成形品及び成形品の製造方法
【課題】高分子型帯電防止剤の使用量の低減を図りつつ樹脂フィルムや発泡シートなどといった成形品の帯電防止を図ること。
【解決手段】高分子型帯電防止剤を含んだポリマー組成物によって少なくとも一部の表面が形成されている成形品であって、2種類以上の互いに非相溶なポリマーが前記ポリマー組成物に含有されてマトリックス相と該マトリックス相中に分散された分散相とが少なくとも前記表面に形成されており、しかも、前記高分子型帯電防止剤として、前記マトリックス相と前記分散相とのいずれにも非相溶性を示す高分子型帯電防止剤が用いられて該高分子型帯電防止剤を外殻としたコアシェル状粒子となって前記分散相が形成されていることを特徴とする成形品等を提供する。
【解決手段】高分子型帯電防止剤を含んだポリマー組成物によって少なくとも一部の表面が形成されている成形品であって、2種類以上の互いに非相溶なポリマーが前記ポリマー組成物に含有されてマトリックス相と該マトリックス相中に分散された分散相とが少なくとも前記表面に形成されており、しかも、前記高分子型帯電防止剤として、前記マトリックス相と前記分散相とのいずれにも非相溶性を示す高分子型帯電防止剤が用いられて該高分子型帯電防止剤を外殻としたコアシェル状粒子となって前記分散相が形成されていることを特徴とする成形品等を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品及び成形品の製造方法に関し、より詳しくは、高分子型帯電防止剤を含んだポリマー組成物によって少なくとも一部の表面が形成されている成形品、及び、高分子型帯電防止剤を含んだポリマー組成物によって少なくとも一部の表面が形成されている成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂やエラストマーなどのポリマーを主成分としたポリマー組成物は、各種成形品の形成材料として広く採用されている。
例えば、インフレーションフィルムや発泡シートなどといった押出し成形品、及び、その二次加工品、ポリマー組成物を射出成形やトランスファー成形した成形品、ポリマー繊維が織製された布帛状物や不織布といった成形品の形成材料として広く採用されている。
【0003】
ところで、ポリマー組成物で形成された成形品は、一般には、静電気によって帯電されやすく、その表面に埃等が付着して汚れを生じやすいという問題を有している。
また、電気・電子部品の容器として用いられるような成形品においては、静電気による帯電が生じると蓄えられた静電気をこれらの部品に放電して故障を引き起こすおそれを有する。
このような問題は、ポリマー組成物だけで形成されている成形品のみならず、ガラスやセラミックスなど他の形成材料からなる部材とポリマー組成物からなる部材との複合成形品などにおいても生じうる問題であり、例えば、ガラス繊維強化プラスチック成形品などの少なくとも一部の表面がポリマー組成物によって形成されている成形品であれば起こりうる問題である。
【0004】
一般に、このような静電気による諸問題は、このポリマー組成物による形成箇所の表面抵抗率の値を低下させることで防止されることが知られており、例えば、一般的な樹脂フィルムの表面抵抗率の値が、通常、1015(Ω/□)オーダーを超えるレベルであるのに対してこれを1013(Ω/□)オーダー以下に低下させることで上述のような問題の発生が防止され得ることが知られている。
【0005】
この表面抵抗率を低下させる手法として、成形品を形成させる樹脂組成物中に帯電防止剤と呼ばれる成分を含有させる方法が採用されており、従来、界面活性剤などのような成分を樹脂フィルムや発泡シートなどの形成材料中に含有させることが行われている。
この界面活性剤などの分子量が1000程度、あるいは、それ以下のものは“低分子型帯電防止剤”とも呼ばれており、これらの低分子型帯電防止剤は、帯電防止に有効ではあるものの一般的なポリマー中における拡散速度が大きいために時間の経過にともなって樹脂フィルム等の成形品の表面に滲出して、いわゆる“ブリードアウト”するという問題を発生させるおそれを有する。
【0006】
近年、このようなことから、低分子型帯電防止剤に代えて分子量が1000を超え、数万に及ぶような高分子量の物質で帯電防止に有効な、いわゆる“高分子型帯電防止剤”の利用が検討されている(下記特許文献1参照)。
この特許文献1に係る高分子型帯電防止剤は、エーテル結合やエステル結合を含んだ極性ブロックと、アルキルなどからなる非極性ブロックとを有する共重合体であり、ポリマー中における移行性が低いことから、このような高分子型帯電防止剤を用いることでブリードアウトの問題を抑制させることができる。
一方で、高分子型帯電防止剤は、比較的、大量に配合しないと効果が発揮されず、しかも、一般的な成形品の形成用いられるポリマーに比べてはるかに高価であるために、このような高分子型帯電防止剤によって成形品の帯電防止を図ろうとすると材料コストを増大させてしまい、成形品の汎用性を低下させるおそれを有する。
【0007】
このようなことを防止すべく高分子型帯電防止剤を少ない量で有効に作用させるための検討が広く行われているが、その手法は確立されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−274031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高分子型帯電防止剤の使用量の低減を図りつつ樹脂フィルムや発泡シートなどといった成形品の帯電防止を図ることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための成形品に係る本発明は、高分子型帯電防止剤を含んだポリマー組成物によって少なくとも一部の表面が形成されている成形品であって、2種類以上の互いに非相溶なポリマーが前記ポリマー組成物に含有されてマトリックス相と該マトリックス相中に分散された分散相とが少なくとも前記表面に形成されており、しかも、前記高分子型帯電防止剤として、前記マトリックス相と前記分散相とのいずれにも非相溶性を示す高分子型帯電防止剤が用いられて該高分子型帯電防止剤を外殻としたコアシェル状粒子となって前記分散相が形成されていることを特徴としている。
【0011】
また、上記課題を解決するための成形品の製造方法に係る本発明は、高分子型帯電防止剤を含んだポリマー組成物によって少なくとも一部の表面が形成されている成形品の製造方法であって、2種類以上の互いに非相溶なポリマーが含有されている前記ポリマー組成物を用いることによりマトリックス相と該マトリックス相中に分散された分散相とを前記表面に形成させ、しかも、前記高分子型帯電防止剤として、前記マトリックス相と前記分散相とのいずれにも非相溶性を示す高分子型帯電防止剤を用いて該高分子型帯電防止剤を外殻としたコアシェル状粒子となるように前記分散相を形成させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、成形品の表面においてマトリックス相中に分散された分散相が形成され、いわゆる“海島構造”が形成される。
そして、本発明においては、前記マトリックス相と前記分散相とのいずれにも非相溶性を示す高分子型帯電防止剤が用いられることで該高分子型帯電防止剤を外殻としたコアシェル状粒子となるように前記分散相が形成される。
したがって、分散相の表面全体を導電路として利用することができ、単に高分子型帯電防止剤のみを分散させている場合と違って、成形品の表面の電気抵抗値を大きく低下させうる。
すなわち、高分子型帯電防止剤の使用量の低減を図りつつ帯電防止を図り得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】高分子型帯電防止剤の含有量とポリオレフィン系樹脂フィルムの表面抵抗率の値との関係を示すグラフ。
【図2】高分子型帯電防止剤の含有量とポリオレフィン系樹脂フィルムの表面抵抗率の値との関係を示すグラフ。
【図3】成形品の製造事例1において作製されたポリオレフィン系樹脂フィルムの表面部の透過型電子顕微鏡写真。
【図4】成形品の製造事例4において作製されたポリオレフィン系樹脂フィルムの表面部の透過型電子顕微鏡写真。
【図5】成形品の製造事例7において作製されたポリオレフィン系樹脂フィルムの表面部の透過型電子顕微鏡写真。
【図6】成形品の製造事例8において作製されたポリオレフィン系樹脂発泡シートの表面部の透過型電子顕微鏡写真。
【図7】成形品の製造事例10において作製されたポリスチレン系樹脂フィルムの表面部の透過型電子顕微鏡写真。
【図8】成形品の製造事例13において作製されたポリ乳酸系樹脂フィルムの表面部の透過型電子顕微鏡写真。
【図9】成形品の製造事例14において作製されたポリ乳酸系樹脂発泡シートの表面部の透過型電子顕微鏡写真。
【図10】参考例5のポリエチレン系樹脂フィルムの表面部の透過型電子顕微鏡写真。
【図11】参考例6のポリエチレン系樹脂フィルムの表面部の透過型電子顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第一実施形態)
本発明に係る成形品及びその製造方法の第一の実施形態として樹脂フィルムとその製造方法とについて以説明する。
まず、前記樹脂フィルムを形成するための樹脂組成物について説明する。
【0015】
本実施形態の樹脂フィルムにおいては、2種類以上の互いに非相溶な樹脂を高分子型帯電防止剤とともにその形成材料として使用することが当該高分子型帯電防止剤の使用量を抑制しつつ樹脂フィルムに優れた帯電防止効果を発揮させる上において重要である。
このことによって樹脂フィルムの表面においてマトリックス相と分散相とを形成させ得る。
【0016】
また、本実施形態の樹脂フィルムにおいては、前記高分子型帯電防止剤として、前記マトリックス相と前記分散相とのいずれにも非相溶性を示す高分子型帯電防止剤を用いることが当該高分子型帯電防止剤の使用量を抑制しつつ樹脂フィルムに優れた帯電防止効果を発揮させる上において重要である。
このことによって、例えば、前記マトリックス相を形成させるための樹脂と、該樹脂に対して非相溶性を示す前記分散相を形成させるための樹脂と、前記高分子型帯電防止剤とを加熱溶融させて押出し機でフィルム状に押し出す際などにおいて、前記高分子型帯電防止剤をマトリックス相と分散相との界面に析出させて当該高分子型帯電防止剤を外殻としたコアシェル状粒子となるように前記分散相を形成させることができる。
したがって、この分散相の表面を導電路として利用することができ、高分子型帯電防止剤の使用量を削減しつつ大きな導電路を樹脂フィルム表面に形成させることができる。
【0017】
なお、マトリックス相と分散相との形成材料は、それぞれ単独の樹脂種とする必要はなく、例えば、互いに相溶性を示す1以上の樹脂で構成させればよい。
通常、極性等を近似させて、溶解度パラメータ(SP値)の値の差が0.5〜1.0以下のポリマーどうしは相溶性を示し、これ以上SP値が離れると非相溶性を示すようになるといわれている。
したがって、SP値の近いポリマーを複数用いてマトリックス相を形成させ、これらのポリマーとはSP値が大きく離れるポリマーを複数用いて分散相を形成させることができる。
【0018】
このマトリックス相と分散相とは、その形成材料の割合によって相を逆転させうる。
例えば、極性の低い、一般的にはSP値の低い樹脂(以下「非極性樹脂成分」ともいう)と、この樹脂よりも極性が高くSP値が高い樹脂(以下「極性樹脂成分」ともいう)とでマトリックス相と分散相とを形成させるのに際して、前記非極性樹脂成分を前記極性樹脂成分よりも大過剰となるように本実施形態に係る樹脂フィルムを構成する樹脂組成物に含有させると、当該非極性樹脂成分が前記樹脂フィルム表面において連続相を形成してマトリックス相を形成するとともに前記極性樹脂成分が粒子状に分散して分散相を形成することになる。
一方で、同じ非極性樹脂成分と極性樹脂成分とを用いながらも、極性樹脂成分を非極性樹脂成分に対して大過剰となるように前記樹脂組成物に含有させた場合には、前記極性樹脂成分が連続相となってマトリックス相を形成し、前記非極性樹脂成分が分散相を形成することになる。
【0019】
なお、前記溶解度パラメータは、通常、Fedorsの式によって求められる。
【0020】
前記マトリックス相や前記分散相を形成させるための比較的極性の低い樹脂種としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂が挙げられる。
これらは、数多くのグレードが市場に提供されており、求める特性のものを容易に見出し易いとともに比較的安価である点において本実施形態に係る成形品の好適な材料であるといえる。
【0021】
前記ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)系樹脂やポリプロピレン(PP)系樹脂が挙げられる。
前記ポリエチレン(PE)系樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン樹脂、中密度ポリエチレン樹脂、直鎖低密度ポリエチレン樹脂、(高圧法)低密度ポリエチレン樹脂などが挙げられる。
【0022】
前記ポリプロピレン(PP)系樹脂としては、プロピレン成分のみからなるホモポリプロピレン樹脂、プロピレン成分以外にエチレンなどのオレフィン成分を含有するランダム共重合体やブロック共重合体が挙げられる。
なお、PP系樹脂として共重合体を採用する場合には、プロピレン以外のオレフィンを共重合体中に0.5〜30質量%、特に好ましくは1〜10質量%の割合で含有させたものを用いることが望ましい。
この場合のオレフィン成分としては、エチレン、あるいは、炭素数4〜10のα−オレフィンを挙げることができる。
【0023】
また、本実施形態においては、前記樹脂フィルムを形成させるための樹脂組成物には、前記ポリエチレン(PE)系樹脂や前記ポリプロピレン(PP)系樹脂以外に、ポリブテン樹脂や、ポリ−4−メチルペンテン−1樹脂などをも前記非極性成分として含有させうる。
【0024】
前記ポリオレフィン系樹脂に対して非相溶性を示す樹脂としては、ポリスチレン系樹脂を挙げることができる。
前記ポリスチレン系樹脂としては、特に限定されるものではなく、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、i−プロピルスチレン、t−ブチルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン、クロロスチレン等のスチレン系単量体の単独重合体又はこれらの共重合体等が挙げられる。
又、上記ポリスチレン系樹脂としては、上記スチレン系単量体を主成分とする、上記スチレン系単量体とこのスチレン系単量体と共重合可能なビニル単量体との共重合体であってもよく、このようなビニル単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、ジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、エチルフマレートの他、ジビニルベンゼン、アルキレングリコールジメタクリレートなどの二官能性単量体などが挙げられる。
【0025】
すなわち、本発明で用いられるポリスチレン系樹脂は、上記に例示のスチレン系のモノマー成分の内のいずれかのみから構成されるホモポリマーであっても、上記に例示する各種モノマー成分を複数組み合わせてなるコポリマー(共重合体)であってもよい。
さらに、本実施形態においては、上記モノマー成分以外に他のモノマー成分を含有するスチレン系コポリマーを前記ポリスチレン系樹脂として採用し得る。
【0026】
上記のような極性の高いコモノマー成分をより多く採用することにより得られるポリスチレン系樹脂の極性が高くなり、SP値の高い極性樹脂成分として利用させ得る。
なお、Fedorsの式によれば、一般的なポリスチレン系樹脂が8.5〜10程度の値を示し、それほど高いSP値を示す樹脂ではないが、先にも述べたように、一般的にSP値を0.5〜1.0以上乖離させている樹脂どうしは非相溶になるといわれており、通常、PE樹脂ではSP値が8前後であることからポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂と該ポリスチレン系樹脂とは非相溶性な関係となる。
【0027】
また、SP値が9.0以上の極性樹脂成分を前記非極性樹脂の1種以上と併用することで、樹脂フィルムにマトリックス相と分散相とを形成させ得る。
【0028】
この極性樹脂成分として利用可能な樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂やポリ乳酸系樹脂が挙げられる。
【0029】
前記アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド類、及び(メタ)アクリロニトリルを主たるモノマー成分として得られる重合物を用いることができる。
なお、この“(メタ)アクリル”との用語は、本明細書中においては“メタクリル”と“アクリル”との両方を含む意味で用いている。
【0030】
より、具体的には、前記アクリル系樹脂を構成するモノマー成分としては、アクリル酸、メタクリル酸:アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル:例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸パルミチルまたはアクリル酸シクロヘキシル等のアルキル基の炭素数が1〜18のアクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸パルミチル及びメタクリル酸シクロヘキシル等のアルキル基の炭素数が1〜18程度のメタクリル酸アルキルエステルが挙げられる。
【0031】
さらに、前記アクリル系樹脂を構成するモノマー成分としては、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ヒドロキシブチル、メタクリル酸ヒドロキシブチル等の(メタ)アクリル酸の側鎖に水酸基を有するアルキルエステル;アクリル酸メトキシブチル、メタクリル酸メトキシブチル、アクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシブチル、メタクリル酸エトキシブチル等の(メタ)アクリル酸の側鎖にアルコキシル基を有するアルキルエステル;アクリル酸アリルやメタクリル酸アリル等の(メタ)アクリル酸のアルケニルエステル;アリルオキシエチルアクリレートやアリルオキシエチルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸のアルケニルオキシアルキルエステル;アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、並びにアクリル酸メチルグリシジルやメタクリル酸メチルグリシジル等のアクリル酸の側鎖にエポキシ基を有するアルキルエステル;アクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、アクリル酸メチルアミノエチル、メタクリル酸メチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸のモノ−又はジ−アルキルアミノアルキルエステル;側鎖としてシリル基、アルコキシシリル基または加水分解性アルコキシシリル基などを有するシリコーン変性(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
【0032】
加えて、前記アクリル系樹脂を構成するモノマー成分としては、アクリルアミド類またはメタクリルアミド類:例えばアクリルアミド;メタクリルアミド;N−メチロールアクリルアミド及びN−メチロールメタクリルアミド等のメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド;N−アルコキシメチロールアクリルアミド(例えば、N−イソブトキシメチロールアクリルアミド等)、及びN−アルコキシメチロールメタクリルアミド(例えば、N−イソブトキシメチロールメタクリルアミド等)等のアルコキシメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド;N−ブトキシメチルアクリルアミドやN−ブトキシメチルメタクリルアミドなどのアルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリルアミドなどを挙げることができる。
