説明

成形材料、成形体、及びその製造方法、並びに電気電子機器用筐体

【課題】高い剛性(曲げ弾性率)、良好な曲げ強度、及び高い熱変形温度といった性能と、さらに良好な耐衝撃性(シャルピー衝撃強度)、優れた成形加工性、寸法安定性、導電性及び熱伝導性とを有する成形材料及び成形体を提供する。
【解決手段】 セルロースに含まれる水酸基の水素原子が、
下記A)で置換された基を少なくとも1つ、及び
下記B)で置換された基を少なくとも1つ含むセルロース誘導体と、
アスペクト比10以上かつ直径15μm以下の炭素材料とを含有する成形材料であり、該成形材料を加熱成形して得られる成形体の体積抵抗率が3×10Ω・cm以下である成形材料。
A)炭化水素基:−R
B)アシル基:−CO−R(Rは炭化水素基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形材料、成形体、及びその製造方法、並びに電気電子機器用筐体に関する。
【背景技術】
【0002】
コピー機、プリンター等の電気電子機器を構成する部材には、その部材に求められる特性、機能等を考慮して、各種の素材が使用されている。例えば、電気電子機器の駆動機等を収納し、当該駆動機を保護する役割を果たす部材(筐体)にはPC(Polycarbonate)、ABS(Acrylonitrile−butadiene−styrene)樹脂、PC/ABS等が一般的に多量に使用されている(特許文献1)。これらの樹脂は、石油を原料として得られる化合物を反応させて製造されている。
【0003】
ところで、石油、石炭、天然ガス等の化石資源は、長年月の間、地中に固定されてきた炭素を主成分とするものである。このような化石資源、又は化石資源を原料とする製品を燃焼させて、二酸化炭素が大気中に放出された場合には、本来、大気中に存在せずに地中深くに固定されていた炭素を二酸化炭素として急激に放出することになり、大気中の二酸化炭素が大きく増加し、これが地球温暖化の原因となっている。したがって、化石資源である石油を原料とするABS、PC等のポリマーは、電気電子機器用部材の素材としては、優れた特性を有するものであるものの、化石資源である石油を原料とするものであるため、地球温暖化の防止の観点からは、その使用量の低減が望ましい。
【0004】
一方、植物由来の樹脂は、元々、植物が大気中の二酸化炭素と水とを原料として光合成反応によって生成したものである。そのため、植物由来の樹脂を焼却して二酸化炭素が発生しても、その二酸化炭素は元々、大気中にあった二酸化炭素に相当するものであるから、大気中の二酸化炭素の収支はプラスマイナスゼロとなり、結局、大気中のCOの総量を増加させない、という考え方がある。このような考えから、植物由来の樹脂は、いわゆる「カーボンニュートラル」な材料と称されている。石油由来の樹脂に代わって、カーボンニュートラルな材料を用いることは、近年の地球温暖化を防止する上で急務となっている。
【0005】
このため、PCポリマーにおいて、石油由来の原料の一部としてデンプン等の植物由来資源を使用することにより石油由来資源を低減する方法が提案されている(特許文献2)。
しかし、より完全なカーボンニュートラルな材料を目指す観点から、さらなる改良が求められている。
【0006】
ここで、セルロースに代表される多糖類は、植物から得られる地球上で再生産可能なバイオマス材料として、また環境中にて生分解可能な材料として、昨今の大きな注目を集めつつある。セルロースは紙に用いられるばかりではなく、その誘導体であるセルロースエステルは、例えばセルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート等が、フィルム材料等として多くの分野で用いられおり、商業的に流通している。
【0007】
公知のセルロース誘導体として、ヒドロキシプロピルメチルアセチルセルロースが特許文献3及び特許文献4に記載されている。特許文献3及び特許文献4では、このヒドロキシプロピルメチルアセチルセルロースは、揮発しやすい有機溶剤の蒸気圧を低減するための添加剤として有用であることが記載されている。また、特許文献3及び特許文献4に記載のヒドロキシプロピルメチルアセチルセルロースにおける各置換基の置換度は、例えばヒドロキシプロピル基のモル置換度(MS)が約2から8の範囲、メチル基の置換度が約0.1から1の範囲、アセチル基の置換度は約0.8から2.5の範囲であることが記載されている。
【0008】
一方、導電性の熱可塑性樹脂を製造するために通常は、たとえばポリアニリン、ポリ−パラ−フェニレン−ビニレンまたはポリチアフェンのような共役電子系を有する導電性の物質、例えばカーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、炭素繊維、グラファイト、金属繊維および粉末、金属化されたガラス繊維または導電性のポリマーを使用されている。
特許文献5及び6には、熱可塑性樹脂にカーボンナノファイバー又はカーボンナノチューブを添加した導電性の成形材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭56−55425号公報
【特許文献2】特開2008−24919号公報
【特許文献3】米国特許第3979179号明細書
【特許文献4】米国特許第3940384号明細書
【特許文献5】特表2006−510763号公報
【特許文献6】特開2004−143242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、カーボンニュートラルな樹脂として、セルロースを使用することに初めて着目した。しかし、セルロースは一般的に熱可塑性を持たないため、加熱等により成形することが困難であるため、成形加工に適さない。また、たとえ熱可塑性を付与できたとしても、耐衝撃性等の強度が大きく衰える問題がある。例えば、上記特許文献3、4に記載のセルロース誘導体は水可溶性又は膨潤性であり、強度が不足しており成形材料として好ましくない。
また、セルロース誘導体からなる成形材料を、強度に優れた導電性を有する成形体を形成し得る材料とするには強度の面においても導電率においても課題があった。
【0011】
本発明の目的は、高い剛性(曲げ弾性率)、良好な曲げ強度、及び高い耐熱性(熱変形温度)といった性能と、さらに良好な耐衝撃性(シャルピー衝撃強度)、優れた成形加工性、寸法安定性、導電性及び熱伝導性とを有する成形材料及び成形体を提供することである。また、本発明の別の目的は、該成形材料を成形して得られる成形体、該成形体の製造方法、及び該成形体から構成される電気電子機器用筐体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、セルロースの分子構造に着目し、セルロースをエーテル構造とエステル構造を有する特定構造のセルロース誘導体とし、該特定構造のセルロース誘導体と、アスペクト比10以上かつ直径15μm以下の炭素材料とを含有する成形材料により、剛性、曲げ強度、耐熱性といった性能を下げずに、寸法安定性、導電性及び熱伝導性に優れた成形材料及び成形体を提供しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、上記課題は以下の手段により達成することができる。
【0013】
〔1〕
セルロースに含まれる水酸基の水素原子が、
下記A)で置換された基を少なくとも1つ、及び
下記B)で置換された基を少なくとも1つ含むセルロース誘導体と、
アスペクト比10以上かつ直径15μm以下の炭素材料とを含有する成形材料であり、該成形材料を加熱成形して得られる成形体の体積抵抗率が3×10Ω・cm以下である成形材料。
A)炭化水素基:−R
B)アシル基:−CO−R(Rは炭化水素基を表す。)
〔2〕
前記セルロース誘導体が、更に、セルロースに含まれる水酸基の水素原子が下記C)で置換された基を少なくとも1つ含む、〔1〕に記載の成形材料。
C)アルキレンオキシ基:−RC2−O−とアシル基:−CO−RC1とを含む基(RC1は炭化水素基を表し、RC2は炭素数が2または3のアルキレン基を表す。)
〔3〕
前記C)アルキレンオキシ基とアシル基とを含む基が、下記一般式(3)で表される構造を含む基である、〔1〕又は〔2〕に記載の成形材料。
【化1】

(式中、RC1は炭化水素基を表し、RC2は炭素数が2又は3のアルキレン基を表す。nは1以上の整数を表す。)
〔4〕
前記Rが炭素数1〜4のアルキル基である、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の成形材料。
〔5〕
前記Rがメチル基又はエチル基である、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の成形材料。
〔6〕
前記R及びRC1が、それぞれ独立に、アルキル基又はアリール基である、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の成形材料。
〔7〕
前記R及びRC1が、それぞれ独立に、メチル基、エチル基又はプロピル基である、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の成形材料。
〔8〕
前記Rが、炭素数3〜10の分岐構造を有する炭化水素基である、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の成形材料。
〔9〕
前記アルキレンオキシ基が下記式(1)又は(2)で表される基である、〔2〕〜〔8〕のいずれかに記載の成形材料。
【化2】

〔10〕
前記セルロース誘導体が、カルボキシル基、スルホン酸基、及びこれらの塩を実質的に有さない、〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の成形材料。
〔11〕
前記セルロース誘導体が水に不溶である、〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載の成形材料。
〔12〕
前記炭素材料が炭素繊維、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブから選択される少なくとも1つである〔1〕〜〔11〕のいずれかに記載の成形材料。
〔13〕
更に、サイジング処理された炭素繊維を含む〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載の成形材料。
〔14〕
前記アスペクト比10以上かつ直径15μm以下の炭素材料の含有量が成形材料に対して0.1〜30質量%である〔1〕〜〔13〕のいずれかに記載の成形材料。
〔15〕
〔1〕〜〔14〕のいずれかに記載の成形材料を加熱成形して得られる成形体。
〔16〕
〔1〕〜〔14〕のいずれかに記載の成形材料を加熱し、成形する工程を含む、成形体の製造方法。
〔17〕
〔15〕に記載の成形体から構成される電気電子機器用筐体。
【発明の効果】
【0014】
本発明の成形材料は、優れた熱可塑性を有するため、加熱成形などにより成形することができる。また、本発明の成形材料、及び成形体は、剛性、曲げ強度、耐熱性といった性能に優れ、かつ良好な耐衝撃性と成形加工性、寸法安定性、導電性及び熱伝導性を有しており、例えば放熱板にも使用できる。さらに、自動車、家電、電気電子機器等の構成部品、機械部品、住宅・建築用材料等として好適に使用することができる。また、本発明の成形材料は、植物由来の樹脂であるセルロースから得られるセルロース誘導体を使用しているため、温暖化防止に貢献できる素材として、従来の石油由来の樹脂に代替できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、セルロースに含まれる水酸基の水素原子が、
下記A)で置換された基を少なくとも1つ、及び
下記B)で置換された基を少なくとも1つ含むセルロース誘導体と、
アスペクト比10以上かつ直径15μm以下の炭素材料とを含有する、該成形材料を加熱成形して得られる成形体の体積抵抗率が3×10Ω・cm以下のである成形材料である。
