説明

成形材料、成形体、及びその製造方法、並びに電気電子機器用筐体

【課題】落球衝撃強度等の耐衝撃性に優れ、吸水特性が低く、かつ曲げ弾性率が高い成形材料及び成形体、並びに該成形体の製造方法、及び該成形体から構成される電気電子機器用筐体を提供すること。
【解決手段】セルロースに含まれる水酸基の水素原子が、
下記A)で置換された基を少なくとも1つ、及び
下記B)で置換された基を少なくとも1つ含むセルロース誘導体と、
溶解性パラメータ(SP値)が9未満の可塑剤とを含有する成形材料。
A)炭化水素基:−R
B)アシル基:−CO−R(Rは炭化水素基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形材料、成形体、及びその製造方法、並びに電気電子機器用筐体に関する。
【背景技術】
【0002】
コピー機、プリンター等の電気電子機器を構成する部材には、その部材に求められる特性、機能等を考慮して、各種の素材が使用されている。例えば、電気電子機器の駆動機等を収納し、当該駆動機を保護する役割を果たす部材(筐体)にはPC(Polycarbonate)、ABS(Acrylonitrile−butadiene−styrene)樹脂、PC/ABS等が一般的に多量に使用されている(特許文献1)。これらの樹脂は、石油を原料として得られる化合物を反応させて製造されている。
ところで、石油、石炭、天然ガス等の化石資源は、長年月の間、地中に固定されてきた炭素を主成分とするものである。このような化石資源、又は化石資源を原料とする製品を燃焼させて、二酸化炭素が大気中に放出された場合には、本来、大気中に存在せずに地中深くに固定されていた炭素を二酸化炭素として急激に放出することになり、大気中の二酸化炭素が大きく増加し、これが地球温暖化の原因となっている。したがって、化石資源である石油を原料とするABS、PC等のポリマーは、電気電子機器用部材の素材としては、優れた特性を有するものであるものの、化石資源である石油を原料とするものであるため、地球温暖化の防止の観点からは、その使用量の低減が望ましい。
一方、植物由来の樹脂は、元々、植物が大気中の二酸化炭素と水とを原料として光合成反応によって生成したものである。そのため、植物由来の樹脂を焼却して二酸化炭素が発生しても、その二酸化炭素は元々、大気中にあった二酸化炭素に相当するものであるから、大気中の二酸化炭素の収支はプラスマイナスゼロとなり、結局、大気中のCOの総量を増加させない、という考え方がある。このような考えから、植物由来の樹脂は、いわゆる「カーボンニュートラル」な材料と称されている。石油由来の樹脂に代わって、カーボンニュートラルな材料を用いることは、近年の地球温暖化を防止する上で急務となっている。
このため、PCポリマーにおいて、石油由来の原料の一部としてデンプン等の植物由来資源を使用することにより石油由来資源を低減する方法が提案されている(特許文献2)。
しかし、より完全なカーボンニュートラルな材料を目指す観点から、さらなる改良が求められている。
【0003】
公知のセルロース誘導体として、ヒドロキシプロピルメチルアセチルセルロースが特許文献3及び特許文献4に記載されている。特許文献3及び特許文献4では、このヒドロキシプロピルメチルアセチルセルロースは、揮発しやすい有機溶剤の蒸気圧を低減するための添加剤として有用であることが記載されている。また、特許文献3及び特許文献4に記載のヒドロキシプロピルメチルアセチルセルロースにおける各置換基の置換度は、例えばヒドロキシプロピル基のモル置換度(MS)が約2から8の範囲、メチル基の置換度が約0.1から1の範囲、アセチル基の置換度は約0.8から2.5の範囲であることが記載されている。
また、この様なセルロース系樹脂の特性を改良するために低分子やオリゴマー型、ポリマー型の可塑剤を配合することが広く行われている。例えば溶解度パラメータ(SP値)を変更した可塑剤を適用する方法が検討されており、特許文献5はセルロースエステル系樹脂及び溶解度パラメータの値が9.0以下である可塑剤を主成分とする樹脂組成物を開示し、特許文献6はセルロースエステル系樹脂及び溶解度パラメータの値が9.0を超える可塑剤を主成分とする樹脂組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭56−55425号公報
【特許文献2】特開2008−24919号公報
【特許文献3】米国特許第3979179号明細書
【特許文献4】米国特許第3940384号明細書
【特許文献5】特開2008−291245号公報
【特許文献6】特開2008−291246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、カーボンニュートラルな樹脂として、セルロースを使用することに着目した。しかし、セルロースは一般的に熱可塑性を持たないため、加熱等により成形することが困難であるため、成形加工に適さない。また、たとえ熱可塑性を付与できたとしても、耐衝撃性等の強度(例えば、落球衝撃強度)や曲げ弾性率が大きく衰える問題がある。
例えば、上記特許文献3及び4に記載のセルロース誘導体は水可溶性又は膨潤性であり、強度が不足しており成形材料として好ましくない。
また特許文献5及び6は、上記のようにセルロースエステル系樹脂及び特定の溶解度パラメータ(SP値)を有する可塑剤を主成分とする樹脂組成物を開示するが、これら樹脂組成物は光学用フィルムの製造を目的としたものである。特許文献5及び6は、実施例から明らかのように透明性に優れたフィルムを形成する樹脂組成物を提供することを課題とした発明であり、高い透明性を達成するにはセルロースエステル系樹脂と親和性の良い、極性の高い可塑剤とを組み合わせて使用する必要がある。一方で本発明は、後述するように、本発明に係るセルロース誘導体と親和性の低い(極性の低い)可塑剤を敢えて組み合わせて用いることにより、可塑剤が不均一に分散し、粒子を形成することを意図する発明である。従って、特許文献5及び6からは本発明のような優れた落球衝撃強度等の効果は得られない。また特許文献5及び6は、エーテル構造とエステル構造を有する本発明に係る特定構造のセルロース誘導体を記載しない。
また、成形しやすさの観点から、成形材料は吸水特性が低いことが好ましい。セルロース誘導体を含有する成形材料についても吸水特性の低い成形材料が求められる。
【0006】
本発明の目的は、落球衝撃強度等の耐衝撃性に優れ、吸水特性が低く、かつ曲げ弾性率が高い成形材料及び成形体を提供することである。また、本発明の別の目的は、該成形体の製造方法、及び該成形体から構成される電気電子機器用筐体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
通常、セルロース系樹脂を光学用フィルム用途で使用する場合には、高い透明性を求めるため、あえてセルロース誘導体と親和性の低い可塑剤を使用しない。また一般的に、アセチルセルロース等の通常のセルロース誘導体と親和性の低い可塑剤を混合した場合、セルロース誘導体と可塑剤は個々の相に分離し、一般的には可塑剤相が数十μm以上の不均一かつ粗大な分散構造を有し、得られる材料の機械的強度が弱いものとなってしまう。ところが、本発明のセルロース誘導体と特定範囲のSP値をもつ可塑剤を使用することで、数μm以下の小さな粒子に分散して存在させることができ、その様な形態をとることによって意外にも機械的強度、特に落球衝撃強度が飛躍的に高くなることがわかった。
本発明者らは、セルロースの分子構造に着目し、セルロースをエーテル構造とエステル構造を有する特定構造のセルロース誘導体とし、該特定構造のセルロース誘導体と、更に溶解性パラメータ(SP値)が9未満の範囲内にある可塑剤とを含有する成形材料により、この可塑剤が成形材料中である範囲のサイズで粒子状態を形成し、その結果として従来のセルロース系樹脂と可塑剤の組合せでは到達できなかった高い落球衝撃強度を発現することをつきとめ、また、吸水特性が低く、かつ曲げ弾性率が高い成形材料及び成形体、並びに該成形体の製造方法、及び該成形体から構成される電気電子機器用筐体を提供しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、上記課題は以下の手段により達成することができる。
【0009】
<1>
セルロースに含まれる水酸基の水素原子が、
下記A)で置換された基を少なくとも1つ、及び
下記B)で置換された基を少なくとも1つ含むセルロース誘導体と、
溶解性パラメータ(SP値)が9未満の可塑剤とを含有する成形材料。
A)炭化水素基:−R
B)アシル基:−CO−R(Rは炭化水素基を表す。)
<2>
前記セルロース誘導体が、更に、セルロースに含まれる水酸基の水素原子が下記C)で置換された基を少なくとも1つ含む、上記<1>に記載の成形材料。
C)アルキレンオキシ基:−RC2−O−とアシル基:−CO−RC1とを含む基(RC1は炭化水素基を表し、RC2は炭素数が2〜4のアルキレン基を表す。)
<3>
前記C)アルキレンオキシ基とアシル基とを含む基が、下記一般式(3)で表される基である、上記<2>に記載の成形材料。
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、RC1は炭化水素基を表し、RC2は炭素数が2〜4のアルキレン基を表す。nは1以上の整数を表す。)
<4>
前記Rが炭素数1〜4のアルキル基である、上記<1>〜<3>のいずれか一項に記載の成形材料。
<5>
前記Rがメチル基又はエチル基である、上記<1>〜<4>のいずれか一項に記載の成形材料。
<6>
前記R及びRC1が、それぞれ独立に、アルキル基又はアリール基である、上記<2>〜<5>のいずれか一項に記載の成形材料。
<7>
前記R及びRC1が、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、又は3−ヘプチル基である、上記<2>〜<6>のいずれか一項に記載の成形材料。
<8>
前記Rが、炭素数3〜10の分岐構造を有する炭化水素基である、上記<1>〜<6>のいずれか一項に記載の成形材料。
<9>
前記アルキレンオキシ基が下記式(1)又は(2)で表される基である、上記<2>〜<8>のいずれか一項に記載の成形材料。
【0012】
【化2】

【0013】
<10>
前記セルロース誘導体が、カルボキシル基、スルホン酸基、及びこれらの塩を実質的に有さない、上記<1>〜<9>のいずれか一項に記載の成形材料。
<11>
前記セルロース誘導体が水に不溶である、上記<1>〜<10>のいずれか一項に記載の成形材料。
<12>
