説明

成形用ロール装置

【課題】薄肉金属外筒とロール端板を溶接固定する際の歪みの影響を軽減させた成形ロールにより、高精度の光学シートの成形用ロール装置を得る。
【解決手段】軟化した熱可塑性樹脂を、光学シートに成形する成形用ロール装置であって、かつ、前記1対の成形ロールの少なくとも一方の押さえロールが、ロール端板16aを有するロール軸と、両端側がロール端板を介してロール軸に取り付けられてなる可撓性を有した薄肉金属外筒11と、該薄肉金属外筒11内に同一軸心状に収容された金属内筒とを備えて二重筒に構成された流送空間に冷却流体を流通させてなる成形用ロール装置において、薄肉金属外筒11の端部Eの内周面に、軸中心に向かってリング状に突出している環状部を一体的に設け、該環状部の中央開口部23内にロール端板16aを嵌合させ、かつ、ロール端板16aと環状部との嵌合部分を溶接27で固定してなる成形用ロール装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成形用ロール装置に関するものであり、特に、軟化した熱可塑性樹脂を回転している1対の成形ロール間を通過させて光学シートを成形する成形用ロール装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光学シートを製造する場合、押出ダイから軟化した熱可塑性樹脂材が押出され、該熱可塑性樹脂材を回転している1対の金属ロール間に供給し、かつ、該1対の金属ロールにより加圧しながら該熱可塑性樹脂材を通過させて所定の光学シートを製造している。この光学シートの製造方法では、光学的な機能を持ったシートを作る場合、厚さにある程度の均一性を持たせることが要求される。さらに、光学的機能に必要な平滑面や表面形状を該シートに一定の賦形率で転写させることが必要とされる場合もある。
【0003】
また、近年、装置の薄型軽量化を図るために、光学シート自体を軽量化することが求められ、これに伴って光学シートの厚みを薄くすることも要求されている。さらに、光学シートがレンズシートの場合、高精細化(ファインピッチ化)のためにレンズを小さくして焦点距離を短くしたり、他のレンズシート等との干渉によるモアレを回避する必要がある。
【0004】
しかしながら、このような押出し成形による製造方法では、光学的機能を持った形状の薄物シートを、その厚みに精度を持たせて製造することが困難であった。この理由として、光学シートの厚みを薄くすると、樹脂圧力と金属ロールの加圧力並びに金属ロールの剛性とのバランスが悪化して該金属ロールが撓み、この結果、該金属ロールで薄物シートの中央部分を押すことができなくなり、均―な厚さ分布が得られなくなることがあげられる。
【0005】
そこで、従来、このような問題を解決するために、表面が樹脂圧力に見合った弾性変形を生じさせることができるようにした金属ロール(以下「金属弾性ロール」という)を使用する成形方法も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
上記特許文献1の金属弾性ロールは、円板状のロール端板を有する軸部材と、両端開口部に前記ロール端板を嵌合させて前記軸部材に取り付けられた可撓性を有する薄肉金属外筒と、該薄肉金属外筒の内面との間に冷却流体の流送空間を設けて該薄肉金属外筒内に同一軸心状に収容された金属内筒とを備えて、二重筒に構成されている。また、薄肉金属外筒とロール端板は互いに嵌合され、さらに溶接で固定されている。
【特許文献1】特開平11−15036号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら特許文献1に記載の金属ロールのように、薄肉金属外筒とロール端板とを嵌合させ、さらに溶接で固定している構造では、溶接をする際、該薄肉金属外筒の厚みが薄いことから溶接で発生する熱の影響を大きく受けて一時膨張し、溶接後は冷えて歪み、これが光学シートの製品精度に悪い影響を与えている問題があった。また、この溶接時の影響は、溶接箇所が薄肉金属外筒に近くなるほど該薄肉金属外筒が高い熱を受けて大きくなる。
【0008】
そこで、薄肉金属外筒とロール端板とを溶接固定する際における歪みの影響を軽減させ
