説明

成形用離型ポリエステルフィルム

【課題】インモールド転写箔などの基材に用いるフィルムの少なくとも一方の面に離型層を設けるに際し、かかる離型層としてハードコート層を離型層上に容易に加工でき、かつ転写後はハードコート層と剥離しやすく、しかも被転写物の大きさに合わせた幅にスリット加工する際に箔こぼれ現象が生じない粘着離型特性を有するとともに、ハードコート層などを含む転写物を剥離したときにその転写物にクラック(ひび割れ)現象が発生しない離型特性を有する成形用離型フィルムを提供する。
【解決手段】ポリエステルフィルムの少なくとも片面に離型層を有し、該離型層が特定のフルオロアルキルアクリレート成分、フッ素を含まないアクリレート成分およびアクリル酸成分とを構成成分とするガラス転移温度60℃以下の共重合体および架橋剤を含有し、前記共重合体の含有量が該離型層の重量を基準として50重量%以上95重量%以下である成形用離型ポリエステルフィルムによって得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成形用離型ポリエステルフィルムに関し、詳しくは射出成形等において成形と同時に転写印刷するインモールド転写用の転写箔のベースフィルムとして有用な成形用離型ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インモールド用転写箔として、ポリエステルフィルムをベースフィルムとし、そのうえに熱硬化性の離型層を設け、この離型層の上にハードコート層、さらに印刷層を塗工し、これら順次積層したものが用いられている。
かかるインモールド用転写箔は、成形転写後に離型層面とハードコート層面との間で剥がされ、分離される。すなわち、成形転写後に印刷層は成形品の表面に接着して製品として取出され、ハードコート層はその製品の最表面となる。一方、離型層は転写箔のベースフィルムの上に設けられた状態で製品から取り除かれる。また、インモールド転写箔用に適したフィルムとして、離型層とベースフィルムとの接着力を高めるために両層間に接着層を設けることも検討されている。
【0003】
近年、インモールド転写法を用いた加工に対し高い生産性を求められており、成形速度を向上させることが試みられている。一方、インモールド転写箔を取り扱う際に帯電による転写箔同士の貼付きや転写箔表面へのゴミや埃付着が発生し、生産性を落とすことがあった。かかる課題に対し、例えば特許文献1では、帯電防止層を有する転写材用ポリエステルフィルムが検討されている。
また、特許文献2においてインモールド用転写箔作成過程から成形転写に至る間で優れた帯電防止性を有し、かつ転写箔同士のはりつきがなく、転写の際に離型層とベースフィルムの剥離のないインモールド転写箔用フィルムとして、ポリエステルフィルムの一方の面に易接着層を有し、他方の面に離型成分を含む帯電防止層を有するフィルムが開示されている。また、特許文献2ではかかる離型成分について、帯電防止剤との相溶性が良好で、しかも離型成分により反対側の印刷面に印刷はじきを生じないよう検討が試みられている。
【0004】
一方、離型層に着目してみると、従来の離型層は各層を積層させた後に被転写物の大きさに合わせて適切な幅に切断(スリット)した際、スリット刃があたるショックによりスリットの部分でハードコート層、印刷層などの転写部分が離型層表面から剥がれる箔こぼれ現象を起こすことがあった。これは離型層とハードコート層との間における層間剥離力が非常に低いことに起因しており、転写に供される部分だけでなく転写に供さない部分も剥離性に優れるために生じるものである。
かかる箔こぼれ現象は、ハードコート層のように剥離層が厚くならざるを得ない場合、機能層が多い場合など、転写層の厚さが大きいときほど顕著に生じるものであった。そこでスリット時の箔こぼれを防止するために、ベースフィルムに離型層を設ける際、スリット箇所に当たる部分を除いた帯状のパターンに離型層を設け、その上にハードコート層、印刷層、接着層などからなる転写層を設けたものが検討されている(特許文献3)。しかしながら、かかる方法では被転写物に適した塗工パターンにしなければならないなどの課題がある。
【0005】
また特許文献4において、転写材用フィルムとして、従来の熱硬化性の離型層に代えて、熱可塑性樹脂を原料として形成される常態剥離力が2000mN/cm以下の離型層を片面に有するポリエステルフィルムが提案されており、離型層を構成する成分の1つとしてフッ素含有樹脂が好ましいことが記載されている。しかしながら特許文献4では、2000mN/cm以下という幅広い剥離力の離型フィルムが開示されているものの、箔こぼれの改善については何も検討されていない。
【0006】
このように、パターン塗工をしなくても箔こぼれを生ずることなく転写後の剥離性を有するインモールド転写材用ポリエステルフィルムが求められているのが現状である。
さらに、箔こぼれに着目して粘着力を高めようとすると、今度は転写箔とハードコート層との粘着力により、転写箔上にハードコート層、インキ(印刷)層が積層された状態で成形用樹脂を金型に射出し、金型形状に成形する際に、ハードコート層やインキ層が転写箔の変形に追従できずにクラック(ひび割れ)が生じるといった課題が新たに見出され、これらの課題の解決が求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−223800号公報
【特許文献2】特開2006−187951号公報
【特許文献3】特開平11−58584号公報
【特許文献4】特開2007−111964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的はかかる従来技術の問題点を解消し、インモールド転写箔などの基材に用いるフィルムの少なくとも一方の面に離型層を設けるに際し、かかる離型層としてハードコート層を離型層上に容易に加工でき、かつ転写後はハードコート層と剥離しやすく、しかも被転写物の大きさに合わせた幅にスリット加工する際に箔こぼれ現象が生じない粘着離型特性を有するとともに、ハードコート層などを含む転写物を剥離したときにその転写物にクラック(ひび割れ)現象が発生しない離型特性を有する成形用離型フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のフルオロアルキルアクリレート成分、フッ素を含まないアクリレート成分に加え、さらに一定量のアクリル酸成分を含む共重合体を所定量用い、かつ架橋剤を所定量併用することにより、離型力に優れながら化学的親和性により箔こぼれが解消されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明の目的は、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に離型層を有し、該離型層が下記一般式(I)で表されるフルオロアルキルアクリレート成分、下記一般式(II)で表されるフッ素を含まないアクリレート成分および下記一般式(III)で表されるアクリル酸成分とを構成成分とするガラス転移温度60℃以下の共重合体および架橋剤を含有し、
