説明

成形材料

【課題】シリコーン系樹脂を使用しなくても成形精度に優れ、硬度が高く、良好な外観を有する成形体を製造する際に好適に使用することができる成形材料、前記成形材料から形成された樹脂フィルム、ならびに原料として前記成形材料が用いられた成形体およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】成形体を製造する際に原料として用いられる成形材料であって、(メタ)アクリル系樹脂エマルション、多官能(メタ)アクリル酸エステルおよび重合開始剤を含有することを特徴とする成形材料、前記成形材料から形成された樹脂フィルム、ならびに基材上に成形材料層が形成されてなる成形体であって、前記成形材料層が前記成形材料から形成された成形体およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形材料に関する。さらに詳しくは、本発明は、成形型に対する追随性に優れ、複雑な形状を有する樹脂成形体用の成形材料などとして好適に使用することができる成形材料、当該成形材料から形成された樹脂フィルム、ならびに原料として前記成形材料が用いられた成形体およびその製造方法に関する。前記成形体は、例えば、偏光子保護フィルム、有機エレクトロルミネッセンス発光装置などに使用することが期待されるものである。
【背景技術】
【0002】
近年、成形材料として種々のものが開発されている。金型転写性および成形加工性に優れた成形材料として、シリコーン系熱硬化性液状樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1の実施例1〜3参照)。しかし、前記成形材料は、シリコーン系樹脂を主成分とするものであるため、金型転写性および成形加工性に優れる半面、当該成形材料を用いて製造された成形体は、シリコーン系樹脂が用いられていることに起因して、硬度が低いという欠点がある。
【0003】
したがって、近年、成形精度に優れ、硬度が高く、良好な外観を有する成形体を製造する際に好適に使用することができる成形材料の開発が待ち望まれている。
【0004】
また、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイなどのディスプレイに用いられる光学部品、レンズなどの光学部材では、空気と接触する界面で太陽光線、照明などの光線の反射が視認性を低下させることがある。そこで、光学部材の表面で光線が反射することを抑制するために、光学部材に防眩〔AG(Anti−Glare)〕処理、反射防止〔AR(Anti−Refrection)〕処理などを施すことが考えられている。
【0005】
ここで、防眩処理とは、微粒子などを光学部材に塗布することによってその表面に凹凸構造を付与し、光線を散乱させることにより、反射像を散らして輪郭をぼやかせる処理を意味する。また、反射防止処理とは、基材の表面に当該基材とは屈折率が異なる膜を光の波長程度の厚さで形成させることにより、光線の干渉を生じさせ、反射率を低減させる処理を意味する。
【0006】
また、光線の反射を防止するために、モスアイ(Moth Eye:蛾の目)構造を基材に付与することが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。モスアイ構造を基材に付与した場合、当該基材の表面に可視光線の波長よりも小さい山型の突起が形成されるので、基材と空気との境界領域の屈折率は、突起を形成している材料の屈折率と空気の屈折率との中間値となる。基材と空気との境界領域では、基材の突起と空気との占有比率は、突起の高さ方向で変化することから、基材と空気との境界領域の屈折率は、可視光線の波長よりも短い距離で連続的に変化する。その結果、基材と空気との界面が、屈折率が異なる界面として機能しなくなるので、当該界面における可視光線の反射を抑制することができる。
【0007】
モスアイ構造を基材に付与する方法としては、成形型に刻み込んだナノメートルサイズの凹凸構造を基材に転写する方法、いわゆるナノインプリント法が知られている。ナノインプリント法としては、
(1)熱可塑性を有する基材を加熱することによって軟化させ、軟化した基材に成形型を押し当てることにより、賦型した後、冷却し、基材から成形型を離型する方法、
(2)基材に硬化性を有する材料を塗布し、当該材料に成形型を押し当てた状態で活性エネルギー線を照射するかまたは加熱することにより、当該材料を硬化させる方法(例えば、特許文献2参照)
などが知られている。
【0008】
前記方法のなかでは、前記(2)の方法、なかでも硬化性を有する材料を基材に塗布し、当該材料に成形型を押し当てた状態で活性エネルギー線を照射することによって当該材料を硬化させる方法によれば、例えば、基材上に紫外線硬化性樹脂の薄膜を形成し、当該薄膜上に成形型を押し付けた後、当該薄膜に紫外線を照射することにより、当該紫外線硬化性樹脂を硬化させ、成形型の反転形状のモスアイ構造を有する薄膜を基材上に形成させることができる。したがって、この方法は、前記(1)の方法と対比して、成形時間を短縮することができるという利点を有する。しかし、前記方法には、紫外線硬化性樹脂を硬化させる際に当該紫外線硬化性樹脂が収縮するため、成形型の内面形状よりも小さい当該内面形状に対応する形状を有する成形体が形成されたり、あるいは基材に反りが発生することから、成形精度が低下するという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−93994号公報
【特許文献2】特開2008−209540号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「オプティカ・アクタ(OPTICA ACTA)」、1982年、第29巻、第7号、p.993−1009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、シリコーン系樹脂を使用しなくても成形精度に優れ、硬度が高く、良好な外観を有する成形体を製造する際に好適に使用することができる成形材料、前記成形材料から形成された樹脂フィルム、ならびに原料として前記成形材料が用いられた成形体およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、
(1) 成形体を製造する際に原料として用いられる成形材料であって、(メタ)アクリル系樹脂エマルション、多官能(メタ)アクリル酸エステルおよび重合開始剤を含有することを特徴とする成形材料、
(2) 前記(1)に記載の成形材料から形成されてなる樹脂フィルム、
(3) 前記(1)に記載の成形材料から形成され、当該成形材料が硬化されてなる成形体、
(4) 基材上に成形材料層が形成されてなる成形体であって、前記成形材料層が前記(1)に記載の成形材料から形成されてなる成形体、
(5) 成形材料層が硬化されてなる前記(4)に記載の成形体、
(6) 基材がフィルム状基材である前記(4)または(5)に記載の成形体、
(7) (メタ)アクリル系樹脂エマルション、多官能(メタ)アクリル酸エステルおよび重合開始剤を含有する成形材料から樹脂フィルムを形成し、形成された樹脂フィルムを成形型で成形することを特徴とする成形体の製造方法、
(8) フィルム状基材の少なくとも1方表面に凹凸構造を有する成形材料層が形成されてなる成形体であって、凹凸構造を有する面における押し込み深さ100nmでのダイナミック硬度が5〜50mN/μm2である成形体、
(9) 凹凸構造を有する成形材料層が、前記(1)に記載の成形材料から形成されてなる前記(8)に記載の成形体、
(10) 凹凸構造を有する成形材料層において、凹凸構造の水平方向の平均周期が可視光線の波長以下である前記(8)または(9)に記載の成形体、
(11) フィルム状基材が主鎖に環構造を有する重合体を含有してなる前記(8)〜(10)のいずれかに記載の成形体、
(12) 成形体の用途が偏光子保護フィルムである前記(8)〜(11)のいずれかに記載の成形体、
(13) 成形体の用途が有機エレクトロルミネッセンス発光装置である前記(8)〜(11)のいずれかに記載の成形体、および
(14) 前記(8)〜(11)のいずれかに記載の成形体を製造する方法であって、成形材料からなる成形材料層を形成させ、形成された成形材料層に凹凸構造を形成させた後、当該凹凸構造が形成された成形材料層を硬化させることを特徴とする成形体の製造方法
に関する。
【0013】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」および/または「メタクリレート」を意味し、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」および/または「メタクリル」を意味する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の成形材料は、シリコーン系樹脂を使用しなくても成形精度に優れ、硬度が高く、良好な外観を有する成形体を製造する際に好適に使用することができる。本発明の成形体の製造方法によれば、成形精度に優れ、成形体の硬度が高く、良好な外観を有する成形体を得ることができる。本発明の樹脂フィルムは、前記成形材料から形成されているので、成形精度に優れ、硬度が高く、良好な外観を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の成形材料が用いられた成形体の一実施態様を示す概略断面図である。
【図2】本発明の成形材料が用いられた成形体の製造方法の一実施態様を示す概略説明図である。
【図3】本発明の成形材料が用いられた成形体の製造方法の他の一実施態様を示す概略説明図である。
【図4】本発明の成形材料が用いられた成形体の製造方法の他の一実施態様を示す概略説明図である。
【図5】本発明の成形材料が用いられた成形体の他の一実施態様を示す概略断面図である。
【図6】本発明の成形材料が用いられた偏光子保護フィルムの一実施態様を示す概略断面図である。
【図7】本発明の成形材料が用いられた有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)発光装置の一実施態様を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の成形材料は、前記したように、(メタ)アクリル系樹脂エマルション、多官能(メタ)アクリル酸エステルおよび重合開始剤を含有することを特徴とする。
【0017】
(メタ)アクリル系樹脂エマルションは、(メタ)アクリル系単量体成分を必須成分として含有する単量体成分を乳化重合させることによって容易に調製することができる。より具体的には、(メタ)アクリル系樹脂エマルションは、例えば、乳化剤で水中に形成されたミセル中の単量体成分を重合開始剤で重合させる方法によって容易に調製することができるが、本発明は、かかる方法のみに限定されるものではない。
【0018】
また、(メタ)アクリル系樹脂エマルションは、(メタ)アクリル系樹脂エマルションに含まれているエマルション粒子が有する官能基と当該官能基に対して反応性を示す化合物とを反応させたエマルション粒子を含有する樹脂エマルションであってもよい。このような樹脂エマルションとしては、例えば、カルボキシル基を有するエマルション粒子とエポキシ基、オキサゾリン基、アジリジニル基などの官能基を有する化合物とを反応させたエマルション粒子を含有する樹脂エマルション;エポキシ基を有するエマルション粒子とカルボキシル基、アミノ基などの官能基を有する化合物を反応させたエマルション粒子を含有する樹脂エマルション;カルボニル基を有するエマルション粒子とヒドラジド基を有する化合物を反応させたエマルション粒子を含有する樹脂エマルション;水酸基を有するエマルション粒子とイソシアナート基の官能基を有する化合物とを反応させたエマルション粒子を含有する樹脂エマルションなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0019】
前記カルボキシル基を有するエマルション粒子とエポキシ基を有する化合物とを反応させたエマルション粒子を含有する樹脂エマルションにおいて、カルボキシル基に対して反応性を示すエポキシ基を有する化合物としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、エポキシ基を有するポリマーなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0020】
前記カルボキシル基を有するエマルション粒子とオキサゾリン基を有する化合物とを反応させたエマルション粒子を含有する樹脂エマルションにおいて、カルボキシル基に対して反応性を示すオキサゾリン基を有する化合物としては、例えば、イソプロペニルオキサゾリン、オキサゾリン基を有するポリマーなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0021】
前記エポキシ基を有するエマルション粒子とカルボキシル基を有する化合物とを反応させたエマルション粒子を含有する樹脂エマルションにおいて、エポキシ基に対して反応性を示すカルボキシル基を有する化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、カルボキシル基を有するポリマーなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0022】
前記エポキシ基を有するエマルション粒子とアミノ基を有する化合物とを反応させたエマルション粒子を含有する樹脂エマルションにおいて、エポキシ基に対して反応性を示すアミノ基を有する化合物としては、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アミノ基を有するポリマーなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0023】
前記カルボニル基を有するエマルション粒子とヒドラジド基を有する化合物を反応させたエマルション粒子を含有する樹脂エマルションにおいて、カルボニル基に対して反応性を示すヒドラジド基を有する化合物としては、例えば、アジピン酸ジヒドラジド、ジドラジド基を有するポリマーなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0024】
また、他の(メタ)アクリル系樹脂エマルションとして、(メタ)アクリル系樹脂エマルションを調製しているとき、または当該(メタ)アクリル系樹脂エマルションを調製した後に、エマルション粒子が有する官能基に対して反応性を示す化合物を添加し、(メタ)アクリル系樹脂エマルションと当該化合物とを反応させてもよい。
【0025】
単量体成分としては、例えば、芳香族系単量体、エチレン性不飽和単量体などのラジカル重合性単量体が挙げられ、これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0026】
芳香族系単量体としては、例えば、スチレンおよびその誘導体、アラルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの芳香族系単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0027】
スチレンおよびその誘導体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、m−エチルスチレン、p−エチルスチレン、o−メトキシスチレン、m−メトキシスチレン、p−メトキシスチレン、o−エトキシスチレン、m−エトキシスチレン、p−エトキシスチレン、o−フルオロスチレン、m−フルオロスチレン、p−フルオロスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、o−ブロモスチレン、m−ブロモスチレン、p−ブロモスチレン、o−アセトキシスチレン、m−アセトキシスチレン、p−アセトキシスチレン、o−tert−ブトキシスチレン、m−tert−ブトキシスチレン、p−tert−ブトキシスチレン、o−tert−ブチルスチレン、m−tert−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルトルエンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。スチレンおよびその誘導体は、ベンゼン環にメチル基、tert−ブチル基などのアルキル基、ニトロ基、ニトリル基、アルコキシル基、アシル基、スルホン基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子などの官能基が存在していてもよい。スチレンおよびその誘導体のなかでは、成形体の耐水性を高める観点から、スチレンが好ましい。
【0028】
アラルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート、メチルベンジル(メタ)アクリレート、ナフチルメチル(メタ)アクリレートなどの炭素数が7〜18のアラルキル基を有するアラルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0029】
エチレン性不飽和単量体としては、例えば、アルキル(メタ)アクリレート、水酸基含有(メタ)アクリレート、カルボキシル基含有単量体、オキソ基含有単量体、フッ素原子含有単量体、窒素原子含有単量体、エポキシ基含有単量体、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、シラン基含有単量体、カルボニル基含有単量体、アジリジニル基含有単量体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのエチレン性不飽和単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0030】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2−(アセトアセトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシルカルビトール(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4−メチルシクロへキシルメチル(メタ)アクリレート、tert−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレートなどのエステル基の炭素数が1〜18のアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0031】
水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシ(メタ)アクリレートなどのエステル基の炭素数が1〜18の水酸基含有(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0032】
カルボキシル基含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノブチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸モノブチルエステル、ビニル安息香酸、シュウ酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシル基末端カプロラクトン変性(メタ)アクリレートなどのカルボキシル基含有脂肪族系単量体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらのカルボキシル基含有単量体のなかでは、エマルション粒子の分散安定性を向上させる観点から、アクリル酸、メタクリル酸およびイタコン酸が好ましく、アクリル酸およびメタクリル酸がより好ましい。
【0033】
オキソ基含有単量体としては、例えば、エチレングリコール(メタ)アクリレート、エチレングリコールメトキシ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールメトキシ(メタ)アクリレートなどの(ジ)エチレングリコール(メトキシ)(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0034】
フッ素原子含有単量体としては、例えば、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロイソノニルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレートなどのエステル基にフッ素原子を有するフッ素原子含有アルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0035】
