説明

成形法

【課題】熱可塑性樹脂と金属やセラミックスからなる部材との密着性に優れるとともに樹脂−部材界面における応力緩和性にも優れた熱可塑性樹脂と異種材料との複合成形体の一体化成形法を提供する。
【解決手段】
熱可塑性樹脂を金属又はセラミックスからなる部材と一体化成形する際に、該部材の該熱可塑性樹脂と接する全面に、アミン系硬化剤を使用するBステージ化又はプレゲル化したエポキシ樹脂接着剤層を、厚み5〜500μmで予め形成した後、該部材と該熱可塑性樹脂を、金型温度は60〜180℃、熱可塑性樹脂注入温度は250〜400℃、成形サイクル時間は1秒〜3分で一体化成形するとともに、その成形温度でその成形サイクル時間のうちに該接着剤を硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂と金属やセラミックスからなる部材との密着性に優れるとともに樹脂−部材界面における応力緩和性にも優れた、熱可塑性樹脂と異種材料との複合成形体の成形法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂を金属等の部材と一体成形した熱可塑性樹脂と異種材料との複合成形体の使用例として、自動車を駆動するための車載電源として注目されているリチウムイオン電池がある。
【0003】
リチウムイオン電池としては、金属箔等の集電部材の表面にリチウムイオンの収受が可能な電極活物質を主成分とする固体電極を形成した正極及び負極を、金属電極端子と一体化された熱可塑性樹脂製蓋体により、非水電解液とともに電池容器に密封したものが知られている。
【0004】
しかしながら、金属やセラミックスのような、熱可塑性樹脂とは接合しない材質からなる部材と、熱可塑性樹脂との複合成形体では、樹脂と部材との間に隙間が生じてしまい、気密性、液密性が低下するという問題があった。このため、リチウムイオン電池では、樹脂製絶縁密閉部材を電池蓋体と電極端子とに接着することによって電池内部と外部とのシール性を保つことができる、シール構造が知られている。この構造はシール部材を蓋体に追加設置するため、電池構造によっては配置が難しいという問題がある。
【0005】
一方、特許文献1には樹脂とインサート部材との間に生じる隙間を閉鎖するシール構造部を設けた成形部品が開示されている。特許文献2には、トリアジンチオール類又はシランカップリング剤からなる被覆層が形成された金属部材と樹脂製絶縁密封部材を強固に接着し、一体的に成形することが開示されている。
【0006】
しかしながら、前者の技術においては、シール構造の破損により容易にシール性能が低下する可能性があり、後者の技術においては、表面処理された金属と樹脂が強固に接着することから、高温あるいは低温環境下では金属と樹脂の熱収縮差による熱応力が充分に緩和されず、樹脂部材が破壊する可能性があるという問題があった。
【0007】
これに対して、特許文献3にはトリアジンジチオール化合物又はシランカップリング剤により表面処理を行った金属部材と低弾性率熱可塑性樹脂とを、インサート成形することが開示されている。しかしながら、低弾性率熱可塑性樹脂は機械特性に劣るという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−47437号公報
【特許文献2】特開2002−237436号公報
【特許文献3】特開2008−27823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような課題を解決するため、熱可塑性樹脂と金属やセラミックスからなる部材との密着性に優れるとともに樹脂−部材界面における応力緩和性にも優れた、熱可塑性樹脂と異種材料との複合成形体の成形法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、熱可塑性樹脂と金属又はセラミックスからなる部材とを一体に成形する成形法であって、前記部材の前記熱可塑性樹脂と接する全面にBステージ化又はプレゲル化したエポキシ樹脂接着剤層を予め形成した後、前記熱可塑性樹脂を前記部材と一体に成形するとともに前記エポキシ樹脂接着剤を硬化させる成形法である。
本発明の一態様においては、熱可塑性樹脂と金属又はセラミックスからなるインサート部材とをインサート成形する。
本発明のさらなる一態様においては、金属又はセラミックスからなるインサート部材にBステージ化又はプレゲル化したエポキシ樹脂接着剤層を形成する工程、
