを作成する。
【0035】
ステップS3では、使用環境データを用意する。使用環境データの1例としては、図5に示すように、使用環境における劣化因子の濃度(強度)の時間変化を示すグラフ(関数)が挙げられる。また、劣化因子の濃度が、成形品外面の位置により異なるときは、形状データとあわせて、その位置ごとに使用環境データを用意する。
【0036】
次に、ステップS4では、劣化因子の浸透−時間関数を、使用環境データに基づいて、成形品の形状データに適用し、所望の時間経過後における成形品中の劣化因子濃度の3次元プロファイルを求める。計算は、汎用の有限要素解析ソフト(FEM)、例えば、MSCソフトウェア社のMSC.MARC(商標)等を使用して行うことができる。
【0037】
このステップS4により得られる劣化因子濃度の3次元プロファイルは、次以降のステップで計算する機械的特性(弾性率、強度、伸び等)の劣化の基礎となる。また、劣化因子濃度の3次元プロファイルは、ステップS1の前段で選択した劣化因子のすべてについて求める。
【0038】
次に、ステップS5として、機械的特性(弾性率、強度、伸び等)を計算する前段階として、各劣化因子濃度と劣化の関係を取得する。理想的には、図6に示すように、機械的特性の変化を劣化因子の濃度の関数として用意する。簡便なモデルとして、未劣化層と劣化層の2層モデルでは、図7に示すように。劣化因子濃度が臨界濃度未満の未劣化領域と、臨界濃度以上の劣化領域において、それぞれ機械的特性が決まればよい。
【0039】
各劣化因子と劣化との相関データは、実験的に求められるか、既知のデータについては文献値を採用してもよい。実験的に求めるには、例えば薄いテストピースを使用して、所定の環境(例えば劣化因子濃度が異なる複数の環境)においた後に機械的特性を測定し、内部の劣化因子濃度から、劣化因子濃度と機械的特性の関係(即ち、劣化との関係)を得ることができる。
【0040】
また、劣化層(多段階の劣化層)、未劣化層をそれぞれ単独で測定することに加え、またはその代わりに、テストピース中に劣化層(多段階の劣化層)と未劣化層が存在する状態で、あるいは、テストピース中に有意の濃度勾配が存在する状態で、機械的特性を測定することも有用である。例えば、図8に示すように、劣化層12が先に破断して表面にノッチ状亀裂が生じたとき、いわゆるノッチ効果により、未劣化層11が早期に破断する場合もありうる。より実情に近い結果を得るために、このような測定を行うことは有用である。
【0041】
機械的特性は、例えば弾性率(例えば、引っ張り、曲げ弾性率)、強度(例えば、引っ張り強度、曲げ強度)、伸び、tanδ等の他、融点、軟化温度、Tg、結晶化温度等から選ばれる。これらは単に例示であり、成形品の用途で必要とされる物性を過不足なく評価できればよい。
【0042】
ステップS6において、成形品中の機械的特性プロファイル、即ち劣化プロファイルを計算する。成形品中のある点の機械的特性(例えば弾性率)の劣化度は、例えば式(2):
Ctotal=A1C1+A2C2+A3C3+・・・+C0 (2)
(ここで、Ctotal:ある点の機械的特性の劣化度、 Ci:劣化因子iに基づく劣化度、 Ai:係数、 C0:定数、 但し、i=1、2、3・・・である。)
で表すことができる。
【0043】
成形品中のある点における劣化因子iの濃度は、前記ステップS4で求められている。また、劣化因子iの濃度と機械的特性の関係は、ステップS5で求められている。劣化度Ciを、例えば、機械的特性の初期特性からの低下値とし、複数の劣化因子による劣化を重畳した場合に各劣化因子が及ぼす影響度の重みづけ係数Aiを、Ciに掛け合わせて総和をとることで、ある特定の点においての劣化度(即ち、その点での特性低下値)を求めることができる。ここで、C0は、劣化因子によらない劣化に基づくもので、そのような要素がなければ、C0=0とすることができる。このような成形品の各点における劣化度から、成形品中の劣化度プロファイル、および劣化後の機械的特性(例えば弾性率)プロファイルが得られる。
【0044】
尚、重み付け係数Aiは、複数の劣化因子が存在する環境下おいたテストピースから、実験的に得ることができる。また、すでに有している劣化データと合うように、Aiを計算から決めることもできる。
【0045】
このようにして、ステップS6で、成形品の劣化後の機械的特性(例えば弾性率)プロファイルが得られるので、ステップS7では、成形品全体として、部品としての劣化後性能を計算する。
【0046】
部品としての性能としては、成形品が使用される用途により適宜選択して計算する。例えば、特定部位での引っ張り、圧縮、特定方向の曲げ、振動に対する強度、変形、破壊等を計算により予測する。この計算も、汎用の有限要素解析ソフト(FEM)、例えば、MSCソフトウェア社のMSC.MARC(商標)等を使用して行うことができる。
【0047】
