説明

成形材料の製造方法

【課題】
強化繊維基材とポリフェニレンエーテルエーテルケトンからなる成形材料を、より容易に、生産性よく製造する方法を提供する。
【解決手段】
強化繊維基材(A)を引き出し、連続的に供給する工程(I)、該成分(A)にポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を複合化して複合体を得る工程(II)、該成分(B)をポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)に重合させる工程(III)、および該成分(A)、該成分(B’)からなる複合体を冷却し引き取る工程(IV)を有してなる成形材料の製造方法であって、該成分(B)の融点が270℃以下である成形材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形材料の製造方法に関する。さらに詳しくは、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンをマトリクス樹脂とする成形材料を、経済性および生産性良く製造できる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続した強化繊維基材とマトリックス樹脂からなる繊維強化複合材料は、軽量で優れた力学特性を有し、スポーツ用品用途、航空宇宙用途および一般産業用途などに広く用いられている。とりわけ強化繊維に炭素繊維を用いた複合材料(CFRP)は、金属材料を上回る比強度、比剛性を有し、宇宙航空用途を中心に使用量が増大してきている。これまで強化繊維基材への含浸性の良さから、マトリックス樹脂には熱硬化性樹脂が好んで用いられてきた。熱可塑性樹脂は、高分子量体であり、熱硬化性樹脂に比べて粘度が高く、またプロセス温度もより高温を必要とするため、成形材料を容易に、生産性よく製造することには不向きであった。
【0003】
しかしながら、短時間での成形加工が可能である点や、得られる成形品がリサイクル可能な点、熱接着、熱矯正などの後加工性に優れる点などの理由により、近年になり、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする複合材料が脚光を浴びるようになってきた。
【0004】
特許文献1には、連続した強化繊維からなるシ−ト状の基材の裏表に結晶性熱可塑性樹脂フィルムを配置して、樹脂の融点より150℃も高い温度で、5〜30kg/cm(約0.5〜3MPa)の圧力で加圧して、熱可塑性樹脂を強化繊維束に含浸させる方法が提案されている。しかしながら、この方法では、熱可塑性樹脂の含浸に過酷な温度を必要とするため、樹脂の熱分解を引き起こし、成形品の特性を十分に高めることができず、また、成形材料を経済的に生産性よく製造するのは困難であった。
【0005】
特許文献2には、連続した強化繊維束に熱可塑性樹脂を容易に含浸させるために、低分子量の熱可塑性樹脂を含浸させた後に、高分子量の熱可塑性樹脂で一体化する成形材料の製造方法が提案されている。この方法は、成形材料の生産性に優れ、かつ力学特性の高い成形品が得られる優れた方法であったが、成形材料中に低分子量の熱可塑性樹脂が残存するといった課題もあった。
【0006】
特許文献3には、連続した強化繊維束に低分子量の環式ポリアリーレンスルフィドを複合化し、さらに200〜450℃で加熱して環式ポリアリーレンスルフィドを高分子量のポリアリーレンスルフィドに重合させる繊維強化成形基材の製造方法が開示されている。この方法は、連続した強化繊維束と高分子量のポリアリーレンスルフィドとからなる成形材料を、容易に、生産性良く製造することができる優れた製造方法である。しかしながら、熱可塑性樹脂を用いた繊維強化複合材料へのニーズが多様化したことで、ポリアリーレンスルフィド以外にも高耐熱な熱可塑性樹脂、例えばポリエーテルエーテルケトンを用いた成形材料が求められるようになってきた。
【0007】
特許文献4には、環式ポリ(アリールエーテル)オリゴマー、その製造方法、および環式ポリ(アリールエーテル)オリゴマーの重合方法が開示されている。ここでは、環式ポリ(アリールエーテル)オリゴマーを重合させることでポリ(アリールエーテル)とする方法が記載されている。しかしながら、この方法で公開されている環式ポリ(アリールエーテル)オリゴマーは、融点が340℃以上あり、経済性、生産性の観点から、より融点の低い環式ポリ(アリールエーテル)オリゴマーの開発が必要となってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−118489号公報
【特許文献2】特開平10−138379号公報
【特許文献3】特開2008−231289号公報
【特許文献4】特開平3−88828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる従来技術の改善を試み、強化繊維基材とポリフェニレンエーテルエーテルケトンからなる成形材料を、より容易に、生産性よく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる問題点を解決するための本発明は、以下の構成からなる。すなわち、
(1)強化繊維基材(A)を引き出し、連続的に供給する工程(I)、該成分(A)にポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を複合化して複合体を得る工程(II)、該成分(B)をポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)に重合させる工程(III)、および該成分(A)、該成分(B’)からなる複合体を冷却し引き取る工程(IV)を有してなる成形材料の製造方法であって、該成分(B)の融点が270℃以下である成形材料の製造方法。
(2)前記成分(B)が環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンを60重量%以上含む(1)に記載の成形材料の製造方法。
(3)前記成分(B)が異なる繰り返し数mを有する環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの混合物である(1)または(2)のいずれかに記載の成形材料の製造方法。
(4)前記工程(II)において、さらに重合触媒(C)を複合化させる(1)〜(3)のいずれかに記載の成形材料の製造方法。
(5)前記工程(I)〜(IV)がオンラインで実施されてなる、(1)〜(4)に記載の成形材料の製造方法。
(6)前記工程(II)において、加熱溶融させた前記成分(B)を前記成分(A)に付与して複合化させる(1)〜(5)のいずれかに記載の成形材料の製造方法。
(7)前記工程(II)において、粒子状、繊維状、フレーク状からなる群から選択される少なくとも1種の形態の前記成分(B)を前記成分(A)に付与して複合化させる、(1)〜(5)のいずれかに記載の成形材料の製造方法。
(8)前記工程(II)において、フィルム状、シート状、不織布状からなる群から選択される少なくとも1種の形態の前記成分(B)を前記成分(A)に付与して複合化させる、(1)〜(5)のいずれかに記載の成形材料の製造方法。
(9)前記工程(III)における重合を160℃以上の温度で行う(1)〜(8)のいずれかに記載成形材料の製造方法。
(10)前記工程(III)が、さらに0.1〜10MPaの加圧力を付与する工程を含む、(1)〜(9)のいずれかに記載の成形材料の製造方法。
(11)前記工程(IV)の引き取り速度が1〜100m/分である、(1)〜(10)のいずれかに記載の成形材料の製造方法。
(12)前記成分(A)と前記成分(B)の合計が100重量%とした際の前記成分(A)の含有量が10重量%以上である(1)〜(11)のいずれかに記載の成形材料の製造方法。
(13)前記成分(C)の含有量が、前記成分(B)中のエーテルエーテルケトン構成単位1モルに対し0.001〜20モル%である(4)に記載の成形材料の製造方法。
(14)前記成分(A)が、炭素繊維の単繊維を少なくとも10,000本含有してなる、(1)〜(13)のいずれかに記載の成形材料の製造方法。
(15)前記成分(C)がアルカリ金属塩である(4)に記載の成形材料の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、強化繊維基材にポリフェニレンエーテルエーテルケトンを容易に複合化させることができるため、引き取り速度を上げるなど生産性の向上やプロセス温度を抑えるといった経済性の向上が可能であり、プリプレグ、セミプレグ、ファブリックなどの成形材料の製造に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る成形材料の製造方法に用いられる製造装置の一例である。
【図2】本発明に係る成形材料の製造方法に用いられる製造装置の一例である。
【図3】本発明に係る成形材料の製造方法に用いられる製造装置の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の成形材料の製造方法について、具体的に説明する。
【0014】
本発明の成形材料の製造方法では、強化繊維基材(A)と、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を原料として、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)をマトリックス樹脂とした成形材料を製造する。この際、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)に重合触媒(C)を添加することで、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)への重合反応を促進することが好ましい。まず、各成分について説明する。
【0015】
<強化繊維基材(A)>
本発明で用いられる強化繊維基材(A)としては、特に限定されないが、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、鉱物繊維、炭化ケイ素繊維等が使用でき、これらの繊維を2種以上混在させることもできる。
【0016】
とりわけ、炭素繊維は比強度、比剛性に優れ、成形品の力学特性を向上させる観点で好ましい。これらの中でも、軽量かつ高強度、高弾性率の成形品を得る観点から、炭素繊維を用いるのが好ましく、特に引張弾性率で200〜700GPaの炭素繊維を用いることが好ましい。さらには、炭素繊維や、金属を被覆した強化繊維は、高い導電性を有するため、成形品の導電性を向上させる効果があり、例えば電磁波シールド性の要求される電子機器などの筐体用途には特に好ましい。
【0017】
また、炭素繊維のより好ましい態様として、X線光電子分光法により測定される繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面官能基量(O/C)が、0.05〜0.4の範囲にあることがあげられる。O/Cが高いほど、炭素繊維表面の官能基量が多く、マトリックス樹脂との接着性を高めることができる。一方、O/Cが高すぎると、炭素繊維表面の結晶構造の破壊が懸念される。O/Cが好ましい範囲内で、力学特性のバランスにとりわけ優れた成形品を得ることが出来る。
【0018】
表面官能基量(O/C)は、X線光電子分光法により、次のような手順によって求められる。まず、溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維をカットして銅製の試料支持台上に拡げて並べた後、光電子脱出角度を90゜とし、X線源としてMgKα1、2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正としてC1Sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を969eVに合わせる。C1Sピーク面積は、K.E.として958〜972eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。O1Sピーク面積は、K.E.として714〜726eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。ここで表面官能基量(O/C)とは、上記O1Sピーク面積とC1Sピーク面積の比から、装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出する。
【0019】
本発明で用いられる強化繊維基材(A)の形態及び配列としては、特に限定されないが、例えば、連続した強化繊維を収束してなる強化繊維束(以下、単に強化繊維束ともいう)、連続した強化繊維を一方向に配列させた基材(以下、単に一方向配列基材ともいう)、織物(クロス)、不織布、マット、編み物、組み紐、ヤーン、トウ、等が用いられる。中でも、連続して高速で引き取ることが可能であることから強化繊維束が好ましく、積層構成によって容易に強度特性を設計可能であることから、一方向配列基材を使用するのが好ましく、曲面にも容易に賦形できることから織物が好ましく、厚み方向に容易に成形できることから不織布およびマットが好ましく使用される。なお、ここで一方向配列基材とは、複数本の強化繊維を並行して配列させた基材のことである。かかる一方向配列基材は、例えば複数本の連続した強化繊維束を一方向に引きそろえ、さらにシート状に地均する方法などにより得られる。
【0020】
強化繊維基材(A)が強化繊維束である場合は、強化繊維の単繊維数が多いほど経済性には有利であることから、単繊維は10,000本以上が好ましい。他方、強化繊維の単繊維数が多いほどマトリックス樹脂の含浸性には不利となる傾向があるため、強化繊維束として炭素繊維束を用いる場合、経済性と含浸性の両立を図る観点から、15,000本以上100,000本以下がより好ましく、20,000本以上50,000本以下がとりわけ好ましく使用できる。
【0021】
さらに、単繊維を強化繊維束に束ねる目的で、本発明における成分(B)とは別に、集束剤を使用してもよい。これは強化繊維束に集束剤を付着させることで、強化繊維の移送時の取扱性や、成形材料を製造する過程でのプロセス性を高める目的で、本発明の目的を損なわない範囲で、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂や種々の熱可塑性樹脂などのサイジング剤を1種または2種以上併用することができる。
【0022】
強化繊維基材(A)が一方向配列基材、織物、不織布、マットである場合は、強化繊維の単繊維数としては、特に限定されない。
【0023】
さらに、強化繊維基材(A)には、単繊維の脱落を抑える目的で、本発明における成分(B)とは別に、結着剤を使用してもよい。これは強化繊維基材(A)に結着剤を付着させることで、強化繊維基材(A)の移送時の取扱性や、成形材料を製造する過程でのプロセス性を高める目的であり、本発明の目的を損なわない範囲で、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂や種々の熱可塑性樹脂などのバインダーを1種または2種以上併用することができる。
【0024】
<ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)>