てなる成形ロールを使用して、高精度の光学シートの成形を可能にする成形用ロール装置を得るために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、軟化した熱可塑性樹脂を、回転している1対の成形ロールの間を通過させて光学シートを成形する成形用ロール装置であって、かつ、前記1対の成形ロールの少なくとも一方のロールが、円板状のロール端板を有する軸部材と、両端開口部に前記ロール端板を嵌合させて前記軸部材に取り付けられた可撓性を有する薄肉金属外筒と、該薄肉金属外筒との間に冷却流体の流送空間を設けて該薄肉金属外筒内に同一軸心状に収容された金属内筒とを備えて二重筒で構成された成形用ロール装置において、前記薄肉金属外筒の端部内周面に、軸中心に向かってリング状に突出している環状部を一体的に設け、該環状部の中央開口部内に前記ロール端板を嵌合させ、かつ、該ロール端板と前記環状部との嵌合部分を溶接固定してなる成形用ロール装置を提供する。
【0010】
この構成によれば、前記薄肉金属外筒の端部内周面に、軸中心に向かってリング状に突出している環状部とロール端板の嵌合部分とを溶接固定しているので、薄肉金属外筒の溶接部分からの距離が大きく確保されて熱影響を少なくすることができるとともに、溶接により発生する熱膨張が半径外側方向になり、有効なロール部分、すなわちロール成形で実際にシートと接触する部分に作用する薄肉金属外筒の歪みは少なくなる。
【0011】
請求項2載の発明は、請求項1記載の成形用ロール装置において、上記薄肉金属外筒の端部外側エッジ部に、熱歪み吸収用の切欠部を設けてなる成形用ロール装置を提供する。
【0012】
この構成によれば、溶接で発生する熱により薄肉金属外筒が熱膨張した際、該薄肉金属外筒の端部外側エッジ部に設けられている熱歪み吸収用の切欠部が該薄肉金属外筒の歪みを吸収し、薄肉金属外筒に作用する歪みを少なくする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明は、有効なロール部分に作用する歪みによる影響の少ない成形ロールを使用して成形するので、光学シートに与える歪みが軽減し、製品精度を向上させることができる。
【0014】
請求項2記載の発明は、溶接で発生する熱膨張を熱歪み吸収用の切欠部が吸収して、さらに歪みの少ない構造をした成形ロールを使用しているので、請求項1記載の発明の効果に加えて、さらに光学シートに与える歪みを軽減して、製品精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、薄肉金属外筒とロール端板とを溶接固定する際における歪みの影響を軽減させてなる成形ロールを使用して、高精度の光学シートの成形を可能にする成形用ロール装置を得るという目的を達成するために、軟化した熱可塑性樹脂を、回転している1対の成形ロールの間を通過させて光学シートを成形する成形用ロール装置であって、かつ、前記1対の成形ロールの少なくとも一方のロールが、円板状のロール端板を有する軸部材と、両端開口部に前記ロール端板を嵌合させて前記軸部材に取り付けられた可撓性を有する薄肉金属外筒と、該薄肉金属外筒との間に冷却流体の流送空間を設けて該薄肉金属外筒内に同一軸心状に収容された金属内筒とを備えて二重筒で構成された成形用ロール装置において、前記薄肉金属外筒の端部内周面に、軸中心に向かってリング状に突出している環状部を一体的に設け、該環状部の中央開口部内に前記ロール端板を嵌合させ、かつ、該ロール
端板と前記環状部との嵌合部分を溶接固定したことにより実現した。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の成形用ロール装置について、好適な実施例をあげて説明する。図1は本発明を適用した成形用ロール装置の一実施例を示す側面図である。同図において、成形用ロール装置1は、互いに並行に配設された主ロール4と押さえロール5との間に、押出成型機2から押出ダイ3を介して軟化した熱可塑性樹脂材6(以下、「溶融樹脂6」という)が供給される。また、該供給された溶融樹脂6は、回転している両ロール4,5に挟圧されて後方に送出されて行く。そして、挟圧時に該溶融樹脂6が正確な厚みのシートに伸延されるとともに、該溶融樹脂6にロール4,5の外周表面に設けられている鏡面またはエンボス模様が該シートに転写されて所定の光学シートが形成されるように構成されている。
【0017】
これら前記ロール4,5は、多くの場合、径が200〜600mmで、また内部の中空部に水やオイル等の冷却流体が供給されてロール4,5の外周表面を適正な温度に保持し、軟化している溶融樹脂6を適正な温度に冷却するように構成されている。また、前記主ロール4は高剛性の金属ロールであって、かつ、前記押さえロール5はロール表面が弾性変形可能な金属弾性ロールにて形成されている。
【0018】
