説明

成形構造体

【課題】樹脂基材の面上の微細凹凸構造だけで親水性を発現し、長期に亘り防曇やセルフクリーニング機能を有し、なお且つ、樹脂基材が透明である場合は透明性を維持できる成形構造体の提供。
【解決手段】樹脂基材1の一方の面上に連続的に水の凝集現象を防ぎ、水膜を形成するための親水性を示す微細凹凸構造が形成され、その微細凹凸構造の凸部2の幅又は径が可視光の最短波長以下であり、凸部2の中心間距離が200〜400nmであることを特徴とする成形構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば建築用、産業用、自動車用、太陽電池パネルなどの窓材や鏡などに好適に用いられる成形構造体に関し、樹脂基材の面上の微細凹凸構造だけで親水性を発現し、防曇やセルフクリーニング機能を有する成形構造体に関する。さらに、樹脂基材を親水部分と撥水部分とにパターニングすることで、DNAアレイによる抗原抗体反応の高感度化や、流体セル等の低圧損化を有する成形構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂やガラスなどの基材表面に親水性や防曇性などを付与するための技術として、例えば界面活性剤などを含む防曇剤を対象物の表面に塗布することにより、塗布面の水に対する濡れ性を向上させ、微細な水滴を生じさせないようにする方法が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
また、浴室に設置される鏡の防曇性を向上するための技術として、鏡の裏面にヒータを配置し、このヒータにより鏡を加熱しながら、鏡の表面を常に露点以上の温度に保つ方法が知られている(例えば、特許文献2を参照。)。
【0003】
また、親水性や防曇性、セルフクリーニング性などを付与する技術として、ガラス基板の表面に光触媒機能を有するTiOを積層し、このTiOの光触媒活性を利用する方法が知られている(例えば、特許文献3を参照。)。
また、透明基材表面の親水性を向上させる技術として、基材に膜を塗布し、膜に添加する無機系粉末によって、微細な凹凸面を一様に形成することで親水化する方法が知られている(例えば、特許文献4を参照。)。
【0004】
さらに、親水性が長期間に亘って持続される構造体として、シリコン板やガラスにフォトリソグラフィーとエッチングにより凹凸を形成し、その凹凸面を酸化させて親水化する方法が知られている。(例えば、特許文献5を参照。)。
【0005】
また、微細な凹凸を形成する技術としては、ナノメータサイズの微細な構造物によって親水性を維持できる技術が知られている(例えば、特許文献6を参照。)。この技術は、可視光線の波長以下の短い凹凸構造を構成することにより、乱反射の影響を抑え反射防止機能を得る一方、被覆する基材の選択により超親水性を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−263008号公報
【特許文献2】実公平7−42365号公報
【特許文献3】特開2002−201045号公報
【特許文献4】特開平11−217560号公報
【特許文献5】特開2001−212966号公報
【特許文献6】特開2007−187868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の技術では、手軽に表面を親水性に変えることが可能であるものの、スプレー等による塗布のため効力の持続性に欠けるという問題がある。
一方、特許文献2に記載の技術では、防曇効果に優れるものの、価格が高く、さらに電力消費も大きく、その用途は限定的である。
【0008】
特許文献3に記載の技術では、光触媒機能を発現させるのに十分な紫外線量が必要となるため、使用可能な場所が制約されるという問題があり、効率の良い光触媒材料が必要不可欠である。また、光触媒機能が失われた場合には、その機能を回復させるため紫外線を補充するための設備が必要となることからコスト面でも不利になるといった問題がある。
また光触媒はその作用の影響で、樹脂などの高分子材料を分解するため、基材としては無機材料に限定される。
【0009】
特許文献4に記載の技術では、二酸化ケイ素微粉末を含む分散液をソーダガラスに塗布し加熱、硬化させるものであるが、その条件が120℃で30分間であり、基材としては制約を受ける。また透明樹脂基材への塗布条件は開示されていない。
特許文献5に記載の技術では、凹凸の製法がフォトリソグラフィー法及びトレンチドライエッチング法を使うことが前提で、基材はシリコン基板が前提であり、樹脂基材には適用できない。
【0010】
特許文献6に記載の技術では、親水性に関する開示は、自動車用のフロントウィンドウやサイドウィンドウのように基材がガラスであるもの限られており、アクリル樹脂等の樹脂基材の親水性に関しては開示されていない。
【0011】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたもので、樹脂基材の面上の微細凹凸構造だけで親水性を発現し、長期に亘り防曇やセルフクリーニング機能を有し、なお且つ、樹脂基材が透明である場合は透明性を維持できる成形構造体を提供することを目的とする。
また、本発明は、水膜の動作を制御して、所望の位置に水膜を残留させることができる成形構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下のものに関する。