本発明におけるポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)は融点が270℃以下であり、さらに、250℃以下であることが好ましく、230℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましく、180℃以下であることが特に好ましく例示できる。ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の融点が低いほど加工温度を下げることが可能であり、プロセス温度を低く設定可能となるため加工に要するエネルギーを低減し得るとの観点で有利となる。また、プロセス温度を低く設定できることにより、例えば、後述する重合触媒(C)とポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を溶融させて混合する工程において、溶融混練の温度を重合温度よりも十分に低く設定できるようになる。かかる効果により、成形材料の製造プロセスにおいて、貯蔵中や強化繊維基材(A)への含浸の前にポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の重合が進行して溶融粘度が増加するといった好ましくない反応を抑制できる。なおここで、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の融点は示差走査型熱量測定装置を用いて吸熱ピーク温度を観測することにより測定することが可能である。
【0025】
本発明におけるポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)は、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンを60重量%以上含むポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物であることが好ましく、65重量%以上含む組成物であることがより好ましく、70重量%以上含むことがさらに好ましく、75重量%以上含む組成物であることがよりいっそう好ましい。
【0026】
本発明における環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンとは、パラフェニレンケトン、およびパラフェニレンエーテルを繰り返し構造単位に持つ、下記一般式(I)で表される環式化合物である。
【0027】
【化1】

【0028】
式(I)における繰り返し数mの範囲は2〜40であり、2〜20がより好ましく、2〜15がさらに好ましく、2〜10が特に好ましい範囲として例示できる。繰り返し数mが大きくなるとポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の融点が高くなる傾向にあるため、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を低温で溶融解させるとの観点から、繰り返し数mを前記範囲にすることが好ましい。
【0029】
また、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)は異なる繰り返し数mを有する環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの混合物であることが好ましく、少なくとも異なる3つ以上の繰り返し数mからなる環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン混合物であることがさらに好ましく、4つ以上の繰り返し数mからなる混合物であることがより好ましく、5つ以上の繰り返し数mからなる混合物であることが特に好ましい。さらに、これら繰り返し数mが連続するものであることが特に好ましい。単一の繰り返し数mを有する単独化合物と比較して異なる繰り返し数mからなる混合物の融点は低くなる傾向にあり、さらに2種類の異なる繰り返し数mからなる環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン混合物と比較して、3種類以上の繰り返し数mからなる混合物の融点はさらに低くなる傾向にあり、さらに不連続の繰り返し数mからなる混合物よりも連続する繰り返し数mからなる混合物の方がさらに融点が低くなる傾向にある。なおここで、各繰り返し数mを有する環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンは高速液体クロマトグラフィーによる成分分割により分析が可能であり、さらにポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の組成、すなわちポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)に含まれる各繰り返し数mを有する環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの重量分率は、高速液体クロマトグラフフィーにおける各環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンのピーク面積比率より算出することが可能である。
【0030】
ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)における不純物成分、即ち環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン以外の成分としては線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンを主に挙げることができる。この線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンは融点が高いため、線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの重量分率が高くなるとポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の融点が高くなる傾向にある。従って、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)における環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの重量分率が上記範囲にあることで、融点の低いポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)となる傾向にある。
【0031】
上記のような特徴を有する本発明におけるポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の還元粘度(η)としては、0.1dL/g以下であることが好ましく例示でき、0.09dL/g以下であることがより好ましく、0.08dL/g以下であることがさらに好ましく例示できる。なお、本発明における還元粘度とは特に断りのない限り、濃度0.1g/dL(ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の重量/98重量%濃硫酸の容量)の濃硫酸溶液について、スルホン化の影響を最小にするために溶解完了直後に、25℃においてオストワルド型粘度計を用いて測定した値である。また、還元粘度の計算は下記式により行った。
η={(t/t0)−1}/C
(ここでのtはサンプル溶液の通過秒数、t0は溶媒(98重量%濃硫酸)の通過秒数、Cは溶液の濃度を表す。)。
【0032】
本発明で用いられるポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を得る方法としては、例えば以下の(a)〜(c)の方法が挙げられる。
(a)少なくともジハロゲン化芳香族ケトン化合物、ジヒドロキシ芳香族化合物、塩基、および有機極性溶媒を含む混合物を加熱して反応させることによる製造方法。
(b)少なくとも線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトン、ジハロゲン化芳香族ケトン化合物、ジヒドロキシ芳香族化合物、塩基および有機極性溶媒を含む混合物を加熱して反応させることによる製造方法。
(c)少なくとも線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトン、塩基性化合物、有機極性溶媒を含む混合物を加熱して反応させることによる製造方法。
【0033】
以上に述べたポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の製造方法(a)、(b)、(c)の代表的な反応式を以下に示す。
【0034】
【化2】

【0035】
本発明におけるポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)には、本発明の目的を損なわない範囲で、各種の熱可塑性樹脂のポリマー、オリゴマー、各種の熱硬化性樹脂、エラストマーあるいはゴム成分などの耐衝撃性向上剤、無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、あるいは、カップリング剤などを添加してもよい。
【0036】
熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PENp)樹脂、液晶ポリエステル等のポリエステル系樹脂や、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリブチレン樹脂等のポリオレフィン樹脂や、スチレン系樹脂、ウレタン樹脂の他や、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、変性PPE樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリスルホン(PSU)樹脂、変性PSU樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、ポリケトン(PK)樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、ポリエーテルニトリル(PEN)樹脂、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、これらの共重合体、変性体、および2種類以上ブレンドした樹脂が挙げられる。
【0037】
熱硬化性樹脂の具体例としては、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。
【0038】
また、成形材料の積層を容易にするために粘着付与剤を配合することも好ましい。粘着付与剤としては軟化点150℃以下で分子内に極性基を有する化合物が好適に用いられる。軟化点は、JIS K7206―1999で規定されるビカット軟化点を意味し、軟化点が150℃以下の物は分子量が比較的小さいので流動性が良く、成形材料の積層時の粘着性が向上し、分子内に極性基を有する物も水素結合などの弱い結合を誘起して、成形材料の積層時の粘着性が向上するので好ましい。具体的には、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−ビニルアクリレート共重合体、テルペン重合体、テルペンフェノール共重合体、ポリウレタンエラストマー、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などが好適に用いられる。
【0039】
<ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)>
本発明におけるポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を重合させることによりポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)が得られる。ここでのポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)とは、パラフェニレンケトン、およびパラフェニレンエーテルを繰り返し構造単位に持つ、下記一般式(II)で表される線状化合物である。
【0040】
【化3】

【0041】
本発明におけるポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の還元粘度(η)に特に制限はないが、好ましい範囲として0.1〜2.5dL/g、より好ましくは0.2〜2.0dL/g、さらに好ましくは0.3〜1.8dL/gを例示できる。かかる好適な粘度範囲に調整することにより、力学特性に優れた成形品が得られる。
【0042】
本発明におけるポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の融点は、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の組成や分子量、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)に含まれる環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの重量分率、さらには加熱時の環境により変化するため、一意的に示すことはできないが、好ましい範囲として、270〜450℃、より好ましくは280〜400℃、さらに好ましくは300〜350℃を例示できる。かかる好適な温度範囲に調整することにより、成形性と耐熱性に優れた成形品が得られる。なおここで、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の融点は、本発明の成形材料からポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)に当たる部位を物理的に取り出し、このサンプルから示差走査型熱量測定装置を用いて吸熱ピーク温度を観測することにより測定することが可能である。
【0043】
ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を加熱重合することによりポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)へと転化する際の加熱温度は、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の融点以上であることが好ましく、このような温度条件であれば特に制限はない。加熱温度がポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の融点未満では加熱重合によりポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)を得るのに長時間が必要になる、もしくは加熱重合が進行せずにポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)が得られなくなる傾向にある。加熱温度の下限としては、160℃以上が例示でき、好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上、さらに好ましくは270℃以上である。この温度範囲では、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)が溶融し、短時間でポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)を得ることができる傾向にある。
