説明

成熟肝細胞様細胞の製造方法

【課題】本発明は、成熟度の高い肝細胞様細胞の製造方法の提供を課題とする。あるいは本発明は、本発明によって製造することができる肝細胞様細胞と、その用途の提供を課題とする。
【解決手段】オンコスタチンM、デキサメタゾン、およびTGF-βの存在下で間葉系幹細胞を培養することによって、成熟肝細胞様細胞への分化を誘導する、成熟肝細胞様細胞の製造方法が提供された。本発明によって得られる成熟肝細胞様細胞は、肝臓細胞の細胞機能や形態上の特徴を備える。更にHCVなどの肝炎ウイルスを感染も確認された。本発明のヒト肝細胞様細胞は、被験化合物の代謝や肝毒性の評価に有用である。また、本発明のヒト肝細胞様細胞は、肝疾患治療剤、肝炎ウイルス感染阻害剤、ウイルス性肝炎治療剤のスクリーニング等にも利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成熟肝細胞様細胞(mature hepatocyte-like cells)に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞は、さまざまなタイプの細胞に分化する能力を有する細胞である。例えば、肝臓、筋肉、神経、皮膚、あるいは血液細胞などに分化する能力を有する細胞が知られている。再生医療への応用のために、幹細胞から特定の臓器機能を持つ細胞を効率的に分化誘導する方法が切望されている。
特に幹細胞から肝細胞様細胞(hepatocyte-like cells)への分化誘導は生物学的な人工肝臓( biological artificial liver)の開発や、細胞移植治療(Cell Transplantation therapy)への応用などが期待される。細胞移植治療は、肝不全、肝炎などの疾患に対する治療方法として有用である。また創薬においても、肝細胞様細胞は、薬物の代謝や毒性のアッセイ系やスクリーニング系に利用することができる。
【0003】
幹細胞から肝細胞を分化誘導する方法としては、負傷した動物の再生能力を利用する方法や、細胞の共培養を利用する方法が知られている。しかし、機能的肝細胞を多量に生産するためには、in vitroにおいて、幹細胞から肝細胞への分化を誘導できる培養系が望ましい。in vitroにおける肝細胞への分化について、種々の試みが報告されている。
【0004】
宮島らは、胎児由来の未熟肝細胞をオンコスタチンM(oncostatin M; OSM)およびデキサメタゾンを用いて培養することによって、肝細胞様細胞と分化を誘導する方法を開示している。あるいは、細胞外マトリクス存在下でOSMおよびグルココルチコイドを加えて胎児由来の未熟肝細胞を培養することによって、肝細胞様細胞への分化が観察された(非特許文献1、特許文献1−2)。
【0005】
また、寺岡らは、次のような増殖因子(growth factor)や分化誘導因子(differentiation inducing factor)を使って、ヒト臍帯血から分離・調製した有核細胞から、ヒトアルブミン遺伝子およびヒトアルブミンを発現する培養細胞が得られることを確認している(非特許文献2)。アルブミンの発現は、肝細胞の特徴の一つである。寺岡らの報告においては、特に、FGF、HGF、LIF、およびSCFの組み合わせにおいて、最も良好な成績が得られた。
ヒト白血病抑制因子(leukemia inhibitory factor; LIF)、
ヒト幹細胞因子(Stem cell factor; SCF)、
繊維芽細胞成長因子(fibroblast growth factor; FGF)、
ヒト肝細胞成長因子(Hepatocyte growth factor; HGF)、
OSM、および
デキサメタゾン等
【0006】
あるいは、落谷らは、胚性幹細胞(embryonic stem cell;ES cell)、あるいは骨髄由来間葉系幹細胞(bone marrow derived mesenchyma stem cells; BM hMSC)から、肝細胞様細胞を分化誘導する方法を開示している。この報告においては、OSM、HGF、およびFGFが、必須の分化増殖因子として用いられた(特許文献4)。胚性幹(ES)細胞はマウス、ラット、およびサル由来の細胞が、また骨髄由来間葉系幹細胞にはヒト由来の細胞が用いられた。
【0007】
Leeら(非特許文献3、特許文献6)は、2段階の分化誘導方法によって、骨髄由来間葉系幹細胞(BM hMSC)から肝細胞様細胞への分化を誘導する方法を開示している。第1段階ではHGFを、そして第2段階の成熟用培地においてはOSMを必須因子とする培地がそれぞれ用いられた。
また、Hong et al.ら(非特許文献5)はLeeらの方法(非特許文献7)にならって臍帯血幹細胞からの肝細胞様細胞の分化誘導を確認している。
【0008】