【0033】
また、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の各種のアクリル系単量体も前記アク
リル系樹脂を構成するモノマー成分として挙げることができる。
【0034】
これらのモノマー成分は、単独で、または複数を混合して使用することができる。
すなわち、本発明で用いられるアクリル系樹脂は、上記に例示の各種のモノマー成分の内のいずれかのみから構成されるホモポリマーであっても、上記に例示する各種モノマー成分を複数組み合わせてなるコポリマー(共重合体)であってもよい。
さらに、本実施形態においては、上記モノマー成分以外に他のモノマー成分を含有するコポリマーをアクリル系樹脂として用い得る。
【0035】
この、上記例示以外のモノマー成分としては、上記モノマー成分と共重合体を形成するものであれば特に制限されず、例えば、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、乳酸ビニル、酪酸ビニル、バーサティック酸ビニル及び安息香酸ビニルなどのビニル系単量体、エチレン、ブタジエン、スチレン等を挙げることができる。
【0036】
本実施形態におけるアクリル系樹脂としては、上記アクリル系のモノマー成分を単独、または複数用いたものの中では、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂が好適であり、PMMA樹脂は安価な市販品を入手することが容易である点などからも好適である。
また、上記アクリル系モノマー以外のモノマー成分と上記アクリル系モノマー成分とのコポリマーであれば、エチレン−アクリル酸共重合体(EAA)樹脂が好適である。
【0037】
前記ポリ乳酸(PLA)系樹脂としては、例えば、ポリD−乳酸樹脂、ポリL−乳酸樹脂、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との共重合体であるポリDL−乳酸樹脂、ポリD−乳酸樹脂とポリL−乳酸樹脂との混合物(ステレオコンプレックス)、ポリD−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリD−乳酸又はポリL−乳酸と脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとの共重合体を挙げることができ、これらは、単独、または、複数混合した状態で前記樹脂組成物に含有させうる。
【0038】
また、これら以外に、一般的に9.0以上のSP値を示す樹脂としては、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂などが挙げられる。
【0039】
なお、前記ポリメチルメタクリレート樹脂では一般に9.1〜9.5程度のSP値を有しているといわれており、例えば、汎用ポリスチレン樹脂(GPPS)などと呼ばれているスチレン系樹脂の内でもSP値の低いスチレンホモポリマーであれば、前記アクリル系樹脂や前記ポリ乳酸系樹脂との間に非相溶性が示される。
したがって、本発明における“2種類以上の互いに非相溶なポリマー”の具体的な組み合わせとしては、“ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、及び、これらの混合樹脂”と、“ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、及び、ポリ乳酸系樹脂のいずれかの樹脂”との組み合わせや、“ポリスチレン系樹脂”と“アクリル系樹脂、又は、ポリ乳酸系樹脂”との組み合わせなどが挙げられる。
【0040】
このような非相溶性を示す2種類以上の樹脂によってマトリックス相と分散相とを形成させる場合に、これらに対して非相溶性を示す高分子型帯電防止剤としては、例えば、マトリックス相を極性樹脂成分で形成させ、分散相を非極性樹脂成分で形成させるのであれば、マトリックス相を形成している樹脂よりも溶解度パラメータが低く、分散相を形成している樹脂よりも高い溶解度パラメータを有するポリマーを主成分とする高分子型帯電防止剤を用いることで、該高分子型帯電防止剤を、より確実に、非極性成分からなる樹脂粒子を取り巻く状態とすることができ、コアシェル型の分散相をより確実に形成させ得る。
【0041】
前記高分子型帯電防止剤としては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリエステルアミド、ポリエーテルエステルアミド、エチレン−メタクリル酸共重合体などのアイオノマー(アイオノマー樹脂)やポリエチレングリコールメタクリレート系共重合体等の第四級アンモニウム塩、特開2001−278985号公報等に記載のオレフィン系ブロックと親水性ブロックとの共重合体等が挙げられる。
【0042】
なかでも、上記例示の樹脂との相互作用を考慮した場合、オレフィン系ブロックと親水性ブロックとを有する共重合体が好ましく、ポリエーテル−ポリオレフィンブロック共重合体(ポリエーテル系ブロックとポリオレフィン系ブロックのブロック共重合体)を主成分とする高分子型帯電防止剤が好適に使用されうる。
特に、プロピレンを70モル%以上含むポリオレフィン系ブロックとポリエーテル系ブロックとのブロック共重合体を主成分とするものがより好ましい。
ここで、「主成分」とは、高分子型帯電防止剤中に占める上記のポリエーテル−ポリオレフィンブロック共重合体の割合が、50質量%以上であることをいう。
なお、上記のようなポリエーテル−ポリオレフィンブロック共重合体は、高分子型帯電防止剤中に70質量%以上含有されていることがより好ましく、80質量%以上含有されていることが特に好ましい。
さらには、実質上、上記ポリエーテル−ポリオレフィンブロック共重合体のみからなる高分子型帯電防止剤を利用することが最も好ましい。
【0043】
なお、帯電防止効果を高めるために、本実施形態に係る樹脂フィルムを形成させるための樹脂組成物には、アルキルベンゼンスルホン酸塩、デシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのようなアニオン性界面活性剤や、その他の界面活性剤又はアルカリ金属塩などの低分子型帯電防止剤を併用してもよい。
ただし、これらの添加によって、溶出イオン量が増加することがあるので使用量は、樹脂組成物に含有される帯電防止剤(高分子型帯電防止剤+低分子型帯電防止剤)の合計量に占める割合が0.5質量%未満とさせることが好ましい。
【0044】
本実施形態の樹脂組成物における前記マトリックス相形成用樹脂と前記分散相形成用樹脂との配合割合や、高分子型帯電防止剤の含有量などは特に限定されるものではないが、一般に帯電防止が求められる樹脂フィルムの表面抵抗率としては、1×108〜1×1013Ω/□のいずれかであることが好ましいことから、このような表面抵抗率を樹脂フィルムに付与させ得る配合の中で、より高分子型帯電防止剤の含有量の低減が可能な配合割合を選択することが好ましい。
なお、樹脂フィルムの表面抵抗率は、1×109〜1×1012Ω/□のいずれかとさせることがより好ましく、1×109〜1×1011Ω/□のいずれかとさせることが最も好ましい。
このような表面抵抗率の値を樹脂フィルムに付与するために好ましい分散相形成用樹脂の含有量は、樹脂組成物に占める割合で、通常、5〜20質量%であり、5〜15質量%であることが特に好ましい。
【0045】
また、前記高分子型帯電防止剤は、通常、樹脂組成物全体に占める割合が2〜30質量%の内のいずれかとなる割合で含有される。
この、高分子型帯電防止剤の下限値が、2質量%とされているのは、これよりも少ない含有量の場合には、樹脂フィルムに十分な帯電防止効果が発揮されないおそれを有するためであり、上限値が30質量%とされているのは、これを超えて高分子型帯電防止剤を含有させても、その含有量に見合う帯電防止効果が得られにくいばかりでなく樹脂フィルムの材料コストを増大させてしまうおそれを有するためである。
なお、このような観点からは、前記高分子型帯電防止剤は、樹脂組成物全体に占める割合が3〜20質量%の内のいずれかとなる割合で含有させることが好ましく、樹脂組成物全体に占める割合が5〜10質量%の内のいずれかとなるように含有させることが特に好ましい。
【0046】
また、ここでは詳述しないが、本実施形態の樹脂フィルムの形成に用いられる樹脂組成物には、一般的なポリマーフィルムの形成に用いられる配合剤を含有させることができ、例えば、耐候剤や老化防止剤といった各種安定剤、滑剤などの加工助剤、スリップ剤、防曇剤、顔料、充填剤などを添加剤として適宜含有させることができる。
【0047】
また、ここでは詳述しないが、本発明の成形品は、上記に例示のような樹脂材料に限らず、種々のポリマーを利用して形成されうるものであり、例えば、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、ブタジエンゴム、ポリイソブチレン、スチレン−ブタジエンゴムのような極性の低いゴムを前記非極性樹脂成分の一部、又は、全部に代えて採用することもでき、クロロプレン、アクリロニトリル含有率の高いニトリルゴム、ビニルアセテートコンテントの高いエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVAゴム)などを前記極性樹脂成分の一部、又は、全部に代えて採用することも可能である。
すなわち、樹脂成形品のみならずゴム成形品やゴムと樹脂との複合材料で形成された成形品も本発明の意図する範囲のものである。
【0048】
次いで、本実施形態に係る成形品の製造方法として、前記樹脂組成物を用いて樹脂フィルムを製造する方法について説明する。
本実施形態においては、一般的なフィルム製造方法に用いられる方法を採用することができ、例えば、前記樹脂(2種類以上の互いに非相溶な樹脂)と前記高分子型帯電防止剤などとを含有する樹脂組成物を作製する混練工程を実施した後に、得られた樹脂組成物をフィルム状に押出し加工する押出し工程を実施する方法などを採用しうる。
以下に、それぞれの工程に関して、より具体的に説明する。
【0049】
(混練工程)
まず、例えば、ポリエチレン系樹脂とアクリル系樹脂のような2種類以上の互いに非相溶性を示す樹脂のそれぞれと、高分子型帯電防止剤と、必要に応じてスリップ剤、防曇剤等の添加剤とを計量してタンブラーブレンダー、へンシェルミキサーなどでドライブレンドした後、単軸押出機、多軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどで各配合材料が略均一に混合された状態となるように溶融混練する。
その後、混練物をストランド状に押出してペレタイズするか、ホットカットしてペレット化するなどして樹脂組成物からなるペレットを作製する。
【0050】
(押出し工程)
上記混練工程で得られたペレットを熱溶融状態でフィルム状に押出し加工する方法としては、例えば、サーキュラーダイなどから押出してインフレーション法によってフィルム化したり、T−ダイなどから押出してキャスト法によってフィルム化したりする方法があげられる。
この内、T−ダイなどのフラットダイでは、押出し方向への延伸が容易である一方で幅方向への延伸のためにはテンターなどの設備を要することから、幅方向への延伸も容易なサーキュラーダイを用いた押出し工程を実施することが好ましい。
【0051】
この混練工程、及び、押出し工程における加熱溶融状態での混合に際して、例えば、アクリル系樹脂に対して大過剰のポリエチレン系樹脂を含有している樹脂組成物を作製させたとすると極性の低いポリエチレン系樹脂に対して極性の高いアクリル系樹脂が非相溶性を示し、該非相溶性成分による分散相が前記ポリエチレン系樹脂を含むマトリックス相に分散された状態となる。
すなわち、アクリル系樹脂による分散相の形成された海島構造が溶融状態の樹脂組成物中に形成される。
このとき、ポリエチレン系樹脂に対して親和性の高いポリオレフィンブロックと、アクリル系樹脂に対して親和性の高いポリエーテルブロックとを有する共重合体(高分子型帯電防止剤)がこの分散相とマトリックス相との界面に集合して、この界面に沿っての電気抵抗の低い領域を形成させる。
すなわち、高分子型帯電防止剤によって覆われた状態でアクリル系樹脂がベース樹脂であるポリエチレン系樹脂中に分散されることになる。
【0052】
しかも、このアクリル系樹脂粒子をコアにし、外殻部が高分子型帯電防止剤によって形成されたコアシェル状の粒子は、押出し工程において溶融状態の樹脂組成物に作用するせん断力によって樹脂の流れ方向(押出し方向)に沿って長く延び、比較的アスペクト比の高い状態となって分散相を形成する。
そして、溶融状態の樹脂組成物が流動しつつ冷却されることによって、この分散相が長く延びた状態が、得られる樹脂フィルムにおいても維持されることになる。
そして、例えば、1μm長さを超える細長い粒子を分散相に形成させることで表面抵抗率を顕著に低下させることができる。
【0053】
このことについてさらに説明すると、高分子型帯電防止剤は、通常、主たる成分が前述のようにイオン伝導性に優れたポリマーであり樹脂フィルムの表面にイオン伝導性を付与することで表面抵抗率を低下させて帯電防止を行うものであるが、単独で高分子型帯電防止剤を、例えば、ポリエチレン系樹脂に分散させた場合には、系内に微小な点状粒子となって分散されてしまい、その粒子間の距離をある程度接近させ得るような量で含有させなければ効果が発揮されない。
ここで、本実施形態においては、コア部がアクリル系樹脂粒子で形成され、外殻部(シェル部)が高分子型帯電防止剤で形成された粒子が形成される。
このことから、このコア部の分だけ高分子型帯電防止剤の使用量を抑制しつつ、この分散相の粒子間距離を縮めることができる。
【0054】
しかも、分散相を形成している粒子が樹脂の流れ方向(押出し方向)に沿って長く延び、フィルム平面方向の長さが1μmを超えるような細長い形状となることで高分子型帯電防止剤による導電路がこの粒子表面に形成されることとなる。
すなわち、本実施形態の樹脂フィルムにおいては、樹脂の流れ方向に沿って上記のような長細い粒状に分散相が形成されることから、この粒子の長手方向に沿った電気抵抗値の低減が図られることとなる。
【0055】
また、通常、分散相を形成しているコアシェル状の粒子と、この粒子に隣接する別の粒子との間の電気抵抗値は、主として、粒子間の距離によって決定されることになる。
つまり、樹脂の流れ方向と直交する方向に電圧を印加した場合においては、コアシェル状粒子どうしが隣り合せとなる区間における最も電気抵抗値の低い箇所(通常、粒子どうしが最も接近している箇所)を通って流れる電荷の量によって電気抵抗値が左右されることになる。
【0056】
そして、本実施形態の樹脂フィルムにおいては、樹脂の流れ方向に沿って長細い粒状に分散相が形成されることから、粒子どうしが隣り合わせとなる区間が長く形成され、その間に電気抵抗値の低い箇所が形成される可能性が高くなる。
したがって、イオン伝導に有利な樹脂の流れ方向以外の方向においても電気抵抗値の低減が図られることとなり、高分子型帯電防止剤の配合量を30質量%以下、例えば、5〜10質量%にまで低減したとしても樹脂フィルムの表面抵抗率の値を、一般的に求められる1013(Ω/□)オーダー以下(1×1014未満)の値となるように低下させうる。
【0057】
なお、上記のような効果は、高分子型帯電防止剤を構成しているポリマーがマトリックス相や分散相を形成している樹脂に対して非相溶性を示すことによって発現されるものである。
これらに対して非相溶性を示すかどうかは、先にも示したようにマトリックス相を形成させる樹脂と、分散相を形成させる樹脂との溶解度パラメータを予め求めることで判断することができ、これらの樹脂に対してSP値を0.5以上、好ましくは1.0以上異ならせた高分子型帯電防止剤を選択すればよい。
なお、前記溶解度パラメータは、Fedorsの式に基づいて、その分子構造によって求められるが、例えば、市販の高分子型帯電防止剤を利用する場合で、構造を十分特定できないことから溶解度パラメータの値を計算することが困難な場合であれば、実際に、樹脂と、高分子型帯電防止剤とを加熱溶融させて混合し、冷却して得られた試料についてその分散状態を走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)によって直接観察して判断することができる。
【0058】
また、このような高分子型帯電防止剤によって外殻を形成させたコアシェル状粒子を前述のような1μmよりも細長く形成させる具体的な手法としては、押出し時のせん断の加わり方を調整する方法が挙げられる。
なお、分散相の大きさについても、SEMやTEMで直接確認することができ、例えば、成形品から採取した試料に対して数千倍から数万倍の倍率で無作為に10視野程度の観察を行い、その半数以上の視野において1μm以上の長さの粒子が確認できれば、成形品に1μm以上の分散相が形成されていると判断することができる。
【0059】
以上のようにコアシェル状粒子の形状と、その外殻部を構成させる高分子型帯電防止剤の選択によって、樹脂フィルムにおける高分子型帯電防止剤の使用量をより一層抑制させつつ表面抵抗率の低減を図ることができる。
このような分散相は、少なくとも樹脂フィルムの表面に形成されていれば良く、フィルム内部における分散相の形状や大きさについては、帯電防止性能に大きな影響は与えない。
したがって、厚みの厚い樹脂フィルムが必要な場合において、例えば、3層共押出しを実施して、中央部を、高分子型帯電防止剤を含まない構成として、高分子型帯電防止剤の使用量削減を図ることも可能である。
【0060】
(第二実施形態)
次いで、本発明の成形品についての第二の実施形態として、シート状の発泡成形品(発泡シート)について説明する。
この発泡シートは、第一の実施形態において説明した樹脂組成物に、さらに、発泡のための成分を加えて、押出し機で押出し発泡させるなどして製造し得る。
【0061】
この発泡のための成分としては、ガス成分や、該ガス成分が気泡を形成する際の核となる気泡核剤や熱分解してガスを発生させる化合物粒子等が挙げられる。
【0062】
前記気泡核剤としては、一般に気泡核剤として用いられているものであれば、特に限定されるものではなく例えば、タルク、マイカ、シリカ、珪藻土、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸バリウム、ガラスビーズなどの無機化合物、ポリテトラフルオロエチレン、などの有機化合物などが挙げられ、その中でも特にタルクが好ましい。なお、気泡核剤は単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0063】
この気泡核剤とともに用いられる発泡剤としては、従来、発泡押出しに用いられているものを本実施形態においても採用することができ、例えば、水、炭化水素、ジメチルエーテル、塩化メチル、塩化エチル、窒素、二酸化炭素、アルゴン等を使用することができる。
【0064】
また、熱分解してガスを発生させる化合物粒子としては、例えば、アゾジカルボンアミド、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウムとクエン酸の混合物などを用いることができる。
【0065】
本実施形態に係る発泡シートを得るには、例えば、第一実施形態における混練工程と同様にして気泡核剤を含んだ樹脂ペレットを作製し、押出し時において、前記ガス成分を押出し機のシリンダー中に圧入して、該押出し機の先端に設けたサーキュラーダイやフラットダイから発泡押出しさせる方法が挙げられる。
【0066】
このような発泡シートにおいても、その表面においてマトリックス相と分散相とが形成され、前記高分子型帯電防止剤が外殻を構成するコアシェル型の分散相が形成されることから、少ない帯電防止剤の使用量で、高い帯電防止効果が付与されうる。
【0067】
このような発泡シートは、帯電防止剤のブリードアウトも抑制され、しかも、埃等の付着も防止されうることから、食品トレーなどの素材や、電気・電子部品の搬送・保存用トレーや該トレーの内部を仕切る仕切り材などの素材として好適なものであるといえる。