このようにして得られた予測された劣化後性能を元に、設計者、開発者は、成形品の形状および材料のアセスメントを行う。用途に対して結果が不満足であったり、さらに向上を求めたりする場合には、形状を変更したり、樹脂材料を変更したりして、再度本発明のシミュレーションを行うことができる。例えば、添加剤として高価な劣化防止剤を多量に含有する樹脂材料を使用した成形品は、劣化が小さいかもしれないがコスト高になる。本発明によれば、少ない実験に基づいて、迅速に劣化後性能を予測できるため、性能とコストのバランスの取れた成形品を容易に設計することができる。
【0048】
以上、本発明の劣化予測方法を説明したが、本発明はさらに上記劣化予測方法を実行するコンピュータソフトウェア、および本発明の劣化予測方法の各ステップを実行する機能を有する装置にも関する。
【0049】
また、ステップS1において取得する一次元浸透−時間関数、ステップS5において取得する劣化因子濃度と劣化の関係式、さらにはステップS6において成形品中の劣化プロファイルを計算する際の係数Aiの1つ以上を、予めデータベースとして記憶装置に記憶しておき、ステップを実行する際に呼び出すように構成することで、より簡便にシミュレーションを実施することができる。また、製品またはテストピースでの劣化データが新たに得られたとき、新たな実測データを加えて、各基礎データを修正し更新することが好ましく、より確度の高いシミュレーションが可能になる。
【実施例】
【0050】
劣化因子として水分(吸湿)を選択し、シミュレーションの結果を実測の結果と対比した。
【0051】
まず、吸湿と機械的特性の変化の相関を得るために(ステップS5に対応)、ポリアミド6樹脂を使用して、ダンベル型テストピース(JIS2号試験片)を作製した。テストピースを、調湿条件下において絶乾(吸水率≒0)した後、所定数のテストピースを、所定温度の水中に、所定時間、浸漬した。浸漬後のテストピースを、水蒸気不透過性の袋に入れて密閉し放置した。テストピース内の水分の分布が平衡に達する程度まで放置した後、機械的特性を試験した。水中での浸漬時間、浸漬温度を変更することで、吸水率の異なるテストピースを得た。吸水率は重量変化から求めた。
【0052】
図9に、テストピースの測定から得られた歪み(strain)−応力(stress)曲線を模式的に示す。この結果から、ステップS5での劣化因子濃度と、機械的特性の関係式が得られたことになる。
【0053】
次に、機械的特性を求める予測対象の成形品を、図10に示す断面コの字型形状とした(ステップS2に対応)。使用環境データについては(ステップS3に対応)、表1に示す水中での浸漬条件とした。また、シミュレーションと実測とを比較するために、同形状の成形品を作製した。すべての成形品を、調湿条件下において、絶乾(吸水率≒0)し、所定数の成形品を、表1に示す条件にて水中に浸漬した。
【0054】
【表1】
【0055】
テストピースを、3点曲げ試験機により、テストピースの上方から荷重をかけ、荷重と押し込み量のデータを得た。得られた結果を図11に示す。この図において、参考のために成形品全体としての平均吸水率も示した。
【0056】
一方、水分の浸透を、物質拡散方程式を用いて予測した(ステップS1に対応)。その結果を、図12(a)、(b)に示す。
【0057】
次に予測対象の成形品の機械的特性を求めることになるが、ここでは簡便のため、成形品中の劣化因子の浸透プロファイル(ステップS4に対応)については、ステップS1で予測した浸透プロファイルから、図13に示すように、多層劣化モデルを用いて、計算することとした。前述のとおり、使用環境データ(ステップS3)が表1のとおりであるので、従って、図12は、使用環境データに対応した浸透プロファイルを示している。
【0058】
このような多層劣化モデルについて、先の図9から求められる劣化因子と機械的特性の関係を適用することで、成形品の機械的特性を予測する(ステップS6に対応)。ここでは、押し込み量と反力の関係を求めた。予測データと実測データを図14に示す。尚、実測データは、先の図11を補正したものである。この結果から、シミュレーションにより予測した結果は、実測と概ね±10%の範囲で一致していた。
【0059】
実施例では、水分のみを劣化因子として簡単な構造の成形品を対象としたが、本発明の原理によれば、劣化因子が複数の場合でも少数の実験から得られるデータに基づいて、複雑な形状の成形品についても劣化が予測可能である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、樹脂材料の成形品の設計に有利に使用される。
【符号の説明】
【0061】
10 樹脂材料薄片
11 未劣化層
12 劣化層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料で製造された成形品の、1種以上の劣化因子による劣化を予測する方法であって、