図2は前記押さえロール5の軸方向断面図であり、図3は該押さえロール5における端部Eの拡大図である。
【0019】
同図において、該押さえロール5は、可撓性を有する継目無し炭素鋼製の薄肉金属外筒11と、該薄肉金属外筒11との間に冷却流体(例えば、水やオイル)12用の流送空間13を設けて、該薄肉金属外筒11内に同一心状に収容された炭素鋼製の金属内筒14とからなる二重筒の前記弾性ロールとして構成されている。
【0020】
さらに詳述すると、前記押さえロール5は、ロール軸15a,15bと、該ロール軸15a,15bに同心状に取り付けられた円盤状のロール端板16a,16bとでなる軸部材17を有している。また、ロール端板16a,16bには、それぞれ前記薄肉金属外筒11が取り付けられる大径外周部18aと該大径外周部18aよりも内側に位置して前記金属内筒14が取り付けられる小径外周部18bが設けられている。さらに、ロール軸15aとロール端板16aの軸心部には流体供給通路17aが設けられ、ロール軸15bとロール端板16bの軸心部には流体排出通路17bが設けられている。
【0021】
前記薄肉金属外筒11における両端部Eの内周表面には、図3に示すように、軸中心である半径方向に向かってリング状に突出している環状部22が一体的に設けられている。
【0022】
そして、前記薄肉金属外筒11は、環状部22の中央開口部23に前記両ロール端板16a,16bの大径外周部18a,18aをそれぞれ嵌合させて、該両ロール端板16a,16b間に該薄肉金属外筒11の両側端部Eが各々閉塞された状態で取り付けられ、かつ、該ロール端板16a,16bと該環状部22の嵌合部分を溶接27で固定している。なお、該嵌合部分の外表面には溶接27用の断面V字状をした開先24が設けられており、該開先24に溶接27を施すことにより、該ロール端板16a,16bと環状部22との結合を強固にすることができる。
【0023】
このように、薄肉金属外筒11の端部Eの内周面に、軸中心に向かってリング状に突出している環状部22を設け、該環状部22とロール端板16a,16bの大径外周部18a,18aをそれぞれ溶接27で固定している押さえロール5では、その溶接27により発生する熱膨張は半径外側になり、薄肉金属外筒11の有効なロール部分(ロール成形で
実際に溶融樹脂6と接触して光学シートを形成する部分)に発生する歪みは少なくなる。
【0024】
一方、金属内筒14は、該金属内筒14の両端側の開口部に両ロール端板16a,16bの小径外周部18b,18bをそれぞれ嵌合させ、該金属内筒14の両側開口部が該両ロール端板16a,16bにより閉塞された状態で該両ロール端板16a,16b間に取り付けられている。
【0025】
また、金属内筒14の両端内側には、該金属内筒14内の両端側にそれぞれ前記ロール端板16a,16bと共に流送空間19,19を形成している隔壁20,20が、該金属内筒14内を各々前後に仕切るようにして取り付けられている。
【0026】
なお、該金属内筒14の両端部には、それぞれ該金属内筒14内の流通空間19に対応して、該流通空間19と前記流通空間13を連通するための冷却流体通過孔21が円周方向に沿って複数設けられている。
【0027】
次に、このように構成された押さえロール5の作用を説明する。冷却流体12は、ロータリージョイント(図示せず)を介して流体供給通路17aに供給される。該流体供給通路17aに供給された冷却流体12は、ロール端板16aと隔壁20の間の流送空間19に送られ、さらに冷却流体通過孔21,21…を通過して薄肉金属外筒11と金属内筒14との間の流送空間13内に送られる。
【0028】
該流送空間13内では、冷却流体12がロール端板16b側に向かって流れ、薄肉金属外筒11の内周面全体に接触し、該薄肉金属外筒11におけるロール表面の温度が均一になるように調整する。これにより、ロール表面における温度調整が行われる。
【0029】
また、流送空間13内を通過した冷却流体12は、ロール端板16b側の冷却流体通過孔21,21…を通過して薄肉金属外筒11と金属内筒14との間の流送空間13内に送られ、さらに流体排出通路17bを通って外部に排出される系路で循環する。
【0030】
したがって、この実施例における成形用ロール装置では、上述したように薄肉金属外筒11の歪みが少ない押さえロール5を使用しているので、光学シートに与える歪みも少なくなり、製品精度を向上させることができることになる。
【0031】
