成形品の製造方法および成形品
【課題】加熱中に熱膨張を生ずる成形材料のスタンピング成形において、成形サイクルを短縮させ、かつ、厚みが不均一な材料についても均一に加熱できる成形材料の製造方法を提供する。
【解決手段】不連続強化繊維基材に熱可塑性樹脂を含浸してなる成形材料を、次の(A)〜(C)の工程を経て加熱して後、プレス成形する成形品の製造方法で(A)がオフラインにて実施されることを特徴とする。(A)その表面温度および中心温度のそれぞれが成形温度域となるまで昇温する第一の加熱工程3a。(B)成形品前駆体を第二の加熱工程(C)に搬送する工程であって、かかる工程中における成形品前駆体の表面温度および中心温度のそれぞれが、特定の関係を満たす搬送工程2。(C)成形品前駆体を加熱して、その表面温度および中心温度のそれぞれを、成形温度域まで昇温する第二の加熱工程3b。
【解決手段】不連続強化繊維基材に熱可塑性樹脂を含浸してなる成形材料を、次の(A)〜(C)の工程を経て加熱して後、プレス成形する成形品の製造方法で(A)がオフラインにて実施されることを特徴とする。(A)その表面温度および中心温度のそれぞれが成形温度域となるまで昇温する第一の加熱工程3a。(B)成形品前駆体を第二の加熱工程(C)に搬送する工程であって、かかる工程中における成形品前駆体の表面温度および中心温度のそれぞれが、特定の関係を満たす搬送工程2。(C)成形品前駆体を加熱して、その表面温度および中心温度のそれぞれを、成形温度域まで昇温する第二の加熱工程3b。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品の製造方法およびこれにより得られる成形品に関するものである。詳細には、強化繊維基材に熱可塑性樹脂を含浸してなる成形材料に好適に用いられる成形品の製造方法およびこれにより得られる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属材料のプレス成形にて製造されていた自動車、電気・電子機器、家電製品などの各種部品・部材に代表される産業用部品が、強化繊維と熱可塑性樹脂からなる成形材料に代替されている。これは、該成形材料を用いた成形品が高い強度を有し、軽量である点にある。ここで、プレス成形とは、加工機械および型、工具等を用いて金属、プラスチック材料、セラミックス材料などに例示される各種材料に曲げ、剪断、圧縮等の変形を与え、成形、加工をおこなう方法である。また、プレス成形は、比較的均一な精度の製品を多量に生産できることが特徴であり、多量生産をおこなうために高速化、高精度化、品質安定化などの要求が高く、それらを実現するために作業性、成形性の向上に関する市場の要求は非常に高い。
【0003】
特に、従来の熱可塑性樹脂を用いた成形材料を用いた成形品の製造方法において、溶融温度以上に予備加熱して軟化状態にある該成形材料を雌雄一対からなる成形型間に供給し、次いで冷却しながらプレス成形して所望の形状の成形体を得るスタンピング成形は、成形サイクルが早く生産性に優れた方法である。かかる製造方法において、成形材料を予備加熱する工程は、成形サイクルの長短、成形品質の優劣を左右する重要なプロセスであって、上述した市場要求を満足するため様々な技術開発がなされている。なかでも、成形サイクルを向上させるために、成形材料を短時間に、均一に加熱する技術に関して、種々の加熱方法が提案されている。
【0004】
特許文献1では、熱膨張する繊維強化熱可塑性樹脂シートに対して、加圧と加熱を繰り返しおこなうことで、樹脂シートの略均一な加熱と、これによる成形品の優れた表面性状を満足する技術の開示がある。本技術は、樹脂シートが熱膨張することで低下する熱伝導率を、加圧により回復させることで樹脂シートへの効率的な伝熱をもたらすものである。しかしながら、かかる技術では、樹脂シートを加圧しない場合に比べて加熱時間を短縮できるが、熱膨張しない材料と比較して成形サイクルは長くなる。また、樹脂シートの厚みが増すに比例して加熱時間が長時間となることは避けられず、加熱方法の高速化において根本的な課題解決とはいえない。さらに、加圧工程を含むため、成形材料として一様な厚みを有するシート状体に限られるうえ、加圧用設備の導入が必要であり、適応できる成形材料の自由度、経済性の観点からも課題を残す。
【0005】
特許文献2では、繊維強化熱可塑性樹脂シートを複数に分けられた加熱領域により、段階的に温度を低下させながら加熱することで、樹脂シート表面が過加熱されて樹脂劣化が発生するのを抑制して、樹脂シートを略均一かつ短時間に加熱する技術の開示がある。しかしながら、本技術を熱膨張する材料に適用した場合、成形サイクルの長期化は避けられない。また、厚みが一様でない材料に対しては、表面と内部を略均一に加熱することが困難となる。
【0006】
特許文献3および4では、熱可塑性樹脂からなる成形材料について、特定の波長を有する赤外線を照射することで、成形品の内部まで略均一に加熱する技術が開示されている。しかしながら、本技術でもそれを熱膨張する材料に適用した場合、成形サイクルの長期化は避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−45905号公報
【特許文献2】特開昭63−302007号公報
【特許文献3】特開2007−320055号公報
【特許文献4】特開2003−236922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、熱膨張する繊維強化熱可塑性樹脂材料の予熱工程において、上記課題を解決して成形サイクルを短縮させ、かつ厚みが不均一な材料についても均一に加熱できる成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の構成からなる。すなわち、
(1)不連続強化繊維基材に熱可塑性樹脂を含浸してなる成形材料を、次の(A)〜(C)の工程を経て加熱して後、プレス成形する成形品の製造方法であって、(A)の工程がオフラインにて実施されることを特徴とする、成形品の製造方法。
(A)成形材料を加熱して、その表面温度(TA1)および中心温度(TA2)のそれぞれが成形温度域となるまで昇温する工程であって、成形材料の加熱前の厚み(t1)と加熱後の厚み(t2)との比(t2/t1)が3〜15の範囲内である第一の加熱工程。
(B)(A)の工程を経た成形材料または該成形材料を積層して形成されたプリフォームである、成形品前駆体を第二の加熱工程(C)に搬送する工程であって、かかる工程中における成形品前駆体の表面温度(TB1)および中心温度(TB2)のそれぞれが、(TB1≦TA1)、および(TB2≧TA2−10)の関係を満たす搬送工程。
(C)成形品前駆体を加熱して、その表面温度(TC1)および中心温度(TC2)のそれぞれを、成形温度域まで昇温する第二の加熱工程。
(2)前記プリフォームの肉厚は、加熱前における厚みとして算出した総厚みが3〜10mmの範囲内である、(1)に記載の成形品の製造方法。
(3)前記プリフォームが偏肉積層体である、(1)または(2)に記載の成形品の製造方法。
(4)前記成形材料は、強化繊維体積含有量(Vf)が10〜40%の範囲内である、81)〜(3)のいずれかに記載の成形品の製造方法。
(5)前記強化繊維基材を構成する強化繊維が繊維長1〜12mmの範囲内である、(1)〜(4)のいずれかに記載の成形品の製造方法。
(6)前記強化繊維基材を構成する強化繊維が炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、鉱物繊維から選択される少なくとも1種である、(1)〜(5)のいずれかに記載の成形品の製造方法。
(7)前記強化繊維基材を構成する強化繊維が炭素繊維である、(1)〜(5)のいずれかに記載の成形品の製造方法。
(8)前記熱可塑性樹脂がポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテルイミド樹脂から選択される少なくとも1種である、(1)〜(7)のいずれかに記載の成形品の製造方法。
(9)(1)〜(8)のいずれかに記載の製造方法にて得られる成形品が、自動車、電気電子機器、または、航空機用途に用いられる部品または部材である、成形品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の成形品の製造方法によれば、加熱中に熱膨張を生ずる成形材料のスタンピング成形において、成形サイクルを短縮することができる。また、厚肉および/または偏肉な成形材料であっても均一に加熱することができる。さらに、本発明における成形プロセスは優れた賦形性を示し、前記製造方法より得られる成形品は優れた表面外観を発現する。このことから、自動車、電気・電子機器、家電製品、または、航空機の用途に用いられる部品・部材に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】成形材料の温度測定方法の一例を示す簡略図
【図2】プリフォームの温度測定方法の一例を示す簡略図
【図3】プリフォームの温度測定方法の一例を示す簡略図
【図4】プリフォームの厚み測定方法の一例を示す簡略図
【図5】本発明の製造方法を実施する設備の一例を示す簡略図
【図6】実施例1における成形材料の温度履歴を示す簡略図
【図7】比較例2における成形材料温度履歴を示す簡略図
【図8】実施例6で得られるプリフォームを示す簡略図
【図9】実施例7で得られるプリフォームを示す簡略図
【図10】成形品の一例を示す簡略図
【図11】成形品の一例を示す簡略図
【図12】成形品の一例を示す簡略図
【発明を実施するための形態】
【0012】
不連続強化繊維基材に熱可塑性樹脂を含浸してなる成形材料を加熱してプレス成形する成形品の製造方法であって、加熱に際して少なくとも次の(A)〜(C)の工程を含み、(A)の工程がオフラインにて実施される。
(A)成形材料を加熱して、その表面温度(TA1)および中心温度(TA2)のそれぞれが成形温度(Tm)以上の温度域となるまで昇温する第一の加熱工程であって、成形材料の加熱前の厚み(t1)と加熱後の厚み(t2)との比(t2/t1)が3〜15の範囲内である。
(B)(A)の工程を経た成形材料または該成形材料を積層して形成されたプリフォームである、成形品前駆体を第二の加熱工程(C)に搬送する工程であって、かかる工程中における成形品前駆体の表面温度(TB1)および中心温度(TB2)のそれぞれが、TB1≦TA1、およびTB2≧TA2−10の関係を満たす搬送工程。
(C)成形品前駆体を加熱して、その表面温度(TC1)および中心温度(TC2)のそれぞれを、成形温度域まで昇温する第二の加熱工程。
【0013】
(A)の工程は、第一の加熱を行うための加熱装置にて実施される。加熱装置としては、遠赤外線ヒーター、近赤外線ヒーター、ハロゲンヒーター、誘電加熱、熱風加熱、などの公知の加熱装置を用いることができる。なかでも、遠赤外線ヒーターや熱風加熱が加熱状態のコントロールの容易さから好適である。本工程の予熱時間は(C)工程の予熱時間より一般に長くなるため、オフライン工程で行う必要がある。(B)工程を通して(C)工程に連続的に材料を供給して成形サイクルを短縮するためには、複数の成形材料を同時に加熱できる必要があり、通常(C)工程で用いる加熱装置よりも大型の加熱装置を使用する。ここで、オンラインとは、複数の工程が連続的に実施されるものであって、関連する工程が連動して機能する一貫した製造ラインである。オンラインで実施される工程については、全てが同じ時間軸上で実施され、各工程の総和が製造時間に相当する。一方、オフラインとは、選択される一部の工程が断続的に実施されるものであって、該工程は製造ラインから分断されて機能する。オフラインで実施される工程については、製造ライン中のその他の工程とは異なる時間軸上で実施され、各工程の総和とオフライン工程との差が製造時間に相当する。
【0014】
(A)工程に用いる成形材料としては、不連続強化繊維基材に熱可塑性樹脂を含浸してなるシート状物(以下、成形材ともいう)の単層体ないし積層体の何れであってもよく、目的とする成形品の厚肉に応じて、適宜所望の形態を選択することができる。なお、(A)工程に供する加熱前の成形材料の総厚みとしては3mm未満であることが好ましい。3mm未満の成形材料では、表面温度と中心温度を均一にする加熱工程の温度管理が容易になる。
【0015】
(A)の工程において、成形材料は、単層体ないし積層体の状態で、表面温度(TA1)および中心温度(TA2)のそれぞれを成形温度域まで加熱する必要がある。ここで、成形温度域とは、成形材料を構成する熱可塑性樹脂の融点(Tm)以上であって、かつ、成形材料が熱分解を生じる温度未満の温度範囲をいう。すなわち、成形材料が安定して流動性を示す温度域である。ここで、成形材料の表面温度(TA1)および中心温度(TA2)のそれぞれは、(A)の工程が完了する時点において計測される各点における温度であって、必ずしも同じ温度である必要はなく、上述した成形温度域内であれば、その上下関係や温度差について、特に限定されるものではない。ただし、(C)の工程に要する時間を短縮できる観点から、前記温度範囲内にて可能な限り高い温度にあることが好ましい。(TA1)、(TA2)としては、(A)の工程に供される成形材料の単層体ないし積層体群のうち、加熱前の最も厚みが大きく、最も投影面積の大きい単層体ないし積層体の表面温度を(TA1)、中心温度を(TA2)とする。なお、厚みと投影面積が異なる複数の成形材料が存在する場合は、厚みが最も大きい成形材料を選択し、厚みが全て同じで投影面積のみ異なる複数の成形材料が存在する場合は、投影面積が最も大きい成形材料を選択し、厚みも投影面積も同じ複数の成形材料が存在する場合は、そのうちの何れか1体を選択して、温度を取得する。
【0016】
成形材料を構成する熱可塑性樹脂の融点(Tm)としては、示差走査熱量測定(DSC:Differential Scanning Calorimetry)により求めることができる。昇温速度10℃/minの昇温条件にて得られた熱量カーブにおける融解ピークのピークトップをTmとして取り扱う。
【0017】
成形材料が熱分解を生じる温度としては、熱重量測定(TG:Thermo Gravimetry)により求めることができる。成形材料を真空乾燥機中にて12時間以上乾燥させた試料について、10℃/minの昇温条件にて得られた減量カーブにおける重量減少が1%に到達した温度を、成形材料が熱分解を生じる温度として取り扱う。
【0018】
(A)の工程に供する成形材料は、加熱前の厚み(t1)と加熱後の厚み(t2)との比(t2/t1)が、3〜15の範囲内である必要がある。好ましくは5〜10の範囲内である。(t2/t1)が3未満であると、成形材料の熱膨張が小さく、加熱時間を要さないため、成形サイクルの短縮効果が見られない。(t2/t1)が15を超えると、成形材料が膨張しすぎるために搬送プロセスが困難となったり、均一な予熱ができなかったりする。
【0019】
