説明

成形用樹脂組成物、成形用樹脂組成物の製造方法、シート、粘着シート及び成型体

【課題】本発明は、優れた強靱性、柔軟性、耐ガソリン性、耐薬品性、成型加工性、耐候性、経時安定性を発揮する樹脂組成物、シート、粘着シートおよび成型体の提供を目的とする。
【解決手段】水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体1〜10重量%と他の単量体を共重合してなる、水酸基とイソシアネート基を有する重量平均分子量が5,000〜500,000であるアクリル系共重合体(A)と、ポリイソシアネート化合物(B)と、数平均分子量250〜10,000である化合物(C)とを含む成形用樹脂組成物であって、前記アクリル系共重合体(A)中の水酸基/イソシアネート基が、当量比1/19〜19/1であり、前記化合物(C)が、イソシアネート基と反応可能な官能基を2個以上有する、ポリカーボネート、ポリエステルおよびポリブタジエンからなる群より選択される1種以上の化合物であることを特徴とする成形用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成形用樹脂組成物、及び前記成形用樹脂組成物の硬化物からなり各種装飾や表示、包装に用いられるシート及び粘着シート、前記シートの製造方法及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在プラスチックシートは必要に応じて粘着剤や接着剤を塗布された後、外装板、内装材、建材、各種案内板、交通標識、屋内・屋外広告、看板、シャッター、ウインドウなどに、着色、装飾、表示を施す目的で、または耐候性や、防汚性、防錆性、各種耐性等の種々の表面機能を付与する目的で使用されている。一方では包装材料としても、物品に装飾や機能を付与する目的で様々なプラスチックシートが使用されている。または自動車、二輪車、モーターボート、スノーモービル、家電、電子機器等の部品としても様々なプラスチックシートの成形物が使用されている。
【0003】
多くの場合、これらのプラスチックシート用材料には、塗膜強度と伸張性のバランスに優れる為、半硬質もしくは軟質の塩化ビニル樹脂が用いられている。しかし、半硬質もしくは軟質の塩化ビニル樹脂には、成形加工性、伸張性、柔軟性等の物性を付与するために、低分子量化合物、例えば、フタル酸系の可塑剤などが多量に添加されている。これらの可塑剤は移行性が大きいため、経時で塗膜表面に移行して外観を損ねたり、被着体に移行して接着力を低下させたり、基材の膨張によるふくれ、しわを発生させたりするという問題を有している。また、可塑剤が表面や被着体に移行することにより、塩化ビニル樹脂の伸張性が失われ、成形加工時の状態が保持できなくなり、外観的には白化するなどの問題も有している。また、軟質の塩化ビニル樹脂は、硬度が低く、耐摩耗性、耐擦傷性に劣るという問題も有している。
【0004】
一方、塩化ビニル樹脂等の塩素含有樹脂は、適当な条件で焼却されない場合、焼却時に副生物として猛毒のダイオキシン類が発生する恐れが指摘されている。また十分な高温で焼却した際も発生する塩酸により炉内の耐久性を低下させる場合があり、焼却炉の構造、運転に対して多くの要求が求められる。そのためにより環境負荷の少ないプラスチックフィルムの要求が高まっている。
【0005】
プラスチックシート用材料としては、その他に、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂が一般に知られている。しかし、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂は、強靱性は有しているが、伸張性に劣るため、シートにした場合、特に常温では成形加工しにくく、軟質化するためには塩化ビニル樹脂と同様に、低分子量の可塑剤を添加しなければならない。またこれらの樹脂は、高分子量の場合、顔料などの着色剤の分散性が低く、着色が困難となり、装飾性が著しく損なわれるという問題を有しており、また顔料分散性向上の為に低分子量の場合には、シートにした時の強靱性に劣るという問題を有している。
【0006】
そこで、前記のような問題を解決した例として、ポリエーテル、ポリエステル等をグラフト重合したアクリル重合体と、ポリエーテル、ポリエステル等と、ポリイソシアネートを含む樹脂組成物の硬化物からなるプラスチックシートが開示されている(特許文献1参照)。このようなアクリル系樹脂製フィルムは、一定の強靭性を有し、且つ伸張性、着色性に優れ、更には塩化ビニル樹脂よりも優れた耐候性を有することから、屋内、屋外用途にマーキングフィルムとして使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2002/057332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし当発明特許文献1におけるアクリル樹脂製フィルムは、マーキングフィルムとして用いた場合、塗膜としての強靱さにおいて塩化ビニル樹脂に劣るため、引裂強度特性で改良が望まれていた。また自動車や二輪車等に用いられる際のガソリン存在環境下で用いられる場合にはガソリンの吸収による膨潤、着色等の外観上の欠陥が生じる問題点も有していた。
【0009】
そこで本発明は、塩素非含有樹脂であり、かつ可塑剤を含まない成形用樹脂組成物であって、優れた強靱性、柔軟性、耐ガソリン性、耐薬品性、成型加工性、耐候性、経時安定性を発揮する成形用樹脂組成物、及び前記成形用樹脂組成物の硬化物からなり各種装飾や表示、包装に用いられるシート及び粘着シート、前記シートの製造方法及び成型体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、強靱性と高耐候性を有する水酸基及びイソシアネート基含有のアクリル系重合体を第1成分とし、そこに稠密な架橋構造を形成させるための多官能のポリイソシアネート化合物を第2成分とし、更には柔軟性、伸張性を付与するものとして、イソシアネート基と反応可能な2個以上の官能基を含むポリエステル、ポリカーボネート、およびポリブタジエンから選択される化合物を第3成分とする樹脂組成が極めて優れたシート特性を有することを見出し本発明に至った。
【0011】
本発明は、水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体1〜10重量%と他の単量体を共重合してなる、水酸基とイソシアネート基を有する重量平均分子量が5,000〜500,000であるアクリル系共重合体(A)と、ポリイソシアネート化合物(B)と、数平均分子量250〜10,000である化合物(C)とを含む成形用樹脂組成物であって、前記アクリル系共重合体(A)中の水酸基/イソシアネート基が、当量比1/19〜19/1であり、前記化合物(C)が、イソシアネート基と反応可能な官能基を2個以上有する、ポリカーボネート、ポリエステルおよびポリブタジエンからなる群より選択される1種以上の化合物であることを特徴とする成形用樹脂組成物に関する。
【0012】
また本発明は、アクリル系共重合体(A)が、水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体1〜10重量%と他の単量体を共重合してなる共重合体(a)の水酸基100mol%に対して、2個のイソシアネート基を有する化合物(b)のイソシアネート基5〜95mol%を反応させてなることを特徴とする成形用樹脂組成物に関する。
【0013】
また本発明は、アクリル系共重合体(A)100重量部に対して、それぞれポリイソシアネート化合物(B)を10〜50重量部、化合物(C)を10〜100重量部含有することを特徴とする成形用樹脂組成物に関する。
【0014】
また本発明は、アクリル系共重合体(A)及びポリイソシアネート化合物(B)のイソシアネート基の合計100mol%に対して、オキシム化合物、ラクタム化合物、フェノール化合物、活性メチレン化合物、複素環化合物およびアミノ化合物からなる群より選択されるいずれかの化合物(D)の官能基を10〜100mol%反応させてなることを特徴とする成形用樹脂組成物に関する。
【0015】
また本発明は、水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体1〜10重量%と他の単量体を共重合して共重合体(a)を得る工程(1)、
得られた共重合体(a)の水酸基100mol%に対して、2個のイソシアネート基を有する化合物(b)のイソシアネート基を5〜95%反応することで重量平均分子量が5,000〜500,000の水酸基及びイソシアネート基を有するアクリル系共重合体(A)を得る工程(2)、
