説明

成形用金型

【課題】内筒体と外筒体と該両筒体の間に配設される中間筒体と各筒体の間に介設されるゴム材料とを一体成形するための成形用金型において、型閉じ状態にて、中間筒体により区画される内筒体側の内側キャビティと外筒体側の外側キャビティとのそれぞれにゴム材料を充填する際に、中間筒体の内周面及び外周面に作用するゴム材料の圧力差に起因して中間筒体が変形するのを防止する。
【解決手段】ゴム注入流路34を、導入流路部35と、該導入流路部35からそれぞれ分岐して内側キャビティ16及び外側キャビティ17へとゴム材料を導く内側注入流路部36及び外側注入流路部37とで構成して、各注入流路部36,37からの各キャビティ16,17へのゴム材料の充填速度の比率が上記変形を生じない比率範囲内に収まるように、該各注入流路部36,37の流路断面積をそれぞれ設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
内筒体と、その外周を囲む外筒体と、該内筒体及び該外筒体の間に配設される中間筒体と、各筒体の間に介設されるゴム材料とからなるゴム成形体を成形するための成形用金型に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内筒体と、内筒体の周囲にこれと同軸に設けられた外筒体と、両筒体の間に介設されたゴム材料とからなる防振用のゴム成形体の成形用金型は知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この成形用金型は、型閉じ可能な上型と下型とを備えている。ゴム成形体を成形するにあたっては、この上型と下型との間に内筒体と外筒体とをセットし、上型と下型とを型閉じすることで内筒体の外周にキャビティを形成する。そうして、キャビティを形成した後に、上型に形成された注入流路からゴム材料を注入し、キャビティ内にゴム材料を充填する。これにより、内筒体と外筒体とにゴム材料が一体成形されてゴム成形体の成形が完了する。
【0004】
また、上述の防振用のゴム成形体として、内筒体及び外筒体の間にさらに中間筒体を備えた三重筒構造(例えば、特許文献2及び3参照)を採用する場合がある。この構造では、中間筒体を設けることによって軸直方向の剛性を高めることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−079551号公報
【特許文献2】特開2008−45710号公報
【特許文献3】特開2009−2394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1に示す成形用金型を用いて、上記特許文献2及び3に示す中間筒体を備えた三重筒構造のゴム成形体を成形する場合には、上型と下型との間に、内筒体、外筒体及び中間筒体をセットして、その状態で上型と下型とを型閉じすればよい。これにより、中間筒体により区画される内筒体側の内側キャビティと外筒体側の外側キャビティとが形成される。そして、形成された各キャビティにゴム材料を充填することで三重筒構造のゴム成形体を成形することができる。
【0007】
ここで、一つの注入流路から内側及び外側キャビティの双方にゴム材料を注入するためには、注入流路の出口開口を、中間筒体の上端面に対峙させて内側キャビティと外側キャビティとの双方に跨るように形成する必要がある。
【0008】
この場合、注入流路から注入されたゴム材料は、中間筒体の上端面にぶつかった後、その内周面側と外周面側とに分岐して流下し、該流下したゴム材料によって内側及び外側キャビティが充填されていく。このとき、内側キャビティへのゴム材料の充填速度と、外側キャビティへのゴム材料の充填速度との比率が所定の比率範囲内に収まっていないと、充填済みのゴム材料より中間筒体に作用する径方向の圧力バランスが崩れて、中間筒体が径方向に変形してしまうという問題がある。