Bステージ化又はプレゲル化接着剤層を形成した前記インサート部材を金型内に配置する工程、及び、
熱可塑性樹脂を前記金型に注入して前記部材と一体に成形するとともに前記エポキシ樹脂接着剤を硬化させる工程、を含む。
本発明の他の一態様においては、熱可塑性樹脂と金属又はセラミックスからなるアウトサート部材とをアウトサート成形する。
本発明の別の態様においては、Bステージ化エポキシ樹脂フィルムを金属又はセラミックスからなる部材に貼付けて接着剤層を形成する。
本発明のさらなる一態様においては、エポキシ樹脂接着剤は、アミン系硬化剤を使用するものである。
本発明のさらなる一態様においては、Bステージ化又はプレゲル化接着剤層厚みは、5〜500μmである。
本発明のさらなる一態様においては、熱可塑性樹脂は、ポリフェニレンスルフィド、ポリブチレンテレフタレート、液晶ポリマー、ポリアミド、ポリヒドロキシポリエーテル、ポリエーテルスルホン又はポリエチレンテレフタレートである。
本発明はまた、熱可塑性樹脂を電極端子部材とともに電池蓋体に成形する成形法であって、
前記部材の熱可塑性樹脂と接する全面にBステージ化又はプレゲル化したエポキシ樹脂接着剤層を形成する工程、
Bステージ化又はプレゲル化接着剤層を形成した前記部材を金型内に配置する工程、及び
熱可塑性樹脂を前記金型に注入して前記部材と一体に成形するとともに前記エポキシ樹脂接着剤を硬化させる工程、を含む電池蓋体の成形法でもある。
また、他の一態様においては、電池蓋体は、リチウムイオン二次電池蓋体である。
【発明の効果】
【0011】
上述の構成により、本発明の成形法によれば、熱可塑性樹脂と金属やセラミックスからなる部材との密着性が良好で、しかも、高機械強度の熱可塑性樹脂を使用しても接着層により熱可塑性樹脂と上記部材との境界で生じる熱応力を充分緩和することができ、耐ヒートサイクル性が良好である。さらに、本発明の成形法によれば、エポキシ樹脂接着剤を用いてインサート成形やアウトサート成形を簡便に実施可能であり、その際、従来の成形工程を適用可能である。また、成形品の製造工程の完了とともに上述の密着性能を発揮することができる。
【0012】
従って、本発明の成形法によれば、リチウムイオン電池の蓋体をはじめ、各種の熱可塑性樹脂と金属やセラミックスからなる部材との一体化成形品の気密性、液密性を向上させ、かつ耐熱応力性能に優れた製品を従来の成形方法を用いて製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例における複合成形品の断面概念図。
【図2】比較例における複合成形品の断面概念図。
【図3】リーク試験の装置の概念図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の成形法は、金属又はセラミックスからなる部材の、熱可塑性樹脂と接する全面に、Bステージ化又はプレゲル化したエポキシ樹脂接着剤層を予め形成した後、熱可塑性樹脂を上記部材と一体に成形する。
【0015】
熱可塑性樹脂を上記部材と一体に成形する成形方法としては、従来公知の一体化成形法を適用することができ、例えば、金属又はセラミックスからなるインサート部材を金型内で溶融熱可塑性樹脂により包囲し、固化させ、インサート部材と熱可塑性樹脂とを一体化した成形品を製造する、インサート成形法であってもよく、あるいは、金属又はセラミックスからなるアウトサート部材の表面の一部に溶融熱可塑性樹脂を金型で成形し、固化させ、アウトサート部材と熱可塑性樹脂とを一体化した成形品を製造する、アウトサート成形法であってもよい。
【0016】
本発明においては、まず、熱可塑性樹脂を金属又はセラミックスからなる部材と一体に成形する際に、該部材の該熱可塑性樹脂と接する全面にBステージ化又はプレゲル化したエポキシ樹脂接着剤層を予め形成する。金属又はセラミックスからなる部材の熱可塑性樹脂と接する全面に接着剤層を形成することにより、成形体における上記部材と熱可塑性樹脂との接する面の全体において、密着性が良好となり、たとえ、一部の界面に密着欠陥が生じても、気密性、液密性が損なわれることはない。また、成形体における上記部材と熱可塑性樹脂との接する界面の全体において、エポキシ樹脂層が介在するので、該面の全面で応力を充分に緩和することができる。
【0017】
