説明

成形品の製造方法

【課題】 歩留まりを向上させることができるとともに、生産性を向上させることができる成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】 成形品としてのインストルメントパネルの表皮を成形する表皮成形工程は、表皮成形用固定金型31と表皮成形用移動金型32とで形成される表皮成形用キャビティ33に、第1ゲート34及び第2ゲート35から同じ射出圧で流動性がスパイラルフローで20〜70cmの範囲内の表皮成形用材料36を射出して表皮を成形する工程である。この工程において、表皮成形用キャビティ33からの表皮成形用材料36の漏れを抑制する漏れ抑制部位として接触部分32bを設定する。表皮成形用固定金型31には、第1ゲート34及び第2ゲート35を接触部分32bに対して第1ゲート34が第2ゲート35よりも近くなるように配設する。表皮成形用材料36の射出時には、第1ゲート34からの射出よりも第2ゲート35からの射出を先に行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば車両のインストルメントパネル等の基材と表皮とを備えた成形品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両のインストルメントパネル等の成形品は、基材と、この基材の表面を被覆する表皮とを備えている。この表皮は、予め基材を成形した後、低流動性の成形材料を用いたパウダースラッシュ成形法、真空成形法あるいはスプレー成形法等により、当該基材の表面で成形されていた。しかし、基材の表面で表皮を成形する場合、成形時に生じる成形材料の余剰分も多くなる傾向がある。このため、前に挙げた成形法では、表皮を成形するために必須とされる成形材料の必須量と、成形時に使用される成形材料の使用量との差が大きく、歩留まりの低下を招くとともに、生産量の増加を図りにくく、製造コストの高騰が懸念されていた。
【0003】
一方、金型の内部に形成されたキャビティ内に溶融樹脂を射出して成形品を成形する射出成形の場合、成形材料の必須量と成形材料の使用量との差は極僅かであり、歩留まりの向上、生産量の増加等を図ることも可能となる。但し、射出成形では、キャビティ内に隙無く成形材料を充填すべく、高流動性の成形材料を用い、同成形材料を所定の射出圧でキャビティ内に圧入する必要がある。このため、射出成形の場合には、キャビティ内から金型の合わせ面(パーティングライン面)等の隙間へ成形材料が漏出し、該漏出による余剰部、所謂バリが形成されやすいという難点がある。そして、射出成形後にバリを除去するための工程を設けなければならず、射出成形では、生産性の低下が懸念されていた。
【0004】
このようなバリ対策として、従来は、バリ厚さに影響を及ぼす成形条件と型開き量との相関関係からバリ厚さを抑制する射出成形条件設定方法が提案されている(特許文献1参照)。さらに、従来は、バリをランプ収納凹部の側面に発生させて、このランプ収納凹部にサイドマーカランプを取り付けてバリを隠すことでバリの除去作業を必要としない合成樹脂バンパーの成形装置が提案されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平5−345342号公報
【特許文献2】実開平6−64837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、インストルメントパネル等といった成形品においては、質感、美感等の品質に対する要求基準が年々高くなっており、中でも成形品の外面を構成することとなる表皮には、質感、美感等の品質に加え、薄さ、耐久性等までも要求される。そして、射出成形で表皮を形成する場合、特許文献1に示されるポリプロピレン、ABS等のような既存の成形材料では要求基準を満たすことはできず、既存の成形材料よりもさらに高流動性の成形材料を用いる必要があった。また、インストルメントパネル等といった近時の成形品においては、意匠性の向上を図るべく、表面を略面一化(フラッシュサーフェイス化)したデザインが主流となっている。このような成形品の場合、特に使用者によって目視される表皮においては、成形品と付属品との間に形成される段差、隙間等を可能な限り小さくすることを要求されており、特許文献2に示されるように付属品でバリを隠すことは困難であった。従って、特許文献1及び特許文献2に提案された方法、装置では、バリ対策として不十分であり、成形品の表皮を射出成形する方法については、バリの発生による生産性の低下が未だ懸念されている。