(1)樹脂基材の一方の面上に連続的に水の凝集現象を防ぎ、水膜を形成するための親水性を示す微細凹凸構造が形成され、その微細凹凸構造の凸部の幅又は径が可視光の最短波長以下であり、凸部の中心間距離が200〜400nmであることを特徴とする成形構造体。
(2)(前記凸部の高さ)/(前記凸部の幅又は径)で表されるアスペクト比が0.5以上であることを特徴とする(1)に記載の成形構造体。
(3)前記樹脂基材の面上で前記微細凹凸構造が形成された領域Aと、微細凹凸構造が形成されていない撥水性の領域Bとが隣接して形成され、水膜が前記領域Bから前記領域Aに移動することを特徴とする(1)又は(2)に記載の成形構造体。
(4)可視光に対して透明であることを特徴とする(1)〜(3)の何れかに記載の成形構造体。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、「アスペクト比」とは、凸部の底部(底面)の幅又は径に対する凸部の高さの比率、すなわち、(凸部の高さ)/(凸部の幅又は径)を表すものである。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、樹脂基材の微細凹凸構造だけで透明性を維持しながら、親水性、防曇性、セルフクリーニング性などの機能を長期に亘って発現する成形構造体を実現することが可能である。したがって、本発明によれば、このような成形構造体を、建築用、産業用、自動車用、太陽電池パネルなどの窓材や鏡などに好適に用いることが可能である。
また、樹脂基材上で親水性の領域Aと撥水性の領域Bを設け、水膜を領域Bから領域Aに移動させることで、DNAアレイでは、セルの部分のみに親水性の領域Aを形成し、他の部分を領域Bとするならば、液体を残して抗原抗体反応を高感度に検出することができる。また、マイクロTAS(Micro Total Analysis System)等、ミクロンオーダーの流体セルでは、流体を流したい流路部分に領域Aを形成し、流体を流したくない部分に領域Bを形成しておくならば、所望の部分のみに流体が流れやすくなるため、より低圧で流体を流すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を適用した成形構造体の一例を示す平面図である。
【図2】図1に示す成形構造体の線分X−X’による断面図である。
【図3】図1に示す成形構造体を作製するための型の一例を示す断面図である。
【図4】上記型を形成するためのナノ加工装置の一例の構成を示す模式図である。
【図5】型の基材の表面上に集光されたレーザー光のスポット領域及び熱リソグラフィー領域を示す模式図である。
【図6】型の基材の表面上のフォトレジストに凹部に対応した描画パターンが形成された状態を示す平面図である。
【図7】本発明を適用した成形構造体の他の例を示す断面図である。
【図8】本発明を適用した成形構造体の他の例を示す平面図である。
【図9】実施例1の成形構造体のAFMによる測定データである。
【図10】実施例1の成形構造体の透明性を示す写真である。
【図11】実施例2の成形構造体の外観写真である。
【図12】実施例2の成形構造体の散水60秒後の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用した成形構造体について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0016】
本発明を適用した成形構造体Mは、例えば図1、図2に示すように、板状の樹脂基材1の一方の面(表面)1aに微細凹凸構造として凸部2が複数所定のピッチで整列形成されている。凸部2の幅(又は径)や高さといった寸法は可視光の波長以下でピラー状(図1、図2の形態では円柱状)に形成されていることを特徴とするものである。また、(凸部2の高さ)/(凸部2の幅又は径)で表されるアスペクト比が0.5以上であることが好ましい。
【0017】
具体的に、樹脂基材1については、熱変形できる材料、又は活性エネルギー線によって重合して硬化する材料を用いることができ、そのような材料として、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂などを挙げることができる。
【0018】
熱可塑性樹脂については、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリテン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニール、ポリスチレン、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ガラス強化ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルィド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶性ポリマー、フッ素樹脂、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリイミド、アクリロニトリル等を挙げることができ、これらの材料を単独で又は2種以上混合又は多層状に使用することができる。