得られたアクリル系共重合体(A)100重量部に対して、ポリイソシアネート化合物(B)を10〜50重量部、イソシアネート基と反応可能な官能基を2個以上有する、ポリカーボネート、ポリエステルおよびポリブタジエンからなる群より選択される1種以上である化合物(C)を10〜100重量部配合し、攪拌することで成形用樹脂組成物を得る工程(3)を含むことを特徴とする成形用樹脂組成物の製造方法に関する。
【0016】
また本発明は、水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体1〜10重量%と他の単量体を共重合して共重合体(a)を得る工程(1)、
得られた共重合体(a)の水酸基100mol%に対して、2個のイソシアネート基を有する化合物(b)のイソシアネート基を5〜95%反応することで重量平均分子量が5,000〜500,000の水酸基及びイソシアネート基を有するアクリル系共重合体(A)を得る工程(2)、
得られたアクリル系共重合体(A)のイソシアネート基100mol%に対して、オキシム化合物、ラクタム化合物、フェノール化合物、活性メチレン化合物、複素環化合物およびアミノ化合物からなる群より選択されるいずれかの化合物(D)の官能基を10〜100mol%反応することでアクリル系共重合体(A−2)を得る工程(2−2)、
イソシアネート化合物(B)のイソシアネート基100mol%に対して、オキシム化合物、ラクタム化合物、フェノール化合物、活性メチレン化合物、複素環化合物およびアミノ化合物からなる群より選択されるいずれかの化合物(D)の官能基を10〜100mol%反応することでイソシアネート化合物(B−2)を得る工程(2−3)、
得られたアクリル系共重合体(A−2)100重量部に対して、イソシアネート化合物(B−2)を10〜50重量部、イソシアネート基と反応可能な官能基を2個以上有する、ポリカーボネート、ポリエステルおよびポリブタジエンからなる群より選択される1種以上である化合物(C)を10〜100重量部配合し、攪拌することで成形用樹脂組成物を得る工程(3)を含むことを特徴とする成形用樹脂組成物の製造方法に関する。
【0017】
また本発明は、前記工程(3)において、さらに着色剤を配合することを特徴とする成形用樹脂組成物の製造方法に関する。
【0018】
また本発明は、さらに着色剤を含むことを特徴とする前記記載の成形用樹脂組成物に関する。
【0019】
また本発明は、前記記載の成形用樹脂組成物、または前記記載の成形用樹脂組成物の製造方法より得られた成形用樹脂組成物を成形してなるシートに関する。
【0020】
また本発明は、請求項9記載のシートと、粘着剤層とを有することを特徴とする粘着シートに関する。
【0021】
また本発明は、前記記載の成形用樹脂組成物、または前記記載の成形用樹脂組成物の製造方法より得られた成形用樹脂組成物を成形してなるシートまたは粘着シートをさらに成型した成形物に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明により塩化ビニル樹脂系シートに匹敵する強靱性、柔軟性、耐ガソリン性、耐薬品性、成型加工性を有し、塩化ビニル樹脂系シートを凌駕する耐候性、経時安定性を有する塩素非含有樹脂のシートを提供できるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明において分子中に水酸基とイソシアネート基を有する(メタ)アクリル系共重合体(A)[以下、重合体(A)とも称す。]は、成形用樹脂組成物をシートとして成形した場合、シートに強靱性、耐候性、耐ガソリン性、耐薬品性を付与するハードセグメントとしての役割を持つ。
【0024】
そして、重合体(A)は、水酸基とイソシアネート基を有することが重要である。また、重合体(A)は、水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体1〜10重量%と他の単量体を共重合してなる共重合体(a)の水酸基100mol%に対して、2個のイソシアネート基を有する化合物(b)(以下、化合物(b)とも称す)のイソシアネート基5〜95mol%の割合でを反応させてなることが好ましい。
【0025】
本発明において共重合体(a)は、まず、水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体と、他の(メタ)アクリル系単量体とを、ラジカル重合することにより得ることができる。
【0026】
水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、1−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0027】
また他の単量体は、水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体以外の単量体であり、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。また芳香族ビニル単量体としては、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン等が挙げられ、これらの単量体も使用する事が出来るが、優れた耐候性を確保するためには芳香族化合物の使用は避けるか、必要最小量に止めることが望ましい。
【0028】
また他の単量体としては、水酸基以外の官能基を有する(メタ)アクリル系単量体も用いることが出来る。
【0029】
例えばアミノ基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、エチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のモノアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノ(メタ)アクリレート、N,N−ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のN,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0030】
カルボキシル基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。
【0031】
エポキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0032】
N−メチロール基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0033】
N−アルコキシメチル基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のN−モノアルコキシメチル基を有する(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ(メトキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ(エトキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ(プロポキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ(ブトキシメチル)(メタ)アクリルアミド等のN,N−ジアルコキシメチル基を有する(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0034】
本発明において全単量体100重量%中に占める水酸基含有(メタ)アクリル系単量体の含有量は1〜10重量%であることが重要である。水酸基含有(メタ)アクリル系単量体の含有率が1重量%未満では重合体(A)の官能基濃度が不十分であり、シートにした場合の架橋密度が低くなり、必要とする塗膜強度を確保しにくい。一方水酸基含有(メタ)アクリル系単量体の含有率が10重量%より高い場合、ポリイソシアネート化合物(B)との架橋反応の際にゲル化が生じやすくなり、また架橋密度が高くなりすぎ、シートとして必要な塗膜の柔軟性、成型加工性が得難くなる。
【0035】
共重合体(a)は、公知の方法、例えば溶液重合で得ることができる。溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテルなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメンなどの芳香族類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類などの使用が可能である。溶剤は2種以上を混合して使用してもよい。
【0036】