【化1】

(式(I)、(II)および(III)において、R〜Rは水素またはメチル基、RX、RYは炭素原子数1〜10の炭化水素基、Rfはフッ素原子数3〜7のフルオロアルキル基をそれぞれ表わす)
前記共重合体の含有量が該離型層の重量を基準として50重量%以上95重量%以下である成形用離型ポリエステルフィルムによって達成される。
【0011】
また本発明の成形用離型ポリエステルフィルムは、その好ましい態様として、該共重合体の全モル量を基準として該フルオロアルキルアクリレート成分が5モル%以上89モル%以下であること、該共重合体のカルボキシル基濃度が30mmol/100g以上200mmol/100g以下であること、該離型層に対するハードコート層の常態剥離力が2.0mN/mm以上12.5mN/mm以下であること、該離型層がポリエステルフィルム上に直接設けられてなること、該離型層の表面自由エネルギーが20mN/m以上40mN/m以下であること、該離型層がポリエステルフィルムの製膜工程内で塗布することにより形成されること、ポリエステルフィルムの該離型層と反対側の面にさらに帯電防止離型層を有すること、インモールド成形用であること、の少なくともいずれか一つを具備するものを包含する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリエステルフィルムは、優れたハードコート加工性および剥離性を有し、しかも適切な幅で切断(スリット)した際、箔こぼれ現象が抑制されると同時に剥離時の転写物のクラック(ひび割れ)が抑制されることから、例えばインモールド転写を伴う成形加工といった成形用離型ポリエステルフィルムとして好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
[ポリエステルフィルム]
本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエステルは、芳香族二塩基酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体とから合成される線状飽和ポリエステルである。かかるポリエステルの具体例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを例示することができる。
【0014】
ポリエステルは、ホモポリマーであっても、これらポリエステルのうちの1つを主たる成分とする共重合体であってもよく、またはブレンドしたものであってもよい。ここで「主たる成分」とは、ポリエステルの繰り返し構造単位のモル数を基準として80モル%以上である。また主たる成分の割合は、85モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。また、共重合成分またはブレンド成分はポリエステルの繰り返し構造単位のモル数を基準として20モル%以下であり、好ましくは15モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下である。ポリエステルとして、ポリエチレンテレフタレートが力学的物性と成形性のバランスがよいので特に好ましい。
【0015】
本発明のポリエステルフィルムは、本発明の課題を損なわない範囲内で、滑剤粒子、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤を含有してもよい。高透明性や表面平坦性が求められる場合は、滑剤粒子は実質的に含有しないことが好ましい。
ポリエステルフィルムは、例えば次の方法で製造することができる。すなわち、ポリエステルをフィルム状に溶融押出し、キャスティングドラムで冷却固化させて非晶未延伸フィルムとし、縦方向(以下、連続製膜方向、長手方向、MD方向と称することがある)および横方向(以下、幅方向、TD方向と称することがある)に延伸する。縦方向の延伸は例えば温度60〜130℃、好ましくは90〜125℃で、縦方向に例えば2.0〜4.0倍、好ましくは2.5〜3.5倍に延伸する。横方向の延伸は、例えば温度60〜130℃、好ましくは90〜125℃で、横方向に例えば2.0〜4.5倍、好ましくは3.0〜4.2倍に延伸する。二軸延伸後の面積倍率は13以下とすることが好ましい。
【0016】
なお、フィルムの延伸後には熱固定処理を行うことが好ましい。熱固定処理は、最終延伸温度より高く融点以下の温度内で1〜30秒の時間内行うことが好ましい。例えばポリエチレンテレフタレートフィルムでは150〜250℃の温度、2〜30秒の時間の範囲で選択して熱固定することが好ましい。その際、20%以内の制限収縮もしくは伸長、または定長下で行い、また2段以上で行ってもよい。
【0017】
ポリエステルフィルム表面の中心線表面粗さは、好ましくは1〜50nmである。ポリエステルフィルムの表面の中心線表面粗さをこの範囲とすることにより、例えばインモールド転写用途に用いた場合に塗布層の表面の中心線平均表面粗さが1〜40nmであるインモールド転写用フィルムを得ることができる。
ポリエステルフィルムの厚みは、ハンドリング性、成形性の観点から、また必要に応じてさらに透明性の点から好ましくは12〜100μm、さらに好ましくは25〜75μmである。
【0018】
[離型層]
本発明のフィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に、下記一般式(I)で表されるフルオロアルキルアクリレート成分、下記一般式(II)で表されるフッ素を含まないアクリレート成分および下記一般式(III)で表されるアクリル酸成分とを構成成分とするガラス転移温度60℃以下の共重合体(以下、フッ化アクリル系共重合体と称することがある)および架橋剤を含有し、
【化2】

(式(I)、(II)および(III)において、R〜Rは水素またはメチル基、RX、RYは炭素原子数1〜10の炭化水素基、Rfはフッ素原子数3〜7のフルオロアルキル基をそれぞれ表わす)
前記共重合体の含有量が該離型層の重量を基準として50重量%以上95重量%以下である離型層を有する。
【0019】
本発明のフィルムは、インモールド成形の転写箔として用いた場合、剥離時に転写物にクラックが生じない程度にハードコート層との離型性を備えつつ、化学的親和性も備えることで箔こぼれも抑制でき、しかもハードコート剤塗布液に対する溶剤耐性が高い離型層を有する点に特徴がある。
具体的には離型層が上述の特定組成のフッ化アクリル系共重合体を所定量含むことでハードコート層との化学的親和性を備え、ハードコート層を容易に加工ができ、しかも箔こぼれが抑制され、さらにフッ化アクリル系共重合体が一定量のアクリル酸成分を含むことで架橋点を有し、適量の架橋剤で離型層の架橋度を高めることで高い離型性とハードコート剤塗布液に対する溶剤耐性が得られ、箔こぼれと転写物のクラック抑制という相反する両機能を備える離型層を得ることができる。
