説明

成形安定性の良好なイミド樹脂およびイミド樹脂の製造方法

【課題】透明性、耐熱性に優れ、かつ連続成形においても良好な成形安定性を特徴とするイミド樹脂の製造法を提供する。
【解決手段】押出機を用いてイミド樹脂を製造する際に、該押出機の反応剤添加口からベント口までの反応ゾーンを均等な長さで2分割し、分割された各々のゾーンに設置されるエレメントの総数をX個としたとき、0.2X個以上はトーピードとニーディングディスクとの繰り返し構成あるいは切り欠きフライトとニーディングディスクとの繰り返し構成を使用することによって樹脂中のイミド化率の分布幅が5%以下であり、かつ、酸価の分布幅が0.05mmol/g以下であるイミド樹脂を提供することができ、これにより、透明性・耐熱性に優れ、さらに押出成形などの連続成形加工時に生産が不安定になることなく、成形できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性・耐熱性に優れ、さらに良好な成形安定性を特徴とするイミド樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器はますます小型化し、ノートパソコン、携帯電話、携帯情報端末に代表されるように、軽量・コンパクトという特長を生かし、多様な用途で用いられるようになってきている。一方、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどのフラットパネルディスプレイの分野では画面の大型化に伴う重量増を抑制することも要求されている。
【0003】
上述のような電子機器をはじめとする、透明性が要求される用途においては、従来ガラスが使用されていた部材を透明性が良好な樹脂へ置き換える流れが進んでいる。
【0004】
ポリメタクリル酸メチルを代表とする種々の透明樹脂は、ガラスと比較して成形性、加工性が良好で、割れにくい、さらに軽量、安価という特徴などから、液晶ディスプレイや光ディスク、ピックアップレンズなどへの展開が検討され、一部実用化されている。
【0005】
自動車用ヘッドランプカバーや液晶ディスプレイ用部材など、用途の展開に従って、透明樹脂は透明性に加え、耐熱性も求められるようになっている。ポリメタクリル酸メチルやポリスチレンは透明性が良好であり、価格も比較的安価である特徴を有しているものの、耐熱性が低いため、このような用途においては適用範囲が制限される。
【0006】
そのためポリメタクリル酸メチルの耐熱性を改善する方法として、ポリメチルメタクリレートに一級アミンを処理して、イミド化することで耐熱性を向上させるという技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。これらのポリメチルメタクリレート等に一級アミンを処理して得られるイミド樹脂は透明性や耐熱性が良好であり、各種用途、例えば光学用途などで有効に使用できる可能性がある。しかし、ポリメチルメタクリレート等に一級アミンを処理して得られるイミド樹脂は、イミド化反応時に酸成分(カルボキシル基および酸無水物基由来のモノ)が樹脂側鎖に生成されることが多く、これが起因して成形加工時に発泡したり、他のポリマーとの相溶性が悪化することがあった。そこで、イミドポリマーに含まれる酸成分(カルボキシル基および酸無水物基由来のモノ)を炭酸ジメチルなどの反応剤によりエステル基等に変換する技術が見出されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、特許文献1や特許文献2記載の非噛み合い型押出機で該イミド樹脂を製造すると、押出成形などの連続成形加工時に樹脂の均一性が不十分なために押出が不安定になったり、酸価が高いために成形時に発泡を生じるなどの問題があった。また、特許文献3にも押出機を用いてイミド樹脂を製造する方法が開示されているが、得られるイミド樹脂の品質には改善する余地があった。
【特許文献1】米国特許4、246、374号
【特許文献2】米国特許4、727、117号
【特許文献3】特開2006−297878号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、透明性、耐熱性に優れ、かつ連続成形においても良好な成形安定性を特徴とするイミド樹脂が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討した結果、押出機のエレメント構成を選択することで、樹脂中のイミド化率の分布幅が5%以下であり、かつ、酸価の分布幅が0.05mmol/g以下であるイミド樹脂を提供できることがわかった。得られるイミド樹脂は、透明性・耐熱性に優れ、さらに押出成形などの連続成形加工時に生産が不安定になることなく、成形できることを確認して、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
押出機を用いてイミド樹脂を製造する際に、該押出機の反応剤添加口からベント口までの反応ゾーンを均等な長さで2分割し、分割された各々のゾーンに設置されるエレメントの総数をそれぞれX個としたとき、0.2X個以上はトーピードとニーディングディスクとの繰り返し構成、または、切り欠きフライトとニーディングディスクとの繰り返し構成を使用することを特徴とするイミド樹脂の製造方法(請求項1)
反応ゾーン末端を中立ニーディングディスク、シールリング、及び、トーピードからなる群から選ばれる少なくとも1つのエレメント構成とする押出機を用いることを特徴とするイミド樹脂の製造方法(請求項2)、
イミド樹脂が、下記一般式(1)、(2)で表される繰り返し単位を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のイミド樹脂の製造方法(請求項3)、
【0010】
【化1】