窒素原子含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N−モノメチル(メタ)アクリルアミド、N−モノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミドなどのアクリルアミド化合物、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モルホリンのエチレンオキサイド付加(メタ)アクリレートなどの窒素原子含有(メタ)アクリレート化合物、N−ビニルピロリドン、N−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルピロール、N−ビニルオキサゾリドン、N−ビニルサクシンイミド、N−ビニルメチルカルバメート、N,N−メチルビニルアセトアミド、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−2−オキサゾリン、(メタ)アクリロニトリルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0036】
エポキシ基含有単量体としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、α−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルアリルエーテル、オキソシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0037】
アルコキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシブチル(メタ)アクリレート、エトキシブチル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリプロポキシ(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0038】
シラン基含有単量体としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、2−スチリルエチルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルヒドロキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルヒドロキシシランなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0039】
カルボニル基含有単量体としては、例えば、アクロレイン、ホウミルスチロール、ビニルエチルケトン、(メタ)アクリルオキシアルキルプロペナール、アセトニル(メタ)アクリレート、ジアセトン(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートアセチルアセテート、ブタンジオール−1,4−アクリレートアセチルアセテートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0040】
アジリジニル基含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリロイルアジリジン、(メタ)アクリル酸2−アジリジニルエチルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0041】
エチレン性不飽和単量体のなかでは、成形材料の成形性および耐水性を向上させる観点から、アルキル(メタ)アクリレート、水酸基含有(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸などの(メタ)アクリル系単量体が好ましく、メチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートおよび(メタ)アクリル酸がより好ましい。
【0042】
また、本発明においては、エマルション粒子に紫外線安定性や紫外線吸収性を付与する観点から、本発明の目的が阻害されない範囲内で、紫外線安定性単量体、紫外線吸収性単量体などを単量体成分に含有させてもよい。
【0043】
紫外線安定性単量体としては、例えば、4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイル−1−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−クロトノイル−4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0044】
紫外線吸収性単量体としては、例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収性単量体、ベンゾフェノン系紫外線吸収性単量体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0045】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収性単量体としては、例えば、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシメチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシメチルフェニル]−5−tert−ブチル−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルアミノメチル−5’−tert−オクチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチル−3’−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−5−シアノ−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−5−tert−ブチル−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(β−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)−3’−tert−ブチルフェニル]−4−tert−ブチル−2H−ベンゾトリアゾールなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0046】
ベンゾフェノン系紫外線吸収性単量体としては、例えば、2−ヒドロキシ−4−(メタ)アクリロイルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−[2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシ]プロポキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]エトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−4−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]ブトキシベンゾフェノンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0047】
単量体成分を乳化重合させる方法としては、例えば、メタノールなどの低級アルコールなどの水溶性有機溶媒と水とを含む水性媒体、水などの媒体中に乳化剤を溶解させ、撹拌下で単量体成分および重合開始剤を滴下させる方法、乳化剤および水を用いてあらかじめ乳化させておいた単量体成分を水または水性媒体中に滴下させる方法などが挙げられるが、本発明は、かかる方法のみに限定されるものではない。なお、媒体の量は、得られる樹脂エマルションに含まれる不揮発分量を考慮して適宜設定すればよい。媒体は、あらかじめ反応容器に仕込んでおいてもよく、あるいはプレエマルションとして使用してもよい。また、媒体は、必要により、単量体成分を乳化重合させ、樹脂エマルションを製造しているときに用いてもよい。
【0048】
単量体成分を乳化重合させる際には、単量体成分、乳化剤および媒体を混合した後に乳化重合を行なってもよく、単量体成分、乳化剤および媒体を撹拌することによって乳化させ、プレエマルションを調製した後に乳化重合を行なってもよく、あるいは単量体成分、乳化剤および媒体のうちの少なくとも1種類とその残部のプレエマルションとを混合して乳化重合を行なってもよい。単量体成分、乳化剤および媒体は、それぞれ一括添加してもよく、分割添加してもよく、あるいは連続滴下してもよい。
【0049】
前記で得られた樹脂エマルションに含まれているエマルション粒子上に外層を形成させる場合には、前記樹脂エマルション中で前記と同様にして単量体成分を乳化重合させることにより、前記エマルション粒子上に外層を形成させることができる。また、前記外層が形成されたエマルション粒子上にさらに外層を形成させる場合には、前記と同様にして樹脂エマルション中で単量体成分を乳化重合させることにより、前記エマルション粒子上にさらに外層を形成させることができる。このように多段乳化重合法により、多層構造を有するエマルション粒子を含有する樹脂エマルションを調製することができる。
【0050】
乳化剤としては、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、両性乳化剤、高分子乳化剤などが挙げられ、これらの乳化剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0051】
アニオン性乳化剤としては、例えば、アンモニウムドデシルサルフェート、ナトリウムドデシルサルフェートなどのアルキルサルフェート塩;アンモニウムドデシルスルホネート、ナトリウムドデシルスルホネート、ナトリウムアルキルジフェニルエーテルジスルホネートなどのアルキルスルホネート塩;アンモニウムドデシルベンゼンスルホネート、ナトリウムドデシルナフタレンスルホネートなどのアルキルアリールスルホネート塩;ポリオキシエチレンアルキルスルホネート塩;ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩;ポリオキシエチレンアルキルアリールサルフェート塩;ジアルキルスルホコハク酸塩;アリールスルホン酸−ホルマリン縮合物;アンモニウムラウリレート、ナトリウムステアリレートなどの脂肪酸塩;ビス(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレートスルホネート塩、プロペニル−アルキルスルホコハク酸エステル塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンスルホネート塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンホスフォネート塩、アリルオキシメチルアルキルオキシポリオキシエチレンのスルホネート塩などのアリル基を有する硫酸エステルまたはその塩;アリルオキシメチルアルコキシエチルポリオキシエチレンの硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム塩などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0052】
ノニオン性乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとの縮合物、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、エチレンオキサイドと脂肪族アミンとの縮合体、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0053】
カチオン性乳化剤としては、例えば、ドデシルアンモニウムクロライドなどのアルキルアンモニウム塩などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0054】
両性乳化剤としては、例えば、ベタインエステル型乳化剤などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0055】
高分子乳化剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウムなどのポリ(メタ)アクリル酸塩;ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;ポリヒドロキシエチルアクリレートなどのポリヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;これらの重合体を構成する単量体のうちの1種以上を共重合成分とする共重合体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0056】
また、乳化剤として、成形体の耐水性を向上させる観点から、重合性基を有する乳化剤、すなわち、いわゆる反応性乳化剤が好ましく、環境保護の観点から、非ノニルフェニル型の乳化剤が好ましい。
【0057】
反応性乳化剤としては、例えば、プロペニル−アルキルスルホコハク酸エステル塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンスルホネート塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンホスフォネート塩、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテルスルホネート塩、アリルオキシメチルアルキルオキシポリオキシエチレンのスルホネート塩、アリルオキシメチルノニルフェノキシエチルヒドロキシポリオキシエチレンのスルホネート塩、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン硫酸エステル塩、ビス(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレート化スルホネート塩、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル、アリルオキシメチルノニルフェノキシエチルヒドロキシポリオキシエチレンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0058】
単量体成分100質量部あたりの乳化剤の量は、重合安定性を向上させる観点から、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、さらに好ましくは1質量部以上であり、成形体の耐水性を向上させる観点から、好ましくは10質量部以下、より好ましくは7質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下である。
【0059】
重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビス(2―ジアミノプロパン)ハイドロクロライド、4,4−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)などのアゾ化合物;過硫酸カリウムなどの過硫酸塩;過酸化水素、ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、過酸化アンモニウムなどの過酸化物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの重合開始剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0060】
単量体成分100質量部あたりの重合開始剤の量は、重合速度を高め、未反応の単量体成分の残存量を低減させる観点から、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上、さらに好ましくは0.1質量部以上であり、成形体の耐水性を向上させる観点から、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.8質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以下である。
【0061】
重合開始剤の添加方法は、特に限定されない。その添加方法としては、例えば、一括仕込み、分割仕込み、連続滴下などが挙げられる。また、重合反応の終了時期を早める観点から、単量体成分を反応系内に添加する終了前またはその終了後に、重合開始剤の一部を添加してもよい。
【0062】
なお、重合開始剤の分解を促進するために、例えば、亜硫酸水素ナトリウムなどの還元剤、硫酸第一鉄などの遷移金属塩などの重合開始剤の分解剤を反応系内に適量で添加してもよい。
【0063】
また、エマルション粒子の重量平均分子量を調整するために、連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては、例えば、チオグリコール酸2−エチルヘキシル、tert−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、2−メルカプトエタノール、α−メチルスチレン、α−メチルスチレンダイマーなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの連鎖移動剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。単量体成分100質量部あたりの連鎖移動剤の量は、エマルション粒子の重量平均分子量を調整する観点から、0.01〜10質量部であることが好ましい。
【0064】
反応系内には、必要により、pH緩衝剤、キレート剤、造膜助剤などの添加剤を添加してもよい。添加剤の量は、その種類によって異なるので一概には決定することができない。通常、単量体成分100質量部あたりの添加剤の量は、好ましくは0.01〜5質量部程度、より好ましくは0.1〜3質量部程度である。
【0065】
単量体成分を乳化重合させる際の雰囲気は、特に限定されないが、重合反応の効率を高める観点から、窒素ガスなどの不活性ガスであることが好ましい。
【0066】
単量体成分を乳化重合させる際の重合温度は、特に限定がないが、通常、好ましくは0〜100℃、より好ましくは40〜95℃である。重合温度は、一定であってもよく、重合反応の途中で変化させてもよい。
【0067】
単量体成分を乳化重合させる重合時間は、特に限定がなく、重合反応の進行状況に応じて適宜設定すればよいが、通常、2〜8時間程度である。
【0068】
なお、単量体成分を乳化重合させるとき、得られる重合体が有する酸性基の一部または全部が中和剤で中和されるようにしてもよい。中和剤は、最終段で単量体成分を添加した後に使用してもよく、例えば、1段目の重合反応と2段目の重合反応との間に使用してもよく、初期の乳化重合反応の終了時に使用してもよい。
【0069】
中和剤としては、例えば、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物;炭酸カルシウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の炭酸化物;アンモニア、モノメチルアミンなどの有機アミンなどのアルカリ性物質が挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの中和剤のなかでは、成形体の耐水性を向上させる観点から、アンモニアなどの揮発性を有するアルカリ性物質が好ましい。
【0070】
また、単量体成分を乳化重合させるとき、成形体の耐水性を向上させる観点から、シランカップリング剤を適量で用いてもよい。シランカップリング剤としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基などの重合性不飽和結合を有するシランカップリング剤などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0071】
以上のようにして単量体成分を乳化重合させることにより、樹脂エマルションが得られる。樹脂エマルションに含まれるエマルション粒子は、1段の乳化重合によって調製された1種類の重合体のみで構成されていてもよいが、単量体成分を多段乳化重合させることによって調製された多層構造の重合体層を有することが、成形体の硬度と成形精度とを両立させる観点から好ましい。
【0072】
また、エマルション粒子は、多層構造の重合体層を有し、(メタ)アクリル系重合体からなるエマルション粒子であることが、成形性ならびに成形体の硬度および成形精度を向上させる観点から好ましい。なお、多層構造の重合体層を有し、(メタ)アクリル系重合体からなるエマルション粒子は、多層構造の重合体層を有し、その重合体層を形成している重合体に用いられる単量体成分に必須成分として(メタ)アクリル系モノマーが用いられているエマルション粒子を意味する。エマルション粒子が複数の重合体層を有するとき、その重合体層の数は、特に限定されないが、好ましくは2〜5層、より好ましくは2〜4層、さらに好ましくは2〜3層である。
【0073】
前記エマルション粒子は、成形体の耐水性および光沢を向上させ、成形体硬度を高める観点から、少なくとも外層および内層の2層の多層構造を有することが好ましい。多層構造を有するエマルション粒子は、前記した多段乳化重合法によって容易に調製することができる。例えば、2層構造を有するエマルション粒子は、内層を形成する前段乳化重合および外層を形成する後段乳化重合を行なうことによって容易に調製することができる。これらの乳化重合は、内層を形成する乳化重合および外層を形成する乳化重合の順序で行なわれる。