【0006】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、歩留まりを向上させることができるとともに、生産性を向上させることができる成形品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、基材と表皮とを備えた成形品の製造方法であって、前記基材を成形する基材成形工程と、前記表皮を成形する表皮成形工程と、基材上に表皮を接合する接合工程とを備え、前記表皮成形工程では、表皮成形用金型として、前記表皮を成形するための表皮成形用キャビティと、同表皮成形用キャビティに表皮成形用材料を射出するための複数のゲートとが設けられたものを使用し、該表皮成形用材料として、流動性がスパイラルフローで20〜70cmの範囲内のものを使用し、前記表皮として、前記表皮成形用金型が有する隙間への前記表皮成形用材料の漏出による余剰部の形成を抑制すべく設定された余剰抑制部位を有するものを成形することとして、前記複数のゲートについて、各ゲートからの前記表皮成形用材料の射出圧をそれぞれ同じとした条件下で、各ゲートから余剰抑制部位までの距離をそれぞれ比較し、当該距離が近いゲートに比べ、当該距離が遠いゲートから先に表皮成形用材料を射出することを要旨とする。
【0008】
上記構成によれば、表皮成形用材料には、スパイラルフローで20〜70cmの範囲内の高い流動性を持つものが使用される。一方、表皮においては、余剰部、所謂バリの形成を抑制すべく余剰抑制部位が設定されている。そして、余剰抑制部位を基準に、各ゲートからの射出圧を同じとし、余剰抑制部位からの距離が近いゲートに比べ、余剰抑制部位からの距離が遠いゲートから先に表皮成形用材料が射出される。すると、表皮成形用キャビティ内の余剰抑制部位と対応する部位には、余剰抑制部位からの距離が近いゲートに比べ、距離が遠いゲートから射出された表皮成形用材料が先に到達する。この表皮成形用材料は、余剰抑制部位と対応する部位に到達するまでに射出時の勢いが弱まっている。このため、高い流動性を持つ表皮成形用材料を使用する場合であっても、表皮成形用金型が有する隙間へ漏出しにくく、バリの形成が抑制される。その結果、パウダースラッシュ成形法、真空成形法あるいはスプレー成形法等に因らずとも、射出成形でバリの形成を抑制しつつ表皮を成形することが可能となり、歩留まりを向上させながら、生産性が向上されるようになる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、基材と表皮とを備えた成形品の製造方法であって、前記基材を成形する基材成形工程と、前記表皮を成形する表皮成形工程と、基材上に表皮を接合する接合工程とを備え、前記表皮成形工程では、表皮成形用金型として、前記表皮を成形するための表皮成形用キャビティと、同表皮成形用キャビティに表皮成形用材料を射出するための複数のゲートとが設けられたものを使用し、該表皮成形用材料として、流動性がスパイラルフローで20〜70cmの範囲内のものを使用し、前記表皮として、前記表皮成形用金型が有する隙間への前記表皮成形用材料の漏出による余剰部の形成を抑制すべく設定された余剰抑制部位を有するものを成形することとして、前記複数のゲートについて、各ゲートから余剰抑制部位までの距離をそれぞれ同じとした条件下で、各ゲートからの前記表皮成形用材料の射出圧をそれぞれ比較し、当該射出圧が低いゲートに比べ、当該射出圧が高いゲートから先に表皮成形用材料を射出することを要旨とする。
【0010】