【0020】
(フッ化アクリル系共重合体)
本発明の離型層に用いるフッ化アクリル系共重合体は、下記一般式(I)で表されるフルオロアルキルアクリレート成分、下記一般式(II)で表されるフッ素を含まないアクリレート成分および下記一般式(III)で表されるアクリル酸成分とを構成成分とするガラス転移温度60℃以下の共重合体である。それぞれの共重合成分は、さらに後述の例示成分の中から1種または2種以上用いてもよい。
【0021】
【化3】

(式(I)、(II)および(III)において、R〜Rは水素またはメチル基、RX、RYは炭素原子数1〜10の炭化水素基、Rfはフッ素原子数3〜7のフルオロアルキル基をそれぞれ表わす)
【0022】
ここで、フルオロアルキルアクリレート成分にはフルオロアルキルメタクリレート成分も含まれ、またフッ素を含まないアクリレート成分はフッ素を含まないアルキル(メタ)アクリレート成分の総称であり、同様にアクリル酸成分にはメタクリル酸成分も含まれる。また、本発明の共重合体は、モノマー成分としてフルオロアルキルアクリレート、フッ素を含まないアクリレートおよびアクリル酸を用い、これらがポリマー状に共重合化されたものである。
【0023】
フッ化アクリル系共重合体がフルオロアルキル基を含有し、そのフッ素原子数が3以上であることにより離型性能が発現する。また、フルオロアルキル基のフッ素原子数が7以下であれば水への分散性が向上するためエマルジョン化しやすく、また離型力が高くなりすぎるのを抑制できる。かかるフルオロアルキル基のフッ素原子数は好ましくは3〜5である。
【0024】
また、式(I)中、フルオロアルキルアクリレート成分に含まれるRXは炭素原子数1〜10の炭化水素基であり、好ましくは炭素原子数1〜5であり、具体的にはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基などの飽和鎖式炭化水素基、シクロペンチレン基などの飽和脂環式炭化水素基が例示され、特にエチレン基が好ましい。
【0025】
フッ化アクリル系共重合体の共重合成分を構成するフルオロアルキルアクリレート成分の具体例として、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロプロピル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、トリフルオロブチル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレートをモノマー成分とする共重合成分があげられる。かかる成分は水に可溶性または分散性のものが好ましいが、多少の有機溶剤を含有する水に可溶なものも好ましく、特に好ましくはモノマー成分がトリフルオロエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロブチル(メタ)アクリレートであることにより、ポリエステルフィルムとの接着性、ハードコート層との離型性、加工性が向上する。
【0026】
フッ化アクリル系共重合体の他の共重合成分を構成するモノマーとして、上式(II)で表わされるフッ素を含まないアクリレートが挙げられ、アルキル基の炭素原子数が1〜10であるアルキルアクリレートまたはアルキル基の炭素原子数が1〜10であるアルキルメタクリレートの少なくとも1種が例示される。
アルキル基の炭素原子数が1〜10であるアルキルアクリレートとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、などを挙げることができる。これらのうち、アルキル基の炭素原子数が4〜10のアルキルアクリレートが好ましく、特にアクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルが好ましい。これらのモノマー成分は、単独または2種以上を混合して使用してもよい。
【0027】
また前記アルキル基の炭素数が1〜10であるアルキルメタクリレートとしては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、などを挙げることができる。これらのうち、特にメタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシルが好ましい。
さらにフッ化アクリル系共重合体を構成するアクリル酸成分は、アクリル酸、メタクリル酸などのモノマー成分を用いて得られ、安全性や取り扱いやすさからメタクリル酸が好ましい。
【0028】
本発明のフッ化アクリル系共重合体は、共重合体の全モル数を基準としてフルオロアルキルアクリレート成分が5モル%以上89モル%以下であることが好ましく、さらに好ましくは20モル%以上85モル%以下、特に好ましくは30モル%以上80モル%以下である。フルオロアルキルアクリレート成分が下限値に満たないと十分な離型性能が発現しないことがある。一方、フルオロアルキルアクリレート成分が上限値を超える場合は造膜性に乏しくなることがある。
また、フッ素を含まないアクリレート成分は、フッ化アクリル系共重合体の全モル数を基準として10モル%以上94モル%以下であることが好ましく、さらに好ましくは20モル%以上70モル%以下である。さらにアクリル酸成分はフッ化アクリル系共重合体の全モル数を基準として1モル%以上20モル%以下であることが好ましく、さらに好ましくは3モル%以上15モル%以下である。
【0029】
また本発明のフッ素を含まないアクリレート成分として、アルキルアクリレートとアルキルメタクリレートとを併用する場合は、両者の比率には特に制約はないが、フルオロアルキル(メタ)アクリレート中にカルボニル基を含むアクリル系重合体を均一に相溶させるためには、フッ素を含まないアクリレート単量体の合計100重量%に対し、前記アルキルメタクリレートを50重量%以上使用することが好ましい。
【0030】
また、本発明のフッ化アクリル系共重合体は、該共重合体100gに対し、カルボキシル基濃度が30mmol以上200mmol以下であることが好ましい。上記カルボキシル基濃度は、はじめに酸価(フッ化アクリル系共重合体100gに含まれるカルボキシル基を中和させるために必要な水酸化カリウムのmg数)を求め、水酸化カリウムの分子量(g/mol)で割った値で表わされる。ここで、フッ化アクリル系共重合体のカルボキシル基濃度は、塗布層を形成する前のフッ化アクリル系共重合体のカルボキシル基濃度を表わしている。
【0031】
フッ化アクリル系共重合体のカルボキシル基濃度の下限値は40mmol/100gであることがさらに好ましく、特に好ましくは50mmol/100gであり、上限値は195mmol/100gであることがさらに好ましく、特に好ましくは190mmol/100gである。カルボキシル基濃度が上限値を超えると造膜性が大きく低下し、塗布外観が不良となることがある。またカルボキシル基濃度が下限値に満たないと共重合体の架橋点が少ないため離型層の凝集力が十分でなく、ハードコート剤塗布液に対する耐溶剤性、耐薬品性に乏しくなることがあり、また該層の凝集破壊により離型性能および粘着性能が十分に発現しないことがある。
