説明

成形用発泡ポリスチレンシート及びそのシートよりなる容器

【課題】脆さが改良され薄肉化と低発泡倍率化が可能でかつ成形時の2次発泡性、外観等の良好な成形用発泡ポリスチレンシートを、高発泡ポリスチレン系樹脂シートの製造に用いられている一般的な押出機により提供すること。
【解決手段】ミネラルオイルをポリスチレン系樹脂に含有せしめてなる、成形品の製造に用いる成形用発泡ポリスチレンシートであって、上記ミネラルオイルの含有量が1.0〜5.0重量%であり、該シートの発泡倍率が1.5〜10倍、厚みが0.5〜2mmであること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄肉のトレー等の如き薄肉の成形品を得るための原反として好適な発泡ポリスチレンシート、及びこれから成形した容器に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂は、一般に透明性、剛性が高く、また、シート加工性、発泡特性、真空成形性等の加工特性に優れ、成形品を容易かつ大量に生産できる材料であることから、包装材料、雑貨、食品容器等、様々な用途に用いられている。またスチレン系樹脂の発泡体は、表面光沢性、軽量性、熱遮断性及び緩衝性などの特徴を持ち、発泡体の厚さにより使用分野が異なっている。スチレン系樹脂発泡体で、厚さ約3mm以下のシート状のものはポリスチレンペーパー(PSP)と称され、成形が容易であるのに加えて、緩衝性や熱遮断性などの特徴を生かして、丼、カップ、トレー等に広く利用されており、更なる成形加工性、強度、熱安定性、外観のバランスの向上が求められてきた。
【0003】
近年、成形性や廃棄物処理問題等から発泡ポリスチレンシートの肉厚を薄くし(薄肉化)かつ発泡倍率を下げることが要望されている。この理由は、従来使用されていた発泡ポリスチレンシートは、成形性の点では肉厚が厚くなると成形加工時にシャープな形状を出すことが困難であり、廃棄物処理の点からは発泡体であるために嵩高く使用済容器を処理する際の輸送や、保管上の問題ではスタック高さが高くなる等の欠点があるからである。
【0004】
低発泡ポリスチレン系樹脂シート(以下、LFPSシートとも略記する)は、熱成形性が良いためコップやドンブリのような深い容器、あるいは形状の複雑な容器の成形が容易なうえ、発泡体なので高い断熱性を持つと共に低発泡なので強度も大きい。また、強度が大きいから高発泡体より厚みの薄い容器でも充分使用可能となり、環境面や物流面でも利点が多い。
【0005】
ところで、発泡倍率が10倍以下、特に1.5〜9倍程度というLFPSシートの製造は、高発泡のものよりも技術的に難しく、高品質の製品を得ることは困難である。品質の良いLFPSシートを製造するためには、樹脂発泡時においては、発泡剤ガス圧によりセルが成長する過程でセル膜が破損することなく十分に延伸するように、発泡温度を十分に低く保持する必要があるからである。
【0006】
一方、樹脂に対する発泡剤混入時においては、十分に低い溶融樹脂粘度が得られ、発泡剤と樹脂との均質混合物が得られるように、十分に高い温度に保持することが必要となる。
【0007】
LFPSシートの製造では、発泡剤の樹脂に対する使用割合が小さく、発泡剤の混入による溶融樹脂粘度の低下効果が小さいことから、樹脂と発泡剤との均質混合を行うには、高発泡ポリスチレン系樹脂シートを製造する場合よりもかなり高い温度に保持することが必要になる。LFPSシートの製造に関して要求される前記条件はいずれも相反するもので、高発泡ポリスチレン系樹脂シートの製造に用いられているような押出機を用いるだけでは高品質のLFPSシートを得ることは出来ない。
【0008】
このようなLFPSシートを形成する技術としては、ポリスチレン系樹脂と発泡剤とを押出機内で溶融混練した後、得られた溶融混練物をギヤーポンプを通過させ、次いでダイスより溶融混練物を押出してLFPSシートを製造する方法が、特許文献1に提案されている。また、成形用発泡ポリスチレンシートの脆さを改良する手段として、ゴム成分を加えてポリスチレンシートとする手段が特許文献2において提案されている。
【特許文献1】特開平5−200835号公報
【特許文献2】特公昭61−3820号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に提案されている製造方法では、得られた溶融混練物をギヤーポンプを通過させて、ダイスより溶融混練物を押出してLFPSシートとするものであるから、高価で一般的ではない「ギヤーポンプ」を備えた装置が必要となる。