【0019】
熱硬化性樹脂については、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂等を挙げることができ、これらの材料を単独で又は2種以上混合又は多層状に使用することができる。
【0020】
光硬化性樹脂については、例えば、紫外線硬化型ウレタンアクリレート樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート樹脂等を挙げることができ、これらの材料を単独で又は2種以上混合又は多層状に使用することができる。
また以上挙げてきた熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂を適宜混合又は多層状に使用することができる。
【0021】
また、樹脂基材1を可視光に対して透明とする場合には、上述した中でも例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニール、ポリスチレン、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート、アクリロニトリル、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、紫外線硬化型ウレタンアクリレート樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート樹脂等の透明樹脂を用いることができる。
【0022】
樹脂基材1は、その形状について特に限定されるものではなく、任意の形状のものを用いることができるが、板状のもの(基板)が表面1aを加工する上で好ましい。
【0023】
親水性や撥水性といった固体表面の濡れ性は、平滑な表面では接触角θで評価される。接触角θとは、固体と液体が接している点における液体表面の接線と固体表面がなす角のことであり、液体が水の場合、この角度が90°以下の場合は親水性、90°を超える場合は撥水性といわれている。なお、接触角θはYoungの式によって、式(1)のように表される。ここで、γSVは固体−液体−気体がなす着液線(三重線)の固体−液体間の表面張力又は界面自由エネルギー、γLVは同着液線(三重線)の液体−気体間の表面張力又は界面自由エネルギー、γSLは同着液線(三重線)の固体−気体間の表面張力又は界面自由エネルギーである。
γSV=γLVcosθ+γSL … (1)
【0024】
式(1)によると、液体が水、気体は空気とした場合、接触角θはγSV、γSLで決定されることがわかる。すなわち、固体の表面エネルギーが大きい場合には接触角θが小さくなり、固体の表面エネルギーが小さい場合には接触角θが大きくなることを示している。一般的に無機材料は表面エネルギーが大きいので親水性が発現しやすく、高分子材料は表面エネルギーが小さいので親水性が発現しにくい傾向にある。
【0025】
本発明では、比較的大量の水を成形構造体Mの表面1a上にかけたときに、例えば3秒後でも水が凝集しないで膜状に維持される状態、すなわち水膜が途切れないように維持される状態のことを「親水性」があるものとして取り扱う。また、本発明における親水性は、数μリットルの液滴を本発明の成形構造体Mに滴下したときに、液滴端部と当該成形構造体の表面とのなす接触角θの大小では必ずしも表されるものではない。
【0026】
ここで、凹凸のある表面の濡れ性を考えた場合、Cassie−Baxterの取り扱いとなる場合と、Wenzelの取り扱いになる場合とがある。
【0027】
Cassie−Baxterの取り扱いとなるのは、凹凸構造の凹部が深くなり、毛管現象によって水が凹部の底まで到達できず、水滴の下に空気が残る場合である。この場合、水滴は、平らな表面上での接触角θよりも凹凸表面上での接触角θが大きくなる。したがって、本発明のような微細凹凸構造を有する成形構造体Mの凹凸表面上に、数μリットルの液滴を滴下したときの液滴端部と成形構造体Mの表面とのなす接触角θを測定する場合は、Cassie−Baxterの取り扱いとなる。しかしながら、現実の生活レベルでは数μリットルの液滴が一滴だけ滴下されるケースは稀で、ほとんどの場合が水を大量にかけた状態になるので、Cassie−Baxterの取り扱いを使って、その表面の親水性や濡れ性を正しく評価することは困難である。
【0028】
一方、Wenzelの取り扱いとなるのは、凹凸構造の上に置かれた液体がその固体表面と完全に接触する場合である。これは、上述したCassie−Baxterの取り扱いのときのような空気の介在がない状態で、表面の凹凸構造によって実表面積が見掛けの表面積に比べて大きくなると、濡れが強調される。表面張力とは、単位表面積あたりの過剰表面自由エネルギーのことであるから、もし微細な凹凸構造によって表面積がR倍大きくなったとすると、前記式(1)中の固体の表面張力及び固体と液体の表面張力又は界面自由エネルギーにRを乗じる必要がある。この場合の接触角θは式(2)で表される。
cosθ=R(γSV−γSL)/γLV =Rcosθ …(2)
【0029】
式(2)において、Rは常に1よりも大きな正の数であることから、表面の凹凸構造によって見かけの表面積が大きくなると、親水性の表面はより親水性が向上する。従って、凹凸構造をより細かく、アスペクト比をより大きくすることでRの値が大きくなり濡れ性が向上する。