A)炭化水素基:−R
B)アシル基:−CO−R(Rは炭化水素基を表す。)
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
1.セルロース誘導体
本発明の成形材料に含まれるセルロース誘導体は、セルロースに含まれる水酸基の水素原子が、
下記A)で置換された基を少なくとも1つ、及び
下記B)で置換された基を少なくとも1つ含むセルロース誘導体である。
A)炭化水素基:−R
B)アシル基:−CO−R(Rは炭化水素基を表す。)
すなわち、本発明におけるセルロース誘導体は、セルロースエーテルエステルであり、セルロース{(C10}に含まれる水酸基の水素原子の少なくとも一部が、A)炭化水素基:−R、B)アシル基:−CO−R(Rは炭化水素基を表す。)により置換されている。
より詳細には、本発明におけるセルロース誘導体は、下記一般式(A)で表される繰り返し単位を有する。
【0017】
【化3】

【0018】
上記一般式(A)において、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、A)炭化水素基:−R、B)アシル基:−CO−R(Rは炭化水素基を表す。)、又はその他の置換基を表す。ただし、R、R、及びRの少なくとも一部がA)炭化水素基を表し、かつR、R、及びRの少なくとも一部がB)アシル基を表す。
【0019】
本発明におけるセルロース誘導体は、上記のようにβ−グルコース環の水酸基の少なくとも一部がA)炭化水素基、及びB)アシル基によって、エーテル化、及びエステル化されていることにより、熱可塑性を発現することができ、成形加工に適したものとなる。
さらには、セルロースは完全な植物由来成分であるため、カーボンニュートラルであり、環境に対する負荷を大幅に低減することができる。
【0020】
なお、本発明にいう「セルロース」とは、多数のグルコースがβ−1,4−グリコシド結合によって結合した高分子化合物であって、セルロースのグルコース環における2位、3位、6位の炭素原子に結合している水酸基が無置換であるものを意味する。また、「セルロースに含まれる水酸基」とは、セルロースのグルコース環における2位、3位、6位の炭素原子に結合している水酸基を指す。
【0021】
前記セルロース誘導体は、その全体のいずれかの部分に前記A)炭化水素基、及びB)アシル基とを含んでいればよく、同一の繰り返し単位からなるものであってもよいし、複数の種類の繰り返し単位からなるものであってもよい。また、前記セルロース誘導体は、ひとつの繰り返し単位において前記A)炭化水素基、及びB)アシル基をすべて含有する必要はない。
より具体的な態様としては、例えば以下の態様が挙げられる。
(1)R、R及びRの少なくとも1つが、A)炭化水素基で置換されている繰り返し単位と、R、R及びRの少なくとも1つが、B)アシル基で置換されている繰り返し単位と、から構成されるセルロース誘導体。
(2)ひとつの繰り返し単位のR、R及びRのいずれかがA)炭化水素基、及びB)アシル基で置換されている(すなわち、ひとつの繰り返し単位中に前記A)及びB)の置換基を有する)同種の繰り返し単位から構成されるセルロース誘導体。
(3)置換位置や置換基の種類が異なる繰り返し単位が、ランダムに結合しているセルロース誘導体。
また、セルロース誘導体には、無置換の繰り返し単位(すなわち、前記一般式(A)において、R、R及びRすべてが水素原子である繰り返し単位)を含んでいてもよい。
また、セルロース誘導体は、水素原子、A)炭化水素基、及びB)アシル基以外のその他の置換基を有していても良い。
【0022】
A)炭化水素基:−Rは、脂肪族基、及び芳香族基のいずれでもよい。
が脂肪族基である場合は、直鎖、分岐、及び環状のいずれでもよく、不飽和結合を持っていてもよい。脂肪族基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられる。
が芳香族基である場合は、単環、及び縮環のいずれでもよい。Rが芳香族基である場合の好ましい炭素数は6〜18であり、より好ましくは6〜14、さらに好ましくは6〜10である。芳香族基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントリル基等が挙げられる。
A)炭化水素基は、得られる成形材料(以下「セルロース樹脂組成物」又は「樹脂組成物」と称する場合がある。)の耐衝撃性が優れることから、脂肪族基であることが好ましく、メルトフローレート等の成形加工性が優れることから、より好ましくはアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜4のアルキル基(低級アルキル基)である。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、tert−ブチル基、イソヘプチル基等が挙げられ、メチル基又はエチル基が特に好ましい。
【0023】
B)アシル基:−CO−Rにおいて、Rは炭化水素基を表す。Rは、脂肪族基、及び芳香族基のいずれでもよい。
が脂肪族基である場合は、直鎖、分岐、及び環状のいずれでもよく、不飽和結合を持っていてもよい。脂肪族基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられる。
が芳香族基である場合は、単環、及び縮環のいずれでもよい。芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントリル基等が挙げられる。
は、好ましくはアルキル基又はアリール基である。Rは、より好ましくは炭素数1〜12のアルキル基又はアリール基であり、さらに好ましくは炭素数1〜12のアルキル基であり、特に好ましくは炭素数1〜4のアルキル基であり、最も好ましくは炭素数1又は2のアルキル基(すなわち、メチル基又はエチル基)である。
また、Rは、炭素数3〜10の分岐構造を有する炭化水素基であることも好ましく、炭素数3〜10の分岐構造を有するアルキル基であることがより好ましく、炭素数7〜9の分岐構造を有するアルキル基であることが更に好ましい。
としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、tert−ブチル基、及びイソヘプチル基等が挙げられる。好ましくは、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、又は2−エチルヘキシル基であり、より好ましくはメチル基、エチル基、又は2−エチルヘキシル基である。
【0024】
本発明の成形材料におけるセルロース誘導体は、セルロースに含まれる水酸基の水素原子が、前記A)で置換された基を少なくとも1つ、及び前記B)で置換された基を少なくとも1つ含むセルロース誘導体であるが、更に、セルロースに含まれる水酸基の水素原子が下記C)で置換された基を少なくとも1つ含むことが耐衝撃性の観点から好ましい。
C)アルキレンオキシ基:−RC2−O−とアシル基:−CO−RC1とを含む基(RC1は炭化水素基を表し、RC2は炭素数が2又は3のアルキレン基を表す。)
【0025】
前記C)に含まれるアシル基(−CO−RC1)において、RC1は炭化水素基を表す。RC1が表す炭化水素基としては、前記Rで挙げたものと同様のものを適用することができる。RC1の好ましい範囲も前記Rと同様である。
【0026】
前記C)に含まれるアルキレンオキシ基(−RC2−O−)において、RC2は炭素数が2又は3のアルキレン基を表す。RC2は、直鎖状、分岐状、又は環状のいずれでもよいが、直鎖状、又は分岐状が好ましく、分岐状がより好ましい。
アルキレンオキシ基(−RC2−O−)としては、具体的には下記構造が挙げられる。
【0027】
【化4】

【0028】
上記の中でも、得られる成形材料の曲げ弾性率が優れることから、−RC2−O−が分岐状である下記式(1)又は(2)で表される基が好ましい。
【0029】
【化5】

【0030】
前記C)の基は、アルキレンオキシ基を複数含んでいてもよいし、1つだけ含むものであってもよい。好ましくは、前記C)の基は、下記一般式(3)で表すことができる。
【0031】
【化6】

【0032】
前記一般式(3)中、RC1は炭化水素基を表し、RC2は炭素数が2又は3のアルキレン基を表す。RC1及びRC2の好ましい範囲は、前記したものと同様である。nは1以上の整数である。nの上限は特に限定されず、アルキレンオキシ基の導入量等により変わるが、例えば10程度である。nは好ましくは1〜5であり、より好ましくは1〜3であり、更に好ましくは1である。RC2は複数存在する場合は各々同じでも異なってもよいが、同じであることが好ましい。
また、本発明におけるセルロース誘導体は、アルキレンオキシ基を1つだけ含む前記C)の基(上記一般式(3)においてnが1である基)と、アルキレンオキシ基を2以上含む前記C)の基(上記一般式(3)においてnが2以上である基)とを含んでいてもよい。
【0033】
また、前記C)の基におけるアルキレンオキシ基のセルロース誘導体に対する結合向きは特に限定されないが、アルキレンオキシ基のアルキレン基部分(RC2)がβ−グルコース環構造側に結合していることが好ましい。
【0034】
前記A)におけるR、前記B)におけるR、前記C)におけるRC1及びRC2は、さらなる置換基を有していてもよいし無置換でもよいが、無置換であることが好ましい。
前記A)におけるR、前記B)におけるR、前記C)におけるRC1及びRC2がさらなる置換基を有する場合、さらなる置換基としては、例えば、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、ヒドロキシ基、アルコキシ基(アルキル基部分の炭素数は好ましくは1〜5)、アルケニル基等が挙げられる。ただし、置換基を含む場合でもRC2の炭素数は2又は3である。なお、R、R、及びRC1がアルキル基以外である場合は、アルキル基(好ましくは炭素数1〜5)を置換基として有することもできる。
【0035】
特に、R及びRC1がさらなる置換基を有する場合、カルボキシル基、スルホン酸基、及びこれらの塩を実質的に有さないことが好ましい。セルロース誘導体がカルボキシル基、スルホン酸基、及びこれらの塩を実質的に有さないことにより、本発明の成形材料を水不溶性とすることができ、成形性をさらに向上させることができる。また、セルロース誘導体がカルボキシル基、スルホン酸基、及びこれらの塩を有する場合、化合物安定性を悪化させることが知られており、特に熱分解を促進することがあるため、これらの基を含まないことが好ましい。
なお、「カルボキシル基、スルホン酸基、及びこれらの塩を実質的に有さない」とは、本発明におけるセルロース誘導体が全くカルボキシル基、スルホン酸基、及びこれらの塩を有さない場合のみならず、本発明におけるセルロース誘導体が水に不溶な範囲で微量のカルボキシル基、スルホン酸基、及びこれらの塩を有する場合を包含するものとする。例えば、原料であるセルロースにカルボキシル基が含まれる場合があり、これを用いて前記A)〜C)の置換基を導入したセルロース誘導体はカルボキシル基が含まれる場合があるが、これは「カルボキシル基、スルホン酸基、及びこれらの塩を実質的に有さないセルロース誘導体」に含まれるものとする。
この場合、カルボキシル基、スルホン酸基、及びこれらの塩の好ましい含有量としては、セルロース誘導体に対して1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。
【0036】
また、本発明におけるセルロース誘導体は、水に不溶であることが好ましい。ここで、「水に不溶である」とは、25℃の水100質量部への溶解度が5質量部以下であることとする。
【0037】
本発明におけるセルロース誘導体の具体例としては、
アセチルメチルセルロース、アセチルエチルセルロース、アセチルプロピルセルロース、アセチルブチルセルロース、アセチルペンチルセルロース、アセチルヘキシルセルロース、アセチルシクロヘキシルセルロース、アセチルフェニルセルロース、アセチルナフチルセルロース、