上記エポキシ樹脂接着剤としては、エポキシ樹脂と硬化剤、必要により硬化促進剤、熱可塑性樹脂、溶剤又はフィラー等の添加成分を含有するものが挙げられる。また、硬化剤を配合せずにエポキシ樹脂を硬化促進剤存在下で自己重合させて硬化させることも可能である。上記エポキシ樹脂としては、とくに限定されるものではなく、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ポリエーテル変性エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂等の2官能エポキシ樹脂を挙げることができる。また、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、キシリレン型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、テトラキスフェノールエタン型エポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂を、エポキシ樹脂全量の5〜95重量%程度、併用することにより、耐熱性を向上させることができる。
【0018】
上記硬化剤としては、とくに限定されるものではなく、例えば、酸無水物、アミン化合物、フェノール化合物を挙げることができる。これらのうち、好ましくはアミン系硬化剤(例えば、ジアミノジフェニルメタン)であり、より好ましくはイミダゾール系硬化剤(例えば、2−メチルイミダゾール)である。
【0019】
上記硬化剤の配合量は、エポキシ樹脂100重量部あたり、好ましくは、1〜100重量部であり、5〜80重量部がより好ましく、10〜50重量部がさらに好ましい。
【0020】
上記硬化促進剤としては、とくに限定されるものではなく、例えば、イミダゾール、その誘導体(例えば、2−メチルイミダゾール等)、その塩(例えば、2−フェニルイミダゾール・イソシアヌル酸付加物等);ジアザビシクロウンデセン、その誘導体(例えば、N−8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)−ウンデセン−7・クロライド等)、その塩(例えば、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)−ウンデセン−7・フェノール塩等);有機ホスフィン化合物およびその誘導体(例えば、トリフェニルフォスフィン等)、その塩(例えば、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート等)を挙げることができる。
【0021】
上記硬化促進剤の配合量は、エポキシ樹脂100重量部あたり、好ましくは、0.1〜20重量部であり、0.5〜10重量部がより好ましく、1〜8重量部がさらに好ましい。
【0022】
エポキシ樹脂接着剤に配合される上記熱可塑性樹脂としては、とくに限定されるものではなく、例えば、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエーテルスルホン、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエステル樹脂、非晶性ポリエステル、ポリエーテル樹脂(例えば、フェノキシ樹脂(ポリヒドロキシポリエーテル)等)、ポリアミドイミド樹脂、ポリカルボジイミド、ポリカプロラクトン、ポリフェニレンエーテル等を挙げることができる。また、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリアミドブロック共重合体、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、シリコーンエラストマー等の熱可塑性エラストマーでもよい。
【0023】
上記熱可塑性樹脂は必要により用いるが、用いる場合、その配合量としては、エポキシ樹脂100重量部あたり、好ましくは、10〜300重量部であり、20〜200重量部がより好ましく、30〜100がさらに好ましい。
【0024】
上記溶剤としては、とくに限定されるものではなく、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、イソホロン、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メチルイソブチルケトン、酢酸ブチル、ジメチルホルムアミド、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートを挙げることができる。
【0025】