共重合体(a)合成時の重合開始剤としては、過酸化物またはアゾ化合物が好ましい。具体的には、例えば、過酸化ベンゾイル、アゾイソブチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリル、ジt−ブチルペルオキシド、t−ブチルペルベンゾエート、t−ブチルペルオクトエート、クメンヒドロキシペルオキシド等を使用することができ、重合温度は、50〜200℃、特に70〜140℃が好ましい。
【0037】
共重合体(A)は、共重合体(a)の水酸基へ2個のイソシアネート基を有する化合物(b)を反応させて得ることが出来る。本発明において共重合体(A)は、分子中に水酸基のみならずイソシアネート基を有するため、成形用樹脂組成物の必須成分であるポリイソシアネート化合物(B)及び、イソシアネート基と反応可能な官能基を2個以上有する、ポリカーボネート、ポリエステルおよびポリブタジエンからなる群より選択される1種以上である化合物(C)(以下、化合物(C)とも称す。)、いずれとも反応可能である。その為共重合体(A)、化合物(B)、化合物(C)からなる塗膜は極めて稠密で均一な架橋が形成され、シートにした場合、優れた強靱性、柔軟性、耐ガソリン性、耐薬品性、成型加工性、耐候性、経時安定性等を併せ持つ特性を得ることが出来る。
【0038】
水酸基含有アクリル系共重合体(a)への、2個のイソシアネート基を有する化合物(b)の反応は、40〜80℃の低温で行うことが望ましく、ウレタン化触媒量もごく微量に制限することが望ましい。反応時には、2個のイソシアネート基を有する化合物を介したアクリル樹脂同士の架橋反応が一定量生じる事は避けられず、アクリル系共重合体の分子量が高すぎる場合、Tgが高すぎる場合、水酸基量が多すぎる場合、または反応条件が高温、高触媒量である場合または反応させる2個のイソシアネート基を有する化合物の反応性が高すぎる場合は容易に樹脂のゲル化が発生する。また化合物(b)のイソシアネート基が3個以上である場合も、容易にゲル化が生じるため、化合物(b)のイソシアネート基は2個であることが重要である。
【0039】
反応中のゲル化を抑制するためには、反応に使用される化合物(b)はイソホロンジイソシアネートの様に、分子内に反応性の異なる1級のイソシアネート基と2級のイソシアネート基を併せもつ化合物であることが望ましい。この様な2個のイソシアネート基を有する化合物を用いた場合、反応条件を適切にコントロールすることで、反応性の高い1級のイソシアネート基のみを選択的にアクリル共重合体(a)の水酸基と反応させる事ができ、相対的に反応性の低い2級のイソシアネート基を未反応の状態で残すことが出来る。
【0040】
反応に使用される、2個のイソシアネート基を有する化合物(b)としては、1種ないしは2種以上の化合物を用いる事が出来るが、脂環族化合物としては、例えば、イソホロンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート、水添4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0041】
また脂肪族化合物としては、例えば、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,6−ジイソシアネートメチルカプロエート、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0042】
一方、芳香族化合物としては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、o−キシレンジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネート、p−キシレンジイソシアネートなどが挙げられるが、芳香族化合物は一般に耐候性や黄変性に劣り反応性が高すぎるため、使用するとしても最小限に止める必要がある。
【0043】
これらの化合物(b)においては、反応性、耐候性、黄変性の観点から脂環族もしくは脂肪族化合物の使用が望ましいが、特に分子内に1級と2級のイソシアネート基を併せ持つイソホロンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,6−ジイソシアネートメチルカプロエートなどが好適である。
【0044】
また共重合体(A)が、水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体1〜10重量%と他の単量体を共重合してなる共重合体(a)の水酸基と、2個のイソシアネート基を有する化合物(b)のイソシアネート基は、当量比で1/19〜19/1であることが重要である。
【0045】
共重合体(a)の水酸基に対し、化合物(b)のイソシアネート基の官能基量が当量比で1/19未満である場合、共重合体(A)は十分な反応性が得られず、シートの架橋密度は低くなり、望ましい強靱性、耐ガソリン性、耐薬品性が得られない。
【0046】
一方、共重合体(a)の水酸基に対し、化合物(b)のイソシアネート基の官能基量が当量比で19倍を超えると、共重合体(A)中の水酸基が少なくなることから、共重合体(A)とポリイソシアネート化合物(B)との反応が生じにくくなり、十分に稠密な塗膜形成が困難になる一方、製造面からは水酸基が95mol%を越えて消費されるまで反応が進行するとゲル化も発生しやすくなる。
【0047】
共重合体(A)の重量平均分子量は、5,000〜500,000であることが重要である。また好ましくは10,000〜100,000である。共重合体(A)の重量平均分子量が500,000を越える場合には得られるシートの伸張性が低下し、共重合体(a)とイソシアネート化合物(b)との反応時にゲル化が生じやすくなる。一方5,000未満の場合には得られるシートの強靱性、耐薬品性が低くなる。なお、本発明において、重量平均分子量とは、ゲルパーミネーションクロマトグラフィーにより、所定の分子量を有するポリスチレン樹脂を用いて検量線を作成し分子量の測定を行った、ポリスチレン換算の重量平均分子量を示す。
【0048】
また、共重合体(A)のガラス転移温度は、好ましくは0〜120℃、更に好ましくは30〜90℃である。共重合体(A)のガラス転移温度が120℃を越える場合には得られるシートの伸張性が低下する恐れがある。一方、30℃未満の場合には得られるシートの耐薬品性、表面硬度が低下する恐れがある。
【0049】
本発明においてポリイソシアネート化合物(B)(以下、化合物(B)とも称す。)は、シートとして塗膜の強靱さ耐ガソリン性、耐薬品性等の性能を付与するために用いられ、成形用樹脂組成物中の架橋成分としての役割を持つ。
【0050】
成形用樹脂組成物をシートに成形した場合に必要な強靱さ、および耐溶剤性等の特性を得るためには化合物(B)は、イソシアネート基を3個以上持つ化合物であることが望ましい。化合物(B)には単独または複数種のポリイソシアネート化合物を選択することも出来る。また2個のイソシアネート基を有する化合物(b)とグリコール類またはジアミン類との両末端イソシアネートアダクト体、ビウレット変性体、イソシアヌレート変性体を用いることが出来る。
【0051】
化合物(B)としては、耐候性、黄変性の観点から脂環族もしくは脂肪族のポリイソシアネート化合物の使用が望まく、更にはイソシアヌレート変性体、特にイソシアヌレート環含有トリイソシアネートを含む場合には、より強靱、かつ伸張性を有するシートを得ることができる。
【0052】
具体的にイソシアヌレート環含有トリイソシアネートとしては、イソシアヌレート変性イソホロンジイソシアネート(例えば、住友バイエルウレタン株式会社製のデスモジュールZ4470)、イソシアヌレート変性ヘキサメチレンジイソシアネート(例えば、住友バイエルウレタン株式会社製のスミジュールN3300)等が挙げられる。
【0053】
また化合物(B)及び重合体(A)のイソシアネート基は常温であっても、反応が進行し溶液粘度が経時で増粘する場合がある。そのため、経時安定性向上の目的で、オキシム化合物、ラクタム化合物、フェノール化合物、活性メチレン化合物、複素環化合物およびアミノ化合物等の化合物(D)を用いて化合物(B)及び重合体(A)のイソシアネート基をブロックすることが出来る。
【0054】