【0074】
なお、多層構造を有するエマルション粒子を調製する際、前記内層を形成する乳化重合を行なう前に1段または複数段の乳化重合を行なってもよく、前記内層を形成する乳化重合と前記外層を形成する乳化重合との間に1段または複数段の乳化重合を行なってもよい。さらに、前記外層を形成する乳化重合の後に1段または複数段の乳化重合を行なってもよい。
【0075】
多層構造を有するエマルション粒子自体のガラス転移温度を適切に設定するとともに、当該エマルション粒子を構成している外層を構成している重合体のガラス転移温度を低くし、その外層の膜厚や外層を構成する単量体成分の組成を適切に設定した場合には、硬度が低いアクリル系重合体からなるエマルション粒子と同等またはそれ以上の成形性を維持しながら、硬度が高く、耐摩耗性に優れたエマルション粒子を調製することができる。
【0076】
本発明の成形材料を用いることによって得られる成形体の硬度、耐水性および光沢を向上させる観点から、少なくとも外層および内層の2層を有するエマルション粒子を含有する樹脂エマルションにおいて、外層を構成している重合体が内層を構成している重合体と異なることがより好ましい。このエマルション粒子を含有する樹脂エマルションを含有する成形材料は、揮発性有機溶媒(VOC)を含有していなくても、成形性に優れ、成形体の硬度、耐水性および光沢に優れた成形体を形成するという利点を有する。
【0077】
前記「外層を構成している重合体が内層を構成している重合体と異なる」とは、これらの重合体の原料として使用されている単量体成分の組成が相違しているか、あるいは重合体の構造や分子量が異なることを意味する。前記外層を構成している重合体が内層を構成している重合体と異なることの例としては、その単量体に使用されている単量体の種類が異なること、同一種類の単量体が使用されている場合には、その単量体の使用量が相違すること、重合体の分子量や構造が異なることなどが挙げられる。
【0078】
少なくとも内層および外層の2層を有するエマルション粒子において、内層よりも内側に1層または複数層が形成されていてもよく、内層と外層との間に1層または複数層が形成されていてもよく、あるいは外層よりも外側に1層または複数層が形成されていてもよい。また、各層は、たがいに相溶し、各層の境界部分が明確でなくてもよい。
【0079】
なお、エマルション粒子を構成している重合体のガラス転移温度は、その重合体の原料として用いられる単量体成分に含まれている単量体からなる単独重合体のガラス転移温度(Tg)(絶対温度:K)と単量体の質量分率から、式(I):
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+W3/Tg3+・・・・+Wn/Tgn (I)
〔式中、Tgは、求めようとしている重合体のガラス転移温度(K)、W1、W2、W3・・・・Wnは、それぞれ各単量体の質量分率、Tg1、Tg2、Tg3・・・・Tgnは、それぞれ各単量体の質量分率に対応する単量体からなる単独重合体のガラス転移温度(K)を示す〕
で表されるフォックス(Fox)の式に基づいて求めることができる。
【0080】
本明細書においては、エマルション粒子を構成する重合体のガラス転移温度は、式(I)に基づいて求められたガラス転移温度を意味する。例えば、多層構造を有するエマルション粒子を構成する重合体全体のガラス転移温度は、多段乳化重合の際に用いられたすべての単量体成分における各単量体の質量分率とこれに対応する単量体の単独重合体のガラス転移温度から求められたガラス転移温度を意味する。
【0081】
なお、特殊単量体、多官能単量体などのようにガラス転移温度が不明の単量体については、ガラス転移温度が判明している単量体のみを用いてガラス転移温度が求められる。
【0082】
このエマルション粒子を構成している重合体のガラス転移温度を考慮して、当該エマルション粒子を構成している重合体の原料として用いられる単量体成分の組成を決定することができる。
【0083】
単独重合体のガラス転移温度は、例えば、メチルメタクリレートの単独重合体では105℃(378K)、スチレンの単独重合体では100℃(373K)、シクロヘキシルメタクリレートの単独重合体では83℃(356K)、アクリル酸の単独重合体では95℃(368K)である。
【0084】
多層構造を有するエマルション粒子の外層は、樹脂エマルションが乾燥してエマルション粒子同士が融着する際に融着層として機能する。多層構造を有するエマルション粒子の外層を構成している重合体のガラス転移温度は、成形体の硬度を高める観点から、好ましくは0℃以上、より好ましくは20℃以上、さらに好ましくは50℃以上であり、成形性を向上させる観点から、好ましくは120℃以下である。
【0085】
多層構造を有するエマルション粒子の内層を構成する重合体のガラス転移温度は、成形体の硬度を高める観点から、好ましく80℃以上、より好ましくは85℃以上であり、成形性を向上させる観点から、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下である。内層を構成する重合体のガラス転移温度は、内層を形成する単量体成分に使用される単量体の組成を調整することにより、容易に調節することができる。
【0086】
内層を構成する重合体は、架橋構造を有していてもよい。内層を構成する重合体の重量平均分子量は、内層を構成する重合体が架橋構造を有する場合および架橋構造を有しない場合のいずれの場合であっても、成形体の硬度を高める観点から、好ましくは10万以上、より好ましくは30万以上、さらに好ましくは55万以上、特に好ましくは60万以上である。内層を構成する重合体の重量平均分子量の上限値は、架橋構造を有する場合、その重量平均分子量を測定することが困難なため、特に限定されないが、架橋構造を有しない場合には、成形性を向上させる観点から、500万以下であることが好ましい。
【0087】
なお、本明細書において、重合体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー〔東ソー(株)製、品番:HLC−8120GPC、カラム:TSKgel G−5000HXLとTSKgel GMHXL−Lとを直列に使用〕を用いて測定された重量平均分子量(ポリスチレン換算)を意味する。
【0088】
前記したように、多層構造を有するエマルション粒子の外層を構成している重合体のガラス転移温度および内層を構成している重合体のガラス転移温度を調整した場合、本発明の成形材料の成形性と成形体の硬度とを両立させることができる。
【0089】
また、多層構造を有するエマルション粒子を構成している重合体全体のガラス転移温度は、成形体の硬度を高める観点から、好ましくは20℃以上であり、成形性を向上させる観点から、好ましくは120℃以下である。
【0090】
少なくとも外層および内層を有するエマルション粒子における内層の含有率は、成形性を向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上、特に好ましくは25質量%以上であり、成形体の硬度を高める観点から、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは75質量%以下、特に好ましくは70質量%以下である。
【0091】
少なくとも外層および内層を有するエマルション粒子における外層の含有率は、成形体の硬度を高める観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上、特に好ましくは25質量%以上であり、成形性を向上させる観点から、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下である。
【0092】
なお、本明細書において、エマルション粒子における各層の含有率は、エマルション粒子に用いられる全単量体成分における各層に用いられる単量体の含有率を意味する。
【0093】
外層を構成する重合体は、架橋構造を有していてもよい。外層を構成する重合体の重量平均分子量は、外層を構成する重合体が架橋構造を有する場合および架橋構造を有しない場合のいずれの場合であっても、成形体の硬度を高める観点から、好ましくは10万以上、より好ましくは30万以上、さらに好ましくは55万以上、特に好ましくは60万以上である。外層を構成する重合体の重量平均分子量の上限値は、架橋構造を有する場合、その重量平均分子量を測定することが困難なため、特に限定されないが、架橋構造を有しない場合には、成形性を向上させる観点から、500万以下であることが好ましい。
【0094】
多層構造を有するエマルション粒子の内層および外層は、架橋構造を有していてもよい。成形性および成形体の硬度を向上させる観点から、内層が架橋構造を有することが好ましい。架橋構造を有するエマルション粒子は、例えば、単量体成分に後述する多官能(メタ)アクリレートなどの架橋性単量体を添加した後、当該単量体成分を乳化重合させることにより、調製することができる。単量体成分における架橋性単量体の含有率は、成形体の硬度を高める観点から、好ましくは1質量%以上であり、成形性を向上させる観点から、好ましくは100質量%以下、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下である。これらの架橋性単量体は単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0095】
多層構造を有するエマルション粒子にガラス転移温度が異なる2種類以上の重合体が存在していることは、例えば、そのエマルション粒子の乾燥成形体の示差走査熱量(DSC)を測定することによって確認することができる。
【0096】
エマルション粒子の平均粒子径は、エマルション粒子の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは70nm以上、より好ましくは80nm以上、さらに好ましくは100nm以上であり、成形体の表面平滑性を向上させる観点から、好ましくは450nm以下、より好ましくは400nm以下、さらに好ましくは350nm以下である。
【0097】
本明細書において、エマルション粒子の平均粒子径は、樹脂エマルションを蒸留水で希釈し、得られた希釈液約10mLをガラスセルに採取し、これを動的光散法による粒度分布測定器〔パーティクル サイジング システムズ(Particle Sizing Systems)社製、商品名:NICOM P Model 380〕を用い、ウインドウズベースのソフトウェア〔Windows(登録商標) Based Software〕を用いて測定された体積平均粒子径を意味する。
【0098】
本発明の成形材料は、前記のようにして調製されたエマルション粒子を含む樹脂エマルション、多官能(メタ)アクリル酸エステルおよび重合開始剤を混合することによって容易に調整することができる。
【0099】
多官能(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレートなどのアルキル基の炭素数が3〜8のアルキルジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノヒドロキシトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトール(モノヒドロキシ)ペンタ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリエトキシトリ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、ジビニルベンゼン、フタル酸ジアリル、エトキシ化グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレート、プロピレンオキシド変性グリセロールトリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの多官能(メタ)アクリル酸エステルは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。多官能(メタ)アクリル酸エステルは、それらのなかから成形体の硬度、成形性などの所望の性質の向上に適するものを適宜選択して用いることが好ましい。
【0100】
なお、本発明の目的が阻害されない範囲内で、多官能(メタ)アクリル酸エステルは、当該多官能(メタ)アクリル酸エステル以外の単量体と併用されていてもよい。
【0101】
(メタ)アクリル系樹脂エマルションの不揮発分100質量部あたりの多官能(メタ)アクリル酸エステルの量は、成形体の硬度を向上させる観点から、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは20質量部以上であり、成形性を向上させる観点から、好ましくは120質量部以下、より好ましくは100質量部以下、さらに好ましくは90質量部以下である。
【0102】
前記重合開始剤としては、例えば、光重合開始剤、熱重合開始剤などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの重合開始剤は、それぞれ単独で用いてもよく、併用してもよい。なお、光重合開始剤のなかには熱重合開始剤として作用するものがあり、また、熱重合開始剤のなかには光重合開始剤として作用するものがあるので、両性質を有するものは、光照射または加熱により、成形材料を硬化させることができる。
【0103】
熱重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−(2,4’−ジメチルバレロニトリル)、ベンゾイルパーオキサイド、1、1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの油溶性開始剤、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウムなどの過硫酸塩;過酸化水素などの水溶性過酸化物、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩などの水溶性アゾ化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの熱重合開始剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0104】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、オキシフェニル−アセチックアシッド2−[2−オキソ−2−フェニルアセトキシエトキシ]−エチルエステル、オキシフェニルアセチックアシッド2−[2−ヒドロキシエトキシ]−エチルエステル、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]2−モルホリノプロパン−1−オン、2−モルホリノプロパン−1−オン、ヨードニウム,(4−メチルフェニル[4−(2−メチルプロピル)フェニル])−ヘキサフルオロフォスフェート、ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの光重合開始剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0105】
重合開始剤は、例えば、(メタ)アクリル系樹脂エマルションに直接添加してもよく、あるいは前記多官能(メタ)アクリル酸エステルと混合して用いてもよい。
【0106】
本発明の成形材料には多官能(メタ)アクリル酸エステルが用いられているので、本発明の成形材料の最低造膜温度は、当該多官能(メタ)アクリル酸エステルが用いられていない成形材料の最低造膜温度よりも低い。本発明の成形材料の最低造膜温度は、通常、0〜60℃であるので、成形性に優れている。本発明の成形材料の最低造膜温度は、多官能(メタ)アクリル酸エステルの種類および量を調整することによって容易に調節することができる。
【0107】
最低造膜温度は、適当な温度勾配を有する平板の上に帯状に成形材料を塗布したときの造膜した部分と造膜していない部分との境界温度を意味し、「亀裂のない均一な成形体が形成されるときの最低温度」と定義される。最低造膜温度は、例えば、JIS K6828−2(2003)に準じて測定することができる。より具体的には、本発明では、MFTテスター〔テスター産業(株)製、品番:TP−801 LT〕を用い、ステンレス鋼製の溝なし平板上に厚さが250μmである成形体をアプリケーターで形成させ、亀裂のない均一な成形体が形成されるときの最低温度(℃)を測定する。成形体の亀裂の有無は、JIS K6828−2に準じて目視で判定することができる。なお、成形材料の最低造膜温度が0℃以下である場合には、当該成形材料の最低造膜温度は0℃であるとみなす。
【0108】
本発明の成形材料の最低造膜温度は、当該成形材料を用いて成形体を製造する際の成形温度よりも15℃以上低いことが成形性を向上させる観点から好ましい。なお、前記成形温度は、例えば、本発明の成形材料を用いてインプリント法によってパターンを形成する場合、本発明の成形材料を基材に塗布し、形成された成形材料層の表面に所定の凹凸構造を有する成形型を押し付けるときの温度である。
【0109】
本発明の成形材料における不揮発分量は、生産性を向上させる観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、取り扱い性を向上させる観点から、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。
【0110】
なお、本明細書において、成形材料における不揮発分量は、成形材料1gを秤量し、熱風乾燥機で110℃の温度で1時間乾燥させ、得られた残渣を不揮発分とし、式:
〔成形材料における不揮発分量(質量%)〕
=(〔残渣の質量〕÷〔成形材料1g〕)×100
に基づいて求められた値を意味する。
【0111】
以上のようにして得られる本発明の成形材料は、顔料を含有していてもよい。顔料としては、有機顔料および無機顔料が挙げられ、これらは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0112】
有機顔料としては、例えば、ベンジジン、ハンザイエローなどのアゾ顔料、アゾメチン顔料、メチン顔料、アントラキノン顔料、フタロシアニンブルーなどのフタロシアニン顔料、ペリノン顔料、ペリレン顔料、ジケトピロロピロール顔料、チオインジゴ顔料、イミノイソインドリン顔料、イミノイソインドリノン顔料、キナクリドンレッドやキナクリドンバイオレットなどのキナクリドン顔料、フラバントロン顔料、インダントロン顔料、アントラピリミジン顔料、カルバゾール顔料、モノアリーライドイエロー、ジアリーライドイエロー、ベンゾイミダゾロンイエロー、トリルオレンジ、ナフトールオレンジ、キノフタロン顔料などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの有機顔料は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0113】
無機顔料としては、例えば、二酸化チタン、三酸化アンチモン、亜鉛華、リトポン、鉛白、赤色酸化鉄、黒色酸化鉄、酸化鉄、酸化クロムグリーン、カーボンブラック、黄鉛、モリブデン赤、フェロシアン化第二鉄(プルシアンブルー)、ウルトラマリン、クロム酸鉛などをはじめ、雲母(マイカ)、クレー、アルミニウム粉末、タルク、ケイ酸アルミニウムなどの扁平形状を有する顔料、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウムなどの体質顔料などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの無機顔料は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0114】
成形材料に用いられる樹脂エマルションの不揮発分100質量部あたりの顔料の量は、成形体を十分に着色する観点から、好ましくは20質量部以上、より好ましくは40質量部以上、さらに好ましくは60質量部以上であり、成形性を向上させる観点から、好ましくは200質量部以下である。
【0115】
本発明の成形材料には、本発明の目的が阻害されない範囲内で、前記(メタ)アクリル系樹脂エマルションに用いられる(メタ)アクリル系樹脂以外の他の水溶性樹脂、水分散性樹脂などの樹脂が含まれていてもよい。また、本発明の成形材料には、本発明の目的が阻害されない範囲内で、例えば、紫外線吸収剤、紫外線防止剤、充填剤、レベリング剤、表面調整剤、分散剤、増粘剤、湿潤剤、可塑剤、安定剤、染料、酸化防止剤などの添加剤が適量で含まれていてもよい。
【0116】
なお、本発明の成形材料における揮発性有機化合物の含有率は、環境に対する負荷を軽減する観点から、1質量%以下であることが好ましい。また、本発明の成形材料における不揮発分量は、生産性を向上させる観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、成形性を向上させる観点から、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。本発明の成形材料における不揮発分量は、溶媒量や添加剤量などを調整することによって容易に調節することができる。