上記溶剤の配合量は、エポキシ樹脂100重量部あたり、好ましくは、10〜1000重量部であり、30〜500重量部がより好ましく、50〜300重量部がさらに好ましい。
【0026】
上記フィラーとしては、とくに限定されるものではなく、例えば、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、ウォラストナイト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、フェライト、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素、カオリン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタンを挙げることができる。
【0027】
上記フィラーの配合量は、エポキシ樹脂100重量部あたり、好ましくは、10〜1000重量部であり、20〜500重量部がより好ましく、30〜300がさらに好ましい。
【0028】
上記Bステージ化又はプレゲル化したエポキシ樹脂接着剤層の形成方法としては、液状エポキシ樹脂組成物を塗布し、乾燥によりBステージ化又はプレゲル化する方法を挙げることができる。乾燥の条件としては、硬化促進剤を使用するか否か、あるいは、使用する溶剤、硬化剤の種類等にもよるが、一般的には60〜150℃、0.5〜10分が好ましく、80〜120℃、1〜5分がより好ましい。硬化剤として、アミン系硬化剤を用いる場合も上記と同様である。なお、Bステージ化とは、JIS K 6800に準拠し、エポキシ樹脂と硬化剤が多少反応することでそれ自身の形状を保持できる状態のものをいい、プレゲル化とはエポキシ樹脂と硬化剤が反応することなくそれ自身の形状を保持できる状態のものをいう。
【0029】
上記Bステージ化又はプレゲル化したエポキシ樹脂接着剤層の形成方法としては、エポキシ樹脂接着剤を予めBステージ化又はプレゲル化したフィルムを貼る方法でもよい。
【0030】
本発明においては、つぎに、熱可塑性樹脂を、Bステージ化又はプレゲル化したエポキシ樹脂接着剤層を予め形成した上記部材と、一体に成形するとともに上記接着剤を硬化させる。このとき、上記接着剤は、その成形温度でその成形サイクル時間のうちに、Bステージ化又はプレゲル化した状態から硬化反応が進行して硬化が行われる。
【0031】
上記Bステージ化又はプレゲル化エポキシ樹脂接着剤層の厚みとしては、一般的に、5〜500μmが好ましく、10〜400μmがより好ましく、20〜300μmがさらに好ましい。また、この厚みは、成形体の大きさや熱応力の大きさによって、より好ましい値を設定することができ、例えば、自動車用リチウムイオン電池部品等の中型成形体においては10〜400μmがより好ましく、20〜300μmがさらに好ましく、半導体装置等の小型成形体においては、5〜150μmがより好ましく、10〜100μmがさらに好ましい。
【0032】
上記熱可塑性樹脂としては、とくに限定されるものではなく、例えば、ポリフェニレンスルフィド、ポリブチレンテレフタレート、液晶ポリマー、ポリアミド、ポリヒドロキシポリエーテル、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート等を挙げることができる。使用する樹脂の態様としては、粉体、ペレット形状等であってよく、目的や樹脂種に応じて適宜の形態をとることができる。
【0033】
上記部材と上記熱可塑性樹脂との一体化成形法としては、例えば、インサート成形を例にとれば、金属又はセラミックスからなるインサート部材にエポキシ樹脂接着剤層を形成する工程、前記接着剤層をBステージ化又はプレゲル化する工程、Bステージ化又はプレゲル化接着剤層を形成した前記インサート部材を金型内に配置する工程、及び、熱可塑性樹脂を前記金型に注入して前記部材と一体に成形するとともに前記エポキシ樹脂接着剤を硬化させる工程、を含む成形法を挙げることができる。エポキシ樹脂接着剤を予めBステージ化又はプレゲル化したフィルムを使用する場合は、接着剤層をBステージ化又はプレゲル化する工程を省略することができる。金型に樹脂を注入するには、例えば、射出成形装置を使用することができる。他の成形法、例えば、アウトサート成形法、片面成形法等も、それぞれの成形法に応じて、同様の方法を適宜に応用して、行うことができる。このような成形法は当業者によく知られた手法である。
【0034】