前記可塑剤が、エポキシ系可塑剤、ポリエステル系可塑剤及び多価カルボン酸系可塑剤からなる群より選ばれる少なくとも一つである、上記<1>〜<11>のいずれか一項に記載の成形材料。
<13>
前記セルロース誘導体中に存在する前記可塑剤の数平均粒子径が0.1μm〜10μmである、上記<1>〜<12>のいずれか一項に記載の成形材料。
<14>
前記可塑剤を成形材料の全固形分に対して1〜50質量%含有する、上記<1>〜<13>のいずれか一項に記載の成形材料。
<15>
上記<1>〜<14>のいずれか一項に記載の成形材料を成形して得られる成形体。
<16>
上記<1>〜<14>のいずれか一項に記載の成形材料を加熱し、成形する工程を含む、成形体の製造方法。
<17>
上記<15>に記載の成形体から構成される電気電子機器用筐体。
【発明の効果】
【0014】
本発明の成形材料は、優れた熱可塑性を有するため、加熱成形などにより成形することができる。また、本発明の成形材料、及び成形体は、落球衝撃強度等の耐衝撃性、吸水特性及び曲げ弾性率の観点で優れ、例えば自動車、家電、電気電子機器等の構成部品、機械部品、住宅・建築用材料等として好適に使用することができる。更に、本発明の成形材料は、植物由来の樹脂であるセルロースから得られるセルロース誘導体を使用しているため、温暖化防止に貢献できる素材として、従来の石油由来の樹脂に代替できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、セルロースに含まれる水酸基の水素原子が、
下記A)で置換された基を少なくとも1つ、及び
下記B)で置換された基を少なくとも1つ含むセルロース誘導体(以下、「セルロース誘導体」ともいう)と、
溶解性パラメータ(SP値)が9未満の可塑剤とを含有する成形材料に関する。
A)炭化水素基:−R
B)アシル基:−CO−R(Rは炭化水素基を表す。)
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
1.セルロース誘導体
本発明の成形材料に含まれるセルロース誘導体は、セルロースに含まれる水酸基の水素原子が、
下記A)で置換された基を少なくとも1つ、及び
下記B)で置換された基を少なくとも1つ含むセルロース誘導体である。
A)炭化水素基:−R
B)アシル基:−CO−R(Rは炭化水素基を表す。)
すなわち、本発明におけるセルロース誘導体は、セルロースエーテルエステルであり、セルロース{(C10}に含まれる水酸基の水素原子の少なくとも一部が、A)炭化水素基:−R、B)アシル基:−CO−R(Rは炭化水素基を表す。)により置換されている。
より詳細には、本発明におけるセルロース誘導体は、下記一般式(A)で表される繰り返し単位を有する。
【0017】
【化3】

【0018】
上記一般式(A)において、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、A)炭化水素基:−R、B)アシル基:−CO−R(Rは炭化水素基を表す。)、又はその他の置換基を表す。ただし、R、R、及びRの少なくとも一部がA)炭化水素基を表し、かつR、R、及びRの少なくとも一部がB)アシル基を表す。
【0019】
本発明におけるセルロース誘導体は、上記のようにβ−グルコース環の水酸基の少なくとも一部がA)炭化水素基、及びB)アシル基によって、エーテル化、及びエステル化されていることにより、熱可塑性を発現することができ、成形加工に適したものとなる。
更には、セルロースは完全な植物由来成分であるため、カーボンニュートラルであり、環境に対する負荷を大幅に低減することができる。
【0020】
なお、本発明にいう「セルロース」とは、多数のグルコースがβ−1,4−グリコシド結合によって結合した高分子化合物であって、セルロースのグルコース環における2位、3位、6位の炭素原子に結合している水酸基が無置換であるものを意味する。また、「セルロースに含まれる水酸基」とは、セルロースのグルコース環における2位、3位、6位の炭素原子に結合している水酸基を指す。
【0021】
前記セルロース誘導体は、その全体のいずれかの部分に前記A)炭化水素基、及びB)アシル基とを含んでいればよく、同一の繰り返し単位からなるものであってもよいし、複数の種類の繰り返し単位からなるものであってもよい。また、前記セルロース誘導体は、ひとつの繰り返し単位において前記A)炭化水素基、及びB)アシル基をすべて含有する必要はない。
より具体的な態様としては、例えば以下の態様が挙げられる。
(1)R、R及びRの少なくとも1つが、A)炭化水素基で置換されている繰り返し単位と、R、R及びRの少なくとも1つが、B)アシル基で置換されている繰り返し単位と、から構成されるセルロース誘導体。
(2)ひとつの繰り返し単位のR、R及びRのいずれか少なくとも1つがA)炭化水素基で置換され、それとは別のいずれか少なくとも1つがB)アシル基で置換されている(すなわち、ひとつの繰り返し単位中に前記A)及びB)の置換基を有する)同種の繰り返し単位から構成されるセルロース誘導体。
(3)置換位置や置換基の種類が異なる繰り返し単位が、ランダムに結合しているセルロース誘導体。
また、セルロース誘導体には、無置換の繰り返し単位(すなわち、前記一般式(A)において、R、R及びRすべてが水素原子である繰り返し単位)を含んでいてもよい。
また、セルロース誘導体は、水素原子、A)炭化水素基、及びB)アシル基以外のその他の置換基を有していても良い。
【0022】
A)炭化水素基:−Rは、脂肪族基、及び芳香族基のいずれでもよい。
が脂肪族基である場合は、直鎖、分岐、及び環状のいずれでもよく、不飽和結合を持っていてもよい。脂肪族基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられる。
が芳香族基である場合は、単環、及び縮環のいずれでもよい。Rが芳香族基である場合の好ましい炭素数は6〜18であり、より好ましくは6〜14、更に好ましくは6〜10である。芳香族基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントリル基等が挙げられる。
A)炭化水素基は、得られる成形材料(以下「セルロース樹脂組成物」又は「樹脂組成物」と称する場合がある。)の耐衝撃性が優れることから、脂肪族基であることが好ましく、メルトフローレート等の成形加工性が優れ、かつ成形材料の曲げ弾性率が優れることから、より好ましくはアルキル基であり、更に好ましくは炭素数1〜4のアルキル基(低級アルキル基)である。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、tert−ブチル基、イソヘプチル基等が挙げられ、メチル基又はエチル基が特に好ましい。
【0023】
B)アシル基:−CO−Rにおいて、Rは炭化水素基を表す。Rは、脂肪族基、及び芳香族基のいずれでもよい。
が脂肪族基である場合は、直鎖、分岐、及び環状のいずれでもよく、不飽和結合を持っていてもよい。脂肪族基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられる。
が芳香族基である場合は、単環、及び縮環のいずれでもよい。芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントリル基等が挙げられる。
は、好ましくはアルキル基又はアリール基である。Rは、曲げ弾性率の観点から、より好ましくは炭素数1〜12のアルキル基又はアリール基であり、更に好ましくは炭素数1〜12のアルキル基であり、特に好ましくは炭素数1〜4のアルキル基(好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基)であり、最も好ましくは炭素数1又は2のアルキル基(すなわち、メチル基又はエチル基)である。
また、Rは、炭素数3〜10の分岐構造を有する炭化水素基であることも好ましく、炭素数3〜10の分岐構造を有するアルキル基であることがより好ましく、炭素数7〜9の分岐構造を有するアルキル基であることが更に好ましい。
としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、3−ヘプチル基、tert−ブチル基、及びイソヘプチル基等が挙げられる。好ましくは、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、又は3−ヘプチル基であり、より好ましくはメチル基、エチル基、ブチル基、又は3−ヘプチル基であり、最も好ましくはメチル基である。
【0024】
本発明の成形材料におけるセルロース誘導体は、セルロースに含まれる水酸基の水素原子が、前記A)で置換された基を少なくとも1つ、及び前記B)で置換された基を少なくとも1つ含むセルロース誘導体であるが、更に、セルロースに含まれる水酸基の水素原子が下記C)で置換された基を少なくとも1つ含むことが耐衝撃性及び曲げ弾性率の観点から好ましい。
C)アルキレンオキシ基:−RC2−O−とアシル基:−CO−RC1とを含む基(RC1は炭化水素基を表し、RC2は炭素数が2〜4のアルキレン基を表す。)
【0025】
前記C)に含まれるアシル基(−CO−RC1)において、RC1は炭化水素基を表す。RC1が表す炭化水素基としては、前記Rで挙げたものと同様のものを適用することができる。RC1の好ましい範囲も前記Rと同様である。
【0026】
前記C)に含まれるアルキレンオキシ基(−RC2−O−)において、RC2は炭素数が2〜4のアルキレン基を表す。RC2は炭素数が2又は3のアルキレン基を表すことが好ましい。RC2は、直鎖状、分岐状、又は環状のいずれでもよいが、直鎖状、又は分岐状が好ましく、分岐状がより好ましい。
アルキレンオキシ基(−RC2−O−)としては、具体的には下記構造が挙げられる。
【0027】
【化4】

【0028】
上記の中でも、得られる成形材料の落球衝撃強度が優れることから、−RC2−O−が分岐状である下記式(1)又は(2)で表される基が好ましい。
【0029】
【化5】

【0030】
前記C)の基は、アルキレンオキシ基を複数含んでいてもよいし、1つだけ含むものであってもよい。好ましくは、前記C)の基は、下記一般式(3)で表すことができる。
【0031】
【化6】

【0032】
前記一般式(3)中、RC1は炭化水素基を表し、RC2は炭素数が2〜4のアルキレン基を表す。RC1及びRC2の好ましい範囲は、前記したものと同様である。nは1以上の整数である。nの上限は特に限定されず、アルキレンオキシ基の導入量等により変わるが、例えば10程度である。nは好ましくは1〜5であり、より好ましくは1〜3であり、更に好ましくは1である。RC2は複数存在する場合は各々同じでも異なってもよいが、同じであることが好ましい。