上記構成によれば、表皮成形用材料には、スパイラルフローで20〜70cmの範囲内の高い流動性を持つものが使用される。一方、表皮においては、余剰部、所謂バリの形成を抑制すべく余剰抑制部位が設定されている。そして、余剰抑制部位を基準に、各ゲートからの距離を同じとし、射出圧が低いゲートに比べ、射出圧が高いゲートから先に表皮成形用材料が射出される。すると、表皮成形用キャビティ内の余剰抑制部位と対応する部位には、射出圧が低いゲートに比べ、射出圧が高いゲートから射出された表皮成形用材料が先に到達する。この表皮成形用材料は、余剰抑制部位と対応する部位に到達するまでに射出圧が低減している。このため、高い流動性を持つ表皮成形用材料を使用する場合であっても、表皮成形用金型が有する隙間へ漏出しにくく、バリの形成が抑制される。その結果、パウダースラッシュ成形法、真空成形法あるいはスプレー成形法等に因らずとも、射出成形でバリの形成を抑制しつつ表皮を成形することが可能となり、歩留まりを向上させながら、生産性が向上されるようになる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、基材と表皮とを備えた成形品の製造方法であって、前記基材を成形する基材成形工程と、前記表皮を成形する表皮成形工程と、基材上に表皮を接合する接合工程とを備え、前記表皮成形工程では、表皮成形用金型として、前記表皮を成形するための表皮成形用キャビティと、同表皮成形用キャビティに表皮成形用材料を射出するための複数のゲートとが設けられたものを使用し、該表皮成形用材料として、流動性がスパイラルフローで20〜70cmの範囲内のものを使用し、前記表皮として、前記表皮成形用金型が有する隙間への前記表皮成形用材料の漏出による余剰部の形成を抑制すべく設定された余剰抑制部位を有するものを成形することとして、前記複数のゲートについて、各ゲートから余剰抑制部位までの距離と、各ゲートからの前記表皮成形用材料の射出圧とをそれぞれ比較し、当該距離が近いゲート又は当該射出圧が低いゲートに比べ、当該距離が遠いゲート又は当該射出圧が高いゲートから先に表皮成形用材料を射出することを要旨とする。
【0012】
上記構成によれば、表皮成形用材料には、スパイラルフローで20〜70cmの範囲内の高い流動性を持つものが使用される。一方、表皮においては、余剰部、所謂バリの形成を抑制すべく余剰抑制部位が設定されている。そして、余剰抑制部位を基準に、各ゲートからの距離と射出圧とをそれぞれ比較し、距離が遠いゲート又は射出圧が高いゲートから先に表皮成形用材料を射出する。すると、表皮成形用キャビティ内の余剰抑制部位と対応する部位には、距離が遠いゲート又は射出圧が高いゲートから射出された表皮成形用材料が先に到達する。この表皮成形用材料は、余剰抑制部位と対応する部位に到達するまでに
射出圧が低減している。このため、高い流動性を持つ表皮成形用材料を使用する場合であっても、表皮成形用金型が有する隙間へ漏出しにくく、バリの形成が抑制される。その結果、パウダースラッシュ成形法、真空成形法あるいはスプレー成形法等に因らずとも、射出成形でバリの形成を抑制しつつ表皮を成形することが可能となり、歩留まりを向上させながら、生産性が向上されるようになる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、歩留まりを向上させることができるとともに、生産性を向上させることができる成形品の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(第1の実施形態)
以下、本発明を自動車のインストルメントパネルに具体化した第1の実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。なお、各実施形態の記載において、車両の進行方向(前進方向)を前方(車両前方)として説明する。また、特に説明がない限り、以下の記載における上下方向及び左右方向は、車両進行方向における上下方向及び左右方向と一致するものとする。
【0015】
図1に示すように、成形品としてのインストルメントパネル20は、ほぼ矩形状をなすように成形されている。インストルメントパネル20の左右の両端部にはサイドデフロスタ21及びサイドレジスタ22がそれぞれ形成されている。インストルメントパネル20の中央部には図示しないセンタークラスタが組み付けられる凹部23が形成されている。凹部23の左側には、図示しないメータクラスタが組み付けられる開口部24が形成されている。なお、前記サイドデフロスタ21及びサイドレジスタ22は、図示しない吹出グリルを取着するための取付け孔である。また、吹出グリル、センタークラスタ及びメータクラスタは、インストルメントパネル20に取着される付属品である。