成形条件としては、熱可塑性樹脂の種類にもよるが、一般的に成形樹脂温度は150〜400℃、成形サイクル時間は1秒〜5分が好ましい。より好ましくは成形樹脂温度は200〜400℃、成形サイクル時間は1秒〜4分であり、さらに好ましくは成形樹脂温度は250〜400℃、成形サイクル時間は1秒〜3分である。成形条件は、エポキシ樹脂接着剤の硬化に必要な条件と熱可塑性樹脂成形に必要な条件を考慮して、適宜設定することができる。具体的には、例えば、ポリフェニレンスルフィドを使用し、アミン系硬化剤を配合したエポキシ樹脂接着剤を用いた場合には、好ましくは、成形樹脂温度は290〜350℃、成形サイクル時間は5秒〜3分である。また、ポリブチレンテレフタレートを使用し、アミン系硬化剤を配合したエポキシ樹脂接着剤を用いた場合には、好ましくは、成形樹脂温度は220〜300℃、成形サイクル時間は5秒〜3分である。また、液晶ポリマーを使用し、アミン系硬化剤を配合したエポキシ樹脂接着剤を用いた場合には、好ましくは、成形樹脂温度は320〜400℃、成形サイクル時間は1秒〜3分である。
【0035】
射出成形装置を使用する場合の金型温度と樹脂注入温度としては、金型温度は60〜180℃、熱可塑性樹脂注入温度は250〜400℃、成形サイクル時間は1秒〜3分で好適に実施することが出来る。具体的には、例えば、ポリフェニレンスルフィドを使用し、アミン系硬化剤を配合したエポキシ樹脂接着剤を用いた場合には、例えば、金型温度150℃、樹脂注入温度320℃、成形サイクル時間90秒で好適に実施される。また、ポリブチレンテレフタレートを使用し、アミン系硬化剤を配合したエポキシ樹脂接着剤を用いた場合には、例えば、金型温度80℃、樹脂注入温度260℃、成形サイクル時間90秒で好適に実施される。また、液晶ポリマーを使用し、アミン系硬化剤を配合したエポキシ樹脂接着剤を用いた場合には、例えば、金型温度80℃、樹脂注入温度350℃、成形サイクル時間90秒で好適に実施される。
【0036】
本発明の有利な適用例としては、例えば、電極端子と一体化成形された熱可塑性樹脂蓋体を有する電池において、本発明の方法を用いて、電極端子と樹脂蓋体との界面全面がエポキシ樹脂接着剤層で接着された電極端子熱可塑性樹脂一体構造蓋体を有する電池、好ましくはリチウムイオン電池、さらに好ましくは自動車用リチウムイオン電池、を挙げることができる。
【0037】
電池蓋体成形方法としては、熱可塑性樹脂を電極端子部材とともに電池蓋体に成形する成形法であって、
前記部材の熱可塑性樹脂と接する全面にエポキシ樹脂接着剤層を形成する工程、
前記接着剤層をBステージ化又はプレゲル化する工程、
Bステージ化又はプレゲル化接着剤層を形成した前記部材を金型内に配置する工程、及び
熱可塑性樹脂を前記金型に注入して前記部材と一体に成形するとともに前記エポキシ樹脂接着剤を硬化させる工程、を含む電池蓋体の成形法を適用することができる。エポキシ樹脂接着剤を予めBステージ化又はプレゲル化したフィルムを使用する場合は、接着剤層をBステージ化又はプレゲル化する工程を省略することができる。
【0038】
本発明の他の有利な適用例としては、例えば、熱可塑性樹脂を金属又はセラミックスからなるアウトサート部材とともにアウトサート成形することを挙げることができる。例えば、LED等のリフレクタをリードフレーム上にアウトサート成形する際に、従来は、リードフレームの金属表面を粗化し、熱可塑性樹脂を成形し、つぎに、余分に粗化された面を再メッキする方法のように、リードフレームの金属表面を粗化処理していたのであるが、粗化処理面に熱可塑性樹脂をアウトサート成形した場合、樹脂と金属面との接着性が不充分であったが、本発明の方法を用いて、予めリードフレームの金属表面にBステージ化又はプレゲル化接着剤層を形成した後、熱可塑性樹脂をアウトサート成形することにより、粗化処理不要であり、余分な粗化面の再メッキ等の余計な工程が不要で、しかも、優れた密着性、応力緩和性を有するリフレクタを成形したLED、を挙げることができる。
【0039】
本発明のさらに別の有利な適用例としては、金属表面に熱可塑性樹脂層を設ける場合に、従来は、プライマー処理で金属−熱可塑性樹脂間の接着強度を高めていたのであるが、このプライマー処理の代わりに本発明の方法を用いて、予め金属表面にBステージ化又はプレゲル化接着剤層を形成した後、熱可塑性樹脂を適用して、プライマー処理の薄膜では対応しきれなかった金属−樹脂間に生じる隙間を埋めて密着性が向上した金属−熱可塑性樹脂間の接着構造、を挙げることができる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0041】