【0011】
(ここで、RおよびRは、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、Rは、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【0012】
【化2】

【0013】
(ここで、RおよびRは、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、Rは、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を示す。)
さらに一般式(3)で表される繰り返し単位を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のイミド樹脂の製造方法(請求項4)、
【0014】
【化3】

【0015】
(ここで、Rは、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、Rは、炭素数6〜10のアリール基を示す。)
樹脂中のイミド化率の分布幅が5%以下であり、かつ、酸価の分布幅が0.05mmol/g以下であるイミド樹脂(請求項5)、
樹脂の酸価が0.3mmol/g以下である請求項5記載のイミド樹脂(請求項6)、であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
上記構成によれば、透明で、かつポリメチルメタクリレートに比べて耐熱性に優れたイミド樹脂をフィルムなどの連続成形において安定して生産することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、押出機を用いてイミド樹脂を製造する際に、該押出機の反応剤添加口からベント口までの反応ゾーンを均等な長さで2分割し、分割された各々のゾーンに設置されるエレメントの総数をそれぞれX個としたとき、0.2X個以上はトーピードとニーディングディスクとの繰り返し構成、または、切り欠きフライトとニーディングディスクとの繰り返し構成を使用することを特徴とする。
【0018】
本発明におけるイミド樹脂は、一般式(2)で示される繰り返し単位からなるメタクリル酸メチル重合体等の(メタ)アクリル酸エステル重合体、あるいは、一般式(2)で示される繰り返し単位と一般式(3)で示される繰り返し単位からなるメタクリル酸メチル−スチレン共重合体等の(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体を主原料とし、これにアンモニアまたは置換アミンなどのイミド化剤を処理したイミド樹脂(以下、イミド樹脂中間体1と呼ぶことがある)を得ることができる。
【0019】
【化4】

【0020】
(ここで、RおよびRは、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、Rは、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【0021】
【化5】