また、帯電防止剤のブリードアウトが抑制されることから、ガラス板の間に介装されるクッションシートなどの用途にも好適なものであると言える。
すなわち、ブリードアウトによってガラス板に曇りを生じさせ、改めて洗浄を要するような事態となることが防止されるとともにガラス板を使用する際に、静電気によって剥れ難くなったりすることが防止される点においてクッションシートとして好適なものである。
【0068】
なお、一面、又は、両面にフィルム層を形成させたフィルム層付き発泡シートを、上記のような、食品トレー、電気・電子部品の搬送・保存用トレー、仕切り材、クッションシートとして利用する場合には、フィルム層付き発泡シートの発泡層に高分子型帯電防止剤を含有させる必要はなく、このフィルム層を第一実施形態に示したようなフィルムで構成させればよい。
また、その場合には、発泡層とフィルム層とを共押出しによって形成させることで、簡便にフィルム層付き発泡シートが得られるばかりか、発泡層とフィルム層との接着強度に優れた成形品を得ることができる。
【0069】
この第二実施形態において、発泡シートの表面に押出し方向に長く伸びる分散相が形成される点、ならびに、1μm以上の分散相を形成させることで、表面抵抗率の低下に有利となる点については、第一実施形態と同じであり、この分散相の形状の制御は、第一実施形態と同様に押出し条件の調整により可能である。
また、この第二実施形態においては、発泡度の調整によっても分散相の形態を調整することが可能である。
【0070】
ここで、このようなシート状の発泡成形品以外に3次元構造を有するものを作製する場合には、2種類以上の互いに非相溶なポリマーが含有され、いずれのポリマーにも非相溶性を示す高分子型帯電防止剤が含有されている樹脂組成物で発泡用の樹脂ビーズを作製し、該樹脂ビーズを求める製品形状を有する金型内で発泡させる方法を採用することができる。
また、本実施形態において、発泡成形品を得る方法としては、このような方法にも限定されず、種々の方法を採用することができる。
【0071】
(第三実施形態)
次いで、本発明の第三の実施形態として、射出成形品を形成させる場合を説明する。
この実施形態においては、第一実施形態における混練工程と同様にして得られた樹脂ペレットを一般的な射出成形機に導入して成形品を得る方法が、その具体的な実施方法として挙げられる。
なお、射出成形においては、金型のキャビティ部の内壁面によって溶融樹脂がせん断を受けつつ冷却固化される。
したがって、ゲートの形状などによっても分散相の形状の調整を図ることができる。
また、本実施形態においては、溶融状態の樹脂組成物が金属面に接しつつ冷却されることから、通常、樹脂組成物に含有される極性の高い成分が金型との接触面に濃化される傾向となる。
すなわち、例えば、分散相を形成させる樹脂としてアクリル系樹脂やポリ乳酸系樹脂といった極性の高い樹脂を採用することでこれらの樹脂粒子を成形品の表面により多く存在させることができ、しかも、この樹脂粒子を取り巻く高分子型帯電防止剤についても表面濃化させることができる。
したがって、より少量の高分子型帯電防止剤の使用によって優れた帯電防止効果を期待することができる。
【0072】
また、この射出成形による成形品の製造方法は、金型内に予め別の部材を仕込んでおくことにより、該部材からなる部分と、高分子型帯電防止剤を含んだ樹脂組成物からなる部分とを有する複合成形品を容易に得ることができる点において優れた方法であるといえる。
【0073】
なお、上記第一実施形態から第三実施形態においては、マトリックス相と分散相とを成形品の表面に形成させやすい点において、樹脂組成物を熱溶融させる方法を中心に説明しているが、例えば、樹脂組成物を溶剤に溶解させるなどして樹脂溶液を作製し、これを基材に対してコーティングした後、前記溶剤を除去して基材表面に、マトリックス相と分散相とを有する樹脂コーティングさせるような場合も、高分子型帯電防止剤によって外殻部の形成されたコアシェル型の分散相を形成させる場合においては、本発明の成形品製造方法として意図する範囲のものである。
また、前記したように本発明においては、ポリマー組成物を樹脂組成物に限定するものではなくゴム組成物を利用する場合においても、マトリックス相を形成するゴムに分散相が形成され、その外殻が高分子型帯電防止剤で形成されるものについては、本発明の意図する範囲のものである。
【0074】
また、本発明の成形品は、本実施形態において例示されたものに限定されるものではなく、2種類以上の互いに非相溶なポリマーを高分子型帯電防止剤とともに含んだポリマー組成物によって前記高分子型帯電防止剤を外殻としたコアシェル状粒子となって分散相が形成されるものであれば、例えば、繊維や繊維製品なども本発明に係る成形品として意図する範囲のものである。
このような繊維製品は、例えば、自動車のシート外装材や衣服の裏地材などとして好適に用いられ得る。
さらには、本発明の成形品は、従来、静電気による帯電に対する対策が要望されている種々の用途において採用可能なものである。
【実施例】
【0075】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0076】
(成形品の製造事例1:ポリオレフィン系樹脂フィルム)
(配合剤)
以下に、成形品としてポリオレフィン系樹脂フィルムを作製する事例を説明する。
まず、用いる配合剤に関して、その略称と、その詳細とを以下に説明する。
【0077】
(予備検討:参考例1〜6)
以下に、下記表1に示すように、ポリオレフィン系樹脂や極性樹脂(PMMA、PLA)ならびにこれらを溶融混合させて得られた樹脂を用いてフィルム状の試料を作製し、得られたフィルム状試料に対して、JIS K 6911:1995「熱硬化性プラスチックー般試験方法」記載の方法により表面抵抗率の値を測定した。
結果を下記表1に併せて示す。
なお、具体的には、一辺が10cmの平面正方形状の試験片を温度22℃、湿度60%の雰囲気下に24時間放置した後、温度22℃、湿度60%の環境下、試験装置(アドバンテスト社製、デジタル超高抵抗/微少電流計R8340及びレジスティビティ・チェンバR12702A)を使用し、試験片に、約30Nの荷重にて電極を圧着させ500Vの電圧を印加して1分経過後の抵抗値を測定し、次式により算出した。
ρs=π(D+d)/(D−d)×Rs
ただし、
ρs:表面抵抗率(Ω/□)
D:表面の環状電極の内径(cm)(レジスティビティ・チェンバR12702Aでは、7cm)
d:表面電極の内円の外径(cm)(レジスティビティ・チェンバR12702Aでは、5cm)
Rs:表面抵抗(Ω)
また、測定は3回実施し、それぞれの算術平均値を求めた。
【0078】
(表面TEM観察)
参考例5、6の樹脂フィルムから切り出した薄片試料を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した様子を図10、11に示す。
なお、上記TEM観察における試験片は、樹脂フィルムを押出し方向に沿ってスライスしたものであり、これらの図に示されているTEM像は、樹脂フィルムの表面に相当する側においてこのスライスされた試験片を観察したものである。
すなわち、樹脂フィルムの厚み方向の断面における表面側近傍の様子を押出し方向に直交する方向から観察したものである。
これらの図からも、ポリオレフィン系樹脂をマトリックス相とし、PMMAやPLAがアスペクト比の高い分散相を形成していることがわかる。
【0079】
【表1】
【0080】
この予備検討にも示すように、極性の高いPMMAやPLAといった樹脂で形成されているフィルムも極性の低いポリオレフィン系樹脂で形成されたフィルムと同様に高い表面抵抗率を有し、帯電されやすいものである。
また、本発明は、ベース樹脂に対して非相溶性を示す樹脂を高分子型帯電防止剤と併用することを特徴としているが、単にポリオレフィン系樹脂に極性の高い樹脂を溶融混合させて極性ポリマーによるアスペクト比の高い分散相をポリオレフィン系樹脂からなるマトリックス相中に形成させるだけでは帯電防止性能が改善されないことが、図10、11や表1の結果からもわかる。
【0081】
(配合1〜4)
次に、下記表2に示す配合にて、表2に示す厚みのポリオレフィン系樹脂フィルムを作製し、参考例1〜6と同様に表面抵抗率の測定を行った。なお、表面抵抗率の測定は、ポリオレフィン系樹脂フィルムの一面のみとした。結果を、表2に併せて示す。
【0082】
なお、後段において詳述するが、このポリオレフィン系樹脂にアクリル系樹脂と高分子型帯電防止剤とを溶融混合させて得られたフィルムにおいては、前記高分子型帯電防止剤で外殻が形成され、前記アクリル系樹脂で内部のコアが形成されたコアシェル状の粒子が形成されていることが確認された。
【0083】
【表2】
【0084】
この表2にも示されているように、単に高分子型帯電防止剤を配合した基準配合(配合1)に比べてこの高分子型帯電防止剤を減量した配合2では、大きく表面抵抗率の値を増大させている一方で、エチレン−アクリル酸共重合体(A210K)や、PMMA樹脂(LG35)を併用している場合(配合3、4)には、高分子型帯電防止剤を減量しても表面抵抗率の値を大きく低下させうる。
しかも、高分子型帯電防止剤(ペレスタット230)と同じくMFRが30g/10min以上のPMMA樹脂(LG35)を併用している場合には、表面抵抗率の低下(帯電防止効果)が大きいこともわかる。
【0085】
(配合5〜7)
表3に示す配合で、表3に示す厚みのポリオレフィン系樹脂フィルムを作製し、配合1〜4と同様に表面抵抗率の測定を行った。なお、表面抵抗率の測定は、ポリオレフィン系樹脂フィルムの一面のみとした。結果を、表3に併せて示す。
【0086】
【表3】
【0087】
この表3からも、アクリル系樹脂(PMMA)を併用することで高分子型帯電防止剤の使用を抑制しつつポリオレフィン系樹脂フィルムの表面抵抗率の値を低下させうることがわかる。
【0088】
(配合8〜11)
同様に、表4に示す配合(配合8〜11)で、表4に示す厚みのポリオレフィン系樹脂フィルムを作製し表面抵抗率の測定を行った。なお、表面抵抗率の測定は、ポリオレフィン系樹脂フィルムの一面のみとした。結果を、表4に併せて示す。
【表4】
【0089】
この表4からも、アクリル系樹脂(PMMA)を併用することで高分子型帯電防止剤の使用を抑制しつつポリオレフィン系樹脂フィルムの表面抵抗率の値を低下させうることがわかる。
【0090】
(配合12〜17)
表5に示す配合(配合12〜17)で、表5に示す厚みのポリオレフィン系樹脂フィルムを作製し表面抵抗率の測定を行った。なお、表面抵抗率の測定は、ポリオレフィン系樹脂フィルムの一面のみとした。結果を、表5に併せて示す。
【表5】
この表5からも、アクリル系樹脂(PMMA)を併用することで高分子型帯電防止剤の使用を抑制しつつポリオレフィン系樹脂フィルムの表面抵抗率の値を低下させうることがわかる。
【0091】
(グラフ1)
PL500A(サンアロマー社製、ホモPP、MFR(M)=3.3g/10min)をベースに、LG35を10重量%含有させた系、ならびに、CM−50を10重量%含有させた系での高分子型帯電防止剤(ペレスタット230)を変量した場合の表面抵抗率の変化をグラフ化した様子を図1に示す。
また、LG35やCM−50などのアクリル系樹脂を含有させていない場合に、高分子型帯電防止剤のみを12重量%(PL500A:88重量%)含有させた場合の表面抵抗率の値も併せて示す(図中「×」)。
このグラフ1に示す外挿線からは、アクリル系樹脂を含有させることで、高分子型帯電防止剤のみを用いる場合に比べて、その含有量が約2/3であってもの同等の表面抵抗率の値を得られることがわかる。
【0092】
(グラフ2)
PL500A(サンアロマー社製、ホモPP、MFR(M)=3.3g/10min)をベースに、LG35を10重量%含有させた系、560Fを10重量%含有させた系、ならびに、EHを10重量%含有させた系での高分子型帯電防止剤(イルガスタットP18)を変量した場合の表面抵抗率の変化をグラフ化した様子を図2に示す。
また、LG35などのアクリル系樹脂を含有させていない場合に、高分子型帯電防止剤のみを5重量%、7重量%、及び12重量%(PL500A:95重量%、93重量%、及び88重量%)含有させた場合の表面抵抗率の値も併せて示す(図中「×」)。
このグラフ2からは、MFRが、10g/10minの高分子型帯電防止剤を用いた場合は、MFRが30g/10min以上のLG35よりも、MFRのより低い560FやEHを用いた方が、表面抵抗率の値の低下に有効であることがわかる。
【0093】
(表面TEM観察)
PMMAを10重量%、ペレスタット230を7重量%含有させたポリオレフィン系樹脂組成物を加熱溶融させた状態でシート状に押出したものを用いて作製した薄片試料を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した様子を図3に示す。
なお、上記TEM観察における試験片は、ポリオレフィン系樹脂フィルムを押出し方向に沿ってスライスしたものであり、図3のTEM像は、ポリオレフィン系樹脂フィルムの表面に相当する側においてこのスライスされた試験片を観察したものである。
すなわち、ポリオレフィン系樹脂フィルムの厚み方向の断面における表面側近傍の様子を押出し方向に直交する方向から観察したものである。
この図3からも、ポリオレフィン系樹脂フィルムの表面においては、ポリオレフィン系樹脂をマトリックス相とし、その中にPMMAがアスペクト比の高い分散相を形成していることがわかる。
また、このPMMAの周囲に外殻をなす状態で高分子型帯電防止剤であるペレスタットが集合されていることがわかる。
このことからも、本発明によれば、ポリオレフィン系樹脂フィルムにおいて高分子型帯電防止剤の使用量の低減を図りつつ帯電防止を図り得ることがわかる。
【0094】
(成形品の製造事例2:ポリオレフィン系樹脂発泡シート)
用いた配合剤に関しては「成形品の製造事例1」と共通するためその説明は割愛し、以下においては略称を用いて説明する。
(配合18〜23)
表6に示す、配合で、表6に示す厚みのポリオレフィン系樹脂発泡シートを作製し、これまでの評価事例と同様に表面抵抗率の測定を行った。結果を、表6に併せて示す。
また、温度、湿度環境を(21℃、57%RH)、(20℃、30%RH)、(21℃、85%RH)の3条件に変更して表面抵抗率を測定したデータを、併せて、表6に示す。
【0095】
【表6】
【0096】
この表6からも、アクリル系樹脂(PMMA)を併用することで高分子型帯電防止剤の使用を抑制しつつポリオレフィン系樹脂発泡成形体の表面抵抗率の値を低下させうることがわかる。
しかも、高分子型帯電防止剤(ペレスタット230)と同じくMFRが30g/10min以上のPMMA樹脂(LG35)を併用している場合には、MFRが13g/10minのPMMA樹脂(560F)を併用している場合よりも表面抵抗率の低下(帯電防止効果)が大きいこともわかる。
【0097】
(成形品の製造事例3:ポリオレフィン系樹脂成形品)
用いた配合剤に関しては「成形品の製造事例1」と共通するためその説明は割愛し、以下においては略称を用いて説明する。
(配合24〜29)
次いで、ポリオレフィン系樹脂成形品についての評価事例を示す。
まず、下記表7に示す配合のポリオレフィン系樹脂組成物を作製した。このポリオレフィン系樹脂組成物は、各材料を二軸押出し機にて混練し、ペレット化することにより作製した。
このペレット(ポリオレフィン系樹脂組成物)を射出成形して20mm×30mm×4mmのシート状(非発泡)のポリオレフィン系樹脂成形品を作製した。
得られたポリオレフィン系樹脂成形品に対して、以下のような評価を実施した。
【0098】
(評価方法)
また、得られたシート状のポリオレフィン系樹脂成形品を、温度22℃、相対湿度60%の環境下に24時間放置した後、温度22℃、相対湿度60%の環境下、三菱化学社製、高抵抗率計、「ハイレスターUP」(MCP−HT450、プローブ:URS)を使用して、表面抵抗率の値を測定した。
測定に際しては、プローブをシート状のポリオレフィン系樹脂成形品の表面に圧着させDC500Vの電圧を1分間印加した後に表面抵抗率の値を計測する方法を採用した。
また、測定は、3個のポリオレフィン系樹脂成形品に対して実施し、これらの算術平均を各基準例、比較例の表面抵抗率とした。
結果を、表7に併せて示す。
【0099】
【表7】
【0100】
この表7にも示されているように、高分子型帯電防止剤を基準配合(配合25、28)に比べて約半減した配合26、29では、大きく表面抵抗率の値を増大させ、ベースポリマー(PF814、PL500A)単体の配合24、27と略同じような表面抵抗率の値を示している。
【0101】
(配合30〜35)
下記表8に示す配合のポリオレフィン系樹脂組成物を作製した。このポリオレフィン系樹脂組成物は、各材料を二軸押出し機にて混練し、ペレット化することにより作製した。
このペレット(ポリオレフィン系樹脂組成物)を射出成形して20mm×30mm×4mmのシート状(非発泡)のポリオレフィン系樹脂成形品を作製した。
得られたポリオレフィン系樹脂成形品に対して、上記配合24〜29と同様に表面抵抗率の値を測定した。
結果を、表8に併せて示す。
【0102】
【表8】
【0103】
この表8にも示されているように、高分子型帯電防止剤を先の基準配合(配合25、28)に比べて約半減した配合30、32や、1/4以下にした配合31、33などにおいても比較的低い表面抵抗率の値が観察されており、LG35(PMMA)の添加により、少ない帯電防止剤の量で、優れた帯電防止効果が得られていることがわかる。
【0104】
(成形品の製造事例4:ポリオレフィン系樹脂フィルム)
(配合36〜38)
下記表9に示す配合にて、表9に示す厚みのポリオレフィン系樹脂フィルムを押出し機で作製し、ポリオレフィン系樹脂フィルムを「成形品の製造事例1」と同様に評価した。
用いた配合剤に関しては「成形品の製造事例1」と共通するものについてはその説明は割愛し、以下においては略称を用いて説明する。
【0105】
【表9】
【0106】
この表9にも示されているように、単に高分子型帯電防止剤を配合した基準配合(配合36)に比べてこの高分子型帯電防止剤を減量した配合37では、大きく表面抵抗率の値を増大させている一方で、HV6250を併用している場合(配合38)には、高分子型帯電防止剤を減量しても表面抵抗率の値を大きく低下させうる。
【0107】
(配合39〜41)
表10に示す配合で、表10に示す厚みのポリオレフィン系樹脂フィルムを作製し、これまでと同様に表面抵抗率の測定を行った。なお、表面抵抗率の測定は、ポリオレフィン系樹脂フィルムの一面のみとした。結果を、表10に併せて示す。
【0108】
【表10】
【0109】
この表10からも、ポリ乳酸系樹脂(PLA)を併用することで高分子型帯電防止剤の使用を抑制しつつポリオレフィン系樹脂フィルムの表面抵抗率の値を低下させうることがわかる。
【0110】
(表面TEM観察)
ポリ乳酸系樹脂を10重量%、ペレスタット230を7重量%含有させたポリオレフィン系樹脂組成物を加熱溶融させた状態でシート状に押出したものを用いて作製した薄片試料を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した様子を図4に示す。
なお、上記TEM観察における試験片は、ポリオレフィン系樹脂フィルムを押出し方向に沿ってスライスしたものであり、図4のTEM像は、ポリオレフィン系樹脂フィルムの表面に相当する側においてこのスライスされた試験片を観察したものである。
すなわち、ポリオレフィン系樹脂フィルムの厚み方向の断面における表面側近傍の様子を押出し方向に直交する方向から観察したものである。
この図4のTEM像において観察される分散相はポリ乳酸系樹脂によって形成されたものであり、このポリ乳酸系樹脂の周囲を黒く縁取っているのがペレスタット230である。
そして、TEM像の下に設けられているスケールバーは0.5μm長さを表しており、この図4からも、ポリ乳酸系樹脂がアスペクト比の高い分散相を形成し、その周囲に高分子型帯電防止剤であるペレスタット230が集合されていることがわかる。
