説明

成形材、その製造方法および成形品

【課題】
環状オレフィン系モノマーを塊状開環メタセシス重合させて得られる予備硬化状態にある硬化可能な成形材(以下、「成形材」という。)であって、高粘度で、高い流動性を有する成形材、該成形材を効率よく製造する方法、および該成形材を所定形状に賦形し、加熱硬化させてなる成形品を提供する。
【解決手段】
円錐円盤型レオメーターによる振動数2Hzにおける粘弾性測定において、(i)動的粘度が100Pa・s以上であり、損失正接が1以上であり、かつ、(ii)動的粘度が10〜100Pa・sであり、損失正接が2以上である成形材、環状オレフィン系モノマーを、メタセシス重合触媒及び連鎖移動剤の存在下に塊状開環メタセシス重合させることを特徴とする成形材の製造方法、並びに本発明の成形材を所定形状に賦形し、加熱硬化せしめて得られる成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状オレフィン系モノマーを塊状開環メタセシス重合させて得られる予備硬化状態にある硬化可能な成形材、その製造方法、および該成形材を硬化させてなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ノルボルネン系モノマーを金型内で塊状重合して1次成形体をつくり、次いで1次成形体を2次成形(賦形)して成形品を得る方法が知られている(特許文献1,2)。しかしながら、この方法では、得られる1次成形体はメタセシス反応が完結して硬くなっており、変形させる(賦形する)ことが困難であった。そのため、予め1次成形体を高温(通常100℃以上)にしてから賦形を行う必要があり、2次成形時に生産性が低下し、所望の形状の成形品が得られないという問題があった。
【0003】
この問題の解決を図るべく、特許文献3には、メタセシス重合触媒の存在下に、メタセシス重合可能なシクロオレフィン類を反応させて半硬化状態とした硬化可能な成形材を製造し、これを賦形して成形品を得る方法が開示されている。この方法によれば、触媒の使用量、重合反応温度、反応調整剤などを適宜選択することで、半硬化状態(予備硬化状態)にある硬化可能な成形材を得ることができ、賦形して所望の形状を有する成形品を得ることができる。
【0004】
しかしながら、この方法では、半硬化状態の硬化可能な成形材の粘度および流動性を制御することが困難であるという問題があった。すなわち、粘度が高くなるとゲル化して流動性がなくなるため成形性が悪くなり、成形材を賦形した後、加熱・硬化して所望の成形品を得ることが困難となる。その一方で、成形材の粘度が低いと流れ易くなり、賦形することができなくなる場合があった。
【0005】
【特許文献1】特開平2−225519号公報
【特許文献2】特開平3−292124号公報
【特許文献3】WO99/54374号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はかかる問題に鑑みてなされたものであり、環状オレフィン系モノマーを塊状開環メタセシス重合させて得られる予備硬化状態にある硬化可能な成形材であって、高粘度で、高い流動性を有する成形材、該成形材を効率よく製造する方法、および該成形材を所定形状に賦形し、加熱硬化させてなる成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、環状オレフィン系モノマーを塊状開環メタセシス重合させて得られる予備硬化状態にある硬化可能な成形材を製造する方法について鋭意検討した。その結果、環状オレフィン系モノマーに連鎖移動剤を添加して塊状開環メタセシス重合すると、高粘度であっても、高い流動性を有する予備硬化状態にある硬化可能な成形材を得ることができることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
かくして本発明の第1によれば、環状オレフィン系モノマーを塊状開環メタセシス重合させて得られる予備硬化状態にある硬化可能な成形材であって、円錐円盤型レオメーターによる振動数2Hzにおける粘弾性測定において、(i)動的粘度が100Pa・s以上であり、損失正接が1以上であり、かつ、(ii)動的粘度が10〜100Pa・sであり、損失正接が2以上である成形材が提供される。
【0009】
本発明の第2によれば、環状オレフィン系モノマーを、メタセシス重合触媒および連鎖移動剤の存在下に塊状開環メタセシス重合させることを特徴とする予備硬化状態にある硬化可能な成形材の製造方法が提供される。
また、本発明の第3によれば、本発明の成形材を所定形状に賦形し、加熱硬化せしめて得られる成形品が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の予備硬化状態にある硬化可能な成形材は、メタセシス重合触媒および連鎖移動剤の存在下に、環状オレフィン系モノマーを塊状開環メタセシス重合して得られたものであり、高粘度であっても、流動性に優れている。従って、本発明の成形材は所望の形状、厚みに容易に賦形することができ、加熱硬化することで所望の形状、厚みの成形品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の成形材、その製造方法および成形品を詳細に説明する。
1)成形材
本発明の成形材は、環状オレフィン系モノマーを塊状開環メタセシス重合させて得られる予備硬化状態にある硬化可能な成形材であって、円錐円盤型レオメーターによる振動数2Hzにおける粘弾性測定において、(i)動的粘度が100Pa・s以上であり、損失正接が1以上であり、かつ、(ii)動的粘度が10〜100Pa・sであり、損失正接が2以上のものである。
【0012】