【0032】
本発明のフッ化アクリル系共重合体のガラス転移温度は60℃以下であり、より好ましくは58℃以下である。ガラス転移温度が上限値より高いフッ化アクリル系共重合体を用いた場合、その離型層が成形時のポリエステルフィルムの伸びに追従できずに凝集破壊され、離型層にクラックが発生する。フッ化アクリル系共重合体のガラス転移温度はかかる範囲内でより低い方が好ましいが、ポリマーの性質上、その下限は−20℃に制限され、さらには10℃以上である。フッ化アクリル系共重合体のガラス転移温度の調整は、アクリルモノマー種の選択や配合量を制御して行うことができる。
【0033】
また、本発明で用いるフッ化アクリル系共重合体の重量平均分子量は、好ましくは5000〜1,000,000の範囲であり、より好ましくは100,000〜800,000、特に好ましくは200,000〜600,000である。かかる重量平均分子量が下限値に満たないと離型層の塗膜凝集力が弱く、ハードコート塗布溶剤に対する耐溶剤性に乏しくなることがある。一方、かかる重量平均分子量が上限値を超える範囲では水分散塗液の粘度が高くなりすぎフィルムに均一に塗布し難くなることがある。
【0034】
フッ化アクリル系共重合体の含有量は離型層の重量を基準としては50重量%以上95重量%以下である。またフッ化アクリル系共重合体の添加量の上限値は90重量%であることが好ましく、85重量%であることがさらに好ましく、80重量%であることが特に好ましい。またフッ化アクリル系共重合体の添加量の下限値は55重量%であることが好ましく、60重量%であることがさらに好ましく、65重量%であることが特に好ましい。
フッ化アクリル系共重合体の含有量がかかる範囲内で架橋剤によりアクリル酸のカルボキシル基をはじめとする架橋点で架橋化されることにより、ポリエステルフィルムとの接着性、離型性能、およびハードコート塗布溶剤に対する耐溶剤性が得られる。
【0035】
一方でフッ化アクリル系共重合体の含有量が下限値に満たないとポリエステルフィルムとの接着性、離型性能が十分に発現しないことがある他、相対的に架橋剤の含有量が増える結果、粘着離型層の造膜性が悪くなり塗布外観が悪化したり、転写物の耐クラック性が低下する。
また、フッ化アクリル系共重合体の含有量が上限値を超えると相対的に架橋剤の含有量が少なくなるため粘着離型層の凝集力が低くなり、離型性能が十分に発現せず、転写物の耐クラック性が低下することに加え、ハードコート塗布溶剤に対する耐溶剤性に乏しくなる。
【0036】
本発明のフッ化アクリル系共重合体は、乳化重合により製造することができる。重合開始剤として公知のレドックス系開始剤を用いることができ、例えば過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、t−ブチルハイドロパーオキシドなどを挙げることができる。
乳化重合反応は、用いられるモノマーおよびラジカル重合開始剤の種類、その他の条件に応じた温度および反応時間で行うことができる。重合条件として、例えば重合反応温度50〜90℃、および重合反応時間3〜24時間の条件下で行うことができる。乳化重合は、例えば窒素ガスまたはアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下で行うこともできる。
【0037】
これらのフッ化アクリル系共重合体はエマルジョンの形態であってもよい。あるいは粉末形態であってもよい。フッ化アクリル系共重合体を粉末形態にする方法としては、例えば上記方法などにより調製されたフッ化アクリル系共重合体を乾燥させる方法などが挙げられる。一方、塗布層を簡便かつ大面積に作製できる点からエマルジョン形態が好ましい。
本発明のフッ化アクリル系共重合体は、塗液中で球状の分散相を形成していることが好ましく、かかる分散相の平均粒径は好ましくは0.02〜1.0μm、より好ましくは0.03〜0.5μm、最も好ましくは0.04〜0.2μmである。かかる範囲であれば剥離性、加工性、造膜性、耐久性、防汚性および基材への密着性を得ることができる。
【0038】
(架橋剤)
また、本発明の離型層は、該層の凝集力を向上させるために架橋剤を添加する必要がある。架橋剤を添加しない場合は、離型層の凝集力が十分でなく、本発明のフッ化アクリル系共重合体を含有していても凝集破壊が先に生じてしまい、フッ化アクリル系共重合体による離型性能が十分に発現しない。
架橋剤としては、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、メラミン化合物、イソシアネート化合物を例示することができ、その他一般的にカップリング剤と称される化合物を用いることもできる。取扱い易さや塗液のポットライフが長いことからエポキシ化合物、オキサゾリン化合物を用いることが好ましく、カップリング剤を用いることも好ましい。
【0039】
エポキシ化合物として、ポリエポキシ化合物、ジエポキシ化合物、モノエポキシ化合物などが挙げられ、さらに詳しくはそれらのグリシジルエーテル化合物、グリシジルアミン化合物が例示される。
オキサゾリン化合物として、オキサゾリン基を含有する重合体が好ましい。具体的には付加重合性オキサゾリン基含有モノマー単独もしくは他のモノマーとの重合によって作成できる。付加重合性オキサゾリン基含有モノマーは、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン等を挙げることができ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。これらの中でも2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。他のモノマーについては、付加重合性オキサゾリン基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば特に制限されない。
【0040】
メラミン化合物は、メラミンとホルムアルデヒドを縮合して得られるメチロールメラミン誘導体に、低級アルコールとしてメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等を反応させてエーテル化した化合物及びそれらの混合物が好ましい。メチロールメラミン誘導体としては、例えば、モノメチロールメラミン、ジメチロールメラミン、トリメチロールメラミン、テトラメチロールメラミン、ペンタメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミン等が挙げられる。
【0041】