実施例1〜4
エポキシ樹脂接着剤は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用い、硬化剤としてアミン系化合物を使用し、熱可塑性樹脂成分としてポリエーテルイミド樹脂を配合し、フィラーとしてアルミナを含有するものを使用した。表中、本接着剤と表示した。
また、成形用熱可塑性樹脂としてポリフェニレンスルフィド(PPS)(ポリプラスチックス株式会社製)を用いた。
【0042】
インサート部材の準備
表1に示すとおり、銅製又はアルミニウム製の丸棒端子(直径10mm、長さ24mm)の中間部に成形用熱可塑性樹脂と接触するおよそ6mm幅に対してエポキシ樹脂接着剤を塗布し、120℃、2分乾燥してブレゲル化した。プレゲル化接着剤層の厚みは表1に示したとおりである。
アルミニウム製の座板(直径42mm、厚さ3mm、中央に直径16mmの穴)の中央穴周囲の成形用熱可塑性樹脂と接触するおよそ6mm幅のドーナツ状領域に対してエポキシ樹脂接着剤を塗布し、120℃、2分乾燥してプレゲル化した。プレゲル化接着剤層の厚みは表1に示したとおりである。
【0043】
インサート成形
複合成形品1
表1に示すとおり、丸棒端子インサート部材を中心部に貫通させた段付き円盤状複合成形品を射出成形装置を使用して一体化成形した。成形条件は、金型温度150℃、樹脂注入シリンダー温度320℃、成形サイクル時間90秒であった。座板なしの成形品の断面図の模式図を図1の1−1に示した。
複合成形品2
表1に示すとおり、座板インサート部材を配置し、丸棒端子インサート部材をその中心部穴に貫通させた段付き円盤状複合成形品を射出成形装置を使用して一体化成形した。成形条件は、金型温度150℃、樹脂注入シリンダー温度320℃、成形サイクル時間90秒であった。座板ありの成形品の断面図の模式図を図1の1−2に示した。
【0044】
比較例1〜4
インサート部材の準備
表1に示すとおり、銅製又はアルミニウム製の丸棒端子(直径10mm、長さ24mm)で、エポキシ樹脂接着剤は塗布しないもの(比較例1、2)、エポキシ樹脂接着剤を塗布し、硬化させた接着剤層を形成したもの(比較例3)、表1に示すように実施例と同様にエポキシ樹脂接着剤を塗布し、ブレゲル化したもの(比較例4)をそれぞれインサート部材とした。
銅製又はアルミニウム製の座板(直径42mm、厚さ3mm、中央に直径16mmの穴)で、エポキシ樹脂接着剤は塗布しないものをインサート部材とした。
【0045】
インサート成形
複合成形品1′
丸棒端子サート部材を中心部に貫通させた段付き円盤状複合成形品を射出成形装置を使用して複合成形品1′を一体化成形した。成形条件は、金型温度150℃、樹脂注入シリンダー温度320℃、成形サイクル時間90秒であった。座板なしで接着剤層なしの成形品の断面図の模式図を図2の2−1に示した。
複合成形品2′
座板インサート部材を配置し、丸棒端子インサート部材をその中心部穴に貫通させた段付き円盤状複合成形品を射出成形装置を使用して複合成形品2′を一体化成形した。成形条件は、金型温度150℃、樹脂注入シリンダー温度320℃、成形サイクル時間90秒であった。座板ありで予め硬化させた接着剤層を設けた成形品の断面図の模式図を図2の2−2に示した。
【0046】
評価方法
(1)リーク試験
実施例1〜4、比較例1〜4で作成した複合成形品を用いて、図3に示す構造体を作成し、圧力をかけてインサート部材−成形用熱可塑樹脂界面からの空気漏れを観察した。構造体の上部チャンバーには石鹸水を入れ、下部チャンバーには加圧エアーを導入した。中間部に複合成形品を気密状態にセットした。容器内を0.1MPaに昇圧して1分間保持し、空気漏れを観察した。漏れなければ0.2MPaまで昇圧し1分間保持した。0.1MPa毎に昇圧し、これを繰り返し、最大0.6MPaまで昇圧して評価を行った。空気漏れが発生しなかった最大圧力をリーク判定結果とした。結果を表1に示した。
(2)ヒートサイクル試験
実施例3について、ヒートサイクル試験を実施した。1サイクルは−40℃、30分経過後、昇温して125℃で30分。これを300サイクル繰り返した。その後、リーク試験を行った。結果を表1に示した。
【0047】
【表1】

【0048】
これらの結果から、実施例1〜4の成形法で成形された複合成形品においては、空気漏れが発生しなかったので、インサート部材と成形熱可塑性樹脂との界面の気密性が高いことが実証された。