【特許文献1】Miyajima, et al: JP2000/287680
【特許文献2】Miyajima, et al: WO02/074937
【特許文献3】Miki, et al: JP2005-523328
【特許文献4】Ochiya, et al: JP2005-245200
【特許文献5】Tomisawa,: JP2005-253374
【特許文献6】Lee, et al: US 2005/0233449 A1
【非特許文献1】Miyajima, et al: EMBO J. Vol.16, No.8, pp.2127-2136(1999)
【非特許文献2】Teraoka, et al: JP2002-360243
【非特許文献3】Lee et al, et al: HEPATOLOGY vol.40:1275-1284 (2004) 1153-1161
【非特許文献4】S-E Yang, et al: Cytotherapy Vol. 6, No. 5, 476-486 /486(2004)
【非特許文献5】S.H.Hong, et al: Biochemical and Biophysical Research Communications 330 (2005)
【非特許文献6】K.Teramoto et al.: J Hepatobiliary Pancreat Surg (2005) 12:196-202
【非特許文献7】Lee et al, et al: Blood vol.103:1669-1675 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、成熟度(maturity)の高い肝細胞様細胞の製造方法の提供を課題とする。あるいは本発明は、本発明によって製造することができる肝細胞様細胞と、その用途の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従来は、幹細胞からの肝細胞様細胞への分化誘導には、肝細胞成長因子(HGF)が不可欠であると考えられてきた。しかし、本発明者は、HGFの不存在下においても、特定の増殖分化因子を利用することによって成熟肝細胞様細胞への充分な分化が誘導できることを見出した。そして、この知見に基づいて、成熟度の高い肝細胞様細胞の製造方法を確立し、本発明を完成した。すなわち本発明は、以下の肝細胞様細胞の製造方法、並びに当該製造方法によって得ることができる肝細胞様細胞と、その各種の用途に関する。
【0011】
〔1〕オンコスタチンM、デキサメタゾン、およびTGF-βの存在下で間葉系幹細胞を培養し、間葉系幹細胞を成熟肝細胞様細胞に分化させる工程を含む、成熟肝細胞様細胞の製造方法。
〔2〕間葉系幹細胞が、臍帯血、骨髄、脂肪組織、胎盤、および抹消血からなる群から選択されるいずれかの組織に由来する間葉系幹細胞である〔1〕に記載の成熟肝細胞様細胞の製造方法。
〔3〕間葉系幹細胞が、臍帯血に由来する間葉系幹細胞である〔2〕に記載の成熟肝細胞様細胞の製造方法。
〔4〕間葉系幹細胞が、骨髄に由来する間葉系幹細胞である〔2〕に記載の成熟肝細胞様細胞の製造方法。
〔5〕間葉系幹細胞が、少なくとも6日間培養される〔1〕に記載の成熟肝細胞様細胞の製造方法。
〔6〕オンコスタチンM、デキサメタゾン、およびTGF-βの間葉系幹細胞を培養するための培地における濃度が、それぞれ1〜100ng/mL、0.1〜10μM、そして0.2〜20ng/mLである〔1〕に記載の成熟肝細胞様細胞の製造方法。
〔7〕〔1〕〜〔6〕に記載のいずれかの方法によって製造することができる成熟肝細胞様細胞。
〔8〕〔1〕〜〔6〕に記載のいずれかの方法によって製造することができる成熟肝細胞様細胞を含む、肝臓疾患の治療剤。
〔9〕次の工程を含む、被験化合物の肝における代謝を検出する方法であって、成熟肝細胞様細胞が、オンコスタチンM、デキサメタゾン、およびTGF-βの存在下で間葉系幹細胞を培養することによって、間葉系幹細胞から分化した成熟肝細胞様細胞である方法;
(1) 成熟肝細胞様細胞に被験化合物を接触させる工程、および
(2) 成熟肝細胞様細胞における被験化合物の代謝を検出する工程。
〔10〕次の工程を含む、被験化合物の肝毒性を検出する方法であって、成熟肝細胞様細胞が、オンコスタチンM、デキサメタゾン、およびTGF-βの存在下で間葉系幹細胞を培養することによって、間葉系幹細胞から分化した成熟肝細胞様細胞である方法;
(1) 成熟肝細胞様細胞に被験化合物を接触させる工程、および
(2) 成熟肝細胞様細胞の障害が検出されたときに被験化合物の肝毒性が検出される工程。
〔11〕次の工程を含む、肝疾患の治療剤のスクリーニング方法であって、成熟肝細胞様細胞が、オンコスタチンM、デキサメタゾン、およびTGF-βの存在下で間葉系幹細胞を培養することによって、間葉系幹細胞から分化した成熟肝細胞様細胞である方法;