本発明に用いる環状オレフィン系モノマーは、分子内に脂環式構造を有するオレフィンである。脂環式構造としては、単環、多環、縮合多環、橋架け環およびこれらの組合せ多環などが挙げられる。
脂環式構造を構成する炭素数は、格別制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲である。
【0013】
環状オレフィン系モノマーとしては、例えば、ノルボルネン系モノマー、単環式炭化水素モノマーなどが挙げられる。これらの環状オレフィン系モノマーはそれぞれ単独で、あるいは2種以上を組合せて用いることができる。
【0014】
ノルボルネン系モノマーとしては、ノルボルネン類、ジシクロペンタジエン類、テトラシクロドデセン類などが挙げられる。これらは、アルキル基、アルケニル基、アルキリデン基、アリール基などの炭化水素基や、極性基によって置換されていてもよい。また、ノルボルネン環の二重結合以外に、さらに二重結合を有していてもよい。
【0015】
ノルボルネン系単量体の具体例としては、ジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエン(トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン)などのジシクロペンタジエン類;
【0016】
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−エチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−シクロヘキシルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−シクロペンチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−メチレンテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−エチリデンテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−ビニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−プロペニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−シクロヘキセニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−シクロペンテニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−フェニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸メチル、4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸メチル、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−メタノール、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−オール、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4,5−ジカルボン酸、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4,5−ジカルボン酸無水物、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボニトリル、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルバルデヒド、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボキサミド、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4,5−ジカルボン酸イミド、9−クロロテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、4−トリメトキシシリルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン、9−アセチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エンなどのテトラシクロドデセン類;
【0017】
2−ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン、5−ヘキシル−2−ノルボルネン、5−デシル−2−ノルボルネン、5−シクロヘキシル−2−ノルボルネン、5−シクロペンチル−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−プロペニル−2−ノルボルネン、5−シクロヘキセニル−2−ノルボルネン、5−シクロペンテニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9H−フルオレンともいう)、テトラシクロ[10.2.1.02,11.04,9]ペンタデカ−4,6,8,13−テトラエン(1