【0010】
また、この特許文献1の「ギヤーポンプ」を備えた装置では、ポリスチレンホモポリマー自体が物性的に脆い為、ポリスチレンホモポリマーから形成した成形用発泡ポリスチレンシートの厚みを薄くして低発泡倍率にしただけでは、少しの変形で破損する脆い成形体しか得られず、ある一定以上に薄肉化と低発泡倍率化を行うことは非常に困難である。
【0011】
一方、特許文献2にて提案されているゴム成分を加えた成形用発泡ポリスチレンシートは、製造作業時にゴムの臭気があり作業環境が悪く、食品用途には不向きである問題や、気泡膜の形成が不完全となり加熱成形時の二次発泡性が悪いという欠点があった。
【0012】
本発明は上記従来技術の問題点を解消するためのものであり、脆さが改良され薄肉化と低発泡倍率化が可能でかつ成形時の2次発泡性、外観等の良好な成形用発泡ポリスチレンシートを、高発泡ポリスチレン系樹脂シートの製造に用いられている一般的な押出機により提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以上の課題を解決するために、本発明の採った基本的手段は、
「ミネラルオイルをポリスチレン系樹脂に含有せしめてなる、成形品の製造に用いる成形用発泡ポリスチレンシートであって、上記ミネラルオイルの含有量が1.0〜5.0重量%であり、該シートの発泡倍率が1.5〜10倍、厚みが0.5〜2mmであることを特徴とする成形用発泡ポリスチレンシート」
である。
【0014】
すなわち、本発明の成形用発泡ポリスチレンシートは、ミネラルオイルをポリスチレン系樹脂に含有せしめてなる、成形品の製造に用いる成形用発泡ポリスチレンシートであって、上記ミネラルオイルの含有量が1.0〜5.0重量%であり、該シートの発泡倍率が1.5〜10倍、厚みが0.5〜2mmであることを特徴とする。
【0015】
本発明の成形用発泡ポリスチレンシートにおいて、ミネラルオイルとは、流動パラフィン、鉱物油等ともよばれている飽和炭化水素化合物の混合物であり、40℃での粘度が60センチストークス以上、好ましくは80センチストークス以上である。
【0016】
本発明に用いるミネラルオイルは、粘度以外の物性は特に限定されず、23℃で液状であり、比重が0.88以上、沸点が300℃以上であれば何でもよい。より好ましくは、低沸点物の留去という点から、13.3ヘクトパスカル(10mmHg)の減圧下における初留分が200℃以上であるものが良い。
【0017】
これらミネラルオイルの混合割合は、スチレン系樹脂に対して、1.0〜5.0重量%が好ましい。その理由は、ミネラルオイルの混合割合が上記下限未満では、シート改良効果(シート押出時の溶融樹脂粘度の低下効果及びシートの強度向上効果)が充分でなく、また上限を超えた場合は、溶融押出時にミネラルオイル及びスチレンオリゴマーの蒸発量が増え、これらが、ダイ、延伸ロール等に付着し、これらがシートに付着し結果としてシート外観が損なわれる恐れがあるからである。
【0018】
本発明に用いられるミネラルオイルは、スチレン系樹脂の重合時に添加しても、スチレン系樹脂 に練り込んで含有させても差し支えない。また、スチレン系樹脂にミネラルオイルを練り込んだ、いわゆるマスターバッチをスチレン系樹脂に添加する方法で含有させることができる。
【0019】
本発明の成形用発泡ポリスチレンシートに用いられるスチレン系樹脂は、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレンとポリフェニレンエーテルとの混合物等の単独重合体又は共重合体等の単体または混合物を任意に用いることができる。
【0020】
本発明におけるスチレン系樹脂 の重量平均分子量(Mw)は15万〜35万、好ましくは20万〜30万、さらに好ましくは20万〜25万である。Mwが15万未満であると発泡体の強度が著しく低下し、また35万を越えると流動性に劣り、生産性が低下する。
【0021】
本発明は、特定のミネラルオイルを必須成分として含み、特定の重量平均分子量を有することを特徴としたスチレン系樹脂組成物を用いることにより、薄肉化と低発泡倍率化が可能で、熱安定性、成形加工性、強度、外観のバランスに優れた発泡体が、高発泡ポリスチレン系樹脂シートの製造に用いられている一般的な押出機により得られることにある。
【0022】
本発明により、優れた発泡性を有しており、得られる発泡成形体が高い強度と優れた柔軟性を有するとともに外観が良く、収縮しにくい薄肉化と低発泡倍率化が可能な発泡性ポリスチレン系樹脂シートを提供することができる。