(1) 成熟肝細胞様細胞に被験化合物を接触させる工程、
(2) 被験化合物を接触させた成熟肝細胞様細胞の機能を測定する工程;および
(3) 対照と比較して、成熟肝細胞様細胞の機能を亢進させる作用を有する化合物を選択する工程。
〔12〕次の工程を含む、肝炎ウイルスの感染阻害剤のスクリーニング方法であって、成熟肝細胞様細胞が、オンコスタチンM、デキサメタゾン、およびTGF-βの存在下で間葉系幹細胞を培養することによって、間葉系幹細胞から分化した成熟肝細胞様細胞である方法;
(1) 成熟肝細胞様細胞に被験化合物の存在下で肝炎ウイルスを接触させるか、または成熟肝細胞様細胞に肝炎ウイルスを接触させた後に被験化合物を接触させる工程、
(2) 成熟肝細胞様細胞への肝炎ウイルスの感染のレベルを測定する工程;および
(3) 対照と比較して、成熟肝細胞様細胞への肝炎ウイルスの感染レベルが低い化合物を選択する工程。
〔13〕次の工程を含む、ウイルス性肝炎の治療剤のスクリーニング方法であって、成熟肝細胞様細胞が、オンコスタチンM、デキサメタゾン、およびTGF-βの存在下で間葉系幹細胞を培養することによって、間葉系幹細胞から分化した成熟肝細胞様細胞である方法;
(1) 肝炎ウイルスを感染させた成熟肝細胞様細胞に被験化合物を接触させる工程、
(2) 成熟肝細胞様細胞における肝炎ウイルスの増殖を測定する工程;および
(3) 対照と比較して、肝炎ウイルスの増殖の阻害作用が検出された化合物を選択する工程。
〔14〕成熟肝細胞様細胞に肝炎ウイルスを感染させる工程を含む肝炎ウイルスの培養方法であって、成熟肝細胞様細胞がオンコスタチンM、デキサメタゾン、およびTGF-βの存在下で間葉系幹細胞を培養することによって、間葉系幹細胞から分化した成熟肝細胞様細胞である肝炎ウイルスの培養方法。
〔15〕オンコスタチンM、デキサメタゾン、およびTGF-βを含む、間葉系幹細胞から成熟肝細胞様細胞への分化誘導試薬。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、成熟肝細胞様細胞を製造する方法が提供された。本発明の方法は、間葉系幹細胞から成熟肝細胞様細胞への分化を短時間のうちに誘導することができる。たとえば肝臓特異的な遺伝子の発現を肝細胞様細胞の成熟度の指標とした場合、従来、幹細胞を成熟肝細胞様細胞に分化させるためには、少なくとも数週間の培養が必要とされていた。ところが驚くべきことに、本発明の方法においては、培養開始後6日間という非常に短期間の内に成熟肝細胞特異的な遺伝子発現を確認することができる。
【0013】
本発明によって得ることができる肝細胞様細胞は、細胞の形態的な特徴についても、肝細胞との高い相同性を有する。更に、本発明によって得ることができる肝細胞様細胞は、細胞機能の点においても、肝細胞の特徴を備える。具体的には、本発明の肝細胞様細胞は、好ましい態様において、肝細胞に特徴的な次のような機能を有することが確認されている。
肝細胞に特異的な遺伝子が高く発現している、
糖代謝、
アルブミン産生、および
CYP活性
加えて、好ましい態様において、本発明の肝細胞様細胞には、C型肝炎ウイルスを感染させることができる。この事実は、本発明によって得ることができる肝細胞様細胞の成熟度が高く、ヒト成熟肝細胞に高度に類似した細胞であることを裏付けている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、オンコスタチンM、デキサメタゾン、およびTGF-βの存在下で間葉系幹細胞を培養し、間葉系幹細胞を成熟肝細胞様細胞に分化させる工程を含む、成熟肝細胞様細胞の製造方法に関する。
【0015】
本発明において、間葉系幹細胞は、ヒトを含む哺乳動物由来の間葉系幹細胞が用いられる。好ましい間葉系幹細胞は、ヒト間葉系幹細胞である。間葉系幹細胞(MSC)は、脂肪細胞をはじめとして、軟骨細胞、骨細胞、心筋細胞、ニューロンといった多様な細胞への分化能を有していることが報告されている。胎児にしかない胚性幹細胞と異なり,組織幹細胞の一種である間葉系幹細胞は、患者の組織から分離することができる。そのため、再生医療の素材として注目されている。
【0016】
本発明における間葉系幹細胞が由来する組織は限定されない。間葉系幹細胞は、血液細胞以外の細胞に分化する骨髄幹細胞として見出された細胞である。その後、骨髄の他、脂肪組織、胎盤、臍帯血、末梢血、そして歯牙組織にも間葉系幹細胞が存在することが明らかにされた。これらの、骨髄以外の組織に由来する間葉系幹細胞も、本発明に利用することができる。たとえば、ヒト臍帯血、およびヒト骨髄由来の間葉系幹細胞は、本発明における好ましい間葉系幹細胞である。骨髄は、胎児から成体にいたる任意の生育ステージの個体から得ることができる。したがって、本発明に基づいて、自家移植用の成熟肝細胞様細胞を得ることができる。