イソシアネート化合物は、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4´−ジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、1,6−ジイソシアネートヘキサン、トリレンジイソシアネートとヘキサントリオールの付加物、トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの付加物、ポリオール変性ジフェニルメタン−4、4´−ジイソシアネート、カルボジイミド変性ジフェニルメタン−4,4´−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、3,3´−ビトリレン−4,4´ジイソシアネート、3,3´ジメチルジフェニルメタン−4,4´−ジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0042】
架橋剤の含有量は離型層の重量を基準としては5重量%以上50重量%以下であることが好ましい。架橋剤の添加量の上限値はより好ましくは45重量%、さらに好ましくは40重量%、特に好ましくは35重量%である。また架橋剤の添加量の下限値はより好ましくは10重量%、さらに好ましくは15重量%、特に好ましくは20重量%である。架橋剤の含有量が下限値に満たないと離型層の凝集力が低くなり、離型性能が十分に発現せずに転写物の耐クラック性が低下することがあり、またハードコート塗布溶剤に対する耐溶剤性に乏しくなることがある。一方、架橋剤の含有量が上限値を超えると離型層の造膜性が悪くなり塗布外観が低下したり、転写物の耐クラック性が低下することがある。
【0043】
(界面活性剤)
本発明の離型層を構成するフッ化アクリル系共重合体は、塗工時の取扱い易さ、作業環境の面から、水分散液あるいは乳化液の形態で使用するのが好ましい。良好な水分散、乳化液の形態を得るには、界面活性剤の使用が好ましく、塗液の他の成分との分散安定性のため、ノニオン系界面活性剤が特に好ましい。界面活性剤の含有量は、離型層の重量を基準として15重量%以下の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは10重量%以下の範囲であることが好ましく、とくに好ましくは5重量%以下である。上限値を超えるとブリードアウト現象により離型層表面に界面活性剤が局在化し、上に塗られるハードコート剤と界面混合を起こし、本発明の離型層による離型性能が十分に発現しないことがある。
【0044】
[剥離力]
本発明のポリエステルフィルムの離型層に対するハードコート層の剥離力は2.0mN/mm以上12.5mN/mm以下の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは2.5mN/mm以上10.0N/mm以下、さらに好ましくは3.0mN/mm以上8.0mN/mmである。ここで、本発明における剥離力は、離型層上にDICグラフィックス株式会社製のハードコート剤(製品名「5LC114H」)100重量部および該ハードコート剤用硬化剤を3重量部含むハードコート組成物を塗布し、150℃、1分で熱風乾燥して熱により不完全硬化させた後の剥離力を測定した値で表わされる。
【0045】
ポリエステルフィルムの離型層が該ハードコート層との剥離力について上述の剥離力を満足することにより、インモールド転写箔を作成する際にはハードコート塗工剤を離型層上に塗布抜けを生じることなく塗工でき、しかもインモールド転写後の転写箔の剥離性にも優れ、転写物を剥離したときにその転写物にクラック(ひび割れ)現象が発生しない離型特性が発現する。また、このような離型性の高い剥離力ではあるものの、離型層が特定組成のフッ化アクリル系共重合体を所定量含むことでハードコート層との化学的親和性を備え、箔こぼれが抑制される。
【0046】
かかる剥離力が下限値に満たない場合は、化学的親和性を備えていてもスリット加工時の箔こぼれが生じることがある。また、ハードコート塗工剤を離型層上に塗工した際の塗布抜けが生じやすい。一方、かかる剥離力が上限値を超える場合、粘着性能が強く作用し、転写物を剥離したときにその転写物にクラックが生じやすくなる。
かかる剥離力は、上述した成分を含むフッ化アクリル系共重合体を離型層成分として用い、フッ化アクリル系共重合体が一定量のアクリル酸成分を含むことで架橋点を有し、かつ適量の架橋剤で離型層の架橋度を高めることにより得られる。
【0047】
[表面自由エネルギー]
本発明の離型層の表面自由エネルギーは20mN/m以上40mN/m以下であることが好ましい。また離型層の表面自由エネルギーの上限値は35mN/mであることがより好ましく、さらに好ましくは30mN/mである。
離型層の表面自由エネルギーが上限値より大きくなると、ハードコート剤の塗工性は良くなるが粘着力が高くなりすぎ、ハードコート層の離型性に劣ることがある。また粘着離型層の表面自由エネルギーが下限値に満たないと塗工性が低下することがあり、また離型性が良すぎて本発明で必要な剥離力が得られないことがある。
【0048】
本発明におけるかかる表面自由エネルギーは、下記式(1)で表わされるFowkesの拡張式で定義される表面自由エネルギーγ(以下、表面張力と称することがある)で表わされる。
γ=γ+γ+γ ・・・(1)
(上式中、γは分散成分、γは極性成分、γは水素結合成分をそれぞれ表わす)
【0049】
Fowkesの拡張式は、London力に由来する分散成分γ、Debye力(永久双極子モーメント、電荷移動)に由来する極性成分γ、水素結合力に由来する水素結合成分γに着目している点で、表面を形成する組成と表面自由エネルギーとの相関性が高く、さらには剥離力との相関性が高い。従来、離型層の離型力についてはFowkesの式による表面張力で検討されることが多かったが、Fowkesの式は相互作用として分散力しか考慮していなかった。
【0050】
本発明は、かかるFowkesの式では表面を形成する組成と剥離力との相関性が低いことを見出し、従来のFowkesの式による表面張力に代わり、北崎、畑らが考案した(日本接着協会紙8(3)、131〜141(1972))拡張Fowkes式により求めた表面自由エネルギーを用いており、本発明のフッ化アクリル系共重合体を離型層に含有させることにより、かかる表面自由エネルギーを得ることができる。
表面自由エネルギーγを構成する分散力成分γは0mN/mを超え25mN/m以下の範囲であることが好ましい。また、極性成分または双極子成分γは0mN/mを超え10mN/m未満、水素結合成分γは0mN/mを超え5mN/m以下であることが好ましい。
【0051】
[耐クラック性]
本発明の離型層は上述の成分を含むフッ化アクリル系共重合体を離型層成分として用い、フッ化アクリル系共重合体に一定量含まれるアクリル酸成分が架橋点として適量の架橋剤により架橋され、高い離型力を有することで、成型時にハードコート層およびインキ層にかかる応力を緩和し、転写されるハードコート層の耐クラック性が良好なものとなる。
【0052】