【0117】
本発明の成形材料を紫外線の照射によって硬化させる場合、紫外線を発生させる光源の種類、光源と成形材料との距離などの条件によっても異なるが波長1900〜3800オングストロームの波長領域を主とした光源を用い、数秒間〜数分間程度の間、紫外線を成形材料に照射することにより、成形材料を硬化させることができる。
【0118】
本発明の成形材料を電子線の照射によって硬化させる場合、当該成形材料に適した加速電圧で吸収線が1〜20Mrad程度となるように電子線を成形体に照射することにより、成形材料を硬化させることができる。電子線の照射は、大気中で行なってもよいが、窒素ガスなどの不活性ガス中で行なうことが好ましい。
【0119】
本発明の成形材料に紫外線または電子線を照射することによって当該成形材料を硬化させたとき、当該成形材料は、熱履歴をほとんど受けないという利点がある。なお、本発明の成形材料に紫外線または電子線を照射した後には、必要に応じて本発明の目的が阻害されない範囲内で加熱を行なうことにより、硬化を促進させてもよい。
【0120】
本発明の成形材料を加熱によって硬化させる場合、機内温度が50〜200℃、好ましくは100〜180℃の乾燥機内で成形体を0.5〜60分間程度、好ましくは5〜20分間程度加熱することにより、成形材料を硬化させることができる。乾燥機としては、例えば、ジェットオーブン、熱風乾燥機などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。なお、成形材料を加熱する際には、必要により、予備加熱を行なってもよい。
【0121】
本発明の成形材料から得られる樹脂フィルムは、そのままの状態で、例えば、包装材料などに用いられる樹脂フィルムとして用いてもよく、セル、容器などのように所定形状を有するように成形型で成形することによって得られた成形体として用いてもよく、あるいは樹脂フィルムと基材とからなる積層体を製造する際に当該樹脂フィルムの原料として用いてもよい。
【0122】
樹脂フィルムを製造する方法としては、例えば、溶液流延法、溶液キャスト法などの溶液製膜法;溶融押出法、押出成形法などの溶融製膜法;カレンダー法;プレス成形法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの方法のなかでは、樹脂フィルムの生産性に優れていることから、溶液製膜法および溶融製膜法が好ましい。
【0123】
また、樹脂フィルムは、延伸させてもよい。樹脂フィルムの延伸は、一軸延伸であってもよく、二軸延伸であってもよい。一軸延伸は、縦延伸(樹脂フィルムの巻取り方向の延伸)であってもよく、横延伸(樹脂フィルムの幅方向の延伸)であってもよい。縦延伸の場合、樹脂フィルムの幅方向の変化を自由とする自由端一軸延伸であってもよく、樹脂フィルムの幅方向の変化を固定とする固定端一軸延伸であってもよい。二軸延伸は、縦延伸後に横延伸を行なう逐次二軸延伸であってもよく、縦横延伸を同時に行なう同時二軸延伸であってもよい。また、樹脂フィルムの厚さ方向の延伸または樹脂フィルムのロールに対して斜め方向の延伸を行なってもよい。延伸方法、延伸温度および延伸倍率は、目的とする樹脂フィルムの光学特性、機械的強度などに応じて適宜選択することが好ましい。
【0124】
樹脂フィルムの厚さは、フィルム強度を高める観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、さらに好ましくは5μm以上、さらに一層好ましくは10μm以上であり、樹脂フィルムを薄膜化させる観点から、好ましくは350μm以下、より好ましくは250μm以下、さらに好ましくは200μm以下、さらに一層好ましくは150μm以下、特に好ましくは100μm以下である。
【0125】
樹脂フィルムは、硬化させずに使用することができるほか、硬化させた状態で使用することもできる。樹脂フィルムを硬化させる方法としては、例えば、紫外線を照射させることによって硬化させる方法、電子線を照射することによって硬化させる方法、加熱によって硬化させる方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの硬化方法は、本発明の成形材料に用いられる重合開始剤の種類に応じて適宜選択することが好ましい。
【0126】
樹脂フィルムは、例えば、巻回させてロールとして取り扱うことができる。樹脂フィルムがタックを有する場合には、樹脂フィルム同士が付着することを防止するために、必要により、樹脂フィルムの少なくとも一方表面に剥離紙または剥離フィルムを設けてもよい。
【0127】
本発明の成形体は、本発明の成形材料から形成され、当該成形材料を硬化することによって得られる。本発明の成形体は、例えば、本発明の成形材料を用い、例えば、スタンピング成形法、型内成形法、ナノインプント成形法などにより、製造することができる。例えば、本発明の成形体をスタンピング成形法によって製造する場合、本発明の成形材料をスプレーコート、ローラーコート、ハケコート、コテコート、ロールコート、バーコート、ダイコート、コンマコート、グラビアコート、キスコート、スピンコート、ディップコート、カーテンコート、ドクターブレードコート、ナイフコート、エアナイフコート、ダイコート、マイクログラビアコート、オフセットグラビアコート、リップコートなどの方法によって基材に塗布することにより、成形材料層を形成し、形成された成形材料層に所定形状が付与されるように、当該成形材料層を成形型でプレスした後、この成形材料層を硬化させることにより、所定形状を有する成形体を製造することができる。
【0128】
以下に、本発明の成形体の実施態様を図1に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、当該図1に示された実施態様のみに限定されるものではない。図1は、単純な構造を有する本発明の成形体の一実施態様を示す概略断面図である。図1において、本発明の成形材料から形成された成形材料層1は、基材2上に設けられている。成形材料層1は、未硬化であってもよく、必要により硬化されていてもよい。また、成形材料層1の表面には、例えば、凹凸などの所望の形状が付与されていてもよい。
【0129】
表面に所望の形状を有する成形材料層1が基材2上に設けられた成形体は、例えば、以下の図2〜4に記載の成形体の製造方法の実施態様に基づいて製造することができるが、本発明は、当該図面に記載された実施態様のみに限定されるものではない。
【0130】
図2は、本発明の成形材料からなる成形体の製造方法の一実施態様を示す概略説明図である。図2に示された実施態様によれば、本発明の成形材料を基材2に塗布することにより、当該成形材料から形成された成形材料層1を基材2の表面上に設けた後、成形材料層1を硬化させる前に、成形型3を成形材料層1にプレスすることにより、成形材料層1に所定形状を付与し、次いで成形型3でプレスした状態でまたは成形型3を取り除いた後に、成形材料層1を硬化させることにより、所定形状を有する成形材料層1が基材2上に形成された成形体を製造することができる。
【0131】
図3は、本発明の成形材料からなる成形体の製造方法の他の一実施態様を示す概略説明図である。図3に示される実施態様によれば、本発明の成形材料をフィルム状基材2aに塗布することにより、当該成形材料から形成された成形材料層1をフィルム状基材2aの表面上に設け、さらに基材2上に成形材料層1を載置した後、成形材料層1を硬化させる前に、成形型3をフィルム状基材2a、成形材料層1および基材2にプレスすることにより、成形材料層1および基材2に所定形状を付与し、成形型3でプレスした状態でまたは成形型3およびフィルム状基材2aを取り除いた後に、成形材料層1を硬化させることにより、所定形状を有する成形材料層1が基材2上に形成された成形体を製造することができる。
【0132】
図4は、本発明の成形材料からなる成形体の製造方法の他の一実施態様を示す概略説明図である。図4に示された実施態様によれば、本発明の成形材料を基材2に塗布することにより、当該成形材料から形成された成形材料層1を基材2の表面上に設けた後、成形材料層1を硬化させる前に、成形型3を成形材料層1にプレスすることにより、成形材料層1に所定形状を付与し、成形型3でプレスした状態でまたは成形型3を取り除いた後に、成形材料層1を硬化させることにより、所定形状を有する成形材料層1が基材2上に形成された成形体を製造することができる。
【0133】
なお、基材2を構成する材料としては、例えば、ガラス板;ポリメチル(メタ)アクリレート、主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系重合体などのアクリル樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル;ノルボルネン系重合体などの環状オレフィン系重合体;セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロース系重合体;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリカーボネート;ポリスチレン;塩化ビニル樹脂;ABS樹脂;AS樹脂;ポリアミドなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0134】
また、フィルム状基材2aを構成する材料としては、例えば、ポリメチル(メタ)アクリレート、主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系重合体などのアクリル樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル;ノルボルネン系重合体などの環状オレフィン系重合体;セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロース系重合体;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリカーボネート;ポリスチレン;塩化ビニル樹脂;ABS樹脂;AS樹脂;ポリアミドなどの熱可塑性樹脂などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0135】
本発明の成形材料を用い、インプリント法によって成形体を製造する場合、当該成形方法としては、例えば、以下の方法が挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0136】
(1)本発明の成形材料として電子線、紫外線などの活性エネルギー線の照射によって硬化する成形材料を用いる場合には、本発明の成形材料を基材に塗布し、形成された成形材料層に所定の凹凸構造を有する成形型を室温でまたは加熱した状態で押し付け、その状態でまたは成形型を取り除いた後に、成形材料層に活性エネルギー線を照射し、成形材料層を硬化させることにより、所定形状を有する成形体を製造する方法などが挙げられる。当該方法では、基材および成形型の少なくとも一方を活性エネルギー線が透過する材料で作製し、当該基材および/または成形型を介して成形材料層に活性エネルギー線を照射することにより、成形材料層を硬化させることができる。
【0137】
(2)本発明の成形材料として加熱によって硬化する成形材料を用いる場合には、本発明の成形材料を基材に塗布し、形成された成形材料層に所定の凹凸構造を有する成形型を室温でまたは加熱した状態で押し付け、その状態でまたは成形型を取り除いた後に、成形材料層を加熱し、成形材料層を硬化させることにより、所定形状を有する成形体を製造する方法などが挙げられる。
【0138】
(3)本発明の成形材料として熱可塑性の成形材料を用いる場合には、本発明の成形材料を基材に塗布し、形成された成形材料層を加熱して軟化させ、軟化した成形材料層に所定の凹凸構造を有する成形型を押し付け、その状態でまたは成形型を取り除いた後に、成形材料層を冷却し、成形材料層を硬化させることにより、所定形状を有する成形体を製造する方法などが挙げられる。
【0139】
なお、成形型に形成されている凹凸構造の形状としては、例えば、ピッチ幅が10μm以下である微細パターンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0140】
以上説明したように、本発明の成形材料は、シリコーン系樹脂を使用しなくても成形精度に優れ、硬度が高く、良好な外観を有する成形体を製造する際に好適に使用することができる。
【0141】
本発明の成形体は、前記したように、基材上に成形材料層が形成されたものであり、当該成形材料層が本発明の成形材料から形成されている。基材上に成形材料層が形成された成形体の代表例としては、基材としてフィルム状基材上に本発明の成形材料から形成された成形材料層を有する積層フィルムなどが挙げられる。
【0142】
以下に、基材としてフィルム状基材上に成形材料層が形成された成形体の一実施態様を図面に基づいて説明する。
【0143】
図5は、本発明の成形材料が用いられた成形体の一実施態様を示す概略断面図である。図5において、凹凸構造を有する成形材料層1は、基材2の一方表面上に形成されている。成形材料層1は、図5に示される実施態様では、基材2の一方表面上のみに形成されているが、基材2の両表面に形成されていてもよい。
【0144】
基材2には、成形性に優れていることから、フィルム状基材を好適に用いることができる。フィルム状基材としては、例えば、透明で耐熱性を有するフィルム状基材(以下、透明耐熱性フィルム状基材という)などが挙げられる。前記透明耐熱性フィルム状基材としては、例えば、主鎖に環構造を有する重合体を含有するフィルム状基材などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。前記主鎖に環構造を有する重合体としては、例えば、主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系重合体;ノルボルネン系重合体などの環状オレフィン系重合体;セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロース系重合体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの主鎖に環構造を有する重合体のなかでは、光線透過率が高く、屈折率が低く、透明性、波長依存性、光学特性および加工性に優れていることから、主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系重合体が好ましい。
【0145】
主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系重合体は、主鎖に環構造および(メタ)アクリル酸エステルに由来の構成単位を有する。主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系重合体の環構造は、その耐熱性を向上させる観点から、エステル基、イミド基および酸無水物からなる群より選ばれた少なくとも1種を有することが好ましい。好適な環構造としては、例えば、ラクトン環構造:N−アルキル置換マレイミドに由来の環構造、グルタルイミド環などの環状イミド構造;無水マレイン酸に由来の環構造、グルタル酸無水物に由来の環構造などの環状酸無水物構造などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。環構造のなかでは、正の固有複屈折を付与することにより、当該正の複屈折性と(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来の構造による負の複屈折性とを打ち消し合うことにより、フィルム状基材を延伸させた場合であっても低複屈折を有することから、ラクトン環構造、グルタルイミド環構造および無水グルタル酸構造からなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましく、波長依存性が小さいという光学特性を有することから、ラクトン環構造がより好ましい。
【0146】
前記ラクトン環構造は、4〜8員環を有していてもよい。ラクトン環構造は、環構造の安定性に優れていることから、5〜6員環を有すること好ましく、6員環を有することがより好ましい。ラクトン環構造のなかでは、ラクトン環構造の含有率が高い(メタ)アクリル系重合体を容易に調製することができるとともに、メタクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸エステルとの共重合性に優れていることから、式(II):
【0147】
【化1】

【0148】
(式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、水素原子または酸素原子を有していてもよい炭素数1〜20の有機基を示す)
で表わされる環構造が好ましい。前記酸素原子を有していてもよい炭素数1〜20の有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数が1〜20のアルキル基;エテニル基、プロペニル基などの炭素数が2〜20の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数が6〜20の芳香族炭化水素基;前記アルキル基、前記不飽和脂肪族炭化水素基および前記芳香族炭化水素基が有する少なくとも1つの水素原子が水酸基、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の基と置換された基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0149】
主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系重合体は、例えば、環構造を有する単量体および(メタ)アクリル酸エステルを含有する単量体成分を重合させることによって得られる。
【0150】
環構造を有する単量体としては、例えば、シクロヘキシルマレイミド、メチルマレイミド、フェニルマレイミド、ベンジルマレイミドなどのN−置換マレイミド、無水マレイン酸などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの環構造を有する単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0151】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどのエステル部の炭素数が1〜10の(メタ)アクリル酸(シクロ)アルキルエステル;(メタ)アクリル酸ベンジルなどのエステル部の炭素数が7〜20の(メタ)アクリル酸アラルキル;(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどのエステル部の炭素数が1〜10であり、エステル部にハロゲン原子またはヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸(シクロ)アルキルエステルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの(メタ)アクリル酸エステルは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらの(メタ)アクリル酸エステルのなかでは、フィルム状基材の光学特性および熱安定性を向上させる観点から、(メタ)アクリル酸メチルが好ましい。
【0152】
単量体成分には、環構造を有する単量体および(メタ)アクリル酸エステル以外の他の単量体が含まれていてもよい。
【0153】
前記他の単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレンなどのスチレン系モノマー;(メタ)アクリロニトリルなどのニトリル系モノマー;エチレン、プロピレン、4−メチル−1−ペンテンなどのオレフィン系モノマー;酢酸ビニル、2−ヒドロキシメチル−1−ブテン、メチルビニルケトンなどの酸素原子含有ビニル化合物;N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾールなどの窒素原子含有ビニル化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの他の単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0154】
また、主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系重合体は、例えば、(メタ)アクリル系重合体を調製した後、当該(メタ)アクリル系重合体を環化反応させることにより、主鎖にラクトン環構造、グルタル酸無水物構造、グルタルイミド構造、N−置換マレイミドなどに由来の環構造を導入することにより、調製することもできる。この場合、主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系重合体の原料として用いられる単量体成分には、水酸基含有単量体またはカルボキシル基含有単量体を含有させることが好ましい。水酸基含有単量体およびカルボキシル基含有単量体は、いずれも環化反応によって環構造に変化する。なお、主鎖に環構造を有するアクリル系重合体には、水酸基含有単量体に由来の水酸基またはカルボキシル基含有単量体に由来のカルボキシル基が含まれていてもよい。