ここでいう(t2/t1)とは、成形材料に生じる熱膨張を示す値であって、一般的にこの熱膨張をスプリングバックと称する。スプリングバックは、成形材料中に圧縮されて存在する強化繊維基材が、マトリックス樹脂である熱可塑性樹脂の可塑化および/または溶融に伴い、弾性回復して嵩高く膨張する現象である。かかる現象によって、成形材料の密度は低下し、成形材料中に緻密な気泡や空隙が形成された状態となる。スプリングバックした材料は、材料中に気泡を多く含有するため断熱性が高く、加熱工程において均一加熱が達成されるまでの時間が大幅に延長される。従って、スプリングバックする成形材料を用いる場合、オンラインでの加熱工程を含む成形プロセスでは、成形サイクルが著しく長くなる。一方で一度昇温した材料については、搬送工程等で外気にさらされた場合でも、成形材料中央の温度は保持される。従って、本発明では、スプリングバックする成形材料をオフラインで加熱しておき、オンラインの成形プロセスに搬送することで、成形サイクルが短縮され、生産性を向上させることができるという考えに至った。
【0020】
すなわち、本発明の製造方法は、(A)の工程において成形材料の表面温度(TA1)および中心温度(TA2)を成形温度域まで加熱して、成形材料のスプリングバックを発現させることにより、成形材料の中心温度を高い水準に保持させたまま、(B)および(C)の後次工程を迎えることに本質を持ち、これによって、成形サイクルの短縮を達成するものである。
【0021】
(B)の工程は、成形品前駆体を後次工程に搬送するための、搬送装置によって実施される。(B)の工程にて用いられる搬送装置としては、ベルトコンベア、稼働式フレーム、ロボットアーム、などの公知の搬送装置を適用することができる。また、搬送装置としては、搬送経路上において温度コントロール可能な温調設備や空間設備を設けてもよく、設けなくともよい。成形品前駆体は、(A)の工程を経た成形材料そのもの出会っても良いし、その成形材料を積層して形成されたプリフォームであっても良い。
【0022】
(B)の工程について、工程中における成形品前駆体の表面温度(TB1)および中心温度(TB2)のそれぞれが、(TB1≦TA1)、および(TB2≧TA2−10)の関係を満たす必要がある。(TB1)、(TB2)としては、成形品前駆体が成形材料である場合には、前記した(TA1)、(TA2)の測定と同様にして行えばよく、成形品前駆体が(A)の工程を経た成形材料を積層して得られるプリフォームである場合には、加熱前の厚みが最も大きい領域の中心にて(TB1)、(TB2)のそれぞれを取得する。すなわち、プリフォームを形成する場合においては、(TA1)、(TA2)と(TB1)、(TB2)とが、異なる点にて取得される。ここで、(TB1)および(TB2)のそれぞれは、後次工程である(C)の工程の開始位置に成形品前駆体が到達した時点、すなわち、成形品前駆体の搬送が完了した時点の温度である。本工程における成形品前駆体の表面温度(TB1)の低下は、本プロセスにおいて重大な問題ではない。すなわち、熱で膨張する成形材料においても、成形品前駆体の表面部分は容易に加熱可能であり、表面温度(TB1)の低下は、後次工程である(C)の工程において成形品前駆体の表面温度と中心温度とを略均一に加熱するうえで、ほとんど影響しないからである。なお、成形品前駆体の表面温度(TB1)の下限値としては、特に制限はないが、現実的な範囲として雰囲気温度以上であればよく、より(TA1)に近い温度であるほど、後次工程の所要時間を短くできることから好ましい。
【0023】
また、成形品前駆体の中心温度(TB2)が(TB2≧TA2−10)の関係を満たし、好ましくは(TB2≧TA2)の関係を満たす。(TB2)が(TB2<TA2−10)を満たすようになると、成形品前駆体中心部分の再加熱を行わねばならず、スプリングバックした材料においては加熱時間に長時間を要するため、成形サイクルが長くなる。中心温度(TB2)がかかる関係を満足することで、後次工程の(C)の工程において実質的に成形品前駆体の表面近傍のみを加熱するだけでよいため、短時間での加熱が可能となり、成形サイクルを短縮できる。なお、TB2の上限値としては、前記(A)の工程と同様に、成形材料が熱分解を生じる温度未満であればよい。なお、(TB2>TA2)となる場合として、加熱を終了した後も一時的に成形品前駆体の中心が昇温する現象が確認されている。これは、(A)の工程において付与されたエネルギーが成形品前駆体の内部にて平衡状態を形成するためであって、加熱とのタイムラグが生じているものと推測される。
【0024】
(C)の工程は、第二の加熱をおこなうための加熱装置にて実施される。かかる加熱装置としては、(A)の工程にて用いられる加熱装置と同様に、一般的に用いられる加熱装置を適用可能であって、(A)の工程にて用いる加熱と同種である必要はない。
【0025】
(C)の工程は、成形品前駆体の表面温度(TC1)および中心温度(TC2)のそれぞれを、成形温度域まで加熱昇温する工程である。
【0026】
成形品前駆体の表面温度(TC1)および中心温度(TC2)は、後次工程である(D)〜(F)の成形工程において、成形型への賦形性や成形品の形状品位、外観品位を決定する重要な温度であって、少なくとも成形材料を構成する熱可塑性樹脂の融点(Tm)以上である。好ましくは、成形材料が熱分解を生じる温度未満において可能な限り高い温度である。成形品前駆体の表面温度(TC1)および中心温度(TC2)の上限値としては、前記(A)の工程と同様に成形材料が熱分解を生じる温度未満であればよい。
【0027】
本工程における第二の加熱は、上述したとおり実質的に成形品前駆体の表面近傍についておこなわれるものである。また、スプリングバックにより成形材料の表面積が拡大していることで、外部から付与されるエネルギーを吸収しやすい態様にあるため、成形材料の加熱において不利であるスプリングバックが、本工程においては優位に作用する。これらの相乗効果により、(C)の工程における第二の加熱は、極めて短時間に成形品前駆体の表面および中心を略均一なものとできる。
【0028】
また、本発明においては、成形材料のスプリングバックによる保温効果を効果的に活用しており、(B)の搬送工程における成形品前駆体中央部の温度低下が小さいため、(A)の工程をオフラインで実施する事ができる。これにより、オンラインの加熱時間を大幅に短縮する事が可能となり、成形サイクルの短縮を実現している。
【0029】
また、本発明では、前記したとおり、(A)の工程を経た成形材料を積層して、単一のプリフォームとして形成した成形品前駆体を前記(B)の搬送工程に供することができる。かかる態様は、肉厚なプリフォームにおいて好適であって、例えば、成形材料を流動させて成形型を充填させる場合、広面積で一様に肉厚な成形品を成形する場合に適用される。プリフォームの形成は、前記(A)の工程がオフラインにて実施されるために実現可能である。一貫したオンラインでの加熱方法においては、工程途中においてプリフォームを形成することができないため、成形型に投入する直前において、プリフォームを形成する場合がほとんどである。この場合、プリフォームを形成する間に成形材料の温度低下が起こり、成形性の低下や成形品の外観不良を引き起こす。一方で本発明では、プリフォーム形成後にも加熱工程(C)があるため、成形品の品位を良好に保つ事ができる。また、スプリングバックした成形材料の保温性が高いために、プリフォームにかかる時間での成形材料の温度低下を抑える事ができ、成形サイクルにおける優位性も大きくなる。プリフォームを形成した状態で加熱工程を通過させる方法も考えられるが、特に肉厚なプリフォームの場合、プリフォームの中心温度が昇温する以前に表面の熱可塑性樹脂が熱分解を生じたり、プリフォームの中心温度が昇温するのに極めて長時間を要したりするため、成形サイクルが長くなる。
【0030】
プリフォームの肉厚としては、加熱前における仮想的な厚みとして算出した総厚みが3〜10mmの範囲内であることが好ましい。加熱前における仮想的な厚みとして算出した総厚みとは、加熱前、すなわち(A)の工程に供する前の成形材料を用いて、プリフォームと同様の積層構成にした状態で、その最も厚みの大きい箇所の厚みを言う。かかる総厚みの範囲内であると、本発明による高速化の効果をとりわけ引き出すことができる。また、単一の加熱工程により成形品前駆体の表面と中心とを略均一にすることが困難な場合でも、本態様を用いることで容易に略均一な加熱を達成することが可能となる。
【0031】
なお、本発明においては、肉厚なプリフォームとして(B)の工程に供しても、成形サイクルの所要時間が長時間となる懸念はほとんどない。上述した通り、第一の加熱工程はオフラインであって、成形サイクルから外す事ができる。また搬送工程での成形品前駆体中央の温度低下がスプリングバックにより抑えられるため、第二の加熱工程における実質的な加熱は成形品前駆体の表面近傍についておこなわれる。そのため肉厚が大きくなっても、加熱対象である領域に大きな変化がなく、加熱時間への影響は小さい。一般に、成形材料の肉厚が増すにつれ成形サイクルが長くなるが、本発明での加熱方法においては、その影響は極めて小さい。
【0032】
このことは、プリフォームの自由度を広くすることにも繋がり、平面方向に一様な厚みを持った積層体は勿論であるが、平面方向で厚みが異なる偏肉積層体の加熱も可能とする。偏肉積層体が好適な場合としては、局所的に肉厚な成形品を成形する場合、リブ構造を有する成形品を成形する場合、などが挙げられる。偏肉積層体の加熱は、厚みが異なる部分において温度ムラが生じ易く、成形品前駆体の表面と中心とを平面方向で一様に略均一に加熱することが困難とされるが、本発明においては上述した理由から、偏肉の影響を受けずに略均一な加熱を実現することができる。
【0033】
ここで、本発明に用いられる成形材料について説明する。前記成形材料は、強化繊維基材と熱可塑性樹脂とから構成され、強化繊維基材にマトリックス樹脂である熱可塑性樹脂が含浸した態様をとる。
【0034】
成形材料に要求される特性は、成形材料より製造される成形品に同様であって、優れた機械特性と軽量化効果、さらに複雑な形状を形成することができる成形性(賦形性、流動性)が必要となる。そのため、成形材料を構成する強化繊維基材および熱可塑性樹脂においても、上述した要求特性を加味して選択される。
【0035】
強化繊維基材に関して、強化繊維基材を構成する強化繊維としては、高強度および/または高弾性率な強化繊維を好適に用いることができる。例示すると、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、鉱物繊維、セラミックス繊維、金属繊維、有機繊維、などであって、成形材料ないし成形品に要求される特性に応じて、これらの少なくとも1種を選択的に用いればよい。中でも、炭素繊維であると、繊維の剛性が高いことから強化繊維基材の弾性回復による(A)の工程におけるスプリングバックの発現性がよく、本発明で用いる成形材料としてとりわけ好適である。
【0036】
また、強化繊維は、スプリングバックが発現する事で本発明の特徴が発揮される事から、不連続強化繊維である必要がある。繊維長については、1〜12mmの範囲内であることが好ましい。繊維長がこの範囲であると、(A)の工程でスプリングバックが適当に発現し、成形サイクルの短縮効果とプロセス性において、良好な結果が得られる。なお、ここでいう繊維長とは、数平均繊維長であって、無作為に抽出される400本の単繊維の繊維長を平均して得たものである。
【0037】
これら、強化繊維から得られる強化繊維基材の形態としては、基材として取り扱えるものであれば特に限定されないが、(A)の工程でスプリングバックを発現する必要性があることから、マトリックス樹脂が含浸されていない状態で比較的嵩高な材料でなければならない。例示すると、不織布シート、チョップドストランドマット、フェルト、などである。なかでも、不織布シートであると種々の強化繊維を適用することが可能であり、製造できる基材設計の自由度も広い。
【0038】
不連続強化繊維基材に含浸される熱可塑性樹脂は、強化繊維基材に含浸して用いることができれば、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、液晶ポリエステル等のポリエステルや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン等のポリオレフィンや、ポリオキシメチレン、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルニトリル、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、液晶ポリマーなどの結晶性樹脂、スチレン系樹脂の他や、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンエーテル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリアリレートなどの非晶性樹脂、その他、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、更にポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素系、およびアクリロニトリル系等の熱可塑エラストマー等や、これらの共重合体および変性体等から選ばれる熱可塑性樹脂が挙げられ、これらの少なくとも1種を熱可塑性樹脂として採用することができる。なかでも、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテルイミド樹脂から選択される少なくとも1種が、成形加工性および/または経済性の観点から好ましく用いられる。
【0039】
(A)の工程に供される成形材料は、その強化繊維体積含有量(Vf)として、10〜40%の範囲内であることが好ましい。強化繊維体積含有量(Vf)が、かかる範囲内であると、強化繊維による補強効果と成形性とのバランスに優れるため、本発明の成形品が目的とする用途において好適に用いることができる。Vfは、成形品の力学特性、軽量性、形状、表面外観等の要求特性から、適宜選択することができる。
本発明の成形品の製造方法は、成形材料を上述した(A)〜(C)の工程を経て加熱した後、プレス成形を実施する。
【0040】
プレス成形としては、具体的には、成形品前駆体を第二の加熱工程から圧縮成形機へ搬送し、解放された成形型の下型上へ配置する工程(配置工程)、前記成形型を型締めして成形品前駆体に圧力を付与し、該圧力を保持した状態にて成形品前駆体を冷却固化することで成形品を形成させる工程(加圧工程)、前記成形型を解放し、冷却固化された成形品を取り出す工程(脱型工程)、の3つの工程を含んでなるプレス成形である。
【0041】