このことからも、本発明によれば、高分子型帯電防止剤の使用量の低減を図りつつ帯電防止を図り得ることがわかる。
【0111】
(成形品の製造事例5:ポリオレフィン系樹脂発泡シート)
(配合42〜44)
下記表11に示す配合にて、表11に示す厚みのポリオレフィン系樹脂発泡シートを押出し機で作製し、ポリオレフィン系樹脂発泡シートを製造事例1と同様に評価した。
なお、用いた配合剤に関してはこれまでの成形品製造事例と共通するためその説明は割愛し、以下においては略称を用いて説明する。
また、表面抵抗率の測定は、ポリオレフィン系樹脂発泡シートの表裏両面に対して実施した。結果を、表11に併せて示す。
【0112】
【表11】
【0113】
この表11からも、ポリ乳酸系樹脂(PLA)を併用することで高分子型帯電防止剤の使用を抑制しつつポリオレフィン系樹脂発泡成形品の表面抵抗率の値を低下させうることがわかる。
また、ポリ乳酸を5重量%以上含有させることで帯電防止効果がより顕著になることもこの表11からわかる。
【0114】
(成形品の製造事例6:ポリオレフィン系樹脂成形品)
(配合45〜50)
下記表12に示す配合にて、表12に示す配合のポリオレフィン系樹脂組成物を作製した。このポリオレフィン系樹脂組成物は、各材料を二軸押出し機にて混練し、ペレット化することにより作製した。
このペレット(ポリオレフィン系樹脂組成物)を射出成形して20mm×30mm×4mmのシート状(非発泡)のポリオレフィン系樹脂成形品を作製した。
得られたポリオレフィン系樹脂成形品に対して、製造事例3と同様に評価を実施した。
結果を、表12に併せて示す。
【0115】
【表12】
【0116】
この表12にも示されているように、高分子型帯電防止剤を基準配合(配合46、49)に比べて約半減した配合47、50では、大きく表面抵抗率の値を増大させ、ベースポリマー(PF814、PL500A)単体の配合45、48と略同じような表面抵抗率の値を示している。
【0117】
(配合51〜56)
下記表13に示す配合のポリオレフィン系樹脂組成物を作製した。このポリオレフィン系樹脂組成物は、各材料を二軸押出し機にて混練し、ペレット化することにより作製した。
このペレット(ポリオレフィン系樹脂組成物)を射出成形して20mm×30mm×4mmのシート状(非発泡)のポリオレフィン系樹脂成形品を作製した。
得られたポリオレフィン系樹脂成形品に対して、これまでと同様に表面抵抗率の値を測定した。
結果を、表13に併せて示す。
【0118】
【表13】
【0119】
この表13にも示されているように、高分子型帯電防止剤を先の基準配合(配合46、49)に比べて約半減した配合51、53や、1/4以下にした配合52、54などにおいても比較的低い表面抵抗率の値が観察されており、少ない帯電防止剤の量で、優れた帯電防止効果が得られていることがわかる。
【0120】
(成形品の製造事例7:ポリオレフィン系樹脂フィルム)
(配合57〜67)
下記表14、15に示す配合にて、表14、15に示す厚みのポリオレフィン系樹脂フィルムを押出し機で作製し、ポリオレフィン系樹脂フィルムを製造事例1と同様に評価した。
用いた配合剤に関してはこれまでと共通するものについてはその説明は割愛し、以下においては略称を用いて説明する。
ここでは、さらに以下のような配合剤を使用した。
(配合剤)
【0121】
【表14】
【0122】
【表15】
【0123】
この表14から、高分子型帯電防止剤は、ある程度の量を添加するまでは帯電防止に機能を発揮しないことがわかる。
そして、単に高分子型帯電防止剤を基準配合(配合57)に比べて減量した配合58では、大きく表面抵抗率の値を増大させている一方で、配合61〜65に示すように、ポリスチレン(PS)系樹脂を併用している場合や、配合66、67に示すようにアクリル系樹脂(PMMA)やポリ乳酸系(PLA)樹脂を併用している場合には、高分子型帯電防止剤を減量しても表面抵抗率の値を低下させうる。
さらに、用いるポリスチレン(PS)系樹脂をMFRの値が高いものへと変更することで、より表面固有抵抗率の値を低下させうることが上記の表からもわかる。
例えば、MFRが7.0g/min以上である「HF77」、「679」、「AGI02」を用いた場合(配合63〜65)、MFRが1.5g/minの「G9305」や、MFRが2.7g/minの「E641N」を用いた場合(配合61、62)よりも良好なる結果が得られていることが上記の表15からわかる。
【0124】
(TEM観察)
ポリスチレン(PS)系樹脂を10重量%、ペレスタット230を7重量%含有させたポリオレフィン系樹脂組成物を加熱溶融させた状態でシート状に押出したものを用いて作製した薄片試料を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した様子を図5に示す。
この図5からも、PSがアスペクト比の高い分散相を形成し、その周囲に高分子型帯電防止剤であるペレスタットが集合されていることがわかる。
このことからも、本発明によれば、高分子型帯電防止剤の使用量の低減を図りつつ帯電防止を図り得ることがわかる。
【0125】
(成形品の製造事例8:ポリオレフィン系樹脂発泡シート)
(配合68〜72)
下記表16に示す配合にて、表16に示す厚みのポリオレフィン系樹脂発泡シートを押出し機で作製し、ポリオレフィン系樹脂発泡シートを製造事例1と同様に評価した。
なお、用いた配合剤に関してはこれまでの成形品製造事例と共通するものについてはその説明は割愛し、以下においては略称を用いて説明する。
今回は、さらに、下記のような配合剤を使用した。
【0126】
(配合剤)
【0127】
【表16】
【0128】
この表16からも、ポリスチレン系樹脂(GPPS、HIPS)を併用することで高分子型帯電防止剤の使用を抑制しつつポリオレフィン系樹脂発泡成形品の表面抵抗率の値を低下させうることがわかる。
【0129】
(TEM観察)
ポリスチレン系樹脂を10重量%、ペレスタット230を6重量%含有させたポリオレフィン系樹脂組成物を加熱溶融させた状態でシート状に発泡押出したものを用いて作製した薄片試料を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した様子を図6に示す。
この図6からも、ポリスチレン系樹脂がアスペクト比の高い分散相を形成し、その周囲に高分子型帯電防止剤であるペレスタットが集合されて外殻を形成していることがわかる。
【0130】
(成形品の製造事例9:ポリオレフィン系樹脂成形品)
(配合73〜76)
下記表17に示す配合にて、表17に示す配合のポリオレフィン系樹脂組成物を作製した。このポリオレフィン系樹脂組成物は、各材料を二軸押出し機にて混練し、ペレット化することにより作製した。
このペレット(ポリオレフィン系樹脂組成物)を射出成形して20mm×30mm×4mmのシート状(非発泡)のポリオレフィン系樹脂成形品を作製した。
得られたポリオレフィン系樹脂成形品に対して、製造事例3と同様の評価を実施した。
結果を、表17に併せて示す。
なお、当該事例においては、これまでの配合剤に加えて、下記のような配合剤を使用した。
【0131】
(配合剤)
【0132】
【表17】
【0133】
この表17にも示されているように、高分子型帯電防止剤を基準配合(配合73、74)に比べて約半減した配合75、76では、大きく表面抵抗率の値を増大させている。
【0134】
(配合77〜81)
下記表18に示す配合のポリオレフィン系樹脂組成物を作製した。このポリオレフィン系樹脂組成物は、各材料を二軸押出し機にて混練し、ペレット化することにより作製した。
このペレット(ポリオレフィン系樹脂組成物)を射出成形して20mm×30mm×4mmのシート状(非発泡)のポリオレフィン系樹脂成形品を作製した。
得られたポリオレフィン系樹脂成形品に対して、これまでと同様に表面抵抗率の値を測定した。
結果を、表18に併せて示す。
【0135】
【表18】
【0136】
この表18にも示されているように、高分子型帯電防止剤を先の基準となる配合(配合73、74)に比べて約半減した場合においても比較的低い表面抵抗率の値が観察されており、少ない帯電防止剤の量で、優れた帯電防止効果が得られていることがわかる。
【0137】
(成形品の製造事例10:ポリスチレン系樹脂フィルム)
(配合82〜88)
下記表19に示す配合にて、表19に示す厚みのポリスチレン系樹脂フィルムを押出し機で作製し、ポリスチレン系樹脂フィルムを製造事例1と同様に評価した。
なお、用いた配合剤に関してはこれまでの成形品製造事例と共通するものについてはその説明は割愛し、以下においては略称を用いて説明する。
今回は、さらに、下記のような配合剤を使用した。
【0138】
(配合剤)
【0139】
【表19】
【0140】
この表19にも示されているように、ポリスチレン系樹脂単体(配合82)に高分子型帯電防止剤をある程度の量配合(配合83)することで大きく表面抵抗率の値を低下させることができる。
そして、高分子型帯電防止剤を単に減量(配合83→配合84)するだけでは大きく表面抵抗率の値を増大させる。
一方で、配合85〜88では、高分子型帯電防止剤を半減(13%→7%)しても同等の表面抵抗率を有している。
すなわち、本発明によれば高分子型帯電防止剤の使用量の低減を図りつつ帯電防止を図り得ることが上記結果からもわかる。
【0141】
(配合89〜95)
下記表20に示す配合にて、表20に示す厚みのポリスチレン系樹脂フィルムを作製した。
また、得られたポリスチレン系樹脂フィルムに対して、先の評価と同様に表面抵抗率の値を測定した。
結果を、表20に併せて示す。
【0142】
【表20】
【0143】
この表20に示されている結果からも、本発明によれば高分子型帯電防止剤の使用量の低減を図りつつ帯電防止を図り得ることがわかる。
また、配合95と配合91との結果を比較すると、配合91の方が低い表面抵抗率の値が得られており、MFRが、2g/10min以下の「G9305」での結果の方が、MFRが5g/10minの「HRM18」に比べて良好となっている。
【0144】
(TEM観察)
ポリプロピレン系樹脂を10重量%、ペレスタット230を7重量%させたポリスチレン系樹脂組成物を加熱溶融させた状態でシート状に押出したものを用いて作製した薄片試料を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した様子を図7に示す。
この図7からも、ポリプロピレン系樹脂がアスペクト比の高い分散相を形成し、その周囲に高分子型帯電防止剤であるペレスタットが集合されていることがわかる。
【0145】
(成形品の製造事例11:ポリスチレン系樹脂発泡シート)
(配合96〜101)
下記表21に示す配合にて、表21に示す厚みのポリスチレン系樹脂発泡シートを押出し機で作製し、ポリスチレン系樹脂発泡シートを製造事例1と同様に評価した。
なお、用いた配合剤に関してはこれまでの成形品製造事例と共通するためその説明は割愛し、以下においては略称を用いて説明する。
結果を、表21に併せて示す。
【0146】
【表21】
【0147】
この表21に示されている結果からも、本発明によれば高分子型帯電防止剤の使用量の低減を図りつつ帯電防止を図り得ることがわかる。
また、配合97と配合101とを比較すると、配合97の方が低い表面抵抗率の値が得られており、MFRが、2g/10min以下の「G9305」での結果の方が、MFRが5g/10minの「HRM18」に比べて良好となっている。
【0148】
(成形品の製造事例12:ポリスチレン系樹脂成形品)
(配合102〜107)
下記表22に示す配合にてポリスチレン系樹脂組成物を作製した。このポリスチレン系樹脂組成物は、各材料を二軸押出し機にて混練し、ペレット化することにより作製した。
このペレット(ポリスチレン系樹脂組成物)を射出成形して20mm×30mm×4mmのシート状(非発泡)のポリスチレン系樹脂成形品を作製した。
得られたポリスチレン系樹脂成形品に対して、製造事例3と同様の評価を実施した。
結果を、表22に併せて示す。
【0149】
【表22】
【0150】
この表22にも示されているように、高分子型帯電防止剤を基準配合(配合102、103)に比べて約半減した配合104、105では、大きく表面抵抗率の値を増大させている。
また、その傾向については、異なる高分子型帯電防止剤「ペレスタット300」でも同様であった。
【0151】
(配合108〜112)
下記表23に示す配合のポリスチレン系樹脂組成物を作製した。このポリスチレン系樹脂組成物は、各材料を二軸押出し機にて混練し、ペレット化することにより作製した。
このペレット(ポリスチレン系樹脂組成物)を射出成形して20mm×30mm×4mmのシート状(非発泡)のポリスチレン系樹脂成形品を作製した。
得られたポリスチレン系樹脂成形品に対して、これまでと同様に表面抵抗率の値を測定した。
結果を、表23に併せて示す。
【0152】
【表23】
【0153】
この表23にも示されているように、高分子型帯電防止剤を先の基準配合(配合102、103)に比べて約半減した場合においても比較的低い表面抵抗率の値が観察されており、少ない帯電防止剤の量で、優れた帯電防止効果が得られていることがわかる。
【0154】
(成形品の製造事例13:ポリ乳酸系樹脂フィルム)
(配合113〜119)
下記表24に示す配合にて、表24に示す厚みのポリ乳酸系樹脂フィルムを押出し機で作製し、ポリ乳酸系樹脂フィルムを製造事例1と同様に評価した。
用いた配合剤に関してはこれまでと共通するものについてはその説明は割愛し、以下においては略称を用いて説明する。
なお、この検討においては、さらに下記のような配合剤を使用している。
【0155】
(配合剤)
【0156】
【表24】
【0157】
この表24にも示されているように、単に高分子型帯電防止剤を配合した基準配合(配合113)に比べて、ポリオレフィン系樹脂やポリスチレン系樹脂を併用している場合(配合114〜119)には、高分子型帯電防止剤を同量用いても表面抵抗率の値を大きく低下させうる。
【0158】
(表面TEM観察)
PE(LF580)を10質量%、高分子型帯電防止剤(ペレスタット230)を8質量%含有させたポリ乳酸系樹脂組成物を加熱溶融させた状態でフィルム状に押出したものを用いて作製した薄片試料を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した様子を図8に示す。
なお、上記TEM観察における試験片は、ポリ乳酸系樹脂フィルムを押出し方向に沿ってスライスしたものであり、図8のTEM像は、ポリ乳酸系樹脂フィルムの表面に相当する側においてこのスライスされた試験片を観察したものである。
すなわち、ポリ乳酸系樹脂フィルムの厚み方向の断面における表面側近傍の様子を押出し方向に直交する方向から観察したものである。
この図8からも、PEがアスペクト比の高い分散相を形成し、その周囲に高分子型帯電防止剤であるペレスタットが集合されていることがわかる。
このことからも、本発明によれば、ポリ乳酸系樹脂フィルムや積層シートにおいて高分子型帯電防止剤の使用量の低減を図りつつ帯電防止を図り得ることがわかる。
【0159】
(成形品の製造事例14:ポリ乳酸系樹脂発泡シート)
(配合120〜123)
下記表25に示す配合にて、表25に示す厚みのポリ乳酸系樹脂フィルムを押出し機で作製し、ポリ乳酸系樹脂フィルムを製造事例1と同様に評価した。
用いた配合剤に関してはこれまでと共通するためその説明は割愛し、以下においては略称を用いて説明する。
【0160】
【表25】
【0161】
この表25からも、ポリオレフィン系樹脂やポリスチレン系樹脂を併用することで高分子型帯電防止剤の使用を抑制しつつポリ乳酸系樹脂発泡成形体の表面抵抗率の値を低下させうることがわかる。
【0162】
(表面TEM観察)
PP系樹脂を10重量%、「ペレスタット230」を7重量%含有させたポリ乳酸系樹脂組成物を加熱溶融させた状態でシート状に押出発泡させたポリ乳酸系樹脂発泡シートから薄片試料を切り出し、該薄片試料を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した様子を図9に示す。
なお、上記TEM観察における試験片は、ポリ乳酸系樹脂発泡シートを押出し方向に沿ってスライスしたものであり、図9のTEM像は、ポリ乳酸系樹脂発泡シートの表面に相当する側においてこのスライスされた試験片を観察したものである。
すなわち、ポリ乳酸系樹脂発泡シートの厚み方向の断面における表面側近傍の様子を押出し方向に直交する方向から観察したものである。
この図9からも、PP系樹脂が1μm以上の長さを有するアスペクト比の高い分散相を形成し、その周囲に高分子型帯電防止剤である「ペレスタット230」が集合されていることがわかる。
【0163】
(成形品の製造事例15:ポリ乳酸系樹脂成形品)
(配合124〜134)
下記表26に示す配合にてポリ乳酸系樹脂組成物を作製した。このポリ乳酸系樹脂組成物は、各材料を二軸押出し機にて混練し、ペレット化することにより作製した。
このペレット(ポリ乳酸系樹脂組成物)を射出成形して20mm×30mm×4mmのシート状(非発泡)のポリ乳酸系樹脂成形品を作製した。
得られたポリ乳酸系樹脂成形品に対して製造事例3と同様の評価を実施した。
結果を、表26に併せて示す。
【0164】
【表26】
【0165】
この表26からも、ポリオレフィン系樹脂やポリスチレン系樹脂を併用することで高分子型帯電防止剤の使用を抑制しつつポリ乳酸系樹脂成形品の表面抵抗率の値を低下させうることがわかる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品及び成形品の製造方法に関し、より詳しくは、高分子型帯電防止剤を含んだポリマー組成物によって少なくとも一部の表面が形成されている成形品、及び、高分子型帯電防止剤を含んだポリマー組成物によって少なくとも一部の表面が形成されている成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂やエラストマーなどのポリマーを主成分としたポリマー組成物は、各種成形品の形成材料として広く採用されている。
例えば、インフレーションフィルムや発泡シートなどといった押出し成形品、及び、その二次加工品、ポリマー組成物を射出成形やトランスファー成形した成形品、ポリマー繊維が織製された布帛状物や不織布といった成形品の形成材料として広く採用されている。
【0003】
ところで、ポリマー組成物で形成された成形品は、一般には、静電気によって帯電されやすく、その表面に埃等が付着して汚れを生じやすいという問題を有している。
また、電気・電子部品の容器として用いられるような成形品においては、静電気による帯電が生じると蓄えられた静電気をこれらの部品に放電して故障を引き起こすおそれを有する。
このような問題は、ポリマー組成物だけで形成されている成形品のみならず、ガラスやセラミックスなど他の形成材料からなる部材とポリマー組成物からなる部材との複合成形品などにおいても生じうる問題であり、例えば、ガラス繊維強化プラスチック成形品などの少なくとも一部の表面がポリマー組成物によって形成されている成形品であれば起こりうる問題である。
【0004】
一般に、このような静電気による諸問題は、このポリマー組成物による形成箇所の表面抵抗率の値を低下させることで防止されることが知られており、例えば、一般的な樹脂フィルムの表面抵抗率の値が、通常、1015(Ω/□)オーダーを超えるレベルであるのに対してこれを1013(Ω/□)オーダー以下に低下させることで上述のような問題の発生が防止され得ることが知られている。
【0005】
この表面抵抗率を低下させる手法として、成形品を形成させる樹脂組成物中に帯電防止剤と呼ばれる成分を含有させる方法が採用されており、従来、界面活性剤などのような成分を樹脂フィルムや発泡シートなどの形成材料中に含有させることが行われている。
この界面活性剤などの分子量が1000程度、あるいは、それ以下のものは“低分子型帯電防止剤”とも呼ばれており、これらの低分子型帯電防止剤は、帯電防止に有効ではあるものの一般的なポリマー中における拡散速度が大きいために時間の経過にともなって樹脂フィルム等の成形品の表面に滲出して、いわゆる“ブリードアウト”するという問題を発生させるおそれを有する。
【0006】