ブロック剤としては比較的低温でイソシアネート基からブロック剤の解離が生じるものが望ましく、その様なものとしては例えば、ホルムアミドオキシム、アセトアミドオキシム、アセトオキシム、メチルエチルケトオキシム、ジアセチルモノオキシム、ベンゾフェノンオキシム、およびシクロヘキサノンオキシム等のオキシム化合物、例えば、カプロラクタム、バレロラクタム、ブチロラクタム、およびプロピオラクタム等のラクタム化合物、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、およびエチルフェノール等のフェノール化合物、例えば、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジプロピル、マロン酸ジイソプロピル、マロン酸ジブチル、マロン酸メチルエチルエステル、マロン酸メチルプロピルエステル、マロン酸メチルブチルエステル、マロン酸エチルプロピルエステル、マロン酸エチルブチルエステルなどのマロン酸エステル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸プロピル、アセト酢酸イソプロピル、アセト酢酸ブチルなどのアセト酢酸エステルおよびアセチルアセトン等の活性メチレン化合物、例えば、ピラゾール、3,5−ジメチルピラゾール、3−メチルピラゾール、4−ベンジル−3,5−ジメチルピラゾール、4−ブロモ−3,5−ジメチルピラゾール、3−メチル−5−フェニルピラゾール等のピラゾールまたはピラゾール誘導体、イミダゾール、ベンズイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール等のイミダゾールまたはイミダゾール誘導体、1,2,4−トリアゾール等の複素環式化合物、ならびに例えば、ジイソプロピルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジ−t−ブチルアミン、ピペリジン、および2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等のアミノ化合物が望ましい。
【0055】
また、化合物(B)のイソシアネート基を、あらかじめブロック化した、市販のブロック変性体を用いても構わない。その様な化合物としては、例えば、イソシアヌレート変性イソホロンジイソシアネートのイソシアネート基を、3,5−ジメチルピラゾールでブロックした、Baxenden Chemicals Limited社製7951や、イソシアヌレート変性イソホロンジイソシアネートのイソシアネート基をジイソプロピルアミンでブロックしたエボニック・デグサ・ジャパン(株)製VESTANAT EP−B 1299等がある。これらの化合物においてイソシアネート基は完全にブロック剤によりブロックされている。
【0056】
更に、化合物(B)として、イソシアネート基と反応可能な官能基を2個以上有する、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、またはポリブタジエンから選ばれる少なくとも1種と両末端にイソシアネート基を有するイソシアネート化合物とを反応させてなる、両末端イソシアネートプレポリマーを用いても構わない。化合物(B)が上記両末端イソシアネートプレポリマーを含む場合には、少量で伸張性が得られ、塗膜の強靱性も損なわれない。
【0057】
本発明において数平均分子量が250〜10,000である化合物(C)は、イソシアネート基と反応可能な官能基を2個以上有する、ポリカーボネート、ポリエステル、およびポリブタジエンから選ばれる少なくとも1種の化合物(C)(以下化合物(C)とも称す。)であり、シートに柔軟性、伸張性を付与する、成形用樹脂組成物中のソフトセグメントとしての機能を発揮する。そして、化合物(C)は、化合物(A)及び化合物(B)と架橋反応することで、単に可塑剤を用いた場合の様に経時で溶出、析出すること無しにシートに必要な柔軟性、伸張性を付与することが出来る。
【0058】
化合物(C)におけるイソシアネート基と反応可能な官能基としては、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、N−メチロール基、およびN−アルコキシメチル基等が挙げられるが、反応性および得られるシートの成形加工性の点で水酸基が好適である。
【0059】
化合物(C)としては、例えば、直鎖の末端または分岐した末端に、イソシアネート基と反応可能な官能基とをそれぞれ1個以上ずつ有するポリカーボネ−ト、ポリエステル、またはポリブタジエンを用いることができる。
【0060】
ポリカーボネートの例としては、ポリカーボネートジオール、及び末端の水酸基をアミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、N−メチロール基またはN−アルコキシメチル基に変性したポリカーボネート化合物が挙げられるが、下記一般式(1)で表されるポリカーボネートポリオールが特に好適である。
【0061】
H−(O−R−OCO−)nR−OH 一般式(1)
(Rは2価のアルキレン基であり、nは1〜20の整数である。)
市販のポリカーボネートポリオールとしては、例えば、株式会社クラレ製のクラレポリオールPMHC−590、PMHC−1050、PMHC−1050R、PMHC−1090、PMHC−2050、PMHC−2050R、PMHC−2070、PMHC−2070R、PMHC−2090、PMHC−2090R、PMHC−5090があり、他には旭化成ケミカルズ株式会社製のT4691、T5692、T4671、T4672、T5650E、T5650J、T5651、T5652等が挙げられる。
【0062】
ポリエステルの例としては、ジカルボン酸の少なくとも1種と、多価アルコール、多価フェノール、またはこれらのアルコキシ変性物等のポリオールの少なくとも1種とをエステル化して得られる末端水酸基含有エステル化合物、及び末端の水酸基をアミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、N−メチロール基、またはN−アルコキシメチル基に変性したエステル化合物などが挙げられる。
【0063】
市販品の水酸基を2個以上有するポリエステル(ポリエステルポリオール)としては、例えば、株式会社クラレ製のクラレポリオールP−510、P−1010、P−1510、P−2010、P−3010、P−4010、P−5010、P−6010、P−2011、P−2013、P−520、P−1020、P−2020、P−1012、P−2012、P−530、P−1030、P−2030、PMHC−2050、PMHC−2050R、PMHC−2070、PMHC−2090、PMSA−1000、PMSA−2000、PMSA−3000、PMSA−4000、F−2010、F−3010、N−2010、PNOA−1010、PNOA−2014、O−2010、住友バイエルウレタン株式会社製のデスモフェン650MPA、651MPA/X、670、670BA、680X、680MPA、800、800MPA、850、1100、1140、1145、1150、1155、1200、1300X、1652、1700、1800、RD181、RD181X、C200、東洋紡績株式会社製のバイロン200、560、600、GK130、GK860、GK870、290、GK590、GK780、GK790等が挙げられる。
【0064】
また、ポリブタジエンの例としては、α,ω−ポリブタジエングリコール、α、β−ポリブタジエングリコール、及び末端の水酸基をアミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、N−メチロール基またはN−アルコキシメチル基に変性したブタジエン化合物が挙げられる。
【0065】
市販の水酸基を2個以上有するポリブタジエンとしては、例えば、日本曹達株式会社製のNISSO−PBG−1000、G−2000、G−3000、GI−1000、GI−2000、GI−3000、GQ−1000、GQ−2000、BF−1000、EPB−13、EPB−1054、また出光興産(株)製Poly bd R−45HT、R−15HT等が挙げられる。
【0066】
またポリブタジエンとしてはポリブタジエンを水素添加し耐候性を向上させたものも用いる事ができ、例えば、出光興産(株)エポール等がある。
【0067】
化合物(C)の分子量は、好ましくは250〜10,000、更に好ましくは500〜5,000である。化合物(C)の分子量が10,000を越える場合には、溶剤への溶解性、重合体(A)との相溶性が低下し、得られるシートの強靱性が低下する。また、250未満の場合には、シートに充分な伸張性、柔軟性を付与することができない。
【0068】
また重合体(A)と化合物(B)、化合物(C)との混合比(重量比)は、(A)対(B)対(C)は100対10〜50対10〜100の範囲が望ましい。(B)比率を当範囲より減らした場合、又は(C)比率を当範囲より高めた場合、得られるシートの強靱性、耐ガソリン性、耐薬品性は低下し、(B)比率を当範囲より高めた場合、又は(C)比率を当範囲より低下させた場合は、得られるシートの柔軟性、伸張性は低下する。
【0069】
また(B)及び(C)比率を共に増量または減量した場合でも、硬化性と塗膜性能のバランスは得られず、重合体(A)、化合物(B)、化合物(C)を上記比率で混合した場合にのみ、シートとして望ましい強靱性、伸長性、耐薬品性等を確保する事ができる。