【0038】
プロピオニルメチルセルロース、プロピオニルエチルセルロース、プロピオニルプロピルセルロース、プロピオニルブチルセルロース、プロピオニルペンチルセルロース、プロピオニルヘキシルセルロース、プロピオニルシクロヘキシルセルロース、プロピオニルフェニルセルロース、プロピオニルナフチルセルロース、
【0039】
ブチリルメチルセルロース、ブチリルエチルセルロース、ブチリルプロピルセルロース、ブチリルブチルセルロース、ブチリルペンチルセルロース、ブチリルヘキシルセルロース、ブチリルシクロヘキシルセルロース、ブチリルフェニルセルロース、ブチリルナフチルセルロース、
【0040】
メチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、エチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、プロピルセルロース−2−エチルヘキサノエート、ブチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、ペンチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、ヘキシルセルロース−2−エチルヘキサノエート、シクロヘキシルセルロース−2−エチルヘキサノエート、フェニルセルロース−2−エチルヘキサノエート、ナフチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、
【0041】
アセトキシエチルメチルアセチルセルロース、アセトキシエチルエチルアセチルセルロース、アセトキシエチルプロピルアセチルセルロース、アセトキシエチルブチルアセチルセルロース、アセトキシエチルペンチルアセチルセルロース、アセトキシエチルヘキシルアセチルセルロース、アセトキシエチルシクロヘキシルアセチルセルロース、アセトキシエチルフェニルアセチルセルロース、アセトキシエチルナフチルアセチルセルロース、
【0042】
アセトキシエチルメチルプロピオニルセルロース、アセトキシエチルエチルプロピオニルセルロース、アセトキシエチルプロピルプロピオニルセルロース、アセトキシエチルブチルプロピオニルセルロース、アセトキシエチルペンチルプロピオニルセルロース、アセトキシエチルヘキシルプロピオニルセルロース、アセトキシエチルシクロヘキシルプロピオニルセルロース、アセトキシエチルフェニルプロピオニルセルロース、アセトキシエチルナフチルプロピオニルセルロース、
【0043】
アセトキシエチルメチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、アセトキシエチルエチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、アセトキシエチルプロピルセルロース−2−エチルヘキサノエート、アセトキシエチルブチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、アセトキシエチルペンチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、アセトキシエチルヘキシルセルロース−2−エチルヘキサノエート、アセトキシエチルシクロヘキシルセルロース−2−エチルヘキサノエート、アセトキシエチルフェニルセルロース−2−エチルヘキサノエート、アセトキシエチルナフチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、
【0044】
プロピオニルオキシエチルメチルアセチルセルロース、プロピオニルオキシエチルエチルアセチルセルロース、プロピオニルオキシエチルプロピルアセチルセルロース、プロピオニルオキシエチルブチルアセチルセルロース、プロピオニルオキシエチルペンチルアセチルセルロース、プロピオニルオキシエチルヘキシルアセチルセルロース、プロピオニルオキシエチルシクロヘキシルアセチルセルロース、プロピオニルオキシエチルフェニルアセチルセルロース、プロピオニルオキシエチルナフチルアセチルセルロース、
【0045】
プロピオニルオキシエチルメチルプロピオニルセルロース、プロピオニルオキシエチルエチルプロピオニルセルロース、プロピオニルオキシエチルプロピルプロピオニルセルロース、プロピオニルオキシエチルブチルプロピオニルセルロース、プロピオニルオキシエチルペンチルプロピオニルセルロース、プロピオニルオキシエチルヘキシルプロピオニルセルロース、プロピオニルオキシエチルシクロヘキシルプロピオニルセルロース、プロピオニルオキシエチルフェニルプロピオニルセルロース、プロピオニルオキシエチルナフチルプロピオニルセルロース、
【0046】
プロピオニルオキシエチルメチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、プロピオニルオキシエチルエチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、プロピオニルオキシエチルプロピルセルロース−2−エチルヘキサノエート、プロピオニルオキシエチルブチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、プロピオニルオキシエチルペンチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、プロピオニルオキシエチルヘキシルセルロース−2−エチルヘキサノエート、プロピオニルオキシエチルシクロヘキシルセルロース−2−エチルヘキサノエート、プロピオニルオキシエチルフェニルセルロース−2−エチルヘキサノエート、プロピオニルオキシエチルナフチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、
【0047】
アセトキシプロピルメチルアセチルセルロース、アセトキシプロピルエチルアセチルセルロース、アセトキシプロピルプロピルアセチルセルロース、アセトキシプロピルブチルアセチルセルロース、アセトキシプロピルペンチルアセチルセルロース、アセトキシプロピルヘキシルアセチルセルロース、アセトキシプロピルシクロヘキシルアセチルセルロース、アセトキシプロピルフェニルアセチルセルロース、アセトキシプロピルナフチルアセチルセルロース、
【0048】
プロピオニルオキシプロピルメチルアセチルセルロース、プロピオニルオキシプロピルエチルアセチルセルロース、プロピオニルオキシプロピルプロピルアセチルセルロース、プロピオニルオキシプロピルブチルアセチルセルロース、プロピオニルオキシプロピルペンチルアセチルセルロース、プロピオニルオキシプロピルヘキシルアセチルセルロース、プロピオニルオキシプロピルシクロヘキシルアセチルセルロース、プロピオニルオキシプロピルフェニルアセチルセルロース、プロピオニルオキシプロピルナフチルアセチルセルロース、
【0049】
バレロキシプロピルメチルバレロイルセルロース、バレロキシブチルメチルバレロイルセルロースなどが挙げられる。
【0050】
本発明の成形材料は、前記特定のセルロース誘導体を1種のみ含んでもよいし、2種以上を含んでもよい。
【0051】
本発明におけるセルロース誘導体中のA)炭化水素基:−R、B)アシル基:−CO−R、及びC)アルキレンオキシ基:−RC2−O−とアシル基:−CO−RC1とを含む基の置換位置、並びにβ−グルコース環単位当たりの各置換基の数(置換度)は特に限定されない。
【0052】
例えば、A)炭化水素基:−Rの置換度DS(繰り返し単位中、β−グルコース環の2位、3位及び6位の水酸基に対するRの数)は、1.0<DSであることが好ましく、1.0<DS<2.5がより好ましい。また、DSは1.1以上であることが好ましい。
B)アシル基(−CO−R)の置換度DS(繰り返し単位中、β−グルコース環のセルロース構造の2位、3位及び6位の水酸基に対する−CO−Rの数)は、0.1<DSであることが好ましく、0.1<DS<2.0であることがより好ましい。
C)アルキレンオキシ基:−RC2−O−とアシル基:−CO−RC1とを含む基の置換度DS(繰り返し単位中、β−グルコース環のセルロース構造の2位、3位及び6位の水酸基に対するC)アルキレンオキシ基:−RC2−O−とアシル基:−CO−RC1とを含む基の数)は、0<DSであることが好ましく、0<DS<1.0であることがより好ましい。0<DSであることにより、セルロース誘導体の溶融開始温度を低くできるので、熱成形をより容易に行うことができる。
上記のような範囲の置換度とすることにより、機械強度及び成形性等を向上させることができる。
【0053】
また、セルロース誘導体中に存在する無置換の水酸基の数も特に限定されない。水素原子の置換度DS(繰り返し単位中、2位、3位及び6位の水酸基が無置換である割合)は0〜1.5の範囲とすることができ、好ましくは0〜0.6とすればよい。DSを0.6以下とすることにより、成形材料の流動性を向上させたり、熱分解の加速・成形時の成形材料の吸水による発泡等を抑制させたりできる。
【0054】
また、本発明におけるセルロース誘導体は、A)炭化水素基、B)アシル基、及びC)アルキレンオキシ基とアシル基とを含む基以外の置換基を有しても良い。有してもよい置換基の例としては、例えばヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシエトキシエチル基、ヒドロキシプロポキシプロピル基、ヒドロキシエトキシエトキシエチル基、ヒドロキシプロポキシプロポキシプロピル基が挙げられる。よって、セルロース誘導体が有するすべての置換基の各置換度の総和は3であるが、(DS+DS+DS+DS)は3以下である。
【0055】
また、前記C)の基におけるアルキレンオキシ基の導入量はモル置換度(MS:グルコース残基あたりの置換基の導入モル数)で表される(セルロース学会編集、セルロース辞典P142)。アルキレンオキシ基のモル置換度MSは、0<MSであることが好ましく、0<MS≦1.5であることがより好ましく、0<MS<1.0であることがさらに好ましい。MSが1.5以下(MS≦1.5)であることにより、耐熱性・成形性等を向上させることができ、成形材料に好適なセルロース誘導体が得られる。
【0056】
本発明におけるセルロース誘導体の分子量は、数平均分子量(Mn)が5×10〜1000×10の範囲が好ましく、10×10〜500×10の範囲がさらに好ましく、10×10〜200×10の範囲が最も好ましい。また、質量平均分子量(Mw)は、7×10〜10000×10の範囲が好ましく、15×10〜5000×10の範囲がさらに好ましく、100×10〜3000×10の範囲が最も好ましい。この範囲の平均分子量とすることにより、成形体の成形性、力学強度等を向上させることができる。
分子量分布(MWD)は1.1〜10.0の範囲が好ましく、1.5〜8.0の範囲がさらに好ましい。この範囲の分子量分布とすることにより、成形性等を向上させることができる。
本発明における、数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)及び分子量分布(MWD)の測定は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いて行うことができる。具体的には、N−メチルピロリドンを溶媒とし、ポリスチレンゲルを使用し、標準単分散ポリスチレンの構成曲線から予め求められた換算分子量較正曲線を用いて求めることができる。
【0057】
2.セルロース誘導体の製造方法
本発明におけるセルロース誘導体の製造方法は特に限定されず、セルロースを原料とし、セルロースに対しエーテル化及びエステル化することにより本発明におけるセルロース誘導体を製造することができる。セルロースの原料としては限定的でなく、例えば、綿、リンター、パルプ等が挙げられる。
【0058】