【0155】
水酸基含有単量体としては、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ブチルなどのエステル部の炭素数が1〜10の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸(シクロ)アルキルエステル;2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルなどのエステル部の炭素数が1〜10の2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸(シクロ)アルキルエステル;アリルアルコール、メタリルアルコールなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの水酸基含有単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0156】
カルボキシル基含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのカルボキシル基含有単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0157】
主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系重合体における環構造の含有率は、フィルム状基材の耐熱性を向上させるとともに、耐溶剤性および表面硬度を向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、フィルム状基材の成形性および取扱い性を向上させる観点から、好ましくは90質量%以下、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下、さらに一層好ましくは50質量%以下である。主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系重合体における(メタ)アクリル酸エステルに由来の構成単位の含有率は、フィルム状基材の成形性および取扱い性を向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、さらに一層好ましくは50質量%以上、さらにより一層好ましくは70質量%以上であり、フィルム状基材の耐熱性を向上させるとともに、耐溶剤性および表面硬度を向上させる観点から、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。
【0158】
また、主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系重合体における環構造および(メタ)アクリル酸エステルに由来の構成単位の合計含有率は、フィルム状基材の光学特性および表面硬度を向上させる観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらに一層好ましくは90質量%以上である。
【0159】
主鎖にラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂としては、例えば、特開2000−230016号公報、特開2001−151814号公報、特開2002−120326号公報、特開2002−254544号公報、特開2005−146084号公報などに記載のラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの主鎖にラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0160】
主鎖にグルタルイミド構造を有する(メタ)アクリル系樹脂としては、例えば、特開2006−309033号公報、特開2006−317560号公報、特開2006−328329号公報、特開2006−328334号公報、特開2006−337491号公報、特開2006−337492号公報、特開2006−337493号公報、特開2006−337569号公報、特開2007−009182号公報などに記載のグルタルイミド構造を有する(メタ)アクリル系樹脂などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの主鎖にグルタルイミド構造を有する(メタ)アクリル系樹脂は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0161】
主鎖にグルタル酸無水物構造を有する(メタ)アクリル系樹脂としては、例えば、特開2006−283013号公報、特開2006−335902号公報、特開2006−274118号公報などに記載のグルタル酸無水物構造を有する(メタ)アクリル系樹脂などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの主鎖にグルタル酸無水物構造を有する(メタ)アクリル系樹脂は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0162】
主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量は、特に制限されないが、好ましくは10000〜500000、より好ましくは50000〜300000である。
【0163】
主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系重合体は、熱可塑性を有することが好ましい。主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、さらに好ましくは115℃以上、さらに一層好ましくは120℃以上である。また、主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度(Tg)の上限値は、特に限定されないが、フィルム状基材の成形加工性を向上させる観点から、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下である。
【0164】
主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系重合体は、他の熱可塑性重合体と併用することができる。他の熱可塑性重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)などのオレフィン系重合体;塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩素化ビニル樹脂などのハロゲン化ビニル系重合体;ポリ(メタ)アクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル系重合体;ポリスチレン、スチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体などのスチレン系重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などのポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリオキシベンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴム、アクリル系ゴムなどのゴム成分を含有するABS樹脂、MBS樹脂、ASA樹脂などのゴム質重合体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの他の熱可塑性重合体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0165】
前記他の熱可塑性重合体のなかでは、主鎖に環構造を有するアクリル系重合体の正の位相差を負の位相差で打ち消すことにより、低位相差を有するフィルム状基材を製造する観点から、スチレン系重合体が好ましく、(メタ)アクリル系重合体との相溶性を向上させる観点から、スチレン−アクリロニトリル共重合体がより好ましい。また、フィルム状基材に低位相差および可撓性の双方を付与する観点から、ポリブタジエン系ゴム、アクリル系ゴムなどのゴム成分を含有するABS樹脂、MBS樹脂、ASA樹脂などのゴム質重合体が好ましい。
【0166】
主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系重合体100質量部あたりの前記他の熱可塑性重合体の量は、特に限定されないが、通常、好ましくは0〜50質量部、より好ましくは0〜40質量部、さらに好ましくは0〜30質量部、さらに一層好ましくは0〜20質量部である。
【0167】
主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系重合体は、添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤;耐光性安定化剤、耐候性安定化剤、熱安定化剤などの安定化剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;紫外線吸収剤;近赤外線吸収剤;難燃化剤;アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤などの帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機充填材、無機充填材などの充填材;ブロッキング防止剤;樹脂改質剤;可塑剤;滑剤;位相差低減剤などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの添加剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらの添加剤のなかでは、紫外線吸収剤が好ましい。
【0168】
紫外線吸収剤としては、例えば、2ーヒドロキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系化合物;フェニルサリシケートなどのサリシケート化合物;ベンゾエート化合物;(2,2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールなどのトリアゾール化合物;2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(3−オクチルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)−5−α−クミルフェニル]−s−トリアジン化合物、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(3−ノニルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)−5−α−クミルフェニル]−s−トリアジン化合物、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(3−デシルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)−5−α−クミルフェニル]−s−トリアジン化合物、2,4,6−トリス(ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリアジン化合物などのトリアジン化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの紫外線吸収剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらの紫外線吸収剤のなかでは、アクリル系樹脂などの非晶性の熱可塑性樹脂に対する相溶性に優れ、紫外線の吸収特性に優れていることから、トリアジン化合物およびトリアゾール化合物が好ましい。
【0169】
フィルム状基材における紫外線吸収剤の含有率は、特に限定されないが、フィルム状基材の耐候性を向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.7質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上であり、フィルム状基材の機械的強度および耐黄変性を向上させる観点から、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。
【0170】
主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系重合体100質量部あたりの添加剤の量は、特に限定されないが、好ましくは0〜5質量部、より好ましくは0〜2質量部、さらに好ましくは0〜0.5質量部である。
【0171】
主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系重合体、添加剤などは、例えば、オムニミキサーなどの混合機、単軸押出機、二軸押出機などの押出機、加圧ニーダーなどの混合機を用いて混合することができる。
【0172】
フィルム状基材を製造する方法としては、例えば、溶液流延法、溶液キャスト法などの溶液製膜法;溶融押出法、押出成形法などの溶融製膜法;カレンダー法;プレス成形法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの方法のなかでは、フィルム状基材の生産性に優れていることから、溶液製膜法および溶融製膜法が好ましい。
【0173】
また、フィルム状基材は、延伸させてもよい。フィルム状基材の延伸は、一軸延伸であってもよく、二軸延伸であってもよい。一軸延伸は、縦延伸(フィルム状基材の巻取り方向の延伸)であってもよく、横延伸(フィルム状基材の幅方向の延伸)であってもよい。縦延伸の場合、フィルム状基材の幅方向の変化を自由とする自由端一軸延伸であってもよく、フィルム状基材の幅方向の変化を固定とする固定端一軸延伸であってもよい。二軸延伸は、縦延伸後に横延伸を行なう逐次二軸延伸であってもよく、縦横延伸を同時に行なう同時二軸延伸であってもよい。また、フィルム状基材の厚さ方向の延伸またはフィルム状基材のロールに対して斜め方向の延伸を行なってもよい。延伸方法、延伸温度および延伸倍率は、目的とするフィルム状基材の光学特性、機械的強度などに応じて適宜選択することができる。
【0174】
以上のようにしてフィルム状基材が得られる。フィルム状基材の厚さは、フィルム強度を高める観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは15μm以上、さらに一層好ましくは20μm以上であり、積層フィルムを薄膜化させる観点から、好ましくは350μm以下、より好ましくは250μm以下、さらに好ましくは200μm以下、さらに一層好ましくは150μm以下、特に好ましくは100μm以下である。
【0175】
フィルム状基材に用いられる樹脂のガラス転移温度は、フィルム状基材の製膜精度を向上させる観点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、さらに好ましくは115℃以上、さらに一層好ましくは120℃以上である。また、前記樹脂のガラス転移温度の上限値は、特に限定されないが、フィルム状基材の製膜性を向上させる観点から、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、さらに好ましくは170℃以下、さらに一層好ましくは160℃以下である。
【0176】
JIS K7361−1(1997)の規定に準拠して測定されるフィルム状基材の全光線透過率は、透明性を向上させる観点から、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは92%以上である。
【0177】
フィルム状基材は、紫外線吸収性を有することが好ましい。波長380nmにおけるフィルム状基材の光線透過率は、紫外線による劣化を防止する観点から、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下である。なお、当該光線透過率は、JIS K7361(1997)の規定に準じて測定したときの値である。
【0178】
フィルム状基材は、また、可視光透過性を有することが好ましい。波長500nmにおけるフィルム状基材の光線透過率は、光学特性を向上させる観点から、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。なお、当該光線透過率は、前記と同様に、JIS K7361(1997)の規定に準じて測定したときの値である。
【0179】
フィルム状基材のヘイズは、当該フィルム状基材を光学用途に使用する場合には、フィルム状基材は光線透過性に優れていることが望ましいことから、好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下である。なお、フィルム状基材のヘイズは、後述する実施例に記載の方法によって測定したときの値である。
【0180】
また、フィルム状基材は、着色を小さくする観点から、厚さ250μmにおけるb値は、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.3以下である。なお、フィルム状基材のb値は、後述する実施例に記載の方法で測定したときの値である。
【0181】
フィルム状基材には、原料に含まれている異物、フィルム状基材を製造する際に混入した異物、成形時に発生する気泡、成形時におけるダイ、ロールなどの成形機によるダイラインや傷などの外観上の欠点が生じる可能性がある。このようなフィルム状基材の外観上の欠点が少ないことが好ましい。より具体的には、フィルム状基材における直径が20μm以上の欠点は、好ましくは1000個/m2以下、より好ましくは500個/m2以下、さらに好ましくは200個/m2以下、特に好ましくは0個/m2である。フィルム状基材における傷などの外観上の欠点は、原料の濾過、製造現場における清浄化、成形条件の最適化などによって低減させることができる。
【0182】
フィルム状基材は、耐熱性に優れていることが好ましい。本明細書において「耐熱性」とは、JIS K7121の規定に準拠して求められるフィルム状基材のガラス転移温度(Tg)が100℃以上であることを意味する。フィルム状基材のガラス転移温度が高い場合には、成形型を用いて成形する際の温度を高くすることができるので、成形材料の最低造膜温度と成形温度との差を大きくすることができることから、成形材料の成形性を高めることができる。したがって、フィルム状基材のガラス転移温度を高くすることにより、成形体を製造する際の成形時間を短縮することができるとともに、成形時の圧力を低くすることができるので、成形体の生産性を高めることができる。
【0183】
フィルム状基材のガラス転移温度は、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、さらに好ましくは115℃以上、さらに一層好ましくは120℃以上である。また、フィルム状基材のガラス転移温度の上限値は、特に限定されないが、フィルム状基材の製膜性の観点から、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下である。
【0184】
フィルム状基材の表面には、必要に応じて、機能性コーティング層が形成されていてもよい。機能性コーティング層としては、例えば、帯電防止層、粘接着剤層、接着層、易接着層、易滑層、剥離性付与層、防眩(ノングレア)層、光触媒層などの防汚層、反射防止層、ハードコート層、紫外線遮蔽層、熱線遮蔽層、電磁波遮蔽層、ガスバリヤー層などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。機能性コーティング層は、フィルム状基材を延伸させる前に形成させてもよく、あるいはフィルム状基材を延伸させた後に形成してもよい。また、機能性コーティング層は、フィルム状基材の入射光面および出光面のいずれの面に形成させてもよい。さらに、フィルム状基材の両面に、同一種類の機能性コーティング層を形成してもよく、あるいは異なる種類の機能性コーティング層を形成してもよい。機能性コーティング層は、単層構造を有するものであってもよく、同一種類または異なる種類からなる機能性コーティング層が積層された多層構造を有するものであってもよい。
【0185】
本発明の成形体は、例えば、積層フィルムの形態で用いることができる。積層フィルムは、例えば、本発明の成形材料をスプレー、ローラー、ハケ、コテなどを用い、または、ロールコート、バーコート、ダイコート、コンマコート、グラビアコート、キスコート、スピンコート、ディップコート、カーテンコート、ドクターブレードコート、ナイフコート、エアナイフコート、ダイコート、マイクログラビアコート、オフセットグラビアコート、リップコートなどの方法によってフィルム状基材などの基材に塗布することによって容易に製造することができる。形成された成形材料層は、硬化させなくてもよく、あるいは必要により硬化させてもよい。
【0186】