【0070】
本発明の成形用樹脂組成物には、重合体(A)及び化合物(B)、化合物(C)との架橋反応を促進させるために、種々の架橋触媒を含有させることができる。代表的な架橋触媒としては、有機金属化合物、酸及びそれらのアンモニウム塩、低級アミン塩、多価金属塩、アミン類、有機過酸化物などが挙げられる。
【0071】
有機金属化合物として具体的には、酢酸ナトリウム、オクチル酸錫、オクチル酸鉛、オクチル酸コバルト、オクチル酸亜鉛、オクチル酸カルシウム、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、ジブチル錫ジオクテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫マレート、ジブチル錫ジ(2−エチルヘキソエート)、ジエチル亜鉛、テトラ(n−ブトキシ)チタンなどが挙げられる。
【0072】
酸として具体的には、トリクロロ酢酸、リン酸、モノアルキルリン酸、ジアルキルリン酸、β−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのリン酸エステル、モノアルキル亜リン酸、ジアルキル亜リン酸、p−トルエンスルホン酸、無水フタル酸、安息香酸、ベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、イタコン酸、シュウ酸、マレイン酸などが挙げられる。
【0073】
アミン類として具体的には、ジシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N,N',N'−テトラメチル−1,3−ブタンジアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、シクロヘキシルエチルアミンなどが挙げられる。
【0074】
有機過酸化物としては、ヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ジアセチルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシラウレートなどが挙げられる。
【0075】
これらの架橋触媒は2種類以上使用してもよく、その総使用量は重合体(A)、化合物(B)及び化合物(C)の合計100重量部に対して0.001〜5重量%部が好ましく、0.1〜3重量部がより好ましい。
【0076】
本発明の成形用樹脂組成物は顔料や染料等の各種の着色剤を含有することも好ましい。顔料としては、従来公知のものを用いることができるが、なかでも、耐光性、耐候性の高いものが好ましい。具体的には、例えば、キナクリドン系、アンスラキノン系、ペリレン系、ペリノン系、ジケトピロロピロール系、イソインドリノン系、縮合アゾ系、ベンズイミダゾロン系、モノアゾ系、不溶性アゾ系、ナフトール系、フラバンスロン系、アンスラピリミジン系、キノフタロン系、ピランスロン系、ピラゾロン系、チオインジゴ系、アンスアンスロン系、ジオキサジン系、フタロシアニン系、インダンスロン系等の有機顔料や、ニッケルジオキシンイエロー、銅アゾメチンイエロー等の金属錯体、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛等の金属酸化物、硫酸バリウム、炭酸カルシウムなどの金属塩、カーボンブラック、アルミニウム、雲母などの無機顔料、アルミニウムなどの金属微粉やマイカ微粉等が挙げられる。
【0077】
染料としては、例えば、アゾ系、キノリン系、スチルベン系、チアゾール系、インジゴイド系、アントラキノン系、オキサジン系等が挙げられる。
着色剤は、粉体をそのまま用いても構わないし、あらかじめ着色ペースト、着色ペレット等に加工してから用いても構わない。
【0078】
また、本発明の成形用樹脂組成物には、シートの強度を上げるために、本発明の効果を妨げない範囲で、各種の熱可塑性樹脂を含有させてもよい。
【0079】
かかる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルペンテン、アイオノマー、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリアミド樹脂、ポリアセタール、ポリエステル等が挙げられる。
【0080】
また、本発明の成形用樹脂組成物には、必要に応じて、本発明による効果を妨げない範囲で、紫外線吸収剤、光安定剤、ラジカル補足剤、充填剤、チクソトロピー付与剤、老化防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、熱伝導性改良剤、可塑剤、ダレ防止剤、防汚剤、防腐剤、殺菌剤、消泡剤、レベリング剤、ブロッキング防止剤、硬化剤、増粘剤、顔料分散剤、シランカップリング剤等の各種の添加剤を添加してもよい。
【0081】
本発明の成形用樹脂組成物は、前述の様に公知の溶液重合により重合体(a)を得る工程(1)、更に前述の様に適当な条件の下で重合体(a)の水酸基に2個のイソシアネート基を有する化合物を付加反応することで重合体(A)を得る工程(2)、得られた共重合体(A)100重量部に対して、化合物(B)を10〜50重量部、化合物(C)を10〜100重量部配合し、攪拌する工程(3)を経て得ることが出来る。
【0082】
また成形用樹脂組成物は、前述の様に公知の溶液重合により重合体(a)を得る工程(1)、更に前述の様に適当な条件の下で重合体(a)の水酸基に2個のイソシアネート基を有する化合物を付加反応することで重合体(A)を得る工程(2)、得られた重合体(A)のイソシアネート基をオキシム化合物、ラクタム化合物、フェノール化合物、活性メチレン化合物、複素環化合物およびアミノ化合物からなる群より選択されるいずれかの化合物(D)でブロックした重合体(A−2)を得る工程(2−2)、別途イソシアネート化合物(B)のイソシアネート基をオキシム化合物、ラクタム化合物、フェノール化合物、活性メチレン化合物、複素環化合物およびアミノ化合物からなる群より選択されるいずれかの化合物(D)でブロックした化合物(B−2)を得る工程(2−3)、重合体(A−2)100重量部に対して、化合物(B−2)を10〜50重量部、化合物(C)を10〜100重量部配合し、攪拌する工程(3)を経て得ることが出来る。
【0083】
更に本発明の成形用樹脂組成物は、重合体(A)、化合物(B)、化合物(C)に加え、着色剤、架橋触媒、添加剤、及び溶剤を混合して得ることが好ましい。
【0084】
溶剤は、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の芳香族類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類などの内から樹脂組成物の組成に応じ適当なものを使用する。溶剤は2種以上用いてもよい。
【0085】
混合方法に特に限定はないが、通常は、重合体(A)の合成で得られる重合体溶液に、化合物(C)、化合物(B)及び他の成分を混合し、攪拌羽根、振とう攪拌機、または回転攪拌機などで攪拌すればよい。あるいは、サンドミル、3本ロール、2本ロールなどを用いて混合してもよい。塗工性などの向上のために、さらに溶剤を追加したり、濃縮してもよい。
【0086】
また、工程(3)において着色剤、特に顔料を添加する場合は、まず、着色剤、分散樹脂、必要に応じて分散剤、及び溶剤を混合した顔料ペーストを作成した後、他の成分と混合するのが好ましい。分散樹脂としては、化合物(C)を用いるのが好ましいが、特に限定はなく、顔料分散性に優れた極性基、例えば水酸基、カルボキシル基、チオール基、アミノ基、アミド基、ケトン基等を有する、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリエステル樹脂等を用いることができる。分散剤としては、例えば、顔料誘導体、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、チタンカップリング剤、シランカップリング剤等が挙げられる。また、金属キレート、樹脂コートなどにより、顔料表面の改質を行うこともできる。
【0087】
本発明のシートは、上記の成形用樹脂組成物をシート状に成形してなるものである。シートの成形方法は、例えば成形用樹脂組成物を剥離シート上に塗布し、硬化して成膜させることで得ることができる。剥離シートとしては、例えば、片面又は両面に剥離処理の施された紙、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、セルロースアセテート等のプラスチックフィルムや、アルミ、ステンレスなどの金属箔等を用いることができ、シート厚みが10〜250μmのものが好適に使用される。
【0088】