前記A)炭化水素基:−R、及びB)アシル基:−CO−R(Rは炭化水素基を表す。)を有するセルロース誘導体の好ましい製造方法の態様は、セルロースエーテルに、塩基存在下、酸クロリド又は酸無水物等を反応させることにより、エステル化する工程を含むものである。
前記セルロースエーテルとしては、例えば、セルロースに含まれるβ−グルコース環の2位、3位、及び6位の水酸基の水素原子の少なくとも一部が、炭化水素基に置換されたものを用いることができ、具体的には、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、ブチルセルロース、アリルセルロース、ベンジルセルロース等が挙げられる。
【0059】
前記A)炭化水素基:−R、B)アシル基:−CO−R(Rは炭化水素基を表す。)、及びC)アルキレンオキシ基:−RC2−O−とアシル基:−CO−RC1とを含む基(RC1は炭化水素基を表し、RC2は炭素数が2又は3のアルキレン基を表す。)を有するセルロース誘導体の好ましい製造方法の態様は、炭化水素基と、ヒドロキシエチル基を有するヒドロキシエチルセルロースエーテル又はヒドロキシプロピル基を有するヒドロキシプロピルセルロースエーテルに酸クロライド又は酸無水物等を反応させることにより、エステル化(アシル化)する工程を含む方法によって行うものである。
また、別の態様として、例えばメチルセルロース、エチルセルロース等のセルロースエーテルにプロピレンオキサイド等によりエーテル化するか、又はセルロースにメチルクロライド、エチルクロライド等のアルキルクロライド/炭素数3のアルキレンオキサイド等を作用させた後、さらに酸クロライド又は酸無水物等を反応させることにより、エステル化する工程を含む方法も挙げられる。
酸クロライドを反応させる方法としては、例えばCellulose 10;283−296,2003に記載の方法を用いることができる。
炭化水素基とヒドロキシエチル基を有するセルロースエーテルとしては、具体的には、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルプロピルセルロース、ヒドロキシエチルアリルセルロース、ヒドロキシエチルベンジルセルロース等が挙げられる。好ましくは、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロースである。
炭化水素基とヒドロキシプロピル基を有するセルロースエーテルとしては、具体的には、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルアリルセルロース、ヒドロキシプロピルベンジルセルロース等が挙げられる。好ましくは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロースである。
【0060】
酸クロリドとしては、前記B)アシル基、及びC)に含まれるアシル基に対応したカルボン酸クロライドを使用することができる。カルボン酸クロリドとしては、例えば、アセチルクロライド、プロピオニルクロライド、ブチリルクロリド、イソブチリルクロリド、ペンタノイルクロリド、2−メチルブタノイルクロリド、3−メチルブタノイルクロリド、ピバロイルクロリド、ヘキサノイルクロリド、2−メチルペンタノイルクロリド、3−メチルペンタノイルクロリド、4−メチルペンタノイルクロリド、2,2−ジメチルブタノイルクロリド、2,3−ジメチルブタノイルクロリド、3,3−ジメチルブタノイルクロリド、2−エチルブタノイルクロリド、ヘプタノイルクロリド、2−メチルヘキサノイルクロリド、3−メチルヘキサノイルクロリド、4−メチルヘキサノイルクロリド、5−メチルヘキサノイルクロリド、2,2−ジメチルペンタノイルクロリド、2,3−ジメチルペンタノイルクロリド、3,3−ジメチルペンタノイルクロリド、2−エチルペンタノイルクロリド、シクロヘキサノイルクロリド、オクタノイルクロリド、2−メチルヘプタノイルクロリド、3−メチルヘプタノイルクロリド、4−メチルヘプタノイルクロリド、5−メチルヘプタノイルクロリド、6−メチルヘプタノイルクロリド、2,2−ジメチルヘキサノイルクロリド、2,3−ジメチルヘキサノイルクロリド、3,3−ジメチルヘキサノイルクロリド、2−エチルヘキサノイルクロリド、2−プロピルペンタノイルクロリド、ノナノイルクロリド、2−メチルオクタノイルクロリド、3−メチルオクタノイルクロリド、4−メチルオクタノイルクロリド、5−メチルオクタノイルクロリド、6−メチルオクタノイルクロリド、2,2−ジメチルヘプタノイルクロリド、2,3−ジメチルヘプタノイルクロリド、3,3−ジメチルヘプタノイルクロリド、2−エチルヘプタノイルクロリド、2−プロピルヘキサノイルクロリド、2−ブチルペンタノイルクロリド、デカノイルクロリド、2−メチルノナノイルクロリド、3−メチルノナノイルクロリド、4−メチルノナノイルクロリド、5−メチルノナノイルクロリド、6−メチルノナノイルクロリド、7−メチルノナノイルクロリド、2,2−ジメチルオクタノイルクロリド、2,3−ジメチルオクタノイルクロリド、3,3−ジメチルオクタノイルクロリド、2−エチルオクタノイルクロリド、2−プロピルヘプタノイルクロリド、2−ブチルヘキサノイルクロリド等が挙げられる。
【0061】
酸無水物としては、例えば前記B)アシル基、及びC)に含まれるアシル基に対応したカルボン酸無水物を使用することができる。このようなカルボン酸無水物としては、例えば、酢酸無水物、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、吉草酸無水物、ヘキサン酸無水物、ヘプタン酸無水物、オクタン酸無水物、2−エチルヘキサン酸無水物、ノナン酸無水物等が挙げられる。
なお、前述したとおり、本発明におけるセルロース誘導体は置換基としてカルボン酸を有さないことが好ましいため、例えば無水フタル酸、無水マレイン酸等のジカルボン酸等、セルロースと反応させてカルボキシル基が生じる化合物を用いないことが好ましい。
【0062】
そのほかの具体的な製造条件等は、常法に従うことができる。例えば、「セルロースの事典」131頁〜164頁(朝倉書店、2000年)等に記載の方法を参考にすることができる。
【0063】
3.アスペクト比10以上かつ直径15μm以下の炭素材料
本発明にかかるアスペクト比10以上かつ直径15μm以下の炭素材料(以下単に「炭素材料」と称する場合がある)を本発明における特定のセルロース誘導体と混ぜて成形材料とすることで、特定のセルロース誘導体に寸法安定性、導電性及び熱伝導性を付与できる。更に成形安定性が良いという利点がある。
本発明における特定のセルロース誘導体は、エーテル構造とエステル構造を含むため、従来のセルロースエステルなどに対して、側鎖構造が異なり、他材料との親和性が大きく異なる。さらに、本発明における特定のセルロース誘導体は、微粉末を分散させるときに重要なパラーメータである、温度印加させて機械混練(剪断)させた時の分散性の指標となる、粘度―温度特性が従来のセルロースエステルとは異なる。特定のセルロース誘導体を単独で用いた場合に対して剛性、曲げ強度、耐熱性といった性能を下げずに、寸法安定性、導電性及び熱伝導性、成形性に優れた成形材料及び成形体が得られる。
【0064】
本願にかかる炭素材料は、アスペクト比が10以上であり、30〜500が好ましく、30〜200がより好ましく、100〜200が更に好ましい。ここで言う、アスペクト比は走査型電子顕微鏡により測定することができる。
また、本願にかかる炭素材料の直径は、15μm以下、好ましくは0.001〜10μmより好ましくは0.01〜10μmである。炭素材料の直径は走査型電子顕微鏡により測定することができる。
【0065】
炭素材料としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維、グラファイト等を挙げることができ、これらを2種類以上ブレンドしたフラーレンでもよい。
本発明における炭素材料としては、分散性に優れ、導電性を発現することができる等の点で、炭素繊維、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、グラファイトが好ましく、炭素繊維、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブがより好ましい。
【0066】
本発明で使用できるカーボンブラックとしては、市販されているものを例示すると、ケッチェンブラックインターナショナルのケッチェンブラックEC、ケッチェンブラックEC−600JD、旭カーボン(株)SUNBLACK HCFシリーズ、旭シリーズ等が挙げられる。二次粒子を形成しやすいカーボンブラック、例えば旭カーボン(株)旭#8が望ましい
【0067】
本発明で使用できるカーボンナノチューブとしては、繊維径が75nm未満で中空構造をした分岐の少ない炭素系繊維を言う。また、1μm以下のピッチでらせんが一周するコイル状形状のものも含まれる。市販されているものとしては、ハイペリオン(ハイペリオンキャタリスト社製)、FloTube 9000(CNano Technology, Ltd.)が挙げられる。
【0068】
本発明で使用可能なカーボンナノファイバーとは、繊維径が75nm以上で中空構造を有し、分岐構造の多い炭素系繊維を言う。市販品では、昭和電工(株)のVGCF、VGCF−H等が挙げられる。より好ましくはVGCF―Hである。本発明で使用できる炭素繊維には、ポリアクリロニトリル(PAN)あるいはピッチ等を原料とした繊維を不活性ガス雰囲気中で1000℃〜3500℃の間の温度で焼成・炭化することにより得られる繊維はすべて包含される。好ましい繊維長は3〜30μmであり、より好ましくは5〜20μmである。
【0069】
本発明で使用できる炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系、レーヨン系等の炭素繊維が挙げられ、好ましくはPAN系である。
炭素繊維は、多数の単糸が集束されたロービング状のものが市販されており、太さ、数、及び長さには特に制限はないが、一般に単糸径で7.5μm以下、好ましくは6μ以下、さらに好ましくは5.5μm以下のものが利用できる。
炭素繊維は、一般に、各種マトリックス樹脂との複合強化材料として利用され、マトリックス樹脂との接着性を良好にするために、電解処理や活性ガスによる気相表面処理などの表面活性化処理により表面にヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基などの官能基が導入されているものが好ましい。
【0070】
本発明でのグラファイトとしては、無煙炭・ピッチ等をアーク炉で高温加熱して得られるものはもちろんのこと、天然に産出される石墨も包含される。グラファイトの好ましい質量平均粒径は0.1〜50μmの範囲内である。より好ましくは1〜40μmの範囲内、最も好ましくは1〜30μmの範囲内である。
【0071】
4.サイジング処理された炭素繊維
本発明の成形材料は、サイジング処理された炭素繊維を含むことが好ましい。
サイジング処理に供される炭素繊維は、前記炭素繊維を挙げることができ、好ましいものも同様である。
本発明で用いられるサイジング剤で表面処理された炭素繊維としては、ストランド強度が好ましくは350kgf/mm(3430M Pa)以上、より好ましくは400kgf/mm(3920M Pa)以上、さらに好ましくは450kgf/mm2(4410M Pa)以上であり、また、弾性率が22tf/mm(216000M Pa)以上、好ましくは24tf/mm(235000M Pa)以上、より好ましくは28tf/mm(275000M Pa)以上のものが使用できる。
【0072】
本発明に係る炭素繊維は酸基と反応し得る官能基を有する官能基を有するサイジング剤により表面処理され、セルロース誘導体の酸基と加熱反応させることにより、セルロース誘導体と補強材としての炭素繊維との間に良好な接着と分散が生じる。そのため複合材料として、成形性、力学特性、導電性に優れたものになる。