積層フィルムの表面には、例えば、積層フィルムの表面における光線の反射を抑制するため、あるいは光線の取り出し効率を高めるために凹凸構造が形成されていてもよい。この場合、凹凸構造は、積層フィルムの少なくとも一方表面に設けられていればよいが、成形精度を高め、硬度が高いことから、本発明の成形材料で形成された成形材料層に設けられていることが好ましい。
【0187】
積層フィルムの表面に設けられる凹凸構造において、凸部の平均高さおよび凹部の平均深さは、それぞれ、所望の光学特性を発現させる観点から、好ましくは100nm以上、より好ましくは200nm以上、さらに好ましくは250nm以上、さらに一層好ましくは280nm以上であり、また、凹凸構造を容易に形成させることができるようにする観点から、好ましくは1000nm以下、より好ましくは600nm以下、さらに好ましくは500nm以下である。
【0188】
なお、本明細書において、凸部とは、基準となる面よりも突出している部分を意味し、凹部とは、基準となる面よりも凹んでいる部分を意味する。前記基準となる面とは、成形材料層の表面を意味する。
【0189】
前記凸部の平均高さおよび凹部の平均深さは、原子間力顕微鏡等の走査型プローブ顕微鏡を用いて凹凸構造の表面を走査し、凹凸の上下方向の変位を計測することにより、求めることができる。
【0190】
積層フィルムの表面に設けられる凹凸構造が波状である場合には、当該波の最高部(凸部の上端)から最深部(凹部の下端)までの平均長さ、すなわちフィルム面に対して垂直方向における波の最高部から最深部までの長さの平均値、換言すれば平均的な高低差は、所望の光学特性を発現させる観点から、好ましくは100nm以上、より好ましくは200nm以上、さらに好ましくは250nm以上、さらに一層好ましくは280nm以上であり、また、凹凸構造を容易に形成させる観点から、好ましくは1000nm以下、より好ましくは600nm以下、さらに好ましくは500nm以下である。
【0191】
なお、本明細書において、フィルム面に対して垂直方向における波の最高部から最深部までの長さの平均値は、前記凸部の平均高さまたは前記凹部の平均深さと同様にして求めることができる。
【0192】
積層フィルムの表面に設けられる凹凸構造において、平均的な凸部と凸部との間隔、すなわち、凸部の周期の平均値(以下、平均周期という)および平均的な凹部と凹部の間隔、すなわち、凹部の平均周期は、積層フィルムの反射防止性を向上させるとともに、光の取り出し効率を高める観点から、可視光線(波長:400〜830nm)の波長以下、好ましくは400nm以下、より好ましくは370nm以下、さらに好ましくは350nm以下であり、前記と同様に、積層フィルムの反射防止性を向上させるとともに、光の取り出し効率を高める観点から、好ましくは100nm以上、より好ましくは120nm以上、さらに好ましくは150nm以上である。
【0193】
積層フィルムの表面に設けられる凹凸構造において、凸部の形状および凹部の形状は、積層フィルムの用途に応じて適宜選択することが好ましい。例えば、積層フィルムを反射防止膜に用いる場合には、凸部の形状および凹部の形状として、円錐型、三角錐型、釣り鐘型などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。凸部の形状および凹部の形状は、凸部の上端から凹部の下端に至るまでの領域において、空気の屈折率から凹部の下端を形成する材料の屈折率まで屈折率が連続的に変化する構造であることが好ましい。
【0194】
積層フィルムの表面に設けられる凹凸構造において、凸部および凹部は、積層フィルムの反射防止性を向上させるとともに、光の取り出し効率を高める観点から、例えば、正方配列、三方配列などのように規則的に配列されていることが好ましい。
【0195】
積層フィルムの表面の単位面積あたりの凹凸構造の占有面積比率は、積層フィルムの表面における反射を抑制する観点から、好ましくは40%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは80%以上である。
【0196】
積層フィルムの表面の単位面積1μm2あたりの積層フィルムの表面における凹部および凸部の合計個数は、積層フィルムの表面における反射を抑制する観点から、好ましくは4個以上、より好ましくは9個以上、さらに好ましくは16個以上であり、好ましくは100個以下、より好ましくは90個以下、さらに好ましくは80個以下である。
【0197】
積層フィルムの表面に設けられる凹凸構造において、凸部の平均高さまたは凹部の平均深さをフィルム面に対して垂直方向における波の最高部から最深部までの長さの平均値で除した値(以下、アスペクト比という)は、光学特性を向上させる観点から、好ましくは1以上、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2以上であり、凹凸構造を精度よく形成する観点から、好ましくは5以下、より好ましくは3以下である。
【0198】
積層フィルムにおいて、凹凸構造を有する面における押し込み深さ100nmでのダイナミック硬度は、耐擦傷性を向上させるとともに、成形時の離型性を向上させる観点から、好ましくは5mN/μm2以上、より好ましくは8mN/μm2以上であり、凹凸構造の強度を向上させ、当該凹凸構造の形状を維持する観点から、好ましくは50mN/μm2以下、より好ましくは40mN/μm2以下である。
【0199】
積層フィルムの表面に凹凸構造を形成させる際には、積層フィルムの表面が有する凹凸構造に対応する構造を表面に有する成形型を用いることができる。前記成形型を用いる場合、積層フィルムの表面に当該成形型を押し付けることにより、成形型の表面に形成されている凹凸形状を積層フィルムの表面に転写することができる。したがって、積層フィルムの表面に凸部を形成させる場合には、当該凸部の形状に対応した凹部の形状を有する成形型を用いることができる。凹部を形成させる場合には、当該凹部の形状に対応した凸部の形状を有する成形型を用いることができる。また、積層フィルムの表面に凸部および凹部を形成させる場合には、当該凸部および凹部の形状に対応した凹部および凸部の形状を有する成形型を用いることができる。
【0200】
前記成形体は、例えば、本発明の成形材料からなる成形材料層をフィルム状基材上に形成させ、形成された成形材料層に凹凸構造を表面に有する成形型を押し当てた後、当該凹凸構造に対応する凹凸構造が形成された成形材料層を硬化させることによって製造することができる。
【0201】
なお、積層フィルムの表面が有する凹凸構造に対応する構造を表面に有する成形型は、例えば、マスクとしてフォトリソグラフィ、電子線リソグラフィなどによって形成されたレジストパターンを介し、シリコン、石英などからなる基板の表面をドライエッチングする方法、前記シリコン、石英などからなる基板の表面をドライエッチングした型をマスターとして用い、凹凸構造が反転した凸凹構造を有する複製品をめっきによって製造する方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0202】
前記積層フィルムは、光線の反射率が低く、光線の透過性に優れていることから、例えば、偏光子保護フィルムなどとして用いることができる。
【0203】
図6は、本発明の成形材料が用いられた偏光子保護フィルムの一実施態様を示す概略断面図である。偏光子保護フィルムは、図6に示されるように、表面に凹凸構造を有する成形材料層1がフィルム状基材2aの一方表面上に形成されている積層フィルムにおいて、成形材料層1が形成されていないフィルム状基材2aの面に偏光子4が形成されている。偏光子4のフィルム状基材2aが形成されていない面には、位相差フィルム5が形成されている。
【0204】
偏光子保護フィルムは、例えば、接着剤層を介して前記積層フィルムを偏光子に接着させることにより、製造することができる。偏光子としては、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムがヨウ素、二色性染料などによって染色され、一軸延伸されたポリビニルアルコール系偏光子;ポリビニルアルコールの脱水物、ポリ塩化ビニルの脱塩酸物などからなるポリエン系偏光子;多層積層体またはコレステリック液晶が用いられた反射型偏光子;薄膜結晶フィルム系偏光子などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。偏光子のなかでは、一軸延伸されたポリビニルアルコール系偏光子が好ましい。偏光子の厚さは、通常、5〜100μm程度であることが好ましい。
【0205】
接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂などを含む接着剤;紫外線、電子線などの活性エネルギー線で硬化する接着剤;アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ゴム系粘着剤などの粘着剤などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの接着剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0206】
接着剤には添加剤が用いられていてもよい。添加剤としては、架橋剤、接着促進剤、増感剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、染料、顔料などの着色剤、加工助剤、イオン捕捉剤、酸化防止剤、粘着性付与剤、充填剤、可塑剤、レベリング剤、発泡抑制剤、帯電防止剤などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの添加剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0207】
接着剤を用いて積層フィルムと偏光子とを接着させる方法としては、例えば、キスコート、スピンコート、ロールコート、ディップコート、カーテンコート、バーコート、ドクターブレードコート、ナイフコート、エアナイフコート、ダイコート、グラビアコート、マイクログラビアコート、オフセットグラビアコート、リップコート、スプレーコート、コンマコートなどの方法で偏光子の接着面に接着剤を塗布した後、当該偏光子の接着面と積層フィルムとを重ね合わせる方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。なお、積層フィルムと偏光子とを接着させる際には、積層フィルムの光軸と偏光子の吸収軸が直交または平行となるように配置することが好ましい。
【0208】
積層フィルムの偏光子と接する面には、接着性を向上させるために、易接着処理が施されていてもよい。易接着処理としては、例えば、プラズマ処理、コロナ処理、紫外線照射処理、溶剤処理、フレーム(火炎)処理、ケン化処理、アンカー層の形成などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの方法は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらの方法のなかでは、コロナ処理およびアンカー層の形成が好ましい。
【0209】
アンカー層を形成させる際には、例えば、アクリル系ポリマー、セルロース系ポリマー、ウレタン系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリエチレンイミン系ポリマー、アミノ基含有ポリマーなどのポリマーをアンカー層形成用ポリマーとして用いることができる。これらのポリマーは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0210】
また、アンカー層を形成させる際には、前記ポリマーを含有するコーティング組成物を用いることができる。コーティング組成物には、前記ポリマー以外に、例えば、架橋剤、ブロッキング防止剤、分散安定剤、揺変剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、増粘剤、分散剤、界面活性剤、触媒、帯電防止剤などの添加剤を含有させてもよい。
【0211】
前記コーティング組成物を積層フィルムの偏光子との接触面に塗布する方法としては、例えば、バーコーター、ロールコーター、グラビアコーターなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0212】
塗布したコーティング組成物の乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥機、赤外線乾燥機などの乾燥機を用い、好ましくは50〜130℃、より好ましくは75〜110℃の温度で乾燥させる方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。コーティング組成物の乾燥後、必要により、好ましくは20〜100℃、より好ましくは20〜50℃の温度で、形成された被膜を養生させてもよい。
【0213】
乾燥後のアンカー層の厚さは、偏光子と積層フィルムとの接着強度を高める観点から、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.1μm以上であり、偏光板の色抜けおよび変色を防止する観点から、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは3μm以下、さらに一層好ましくは1μm以下である。
【0214】
なお、アンカー層の表面には、濡れ性を向上させる観点から、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン吹き付け、溶剤処理、紫外線照射、火炎処理、化学薬品処理などの表面処理を施してもよい。
【0215】
前記偏光子保護フィルムは、光学特性および耐熱性に優れていることから、例えば、VA型、IPS型などの液晶表示装置(LCD)、有機エレクトロルミネッセンス発光装置(有機EL)、プラズマディスプレイ、電子ペーパー、3Dディスプレイ、電界放出ディスプレイ(FED)などの画像表示装置の偏光子を保護する光学フィルムとして好適に用いることができる。
【0216】
前記積層フィルムは、光の反射率が低く、光の取り出し効率が高いことから、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)発光装置に好適に使用することができる。
【0217】
図7は、本発明の成形材料が用いられた有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)発光装置の一実施態様を示す概略断面図である。図7に示される有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)発光装置は、表面に凹凸構造を有する成形材料層1とフィルム状基材2aとが積層された積層フィルムが用いられている。積層フィルムは、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)発光装置の光取り出し面側に配設されている。発光層10の一方表面には、正孔輸送層/正孔注入層9を介して酸化インジウム錫(ITO)などのアノード電極8が接続されている。発光層10の他方表面には、電子輸送層/電子注入層11を介してカソード電極12が接続され、さらにカソード電極12は、透明保護層13が積層されている。アノード電極8には、ガラス基板7が積層されている。積層フィルムのフィルム状基材2aは、粘着剤層6を介してガラス基板7に配設され、積層フィルムの成形材料層1は、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)発光装置の光取り出し面側となるように配設されている。発光層10で生じた光線は、ガラス基板7に積層されている粘着剤層6およびフィルム状基材2aを通過し、成形材料層1の表面から取り出される。
【0218】
図7に示される有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)発光装置では、積層フィルムの凹凸構造が形成された面が光取り出し面側となるように設けられているので、光取り出し効率が高められている。したがって、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)発光装置の発光層10よりも光取り出し面側にあるガラス基板7に複雑な加工を施すことなく、フィルム状基材2aをガラス基板7に積層させることにより、輝度を高めることができるという優れた効果が発現される。
【0219】
なお、表面に凹凸構造を有する積層フィルムをガラス基板7に貼り合せる方法としては、例えば、粘着剤層6を介し、積層フィルムのフィルム状基材2aとガラス基板7とを貼り合せる方法、積層フィルムのフィルム状基材2aとガラス基板7とを加熱圧着させる方法などが挙げられるが、本発明は、かかる方法のみに限定されるものではない。なお、図7に示される実施態様においては、粘着剤層6が用いられているが、当該粘着剤層6の代わりに接着剤層(図示せず)が用いられていてもよい。
【0220】
粘着剤層6に用いられる粘着剤および接着剤層(図示せず)に用いられる接着剤としては、例えば、アクリル系樹脂を含む粘着剤、シリコーン系樹脂を含む粘着剤、ゴムを含む粘着剤などの粘着剤;アクリル系樹脂を含む接着剤、ウレタン系樹脂を含む接着剤、ポリエステル系樹脂を含む接着剤などの接着剤;紫外線、電子線などの活性エネルギー線で硬化する接着剤などが挙げられるが、本発明は、かかる方法のみに限定されるものではない。前記粘着剤および接着剤のなかでは、粘着剤層6または接着剤層(図示せず)の屈折率とフィルム状基材2aの屈折率との屈折率差、および粘着剤層6または接着剤層(図示せず)の屈折率とガラス基板7の屈折率との屈折率差をいずれも小さくし、光線の取り出し効率を高める観点から、アクリル系樹脂を含む粘着剤、ウレタン系樹脂を含む粘着剤、アクリル系樹脂を含む接着剤およびウレタン系樹脂を含む接着剤が好ましい。
【0221】
なお、前記粘着剤および接着剤は、添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、架橋剤、接着促進剤、濡れ性向上剤、増感剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、染料、加工助剤、イオン捕捉剤、酸化防止剤、粘着性付与剤、充填剤、可塑剤、レベリング剤、発泡抑制剤、帯電防止剤などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0222】
次に本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0223】
製造例1
滴下ロート、撹拌機、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコ内に脱イオン水63.0gを仕込んだ。また、滴下ロートに乳化剤としてアニオン性界面活性剤〔ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロン(登録商標)HS−10〕の25%水溶液12.0g、脱イオン水42.8g、メチルメタクリレート68.0g、シクロヘキシルメタクリレート20.0g、スチレン10.0gおよびアクリル酸2.0gからなるプレエマルションを調製した。その後、ゆるやかに窒素ガスをフラスコ内に吹き込みながら撹拌下で75℃まで昇温し、5%過硫酸カリウム水溶液6.0gを添加し、初期反応を開始した。
【0224】
初期反応の終了後、反応系内を80℃に維持した状態で、前記で得られたプレエマルションを5時間にわたって均一に滴下した。滴下終了後、脱イオン水5gで滴下ロートを洗浄し、洗浄液をフラスコ内に滴下した。その後、80℃で1時間維持し、重合を終了した。
【0225】
得られた反応液を室温まで冷却し、不揮発分含量が44.6質量%の重合体分散液を得た。得られた重合体の計算によるガラス転移温度は97℃であった。
【0226】
製造例2
滴下ロート、攪拌機、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコ内に脱イオン水812.6gを仕込んだ。また、滴下ロートに乳化剤としてアニオン性界面活性剤〔ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロン(登録商標)HS−10〕の25%水溶液80.0g、脱イオン水133.3g、メチルメタクリレート390.0g、トリメチロールプロパントリメタクリレート100.0gおよびアクリル酸10.0gからなる1段目のプレエマルションを調製し、そのうちモノマー全量の10質量%にあたる140.0gをフラスコ内に添加し、ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら攪拌下に75℃まで昇温した。昇温後、5%過硫酸カリウム水溶液60.0gをフラスコ内に添加し、初期反応を開始した。
【0227】
初期反応の終了後、反応系内を80℃に維持した状態で、前記で得られた1段目のプレエマルションを2時間にわたって均一滴下した。滴下終了後、脱イオン水20.0gで滴下ロートを洗浄し、洗浄液をフラスコ内に添加した。その後、80℃で1時間維持し、1段目の重合を終了した。
【0228】