【0044】
一方、加熱重合の温度が高すぎるとポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)間、加熱により生成したポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)間、およびポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)とポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)間などでの架橋反応や分解反応に代表される好ましくない副反応が生じやすくなる傾向にあり、得られるポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の特性が低下する場合があるため、このような好ましくない副反応が顕著に生じる温度は避けることが望ましい。加熱温度の上限としては、450℃以下が例示でき、好ましくは400℃以下、より好ましくは350℃以下、さらに好ましくは300℃以下である。この温度範囲以下では、好ましくない副反応によるポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の特性への悪影響を抑制できる傾向にある。公知のポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマーを用いた場合、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマーの融点が高いため、上記の好適な温度範囲では加熱重合に長時間を要する、もしくは加熱重合が進行せずポリフェニレンエーテルエーテルケトンが得られない傾向になるのに対し、本発明における融点が270℃以下という特徴を有するポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)は上記好適な温度範囲において、効率よく加熱重合が進行し、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)が得られる。
【0045】
また、本発明におけるポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)は、得られるポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の融点以下の温度で、加熱重合させることも可能である。かかる重合条件で得られたポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)は、公知のポリフェニレンエーテルエーテルケトンに比べて、融解エンタルピー、ひいては結晶化度が高くなる傾向がある。これはポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の加熱重合と重合によって得られたポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の結晶化が同時に進行する現象、いわゆる結晶化重合が進行しているためと考えている。結晶化重合により得られたポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の融解エンタルピーの下限としては、40J/g以上が例示でき、好ましくは45J/g以上、より好ましくは50J/g以上である。なおここで、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の融解エンタルピーは、本発明の成形材料からポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)に当たる部位を物理的に取り出し、このサンプルから示差走査型熱量測定装置を用いて吸熱ピーク面積を観測することにより測定することが可能である。
【0046】
反応時間は、使用するポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)における環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの重量分率や組成比、加熱温度や加熱重合方法などの条件によって異なるため一様には規定できないが、前記した架橋反応などの好ましくない副反応が起こらないように設定することが好ましく、0.001〜100時間の範囲が例示でき、0.005〜20時間が好ましく、0.005〜10時間がより好ましい。これら好ましい反応時間とすることにより、架橋反応などの好ましくない副反応の進行による得られるポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の特性への悪影響を抑制できる傾向にある。
【0047】
<重合触媒(C)>
本発明において、重合触媒(C)は、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)のポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)への加熱重合反応を加速させるための触媒であり、かかる効果のある化合物であれば特に制限はなく、光重合開始剤、ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、アニオン重合開始剤、遷移金属触媒など公知の触媒を用いることができるが、なかでもアニオン重合開始剤が好ましい。アニオン重合開始剤としては、無機アルカリ金属塩または有機アルカリ金属塩などのアルカリ金属塩を例示することができ、無機アルカリ金属塩としてはフッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム、塩化リチウムなどのアルカリ金属ハロゲン化物を例示でき、また有機アルカリ金属塩としては、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムtert−ブトキシド、カリウムtert−ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシドまたは、ナトリウムフェノキシド、カリウムフェノキシド、ナトリウム−4−フェノキシフェノキシド、カリウム−4−フェノキシフェノキシドなどのアルカリ金属フェノキシド、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどのアルカリ金属酢酸塩を例示することができる。また、これらアニオン重合開始剤は、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を求核攻撃することにより触媒作用を発現していると推測している。従って、これらアニオン重合開始剤と同等の求核攻撃能を有する化合物を触媒として用いることも可能であり、このような求核攻撃能を有する化合物としては、アニオン重合性末端を有するポリマーを挙げることができる。これらアニオン重合開始剤は単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の加熱重合をこれら好ましい触媒の存在下に行うことにより、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)が短時間で得られる傾向にあり、具体的には加熱重合の加熱時間として、2時間以下、さらには1時間以下、0.5時間以下が例示できる。
【0048】
使用する触媒の量は、目的とするポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の分子量ならびに触媒の種類により異なるが、通常、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の主要構成単位である式
【0049】
【化4】

【0050】
の繰り返し単位1モルに対して、0.001〜20モル%、好ましくは0.005〜15モル%、さらに好ましくは0.01〜10モル%である。この好ましい範囲の触媒量を添加することによりポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の加熱重合が短時間で進行する傾向にある。
【0051】
重合触媒(C)の添加方法に際しては、特に制限は無いが、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)と重合触媒(C)からなる混合物を予め調製し、この混合物を強化繊維(A)と複合化させる方法などが例示できる。
【0052】
<成形材料の製造方法>
次に、本発明の成形材料の製造方法は、少なくとも以下の工程から構成される。
工程(I):強化繊維基材(A)を引き出し、連続的に供給する
工程(II):強化繊維基材(A)にポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を複合化して複合体を得る
工程(III):ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)をポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)に重合させる
工程(IV):強化繊維基材(A)、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)からなる複合体を冷却し引き取る
さらに、本発明の成形材料の製造方法は、工程(II)において用いる、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の融点が270℃以下であることを特徴とする。
【0053】
また、生産性の観点からは、本発明の成形材料の製造方法は、工程(II)において、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)に重合触媒(C)を添加し、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)のポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)への重合を促進することが好ましい。
【0054】
各工程は、オフラインで実施することもできるが、経済性、生産性の面から、工程(I)〜(IV)をオンラインで実施することが好ましい。
【0055】
ここで、工程(I)〜(IV)をオンラインで行うとは、工程(I)〜(IV)の全てを一続きの製造ライン(例えば、図1〜3参照)にて連続的ないしは間欠的に行うことを意味する。
【0056】
各工程について、それぞれ説明する。
【0057】
<工程(I)>
工程(I)は、強化繊維基材(A)を製造ラインに供給する工程である。ここで、経済性と生産性良く成形材料を製造する目的から、強化繊維基材(A)を連続的に供給することが好ましい。連続的とは、原料となる強化繊維基材(A)を完全に切断せずに持続的に供給することを意味し、供給速度は一定であってもよいし、間欠的に供給と停止を繰り返してもよい。また、得られる成形材料の賦形性を高める目的で、強化繊維基材(A)にスリット(切れ目)を入れるため、その一部を切断する工程を含んでもよい。
【0058】
また、工程(I)では、強化繊維基材(A)を引き出し、所定の配列に配置する目的も含む。すなわち、供給される強化繊維基材(A)は、ヤーン状であっても、一方向に引き揃えたシート状であっても、予め形状を付与したプリフォーム状であってもよい。具体的には、連続した強化繊維束をクリールにかけ、強化繊維束を引き出し、ローラーを通過させて製造ラインに供給する方法や、同様に複数の強化繊維束を一方向に配列させてシート状に地均しさせ、ロールバーを通過させて製造ラインに供給する方法や、あらかじめ織物や不織布、マットの形態でロール状にした強化繊維基材(A)をクリールにかけ、引き出し、ローラーを通過させて製造ラインに供給する方法などが挙げられる。ここで、高速での引き取りが可能であることから連続した強化繊維束を用いた方法が好ましく用いられ、一度に大量の成形材料を製造可能であることからロールを用いた方法が好ましく用いられる。また、所定の形状になるように配置された複数のロールバーを通過させて製造ラインに供給する方法などが例示できる。さらに、強化繊維基材(A)が平面状に加工されている場合には、葛折りされた状態などから、直接に製造ラインに供給してもよい。なお、各種ローラーやロールバーに駆動装置を設けると、供給速度の調整などを行うことができ、生産管理の上でより好ましい。
【0059】
さらに、工程(I)では、強化繊維基材(A)を50〜500℃、好ましくは80〜400℃、より好ましくは100〜300℃に加熱する工程を含むことが、生産上好ましい。強化繊維基材(A)を加熱することで、工程(II)においてポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の強化繊維基材(A)への定着性を向上させることができる。また、強化繊維基材(A)に付着している収束剤などを軟化させ開繊させることもできる。加熱の方法については、特に制限はなく、熱風や赤外線ヒーターによる非接触加熱、パイプヒーターや電磁誘導による接触加熱などの方法が例示できる。
【0060】
また、工程(I)において、例えば、強化繊維基材(A)が強化繊維束や一方向配列基材である場合、開繊操作を含むことがより好ましい。開繊とは収束された強化繊維束を分繊させる操作であり、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の含浸性をさらに高める効果が期待できる。開繊により、強化繊維基材(A)の厚みは薄くなり、開繊前の強化繊維束の幅をb1(mm)、厚みをa1(μm)、開繊後の強化繊維束の幅をb2(mm)、厚みをa2(μm)とした場合、開繊比=(b2/a2)/(b1/a1)は2.0以上が好ましく、2.5以上がさらに好ましい。
【0061】
強化繊維基材(A)の開繊方法としては、特に制限はなく、例えば凹凸ロールを交互に通過させる方法、太鼓型ロールを使用する方法、軸方向振動に張力変動を加える方法、垂直に往復運動する2個の摩擦体による強化繊維基材(A)の張力を変動させる方法、強化繊維基材(A)にエアを吹き付ける方法を利用できる。
【0062】
<工程(II)>
工程(II)は、強化繊維基材(A)にポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を複合化する工程である。複合化する方法は、特に制限はないが、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の形態により、以下の(1)〜(3)の3つの方法が好ましく例示できる。
【0063】
(1)粒子状、繊維状、フレーク状からなる群から選択される少なくとも1種の形態のポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を強化繊維基材(A)に付与して複合化する方法である。かかる方法において、複合化を行う場合、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)は気相中あるいは液相中で分散していることが好ましい。