プレス成形とは、加工機械および型、工具等を用いて金属、プラスチック材料、セラミックス材料などに例示される各種材料に曲げ、剪断、圧縮等の変形を与えて成形体を得る方法であるが、その成形形態として絞り、深絞り、フランジ、コールゲート、エッジカーリング、型打ちなどが例示される。また、プレス成形の方法としては、金型を用いて成形をおこなう金型プレス法、ラバープレス法(静水圧成形法)などが例示される。本発明においては、上記プレス成形方法のなかでも、成形圧力、温度の自由度の観点から、圧縮成形機と金属製の成形型を用いて成形をおこなう、金型プレス法を通常採用する。
【0042】
金型プレス方法としては、予め成形型を成形品前駆体の成形温度以上に昇温しておき、その加熱された成形型内に成形品前駆体を配置し、型締めにより加圧し、次いでその状態を維持しながら成形型を冷却し成形品を得る方法、いわゆるホットプレス法がある。このホットプレス方法によれば、成形品の賦形性や表面外観が優れることは広く知られており、理想的な成形方法といえる。しかしながら、生産性を考えた場合、成形サイクルが長時間であるため、最適な方法とは言い難い。
【0043】
一方、成形温度以上に加熱された成形品前駆体を、予め成形品前駆体の固化温度未満に保持された成形型に配置し、型締めにより加圧し、次いでその状態を維持しながら成形品前駆体または成形型および成形品前駆体を冷却し成形品を得る方法、いわゆるコールドプレス法、ヒートアンドクール法がある。かかる方法によれば、短時間のサイクルで成形品を得ることができるため生産性に優れるほか、成形品の賦形性や表面外観についても前記ホットプレス法と比較して遜色ないものが得られる。よって、本発明では、プレス成形として後者の方法を採用する。
【0044】
まず、上述した(C)の工程に次いで、配置工程が実施される。かかる配置工程は、成形品前駆体を後次工程に搬送するための搬送装置によって実施される。搬送装置としては、上述した(B)の工程と同様に公知の搬送装置を適用可能であって、生産性を鑑みた場合、(B)の工程から一貫して同じ搬送装置を共有するとよい。
【0045】
また、第二の加熱工程をおこなう加熱装置と圧縮成形機との距離を近づけておくことが好ましく、かかる態様とすることで、搬送中における成形品前駆体の温度低下が抑制される。成形品前駆体の温度低下が著しくなると、成形品の外観品位が低下したり、成形型への賦形性が低下したり、する場合がある。
【0046】
また、(C)の工程の完了から本工程の完了までの所要時間としては、15秒以下であることが好ましく、さらに好ましくは10秒以下、とりわけ好ましくは5秒以下であって、同上に成形品前駆体の温度低下を抑制できる観点からである。
【0047】
成形型は成形品前駆体が搬送される直前に解放するとよく、上型と下型の温度差を低減するうえで効果的である。上型と下型の温度差が大きければ、成形品に反りや撓みを発生させる原因となり、品位の低下に繋がる。
【0048】
上述の配置工程に次いで、前記成形型を型締めして成形品前駆体に圧力を付与し、該圧力を保持した状態にて成形品前駆体を冷却固化することで成形品を形成させる工程(加圧工程)が実施される。
【0049】
成形型を型締めする時間としては、前記配置工程において下型上に成形品前駆体が配置されてから、10秒以下であることが好ましく、さらに好ましくは5秒以下である。これは、成形品前駆体と成形型との間での熱交換による成形品前駆体の温度低下を可能な限り、小さく留めるためである。
【0050】
また、成形品前駆体に付与する圧力としては、10〜50MPaの範囲内であることが成形品前駆体の賦形のし易さや、成形体の厚み制御のしやすさの観点から好ましい。とりわけ、15MPa〜30MPaの範囲内がプレス成形機の設備コストの観点から好ましい。成形型の温度としては、成形品前駆体の固化温度より20℃〜100℃低い温度の範囲内であることが可塑化した成形品前駆体の賦形のし易さや、成形品の表面外観の観点から好ましい。例示すると、マトリックス樹脂としてポリアミド6樹脂を用いる場合は、120℃〜160℃の範囲内、ポリプロピレン樹脂を用いる場合は80℃〜120℃の範囲内である。
【0051】
上述の加圧工程に次いで、前記成形型を解放し、冷却固化された成形品を取り出す工程(脱型工程)が実施される。
【0052】
成形品の取り出しに際しては、人手にておこなうことは勿論、補助的に成形型に備え付けられるエジェクタを利用してもよい。前記エジェクタとしては、圧縮空気をブローする方式、機械的な構造部材により突き上げる方式、などが好適に用いられる。
【0053】
本発明の製造方法より得られた成形品は、種々の用途に展開できる。特にインストルメントパネル、ドアビーム、アンダーカバー、ランプハウジング、ペダルハウジング、ラジエータサポート、スペアタイヤカバー、フロントエンドなどの各種モジュール等の自動車・二輪車用部品、ノートパソコン、携帯電話、デジタルスチルカメラ、PDA、プラズマディスプレーなどの電気・電子部品、電話、ファクシミリ、VTR、コピー機、テレビ、電子レンジ、音響機器、トイレタリー用品、レーザーディスク、冷蔵庫、エアコンなどの家庭・事務電気製品部品、土木・建築用部品、航空機用部品等の各種用途に用いることができ、なかでも電子機器部品、自動車部品により好ましく用いられる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例および比較例に用いた材料は以下のとおりである。
【0055】
(参考例1)
本実施例で用いた成形材料を構成する強化繊維Aは以下のとおりである。
アクリロニトリル(AN)99.4モル%とメタクリル酸0.6モル%からなる共重合体を用いて、乾湿式紡糸方法により単繊維デニール1d、フィラメント数12,000のアクリル系繊維束を得た。得られたアクリル系繊維束を240〜280℃の温度の空気中で、延伸比1.05で加熱し、耐炎化繊維に転換し、次いで窒素雰囲気中300〜900℃の温度領域での昇温速度を200℃/分とし10%の延伸を行った後、1,300℃の温度まで昇温し焼成した。この炭素繊維束に硫酸を電解質とした水溶液で、炭素繊維1gあたり3クーロンの電解表面処理を行い、さらに浸漬法によりサイジング剤を付与し、120℃の温度の加熱空気中で乾燥しPAN系炭素繊維束を得た。さらに、得られたPAN系炭素繊維束を、カートリッジカッターで6.4mmにカットし、チョップドPAN系炭素繊維である強化繊維Aを得た。
総フィラメント数:12,000本
単繊維直径:7μm
単位長さ当たりの質量:0.8g/m
比重:1.8g/cm3
引張強度:4.2GPa
引張弾性率:230GPa
サイジング種類:ポリオキシエチレンオレイルエーテル
サイジング付着量:1.5質量%。
数平均繊維長:6.4mm。
【0056】
[引張強度および引張弾性率の測定]
日本工業規格(JIS)−R−7601(2006)「樹脂含浸ストランド試験法」に記載された手法により、求めた。ただし、測定する炭素繊維の樹脂含浸ストランドは、“BAKELITE”(登録商標)ERL4221(100質量部)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(3質量部)/アセトン(4質量部)を、炭素繊維に含浸させ、130℃、30分で硬化させて形成した。また、ストランドの測定本数は、6本とし、各測定結果の平均値を、その炭素繊維の引張強度、引張弾性率とした。
【0057】
[サイジング付着量の測定]
試料として、サイジング剤が付着している炭素繊維約5gを採取し、耐熱性の容器に投入した。次にこの容器を120℃で3時間乾燥した。吸湿しないようにデシケーター中で注意しながら室温まで冷却後、秤量した質量をW1(g)とした。続いて、容器ごと、窒素雰囲気中で、450℃で15分間加熱後、同様にデシケーター中で吸湿しないように注意しながら室温まで冷却後、秤量した質量をW2(g)とした。以上の処理を経て、炭素繊維へのサイジング剤の付着量を次の式により求めた。
付着量(質量%)=100×{(W1−W2)/W2}。
なお、測定は3回行い、その平均値を付着量として採用した。
【0058】
[強化繊維の数平均繊維長の測定]
所定長にカットした強化繊維を水系分散液中に投入し、単繊維状に分散したのち、濾過して強化繊維を分離した。分離された強化繊維から無作為に400本の単繊維を抽出し、光学顕微鏡にてその長さを10μm単位まで測定し、その平均値を数平均繊維長として採用した。
【0059】
(参考例2)
本比較例で用いた成形材料を構成する強化繊維Bは以下のとおりである。
【0060】
PAN系炭素繊維束の製造方法は参考例1と同様であって、付与するサイジング剤の種類および付着量を変更して、連続繊維束状の強化繊維Bを得た。
総フィラメント数:12,000本
単繊維直径:7μm
単位長さ当たりの質量:0.8g/m
比重:1.8g/cm3
引張強度:4.2GPa
引張弾性率:230GPa
サイジング種類:ポリグリセリンポリグリシジルエーテル
サイジング付着量:0.6質量%。
【0061】
(参考例3)
本実施例で用いた成形材料を構成する熱可塑性樹脂は以下のとおりである。
【0062】
プライムポリマー(株)製“プライムポリプロ(登録商標)”90重量%、三井化学(株)製“アドマー(登録商標)”10重量%をドライブレンドしたのち、二軸押出機を用いて230℃の温度で混練し、ペレット状の酸変性ポリプロピレン樹脂(比重:0.91、融点:160℃)(以下、PPペレットと称す)を得た。かかるポリプロピレン樹脂を、幅700mm、厚み0.22mm、目付200g/m2のフィルムに加工し、ロール状に券回された酸変性ポリプロピレンフィルム(以下、PPフィルムAと称す)を得た。また上述と同様にして、ポリプロピレン樹脂を、幅700mm、厚み0.08mm、目付75g/m2のフィルムに加工し、ロール状に券回された酸変性ポリプロピレンフィルム(以下、PPフィルムBと称す)を得た。
【0063】
(参考例4)
参考例1で得られた強化繊維Aを用いて、強化繊維基材Aを作製した。強化繊維基材Aの作製は、分散槽、抄紙槽、乾燥機および巻取機のそれぞれをオンラインにて備える抄造設備にて、以下のとおりに行った。
【0064】
水と界面活性剤(ナカライテクス(株)製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(商品名))とからなる濃度0.1質量%の分散媒体(供給速度:375kg/分)およびチョップドCF(供給速度0.015kg/分)を分散槽に連続的に供給し、分散槽に具備された攪拌機にて攪拌して、固形成分濃度0.02質量%のスラリーを連続調整した。調整されたスラリーは送液管を通じて抄紙槽に供給し、抄紙槽に設けた抄紙面にて分散媒体を吸引除去して、メッシュシート上に抄紙シートを得た。得られた抄紙シートはコンベア上に載置されて連続的に後次工程に搬送し、1.13kg/分の塗布速度にてバインダー(アクリル系重合体0.4質量%を含むエマルジョン水溶液)を塗布した。
さらに、コンベアにて130℃の乾燥機を通過して、巻取機にて引取速度3/分にて券回し、ロール状の強化繊維基材A(幅650mm、目付100g/m2)を得た。
【0065】
(参考例5)
参考例2で得られた強化繊維Bを用いて、強化繊維基材Bを作製した。強化繊維基材Bの作製は、片レピア織機を用いて以下のとおりに行った。
強化繊維Bを並行に引き揃え、1.25本/cmの密度で一方向に配列してシート状の強化繊維糸条群を形成した。前記強化繊維糸条群に対し直交する方向に、強化繊維Bを1.25本/cmの密度で挿入し、強化繊維B同士を互いに交錯させて、平織組織の二方向性強化繊維織物、すなわち強化繊維基材Bを得た。得られた強化繊維基材Bはロール状に券回され、幅650mm、目付200g/m2であった。
【0066】
(参考例6)
参考例3で得たPPフィルムAおよび参考例4で得た強化繊維基材Aを用いて、成形材Aを以下のとおり作製した。
【0067】
PPフィルムAおよび強化繊維基材Aのそれぞれを巻出機に配置し、[PPフィルムA/強化繊維基材A/PPフィルムA/強化繊維基材A/強化繊維基材A/PPフィルムA/強化繊維基材A/PPフィルムA]の積層構成となるよう引き揃えてダブルベルトプレス(以下、DBPと称す)へ連続的に供給した。DBPにて、温度210℃、圧力3MPaを付与し抄紙基材にPPフィルムを溶融含浸させたのち、引き続いて圧力3MPaを保持したまま温度80℃にて冷却し、成形材Aを連続して得た。このときのライン速度は2m/分であった。得られた成形材Aは強化繊維体積含有量(Vf)20%であって、DBPに併設されたシャーリングカッターにてカットし、長さ1000mm、有効幅600mm、厚さ1.11mmのシート状体とした。
【0068】
(参考例7)
積層構成を[PPフィルムA/強化繊維基材A/PPフィルムA]とした以外は、参考例6と同様にして成形材B前駆体を得た。得られた成形材B前駆体は強化繊維体積含有量(Vf)10%であって、有効幅600mm、厚さ0.28mmのロール状体であった。さらに、得られた成形材B前駆体を4枚積層してDBPに供給した以外は、参考例6と同様にして成形材Bを得た。得られた成形材Bは強化繊維体積含有量(Vf)10%であって、長さ1000mm、有効幅600mm、厚さ1.11mmのシート状体であった。
【0069】
(参考例8)
積層構成を[PPフィルムB/強化繊維基材A/強化繊維基材A/PPフィルムB]とした以外は、参考例6と同様にして成形材C前駆体を得た。得られた成形材C前駆体は強化繊維体積含有量(Vf)40%であって、有効幅600mm、厚さ0.27mmのロール状体であった。さらに、得られた成形材C前駆体を4枚積層してDBPに供給した以外は、参考例6と同様にして成形材Cを得た。得られた成形材Cは強化繊維体積含有量(Vf)40%であって、長さ1000mm、有効幅600mm、厚さ1.11mmのシート状体であった。
【0070】
(参考例9)
参考例3で得たPPフィルムBおよび参考例5で得た強化繊維基材Bを用いて、成形材Dを作製した。
【0071】
積層構成を[強化繊維基材B/PPフィルムB/強化繊維基材B]として、油圧式プレス機にセットされた平板型上に配置し、平板型温度210℃にて圧力20MPaを付与してプレス成形した。引き続いて、圧力を保持した状態にて、金型を80℃まで冷却したのち、成形された繊維強化樹脂を取り出して、成形材D前駆体を得た。得られた成形材D前駆体は、繊維体積含有量(Vf)57%であって、長さ300mm、幅300mm、厚さ0.19mmの面板状であった。さらに、得られた成形材D前駆体を6枚積層した点、圧力5MPaにした点、以外は前述同様にプレス成形して成形材Dを得た。得られた成形材Dは強化繊維体積含有量(Vf)57%であって、長さ300mm、有効幅300mm、厚さ1.14mmのシート状体であった。
【0072】
(参考例10)
参考例3で得たPPペレットおよび参考例2で得た強化繊維Bを用いて、成形材Eを以下のとおり作製した。
【0073】
PPペレット66.7重量%、強化繊維B33.3重量%の割合で二軸押出機へ供給し、230℃の温度で混練して、ペレット状の成形材E前駆体を得た。得られた強化繊維樹脂を、油圧式プレス機にセットされた金型内に配置し、金型温度210℃にて圧力5MPaを付与してプレス成形した。引き続いて、圧力を保持した状態にて、金型を80℃まで冷却したのち、成形された強化繊維樹脂を取り出して、成形材Eを得た。得られた成形材料Eは繊維体積含有量(Vf)20%であって、長さ300mm、幅300mm、厚さ1.11mmの面板状であった。