【0009】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、内筒体と、その外周を囲む外筒体と、内筒体及び外筒体の間に配設される中間筒体と、各筒体の間に介設されるゴム材料とからなるゴム成形体を成形するための成形用金型に対して、その構成に工夫を凝らすことで、ゴム材料のキャビティへの注入中に、充填済みのゴム成形体からの圧力により中間筒が変形するのを防止し、延いては、ゴム成形体の製品性能の低下を防止しようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、この発明では、外側キャビティへのゴム材料の充填速度と、内側キャビティへのゴム材料の充填速度との比率が、中間筒体の内周面と外周面とに作用するゴム材料の圧力差に起因した中間筒体の変形を生じない比率範囲内に収まるようにゴム注入流路を構成した。
【0011】
具体的には、請求項1の発明では、上型と下型とを備え、該上型及び下型の間に、内筒体とその外周を囲む外筒体と該内筒体及び該外筒体の間に配設される中間筒体とを予めセットした状態で、上記上型及び下型を型閉じすることで、上記中間筒体により区画される内筒体側の内側キャビティと外筒体側の外側キャビティとを形成し、該形成された内側キャビティ及び外側キャビティに上記上型又は下型に設けられたゴム注入流路からゴム材料を充填することで、上記3つの筒体とゴム材料とからなるゴム成形体を成形可能に構成された成形用金型を対象とする。
【0012】
そして、上記ゴム注入流路は、上記ゴム材料が導入される導入流路部と、該導入流路部から分岐され、該導入流路部内のゴム材料を内側キャビティ及び外側キャビティへそれぞれ導く内側注入流路部及び外側注入流路部と、を有し、上記内側注入流路部及び上記外側注入流路部の流路断面積は、該外側注入流路部からの上記外側キャビティへのゴム材料の充填速度と、上記内側注入流路部からの上記内側キャビティへのゴム材料の充填速度との比率が、中間筒体の内周面と外周面とに作用するゴム材料の圧力差に起因した中間筒体の変形を生じない比率範囲内に収まるようにそれぞれ設定されているものとする。
【0013】
この構成によれば、ゴム注入流路の導入流路部内に導入されたゴム材料を内側キャビティへと導く内側注入流路部と、該ゴム材料を外側キャビティへと導く外側注入流路部とを独立に設けるようにしたことで、該各注入流路部の流路断面積の比率を変えるだけで、内側及び外側キャビティへのゴム材料の充填速度の比率を容易に且つ正確に制御することができる。
【0014】
本発明では、内側及び外側注入流路部の流路断面積を、内側及び外側キャビティへのゴム材料の充填速度の比率が、中間筒体の内周面と外周面とに作用するゴム材料の圧力差に起因した中間筒体の変形を生じない比率範囲内に収まるようにそれぞれ設定するようにしている。これにより、ゴム材料の充填時における中間筒体の変形を確実に防止することができ、延いては、成形されたゴム成形体の製品性能の低下を防止することが可能となる。
【0015】
尚、本明細書において、「充填速度」とは、単位時間当たりのゴム充填率(%)の変化量を意味する。したがって、内側キャビティと外側キャビティとの充填速度が等しければ、各キャビティの充填開始から完了までの時間(充填率100%になるまでの時間)も等しくなる。
【0016】
請求項2の発明では、請求項1の発明において、上記内側注入流路部及び上記外側注入流路部の流路断面積は、上記比率が1になるようにそれぞれ設定されているものとする。
【0017】
この構成によれば、内側及び外側キャビティへのゴム材料の充填速度が等しくなるため、ゴム材料の充填中に、中間筒体の内周面と外周面とに作用するゴム材料の圧力バランスが崩れるのを防止し、中間筒体の変形を確実に防止することができる。
【0018】
請求項3の発明では、請求項1の発明において、上記中間筒体には、上記比率が上記比率範囲内から比率範囲外にずれたとしても、中間筒体の内周面と外周面とに作用するゴム材料の圧力差が許容範囲内に収まるように、上記両キャビティ間のゴム材料の流通を許容する連通孔が形成されているものとする。
【0019】