【0064】
気相中に分散させたポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を用いる方法とは、すなわち、粒子状、繊維状、フレーク状からなる群から選択される少なくとも1種の形態のポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を気相に散布させ、該気相中に強化繊維基材(A)を通過させる方法である。具体的には、流動床などでポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)が散布された中に、強化繊維基材(A)を通過させる方法や、強化繊維基材(A)に直接ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を散布する方法や、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を荷電させ、強化繊維基材(A)に静電的に付着させる方法などが挙げられる。
【0065】
液相中に分散させたポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を用いる方法とは、すなわち、粒子状、繊維状、フレーク状からなる群から選択される少なくとも1種の形態のポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を液相に分散または溶解させ、該液相中に強化繊維基材(A)を通過させる方法である。なお、ここでの分散とは、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)が二次凝集して1mm以上の粗大凝集体を形成することなく、後述する各形態での好ましいサイズの範囲内を維持することを意味する。かかるポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を液相に分散または溶解させる方法には、特に制限はなく、撹拌装置を用いる方法、振動装置を用いる方法、超音波発生装置を用いる方法、噴流装置を用いる方法などが例示できる。なお、分散状態もしくは溶解状態を維持する観点で、強化繊維基材(A)を通過させる液相でも、これらの方法を用いることがより好ましい。
【0066】
ここで用いる液相とは、水もしくは有機溶媒が挙げられるが、経済性、生産性の観点から、純水または工業用水を用いることがより好ましい。また、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の分散を補助する目的で、アニオン性、カチオン性、非イオン性の各種界面活性剤を併用してもよい。界面活性剤の使用量は、特に制限はないが、0.01〜5重量%が好ましい範囲として例示できる。
【0067】
また、液相を用いた複合化の方法において、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)のとりわけ好ましい形態は、エマルジョンまたはディスパージョンである。このときの分散性の観点から、平均粒径は0.01〜100μmが好ましく、0.05〜50μmがより好ましく、0.1〜20μmがさらに好ましい。
【0068】
ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)が粒子状である場合、粒子の加工性と取扱性の観点から、その平均粒径は50〜300μmが好ましく、80〜250μmがより好ましく、100〜200μmがさらに好ましい。また、繊維状である場合、同様に、平均繊維径は0.5〜50μmが好ましく、1〜30μmがより好ましく、5〜20μmがさらに好ましい。平均繊維長は特に制限はないが、1〜10mmが好ましい範囲として例示できる。また、フレーク状である場合、前記粒子状と同様の厚みを有し、厚みの5〜100倍の長さを有することが好ましい。
【0069】
なお、平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置などを用いて測定することができる。平均繊維径、平均繊維長やフレーク状の厚みや長さは光学顕微鏡を用いて測定するこができる。なお、光学顕微鏡を用いて、平均繊維径、平均繊維長やフレーク状の厚みや長さの測定を行うに際し、20〜100倍に拡大し、任意の400点について測定した平均値を求めればよい。
【0070】
また、液相に有機溶媒を用いる場合、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の加熱による重合の阻害や、生成されるポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の分解や架橋など好ましくない副反応を実質的に引き起こさないものであれば特に制限はなく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、クロルベンゼン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコール、ベンゼン、トルエン、キシレンなどがあげられる。また、二酸化炭素、窒素、水等の無機化合物を超臨界流体状態として溶媒に用いることも可能である。これらの溶媒は1種類または2種類以上の混合物として使用することができる。
【0071】
具体的には、水槽中にポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)のエマルジョンやディスパージョンを供給し、該水槽中に強化繊維基材(A)を通過させる方法や、さらに該水槽中に噴流を用いながら強化繊維基材(A)を通過される方法や、強化繊維基材(A)に直接、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)のエマルジョンやディスパージョンを噴霧する方法などが挙げられる。
【0072】
さらに、液相を用いた複合化の方法では、強化繊維基材(A)を通過させた後、用いた水または有機溶媒を除去(脱液)することが、生産上、より好ましい。例えば、エアブロー、熱風乾燥、吸引濾過などの方法が例示できる。このとき、複合体の水または有機溶媒の脱液率は、特に制限はないが、50〜100%が好ましく、70〜100%がより好ましく、90〜100%がさらに好ましい。また、脱液後の液相は、回収循環され、再利用されることが、生産上および環境上、とりわけ好ましい。ここで、脱液率は、脱液操作前後の複合体の質量差から容易に求めることができる。
【0073】
(2)フィルム状、シート状、不織布状からなる群から選択される少なくとも1種の形態のポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を、強化繊維基材(A)に付与して複合化する方法である。ここで、フィルム状とは平均厚みが200μm以下の厚さのものを言い、シート状とは平均厚みが200μmを超えるものを言う。不織布状とは繊維シート状、ウェブ状で、繊維が一方向またはランダムに配向しており、交絡、融着、接着のいずれかによって繊維間が結合されたものを言う。なお、平均厚みは、シートもしくはフィルムを複数枚重ね、任意の10点をノギスで測定し、得られた厚みを重ねた枚数で除することで求めることができる。
【0074】
具体的には、強化繊維基材(A)をコンベアに移動させ、その片面または両面にフィルム状のポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)をホットローラーで積層する方法や、不織布状のポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)をパンチングで固定する方法や、強化繊維基材(A)と不織布状のポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)をエアジェットで絡合する方法などが例示できる。
【0075】
また、経済性、生産性の観点から、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)は、フィルム状、シート状、不織布状のいずれの形態であってもロール加工されていることが好ましい。ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)が単独でロール加工困難な場合、各形態に加工後に離型紙上に塗布して、ロール加工することが、好ましい方法の1つとして例示できる。
【0076】
(3)加熱溶融させたポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を強化繊維基材(A)に付与して複合化する方法である。ここでの加熱溶融には、押出機、溶融バスなどの装置を用いることができるが、スクリュウ、ギアポンプ、プランジャーなどの溶融したポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を移送する機能を具備していることが好ましい。
【0077】
具体的には、押出機を用いてポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を溶融させつつ、Tダイやスリットダイなどの金型ダイに供給し、該金型ダイ中に強化繊維基材(A)を通過させる方法や、同様にギアポンプにて溶融バスに供給し、該溶融バス内で強化繊維基材(A)をしごきながら通過させる方法や、プランジャーポンプで溶融させたポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)をキスコーターに供給し、強化繊維基材(A)にポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の溶融物を塗布する方法や、同様に、加熱した回転ロールの上に溶融させたポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を供給し、このロール表面に強化繊維基材(A)を通過させる方法が例示できる。
【0078】
また、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を溶融させる工程は、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の加熱重合をなるべく起こさないような温度を設定するのが好ましい。溶融混合物を得る工程および、溶融混合物を含浸させる工程の温度は160〜340℃、好ましくは180〜320℃、より好ましくは200〜300℃、特に好ましくは230〜270℃である。160℃より低い温度で加熱した場合、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)が溶融しない、あるいは溶融に長時間を要する傾向があり望ましくない。340℃より高温で加熱した場合は、ポリフェニレンエーテルエーテルケトオリゴマー(B)の重合が急速に進み、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の生成による粘度上昇が起こり、続く強化繊維基材(A)への含浸工程に悪影響を生じる。
【0079】
さらに、工程(II)では、強化繊維基材(A)とポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)からなる複合体を160〜340℃、好ましくは180〜320℃、より好ましくは200〜300℃、特に好ましくは230〜270℃に加熱する工程を含むことが好ましい。この加熱工程により、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)が軟化もしくは溶融し、強化繊維基材(A)により強固に定着でき、生産性を高めるのに有利である。160℃より低い温度で加熱した場合、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)が溶融しない、あるいは溶融に長時間を要する傾向があり望ましくない。340℃より高温で加熱した場合は、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の重合が急速に進み、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の生成による粘度上昇が起こり、続く強化繊維基材(A)への含浸工程に悪影響を生じる場合や、かかる温度範囲まで耐熱性を持たせる為に装置部品が非常に高価になる場合がある。
【0080】
さらに、加熱工程と同時に、または直後に加圧力を付与することで、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)が強化繊維基材(A)に含浸する効果が得られ、とりわけ好ましい。このときの加圧力は、生産性の観点から、0.1〜5MPaが好ましく、0.3〜4MPaがより好ましく、0.5〜3MPaがさらに好ましい。
【0081】
具体的には、加熱したチャンバー内に複数の加圧ローラーを配置し複合体を通過させる方法や、同様にカレンダーロールを上下に配置し複合体を通過させる方法や、ホットローラーを用いて加熱と加圧を同時に行う方法が例示できる。
【0082】
また、重合触媒(C)を用いる場合、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)への分散性の観点から、工程(II)において重合触媒(C)を添加することが好ましい。この際、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)と重合触媒(C)からなる混合物を、前記した、粒子状、繊維状、フレーク状、フィルム状、シート状、不織布状および加熱溶融させた状態に加工して用いればよい。
【0083】
ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)と重合触媒(C)との混合物を得る方法に、特に制限は無いが、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)に重合触媒(C)を添加した後、均一に分散させることが好ましい。均一に分散させる方法として、例えば機械的に分散させる方法が挙げられる。機械的に分散させる方法として、具体的には粉砕機、撹拌機、混合機、振とう機、乳鉢を用いる方法などが例示できる。また、重合触媒(C)の分散に際して、より均一な分散が可能となるため重合触媒(C)の平均粒径は1mm以下であることが好ましい。
【0084】
<工程(III)>
工程(III)は、前記工程(II)で得られた強化繊維基材(A)とポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)からなる複合体を加熱して、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)をポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)に重合させる工程である。特に、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を重合触媒(C)存在下で加熱することで重合させ、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)に転化させることが好ましい。
【0085】