【0074】
[成形材料の温度測定]
(A)〜(C)の工程における、成形材料の温度測定は以下の条件で測定した。
【0075】
図1に示したとおり、成形材料(単層体)1aの中心点を表面温度(TA1、TB1、TC1)とし、成形材料1aの厚み方向の中心点を中心温度(TA2、TB2、TC2)とした。計測はKタイプの熱電対を用い、キーエンス社製データロガー“NR600”を用い、1点/1秒の収集周期にて温度データを取得した。K熱電対は対象となる成形材料に接触させて設置し、外部温度を拾わない様に耐熱テープにて成形材料への固定を兼ねて被覆した。
【0076】
なお、(B)の工程に供する成形品前駆体としてプリフォーム1b、1cを用いる場合は、図2および図3に示したとおりとした。(A)の工程に供する成形材料1b′、1c′群のうち、最も厚みが大きく、最も投影面積の大きい、積層体の中心点を表面温度(TA1)、厚み方向の中心点を中心温度(TA2)として設定した。さらに、プリフォーム1bを形成した際の中心点、または、プリフォーム1bの最も厚い部分を基準とした中心点を表面温度(TB1、TC1)、厚み方向の中心点を中心温度(TB2、TC2)として設定した。
【0077】
[成形材料の厚み測定]
(A)の工程における、成形材料の(t1)、(t2)は以下の様に測定した。
【0078】
加熱前の成形材料の厚みをマイクロメータにて測定して(t1)とした。(t1)と同様に、成形材料の加熱後の厚み(t2)を測定し、得られたそれぞれの値から加熱前後における厚みの比(t2/t1)を算出した。
【0079】
なお、加熱後の成形材料については、加熱された成形材料を加熱環境下から取り出し、室温にて無荷重の状態で十分に冷却したのち、それぞれの値を測定して得た。
【0080】
(B)の工程に供する成形品前駆体として、(A)の工程において各々に加熱された成形材料の単層体ないし積層体を、さらに積層して、プリフォームとして形成する場合は、図4に示すとおり、加熱前の成形材料の厚みを加熱後に形成するプリフォームと同様の構成にした状態にて、最も厚みの大きい点を測定して(t3)とした。
【0081】
[成形サイクル時間の計算(TC)]
(A)〜(C)の工程に要した時間およびプレス成形に要した時間の和を、成形サイクル時間(TC)として以下のとおり算出した。
加熱工程時間は、(A)工程所要時間(Ta)、(B)工程所要時間(Tb)、(C)工程所要時間(Tc)およびプレス成形時間(TM)の和にて計算した。なお、(B)工程においては、(A)工程を実施しない場合の搬送時間が20秒であって、これを基準として、(A)工程を実施した場合は+10秒とした。
【0082】
一方、プレス成形工程は、実施例および比較例のそれぞれによって格差はなく、一定のプログラムにて運転した。工程の所要時間は次の通りであって、配置工程の所要時間は5秒、加圧工程の所要時間は70秒、脱型工程の所要時間は10秒とした。さらに、脱型工程の後、(A)工程ないし(B)工程の開始位置まで原点復帰する時間として10秒を要した。上述したそれぞれの所要時間の和を成形工程所要時間(TM)として算出した。
ここで、成形サイクル時間の時短効果について説明する。成形サイクル時間の時短効果とは、(A)工程をオフラインにて実施したことによる時間の短縮効果であって、(A)工程所要時間(Ta)と(C)工程所要時間(Tc)の差にて算出した。
【0083】
(実施例1)
本実施例は、図5に示す設備を用いて行った。
【0084】
成形材Aを長さ300mm、幅300mmに切り出した単層体を、ヒーター温度210℃に設定された遠赤外線ヒーター式オーブン3aに投入して、成形材Aの表面温度および中心温度の何れもが200℃に到達するまで加熱した((A)工程)。次いで、遠赤外線ヒーター式オーブン3aから取り出した成形材Aの単層体を自動搬送装置2にセットし、遠赤外線ヒーター式オーブン3bに搬送した、この間の所要時間は20秒であった((B)工程)。引き続いて、成形材Aの単層体をヒーター温度210℃に設定された遠赤外線ヒーター式オーブン3bにて、成形材Aの表面温度および中心温度の何れもが200℃に到達するまで加熱した((C)工程)。この間、成形材Aに熱電対を常時セットしておき、温度履歴の測定を行った。本実施例における成形材Aの温度履歴を図6に示す。図6において、(A)の工程にて、成形材Aの表面温度および中心温度の何れもが200℃に到達した時点を表面温度(TA1)、中心温度(TA2)とし、(B)の工程にて、成形材Aの搬送が終了した時点を表面温度(TB1)、中心温度(TB2)とし、(C)の工程にて、成形材Aの表面温度および中心温度の何れもが200℃に到達した時点を表面温度(TC1)、中心温度(TC2)とした。
【0085】
また、(t1)および(t2)の測定も実施した。なお、(t2)については、(A)〜(C)の工程中に測定することができないため、本実施例と同様に(A)工程のみを別途実施し、加熱後の成形材Aを再現して、(t2)を測定した。
【0086】
さらに、加熱した成形材Aを、(B)工程にて用いた自動搬送装置2にて圧縮成形機10に搬送し、解放された状態にて待機された成形型11の下型上に配置した。この時の金型温度は120℃であった。次いで、成形型11を型締めして15MPaの圧力を付与、圧力を保持した状態にて60秒間保持して成形材料を冷却固化し、得られた成形品を取り出した。この時、得られた成形品12の形状は図10に示したとおりであって、立ち壁13と曲率を有する天板14を有する面板形状であった。次いで、(B)工程の開始位置まで自動搬送装置2を原点復帰させた。本実施例の結果を表1に示した。
【0087】
(実施例2)
成形材Aを成形材Bとした以外は、実施例1と同様にして成形品を得た。本実施例の結果を表1に示した。
【0088】
(実施例3)
成形材Aを成形材Cとした以外は、実施例1と同様にして成形品を得た。本実施例の結果を表1に示した。
【0089】
(比較例1)
(A)工程を実施しなかった以外は、実施例1と同様にして成形品を得た。本比較例の結果を表1に示した。
【0090】
(比較例2)
成形材Aを成形材Dとした以外は、実施例1と同様にして成形品を得た。本比較例における成形材Dの温度履歴を図7に示した。本比較例の結果を表1に示した。
【0091】
(比較例3)
成形材Aを成形材Eとした以外は、実施例1と同様にして成形品を得た。本比較例の結果を表1に示した。
【0092】
(実施例4)
成形材Aを長さ300mm、幅300mmに切り出した単層体の4枚を積層して得た積層体を成形材料として形成して、遠赤外線ヒーター式オーブン3aに投入した以外は、実施例1と同様にして成形品を得た。本実施例の結果を表2に示した。
【0093】
(実施例5)
成形材Aを長さ300mm、幅300mmに切り出した単層体の6枚をそれぞれ遠赤外線ヒーター式オーブン3aに投入して、成形材Aの表面温度および中心温度の何れもが200℃に到達するまで加熱した((A)工程)。次いで、遠赤外線ヒーター式オーブン3aから取り出した成形材Aの単層体6枚を積層してプリフォームを形成し、自動搬送装置2にセットし、遠赤外線ヒーター式オーブン3bに搬送した。上述した以外は、実施例1と同様にして成形品を得た。本実施例の結果を表2に示した。
【0094】
(比較例4)
(A)工程を実施しなかった以外は、実施例4と同様にして成形品を得た。本比較例の結果を表2に示した。
【0095】
(比較例5)
(A)工程を実施しなかった点、成形材Aを長さ300mm、幅300mmに切り出した単層体の6枚を積層して得た積層体を成形材料として遠赤外線ヒーター式オーブン3bに投入した点以外は、実施例8と同様にして成形品を得た。本比較例の結果を表2に示した。
【0096】
(実施例6)
成形材Aを長さ300mm、幅300mmに切り出した単層体の3枚および成形材Aを長さ100mm、幅100mmに切り出した単層体の1枚を用いて図8に示すプリフォーム6を形成した点、図11に示した成形品15を得た点以外は、実施例5と同様にして成形品を得た。成形品15は、立ち壁16と天板17をからなる面板状であって、局所的に厚肉部18を有する。本実施例の結果を表3に示した。
【0097】
(実施例7)
成形材Aを長さ300mm、幅300mmに切り出した単層体7の3枚および成形材Aを長さ100mm、幅100mmに切り出した単層体8の2枚を用いて図9に示すプリフォーム9を形成した点、図12に示した成形品19を得た点以外は、実施例5と同様にして成形品を得た。成形品19は、立ち壁20と天板21をからなる面板状であって、局所的に厚肉部22とリブ23を有する。本実施例の結果を表3に示した。
【0098】
(比較例6)
(A)工程を実施しなかった点、図8に示すプリフォーム6を、遠赤外線ヒーター式オーブン3bに投入した点以外は、実施例6と同様にして成形品を得た。本比較例の結果を表3に示した。
【0099】
(比較例7)
(A)工程を実施しなかった点、図9に示すプリフォーム9を、遠赤外線ヒーター式オーブン3bに投入した点以外は、実施例7と同様の製造方法にして成形品を得た。本比較例の結果を表3に示した。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
【表3】
【0103】
表1に示したとおり、実施例1〜3では、工程(A)を実施しない比較例1と比較して、成形サイクル時間(TC)が大幅に減少しており、成形サイクルが短縮できた。比較例2および3は、本発明を厚み比(t2/t1)の小さい材料に用いた場合である。実施例1と比較すると、(t2/t1)の大きな材料で、より成形サイクルの短縮効果が大きかった。詳細には、(t2/t1)の小さい材料では時短効果が100秒程度であって、通常の製造方法に比べて工程が増加することによる作業工数の増加を考慮した場合、総合的な生産性としては僅かな効果に留まる。さらに、成形サイクル時間(TC)でみても、実施例1〜3と同等以上の時間を要しており、純粋な生産能力としても同等以下である。
【0104】
表2に示したとおり、実施例4では、工程(A)を実施しない比較例4と比較して、加熱工程時間(TH)および加熱工程の時短効果において、大幅な時短効果が認められており、厚みが増すにつれ、本発明の作用がより効果的に発現された。実施例5では、嵩高な積層体であるにも関わらず、表面温度および中心温度が均一に(Tm)以上に加熱することができ、加熱工程時間も短時間とすることができた。一方、比較例5では加熱途中において積層体表面の過加熱による分解ガスの発生が確認され、積層体の表面温度および中心温度を(Tm)以上に均一に加熱することができなかった。
【0105】
表3に示したとおり、実施例6および7では、偏肉積層体であっても、積層体の表面温度および中心温度を(Tm)以上に均一に加熱することができたのに対し、比較例6および7では、薄肉部が過加熱されたことで分解ガスが発生し、積層体の表面温度および中心温度を(Tm)以上に均一に加熱することができなかった。
【0106】
表1〜3に示した実施例1〜7では、形状賦形性および表面外観において、いずれも良好な成形品が得られており、加えて、実施例1〜7の加熱工程の時短効果を反映して、成形工程においても優れた時短効果を発現した。一方、比較例1〜4では、良好な成形品が得られたものの、時短効果としては大きな効果は認められなかった。また、比較例5〜7では、積層体の加熱が十分でないため、形状賦形が十分になされなかったうえ、成形品表面において分解ガスによるガス焼けの欠陥が認められた。
【符号の説明】
【0107】
1a、4、5、7、8 成形材料(単層体)
1b、1b′、1c、1c′、6、9 成形材料(積層体)、プリフォーム
TA1、TB1、TC1 成形材料(単層体)、成形材料(積層体)ないしプリフォームの表面温度
TA2、TB2、TC2 成形材料(単層体)、成形材料(積層体)ないしプリフォームの中心温度
t1 成形材料(単層体)ないし成形材料(積層体)の加熱前の厚み
t2 成形材料(単層体)ないし成形材料(積層体)の加熱後の厚み
t3 プリフォームの加熱前の厚み
2 自動搬送装置
3a 遠赤外線ヒーター式オーブン
3b 遠赤外線ヒーター式オーブン
10 圧縮成形機
11 金型
12、17、21 成形品
13、16、20 立ち壁
14、17、21 天板
18、22 厚肉部
23 リブ
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品の製造方法およびこれにより得られる成形品に関するものである。詳細には、強化繊維基材に熱可塑性樹脂を含浸してなる成形材料に好適に用いられる成形品の製造方法およびこれにより得られる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属材料のプレス成形にて製造されていた自動車、電気・電子機器、家電製品などの各種部品・部材に代表される産業用部品が、強化繊維と熱可塑性樹脂からなる成形材料に代替されている。これは、該成形材料を用いた成形品が高い強度を有し、軽量である点にある。ここで、プレス成形とは、加工機械および型、工具等を用いて金属、プラスチック材料、セラミックス材料などに例示される各種材料に曲げ、剪断、圧縮等の変形を与え、成形、加工をおこなう方法である。また、プレス成形は、比較的均一な精度の製品を多量に生産できることが特徴であり、多量生産をおこなうために高速化、高精度化、品質安定化などの要求が高く、それらを実現するために作業性、成形性の向上に関する市場の要求は非常に高い。
【0003】
特に、従来の熱可塑性樹脂を用いた成形材料を用いた成形品の製造方法において、溶融温度以上に予備加熱して軟化状態にある該成形材料を雌雄一対からなる成形型間に供給し、次いで冷却しながらプレス成形して所望の形状の成形体を得るスタンピング成形は、成形サイクルが早く生産性に優れた方法である。かかる製造方法において、成形材料を予備加熱する工程は、成形サイクルの長短、成形品質の優劣を左右する重要なプロセスであって、上述した市場要求を満足するため様々な技術開発がなされている。なかでも、成形サイクルを向上させるために、成形材料を短時間に、均一に加熱する技術に関して、種々の加熱方法が提案されている。
【0004】
特許文献1では、熱膨張する繊維強化熱可塑性樹脂シートに対して、加圧と加熱を繰り返しおこなうことで、樹脂シートの略均一な加熱と、これによる成形品の優れた表面性状を満足する技術の開示がある。本技術は、樹脂シートが熱膨張することで低下する熱伝導率を、加圧により回復させることで樹脂シートへの効率的な伝熱をもたらすものである。しかしながら、かかる技術では、樹脂シートを加圧しない場合に比べて加熱時間を短縮できるが、熱膨張しない材料と比較して成形サイクルは長くなる。また、樹脂シートの厚みが増すに比例して加熱時間が長時間となることは避けられず、加熱方法の高速化において根本的な課題解決とはいえない。さらに、加圧工程を含むため、成形材料として一様な厚みを有するシート状体に限られるうえ、加圧用設備の導入が必要であり、適応できる成形材料の自由度、経済性の観点からも課題を残す。