また、本発明におけるセルロース誘導体は、アルキレンオキシ基を1つだけ含む前記C)の基(上記一般式(3)においてnが1である基)と、アルキレンオキシ基を2以上含む前記C)の基(上記一般式(3)においてnが2以上である基)とを含んでいてもよい。
【0033】
また、前記C)の基におけるアルキレンオキシ基のセルロース誘導体に対する結合向きは特に限定されないが、アルキレンオキシ基のアルキレン基部分(RC2)がβ−グルコース環構造側に結合していることが好ましい。
【0034】
前記A)におけるR、前記B)におけるR、前記C)におけるRC1及びRC2は、さらなる置換基を有していてもよいし無置換でもよいが、無置換であることが好ましい。
【0035】
前記A)におけるR、前記B)におけるR、前記C)におけるRC1及びRC2がさらなる置換基を有する場合、さらなる置換基としては、例えば、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、ヒドロキシ基、アルコキシ基(アルキル基部分の炭素数は好ましくは1〜5)、アルケニル基等が挙げられる。ただし、置換基を含む場合でもRC2の炭素数は2〜4、好ましくは2又は3である。なお、R、R、及びRC1がアルキル基以外である場合は、アルキル基(好ましくは炭素数1〜5)を置換基として有することもできる。
【0036】
特に、R及びRC1がさらなる置換基を有する場合、カルボキシル基、スルホン酸基、及びこれらの塩を実質的に有さないことが好ましい。セルロース誘導体がカルボキシル基、スルホン酸基、及びこれらの塩を実質的に有さないことにより、本発明の成形材料を水不溶性とすることができ、成形性を更に向上させることができる。また、セルロース誘導体がカルボキシル基、スルホン酸基、及びこれらの塩を有する場合、化合物安定性を悪化させることが知られており、特に熱分解を促進することがあるため、これらの基を含まないことが好ましい。
なお、「カルボキシル基、スルホン酸基、及びこれらの塩を実質的に有さない」とは、本発明におけるセルロース誘導体が全くカルボキシル基、スルホン酸基、及びこれらの塩を有さない場合のみならず、本発明におけるセルロース誘導体が水に不溶な範囲で微量のカルボキシル基、スルホン酸基、及びこれらの塩を有する場合を包含するものとする。例えば、原料であるセルロースにカルボキシル基が含まれる場合があり、これを用いて前記A)〜C)の置換基を導入したセルロース誘導体はカルボキシル基が含まれる場合があるが、これは「カルボキシル基、スルホン酸基、及びこれらの塩を実質的に有さないセルロース誘導体」に含まれるものとする。
この場合、カルボキシル基、スルホン酸基、及びこれらの塩の好ましい含有量としては、セルロース誘導体に対して1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。
【0037】
また、本発明におけるセルロース誘導体は、水に不溶であることが好ましい。ここで、「水に不溶である」とは、25℃の水100質量部への溶解度が5質量部以下であることとする。
【0038】
本発明におけるセルロース誘導体の具体例としては、アセチルメチルセルロース、アセチルエチルセルロース、アセチルプロピルセルロース、アセチルブチルセルロース、アセチルペンチルセルロース、アセチルヘキシルセルロース、アセチルシクロヘキシルセルロース、アセチルフェニルセルロース、アセチルナフチルセルロース、プロピオニルメチルセルロース、プロピオニルエチルセルロース、プロピオニルプロピルセルロース、プロピオニルブチルセルロース、プロピオニルペンチルセルロース、プロピオニルヘキシルセルロース、プロピオニルシクロヘキシルセルロース、プロピオニルフェニルセルロース、プロピオニルナフチルセルロース、ブチリルメチルセルロース、ブチリルエチルセルロース、ブチリルプロピルセルロース、ブチリルブチルセルロース、ブチリルペンチルセルロース、ブチリルヘキシルセルロース、ブチリルシクロヘキシルセルロース、ブチリルフェニルセルロース、ブチリルナフチルセルロース、メチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、エチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、プロピルセルロース−2−エチルヘキサノエート、ブチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、ペンチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、ヘキシルセルロース−2−エチルヘキサノエート、シクロヘキシルセルロース−2−エチルヘキサノエート、フェニルセルロース−2−エチルヘキサノエート、ナフチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、アセトキシエチルメチルアセチルセルロース、アセトキシエチルエチルアセチルセルロース、アセトキシエチルプロピルアセチルセルロース、アセトキシエチルブチルアセチルセルロース、アセトキシエチルペンチルアセチルセルロース、アセトキシエチルヘキシルアセチルセルロース、アセトキシエチルシクロヘキシルアセチルセルロース、アセトキシエチルフェニルアセチルセルロース、アセトキシエチルナフチルアセチルセルロース、アセトキシエチルメチルプロピオニルセルロース、アセトキシエチルエチルプロピオニルセルロース、アセトキシエチルプロピルプロピオニルセルロース、アセトキシエチルブチルプロピオニルセルロース、アセトキシエチルペンチルプロピオニルセルロース、アセトキシエチルヘキシルプロピオニルセルロース、アセトキシエチルシクロヘキシルプロピオニルセルロース、アセトキシエチルフェニルプロピオニルセルロース、アセトキシエチルナフチルプロピオニルセルロース、アセトキシエチルメチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、アセトキシエチルエチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、アセトキシエチルプロピルセルロース−2−エチルヘキサノエート、アセトキシエチルブチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、アセトキシエチルペンチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、アセトキシエチルヘキシルセルロース−2−エチルヘキサノエート、アセトキシエチルシクロヘキシルセルロース−2−エチルヘキサノエート、アセトキシエチルフェニルセルロース−2−エチルヘキサノエート、アセトキシエチルナフチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、プロピオニルオキシエチルメチルアセチルセルロース、プロピオニルオキシエチルエチルアセチルセルロース、プロピオニルオキシエチルプロピルアセチルセルロース、プロピオニルオキシエチルブチルアセチルセルロース、プロピオニルオキシエチルペンチルアセチルセルロース、プロピオニルオキシエチルヘキシルアセチルセルロース、プロピオニルオキシエチルシクロヘキシルアセチルセルロース、プロピオニルオキシエチルフェニルアセチルセルロース、プロピオニルオキシエチルナフチルアセチルセルロース、プロピオニルオキシエチルメチルプロピオニルセルロース、プロピオニルオキシエチルエチルプロピオニルセルロース、プロピオニルオキシエチルプロピルプロピオニルセルロース、プロピオニルオキシエチルブチルプロピオニルセルロース、プロピオニルオキシエチルペンチルプロピオニルセルロース、プロピオニルオキシエチルヘキシルプロピオニルセルロース、プロピオニルオキシエチルシクロヘキシルプロピオニルセルロース、プロピオニルオキシエチルフェニルプロピオニルセルロース、プロピオニルオキシエチルナフチルプロピオニルセルロース、プロピオニルオキシエチルメチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、プロピオニルオキシエチルエチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、プロピオニルオキシエチルプロピルセルロース−2−エチルヘキサノエート、プロピオニルオキシエチルブチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、プロピオニルオキシエチルペンチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、プロピオニルオキシエチルヘキシルセルロース−2−エチルヘキサノエート、プロピオニルオキシエチルシクロヘキシルセルロース−2−エチルヘキサノエート、プロピオニルオキシエチルフェニルセルロース−2−エチルヘキサノエート、プロピオニルオキシエチルナフチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、アセトキシプロピルメチルアセチルセルロース、アセトキシプロピルエチルアセチルセルロース、アセトキシプロピルプロピルアセチルセルロース、アセトキシプロピルブチルアセチルセルロース、アセトキシプロピルペンチルアセチルセルロース、アセトキシプロピルヘキシルアセチルセルロース、アセトキシプロピルシクロヘキシルアセチルセルロース、アセトキシプロピルフェニルアセチルセルロース、アセトキシプロピルナフチルアセチルセルロース、プロピオニルオキシプロピルメチルアセチルセルロース、プロピオニルオキシプロピルエチルアセチルセルロース、プロピオニルオキシプロピルプロピルアセチルセルロース、プロピオニルオキシプロピルブチルアセチルセルロース、プロピオニルオキシプロピルペンチルアセチルセルロース、プロピオニルオキシプロピルヘキシルアセチルセルロース、プロピオニルオキシプロピルシクロヘキシルアセチルセルロース、プロピオニルオキシプロピルフェニルアセチルセルロース、プロピオニルオキシプロピルナフ
チルアセチルセルロース、バレロキシプロピルメチルバレロイルセルロース、バレロキシブチルメチルバレロイルセルロースなどが挙げられる。
【0039】
本発明の成形材料は、前記特定のセルロース誘導体を1種のみ含んでもよいし、2種以上を含んでもよい。
【0040】