この構成によれば、内側及び外側キャビティへのゴム材料の充填速度の比率が、何らかの要因(例えば、ゴム射出機の射出圧の変動等)で上記比率範囲内から比率範囲外に仮にずれたとしても、中間筒体に形成された連通孔を通じて、ゴム材料がゴム圧の高い側から低い側に向かって流動し、これにより、中間筒体の外周面と内周面とに作用するゴム材料の圧力差が減少して許容範囲内に収まることとなる。したがって、ゴム材料の充填時における中間筒体の変形をより一層確実に防止することが可能となる。
【0020】
請求項4の発明では、請求項1乃至3のいずれか一つの発明において、上記注入流路の数は2つであり、上記2つの注入流路は、型閉じ状態において上記中間筒体の筒軸方向から見たときに、該筒軸を挟んで互いに180°反対側に位置しているものとする。
【0021】
この構成によれば、2つの注入流路を、中間筒体の筒軸方向から見たときに該筒軸を挟んで互いに180°反対側に位置するように配置したことで、各キャビティ16,17へのゴム材料の充填が中間筒体の筒軸を挟んで対称に進行するため、中間筒体に作用するゴム材料からの径方向の圧力バランスが崩れるのを確実に防止することができる。また、注入流路の数を2つにしたことで、該注入流路内に付着したゴム材料を除去するための作業工数を最小限に抑えることができる。
【0022】
請求項5の発明では、請求項1乃至4のいずれか一つの発明において、上記中間筒体は、その筒軸方向に沿って複数に分割された分割構造を有しているものとする。
【0023】
この構成によれば、成形後のゴム成形体の外筒体に絞り加工を施す場合に、内筒を構成する各分割体が径方向に移動することができるため、所望の製品性能を得ることができる。そして、このような分割構造を有する中間筒体では、一体構造の中間筒体に比べて径方向の強度が低下するため、上述した中間筒体の変形の問題がより一層生じ易く、したがって、本発明は、このような中間筒体を分割化したゴム成形体の成形用金型に特に有用である。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明の成形用金型によると、外側キャビティへのゴム材料の充填速度と、内側キャビティへのゴム材料の充填速度との比率が、中間筒体の内周面と外周面とに作用するゴム材料の圧力差に起因した中間筒体の変形を生じない比率範囲内に収まるようにゴム注入流路を構成したことで、ゴム材料の充填時における中間筒体の変形を防止し、延いては、成形品であるゴム成形体の製品性能の低下を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る成形用金型を示す縦断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る成形用金型によって成形されるゴム成形体を示す縦断面図である。
【図3】半割構造を有する中間筒体の一方を示す斜視図である。
【図4】上型を示す下側から見た平面図である。
【図5】上型を示す上側から見た平面図である。
【図6】注入流路の詳細を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0027】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態に係る成形用金型1である。この成形用金型1は、自動車のサスペンションブッシュ等に使用される防振用のゴム成形体100(図2参照)を成形するために用いられる。
【0028】
成形品である上記ゴム成形体100は、図2に示すように、同心状に配設された3つの筒体2〜4とゴム材料とを一体成形した三重筒構造を有している。具体的には、ゴム成形体100は、内筒体2と、その外周を囲む外筒体3と、内筒体2及び外筒体3の間に配設される中間筒体4と、各筒体2〜4の間に介設される防振ゴム部5,6とで構成されている。内筒体2及び外筒体3はそれぞれ、筒状の金属部材で構成されている。外筒体3の軸方向の一側端部は、径方向外側に鍔状に折り曲げられてフランジ部3aを形成している。中間筒体4は、同じく金属部材により構成されていて、内筒体2及び外筒体3とは異なり筒軸方向に沿って径方向に2分割された半割構造を有している(図3参照)。中間筒体4を構成する各分割体4a,4bには、その厚さ方向に貫通する複数(本実施形態では4つ)の連通孔4fが形成されている。尚、図3では、見易いように一方の分割体4aを実線で示し、他方の分割体4bを二点鎖線で示している。