【0005】
特許文献2では、繊維強化熱可塑性樹脂シートを複数に分けられた加熱領域により、段階的に温度を低下させながら加熱することで、樹脂シート表面が過加熱されて樹脂劣化が発生するのを抑制して、樹脂シートを略均一かつ短時間に加熱する技術の開示がある。しかしながら、本技術を熱膨張する材料に適用した場合、成形サイクルの長期化は避けられない。また、厚みが一様でない材料に対しては、表面と内部を略均一に加熱することが困難となる。
【0006】
特許文献3および4では、熱可塑性樹脂からなる成形材料について、特定の波長を有する赤外線を照射することで、成形品の内部まで略均一に加熱する技術が開示されている。しかしながら、本技術でもそれを熱膨張する材料に適用した場合、成形サイクルの長期化は避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−45905号公報
【特許文献2】特開昭63−302007号公報
【特許文献3】特開2007−320055号公報
【特許文献4】特開2003−236922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、熱膨張する繊維強化熱可塑性樹脂材料の予熱工程において、上記課題を解決して成形サイクルを短縮させ、かつ厚みが不均一な材料についても均一に加熱できる成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の構成からなる。すなわち、
(1)不連続強化繊維基材に熱可塑性樹脂を含浸してなる成形材料を、次の(A)〜(C)の工程を経て加熱して後、プレス成形する成形品の製造方法であって、(A)の工程がオフラインにて実施されることを特徴とする、成形品の製造方法。
(A)成形材料を加熱して、その表面温度(TA1)および中心温度(TA2)のそれぞれが成形温度域となるまで昇温する工程であって、成形材料の加熱前の厚み(t1)と加熱後の厚み(t2)との比(t2/t1)が3〜15の範囲内である第一の加熱工程。
(B)(A)の工程を経た成形材料または該成形材料を積層して形成されたプリフォームである、成形品前駆体を第二の加熱工程(C)に搬送する工程であって、かかる工程中における成形品前駆体の表面温度(TB1)および中心温度(TB2)のそれぞれが、(TB1≦TA1)、および(TB2≧TA2−10)の関係を満たす搬送工程。
(C)成形品前駆体を加熱して、その表面温度(TC1)および中心温度(TC2)のそれぞれを、成形温度域まで昇温する第二の加熱工程。
(2)前記プリフォームの肉厚は、加熱前における厚みとして算出した総厚みが3〜10mmの範囲内である、(1)に記載の成形品の製造方法。
(3)前記プリフォームが偏肉積層体である、(1)または(2)に記載の成形品の製造方法。
(4)前記成形材料は、強化繊維体積含有量(Vf)が10〜40%の範囲内である、81)〜(3)のいずれかに記載の成形品の製造方法。
(5)前記強化繊維基材を構成する強化繊維が繊維長1〜12mmの範囲内である、(1)〜(4)のいずれかに記載の成形品の製造方法。
(6)前記強化繊維基材を構成する強化繊維が炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、鉱物繊維から選択される少なくとも1種である、(1)〜(5)のいずれかに記載の成形品の製造方法。
(7)前記強化繊維基材を構成する強化繊維が炭素繊維である、(1)〜(5)のいずれかに記載の成形品の製造方法。
(8)前記熱可塑性樹脂がポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテルイミド樹脂から選択される少なくとも1種である、(1)〜(7)のいずれかに記載の成形品の製造方法。
(9)(1)〜(8)のいずれかに記載の製造方法にて得られる成形品が、自動車、電気電子機器、または、航空機用途に用いられる部品または部材である、成形品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の成形品の製造方法によれば、加熱中に熱膨張を生ずる成形材料のスタンピング成形において、成形サイクルを短縮することができる。また、厚肉および/または偏肉な成形材料であっても均一に加熱することができる。さらに、本発明における成形プロセスは優れた賦形性を示し、前記製造方法より得られる成形品は優れた表面外観を発現する。このことから、自動車、電気・電子機器、家電製品、または、航空機の用途に用いられる部品・部材に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】成形材料の温度測定方法の一例を示す簡略図
【図2】プリフォームの温度測定方法の一例を示す簡略図
【図3】プリフォームの温度測定方法の一例を示す簡略図
【図4】プリフォームの厚み測定方法の一例を示す簡略図
【図5】本発明の製造方法を実施する設備の一例を示す簡略図
【図6】実施例1における成形材料の温度履歴を示す簡略図
【図7】比較例2における成形材料温度履歴を示す簡略図
【図8】実施例6で得られるプリフォームを示す簡略図
【図9】実施例7で得られるプリフォームを示す簡略図
【図10】成形品の一例を示す簡略図
【図11】成形品の一例を示す簡略図
【図12】成形品の一例を示す簡略図
【発明を実施するための形態】
【0012】
不連続強化繊維基材に熱可塑性樹脂を含浸してなる成形材料を加熱してプレス成形する成形品の製造方法であって、加熱に際して少なくとも次の(A)〜(C)の工程を含み、(A)の工程がオフラインにて実施される。
(A)成形材料を加熱して、その表面温度(TA1)および中心温度(TA2)のそれぞれが成形温度(Tm)以上の温度域となるまで昇温する第一の加熱工程であって、成形材料の加熱前の厚み(t1)と加熱後の厚み(t2)との比(t2/t1)が3〜15の範囲内である。
(B)(A)の工程を経た成形材料または該成形材料を積層して形成されたプリフォームである、成形品前駆体を第二の加熱工程(C)に搬送する工程であって、かかる工程中における成形品前駆体の表面温度(TB1)および中心温度(TB2)のそれぞれが、TB1≦TA1、およびTB2≧TA2−10の関係を満たす搬送工程。
(C)成形品前駆体を加熱して、その表面温度(TC1)および中心温度(TC2)のそれぞれを、成形温度域まで昇温する第二の加熱工程。
【0013】
(A)の工程は、第一の加熱を行うための加熱装置にて実施される。加熱装置としては、遠赤外線ヒーター、近赤外線ヒーター、ハロゲンヒーター、誘電加熱、熱風加熱、などの公知の加熱装置を用いることができる。なかでも、遠赤外線ヒーターや熱風加熱が加熱状態のコントロールの容易さから好適である。本工程の予熱時間は(C)工程の予熱時間より一般に長くなるため、オフライン工程で行う必要がある。(B)工程を通して(C)工程に連続的に材料を供給して成形サイクルを短縮するためには、複数の成形材料を同時に加熱できる必要があり、通常(C)工程で用いる加熱装置よりも大型の加熱装置を使用する。ここで、オンラインとは、複数の工程が連続的に実施されるものであって、関連する工程が連動して機能する一貫した製造ラインである。オンラインで実施される工程については、全てが同じ時間軸上で実施され、各工程の総和が製造時間に相当する。一方、オフラインとは、選択される一部の工程が断続的に実施されるものであって、該工程は製造ラインから分断されて機能する。オフラインで実施される工程については、製造ライン中のその他の工程とは異なる時間軸上で実施され、各工程の総和とオフライン工程との差が製造時間に相当する。
【0014】
(A)工程に用いる成形材料としては、不連続強化繊維基材に熱可塑性樹脂を含浸してなるシート状物(以下、成形材ともいう)の単層体ないし積層体の何れであってもよく、目的とする成形品の厚肉に応じて、適宜所望の形態を選択することができる。なお、(A)工程に供する加熱前の成形材料の総厚みとしては3mm未満であることが好ましい。3mm未満の成形材料では、表面温度と中心温度を均一にする加熱工程の温度管理が容易になる。
【0015】
(A)の工程において、成形材料は、単層体ないし積層体の状態で、表面温度(TA1)および中心温度(TA2)のそれぞれを成形温度域まで加熱する必要がある。ここで、成形温度域とは、成形材料を構成する熱可塑性樹脂の融点(Tm)以上であって、かつ、成形材料が熱分解を生じる温度未満の温度範囲をいう。すなわち、成形材料が安定して流動性を示す温度域である。ここで、成形材料の表面温度(TA1)および中心温度(TA2)のそれぞれは、(A)の工程が完了する時点において計測される各点における温度であって、必ずしも同じ温度である必要はなく、上述した成形温度域内であれば、その上下関係や温度差について、特に限定されるものではない。ただし、(C)の工程に要する時間を短縮できる観点から、前記温度範囲内にて可能な限り高い温度にあることが好ましい。(TA1)、(TA2)としては、(A)の工程に供される成形材料の単層体ないし積層体群のうち、加熱前の最も厚みが大きく、最も投影面積の大きい単層体ないし積層体の表面温度を(TA1)、中心温度を(TA2)とする。なお、厚みと投影面積が異なる複数の成形材料が存在する場合は、厚みが最も大きい成形材料を選択し、厚みが全て同じで投影面積のみ異なる複数の成形材料が存在する場合は、投影面積が最も大きい成形材料を選択し、厚みも投影面積も同じ複数の成形材料が存在する場合は、そのうちの何れか1体を選択して、温度を取得する。
【0016】
成形材料を構成する熱可塑性樹脂の融点(Tm)としては、示差走査熱量測定(DSC:Differential Scanning Calorimetry)により求めることができる。昇温速度10℃/minの昇温条件にて得られた熱量カーブにおける融解ピークのピークトップをTmとして取り扱う。
【0017】
成形材料が熱分解を生じる温度としては、熱重量測定(TG:Thermo Gravimetry)により求めることができる。成形材料を真空乾燥機中にて12時間以上乾燥させた試料について、10℃/minの昇温条件にて得られた減量カーブにおける重量減少が1%に到達した温度を、成形材料が熱分解を生じる温度として取り扱う。
【0018】
(A)の工程に供する成形材料は、加熱前の厚み(t1)と加熱後の厚み(t2)との比(t2/t1)が、3〜15の範囲内である必要がある。好ましくは5〜10の範囲内である。(t2/t1)が3未満であると、成形材料の熱膨張が小さく、加熱時間を要さないため、成形サイクルの短縮効果が見られない。(t2/t1)が15を超えると、成形材料が膨張しすぎるために搬送プロセスが困難となったり、均一な予熱ができなかったりする。
【0019】
ここでいう(t2/t1)とは、成形材料に生じる熱膨張を示す値であって、一般的にこの熱膨張をスプリングバックと称する。スプリングバックは、成形材料中に圧縮されて存在する強化繊維基材が、マトリックス樹脂である熱可塑性樹脂の可塑化および/または溶融に伴い、弾性回復して嵩高く膨張する現象である。かかる現象によって、成形材料の密度は低下し、成形材料中に緻密な気泡や空隙が形成された状態となる。スプリングバックした材料は、材料中に気泡を多く含有するため断熱性が高く、加熱工程において均一加熱が達成されるまでの時間が大幅に延長される。従って、スプリングバックする成形材料を用いる場合、オンラインでの加熱工程を含む成形プロセスでは、成形サイクルが著しく長くなる。一方で一度昇温した材料については、搬送工程等で外気にさらされた場合でも、成形材料中央の温度は保持される。従って、本発明では、スプリングバックする成形材料をオフラインで加熱しておき、オンラインの成形プロセスに搬送することで、成形サイクルが短縮され、生産性を向上させることができるという考えに至った。
【0020】
すなわち、本発明の製造方法は、(A)の工程において成形材料の表面温度(TA1)および中心温度(TA2)を成形温度域まで加熱して、成形材料のスプリングバックを発現させることにより、成形材料の中心温度を高い水準に保持させたまま、(B)および(C)の後次工程を迎えることに本質を持ち、これによって、成形サイクルの短縮を達成するものである。
【0021】
(B)の工程は、成形品前駆体を後次工程に搬送するための、搬送装置によって実施される。(B)の工程にて用いられる搬送装置としては、ベルトコンベア、稼働式フレーム、ロボットアーム、などの公知の搬送装置を適用することができる。また、搬送装置としては、搬送経路上において温度コントロール可能な温調設備や空間設備を設けてもよく、設けなくともよい。成形品前駆体は、(A)の工程を経た成形材料そのもの出会っても良いし、その成形材料を積層して形成されたプリフォームであっても良い。
【0022】
(B)の工程について、工程中における成形品前駆体の表面温度(TB1)および中心温度(TB2)のそれぞれが、(TB1≦TA1)、および(TB2≧TA2−10)の関係を満たす必要がある。(TB1)、(TB2)としては、成形品前駆体が成形材料である場合には、前記した(TA1)、(TA2)の測定と同様にして行えばよく、成形品前駆体が(A)の工程を経た成形材料を積層して得られるプリフォームである場合には、加熱前の厚みが最も大きい領域の中心にて(TB1)、(TB2)のそれぞれを取得する。すなわち、プリフォームを形成する場合においては、(TA1)、(TA2)と(TB1)、(TB2)とが、異なる点にて取得される。ここで、(TB1)および(TB2)のそれぞれは、後次工程である(C)の工程の開始位置に成形品前駆体が到達した時点、すなわち、成形品前駆体の搬送が完了した時点の温度である。本工程における成形品前駆体の表面温度(TB1)の低下は、本プロセスにおいて重大な問題ではない。すなわち、熱で膨張する成形材料においても、成形品前駆体の表面部分は容易に加熱可能であり、表面温度(TB1)の低下は、後次工程である(C)の工程において成形品前駆体の表面温度と中心温度とを略均一に加熱するうえで、ほとんど影響しないからである。なお、成形品前駆体の表面温度(TB1)の下限値としては、特に制限はないが、現実的な範囲として雰囲気温度以上であればよく、より(TA1)に近い温度であるほど、後次工程の所要時間を短くできることから好ましい。
【0023】
また、成形品前駆体の中心温度(TB2)が(TB2≧TA2−10)の関係を満たし、好ましくは(TB2≧TA2)の関係を満たす。(TB2)が(TB2<TA2−10)を満たすようになると、成形品前駆体中心部分の再加熱を行わねばならず、スプリングバックした材料においては加熱時間に長時間を要するため、成形サイクルが長くなる。中心温度(TB2)がかかる関係を満足することで、後次工程の(C)の工程において実質的に成形品前駆体の表面近傍のみを加熱するだけでよいため、短時間での加熱が可能となり、成形サイクルを短縮できる。なお、TB2の上限値としては、前記(A)の工程と同様に、成形材料が熱分解を生じる温度未満であればよい。なお、(TB2>TA2)となる場合として、加熱を終了した後も一時的に成形品前駆体の中心が昇温する現象が確認されている。これは、(A)の工程において付与されたエネルギーが成形品前駆体の内部にて平衡状態を形成するためであって、加熱とのタイムラグが生じているものと推測される。