近年、このようなことから、低分子型帯電防止剤に代えて分子量が1000を超え、数万に及ぶような高分子量の物質で帯電防止に有効な、いわゆる“高分子型帯電防止剤”の利用が検討されている(下記特許文献1参照)。
この特許文献1に係る高分子型帯電防止剤は、エーテル結合やエステル結合を含んだ極性ブロックと、アルキルなどからなる非極性ブロックとを有する共重合体であり、ポリマー中における移行性が低いことから、このような高分子型帯電防止剤を用いることでブリードアウトの問題を抑制させることができる。
一方で、高分子型帯電防止剤は、比較的、大量に配合しないと効果が発揮されず、しかも、一般的な成形品の形成用いられるポリマーに比べてはるかに高価であるために、このような高分子型帯電防止剤によって成形品の帯電防止を図ろうとすると材料コストを増大させてしまい、成形品の汎用性を低下させるおそれを有する。
【0007】
このようなことを防止すべく高分子型帯電防止剤を少ない量で有効に作用させるための検討が広く行われているが、その手法は確立されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−274031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高分子型帯電防止剤の使用量の低減を図りつつ樹脂フィルムや発泡シートなどといった成形品の帯電防止を図ることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための成形品に係る本発明は、高分子型帯電防止剤を含んだポリマー組成物によって少なくとも一部の表面が形成されている成形品であって、2種類以上の互いに非相溶なポリマーが前記ポリマー組成物に含有されてマトリックス相と該マトリックス相中に分散された分散相とが少なくとも前記表面に形成されており、しかも、前記高分子型帯電防止剤として、前記マトリックス相と前記分散相とのいずれにも非相溶性を示す高分子型帯電防止剤が用いられて該高分子型帯電防止剤を外殻としたコアシェル状粒子となって前記分散相が形成されていることを特徴としている。
【0011】
また、上記課題を解決するための成形品の製造方法に係る本発明は、高分子型帯電防止剤を含んだポリマー組成物によって少なくとも一部の表面が形成されている成形品の製造方法であって、2種類以上の互いに非相溶なポリマーが含有されている前記ポリマー組成物を用いることによりマトリックス相と該マトリックス相中に分散された分散相とを前記表面に形成させ、しかも、前記高分子型帯電防止剤として、前記マトリックス相と前記分散相とのいずれにも非相溶性を示す高分子型帯電防止剤を用いて該高分子型帯電防止剤を外殻としたコアシェル状粒子となるように前記分散相を形成させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、成形品の表面においてマトリックス相中に分散された分散相が形成され、いわゆる“海島構造”が形成される。
そして、本発明においては、前記マトリックス相と前記分散相とのいずれにも非相溶性を示す高分子型帯電防止剤が用いられることで該高分子型帯電防止剤を外殻としたコアシェル状粒子となるように前記分散相が形成される。
したがって、分散相の表面全体を導電路として利用することができ、単に高分子型帯電防止剤のみを分散させている場合と違って、成形品の表面の電気抵抗値を大きく低下させうる。
すなわち、高分子型帯電防止剤の使用量の低減を図りつつ帯電防止を図り得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】高分子型帯電防止剤の含有量とポリオレフィン系樹脂フィルムの表面抵抗率の値との関係を示すグラフ。
【図2】高分子型帯電防止剤の含有量とポリオレフィン系樹脂フィルムの表面抵抗率の値との関係を示すグラフ。
【図3】成形品の製造事例1において作製されたポリオレフィン系樹脂フィルムの表面部の透過型電子顕微鏡写真。
【図4】成形品の製造事例4において作製されたポリオレフィン系樹脂フィルムの表面部の透過型電子顕微鏡写真。
【図5】成形品の製造事例7において作製されたポリオレフィン系樹脂フィルムの表面部の透過型電子顕微鏡写真。
【図6】成形品の製造事例8において作製されたポリオレフィン系樹脂発泡シートの表面部の透過型電子顕微鏡写真。
【図7】成形品の製造事例10において作製されたポリスチレン系樹脂フィルムの表面部の透過型電子顕微鏡写真。
【図8】成形品の製造事例13において作製されたポリ乳酸系樹脂フィルムの表面部の透過型電子顕微鏡写真。
【図9】成形品の製造事例14において作製されたポリ乳酸系樹脂発泡シートの表面部の透過型電子顕微鏡写真。
【図10】参考例5のポリエチレン系樹脂フィルムの表面部の透過型電子顕微鏡写真。
【図11】参考例6のポリエチレン系樹脂フィルムの表面部の透過型電子顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第一実施形態)
本発明に係る成形品及びその製造方法の第一の実施形態として樹脂フィルムとその製造方法とについて以説明する。
まず、前記樹脂フィルムを形成するための樹脂組成物について説明する。
【0015】
本実施形態の樹脂フィルムにおいては、2種類以上の互いに非相溶な樹脂を高分子型帯電防止剤とともにその形成材料として使用することが当該高分子型帯電防止剤の使用量を抑制しつつ樹脂フィルムに優れた帯電防止効果を発揮させる上において重要である。
このことによって樹脂フィルムの表面においてマトリックス相と分散相とを形成させ得る。
【0016】
また、本実施形態の樹脂フィルムにおいては、前記高分子型帯電防止剤として、前記マトリックス相と前記分散相とのいずれにも非相溶性を示す高分子型帯電防止剤を用いることが当該高分子型帯電防止剤の使用量を抑制しつつ樹脂フィルムに優れた帯電防止効果を発揮させる上において重要である。
このことによって、例えば、前記マトリックス相を形成させるための樹脂と、該樹脂に対して非相溶性を示す前記分散相を形成させるための樹脂と、前記高分子型帯電防止剤とを加熱溶融させて押出し機でフィルム状に押し出す際などにおいて、前記高分子型帯電防止剤をマトリックス相と分散相との界面に析出させて当該高分子型帯電防止剤を外殻としたコアシェル状粒子となるように前記分散相を形成させることができる。
したがって、この分散相の表面を導電路として利用することができ、高分子型帯電防止剤の使用量を削減しつつ大きな導電路を樹脂フィルム表面に形成させることができる。
【0017】
なお、マトリックス相と分散相との形成材料は、それぞれ単独の樹脂種とする必要はなく、例えば、互いに相溶性を示す1以上の樹脂で構成させればよい。
通常、極性等を近似させて、溶解度パラメータ(SP値)の値の差が0.5〜1.0以下のポリマーどうしは相溶性を示し、これ以上SP値が離れると非相溶性を示すようになるといわれている。
したがって、SP値の近いポリマーを複数用いてマトリックス相を形成させ、これらのポリマーとはSP値が大きく離れるポリマーを複数用いて分散相を形成させることができる。
【0018】
このマトリックス相と分散相とは、その形成材料の割合によって相を逆転させうる。
例えば、極性の低い、一般的にはSP値の低い樹脂(以下「非極性樹脂成分」ともいう)と、この樹脂よりも極性が高くSP値が高い樹脂(以下「極性樹脂成分」ともいう)とでマトリックス相と分散相とを形成させるのに際して、前記非極性樹脂成分を前記極性樹脂成分よりも大過剰となるように本実施形態に係る樹脂フィルムを構成する樹脂組成物に含有させると、当該非極性樹脂成分が前記樹脂フィルム表面において連続相を形成してマトリックス相を形成するとともに前記極性樹脂成分が粒子状に分散して分散相を形成することになる。
一方で、同じ非極性樹脂成分と極性樹脂成分とを用いながらも、極性樹脂成分を非極性樹脂成分に対して大過剰となるように前記樹脂組成物に含有させた場合には、前記極性樹脂成分が連続相となってマトリックス相を形成し、前記非極性樹脂成分が分散相を形成することになる。
【0019】
なお、前記溶解度パラメータは、通常、Fedorsの式によって求められる。
【0020】
前記マトリックス相や前記分散相を形成させるための比較的極性の低い樹脂種としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂が挙げられる。
これらは、数多くのグレードが市場に提供されており、求める特性のものを容易に見出し易いとともに比較的安価である点において本実施形態に係る成形品の好適な材料であるといえる。
【0021】
前記ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)系樹脂やポリプロピレン(PP)系樹脂が挙げられる。
前記ポリエチレン(PE)系樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン樹脂、中密度ポリエチレン樹脂、直鎖低密度ポリエチレン樹脂、(高圧法)低密度ポリエチレン樹脂などが挙げられる。
【0022】
前記ポリプロピレン(PP)系樹脂としては、プロピレン成分のみからなるホモポリプロピレン樹脂、プロピレン成分以外にエチレンなどのオレフィン成分を含有するランダム共重合体やブロック共重合体が挙げられる。
なお、PP系樹脂として共重合体を採用する場合には、プロピレン以外のオレフィンを共重合体中に0.5〜30質量%、特に好ましくは1〜10質量%の割合で含有させたものを用いることが望ましい。
この場合のオレフィン成分としては、エチレン、あるいは、炭素数4〜10のα−オレフィンを挙げることができる。
【0023】
また、本実施形態においては、前記樹脂フィルムを形成させるための樹脂組成物には、前記ポリエチレン(PE)系樹脂や前記ポリプロピレン(PP)系樹脂以外に、ポリブテン樹脂や、ポリ−4−メチルペンテン−1樹脂などをも前記非極性成分として含有させうる。
【0024】
前記ポリオレフィン系樹脂に対して非相溶性を示す樹脂としては、ポリスチレン系樹脂を挙げることができる。
前記ポリスチレン系樹脂としては、特に限定されるものではなく、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、i−プロピルスチレン、t−ブチルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン、クロロスチレン等のスチレン系単量体の単独重合体又はこれらの共重合体等が挙げられる。
又、上記ポリスチレン系樹脂としては、上記スチレン系単量体を主成分とする、上記スチレン系単量体とこのスチレン系単量体と共重合可能なビニル単量体との共重合体であってもよく、このようなビニル単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、ジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、エチルフマレートの他、ジビニルベンゼン、アルキレングリコールジメタクリレートなどの二官能性単量体などが挙げられる。
【0025】
すなわち、本発明で用いられるポリスチレン系樹脂は、上記に例示のスチレン系のモノマー成分の内のいずれかのみから構成されるホモポリマーであっても、上記に例示する各種モノマー成分を複数組み合わせてなるコポリマー(共重合体)であってもよい。
さらに、本実施形態においては、上記モノマー成分以外に他のモノマー成分を含有するスチレン系コポリマーを前記ポリスチレン系樹脂として採用し得る。
【0026】
上記のような極性の高いコモノマー成分をより多く採用することにより得られるポリスチレン系樹脂の極性が高くなり、SP値の高い極性樹脂成分として利用させ得る。
なお、Fedorsの式によれば、一般的なポリスチレン系樹脂が8.5〜10程度の値を示し、それほど高いSP値を示す樹脂ではないが、先にも述べたように、一般的にSP値を0.5〜1.0以上乖離させている樹脂どうしは非相溶になるといわれており、通常、PE樹脂ではSP値が8前後であることからポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂と該ポリスチレン系樹脂とは非相溶性な関係となる。
【0027】
また、SP値が9.0以上の極性樹脂成分を前記非極性樹脂の1種以上と併用することで、樹脂フィルムにマトリックス相と分散相とを形成させ得る。
【0028】
この極性樹脂成分として利用可能な樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂やポリ乳酸系樹脂が挙げられる。
【0029】
前記アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド類、及び(メタ)アクリロニトリルを主たるモノマー成分として得られる重合物を用いることができる。
なお、この“(メタ)アクリル”との用語は、本明細書中においては“メタクリル”と“アクリル”との両方を含む意味で用いている。
【0030】
より、具体的には、前記アクリル系樹脂を構成するモノマー成分としては、アクリル酸、メタクリル酸:アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル:例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸パルミチルまたはアクリル酸シクロヘキシル等のアルキル基の炭素数が1〜18のアクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸パルミチル及びメタクリル酸シクロヘキシル等のアルキル基の炭素数が1〜18程度のメタクリル酸アルキルエステルが挙げられる。
【0031】
さらに、前記アクリル系樹脂を構成するモノマー成分としては、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ヒドロキシブチル、メタクリル酸ヒドロキシブチル等の(メタ)アクリル酸の側鎖に水酸基を有するアルキルエステル;アクリル酸メトキシブチル、メタクリル酸メトキシブチル、アクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシブチル、メタクリル酸エトキシブチル等の(メタ)アクリル酸の側鎖にアルコキシル基を有するアルキルエステル;アクリル酸アリルやメタクリル酸アリル等の(メタ)アクリル酸のアルケニルエステル;アリルオキシエチルアクリレートやアリルオキシエチルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸のアルケニルオキシアルキルエステル;アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、並びにアクリル酸メチルグリシジルやメタクリル酸メチルグリシジル等のアクリル酸の側鎖にエポキシ基を有するアルキルエステル;アクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、アクリル酸メチルアミノエチル、メタクリル酸メチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸のモノ−又はジ−アルキルアミノアルキルエステル;側鎖としてシリル基、アルコキシシリル基または加水分解性アルコキシシリル基などを有するシリコーン変性(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
【0032】
加えて、前記アクリル系樹脂を構成するモノマー成分としては、アクリルアミド類またはメタクリルアミド類:例えばアクリルアミド;メタクリルアミド;N−メチロールアクリルアミド及びN−メチロールメタクリルアミド等のメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド;N−アルコキシメチロールアクリルアミド(例えば、N−イソブトキシメチロールアクリルアミド等)、及びN−アルコキシメチロールメタクリルアミド(例えば、N−イソブトキシメチロールメタクリルアミド等)等のアルコキシメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド;N−ブトキシメチルアクリルアミドやN−ブトキシメチルメタクリルアミドなどのアルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリルアミドなどを挙げることができる。
【0033】
また、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の各種のアクリル系単量体も前記アク
リル系樹脂を構成するモノマー成分として挙げることができる。
【0034】
これらのモノマー成分は、単独で、または複数を混合して使用することができる。
すなわち、本発明で用いられるアクリル系樹脂は、上記に例示の各種のモノマー成分の内のいずれかのみから構成されるホモポリマーであっても、上記に例示する各種モノマー成分を複数組み合わせてなるコポリマー(共重合体)であってもよい。
さらに、本実施形態においては、上記モノマー成分以外に他のモノマー成分を含有するコポリマーをアクリル系樹脂として用い得る。
【0035】
この、上記例示以外のモノマー成分としては、上記モノマー成分と共重合体を形成するものであれば特に制限されず、例えば、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、乳酸ビニル、酪酸ビニル、バーサティック酸ビニル及び安息香酸ビニルなどのビニル系単量体、エチレン、ブタジエン、スチレン等を挙げることができる。
【0036】
本実施形態におけるアクリル系樹脂としては、上記アクリル系のモノマー成分を単独、または複数用いたものの中では、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂が好適であり、PMMA樹脂は安価な市販品を入手することが容易である点などからも好適である。
また、上記アクリル系モノマー以外のモノマー成分と上記アクリル系モノマー成分とのコポリマーであれば、エチレン−アクリル酸共重合体(EAA)樹脂が好適である。
【0037】
前記ポリ乳酸(PLA)系樹脂としては、例えば、ポリD−乳酸樹脂、ポリL−乳酸樹脂、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との共重合体であるポリDL−乳酸樹脂、ポリD−乳酸樹脂とポリL−乳酸樹脂との混合物(ステレオコンプレックス)、ポリD−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリD−乳酸又はポリL−乳酸と脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとの共重合体を挙げることができ、これらは、単独、または、複数混合した状態で前記樹脂組成物に含有させうる。
【0038】
また、これら以外に、一般的に9.0以上のSP値を示す樹脂としては、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂などが挙げられる。
【0039】
なお、前記ポリメチルメタクリレート樹脂では一般に9.1〜9.5程度のSP値を有しているといわれており、例えば、汎用ポリスチレン樹脂(GPPS)などと呼ばれているスチレン系樹脂の内でもSP値の低いスチレンホモポリマーであれば、前記アクリル系樹脂や前記ポリ乳酸系樹脂との間に非相溶性が示される。
したがって、本発明における“2種類以上の互いに非相溶なポリマー”の具体的な組み合わせとしては、“ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、及び、これらの混合樹脂”と、“ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、及び、ポリ乳酸系樹脂のいずれかの樹脂”との組み合わせや、“ポリスチレン系樹脂”と“アクリル系樹脂、又は、ポリ乳酸系樹脂”との組み合わせなどが挙げられる。
【0040】