,4−メタノ−1,4,4a,9,9a,10−ヘキサヒドロアントラセンともいう)、5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸エチル、2−メチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチル、2−メチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸エチル、酢酸5−ノルボルネン−2−イル、酢酸2−メチル−5−ノルボルネン−2−イル、アクリル酸5−ノルボルネン−2−イル、メタクリル酸5−ノルボルネン−2−イル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、5−ノルボルネン−2−メタノール、5−ノルボルネン−2,3−ジメタノール、5−ノルボルネン−2,2−ジメタノール、5−ノルボルネン−2−オール、5−ノルボルネン−2−カルボニトリル、5−ノルボルネン−2−カルバルデヒド、5−ノルボルネン−2−カルボキサミド、2−アセチル−5−ノルボルネン、3−メトキシカルボニル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸などのノルボルネン類;
【0018】
7−オキサ−2−ノルボルネン、5−メチル−7−オキサ−2−ノルボルネン、5−エチル−7−オキサ−2−ノルボルネン、5−ブチル−7−オキサ−2−ノルボルネン、5−ヘキシル−7−オキサ−2−ノルボルネン、5−シクロヘキシル−7−オキサ−2−ノルボルネン、5−エチリデン−7−オキサ−2−ノルボルネン、5−フェニル−7−オキサ−2−ノルボルネン、7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチル、酢酸7−オキサ−5−ノルボルネン−2−イル、メタクリル酸7−オキサ−5−ノルボルネン−2−イルなどのオキサノルボルネン類;
ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカ−4,10−ジエン、ペンタシクロ[9.2.1.14,7.02,10.03,8]ペンタデカ−5,12−ジエン、ヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]ヘプタデカ−4−エンなどの五環体以上の環状オレフィン類;などが挙げられる。
【0019】
単環式炭化水素モノマーとしては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、3,4−ジメチルシクロペンテン、3−メチルシクロヘキセン、2−(2−メチルブチル)−1−シクロヘキセン、シクロオクテン、シクロヘプテン、ビニルシクロヘキセンのごとき単環のシクロアルケン;1,4−シクロヘキサジエン、1,5−シクロオクタジエンなどの脂環式非共役ジエン;シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、1,3−シクロオクタジエンのごとき脂環式共役ジエン;などが挙げられる。これらの単量体はそれぞれ単独で、あるいは2種以上を組合せて使用することができる。
【0020】
本発明に用いるメタセシス重合触媒は、環状オレフィン系モノマーをメタセシス開環重合させるものであれば特に限定されない。
用いるメタセシス重合触媒としては、遷移金属原子を中心原子として、複数のイオン、原子、多原子イオンおよび/または化合物が結合してなる錯体が挙げられる。遷移金属原子としては、5族、6族および8族(長周期型周期表、以下同じ)の原子が使用される。それぞれの族の原子は特に限定されないが、5族の原子としては例えばタンタルが挙げられ、6族の原子としては、例えばモリブデンやタングステンが挙げられ、8族の原子としては、例えばルテニウムやオスミウムが挙げられる。
【0021】
これらの中でも、8族のルテニウムやオスミウムの錯体をメタセシス重合触媒として用いることが好ましく、ルテニウムカルベン錯体が特に好ましい。ルテニウムカルベン錯体は、塊状重合時の触媒活性が優れるため、予備硬化状態にある成形材の生産性に優れる。また、酸素や空気中の水分に対して比較的安定であって、失活しにくいので、大気下でも生産が可能である。
ルテニウムカルベン錯体は、下記の式(1)または式(2)で表されるものが好ましい。
【0022】
【化1】

【0023】
式(1)および(2)において、R、Rは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子若しくは珪素原子を含んでもよい、C〜C20の炭化水素基を表す。X、Xは、それぞれ独立して任意のアニオン性配位子を示す。
、Lはそれぞれ独立して、ヘテロ原子含有カルベン化合物または中性電子供与性化合物を表す。なかでも、重合反応速度の温度依存性が大きく、低温での保存安定性と高温での重合反応性に優れた成形材が得られることから、ヘテロ原子含有カルベン化合物が好ましい。
また、R、R、X、X、LおよびLは、任意の組合せで互いに結合して多座キレート化配位子を形成してもよい。
【0024】
ヘテロ原子とは、周期律表第15族および第16族の原子を意味し、具体的には、N、O、P、S、As、Se原子などを挙げることができる。これらの中でも、安定なカルベン化合物が得られる観点から、N、O、P、S原子などが好ましく、N原子が特に好ましい。
【0025】
ヘテロ原子含有カルベン化合物は、カルベン炭素の両側にヘテロ原子が隣接して結合していることが好ましく、さらにカルベン炭素原子とその両側のヘテロ原子とを含むヘテロ環が構成されているものがより好ましい。また、カルベン炭素に隣接するヘテロ原子には嵩高い置換基を有していることが好ましい。
【0026】
ヘテロ原子含有カルベン化合物の例としては、下記の式(3)または式(4)で示される化合物が挙げられる。
【0027】
【化2】