本発明に係るサイジング剤としては、分子内に有する官能基の種類により、エポキシ系などが挙げられる。酸と反応しないもの又は分解するものは好ましくない。
【0073】
本発明に係るサイジング剤として複数のエポキシ基を有する脂肪族化合物を用いることができる。
上記脂肪族化合物とは、非環式直鎖状飽和炭化水素、分岐状飽和炭化水素、非環式直鎖状不飽和炭化水素、分岐状不飽和炭化水素、または上記炭化水素の炭素原子(CH,CH,CH,C)を酸素原子(O)、窒素原子(NH,N)硫黄原子(SOH、SH)、カルボニル原子団(CO)に置き換えた鎖状構造の化合物をいう。
また、本発明では、複数エポキシ基を有する脂肪族化合物において、2個のエポキシ基間を結ぶ鎖状構造を構成する炭素原子、ヘテロ原子(酸素原子、窒素原子等)の総数のうち最も大きい原子鎖を最長原子鎖といい、最長原子鎖を構成する原子の総数を最長原子鎖の原子数という。なお、最長原子鎖を構成する原子に結合した水素等の原子の数は総数に含めない。
側鎖の構造については特に限定するものではないが、サイジング剤化合物の分子間架橋の密度が大きくなりすぎないように抑えるために、架橋点となりにくい構造が好ましい。
サイジング剤化合物の有するエポキシ基が2つ未満であると、炭素繊維とマトリックス樹脂との橋渡しを有効に行うことができない。従ってエポキシ基の数は、炭素繊維とマトリックス樹脂との橋渡しを有効に行うために2個以上であることが好ましい。一方、エポキシ基の数が多すぎると、サイジング剤化合物の分子間架橋の密度が大きくなり、好ましくは6個以下、より好ましくは4個以下、さらに好ましくは2個が良い。さらにこの2個のエポキシ基が最長原子鎖の両末端にあるのがより好ましい。すなわち最長原子鎖の両末端にエポキシ基があることにより局所的な架橋密度が高くなることを防ぐので、コンポジット引張強度にとって好ましい。
エポキシ基の構造としては反応性の高いグリシジル基が好ましい。
かかる脂肪族化合物の分子量は、樹脂粘度が低すぎる、あるいは高すぎることにより集束剤としての取り扱い性が悪化するのを防ぐ観点から、80以上3200以下が好ましく、100以上1500以下がより好ましく、200以上1000以下がさらに好ましい。
本発明における複数エポキシ基を有する脂肪族化合物の具体例としては、例えば、ジグリシジルエーテル化合物では、エチレングリコールジグリシジルエーテル及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテル類、プロピレングリコールジグリシジルエーテル及びポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル類等が挙げられる。また、ポリグリシジルエーテル化合物では、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル類、ソルビトールポリグリシジルエーテル類、アラビトールポリグリシジルエーテル類、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル類、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル類、脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテル類等が挙げられる。
好ましくは、反応性の高いグリシジル基を有する脂肪族のポリグリシジルエーテル化合物である。更に好ましくは、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル類、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類、アルカンジオールジグリシジルエーテル類等が好ましい。
複数のエポキシ基を有する脂肪族化合物において、最長原子鎖の原子数が20以上であることが好ましい。すなわち該原子数が20未満ではサイジング層内の架橋密度が高くなるために靭性の低い構造になりやすく、結果としてコンポジット引張強度が発現しにくい場合がある。それに対して最長原子鎖の原子数が大きいとサイジング層が柔軟で靭性の高い構造になりやすいので結果としてコンポジット引張強度が向上しやすく、特に脆い樹脂での引張強度が高いという特長を有するので、より好ましくは最長原子鎖の原子数で25以上、さらに好ましくは30以上がよい。
ただし最長原子鎖の原子数は大きいほど柔軟な構造になるが、長すぎると折れ曲がって官能基を封鎖してしまい、結果として炭素繊維と樹脂との接着力が低下してしまう場合があるので好ましくは、原子数で200以下、より好ましくは100以下がよい。
脂肪族化合物に環状脂肪族骨格を含む場合には、エポキシ基が環状骨格から十分離れていれば、具体的は、原子数で6以上あれば用いることができる。
本発明においては、エポキシ基と芳香環の間の原子数が6以上であるエポキシ基を複数有する芳香族化合物もサイジング剤として用いることができる。エポキシ基と芳香環の間の原子数とは、エポキシ基と芳香環の間を結ぶ鎖状構造を構成する炭素原子、ヘテロ原子(酸素原子、窒素原子等)、カルボニル原子団の総数をいう。この場合の直鎖状構造としては前記した鎖状構造と同様のものである。
サイジング剤としてエポキシ基と芳香環との間の原子数が6に満たないと、炭素繊維とマトリックス樹脂との界面に剛直で立体的に大きな化合物を介在させることになるため、炭素繊維の最表面に存在する表面官能基との反応性が向上せず、その結果コンポジットの横方向特性の向上が望めない。
アルキリデン基で繋がれた二つのフェノール環、即ちビスフェノールA部またはF部は、マトリックス樹脂との相溶性を向上させる効果を向上させる効果がある。エポキシ基と芳香環の間の原子数が6以上である複数エポキシ基を有する芳香族化合物の骨格が縮合多環芳香族化合物であってもよい。縮合多環芳香族化合物の骨格としては、例えばナフタレン、アントラセン、フェナントレン、クリセン、ピレン、ナフタセン、トリフェニレン、1,2−ベンズアントラセン、ベンゾピレン等が挙げられる。好ましくは、骨格の小さいナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレンである。
複数エポキシ基を有する縮合多環芳香族化合物のエポキシ当量は、150〜350、さらには200〜300が好ましい。複数エポキシ基を有する縮合多環芳香族化合物の分子量は、樹脂粘度が高くなって集束剤としての取り扱い性が悪化するのを防ぐ観点から、400〜800、さらには400〜600が好ましい。
【0074】
本発明において、サイジング剤にはエピコート828、エピコート834といった分子量の小さいビスフェノール型エポキシ化合物、直鎖状低分子量エポキシ化合物、ポリエチレングリコール、ポリウレタン、ポリエステル乳化剤あるいは界面活性剤など他の成分を粘度調整、耐擦過性向上、耐毛羽性向上、集束性向上、高次加工性向上等の目的で加えてもよい。
さらに、ブタジエンニトリルゴム等のゴム、あるいはエポキシ末端ブタジエンニトリルゴムのようなエラストマー性のある直鎖状エポキシ変性化合物等を添加しても問題はない。
【0075】
炭素繊維にサイジング剤を付着させ、セルロース誘導体との分散性を改善するには、炭素繊維に対して、特に限定されるものではないが、例えば、0.01〜10質量%以下、好ましくは0.05〜5質量%、より好ましくは0.1〜2質量%を一様に付着させる。サイジング剤層の厚みは、例えば、10〜1000オングストローム、好ましくは20〜200オングストロームである。
このようなサイジング剤で表面処理された炭素繊維としては、市販品として、トレカT700SC−24000−50Cなどのトレカ(登録商標、東レ(株)社製)などが挙げられる。
【0076】
5.成形体の体積抵抗率
本発明の成形材料を加熱成形して得られる成形体の体積抵抗率は3×10Ω・cm以下である。体積抵抗率は1×10Ω・cm以下であることがより好ましい。体積抵抗率がこの範囲であれば、導電性高分子材料として使用可能であるためである。
体積抵抗率はJIS K 7194“導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法”により求めることができる。
【0077】
6.酸化防止剤
本発明の成形材料は、更に酸化防止剤を含有することが好ましい。これによって、上記アスペクト比10以上かつ直径15μm以下の炭素材料を抑制できるため、セルロース誘導体への添加量が少量であっても十分な効果を発揮することができ。したがって、特定のセルロース誘導体が有する耐衝撃性、成形性、剛性、曲げ強度、耐熱性等の低下を抑え、寸法安定性、導電性及び熱伝導性を付与することができる。
【0078】
本発明における酸化防止剤は、低分子化合物であっても、高分子化合物であってもよく、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤を用いることができる。
【0079】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤の具体例としては、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル) プロピオネート]、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1.6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクタドデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルフォスフォネート−ジエチルエステルおよび1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンなどが挙げられる。
【0080】
リン系酸化防止剤としては、次亜リン酸カルシウム、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス(メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジン)イソシアヌレート等のフェノール系化合物、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート等のイオウ化合物、トリスノニルフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト等のリン系化合物などが挙げられるが、中でも次亜リン酸カルシウムが好ましい。
【0081】
アミン系酸化防止剤としては、4−アセトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ステアロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−フェノキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ベンジルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(フェニルカルバモイルオキシ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)オキザレート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)マロネート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アジペート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アジペート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)テレフタレート、1,2−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルオキシ)エタン、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ヘキサメチレン−1,6−ジカルバメート、トリス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ベンゼン−1,3,5−トリカルボキシレート、フェニル−α−ナフチルアミン、フェニル−β−ナフチルアミン、N,N′−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N′−シクロヘキシル−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N′−フェニル−p−フェニレンジアミンなどが挙げられる。