【0016】
図2に示すように、インストルメントパネル20は、熱可塑性樹脂よりなる基材25と、同基材25上に設けられたウレタン樹脂層26と、同ウレタン樹脂層26上に設けられたTPO(サーモプラスチックオレフィン)よりなる表皮27とを備えた三層構造をなしている。これら基材25、ウレタン樹脂層26及び表皮27は、それぞれ射出成形によって成形されたものである。
【0017】
インストルメントパネル20は、図示しない車室内の前端部に組み付けられる。車室内に組み付けられたインストルメントパネル20は、車室内の各壁で覆われたり、前記付属品が取着されたり等することにより、外部から見えなくなる複数の部位を有している。外部から見えなくなる部位として、具体的には、インストルメントパネル20の左右の両側壁部28、前壁部29、凹部23及び開口部24が挙げられる。このような部位においては、バリが発生しても外観が損なわれたり、他の部品或いは付属品と面一で高精度に組み付けられたりすることがない。従って、このような部位は、前記表皮27を射出成形する際、バリの形成が許容されるバリ許容部位とされている。なお、バリとは、射出成形時において、金型が有する隙間へ成形用材料が漏出して形成される余剰部の一般呼称である。
【0018】
車室内に組み付けられたインストルメントパネル20は、バリ許容部位を有する一方で、他の部品或いは付属品と面一で高精度に組み付けられたり、外部から見えたり等することから、バリの形成を抑制すべき複数の部位も有している。例えば、インストルメントパネル20の下端部29aには、図示しないグラブボックスやロアカバーが面一で高精度に組み付けられる。サイドデフロスタ21及びサイドレジスタ22には、吹出グリルが面一で高精度に組み付けられる。また、下端部29a、サイドデフロスタ21及びサイドレジスタ22は、他の部品或いは付属品を組み付けても、外部から見える位置に存在する。従って、下端部29a、サイドデフロスタ21及びサイドレジスタ22は、前記表皮27を射出成形する際、バリの形成を抑制すべき余剰抑制部位に設定されている。そして、前記表皮27の余剰抑制部位にバリが形成された場合、外観が損なわれたり、他の部品と面一で高精度に組み付けたりすることが困難となる等の不具合を生じる。
【0019】
次に、インストルメントパネル20の製造方法について説明する。
図3に示すように、インストルメントパネル20は、基材25を成形する基材成形工程(ステップS1)と、表皮27を成形する表皮成形工程(ステップS2)と、基材25上に表皮27を接合する接合工程(ステップS3)とを経て製造される。
【0020】
基材成形工程(ステップS1)では、まず図示しない基材成形用固定金型と基材成形用移動金型とで型締めを行うことで、これらの金型により図示しない基材成形用キャビティを形成する(ステップS4)。続いて、基材成形用キャビティに図示しないゲートから溶融状態の熱可塑性樹脂を射出することにより基材成形用キャビティに熱可塑性樹脂を充填し、固化させる(ステップS5)。その後、基材成形用固定金型と基材成形用移動金型との型開きを行い(ステップS6)、基材成形用移動金型上の基材25を取り出す(ステップS7)。
【0021】
ここで、表皮成形工程(ステップS2)で表皮27を成形する際に用いる表皮成形用金型について説明する。
図4(a)、(b)に示すように、表皮を成形するための表皮成形用金型30は、表皮成形用固定金型31と表皮成形用移動金型32とを備えている。これら表皮成形用固定金型31及び表皮成形用移動金型32を型締めすることにより、表皮成形用金型30の内部には表皮成形用キャビティ33が形成されるようになっている。また、表皮成形用移動金型32のキャビティ面には、サイドレジスタ22を形成するための凸部32aが設けられている。
【0022】