【0029】
成形用金型1は、上型10、中型11及び下型12を備えている。下型12は、上型10に対して上下動することで型閉じ及び片開き可能になっている。ゴム成形体100を成形する際には、上型10と下型12との間に上記内筒体2、中間筒体4、及び外筒体3をセットした状態で、上型10と下型12とを中型11を挟んで型閉じすることによりキャビティ15が形成される。
【0030】
上記キャビティ15は、中間筒体4及び内筒体2間に挟まれた内側キャビティ16と、中間筒体4及び外筒体3間に挟まれた外側キャビティ17とからなり、内側キャビティ16及び外側キャビティ17は、中間筒体4により区画されて互いに同心円状に配置されている。内側キャビティ16と外側キャビティ17とは、型閉じ状態において、中間筒体4に形成された上記連通孔4f、及び、中間筒体4を構成する各分割体4a,4bの間に形成される後述の隙間4sを介して連通される。
【0031】
上型10及び下型12には、内筒体2を固定してその位置決めを行うための位置決めピン18がそれぞれ設けられている(図1及び図5参照)。位置決めピン18の先端部は、内筒体2の挿入性を高めるために円錐台状(テーパ状)に形成されている。位置決めピン18の先端部を除く部分は円柱状に形成されており、各位置決めピン18の基端寄りの部分はそれぞれ、上型10及び下型12に設けられたピン固定孔13に圧入されている。内筒体2は、型閉じ状態において、位置決めピン18が内挿された状態で上型10と下型12とによって上下方向から挟み込むようにして保持される。上型10の下面及び下型12の上面にはそれぞれ、ピン固定孔13に隣接してその周囲を囲むように平坦状のシール面19が形成されており、型閉じ状態において、該シール面19が内筒体2の両端面に圧接される。
【0032】
また、上型10の下面及び下型12の上面には、ピン固定孔13を中心として内側土手部30と外側土手部31とが同心円状に形成されている(図1、図4参照)。内側土手部30は、上記シール面19に隣接してその外周を囲むように形成されており、外側土手部31は、内側土手部30を囲むように該内側土手部30との間に所定間隔を隔てて形成されている。内側土手部30及び外側土手部31はそれぞれ、内側キャビティ16及び外側キャビティ17内に膨出するように形成されている。この2つの土手部30,31の間隔は、中間筒体4の厚さよりもやや大きめに設定されており、両土手部30,31の間に形成される環状凹部32に中間筒体4の軸方向の両端部を嵌め込むことにより、中間筒体4の位置決めがなされる。
【0033】
中間筒体4は、型閉じ状態において、その軸方向の両端部が上記環状凹部32に嵌め込まれた状態で、上型10と下型12とによって上下方向から挟み込むように保持される。環状凹部32の底面には、該底面から隆起する6つの位置決め座部33が形成されている。6つの位置決め座部33は、環状凹部32の周方向に等間隔に形成されている。各位置決め座部33は、内側土手部30の外周面から外側土手部31の内周面まで延びている。6つの位置決め座部33は、型閉じ状態において、中間筒体4の筒軸方向の両端面に圧接される。6つの位置決め座部33のうち、環状凹部32の径方向において対向する2つの位置決め座部33は、その頂面の幅方向中央部に位置決め片33bを有していて、断面凸型状に形成されている。中間筒体4の各分割体4a,4bは、この位置決め片33bを挟んでその両側にセットされ、この位置決め片33bによって、各分割体4a,4bの周方向の位置決めがなされる。そうして、環状凹部32にセットされた各分割体4a,4bの間には、この位置決め片33bの幅Dに対応したスリット状の隙間4sが形成される。
【0034】
中型11には、外筒体3を嵌入するための円筒孔11fが形成されている。円筒孔11fの上端部には、外筒体3のフランジ部3aに嵌合する円形穴11gが形成されている。外筒体3は、型閉じ状態において、中型11の円筒孔11fに嵌め込まれた状態で上型10と下型12とによって上下方向から挟み込むようにして保持される。上型10の下面及び下型12の上面には、上記外側土手部31に隣接してその外周を囲むようにシール面14が形成されており、型閉じ状態では、この環状シール面14が外筒体3の筒軸方向の両端面に圧接される。