【0022】
(ここで、Rは、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、Rは、炭素数6〜10のアリール基を示す。)
さらに、このイミド樹脂中間体1は、エステル化剤で処理することで、樹脂中に残存する酸成分(カルボキシル基および酸無水物基由来のモノ)の割合を0.3mmol/g以下にすることができる。
【0023】
本発明に用いる押出機としては単軸押出機、二軸押出機あるいは多軸押出機があり、ポリマーに対するイミド化剤あるいはエステル化剤の混合を促進できる押出機として二軸押出機が好ましい。二軸押出機には非噛合い型同方向回転式、噛合い型同方向回転式、非噛合い型異方向回転式、噛合い型異方向回転式が含まれる。二軸押出機の中では噛合い型同方向回転式が高速回転が可能であり、ポリマーに対するイミド化剤あるいはエステル化剤の混合を促進できるので好ましい。これらの押出機は単独で用いても、直列につないでも構わない。また、押出機には未反応のイミド化剤およびエステル化剤や副生物を除去するために大気圧以下に減圧可能なベント口を装着することが好ましい。図1に本発明で用いる押出機の一例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0024】
押出機を用いてイミド化反応あるいはエステル化反応を行わせると、高粘度の樹脂とガスまたは液状の反応剤との反応であり、樹脂とガスの接触が不均一になりやすく、またスクリューエレメント構成を適切に選定しなければ、押出変動が生じやすく、反応が不均一になりやすい課題がある。
【0025】
押出機を用いてイミド化率あるいは酸価の分布を小さくするには、二軸押出機では反応剤添加口からベント口までで定義される反応ゾーンを均等な長さに2分割し、分割された各々のゾーンに設置されるエレメントの総数をそれぞれX個としたとき、0.2X個以上はトーピードとニーディングディスクとの繰り返し構成、または、切り欠きフライトとニーディングディスクとの繰り返し構成を使用することで、滞留時間と圧力を保持できる(ここで、「分割」とは、便宜上区分けするだけである)。さらに好ましくはトーピードとニーディングディスクとの繰り返し構成である。また、個数としては、さらに好ましくは、0.3X個以上であり、0.35X個以上が特に好ましい。また、上限は特に制限されないが、反応ゾーンには、他にも分散や昇圧などの機能を持つエレメントを配置する観点から、0.8X個以下であり、0.6X個以下が特に好ましい。トーピードや切り欠きフライトはせん断速度が低い状態でエレメント内に樹脂を充満させることが可能であり、発熱を抑えながら滞留時間を確保できる点で好ましい。トーピードとニーディングディスクとの繰り返し構成、または、切り欠きフライトとニーディングディスクとの繰り返し構成としては、各エレメントが交互に配置されていることである。また、分割された各々のゾーンにそれぞれ上記比率でトーピードとニーディングディスクとの繰り返し構成あるいは切り欠きフライトとニーディングディスクとの繰り返し構成が入っていれば、その他のエレメントとの配置については、特に制限されない。その他のエレメントとしては、ニーディングディスク、フライト、シールリングなどがあげられる。好ましくはニーディングディスク、フライトなどがあげられる。上記のようにトーピードとニーディングディスクとの繰り返し構成あるいは切り欠きフライトとニーディングディスクとの繰り返し構成を、押出機の各所に配置することで、滞留時間と圧力を保持できてクッションタンクのように作用させることができる。さらに、反応ゾーン末端に中立ニーディングディスク、シールリング、及び、トーピードからなる群から選ばれる少なくとも1つのエレメント構成を有してやれば、スクリュー回転の吐出への影響を受けず、押出変動を抑えることが可能となり、イミド樹脂の反応率分布を緩和させることができる。
【0026】
以下、上記で示した各処理に使用する各成分について説明する。
【0027】
本発明で使用されるイミド化剤はメタアクリル酸エステル重合体あるいはメタアクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体をイミド化することができれば特に制限されないが、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、i−プロピルアミン、n−ブチルアミン、i−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン等の脂肪族炭化水素基含有アミン、アニリン、トルイジン、トリクロロアニリン等の芳香族炭化水素基含有アミン、シクロヘキシルアミン等などの脂環式炭化水素基含有アミン、アンモニアなどが挙げられる。また、尿素、1,3−ジメチル尿素、1,3−ジエチル尿素、1,3−ジプロピル尿素の如き加熱によりこれらのアミンを発生する尿素系化合物を用いることもできる。これらのイミド化剤のうち、コスト、物性の面からメチルアミン、アンモニア、シクロヘキシルアミンが好ましく、中でも、メチルアミンが特に好ましい。
【0028】
イミド化剤の添加量は必要な物性を発現するためのイミド化率によって決定される。
【0029】
メタクリル酸エステル重合体あるいはメタクリル酸エステル−スチレン共重合体をイミド化剤によりイミド化する際には、一般に用いられる触媒、酸化防止剤、熱安定剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、収縮防止剤などを本発明の目的が損なわれない範囲で添加してもよい。
【0030】