【0023】
本発明の成形用発泡ポリスチレンシートは、該シートの発泡倍率が10倍を越えると充分な低発泡倍率の成形体が得られず、成形品の光沢やシャープな形状の成形が難しく、また発泡倍率が1.5倍未満では断熱性等の発泡体としての特性が発揮されない。
【0024】
本発明の成形用発泡ポリスチレンシートの厚みは、0.5mm未満では成形品とした場合に充分な物性が得られず、また厚みが2mmを越えると、シート内部まで充分な加熱が難しく成形性が劣る。又、特に本発明の低倍率の発泡ポリスチレンシートは2mmの厚みを越えるとロール状に巻き取ることが難しい.。本発明において特に、発泡ポリスチレンシート厚みは0.5〜1.5mmであることが薄肉の成形品を製造する上で好ましい。
【0025】
又、本発明の発泡ポリスチレンシートはJISK−7113に準拠して求められる引張伸びの押出方向及び幅方向の値において、小さい方の値が5.0%以上であることが本発明の目的を達成する上で特に好ましい。
【0026】
本発明の成形用発泡ポリスチレンシートの製造方法は、例えば押出機内でポリスチレンとミネラルオイルからなる樹脂組成物を溶融混練した後、発泡剤と共に押出発泡させてシート状とすることで製造される。
【0027】
上記組成物には押出発泡体の気泡径を均一に調整するなどの目的で気泡核剤を添加する事が出来る。上記の気泡核剤は、0.01〜30重量部程度の添加が気泡調整、耐熱性向上の点から好ましい。気泡核剤としては、例えばタルク、シリカ、炭酸カルシウム、クレー、ゼオライト、アルミナ、硫酸バリウム等が挙げられる。これらの平均粒子径は1〜15μmが好ましいが、これらのものは一般的で安価に提供されているものである。気泡核剤は、発泡のための「核」となるものであり、細かい発泡とするには細かい気泡核剤が必要となる。
【0028】
この気泡核剤について、例えば、特許文献2に記載されているような、成形用発泡ポリスチレンシートの脆さを改良する手段として、ゴム成分を加えてポリスチレンシートとする手段を採用した場合を想定してみると、次の通りとなる。すなわち、この特許文献2の技術では、これにおいて使用されているゴム成分が気泡核剤を包み込んで大きな核としてしまうため、気泡核剤としては、最初から非常に粒度の小さいもの、つまり高価なものを使用しなければならない。
【0029】
これに対して、本発明では、ゴム成分に代えて、気泡核剤を包み込むことがないミネラルオイルを使用するのであるから、一般的な安価な気泡核剤を採用できることになるのである。
【0030】
上記の発泡剤としては、無機発泡剤、揮発性発泡剤、分解型発泡剤が用いられる。無機発泡剤としては、二酸化炭素、空気、窒素等を用いることができる。揮発性発泡剤としては、プロパン、n−ブタン、i−ブタン、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、シクロブタン、シクロペンタン等の環式脂肪族炭化水素、トリクロロフロロメタン、ジクロロジフロロメタン、1,2−ジクロロ−1,1,2,2−テトラフロロエタン、クロロジフロロメタン、1−クロロ−1,1−ジフロロエタン、1,1−ジフルオロエタン、1,1−ジクロロ−2,2,2,−トリフルオロエタン、メチルクロライド、エチルクロライド、メチレンクロライド等のハロゲン化炭化水素等を用いることができる。
【0031】
また、分解型発泡剤としては、アゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、アゾビスイソブチルニトリル、重炭酸ナトリウム等を用いることができる。これらの発泡剤は適宜混合して用いることができる。
【0032】
発泡剤の使用量は樹脂の種類、発泡剤の種類、発泡倍率等によって異なるが、発泡シートの発泡倍率が1.5〜10倍 のものを得る場合、例えばブタン発泡剤であれば樹脂組成物100重量部あたり0.3〜5重量部が好ましい。
【0033】
本発明の成形用発泡ポリスチレンシートは、真空成形、圧空成形等の一体成形により薄肉の食品容器用トレー、特にコップ、どんぶり等の成形品の成形に最適に使用できる。
【0034】
また、上記の成形の応用として、フリードローイング成形、プラグ・アンド・リッジ成形、マッチド・モールド成形、ストレート成形、プラグアシストリバースドロー成形等やそれらを組み合わせた方法等を適用することができる。
【発明の効果】
【0035】
以上説明したように本発明は特定量のミネラルオイルを特定の重量平均分子量を有するポリスチレン系樹脂に含有せしめ厚みと密度を規定したことにより、ポリスチレン樹脂の欠点であった脆さが改良されしかも外観の良好な成形用発泡ポリスチレンシートが得られる。