次に、滴下ロートに乳化剤としてアニオン性界面活性剤〔ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロン(登録商標)HS−10〕の25%水溶液40.0g、脱イオン水146.0g、スチレン100.0g、シクロヘキシルメタクリレート140.0g、メチルメタクリレート250.0gおよびアクリル酸10.0gからなる2段目のプレエマルションを調製し、2時間にわたって均一に滴下した。滴下終了後、脱イオン水20.0gで滴下ロートを洗浄し、洗浄液をフラスコ内に添加した。その後、80℃で1時間維持し、25%アンモニア水をフラスコ内に添加し、pHを9.0に調整し、2段目の重合を終了した。
【0229】
得られた反応液を室温まで冷却し、不揮発分含量が44.0質量%の重合体分散液を得た。得られた重合体の計算によるガラス転移温度は101℃であった。
【0230】
実施例1
製造例1で得られた重合体分散液224.2gと、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)2.5gおよび1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート50.0gを撹拌しながら混合することにより、成形材料を得た。得られた成形材料の最低造膜温度は0℃であった。
【0231】
得られた成形材料をガラス板に10milのアプリケーターにて塗布し、50℃で1時間予備乾燥させることにより、ガラス板上に薄膜を形成させた。薄膜の厚さは、約100μmであった。
【0232】
次に、あらかじめプレス機で凹凸構造がパターニングされた型(凹部の深さ:約10μm)を用い、成形温度(型の温度)を100℃に調整し、当該型の凹凸構造がパターニングされている面上にガラス基板をその薄膜が形成されている面を下向きにして載置し、100℃で1時間保持し、プレス機でパターンを転写させた。このガラス基板から型を剥離することにより、ガラス基板上にパターンが転写された薄膜を有する成形体を得た。成形温度と最低造膜温度との差は100℃であった。
【0233】
得られた成形体の物性として、成形精度、成形体の硬度および成形体の外観を以下の方法に基づいて評価し、各物性の評価における点数を合計することにより、総合得点を求めた。その結果を表1に示す。
【0234】
(1)成形精度
成形体を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
〔評価基準〕
5:転写不良なし
4:転写不良が20%未満
3:転写不良が20%以上50%未満
2:転写不良が50%以上70%未満
1:転写不良が70%以上
【0235】
(2)成形体の硬度
成形体を成形し、1日間室温中で放置した後、JIS K 5400に準拠して鉛筆引っかき試験を行ない、以下の評価基準に基づいて評価した。
〔評価基準〕
5:鉛筆硬度が5H以上
4:鉛筆硬度が3−4H
3:鉛筆硬度がHB−2H
2:鉛筆硬度が2B−B
1:鉛筆硬度が3B以下
【0236】
(3)成形体の外観
成形体を予備乾燥させた後、成形体を目視で観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
〔評価基準〕
3:クラックなし
2:一部クラックあり
1:全面にクラックあり
【0237】
実施例2
製造例1で得られた重合体分散液224.2gと、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェエル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン2.5gおよび1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート50.0gを撹拌しながら混合することにより、成形材料を得た。得られた成形材料の最低造膜温度は0℃であった。
【0238】
得られた成形材料をガラス板に10milのアプリケーターにて塗布し、50℃で1時間予備乾燥させることにより、ガラス板上に薄膜を形成させた。薄膜の厚さは、約100μmであった。
【0239】
次に、あらかじめプレス機で凹凸構造がパターニングされた型(凹部の深さ:約10μm)を用い、成形温度(型の温度)を25℃に調整し、当該型の凹凸構造がパターニングされている面上にガラス基板をその薄膜が形成されている面を下向きにして載置し、プレス機でパターンを転写させた。このガラス基板に紫外線を500mJ/cm2の強度で照射した後、ガラス基板から型を剥離することにより、ガラス基板上にパターンが転写された薄膜を有する成形体を得た。成形温度と最低造膜温度との差は25℃であった。得られた成形体の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0240】
実施例3
実施例2において、成形温度(型の温度)を25℃から10℃に変更したこと以外は、実施例2と同様にして成形体を得た。得られた成形材料の最低造膜温度は0℃であり、成形温度と最低造膜温度との差は10℃であった。
【0241】
得られた成形材料を用いて実施例2と同様にして成形体を製造し、実施例1と同様にしてその物性を調べた。その結果を表1に示す。
【0242】
実施例4
製造例1で得られた重合体分散液224.2gと、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェエル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン2.5g、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート50.0gおよびジベンタエリスリトールヘキサアクリレート25.0gを撹拌しながら混合することにより、成形材料を得た。得られた成形材料の最低造膜温度は0℃であった。
【0243】
得られた成形材料を用いて実施例2と同様にして成形体を製造し、実施例1と同様にしてその物性を調べた。その結果を表1に示す。なお、成形温度と最低造膜温度との差は25℃であった。
【0244】
実施例5
実施例2において、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレートの量を50.0gから25.0gに変更し、プレス機の成形温度(型の温度)を50℃に変更したこと以外は、実施例2と同様にして成形体を製造し、実施例1と同様にしてその物性を調べた。その結果を表1に示す。なお、成形材料の最低造膜温度は30℃であり、成形温度と最低造膜温度との差は20℃であった。
【0245】
実施例6
製造例2で得られた重合体分散液227.3g、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン3.0g、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート30.0gおよびジペンタエリスリトールヘキサアクリレート50.0gを撹拌しながら混合することにより、成形材料を得た。得られた成形材料の最低造膜温度は0℃であった。
【0246】
前記で得られた成形材料を用い、紫外線を2J/cmの強度で照射した以外は、実施例2と同様にして成形体を製造し、実施例1と同様にしてその物性を調べた。その結果を表1に示す。なお、成形温度と最低造膜温度との差は25℃であった。
【0247】
比較例1
実施例2において、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート50.0gの代わりに非反応性化合物である2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート〔チッソ(株)製、商品名:CS−12〕50.0gを添加したこと以外は、実施例2と同様にして成形体を製造し、実施例1と同様にしてその物性を調べた。その結果を表1に示す。なお、成形材料の最低造膜温度は0℃であり、成形温度と最低造膜温度との差は25℃であった。
【0248】
【表1】

【0249】
表1に示された結果から、各実施例で得られた成形体は、いずれも、比較例1で得られた成形体と対比して、成形精度、成形体の硬度および成形体の外観のいずれにも総合的に優れていることがわかる。
【0250】
調製例1
攪拌装置、温度計、冷却器および窒素ガス導入管を備えた反応釜に、メタクリル酸メチル40部(質量部、以下同様)、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル10部、トルエン50部およびホスファイト系酸化防止剤〔(株)ADEKA製、商品名:アデカスタブ2112〕0.025部を仕込み、反応釜内に窒素ガスを通じつつ、反応釜の内容物の温度を105℃まで昇温させた。還流が生じたところで、重合開始剤としてtert−アミルパーオキシイソノナノエート〔アトフィナ吉富(株)製、商品名:ルパゾール570〕0.05部を反応釜内に添加するととともに、tert−アミルパーオキシイソノナノエート〔アトフィナ吉富(株)製、商品名:ルパゾール570〕0.10部を2時間かけて反応釜内に滴下しながら、還流下(約105〜110℃)で溶液重合を行ない、さらに4時間熟成を行なった。
【0251】
前記で得られた重合体溶液にリン酸ステアリル〔堺化学工業(株)製、商品名:Phoslex A−18)0.05部を添加し、還流下(約90〜110℃)で2時間環化縮合反応させた。
【0252】
次に、前記で得られた重合体溶液を240℃に加熱した多管式熱交換器を通すことにより、環化縮合反応を完結させた後、バレル温度240℃、回転数120rpm、減圧度13.3〜400hPa、リアベント数1個、フォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)のうち第3ベントと第4ベントとの間にサイドフィーダーを有するベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に、樹脂量換算で20部/時間の処理速度で導入し、脱揮を行なった。そのとき、以下の「酸化防止剤・失活剤混合溶液の調製」に記載のようにしてあらかじめ調製しておいた酸化防止剤・失活剤の混合溶液を第2ベントの後から高圧ポンプで0.3部/時間の投入速度で注入した。また、第1ベントの後およびサイドフィーダーの後から高圧ポンプでイオン交換水を0.33部/時間の投入速度でそれぞれ注入した。
【0253】
また、サイドフィーダーからAS樹脂〔旭化成ケミカルズ(株)製、商品名:スタイラックAS783L〕を2.12部/時間の供給速度で添加し、溶融混練した樹脂を得た。
【0254】
次に、前記で得られた溶融混練した樹脂をリーフディスク型のポリマーフィルター〔長瀬産業(株)製、濾過精度:5μm〕で濾過することにより、アクリル樹脂のペレットを得た。
【0255】
〔酸化防止剤・失活剤混合溶液の調製〕
ヒンダードフェノール系酸化防止剤〔長瀬産業(株)製、商品名:イルガノックス1010〕50部、フェノール系酸化防止剤〔(株)ADEKA製、商品名:アデカスタブAO−412S〕50部およびオクチル酸亜鉛〔日本化学産業(株)製、商品名:ニッカオクチクス亜鉛3.6%)40部をトルエン160部に溶解させることにより、酸化防止剤・失活剤混合溶液を調製した。
【0256】
前記で得られたペレットに用いられているアクリル樹脂の重量平均分子量およびガラス転移温度を以下の方法に基づいて調べた。その結果、当該アクリル系樹脂の重量平均分子量は132000であり、ガラス転移温度は125℃であった。
【0257】
〔アクリル樹脂の重量平均分子量の測定方法〕
アクリル樹脂の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、以下の条件で求めた。
・システム:東ソー(株)製、品番:GPCシステム HLC−8220
・展開溶媒:クロロホルム〔和光純薬工業(株)製、特級〕、流量:0.6mL/分
・標準試料:TSK標準ポリスチレン〔東ソー(株)製、商品名:PS−オリゴマーキット)
・測定側カラムの構成:ガードカラム〔東ソー(株)製、商品名:TSKguardcolumn SuperHZ−L〕、分離カラム〔東ソー(株)製、商品名:TSKgel SuperHZM−M〕2本直列接続
・リファレンス側カラムの構成:リファレンスカラム〔東ソー(株)製、商品名:TSKgel SuperH−RC〕
・カラム温度:40℃
・検出器:示差屈折計
【0258】
〔ガラス転移温度〕
アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121の規定に準拠して求めた。より具体的には、示差走査熱量計〔(株)リガク製、品番:DSC−8230〕を用い、窒素ガス雰囲気下でアクリル樹脂約10mgを常温から200℃まで昇温速度20℃/分で昇温し、得られたDSC曲線から始点法により算出した。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
【0259】
次に、前記で得られたペレットをリーフディスク型のポリマーフィルター〔長瀬産業(株)製、濾過精度:5μm〕を備えた単軸押出機に入れ、溶融混練物を調製し、得られた溶融混練物を280℃の温度でTダイから押出し、110℃の冷却ロール上に吐出することにより、未延伸フィルムを調製した。得られた未延伸フィルムを、縦横とも延伸倍率が2.0倍となるように逐次2軸延伸することにより、厚さが100μmの透明のフィルム状基材を得た。得られたフィルム状基材のガラス転移温度は、前記と同様にして測定したところ、125℃であった。また、以下の方法に基づいてフィルム状基材の全光線透過率、ヘイズ、b値、面内位相差Reおよび厚さ方向位相差Rthを測定したところ、全光線透過率は92.3%であり、ヘイズは0.4%であり、b値は0.1であり、面内位相差Reは1nmであり、厚さ方向位相差Rthは2nmであった。
【0260】
〔全光線透過率〕
フィルム状基材の全光線透過率は、濁度計〔日本電色工業(株)製、品番:NDH−5000〕を用い、JIS K7361−1(1997)に準拠して測定した。
【0261】
〔ヘイズ〕
フィルム状基材のヘイズは、濁度計〔日本電色工業(株)製、品番:NDH−5000〕を用いて測定した。
【0262】
〔b値(色差)〕
フィルム状基材のb値(色差)は、測色色差計〔日本電色工業(株)製、品番:ZE6000〕を用いて測定したフィルム状基材の測定値を基に、フィルム状基材の膜厚を250μmに換算した値として算出した。なお、b値は、JIS Z8729に基づく色相の表示でbの値であり、フィルム状基材を標準白色板に重ねることによって測定した10ヵ所の平均値として求めた。
【0263】
〔面内位相差Re〕
フィルム状基材の面内位相差Reは、波長400nm、589nmまたは750nmにて、位相差フィルム・光学材料検査装置〔大塚電子(株)製、品番:RETS−100〕を用いて測定した。
【0264】
〔厚さ方向位相差Rth〕
フィルム状基材の厚さ方向の位相差Rthは、波長400nm、589nmまたは750nmにて、位相差フィルム・光学材料検査装置〔大塚電子(株)製、品番:RETS−100〕を用いて測定した。また、フィルム状基材の厚さ方向の位相差値Rthは、アッベ屈折率計で測定したフィルム状基材の平均屈折率、フィルム状基材の厚さd、40°傾斜させて測定した位相差値〔Re(40°)〕、フィルム状基材の面内における遅相軸方向の屈折率nx、進相軸方向の屈折率nyおよびフィルム状基材の厚さ方向の屈折率nzを得た後、式:
[厚さ方向位相差Rth(nm)]=[(nx+ny)/2−nz]×d
に基づいて求めた。
【0265】
なお、フィルム状基材の厚さdは、デジマチックマイクロメーター〔(株)ミツトヨ製〕を用いて測定した。
【0266】
調製例2
グルタルイミド樹脂(エボニック・デグサジャパン(株)製、商品名:プレキシイミド8813)78部、AS樹脂(旭化成ケミカルズ製、商品名:スタイラックAS783L)22部、酸化防止剤〔(株)ADEKA製、商品名:アデカスタブAO−60〕0.05部およびフェノール系酸化防止剤〔(株)ADEKA製、商品名:アデカスタブAO−412S〕0.05部を調製例1と同様にして2軸押出機で混練し、アクリル樹脂のペレットを得た。得られたペレットに含まれているアクリル樹脂の重量平均分子量およびガラス転移温度を調製例1と同様にして測定したところ、アクリル樹脂の重量平均分子量は128000であり、ガラス転移温度は129℃であった。
【0267】
次に、前記で得られたペレットをリーフディスク型のポリマーフィルター〔長瀬産業(株)製、濾過精度:5μm〕を備えた単軸押出機を用い、280℃の温度でTダイから溶融押出し、110℃の冷却ロール上に吐出することにより、未延伸フィルムを得た。前記で得られた未延伸フィルムを縦横とも延伸倍率が2.0倍となるように逐次2軸延伸することにより、厚さが100μmの透明のフィルム状基材を得た。このフィルム状基材のガラス転移温度、全光線透過率、ヘイズ、b値、面内位相差Reおよび厚さ方向位相差Rthを調製例1と同様にして調べたところ、ガラス転移温度が129℃であり、全光線透過率は91.8%であり、ヘイズは0.5%であり、b値は0.3であり、面内位相差Reは2nmであり、厚さ方向位相差Rthは2nmであった。
【0268】
実施例7
実施例4で得られた成形材料を調製例1で得られたフィルム状基材に乾燥後の厚さが約4μmとなるようにバーコーターを用いて塗布し、60℃の温度で10分間乾燥させることにより、成形体として、フィルム状基材の一方表面に成形材料層が形成された積層フィルムを得た。
【0269】
次に、ガラス基板上に積層フィルムの成形材料層が形成されている面と反対側の面がガラス基板に接触するように配置し、積層フィルムをガラス基板と密着させた。
【0270】
温度が40℃に調整された直径200nm、深さ400nmの円錐形の凹部を220nmの周期で配列された石英製の透明な成形型(縦:20mm、横:20mm)を当該成形型の凹凸構造が形成されている面が積層フィルムの成形材料層の表面に接触するように配置し、成形型を積層フィルムに押し当て、基板面全体が均等に加圧されるように2kNの圧力を加えた。
【0271】
次に、成形型側から、高圧水銀ランプ(120W/cm)にて積算光量が500mJ/cm2となるように紫外線を照射することにより、成形材料層を硬化させた後、ガラス基板およびフィルム状基材を成形型から離型し、さらにフィルム状基材をガラス基板から剥離することにより、表面に凹凸構造を有する成形体を得た。
【0272】
前記で得られた成形体の成形材料層を原子間力顕微鏡(AFM)で観察したところ、当該成形材料層の表面には、平均高さが400nmの円錐状突起が平均周期220nmで配列された凹凸構造が表面に形成されており、転写不良がないことが確認された。
【0273】
前記で得られた成形体の物性として、成形材料層の硬度を前記「(2)成形体の硬度」と同様にして調べ、全光線透過率を調製例1と同様にして調べ、ダイナミック硬度、耐スチールウール性、密着性および視感反射率を以下の方法に基づいて調べた。その結果、ダイナミック硬度は11.3mN/μm2であり、耐スチールウール性の評価としてヘイズ値差(ΔHz)の絶対値は5.4であり、成形材料層の硬度の評価は「4」であり、密着性の評価は「5」であり、全光線透過率は94.9%であり、視感反射率は0.15%であった。
【0274】
〔ダイナミック硬度〕
ダイナミック超微小硬度計〔(株)島津製作所製、品番:DUH−201〕を用い、圧子:稜間角115°三角錐圧子(ダイヤモンド製)、試験力:0.2mN、負荷速度:0.00474mN/秒、保持時間:10秒間の条件下で、凹凸構造を有する成形体に対し、圧子押し込み試験を行ない、押し込み深さ100nmでのダイナミック硬度を式:
[ダイナミック硬度(mN/μm)]
=3.8584×[押し込み深さにおける荷重(mN)]/[押し込み深さ(μm)]2
に基づいて求めた。
【0275】
〔耐スチールウール性〕
凹凸構造を有する成形体(凹凸構造面は縦:20mm、横:20mm)を凹凸構造を有する面が試験面となるようにガラス板に貼り付けることにより試験片を作製した。
【0276】
#0000番のスチールウール〔日本スチールウール(株)製、商品名:BON STAR〕を直径が10mmの円柱の平滑な垂直断面に均一になるように取り付け、荷重200g/cm2、速度30mm/secの条件で、凹凸構造を有する面に当該スチールウールを10往復させて耐擦傷試験を行なった。
【0277】
耐擦傷試験前後の成形体のヘイズ値を濁度計〔日本電色工業(株)製、品番:NDH−5000〕を用いて測定し、式:
[ヘイズ値差(ΔHz)の絶対値]
=|(耐擦傷試験後のヘイズ値)−(耐擦傷試験前のヘイズ値)|
に基づいてヘイズ値差(ΔHz)の絶対値を求めた。
【0278】
〔密着性〕
凹凸構造を有する成形体の成形材料層とフィルム状基材との密着性は、JIS K5600−5−6に準拠し、1mm間隔でカットされた碁盤目により試験を行ない、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
5:カットの縁が滑らかで、いずれの碁盤目にも剥離が存在しない。
4:剥離面積がカットした碁盤目の面積の5%未満
3:剥離面積がカットした碁盤目の面積の5%以上、15%未満
2:剥離面積がカットした碁盤目の面積の15%以上、35%未満
1:剥離面積がカットした碁盤目の面積の35%以上、65%未満
0:剥離面積がカットした碁盤目の面積の65%以上
【0279】
〔視感反射率〕