【0028】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子若しくは珪素原子を含んでもよいC〜C20の炭化水素基を表す。また、R〜Rは任意の組合せで互いに結合して環を形成していてもよい。)
【0029】
前記式(3)および(4)で表される化合物の具体例としては、1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリジン−2−イリデン、1−シクロヘキシル−3−メシチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジメシチルオクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン、1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデンなどが挙げられる。
【0030】
また、前記式(3)および式(4)で示される化合物のほかに、1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン、1,3−ジシクロヘキシルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン、N,N,N’,N’−テトライソプロピルホルムアミジニリデン、1,3,4−トリフェニル−4,5−ジヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン、3−(2,6−ジイソプロピルフェニル)−2,3−ジヒドロチアゾール−2−イリデンなどのヘテロ原子含有カルベン化合物も用い得る。
【0031】
前記式(1)および式(2)において、アニオン(陰イオン)性配位子X、Xは、中心金属から引き離されたときに負の電荷を持つ配位子であり、例えば、F、Cl、Br、Iなどのハロゲン原子、ジケトネート基、置換シクロペンタジエニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボキシル基などを挙げることができる。これらの中でもハロゲン原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
【0032】
中性の電子供与性化合物は、中心金属から引き離されたときに中性の電荷を持つ配位子であればいかなるものでもよい。その具体例としては、カルボニル、アミン類、ピリジン類、エーテル類、ニトリル類、エステル類、ホスフィン類、チオエーテル類、芳香族化合物、オレフィン類、イソシアニド類、チオシアネート類などが挙げられる。これらの中でも、ホスフィン類、エーテル類およびピリジン類が好ましく、トリアルキルホスフィンがより好ましい。
【0033】
前記式(1)で表される錯体化合物としては、例えば、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−オクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン[1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(トリシクロヘキシルホスフィン)(1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジイソプロピルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン)(エトキシメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)ピリジンルテニウムジクロリドなどのヘテロ原子含有カルベン化合物と中性の電子供与性化合物が結合したルテニウム錯体化合物;
【0034】
ベンジリデンビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)ビス(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリドなどの2つの中性電子供与性化合物が結合したルテニウム化合物;
【0035】
ベンジリデンビス(1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリジン−2−イリデン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデンビス(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン)ルテニウムジクロリドなどの2つのヘテロ原子含有カルベン化合物が結合したルテニウム錯体化合物;などが挙げられる。
【0036】
前記式(1)において、RとLが結合している錯体化合物として、下記の(5)〜(7)で表される化合物が挙げられる。
【0037】
【化3】

【0038】
前記式(2)で表される錯体化合物としては、例えば、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(フェニルビニリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(t−ブチルビニリデン)(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ビス(1,3−ジシクロヘキシル−4−イミダゾリン−2−イリデン)フェニルビニリデンルテニウムジクロリドなどが挙げられる。
【0039】
これらのルテニウム錯体化合物は、例えば、Organic Letters,第1巻,953頁,1999年、Tetrahedron Letters,第40巻,2247頁,1999年などに記載された方法によって製造することができる。
【0040】