【0017】
間葉系幹細胞を分離する方法は公知である。たとえば、間葉系幹細胞を細胞表面マーカー(CD271)を指標として回収することができる。CD271に対する抗体を利用して、ヒト間葉系幹細胞を分離するためのキット「間葉系幹細胞・分離培養Box - CD271(LNGFR)」 (ミルテニーバイオテク社製、商品名)も市販されている。あるいは、市販の、予め分離された間葉系幹細胞を本発明に利用することもできる。
【0018】
更に、間葉系幹細胞は、分化のみならず、未分化のまま増殖させることができる。したがって、分離した間葉系幹細胞を増殖させて本発明に利用することができる。本発明において、分化前に間葉系幹細胞を増殖させることは好ましい。間葉系幹細胞は、間葉系幹細胞増殖用培地として市販されている培地を使って増殖させることができる。具体的には、MF培地(TOYOBO社、日本)、MSCG培地(Cambrex社、米国)などを、間葉系幹細胞の増殖に利用することができる。あるいは、ウシ血清を含むαMEM培地を間葉系幹細胞の増殖に用いることもできる。間葉系幹細胞は、細胞培養において一般的な条件で培養することによって増殖させることができる。例えば、約5%程度のCO2を含有する加湿大気中37℃におけるインキュベーションを一般的な培養条件として示すことができる。間葉系幹細胞の増幅を目的とする培養には、コラーゲンのコーティングの無い培養容器を用いるのが一般的である。
【0019】
本発明の成熟肝細胞様細胞の製造方法において、間葉系幹細胞は、オンコスタチンM、デキサメタゾン、およびTGF-βの存在下で培養される。本発明において、間葉系幹細胞を培養するための培地におけるオンコスタチンMの濃度は、通常1ng/ml〜100ng/ml、好ましくは5ng/ml〜50ng/mlである。同様に、デキサメタゾンの濃度は、通常0.1μM〜10μM、好ましくは0.5μM〜5μMである。そしてTGF-βの濃度は、通常0.2ng/ml〜20ng/ml、好ましくは1ng/ml〜10ng/mlである。
【0020】
オンコスタチンM(Oncostatin M)は、IL-6ファミリーのサイトカインの一種である。ヒトのメラノーマ(黒色腫)細胞株の増殖を抑制する因子としてオンコスタチンMが同定された(Proc. Natl, Acad. Sci. USA Vol. 83, pp. 9739-9743, December 1986)。血液細胞や幹細胞の分化への関与についても多くの報告がある。ヒトのオンコスタチンMは、252アミノ酸からなる分子量約 26kDのタンパク質である。分泌シグナルを含み、プロセシングによりN末端の25アミノ酸残基が除去されて227アミノ酸残基からなる成熟タンパク質となる。更にC末端側の31アミノ酸残基が除去された、196アミノ酸残基からなる分子量約22kDaの成熟タンパク質の存在も知られている。これらの成熟タンパク質の生理活性は、前駆タンパク質よりも5〜60倍高いとされている(Linsley, et al., 1990, Mol. Cell. Biol. 10:1882 - 1890)。配列番号:13にヒトオンコスタチンMのアミノ酸配列(GenBank Accession No. AAA36388)を示す。配列番号:13のアミノ酸配列252残基中、N末端側から26−252位の227残基、あるいは26−221位の196残基が、ヒトオンコスタチンMの成熟タンパク質に相当する。
【0021】
オンコスタチンMの前駆タンパク質と成熟タンパク質は、いずれも細胞に対して同様の作用を持つ。したがって、本発明におけるオンコスタチンMは、前駆タンパク質および成熟タンパク質のいずれか、あるいは両方を利用することができる。しかし本発明における好ましいオンコスタチンMは、より生理活性の高い成熟型のオンコスタチンM(配列番号:13における26−221位の196アミノ酸)である。なお先に例示したオンコスタチンMの培地中の濃度は、前駆タンパク質としての使用量である。したがって、もしも前駆タンパク質に代えて成熟タンパク質を用いる場合には、培地中におけるオンコスタチンMの濃度は、0.8ng/mL〜85ng/mL、好ましくは4.3ng/mL〜43ng/mL程度とすることができる。
【0022】
本発明におけるオンコスタチンMは、前駆細胞として培養される間葉系幹細胞の成熟肝細胞様細胞への分化を誘導する限り、その由来は限定されない。以下に、現在までに明らかにされているオンコスタチンMのアミノ酸配列を例示する。
ヒトのオンコスタチンM:GenBank Accession No. AAA36388、AAB21666、AAD31435、NP_003990
マウスのオンコスタチンM:GenBank Accession No. NP_035707、AAH13738
【0023】