加熱重合の際の温度の下限としては、160℃以上が例示でき、好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上、さらに好ましくは270℃以上である。この温度範囲では、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)が溶融し、短時間でポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)を得ることができる傾向にある。
【0086】
一方、加熱重合の際の温度の上限としては、450℃以下が例示でき、好ましくは400℃以下、より好ましくは350℃以下、さらに好ましくは300℃以下である。この温度範囲以下では、好ましくない副反応によるポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の特性への悪影響を抑制できる傾向にある。
【0087】
さらに、本発明におけるポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)は、重合により得られるポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の融点以下の温度で重合することも可能である。かかる温度範囲では、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)が結晶化重合することで、通常に比べて結晶化度、ひいては融解エンタルピーの大きいポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)をマトリクス樹脂とする成形材料が得られる。
【0088】
工程(III)での重合が完結するまでの反応時間は、短いほど、工程長を短くすることができたり、または引き取り速度を高めることができたりするなど、生産性、経済性に優れるため好ましい。反応時間としては60分以下が好ましく、10分以下がより好ましく例示できる。反応時間の下限については、特に制限はなく、例えば、0.05分以上が例示できる。
【0089】
また、工程(III)では、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の重合において、架橋反応や分解反応などの好ましくない副反応の発生を抑制する観点から、非酸化性雰囲気下で加熱することが好ましい。ここで、非酸化性雰囲気とは酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を含有しない雰囲気、すなわち、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性および取り扱いの容易さの面から、窒素雰囲気が好ましい。
【0090】
同様に、工程(III)では、減圧下で加熱することが好ましい。ここでは、反応系内の雰囲気を一度、非酸化性雰囲気としてから、減圧条件に調整することがより好ましい。ここでの減圧下とは、反応系内が大気圧よりも低いことを指し、好ましくは0.1〜50kPaであり、0.1〜10kPaがさらに好ましい。
【0091】
さらに、工程(III)では、加熱させると同時に、または加熱させた後に加圧力を付与する工程を含むことが好ましい。強化繊維基材(A)へのポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)およびポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の含浸をより高めることができるため好ましい。ここでの加圧力としては、含浸性と生産性のバランスの観点から、0.1〜10MPaが好ましく、0.2〜5MPaがより好ましく、2〜6MPaがさらに好ましい。0.1MPaより圧力が小さい場合には、成形材料中、ひては得られる成形品中に多数のボイドが発生する可能性があり、10MPaより圧力が大きい場合には、強化繊維基材(A)の配列が大きく乱れる可能性がある。
【0092】
具体的には、窒素置換された系内で、ダブルベルトプレスにより上下から加圧力を付与しながら複合体を通過させる方法や、窒素置換された加熱炉内で、複数配置されたカレンダーロールに複合体を加圧しながら通過させる方法や、複合体を高温のプレス型に配置し、プレス型間を密封して加圧すると同時に型内を窒素置換、そして減圧条件として重合完了後にプレス型間を開放して複合体を引き抜く方法が例示できる。また、これらの装置は、含浸性を向上させる目的で、組み合わせて使用しても良く、長さを稼ぐ目的でライン方向を葛折り状にしても良く、また装置を通過した複合体を折り返して使用し、複数回同じ装置をループさせても良い。
【0093】
<工程IV>
工程(IV)は前記工程(III)で得られた複合体を冷却し、引き取る工程である。冷却する方法は、特に制限はなく、エアを噴射して冷却する方法や、冷却水を噴霧する方法や、冷却バスを通過させる方法や、冷却板の上を通過させる方法などが使用できる。
【0094】
成形材料の製造がオンラインであった場合、引き取り速度は、経済性、生産性に直接影響するため、高いほど好ましい。引き取り速度としては、1〜100m/分が好ましく、5〜100m/分がより好ましく、10〜100m/分がさらに好ましい。
【0095】
具体的には、ニップローラーで引き出す方法や、ドラムワインダーで巻き取る方法や、固定治具で基材を把持して治具ごと引き取る方法が例示できる。また、引き取る際に、基材をスリッターに通して一部を切断してもよいし、ギロチンカッターなどで所定の長さにシート加工してもよいし、ストランドカッターなどで一定長に切断してもよいし、ロール形状のままとしてもよい。
【0096】
なお、本発明の成形材料の製造方法には、その効果を損なわない範囲内で、他の工程を組み合わせることができる。例えば、電子線照射工程、プラズマ処理工程、強磁場付与工程、表皮材積層工程、保護フィルムの貼付工程、アフターキュア工程などが挙げられる。
【0097】
本発明の成形材料の製造方法で得られる成形材料は、強化繊維基材(A)と、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)から構成される。
【0098】
このうち、強化繊維基材(A)とポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の合計が100重量%とした際の、強化繊維基材(A)の含有量は10重量%以上が好ましく、30重量%以上がより好ましく、60重量%以上がさらに好ましく、70重量%以上が特に好ましい。強化繊維基材(A)が10重量%未満では、得られる成形品の力学特性が不十分となる場合がある。一方、強化繊維基材(A)の含有量の上限については特に制限は無いが、90重量%以下が好ましく、80重量%以下がより好ましく、70重量%以下がさらに好ましい。強化繊維基材(A)が90重量%より大きい場合、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の強化繊維基材(A)への含浸が困難となる場合がある。なお、本発明の成形材料における、強化繊維基材(A)の含有量は、強化繊維(A)と、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の供給量を制御することで調節できる。
【0099】
さらに、重合触媒(C)を含む場合、その含有量は、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の主要構成単位である式
【0100】
【化5】

【0101】
の繰り返し単位1モルに対して、0.001〜20モル%、好ましくは0.005〜15モル%、さらに好ましくは0.01〜10モル%である。
【0102】
これらの割合は、強化繊維基材(A)と、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の供給量を制御することで容易に実施できる。例えば、強化繊維基材(A)の供給量は、工程(IV)での引き取り速度で調整することができ、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の供給量は、工程(II)で定量フィーダーなどを用いて供給量を調整することができる。さらに重合触媒(C)の供給量は、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)への添加量を調整することで、成形材料中での添加量も調整できる。
【0103】
また、本発明の製造方法では、成形材料の用法や目的に応じて、含浸率の異なった成形材料を製造することができる。たとえば、より含浸性を高めたプリプレグや、半含浸でのセミプレグ、含浸性の低いファブリックなどである。一般的に、含浸性の高い成形材料ほど、短時間の成形で力学特性に優れる成形品が得られる傾向がある。一方、含浸性が比較的低い成形材料では、ドレープ性に優れ、曲面形状などへの賦形に優れる傾向がある。
【0104】
従って、本発明で得られる成形材料において、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の含浸率についての第1の好ましい態様は、かかる含浸率が80%以上、100%以下である成形材料である。これは、より単純な平面形状の成形品を生産性良く製造する観点で優れている。
【0105】
また、本発明で得られる成形材料において、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の含浸率についての第2の好ましい態様は、かかる含浸率が20%以上、80%未満である成形材料である。これは、ドレープ性に優れる成形材料であって、成形材料を成形型に合わせてあらかじめ賦形できるため、曲面形状のような比較的複雑な成形品を生産性良く製造する観点で優れている。 なお、ここで言うポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の含浸率とは、成形材料の断面を、光学顕微鏡を用いて観察し、含浸しているポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の面積を、該面積とボイド(空隙)の面積の合計で除した割合(%)で表される。
【0106】
なお、光学顕微鏡を用いて、それぞれの面積の測定を行うに際し、20〜100倍に拡大し、任意の20個の像について測定した平均値を求めればよい。
【0107】
含浸率を制御する方法としては、工程(II)でのポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を複合化する際の温度や加圧力、工程(III)でのポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)をポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)に重合させる際の温度や加圧力などが例示できる。通常、前記温度や加圧力が高いほど、含浸率を高める効果がある。また、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の形態がより微細化するほど含浸性を高めることができる。
【0108】
<成形材料の成形方法>
本発明によって得られた成形材料は、任意の構成で1枚以上積層後、熱及び圧力を付与しながら成形することで成形品が得られる。
【0109】
熱及び圧力を付与する方法としては、任意の構成で積層した成形材料を型内もしくはプレス板上に設置した後、型もしくはプレス板を閉じて加圧するプレス成形法、任意の構成で積層した成形材料をオートクレーブ内に投入して加圧・加熱するオートクレーブ成形法、任意の構成で積層した成形材料をフィルムなどで包み込み、内部を減圧にして大気圧で加圧しながらオーブン中で加熱するバッギング成形法、任意の構成で積層した成形材料に張力をかけながらテープを巻き付け、オーブン内で加熱するラッピングテープ法、任意の構成で積層した成形材料を型内に設置し、同じく型内に設置した中子内に気体や液体などを注入して加圧する内圧成形法等が使用される。とりわけ、得られる成形品内のボイドが少なく、外観品位にも優れる成形品が得られることから、金型を用いてプレスする成形方法が好ましく例示できる。
【0110】
成形時の加熱温度の範囲としては、160〜450℃、より好ましくは230〜430℃、さらに好ましくは270〜400℃が例示できる。160℃より低い温度では、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)が溶融せずに成形性に問題がある場合がある。450℃より高い温度では、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の熱劣化が進み、得られる成形品の力学特性が低下する場合がある。
【0111】
なお、ここでの成形時の加熱温度の測定方法は、例えば金型を用いて成形を行う成形方法の場合は、金型の表面温度を熱伝対などの温度計で測定する方法が例示できる。
【0112】
成形時の圧力の範囲としては、0.1〜10MPaが好ましく、0.2〜5MPaがより好ましい範囲として例示できる。0.1MPaより圧力が小さい場合には、得られる成形品中に多数のボイドが発生する可能性があり、10MPaより圧力が大きい場合には、強化繊維基材(A)の配列が大きく乱れる可能性がある。
【0113】
成形時に加熱加圧する時間の範囲としては、特に制限はないが、0.001〜1000分、好ましくは0.01〜300分、より好ましくは0.1〜60分、さらに好ましくは0.3〜30分、特に好ましくは0.5〜10分となる。0.001分より含浸時間が短い場合は、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の溶融が不十分となり、成形品の品位が低下する傾向がある。1000分より含浸時間が長い場合は、成形品の生産性の面で好ましくない。
【0114】
本発明によって得られた成形材料は、インサート成形、アウトサート成形などの一体化成形も容易に実施できる。さらに、成形後にも加熱による矯正処置や、熱溶着、振動溶着、超音波溶着などの生産性に優れた接着工法を活用することもできる。
【0115】
<成形品>
本発明によって得られた成形材料を用いた成形品は、マトリックス樹脂がポリフェニレンエーテルエーテルケトンであるため、耐熱性、機械特性、難燃性、耐薬品性などに優れたものとなる。また、マトリックス樹脂が熱可塑性のポリフェニレンエーテルエーテルケトンであるため、加熱などにより樹脂を可塑化できるのでリサイクルやリペアが容易な成形品となる。
【0116】
成形品としては、スラストワッシャー、オイルフィルター、シール、ベアリング、ギア、シリンダーヘッドカバー、ベアリングリテーナ、インテークマニホールド、ペダル等の自動車部品、シリコンウエハーキャリアー、ICチップトレイ、電解コンデンサートレイ、絶縁フィルム等の半導体・液晶製造装置部品、ポンプ、バルブ、シール等のコンプレッサー部品や航空機のキャビン内装部品といった産業機械部品、滅菌器具、カラム、配管等の医療器具部品や食品・飲料製造設備部品が挙げられる。また、本発明の成形材料は、成形品の厚みが0.5〜2mmといった薄肉の成形品を比較的容易に得ることができる。このような薄肉成形が要求されるものとしては、例えばパーソナルコンピューター、携帯電話などに使用されるような筐体や、パーソナルコンピューターの内部でキーボードを支持する部材であるキーボード支持体に代表されるような電気・電子機器用部材が挙げられる。このような電気・電子機器用部材では、強化繊維に導電性を有する炭素繊維を使用した場合に、電磁波シールド性が付与されるためにより好ましい。