現実の生活レベルでは、水を大量にかけ、表面に付着した水はその自重の影響で、空気をほとんど追い出す状態となる。したがって、本発明における親水性の評価では、このようなWenzelの取り扱いで評価した場合に、水膜が途切れないように維持される状態を親水性があるものとして扱う。
【0030】
以上のように、樹脂などの親水性が発現しにくい材料であっても、Wenzelの扱いのような凹凸構造を形成することで親水性を発現させることができる。
【0031】
凸部2は、その形状について特に限定されるものではなく、任意の形状とすることができるが、平面視で円形又は長円形若しくはこれらに類似した形状(以下、これらの形状をまとめて「略円形」という。)とすることが成形を行う上で好ましい。
また凸部2の断面形状は柱状又は錘状若しくはこれらに類似した形状とすることができるが、錘状は成形を行う上で好ましい。
【0032】
凸部2の寸法は、平面視でその最大幅又は最大径が可視光の最短波長以下であり、高さは凸部2の最大幅又は最大径に対するアスペクト比(すなわち、(凸部2の高さ)/(凸部2の最幅又は最大径))が0.5以上であることが好ましく、その中心間距離(以下、ピッチという。)が200nm〜400nmであることが好ましい。このような寸法とピッチとすることによって、樹脂基材であっても親水性が発現する。
一方、製法面の制約から、凸部2の寸法は幅又は径は50nm以上であることが好ましい。この寸法以下は加工限界である。可視光の波長領域は約400〜800nmであることから、凸部2の寸法は、幅又は径は50nm以上、400nm以下とすることが好ましい。また、ピッチも200nmに満たないものは加工限界である。
一方、凸部2の高さはアスペクト比0.5〜50である事が好ましい。アスペクト比50以上では型から転写した際に成形構造体を型から引き剥がす事が出来ず、加工限界である。
【0033】
本発明の成形構造体Mは、上述したような形状及びピッチの凸部2を有する微細凹凸構造がその表面に形成されていることにより、長期に亘って安定して親水性を発現させることができる。このように、親水性が維持されると、防曇性やセルフクリーニング性が向上する。
成形構造体Mの表面に水をかけて、一旦薄い水膜が形成されて維持されると、空気中の湿分や湯気が結露しても凝縮水が個々の水滴を形成せず、表面に光散乱性の曇りを生じさせず、防曇性が顕著になる。特に浴室などの高湿度環境での効果は絶大である。
同様に、窓ガラスや自動車用のバックミラーが降雨や水しぶきを浴びた場合に、離散した目障りな水滴が形成されずに視野が確保される効果がある。
【0034】
また、例えば浴室内で、人体からの皮脂や老廃物、石けんカス、ヘアコンディショナーなどの撥水性汚染物質や、水垢などの無機系汚染物質の双方が付着しにくく、付着した場合でも、水をかけることによって、成形構造体表面と汚染物質との間に水が入り込み、汚染物質を浮かせて洗い流すセルフクリーニング性の効果もある。
【0035】
さらに、本発明を適用した成形構造体Mでは、表面における光の回折や屈折などの影響を抑えることで、特に樹脂基材1が透明である場合には、凸部2によって樹脂基材1自体の透明性を損なうことなく、明瞭な視野特性を得ることが可能である。
【0036】
成形構造体Mの表面1aに凸部2を設けて樹脂基材1の透明性を確保するには、凸部2のピッチが可視光の最短波長以下を保ち、光の実回折波を抑えることが必要である。また、凸部2の幅又は径も可視光の最短波長以下であることが望ましい。なお、可視光の波長領域は約400nm〜800nmであることから、隣接する凸部2の最大ピッチは400nm程度であり、凸部2の最大幅又は最大径は400nm程度である。
【0037】
ここで、可視光の最短波長以下で保たれた凹凸構造体から発生する実回折波は回折理論に基づき、式(3)で定義される。なお式(3)において、Dは格子周期であり、Nは定数、λは波長、αは入射角、βは出射角、nは媒質の屈折率である。
Dsinα+D sinβ=Nnλ … (3)
この式から、格子周期Dをλ/n(波長/媒質の屈折率)にすることにより、実回折波の発生が抑えられて透明性を維持できることが分かる。例えば、樹脂基材1として屈折率n=1.57のPET(ポリエチレンテレフタレート)板を用いた場合、可視光の最短波長に対してD≦250nmであれば実回折波の発生が抑えられ透明性を維持できる。
【0038】
凸部2は、その配列について特に限定されるものではなく、例えば、同心円状や、螺旋状、格子状、千鳥状など、可視光の最短波長以下のピッチで複数並べて配置したパターンとすることができる。更に同一の樹脂基材1の表面1aに、後述する微細凹凸構造が形成された親水性の領域Aと微細凹凸構造が形成されていない撥水性の領域Bとを混在させ、親水領域と撥水領域とを混在させることもできる。また、凸部2は、表面1aの一部又はその全面に亘って形成することもできる。
【0039】
凸部2の形成方法としては、図3に示すように樹脂基材1とは別の基材4aに、所望の凸部2の形状が反転した形状の凹部3を形成して型4とし、その形状を樹脂基材1に転写する加工方法を用いることができる。型4の加工方法は特に限定されないが、ナノスケールの微細加工であるので、光リソグラフィー法や電子線リソグラフィー法や熱リソグラフィー法を用いることが好ましい。