【0082】
イオウ系酸化防止剤の具体例としては、チオエーテル系、ジチオカルバミン酸ニッケルなどのジチオ酸塩系、メルカプトベンズイミダゾール系、チオカルバニリド系、およびチオジプロピオンエステル系などのイオウを含む化合物を挙げることができる。これらの中でも、特にチオジプロピオンエステル系化合物の使用が好ましい。
【0083】
本発明における酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を用いることが好ましい。
【0084】
7.成形材料、及び成形体
本発明の成形材料は、上記で説明したセルロース誘導体とアスペクト比10以上かつ直径15μm以下の炭素材料とを含有しており、任意に相溶化剤を含有する。また必要に応じてその他の添加剤を含有することができる。
本発明の成形材料に含まれる成分の含有割合は、特に限定されない。好ましくはセルロース誘導体を50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは85〜98質量%含有する。
アスペクト比10以上かつ直径15μm以下の炭素材料の含有量は、耐衝撃性、成形加工性導電性及び熱伝導性の向上の観点から、成形材料に対して0.01〜50質量%が好ましく、更に好ましくは0.1〜30質量%である。0.01質量%以上であればアスペクト比10以上かつ直径15μm以下の炭素材料の添加の効果を得ることができ、50質量%以下であればセルロース誘導体の耐衝撃性、成形性、剛性、曲げ強度、耐熱性等の低下を抑えることができるため好ましい。
【0085】
本発明の成形材料は、セルロース誘導体、及びアスペクト比10以上かつ直径15μm以下の炭素材料のほか、必要に応じて、酸化防止剤、フィラー(強化材)、難燃剤等の種々の添加剤を含有していてもよい。
【0086】
本発明の成形材料が酸化防止剤を含有する場合、その含有量は限定的でないが、成形材料100質量%に対して0.01〜1質量%が好ましく、更に好ましくは0.1〜0.5質量%である。0.01質量%以上であれば酸化防止剤の添加の効果を得ることができ、1質量%以下であればセルロース誘導体の耐衝撃性、成形性、剛性、曲げ強度、耐熱性等の低下を抑えることができるため好ましい。
【0087】
本発明の成形材料は、フィラーを含有することにより、成形材料によって形成される成形体の機械的特性を強化することができる。
フィラーとしては、公知のものを使用できる。フィラーの形状は、繊維状、板状、粒状、粉末状等いずれでもよい。また、無機物でも有機物でもよい。
具体的には、無機フィラーとしては、ガラス繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、金属繊維、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、マグネシウム系ウイスカー、珪素系ウイスカー、ワラステナイト、セピオライト、スラグ繊維、ゾノライト、エレスタダイト、石膏繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維および硼素繊維等の繊維状の無機フィラーや;ガラスフレーク、非膨潤性雲母、カーボンブラック、グラファイト、金属箔、セラミックビーズ、タルク、クレー、マイカ、セリサイト、ゼオライト、ベントナイト、ドロマイト、カオリン、微粉ケイ酸、長石粉、チタン酸カリウム、シラスバルーン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、酸化ケイ素、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、石膏、ノバキュライト、ドーソナイト、白土等の板状や粒状の無機フィラーが挙げられる。
【0088】
有機フィラーとしては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、再生セルロース繊維、アセテート繊維等の合成繊維、ケナフ、ラミー、木綿、ジュート、麻、サイザル、マニラ麻、亜麻、リネン、絹、ウール等の天然繊維、微結晶セルロース、さとうきび、木材パルプ、紙屑、古紙等から得られる繊維状の有機フィラーや、有機顔料等の粒状の有機フィラーが挙げられる。
【0089】
成形材料がフィラーを含有する場合、その含有量は限定的でないが、成形材料中、通常30質量%以下、好ましくは5〜10質量%とすればよい。
【0090】
本発明の成形材料は、難燃剤を含有することができる。これによって、その燃焼速度の低下または抑制といった難燃効果を向上させることができる。
難燃剤は、特に限定されず、常用のものを用いることができる。例えば、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、リン含有難燃剤、ケイ素含有難燃剤、窒素化合物系難燃剤、無機系難燃剤等が挙げられる。これらの中でも、樹脂との複合時や成形加工時に熱分解してハロゲン化水素が発生して加工機械や金型を腐食させたり、作業環境を悪化させたりすることがなく、また、焼却廃棄時にハロゲンが気散したり、分解してダイオキシン類等の有害物質の発生等によって環境に悪影響を与える可能性が少ないことから、リン含有難燃剤およびケイ素含有難燃剤が好ましい。
【0091】
リン含有難燃剤としては、特に限定されることはなく、常用のものを用いることができる。例えば、リン酸エステル、リン酸縮合エステル、ポリリン酸塩などの有機リン系化合物が挙げられる。
【0092】
リン酸エステルの具体例としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(フェニルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、ジフェニル(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジ(イソプロピルフェニル)フェニルホスフェート、モノイソデシルホスフェート、2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、メラミンホスフェート、ジメラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリクレジルホスフィンオキサイド、メタンホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジエチルなどを挙げることができる。
【0093】
リン酸縮合エステルとしては、例えば、レゾルシノールポリフェニルホスフェート、レゾルシノールポリ(ジ−2,6−キシリル)ホスフェート、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート、ハイドロキノンポリ(2,6−キシリル)ホスフェートならびにこれらの縮合物などの芳香族リン酸縮合エステル等を挙げることができる。
【0094】
また、リン酸、ポリリン酸と周期律表1族〜14族の金属、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミンとの塩からなるポリリン酸塩を挙げることもできる。ポリリン酸塩の代表的な塩として、金属塩としてリチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、鉄(II)塩、鉄(III)塩、アルミニウム塩など、脂肪族アミン塩としてメチルアミン塩、エチルアミン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、エチレンジアミン塩、ピペラジン塩などがあり、芳香族アミン塩としてはピリジン塩、トリアジン等が挙げられる。
【0095】
また、前記以外にも、トリスクロロエチルホスフェート、トリスジクロロプロピルホスフェート、トリス(β−クロロプロピル)ホスフェート)などの含ハロゲンリン酸エステル、また、リン原子と窒素原子が二重結合で結ばれた構造を有するホスファゼン化合物、リン酸エステルアミドを挙げることができる。
これらのリン含有難燃剤は、1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0096】
ケイ素含有難燃剤としては、二次元または三次元構造の有機ケイ素化合物、ポリジメチルシロキサン、またはポリジメチルシロキサンの側鎖または末端のメチル基が、水素原子、置換または非置換の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基で置換または修飾されたもの、いわゆるシリコーンオイル、または変性シリコーンオイルが挙げられる。
【0097】
置換または非置換の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、ベンジル基、アミノ基、エポキシ基、ポリエーテル基、カルボキシル基、メルカプト基、クロロアルキル基、アルキル高級アルコールエステル基、アルコール基、アラルキル基、ビニル基、またはトリフロロメチル基等が挙げられる。
これらのケイ素含有難燃剤は1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0098】
また、前記リン含有難燃剤またはケイ素含有難燃剤以外の難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、メタスズ酸、酸化スズ、酸化スズ塩、硫酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化第一鉄、酸化第二鉄、酸化第一錫、酸化第二スズ、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アンモニウム、オクタモリブデン酸アンモニウム、タングステン酸の金属塩、タングステンとメタロイドとの複合酸化物、スルファミン酸アンモニウム、臭化アンモニウム、ジルコニウム系化合物、グアニジン系化合物、フッ素系化合物、黒鉛、膨潤性黒鉛等の無機系難燃剤を用いることができる。これらの他の難燃剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。
【0099】
本発明の成形材料が難燃剤を含有する場合、その含有量は限定的でないが、成形材料中、通常30質量%以下、好ましくは2〜10質量%とすればよい。この範囲とすることにより、十分な難燃性向上効果を得ることができ、ペレットブロッキングの発生の抑制ができる。
【0100】
本発明の成形材料は、前記したもの以外にも、本発明の目的を阻害しない範囲で、成形性・難燃性等の各種特性をより一層改善する目的で他の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては、例えば、前記セルロース誘導体及び前記アスペクト比10以上かつ直径15μm以下の炭素材料以外のポリマー、可塑剤、安定剤(紫外線吸収剤など)、離型剤(脂肪酸、脂肪酸金属塩、オキシ脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪族部分鹸化エステル、パラフィン、低分子量ポリオレフィン、脂肪酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミド、脂肪族ケトン、脂肪酸低級アルコールエステル、脂肪酸多価アルコールエステル、脂肪酸ポリグリコールエステル、変成シリコーン)、帯電防止剤、難燃助剤、加工助剤、ドリップ防止剤、抗菌剤、防カビ剤等が挙げられる。さらに、染料や顔料を含む着色剤などを添加することもできる。