このような非相溶性を示す2種類以上の樹脂によってマトリックス相と分散相とを形成させる場合に、これらに対して非相溶性を示す高分子型帯電防止剤としては、例えば、マトリックス相を極性樹脂成分で形成させ、分散相を非極性樹脂成分で形成させるのであれば、マトリックス相を形成している樹脂よりも溶解度パラメータが低く、分散相を形成している樹脂よりも高い溶解度パラメータを有するポリマーを主成分とする高分子型帯電防止剤を用いることで、該高分子型帯電防止剤を、より確実に、非極性成分からなる樹脂粒子を取り巻く状態とすることができ、コアシェル型の分散相をより確実に形成させ得る。
【0041】
前記高分子型帯電防止剤としては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリエステルアミド、ポリエーテルエステルアミド、エチレン−メタクリル酸共重合体などのアイオノマー(アイオノマー樹脂)やポリエチレングリコールメタクリレート系共重合体等の第四級アンモニウム塩、特開2001−278985号公報等に記載のオレフィン系ブロックと親水性ブロックとの共重合体等が挙げられる。
【0042】
なかでも、上記例示の樹脂との相互作用を考慮した場合、オレフィン系ブロックと親水性ブロックとを有する共重合体が好ましく、ポリエーテル−ポリオレフィンブロック共重合体(ポリエーテル系ブロックとポリオレフィン系ブロックのブロック共重合体)を主成分とする高分子型帯電防止剤が好適に使用されうる。
特に、プロピレンを70モル%以上含むポリオレフィン系ブロックとポリエーテル系ブロックとのブロック共重合体を主成分とするものがより好ましい。
ここで、「主成分」とは、高分子型帯電防止剤中に占める上記のポリエーテル−ポリオレフィンブロック共重合体の割合が、50質量%以上であることをいう。
なお、上記のようなポリエーテル−ポリオレフィンブロック共重合体は、高分子型帯電防止剤中に70質量%以上含有されていることがより好ましく、80質量%以上含有されていることが特に好ましい。
さらには、実質上、上記ポリエーテル−ポリオレフィンブロック共重合体のみからなる高分子型帯電防止剤を利用することが最も好ましい。
【0043】
なお、帯電防止効果を高めるために、本実施形態に係る樹脂フィルムを形成させるための樹脂組成物には、アルキルベンゼンスルホン酸塩、デシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのようなアニオン性界面活性剤や、その他の界面活性剤又はアルカリ金属塩などの低分子型帯電防止剤を併用してもよい。
ただし、これらの添加によって、溶出イオン量が増加することがあるので使用量は、樹脂組成物に含有される帯電防止剤(高分子型帯電防止剤+低分子型帯電防止剤)の合計量に占める割合が0.5質量%未満とさせることが好ましい。
【0044】
本実施形態の樹脂組成物における前記マトリックス相形成用樹脂と前記分散相形成用樹脂との配合割合や、高分子型帯電防止剤の含有量などは特に限定されるものではないが、一般に帯電防止が求められる樹脂フィルムの表面抵抗率としては、1×108〜1×1013Ω/□のいずれかであることが好ましいことから、このような表面抵抗率を樹脂フィルムに付与させ得る配合の中で、より高分子型帯電防止剤の含有量の低減が可能な配合割合を選択することが好ましい。
なお、樹脂フィルムの表面抵抗率は、1×109〜1×1012Ω/□のいずれかとさせることがより好ましく、1×109〜1×1011Ω/□のいずれかとさせることが最も好ましい。
このような表面抵抗率の値を樹脂フィルムに付与するために好ましい分散相形成用樹脂の含有量は、樹脂組成物に占める割合で、通常、5〜20質量%であり、5〜15質量%であることが特に好ましい。
【0045】
また、前記高分子型帯電防止剤は、通常、樹脂組成物全体に占める割合が2〜30質量%の内のいずれかとなる割合で含有される。
この、高分子型帯電防止剤の下限値が、2質量%とされているのは、これよりも少ない含有量の場合には、樹脂フィルムに十分な帯電防止効果が発揮されないおそれを有するためであり、上限値が30質量%とされているのは、これを超えて高分子型帯電防止剤を含有させても、その含有量に見合う帯電防止効果が得られにくいばかりでなく樹脂フィルムの材料コストを増大させてしまうおそれを有するためである。
なお、このような観点からは、前記高分子型帯電防止剤は、樹脂組成物全体に占める割合が3〜20質量%の内のいずれかとなる割合で含有させることが好ましく、樹脂組成物全体に占める割合が5〜10質量%の内のいずれかとなるように含有させることが特に好ましい。
【0046】
また、ここでは詳述しないが、本実施形態の樹脂フィルムの形成に用いられる樹脂組成物には、一般的なポリマーフィルムの形成に用いられる配合剤を含有させることができ、例えば、耐候剤や老化防止剤といった各種安定剤、滑剤などの加工助剤、スリップ剤、防曇剤、顔料、充填剤などを添加剤として適宜含有させることができる。
【0047】
また、ここでは詳述しないが、本発明の成形品は、上記に例示のような樹脂材料に限らず、種々のポリマーを利用して形成されうるものであり、例えば、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、ブタジエンゴム、ポリイソブチレン、スチレン−ブタジエンゴムのような極性の低いゴムを前記非極性樹脂成分の一部、又は、全部に代えて採用することもでき、クロロプレン、アクリロニトリル含有率の高いニトリルゴム、ビニルアセテートコンテントの高いエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVAゴム)などを前記極性樹脂成分の一部、又は、全部に代えて採用することも可能である。
すなわち、樹脂成形品のみならずゴム成形品やゴムと樹脂との複合材料で形成された成形品も本発明の意図する範囲のものである。
【0048】
次いで、本実施形態に係る成形品の製造方法として、前記樹脂組成物を用いて樹脂フィルムを製造する方法について説明する。
本実施形態においては、一般的なフィルム製造方法に用いられる方法を採用することができ、例えば、前記樹脂(2種類以上の互いに非相溶な樹脂)と前記高分子型帯電防止剤などとを含有する樹脂組成物を作製する混練工程を実施した後に、得られた樹脂組成物をフィルム状に押出し加工する押出し工程を実施する方法などを採用しうる。
以下に、それぞれの工程に関して、より具体的に説明する。
【0049】
(混練工程)
まず、例えば、ポリエチレン系樹脂とアクリル系樹脂のような2種類以上の互いに非相溶性を示す樹脂のそれぞれと、高分子型帯電防止剤と、必要に応じてスリップ剤、防曇剤等の添加剤とを計量してタンブラーブレンダー、へンシェルミキサーなどでドライブレンドした後、単軸押出機、多軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどで各配合材料が略均一に混合された状態となるように溶融混練する。
その後、混練物をストランド状に押出してペレタイズするか、ホットカットしてペレット化するなどして樹脂組成物からなるペレットを作製する。
【0050】
(押出し工程)
上記混練工程で得られたペレットを熱溶融状態でフィルム状に押出し加工する方法としては、例えば、サーキュラーダイなどから押出してインフレーション法によってフィルム化したり、T−ダイなどから押出してキャスト法によってフィルム化したりする方法があげられる。
この内、T−ダイなどのフラットダイでは、押出し方向への延伸が容易である一方で幅方向への延伸のためにはテンターなどの設備を要することから、幅方向への延伸も容易なサーキュラーダイを用いた押出し工程を実施することが好ましい。
【0051】
この混練工程、及び、押出し工程における加熱溶融状態での混合に際して、例えば、アクリル系樹脂に対して大過剰のポリエチレン系樹脂を含有している樹脂組成物を作製させたとすると極性の低いポリエチレン系樹脂に対して極性の高いアクリル系樹脂が非相溶性を示し、該非相溶性成分による分散相が前記ポリエチレン系樹脂を含むマトリックス相に分散された状態となる。
すなわち、アクリル系樹脂による分散相の形成された海島構造が溶融状態の樹脂組成物中に形成される。
このとき、ポリエチレン系樹脂に対して親和性の高いポリオレフィンブロックと、アクリル系樹脂に対して親和性の高いポリエーテルブロックとを有する共重合体(高分子型帯電防止剤)がこの分散相とマトリックス相との界面に集合して、この界面に沿っての電気抵抗の低い領域を形成させる。
すなわち、高分子型帯電防止剤によって覆われた状態でアクリル系樹脂がベース樹脂であるポリエチレン系樹脂中に分散されることになる。
【0052】
しかも、このアクリル系樹脂粒子をコアにし、外殻部が高分子型帯電防止剤によって形成されたコアシェル状の粒子は、押出し工程において溶融状態の樹脂組成物に作用するせん断力によって樹脂の流れ方向(押出し方向)に沿って長く延び、比較的アスペクト比の高い状態となって分散相を形成する。
そして、溶融状態の樹脂組成物が流動しつつ冷却されることによって、この分散相が長く延びた状態が、得られる樹脂フィルムにおいても維持されることになる。
そして、例えば、1μm長さを超える細長い粒子を分散相に形成させることで表面抵抗率を顕著に低下させることができる。
【0053】
このことについてさらに説明すると、高分子型帯電防止剤は、通常、主たる成分が前述のようにイオン伝導性に優れたポリマーであり樹脂フィルムの表面にイオン伝導性を付与することで表面抵抗率を低下させて帯電防止を行うものであるが、単独で高分子型帯電防止剤を、例えば、ポリエチレン系樹脂に分散させた場合には、系内に微小な点状粒子となって分散されてしまい、その粒子間の距離をある程度接近させ得るような量で含有させなければ効果が発揮されない。
ここで、本実施形態においては、コア部がアクリル系樹脂粒子で形成され、外殻部(シェル部)が高分子型帯電防止剤で形成された粒子が形成される。
このことから、このコア部の分だけ高分子型帯電防止剤の使用量を抑制しつつ、この分散相の粒子間距離を縮めることができる。
【0054】
しかも、分散相を形成している粒子が樹脂の流れ方向(押出し方向)に沿って長く延び、フィルム平面方向の長さが1μmを超えるような細長い形状となることで高分子型帯電防止剤による導電路がこの粒子表面に形成されることとなる。
すなわち、本実施形態の樹脂フィルムにおいては、樹脂の流れ方向に沿って上記のような長細い粒状に分散相が形成されることから、この粒子の長手方向に沿った電気抵抗値の低減が図られることとなる。
【0055】
また、通常、分散相を形成しているコアシェル状の粒子と、この粒子に隣接する別の粒子との間の電気抵抗値は、主として、粒子間の距離によって決定されることになる。
つまり、樹脂の流れ方向と直交する方向に電圧を印加した場合においては、コアシェル状粒子どうしが隣り合せとなる区間における最も電気抵抗値の低い箇所(通常、粒子どうしが最も接近している箇所)を通って流れる電荷の量によって電気抵抗値が左右されることになる。
【0056】
そして、本実施形態の樹脂フィルムにおいては、樹脂の流れ方向に沿って長細い粒状に分散相が形成されることから、粒子どうしが隣り合わせとなる区間が長く形成され、その間に電気抵抗値の低い箇所が形成される可能性が高くなる。
したがって、イオン伝導に有利な樹脂の流れ方向以外の方向においても電気抵抗値の低減が図られることとなり、高分子型帯電防止剤の配合量を30質量%以下、例えば、5〜10質量%にまで低減したとしても樹脂フィルムの表面抵抗率の値を、一般的に求められる1013(Ω/□)オーダー以下(1×1014未満)の値となるように低下させうる。
【0057】
なお、上記のような効果は、高分子型帯電防止剤を構成しているポリマーがマトリックス相や分散相を形成している樹脂に対して非相溶性を示すことによって発現されるものである。
これらに対して非相溶性を示すかどうかは、先にも示したようにマトリックス相を形成させる樹脂と、分散相を形成させる樹脂との溶解度パラメータを予め求めることで判断することができ、これらの樹脂に対してSP値を0.5以上、好ましくは1.0以上異ならせた高分子型帯電防止剤を選択すればよい。
なお、前記溶解度パラメータは、Fedorsの式に基づいて、その分子構造によって求められるが、例えば、市販の高分子型帯電防止剤を利用する場合で、構造を十分特定できないことから溶解度パラメータの値を計算することが困難な場合であれば、実際に、樹脂と、高分子型帯電防止剤とを加熱溶融させて混合し、冷却して得られた試料についてその分散状態を走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)によって直接観察して判断することができる。
【0058】
また、このような高分子型帯電防止剤によって外殻を形成させたコアシェル状粒子を前述のような1μmよりも細長く形成させる具体的な手法としては、押出し時のせん断の加わり方を調整する方法が挙げられる。
なお、分散相の大きさについても、SEMやTEMで直接確認することができ、例えば、成形品から採取した試料に対して数千倍から数万倍の倍率で無作為に10視野程度の観察を行い、その半数以上の視野において1μm以上の長さの粒子が確認できれば、成形品に1μm以上の分散相が形成されていると判断することができる。
【0059】
以上のようにコアシェル状粒子の形状と、その外殻部を構成させる高分子型帯電防止剤の選択によって、樹脂フィルムにおける高分子型帯電防止剤の使用量をより一層抑制させつつ表面抵抗率の低減を図ることができる。
このような分散相は、少なくとも樹脂フィルムの表面に形成されていれば良く、フィルム内部における分散相の形状や大きさについては、帯電防止性能に大きな影響は与えない。
したがって、厚みの厚い樹脂フィルムが必要な場合において、例えば、3層共押出しを実施して、中央部を、高分子型帯電防止剤を含まない構成として、高分子型帯電防止剤の使用量削減を図ることも可能である。
【0060】
(第二実施形態)
次いで、本発明の成形品についての第二の実施形態として、シート状の発泡成形品(発泡シート)について説明する。
この発泡シートは、第一の実施形態において説明した樹脂組成物に、さらに、発泡のための成分を加えて、押出し機で押出し発泡させるなどして製造し得る。
【0061】
この発泡のための成分としては、ガス成分や、該ガス成分が気泡を形成する際の核となる気泡核剤や熱分解してガスを発生させる化合物粒子等が挙げられる。
【0062】
前記気泡核剤としては、一般に気泡核剤として用いられているものであれば、特に限定されるものではなく例えば、タルク、マイカ、シリカ、珪藻土、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸バリウム、ガラスビーズなどの無機化合物、ポリテトラフルオロエチレン、などの有機化合物などが挙げられ、その中でも特にタルクが好ましい。なお、気泡核剤は単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0063】
この気泡核剤とともに用いられる発泡剤としては、従来、発泡押出しに用いられているものを本実施形態においても採用することができ、例えば、水、炭化水素、ジメチルエーテル、塩化メチル、塩化エチル、窒素、二酸化炭素、アルゴン等を使用することができる。
【0064】
また、熱分解してガスを発生させる化合物粒子としては、例えば、アゾジカルボンアミド、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウムとクエン酸の混合物などを用いることができる。
【0065】
本実施形態に係る発泡シートを得るには、例えば、第一実施形態における混練工程と同様にして気泡核剤を含んだ樹脂ペレットを作製し、押出し時において、前記ガス成分を押出し機のシリンダー中に圧入して、該押出し機の先端に設けたサーキュラーダイやフラットダイから発泡押出しさせる方法が挙げられる。
【0066】
このような発泡シートにおいても、その表面においてマトリックス相と分散相とが形成され、前記高分子型帯電防止剤が外殻を構成するコアシェル型の分散相が形成されることから、少ない帯電防止剤の使用量で、高い帯電防止効果が付与されうる。
【0067】
このような発泡シートは、帯電防止剤のブリードアウトも抑制され、しかも、埃等の付着も防止されうることから、食品トレーなどの素材や、電気・電子部品の搬送・保存用トレーや該トレーの内部を仕切る仕切り材などの素材として好適なものであるといえる。
また、帯電防止剤のブリードアウトが抑制されることから、ガラス板の間に介装されるクッションシートなどの用途にも好適なものであると言える。
すなわち、ブリードアウトによってガラス板に曇りを生じさせ、改めて洗浄を要するような事態となることが防止されるとともにガラス板を使用する際に、静電気によって剥れ難くなったりすることが防止される点においてクッションシートとして好適なものである。
【0068】
なお、一面、又は、両面にフィルム層を形成させたフィルム層付き発泡シートを、上記のような、食品トレー、電気・電子部品の搬送・保存用トレー、仕切り材、クッションシートとして利用する場合には、フィルム層付き発泡シートの発泡層に高分子型帯電防止剤を含有させる必要はなく、このフィルム層を第一実施形態に示したようなフィルムで構成させればよい。
また、その場合には、発泡層とフィルム層とを共押出しによって形成させることで、簡便にフィルム層付き発泡シートが得られるばかりか、発泡層とフィルム層との接着強度に優れた成形品を得ることができる。
【0069】
この第二実施形態において、発泡シートの表面に押出し方向に長く伸びる分散相が形成される点、ならびに、1μm以上の分散相を形成させることで、表面抵抗率の低下に有利となる点については、第一実施形態と同じであり、この分散相の形状の制御は、第一実施形態と同様に押出し条件の調整により可能である。
また、この第二実施形態においては、発泡度の調整によっても分散相の形態を調整することが可能である。
【0070】
ここで、このようなシート状の発泡成形品以外に3次元構造を有するものを作製する場合には、2種類以上の互いに非相溶なポリマーが含有され、いずれのポリマーにも非相溶性を示す高分子型帯電防止剤が含有されている樹脂組成物で発泡用の樹脂ビーズを作製し、該樹脂ビーズを求める製品形状を有する金型内で発泡させる方法を採用することができる。
また、本実施形態において、発泡成形品を得る方法としては、このような方法にも限定されず、種々の方法を採用することができる。
【0071】
(第三実施形態)
次いで、本発明の第三の実施形態として、射出成形品を形成させる場合を説明する。
この実施形態においては、第一実施形態における混練工程と同様にして得られた樹脂ペレットを一般的な射出成形機に導入して成形品を得る方法が、その具体的な実施方法として挙げられる。
なお、射出成形においては、金型のキャビティ部の内壁面によって溶融樹脂がせん断を受けつつ冷却固化される。
したがって、ゲートの形状などによっても分散相の形状の調整を図ることができる。
また、本実施形態においては、溶融状態の樹脂組成物が金属面に接しつつ冷却されることから、通常、樹脂組成物に含有される極性の高い成分が金型との接触面に濃化される傾向となる。
すなわち、例えば、分散相を形成させる樹脂としてアクリル系樹脂やポリ乳酸系樹脂といった極性の高い樹脂を採用することでこれらの樹脂粒子を成形品の表面により多く存在させることができ、しかも、この樹脂粒子を取り巻く高分子型帯電防止剤についても表面濃化させることができる。
したがって、より少量の高分子型帯電防止剤の使用によって優れた帯電防止効果を期待することができる。
【0072】
また、この射出成形による成形品の製造方法は、金型内に予め別の部材を仕込んでおくことにより、該部材からなる部分と、高分子型帯電防止剤を含んだ樹脂組成物からなる部分とを有する複合成形品を容易に得ることができる点において優れた方法であるといえる。
【0073】
なお、上記第一実施形態から第三実施形態においては、マトリックス相と分散相とを成形品の表面に形成させやすい点において、樹脂組成物を熱溶融させる方法を中心に説明しているが、例えば、樹脂組成物を溶剤に溶解させるなどして樹脂溶液を作製し、これを基材に対してコーティングした後、前記溶剤を除去して基材表面に、マトリックス相と分散相とを有する樹脂コーティングさせるような場合も、高分子型帯電防止剤によって外殻部の形成されたコアシェル型の分散相を形成させる場合においては、本発明の成形品製造方法として意図する範囲のものである。