【0035】
<注入流路の構成)
上型10には、内側及び外側キャビティ16,17にゴム材料を注入するための2つの注入流路34(図1及び図6参照)が形成されている。2つの注入流路34は、型閉じ状態において中間筒体4の筒軸方向から見たときに、該筒軸を挟んで互いに180°反対側に位置している。各注入流路34は、ゴム材料が導入される導入流路部35と、該導入流路部35から分岐され、該導入流路部35内のゴム材料を内側キャビティ16及び外側キャビティ17へそれぞれ導く内側注入流路部36及び外側注入流路部37とを備えている。
【0036】
導入流路部35は、上型10の上面に開口するとともに、そこから下側に向かって上型の下面近傍まで延びている。導入流路部35は、下側ほど縮径するテーパ状をなし、平面視で中間筒体4の丁度、真上に位置している。導入流路部35の上側の開口35fには、不図示のゴム射出機に接続されており、ゴム射出機から射出されたゴム材料は、該開口35fを介して導入流路部35内に導入される。
【0037】
内側注入流路部36は、導入流路部35の下端部から内側キャビティ16に向かって斜めに延びて、内側土手部30の頂縁部の内周面側に形成された傾斜面に開口している。そうして、内側注入流路部36は、導入流路部35と内側キャビティ16とを連通している。
【0038】
外側注入流路部37は、内側注入流路部36とは別の独立した流路であり、導入流路部35の下端部から外側キャビティ17に向かって下方に延びて、外側土手部31の頂縁部に開口している。そうして、外側注入流路部37は、導入流路部35と外側キャビティ17とを連通している。
【0039】
上記内側及び外側注入流路部36,37はそれぞれ、長さ方向の全体に亘って流路断面積が一定のストレート状に形成されている。内側及び外側注入流路部36,37の流路断面積は、該外側注入流路部37からの上記外側キャビティ17へのゴム材料の充填速度と、上記内側注入流路部36からの内側キャビティ16へのゴム材料の充填速度との比率Rが、中間筒体4の内周面と外周面とに作用するゴム材料の圧力差に起因した中間筒体4の変形を生じない比率範囲内に収まるようにそれぞれ設定されている。ここで、「充填速度」とは、単位時間当たりのゴム材料の充填率(%)の変化量を意味している。したがって、内側キャビティ16と外側キャビティ17との充填速度が等しければ、該各キャビティ16,17の充填開始から完了までの時間も等しくなる。
【0040】
上記比率範囲は、ゴム成形体100を構成する内側防振ゴム部5と外側防振ゴム部6(図2参照)との体積比(内側キャビティ16と外側キャビティ17との体積比とも言える)や、各防振ゴム部5,6の形状、中間筒体4の強度等に応じて決まる値であり、本実施形態では、予め実験等を行うことで、内側及び外側キャビティ16,17へのゴム材料の充填速度の比率Rが上記比率範囲内に収まるように、内側及び外側注入流路部36,37の流路断面積を設定している。この比率Rは、上記比率範囲内に収まっていれば如何なる比率であってもよいが例えば略1であることが好ましい。
【0041】
<成形方法>
次に、この成形用金型1を用いたゴム成形体100の成形方法について説明する。
【0042】
先ず、下型12の上に中型11を載せてセットする。
【0043】
そして、内筒体2、外筒体3、及び中間筒体4の必要な箇所にそれぞれ接着剤を塗布する。
【0044】
次に、内筒体2を下型12に突設された位置決めピン18の先端部から被せるようにセットする。
【0045】
次いで、外筒体3を中型11の円筒孔11fに嵌め込んでセットするとともに、中間筒体4を下型12に形成された環状凹部32に嵌め込んでセットする。
【0046】
そうして、各筒体2〜4のセットが完了した後に、下型12及び中型11を上昇させて、上型10及び下型12を中型11を挟んで型閉じする。これにより、各筒体2〜4は、上型10及び下型12により上下方向の両側から挟持されて固定され、組み合われた3つの型10〜12内には、中間筒体4によって区画さる内筒体2側の内側キャビティ16と外筒体3側の外側キャビティ17とが形成される。