【0040】
光リソグラフィー法や電子線リソグラフィー法を用いて、基材4aにパターンを描画した後、反応性イオンエッチング(RIE)により基材4aの表面4bに凹部3を形成する一連のプロセスは以下の通りである。基材4aの表面4b上に、例えばスピンコートにより感光性のフォトレジストを塗布し、さらに予め別の手段で製作したフォトマスクを重ねる。そして、この段階でレーザー光や電子線を用いて露光する。光リソグラフィー法では、転写の解像度を向上させるため、エキシマレーザ等の短波長のレーザー光源が用いられる。電子線リソグラフィー法は、レーザー光を用いる方法よりもさらに高解像度を得られる。またビーム自体が細いので、フォトマスクが不要になるといった利点があるが、このような方法での露光を行い、感光した箇所を取り除くことでパターンの転写が完了する。その後、RIEを行い、フォトレジストやフォトマスクを除去して、所望の凹部3が形成された型4を得ることができる。
【0041】
RIEは、真空中で発生させたプラズマからイオンを取り出しエッチングを行う方法である。プラズマが生じると、化学的に活性なラジカルやイオンが出来、+イオンは負の電位である基材4aに向けて加速され、高速で基材4aに激突し、ラジカルは基材4aと反応して、蒸発し、基材4aが気化してエッチングが進行する。この反応はイオンの当たるところ(直進方向)で、活発に起こり、側面ではわずかしか起きない。その結果、イオンの飛行方向にエッチングが進行し、パターンに忠実なエッチングが行われる。
なお、型4の基材4aとしては特に限定されないが、寸法精度などを考慮するとシリコン基板を用いることが好ましい。
【0042】
熱リソグラフィー法を用いて基材4aの表面4bに、所望の凸部2の形状が反転した形状である複数の凹部3を可視光の最短波長以下のピッチで形成する際は、例えば図4に示すようなナノ加工装置(成形構造体の製造装置)100が用いられる。
【0043】
このナノ加工装置100は、基材4aを保持する回転可能な回転ステージ101と、回転ステージ101を面内で移動させる移動テーブル102と、回転ステージ101上の加工対象物に対して描画加工を行う光学ユニット103とを備えている。
【0044】
さらに、光学ユニット103は、レーザー光Lを出射するレーザー光源104と、レーザー光源104から出射されたレーザー光Lを平行光とするコリメータレンズ105と、コリメータレンズ105により平行光とされたレーザー光Lを反射させ、基材4aの表面4bから反射して戻ってきた戻りのレーザー光Lを透過させる偏光ビームスプリッタ106と、偏光ビームスプリッタ106で反射された直線偏光のレーザー光Lを円偏光に変換し、基材4aの表面4bから反射して戻ってきたレーザー光Lを直線偏光に変換する1/4波長板107と、1/4波長板107を通過したレーザー光Lを基材4aの表面4b上に集光させる対物レンズ108と、基材4aの表面4bから反射して1/4波長板107及び偏光ビームスプリッタ106を透過して戻ってきたレーザー光Lを集光させる集光レンズ109と、集光レンズ109により集光されたレーザー光Lを受光する光検出器110とを備え、光検出器110により検出された光検出信号に基づいて、対物レンズ108を光軸方向に走査しながら、基材4aの表面4b上に対物レンズ108の焦点を合わせる制御を行う。
【0045】
そして、このナノ加工装置100を用いて、型4の基材4aの表面4bに可視光の最短波長以下のピッチで複数の凹部3を形成する。先ず、基材4aの表面4bにスピンコートによりレジストを塗布し、さらにスパッタリングにより酸化白金を主成分とする多層膜を熱リソグラフィー層として形成する。なお、熱リソグラフィー層としてはゲルマニウム、アンチモン、テルビウムなどの単体、または前述した材料を主成分とする合金、酸化物、窒化物を用いた相変化材料や、温度に対して非線形の反応特性を持つ有機物などを用いることが出来るが、酸化白金を主成分とする多層膜がパターンを形成するための現像プロセスが不要となり、再現性良く製造できるため好適である。
そして、この状態の基材4aを回転テーブル101上に設置した後、回転テーブル101により基材を回転させると共に、移動テーブル102により回転ステージ101を基材4aの半径方向に一回転毎に可視光の最短波長以下のピッチで相対移動させながら、レーザー光源104を一定のパルス周波数で駆動しながら熱リソグラフィー層に対して描画を行う。
【0046】
ここで、熱リソグラフィー法では、基材4aの表面4b上に集光されたレーザー光Lのスポット内に生じた温度分布を描画加工に利用する。具体的に、図5に示すように、基材4aの表面4bに集光されたレーザー光Lのスポット領域S1は、一般にガウス分布を持った光強度分布Tを有している。また、光を物体に照射した場合、その物体が光を吸収することによって、光のエネルギーは熱に変換される。この場合、物体が光を吸収した発熱で生じる温度分布も同様にガウス分布となる。熱リソグラフィー法では、この集光されたレーザー光LのスポットS1内に生じる一定温度以上の領域(以下、熱リソグラフィー領域という。)S2を化学的・物理的な反応を生じさせる加工に利用する。したがって、この熱リソグラフィー法によれば、基材4aの表面4b上に照射されるレーザー光Lのスポット領域S1よりも小さい熱リソグラフィー領域S2を用いて描画加工を行うことが可能である。