また、前記したように本発明においては、ポリマー組成物を樹脂組成物に限定するものではなくゴム組成物を利用する場合においても、マトリックス相を形成するゴムに分散相が形成され、その外殻が高分子型帯電防止剤で形成されるものについては、本発明の意図する範囲のものである。
【0074】
また、本発明の成形品は、本実施形態において例示されたものに限定されるものではなく、2種類以上の互いに非相溶なポリマーを高分子型帯電防止剤とともに含んだポリマー組成物によって前記高分子型帯電防止剤を外殻としたコアシェル状粒子となって分散相が形成されるものであれば、例えば、繊維や繊維製品なども本発明に係る成形品として意図する範囲のものである。
このような繊維製品は、例えば、自動車のシート外装材や衣服の裏地材などとして好適に用いられ得る。
さらには、本発明の成形品は、従来、静電気による帯電に対する対策が要望されている種々の用途において採用可能なものである。
【実施例】
【0075】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0076】
(成形品の製造事例1:ポリオレフィン系樹脂フィルム)
(配合剤)
以下に、成形品としてポリオレフィン系樹脂フィルムを作製する事例を説明する。
まず、用いる配合剤に関して、その略称と、その詳細とを以下に説明する。
【0077】
(予備検討:参考例1〜6)
以下に、下記表1に示すように、ポリオレフィン系樹脂や極性樹脂(PMMA、PLA)ならびにこれらを溶融混合させて得られた樹脂を用いてフィルム状の試料を作製し、得られたフィルム状試料に対して、JIS K 6911:1995「熱硬化性プラスチックー般試験方法」記載の方法により表面抵抗率の値を測定した。
結果を下記表1に併せて示す。
なお、具体的には、一辺が10cmの平面正方形状の試験片を温度22℃、湿度60%の雰囲気下に24時間放置した後、温度22℃、湿度60%の環境下、試験装置(アドバンテスト社製、デジタル超高抵抗/微少電流計R8340及びレジスティビティ・チェンバR12702A)を使用し、試験片に、約30Nの荷重にて電極を圧着させ500Vの電圧を印加して1分経過後の抵抗値を測定し、次式により算出した。
ρs=π(D+d)/(D−d)×Rs
ただし、
ρs:表面抵抗率(Ω/□)
D:表面の環状電極の内径(cm)(レジスティビティ・チェンバR12702Aでは、7cm)
d:表面電極の内円の外径(cm)(レジスティビティ・チェンバR12702Aでは、5cm)
Rs:表面抵抗(Ω)
また、測定は3回実施し、それぞれの算術平均値を求めた。
【0078】
(表面TEM観察)
参考例5、6の樹脂フィルムから切り出した薄片試料を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した様子を図10、11に示す。
なお、上記TEM観察における試験片は、樹脂フィルムを押出し方向に沿ってスライスしたものであり、これらの図に示されているTEM像は、樹脂フィルムの表面に相当する側においてこのスライスされた試験片を観察したものである。
すなわち、樹脂フィルムの厚み方向の断面における表面側近傍の様子を押出し方向に直交する方向から観察したものである。
これらの図からも、ポリオレフィン系樹脂をマトリックス相とし、PMMAやPLAがアスペクト比の高い分散相を形成していることがわかる。
【0079】
【表1】
【0080】
この予備検討にも示すように、極性の高いPMMAやPLAといった樹脂で形成されているフィルムも極性の低いポリオレフィン系樹脂で形成されたフィルムと同様に高い表面抵抗率を有し、帯電されやすいものである。
また、本発明は、ベース樹脂に対して非相溶性を示す樹脂を高分子型帯電防止剤と併用することを特徴としているが、単にポリオレフィン系樹脂に極性の高い樹脂を溶融混合させて極性ポリマーによるアスペクト比の高い分散相をポリオレフィン系樹脂からなるマトリックス相中に形成させるだけでは帯電防止性能が改善されないことが、図10、11や表1の結果からもわかる。
【0081】
(配合1〜4)
次に、下記表2に示す配合にて、表2に示す厚みのポリオレフィン系樹脂フィルムを作製し、参考例1〜6と同様に表面抵抗率の測定を行った。なお、表面抵抗率の測定は、ポリオレフィン系樹脂フィルムの一面のみとした。結果を、表2に併せて示す。
【0082】
なお、後段において詳述するが、このポリオレフィン系樹脂にアクリル系樹脂と高分子型帯電防止剤とを溶融混合させて得られたフィルムにおいては、前記高分子型帯電防止剤で外殻が形成され、前記アクリル系樹脂で内部のコアが形成されたコアシェル状の粒子が形成されていることが確認された。
【0083】
【表2】
【0084】
この表2にも示されているように、単に高分子型帯電防止剤を配合した基準配合(配合1)に比べてこの高分子型帯電防止剤を減量した配合2では、大きく表面抵抗率の値を増大させている一方で、エチレン−アクリル酸共重合体(A210K)や、PMMA樹脂(LG35)を併用している場合(配合3、4)には、高分子型帯電防止剤を減量しても表面抵抗率の値を大きく低下させうる。
しかも、高分子型帯電防止剤(ペレスタット230)と同じくMFRが30g/10min以上のPMMA樹脂(LG35)を併用している場合には、表面抵抗率の低下(帯電防止効果)が大きいこともわかる。
【0085】
(配合5〜7)
表3に示す配合で、表3に示す厚みのポリオレフィン系樹脂フィルムを作製し、配合1〜4と同様に表面抵抗率の測定を行った。なお、表面抵抗率の測定は、ポリオレフィン系樹脂フィルムの一面のみとした。結果を、表3に併せて示す。
【0086】
【表3】
【0087】
この表3からも、アクリル系樹脂(PMMA)を併用することで高分子型帯電防止剤の使用を抑制しつつポリオレフィン系樹脂フィルムの表面抵抗率の値を低下させうることがわかる。
【0088】
(配合8〜11)
同様に、表4に示す配合(配合8〜11)で、表4に示す厚みのポリオレフィン系樹脂フィルムを作製し表面抵抗率の測定を行った。なお、表面抵抗率の測定は、ポリオレフィン系樹脂フィルムの一面のみとした。結果を、表4に併せて示す。
【表4】
【0089】
この表4からも、アクリル系樹脂(PMMA)を併用することで高分子型帯電防止剤の使用を抑制しつつポリオレフィン系樹脂フィルムの表面抵抗率の値を低下させうることがわかる。
【0090】
(配合12〜17)
表5に示す配合(配合12〜17)で、表5に示す厚みのポリオレフィン系樹脂フィルムを作製し表面抵抗率の測定を行った。なお、表面抵抗率の測定は、ポリオレフィン系樹脂フィルムの一面のみとした。結果を、表5に併せて示す。
【表5】
この表5からも、アクリル系樹脂(PMMA)を併用することで高分子型帯電防止剤の使用を抑制しつつポリオレフィン系樹脂フィルムの表面抵抗率の値を低下させうることがわかる。
【0091】
(グラフ1)
PL500A(サンアロマー社製、ホモPP、MFR(M)=3.3g/10min)をベースに、LG35を10重量%含有させた系、ならびに、CM−50を10重量%含有させた系での高分子型帯電防止剤(ペレスタット230)を変量した場合の表面抵抗率の変化をグラフ化した様子を図1に示す。
また、LG35やCM−50などのアクリル系樹脂を含有させていない場合に、高分子型帯電防止剤のみを12重量%(PL500A:88重量%)含有させた場合の表面抵抗率の値も併せて示す(図中「×」)。
このグラフ1に示す外挿線からは、アクリル系樹脂を含有させることで、高分子型帯電防止剤のみを用いる場合に比べて、その含有量が約2/3であってもの同等の表面抵抗率の値を得られることがわかる。
【0092】
(グラフ2)
PL500A(サンアロマー社製、ホモPP、MFR(M)=3.3g/10min)をベースに、LG35を10重量%含有させた系、560Fを10重量%含有させた系、ならびに、EHを10重量%含有させた系での高分子型帯電防止剤(イルガスタットP18)を変量した場合の表面抵抗率の変化をグラフ化した様子を図2に示す。
また、LG35などのアクリル系樹脂を含有させていない場合に、高分子型帯電防止剤のみを5重量%、7重量%、及び12重量%(PL500A:95重量%、93重量%、及び88重量%)含有させた場合の表面抵抗率の値も併せて示す(図中「×」)。
このグラフ2からは、MFRが、10g/10minの高分子型帯電防止剤を用いた場合は、MFRが30g/10min以上のLG35よりも、MFRのより低い560FやEHを用いた方が、表面抵抗率の値の低下に有効であることがわかる。
【0093】
(表面TEM観察)
PMMAを10重量%、ペレスタット230を7重量%含有させたポリオレフィン系樹脂組成物を加熱溶融させた状態でシート状に押出したものを用いて作製した薄片試料を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した様子を図3に示す。
なお、上記TEM観察における試験片は、ポリオレフィン系樹脂フィルムを押出し方向に沿ってスライスしたものであり、図3のTEM像は、ポリオレフィン系樹脂フィルムの表面に相当する側においてこのスライスされた試験片を観察したものである。
すなわち、ポリオレフィン系樹脂フィルムの厚み方向の断面における表面側近傍の様子を押出し方向に直交する方向から観察したものである。
この図3からも、ポリオレフィン系樹脂フィルムの表面においては、ポリオレフィン系樹脂をマトリックス相とし、その中にPMMAがアスペクト比の高い分散相を形成していることがわかる。
また、このPMMAの周囲に外殻をなす状態で高分子型帯電防止剤であるペレスタットが集合されていることがわかる。
このことからも、本発明によれば、ポリオレフィン系樹脂フィルムにおいて高分子型帯電防止剤の使用量の低減を図りつつ帯電防止を図り得ることがわかる。
【0094】
(成形品の製造事例2:ポリオレフィン系樹脂発泡シート)
用いた配合剤に関しては「成形品の製造事例1」と共通するためその説明は割愛し、以下においては略称を用いて説明する。
(配合18〜23)
表6に示す、配合で、表6に示す厚みのポリオレフィン系樹脂発泡シートを作製し、これまでの評価事例と同様に表面抵抗率の測定を行った。結果を、表6に併せて示す。
また、温度、湿度環境を(21℃、57%RH)、(20℃、30%RH)、(21℃、85%RH)の3条件に変更して表面抵抗率を測定したデータを、併せて、表6に示す。
【0095】
【表6】
【0096】
この表6からも、アクリル系樹脂(PMMA)を併用することで高分子型帯電防止剤の使用を抑制しつつポリオレフィン系樹脂発泡成形体の表面抵抗率の値を低下させうることがわかる。
しかも、高分子型帯電防止剤(ペレスタット230)と同じくMFRが30g/10min以上のPMMA樹脂(LG35)を併用している場合には、MFRが13g/10minのPMMA樹脂(560F)を併用している場合よりも表面抵抗率の低下(帯電防止効果)が大きいこともわかる。
【0097】
(成形品の製造事例3:ポリオレフィン系樹脂成形品)
用いた配合剤に関しては「成形品の製造事例1」と共通するためその説明は割愛し、以下においては略称を用いて説明する。
(配合24〜29)
次いで、ポリオレフィン系樹脂成形品についての評価事例を示す。
まず、下記表7に示す配合のポリオレフィン系樹脂組成物を作製した。このポリオレフィン系樹脂組成物は、各材料を二軸押出し機にて混練し、ペレット化することにより作製した。
このペレット(ポリオレフィン系樹脂組成物)を射出成形して20mm×30mm×4mmのシート状(非発泡)のポリオレフィン系樹脂成形品を作製した。
得られたポリオレフィン系樹脂成形品に対して、以下のような評価を実施した。
【0098】
(評価方法)
また、得られたシート状のポリオレフィン系樹脂成形品を、温度22℃、相対湿度60%の環境下に24時間放置した後、温度22℃、相対湿度60%の環境下、三菱化学社製、高抵抗率計、「ハイレスターUP」(MCP−HT450、プローブ:URS)を使用して、表面抵抗率の値を測定した。
測定に際しては、プローブをシート状のポリオレフィン系樹脂成形品の表面に圧着させDC500Vの電圧を1分間印加した後に表面抵抗率の値を計測する方法を採用した。
また、測定は、3個のポリオレフィン系樹脂成形品に対して実施し、これらの算術平均を各基準例、比較例の表面抵抗率とした。
結果を、表7に併せて示す。
【0099】
【表7】
【0100】
この表7にも示されているように、高分子型帯電防止剤を基準配合(配合25、28)に比べて約半減した配合26、29では、大きく表面抵抗率の値を増大させ、ベースポリマー(PF814、PL500A)単体の配合24、27と略同じような表面抵抗率の値を示している。
【0101】
(配合30〜35)
下記表8に示す配合のポリオレフィン系樹脂組成物を作製した。このポリオレフィン系樹脂組成物は、各材料を二軸押出し機にて混練し、ペレット化することにより作製した。
このペレット(ポリオレフィン系樹脂組成物)を射出成形して20mm×30mm×4mmのシート状(非発泡)のポリオレフィン系樹脂成形品を作製した。
得られたポリオレフィン系樹脂成形品に対して、上記配合24〜29と同様に表面抵抗率の値を測定した。
結果を、表8に併せて示す。
【0102】
【表8】
【0103】
この表8にも示されているように、高分子型帯電防止剤を先の基準配合(配合25、28)に比べて約半減した配合30、32や、1/4以下にした配合31、33などにおいても比較的低い表面抵抗率の値が観察されており、LG35(PMMA)の添加により、少ない帯電防止剤の量で、優れた帯電防止効果が得られていることがわかる。
【0104】
(成形品の製造事例4:ポリオレフィン系樹脂フィルム)
(配合36〜38)
下記表9に示す配合にて、表9に示す厚みのポリオレフィン系樹脂フィルムを押出し機で作製し、ポリオレフィン系樹脂フィルムを「成形品の製造事例1」と同様に評価した。
用いた配合剤に関しては「成形品の製造事例1」と共通するものについてはその説明は割愛し、以下においては略称を用いて説明する。
【0105】
【表9】
【0106】
この表9にも示されているように、単に高分子型帯電防止剤を配合した基準配合(配合36)に比べてこの高分子型帯電防止剤を減量した配合37では、大きく表面抵抗率の値を増大させている一方で、HV6250を併用している場合(配合38)には、高分子型帯電防止剤を減量しても表面抵抗率の値を大きく低下させうる。
【0107】
(配合39〜41)
表10に示す配合で、表10に示す厚みのポリオレフィン系樹脂フィルムを作製し、これまでと同様に表面抵抗率の測定を行った。なお、表面抵抗率の測定は、ポリオレフィン系樹脂フィルムの一面のみとした。結果を、表10に併せて示す。
【0108】
【表10】
【0109】
この表10からも、ポリ乳酸系樹脂(PLA)を併用することで高分子型帯電防止剤の使用を抑制しつつポリオレフィン系樹脂フィルムの表面抵抗率の値を低下させうることがわかる。
【0110】
(表面TEM観察)
ポリ乳酸系樹脂を10重量%、ペレスタット230を7重量%含有させたポリオレフィン系樹脂組成物を加熱溶融させた状態でシート状に押出したものを用いて作製した薄片試料を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した様子を図4に示す。
なお、上記TEM観察における試験片は、ポリオレフィン系樹脂フィルムを押出し方向に沿ってスライスしたものであり、図4のTEM像は、ポリオレフィン系樹脂フィルムの表面に相当する側においてこのスライスされた試験片を観察したものである。
すなわち、ポリオレフィン系樹脂フィルムの厚み方向の断面における表面側近傍の様子を押出し方向に直交する方向から観察したものである。
この図4のTEM像において観察される分散相はポリ乳酸系樹脂によって形成されたものであり、このポリ乳酸系樹脂の周囲を黒く縁取っているのがペレスタット230である。
そして、TEM像の下に設けられているスケールバーは0.5μm長さを表しており、この図4からも、ポリ乳酸系樹脂がアスペクト比の高い分散相を形成し、その周囲に高分子型帯電防止剤であるペレスタット230が集合されていることがわかる。
このことからも、本発明によれば、高分子型帯電防止剤の使用量の低減を図りつつ帯電防止を図り得ることがわかる。
【0111】
(成形品の製造事例5:ポリオレフィン系樹脂発泡シート)
(配合42〜44)
下記表11に示す配合にて、表11に示す厚みのポリオレフィン系樹脂発泡シートを押出し機で作製し、ポリオレフィン系樹脂発泡シートを製造事例1と同様に評価した。
なお、用いた配合剤に関してはこれまでの成形品製造事例と共通するためその説明は割愛し、以下においては略称を用いて説明する。
また、表面抵抗率の測定は、ポリオレフィン系樹脂発泡シートの表裏両面に対して実施した。結果を、表11に併せて示す。
【0112】
【表11】
【0113】
この表11からも、ポリ乳酸系樹脂(PLA)を併用することで高分子型帯電防止剤の使用を抑制しつつポリオレフィン系樹脂発泡成形品の表面抵抗率の値を低下させうることがわかる。
また、ポリ乳酸を5重量%以上含有させることで帯電防止効果がより顕著になることもこの表11からわかる。
【0114】
(成形品の製造事例6:ポリオレフィン系樹脂成形品)
(配合45〜50)
下記表12に示す配合にて、表12に示す配合のポリオレフィン系樹脂組成物を作製した。このポリオレフィン系樹脂組成物は、各材料を二軸押出し機にて混練し、ペレット化することにより作製した。
このペレット(ポリオレフィン系樹脂組成物)を射出成形して20mm×30mm×4mmのシート状(非発泡)のポリオレフィン系樹脂成形品を作製した。
得られたポリオレフィン系樹脂成形品に対して、製造事例3と同様に評価を実施した。
結果を、表12に併せて示す。
【0115】
【表12】
【0116】
この表12にも示されているように、高分子型帯電防止剤を基準配合(配合46、49)に比べて約半減した配合47、50では、大きく表面抵抗率の値を増大させ、ベースポリマー(PF814、PL500A)単体の配合45、48と略同じような表面抵抗率の値を示している。
【0117】
(配合51〜56)
下記表13に示す配合のポリオレフィン系樹脂組成物を作製した。このポリオレフィン系樹脂組成物は、各材料を二軸押出し機にて混練し、ペレット化することにより作製した。
このペレット(ポリオレフィン系樹脂組成物)を射出成形して20mm×30mm×4mmのシート状(非発泡)のポリオレフィン系樹脂成形品を作製した。
得られたポリオレフィン系樹脂成形品に対して、これまでと同様に表面抵抗率の値を測定した。
結果を、表13に併せて示す。
【0118】
【表13】
【0119】
この表13にも示されているように、高分子型帯電防止剤を先の基準配合(配合46、49)に比べて約半減した配合51、53や、1/4以下にした配合52、54などにおいても比較的低い表面抵抗率の値が観察されており、少ない帯電防止剤の量で、優れた帯電防止効果が得られていることがわかる。
【0120】
(成形品の製造事例7:ポリオレフィン系樹脂フィルム)
(配合57〜67)
下記表14、15に示す配合にて、表14、15に示す厚みのポリオレフィン系樹脂フィルムを押出し機で作製し、ポリオレフィン系樹脂フィルムを製造事例1と同様に評価した。
用いた配合剤に関してはこれまでと共通するものについてはその説明は割愛し、以下においては略称を用いて説明する。
ここでは、さらに以下のような配合剤を使用した。
(配合剤)
【0121】
【表14】
【0122】
【表15】
【0123】
この表14から、高分子型帯電防止剤は、ある程度の量を添加するまでは帯電防止に機能を発揮しないことがわかる。
そして、単に高分子型帯電防止剤を基準配合(配合57)に比べて減量した配合58では、大きく表面抵抗率の値を増大させている一方で、配合61〜65に示すように、ポリスチレン(PS)系樹脂を併用している場合や、配合66、67に示すようにアクリル系樹脂(PMMA)やポリ乳酸系(PLA)樹脂を併用している場合には、高分子型帯電防止剤を減量しても表面抵抗率の値を低下させうる。
さらに、用いるポリスチレン(PS)系樹脂をMFRの値が高いものへと変更することで、より表面固有抵抗率の値を低下させうることが上記の表からもわかる。