メタセシス重合触媒の使用量は、(触媒中の金属原子:環状オレフィン)のモル比で、通常1:2,000〜1:2,000,000、好ましくは1:5,000〜1:1,000,000、より好ましくは1:10,000〜1:500,000の範囲である。
【0041】
メタセシス重合触媒は必要に応じて、少量の不活性溶媒に溶解して使用することができる。かかる溶媒としては、例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタンなどの鎖状脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ジシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデンシクロヘキサン、シクロオクタンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどの含酸素炭化水素;などが挙げられる。これらの中では、触媒の溶解性に優れ工業的に汎用な、芳香族炭化水素や鎖状
脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素の使用が好ましい。また、メタセシス重合触媒としての活性を低下させないものであれば、液状の老化防止剤、可塑剤やエラストマーを溶剤として用いてもよい。
【0042】
メタセシス重合触媒は、重合活性を制御したり、重合反応率を向上させる目的で、活性剤(共触媒)と併用することもできる。活性剤としては、アルミニウム、スカンジウム、スズ、チタン、ジルコニウムの(部分)アルキル化物、(部分)ハロゲン化物、(部分)アルコキシ化物および(部分)アリールオキシ化物などを例示することができる(ここで、「部分」は、同時に複数の化合物となっていてもよいことを意味する。)。
【0043】
活性剤の具体例としては、トリアルコキシアルミニウム、トリフェノキシアルミニウム、ジアルコキシアルキルアルミニウム、アルコキシジアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウム、ジアルコキシアルミニウムクロリド、アルコキシアルキルアルミニウムクロリド、ジアルキルアルミニウムクロリド、トリアルコキシスカンジウム、テトラアルコキシチタン、テトラアルコキシスズ、テトラアルコキシジルコニウムなどが挙げられる。
活性剤の使用量は、(メタセシス重合触媒中の金属原子:活性剤)のモル比で、通常、1:0.05〜1:100、好ましくは1:0.2〜1:20、より好ましくは1:0.5〜1:10の範囲である。
【0044】
また、メタセシス重合触媒として、5族および6族の遷移金属原子の錯体を用いる場合には、メタセシス重合触媒および活性剤は、いずれも前記環状オレフィン系モノマーに溶解して用いるのが好ましいが、目的とする成形材の性質を本質的に損なわない範囲であれば、少量の溶媒に懸濁または溶解させて用いることができる。
【0045】
本発明の成形材は予備硬化状態にある硬化可能な材であり、粘性と弾性を併せもつ粘弾性体である。本発明において、「予備硬化状態にある」とは、環状オレフィン系モノマーの塊状開環メタセシス重合反応が完結していない途中の状態にあることをいい、「硬化可能な」とは、予備硬化状態にある成形材を加熱することにより、メタセシス重合が再開し、硬化を完結させることができるという意味である。
【0046】
本発明の成形材は、高粘度であっても高い流動性を示す。
成形材の流動性は、環状オレフィン系モノマーの重合開始から予備硬化状態にある成形材になるまでの粘弾性変化をレオメーターで測定し、評価することができる。具体的には、公知のレオメーター(円錐円盤型レオメーター)を用い、測定子は円錐円盤(CP1/40)、測定モードをオシレーション、振動数を2Hz、ずり荷重を50Paとして、レオメーターのプレート温度を所定温度(例えば40℃)に設定し、環状オレフィン系モノマーの予備硬化反応を行い、反応液の動的粘度及び損失正接を測定する。
【0047】
ここで、複素弾性率をG、貯蔵弾性率をG’、損失弾性率をG”、損失正接をtanδとすると、G=G’+iG”、tanδ=G”/G’となる。一般的に、メタセシス重合が進行するにつれ、反応液の動的粘度は連続的に上昇し、損失正接は連続的に減少する。ある動的粘度における損失正接(tanδ)が大きいほど、流動性が高く、成形性に優れる。
【0048】
本発明の成形材は、円錐円盤型レオメーターによる振動数2Hzにおける粘弾性測定において、(i)動的粘度が100Pa・s以上であり、損失正接が1以上、好ましくは動的粘度が100Pa・s〜1,000Pa・sであり、損失正接が1以上であり、かつ、、(ii)動的粘度が10〜100Pa・sであり、損失正接が2以上であるものである。
本発明の成形材は賦形が容易であり、加熱硬化することで、所望の形状、所望の厚みの成形品を得ることができる。
【0049】
本発明の成形材は、条件を選択することにより、粘性のある液体状や、常温では流動性のない固形状にすることができる。常温で固形状であっても、硬化時の加熱により流動性が発現されるものであればよい。また、賦形の方法に応じて適宜その流動状態を選ぶことができる。
本発明の成形材が固形状である場合の形状は特に制約されず、板状、シート状、棒状などいかなるものであってもよい。
【0050】
なお、予備硬化状態を維持する時間は成形材の保管温度によって調整することが可能である。予備硬化させてから所定の形状に賦形するまでの時間は、成形品の生産の形態に応じて適宜選択すればよい。
【0051】
2)予備硬化状態にある硬化可能な成形材の製造方法