デキサメタゾン(Dexamethasone; 9-フルオロ‐11β,17,21‐トリヒドロキシ‐16α‐メチル‐プレグナ‐1,4‐ジエン‐3,20‐ジオン; CAS Registration No. 50-02-2)は、グルココルチコイド様の生理作用を有する合成ステロイドである。ステロイドホルモンと同様に、受容体とともに核内に移行し、転写の調節に関与すると考えられている。収れん薬、鎮痛薬、消炎薬、眼科用薬、かゆみ止め、消化器作用薬などとして臨床的に用いられる化合物である。
【0024】
本発明においては、デキサメタゾンに代えて、同様の作用を有するデキサメタゾンの誘導体を利用することもできる。たとえば、デキサメタゾンと酸のエステルが、デキサメタゾンと同様の生理活性を持つことが知られている。たとえば次に示す誘導体またはその塩は、本発明におけるデキサメタゾンとして利用することができる。
−酢酸デキサメタゾン(9‐フルオロ‐11β,17,21‐トリヒドロキシ‐16α‐メチルプレグナ‐1,4‐ジエン‐3,20‐ジオン21‐アセタート; CAS Registration No. 1177-87-3);
−プロピオン酸デキサメタゾン(9‐フルオロ‐3,20‐ジオキソ‐16α‐メチルプレグナ‐1,4‐ジエン‐11β,17,21‐トリオール21‐プロピオナート);
−デキサメタソンりん酸ナトリウム(りん酸9α‐フルオロ‐11β,17α‐ジヒドロキシ‐16α‐メチル‐3,20‐ジオキソ‐1,4‐プレグナジエン‐21‐イル二ナトリウム; CAS Registration No. 2392-39-4);
【0025】
トランスフォーミング増殖因子β(transforming growth factor-beta;TGF-β)は、二量体構造を持つタンパク質で、哺乳類では構造の類似した3種類のアイソフォームの存在が知られている。これらのアイソフォームは、それぞれβ1、β2、およびβ3と呼ばれている。以下、特に断らない限り、「TGF-β」は、これらのアイソフォームの全てを含む用語として用いる。これらのアイソフォームは、いずれも本発明に利用することができる。以下に、現在までに明らかにされているTGF-βのアミノ酸配列を例示する。ヒトTGF-β1のアミノ酸配列(GenBank Accession No. AAQ18641)を、配列番号:14に示した。配列番号:14のアミノ酸配列中、N末端側の6残基を欠いた112残基(7−118位)がヒトTGF-β1の成熟タンパク質のアミノ酸配列である。配列番号:14のアミノ酸配列中、N末端側112残基のアミノ酸配列を含むタンパク質は、本発明におけるTGF-βとして好ましい。
【0026】
ヒトTGF-β1:GenBank Accession No. AAQ18641、NP_000651、AAA51458、AAL27646、AAQ18642、AAV71148、AAN86616、AAT77144、AAT77143、AAX32228、P01137、CAA29283、AAH01180、AAH00125、およびAAP35909
ヒトTGF-β2:GenBank Accession No. Y00083, M19154
ヒトTGF-β3:GenBank Accession No. J03241, X144149
マウスTGF-β1:GenBank Accession No. NP_001013383、AAH99866、およびCAI25749
マウスTGF-β2:GenBank Accession No. X57413
マウスTGF-β3:GenBank Accession No. M32745
【0027】
本発明において、オンコスタチンM並びにTGF-βは、前駆細胞として培養される間葉系幹細胞の成熟肝細胞様細胞への分化を誘導する限り、それらの由来は限定されない。特にTGF-βのアミノ酸配列は、哺乳動物の間で高度に保存されていることが知られている。たとえばTGF-β1の場合、ヒトとマウスのアミノ酸配列の同一性は99%である。そのため、一般に、TGF-βの種差はほとんど無視できると考えられている。ただし、本発明によって得ることができる成熟肝細胞様細胞をヒトの医療目的に用いる場合には、ヒトTGF-βを利用するのが好ましい。
【0028】
本発明におけるオンコスタチンM、並びにTGF-βは、天然のものを用いることもできるし、天然の分子と同様の活性を有する遺伝子組み換え体を利用することもできる。当業者は、前記のアミノ酸配列情報、あるいはそれをコードする塩基配列情報に基づいて、オンコスタチンMやTGF-βの遺伝子組み換え体を製造することができる。
【0029】
あるいは、オンコスタチンMあるいはTGF-βの遺伝子組み換え体は、商業的にも供給されている。たとえば、以下に示す企業は、これらのタンパク質の遺伝子組み換え体を商業的に供給している。したがって、これらの市販の遺伝子組み換え体を本発明に利用することもできる。