例えば、MFRが7.0g/min以上である「HF77」、「679」、「AGI02」を用いた場合(配合63〜65)、MFRが1.5g/minの「G9305」や、MFRが2.7g/minの「E641N」を用いた場合(配合61、62)よりも良好なる結果が得られていることが上記の表15からわかる。
【0124】
(TEM観察)
ポリスチレン(PS)系樹脂を10重量%、ペレスタット230を7重量%含有させたポリオレフィン系樹脂組成物を加熱溶融させた状態でシート状に押出したものを用いて作製した薄片試料を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した様子を図5に示す。
この図5からも、PSがアスペクト比の高い分散相を形成し、その周囲に高分子型帯電防止剤であるペレスタットが集合されていることがわかる。
このことからも、本発明によれば、高分子型帯電防止剤の使用量の低減を図りつつ帯電防止を図り得ることがわかる。
【0125】
(成形品の製造事例8:ポリオレフィン系樹脂発泡シート)
(配合68〜72)
下記表16に示す配合にて、表16に示す厚みのポリオレフィン系樹脂発泡シートを押出し機で作製し、ポリオレフィン系樹脂発泡シートを製造事例1と同様に評価した。
なお、用いた配合剤に関してはこれまでの成形品製造事例と共通するものについてはその説明は割愛し、以下においては略称を用いて説明する。
今回は、さらに、下記のような配合剤を使用した。
【0126】
(配合剤)
【0127】
【表16】
【0128】
この表16からも、ポリスチレン系樹脂(GPPS、HIPS)を併用することで高分子型帯電防止剤の使用を抑制しつつポリオレフィン系樹脂発泡成形品の表面抵抗率の値を低下させうることがわかる。
【0129】
(TEM観察)
ポリスチレン系樹脂を10重量%、ペレスタット230を6重量%含有させたポリオレフィン系樹脂組成物を加熱溶融させた状態でシート状に発泡押出したものを用いて作製した薄片試料を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した様子を図6に示す。
この図6からも、ポリスチレン系樹脂がアスペクト比の高い分散相を形成し、その周囲に高分子型帯電防止剤であるペレスタットが集合されて外殻を形成していることがわかる。
【0130】
(成形品の製造事例9:ポリオレフィン系樹脂成形品)
(配合73〜76)
下記表17に示す配合にて、表17に示す配合のポリオレフィン系樹脂組成物を作製した。このポリオレフィン系樹脂組成物は、各材料を二軸押出し機にて混練し、ペレット化することにより作製した。
このペレット(ポリオレフィン系樹脂組成物)を射出成形して20mm×30mm×4mmのシート状(非発泡)のポリオレフィン系樹脂成形品を作製した。
得られたポリオレフィン系樹脂成形品に対して、製造事例3と同様の評価を実施した。
結果を、表17に併せて示す。
なお、当該事例においては、これまでの配合剤に加えて、下記のような配合剤を使用した。
【0131】
(配合剤)
【0132】
【表17】
【0133】
この表17にも示されているように、高分子型帯電防止剤を基準配合(配合73、74)に比べて約半減した配合75、76では、大きく表面抵抗率の値を増大させている。
【0134】
(配合77〜81)
下記表18に示す配合のポリオレフィン系樹脂組成物を作製した。このポリオレフィン系樹脂組成物は、各材料を二軸押出し機にて混練し、ペレット化することにより作製した。
このペレット(ポリオレフィン系樹脂組成物)を射出成形して20mm×30mm×4mmのシート状(非発泡)のポリオレフィン系樹脂成形品を作製した。
得られたポリオレフィン系樹脂成形品に対して、これまでと同様に表面抵抗率の値を測定した。
結果を、表18に併せて示す。
【0135】
【表18】
【0136】
この表18にも示されているように、高分子型帯電防止剤を先の基準となる配合(配合73、74)に比べて約半減した場合においても比較的低い表面抵抗率の値が観察されており、少ない帯電防止剤の量で、優れた帯電防止効果が得られていることがわかる。
【0137】
(成形品の製造事例10:ポリスチレン系樹脂フィルム)
(配合82〜88)
下記表19に示す配合にて、表19に示す厚みのポリスチレン系樹脂フィルムを押出し機で作製し、ポリスチレン系樹脂フィルムを製造事例1と同様に評価した。
なお、用いた配合剤に関してはこれまでの成形品製造事例と共通するものについてはその説明は割愛し、以下においては略称を用いて説明する。
今回は、さらに、下記のような配合剤を使用した。
【0138】
(配合剤)
【0139】
【表19】
【0140】
この表19にも示されているように、ポリスチレン系樹脂単体(配合82)に高分子型帯電防止剤をある程度の量配合(配合83)することで大きく表面抵抗率の値を低下させることができる。
そして、高分子型帯電防止剤を単に減量(配合83→配合84)するだけでは大きく表面抵抗率の値を増大させる。
一方で、配合85〜88では、高分子型帯電防止剤を半減(13%→7%)しても同等の表面抵抗率を有している。
すなわち、本発明によれば高分子型帯電防止剤の使用量の低減を図りつつ帯電防止を図り得ることが上記結果からもわかる。
【0141】
(配合89〜95)
下記表20に示す配合にて、表20に示す厚みのポリスチレン系樹脂フィルムを作製した。
また、得られたポリスチレン系樹脂フィルムに対して、先の評価と同様に表面抵抗率の値を測定した。
結果を、表20に併せて示す。
【0142】
【表20】
【0143】
この表20に示されている結果からも、本発明によれば高分子型帯電防止剤の使用量の低減を図りつつ帯電防止を図り得ることがわかる。
また、配合95と配合91との結果を比較すると、配合91の方が低い表面抵抗率の値が得られており、MFRが、2g/10min以下の「G9305」での結果の方が、MFRが5g/10minの「HRM18」に比べて良好となっている。
【0144】
(TEM観察)
ポリプロピレン系樹脂を10重量%、ペレスタット230を7重量%させたポリスチレン系樹脂組成物を加熱溶融させた状態でシート状に押出したものを用いて作製した薄片試料を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した様子を図7に示す。
この図7からも、ポリプロピレン系樹脂がアスペクト比の高い分散相を形成し、その周囲に高分子型帯電防止剤であるペレスタットが集合されていることがわかる。
【0145】
(成形品の製造事例11:ポリスチレン系樹脂発泡シート)
(配合96〜101)
下記表21に示す配合にて、表21に示す厚みのポリスチレン系樹脂発泡シートを押出し機で作製し、ポリスチレン系樹脂発泡シートを製造事例1と同様に評価した。
なお、用いた配合剤に関してはこれまでの成形品製造事例と共通するためその説明は割愛し、以下においては略称を用いて説明する。
結果を、表21に併せて示す。
【0146】
【表21】
【0147】
この表21に示されている結果からも、本発明によれば高分子型帯電防止剤の使用量の低減を図りつつ帯電防止を図り得ることがわかる。
また、配合97と配合101とを比較すると、配合97の方が低い表面抵抗率の値が得られており、MFRが、2g/10min以下の「G9305」での結果の方が、MFRが5g/10minの「HRM18」に比べて良好となっている。
【0148】
(成形品の製造事例12:ポリスチレン系樹脂成形品)
(配合102〜107)
下記表22に示す配合にてポリスチレン系樹脂組成物を作製した。このポリスチレン系樹脂組成物は、各材料を二軸押出し機にて混練し、ペレット化することにより作製した。
このペレット(ポリスチレン系樹脂組成物)を射出成形して20mm×30mm×4mmのシート状(非発泡)のポリスチレン系樹脂成形品を作製した。
得られたポリスチレン系樹脂成形品に対して、製造事例3と同様の評価を実施した。
結果を、表22に併せて示す。
【0149】
【表22】
【0150】
この表22にも示されているように、高分子型帯電防止剤を基準配合(配合102、103)に比べて約半減した配合104、105では、大きく表面抵抗率の値を増大させている。
また、その傾向については、異なる高分子型帯電防止剤「ペレスタット300」でも同様であった。
【0151】
(配合108〜112)
下記表23に示す配合のポリスチレン系樹脂組成物を作製した。このポリスチレン系樹脂組成物は、各材料を二軸押出し機にて混練し、ペレット化することにより作製した。
このペレット(ポリスチレン系樹脂組成物)を射出成形して20mm×30mm×4mmのシート状(非発泡)のポリスチレン系樹脂成形品を作製した。
得られたポリスチレン系樹脂成形品に対して、これまでと同様に表面抵抗率の値を測定した。
結果を、表23に併せて示す。
【0152】
【表23】
【0153】
この表23にも示されているように、高分子型帯電防止剤を先の基準配合(配合102、103)に比べて約半減した場合においても比較的低い表面抵抗率の値が観察されており、少ない帯電防止剤の量で、優れた帯電防止効果が得られていることがわかる。
【0154】
(成形品の製造事例13:ポリ乳酸系樹脂フィルム)
(配合113〜119)
下記表24に示す配合にて、表24に示す厚みのポリ乳酸系樹脂フィルムを押出し機で作製し、ポリ乳酸系樹脂フィルムを製造事例1と同様に評価した。
用いた配合剤に関してはこれまでと共通するものについてはその説明は割愛し、以下においては略称を用いて説明する。
なお、この検討においては、さらに下記のような配合剤を使用している。
【0155】
(配合剤)
【0156】
【表24】
【0157】
この表24にも示されているように、単に高分子型帯電防止剤を配合した基準配合(配合113)に比べて、ポリオレフィン系樹脂やポリスチレン系樹脂を併用している場合(配合114〜119)には、高分子型帯電防止剤を同量用いても表面抵抗率の値を大きく低下させうる。
【0158】
(表面TEM観察)
PE(LF580)を10質量%、高分子型帯電防止剤(ペレスタット230)を8質量%含有させたポリ乳酸系樹脂組成物を加熱溶融させた状態でフィルム状に押出したものを用いて作製した薄片試料を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した様子を図8に示す。
なお、上記TEM観察における試験片は、ポリ乳酸系樹脂フィルムを押出し方向に沿ってスライスしたものであり、図8のTEM像は、ポリ乳酸系樹脂フィルムの表面に相当する側においてこのスライスされた試験片を観察したものである。
すなわち、ポリ乳酸系樹脂フィルムの厚み方向の断面における表面側近傍の様子を押出し方向に直交する方向から観察したものである。
この図8からも、PEがアスペクト比の高い分散相を形成し、その周囲に高分子型帯電防止剤であるペレスタットが集合されていることがわかる。
このことからも、本発明によれば、ポリ乳酸系樹脂フィルムや積層シートにおいて高分子型帯電防止剤の使用量の低減を図りつつ帯電防止を図り得ることがわかる。
【0159】
(成形品の製造事例14:ポリ乳酸系樹脂発泡シート)
(配合120〜123)
下記表25に示す配合にて、表25に示す厚みのポリ乳酸系樹脂フィルムを押出し機で作製し、ポリ乳酸系樹脂フィルムを製造事例1と同様に評価した。
用いた配合剤に関してはこれまでと共通するためその説明は割愛し、以下においては略称を用いて説明する。
【0160】
【表25】
【0161】
この表25からも、ポリオレフィン系樹脂やポリスチレン系樹脂を併用することで高分子型帯電防止剤の使用を抑制しつつポリ乳酸系樹脂発泡成形体の表面抵抗率の値を低下させうることがわかる。
【0162】
(表面TEM観察)
PP系樹脂を10重量%、「ペレスタット230」を7重量%含有させたポリ乳酸系樹脂組成物を加熱溶融させた状態でシート状に押出発泡させたポリ乳酸系樹脂発泡シートから薄片試料を切り出し、該薄片試料を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した様子を図9に示す。
なお、上記TEM観察における試験片は、ポリ乳酸系樹脂発泡シートを押出し方向に沿ってスライスしたものであり、図9のTEM像は、ポリ乳酸系樹脂発泡シートの表面に相当する側においてこのスライスされた試験片を観察したものである。
すなわち、ポリ乳酸系樹脂発泡シートの厚み方向の断面における表面側近傍の様子を押出し方向に直交する方向から観察したものである。
この図9からも、PP系樹脂が1μm以上の長さを有するアスペクト比の高い分散相を形成し、その周囲に高分子型帯電防止剤である「ペレスタット230」が集合されていることがわかる。
【0163】
(成形品の製造事例15:ポリ乳酸系樹脂成形品)
(配合124〜134)
下記表26に示す配合にてポリ乳酸系樹脂組成物を作製した。このポリ乳酸系樹脂組成物は、各材料を二軸押出し機にて混練し、ペレット化することにより作製した。
このペレット(ポリ乳酸系樹脂組成物)を射出成形して20mm×30mm×4mmのシート状(非発泡)のポリ乳酸系樹脂成形品を作製した。
得られたポリ乳酸系樹脂成形品に対して製造事例3と同様の評価を実施した。
結果を、表26に併せて示す。
【0164】
【表26】
【0165】
この表26からも、ポリオレフィン系樹脂やポリスチレン系樹脂を併用することで高分子型帯電防止剤の使用を抑制しつつポリ乳酸系樹脂成形品の表面抵抗率の値を低下させうることがわかる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子型帯電防止剤を含んだポリマー組成物によって少なくとも一部の表面が形成されている成形品であって、
2種類以上の互いに非相溶なポリマーが前記ポリマー組成物に含有されてマトリックス相と該マトリックス相中に分散された分散相とが少なくとも前記表面に形成されており、しかも、前記高分子型帯電防止剤として、前記マトリックス相と前記分散相とのいずれにも非相溶性を示す高分子型帯電防止剤が用いられて該高分子型帯電防止剤を外殻としたコアシェル状粒子となって前記分散相が形成されていることを特徴とする成形品。
【請求項2】
前記分散相には、前記表面の平面方向における長さが1μmを超える細長いコアシェル状粒子が含まれている請求項1記載の成形品。
【請求項3】
前記マトリックス相と前記分散相とのいずれか一方が、ポリエチレン系樹脂、又は、ポリプロピレン系樹脂の1種以上で構成され、他方がポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂又はポリ乳酸系樹脂の1種以上で構成されている請求項1又は2記載の成形品。
【請求項4】
前記マトリックス相と前記分散相とのいずれか一方が、ポリスチレン系樹脂で構成され、他方がポリ乳酸系樹脂で構成されている請求項1又は2記載の成形品。
【請求項5】
前記高分子型帯電防止剤が、分子内にポリエーテルブロックとポリオレフィンブロックとを有するブロック共重合体を含有している請求項3又は4記載の成形品。
【請求項6】
高分子型帯電防止剤を含んだポリマー組成物によって少なくとも一部の表面が形成されている成形品の製造方法であって、
2種類以上の互いに非相溶なポリマーが含有されている前記ポリマー組成物を用いることによりマトリックス相と該マトリックス相中に分散された分散相とを前記表面に形成させ、しかも、前記高分子型帯電防止剤として、前記マトリックス相と前記分散相とのいずれにも非相溶性を示す高分子型帯電防止剤を用いて該高分子型帯電防止剤を外殻としたコアシェル状粒子となるように前記分散相を形成させることを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項7】
熱溶融させた前記ポリマー組成物を冷却して前記表面を形成させるのに際して前記ポリマー組成物を流動させつつ前記冷却を実施することにより、前記表面の平面方向における長さが1μmを超える細長いコアシェル状粒子を形成させる請求項6記載の成形品の製造方法。
【請求項8】
前記マトリックス相と前記分散相とのいずれか一方を、ポリエチレン系樹脂、又は、ポリプロピレン系樹脂の1種以上で形成させるとともに他方をポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂又はポリ乳酸系樹脂の1種以上で形成させる請求項6又は7記載の成形品の製造方法。
【請求項9】
前記マトリックス相と前記分散相とのいずれか一方を、ポリスチレン系樹脂で構成させるとともに、他方をポリ乳酸系樹脂で構成させる請求項6又は7記載の成形品の製造方法。
【請求項10】
前記高分子型帯電防止剤として、分子内にポリエーテルブロックとポリオレフィンブロックとを有するブロック共重合体を含有している高分子型帯電防止剤を用いる請求項8又は9記載の成形品の製造方法。
【請求項1】
高分子型帯電防止剤を含んだポリマー組成物によって少なくとも一部の表面が形成されている成形品であって、
2種類以上の互いに非相溶なポリマーが前記ポリマー組成物に含有されてマトリックス相と該マトリックス相中に分散された分散相とが少なくとも前記表面に形成されており、しかも、前記高分子型帯電防止剤として、前記マトリックス相と前記分散相とのいずれにも非相溶性を示す高分子型帯電防止剤が用いられて該高分子型帯電防止剤を外殻としたコアシェル状粒子となって前記分散相が形成されていることを特徴とする成形品。
【請求項2】
前記分散相には、前記表面の平面方向における長さが1μmを超える細長いコアシェル状粒子が含まれている請求項1記載の成形品。
【請求項3】
前記マトリックス相と前記分散相とのいずれか一方が、ポリエチレン系樹脂、又は、ポリプロピレン系樹脂の1種以上で構成され、他方がポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂又はポリ乳酸系樹脂の1種以上で構成されている請求項1又は2記載の成形品。
【請求項4】
前記マトリックス相と前記分散相とのいずれか一方が、ポリスチレン系樹脂で構成され、他方がポリ乳酸系樹脂で構成されている請求項1又は2記載の成形品。
【請求項5】
前記高分子型帯電防止剤が、分子内にポリエーテルブロックとポリオレフィンブロックとを有するブロック共重合体を含有している請求項3又は4記載の成形品。
【請求項6】
高分子型帯電防止剤を含んだポリマー組成物によって少なくとも一部の表面が形成されている成形品の製造方法であって、
2種類以上の互いに非相溶なポリマーが含有されている前記ポリマー組成物を用いることによりマトリックス相と該マトリックス相中に分散された分散相とを前記表面に形成させ、しかも、前記高分子型帯電防止剤として、前記マトリックス相と前記分散相とのいずれにも非相溶性を示す高分子型帯電防止剤を用いて該高分子型帯電防止剤を外殻としたコアシェル状粒子となるように前記分散相を形成させることを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項7】
熱溶融させた前記ポリマー組成物を冷却して前記表面を形成させるのに際して前記ポリマー組成物を流動させつつ前記冷却を実施することにより、前記表面の平面方向における長さが1μmを超える細長いコアシェル状粒子を形成させる請求項6記載の成形品の製造方法。
【請求項8】
前記マトリックス相と前記分散相とのいずれか一方を、ポリエチレン系樹脂、又は、ポリプロピレン系樹脂の1種以上で形成させるとともに他方をポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂又はポリ乳酸系樹脂の1種以上で形成させる請求項6又は7記載の成形品の製造方法。
【請求項9】
前記マトリックス相と前記分散相とのいずれか一方を、ポリスチレン系樹脂で構成させるとともに、他方をポリ乳酸系樹脂で構成させる請求項6又は7記載の成形品の製造方法。
【請求項10】
前記高分子型帯電防止剤として、分子内にポリエーテルブロックとポリオレフィンブロックとを有するブロック共重合体を含有している高分子型帯電防止剤を用いる請求項8又は9記載の成形品の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−252040(P2011−252040A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125076(P2010−125076)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]