本発明におけるセルロース誘導体中のA)炭化水素基:−R、B)アシル基:−CO−R、及びC)アルキレンオキシ基:−RC2−O−とアシル基:−CO−RC1とを含む基の置換位置、並びにβ−グルコース環単位当たりの各置換基の数(置換度)は特に限定されない。
【0041】
例えば、A)炭化水素基:−Rの置換度DS(繰り返し単位中、β−グルコース環の2位、3位及び6位の水酸基に対するRの数)は、1.0<DSであることが好ましく、1.0<DS<2.5がより好ましい。また、DSは1.1以上であることが好ましい。
B)アシル基(−CO−R)の置換度DS(繰り返し単位中、β−グルコース環のセルロース構造の2位、3位及び6位の水酸基に対する−CO−Rの数)は、0.1<DSであることが好ましく、0.1<DS<2.0であることがより好ましい。
C)アルキレンオキシ基:−RC2−O−とアシル基:−CO−RC1とを含む基の置換度DS(繰り返し単位中、β−グルコース環のセルロース構造の2位、3位及び6位の水酸基に対するC)アルキレンオキシ基:−RC2−O−とアシル基:−CO−RC1とを含む基の数)は、0<DSであることが好ましく、0<DS<1.0であることがより好ましい。0<DSであることにより、セルロース誘導体の溶融開始温度を低くできるので、熱成形をより容易に行うことができる。
上記のような範囲の置換度とすることにより、機械強度及び成形性等を向上させることができる。
【0042】
また、セルロース誘導体中に存在する無置換の水酸基の数も特に限定されない。水素原子の置換度DS(繰り返し単位中、2位、3位及び6位の水酸基が無置換である割合)は0〜1.5の範囲とすることができ、好ましくは0〜0.6とすればよい。DSを0.6以下とすることにより、成形材料の流動性を向上させたり、熱分解の加速・成形時の成形材料の吸水による発泡等を抑制させたりできる。
【0043】
また、本発明におけるセルロース誘導体は、A)炭化水素基、B)アシル基、及びC)アルキレンオキシ基とアシル基とを含む基以外の置換基を有しても良い。有してもよい置換基の例としては、例えばヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシエトキシエチル基、ヒドロキシプロポキシプロピル基、ヒドロキシエトキシエトキシエチル基、ヒドロキシプロポキシプロポキシプロピル基が挙げられる。よって、セルロース誘導体が有するすべての置換基の各置換度の総和は3であるが、(DS+DS+DS+DS)は3以下である。
【0044】
また、前記C)の基におけるアルキレンオキシ基の導入量はモル置換度(MS:グルコース残基あたりの置換基の導入モル数)で表される(セルロース学会編集、セルロース辞典P142)。アルキレンオキシ基のモル置換度MSは、0<MSであることが好ましく、0<MS≦1.5であることがより好ましく、0<MS<1.0であることが更に好ましい。MSが1.5以下(MS≦1.5)であることにより、耐熱性・成形性等を向上させることができ、成形材料に好適なセルロース誘導体が得られる。
【0045】
本発明の成形材料におけるセルロース誘導体は、セルロースに含まれる水酸基の水素原子が、前記A)で置換された基を少なくとも1つ、及び前記B)で置換された基を少なくとも1つ含むセルロース誘導体であるが、セルロースに含まれる水酸基の水素原子が置換される場合は、成形性の観点から、前記A)及び前記B)のみで置換されているか、又は前記A)、前記B)、及び前記C)のみで置換されている場合が好ましい。すなわち本発明におけるセルロース誘導体は、セルロースに含まれる水酸基の水素原子が前記A)、前記B)、及び前記C)以外の基により置換されていないことが好ましい。
【0046】
本発明におけるセルロース誘導体の分子量は、数平均分子量(Mn)が5×10〜1000×10の範囲が好ましく、10×10〜500×10の範囲が更に好ましく、10×10〜200×10の範囲が最も好ましい。また、質量平均分子量(Mw)は、7×10〜10000×10の範囲が好ましく、15×10〜5000×10の範囲が更に好ましく、100×10〜3000×10の範囲が最も好ましい。この範囲の平均分子量とすることにより、成形体の成形性、力学強度等を向上させることができる。
分子量分布(MWD)は1.1〜10.0の範囲が好ましく、1.5〜8.0の範囲が更に好ましい。この範囲の分子量分布とすることにより、成形性等を向上させることができる。
本発明における、数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)及び分子量分布(MWD)の測定は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いて行うことができる。具体的には、N−メチルピロリドンを溶媒とし、ポリスチレンゲルを使用し、標準単分散ポリスチレンの構成曲線から予め求められた換算分子量較正曲線を用いて求めることができる。
【0047】
2.セルロース誘導体の製造方法
本発明におけるセルロース誘導体の製造方法は特に限定されず、セルロースを原料とし、セルロースに対しエーテル化及びエステル化することにより本発明におけるセルロース誘導体を製造することができる。セルロースの原料としては限定的でなく、例えば、綿、リンター、パルプ等が挙げられる。
【0048】
前記A)炭化水素基:−R、及びB)アシル基:−CO−R(Rは炭化水素基を表す。)を有するセルロース誘導体の好ましい製造方法の態様は、セルロースエーテルに、塩基存在下、酸クロリド又は酸無水物等を反応させることにより、エステル化する工程を含むものである。
前記セルロースエーテルとしては、例えば、セルロースに含まれるβ−グルコース環の2位、3位、及び6位の水酸基の水素原子の少なくとも一部が、炭化水素基に置換されたものを用いることができ、具体的には、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、ブチルセルロース、アリルセルロース、ベンジルセルロース等が挙げられる。
【0049】
前記A)炭化水素基:−R、B)アシル基:−CO−R(Rは炭化水素基を表す。)、及びC)アルキレンオキシ基:−RC2−O−とアシル基:−CO−RC1とを含む基(RC1は炭化水素基を表し、RC2は炭素数が2〜4のアルキレン基を表す。)を有するセルロース誘導体の好ましい製造方法の態様は、炭化水素基と、ヒドロキシエチル基を有するヒドロキシエチルセルロースエーテル又はヒドロキシプロピル基とを有するヒドロキシプロピルセルロースエーテルに酸クロライド又は酸無水物等を反応させることにより、エステル化(アシル化)する工程を含む方法によって行うものである。
また、別の態様として、例えばメチルセルロース、エチルセルロース等のセルロースエーテルにプロピレンオキサイド等によりエーテル化するか、又はセルロースにメチルクロライド、エチルクロライド等のアルキルクロライド/炭素数3のアルキレンオキサイド等を作用させた後、更に酸クロライド又は酸無水物等を反応させることにより、エステル化する工程を含む方法も挙げられる。
酸クロライドを反応させる方法としては、例えばCellulose 10;283−296,2003に記載の方法を用いることができる。
炭化水素基とヒドロキシエチル基を有するセルロースエーテルとしては、具体的には、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルプロピルセルロース、ヒドロキシエチルアリルセルロース、ヒドロキシエチルベンジルセルロース等が挙げられる。好ましくは、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロースである。
炭化水素基とヒドロキシプロピル基を有するセルロースエーテルとしては、具体的には、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルアリルセルロース、ヒドロキシプロピルベンジルセルロース等が挙げられる。好ましくは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロースである。
【0050】
酸クロリドとしては、前記B)アシル基、及びC)に含まれるアシル基に対応したカルボン酸クロライドを使用することができる。カルボン酸クロリドとしては、例えば、アセチルクロライド、プロピオニルクロライド、ブチリルクロリド、イソブチリルクロリド、ペンタノイルクロリド、2−メチルブタノイルクロリド、3−メチルブタノイルクロリド、ピバロイルクロリド、ヘキサノイルクロリド、2−メチルペンタノイルクロリド、3−メチルペンタノイルクロリド、4−メチルペンタノイルクロリド、2,2−ジメチルブタノイルクロリド、2,3−ジメチルブタノイルクロリド、3,3−ジメチルブタノイルクロリド、2−エチルブタノイルクロリド、ヘプタノイルクロリド、2−メチルヘキサノイルクロリド、3−メチルヘキサノイルクロリド、4−メチルヘキサノイルクロリド、5−メチルヘキサノイルクロリド、2,2−ジメチルペンタノイルクロリド、2,3−ジメチルペンタノイルクロリド、3,3−ジメチルペンタノイルクロリド、2−エチルペンタノイルクロリド、シクロヘキサノイルクロリド、オクタノイルクロリド、2−メチルヘプタノイルクロリド、3−メチルヘプタノイルクロリド、4−メチルヘプタノイルクロリド、5−メチルヘプタノイルクロリド、6−メチルヘプタノイルクロリド、2,2−ジメチルヘキサノイルクロリド、2,3−ジメチルヘキサノイルクロリド、3,3−ジメチルヘキサノイルクロリド、2−エチルヘキサノイルクロリド、2−プロピルペンタノイルクロリド、ノナノイルクロリド、2−メチルオクタノイルクロリド、3−メチルオクタノイルクロリド、4−メチルオクタノイルクロリド、5−メチルオクタノイルクロリド、6−メチルオクタノイルクロリド、2,2−ジメチルヘプタノイルクロリド、2,3−ジメチルヘプタノイルクロリド、3,3−ジメチルヘプタノイルクロリド、2−エチルヘプタノイルクロリド、2−プロピルヘキサノイルクロリド、2−ブチルペンタノイルクロリド、デカノイルクロリド、2−メチルノナノイルクロリド、3−メチルノナノイルクロリド、4−メチルノナノイルクロリド、5−メチルノナノイルクロリド、6−メチルノナノイルクロリド、7−メチルノナノイルクロリド、2,2−ジメチルオクタノイルクロリド、2,3−ジメチルオクタノイルクロリド、3,3−ジメチルオクタノイルクロリド、2−エチルオクタノイルクロリド、2−プロピルヘプタノイルクロリド、2−ブチルヘキサノイルクロリド等が挙げられる。
【0051】