本発明において塗工は、従来公知の方法、例えば、グラビアコート方式、キスコート方式、ダイコート方式、リップコート方式、コンマコート方式、ブレードコート方式、ロールコート方式、ナイフコート方式、カーテンコート方式、スロットオリフィス方式、スプレーコート方式、バーコート方式等により行うことができる。成形用樹脂組成物の塗布は、数回に分けてもよいし、1回で行ってもよい。また、異なる塗布方式を複数組み合わせてもよい。
【0089】
本発明においてシートの厚さは、通常、10〜250μm程度であるが、この範囲内に限定されるものではなく、用途、要求性能に適した膜厚となるように塗布すればよい。
【0090】
シート成形時の成形用樹脂組成物の乾燥および硬化は、成形用樹脂組成物の組成比率、剥離シートの種類、膜厚、及び用途に応じた温度、時間で行えばよく、通常、室温〜350℃で行われるが、硬化の効率化および生産性の向上の点から、30〜250℃に加熱して行うことが好ましい。
【0091】
本発明のシートの片面または両面には、必要に応じて、粘着剤層を設けることができる。その際、シートの片面側に残る剥離シートは、そのままにしても、剥がしてもよいが、両面に粘着剤層を設ける場合には、剥離シートを剥がす必要がある。
【0092】
本発明の粘着シートは、上記のシートと、粘着剤層を有するものである。粘着剤層に用いられる粘着剤としては、例えば、一般的な天然ゴム、合成イソプレンゴム、再生ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン−イソプレン−スチレンゴム等を主成分とするゴム系粘着剤や、(メタ)アクリル酸エステル(C2〜C12)を主体にアクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、酢酸ビニル、スチレン等の単量体を共重合した重合体を主成分とするアクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤等を用いることができ、用途、被着体の材質に応じた適当な接着力を有する物を選択することができる。
【0093】
粘着剤層は、粘着剤の種類、塗工適性に応じ、従来公知の方法、例えば、キスコート方式、ダイコート方式、リップコート方式、コンマコート方式、ブレードコート方式、バーコート方式等の種々の方式を利用して、樹脂組成物の硬化物からなるシート上に直接塗工して積層させてもよいし、一旦工程紙上に塗工した粘着剤を、樹脂組成物の硬化物からなるシート上にラミネートして積層させてもよい。粘着剤層の厚さは5〜100μmが好ましい。
【0094】
本発明のシートは、外装板、内装材、建材、各種案内板、交通標識、屋内・屋外広告、看板、シャッター、ウインドウなどの、各種装飾、着色、表示材料として、さらには、耐候性や、防汚性、各種耐性等の様々な表面機能を付与するシートとして、また、各種の物品の品質低下を防いだり、各機能を保護するための包装材料として使用される。
【0095】
本発明の成型物は、上記シートを成型することで得ることが好ましい。そして、そのシートは、(1)本発明のシートのみからなるシート、(2)本発明のシートと粘着剤層と樹脂シートを順次積層したシート、または(3)樹脂シートに本発明の成形用樹脂組成物を直接塗布してシートを成形したシート等を用いることができる。
【0096】
本発明において樹脂シートは、樹脂から構成されるシートである。そして樹脂シートは、一般的にフィルムやシートと呼称される比較的薄手のものから、板と呼称される厚いものまで含まれる。具体的な厚みとしては、10μm〜10mmであり、シートの場合20〜100μm程度が好ましく、板の場合は3mm〜6mm程度が好ましい。アクリル系板の場合、全く無色透明なクリアなものと、乳白色のものがあり、どちらも好適である。
【0097】
また樹脂シートは、上述の通りその後成型をするので、樹脂としての軟化点温度は40〜200℃であることが好ましく、より好ましくは80〜150℃である。
【0098】
本発明で成型される時の成型の延びは101%〜500%が望ましい。100%(つまり未延伸)では意味がないし、500%以上では成型加工用着色フィルムが破断してしまい、成型の延びに耐えられない。
【0099】
樹脂シートを構成する樹脂としては、アクリル系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩酢ビニル、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン樹脂といったポリオレフィン系樹脂やその共重合体;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリスチレン樹脂等も利用可能である。
【0100】
リサイクルの観点からアクリル系の樹脂からなるシートが最も望ましい。具体的にはポリメチルメタアクリレートやその他のアクリル系樹脂の共重合体である。共重合体としては、エチレン−メチルメタアクリレート共重合体やエチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体が挙げられる。
【0101】
本発明に用いられる成型方法は、特に限定されるものではないが一般に公知の成型方法、例えば、インサートインジェクション成型法、インモールド(金型内)成型法、押し出し成型、真空・圧空成型法、ブロー(吹き込み成型)、プレス成型法等で特に有用である。
【0102】
このようにして得られる成型体としては、自動車、二輪車、モーターボート、スノーモービル、家電、電子機器等に使用される部品(例えば、バンパー)等として使用できる。
【実施例】
【0103】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明する。なお、実施例中の部および%は、すべて重量部および重量%を示している。また、得られた重合体等の重量平均分子量は、ゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC)装置を用いてポリスチレン換算の値として測定した。なおGPC装置としては(株)島津製作所製、島津高速液体クロマトグラフProminence GPCシステムを用い、カラムとしてはGPC KF−804L+GPC KF−801をカラム温度40℃にて使用し、溶媒(移動相)としてはテトロヒドロフランを流量0.80mL/分にて、検出器として示差屈折率検出器を用い測定を行った。
【0104】
(合成例a−1〜a−17)
冷却管、撹拌装置、温度計、窒素導入管を備えた4つ口フラスコに、水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体、その他の単量体および溶媒を表1に示す配合比(重量比)に基づいて仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら90℃まで昇温し、重合開始剤(アゾビスイソブチロニトリル:AIBN)を表1に示す配合比の70%加えて2時間重合反応を行い、次に、アゾビスイソブチロニトリルを表1に示す配合比(重量比)の15%加えてさらに2時間重合反応を行い、更にアゾビスイソブチロニトリルを表1に示す配合比(重量比)の15%量を加えてさらに2時間重合反応を行いアクリル系共重合体(a)の溶液を得た。得られた共重合体(a)の重量平均分子量(Mw)、ガラス転移温度(Tg)を表1に示す。
【0105】
【表1】

【0106】
4−HBA:4−ヒドロキシブチルアクリレート
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
MMA:メチルメタクリレート
BMA:n−ブチルメタクリレート
LMA:ラウリルメタアクリレート
Xyl:キシレン
BuAc:酢酸ブチル
【0107】
(合成例A1〜A35)
アクリル系共重合体(a)を合成した後、共重合体(a)を重合したフラスコに、表2に示す2個のイソシアネート基を有する化合物(b)を、表2に示す配合比(固形分重量比)となるよう添加し、窒素雰囲気下で撹拌しながら60℃まで昇温し、ウレタン化触媒(ジブチルスズジラウリレート:DBTDL)を表2に示す配合比に基づいて加え、6時間加熱撹拌を行い、重合体(A)溶液を得た。
【0108】
得られた重合体(A)の重量平均分子量(Mw)を表2に示す。なお反応中にゲル化が生じたものは、分子量記載欄に「ゲル化」と記載した。
【0109】
また一部の重合体(A)については、更に続けて表2に示す化合物(D)を所定量添加し、60℃にて4時間反応させ重合体(A)中のイソシアネート基を化合物(D)でブロックした重合体を得た。
【0110】
なお表2に示す水酸基残存率とは、反応前後の赤外分光分析測定により重合体(A)のイソシアネート基の反応率を求め、その値から計算した未反応の水酸基残存率を表記した。