【0047】
次いで、ゴム射出機からゴム材料(未加硫ゴム組成物)を射出して、それをゴム注入流路34の導入流路部35へと導入するとともに、該導入流路部35から内側及び外側注入流路部36,37を介して内側及び外側キャビティ16,17内にそれぞれ流入させる。そうして、各キャビティ16,17にゴム材料を充填する。
【0048】
続いて、各キャビティ16,17へのゴム材料の充填完了後に、型締めを行い、所定温度で所定時間そのままの状態を保持する。このとき、ゴムが加硫して防振ゴム部5,6が成形されると同時にその防振ゴム部5,6が各筒体2〜4に加硫接着され、それらが一体化して製品であるゴム成形体100が成形される。
【0049】
<作用効果>
ところで、ゴム材料の充填時には、中間筒体4の内周面及び外周面にそれぞれ、内側及び外側キャビティ16,17内の充填済みのゴム材料から径方向に圧力が作用することとなるが、この圧力バランスが崩れると中間筒体4に変形が生じてしまうという問題がある。
【0050】
これに対して、上記実施形態では、ゴム注入流路34は、導入流路部35内のゴム材料を内側キャビティ16へと導く内側注入流路部36と外側キャビティ17へと導く外側注入流路部37とに分岐しており、該内側注入流路部36と外側注入流路部37の路断面積は、該外側注入流路部37からの外側キャビティ17へのゴム材料の充填速度と、内側注入流路部36からの内側キャビティ16へのゴム材料の充填速度との比率が、中間筒体4の内周面と外周面とに作用するゴム材料の圧力差に起因した中間筒体4の変形を生じない比率範囲内に収まるようにそれぞれ設定されている。したがって、ゴム材料の充填時における中間筒体4の変形を防止し、延いては、完成品であるゴム成形体100の製品性能(防振性能)の低下を防止することが可能となる。
【0051】
また、上記実施形態では、上記中間筒体4には、その厚さ方向に貫通する複数の連通孔4fが形成されている。これにより、内側及び外側キャビティ16,17へのゴム材料の充填速度の比率が、例えば射出機の射出圧の変動等の何らかの要因で上記比率範囲内から比率範囲外にずれたとしても、上記連通孔4fを通じて、ゴム材料がゴム圧の高い側から低い側に向かって流動することとなり、この結果、中間筒体4の外周面と内周面とに作用するゴム材料の圧力差を減少させて許容範囲内(中間筒体に変形が生じない範囲)に収めることができる。したがって、ゴム材料の充填時における中間筒体4の変形をより一層確実に防止することが可能となる。
【0052】
また、上記実施形態では、注入流路34の数は2つであり、上記2つの注入流路34は、型閉じ状態において上記中間筒体4の筒軸方向から見たときに、該筒軸を挟んで互いに180°反対側に位置している。これにより、中間筒体4の筒軸を挟んで対称に、各キャビティ16,17へのゴム材料の充填が進行するため、中間筒体4に作用するゴム材料からの径方向の圧力バランスが崩れるのを確実に防止することができる。また、注入流路34の数を2つにしたことで、該注入流路34内に付着したゴム材料を除去するための作業工数を最小限に抑えることができる。
【0053】
(他の実施形態)
本発明の構成は、上記実施形態に限定されるものではなく、それ以外の種々の構成を包含するものである。すなわち、上記実施形態では、中間筒体4を径方向に2つに分割するようにしているが、3つ以上に分割してもよいし、分割せず一体成形するようにしてもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、成形用金型1を、上型10、中型11、及び下型12の3つの型の組合せにより構成するようにしているが、例えば、中型11を設けずに上型10及び下型12のみで構成するようにしてもよい。この場合には、上型10及び下型12を、中型11を挟まずに直接型閉じするようにすればよい。
【0055】