【0024】
(C)の工程は、第二の加熱をおこなうための加熱装置にて実施される。かかる加熱装置としては、(A)の工程にて用いられる加熱装置と同様に、一般的に用いられる加熱装置を適用可能であって、(A)の工程にて用いる加熱と同種である必要はない。
【0025】
(C)の工程は、成形品前駆体の表面温度(TC1)および中心温度(TC2)のそれぞれを、成形温度域まで加熱昇温する工程である。
【0026】
成形品前駆体の表面温度(TC1)および中心温度(TC2)は、後次工程である(D)〜(F)の成形工程において、成形型への賦形性や成形品の形状品位、外観品位を決定する重要な温度であって、少なくとも成形材料を構成する熱可塑性樹脂の融点(Tm)以上である。好ましくは、成形材料が熱分解を生じる温度未満において可能な限り高い温度である。成形品前駆体の表面温度(TC1)および中心温度(TC2)の上限値としては、前記(A)の工程と同様に成形材料が熱分解を生じる温度未満であればよい。
【0027】
本工程における第二の加熱は、上述したとおり実質的に成形品前駆体の表面近傍についておこなわれるものである。また、スプリングバックにより成形材料の表面積が拡大していることで、外部から付与されるエネルギーを吸収しやすい態様にあるため、成形材料の加熱において不利であるスプリングバックが、本工程においては優位に作用する。これらの相乗効果により、(C)の工程における第二の加熱は、極めて短時間に成形品前駆体の表面および中心を略均一なものとできる。
【0028】
また、本発明においては、成形材料のスプリングバックによる保温効果を効果的に活用しており、(B)の搬送工程における成形品前駆体中央部の温度低下が小さいため、(A)の工程をオフラインで実施する事ができる。これにより、オンラインの加熱時間を大幅に短縮する事が可能となり、成形サイクルの短縮を実現している。
【0029】
また、本発明では、前記したとおり、(A)の工程を経た成形材料を積層して、単一のプリフォームとして形成した成形品前駆体を前記(B)の搬送工程に供することができる。かかる態様は、肉厚なプリフォームにおいて好適であって、例えば、成形材料を流動させて成形型を充填させる場合、広面積で一様に肉厚な成形品を成形する場合に適用される。プリフォームの形成は、前記(A)の工程がオフラインにて実施されるために実現可能である。一貫したオンラインでの加熱方法においては、工程途中においてプリフォームを形成することができないため、成形型に投入する直前において、プリフォームを形成する場合がほとんどである。この場合、プリフォームを形成する間に成形材料の温度低下が起こり、成形性の低下や成形品の外観不良を引き起こす。一方で本発明では、プリフォーム形成後にも加熱工程(C)があるため、成形品の品位を良好に保つ事ができる。また、スプリングバックした成形材料の保温性が高いために、プリフォームにかかる時間での成形材料の温度低下を抑える事ができ、成形サイクルにおける優位性も大きくなる。プリフォームを形成した状態で加熱工程を通過させる方法も考えられるが、特に肉厚なプリフォームの場合、プリフォームの中心温度が昇温する以前に表面の熱可塑性樹脂が熱分解を生じたり、プリフォームの中心温度が昇温するのに極めて長時間を要したりするため、成形サイクルが長くなる。
【0030】
プリフォームの肉厚としては、加熱前における仮想的な厚みとして算出した総厚みが3〜10mmの範囲内であることが好ましい。加熱前における仮想的な厚みとして算出した総厚みとは、加熱前、すなわち(A)の工程に供する前の成形材料を用いて、プリフォームと同様の積層構成にした状態で、その最も厚みの大きい箇所の厚みを言う。かかる総厚みの範囲内であると、本発明による高速化の効果をとりわけ引き出すことができる。また、単一の加熱工程により成形品前駆体の表面と中心とを略均一にすることが困難な場合でも、本態様を用いることで容易に略均一な加熱を達成することが可能となる。
【0031】
なお、本発明においては、肉厚なプリフォームとして(B)の工程に供しても、成形サイクルの所要時間が長時間となる懸念はほとんどない。上述した通り、第一の加熱工程はオフラインであって、成形サイクルから外す事ができる。また搬送工程での成形品前駆体中央の温度低下がスプリングバックにより抑えられるため、第二の加熱工程における実質的な加熱は成形品前駆体の表面近傍についておこなわれる。そのため肉厚が大きくなっても、加熱対象である領域に大きな変化がなく、加熱時間への影響は小さい。一般に、成形材料の肉厚が増すにつれ成形サイクルが長くなるが、本発明での加熱方法においては、その影響は極めて小さい。
【0032】
このことは、プリフォームの自由度を広くすることにも繋がり、平面方向に一様な厚みを持った積層体は勿論であるが、平面方向で厚みが異なる偏肉積層体の加熱も可能とする。偏肉積層体が好適な場合としては、局所的に肉厚な成形品を成形する場合、リブ構造を有する成形品を成形する場合、などが挙げられる。偏肉積層体の加熱は、厚みが異なる部分において温度ムラが生じ易く、成形品前駆体の表面と中心とを平面方向で一様に略均一に加熱することが困難とされるが、本発明においては上述した理由から、偏肉の影響を受けずに略均一な加熱を実現することができる。
【0033】
ここで、本発明に用いられる成形材料について説明する。前記成形材料は、強化繊維基材と熱可塑性樹脂とから構成され、強化繊維基材にマトリックス樹脂である熱可塑性樹脂が含浸した態様をとる。
【0034】
成形材料に要求される特性は、成形材料より製造される成形品に同様であって、優れた機械特性と軽量化効果、さらに複雑な形状を形成することができる成形性(賦形性、流動性)が必要となる。そのため、成形材料を構成する強化繊維基材および熱可塑性樹脂においても、上述した要求特性を加味して選択される。
【0035】
強化繊維基材に関して、強化繊維基材を構成する強化繊維としては、高強度および/または高弾性率な強化繊維を好適に用いることができる。例示すると、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、鉱物繊維、セラミックス繊維、金属繊維、有機繊維、などであって、成形材料ないし成形品に要求される特性に応じて、これらの少なくとも1種を選択的に用いればよい。中でも、炭素繊維であると、繊維の剛性が高いことから強化繊維基材の弾性回復による(A)の工程におけるスプリングバックの発現性がよく、本発明で用いる成形材料としてとりわけ好適である。
【0036】
また、強化繊維は、スプリングバックが発現する事で本発明の特徴が発揮される事から、不連続強化繊維である必要がある。繊維長については、1〜12mmの範囲内であることが好ましい。繊維長がこの範囲であると、(A)の工程でスプリングバックが適当に発現し、成形サイクルの短縮効果とプロセス性において、良好な結果が得られる。なお、ここでいう繊維長とは、数平均繊維長であって、無作為に抽出される400本の単繊維の繊維長を平均して得たものである。
【0037】
これら、強化繊維から得られる強化繊維基材の形態としては、基材として取り扱えるものであれば特に限定されないが、(A)の工程でスプリングバックを発現する必要性があることから、マトリックス樹脂が含浸されていない状態で比較的嵩高な材料でなければならない。例示すると、不織布シート、チョップドストランドマット、フェルト、などである。なかでも、不織布シートであると種々の強化繊維を適用することが可能であり、製造できる基材設計の自由度も広い。
【0038】
不連続強化繊維基材に含浸される熱可塑性樹脂は、強化繊維基材に含浸して用いることができれば、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、液晶ポリエステル等のポリエステルや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン等のポリオレフィンや、ポリオキシメチレン、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルニトリル、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、液晶ポリマーなどの結晶性樹脂、スチレン系樹脂の他や、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンエーテル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリアリレートなどの非晶性樹脂、その他、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、更にポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素系、およびアクリロニトリル系等の熱可塑エラストマー等や、これらの共重合体および変性体等から選ばれる熱可塑性樹脂が挙げられ、これらの少なくとも1種を熱可塑性樹脂として採用することができる。なかでも、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテルイミド樹脂から選択される少なくとも1種が、成形加工性および/または経済性の観点から好ましく用いられる。
【0039】
(A)の工程に供される成形材料は、その強化繊維体積含有量(Vf)として、10〜40%の範囲内であることが好ましい。強化繊維体積含有量(Vf)が、かかる範囲内であると、強化繊維による補強効果と成形性とのバランスに優れるため、本発明の成形品が目的とする用途において好適に用いることができる。Vfは、成形品の力学特性、軽量性、形状、表面外観等の要求特性から、適宜選択することができる。
本発明の成形品の製造方法は、成形材料を上述した(A)〜(C)の工程を経て加熱した後、プレス成形を実施する。
【0040】
プレス成形としては、具体的には、成形品前駆体を第二の加熱工程から圧縮成形機へ搬送し、解放された成形型の下型上へ配置する工程(配置工程)、前記成形型を型締めして成形品前駆体に圧力を付与し、該圧力を保持した状態にて成形品前駆体を冷却固化することで成形品を形成させる工程(加圧工程)、前記成形型を解放し、冷却固化された成形品を取り出す工程(脱型工程)、の3つの工程を含んでなるプレス成形である。
【0041】
プレス成形とは、加工機械および型、工具等を用いて金属、プラスチック材料、セラミックス材料などに例示される各種材料に曲げ、剪断、圧縮等の変形を与えて成形体を得る方法であるが、その成形形態として絞り、深絞り、フランジ、コールゲート、エッジカーリング、型打ちなどが例示される。また、プレス成形の方法としては、金型を用いて成形をおこなう金型プレス法、ラバープレス法(静水圧成形法)などが例示される。本発明においては、上記プレス成形方法のなかでも、成形圧力、温度の自由度の観点から、圧縮成形機と金属製の成形型を用いて成形をおこなう、金型プレス法を通常採用する。
【0042】
金型プレス方法としては、予め成形型を成形品前駆体の成形温度以上に昇温しておき、その加熱された成形型内に成形品前駆体を配置し、型締めにより加圧し、次いでその状態を維持しながら成形型を冷却し成形品を得る方法、いわゆるホットプレス法がある。このホットプレス方法によれば、成形品の賦形性や表面外観が優れることは広く知られており、理想的な成形方法といえる。しかしながら、生産性を考えた場合、成形サイクルが長時間であるため、最適な方法とは言い難い。
【0043】
一方、成形温度以上に加熱された成形品前駆体を、予め成形品前駆体の固化温度未満に保持された成形型に配置し、型締めにより加圧し、次いでその状態を維持しながら成形品前駆体または成形型および成形品前駆体を冷却し成形品を得る方法、いわゆるコールドプレス法、ヒートアンドクール法がある。かかる方法によれば、短時間のサイクルで成形品を得ることができるため生産性に優れるほか、成形品の賦形性や表面外観についても前記ホットプレス法と比較して遜色ないものが得られる。よって、本発明では、プレス成形として後者の方法を採用する。
【0044】
まず、上述した(C)の工程に次いで、配置工程が実施される。かかる配置工程は、成形品前駆体を後次工程に搬送するための搬送装置によって実施される。搬送装置としては、上述した(B)の工程と同様に公知の搬送装置を適用可能であって、生産性を鑑みた場合、(B)の工程から一貫して同じ搬送装置を共有するとよい。
【0045】
また、第二の加熱工程をおこなう加熱装置と圧縮成形機との距離を近づけておくことが好ましく、かかる態様とすることで、搬送中における成形品前駆体の温度低下が抑制される。成形品前駆体の温度低下が著しくなると、成形品の外観品位が低下したり、成形型への賦形性が低下したり、する場合がある。
【0046】
また、(C)の工程の完了から本工程の完了までの所要時間としては、15秒以下であることが好ましく、さらに好ましくは10秒以下、とりわけ好ましくは5秒以下であって、同上に成形品前駆体の温度低下を抑制できる観点からである。
【0047】
成形型は成形品前駆体が搬送される直前に解放するとよく、上型と下型の温度差を低減するうえで効果的である。上型と下型の温度差が大きければ、成形品に反りや撓みを発生させる原因となり、品位の低下に繋がる。
【0048】
上述の配置工程に次いで、前記成形型を型締めして成形品前駆体に圧力を付与し、該圧力を保持した状態にて成形品前駆体を冷却固化することで成形品を形成させる工程(加圧工程)が実施される。
【0049】
成形型を型締めする時間としては、前記配置工程において下型上に成形品前駆体が配置されてから、10秒以下であることが好ましく、さらに好ましくは5秒以下である。これは、成形品前駆体と成形型との間での熱交換による成形品前駆体の温度低下を可能な限り、小さく留めるためである。
【0050】
また、成形品前駆体に付与する圧力としては、10〜50MPaの範囲内であることが成形品前駆体の賦形のし易さや、成形体の厚み制御のしやすさの観点から好ましい。とりわけ、15MPa〜30MPaの範囲内がプレス成形機の設備コストの観点から好ましい。成形型の温度としては、成形品前駆体の固化温度より20℃〜100℃低い温度の範囲内であることが可塑化した成形品前駆体の賦形のし易さや、成形品の表面外観の観点から好ましい。例示すると、マトリックス樹脂としてポリアミド6樹脂を用いる場合は、120℃〜160℃の範囲内、ポリプロピレン樹脂を用いる場合は80℃〜120℃の範囲内である。
【0051】
上述の加圧工程に次いで、前記成形型を解放し、冷却固化された成形品を取り出す工程(脱型工程)が実施される。
【0052】