一方、エステル化剤としては、例えば、ジメチルカーボネート、2,2−ジメトキシプロパン、ジメチルスルホキシド、トリエチルオルトホルメート、トリメチルオルトアセテート、トリメチルオルトホルメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルサルフェート、メチルトルエンスルホネート、メチルトリフルオロメチルスルホネート、メチルアセテート、メタノール、エタノール、メチルイソシアネート、p−クロロフェニルイソシアネート、ジメチルカルボジイミド、ジメチル−t−ブチルシリルクロライド、イソプロペニルアセテート、ジメチルウレア、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、ジメチルジエトキシシラン、テトラ−N−ブトキシシラン、ジメチル(トリメチルシラン)フォスファイト、トリメチルフォスファイト、トリメチルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、ジアゾメタン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0031】
エステル化剤の添加量は特に制限はないが、イミド樹脂の酸成分(カルボキシル基および酸無水物基由来のモノ)を0.3mmol/g以下にするためには、1重量部〜100重量部が好ましく、1重量部〜50重量部がより好ましい。エステル化剤がこの範囲より大きい場合、得られる樹脂中に多量のエステル化剤が残存したり、副反応が進行する可能性があり、一方、この範囲より小さい場合、酸成分(カルボキシル基および酸無水物基由来のモノ)を0.3mmol/g以下にすることが困難である。
【0032】
イミド樹脂をエステル化剤での処理、および加熱処理して樹脂中に残存する酸成分(カルボキシル基および酸無水物基由来のモノ)の割合を0.3mmol/g以下にする際には、一般に用いられる触媒、酸化防止剤、熱安定剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、収縮防止剤などを本発明の目的が損なわれない範囲で添加してもよい。
【0033】
本発明で用いることができる(メタ)アクリル酸エステル重合体あるいは(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体は、イミド化反応が可能な(メタ)アクリル酸系化合物もしくは(メタ)アクリル酸エステル系化合物の単独もしくはこれらの共重合体もしくは(メタ)アクリル酸系化合物もしくは(メタ)アクリル酸エステル系化合物、および芳香族ビニル化合物を必須として含んでいれば、リニアー(線状)ポリマーであっても、またブロックポリマー、コアシェルポリマー、分岐ポリマー、ラダーポリマー、架橋ポリマーであっても構わない。ブロックポリマーはA−B型、A−B−C型、A−B−A型、またはこれら以外のいずれのタイプのブロックポリマーであっても問題ない。コアシェルポリマーはただ一層のコアおよびただ一層のシェルのみからなるものであっても、それぞれが多層になっていても問題ない。
【0034】
イミド化反応あるいはエステル化反応を行わせる際には、反応を進行させ、かつ過剰な熱履歴による樹脂の分解、着色などを抑制するために、反応温度は150〜400℃の範囲で行う。180〜320℃が好ましく、さらには200〜280℃が好ましい。
【0035】
上記製造方法によって得られるイミド樹脂は、樹脂中のイミド化率の分布幅が5%以下であり、かつ、酸価の分布幅が0.05mmol/g以下となっている。
【0036】
本発明において、イミド化率とはIRスペクトルから算出される全カルボニル基中のイミドカルボニル基の占める割合をいう。イミド化率の分布幅とは、イミド樹脂の生産開始1時間後、生成する樹脂の単位時間(1分)当たりのイミド化率の最大値と最小値の差のことである。
イミド化率の分布幅としては5%以下が好ましく、さらに3%以下がより好ましい。イミド化率の分布幅が5%を超えると、ガラス転移点とともに樹脂粘度の変動が大きくなり、安定した連続成形が困難になる。
【0037】
本発明のイミド樹脂は樹脂中にイミド化反応の副生成物の酸成分(カルボキシル基および酸無水物基由来のモノ)が残存しており、酸成分(カルボキシル基および酸無水物基由来のモノ)の量は酸と塩基を用いた滴定によって、酸価として測定される。
【0038】
酸価の分布幅としては0.05mmol/g以下が好ましく、さらに0.03mmol/g以下がより好ましい。酸価の分布幅とはイミド樹脂の生産開始1時間後、生成する樹脂の単位時間(1分)当たりの酸価の最大値と最小値の差のことである。
【0039】
酸価の分布幅が0.05mmol/gを超えると、イミド化率と同様にガラス転移点とともに樹脂粘度の変動が大きくなり、安定した連続成形が困難になる。
【0040】
また、本発明のイミド樹脂の酸価は0.3mmol/g以下であることが好ましい。更に好ましくは0.2mmol/g以下、より好ましくは0.1mmol/g以下であることが望ましい。酸価が0.3mmol/gを越えると、連続成形時に発泡するなど成形加工性が低下し好ましくない。ポリメチルメタクリレート等に一級アミンを処理してイミド樹脂を得た場合には、酸成分(カルボキシル基および酸無水物基由来のモノ)は、主にイミド樹脂側鎖に位置しているものと考えられる。本発明者の推定によれば、この様な酸成分(カルボキシル基および酸無水物基由来のモノ)は、樹脂が流動する温度(例えば、260℃)等まで加熱した場合に、隣接するエステル基との閉環反応を生じ、一級アルコール類を発生させ、発泡したり、成形品の表面性を悪化させたり、成形加工性を低下させるものと考えられる。
【0041】
以下、本発明の好ましいイミド樹脂の分子構造について説明する。本発明はこれに限定されるものではない。
【0042】
前記イミド樹脂は、特に下記一般式(1)、(2)で表される繰り返し単位を含有するイミド樹脂であることが好ましく、更に一般式(3)で表される繰り返し単位を含有するイミド樹脂であることが好ましい。
【0043】
本発明の熱可塑性樹脂を構成する、第一の構成単位としては、下記一般式(1)で表されるグルタルイミド単位である。
【0044】
【化6】