酸無水物としては、例えば前記B)アシル基、及びC)に含まれるアシル基に対応したカルボン酸無水物を使用することができる。このようなカルボン酸無水物としては、例えば、酢酸無水物、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、吉草酸無水物、ヘキサン酸無水物、ヘプタン酸無水物、オクタン酸無水物、2−エチルヘキサン酸無水物、ノナン酸無水物等が挙げられる。
なお、前述したとおり、本発明におけるセルロース誘導体は置換基としてカルボン酸を有さないことが好ましいため、例えば無水フタル酸、無水マレイン酸等のジカルボン酸等、セルロースと反応させてカルボキシル基が生じる化合物を用いないことが好ましい。
【0052】
そのほかの具体的な製造条件等は、常法に従うことができる。例えば、「セルロースの事典」131頁〜164頁(朝倉書店、2000年)等に記載の方法を参考にすることができる。
【0053】
3.溶解性パラメータ(SP値)が9未満の可塑剤
本発明の成形材料は溶解性パラメータ(SP値)が9未満の可塑剤(以下、単に「可塑剤」ともいう)を含有する。溶解性パラメータ(SP値)が9未満の可塑剤とは、可塑剤が疎水性であることを意味する。
本発明における溶解性パラメータ(SP値)が9未満の可塑剤を含有することで、驚くべきことに、上記セルロース誘導体に配合して得た本発明の成形材料は高い落球衝撃強度を発現する。この理由は定かではないが、溶解度パラメータ(SP値)が9未満の可塑剤は上記セルロース誘導体との親和性は乏しいのであるが、それ故にセルロース誘導体の中で上記可塑剤が不均一な分散状態となり、セルロース誘導体中で粒子を形成する。可塑剤が不均一に分散することにより形成される粒子が、衝撃に対する耐性を付与しているものと推測される。具体的には、可塑剤が不均一に分散することにより形成される粒子が成形材料中に存在することで、力が加わったときに、応力によって発生した微小クラックの成長を止めたり、あえて微小クラックを作り出すことによって応力を緩和したりすることにより、落球衝撃強度が強くなると考えられる。更に、セルロース系重合体は通常、吸水しやすいが、本発明における溶解性パラメータ(SP値)が9未満の可塑剤(すなわち、疎水性の可塑剤)の添加により、吸水特性の低い成形材料を得ることができる。
【0054】
この様な溶解度パラメータが9未満の可塑剤をセルロース誘導体に配合することにより、可塑剤を粒子状態とすることができる。セルロース誘導体中に存在する粒子状可塑剤のサイズは、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、好ましくはその数平均粒子径(直径)が0.1μm〜10μm、より好ましくは0.3μm〜5μm、特に好ましくは0.5μm〜3μmである。本発明のセルロース誘導体に対し溶解度パラメータが9以上の可塑剤のみを配合した場合は、この様な粒子状態が形成されないか、又はセルロース誘導体中に存在する粒子状可塑剤の数平均粒子径(直径)が0.05μm以下となり、得られる成形材料の落球衝撃強度が低くなる。また、セルロース誘導体中に存在する粒子状可塑剤の数平均粒子径(直径)が0.1μm以上であることにより、粒子1個あたりで吸収できる応力が大きくなることに起因して落球衝撃強度が低くなることが抑制されるので好ましく、また10μm以下であることにより、粒子間距離が小さくなることに起因して落球衝撃強度が低くなることが抑制されるので好ましい。
この様な成形材料中の可塑剤粒子のサイズを制御する方法としては、特に限定されないが、上述のごとく、可塑剤の溶解度パラメータを適切に選択する方法や、混練時のせん断力を変える方法、予め硬質シェル中に可塑剤を封じ込めておいた粒子を配合する方法等が利用できるが、容易かつ他の成形材料の特性を損なわない理由から、可塑剤の溶解度パラメータを選択する方法が好ましい。
【0055】
本発明における可塑剤の溶解性パラメータ(SP値)は9未満が好ましく、7.5以上9未満がより好ましく、8以上9未満が更に好ましい。ここで、溶解性パラメータ(SP値)は、沖津法によって求めることができる。なお、沖津法は当業界で周知のSP値を算出する方法の一つであり、例えば、日本接着学会誌Vol.29、No.6(1993年)249〜259頁に詳述されている。沖津法は、スモールの方法を基により精度を高められる様に改良したものであり、両者の方法で得られた結果には大きな差は無い。
本発明の可塑剤は、溶解性パラメータ(SP値)が9未満であれば特に限定されないが、本発明の可塑剤としては、アルコール系可塑剤、アミド系可塑剤、ケトン系可塑剤、エポキシ系可塑剤、イソシアネート系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、グリセリン系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、ポリアルキレングリコール系可塑剤、芳香族カルボン酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、パラフィン系プロセスオイルなどが挙げられる。
【0056】
本発明において、可塑剤は、エポキシ系可塑剤、ポリエステル系可塑剤及び多価カルボン酸系可塑剤からなる群より選ばれる少なくとも一つであることが、得られる成形材料の落球衝撃強度に優れるために好ましい。
エポキシ系可塑剤としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化脂肪酸オクチルエステル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ−2−エチルヘキシル等を使用することができる。
ポリエステル系可塑剤の具体例としては、アジピン酸、セバチン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ロジンなどの酸成分と、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのジオール成分からなるポリエステルや、ポリカプロラクトンなどのヒドロキシカルボン酸からなるポリエステル等が挙げられる。これらのポリエステルは単官能カルボン酸若しくは単官能アルコールで末端封鎖されていてもよく、またエポキシ化合物などで末端封鎖されていてもよい。
多価カルボン酸系可塑剤の具体例としては、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジヘプチル、などのフタル酸エステル、アジピン酸ジ(n−デシル)、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸n−オクチル−n−デシル、アジピン酸メチルジグリコールブチルジグリコール、アジピン酸ベンジルメチルジグリコール、アジピン酸ベンジルブチルジグリコール、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジ−2−エチルヘキシルなどのアジピン酸エステル、アゼライン酸ジ(n−ヘキシル)、アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシルなどのアゼライン酸エステル、セバシン酸ジブチル、及びセバシン酸ジ−2−エチルヘキシル、ドデカンジオン酸ジ−2−エチルヘキシル、トリメリット酸トリ−n−ヘキシル、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル等が挙げられる。
好ましくは、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化脂肪酸オクチルエステル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ−2−エチルヘキシル、アジピン酸−エチレングリコール共重合体、アジピン酸−ブタンジオール共重合体、ポリカプロラクトン、フタル酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル、セバシン酸ジ−2−エチルヘキシル、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル、パラフィン系プロセスオイル、更に好ましくはエポキシ化脂肪酸オクチルエステル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ−2−エチルヘキシル、アジピン酸ジイソノニル、セバシン酸ジ−2−エチルヘキシル、アジピン酸−エチレングリコール共重合体、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル、最も好ましくはセバシン酸ジ−2−エチルヘキシル、アジピン酸−エチレングリコール共重合体、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシルである。
溶解性パラメータ(SP値)が9未満の範囲内である可塑剤の分子量は、100〜1000が好ましく、200〜900がより好ましく、300〜800が更に好ましい。
これらの可塑剤は公知の方法により製造することができる。また市販品を用いることもできる。
【0057】
4.成形材料、及び成形体
本発明の成形材料に含まれるセルロース誘導体の含有割合は、100質量%とならない限り特に限定されない。好ましくは成形材料の全固形分に対してセルロース誘導体を50質量%以上99質量%以下、より好ましくは60質量%以上98質量%以下、更に好ましくは70質量%以上95質量%以下、特に好ましくは70質量%以上85質量%以下含有する。
本発明の成形材料において、前記溶解性パラメータ(SP値)が9未満の可塑剤の含有量は、耐衝撃性向上という理由から、本発明における成形材料の全固形分に対して1〜50質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましく、10〜25質量%が更に好ましい。
また、前記セルロース誘導体と前記可塑剤の好ましい含有質量比はセルロース誘導体/可塑剤が、95/5〜60/40であり、より好ましくは90/10〜70/30である。
また、本発明の成形材料は、セルロース誘導体、可塑剤以外にも必要に応じてその他の添加剤を含有することができる。
【0058】
本発明の成形材料は、セルロース誘導体のほか、必要に応じて、酸化防止剤、フィラー(強化材)、難燃剤等の種々の添加剤を含有していてもよい。
【0059】
本発明の成形材料が酸化防止剤を含有する場合、その含有量は限定的でないが、成形材料中、通常30質量%以下、好ましくは0.01〜10質量%とすればよい。この範囲とすることにより、着色性改良の観点から好ましい。
酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤を挙げることができ、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(例えば、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製「イルガノックス1010」、住友化学社製「スミライザーGP」等)を用いることが好ましい。
【0060】
本発明の成形材料は難燃剤を含有してもよい。難燃剤は樹脂に難燃性を付与する目的で添加されるものであれば特に限定されない。難燃剤の添加によって、成形材料の燃焼速度の低下又は抑制といった難燃効果を向上させることができる。
難燃剤は、特に限定されず、常用のものを用いることができる。例えば、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、リン含有難燃剤、ケイ素含有難燃剤、窒素化合物系難燃剤、無機系難燃剤等が挙げられる。これらの中でも、樹脂との複合時や成形加工時に熱分解してハロゲン化水素が発生して加工機械や金型を腐食させたり、作業環境を悪化させたりすることがなく、また、焼却廃棄時にハロゲンが気散したり、分解してダイオキシン類等の有害物質の発生等によって環境に悪影響を与える可能性が少ないことから、リン含有難燃剤及びケイ素含有難燃剤が好ましい。
【0061】
リン含有難燃剤としては、特に限定されることはなく、常用のものを用いることができる。例えば、リン酸エステル、縮合リン酸エステル、ポリリン酸塩などの有機リン系化合物が挙げられる。
【0062】
リン酸エステルの具体例としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(フェニルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、ジフェニル(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジ(イソプロピルフェニル)フェニルホスフェート、モノイソデシルホスフェート、2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、メラミンホスフェート、ジメラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリクレジルホスフィンオキサイド、メタンホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジエチルなどを挙げることができる。
【0063】
リン酸縮合エステルとしては、例えば、レゾルシノールポリフェニルホスフェート、レゾルシノールポリ(ジ−2,6−キシリル)ホスフェート、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート、ハイドロキノンポリ(2,6−キシリル)ホスフェート並びにこれらの縮合物などの芳香族リン酸縮合エステル等を挙げることができる。
【0064】
また、リン酸、ポリリン酸と周期律表1族〜14族の金属、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミンとの塩からなるポリリン酸塩を挙げることもできる。ポリリン酸塩の代表的な塩として、金属塩としてリチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、鉄(II)塩、鉄(III)塩、アルミニウム塩など、脂肪族アミン塩としてメチルアミン塩、エチルアミン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、エチレンジアミン塩、ピペラジン塩などがあり、芳香族アミン塩としてはピリジン塩、トリアジン等が挙げられる。
【0065】
また、前記以外にも、トリスクロロエチルホスフェート、トリスジクロロプロピルホスフェート、トリス(β−クロロプロピル)ホスフェート)などの含ハロゲンリン酸エステル、また、リン原子と窒素原子が二重結合で結ばれた構造を有するホスファゼン化合物、リン酸エステルアミドを挙げることができる。
これらのリン含有難燃剤は、1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
ケイ素含有難燃剤としては、二次元又は三次元構造の有機ケイ素化合物、ポリジメチルシロキサン、又はポリジメチルシロキサンの側鎖又は末端のメチル基が、水素原子、置換又は非置換の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基で置換又は修飾されたもの、いわゆるシリコーンオイル、又は変性シリコーンオイルが挙げられる。
【0067】
置換又は非置換の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、ベンジル基、アミノ基、エポキシ基、ポリエーテル基、カルボキシル基、メルカプト基、クロロアルキル基、アルキル高級アルコールエステル基、アルコール基、アラルキル基、ビニル基、又はトリフロロメチル基等が挙げられる。
これらのケイ素含有難燃剤は1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
また、前記リン含有難燃剤又はケイ素含有難燃剤以外の難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、メタスズ酸、酸化スズ、酸化スズ塩、硫酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化第一鉄、酸化第二鉄、酸化第一錫、酸化第二スズ、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アンモニウム、オクタモリブデン酸アンモニウム、タングステン酸の金属塩、タングステンとメタロイドとの複合酸化物、スルファミン酸アンモニウム、臭化アンモニウム、ジルコニウム系化合物、グアニジン系化合物、フッ素系化合物、黒鉛、膨潤性黒鉛等の無機系難燃剤を用いることができる。これらの他の難燃剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。
【0069】
本発明の成形材料において、難燃剤の含有量は限定的でないが、セルロース誘導体100質量部に対して、好ましくは30質量部以下、より好ましくは2〜10質量部である。この範囲とすることにより、耐衝撃性・脆性等を改良させたり、ペレットブロッキングの発生を抑制できる。
【0070】
本発明の成形材料は、フィラー(強化材)を含有してもよい。フィラーを含有することにより、成形材料によって形成される成形体の機械的特性を強化することができる。
フィラーとしては、公知のものを使用できる。フィラーの形状は、繊維状、板状、粒状、粉末状等いずれでもよい。また、無機物でも有機物でもよい。
具体的には、無機フィラーとしては、ガラス繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、金属繊維、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、マグネシウム系ウイスカー、珪素系ウイスカー、ワラステナイト、セピオライト、スラグ繊維、ゾノライト、エレスタダイト、石膏繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維及び硼素繊維等の繊維状の無機フィラーや;ガラスフレーク、非膨潤性雲母、カーボンブラック、グラファイト、金属箔、セラミックビーズ、タルク、クレー、マイカ、セリサイト、ゼオライト、ベントナイト、ドロマイト、カオリン、微粉ケイ酸、長石粉、チタン酸カリウム、シラスバルーン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、酸化ケイ素、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、石膏、ノバキュライト、ドーソナイト、白土等の板状や粒状の無機フィラーが挙げられる。
【0071】
有機フィラーとしては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、再生セルロース繊維、アセテート繊維等の合成繊維、ケナフ、ラミー、木綿、ジュート、麻、サイザル、マニラ麻、亜麻、リネン、絹、ウール等の天然繊維、微結晶セルロース、さとうきび、木材パルプ、紙屑、古紙等から得られる繊維状の有機フィラーや、有機顔料等の粒状の有機フィラーが挙げられる。
【0072】
成形材料がフィラーを含有する場合、その含有量は限定的でないが、セルロース誘導体100質量部に対して、通常30質量部以下、好ましくは5〜10質量部とすればよい。
【0073】
本発明の成形材料は、前記したもの以外にも、本発明の目的を阻害しない範囲で、成形性・難燃性等の各種特性をより一層改善する目的で他の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては、例えば、前記セルロース誘導体、前記可塑剤及び難燃剤以外のポリマー、安定剤(紫外線吸収剤など)、離型剤(脂肪酸、脂肪酸金属塩、オキシ脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪族部分鹸化エステル、パラフィン、低分子量ポリオレフィン、脂肪酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミド、脂肪族ケトン、脂肪酸低級アルコールエステル、脂肪酸多価アルコールエステル、脂肪酸ポリグリコールエステル、変成シリコーン)、帯電防止剤、難燃助剤、加工助剤、ドリップ防止剤、抗菌剤、防カビ剤等が挙げられる。更に、染料や顔料を含む着色剤などを添加することもできる。
【0074】