ヒトやマウスのオンコスタチンM(pre-pro タンパク質)
United States Biological社、
ProSpec-Tany TechnoGene Ltd社など
ヒトやマウスのオンコスタチンM(成熟タンパク質)
R&D Systems Inc.社等
ヒトやマウスのTGF-β:
CHEMICON International, Inc社、
Fitzgerald Industries Intl.社のRDI Divison
【0030】
これらの増殖分化因子は、一般に、間葉系細胞の分化に利用されている動物細胞用の培地に加えることができる。本発明に利用することができる基礎培地は、通常、無機塩類、糖類、アミノ酸類、およびビタミン類等を含む。基礎培地の代表的な組成を以下に示す。
無機塩類:
Sodium Chloride 4000-8000
Potassium Chloride 200- 330
Potassium Nitrate 0- 0.1
Sodium Selenite 0- 0.02
Calcium Chloride, anhyd. 20- 165
Magnesium Sulfate, anhyd. 0- 100
Sodium Phosphate,
dibasic anhyd. 100- 250
糖類:
Glucose (Dextrose) 1200-4500
アミノ酸:
L-Alanine 5- 25
L-Arginine HCl 84- 450
L-Asparagine・H2O 15- 30
L-Aspartic Acid 10- 30
L-Cystine 2 Na salt 0- 90
L-Cysteine H2O 0- 40
L-Glutamic Acid 10- 80
Glycine 5- 30
L-Histidine HCl・H2O 20- 50
L-Isoleucine 2- 110
L-Leucine 10- 110
L-Lysine HCl 30- 150
L-Methionine 3- 30
L-Phenylalanine 4- 80
L-Proline 30- 70
L-Serine 10- 50
L-Threonine 10- 100
L-Tryptophan 2- 20
L-Tyrosine 2 Na・2H2O 5- 110
L-Valine 10- 100
L-Glutamine 140- 600
ビタミン類など:
Folic Acid 1- 5
Inositol 7- 20
Nicotinic Acid Amide 0.3- 5
Riboflavin 0.02- 0.4
Thiamine HCl 0.3- 5
d-Biotin 0.007-0.08
Pantothenic Acid, Ca salt 0.2- 5
Pyruvic Acid, Na salt 100- 250
Vitamin B-12 0.01-2
Pyridoxine HCl 0.05-5
Choline Chloride 4- 15
緩衝液など:
Phenol Red, Na salt 0- 15
HEPES, acid form 0-6000
HEPES, 1 Na salt 0- 680
Sodium Bicarbonate 1000-3500
【0031】
本発明に利用する基礎培地には、一般的に基礎培地として市販されている培地組成物を利用することができる。たとえば、次のような市販の培地を、本発明における基礎培地に利用することができる。
IMDM培地(Iscove's Modified DMEM)(Sigma社, 米国)
F12K培地(F-12 Nutrient Mixture (Ham's F12) Kaighn's Modification)(Invitrogen社)、
HCM培地(Cambrex社)等
基礎培地は、上記代表的な組成に加えて、更に付加的な成分を含むことができる。たとえば、アルブミンや動物血清を加えることによって、細胞の発育支持能を改善することができる。
【0032】
本発明において、間葉系幹細胞は、オンコスタチンM、デキサメタゾン、およびTGF-βの存在下で培養することによって、成熟肝細胞様細胞に分化する。間葉系幹細胞は、一般的な動物細胞の培養方法に従って培養することができる。具体的な培養条件として、約5%のCO2の雰囲気下、37℃前後の温度を示すことができる。更に、本発明においては、成熟肝細胞様細胞への分化を誘導するために、コラーゲンコートされた培養容器を利用するのが有利である。市販のコラーゲンコーティングプレート(アサヒテクノガラス製)等を、本発明の方法に利用することができる。
【0033】
本発明において、分化誘導開始時の細胞数は、細胞の生存が支持され、かつ目的とする分化を誘導できる範囲で適宜調節することができる。具体的には、たとえば、5.0×103〜5.0×106細胞/培養皿の細胞を播種することができる。
【0034】