本発明の予備硬化状態にある硬化可能な成形材の製造方法は、環状オレフィン系モノマーを、メタセシス重合触媒および連鎖移動剤の存在下に塊状開環メタセシス重合させることを特徴とする。本発明の製造方法は、本発明の予備硬化状態にある硬化可能な成形材を製造する場合に好ましく適用することができる。
【0052】
本発明の製造方法においては、環状オレフィン系モノマーおよびメタセシス重合触媒は、上述したものと同様なものを用いることができる。
本発明に用いる連鎖移動剤は、一般に分子量を調節する目的で重合反応系に添加されるものである。連鎖移動剤の存在下に環状オレフィンを塊状開環メタセシス重合することにより、高粘度であっても、高い流動性を有する成形材を得ることができる。
【0053】
連鎖移動剤としては、例えば、炭素−炭素二重結合を有する化合物を用いることができる。その具体例としては、2−ビニルノルボルネンなどのビニルノルボルネン類;1−ヘキセン、2−ヘキセンなどの脂肪族オレフィン類;スチレン、ビニルスチレン、スチルベンなどの芳香族オレフィン類;ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘキセンなどの脂環式オレフィン類;エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;メチルビニルケトンなどのビニルケトン類;酢酸アリル、アリルメタクリレートなどのエチレン性不飽和エステル類;などが挙げられる。これらの中で、ビニルノルボルネン類やビニルシクロヘキセンなどは連鎖移動剤であると同時に環状オレフィン系モノマーでもあるが、予備硬化状態にある硬化可能な成形材の製造時には主に連鎖移動剤として作用する。
【0054】
連鎖移動剤の使用量は、前記環状オレフィン系モノマー全体に対して、通常0.01〜10重量%、好ましくは0.05〜5重量%、より好ましくは0.1〜2重量%である。連鎖移動剤の使用量がこの範囲であるときに、高粘度で、しかも流動性に優れる予備硬化状態にある硬化可能な成形材を効率よく得ることができる。
【0055】
前記環状オレフィン系モノマー、メタセシス重合触媒および連鎖移動剤を含有してなる反応液を調製し、該反応液を所定温度に加熱してメタセシス開環重合することにより、予備硬化状態にある硬化可能な成形材を得ることができる。
【0056】
反応液の調製法に特に制約はないが、例えば、環状オレフィン系モノマーの1種または2種以上(以下、「モノマー液」という場合がある。)と、メタセシス重合触媒を適当な溶媒に溶解若しくは分散させた溶液(触媒液)とを別々に調製し、反応させる直前に混合して調製する方法が挙げられる。この場合、連鎖移動剤はモノマー液に添加してもよいし、触媒液に添加してもよい。また、これらをモノマー液と触媒液とを混合して得られる反応液に添加することもできる。
【0057】
また、反応液には、各種の添加剤、例えば強化材、改質剤、酸化防止剤、難燃剤、充填剤、着色剤、光安定剤などを含有させることができる。これらの添加剤は、予めモノマー液または触媒液に溶解または分散させることができる。
【0058】
強化材としては、例えば、ガラス繊維、ガラス布、紙基材、ガラス不織布などが挙げられる。改質剤としては、例えば、天然ゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)およびこれらの水素化物などのエラストマーなどが挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系、アミン系などの各種のプラスチック・ゴム用酸化防止剤などが挙げられる。これらの酸化防止剤は単独で用いてもよいが、二種以上を組合せて用いることが好ましい。
【0059】
難燃剤としては、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、酸化アンチモン系難燃剤、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物系難燃剤などが挙げられる。難燃剤は単独で用いてもよいが、二種以上を組合せて用いることが好ましい。充填剤としては、例えば、ガラス粉末、カーボンブラック、タルク、炭酸カルシウム、雲母などの無機質充填剤などが挙げられる。また充填剤は、シランカップリング剤などで表面処理したものを用いることもできる。着色剤としては、染料、顔料などが用いられる。染料の種類は多様であり、公知のものを適宜選択して使用すればよい。また、顔料としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、黄鉛、酸化鉄黄色、二酸化チタン、酸化亜鉛、四酸化三鉛、鉛丹、酸化クロム、紺青、チタンブラックなどが挙げられる。光安定剤としては、例えば、ベンゾト
リアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オギザニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤などが挙げられる。これらの添加剤の使用量は、前記環状オレフィン系モノマー100重量部に対して、通常0.001〜100重量部である。
【0060】
予備硬化反応は発熱反応であり、一旦塊状重合が開始すると、反応液の温度が上昇する。重合反応時の最高温度があまりに高くなると、硬化反応が完全に進行して、予備硬化状態にある硬化可能な成形材が得られないおそれがある。したがって、重合反応を制御して、予備硬化状態にある硬化可能な成形材を効率よく得るためには、塊状重合の温度を、好適には0〜100℃、より好適には20〜50℃に制御するのが好ましい。
【0061】
重合反応熱による過熱を防止する手法としては、(a)反応遅延剤を反応液に添加することにより、ゆっくりと反応させる方法、(b)予備硬化反応を反応熱が逃げやすい条件で行う方法、または(c)これらを組合わせる方法などが挙げられる。