成形品の取り出しに際しては、人手にておこなうことは勿論、補助的に成形型に備え付けられるエジェクタを利用してもよい。前記エジェクタとしては、圧縮空気をブローする方式、機械的な構造部材により突き上げる方式、などが好適に用いられる。
【0053】
本発明の製造方法より得られた成形品は、種々の用途に展開できる。特にインストルメントパネル、ドアビーム、アンダーカバー、ランプハウジング、ペダルハウジング、ラジエータサポート、スペアタイヤカバー、フロントエンドなどの各種モジュール等の自動車・二輪車用部品、ノートパソコン、携帯電話、デジタルスチルカメラ、PDA、プラズマディスプレーなどの電気・電子部品、電話、ファクシミリ、VTR、コピー機、テレビ、電子レンジ、音響機器、トイレタリー用品、レーザーディスク、冷蔵庫、エアコンなどの家庭・事務電気製品部品、土木・建築用部品、航空機用部品等の各種用途に用いることができ、なかでも電子機器部品、自動車部品により好ましく用いられる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例および比較例に用いた材料は以下のとおりである。
【0055】
(参考例1)
本実施例で用いた成形材料を構成する強化繊維Aは以下のとおりである。
アクリロニトリル(AN)99.4モル%とメタクリル酸0.6モル%からなる共重合体を用いて、乾湿式紡糸方法により単繊維デニール1d、フィラメント数12,000のアクリル系繊維束を得た。得られたアクリル系繊維束を240〜280℃の温度の空気中で、延伸比1.05で加熱し、耐炎化繊維に転換し、次いで窒素雰囲気中300〜900℃の温度領域での昇温速度を200℃/分とし10%の延伸を行った後、1,300℃の温度まで昇温し焼成した。この炭素繊維束に硫酸を電解質とした水溶液で、炭素繊維1gあたり3クーロンの電解表面処理を行い、さらに浸漬法によりサイジング剤を付与し、120℃の温度の加熱空気中で乾燥しPAN系炭素繊維束を得た。さらに、得られたPAN系炭素繊維束を、カートリッジカッターで6.4mmにカットし、チョップドPAN系炭素繊維である強化繊維Aを得た。
総フィラメント数:12,000本
単繊維直径:7μm
単位長さ当たりの質量:0.8g/m
比重:1.8g/cm3
引張強度:4.2GPa
引張弾性率:230GPa
サイジング種類:ポリオキシエチレンオレイルエーテル
サイジング付着量:1.5質量%。
数平均繊維長:6.4mm。
【0056】
[引張強度および引張弾性率の測定]
日本工業規格(JIS)−R−7601(2006)「樹脂含浸ストランド試験法」に記載された手法により、求めた。ただし、測定する炭素繊維の樹脂含浸ストランドは、“BAKELITE”(登録商標)ERL4221(100質量部)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(3質量部)/アセトン(4質量部)を、炭素繊維に含浸させ、130℃、30分で硬化させて形成した。また、ストランドの測定本数は、6本とし、各測定結果の平均値を、その炭素繊維の引張強度、引張弾性率とした。
【0057】
[サイジング付着量の測定]
試料として、サイジング剤が付着している炭素繊維約5gを採取し、耐熱性の容器に投入した。次にこの容器を120℃で3時間乾燥した。吸湿しないようにデシケーター中で注意しながら室温まで冷却後、秤量した質量をW1(g)とした。続いて、容器ごと、窒素雰囲気中で、450℃で15分間加熱後、同様にデシケーター中で吸湿しないように注意しながら室温まで冷却後、秤量した質量をW2(g)とした。以上の処理を経て、炭素繊維へのサイジング剤の付着量を次の式により求めた。
付着量(質量%)=100×{(W1−W2)/W2}。
なお、測定は3回行い、その平均値を付着量として採用した。
【0058】
[強化繊維の数平均繊維長の測定]
所定長にカットした強化繊維を水系分散液中に投入し、単繊維状に分散したのち、濾過して強化繊維を分離した。分離された強化繊維から無作為に400本の単繊維を抽出し、光学顕微鏡にてその長さを10μm単位まで測定し、その平均値を数平均繊維長として採用した。
【0059】
(参考例2)
本比較例で用いた成形材料を構成する強化繊維Bは以下のとおりである。
【0060】
PAN系炭素繊維束の製造方法は参考例1と同様であって、付与するサイジング剤の種類および付着量を変更して、連続繊維束状の強化繊維Bを得た。
総フィラメント数:12,000本
単繊維直径:7μm
単位長さ当たりの質量:0.8g/m
比重:1.8g/cm3
引張強度:4.2GPa
引張弾性率:230GPa
サイジング種類:ポリグリセリンポリグリシジルエーテル
サイジング付着量:0.6質量%。
【0061】
(参考例3)
本実施例で用いた成形材料を構成する熱可塑性樹脂は以下のとおりである。
【0062】
プライムポリマー(株)製“プライムポリプロ(登録商標)”90重量%、三井化学(株)製“アドマー(登録商標)”10重量%をドライブレンドしたのち、二軸押出機を用いて230℃の温度で混練し、ペレット状の酸変性ポリプロピレン樹脂(比重:0.91、融点:160℃)(以下、PPペレットと称す)を得た。かかるポリプロピレン樹脂を、幅700mm、厚み0.22mm、目付200g/m2のフィルムに加工し、ロール状に券回された酸変性ポリプロピレンフィルム(以下、PPフィルムAと称す)を得た。また上述と同様にして、ポリプロピレン樹脂を、幅700mm、厚み0.08mm、目付75g/m2のフィルムに加工し、ロール状に券回された酸変性ポリプロピレンフィルム(以下、PPフィルムBと称す)を得た。
【0063】
(参考例4)
参考例1で得られた強化繊維Aを用いて、強化繊維基材Aを作製した。強化繊維基材Aの作製は、分散槽、抄紙槽、乾燥機および巻取機のそれぞれをオンラインにて備える抄造設備にて、以下のとおりに行った。
【0064】
水と界面活性剤(ナカライテクス(株)製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(商品名))とからなる濃度0.1質量%の分散媒体(供給速度:375kg/分)およびチョップドCF(供給速度0.015kg/分)を分散槽に連続的に供給し、分散槽に具備された攪拌機にて攪拌して、固形成分濃度0.02質量%のスラリーを連続調整した。調整されたスラリーは送液管を通じて抄紙槽に供給し、抄紙槽に設けた抄紙面にて分散媒体を吸引除去して、メッシュシート上に抄紙シートを得た。得られた抄紙シートはコンベア上に載置されて連続的に後次工程に搬送し、1.13kg/分の塗布速度にてバインダー(アクリル系重合体0.4質量%を含むエマルジョン水溶液)を塗布した。
さらに、コンベアにて130℃の乾燥機を通過して、巻取機にて引取速度3/分にて券回し、ロール状の強化繊維基材A(幅650mm、目付100g/m2)を得た。
【0065】
(参考例5)
参考例2で得られた強化繊維Bを用いて、強化繊維基材Bを作製した。強化繊維基材Bの作製は、片レピア織機を用いて以下のとおりに行った。
強化繊維Bを並行に引き揃え、1.25本/cmの密度で一方向に配列してシート状の強化繊維糸条群を形成した。前記強化繊維糸条群に対し直交する方向に、強化繊維Bを1.25本/cmの密度で挿入し、強化繊維B同士を互いに交錯させて、平織組織の二方向性強化繊維織物、すなわち強化繊維基材Bを得た。得られた強化繊維基材Bはロール状に券回され、幅650mm、目付200g/m2であった。
【0066】
(参考例6)
参考例3で得たPPフィルムAおよび参考例4で得た強化繊維基材Aを用いて、成形材Aを以下のとおり作製した。
【0067】
PPフィルムAおよび強化繊維基材Aのそれぞれを巻出機に配置し、[PPフィルムA/強化繊維基材A/PPフィルムA/強化繊維基材A/強化繊維基材A/PPフィルムA/強化繊維基材A/PPフィルムA]の積層構成となるよう引き揃えてダブルベルトプレス(以下、DBPと称す)へ連続的に供給した。DBPにて、温度210℃、圧力3MPaを付与し抄紙基材にPPフィルムを溶融含浸させたのち、引き続いて圧力3MPaを保持したまま温度80℃にて冷却し、成形材Aを連続して得た。このときのライン速度は2m/分であった。得られた成形材Aは強化繊維体積含有量(Vf)20%であって、DBPに併設されたシャーリングカッターにてカットし、長さ1000mm、有効幅600mm、厚さ1.11mmのシート状体とした。
【0068】
(参考例7)
積層構成を[PPフィルムA/強化繊維基材A/PPフィルムA]とした以外は、参考例6と同様にして成形材B前駆体を得た。得られた成形材B前駆体は強化繊維体積含有量(Vf)10%であって、有効幅600mm、厚さ0.28mmのロール状体であった。さらに、得られた成形材B前駆体を4枚積層してDBPに供給した以外は、参考例6と同様にして成形材Bを得た。得られた成形材Bは強化繊維体積含有量(Vf)10%であって、長さ1000mm、有効幅600mm、厚さ1.11mmのシート状体であった。
【0069】
(参考例8)
積層構成を[PPフィルムB/強化繊維基材A/強化繊維基材A/PPフィルムB]とした以外は、参考例6と同様にして成形材C前駆体を得た。得られた成形材C前駆体は強化繊維体積含有量(Vf)40%であって、有効幅600mm、厚さ0.27mmのロール状体であった。さらに、得られた成形材C前駆体を4枚積層してDBPに供給した以外は、参考例6と同様にして成形材Cを得た。得られた成形材Cは強化繊維体積含有量(Vf)40%であって、長さ1000mm、有効幅600mm、厚さ1.11mmのシート状体であった。
【0070】
(参考例9)
参考例3で得たPPフィルムBおよび参考例5で得た強化繊維基材Bを用いて、成形材Dを作製した。
【0071】
積層構成を[強化繊維基材B/PPフィルムB/強化繊維基材B]として、油圧式プレス機にセットされた平板型上に配置し、平板型温度210℃にて圧力20MPaを付与してプレス成形した。引き続いて、圧力を保持した状態にて、金型を80℃まで冷却したのち、成形された繊維強化樹脂を取り出して、成形材D前駆体を得た。得られた成形材D前駆体は、繊維体積含有量(Vf)57%であって、長さ300mm、幅300mm、厚さ0.19mmの面板状であった。さらに、得られた成形材D前駆体を6枚積層した点、圧力5MPaにした点、以外は前述同様にプレス成形して成形材Dを得た。得られた成形材Dは強化繊維体積含有量(Vf)57%であって、長さ300mm、有効幅300mm、厚さ1.14mmのシート状体であった。
【0072】
(参考例10)
参考例3で得たPPペレットおよび参考例2で得た強化繊維Bを用いて、成形材Eを以下のとおり作製した。
【0073】
PPペレット66.7重量%、強化繊維B33.3重量%の割合で二軸押出機へ供給し、230℃の温度で混練して、ペレット状の成形材E前駆体を得た。得られた強化繊維樹脂を、油圧式プレス機にセットされた金型内に配置し、金型温度210℃にて圧力5MPaを付与してプレス成形した。引き続いて、圧力を保持した状態にて、金型を80℃まで冷却したのち、成形された強化繊維樹脂を取り出して、成形材Eを得た。得られた成形材料Eは繊維体積含有量(Vf)20%であって、長さ300mm、幅300mm、厚さ1.11mmの面板状であった。
【0074】
[成形材料の温度測定]
(A)〜(C)の工程における、成形材料の温度測定は以下の条件で測定した。
【0075】
図1に示したとおり、成形材料(単層体)1aの中心点を表面温度(TA1、TB1、TC1)とし、成形材料1aの厚み方向の中心点を中心温度(TA2、TB2、TC2)とした。計測はKタイプの熱電対を用い、キーエンス社製データロガー“NR600”を用い、1点/1秒の収集周期にて温度データを取得した。K熱電対は対象となる成形材料に接触させて設置し、外部温度を拾わない様に耐熱テープにて成形材料への固定を兼ねて被覆した。
【0076】
なお、(B)の工程に供する成形品前駆体としてプリフォーム1b、1cを用いる場合は、図2および図3に示したとおりとした。(A)の工程に供する成形材料1b′、1c′群のうち、最も厚みが大きく、最も投影面積の大きい、積層体の中心点を表面温度(TA1)、厚み方向の中心点を中心温度(TA2)として設定した。さらに、プリフォーム1bを形成した際の中心点、または、プリフォーム1bの最も厚い部分を基準とした中心点を表面温度(TB1、TC1)、厚み方向の中心点を中心温度(TB2、TC2)として設定した。
【0077】
[成形材料の厚み測定]
(A)の工程における、成形材料の(t1)、(t2)は以下の様に測定した。
【0078】
加熱前の成形材料の厚みをマイクロメータにて測定して(t1)とした。(t1)と同様に、成形材料の加熱後の厚み(t2)を測定し、得られたそれぞれの値から加熱前後における厚みの比(t2/t1)を算出した。
【0079】
なお、加熱後の成形材料については、加熱された成形材料を加熱環境下から取り出し、室温にて無荷重の状態で十分に冷却したのち、それぞれの値を測定して得た。
【0080】
(B)の工程に供する成形品前駆体として、(A)の工程において各々に加熱された成形材料の単層体ないし積層体を、さらに積層して、プリフォームとして形成する場合は、図4に示すとおり、加熱前の成形材料の厚みを加熱後に形成するプリフォームと同様の構成にした状態にて、最も厚みの大きい点を測定して(t3)とした。
【0081】
[成形サイクル時間の計算(TC)]
(A)〜(C)の工程に要した時間およびプレス成形に要した時間の和を、成形サイクル時間(TC)として以下のとおり算出した。
加熱工程時間は、(A)工程所要時間(Ta)、(B)工程所要時間(Tb)、(C)工程所要時間(Tc)およびプレス成形時間(TM)の和にて計算した。なお、(B)工程においては、(A)工程を実施しない場合の搬送時間が20秒であって、これを基準として、(A)工程を実施した場合は+10秒とした。
【0082】
一方、プレス成形工程は、実施例および比較例のそれぞれによって格差はなく、一定のプログラムにて運転した。工程の所要時間は次の通りであって、配置工程の所要時間は5秒、加圧工程の所要時間は70秒、脱型工程の所要時間は10秒とした。さらに、脱型工程の後、(A)工程ないし(B)工程の開始位置まで原点復帰する時間として10秒を要した。上述したそれぞれの所要時間の和を成形工程所要時間(TM)として算出した。
ここで、成形サイクル時間の時短効果について説明する。成形サイクル時間の時短効果とは、(A)工程をオフラインにて実施したことによる時間の短縮効果であって、(A)工程所要時間(Ta)と(C)工程所要時間(Tc)の差にて算出した。
【0083】
(実施例1)
本実施例は、図5に示す設備を用いて行った。
【0084】