表皮成形用キャビティ33に表皮成形用材料36を射出する際、表皮成形用金型30が有する隙間である表皮成形用固定金型31と表皮成形用移動金型32との接触部分に表皮成形用材料36が漏出することにより、表皮27にバリが形成される。このため、表皮成形用金型には、前記バリ許容部位及び余剰抑制部位に基づき、表皮成形用キャビティ33からの表皮成形用材料36の漏れを許容する漏れ許容部位と、表皮成形用キャビティ33からの表皮成形用材料36の漏れを抑制する漏れ抑制部位とが設定されている。本実施形態においては、余剰抑制部位であるサイドレジスタ22に基づき、同サイドレジスタ22を成形する部分で表皮成形用材料36が漏出しやすい部位、つまりは図4(a)、(b)中で表皮成形用固定金型31のキャビティ面と凸部32aとの接触部分32bを漏れ抑制部位としている。以下、接触部分32bを漏れ抑制部位として説明する。
【0023】
表皮成形用固定金型31には、表皮成形用キャビティ33に表皮成形用材料36を射出するためのゲートとして第1ゲート34及び第2ゲート35が設けられている。接触部分32bを基準として、第1ゲート34から接触部分32bまでの距離と、第2ゲート35から接触部分32bまでの距離とを比較した場合、第1ゲート34よりも第2ゲート35は前記接触部分32bに対して遠い位置に配設されている。また、本実施形態では、第1ゲート34及び第2ゲート35から表皮成形用キャビティ33に射出される表皮成形用材料の射出圧をそれぞれ同じとした条件下で成形を行うこととする。
【0024】
表皮成形工程(ステップS2)では、図4(a)に示すように、表皮成形用固定金型31と表皮成形用移動金型32とで型締めを行うことで、表皮成形用キャビティ33を形成する(ステップS8)。続いて、図4(b)に示すように、表皮成形用キャビティ33に第1ゲート34及び第2ゲート35から表皮成形用材料36を射出することにより表皮成形用キャビティ33に表皮成形用材料36を充填し、固化させる(ステップS9)。その後、表皮成形用固定金型31と表皮成形用移動金型32との型開きを行い(ステップS10)、表皮成形用移動金型32上の表皮27を取り出す(ステップS11)。
【0025】
前記表皮成形用材料36を充填し、固化させる工程S9では、まず先に第2ゲート35から表皮成形用材料を射出した後、第1ゲート34から表皮成形用材料36を射出する。すると、表皮成形用キャビティ33内における表皮成形用材料36の流路のうち、第2ゲート35から漏れ抑制部位である接触部分32bまでの流路がまず先に確定し、以後はこの流路が主となる。そして、接触部分32bには、第2ゲート35から射出された表皮成形用材料36が主に到達するようになる。
【0026】
第2ゲート35から接触部分32bまでの流路を流動する表皮成形用材料36は、接触部分32bに到達する迄に射出時の勢いが弱まる。また、第1ゲート34から表皮成形用材料36を射出した後は、第1ゲート34から射出された表皮成形用材料36に干渉されることにより、射出時の勢いはさらに弱まる。そして、射出時の勢いが弱められた状態で接触部分32bに到達した表皮成形用材料36は、該接触部分32bに加える圧力も極僅かなものとなるため、接触部分32bに表皮成形用材料36が入り込み難くなる。加えて、射出時の勢いが弱められた状態で接触部分32bに到達した表皮成形用材料36は、接触部分32bに入り込むことなく固化を開始することにより、該接触部分32bをシールし、後に到達した表皮成形用材料36が接触部分32bに入り込むことを抑制する。
【0027】
表皮成形用材料36には、流動性がスパイラルフローで20〜70cmの範囲内(測定条件:測定する材料の温度は摂氏200度、圧力は10〜60MPa、渦巻き状のキャビティの内径は10mm)のものが使用される。スパイラルフローが70よりも大きければ、表皮成形用材料36が表皮成形用キャビティ33から接触部分32bに入り込み易くなり、成形後における表皮27の余剰抑制部位であるサイドレジスタ22部分にバリが発生し易くなる。スパイラルフローが20よりも小さければ、表皮成形用キャビティ33へ表皮成形用材料36を充填させる時間が長くなり、表皮27の歩留まりが悪化してしまう。具体的な表皮成形用材料36としては、TPOやPVC(ポリ塩化ビニル)等が挙げられる。
【0028】