【0062】
前記(a)の方法で用いる反応遅延剤としては、例えば、1,5−ヘキサジエン、2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエン、(シス,シス)−2,6−オクタジエン、(シス,トランス)−2,6−オクタジエン、(トランス,トランス)−2,6−オクタジエンなどの鎖状1,5−ジエン化合物;(トランス)−1,3,5−ヘキサトリエン、(シス)−1,3,5−ヘキサトリエン、(トランス)−2,5−ジメチル−1,3,5−ヘキサトリエン、(シス)−2,5−ジメチル−1,3,5−ヘキサトリエンなどの鎖状1,3,5−トリエン化合物;トリフェニルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィンなどのホスフィン類;アニリンなどのルイス塩基;などが挙げられる。
【0063】
また、反応遅延剤であると同時に環状オレフィン系モノマーでもあるものとしては、1,5−ジエン構造や1,3,5−トリエン構造を有する環状オレフィンが挙げられる。例えば、1,5−シクロオクタジエン、1,5−ジメチル−1,5−シクロオクタジエン、1,3,5−シクロヘプタトリエン、(シス,トランス,トランス)−1,5,9−シクロドデカトリエン、4−ビニルシクロヘキセン、ジペンテンなどの単環式化合物;5−ビニル−2−ノルボルネン、5−イソプロペニル−2−ノルボルネン、5−(1−プロペニル)−2−ノルボルネンなどの多環式化合物;などが挙げられる。
【0064】
反応遅延剤の添加割合は、モノマー液に対して0.001〜5重量%、好ましくは0.002〜2重量%の範囲である。反応遅延剤の添加割合が0.001重量%未満であると、反応遅延効果が発揮されない。逆に5重量%を超える場合には、重合物に残存する反応遅延剤によって、成形品の物性が低下したり、重合反応が不十分となるおそれがある。
【0065】
(b)の予備硬化反応を反応熱が逃げやすい条件で行う方法としては、例えば、反応液をキャリヤー上に注ぐかまたは塗布し、モノマー液を重合させる方法が挙げられる。
用いるキャリヤーの材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ナイロンなどの熱可塑性樹脂;鉄、ステンレス、銅、アルミニウム、ニッケル、クロム、金、銀などの金属材料;などが挙げられる。
【0066】
モノマー液のキャリアー表面への塗布方法は特に制限されず、例えば、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、スリットコート法などの公知の塗布方法が挙げられる。ガラスクロスなどの強化材を用いる場合は,予め型内やキャリヤー上に強化材をセットしておき、反応液を強化材に含浸させてから予備硬化させてもよい。
予備硬化反応における重合時間は適宜選択すればよいが、通常、0.1秒から1時間、好ましくは1秒から5分である。
【0067】
3)成形品
本発明の成形品は、本発明の成形材を所定形状に賦形し、所定温度に加熱して、さらに加熱を継続することで硬化反応を完結させて得られるものである。
加熱温度は通常50〜250℃、好ましくは60〜200℃であり、反応の時間は予備硬化反応に用いる触媒の使用量および加熱温度により適宜設定することができる。
本発明においては、予備硬化状態にある成形材を所定形状に賦形した後、賦形された成形材を加熱硬化させてもよく、成形材を所定形状に賦形すると同時に加熱硬化させることもできる。
【0068】
本発明の成形品の形状は特に制約されず、円筒状物、半円管、積層体などの平面状物、立体状物のいかなるものであってもよい。所定の形状に賦形するために成形用成形型を使用する場合には、圧縮成形用の型、通常のSMC(Sheet Mold Compound)やBMC(Bulk Mold Compound)成形用型を使用することができる。また、圧縮、射出圧縮、マッチドメタルダイなどの各種成形法が使用できる。成形品の用途や生産量に応じて、成形法を適宜選択し、また、型の形状や材質を選ぶことができる。
【0069】
また、本発明の成形材は複数枚重ねて積層することもできる。本発明の成形材は接着性に優れるので、他の材料(例えば、他の樹脂材料、金属材料など)と積層することもできる。この場合においては、加熱硬化する方法として、熱プレスする方法を採用することもできる。熱プレスするときの圧力は、通常0.5〜20MPa、好ましくは3〜10MPaである。熱プレスする方法は、例えば、平板成形用のプレス枠型を有する公知のプレス機を用いて行なうことができ、生産性に優れる。
【実施例】
【0070】
次に実施例および比較例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例および比較例において、「部」は特に断りのない限り、重量基準である。
なお、粘弾性変化はレオメーター(型番号:CS−10、ボーリン社製)を用いて測定した。測定子は円錐円盤(CP1/40)、測定モードはオシレーション、振動数は2Hz、ずり荷重は50Paとして測定した。
【0071】
実施例1
ガラス製フラスコ中で、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド51mgと、トリフェニルホスフィン79mgとを、トルエン1.1mlに溶解させて触媒液(A)を調製した。次いで、30mlのガラス瓶にジシクロペンタジエン(5%のテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エンを含む)を5ml、スチレンを0.04ml入れ、撹拌しながら上記触媒溶液を0.05ml加えた(混合液1)。