【0047】
なお、上記レーザー光Lのスポット領域S1内における温度分布は、レーザー光Lのパワーや基材4aの移動速度などに依存する。したがって、所望の形状の凹部3を得るためには、これらの条件を適宜調整する必要があることは言うまでもない。
【0048】
これにより、図6に示すように、基材4aの表面4b上で描画されたパターンに応じて、熱リソグラフィー層が除去され、フォトレジストに凹部3に対応した描画パターン3aを可視光の最短波長以下のピッチで同心円状に形成することができる。なお、このように描画パターン3aを同心円状又は螺旋状に形成する場合は、基材4aを回転ステージ101上に設置して加工する、或いは光学ユニット103を基材4aに対して回転させながら加工することによって、加工を容易に行うことができる。また、基材4aに対して光学ユニット103を面内方向(XY方向)に相対移動しながら加工を行う場合よりも、加工時間を短縮して加工コストを低減できるメリットがある。
【0049】
描画後の基材4aには、フォトレジストを現像することによって、凹部3に対応した位置に開口部を有するレジストパターンが形成される。そして、このレジストパターンが形成された基材4aの表面4bに対してエッチング加工を行った後、レジストパターンを除去することによって、基材4aの表面4bに可視光の最短波長以下のピッチで複数の凹部3をドット状に形成することができる。
【0050】
次に、形成した型4を転写型として用い、所望の凸部2の形状が反転した形状である凹部3の形状を樹脂基材1の表面1aに転写する。これにより、所定の形状の凸部2が形成された成形構造体Mを得ることができる。なお、型4からの転写方法としては、型4や樹脂基材1を加熱して、プレス成形、射出成形、注入成形、ナノインプリントを行う方法などがある。
【0051】
ナノインプリントは、樹脂基材1を型4と他の基板とで挟み込み、ナノ構造を転写する技術である。その工程は、樹脂基材1の基板への塗布、プレス、加熱やUV照射による転写、離型からなり、装置が簡単で低コストで量産できる加工技術である。
【0052】
例えば、UV照射によるナノインプリントでは、まずUVを透過する素材を基板としてUV硬化型の光硬化性樹脂をスピンコート等により均一膜厚となるように塗布し、樹脂基材1とする。そしてベーク工程に入れて溶剤を除去する。次に、上述した型4を樹脂基材1に押し当て、基板側からUVを照射し、樹脂基材1を硬化させた後、型4を樹脂基材1より離型することによって、樹脂基材1の表面1aに所定の形状の凸部2が形成された成形構造体Mを成形することができる。また、光硬化性樹脂に親水性をもつ無機材料を混入することによって、親水性の成形構造体を作製してもよい。
また、この後、基板と樹脂基材1とを分離してもよいし、このまま一体化してもよいし、さらに反対面側(凸部2が形成された面とは反対側の面)に多層化してもよい。すなわち、最表面側が本発明に記載した実施形態であれば、その下層側の構成は特に限定されない。
【0053】
なお、UVを透過する素材としては、前述した可視光に対して透明である素材であれば特に限定されない。
【0054】
前述したように型4の基材4aとしてシリコン板を用い、表面4bに凹部3を形成して、これを型4として樹脂基材1に凹部3の形状を転写することもできるが、転写型としての寿命を考慮すると、このシリコン板から反転してマスターを作製し、このマスターから、もう一度反転して転写型とすることができる。
反転する際は、元の形状を精密に反転できる方法であればよく、例えばニッケル電鋳などが用いられる。ニッケル電鋳は、スルファミン酸ニッケル浴中でマスター表面にめっきを施す方法である。そしてこのめっきを引き剥がすことで反転物を得ることができる。なお、スルファミン酸ニッケルは皮膜の内部応力が小さいため、基材から引き剥がしやすく電鋳には好適である。
【0055】
なお、本発明は、上記実施形態のものに必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。なお、以下の説明では、上記成形構造体と同等の部位については、説明を省略すると共に、図面において同じ符号を付すものとする。
【0056】
例えば、本発明を適用した成形構造体の他の例の成形構造体M2として、図7に示すように、樹脂基材1の凸部2が形成された面とは反対側の面である裏面1bに反射材7を設けることによって、ミラーとして機能させることも可能である。また、この成形構造体は、防曇性を有するミラーとしても機能するため、例えば自動車のミラーや建築資材等において好適に用いることができる。
【0057】
反射材7については、ミラーに用いられるものであれば特に限定されるものではない。例えば、ミラーの製法は、湿式と乾式とがあり、湿式では無電解めっきにより銀めっきを反射材7として形成するのが一般的である。一方、乾式の場合は、真空炉中でアルミニウムやクロム、プラチナ、チタンなどの金属膜を反射材7として形成したり、アルミニウムやクロム、銀、チタン、鉄、プラチナなどを主成分とする合金膜を反射材7としてスパッタリングや蒸着により堆積させて形成したりするのが一般的である。
【0058】
次に、本発明の他の実施形態である、図8に示すような同一の樹脂基材1の表面1aに、微細凹凸構造が形成された領域Aと微細凹凸構造が形成されていない領域Bとを混在させた成形構造体M3について説明する。