【0101】
前記セルロース誘導体及び前記アスペクト比10以上かつ直径15μm以下の炭素材料以外のポリマーとしては、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマーのいずれも用い得るが、成形性の点から熱可塑性ポリマーが好ましい。セルロース誘導体及びアスペクト比10以上かつ直径15μm以下の炭素材料以外のポリマーの具体例としては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、ポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンコポリマー(エチレン−プロピレンブロックコポリマーなど)、ポリブテン−1およびポリ−4−メチルペンテン−1等のポリオレフィン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートおよびその他の芳香族ポリエステル等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6T、ナイロン12等のポリアミド、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、ポリアセタール(ホモポリマーおよび共重合体を含む)、ポリウレタン、芳香族および脂肪族ポリケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性澱粉樹脂、ポリメタクリル酸メチルやメタクリル酸エステル−アクリル酸エステル共重合体などのアクリル樹脂、AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ビニルエステル系樹脂、無水マレイン酸−スチレン共重合体、MS樹脂(メタクリル酸メチル−スチレン共重合体)、ポリカーボネート、ポリアリレート、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド等の熱可塑性ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体などのフッ素系ポリマー、酢酸セルロース、ポリビニルアルコール、不飽和ポリエステル、メラミン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、ポリイミドなどを挙げることができる。
また、各種アクリルゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体およびそのアルカリ金属塩(いわゆるアイオノマー)、エチレン−アクリル酸アルキルエステル共重合体(例えば、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体)、ジエン系ゴム(例えば、1,4−ポリブタジエン、1,2−ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン)、ジエンとビニル単量体との共重合体(例えば、スチレン−ブタジエンランダム共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレンランダム共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ポリブタジエンにスチレンをグラフト共重合させたもの、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体)、ポリイソブチレン、イソブチレンとブタジエンまたはイソプレンとの共重合体、ブチルゴム、天然ゴム、チオコールゴム、多硫化ゴム、アクリルゴム、ニトリルゴム、ポリエーテルゴム、エピクロロヒドリンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、その他ポリウレタン系やポリエステル系、ポリアミド系などの熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0102】
更に、各種の架橋度を有するものや、各種のミクロ構造、例えばシス構造、トランス構造等を有するもの、ビニル基などを有するもの、あるいは各種の平均粒径を有するものや、コア層とそれを覆う1以上のシェル層から構成され、また隣接し合った層が異種の重合体から構成されるいわゆるコアシェルゴムと呼ばれる多層構造重合体なども使用することができ、さらにシリコーン化合物を含有したコアシェルゴムも使用することができる。
これらのポリマーは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0103】
本発明の成形材料がセルロース誘導体以外のポリマーを含有する場合、その含有量は、セルロース誘導体100質量部に対して30質量部以下が好ましく、2〜10質量部がより好ましい。
【0104】
本発明の成形材料は、可塑剤を含有してもよい。これにより、難燃性及び成形性をより一層向上させることができる。可塑剤としては、ポリマーの成形に常用されるものを用いることができる。例えば、ポリエステル系可塑剤、グリセリン系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、ポリアルキレングリコール系可塑剤およびエポキシ系可塑剤等が挙げられる。
【0105】
ポリエステル系可塑剤の具体例としては、アジピン酸、セバチン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ロジンなどの酸成分と、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのジオール成分からなるポリエステルや、ポリカプロラクトンなどのヒドロキシカルボン酸からなるポリエステル等が挙げられる。これらのポリエステルは単官能カルボン酸もしくは単官能アルコールで末端封鎖されていてもよく、またエポキシ化合物などで末端封鎖されていてもよい。
【0106】
グリセリン系可塑剤の具体例としては、グリセリンモノアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンモノアセトモノステアレート、グリセリンジアセトモノオレートおよびグリセリンモノアセトモノモンタネート等が挙げられる。
【0107】
多価カルボン酸系可塑剤の具体例としては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジベンジル、フタル酸ブチルベンジルなどのフタル酸エステル、トリメリット酸トリブチル、トリメリット酸トリオクチル、トリメリット酸トリヘキシルなどのトリメリット酸エステル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸n−オクチル−n−デシル、アジピン酸メチルジグリコールブチルジグリコール、アジピン酸ベンジルメチルジグリコール、アジピン酸ベンジルブチルジグリコールなどのアジピン酸エステル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチルなどのクエン酸エステル、アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシルなどのアゼライン酸エステル、セバシン酸ジブチル、およびセバシン酸ジ−2−エチルヘキシル等が挙げられる。
【0108】
ポリアルキレングリコール系可塑剤の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド)ブロックおよび/又はランダム共重合体、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノール類のエチレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のプロピレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のテトラヒドロフラン付加重合体などのポリアルキレングリコールあるいはその末端エポキシ変性化合物、末端エステル変性化合物、および末端エーテル変性化合物等が挙げられる。
【0109】
エポキシ系可塑剤とは、一般にはエポキシステアリン酸アルキルと大豆油とからなるエポキシトリグリセリドなどを指すが、その他にも、主にビスフェノールAとエピクロロヒドリンを原料とするような、いわゆるエポキシ樹脂も使用することができる。
【0110】
その他の可塑剤の具体例としては、ネオペンチルグリコールジベンゾエート、ジエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレートなどの脂肪族ポリオールの安息香酸エステル、ステアリン酸アミドなどの脂肪酸アミド、オレイン酸ブチルなどの脂肪族カルボン酸エステル、アセチルリシノール酸メチル、アセチルリシノール酸ブチルなどのオキシ酸エステル、ペンタエリスリトール、各種ソルビトール等が挙げられる。
【0111】
本発明の成形材料が可塑剤を含有する場合、その含有量は、成形材料中通常5質量%以下であり、0.005〜5質量%が好ましく、より好ましくは0.01〜1質量%である。
【0112】
本発明の成形体は、前記セルロース誘導体と前記アスペクト比10以上かつ直径15μm以下の炭素材料を含む成形材料を成形することにより得られる。より具体的には、前記セルロース誘導体と前記アスペクト比10以上かつ直径15μm以下の炭素材料、又は、前記セルロース誘導体と前記アスペクト比10以上かつ直径15μm以下の炭素材料及び必要に応じて各種添加剤等を含む成形材料を加熱し、各種の成形方法により成形する工程を含む製造方法によって得られる。
本発明の成形体の製造方法は、前記成形材料を加熱し、成形する工程を含む。
成形方法としては、例えば、射出成形、押し出し成形、ブロー成形等が挙げられる。
加熱温度は、通常160〜300℃であり、好ましくは180〜260℃である。
【0113】
本発明の成形体の用途は、とくに限定されるものではないが、例えば、電気電子機器(家電、OA・メディア関連機器、光学用機器及び通信機器等)の内装または外装部品、自動車、機械部品、住宅・建築用材料等が挙げられる。これらの中でも、優れた耐熱性及び耐衝撃性を有しており、環境への負荷が小さい観点から、例えば、コピー機、プリンター、パソコン、テレビ等といった電気電子機器用の外装部品(特に筐体)として好適に使用することができる。
【実施例】
【0114】
以下、本発明に係る実施例及び比較例及びこれらを用いた評価試験の結果を示し、本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0115】
<合成例1:アセトキシプロピルメチルアセチルセルロース(C−1)の合成>
メカニカルスターラー、温度計、冷却管、滴下ロートをつけた5Lの三ツ口フラスコにヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名メトローズ90SH−100;信越化学製)60g、N,N−ジメチルアセトアミド2100mLを量り取り、室温で攪拌した。反応系が透明になり完溶したことを確認した後、アセチルクロライド101mLをゆっくりと滴下し、系の温度を80℃〜90℃に昇温した。このまま3時間攪拌した後、反応系の温度を室温まで冷却した。反応溶液を水10Lへ激しく攪拌しながら投入すると、白色固体が析出した。白色固体を吸引ろ過によりろ別し、大量の水で3回洗浄を行った。得られた白色固体を100℃で6時間真空乾燥することにより目的のセルロース誘導体(C−1)(アセトキシプロピルメチルアセチルセルロース)を白色粉体として得た。
【0116】