【0045】
(ここで、RおよびRは、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、Rは、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を示す。)
好ましいグルタルイミド単位としては、R、Rが水素またはメチル基であり、Rが水素、メチル基、またはシクロヘキシル基である。Rがメチル基であり、Rが水素であり、Rがメチル基である場合が、特に好ましい。
【0046】
該グルタルイミド単位は、単一の種類でもよく、R、R、Rが異なる複数の種類を含んでいても構わない。
【0047】
熱可塑性樹脂の、一般式(1)で表されるグルタルイミド単位の含有量は、熱可塑性樹脂の5重量%以上が好ましい。グルタルイミド単位の、好ましい含有量は、5重量%から95重量%であり、より好ましくは10〜90重量%、さらに好ましくは、20〜80重量%である。グルタルイミド単位がこの範囲より小さい場合、得られるイミド樹脂の耐熱性が不足したり、透明性が損なわれることがある。また、この範囲を超えると不必要に耐熱性が上がり、成形しにくくなる他、得られる成形体の機械的強度は極端に脆くなり、また、透明性が損なわれることがある。
【0048】
本発明の熱可塑性樹脂を構成する、第二の構成単位としては、下記一般式(2)で表されるアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル単位である。
【0049】
【化7】

【0050】
(ここで、RおよびRは、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、Rは、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を示す。)
前記(メタ)アクリル酸系化合物もしくは(メタ)アクリル酸エステル系化合物には、特に限定がなく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、無水マレイン酸等の酸無水物またはそれらと炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルコールとのハーフエステル;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸などもイミド化可能であり、本発明に使用可能である。これらの中で、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
【0051】
これら第二の構成単位は、単一の種類でもよく、R、R、Rが異なる複数の種類を含んでいてもかまわない。
【0052】
本発明の熱可塑性樹脂を構成する、第三の構成単位としては、下記一般式(3)で表される芳香族ビニル単位である。
【0053】
【化8】