接合工程(ステップS3)では、基材25と表皮27とを接合するための図示しない接合用固定金型と接合用移動金型との型開きを行い、接合用移動金型のキャビティ面に基材成形工程(ステップS1)で成形した基材25を配置し、接合用固定金型のキャビティ面に表皮成形工程(ステップS2)で成形した表皮27を配置する(ステップS12)。続いて、接合用固定金型と接合用移動金型との型締めを行う(ステップS13)。このとき、接合用固定金型と接合用移動金型とで形成される図示しない接合用キャビティの基材25と表皮27との間に隙間が形成されるようにしておく。引き続き、この隙間に図示しないゲートからウレタン樹脂を射出して充填する(ステップS14)。この充填したウレタン樹脂が固化することにより、基材25と表皮27とがウレタン樹脂の接着作用により接合される。これにより、基材25と表皮27との間にウレタン樹脂層26が形成され、インストルメントパネル20が形成される。その後、接合用固定金型と接合用移動金型との型開きを行い(ステップS15)、接合用移動金型上のインストルメントパネル20を取り出す(ステップS16)。
【0029】
以上詳述した第1の実施形態によれば次のような効果が発揮される。
・ 表皮成形工程では、漏れ抑制部位である接触部分32bから近い位置にある第1ゲート34よりも接触部分32bから遠い位置にある第2ゲート35から先に表皮成形用材料36が射出される。このため、第2ゲート35から射出された表皮成形用材料36と第1ゲート34から射出された表皮成形用材料36とが干渉し合う等することにより、表皮成形用材料36の射出時の勢いが弱められる。このため、接触部分32bに表皮成形用材料36をその勢いを弱めた状態で到達させることができるため、同接触部分32bに加わる表皮成形用材料36による圧力を低減することができる。したがって、表皮成形用キャビティ33から接触部分32bに表皮成形用材料が流れ込むことを抑制することができる。
【0030】
・ 車室内へのインストルメントパネル20の組み付け後に、表皮27の余剰抑制部位が外部から見える位置または他の部材に高精度で着接させる位置に位置し、表皮27のバリ許容部位が外部から見えない位置または他の部材に高精度で着接させる必要のない位置に位置するように漏れ抑制部位と漏れ許容部位とを設定している。このため、後工程でバリの除去作業を不要とすることができる。
【0031】
・ スパイラルフローで20〜70cmの範囲内の高い流動性を持つ表皮成形用材料36を射出して表皮27を成形しているため、表皮成形用キャビティ33への表皮成形用材料36の充填時間を短くすることができ、歩留まりを向上させることができる。この結果、表皮27の生産性、換言すればインストルメントパネル20の生産性を向上させることができる。
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態を図5に基づいて説明する。なお、これ以降の各実施形態においては、前記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0032】
図5(a)に示すように、本実施形態の表皮成形用金型30において、表皮成形用固定金型31には、第1ゲート34及び第2ゲート35が、第1ゲート34から接触部分32bまでの距離と第2ゲート35から接触部分32bまでの距離とが等しくなるように配設されている。また、本実施形態では、第1ゲート34からの表皮成形用材料36の射出圧を第2ゲート35からの表皮成形用材料36の射出圧よりも低くした条件下で成形を行うこととする。
【0033】
図5(b)に示すように、表皮成形用キャビティ33内に表皮成形用材料36を充填し、固化させる工程では、まず先に第2ゲート35から表皮成形用材料36を射出した後、第1ゲート34から表皮成形用材料36を射出する。これにより、接触部分32bには、第2ゲート35から射出された表皮成形用材料36がまず先に到達する。ここで、第2ゲート35から接触部分32bまでを流動する表皮成形用材料36は、接触部分32bに到達する迄に射出時の射出圧を保持することはできず、その圧力が低減する。また、第1ゲート34から表皮成形用材料36を射出した後においては、第2ゲート35から射出された表皮成形用材料36は、第1ゲート34から射出された表皮成形用材料36に干渉されることにより、第2ゲート35から射出された表皮成形用材料36の圧力はさらに低減する。そして、圧力が低減された状態で接触部分32bに到達した表皮成形用材料36は、接触部分32bに入り込み難くなる。加えて、圧力が低減された状態で接触部分32bに到達した表皮成形用材料36は、接触部分32bに入り込むことなく固化を開始することにより、該接触部分32bをシールし、後に到達した表皮成形用材料36が接触部分32bに入り込むことを抑制する。