成形材Aを長さ300mm、幅300mmに切り出した単層体を、ヒーター温度210℃に設定された遠赤外線ヒーター式オーブン3aに投入して、成形材Aの表面温度および中心温度の何れもが200℃に到達するまで加熱した((A)工程)。次いで、遠赤外線ヒーター式オーブン3aから取り出した成形材Aの単層体を自動搬送装置2にセットし、遠赤外線ヒーター式オーブン3bに搬送した、この間の所要時間は20秒であった((B)工程)。引き続いて、成形材Aの単層体をヒーター温度210℃に設定された遠赤外線ヒーター式オーブン3bにて、成形材Aの表面温度および中心温度の何れもが200℃に到達するまで加熱した((C)工程)。この間、成形材Aに熱電対を常時セットしておき、温度履歴の測定を行った。本実施例における成形材Aの温度履歴を図6に示す。図6において、(A)の工程にて、成形材Aの表面温度および中心温度の何れもが200℃に到達した時点を表面温度(TA1)、中心温度(TA2)とし、(B)の工程にて、成形材Aの搬送が終了した時点を表面温度(TB1)、中心温度(TB2)とし、(C)の工程にて、成形材Aの表面温度および中心温度の何れもが200℃に到達した時点を表面温度(TC1)、中心温度(TC2)とした。
【0085】
また、(t1)および(t2)の測定も実施した。なお、(t2)については、(A)〜(C)の工程中に測定することができないため、本実施例と同様に(A)工程のみを別途実施し、加熱後の成形材Aを再現して、(t2)を測定した。
【0086】
さらに、加熱した成形材Aを、(B)工程にて用いた自動搬送装置2にて圧縮成形機10に搬送し、解放された状態にて待機された成形型11の下型上に配置した。この時の金型温度は120℃であった。次いで、成形型11を型締めして15MPaの圧力を付与、圧力を保持した状態にて60秒間保持して成形材料を冷却固化し、得られた成形品を取り出した。この時、得られた成形品12の形状は図10に示したとおりであって、立ち壁13と曲率を有する天板14を有する面板形状であった。次いで、(B)工程の開始位置まで自動搬送装置2を原点復帰させた。本実施例の結果を表1に示した。
【0087】
(実施例2)
成形材Aを成形材Bとした以外は、実施例1と同様にして成形品を得た。本実施例の結果を表1に示した。
【0088】
(実施例3)
成形材Aを成形材Cとした以外は、実施例1と同様にして成形品を得た。本実施例の結果を表1に示した。
【0089】
(比較例1)
(A)工程を実施しなかった以外は、実施例1と同様にして成形品を得た。本比較例の結果を表1に示した。
【0090】
(比較例2)
成形材Aを成形材Dとした以外は、実施例1と同様にして成形品を得た。本比較例における成形材Dの温度履歴を図7に示した。本比較例の結果を表1に示した。
【0091】
(比較例3)
成形材Aを成形材Eとした以外は、実施例1と同様にして成形品を得た。本比較例の結果を表1に示した。
【0092】
(実施例4)
成形材Aを長さ300mm、幅300mmに切り出した単層体の4枚を積層して得た積層体を成形材料として形成して、遠赤外線ヒーター式オーブン3aに投入した以外は、実施例1と同様にして成形品を得た。本実施例の結果を表2に示した。
【0093】
(実施例5)
成形材Aを長さ300mm、幅300mmに切り出した単層体の6枚をそれぞれ遠赤外線ヒーター式オーブン3aに投入して、成形材Aの表面温度および中心温度の何れもが200℃に到達するまで加熱した((A)工程)。次いで、遠赤外線ヒーター式オーブン3aから取り出した成形材Aの単層体6枚を積層してプリフォームを形成し、自動搬送装置2にセットし、遠赤外線ヒーター式オーブン3bに搬送した。上述した以外は、実施例1と同様にして成形品を得た。本実施例の結果を表2に示した。
【0094】
(比較例4)
(A)工程を実施しなかった以外は、実施例4と同様にして成形品を得た。本比較例の結果を表2に示した。
【0095】
(比較例5)
(A)工程を実施しなかった点、成形材Aを長さ300mm、幅300mmに切り出した単層体の6枚を積層して得た積層体を成形材料として遠赤外線ヒーター式オーブン3bに投入した点以外は、実施例8と同様にして成形品を得た。本比較例の結果を表2に示した。
【0096】
(実施例6)
成形材Aを長さ300mm、幅300mmに切り出した単層体の3枚および成形材Aを長さ100mm、幅100mmに切り出した単層体の1枚を用いて図8に示すプリフォーム6を形成した点、図11に示した成形品15を得た点以外は、実施例5と同様にして成形品を得た。成形品15は、立ち壁16と天板17をからなる面板状であって、局所的に厚肉部18を有する。本実施例の結果を表3に示した。
【0097】
(実施例7)
成形材Aを長さ300mm、幅300mmに切り出した単層体7の3枚および成形材Aを長さ100mm、幅100mmに切り出した単層体8の2枚を用いて図9に示すプリフォーム9を形成した点、図12に示した成形品19を得た点以外は、実施例5と同様にして成形品を得た。成形品19は、立ち壁20と天板21をからなる面板状であって、局所的に厚肉部22とリブ23を有する。本実施例の結果を表3に示した。
【0098】
(比較例6)
(A)工程を実施しなかった点、図8に示すプリフォーム6を、遠赤外線ヒーター式オーブン3bに投入した点以外は、実施例6と同様にして成形品を得た。本比較例の結果を表3に示した。
【0099】
(比較例7)
(A)工程を実施しなかった点、図9に示すプリフォーム9を、遠赤外線ヒーター式オーブン3bに投入した点以外は、実施例7と同様の製造方法にして成形品を得た。本比較例の結果を表3に示した。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
【表3】
【0103】
表1に示したとおり、実施例1〜3では、工程(A)を実施しない比較例1と比較して、成形サイクル時間(TC)が大幅に減少しており、成形サイクルが短縮できた。比較例2および3は、本発明を厚み比(t2/t1)の小さい材料に用いた場合である。実施例1と比較すると、(t2/t1)の大きな材料で、より成形サイクルの短縮効果が大きかった。詳細には、(t2/t1)の小さい材料では時短効果が100秒程度であって、通常の製造方法に比べて工程が増加することによる作業工数の増加を考慮した場合、総合的な生産性としては僅かな効果に留まる。さらに、成形サイクル時間(TC)でみても、実施例1〜3と同等以上の時間を要しており、純粋な生産能力としても同等以下である。
【0104】
表2に示したとおり、実施例4では、工程(A)を実施しない比較例4と比較して、加熱工程時間(TH)および加熱工程の時短効果において、大幅な時短効果が認められており、厚みが増すにつれ、本発明の作用がより効果的に発現された。実施例5では、嵩高な積層体であるにも関わらず、表面温度および中心温度が均一に(Tm)以上に加熱することができ、加熱工程時間も短時間とすることができた。一方、比較例5では加熱途中において積層体表面の過加熱による分解ガスの発生が確認され、積層体の表面温度および中心温度を(Tm)以上に均一に加熱することができなかった。
【0105】
表3に示したとおり、実施例6および7では、偏肉積層体であっても、積層体の表面温度および中心温度を(Tm)以上に均一に加熱することができたのに対し、比較例6および7では、薄肉部が過加熱されたことで分解ガスが発生し、積層体の表面温度および中心温度を(Tm)以上に均一に加熱することができなかった。
【0106】
表1〜3に示した実施例1〜7では、形状賦形性および表面外観において、いずれも良好な成形品が得られており、加えて、実施例1〜7の加熱工程の時短効果を反映して、成形工程においても優れた時短効果を発現した。一方、比較例1〜4では、良好な成形品が得られたものの、時短効果としては大きな効果は認められなかった。また、比較例5〜7では、積層体の加熱が十分でないため、形状賦形が十分になされなかったうえ、成形品表面において分解ガスによるガス焼けの欠陥が認められた。
【符号の説明】
【0107】
1a、4、5、7、8 成形材料(単層体)
1b、1b′、1c、1c′、6、9 成形材料(積層体)、プリフォーム
TA1、TB1、TC1 成形材料(単層体)、成形材料(積層体)ないしプリフォームの表面温度
TA2、TB2、TC2 成形材料(単層体)、成形材料(積層体)ないしプリフォームの中心温度
t1 成形材料(単層体)ないし成形材料(積層体)の加熱前の厚み
t2 成形材料(単層体)ないし成形材料(積層体)の加熱後の厚み
t3 プリフォームの加熱前の厚み
2 自動搬送装置
3a 遠赤外線ヒーター式オーブン
3b 遠赤外線ヒーター式オーブン
10 圧縮成形機
11 金型
12、17、21 成形品
13、16、20 立ち壁
14、17、21 天板
18、22 厚肉部
23 リブ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不連続強化繊維基材に熱可塑性樹脂を含浸してなる成形材料を、次の(A)〜(C)の工程を経て加熱して後、プレス成形する成形品の製造方法であって、(A)の工程がオフラインにて実施されることを特徴とする、成形品の製造方法。
(A)成形材料を加熱して、その表面温度(TA1)および中心温度(TA2)のそれぞれが成形温度域となるまで昇温する工程であって、成形材料の加熱前の厚み(t1)と加熱後の厚み(t2)との比(t2/t1)が3〜15の範囲内である第一の加熱工程。
(B)(A)の工程を経た成形材料または該成形材料を積層して形成されたプリフォームである、成形品前駆体を第二の加熱工程(C)に搬送する工程であって、かかる工程中における成形品前駆体の表面温度(TB1)および中心温度(TB2)のそれぞれが、(TB1≦TA1)、および(TB2≧TA2−10)の関係を満たす搬送工程。
(C)成形品前駆体を加熱して、その表面温度(TC1)および中心温度(TC2)のそれぞれを、成形温度域まで昇温する第二の加熱工程。
【請求項2】
前記プリフォームの肉厚は、加熱前における厚みとして算出した総厚みが3〜10mmの範囲内である、請求項1に記載の成形品の製造方法。
【請求項3】
前記プリフォームが偏肉積層体である、請求項1または2に記載の成形品の製造方法。
【請求項4】
前記成形材料は、強化繊維体積含有量(Vf)が10〜40%の範囲内である、請求項1〜3のいずれかに記載の成形品の製造方法。
【請求項5】
前記強化繊維基材を構成する強化繊維が繊維長1〜12mmの範囲内である、請求項1〜4のいずれかに記載の成形品の製造方法。
【請求項6】
前記強化繊維基材を構成する強化繊維が炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、鉱物繊維から選択される少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれかに記載の成形品の製造方法。
【請求項7】
前記強化繊維基材を構成する強化繊維が炭素繊維である、請求項1〜5のいずれかに記載の成形品の製造方法。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂がポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテルイミド樹脂から選択される少なくとも1種である、請求項1〜7のいずれかに記載の成形品の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法にて得られる成形品が、自動車、電気電子機器、または、航空機用途に用いられる部品または部材である、成形品。
【請求項1】
不連続強化繊維基材に熱可塑性樹脂を含浸してなる成形材料を、次の(A)〜(C)の工程を経て加熱して後、プレス成形する成形品の製造方法であって、(A)の工程がオフラインにて実施されることを特徴とする、成形品の製造方法。
(A)成形材料を加熱して、その表面温度(TA1)および中心温度(TA2)のそれぞれが成形温度域となるまで昇温する工程であって、成形材料の加熱前の厚み(t1)と加熱後の厚み(t2)との比(t2/t1)が3〜15の範囲内である第一の加熱工程。
(B)(A)の工程を経た成形材料または該成形材料を積層して形成されたプリフォームである、成形品前駆体を第二の加熱工程(C)に搬送する工程であって、かかる工程中における成形品前駆体の表面温度(TB1)および中心温度(TB2)のそれぞれが、(TB1≦TA1)、および(TB2≧TA2−10)の関係を満たす搬送工程。
(C)成形品前駆体を加熱して、その表面温度(TC1)および中心温度(TC2)のそれぞれを、成形温度域まで昇温する第二の加熱工程。
【請求項2】
前記プリフォームの肉厚は、加熱前における厚みとして算出した総厚みが3〜10mmの範囲内である、請求項1に記載の成形品の製造方法。
【請求項3】
前記プリフォームが偏肉積層体である、請求項1または2に記載の成形品の製造方法。
【請求項4】
前記成形材料は、強化繊維体積含有量(Vf)が10〜40%の範囲内である、請求項1〜3のいずれかに記載の成形品の製造方法。
【請求項5】
前記強化繊維基材を構成する強化繊維が繊維長1〜12mmの範囲内である、請求項1〜4のいずれかに記載の成形品の製造方法。
【請求項6】
前記強化繊維基材を構成する強化繊維が炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、鉱物繊維から選択される少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれかに記載の成形品の製造方法。
【請求項7】
前記強化繊維基材を構成する強化繊維が炭素繊維である、請求項1〜5のいずれかに記載の成形品の製造方法。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂がポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテルイミド樹脂から選択される少なくとも1種である、請求項1〜7のいずれかに記載の成形品の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法にて得られる成形品が、自動車、電気電子機器、または、航空機用途に用いられる部品または部材である、成形品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−213946(P2012−213946A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81605(P2011−81605)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レーザーディスク
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「サステナブルハイパーコンポジット技術の開発」、 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レーザーディスク
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「サステナブルハイパーコンポジット技術の開発」、 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
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