【0054】
(ここで、Rは、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、Rは、炭素数6〜10のアリール基を示す。)
好ましい芳香族ビニル構成単位としては、スチレン、α−メチルスチレン等が挙げられる。これらの中でスチレンが特に好ましい。
【0055】
これら第三の構成単位は、単一の種類でもよく、R、Rが異なる複数の種類を含んでいてもかまわない。
【0056】
熱可塑性樹脂の、一般式(3)で表される芳香族ビニル単位の含有量は、熱可塑性樹脂の総繰り返し単位を基準として、1重量%以上が好ましい。芳香族ビニル単位の、好ましい含有量は、1重量%から40重量%であり、より好ましくは1〜25重量%、さらに好ましくは、1〜20重量%である。芳香族ビニル単位がこの範囲より大きい場合、得られるイミド樹脂の耐熱性が不足するとともに、光弾性係数が大きくなることがあり、この範囲より小さい場合、得られる成形体の機械的強度が低下することがある。また、芳香族ビニル単位がこの範囲を外れた場合、実質的に配向複屈折を有さない成形体を得ることが困難となる。
【0057】
本発明の熱可塑性樹脂には、必要に応じ、更に、第四の構成単位が共重合されていてもかまわない。第四の構成単位は、原料である、前記式(2)や(3)で表される化合物に共重合されていることが好ましい。第四の構成単位として、アクリロニトリルやメタクリロニトリル等のニトリル系単量体、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド系単量体を共重合してなる構成単位を用いることができる。これらは熱可塑性樹脂中に、直接共重合してあっても良く、グラフト共重合してあってもかまわない。
【0058】
本発明のイミド樹脂は、1×10〜5×10の重量平均分子量を有することが好ましい。重量平均分子量が上記の値以下の場合には、成形体の機械的強度が不足し、上記の値以上の場合には、溶融時の粘度が高く、成形体の生産性が低下することがある。
【0059】
本発明のイミド樹脂のガラス転移温度は100℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、130℃以上であることが更に好ましい。
【0060】
本発明のイミド樹脂は光弾性係数が小さいことを特徴としている。本発明のイミド樹脂の光弾性係数は、20×10−12/N以下であることが好ましく、10×10−12/N以下であることがより好ましく、5×10−12/N以下であることが更に好ましい。
【0061】
光弾性係数の絶対値が20×10−12/Nより大きい場合は、光漏れが起きやすくなり、特に高温高湿度環境下において、その傾向が著しくなる。
【0062】
光弾性係数とは、等方性の固体に外力を加えて応力(△F)を起こさせると、一時的に光学異方性を呈し、複屈折(△n)を示すようになるが、その応力と複屈折の比を光弾性係数(c)と呼び、次式
c=△n/△F
で示される。
【0063】
本発明において、光弾性係数はセナルモン法により、波長515nmにて、23℃、50%RHにおいて測定した値である。
【0064】
本発明によるイミド樹脂は、高い引張強度および曲げ強度、耐溶剤性、熱安定性、良好な光学特性、耐候性などの特性を有している。
【0065】
本発明で得られるイミド樹脂はそれ自体で用いてもよく、または他の熱可塑性ポリマーとブレンドしても構わない。イミド樹脂単独、または他の熱可塑性ポリマーとブレンドは、射出成形、押出成形、ブロー成形、圧縮成形などのような各種プラスチック加工法によって様々な成形品に加工できる。また、塩化メチレンなどの本発明で得られるイミド樹脂を溶解する溶剤に溶解させ、得られるポリマー溶液を用いる流延法によっても成形可能である。特に本発明で得られるイミド樹脂はフィルムやシートなどの連続押出成形において安定成形が可能であることが特徴である。
【0066】
成形加工の際には、一般に用いられる酸化防止剤、熱安定剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、収縮防止剤などを本発明の目的が損なわれない範囲で添加してもよい。
【0067】
本発明のイミド樹脂から得られる成形品は、例えば、カメラやVTR、プロジェクター用の撮影レンズやファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズなどの映像分野、CDプレイヤーやDVDプレイヤー、MDプレイヤーなどの光ディスク用ピックアップレンズなどのレンズ分野、CDプレイヤーやDVDプレイヤー、MDプレイヤーなどの光ディスク用の光記録分野、液晶用導光板、偏光子保護フィルムや位相差フィルムなどの液晶ディスプレイ用フィルム、表面保護フィルムなどの情報機器分野、光ファイバ、光スイッチ、光コネクターなどの光通信分野、自動車ヘッドライトやテールランプレンズ、インナーレンズ、計器カバー、サンルーフなどの車両分野、眼鏡やコンタクトレンズ、内視境用レンズ、滅菌処理の必要な医療用品などの医療機器分野、道路透光板、ペアガラス用レンズ、採光窓やカーポート、照明用レンズや照明カバー、建材用サイジングなどの建築・建材分野、電子レンジ調理容器(食器)、家電製品のハウジング、玩具、サングラス、文房具、などに使用可能である。
【実施例】
【0068】
本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例で測定した物性の各測定方法はつぎのとおりである。
【0069】
(1)イミド化率の測定
塩化メチレン2mlに生成物0.1gを溶解させ、SensIR Tecnologies社製TravelIRを用いて、室温にてIRスペクトルを測定した。得られたスペクトルより、1720cm−1のエステルカルボニル基に帰属される吸収強度(Absester)と、1660cm−1のイミドカルボニル基に帰属される吸収強度(Absimide)の比からイミド化率(Im%)を求めた。ここで、イミド化率とは全カルボニル基中のイミドカルボニル基の占める割合をいう。
【0070】
(2)酸価の測定
塩化メチレン37.5mlにイミド樹脂0.3gを溶解させ、メタノール37.5mlを添加した。この溶液に1wt%フェノールフタレインエタノール溶液を2滴添加した。0.1N水酸化ナトリウム水溶液5mlを添加し、1時間攪拌した。この溶液に0.1N塩酸を滴下して溶液の赤紫色が消失するまでの0.1N塩酸の滴下量(Aml)を測定した。
【0071】
次に、塩化メチレン37.5mlとメタノール37.5mlの混合液に1wt%フェノールフタレインエタノール溶液を2滴添加した。これに0.1N水酸化ナトリウム水溶液5mlを添加し、1時間攪拌した。この溶液に0.1N塩酸を滴下して溶液の赤紫色が消失するまでの0.1N塩酸の滴下量(Bml)を測定した。
【0072】
樹脂中に残存する酸成分(カルボキシル基および酸無水物基由来のモノ)の割合を酸価Cmmol/gとし、次式で求めた。
C=0.1×((5−A−B)/0.3)
(実施例1)
市販のポリメタクリル酸メチル−スチレン共重合体(新日鐵化学(株)製エスチレンMS−800)、イミド化剤としてモノメチルアミンを用いて、イミド樹脂を製造した。使用した押出機は口径15mm、L/D=90の噛合い型同方向回転式二軸押出機であり、反応剤添加口、ベント口、ホッパー、樹脂溶融部、反応ゾーン、反応ゾーン末端ゾーン構成は図1記載のものと同等である。押出機の各温調ゾーンの設定温度を230℃、スクリュー回転数200rpm、ホッパーからポリメタクリル酸メチル−スチレン共重合体を1kg/hrで供給し、樹脂溶融部によって樹脂を溶融、充満させた後、反応剤添加口からモノメチルアミンを0.2kg/hrで注入してイミド化反応させた。反応ゾーン(計0.9m)を均等な長さで2分割し、反応ゾーン前半部は総エレメント数21個に対してトーピードとニーディングディスクの繰り返しエレメント数8個(トーピード4個及びニーディングディスク4個で各々が交互に設置されている)で比率38%、反応ゾーン後半部は総エレメント数23個に対してトーピードとニーディングディスクの繰り返しエレメント数12個(トーピード6個及びニーディングディスク6個で各々が交互に設置されている)で比率52%であった。その他のエレメントとしてニーディングディスク、切り欠きフライト、シールリングおよびフライトを用いた(ただし、切り欠きフライトとニーディングディスクは繰り返し構成をとっていない)。反応ゾーン末端にはシールリングを用いた。反応後の残存ガスをベント口の圧力を−0.09MPaに減圧して脱揮した。押出機出口に設けられたダイからストランドとして出てきた樹脂は、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化して、イミド樹脂中間体1を得た。
【0073】
得られたイミド樹脂のイミド化率、酸価の平均値とバラツキ、押出1分間のダイ圧変動を表1に記載する。
【0074】
【表1】