領域Aは、これまで説明してきたような凸部が形成された微細凹凸構造であって、親水性を呈する。一方、領域Bは微細凹凸構造は形成されておらず平坦な形状であり、樹脂基材1の表面そのものであるので撥水性を呈する。
【0059】
これにより、比較的大量の水を本実施形態の成形構造体M3にかけたとき、親水性である領域Aは水が濡れ広がった状態となり、撥水性である領域Bでは水を弾く状態となり、領域Aと領域Bとを隣接させると、領域Bから領域Aへの水膜の移動を行うことができ、時間経過とともに、領域Aには水膜が残り、領域Bには水が残らない状態に制御できる。
領域Aと領域Bの形状や面積、配置は、領域Aと領域Bとが隣接していれば特に限定されず、領域Aは島状配置であって領域Bはその周囲で領域Aと隣接しながら連続的に配置することもできる。また、領域Aと領域Bの海島配置を逆に配置することもできる。
領域Bから領域Aへの水の移動を制御するには,たとえば領域Aを0.5×0.5mmの大きさで島状に配置した場合、近接する複数の領域Aの間隔を3mm以下(すなわち、近接する複数の領域Aに挟まれた領域Bの幅が3mm以下)とすることが好ましい。3mm以下とすると領域Bに水が残らないように制御できる。3mmを超えた場合は、領域Bから領域Aへの水の動きは発生するが間隔が広すぎて水が残らない状態にはならない。なお、領域Aの間隔や配置は領域Aの大きさに合わせて、適宜間隔を調整することができる。
【0060】
このような領域Aと領域Bとが形成された成形構造体M3は、前述してきたように、所望の凸部2及び領域A、Bの形状及び配置が反転した形状の凹部3が形成された型4を、樹脂基材1へ転写することによって作製することができ、その型4は光リソグラフィー法、電子線リソグラフィー法、熱リソグラフィー法を用いることができる。いずれの場合も、領域Aと領域Bとに対応させて描画を行う。
【0061】
本実施形態の成形構造体M3によれば、樹脂基材1上に、微細凹凸構造が形成された領域Aと微細凹凸構造が形成されていない領域Bとを設け、領域Aの親水性と領域Bの撥水性とを利用することにより、水膜を領域Bから領域Aへと移動させて、水膜の動作を制御し、領域Aのみに水膜を残留させることが可能となる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0063】
(実施例1)
実施例1では、実際に本発明を適用した成形構造体を作製した。具体的には、型を作製するために、シリコン板(三菱マテリアル電子化成株式会社製、Φ5インチシリコンウエハー、板厚0.6mm)に熱リソグラフィー法を用いて凹部を描画した。
【0064】
そのために先ず、スパッタリング装置(芝浦メカトロニクス株式会社製、I−Miller)を用いて、熱リソグラフィー層の成膜を行った。ここで用いた熱リソグラフィー層は、酸化白金を主成分とする多層膜であり、成膜後、図4に示すナノ加工装置を用いて、ナノメータサイズの凹部の描画加工を行った。
【0065】
ここで、熱リソグラフィー層には、熱リソグラフィー法を用いて、レーザー光のスポット径以下の微細な凹部を描画した。このときの描画条件は、描画時のレーザー強度が15mW、回転速度が3m/秒、描画パルス幅が10n秒、描画周波数30MHzとした。
次に、反応性エッチング装置(サムコ株式会社製、RIE−10NR)を用いて、エッチングを行い、シリコン板の表面に凹部を形成した。このとき用いた反応ガスは、CF、O、CHFである。さらに、熱リソグラフィー層を沸酸等で除去し、凹部が形成されたシリコン板を作製した。形成された凹部の形状は逆円錐状であり、深さは約200nm、ピッチは約300nm、最大開口部の径は約300nmであった。
【0066】
次に、成形構造体をナノインプリントで作製するために、先ず、PETフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製、HLF175、厚み0.175mm)に光硬化性樹脂(東洋合成工業株式会社製、PAK−02)を適宜塗布し、スピンコーターにフィルムをセットし、樹脂厚0.01mmとなるように塗布した。
次に、この樹脂付きPETフィルムと上記で作製した型をインプリント装置にセットし、さらに型をフィルムの樹脂塗布側にプレス圧1MPaで保持しながら、フィルム側から強度250W/mのUV光を20秒間照射し、光硬化性樹脂を硬化させた。
次に、型とフィルムを引き剥がし成形構造体を得た。以上により作製された実施例1の成形構造体5について、基材の表面をAFM(原子間力顕微鏡、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、プローブステーション NanoNavi)で測定したデータを図9に示す。図9によると、成形構造体の凸部20の形状は円錐状であり、その円錐の寸法は底面の径が約300nm、高さが約200nmであり、ピッチは約300nmであり、アスペクト比は0.67であった。
【0067】
(比較例1)
比較例1では、凹部が形成されていないシリコン板を型に用い、その他条件は実施例1と同一とし、平板状の成形構造体を作製した。
【0068】
(比較例2)