【実施例】
【0117】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
【0118】
本発明に使用した評価方法を下記する。
【0119】
(1)環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの定量
高速液体クロマトグラフィーによって、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)中の環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの定量を行った。測定条件を下記する。
装置 :島津株式会社製 LC−10Avpシリーズ
カラム :Mightysil RP−18GP150−4.6
検出器 :フォトダイオードアレイ検出器(UV=270nmを使用)
カラム温度 :40℃
サンプル :0.1重量%THF溶液
移動相 :THF/0.1w%トリフルオロ酢酸水溶液。
【0120】
(2)示差走査型熱量測定装置
JIS K7121(1987)に準拠し、示差走査型熱量測定装置、DSCシステムTA3000(メトラー社製)を用い、昇温速度10℃/分で測定し、融解ピーク温度を融点とし、融解ピーク面積から融解エンタルピーを求めた。
【0121】
(3)赤外分光分析装置
下記条件により、赤外分光における吸収スペクトルの測定を行った。
装置 :Perkin Elmer System 2000 FT−IR
サンプル調製:KBr法。
【0122】
(4)粘度測定
下記条件により、還元粘度の測定を行った。
粘度計 :オストワルド型粘度計
溶媒 :98重量%硫酸
サンプル濃度:0.1g/dL(サンプル重量/溶媒容量)
測定温度 :25℃
還元粘度計算式 :η={(t/t0)−1}/C
t :サンプル溶液の通過秒数
t0 :溶媒の通過秒数
C :溶液の濃度。
【0123】
(5)成形材料中のポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の含浸率の評価
成形材料の厚み方向断面を以下のように観察して測定した。成形材料をエポキシ樹脂で包埋したサンプルを用意し、成形材料の厚み方向断面が良好に観察できるようになるまで、前記サンプルを研磨した。ここで得られたサンプルを用いて、成形材料の厚み×幅500μmの範囲を超深度カラー3D形状測定顕微鏡VK−9500(コントローラー部)/VK−9510(測定部)((株)キーエンス製)を使用して拡大倍率400倍で撮影した。撮影画像において、樹脂が占める部位の面積および、空隙(ボイド)となっている部位の面積を求め、次式により含浸率を算出した。
含浸率(%)=100×(樹脂が占める部位の総面積)/{(樹脂が占める部位の総面積)+(空隙となっている部位の総面積)}
ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の含浸率の評価は、この含浸率を判断基準とし、以下の3段階で評価し、○以上を合格とした。
○○:含浸率が80%以上、100%以下である。
○ :含浸率が20%以上、80%未満である。
× :含浸率が20%未満である。
【0124】
(6)成形材料を用いて得られた成形品の曲げ試験
繊維方向を一方向に揃えて成形材料を積層し、厚さ2±0.4mmで成形した成形品から、繊維軸方向を長辺として、JIS K 7074−1988に準拠した寸法の試験片を切り出した。
試験機として、”インストロン”(登録商標)万能試験機4201型(インストロン社製)を用いて3点曲げ試験を行い、0°曲げ弾性率および0°曲げ強度を算出した。
【0125】
(7)成形材料を用いて得られた成形品のボイド率評価
成形品の厚み方向断面を以下のように観察して測定した。成形品をエポキシ樹脂で包埋したサンプルを用意し、成形品の厚み方向断面が良好に観察できるようになるまで、前記サンプルを研磨した。ここで得られたサンプルを用いて、成形品の厚み×幅500μmの範囲を超深度カラー3D形状測定顕微鏡VK−9500(コントローラー部)/VK−9510(測定部)((株)キーエンス製)を使用して拡大倍率400倍で撮影した。撮影画像において、空隙(ボイド)となっている部位の面積を求め、次式により含浸率を算出した。
ボイド率(%)=100×(空隙となっている部位の総面積)/(成形品の観察部位の総面積)
成形品のボイド率評価は、このボイド率を判断基準とし、以下の3段階で評価し、○以上を合格とした。
○○:ボイド率が0%以上、20%以下である。成形品の物性バラつきが非常に小さい。
○ :ボイド率が20%より大きく、40%以下である。成形品の物性バラつきが小さい。
× :ボイド率が40%より大きい。成形品の物性バラつきが大きい。
【0126】
<ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の調製>
(参考例1)ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の製造方法(a)
攪拌機、窒素吹き込み管、ディーン・スターク装置、冷却管、温度計を具備した4つ口フラスコに、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン2.40g(11mmol)、ヒドロキノン1.10g(10mmol)、無水炭酸カリウム1.52g(11mmol)、ジメチルスルホキシド100mL、トルエン10mLを仕込んだ。混合物中のベンゼン環成分1.0モルに対するジメチルスルホキシドの量は3.13リットルである。窒素を通じながら140℃まで昇温し、140℃で1時間保持、その後160℃にまで昇温し160℃で4時間保持して反応を行った。反応終了後、室温にまで冷却して反応混合物を調製した。
【0127】
得られた反応混合物を約0.2g秤取り、THF約4.5gで希釈、濾過によりTHF不溶成分を分離除去することにより高速液体クロマトグラフィー分析サンプルを調製、反応混合物の分析を行った。結果、繰り返し数m=2〜6の連続する5種類の環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの生成を確認、ヒドロキノンに対するポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の収率は15.3%であった。
【0128】
このようにして得られた反応混合物50gを分取し、1重量%酢酸水溶液150gを加えた。撹拌してスラリー状にした後、70℃に加熱して30分間撹拌を継続した。スラリーをガラスフィルター(平均孔径10〜16μm)で濾過して固形分を得た。得られた固形分を脱イオン水50gに分散させ70℃で30分間保持して濾過して固形分を得る操作を3回繰り返した。得られた固形分を70℃で一晩真空乾燥に処し、乾燥固体約1.24gを得た。
【0129】
さらに、上記で得られた乾燥固体1.0gをクロロホルム100gを用いて、浴温80℃で5時間ソックスレー抽出を行った。得られた抽出液からエバポレーターを用いてクロロホルムを除去して固形分を得た。この固形分にクロロホルム2gを加えた後、超音波洗浄器を用いて分散液として、メタノール30gに滴下した。これにより生じた析出成分を平均ポアサイズ1μmの濾紙を用いて濾別後、70℃で3時間真空乾燥に処し、白色固体を得た。得られた白色固体は0.14g、反応に用いたヒドロキノンに対する収率は14.0%であった。
【0130】
この白色粉末は赤外分光分析における吸収スペクトルよりフェニレンエーテルケトン単位からなる化合物であることを確認、また高速液体クロマトグラフィーにより成分分割したマススペクトル分析(装置;日立製M−1200H)、さらにMALDI−TOF−MSによる分子量情報により、この白色粉末は繰り返し数mが2〜6の連続する5種類の環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン混合物を主要成分とするポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)であることが分かった。また、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)中における環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン混合物の重量分率は81%であった。なお、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)における環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン以外の成分は線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマーであった。
【0131】
このようなポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の融点を測定した結果、163℃の融点を有することが分かった。また、還元粘度を測定した結果、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)は0.02dL/g未満の還元粘度を有していることが分かった。
【0132】
また、上記したソックスレー抽出によるポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の回収における、クロロホルム不溶の固形成分を70℃で一晩真空乾燥に処しオフホワイト色の固形分約0.85gを得た。分析の結果、赤外分光分析における吸収スペクトルより線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンであることを確認した。また、還元粘度の測定を行った結果、この線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンは0.45dL/gの還元粘度を有していることが分かった。
【0133】
(参考例2)ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の製造方法(b)
ここでは、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の製造方法により副生する線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンを用いたポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の製造方法(b)について記す。
【0134】
攪拌機を具備した100mLのオートクレーブに4,4’−ジフルオロベンゾフェノン0.22g(1mmol)、ヒドロキノン0.11g(1mmol)、無水炭酸カリウム0.14g(1mmol)、参考例1記載の方法により得られた線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(還元粘度;0.45dL/g)1.15g(4mmol)、N−メチル−2−ピロリドン50mLを仕込んだ。混合物中のベンゼン環成分1.0モルに対するN−メチル−2−ピロリドンの量は3.33リットルである。
【0135】
反応容器を室温・常圧下にて窒素ガス下に密閉した後、400rpmで撹拌しながら、室温から140℃まで昇温し140℃で1時間保持、その後180℃にまで昇温し180℃で3時間保持、次いで230℃にまで昇温し230℃で5時間保持し反応を行った。
【0136】
得られた反応混合物を約0.2g秤取り、THF約4.5gで希釈、濾過によりTHF不溶成分を分離除去することにより高速液体クロマトグラフィー分析サンプルを調製、反応混合物の分析を行った。結果、繰り返し数m=2〜8の連続する7種類の環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの生成を確認、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン混合物の収率は8.3%であった。
【0137】
また、参考例1記載の方法により上記反応混合物からポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の回収を行った結果、収率8.0%でポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を得た。得られたポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の分析を行った結果、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)中における環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン混合物の重量分率は77%であり、165℃の融点を有することが分かった。また、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の還元粘度は0.02dL/g未満であることも分かった。
【0138】
(参考例3)
ここでは、特許公表2007−506833の実施例に記載の一般的な方法によるポリフェニレンエーテルエーテルケトンの製造方法に準じた合成について記す。
【0139】
攪拌機、窒素吹き込み管、ディーン・スターク装置、冷却管、温度計を具備した4つ口フラスコに4,4’−ジフルオロベンゾフェノン22.5g(103mmol)、ヒドロキノン11.0g(100mmol)、およびジフェニルスルホン49gを仕込んだ。混合物中のベンゼン環成分1.0モルに対するジフェニルスルホンの量は約0.16リットルである。窒素を通じながら140℃にまで昇温したところ、ほぼ無色の溶液を形成した。この温度で無水炭酸ナトリウム10.6g(100mmol)及び無水炭酸カリウム0.28g(2mmol)を加えた。温度を200℃に上げて1時間保持し、250℃に上げて1時間保持、次いで315℃に上げて3時間保持した。
【0140】
得られた反応混合物を高速液体クロマトグラフィーにて分析した結果、ヒドロキノンに対する環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン混合物の収率は1%未満と痕跡量であった。
【0141】
反応混合物を放冷して粉砕し、水およびアセトンで洗浄することにより、副生塩及びジフェニルスルホンを洗浄除去した。得られたポリマーを熱風乾燥機中、120℃で乾燥させて粉末を得た。
【0142】