各劣化因子の前記樹脂材料中への一次元浸透−時間関数を取得するステップ(S1)、
前記成形品の形状データを取得するステップ(S2)、
前記成形品の使用環境データを取得するステップ(S3)、
前記形状データおよび環境データに基づき、前記成形品の内部への各劣化因子の3次元浸透プロファイルを計算するステップ(S4)、
各劣化因子濃度と劣化の関係式を取得するステップ(S5)、
前記各劣化因子濃度と劣化の関係式を、前記各劣化因子の3次元浸透プロファイルに適用し、前記成形品の内部における3次元劣化プロファイルを計算するステップ(S6)
を有することを特徴とする成形品の劣化予測方法。
【請求項2】
得られた3次元劣化プロファイルに基づいて、成形品の劣化後の機械的性能を予測するステップ(S7)をさらに有する請求項1記載の劣化予測方法。
【請求項3】
前記ステップ(S1)において、前記一次元浸透−時間関数を、物質拡散方程式により予測することを特徴とする請求項1または2記載の劣化予測方法。
【請求項4】
前記劣化因子が2以上であり、前記ステップ(S6)において、各劣化因子に基づく劣化に重み付け係数を乗じたものの総和を劣化度とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の劣化予測方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の劣化予測方法により得られた設計に基づいて成形品を製造することを特徴とする樹脂材料成形品の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の劣化予測方法により得られた設計に基づいて製造された成形品。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の劣化予測方法を実行する装置であって、前記各ステップを実行する機能を有する装置。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の劣化予測方法を実行するコンピュータプログラム。
【請求項1】
樹脂材料で製造された成形品の、1種以上の劣化因子による劣化を予測する方法であって、
各劣化因子の前記樹脂材料中への一次元浸透−時間関数を取得するステップ(S1)、
前記成形品の形状データを取得するステップ(S2)、
前記成形品の使用環境データを取得するステップ(S3)、
前記形状データおよび環境データに基づき、前記成形品の内部への各劣化因子の3次元浸透プロファイルを計算するステップ(S4)、
各劣化因子濃度と劣化の関係式を取得するステップ(S5)、
前記各劣化因子濃度と劣化の関係式を、前記各劣化因子の3次元浸透プロファイルに適用し、前記成形品の内部における3次元劣化プロファイルを計算するステップ(S6)
を有することを特徴とする成形品の劣化予測方法。
【請求項2】
得られた3次元劣化プロファイルに基づいて、成形品の劣化後の機械的性能を予測するステップ(S7)をさらに有する請求項1記載の劣化予測方法。
【請求項3】
前記ステップ(S1)において、前記一次元浸透−時間関数を、物質拡散方程式により予測することを特徴とする請求項1または2記載の劣化予測方法。
【請求項4】
前記劣化因子が2以上であり、前記ステップ(S6)において、各劣化因子に基づく劣化に重み付け係数を乗じたものの総和を劣化度とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の劣化予測方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の劣化予測方法により得られた設計に基づいて成形品を製造することを特徴とする樹脂材料成形品の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の劣化予測方法により得られた設計に基づいて製造された成形品。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の劣化予測方法を実行する装置であって、前記各ステップを実行する機能を有する装置。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の劣化予測方法を実行するコンピュータプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−230055(P2012−230055A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99608(P2011−99608)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】
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