比較例2では、自動車のドアミラーに使用されている親水ミラー(本田技研工業株式会社製、フィット(登録商標)用ブルー親水ミラー)を用意した。この鏡(ミラー)は、基材がガラスで片面に反射材が設けられている。表面には、ガラス側から外側へTiO、SiOの順にスパッタリングにより成膜されている。SiOは比較的多孔質に成膜され、これによりTiOは光触媒による親水性を狙い、SiOは暗所での親水性維持を狙っている。
【0069】
実施例1、比較例1〜2の成形構造体について以下に示す親水性の評価を行い、さらに実施例1については透明性の評価を行った。
【0070】
(親水性評価)
実施例1、比較例1〜2の成形構造体について親水性を評価した。なお、測定室内は室温を23±3℃、相対湿度を45±10%にした。
親水性の評価は、成形構造体を水平にして、その表面全体に100mmの距離から霧吹きで数回に分けて水2ccをかけ、5秒間かけて成形構造体を90℃に立て、その時の水の濡れ広がりの状態を濡れ面積率として算出し、経日と濡れ面積率の関係を評価した。なお、濡れ面積率は、表面全体に対する水の濡れ面積である。
【0071】
実施例1は、作製後65日経過しても濡れ面積率は98〜100%であり、長期に亘って親水性が維持されている。比較例1は、初期状態から濡れ面積率が0%であり、光硬化性樹脂そのものには親水性がないことがわかる。
【0072】
比較例2は、一旦JIS R 1703−1に定められた紫外線照射の前処理を行い、親水性を発現させた時を初期状態として、その後は室内に保管し親水性を評価した。
すると、7日後には濡れ面積率が78%、21日後には60%となり、暗所維持性は不十分であり、本発明を適用した成形構造体の方が親水性を維持できていることがわかる。
【0073】
(透明性評価)
実施例1の成形構造体5の透明性の確認結果を図10に示す。図10は、実施例1の成形構造体5を、文字が印刷された紙の上に配置した状態の写真である。図10より、実施例1の成形構造体5の下にある文字も鮮明に読み取れることから、実施例1の成形構造体5は、表面に多数の凸部があるにも拘らず、透明性が維持されていることがわかる。
【0074】
(実施例2)
図11に示すような領域A(図11に符号8で示す領域)と領域B(図11に符号9で示す領域)が形成された成形構造体を熱リソグラフィー法とUVによるナノインプリントにより作製した。
領域Aには微細凹凸構造が形成され、凸部の形状は円錐状であり、底面の径は約300nm、高さが約200nm、ピッチが約300nmであり、アスペクト比は0.67である。領域Aは1mm×1mmの正方形の領域a1と、領域a1を囲んで形成された12個の0.5mm×0.6mmの長方形よりなる領域a2と、領域a1を囲んで隣接する領域a2、a2の間に形成された4個の0.2mm×0.2mmの正方形よりなる領域a3とを一つの単位として、島状に複数配置されている。
一方、領域A(領域a1、領域a2および領域a3)の周囲には微細凹凸構造が形成されていない領域Bが連続的に存在し、領域Bの間隔(すなわち、近接する領域A間の距離)は、最も広い箇所で2mm、最も狭い箇所で0.2mmである。
【0075】
(水膜の動作)
この成形構造体を地面に対して45度となるように壁に立てかけ、200mlの水をかけると、その直後は傾斜に合わせて水のほとんどが流れ去り、その後、成形構造体の表面に残っていた水膜が領域Bから領域Aに移動した。図12は、実施例2の成形構造体の散水60秒後の状態を示す写真である。図12に示すように、領域Aには水膜が残り、領域Bには水が残らない状態となった。したがって、本発明の成形構造体によれば、微細凹凸構造が形成された領域Aの親水性と、微細凹凸構造が形成されていない領域Bの撥水性とを利用することにより、水膜の移動を制御して、目的の位置に水膜を残すことが可能である。
【符号の説明】
【0076】
M…成形構造体 1…基材 2…凸部 3…凹部 4…型 4a…基材 5…成形構造体 7…反射材 8…領域A 9…領域B 100…ナノ加工装置 101…回転ステージ 102…移動テーブル 103…光学ユニット 104…レーザー光源 105…コリメータレンズ 106…偏光ビームスプリッタ 107…1/4波長板 108…対物レンズ 109…集光レンズ 110…光検出器 A…領域A B…領域B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材の一方の面上に連続的に水の凝集現象を防ぎ、水膜を形成するための親水性を示す微細凹凸構造が形成され、その微細凹凸構造の凸部の幅又は径が可視光の最短波長以下であり、前記凸部の中心間距離が200〜400nmであることを特徴とする成形構造体。
【請求項2】
(前記凸部の高さ)/(前記凸部の幅又は径)で表されるアスペクト比が0.5以上であることを特徴とする請求項1に記載の成形構造体。
【請求項3】
前記樹脂基材の面上で前記微細凹凸構造が形成された領域Aと、前記微細凹凸構造が形成されていない撥水性の領域Bとが隣接して形成され、水膜が前記領域Bから前記領域Aに移動することを特徴とする請求項1又は2に記載の成形構造体。
【請求項4】
可視光に対して透明であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の成形構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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