【0034】
従って、本実施形態の表皮成形工程では、射出圧が低い第1ゲート34よりも射出圧が高い第2ゲート35から先に表皮成形用材料36を射出することにより、接触部分32bに到達する表皮成形用材料36の圧力を低減させることができ、接触部分32bに表皮成形用材料36が流れ込むことを抑制することができる。
(第3の実施形態)
以下、本発明の第3の実施形態を図6に基づいて説明する。
【0035】
図6(a)に示すように、本実施形態の表皮成形用金型30において、表皮成形用固定金型31には、第1ゲート34及び第2ゲート35が接触部分32bからの距離が互いに等しくなるように配設されている。さらに、この表皮成形用固定金型31には、接触部分32bに対して第1ゲート34及び第2ゲート35よりも遠い位置に第3ゲート37が配設されている。また、本実施形態では、第1ゲート34からの表皮成形用材料36の射出圧を第2ゲート35からの表皮成形用材料36の射出圧よりも低くし、さらに第3ゲート37からの表皮成形用材料36の射出圧を第2ゲート35からの表皮成形用材料36の射出圧と等しくした条件下で成形を行うこととする。
【0036】
図6(b)に示すように、表皮成形用キャビティ33内に表皮成形用材料36を充填し、固化させる工程では、まず先に第3ゲート37から表皮成形用材料36を射出し、次いで第2ゲート35から表皮成形用材料36を射出し、最後に第1ゲート34から表皮成形用材料36を射出する。接触部分32bには、第3ゲート37から射出された表皮成形用材料がまず先に到達する。ここで、第3ゲート37から接触部分32bまでを流動する表皮成形用材料36は、接触部分32bに到達する迄、射出時の勢い及び射出圧を保持することはできず、その流速及び圧力が低減する。また、第2ゲート35及び第1ゲート34から表皮成形用材料36を射出した後は、両ゲート34,35から射出された表皮成形用材料36に干渉されることにより、第3ゲート37から射出された表皮成形用材料36の流速及び圧力はさらに低減する。そして、流速及び圧力が低減された状態で接触部分32bに到達した表皮成形用材料36は、接触部分32bに入り込み難くなる。加えて、流速及び圧力が低減された状態で接触部分32bに到達した表皮成形用材料36は、接触部分32bに入り込むことなく固化を開始することにより、該接触部分32bをシールし、後に到達した表皮成形用材料36が接触部分32bに入り込むことを抑制する。
【0037】
従って、本実施形態の表皮成形工程では、接触部分32bから遠く、且つ射出圧が高い第3ゲート37からまず先に表皮成形用材料36を射出することにより、接触部分32bに到達する表皮成形用材料36の流速及び圧力を低減させることができ、接触部分32bに表皮成形用材料36が流れ込むことを抑制することができる。
【0038】
(変更例)
なお、前記実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 前記実施形態の成形品の製造方法により、インストルメントパネル20以外にも、例えば車両のコンソールサイドパッド等の各種内装部品を製造するようにしてもよい。この場合、成形する成形品の余剰抑制部位及びバリ許容部位に基づいて、それぞれ漏れ抑制部位及び漏れ許容部位を適宜設定する必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】第1の実施形態のインストルメントパネルを示す斜視図。
【図2】図1の2−2線における拡大断面図。
【図3】インストルメントパネルの製造工程を示すフローチャート。
【図4】(a)は表皮成形用金型の型締め状態を示す要部断面図、(b)は表皮成形用キャビティに表皮成形用材料を射出した状態を示す要部断面図。
【図5】(a)は第2の実施形態における表皮成形用金型の型締め状態を示す要部断面図、(b)は第2の実施形態における表皮成形用キャビティに表皮成形用材料を射出した状態を示す要部断面図。
【図6】(a)は第3の実施形態における表皮成形用金型の型締め状態を示す要部断面図、(b)は第3の実施形態における表皮成形用キャビティに表皮成形用材料を射出した状態を示す要部断面図。