混合液1の粘弾性変化を、レオメーターのプレート温度40℃で測定した。時間と共に予備硬化反応が進行し動的粘度は上昇していき、損失正接は減少していった。このときの動的粘度と損失正接の関係を図1に示す。
【0072】
実施例2
スチレン添加量を0.02mlとする以外は、実施例1と同様の組成の混合液2を使用し、実施例1と同様に操作した。混合液2の粘弾性変化を、プレート温度40℃で測定した。時間と共に予備硬化反応が進行し動的粘度は上昇していき、損失正接は減少していった。このときの動的粘度と損失正接の関係を図1に示す。
【0073】
実施例3
スチレン0.04mlの代わりに、5−ビニル−2−ノルボルネン0.04mlを添加する以外は、実施例1と同様の組成の混合液3を使用し、実施例1と同様に操作した。混合液3の粘弾性変化を、プレート温度40℃で測定した。時間と共に予備硬化反応が進行し動的粘度は上昇していき、損失正接は減少していった。このときの動的粘度と損失正接の関係を図1に示す。
【0074】
比較例1
スチレンを添加しない以外は、実施例1と同様の組成の混合液4を使用し、実施例1と同様に操作した。混合液4の粘弾性変化を、プレート温度40℃で測定した。このときの動的粘度と損失正接の関係を図1に示す。結果を図1に示す。
【0075】
図1より、スチレンや5−ビニルノルボルネンなどの連鎖移動剤を添加した場合(実施例1〜3の場合)では、動的粘度が100Pa・sにおける損失正接は2.5〜5であった。一方、連載移動剤を添加しない場合(比較例1)では、動的粘度100Pa・sにおける損失正接は0.7前後であった。連鎖移動剤を添加することにより、損失正接が増大し、流動性が改善されることがわかる。
【0076】
実施例4
30mlのガラス瓶にテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エンを5ml、5−ビニル−2−ノルボルネンを0.04ml入れ、撹拌しながら実施例1で調製した触媒溶液を0.05ml加えた(混合液5)。
混合液5の粘弾性変化を、プレート温度23℃で測定した。
動的粘度が100Pa・sになったときには、損失正接は5.6であった。この時点で測定を中止し、円盤状の測定サンプルを取り出し、中心角90°の扇型4枚に切断して重ねたところ、接着した。これを、二枚の鉄板にはさんで四隅をシャコ万力で止め、150℃のオーブンで20分キュアーしたところ、厚み0.7mmの一枚フィルムが得られた。
【0077】
比較例2
5−ビニル−2−ノルボルネンを添加しない以外は、実施例4と同様の組成の混合液6を使用し、実施例4と同様に操作した。
混合液6の動的粘度が100Pa・sになったときには、損失正接は0.76であった。この時点で測定を中止し、円盤状の測定サンプルを取り出し、中心角90°の扇型4枚に切断して重ねたところ、接着しなかった。4枚の扇型を重ねたまま、実施例4と同様に、二枚の鉄板にはさんで四隅をシャコ万力で止め、150℃のオーブンで20分キュアーしたが、扇型の形状を保ったまま4枚のサンプルは接着しなかった。また、キュアー後の4枚重ねたサンプルの厚みは、最大部分で3mmであった。
【0078】
実施例4と比較例2から、連鎖移動剤を添加して塊状開環メタセシス重合により得られた成形材(実施例4)は良好な流動性および接着性を示し、複数枚を重ね合わせて、加熱硬化することにより所望の厚みの積層体を得ることができた。一方、連鎖移動剤を添加しないで得られた比較例2の成形材では、流動性が悪いために接着性に乏しく、複数枚を重ね合わせて加熱硬化しても、所望の厚みの積層体を得ることができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】実施例1〜3において、環状オレフィン系モノマーを塊状開環メタセシス重合したときの、動的粘度と損失正接の変化を表した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン系モノマーを塊状開環メタセシス重合させて得られる予備硬化状態にある硬化可能な成形材であって、円錐円盤型レオメーターによる振動数2Hzにおける粘弾性測定において、(i)動的粘度が100Pa・s以上であり、損失正接が1以上であり、かつ、(ii)動的粘度が10〜100Pa・sであり、損失正接が2以上である成形材。
【請求項2】
環状オレフィン系モノマーを、メタセシス重合触媒および連鎖移動剤の存在下に塊状開環メタセシス重合させて得られたものである請求項1に記載の成形材。
【請求項3】
環状オレフィン系モノマーを、メタセシス重合触媒および連鎖移動剤の存在下に、塊状開環メタセシス重合させることを特徴とする予備硬化状態にある硬化可能な成形材の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の成形材を所定形状に賦形し、加熱硬化せしめて得られる成形品。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−255368(P2008−255368A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193816(P2008−193816)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【分割の表示】特願2002−324913(P2002−324913)の分割
【原出願日】平成14年11月8日(2002.11.8)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】