【0075】
(実施例2)
実施例1で得られたイミド樹脂中間体1をエステル化反応して酸価を下げたイミド樹脂を製造した。使用した押出機は口径15mm、L/D=60であること以外は実施例1で使用したものと同じものを使用した。押出機の各温調ゾーンの設定温度を230℃、スクリュー回転数200rpm、ホッパーからイミド樹脂中間体1を1kg/hrで供給し、樹脂溶融部によって樹脂を溶融、充満させた後、反応剤添加口から炭酸ジメチルとトリエチルアミンの混合液(炭酸ジメチル/トリエチルアミン=4/1)0.1kg/hrを注入し樹脂中の酸成分(カルボキシル基および酸無水物基由来のモノ)の低減を行った。反応ゾーン(計0.6m)を均等な長さで2分割し、反応ゾーン前半部は総エレメント数15個に対してトーピードとニーディングディスクの繰り返しエレメント数6個(トーピード3個及びニーディングディスク3個で各々が交互に設置されている)で比率40%、反応ゾーン後半部は総エレメント数15個に対してトーピードとニーディングディスクの繰り返しエレメント数6個(トーピード3個及びニーディングディスク3個で各々が交互に設置されている)で比率40%であった。その他のエレメントとしてニーディングディスク、切り欠きフライトおよびフライトを用いた(ただし、切り欠きフライトとニーディングディスクは繰り返し構成をとっていない)。反応ゾーン末端にはシールリングを用いた。反応後の残存ガスをベント口の圧力を−0.09MPaに減圧して脱揮した。押出機出口に設けられたダイからストランドとして出てきた樹脂は、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化した。
【0076】
(実施例3)
イミド化の原料樹脂のポリメタクリル酸メチル−スチレン共重合体の供給量を2kg/hrとし、モノメチルアミンの供給量を0.6kg/hrとした以外は、実施例1と同様にして行い、イミド樹脂中間体1を得た。
【0077】
(実施例4)
実施例3で得られたイミド樹脂中間体1の供給量を2kg/hrとし、炭酸ジメチル/トリエチルアミンの混合液の供給量を0.15kg/hrとした以外は、実施例2と同様にして行った。
【0078】
(実施例5)
イミド化の原料樹脂としてポリメタクリル酸メチル重合体(三菱レーヨン(株)製アクリペットVH)を用いた以外は、実施例1と同様にして行い、イミド樹脂中間体2を得た。
【0079】
(実施例6)
実施例5で得られたイミド樹脂中間体2を用いた以外は、実施例2と同様にして行った。
【0080】