前記セルロース誘導体、前記可塑剤及び難燃剤以外のポリマーとしては、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマーのいずれも用い得るが、成形性の点から熱可塑性ポリマーが好ましい。セルロース誘導体以外のポリマーの具体例としては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、ポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンコポリマー(エチレン−プロピレンブロックコポリマーなど)、ポリブテン−1及びポリ−4−メチルペンテン−1等のポリオレフィン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート及びその他の芳香族ポリエステル等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6T、ナイロン12等のポリアミド、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、ポリアセタール(ホモポリマー及び共重合体を含む)、ポリウレタン、芳香族及び脂肪族ポリケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性澱粉樹脂、ポリメタクリル酸メチルやメタクリル酸エステル−アクリル酸エステル共重合体などのアクリル樹脂、AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、ABS樹脂、AES樹脂(エチレン系ゴム強化AS樹脂)、ACS樹脂(塩素化ポリエチレン強化AS樹脂)、ASA樹脂(アクリル系ゴム強化AS樹脂)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ビニルエステル系樹脂、無水マレイン酸−スチレン共重合体、MS樹脂(メタクリル酸メチル−スチレン共重合体)、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド等の熱可塑性ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体などのフッ素系ポリマー、酢酸セルロース、ポリビニルアルコール、不飽和ポリエステル、メラミン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、ポリイミドなどを挙げることができる。
また、各種アクリルゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体及びそのアルカリ金属塩(いわゆるアイオノマー)、エチレン−アクリル酸アルキルエステル共重合体(例えば、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体)、ジエン系ゴム(例えば、1,4−ポリブタジエン、1,2−ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン)、ジエンとビニル単量体との共重合体(例えば、スチレン−ブタジエンランダム共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレンランダム共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ポリブタジエンにスチレンをグラフト共重合させたもの、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体)、ポリイソブチレン、イソブチレンとブタジエン又はイソプレンとの共重合体、ブチルゴム、天然ゴム、チオコールゴム、多硫化ゴム、アクリルゴム、ニトリルゴム、ポリエーテルゴム、エピクロロヒドリンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、その他ポリウレタン系やポリエステル系、ポリアミド系などの熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0075】
更に、各種の架橋度を有するものや、各種のミクロ構造、例えばシス構造、トランス構造等を有するもの、ビニル基などを有するもの、あるいは各種の平均粒径を有するものや、コア層とそれを覆う1以上のシェル層から構成され、また隣接し合った層が異種の重合体から構成されるいわゆるコアシェルゴムと呼ばれる多層構造重合体なども使用することができ、更にシリコーン化合物を含有したコアシェルゴムも使用することができる。
これらのポリマーは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0076】
本発明の成形材料がセルロース誘導体、前記可塑剤及び難燃剤以外のポリマーを含有する場合、その含有量は、セルロース誘導体100質量部に対して30質量部以下が好ましく、2〜10質量部がより好ましい。
【0077】
本発明の成形体は、前記セルロース誘導体、及び前記可塑剤を含む成形材料を成形することにより得られる。より具体的には、前記セルロース誘導体及び可塑剤、又は、前記セルロース誘導体及び可塑剤に必要に応じて各種添加剤等を含む成形材料を加熱し、各種の成形方法により成形する工程を含む製造方法によって得られる。
本発明の成形体の製造方法は、前記成形材料を加熱し、成形する工程を含む。
成形方法としては、例えば、射出成形、押し出し成形、ブロー成形等が挙げられる。
加熱温度は、通常160〜300℃であり、好ましくは180〜260℃である。
【0078】
本発明の成形体の用途は、特に限定されるものではないが、例えば、電気電子機器(家電、OA・メディア関連機器、光学用機器及び通信機器等)の内装又は外装部品、自動車、機械部品、住宅・建築用材料等が挙げられる。これらの中でも、優れた耐熱性及び耐衝撃性を有しており、環境への負荷が小さい観点から、例えば、コピー機、プリンター、パソコン、テレビ等といった電気電子機器用の外装部品(特に筐体)として好適に使用することができる。すなわち、本発明の電気電子機器用筐体は本発明の成形体から構成される。
【実施例】
【0079】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0080】
<合成例1:アセトキシプロピルメチルアセチルセルロース(C−1)の合成>
メカニカルスターラー、温度計、冷却管、滴下ロートをつけた5Lの三ツ口フラスコにヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名メトローズ90SH−100;信越化学製)60g、N,N−ジメチルアセトアミド2100mLを量り取り、室温で攪拌した。反応系が透明になり完溶したことを確認した後、アセチルクロライド101mLをゆっくりと滴下し、系の温度を80℃〜90℃に昇温した。このまま3時間攪拌した後、反応系の温度を室温まで冷却した。反応溶液を水10Lへ激しく攪拌しながら投入すると、白色固体が析出した。白色固体を吸引ろ過によりろ別し、大量の水で3回洗浄を行った。得られた白色固体を100℃で6時間真空乾燥することにより目的のセルロース誘導体(C−1)(アセトキシプロピルメチルアセチルセルロース)を白色粉体として得た。このセルロース誘導体(C−1)の25℃での水への溶解度は0.1質量%未満であった(不溶)。
【0081】
<合成例2、3、4:アセトキシエチルメチルアセチルセルロース(C−2)、メチルアセチルセルロース(C−3)、エチルアセチルセルロース(C−4)の合成>
合成例1におけるヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名メトローズ90SH−100;信越化学製)をヒドロキシエチルメチルセルロース(商品名マーポローズME−250T;松本油脂製)、メチルセルロース(商品名マーポローズM−4000:松本油脂製株式会社製)、エチルセルロース(商品名エトセル300CP:ダウケミカル製)に変更した以外は合成例1と同様にしてアセトキシエチルメチルアセチルセルロース(C−2)、メチルアセチルセルロース(C−3)、エチルアセチルセルロース(C−4)を得た。これらセルロース誘導体(C−2)、(C−3)、(C−4)の25℃での水への溶解度はいずれも0.1質量%未満であった(不溶)。
【0082】
<合成例5:メチルセルロース−2−エチルヘキサノエート(C−5)の合成>
メカニカルスターラー、温度計、冷却管、滴下ロートをつけた3Lの三ツ口フラスコにメチルセルロース(和光純薬製:メチル置換度1.8)80g、ピリジン1500mLを量り取り、室温で攪拌した。ここに水冷下、2−エチルヘキサノイルクロリド173mLをゆっくりと滴下し、更に60℃で6時間攪拌した。反応後、室温に戻し、氷冷下、メタノール200mLを加えてクエンチした。反応溶液を水12Lへ激しく攪拌しながら投入すると、白色固体が析出した。白色固体を吸引ろ過によりろ別し、大量のメタノール溶媒で3回洗浄を行った。得られた白色固体を100℃で6時間真空乾燥することによりメチルセルロース−2−エチルヘキサノエート(C−5)を得た。このセルロース誘導体(C−5)の25℃での水への溶解度は0.1質量%未満であった(不溶)。
【0083】
<合成例6:バレロキシプロピルメチルバレロイルセルロース(C−6)の合成>
合成例5におけるメチルセルロース(和光純薬製:メチル置換度1.8)に変えて、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名メトローズ90SH−100;信越化学製)、及び2−エチルヘキサノイルクロリドに変えてバレロイルクロライドを用いた以外、合成例5と同様にして、バレロキシプロピルメチルバレロイルセルロース(C−6)を得た。このセルロース誘導体(C−6)の25℃での水への溶解度は0.1質量%未満であった(不溶)。
【0084】
<合成例7:バレロキシブチルメチルバレロイルセルロース(C−7)の合成>
合成例6におけるヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名メトローズ90SH−100;信越化学製)に変えて、ヒドロキシブチルメチルセルロースを用いた以外、合成例6と同様にしてバレロキシブチルメチルバレロイルセルロース(C−7)を得た。このセルロース誘導体(C−7)の25℃での水への溶解度は0.1質量%未満であった(不溶)。
【0085】
<合成例8:ベンゾイルプロピルメチルアセチルセルロース(C−8)の合成>
合成例1におけるアセチルクロライドをベンジルクロライドに変更(同モル数)した以外は同様にしてベンゾイルプロピルメチルアセチルセルロース(C−8)を得た。このセルロース誘導体(C−8)の25℃での水への溶解度は0.1質量%未満であった(不溶)。
【0086】