本発明におけるクラックとは、ハードコート層と離型層との剥離力が重いと成形加工時に生じる現象である。詳しくはハードコート層を含む転写層を成型同時転写時に、ハードコート層と離型層との剥離力が重いと転写層の一部分に応力がかかり、その転写層の一部が剥離されず、一部分に割れやヒビが生じる現象である。その結果、微小な傷が観察されたり、白く曇ったように観察されたり、さらには割れやヒビが観察される場合もあり、転写箔の装飾性が著しく失われることがある。
かかる現象は、特にハードコート層が不完全硬化状態であるときに生じる。成形同時転写に用いられるハードコート層の硬化手法の1つとして、成形に供する前にまず熱で不完全硬化し、さらに得られた成形品に紫外線照射することにより完全に硬化する方法が挙げられる。かかる不完全硬化状態のハードコート層に対して本発明の剥離力の塗布層を有する離型フィルムを用いてインモールド転写により成型同時転写を行うことで、クラックのない転写物を得ることができる。
【0053】
[耐溶剤性]
本発明の離型層は、上述のフッ化アクリル系共重合体を所定量有し、かつ架橋剤により架橋構造を有していることにより、メチルエチルケトンやメチルイソブチルケトンなどのようなケトン系溶剤や、酢酸エチルなどのエステル系溶剤に対する耐溶剤性に優れている。前記溶剤に対する耐溶剤性に優れることにより、メチルエチルケトンなどを溶剤とするハードコート層を離型層上に形成させた際に溶剤による削れ破壊を抑制することができる。
【0054】
[帯電防止離型層]
本発明の成形用離型ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムの離型層とは反対側の面にさらに帯電防止離型層を設けることが好ましい。かかる帯電防止離型層は塗布により設けられた帯電防止離型性の塗布層であることが好ましく、また帯電防止剤、離型剤を含有することが好ましい。帯電防止離型層は、インモールド用転写材用フィルムにおいて一般に設けられる層であり、帯電による転写箔同士の貼付きなどを抑えるために帯電性のみならず離型性も付与されることが多いが、かかる層上にハードコート層を設けることはなく、帯電防止性以外に求められる機能も通常はフィルム同士の貼り付き防止に必要な離型力だけであって、粘着力は求められておらず、本発明の離型層とは異なる機能層である。
かかる層を有することにより、インモールド用転写箔を取り扱う際に帯電による転写箔同士の貼付きや転写箔表面へのゴミや埃付着の発生を抑えることができる。
【0055】
[塗工方式]
本発明において、離型層はポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に設けられ、片面のみに設けられることが好ましい。該離型層をポリエステルフィルム上に設ける方法として、ポリエステルフィルムの製膜工程内(インラインと称することがある)で塗布することにより形成されることが好ましい。
従来はポリエステルフィルム上に易接着層を形成し、かかるフィルムをいったんロール状にした後、別工程でハードコート層の下地となる離型層をかかる易接着層上に設ける方法が用いられていたのに対し、本方法の特徴は、ポリエステルフィルムの製膜工程内で、本発明の剥離力を備える離型層をポリエステルフィルム上に直接塗設することができ、工程を簡略化できることにある。また、通常の二軸延伸法によるポリエステルフィルム製造工程における縦延伸後に塗布すれば、横延伸工程中に乾燥、熱処理が行われるため好ましい。
【0056】
塗布によりポリエステルフィルム上に離型層を積層する方法は特に限定されず、例えば、原崎勇次著、槙書店、1979年発行、「コーティング方式」に示されるような塗布方法を用いることができる。具体的には、エアドクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、含漬コーター、リバースロールコーター、トランスファーロールコーター、グラビアコーター、キスロールコーター、キャストコーター、スプレーコーター、カーテンコーター、カレンダーコーター、押出コーター、バーコーター等のような方法が挙げられる。
【0057】
塗布液の塗布量は、通常3〜30g/m、好ましくは4〜20g/m、さらに好ましくは5〜10g/mである。また得られた離型層の厚みは、乾燥後の厚みとして好ましくは0.01〜0.2μm、さらに好ましくは0.01〜0.08μmである。離型層の厚みが下限値に満たない場合は離型性が不十分となることがあり、また上限値を超えると成形用離型ポリエステルフィルムが帯電防止離型層をさらに有する場合に帯電防止離型層とのブロッキングを起こし易くなることがある。
【0058】
本発明において、帯電防止離型層をさらに有する場合、帯電防止層はポリエステルフィルムの離型層と反対側の面に設けられることが好ましい。また、帯電防止層は塗布により設けられることが好ましい。塗布方法は離型層と同様の方法を用いることができる。
帯電防止層の厚みは、乾燥後の厚みとして好ましくは0.01〜0.2μm、さらに好ましくは0.01〜0.08μmである。帯電防止層の厚みが下限値に満たない場合は帯電防止性が不十分となることがあり、また上限値を超えるとインモールド用転写箔とのブロッキングを起こし易くなることがある。
【0059】
[成形用離型フィルム]
本発明のポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に特定のフッ化アクリル系共重合体および架橋剤を含有してなる塗布層を離型層として有することにより、インモールド成形などの成形用途に用いた場合に、インモールド転写箔作製工程から成形転写に至る間で優れた粘着離型性および加工性を有しており、ハードコート剤の塗布や該ハードコートの剥離、さらにスリット加工の際の箔こぼれ、屑、箔塵の発生、および発生した屑・箔塵の製品表面付着を抑制することができ、生産性を格段に向上させることができる。また、本発明のポリエステルフィルムを、インモールド成形などの成形用途に用いることにより、転写物を剥離したときにその転写物にクラック(ひび割れ)現象が発生しない効果を奏する。
また従来は、フィルム製造工程でポリエステルフィルム上に易接着層を積層した後、さらに別工程で該易接着層上に有機溶剤組成の離型剤を塗布した離型層を積層する工程であったところ、本発明の離型層は工程の簡略化、環境低付加、低コスト化の効果をも奏するものである。
【0060】
本発明の成形用離型ポリエステルフィルムは、離型層と反対面にさらに帯電防止成分を含有してなる離型性の塗布層を有することにより、インモールド転写を行う成形用途に用いた場合に、インモールド転写箔作成過程から成形転写に至る間で優れた帯電防止性及び離型性をも有しており、帯電やブロッキングによる転写箔同士の貼付きや転写箔表面へのゴミや埃などの付着を抑制することができ、生産性を格段に向上させることができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。なお、各種物性は下記の方法により評価した。またwt%は重量%を、部は重量部をそれぞれ表わす。
【0062】
(1)ガラス転移温度測定