(比較例1)
反応ゾーンの総エレメント数の50%以上を順ネジフライトとして、その他に使用したエレメントは、ニーディングディスクであり、トーピードとニーディングディスクの繰り返し構成、および、切り欠きフライトとニーディングディスクとの繰り返し構成は使用していない。また反応ゾーンの末端を逆ネジフライトとしてイミド化反応させた以外は実施例1と同様にして行った。
(比較例2)
比較例1で得られたイミド化樹脂中間体1を反応ゾーンの総エレメント数の50%以上を順ネジフライトとして、その他に使用したエレメントは、ニーディングディスクであり、トーピードとニーディングディスクの繰り返し構成、および、切り欠きフライトとニーディングディスクとの繰り返し構成は使用していない。また反応ゾーンの末端を逆ネジフライトとしてエステル化反応させた以外は実施例2と同様にして行った。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明による二軸押出機の構成図である。
【符号の説明】
【0082】
1 二軸押出機
2 反応剤添加口
3 ベント口
4 樹脂フィーダー
5 ホッパー
6 樹脂溶融部
7 反応ゾーン前半部
8 トーピードとニーディング、または、切り欠きフライトとニーディングディスクの繰り返し部
9 反応ゾーン後半部
10 反応ゾーン末端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出機を用いてイミド樹脂を製造する際に、該押出機の反応剤添加口からベント口までの反応ゾーンを均等な長さで2分割し、分割された各々のゾーンに設置されるエレメントの総数をそれぞれX個としたとき、0.2X個以上はトーピードとニーディングディスクとの繰り返し構成、または、切り欠きフライトとニーディングディスクとの繰り返し構成を使用することを特徴とするイミド樹脂の製造方法。
【請求項2】
反応ゾーン末端を中立ニーディングディスク、シールリング、及び、トーピードからなる群から選ばれる少なくとも1つのエレメント構成とする押出機を用いることを特徴とするイミド樹脂の製造方法。
【請求項3】
イミド樹脂が、下記一般式(1)、(2)で表される繰り返し単位を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のイミド樹脂の製造方法。
【化1】

(ここで、RおよびRは、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、Rは、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【化2】

(ここで、RおよびRは、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、Rは、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【請求項4】
さらに一般式(3)で表される繰り返し単位を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のイミド樹脂の製造方法。
【化3】

(ここで、Rは、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、Rは、炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【請求項5】
樹脂中のイミド化率の分布幅が5%以下であり、かつ、酸価の分布幅が0.05mmol/g以下であるイミド樹脂。
【請求項6】
樹脂の酸価が0.3mmol/g以下である請求項5記載のイミド樹脂。

【図1】
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【公開番号】特開2008−285615(P2008−285615A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−133932(P2007−133932)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】