<合成例2、3、4:アセトキシエチルメチルアセチルセルロース(C−2)、メチルアセチルセルロース(C−3)、エチルアセチルセルロース(C−4)の合成>
合成例1におけるヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名メトローズ90SH−100;信越化学製)をヒドロキシエチルメチルセルロース(商品名マーポローズME−250T;松本油脂製)、メチルセルロース(商品名マーポローズM−4000:松本油脂製株式会社製)、エチルセルロース(商品名エトセル300CP:ダウケミカル製)に変更した以外は合成例1と同様にしてアセトキシエチルメチルアセチルセルロース(C−2)、メチルアセチルセルロース(C−3)、エチルアセチルセルロース(C−4)を得た。
【0117】
<合成例5:メチルセルロース−2−エチルヘキサノエート(C−5)の合成>
メカニカルスターラー、温度計、冷却管、滴下ロートをつけた3Lの三ツ口フラスコにメチルセルロース(和光純薬製:メチル置換度1.8)80g、ピリジン1500mLを量り取り、室温で攪拌した。ここに水冷下、2−エチルヘキサノイルクロリド173mLをゆっくりと滴下し、さらに60℃で6時間攪拌した。反応後、室温に戻し、氷冷下、メタノール200mLを加えてクエンチした。反応溶液を水12Lへ激しく攪拌しながら投入すると、白色固体が析出した。白色固体を吸引ろ過によりろ別し、大量のメタノール溶媒で3回洗浄を行った。得られた白色固体を100℃で6時間真空乾燥することによりメチルセルロース−2−エチルヘキサノエート(C−5)を得た。
【0118】
<合成例6:バレロキシプロピルメチルバレロイルセルロース(C−6)の合成>
合成例5におけるメチルセルロース(和光純薬製:メチル置換度1.8)に変えて、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名メトローズ90SH−100;信越化学製)、及び2−エチルヘキサノイルクロリドに変えてバレロイルクロライドを用いた以外、合成例5と同様にして、バレロキシプロピルブバレロイルセルロース(C−6)を得た。
【0119】
<合成例7:バレロキシブチルメチルバレロイルセルロース(C−7)の合成>
合成例6におけるヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名メトローズ90SH−100;信越化学製)をヒドロキシブチルメチルセルロース(メトローズSM4000:信越化学製)を用いた以外、合成例6と同様にしてバレロキシブチルメチルバレロイルセルロース(C−7)を得た。
【0120】
なお、以上で得られたセルロース誘導体に含まれる炭化水素基の種類及び置換度、アルキレンオキシ基種類及びモル置換度、水酸基(R、R及びR)に置換された官能基の種類及びアシル化度は、Cellulose Communication 6,73−79(1999)に記載の方法を利用して、H−NMRにより、観測及び決定した。なお、炭化水素基の置換度とはグルコース環ユニットに置換した炭化水素基のモル数であり、0以上3未満の値をとる。アルキレンオキシ基のモル置換度とは、グルコース環ユニットに置換したアルキレンオキシ基のモル数であり、0以上の値をとる。また、アシル化度とは、セルロースのグルコース環またはエーテル置換基に存在する水酸基をエステル化することによりアシル基で置換した程度を示し、0以上100以下で示す。
【0121】
<セルロース誘導体の分子量測定>
得られたセルロース誘導体について、数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)、を測定した。これらの測定方法は以下の通りである。
[分子量及び分子量分布]
数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)の測定は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いた。具体的には、N−メチルピロリドンを溶媒とし、ポリスチレンゲルを使用し、標準単分散ポリスチレンの構成曲線から予め求められた換算分子量較正曲線を用いて求めた。GPC装置は、HLC−8220GPC(東ソー社製)を使用した。
【0122】
数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)及び置換度をまとめて表1に示す
【0123】
【表1】

【0124】
[成形体の作製]
セルロース誘導体(C−1〜C−7、H−1)、炭素材料1〜3、酸化防止剤を表2に示す配合割合(質量%)で混合し、成形材料を作製した。この成形材料を二軸混練押出機(テクノベル(株)製、Ultranano)に供給しペレットを作製し、ついで得られたペレットを、射出成形機(ファナック(株)Roboshot S−2000i、自動射出成形機)に供給して、4×10×80mmの多目的試験片(衝撃試験片および曲げ試験片)を成形した。
【0125】
なお、表2において、炭素繊維、VGCF、カーボンナノチューブ、フェノール系酸化防止剤は以下のものを示す。
・炭素材料1:炭素繊維(東レ トレカ T010−003)
・炭素材料2:カーボンナノファイバー(昭和電工、VGCF−H)
・炭素材料3:カーボンナノチューブ(CNano Technology, Ltd.多層カーボンナノチューブ FloTube 9000)
・サイジング剤:ジャパンエポキシレジン(株)製、エピコート828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量 184 194g/eq
・酸化防止剤:フェノール系酸化防止剤、(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)、イルガノックス1010)
【0126】
[評価]
得られた多目的試験片を用いて、以下の項目について評価した。評価結果等を表2に示す。
【0127】
(分散性評価)
分散性の指標として、光学顕微鏡(ニコン LV100)を用いて評価をした。ミクロトームで2μmに薄切し1000倍で観察した。判定は以下の基準に従った。
○:凝集物が観察されない
△:わずかに凝集物が観察される
×:凝集物が多数観察される
【0128】
(体積抵抗率)
体積抵抗率は、JIS K7194に基づきロレスタ−GP(日本測器株式会社製)を用いて定常流印加方式で、四端子四探針法により測定した。
【0129】
(アスペクト比)
炭素材料のアスペクト比は、成形材料をキシレンで溶解し、溶解残渣の炭素材料を走査型電子顕微鏡で観察して求めた。
【0130】
(熱伝導率)
熱伝導率は、(株)リガク製 LF/TCM−FA8510Bを用いてレーザーフラッシュ法にて室温で測定した。
【0131】
(寸法安定性)
JIS K 7209に準拠して、成形試験片を50℃で24時間乾燥させた後、質量測定をおこない、23℃の恒温水槽に試料を24時間浸漬し、含水以外の水分を取り除き、浸漬前後の寸法変化(長さ、幅、厚み)を測定した。長さの寸法変化率(%)は{(浸漬後の長さ/浸漬前の長さ―1)×100}、幅の寸法変化率(%)は{(浸漬後の幅/浸漬前の幅―1)×100}、厚みの寸法変化率(%)は{(浸漬後の厚み/浸漬前の厚み―1)×100}で求めた。長さ方向の寸法変化率を寸法安定性として、<0.3%を○、0.3〜0.5%を△、>0.5%を×として表に示した。
【0132】
(成形性)
表2の成形性評価は、射出成形機での成形適性を示しており、成形搬送性および射出性ともに優れている成形材料を○、いずれか一方に課題がある成形材料を△、両方に課題がある成形材料を×とした。
【0133】
(総合評価)
総合評価は、成形性の有無でまず分類した。成形性のないものをEとし、成形性のあるものはA〜D評価とした。A:体積抵抗率が1×10×Ω・cm以下であり、寸法安定性、成形性がいずれも○の実施例、B:体積抵抗率が1×10×Ω・cm以下であり、寸法安定性、成形性がいずれかが○でない実施例、C:体積抵抗率が1×10×Ω・cm〜3×10×Ω・cmの実施例、D:体積抵抗率が3×10×Ω・cm以上の実施例。
【0134】
【表2】

【0135】
表2から明らかなように、実施例1〜13と比較例1〜3とを比較すると、セルロース誘導体C−1にアスペクト比10以上かつ直径15μm以下の炭素材料を添加した本発明の成形材料からなる試験片は高い剛性(曲げ弾性率)、良好な曲げ強度、及び高い耐熱性(熱変形温度)といった性能と、さらに良好な耐衝撃性(シャルピー衝撃強度)、優れた成形加工性、寸法安定性、導電性及び熱伝導性が示された。
また、物性のバランスも良好であることがわかる。
以上の結果から、本発明の要件を満たすことにより良好な物性バランスを有しつつ、成形性、寸法安定性、熱伝導性、導電性に優れた成形材料を実現できることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースに含まれる水酸基の水素原子が、
下記A)で置換された基を少なくとも1つ、及び
下記B)で置換された基を少なくとも1つ含むセルロース誘導体と、
アスペクト比10以上かつ直径15μm以下の炭素材料とを含有する成形材料であり、該成形材料を加熱成形して得られる成形体の体積抵抗率が3×10Ω・cm以下である成形材料。
A)炭化水素基:−R
B)アシル基:−CO−R(Rは炭化水素基を表す。)
【請求項2】
前記セルロース誘導体が、更に、セルロースに含まれる水酸基の水素原子が下記C)で置換された基を少なくとも1つ含む、請求項1に記載の成形材料。
C)アルキレンオキシ基:−RC2−O−とアシル基:−CO−RC1とを含む基(RC1は炭化水素基を表し、RC2は炭素数が2または3のアルキレン基を表す。)
【請求項3】
前記C)アルキレンオキシ基とアシル基とを含む基が、下記一般式(3)で表される構造を含む基である、請求項1又は2に記載の成形材料。
【化1】

(式中、RC1は炭化水素基を表し、RC2は炭素数が2又は3のアルキレン基を表す。nは1以上の整数を表す。)
【請求項4】
前記Rが炭素数1〜4のアルキル基である、請求項1〜3のいずれかに記載の成形材料。
【請求項5】
前記Rがメチル基又はエチル基である、請求項1〜4のいずれかに記載の成形材料。
【請求項6】
前記R及びRC1が、それぞれ独立に、アルキル基又はアリール基である、請求項1〜5のいずれかに記載の成形材料。
【請求項7】
前記R及びRC1が、それぞれ独立に、メチル基、エチル基又はプロピル基である、請求項1〜6のいずれかに記載の成形材料。
【請求項8】
前記Rが、炭素数3〜10の分岐構造を有する炭化水素基である、請求項1〜6のいずれかに記載の成形材料。
【請求項9】
前記アルキレンオキシ基が下記式(1)又は(2)で表される基である、請求項2〜8のいずれかに記載の成形材料。
【化2】

【請求項10】
前記セルロース誘導体が、カルボキシル基、スルホン酸基、及びこれらの塩を実質的に有さない、請求項1〜9のいずれかに記載の成形材料。
【請求項11】
前記セルロース誘導体が水に不溶である、請求項1〜10のいずれかに記載の成形材料。
【請求項12】
前記炭素材料が炭素繊維、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブから選択される少なくとも1つである請求項1〜11のいずれかに記載の成形材料。
【請求項13】
更に、サイジング処理された炭素繊維を含む請求項1〜12のいずれかに記載の成形材料。
【請求項14】
前記アスペクト比10以上かつ直径15μm以下の炭素材料の含有量が成形材料に対して0.1〜30質量%である請求項1〜13のいずれかに記載の成形材料。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の成形材料を加熱成形して得られる成形体。
【請求項16】
請求項1〜14のいずれかに記載の成形材料を加熱し、成形する工程を含む、成形体の製造方法。
【請求項17】
請求項15に記載の成形体から構成される電気電子機器用筐体。