示差走査熱量計(セイコーインスツルメント社製DSC SSC5200)を使用して、離型層用の塗布液の乾固物をサンプルとして用い、サンプル量5mgを測定用のアルミニウム製パンに封入し、窒素雰囲気下、20℃/minの昇温条件で25℃から300℃まで昇温させてDSC測定を行い、フッ化アクリル系共重合体のガラス転移温度を測定した。
【0063】
(2)塗布層の成分
H−NMR、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析(熱分解GC−MS)、X線光電子分光法(ESCA)測定より、塗布層の各成分の種類および成分量を特定した。
【0064】
(3)塗布層厚み
包埋樹脂でフィルムを固定して断面をミクロトームで切断し、2%オスミウム酸で60℃、2時間染色して、透過型電子顕微鏡(日本電子製JEM2010)を用いて、塗布層の厚みを測定した。
【0065】
(4)離型層に対するハードコート層剥離力の測定
ポリエステルフィルムの離型層の表面に、以下に示した熱硬化性のハードコート剤を含むハードコート剤塗布液を乾燥後の厚みが5μmとなるように塗布し、150℃、1分間、熱風オーブンで乾燥し、不完全硬化の状態のハードコート層を作製した。
作製したハードコート層の表面に幅18mmの粘着テープ(ニチバン社製、商品名「No.405−1P」)を貼り合わせた後、金属ローラー(線圧2kg/cm)で圧着した。室温にて30分放置した後、粘着テープをハードコート層と共に剥離し、その時の剥離力を測定した。測定は引張試験機を使用し、引張速度300mm/minの条件下、90°剥離の条件で行った。n=5で評価を行い、その平均値を求めてハードコート層剥離力とした。
(ハードコート剤塗布液)
ハードコート剤としてDICグラフィックス株式会社製のハードコート剤(製品名「5LC114H」)100重量部および該ハードコート剤用硬化剤を3重量部調製し、溶媒としてMEK(メチルエチルケトン)を用いて不揮発成分が30%のハードコート剤塗布液を調製した。
【0066】
(5)表面自由エネルギー
23℃、65%RHの条件下で、24時間調湿したフィルムサンプルの離型層表面について、自動接触角測定装置(協和界面化学(株)社製)を使用して、水、ヨウ化メチレン、n−ヘキサデカンとの静的接触角を測定した。各液体試料についてそれぞれ5回ずつ測定を行い、その平均値をフィルムサンプルの接触角とし、各液体試料の表面張力および表面張力成分値(表1)を用いて、下記式(I)のFowkesの拡張式より離型層表面の表面自由エネルギーを算出した。
γ=γ+γ+γh ・・・(1)
(上式中、γは分散成分、γは極性成分、γは水素結合成分をそれぞれ表わす)
【0067】
【表1】

【0068】
(6)ハードコート剥離時の箔こぼれ性
離型層のハードコート層剥離力測定試験において、ハードコート層を粘着テープで剥離した際に粘着テープに引きつられて、余計に剥離されたハードコート層の箔こぼれ発生有無を観察し、評価を行った。
○ : 粘着テープ幅と同じ幅でハードコート層が剥離
△ : 部分的に粘着テープ幅より広くハードコート層が剥離
× : 全体的にテープ幅より広くハードコート層が剥離
【0069】
(7)溶剤ラビング試験
JIS−K5600−8の塗膜劣化評価に従い、ガーゼにメチルエチルケトンを染み込ませ、離型層上にガーゼを載せてその上に総荷重150g(治具の重量150g、追荷重0g)の荷重を負荷しながら塗布層の表面上を1往復させた後、表面に観察された塗布層の剥がれた塗膜幅、傷を観察し、下記の基準で耐溶剤性の評価をした。評価は溶剤ラビング試験を行った部分のうち、2cm×10cmの範囲で観察した。
◎ : 剥離、擦傷とも皆無 ・・・・・・ 溶剤耐性極めて良好
○ : 剥離皆無、擦傷少しあり ・・・・・・ 溶剤耐性良好
△ : 剥離少しあり、擦傷あり ・・・・・・ 溶剤耐性やや良好
× : 剥離あり、擦傷あり ・・・・・・ 溶剤耐性不良
【0070】
(8)耐クラック性
(4)離型層に対するハードコート層剥離力測定と同じ条件でポリエステルフィルムの離型層の表面にハードコート層を作成し、(4)と同じ条件で粘着テープをハードコート層表面に圧着させたサンプルを用い、引張試験機を使用して、引張速度300mm/minの条件下、90°剥離の条件で粘着テープをハードコート層と共に剥離した。剥離後、粘着テープに張り付いたハードコート層を(株)日立製走査型電子顕微鏡で観察を行った。
○ : 剥離したハードコート層にひび割れが観察されなかった。
△ : 剥離したハードコート層に一部ひび割れが観察された。
× : 剥離したハードコート層にひび割れが観察された。
【0071】
(9)離型層のヘーズ
JIS K7136に準じ、日本電色工業社製のヘーズ測定器(NDH−2000)を使用して、下記式(2)より離型層のヘーズを測定した。式中、フィルムヘーズとは、ポリエステルフィルム上に離型層が形成されたフィルム全体のヘーズ値であり、離型層未塗工フィルムヘーズとは、離型層を塗工していない状態でのフィルムヘーズを指す。
帯電防止離型層のヘーズ=フィルムヘーズ−離型層未塗工フィルムヘーズ ・・・(2)
A : 0.1%以上 0.4%未満
B : 0.4%以上 0.8%未満
C : 0.8%以上
この評価で、Aまでが実用性能を満足する。
【0072】
(10)フッ化アクリル系共重合体の酸価(カルボキシル基濃度)
フッ化アクリル系共重合体の酸価(カルボキシル基濃度)について、JIS K0070に従い、中和滴定法を用いた測定で行った。フッ化アクリル系共重合体0.15gを精秤し、ベンジルアルコール5mlを加えて加熱溶解した。これにクロロホルム10mlを混合した後、フェノールレッドを指示薬として加え、撹拌しながら0.1N−KOHベンジルアルコール溶液で中和滴定をおこない、中和に消費されたKOHのmg数を、樹脂100gあたりに換算した値を酸価(カルボキシル基濃度,mmol/100g)として求めた。
【0073】
[実施例1]
平均粒子径が2μmの酸化ケイ素の粒子を0.01wt%を含む溶融ポリエチレンテレフタレート([η]=0.64dl/g、Tg=78℃)をダイより押出し、常法により冷却ドラムで冷却して未延伸フィルムとし、次いで縦方向に3.4倍に延伸した後、表1に示す塗布層構成成分からなる離型層用塗布液(4wt%塗布液)をフィルムの表面に6g/m(乾燥後の塗布層厚み0.04μm)、帯電防止離型層用塗布液(2.0wt%塗布液)をフィルムの裏面に6g/m(乾燥後の塗布層厚み0.02μm)になるよう、それぞれロールコーターで均一に塗布した。
次いで、この塗布フィルムを引き続いて105℃で乾燥し、140℃で横方向に3.5倍に延伸し、更に220℃で熱固定して、表1に示す塗膜を有する50μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0074】
[実施例2〜3、比較例1〜6]
塗布液の組成を表2に示されるとおりに変更した以外は実施例1と同様にして、積層ポリエステルフィルムを得た。
【0075】
【表2】

【0076】
(離型層組成)