凹凸構造を有する成形体の視感反射率は、成形体の凹凸構造を有する面とは反対側の面に黒色テープを貼付け、成形体の凹凸構造を有する面側について、分光光度計〔(株)島津製作所製、品番:UV3700〕を用いて入射角5°、波長380〜780nmの範囲で分光反射率を測定し、分光反射率の測定結果からJIS R 3106に準拠して視感反射率を求めた。
【0280】
実施例8
実施例7において、フィルム状基材として調製例2で得られたフィルム状基材を用いたことを以外は、実施例7と同様にして表面に凹凸構造を有する成形体を得た。
【0281】
前記で得られた成形体の成形材料層を原子間力顕微鏡(AFM)で観察したところ、当該成形材料層の表面には、平均高さが400nmの円錐状突起が平均周期220nmで配列された凹凸構造が表面に形成されており、転写不良がないことが確認された。
【0282】
前記で得られた成形体の物性として、ダイナミック硬度、ヘイズ値差(ΔHz)の絶対値、成形材料層の硬度、密着性、全光線透過率および視感反射率を実施例7と同様にして調べた。その結果、ダイナミック硬度は10.9mN/μm2であり、ヘイズ値差(ΔHz)の絶対値は5.8であり、成形材料層の硬度の評価は「5」であり、密着性の評価は「4」であり、全光線透過率は94.6%であり、視感反射率は0.26%であった。
【0283】
実施例9
実施例7において、フィルム状基材としてシクロオレフィンポリマーフィルム〔日本ゼオン(株)製、商品名:ゼオノア〕を用いたこと以外は、実施例7と同様にして表面に凹凸構造を有する成形体を得た。
【0284】
前記で得られた成形体の成形材料層を原子間力顕微鏡(AFM)で観察したところ、当該成形材料層の表面には、平均高さが390nmの円錐状突起が平均周期220nmで配列された凹凸構造が表面に形成されており、転写不良がほぼないことが確認された。
【0285】
前記で得られた成形体の物性として、ダイナミック硬度、ヘイズ値差(ΔHz)の絶対値、成形材料層の硬度、密着性、全光線透過率および視感反射率を実施例7と同様にして調べた。その結果、ダイナミック硬度は10.9mN/μm2であり、耐スチールウール性の評価としてヘイズ値差(ΔHz)の絶対値は5.7であり、成形材料層の硬度の評価は「4」であり、密着性の評価は「3」であり、全光線透過率は94.6%であり、視感反射率は0.22%であった。
【0286】
実施例10
実施例7において、フィルム状基材として、トリアセチルセルロースフィルム〔富士フィルム(株)製、品番:TD−80U〕を用いたこと以外は、実施例7と同様にして表面に凹凸構造を有する成形体を得た。
【0287】
前記で得られた成形体の成形材料層を原子間力顕微鏡(AFM)で観察したところ、当該成形材料層の表面には、平均高さが400nmの円錐状突起が平均周期220nmで配列された凹凸構造が表面に形成されており、転写不良がないことが確認された。
【0288】
前記で得られた成形体の物性として、ダイナミック硬度、ヘイズ値差(ΔHz)の絶対値、成形材料層の硬度、密着性、全光線透過率および視感反射率を実施例7と同様にして調べた。その結果、ダイナミック硬度は11.5mN/μm2であり、耐スチールウール性の評価としてヘイズ値差(ΔHz)の絶対値は6.2であり、成形材料層の硬度の評価は「4」であり、密着性の評価は「4」であり、全光線透過率は94.7%であり、視感反射率は0.19%であった。
【0289】
実施例11
製造例1で得られた重合体分散液224.2gに、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン3.0g、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート30.0gおよびジペンタエリスリトールヘキサアクリレート50.0gを撹拌しながら混合することにより、成形材料を得た。得られた成形材料の最低造膜温度は0℃であった。
【0290】
調製例1で得られたフィルム状基材に乾燥後の膜厚が約3μmとなるように前記で得られた成形材料をバーコーターで塗布し、100℃の温度で3分間乾燥させることにより、成形体として、フィルム状基材の一方の面に成形材料層が形成された積層フィルムを得た。
【0291】
次に、深さが350nmの円錐形の凹部を260nmの平均周期で三方配列した石英製の成形型(縦:20mm、横:20mm)を当該成形型の凹凸パターンが形成されている面を積層フィルムの成形材料層の表面に押し当て、インプリント装置〔東芝機械(株)製、品番:ST−02〕を用い、積層フィルムを80℃に加熱しながら、基板面全体が均等に加圧されるように2kNの圧力を10分間加えた。次に、高圧水銀ランプ(120W/cm)にて積算光量が100mJ/cm2となるように紫外線を照射することにより、成形材料層を半硬化させた後、積層フィルムを成形型から離型した。
【0292】
さらに、成形材料層上に凹凸構造が転写された積層フィルムの凹凸構造を有する面に高圧水銀ランプ(ランプ出力120W/cm)にて積算光量2J/cm2となるように紫外線を照射し、成形材料層を完全に硬化させることにより、表面に凹凸構造を有する成形体を得た。
【0293】
前記で得られた成形体の成形材料層を原子間力顕微鏡(AFM)で観察したところ、当該成形材料層の表面には、平均高さ350nmの円錐状突起が平均周期260nmで三方配列した凹凸構造が表面に形成されており、転写不良がないことが確認された。
【0294】
前記で得られた成形体の物性として、ダイナミック硬度、ヘイズ値差(ΔHz)の絶対値、成形材料層の硬度、密着性、全光線透過率および視感反射率を実施例7と同様にして調べた。その結果、ダイナミック硬度は23.4mN/μm2であり、耐スチールウール性の評価としてヘイズ値差(ΔHz)の絶対値は1.6であり、成形材料層の硬度の評価は「5」であり、密着性の評価は「5」であり、全光線透過率は95.4%であり、視感反射率は0.11%であった。
【0295】
実施例12
製造例1で得られた重合体分散液224.2gに、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン3.0g、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート30.0gおよびジペンタエリスリトールヘキサアクリレート50.0gを撹拌しながら混合することにより、成形材料を得た。得られた成形材料の最低造膜温度は0℃であった。
【0296】
調製例1で得られたフィルム状基材に乾燥後の膜厚が約3μmとなるように前記で得られた成形材料をバーコーターで塗布し、100℃の温度で3分間乾燥させることにより、成形体として、フィルム状基材の一方の面に成形材料層が形成された積層フィルムを得た。
【0297】
次に、深さが350nmの円錐形の凹部を260nmの平均周期で三方配列した石英製の成形型(縦:20mm、横:20mm)を当該成形型の凹凸パターンが形成されている面を積層フィルムの成形材料層の表面に押し当て、インプリント装置〔東芝機械(株)製、品番:ST−02〕を用い、積層フィルムを80℃に加熱しながら、基板面全体が均等に加圧されるように2kNの圧力を10分間加えた後、積層フィルムを30℃まで冷却して積層フィルムを成形型から離型した。
【0298】
次に、成形材料層上に凹凸構造を転写した積層フィルムの凹凸構造を有する面に、高圧水銀ランプ(ランプ出力120W/cm)で積算光量2J/cm2となるように紫外線を照射し、成形材料層を硬化させることにより、表面に凹凸構造を有する成形体を得た。
【0299】
前記で得られた成形体の成形材料層を原子間力顕微鏡(AFM)で観察したところ、当該成形材料層の表面には、平均高さが350nmの円錐状突起が平均周期260nmで三方配列した凹凸構造が形成されており、転写不良がないことが確認された。
【0300】
前記で得られた成形体の物性として、ダイナミック硬度、ヘイズ値差(ΔHz)の絶対値、成形材料層の硬度、密着性、全光線透過率および視感反射率を実施例7と同様にして調べた。その結果、ダイナミック硬度は28.5mN/μm2であり、耐スチールウール性の評価としてヘイズ値差(ΔHz)の絶対値は0.3であり、成形材料層の硬度の評価は「5」であり、密着性の評価は「5」であり、全光線透過率は95.6%であり、視感反射率は0.12%であった。
【0301】
実施例13
実施例12で用いたフィルム状基材の代わりに、ポリエチレンテレフタレートフィルム〔東洋紡績(株)製、商品名:コスモシャインA4300〕用いたこと以外は、実施例12と同様にして、表面に凹凸構造を有する成形体を得た。
【0302】
前記で得られた成形体の成形材料層を原子間力顕微鏡(AFM)で観察したところ、当該成形材料層の表面には、平均高さ350nmの円錐状突起が平均周期260nmで三方配列した凹凸構造が表面に形成されており、転写不良がないことが確認された。
【0303】
前記で得られた成形体の物性として、ダイナミック硬度、ヘイズ値差(ΔHz)の絶対値、成形材料層の硬度、密着性、全光線透過率および視感反射率を実施例7と同様にして調べた。その結果、ダイナミック硬度は30.4mN/μm2であり、耐スチールウール性の評価としてヘイズ値差(ΔHz)の絶対値は0.3であり、成形材料層の硬度の評価は「5」であり、密着性の評価は「4」であり、全光線透過率は93.8%であり、視感反射率は0.26%であった。
【0304】
実施例14
製造例1で得られた重合体分散液224.2gに、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン2.5g、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート60.0gおよびジペンタエリスリトールヘキサアクリレート10.0gを撹拌しながら混合することにより、成形材料を得た。得られた成形材料の最低造膜温度は0℃であった。
【0305】
調製例1で得られたフィルム状基材に乾燥後の膜厚が約3μmとなるように前記で得られた成形材料をバーコーターで塗布し、100℃の温度で3分間乾燥させることにより、成形体として、フィルム状基材の一方の面に成形材料層が形成された積層フィルムを得た。
【0306】
次に、深さが350nmの円錐形の凹部を260nmの平均周期で三方配列した石英製の成形型(縦:20mm、横:20mm)を当該成形型の凹凸パターンが形成されている面を積層フィルムの成形材料層の表面に押し当て、インプリント装置〔東芝機械(株)製、品番:ST−02〕を用い、積層フィルムを80℃に加熱しながら、基板面全体が均等に加圧されるように2kNの圧力を10分間加えた後、積層フィルムを30℃まで冷却して積層フィルムを成形型から離型した。
【0307】
次に、成形材料層上に凹凸構造を転写した積層フィルムの凹凸構造を有する面に、高圧水銀ランプ(ランプ出力120W/cm)で積算光量1J/cm2となるように紫外線を照射し、成形材料層を硬化させることにより、表面に凹凸構造を有する成形体を得た。
【0308】
前記で得られた成形体の成形材料層を原子間力顕微鏡(AFM)で観察したところ、当該成形材料層の表面には、平均高さが350nmの円錐状突起が平均周期260nmで三方配列した凹凸構造が形成されており、転写不良がないことが確認された。
【0309】
前記で得られた成形体の物性として、ダイナミック硬度、ヘイズ値差(ΔHz)の絶対値、成形材料層の硬度、密着性、全光線透過率および視感反射率を実施例7と同様にして調べた。その結果、ダイナミック硬度は6.7mN/μm2であり、耐スチールウール性の評価としてヘイズ値差(ΔHz)の絶対値は7.2であり、成形材料層の硬度の評価は「4」であり、密着性の評価は「5」であり、全光線透過率は95.2%であり、視感反射率は0.14%であった。
【0310】
実施例15
実施例12で用いた製造例1で得られた重合体分散液224.2gの代わりに、製造例2で得られた重合体分散液227.3gを用いたこと以外は、実施例12と同様にして表面に凹凸構造を有する成形体を得た。このとき、得られた成形材料の最低造膜温度は0℃であった。
【0311】
次に、調製例1で得られたフィルム状基材に乾燥後の膜厚が約3μmとなるように前記で得られた成形材料をバーコーターで塗布し、100℃の温度で3分間乾燥させることにより、成形体として、フィルム状基材の一方の面に成形材料層が形成された積層フィルムを得た。
【0312】
次に、深さ350nmの円錐形の凹部を260nmの平均周期で三方配列した石英製の成形型(縦:20mm、横:20mm)を当該成形型の凹凸パターンが形成されている面を積層フィルムの成形材料層の表面に押し当て、インプリント装置〔東芝機械(株)製、品番:ST−02〕を用い、積層フィルムを80℃に加熱しながら、基板面全体が均等に加圧されるように2kNの圧力を10分間加えた後、積層フィルムを30℃まで冷却して積層フィルムを成形型から離型した。
【0313】
次に、成形材料層上に凹凸構造を転写した積層フィルムの凹凸構造を有する面に、高圧水銀ランプ(ランプ出力120W/cm)で積算光量2J/cm2となるように紫外線を照射し、成形材料層を硬化させることにより、表面に凹凸構造を有する成形体を得た。
【0314】
前記で得られた成形体の成形材料層を原子間力顕微鏡(AFM)で観察したところ、当該成形材料層の表面には、平均高さ350nmの円錐状突起が平均周期260nmで三方配列した凹凸構造が表面に形成されており、転写不良がないことが確認された。
【0315】
前記で得られた成形体の物性として、ダイナミック硬度、ヘイズ値差(ΔHz)の絶対値、成形材料層の硬度、密着性、全光線透過率および視感反射率を実施例7と同様にして調べた。その結果、ダイナミック硬度は34.1mN/μm2であり、耐スチールウール性の評価としてヘイズ値差(ΔHz)の絶対値は0.2であり、成形材料層の硬度の評価は「5」であり、密着性の評価は「5」であり、全光線透過率は95.4%であり、視感反射率は0.11%であった。
【0316】
比較例2
製造例1で得られた重合体分散液224.2g、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン2.5gおよび非反応性化合物である2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート〔チッソ(株)製、商品名:CS−12〕50.0gを撹拌しながら混合することにより、成形材料を得た。得られた成形材料の最低造膜温度は30℃であった。
【0317】
調製例1で得られたフィルム状基材に乾燥後の膜厚が約3μmとなるように前記で得られた成形材料をバーコーターで塗布し、100℃の温度で3分間乾燥させることにより、成形体として、フィルム状基材の一方表面に成形材料層が形成された積層フィルムを得た。
【0318】
次に、深さ350nmの円錐形の凹部を260nmの平均周期で三方配列した石英製の成形型(縦:20mm、横:20mm)を当該成形型の凹凸パターンが形成されている面を積層フィルムの成形材料層に押し当て、インプリント装置〔東芝機械(株)製、品番:ST−02〕を用い、積層フィルムを80℃に加熱しながら、基板面全体が均等に加圧されるように2kNの圧力を10分間加えた後、積層フィルムを30℃まで冷却して積層フィルムを成形型から離型した。
【0319】
次に、成形材料層上に凹凸構造を転写した積層フィルムの凹凸構造を有する面に、高圧水銀ランプ(ランプ出力120W/cm)で積算光量1J/cm2となるように紫外線を照射し、成形材料層を硬化させることにより、表面に凹凸構造を有する成形体を得た。
【0320】
前記で得られた成形体の成形材料層を原子間力顕微鏡(AFM)で観察したところ、当該成形材料層の表面には、平均高さが340nmの円錐状突起が平均周期260nmで三方配列した凹凸構造が形成されており、わずかに転写不良が確認された。
【0321】
前記で得られた成形体の物性として、ダイナミック硬度、ヘイズ値差(ΔHz)の絶対値、成形材料層の硬度、密着性、全光線透過率および視感反射率を実施例7と同様にして調べた。その結果、ダイナミック硬度は4.2mN/μm2であり、耐スチールウール性の評価としてヘイズ値差(ΔHz)の絶対値は16.4であり、成形材料層の硬度の評価は「1」であり、密着性の評価は「3」であり、全光線透過率は94.6%であり、視感反射率は0.18%であった。
【0322】
実施例16
実施例12で得られた表面に凹凸構造を有する成形体を有機エレクトロルミネッセンス(EL)発光装置〔三菱化学メディア(株)製、商品名:VELVE」、輝度が150cd/m2である白色に調整〕の発光層ガラス基板に、アクリル系樹脂からなる粘着剤層を介して接着することにより、有機エレクトロルミネッセンス発光装置を作製した。
【0323】
次に、前記で得られた有機エレクトロルミネッセンス発光装置における正面輝度を以下の方法に基づいて測定した。その結果、前記輝度は、192cd/m2であった。
【0324】
〔輝度〕
有機エレクトロルミネッセンス発光装置の表面に凹凸構造を有する成形体をその凹凸構造形成部である20mm角を残して黒色シートでマスクした後、スポットタイプ一眼レフ方式デジタル輝度計(コニカミノルタ(株)製、品番:LS−100)を用いて測定角1°にて正面輝度を測定した。
【0325】
実施例17
実施例8で得られた表面に凹凸構造を有する成形体を有機エレクトロルミネッセンス(EL)発光装置〔三菱化学メディア(株)製、商品名:VELVE」、輝度が150cd/m2である白色に調整〕の発光層ガラス基板に、アクリル系樹脂からなる粘着剤層を介して接着することにより、有機エレクトロルミネッセンス発光装置を作製した。
【0326】
次に、前記で得られた有機エレクトロルミネッセンス発光装置における正面輝度を実施例16と同様にして測定した。その結果、前記輝度値は、186cd/m2であった。
【0327】
比較例3
調製例1で得られたフィルム状基材を有機エレクトロルミネッセンス(EL)発光装置〔三菱化学メディア(株)製、商品名:VELVE」、輝度が150cd/m2である白色に調整〕の発光層ガラス基板に、アクリル系樹脂からなる粘着剤層を介して接着することにより、有機エレクトロルミネッセンス発光装置を作製した。
【0328】
次に、前記で得られた有機エレクトロルミネッセンス発光装置における正面輝度を実施例16と同様にして測定した。その結果、前記輝度値は、154cd/m2であった。
【符号の説明】
【0329】
1 :成形材料層
2 :基材
2a:フィルム状基材
3 :成形型
4 :偏光子
5 :位相差フィルム
6 :粘着剤層
7 :ガラス基板
8 :アノード電極
9 :正孔輸送層/正孔注入層
10:発光層
11:電子輸送層/電子注入層
12:カソード電極
13:透明保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形体を製造する際に原料として用いられる成形材料であって、(メタ)アクリル系樹脂エマルション、多官能(メタ)アクリル酸エステルおよび重合開始剤を含有することを特徴とする成形材料。
【請求項2】
請求項1に記載の成形材料から形成されてなる樹脂フィルム。
【請求項3】
請求項1に記載の成形材料から形成され、当該成形材料が硬化されてなる成形体。
【請求項4】
基材上に成形材料層が形成されてなる成形体であって、前記成形材料層が請求項1に記載の成形材料から形成されてなる成形体。
【請求項5】
成形材料層が硬化されてなる請求項4に記載の成形体。
【請求項6】
基材がフィルム状基材である請求項4または5に記載の成形体。
【請求項7】
(メタ)アクリル系樹脂エマルション、多官能(メタ)アクリル酸エステルおよび重合開始剤を含有する成形材料から樹脂フィルムを形成し、形成された樹脂フィルムを成形型で成形することを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項8】
フィルム状基材の少なくとも1方表面に凹凸構造を有する成形材料層が形成されてなる成形体であって、凹凸構造を有する面における押し込み深さ100nmでのダイナミック硬度が5〜50mN/μm2である成形体。
【請求項9】
凹凸構造を有する成形材料層が、請求項1に記載の成形材料から形成されてなる請求項8に記載の成形体。
【請求項10】
凹凸構造を有する成形材料層において、凹凸構造の水平方向の平均周期が可視光線の波長以下である請求項8または9に記載の成形体。
【請求項11】
フィルム状基材が主鎖に環構造を有する重合体を含有してなる請求項8〜10のいずれかに記載の成形体。
【請求項12】
成形体の用途が偏光子保護フィルムである請求項8〜11のいずれかに記載の成形体。
【請求項13】
成形体の用途が有機エレクトロルミネッセンス発光装置である請求項8〜11のいずれかに記載の成形体。
【請求項14】
請求項8〜11のいずれかに記載の成形体を製造する方法であって、成形材料から成形材料層を形成させ、形成された成形材料層に凹凸構造を形成させた後、当該凹凸構造が形成された成形材料層を硬化させることを特徴とする成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−40325(P2013−40325A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−149013(P2012−149013)
【出願日】平成24年7月3日(2012.7.3)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】