【0111】
【表2】

【0112】
IPDI:イソホロンジイソシアネート
TMDI:トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート
LDI:2,6−ジイソシアネートメチルカプロエート
HDI:1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート
HTI:1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート
MDI:ジフェニルメタンジイソシアネート
DIPA:ジイソプロピルアミン
DMP:3,5−ジメチルピラゾール
ACAC:アセチルアセトン
【0113】
(実施例1〜48、比較例1〜6)
表3に示す重合体(A)、化合物(B)、化合物(C)、及び触媒、更には必要に応じて添加剤を、固形分換算で表3に示す割合となるように混合し、トルエン/酢酸ブチル=50/50(重量比)の混合溶媒で不揮発分が60%となるよう希釈して樹脂組成物溶液を作成した。
【0114】
なお表3に示す当量比とは、〔重合体(A)合成に用いた(b)及び(B)の化合物の各イソシアネート基のモル数の合計〕/〔重合体(A)合成に用いたアクリル系共重合体(a)の水酸基と化合物(C)のイソシアネート基反応性官能基のモル数の合計〕を示した。
【0115】
【表3】

【0116】
PMHC−2050:ポリカーボネートポリオール
(株式会社クラレ製「クラレポリオール PMHC−2050」、Mn=2000)
T−5652:ポリカーボネートポリオール
(旭化成ケミカルズ株式会社製「デュラノールT−5652」、Mn=2000)
T−5651:ポリカーボネートポリオール
(旭化成ケミカルズ株式会社製「デュラノールT−5651」、Mn=1000)
T−5650J:ポリカーボネートポリオール
(旭化成ケミカルズ株式会社製「デュラノールT−5650J」、Mn=800)
T−5650E:ポリカーボネートポリオール
(旭化成ケミカルズ株式会社製「デュラノールT−5650E」、Mn=500)
P−3010:ポリエステルポリオール
(株式会社クラレ製「クラレポリオールP−3010」、Mn=3000)
F−3010:ポリエステルポリオール
(株式会社クラレ製「クラレポリオールF−3010」、Mn=3000)
G−2000:ポリブタジエンポリオール
(日本曹達株式会社製「NISSO-PB G−2000」、Mn=2000)
エポール:水素添加ポリブタジエンポリオール
(出光興産株式会社製「エポール」、Mn=2000)
BF−1000 :エポキシ変性ポリブタジエンポリオール
(日本曹達株式会社製「NISSO−PB BF−1000」、Mn=1000)
GK870 :ポリエステルポリオール
(東洋紡績株式会社製「バイロン GK870」、Mn=13000)
1,12−DD:1,12−ドデカンジオール(Mn=202)
Z4470:イソシアヌレート変性イソホロンジイソシアネート
(住友バイエルウレタン株式会社製「デスモジュール Z4470」)
N3300:イソシアヌレート変性ヘキサメチレンジイソシアネート
(住友バイエルウレタン株式会社製「スミジュール N3300」
7951:3,5−ジメチルピラゾールブロック化イソシアヌレート変性イソホロンジイソシアネート(Baxenden Chemicals Limited社製)
1299:ジイソプロピルアミンブロック化イソシアヌレート変性イソホロンジイソシアネート(エボニック・デグサ・ジャパン社製「VESTANAT EP-B 1299」)
赤:赤色顔料(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製
「シンカシア マゼンタ BRT343D」)
黒:カーボンブラック顔料(デグサ社製「プリンテックス85」)
白:酸化チタン顔料(石原産業株式会社製「タイペーク CR97」)
【0117】
得られた樹脂組成物を、膜厚100μmの剥離処理を施してあるポリエチレンテレフタレートフィルム上に、コンマコーターを用いて、乾燥後の膜厚が約50μmとなるように塗布し、120℃のガスオーブン中で2分間加熱して乾燥、硬化させ、樹脂組成物の硬化物からなるシートを作成した。
【0118】
得られたシートから剥離シートを取り除き、各種の試験を行った。試験方法、及び評価方法は以下の通りである。試験結果を表4に示す。尚、評価値3以上が実用レベルとなる。
【0119】
なお今回評価した試験内容は得られたシートをマーキングフィルムとして用いる場合に必要な各種特性を示している。
【0120】
すなわち塗工性試験は平滑性に優れ、塗膜欠陥の無い、外観特性に優れたシートが得られるかを評価するものである。
【0121】
伸長性試験はシートの伸長性の程度を評価するものであるが、シートをマーキングフィルムとして貼り付ける場合、下地基材は必ずしも平面とは限らず、凹凸のある被着体に添付する場合も多い。被着体の凹凸への追随性にとってシートの伸長性は非常に重要である。また外装用途において、各種下地基材は熱(日射)や気温差、風等により常に変形を繰り返している。この様な変形に対するマーキングフィルムの亀裂、ひび割れ等の発生リスクを評価するためにもシートの伸長性は非常に重要なものとなる。
【0122】
引裂強度はシートの破断に対する耐性を評価するものである。シートをマーキングフィルムとして文字や各種デザインにカッティングした後に張りつける場合、シートの引裂強度が低いとカットエッジ部等から容易にフィルムの破断が生じ施工が困難になる。マーキングフィルム貼り付け時の施工性にとって引裂強度は非常に重要な性能である。
【0123】
成形加工試験はシートをマーキングフィルムとして文字や各種デザインにカッティングする際に正確に精度良くカッティングできるかを評価するものである。
【0124】
促進耐候性試験は主に外装用途に貼付した場合、日光(紫外線)により変色、退色、シート表面グロス変化等の経時変化の程度を評価するものである。変化が少ないものほど良好であり、一般にマーキングフィルムは5年(当試験における1000時間経過後に相当)以上の耐候性が求められている。
【0125】
耐薬品試験は様々な環境を考慮し、熱水、酸、アルカリ、溶剤等の各種環境下におけるシートの外観変化の発生リスクを評価するものである。
【0126】
耐ガソリン性試験は主に自動車やバイク用途にマーキングフィルムを貼付する際に重要である。マーキングフィルムにガソリンが付着した時、容易に剥がれるか、またはシワ等が発生するか、どれだけ耐性があるかはこの様な用途において重要な性能となる。
【0127】
<塗工性試験>
シートの表面平滑性、アイホールやピンホールの発生の有無を目視にて、5段階(5:優、4:良、3:可、2:不良、1:著しく不良)で評価した。
【0128】
<引張強度試験>
シートから、幅1cm×長さ5cmの試験片を切り抜き、引張試験機(不動工業株式会社製「REO METER NRM−2010J−CW」)に取り付け、レンジ10kg、速度30cm/分の条件で引っ張り、試験片の破断に至るまでの最大荷重と試験片の断面積から引張強度(破断応力×レンジ/サンプルの断面積)を測定し、5段階(5:300kg/cm2以上、4:200kg/cm2以上300kg/cm2未満、3:100kg/cm2以上200kg/cm2未満、2:50kg/cm2以上100kg/cm2未満、1:50kg/cm2未満)で評価した。
【0129】
<伸張性試験>
引張強度試験と同様の方法で試験を行い、試験片が破断に至るまでの伸張率を測定し、5段階(伸張前を0%として、5:200%以上、4:150%以上200%未満、3:100%以上150%未満、2:50%以上100%未満、1:50%未満)で評価した。
【0130】
<引裂強度試験>
シートから、JIS K6301 引裂B型で試験片を打ち抜き、引張試験機(不動工業株式会社製「REO METER NRM−2010J−CW」)に取り付け、レンジ10kg、速度30cm/分の条件で引っ張り、試験片の引裂時の最大荷重から引裂強度(破断応力×レンジ)を測定し、5段階(5:400g以上、4:300g以上400g未満、3:200g以上300g未満、2:100g以上200g未満、1:100g未満)で評価した。
【0131】
<成形加工性試験1>
JIS Z2247に準拠したエリクセン試験A方法で、シートに鋼球ポンチを10mm押し付けたときの、シートの外観上の変化を目視にて5段階(5:変化無し、4:僅かに変化有り、3:変化有り、2:劣化、1:著しく劣化)で評価した。
【0132】
<成形加工性試験2>
カッティング試験機(ローランド社製「CM24」)を用いて、シートを各種パターンの形状にカッティングし、カッティングの精度を目視にて5段階(5:優、4:良、3:可、2:不良、1:著しく不良)で評価した。