また、上記実施形態では、注入流路34を構成する内側及び外側注入流路部36,37はそれぞれ流路断面積が一定のストレート状に形成されているが、これに限ったものではなく、例えば、流路の出口側ほど縮径するテーパ状に形成するようにしてもよい。この場合、各注入流路部36,37の出口断面積(つまり最小流路断面積)を、上記各キャビティ16,17へのゴム材料の充填速度の比率Rが上記比率範囲内に収まるようにそれぞれ設定すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、内筒体と、その外周を囲む外筒体と、該内筒体及び該外筒体の間に配設される中間筒体と、各筒体の間に介設されるゴム材料とからなるゴム成形体を成形するための成形用金型に有用であり、特に、中間筒体をその筒軸方向に沿って複数に分割するようにしたゴム成形体の成形用金型に有用である。
【符号の説明】
【0057】
R 比率
1 成形用金型
2 内筒体
3 外筒体
4 中間筒体
4f 連通孔
10 上型
11 中型
12 下型
16 内側キャビティ
17 外側キャビティ
34 ゴム注入流路
35 導入流路部
36 内側注入流路部
37 外側注入流路部
100 ゴム成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上型と下型とを備え、該上型及び下型の間に、内筒体とその外周を囲む外筒体と該内筒体及び該外筒体の間に配設される中間筒体とを予めセットした状態で、上記上型及び下型を型閉じすることで、上記中間筒体により互いに区画された内筒体側の内側キャビティと外筒体側の外側キャビティとを形成し、該形成された内側キャビティ及び外側キャビティに上記上型又は下型に設けられたゴム注入流路からゴム材料を充填することで、上記3つの筒体とゴム材料とからなるゴム成形体を成形可能に構成された成形用金型であって、
上記ゴム注入流路は、上記ゴム材料が導入される導入流路部と、該導入流路部から分岐され、該導入流路部内のゴム材料を内側キャビティ及び外側キャビティへそれぞれ導く内側注入流路部及び外側注入流路部と、を有し、
上記内側注入流路部及び上記外側注入流路部の流路断面積は、該外側注入流路部からの上記外側キャビティへのゴム材料の充填速度と、上記内側注入流路部からの上記内側キャビティへのゴム材料の充填速度との比率が、中間筒体の内周面と外周面とに作用するゴム材料の圧力差に起因した中間筒体の変形を生じない比率範囲内に収まるようにそれぞれ設定されていることを特徴とする成形用金型。
【請求項2】
請求項1記載の成形用金型において、
上記内側注入流路部及び上記外側注入流路部の流路断面積は、上記比率が1になるようにそれぞれ設定されていることを特徴とする成形用金型。
【請求項3】
請求項1記載の成形用金型において、
上記中間筒体には、上記比率が上記比率範囲内から比率範囲外にずれたとしても、中間筒体の内周面と外周面とに作用するゴム材料の圧力差が許容範囲内に収まるように、上記両キャビティ間のゴム材料の流通を許容する連通孔が形成されていることを特徴とする成形用金型。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の成形用金型において、
上記注入流路の数は2つであり、
上記2つの注入流路は、型閉じ状態において上記中間筒体の筒軸方向から見たときに、該筒軸を挟んで互いに180°反対側に位置していることを特徴とする成形用金型。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の成形用金型において、
上記中間筒体は、その筒軸方向に沿って複数に分割された分割構造を有していることを特徴とする成形用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−56217(P2012−56217A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202683(P2010−202683)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000201869)倉敷化工株式会社 (282)
【Fターム(参考)】