なお、本発明を実施するに当たって、より好ましい形態を図2及び図3を用いて説明すると、押さえロール5の全幅W:600mm、押さえロール5の外径D:300mmとした場合、薄肉金属外筒11の厚みT及び該薄肉金属外筒11の端部Eに設けられる環状部22の半径方向の突出量H等の寸法は次のようにして決定するのが好ましい。
【0032】
(1)本発明における金属弾性ロールの薄肉金属外筒11の厚みTは0.1mm以上、10.0mm以下。これより薄いと該薄肉金属外筒11の強度に問題が生じ、逆に厚いと該薄肉金属外筒11の可撓性が不足することがある。より好ましくは、0.2mm以上、8mm以下がよい。
【0033】
(2)前記環状部22の半径方向の突出量Hの大きさは、例えば薄肉金属外筒11の厚みTの50%以上、50mm以下が好ましい。これより小さいと歪みの抑制が不十分となり、逆に大きいと薄肉金属外筒11とロール端板16a,16bの嵌合部分の剛性が不十分になることがある。また、環状部22の軸方向の厚みはロール端板16a,16bの大径外周部18a,18aにおける軸方向の厚みtと同程度であることが好ましい。
【0034】
また、上記実施例では、薄肉金属外筒11における端部Eの外側エッジ部を直角にして
なる構造を開示したが、例えば図4に示すように外側エッジ部の先端部を斜めにカットして形成された切欠部25、または、図5に示すように外側エッジ部内に向って断面V状に切り込むようにカットして形成された切欠部26を設けると、前記環状部22とロール端板16a,16bを溶接する時の熱膨張による半径方向への歪みを、これら切欠部25,26と環状部22、及び、開先24でそれぞれ吸収し、より効果的に軽減させることができる。なお、図5に示した切欠部26を設ける場合、該切欠部26のロール軸方向の深さS1及び半径方向の深さS2は、溶接の際に金属が溶ける深さを考慮して3〜8mm程度であることが好ましい。
【0035】
また、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り上記以外にも種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施例に係る成形用ロール装置の概略側面図。
【図2】同上成形用ロール装置における押さえロールの断面図。
【図3】図2の端部Eにおける拡大図。
【図4】同上押さえロールにおける薄肉金属外筒の一変形例を示す断面図。
【図5】同上薄肉金属外筒の他の変形例を示す断面図。
【符号の説明】
【0037】
1 成形用ロール装置
2 押出成型機
3 押出ダイ
4 主ロール
5 押さえロール
6 溶融樹脂
11 薄肉金属外筒
12 冷却流体
13 流送空間
14 金属内筒
15a ロール軸(軸部材)
15b ロール軸(軸部材)
16a ロール端板
16b ロール端板
17 軸部材
17a 流体供給通路
17b 流体排出通路
18a 大径外周部
18b 小径外周部
19 流送空間
20 隔壁
21 冷却流体通過孔
22 環状部
23 中央開口部
24 開先
25 切欠部
26 切欠部
27 溶接
E 端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟化した熱可塑性樹脂を、回転している1対の成形ロールの間を通過させて光学シートを成形する成形用ロール装置であって、かつ、前記1対の成形ロールの少なくとも一方のロールが、円板状のロール端板を有する軸部材と、両端開口部に前記ロール端板を嵌合させて前記軸部材に取り付けられた可撓性を有する薄肉金属外筒と、該薄肉金属外筒との間に冷却流体の流送空間を設けて該薄肉金属外筒内に同一軸心状に収容された金属内筒とを備えて二重筒で構成された成形用ロール装置において、
前記薄肉金属外筒の端部内周面に、軸中心に向かってリング状に突出している環状部を一体的に設け、該環状部の中央開口部内に前記ロール端板を嵌合させ、かつ、該ロール端板と前記環状部との嵌合部分を溶接固定してなることを特徴とする成形用ロール装置。
【請求項2】
上記薄肉金属外筒の端部外側エッジ部に、熱歪み吸収用の切欠部を設けてなることを特徴とする請求項1記載の成形用ロール装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−144753(P2010−144753A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319904(P2008−319904)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】