【0133】
<促進耐候性試験>
JIS B7750規定の紫外線カーボンアーク燈式耐候性試験機(スガ試験機株式会社製)で、JIS K5400 6.17に準拠した試験を行い、1000時間経過後の外観の変化を目視にて5段階(5:変化無し、4:僅かに変化有り、3:変化有り、2:劣化、1:著しく劣化)で評価した。
【0134】
<耐薬品性試験>
シートを下記の薬品に下記の条件で浸漬した後の外観上の変化を目視にて5段階(5:変化無し、4:僅かに変化有り、3:変化有り、2:劣化、1:著しく劣化)で評価した。
〔番号: 薬品及び評価条件〕
1:沸騰水 98℃沸騰水中に5分間浸漬
2:イソプロピルアルコール 標準状態下で1時間浸漬
3:キシレン 標準状態下で1時間浸漬
4:ガソリン 標準状態下で1時間浸漬
5:5%食塩水 標準状態下で240時間浸漬
6:5%硫酸水溶液 標準状態下で7時間浸漬
7:5%水酸化ナトリウム水溶液 標準状態下で7時間浸漬
【0135】
〔粘着剤層付シート状硬化物〕
粘着剤〔2液硬化型アクリル系粘着剤主剤/硬化剤=100/8.7(重量比)の混合物〕を膜厚100μmの剥離性シート(カイト化学株式会社製「TSM−110K」)上に、コンマコーターを用いて塗布し、80℃のガスオーブン中で2分間加熱して、乾燥・硬化させ、粘着剤層の膜厚が約25μmの粘着シートを作製した。
作製した粘着シートの粘着剤層と上記で得られたシート状硬化物とを貼り合せ、粘着剤層付シート状硬化物を得た。
【0136】
<耐ガソリン性試験>
得られた粘着剤層付シート状硬化物を5.0cm×5.0cmに切り抜き、剥離性シートを剥がし、イソプロピルアルコールで洗浄したアルミ板に貼り付け、標準状態(1気圧、23℃)で4時間ガソリンに浸漬した後の外観上の変化を目視にて5段階(5:変化無し、4:僅かに変化有り、3:変化有り、2:劣化、1:著しく劣化)で評価した。
【0137】
(比較例7〜9)
膜厚50μmの軟質ポリ塩化ビニルシート(比較例7)、膜厚60μmのポリエチレンテレフタレートシート(比較例8)、膜厚60μmのポリプロピレンシート(比較例9)について、実施例1と同様の試験を行った。試験結果を表4に示す。
【0138】
【表4】

【0139】
表4における試験結果から明らかなように、本発明のシートや粘着シートは、マーキングフィルムとして要求される種々の塗膜特性に対し、軟質ポリ塩化ビニルシートと同等以上の性能を有し、さらに耐候性では軟質ポリ塩化ビニルシートを凌駕する特性を示した。また本発明によるシートは塩素非含有樹脂であり、かつ可塑剤を含まない樹脂組成物からなり、各種装飾や表示、包装に用いた場合、極めて有用なシート及び粘着シート、前記シートの製造方法及び成型体を提供するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体1〜10重量%と他の単量体を共重合してなる、水酸基とイソシアネート基を有する重量平均分子量が5,000〜500,000であるアクリル系共重合体(A)と、ポリイソシアネート化合物(B)と、数平均分子量250〜10,000である化合物(C)とを含む成形用樹脂組成物であって、
前記アクリル系共重合体(A)中の水酸基/イソシアネート基が、当量比1/19〜19/1であり、
前記化合物(C)が、イソシアネート基と反応可能な官能基を2個以上有する、ポリカーボネート、ポリエステルおよびポリブタジエンからなる群より選択される1種以上の化合物であることを特徴とする成形用樹脂組成物。
【請求項2】
アクリル系共重合体(A)が、水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体1〜10重量%と他の単量体を共重合してなる共重合体(a)の水酸基100mol%に対して、2個のイソシアネート基を有する化合物(b)のイソシアネート基5〜95mol%を反応させてなることを特徴とする請求項1記載の成形用樹脂組成物。
【請求項3】
アクリル系共重合体(A)100重量部に対して、それぞれポリイソシアネート化合物(B)を10〜50重量部、化合物(C)を10〜100重量部含有することを特徴とする請求項1または2記載の成形用樹脂組成物。
【請求項4】
アクリル系共重合体(A)及びポリイソシアネート化合物(B)のイソシアネート基の合計100mol%に対して、オキシム化合物、ラクタム化合物、フェノール化合物、活性メチレン化合物、複素環化合物およびアミノ化合物からなる群より選択されるいずれかの化合物(D)の官能基を10〜100mol%反応させてなることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載の成形用樹脂組成物。
【請求項5】
水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体1〜10重量%と他の単量体を共重合して共重合体(a)を得る工程(1)、
得られた共重合体(a)の水酸基100mol%に対して、2個のイソシアネート基を有する化合物(b)のイソシアネート基を5〜95%反応することで重量平均分子量が5,000〜500,000の水酸基及びイソシアネート基を有するアクリル系共重合体(A)を得る工程(2)、
得られたアクリル系共重合体(A)100重量部に対して、ポリイソシアネート化合物(B)を10〜50重量部、イソシアネート基と反応可能な官能基を2個以上有する、ポリカーボネート、ポリエステルおよびポリブタジエンからなる群より選択される1種以上である化合物(C)を10〜100重量部配合し、攪拌することで成形用樹脂組成物を得る工程(3)を含むことを特徴とする成形用樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体1〜10重量%と他の単量体を共重合して共重合体(a)を得る工程(1)、
得られた共重合体(a)の水酸基100mol%に対して、2個のイソシアネート基を有する化合物(b)のイソシアネート基を5〜95%反応することで重量平均分子量が5,000〜500,000の水酸基及びイソシアネート基を有するアクリル系共重合体(A)を得る工程(2)、
得られたアクリル系共重合体(A)のイソシアネート基100mol%に対して、オキシム化合物、ラクタム化合物、フェノール化合物、活性メチレン化合物、複素環化合物およびアミノ化合物からなる群より選択されるいずれかの化合物(D)の官能基を10〜100mol%反応することでアクリル系共重合体(A−2)を得る工程(2−2)、
イソシアネート化合物(B)のイソシアネート基100mol%に対して、オキシム化合物、ラクタム化合物、フェノール化合物、活性メチレン化合物、複素環化合物およびアミノ化合物からなる群より選択されるいずれかの化合物(D)の官能基を10〜100mol%反応することでイソシアネート化合物(B−2)を得る工程(2−3)、
得られたアクリル系共重合体(A−2)100重量部に対して、イソシアネート化合物(B−2)を10〜50重量部、イソシアネート基と反応可能な官能基を2個以上有する、ポリカーボネート、ポリエステルおよびポリブタジエンからなる群より選択される1種以上である化合物(C)を10〜100重量部配合し、攪拌することで成形用樹脂組成物を得る工程(3)を含むことを特徴とする成形用樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
工程(3)において、さらに着色剤を配合することを特徴とする請求項5または6記載の成形用樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
さらに着色剤を含むことを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項記載の成形用樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1ないし4、8のいずれか1項記載の成形用樹脂組成物、または請求項5ないし7いずれか1項記載の成形用樹脂組成物の製造方法より得られた成形用樹脂組成物を成形してなるシート。
【請求項10】
請求項9記載のシートと、粘着剤層とを有することを特徴とする粘着シート。
【請求項11】
請求項1ないし4、8のいずれか1項記載の成形用樹脂組成物、または請求項5ないし7いずれか1項記載の成形用樹脂組成物の製造方法より得られた成形用樹脂組成物を成形してなるシートまたは粘着シートをさらに成型した成形物。

【公開番号】特開2012−172093(P2012−172093A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36686(P2011−36686)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】