【符号の説明】
【0049】
1.丸棒端子
2.接着剤層
3.熱可塑性樹脂
4.熱可塑性樹脂
5.丸棒端子
6.接着剤層
6′.接着剤層
7.座板
8.丸棒端子
9.熱可塑性樹脂
10.丸棒端子
11.熱可塑性樹脂
12.座板
13.予め硬化させた接着剤層
a.石鹸水
b.エアー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と金属又はセラミックスからなる部材とを一体に成形する成形法であって、前記部材の前記熱可塑性樹脂と接する全面にBステージ化又はプレゲル化したエポキシ樹脂接着剤層を予め形成した後、前記熱可塑性樹脂を前記部材と一体に成形するとともに前記エポキシ樹脂接着剤を硬化させる成形法。
【請求項2】
熱可塑性樹脂と金属又はセラミックスからなるインサート部材とをインサート成形する請求項1記載の成形法。
【請求項3】
金属又はセラミックスからなるインサート部材にBステージ化又はプレゲル化したエポキシ樹脂接着剤層を形成する工程、
Bステージ化又はプレゲル化接着剤層を形成した前記インサート部材を金型内に配置する工程、及び、
熱可塑性樹脂を前記金型に注入して前記部材と一体に成形するとともに前記エポキシ樹脂接着剤を硬化させる工程、を含む請求項2記載の成形法。
【請求項4】
金型温度は60〜180℃、熱可塑性樹脂注入温度は250〜400℃、成形サイクル時間は1秒〜3分である請求項3記載の成形法。
【請求項5】
熱可塑性樹脂と金属又はセラミックスからなるアウトサート部材とをアウトサート成形する請求項1記載の成形法。
【請求項6】
Bステージ化エポキシ樹脂フィルムを金属又はセラミックスからなる部材に貼付けて接着剤層を形成する請求項1〜5のいずれか記載の成形法。
【請求項7】
エポキシ樹脂接着剤は、アミン系硬化剤を使用するものである請求項1〜6のいずれか記載の成形法。
【請求項8】
Bステージ化又はプレゲル化接着剤層厚みは、5〜500μmである請求項1〜7のいずれか記載の成形法。
【請求項9】
熱可塑性樹脂は、ポリフェニレンスルフィド、ポリブチレンテレフタレート、液晶ポリマー、ポリアミド、ポリヒドロキシポリエーテル、ポリエーテルスルホン又はポリエチレンテレフタレートである請求項1〜8のいずれか記載の成形法。
【請求項10】
熱可塑性樹脂を電極端子部材とともに電池蓋体に成形する成形法であって、
前記部材の熱可塑性樹脂と接する全面にBステージ化又はプレゲル化したエポキシ樹脂接着剤層を形成する工程、
Bステージ化又はプレゲル化接着剤層を形成した前記部材を金型内に配置する工程、及び
熱可塑性樹脂を前記金型に注入して前記部材と一体に成形するとともに前記エポキシ樹脂接着剤を硬化させる工程、を含む電池蓋体の成形法。
【請求項11】
電池蓋体は、リチウムイオン二次電池蓋体である請求項10記載の成形法。
【請求項12】
Bステージ化エポキシ樹脂フィルムを金属又はセラミックスからなる部材に貼付けて接着剤層を形成する請求項10又は11記載の成形法。
【請求項13】
エポキシ樹脂接着剤は、アミン系硬化剤を使用するものである請求項10〜12のいずれか記載の成形法。
【請求項14】
Bステージ化又はプレゲル化接着剤層厚みは、5〜500μmである請求項10〜13のいずれか記載の成形法。
【請求項15】
熱可塑性樹脂は、ポリフェニレンスルフィド、ポリブチレンテレフタレート、液晶ポリマー、ポリアミド、ポリヒドロキシポリエーテル、ポリエーテルスルホン又はポリエチレンテレフタレートである請求項10〜14のいずれか記載の成形法。
【請求項16】
金型温度は60〜180℃、熱可塑性樹脂注入温度は250〜400℃、成形サイクル時間は1秒〜3分である請求項10〜15記載の成形法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−245665(P2012−245665A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117862(P2011−117862)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000214250)ナガセケムテックス株式会社 (173)
【出願人】(000214272)長瀬産業株式会社 (137)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】