【符号の説明】
【0040】
20…成形品としてのインストルメントパネル、22…余剰抑制部位としてのサイドレジスタ、25…基材、27…表皮、30…表皮成形用金型、31…表皮成形用固定金型、32…表皮成形用移動金型、32b…漏れ抑制部位としての接触部分、33…表皮成形用キャビティ、34…ゲートとしての第1ゲート、35…ゲートとしての第2ゲート、36…表皮成形用材料、37…ゲートとしての第3ゲート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と表皮とを備えた成形品の製造方法であって、
前記基材を成形する基材成形工程と、前記表皮を成形する表皮成形工程と、基材上に表皮を接合する接合工程とを備え、
前記表皮成形工程では、表皮成形用金型として、前記表皮を成形するための表皮成形用キャビティと、同表皮成形用キャビティに表皮成形用材料を射出するための複数のゲートとが設けられたものを使用し、該表皮成形用材料として、流動性がスパイラルフローで20〜70cmの範囲内のものを使用し、前記表皮として、前記表皮成形用金型が有する隙間への前記表皮成形用材料の漏出による余剰部の形成を抑制すべく設定された余剰抑制部位を有するものを成形することとして、
前記複数のゲートについて、各ゲートからの前記表皮成形用材料の射出圧をそれぞれ同じとした条件下で、各ゲートから余剰抑制部位までの距離をそれぞれ比較し、当該距離が近いゲートに比べ、当該距離が遠いゲートから先に表皮成形用材料を射出する
ことを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項2】
基材と表皮とを備えた成形品の製造方法であって、
前記基材を成形する基材成形工程と、前記表皮を成形する表皮成形工程と、基材上に表皮を接合する接合工程とを備え、
前記表皮成形工程では、表皮成形用金型として、前記表皮を成形するための表皮成形用キャビティと、同表皮成形用キャビティに表皮成形用材料を射出するための複数のゲートとが設けられたものを使用し、該表皮成形用材料として、流動性がスパイラルフローで20〜70cmの範囲内のものを使用し、前記表皮として、前記表皮成形用金型が有する隙間への前記表皮成形用材料の漏出による余剰部の形成を抑制すべく設定された余剰抑制部位を有するものを成形することとして、
前記複数のゲートについて、各ゲートから余剰抑制部位までの距離をそれぞれ同じとした条件下で、各ゲートからの前記表皮成形用材料の射出圧をそれぞれ比較し、当該射出圧が低いゲートに比べ、当該射出圧が高いゲートから先に表皮成形用材料を射出する
ことを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項3】
基材と表皮とを備えた成形品の製造方法であって、
前記基材を成形する基材成形工程と、前記表皮を成形する表皮成形工程と、基材上に表皮を接合する接合工程とを備え、
前記表皮成形工程では、表皮成形用金型として、前記表皮を成形するための表皮成形用キャビティと、同表皮成形用キャビティに表皮成形用材料を射出するための複数のゲートとが設けられたものを使用し、該表皮成形用材料として、流動性がスパイラルフローで20〜70cmの範囲内のものを使用し、前記表皮として、前記表皮成形用金型が有する隙間への前記表皮成形用材料の漏出による余剰部の形成を抑制すべく設定された余剰抑制部位を有するものを成形することとして、
前記複数のゲートについて、各ゲートから余剰抑制部位までの距離と、各ゲートからの前記表皮成形用材料の射出圧とをそれぞれ比較し、当該距離が近いゲート又は当該射出圧が低いゲートに比べ、当該距離が遠いゲート又は当該射出圧が高いゲートから先に表皮成形用材料を射出する
ことを特徴とする成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−88542(P2006−88542A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−277507(P2004−277507)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】