なお、以上で得られたセルロース誘導体が有する炭化水素基の種類及び置換度、アルキレンオキシ基の種類及びモル置換度、アシル基の種類及びアシル化度は、Cellulose Communication 6,73−79(1999)に記載の方法を利用して、1H−NMRにより、観測及び決定した。なお、炭化水素基の置換度とはグルコース環ユニットに置換した炭化水素基のモル数であり、0以上3未満の値をとる。アルキレンオキシ基のモル置換度とは、グルコース環ユニットに置換したアルキレンオキシ基のモル数であり、0以上の値をとる。また、アシル化度とは、セルロースのグルコース環又はエーテル置換基に存在する水酸基をエステル化することによりアシル基で置換した程度を示し、0以上100以下で示す。なお、セルロースのグルコース環の水酸基に対するアシル基の反応性と、アルキレンオキシ基に由来する水酸基に対するアシル基の反応性とは殆ど差が無いので、C)アルキレンオキシ基とアシル基とを含む基のモル置換度は、アルキレンオキシ基のモル置換度とアシル化度とを掛け合わせることにより求めることができる。
また、コロイド滴定法を行い、上記セルロース誘導体(C−1)〜(C−8)におけるカルボキシル基又はスルホン酸基の置換度が0.02未満(すなわち、カルボキシル基又はスルホン酸基の含有量がセルロース誘導体に対して0.5質量%未満)であることを確認した。
【0087】
<セルロース誘導体の分子量測定>
得られたセルロース誘導体について、数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)、を測定した。これらの測定方法は以下の通りである。
[分子量及び分子量分布]
数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)の測定は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いた。具体的には、N−メチルピロリドンを溶媒とし、ポリスチレンゲルを使用し、標準単分散ポリスチレンの構成曲線から予め求められた換算分子量較正曲線を用いて求めた。GPC装置は、HLC−8220GPC(東ソー社製)を使用した。
【0088】
数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)及び置換度をまとめて表1に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
[成形体の作製]
セルロース誘導体(C−1〜C−8、H−1)、及び可塑剤(P−1〜P−9)を下記表2に記載の質量部で添加し、酸化防止剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製「イルガノックス1010」)0.5質量部を添加後、ヘンシェルミキサーで混合して成形材料用混合物を作製した。この混合物をバレル温度210℃に設定した二軸混練押出機(テクノベル(株)製、Ultranano)に供給しペレットを作製した。続いて、得られたペレットを小型射出成形機(ファナック(株)Roboshot S−2000i、自動射出成形機)に供給して、長さ80mm×幅10mm×厚み4mmの多目的試験片(曲げ試験片、HDT試験片)及び幅5cm×長さ8cm×厚み2mmの板状試験片を成形した。
【0091】
[可塑剤]
添加剤P−1:セバシン酸ジ−2−エチルヘキシル(SP値:8.9)
添加剤P−2:アジピン酸−エチレングリコール共重合体(重量平均分子量550、SP値:8.9、(株)アデカ社製「アデカサイザーRS−700」)
添加剤P−3:トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル(SP値:8.7)
添加剤P−4:アジピン酸ジイソノニル(SP値:8.5)
添加剤P−5:エポキシ化脂肪酸オクチルエステル(SP値:8.5)
添加剤P−6:エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ−2−エチルヘキシル(SP値:8.3)
添加剤P−7:エポキシ化大豆油(SP値:8.0、新日本理化社製「サンソサイザーE−2000H」)
添加剤P−8:パラフィン系プロセスオイル(SP値:7.9、出光興産(株)社製「ダイアナプロセスオイルNR」)
添加剤P−9:ジアルキレングリコールジベンゾエート(SP値:9.9)
【0092】
[評価]
得られた多目的試験片及び板状試験片を用いて、以下の項目について評価した。評価結果等を表2に示す。
(成形材料中の可塑剤粒子のサイズ(数平均粒子径))
上記得られた多目的試験片を液体窒素中に投入し、完全に冷却された後に破断させ、試験片の中央部を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、成形材料中の可塑剤粒子のサイズを、画像解析により約1,000個の粒子の平均値(数平均)として算出した。
(落球衝撃試験)
JIS K7211−1に準じて、板状試験片の両端(長さ8cmのうち、各1cm)を固定し、筒状ガイドを使用して500g鋼球を、所定の高さから試験片の中心に落下させ、試験片にクラックが貫通したか否かを観察した。複数の試験片について、試験を行い試験片にクラックが貫通する確率が50%であるときの高さを求めた。その結果から、50%破壊エネルギー(単位J)を求め、落球衝撃強度とした。試験は23℃にて行った。
(吸水特性(水に浸漬した際の含水率))
JIS K 7209に準拠して、多目的試験片を50℃で24時間乾燥させた後、質量測定を行い、23℃の恒温水槽に試料を24時間浸漬し、試験片を取り出した後、表面に付着した水分を取り除き、ただちに質量を測定した。含水率(%)は{(浸漬後の質量/浸漬前の質量−1)×100}で求めた。測定は3回測定の平均値である。含水率としては、3.0%以下の場合に成形材料として実用上利用可能であることを意味する。
(曲げ弾性率)
ISO178に準拠して、射出成形にて成形した多目的試験片を23℃±2℃、50%±5%RHで48時間以上調製した後、インストロン(東洋精機製、ストログラフV50)によって支点間距離64mm、試験速度2mm/minで測定した。測定は3回測定の平均値である。結果を表2に示す。なお、曲げ弾性率が1GPa以上であるとは、成形材料が実用上良好に使用可能であることを意味する。
【0093】
【表2】

【0094】
実施例1〜17の成形材料は、いずれも材料中の可塑剤分散粒子径が0.3μm〜5.0μmであり、落球衝撃強度が高く、吸水特性が低く、かつ曲げ弾性率が高かった。
本発明における可塑剤を含まない比較例1の成形材料は落球衝撃強度が低く、かつ吸水特性が高かった。また、本発明以外のセルロース樹脂を用いた比較例2の成形材料は、可塑剤が均一に分散し粒子形成せず、落球衝撃強度が低かった。更に、SP値が9.0以上の可塑剤を用いた参考例3の成形材料は、可塑剤が均一に分散し粒子形成せず、落球衝撃強度が低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースに含まれる水酸基の水素原子が、
下記A)で置換された基を少なくとも1つ、及び
下記B)で置換された基を少なくとも1つ含むセルロース誘導体と、
溶解性パラメータ(SP値)が9未満の可塑剤とを含有する成形材料。
A)炭化水素基:−R
B)アシル基:−CO−R(Rは炭化水素基を表す。)
【請求項2】
前記セルロース誘導体が、更に、セルロースに含まれる水酸基の水素原子が下記C)で置換された基を少なくとも1つ含む、請求項1に記載の成形材料。
C)アルキレンオキシ基:−RC2−O−とアシル基:−CO−RC1とを含む基(RC1は炭化水素基を表し、RC2は炭素数が2〜4のアルキレン基を表す。)
【請求項3】
前記C)アルキレンオキシ基とアシル基とを含む基が、下記一般式(3)で表される基である、請求項2に記載の成形材料。
【化1】

(式中、RC1は炭化水素基を表し、RC2は炭素数が2〜4のアルキレン基を表す。nは1以上の整数を表す。)
【請求項4】
前記Rが炭素数1〜4のアルキル基である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の成形材料。
【請求項5】
前記Rがメチル基又はエチル基である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の成形材料。
【請求項6】
前記R及びRC1が、それぞれ独立に、アルキル基又はアリール基である、請求項2〜5のいずれか一項に記載の成形材料。
【請求項7】
前記R及びRC1が、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、又は3−ヘプチル基である、請求項2〜6のいずれか一項に記載の成形材料。
【請求項8】
前記Rが、炭素数3〜10の分岐構造を有する炭化水素基である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の成形材料。
【請求項9】
前記アルキレンオキシ基が下記式(1)又は(2)で表される基である、請求項2〜8のいずれか一項に記載の成形材料。
【化2】

【請求項10】
前記セルロース誘導体が、カルボキシル基、スルホン酸基、及びこれらの塩を実質的に有さない、請求項1〜9のいずれか一項に記載の成形材料。
【請求項11】
前記セルロース誘導体が水に不溶である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の成形材料。
【請求項12】
前記可塑剤が、エポキシ系可塑剤、ポリエステル系可塑剤及び多価カルボン酸系可塑剤からなる群より選ばれる少なくとも一つである、請求項1〜11のいずれか一項に記載の成形材料。
【請求項13】
前記セルロース誘導体中に存在する前記可塑剤の数平均粒子径が0.1μm〜10μmである、請求項1〜12のいずれか一項に記載の成形材料。
【請求項14】
前記可塑剤を成形材料の全固形分に対して1〜50質量%含有する、請求項1〜13のいずれか一項に記載の成形材料。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の成形材料を成形して得られる成形体。
【請求項16】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の成形材料を加熱し、成形する工程を含む、成形体の製造方法。
【請求項17】
請求項15に記載の成形体から構成される電気電子機器用筐体。

【公開番号】特開2012−116902(P2012−116902A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265813(P2010−265813)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】