このような条件で、たとえば3日以上、通常5日以上、好ましくは6日以上、あるいは10日以上培養することによって、間葉系幹細胞の成熟肝細胞様細胞への分化が誘導される。成熟肝細胞の特徴とすることができる種々のマーカーが知られている。これらのマーカーを観察することによって、成熟肝細胞様細胞に分化している細胞を確認することができる。本発明において、成熟肝細胞様細胞とは、たとえば以下の特徴(1)-(4)の少なくとも1つを備える細胞を言う。特に、これらの指標のうち(2)および(3)の両方を有する細胞は、化合物のスクリーニングや、再生医療に利用するための細胞として好ましい。あるいは、特徴(4)を備える細胞は、肝炎ウイルスの感染実験に利用する宿主細胞として有用である。
【0035】
(1)形態学的特徴:
全体的に丸みを帯びた形態を有する;
細胞質に顆粒を含む;
明るい核と明瞭な核小体を有する
上記の形態学的な特徴は、顕微鏡観察によって確認することができる。
【0036】
(2)肝細胞に特徴的な遺伝子発現
(少なくとも1種、好ましくは複数種類、望ましくは全て):
アルブミン(ALB);
チロシンアミノトランスフェラーゼ(TAT);
トリプトファン2,3-ジオキシゲナーゼ (TDO2);
シトクロームP450(CYP1A2, CYP3A4, CYP2D6);
トランスサイレチン(TTR);
多剤耐性関連タンパク質(MRP1、MRP2、MRP3)
多剤耐性遺伝子(MDR1、MDR3)
上記の遺伝子は、各遺伝子に特異的なプライマーを利用して増幅することができる。更に、各遺伝子に特徴的な塩基配列にハイブリダイズするプローブを組み合わせて、増幅産物を特異的に検出する方法を組み合わせることができる。たとえば、ATAC-PCRは、PCRの増幅産物をプローブを使って検出するための代表的な方法である。
【0037】
(3)機能的な特徴:
(少なくとも1種、好ましくは複数種類、望ましくは全て):
グルコース産生能;
アンモニア代謝能;
アルブミン生産能;
尿素合成能
上記の各機能を確認するための方法は公知である。たとえば、グルコース生産能は、グルコースオキシダーゼ法によって培養上清中のグルコースレベルを分析することで確認できる。アンモニア代謝能は、改変インドフェノール法(Horn DB & Squire CR, Chim. Acta. 14: 185-194. 1966)によって、培養培地中のアンモニアレベルを分析することで確認できる。アルブミン生産能は、血清アルブミン濃度を測定する方法により、培養液中のアルブミン濃度を分析することで確認できる。また、尿素合成能は、例えばColorimetric assay(シグマ社)を使用して確認できる。
【0038】
(4)ウイルス感受性:
ヒトC型肝炎ウイルス感受性
肝細胞様細胞が、ヒトC型肝炎ウイルスに感染したことは、たとえば実施例に示す方法によって確認することができる。すなわち細胞から回収されたmRNAを鋳型とするRT-PCRによりC型肝炎ウイルスの増殖を検出することができる。ヒトC型肝炎ウイルスのRNAを増幅することができるプライマーは公知である(T. Takeuch. et al. Real-Time Detection System for Quantification of Hepatitis C Virus Genome. Gastroenterology 1999, 116:636-642)。
【0039】
一般に、初代正常ヒト培養肝細胞に近い形態学的特徴および遺伝子発現プロファイルの両方を有する細胞は、肝細胞様細胞と呼ばれる。具体的には、たとえば、チトクロムP450(CYP)、多剤耐性関連蛋白質(MRP)、および多剤耐性(MDR)蛋白質を発現する細胞は、肝細胞様細胞(hepatocyte-like cells)に含まれる。肝細胞様細胞の中で、更に初代正常ヒト培養肝細胞に近い特徴を有する細胞は、特に成熟度の高い肝細胞様細胞である。
たとえば、前記特徴の(3)として記載した、肝臓の機能的な特徴を備えた細胞は、特に成熟度の高い細胞と言うことができる。したがって、前記肝臓細胞の特徴(2)-(4)を備える肝細胞様細胞は、本発明における成熟肝細胞様細胞(mature hepatocyte-like cells)に含まれる。本発明において、成熟肝細胞様細胞を特徴付ける(3)の機能的な特徴は、少なくとも1つ、好ましくは2つ以上、より好ましくは(3)に記載した機能的な特徴の全てを備える細胞は、本発明における成熟肝細胞様細胞に含まれる。
【0040】
本発明において、間葉系幹細胞から成熟肝細胞様細胞への分化を誘導するための増殖分化因子であるオンコスタチンM、デキサメタゾン、およびTGF-βは、間葉系幹細胞から成熟肝細胞様細胞への分化を誘導するための試薬として有用である。すなわち本発明は、オンコスタチンM、デキサメタゾン、およびTGF-βを含む、間葉系幹細胞から成熟肝細胞様細胞への分化誘導試薬に関する。