【0036】
また、本発明の成形用発泡ポリスチレンシートを用いて成形品を製造することで、二次発泡性が良好で成形品をシャープな形状に精度良く形成可能であり、しかも得られた成形品は脆さがなく外観の良好な優れたものである。本発明の成形用発泡ポリスチレンシートを用いることで成形品の薄肉化が可能となり廃棄物処理問題の解決に寄与する。
【0037】
すなわち、本発明によれば、従来技術の問題点を解消することができるものであり、脆さが改良され薄肉化と低発泡倍率化が可能でかつ成形時の2次発泡性、外観等の良好な成形用発泡ポリスチレンシートを、高発泡ポリスチレン系樹脂シートの製造に用いられている一般的な押出機により提供することができるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、具体的実施例を挙げて更に本発明を詳細に説明する。
【0039】
ポリスチレン、ミネラルオイル(エッソ石油(株)製、商標名クリストール352:40℃での粘度71センチストークス)及び発泡剤としてブタンを使用し押出機にて溶融混練した後押出発泡させて成形用押出発泡ポリスチレンシートを得た。得られた押出発泡シートの性状、物性及び成形性について表1及び表2に示す。尚、表1及び表2の外観、物性及び成形性の評価基準及び試験方法は次の通りである。
【0040】
〔外観〕
○・・・表面光沢が特に優れ、シート表面に樹脂の混練むら模様が見られない
△・・・シート表面に樹脂の混合むら模様が見られない
×・・・シート表面に樹脂の混合むら模様が見られる
〔引張伸び〕
JIS K−7113に準拠して、1号試験片を使用し、試験速度10mm/minで測定を行った。尚、表1は(押出方向の引張伸び/幅方向の引張伸び)をそれぞれ表わす。
【0041】
〔曲げ弾性率〕
JIS K−7203に準拠して、幅50mmのサンプルを使用し、スパン20mm、試験速度100mm/min、曲げジグ及び支えジグの半径2mmにて測定を行った。尚、表1は(押出方向の曲げ弾性率/幅方向の曲げ弾性率)をそれぞれ表わす。
【0042】
〔耐折性〕
押出方向×幅方向が5cm×5cmの正方形の発泡シートサンプルを切り出し、対角線を境に180度折り曲げ試験を行った。
【0043】
○・・・シートが破断することなく折り曲げることができる
△・・・シートの一部に破断が見られるが折り曲げられる
×・・・シートが破断してしまう
〔二次発泡性〕
10cm×10cmの正方形の発泡シートサンプルを雰囲気温度140℃で120秒加熱し、加熱前後における厚み変化を測定した。
【0044】
○・・・加熱後の発泡シート厚みが加熱前の発泡シート厚みの150%以上
△・・・ 〃 110%以上150%未満
×・・・ 〃 110%未満
〔金型再現性〕
○・・・金型の凹凸模様が正確に発泡シート成形品へ再現されている
△・・・金型の凹凸模様が発泡シート成形品へ再現されているが一部に不明瞭な部分がある×・・・発泡シート成形品の金型の凹凸模様は不明瞭
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミネラルオイルをポリスチレン系樹脂に含有せしめてなる、成形品の製造に用いる成形用発泡ポリスチレンシートであって、上記ミネラルオイルの含有量が1.0〜5.0重量%であり、該シートの発泡倍率が1.5〜10倍、厚みが0.5〜2mmであることを特徴とする成形用発泡ポリスチレンシート。
【請求項2】
ミネラルオイルが、40℃での粘度が60センチトークス以上であり、13.3ヘクトパスカルの減圧下における初留分が200℃以上である、請求項1記載の成形用発泡ポリスチレンシート。
【請求項3】
ポリスチレン系樹脂の重量平均分子量(Mw)が、15万〜35万である、請求項1記載の成形用発泡ポリスチレンシート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の成形用発泡ポリスチレンシートを熱成形してなることを特徴とする容器。

【公開番号】特開2006−8725(P2006−8725A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−183405(P2004−183405)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(396000422)リスパック株式会社 (53)
【Fターム(参考)】