・フッ化アクリル系共重合体A(トリフルオロエチルメタクリレート−ブチルメタクリレート−2−エチルヘキシルメタクリレート−メタクリル酸共重合体;ガラス転移温度 57℃):
トリフルオロエチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、メタクリル酸、そして乳化剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩で構成されている。
すなわち、四つ口フラスコにイオン交換水1050重量部、および乳化剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩22.6重量部を仕込んで窒素気流中で80℃まで昇温させ、次いで重合開始剤として過硫酸アンモニウム6.4部添加し、更にモノマーであるトリフルオロエチルメタクリレート98.4重量部、n−ブチルメタクリレート8重量部、2−エチルヘキシルメタクリレート35重量部、メタクリル酸6.2重量部を3時間にわたり液温が70〜80℃になるよう調製しながら滴下し、滴下終了後も同温度を5時間保持しつつ、攪拌下に反応を継続させ、次いで冷却し、真空乾燥機で乾燥させて平均粒径0.06μmの不揮発成分重量35%のフッ化アクリル系共重合体水分散体を得た。このフッ化アクリル系共重合体は、モノマー成分がトリフルオロエチルメタクリレートである共重合成分が共重合体の全繰り返し単位を基準として78モル%であり、またモノマー成分がn−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、メタクリル酸である共重合成分の合計量が共重合体の全繰り返し単位を基準として22モル%であった。
・フッ化アクリル系共重合体B(トリフルオロエチルメタクリレート−ブチルメタクリレート−2−エチルヘキシルメタクリレート−メタクリル酸共重合体;ガラス転移温度 27℃):
トリフルオロエチルメタクリレートを43重量部、2−エチルヘキシルメタクリレートを57重量部、n−ブチルメタクリレートを35重量部、メタクリル酸を7重量部に変更した以外はフッ化アクリル系共重合体Aと同様の合成手法でフッ化アクリル系共重合体Bを得た。
・フッ化アクリル系共重合体C:
フッ化アクリルエマルジョン(日本ペイント株式会社製、商品名「FS−701E」、ガラス転移温度80℃)
・フッ化アクリル系共重合体D:
CF(CFCHCHOCOCH=CH(nの平均=9)80.0g、およびアセトアセトキシエチルメタクリレート20.0gを原料として含むフッ素含有樹脂エマルジョン(ガラス転移温度−24℃)
・アクリル系ポリマー:
アクリルエマルジョン(東亜合成株式会社製、商品名「アロンA−106」、ガラス転移温度10℃)
・架橋剤 : オキサゾリン化合物(株式会社日本触媒製、商品名「エポクロスWS−300」)
・界面活性剤 : ポリオキシエチレン(n=7)ラウリルエーテル(三洋化成株式会社製、商品名「ナロアクティーN−70」)
【0077】
(帯電防止離型層組成)
・ シリコーン成分 : エポキシ基含有シリコーン(GE東芝シリコーン株式会社製 商品名TSF4730)
・カチオンポリマー :
下記式(IV)に示す構造が80モル%/メチルアクリレート15モル%/N−メチロールアクリルアミド5モル%からなる共重合体を用いた。
【化4】

(上式中、R、RはそれぞれHであり、Rは炭素原子数が3のアルキレン基であり、R、Rはそれぞれ炭素原子数が1の飽和炭化水素基であり、Rは炭素原子数が3のヒドロキシアルキレン基であり、Yはメチルスルホネートイオンである)
・架橋剤 : オキサゾリン化合物(株式会社日本触媒製、商品名「エポクロスWS−300」)
・界面活性剤 : ポリオキシエチレン(n=7)ラウリルエーテル(三洋化成株式会社製 商品名「ナロアクティーN−70」)
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のポリエステルフィルムは、成形用離型ポリエステルフィルムとして好適に使用することができる。具体的には、インモールド転写を伴う成形用途に本発明のポリエステルフィルムを用いることにより、優れたハードコート加工性および剥離性を有し、さらに転写物のクラック現象が抑制され、しかも適切な幅で切断(スリット)した際、箔こぼれ現象が抑制されるため、従来の転写箔のように離型層を被転写物に適した塗工パターンで形成する必要がなく、転写箔全面に離型層を塗工することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの少なくとも片面に離型層を有し、該離型層が下記一般式(I)で表されるフルオロアルキルアクリレート成分、下記一般式(II)で表されるフッ素を含まないアクリレート成分および下記一般式(III)で表されるアクリル酸成分とを構成成分とするガラス転移温度60℃以下の共重合体および架橋剤を含有し、
【化1】

(式(I)、(II)および(III)において、R〜Rは水素またはメチル基、RX、RYは炭素原子数1〜10の炭化水素基、Rfはフッ素原子数3〜7のフルオロアルキル基をそれぞれ表わす)
前記共重合体の含有量が該離型層の重量を基準として50重量%以上95重量%以下であることを特徴とする成形用離型ポリエステルフィルム。
【請求項2】
該共重合体の全モル量を基準として該フルオロアルキルアクリレート成分が5モル%以上89モル%以下である請求項1記載の成形用離型ポリエステルフィルム。
【請求項3】
該共重合体のカルボキシル基濃度が30mmol/100g以上200mmol/100g以下である請求項1または2に記載の成形用離型ポリエステルフィルム。
【請求項4】
該離型層に対するハードコート層の常態剥離力が2.0mN/mm以上12.5mN/mm以下である請求項1〜3のいずれかに記載の成形用離型ポリエステルフィルム。
【請求項5】
該離型層がポリエステルフィルム上に直接設けられてなる請求項1〜4のいずれかに記載の成形用離型ポリエステルフィルム。
【請求項6】
該離型層の表面自由エネルギーが20mN/m以上40mN/m以下である請求項1〜5のいずれかに記載の成形用離型ポリエステルフィルム。
【請求項7】
該離型層がポリエステルフィルムの製膜工程内で塗布することにより形成される請求項1〜6のいずれかに記載の成形用離型ポリエステルフィルム。
【請求項8】
ポリエステルフィルムの該離型層と反対側の面にさらに帯電防止離型層を有する請求項1〜7のいずれかに記載の成形用離型ポリエステルフィルム。
【請求項9】
インモールド成形用である請求項1〜8のいずれかに記載の成形用離型ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2012−218392(P2012−218392A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89184(P2011−89184)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】