得られた粉末約1.0gを、クロロホルム100gを用いて浴温80℃で5時間ソックスレー抽出を行った。得られた抽出液からエバポレーターを用いてクロロホルムを除去して少量のクロロホルム可溶成分を得た。この回収したクロロホルム可溶成分の、反応に用いたヒドロキノンに対する収率は1.2%であった。高速液体クロマトグラフィーにより、回収したクロロホルム可溶成分の分析を行った結果、このクロロホルム可溶成分中には環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンおよび線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマーが含まれていることが分かった。この線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマーは溶剤溶解性などの特性が環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンと類似しており、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンからの分離が困難な化合物である。また、上記の回収したクロロホルム可溶成分中に含まれる環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン混合物は、繰り返し数m=4、5からなり、さらに繰り返し数m=4の環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの重量分率が80%以上を占めるものであった。また、この回収したクロロホルム可溶成分の融点は約320℃であった。これは、この方法により得られたクロロホルム可溶成分を占める環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン4量体(m=4)の含有率が高いことに起因すると推測している。
【0143】
また、上記したソックスレー抽出において、クロロホルムに不溶の固形成分を70℃で一晩真空乾燥に処しオフホワイト色の固形分約0.98gを得た。分析の結果、赤外分光分析における吸収スペクトルより線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンであることを確認した。また、還元粘度の測定を行った結果、この線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンは0.75dL/gの還元粘度を有していることが分かった。
【0144】
(参考例4)ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の製造方法(c)
ここでは、参考例3による方法で得られた線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(還元粘度;0.75dL/g)を用いた環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの製造方法(c)について記す。
【0145】
攪拌機を具備した1リットルのオートクレーブに参考例3記載の方法により得られたポリフェニレンエーテルエーテルケトン14.4g(50mmol)、フッ化セシウム1.52g(10mmol)、N−メチル−2−ピロリドン500mLを仕込んだ。混合物中のベンゼン環成分1.0モルに対するN−メチル−2−ピロリドンの量は3.33リットルである。
【0146】
反応容器を室温・常圧下にて窒素ガス下に密閉した後、400rpmで撹拌しながら、室温から140℃まで昇温し140℃で1時間保持、その後180℃にまで昇温し180℃で3時間保持、次いで230℃にまで昇温し230℃で5時間保持し反応を行った。
【0147】
得られた反応混合物を約0.2g秤取り、THF約4.5gで希釈、濾過によりTHF不溶成分を分離除去することにより高速液体クロマトグラフィー分析サンプルを調製、反応混合物の分析を行った。結果、繰り返し数m=2〜8の連続する7種類の環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン混合物の生成を確認、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン混合物の収率は13.7%であった。(ここでの環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン混合物の収率は、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの生成量と、反応に用いたポリフェニレンエーテルエーテルケトンの量の比較により算出した。)。
【0148】
また、参考例1記載の方法により上記反応混合物からポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の回収を行った結果、収率13.7%でポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を得た。得られたポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)中における環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン混合物の重量分率は79%であり、165℃の融点を有することが分かった。また、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)は0.02dL/g未満であることも分かった。
【0149】
(実施例1)
図1に示す装置を用いて、成形材料の製造方法を説明する。なお、この製造方法で用いる装置構成を(i)とする。
【0150】
工程(I):炭素繊維トレカ(登録商標)T700S−12K(東レ(株)製)を強化繊維束の間隔が1〜5mmとなるように、幅100mmの間に複数本引き揃え、製造ラインに供する。ロールバー1に強化繊維束をかけて地均し、含浸バス2にフィードし、該含浸バス中の回転ローラー3を通過させ、次に、熱風乾燥炉4を通し、さらにダブルベルトプレス5、加熱チャンバー15、ホットローラー17の順で通過させ、ニップローラー6で張力をかけて引き取る。ここでの引き取り速度を3m/分に設定して、工程が安定した後、予熱用の赤外線ヒーター7で強化繊維束を150℃に加熱する。
【0151】
工程(II):参考例1で調製したポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)に、重合触媒(C)を所定量添加したものをディスパージョンとし、ポンプ8にて含浸バスに供給した。回転ローラーがディスパージョンに浸漬されることで、強化繊維束にポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)と重合触媒(C)が付与される。このときの、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)と重合触媒(C)の付着量を、繊維重量含率(Wf)が64%となるように、強化繊維束を浸漬させる長さを調整する。さらに、熱風乾燥炉4を140℃に調整して、強化繊維束から水分の90%以上を除去し、強化繊維基材(A)とポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)と重合触媒(C)からなる複合体を得た。
【0152】
ライン方向に4mの長さを有するダブルベルトプレスを、温度230℃、圧力3MPaの条件にて用い、複合体を加熱プレスしながら通過させて、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を強化繊維基材(A)に加熱含浸させて、強化繊維基材(A)とポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)と重合触媒(C)からなる含浸体を得た。この際、ダブルベルトプレスを囲うチャンバー9の吸気口10から窒素パージを行い、チャンバー中の酸素濃度を1体積%以下に調整した。
【0153】
工程(III):ライン方向に30mの長さを有する加熱チャンバー15を、温度400℃の条件にて用い、含浸体を加熱しながら通過させて、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を重合させる。さらにホットローラー17を用いて、400℃、圧力1MPaの条件で成形し、強化繊維基材(A)とポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)と重合触媒(C)からなる重合体を得た。この際、加熱チャンバー15の吸気口16から窒素パージを行い、チャンバー中の酸素濃度を1体積%以下に調整した。
【0154】
工程(IV):温度50℃の冷却板11に重合体を通し、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)を固化させ、ニップロールで引き取った後、ギロチンカッター12で長さ1m毎にカットして、幅100mmのシート状の成形材料とした。
【0155】
上記工程は全てオンラインで実施され、連続的に成形材料を製造できた。得られた成形材料からポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)を物理的に分離し、融点測定、融解エンタルピー測定および粘度測定に供した。
【0156】
得られた成形材料の繊維方向をそろえて、成形品の厚さが2±0.4mmとなるよう積層した後、プレス成形機を用いて、金型表面温度400℃、成形圧力3MPaで3分間加熱加圧した後、金型を冷却し、成形品を脱型することで積層板を得た。得られた積層板から曲げ試験片を切り出し、0°方向の曲げ試験を行った。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
【0157】
(実施例2)
工程(III)における加熱チャンバー温度を300℃に代えて、強化繊維基材(A)の引き取り速度を1m/分に変更した以外は実施例1と同様の方法で成形材料を製造した。得られた成形材料を実施例1と同様に各種評価に供した。ここで得られた成形材料は実施例1よりも、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の融点、および融解エンタルピーが高い特徴があった。各プロセス条件及び評価結果を表1に記載した。
【0158】
(比較例1)
参考例3で調製したポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で成形材料を製造した。得られた成形材料を実施例1と同様に各種評価に供した。ここで得られた成形材料は実施例1に比べ、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の含浸率が低く、得られる成形品もボイドが多く、力学特性が低かった。これは、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の強化繊維基材(A)への含浸が不十分であった為だと考えられる。各プロセス条件及び評価結果を表1に記載した。
【0159】
(比較例2)
工程(II)における、ダブルベルトプレスの温度を350℃に変更した以外は、比較例1と同様の方法で成形材料を製造した。得られた成形材料を実施例1と同様に各種評価に供した。ここで得られた成形材料は、比較的ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の含浸率が高かったが、含浸工程の温度が高く、装置負荷が大きい為に、経済的に好ましい方法では無かった。各プロセス条件及び評価結果を表1に記載した。
【0160】
(比較例3)
ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)に代えて、VICTREX(登録商標)PEEKTM151G(ビクトレックス・エムシー(株)製ポリエーテルエーテルケトン樹脂、融点343℃)を用い、工程(II)における、ダブルベルトプレスの温度を400℃に変更した以外は実施例1と同様の方法で成形材料を製造した。得られた成形材料を実施例1と同様に各種評価に供した。ここで得られた成形材料は実施例1に比べ、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の含浸率が低く、得られる成形品もボイドが多く、力学特性が低かった。さらに、含浸工程の温度が高く、装置負荷が大きい為に、経済的に好ましい方法では無かった。各プロセス条件及び評価結果を表1に記載した。
【0161】
【表1】

【0162】
表1の実施例および比較例より以下のことが明らかである。実施例1、および2の成形材料の製造方法は、本発明におけるポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を用いるため、比較例1〜3に比べて成形材料の製造におけるプロセス温度および含浸性で優れ、また、この成形材料を用いた成形品の力学特性に優れることは明らかである。
【0163】
(実施例3)
図2に示す装置を用いて、成形材料の製造方法を説明する。なお、この製造方法で用いる装置構成を(ii)とする。
【0164】
工程(I):炭素繊維トレカ(登録商標)T700S−12K(東レ(株)製)を強化繊維束の間隔が1〜5mmとなるように、幅100mmの間に複数本引き揃え、製造ラインに供する。ロールバー21に強化繊維束をかけて地均し、ベルトコンベア22にフィードし、さらに上下が対になったホットローラー23に挟み込み、ニップローラー24で張力をかけてドラムワインダー25で引き取る。ここでの引き取り速度を5m/分に設定して、工程が安定した後、予熱用の赤外線ヒーター26で強化繊維束を150℃に加熱する。
【0165】
工程(II):参考例1で調製したポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)と重合触媒(C)からなる混合物を230℃で溶融させ、得られた溶融物を、ナイフコーターを使用して離型紙上に所定に厚みに塗布し、フィルムを製造した。このフィルムを引き出しワインダー27に掛けて、離型紙とともに、230℃、1MPaの条件でホットローラー28に供給し、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を強化繊維基材(A)に加熱含浸させて、強化繊維基材(A)とポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)と重合触媒(C)からなる含浸体を得た。なお、離型紙は巻き取りワインダー29にて巻き取ることで除去した。このとき、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の付着量を測定した結果、繊維重量含率(Wf)が64%であった。
【0166】
工程(III):ライン方向に50mの長さを持つ加熱チャンバー30の温度を400℃とし、ホットローラー23を圧力0.1MPaの条件にて、含浸体を通過させて、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を重合させることで重合体を得た。この際、加熱チャンバー30の吸気口31から窒素パージを行い、加熱チャンバー中の酸素濃度を1体積%以下に調整した。
【0167】
工程(IV):温度50℃の冷却板32に重合体を通し、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)を固化させ、ニップロールで引き取った後、ドラムワインダーに巻き取って、幅100mmの成形材料とした。
【0168】
上記工程は全てオンラインで実施され、連続的に成形材料を製造できた。得られた成形材料からポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)を物理的に分離し、融点測定、融解エンタルピー測定および粘度測定に供した。
【0169】
得られた成形材料の繊維方向をそろえて、成形品の厚さが2±0.4mmとなるよう積層した後、プレス成形機を用いて、金型表面温度400℃、成形圧力3MPaで3分間加熱加圧した後、金型を冷却し、成形品を脱型することで積層板を得た。得られた積層板から曲げ試験片を切り出し、0°方向の曲げ試験を行った。各プロセス条件および評価結果を表2に記載した。
【0170】
(実施例4)
工程(III)における加熱チャンバー温度を300℃に代えて、強化繊維基材(A)の引き取り速度を1.7m/分に変更した以外は実施例3と同様の方法で成形材料を製造した。得られた成形材料を実施例3と同様に各種評価に供した。ここで得られた成形材料は実施例3よりも、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の融点、および融解エンタルピーが高い特徴があった。各プロセス条件及び評価結果を表2に記載した。
【0171】
(比較例4)
参考例3で調製したポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を用い、工程(II)における、フィルム化温度、およびホットローラーの温度を350℃に変更した以外は、実施例3と同様の方法で成形材料を製造した。得られた成形材料を実施例3と同様に各種評価に供した。ここで得られた成形材料は実施例3に比べ、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の含浸率が低く、得られる成形品もボイドが多く、力学特性が低かった。これは、フィルム化の時点で、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)重合が進行し、強化繊維基材(A)への含浸が不十分であった為だと考えられる。各プロセス条件及び評価結果を表2に記載した。
【0172】
(比較例5)
ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)に代えて、VICTREX(登録商標)PEEKTM151G(ビクトレックス・エムシー(株)製ポリエーテルエーテルケトン樹脂、融点343℃)を用い、工程(II)における、フィルム化温度、およびホットローラーの温度を400℃に変更した以外は、実施例3と同様の方法で成形材料を製造した。得られた成形材料を実施例3と同様に各種評価に供した。ここで得られた成形材料は実施例3に比べ、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の含浸率が低く、得られる成形品もボイドが多く、力学特性が低かった。各プロセス条件及び評価結果を表2に記載した。
【0173】
【表2】

【0174】
表2の実施例および比較例より以下のことが明らかである。実施例3、および4の成形材料の製造方法は、本発明におけるポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を用いるため、比較例4、および5に比べて成形材料の製造におけるプロセス温度および含浸性で優れ、また、この成形材料を用いた成形品の力学特性に優れることは明らかである。
【0175】
(実施例5)
図3に示す装置を用いて、成形材料の製造方法を説明する。なお、この製造方法で用いる装置構成を(iii)とする。
【0176】
工程(I):炭素繊維トレカ(登録商標)T700S−12K(東レ(株)製)を強化繊維束の間隔が1〜5mmとなるように、幅100mmの間に複数本引き揃え、製造ラインに供する。ロールバー41に強化繊維束をかけて地均し、カレンダーロール42にフィードし、ニップローラー43で張力をかけてドラムワインダー44で引き取る。ここでの引き取り速度を10m/分に設定して、工程が安定した後、予熱用の赤外線ヒーター45で強化繊維束を150℃に加熱する。
【0177】
工程(II):参考例1で調製したポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)に、重合触媒(C)を所定量添加したものを粉砕により粒子化した。この粒子を、定量粉体供給機46から、繊維重量含率(Wf)が64%となるよう、強化繊維束に散布し、さらに赤外線ヒーター52で230℃の温度に加熱することにより、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)と重合触媒(C)を強化繊維基材(A)に融着させた複合体を得た。
【0178】
工程(III):加熱チャンバー47の温度を400℃とし、複合体を、カレンダーローラー42で張力をかけながら、ライン長さとして100mの距離を通過させることにより、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を重合させた重合体を得た。この際、加熱チャンバー47の吸気口48から窒素パージを行い、加熱チャンバー中の酸素濃度を1体積%以下に調整した。
【0179】
工程(IV):温度50℃の冷却板49に重合体を通し、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)を固化させ、ニップロールで引き取った後、ドラムワインダーに巻き取って、幅100mmの成形材料とした。
上記工程は全てオンラインで実施され、連続的に成形材料を製造できた。得られた成形材料からポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)を物理的に分離し、融点測定、融解エンタルピー測定および粘度測定に供した。
【0180】
得られた成形材料の繊維方向をそろえて、成形品の厚さが2±0.4mmとなるよう積層した後、プレス成形機を用いて、金型表面温度400℃、成形圧力3MPaで3分間加熱加圧した後、金型を冷却し、成形品を脱型することで積層板を得た。得られた積層板から曲げ試験片を切り出し、0°方向の曲げ試験を行った。各プロセス条件および評価結果を表3に記載した。
【0181】
(実施例6)
参考例2で調製したポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を用いた以外は、実施例5と同様の方法で成形材料を製造した。得られた成形材料を実施例5と同様に各種評価に供した。各プロセス条件及び評価結果を表3に記載した。
【0182】
(比較例6)
参考例3で調製したポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を用い、工程(II)における、融着工程の温度を350℃に変更した以外は、実施例5と同様の方法で成形材料を製造した。得られた成形材料を実施例5と同様に各種評価に供した。ここで得られた成形材料は実施例5に比べ、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の含浸率が低く、得られる成形品もボイドが多く、力学特性が低かった。これは、融着工程の時点で、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の重合が進行し、強化繊維基材(A)への含浸が不十分であった為だと考えられる。各プロセス条件及び評価結果を表3に記載した。
【0183】
(実施例7)
参考例4で調製したポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を用いた以外は、実施例5と同様の方法で成形材料を製造した。得られた成形材料を実施例5と同様に各種評価に供した。各プロセス条件及び評価結果を表3に記載した。
【0184】
(比較例7)
ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)に代えて、VICTREX(登録商標)PEEKTM151G(ビクトレックス・エムシー(株)製ポリエーテルエーテルケトン樹脂、融点343℃)を用い、工程(II)における、融着工程の温度を400℃に変更した以外は、実施例5と同様の方法で成形材料を製造した。得られた成形材料を実施例5と同様に各種評価に供した。ここで得られた成形材料は実施例5,6および7に比べ、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の含浸率が低く、得られる成形品もボイドが多く、力学特性が低かった。各プロセス条件及び評価結果を表3に記載した。
【0185】
(実施例8)
工程(III)における加熱チャンバー温度を350℃に変更した以外は実施例5と同様の方法で成形材料を製造した。得られた成形材料を実施例5と同様に各種評価に供した。各プロセス条件及び評価結果を表3に記載した。
【0186】
(実施例9)
工程(III)における加熱チャンバー温度を300℃に代えて、強化繊維基材(A)の引き取り速度を3.3m/分に変更した以外は実施例5と同様の方法で成形材料を製造した。得られた成形材料を実施例5と同様に各種評価に供した。ここで得られた成形材料は実施例5よりも、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)の融点、および融解エンタルピーが高い特徴があった。各プロセス条件及び評価結果を表3に記載した。
【0187】
(実施例10)
強化繊維基材(A)の含有量を76重量%とし、参考例1のポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)の含有量を24重量%に変更した以外は、実施例5と同様の方法で成形材料を製造した。得られた成形材料を実施例5と同様に各種評価に供した。各プロセス条件及び評価結果を表3に記載した。
【0188】
【表3】

【0189】
表3の実施例および比較例より以下のことが明らかである。実施例5、6、および7の結果より、本発明におけるポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)はその製造方法によらず、比較例6、および7に比べて成形材料の製造におけるプロセス温度および含浸性で優れ、また、この成形材料を用いた成形品の力学特性に優れることは明らかである。
【0190】
実施例8、および9より、本発明におけるポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)は、350℃、および300℃でも良好に重合させることが可能であり、これらの方法が、成形材料の製造においてプロセス温度に優れた方法であることは明らかである。
【0191】
実施例10より、本発明の成形材料の製造方法によれば、強化繊維基材(A)の含有量を76重量%としても、成形材料の製造におけるプロセス温度および含浸性で優れ、また、この成形材料を用いた成形品の力学特性に優れることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0192】
本発明の成形材料の製造方法は、強化繊維基材とポリフェニレンエーテルエーテルケトンを容易に複合化させることができるため、経済性、生産性を高めることができ、成形材料の製造に有用である。
【符号の説明】
【0193】
1,21,41:ロールバー
2:含浸バス
3:回転ローラー
4:熱風乾燥炉
5:ダブルベルトプレス
6,24,43:ニップローラー
7,26,45,52:赤外線ヒーター
8:ポンプ
9:チャンバー
10,16,31,48:吸気口
11,32,49:冷却板
12:ギロチンカッター
13,33,50:強化繊維束
14,34,51:成形材料
22:ベルトコンベア
25,44:ドラムワインダー
27:引き出しワインダー
17,23,28:ホットローラー
29:巻き取りワインダー
15,30,47:加熱チャンバー
42:カレンダーロール
46:定量粉体供給機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維基材(A)を引き出し、連続的に供給する工程(I)、
該成分(A)にポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B)を複合化して複合体を得る工程(II)、
該成分(B)をポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B’)に重合させる工程(III)、
および該成分(A)、該成分(B’)からなる複合体を冷却し引き取る工程(IV)
を有してなる成形材料の製造方法であって、該成分(B)の融点が270℃以下である成形材料の製造方法。
【請求項2】
前記成分(B)が環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンを60重量%以上含む請求項1に記載の成形材料の製造方法。
【請求項3】
前記成分(B)が異なる繰り返し数mを有する環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの混合物である請求項1または2のいずれかに記載の成形材料の製造方法。
【請求項4】
前記工程(II)において、さらに重合触媒(C)を複合化させる請求項1〜3のいずれかに記載の成形材料の製造方法。
【請求項5】
前記工程(I)〜(IV)がオンラインで実施されてなる、請求項1〜4に記載の成形材料の製造方法。
【請求項6】
前記工程(II)において、加熱溶融させた前記成分(B)を前記成分(A)に付与して複合化させるする請求項1〜5のいずれかに記載の成形材料の製造方法。
【請求項7】
前記工程(II)において、粒子状、繊維状、フレーク状からなる群から選択される少なくとも1種の形態の前記成分(B)を前記成分(A)に付与して複合化させる、請求項1〜5のいずれかに記載の成形材料の製造方法。
【請求項8】
前記工程(II)において、フィルム状、シート状、不織布状からなる群から選択される少なくとも1種の形態の前記成分(B)を前記成分(A)に付与して複合化させる、請求項1〜5のいずれかに記載の成形材料の製造方法。
【請求項9】
前記工程(III)における重合を160℃以上の温度で行う請求項1〜8のいずれかに記載成形材料の製造方法。
【請求項10】
前記工程(III)が、さらに0.1〜10MPaの加圧力を付与する工程を含む、請求項1〜9のいずれかに記載の成形材料の製造方法。
【請求項11】
前記工程(IV)の引き取り速度が1〜100m/分である、請求項1〜10のいずれかに記載の成形材料の製造方法。
【請求項12】
前記成分(A)と前記成分(B)の合計が100重量%とした際の前記成分(A)の含有量が10重量%以上である請求項1〜11のいずれかに記載の成形材料の製造方法。
【請求項13】
前記成分(C)の含有量が、前記成分(B)中のエーテルエーテルケトン構成単位1モルに対し0.001〜20モル%である請求項4に記載の成形材料の製造方法。
【請求項14】
前記成分(A)が、炭素繊維の単繊維を少なくとも10,000本含有してなる、請求項1〜13のいずれかに記載の成形材料の製造方法。
【請求項15】
前記成分(C)がアルカリ金属塩である請求項4に記載の成形材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−6353(P2013−6353A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140692(P2011−140692)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】