【0041】
本発明において、オンコスタチンM、デキサメタゾン、およびTGF-βは、基礎培地に添加することによって、間葉系幹細胞から成熟肝細胞様細胞への分化を誘導するための培地を調製することができる。本発明の成熟肝細胞様細胞への分化誘導試薬には、先に記載した誘導培地における各増殖分化因子の濃度を与えるのに必要な量のオンコスタチンM、デキサメタゾン、およびTGF-βを配合することができる。たとえば培地1Lあたりの処方として、次の量の増殖分化因子を配合することによって、本発明の成熟肝細胞様細胞への分化誘導試薬とすることができる。
オンコスタチンM:1μg〜100μg、好ましくは5μg〜50μg
デキサメタゾン:0.1mM〜10mM、好ましくは0.5mM〜5mM
TGF-β:0.2μg〜20μg、好ましくは1μg〜10μg
【0042】
本発明の成熟肝細胞様細胞への分化誘導試薬には、更に付加的な成分を配合することもできる。たとえば、基礎培地に対して付加的に配合されることが多いL-グルタミンを本発明の分化誘導試薬に配合しておくことができる。その他、各種の抗生物質や、付加的な栄養素などを配合することもできる。
【0043】
また、本発明は、本発明の方法により製造された成熟肝細胞様細胞を提供する。本発明の方法により製造された成熟肝細胞様細胞の機能や形態は、従来の方法により製造された肝細胞様細胞の機能や形態と比較して、ヒト成熟肝細胞に、より近いという特徴を有する。したがって、本発明の成熟肝細胞様細胞は、例えば医療分野において有用である。より具体的には、本発明によって提供される成熟肝細胞様細胞は、再生医療のためのツールとして有用である。
【0044】
本発明によって得ることができる成熟肝細胞様細胞は、たとえば生体外での各種の試験のために培養皿に播種される。あるいは、本発明の成熟肝細胞様細胞を体内に注入することによって、肝臓組織を再構築することができる。肝臓組織の再構築によって、肝疾患を治療することができる。
具体的には、分化後の細胞を酵素を含む溶液にて処理して試験管に詰め、穏やかな条件で細胞を回収することによって、本発明の肝細胞様細胞が濃縮される。細胞の酵素処理には、コラゲナーゼやディスパーゼなどを利用することができる。細胞を回収するための穏やかな条件としては、比較的低速(40x g 〜100x g)の遠心分離のような、物理的な、あるいは生化学的な操作を利用することができる。
各種の試験を目的として細胞を培養する場合には、回収された本発明の肝細胞様細胞を、適当な培養容器に撒くことができる。培養容器としては、96穴プレートや24穴プレートを利用される。あるいは生体中に細胞を投与する場合には、適当な培養液や緩衝液に本発明の肝細胞様細胞を浮遊して生体内に注入することができる。細胞浮遊液は、経静脈的に、または経門脈的に投与することができる。あるいは、皮下投与や腹腔内投与によって、本発明の肝細胞様細胞を生体に投与することもできる。更に、生体親和的材料に包埋した成熟肝細胞様細胞を患者に移植することにより、肝疾患を治療することもできる。生体親和性材料には、コラーゲン、ポリウレタン等の公知の素材を利用することができる。
【0045】
あるいは、本発明によって提供された成熟肝細胞様細胞を、人工肝臓として利用することができる。本発明における人工肝臓とは、生体中に移植して肝機能を補うするものと、生体外において患者体液と接触させることによって肝機能を補うものを含む。本発明における人工肝臓は、成熟幹細胞様細胞を保持し、必要に応じて患者血液を成熟幹細胞様細胞に接触させるための手段を備える。たとえば生体中に移植するための人工肝臓は、たとえば血清透過性の細胞保持材料中に成熟肝細胞様細胞を保持する。成体に移植された人工肝臓は、血清と接触して血液中の成分を代謝する。
【0046】
あるいは、血液回路中に血清透過性の細胞保持材料中に成熟肝細胞様細胞を配置することによって、成熟肝細胞様細胞に血清を接触させることもできる。すなわち本発明は、生体外に取り出した血液を成熟肝細胞様細胞に接触後に、当該血液を患者に戻す工程を含む、肝疾患の治療方法を提供する。本発明の治療方法において、成熟肝細胞様細胞は、たとえば透析膜のような血清透過性の膜を介して、患者の血液と接触させることができる。透析膜を透過した血清が成熟肝細胞様細胞と接触することにより、血清中の成分は成熟肝細胞様細胞の作用によって代謝される。接触後の血清は、透析膜を介して再び血流中に戻される。
【0047】
このように、本発明は上記工程により製造された成熟肝細胞様細胞の用途もまた提供する。すなわち本発明は、本発明の方法によって得ることができる成熟肝細胞様細胞を含む肝疾患の治療剤を提供する。また、当該成熟肝細胞様細胞を肝疾患を有する患者に投与する工程を含む、肝疾患の治療方法を提供する。本発明の肝疾患としては、肝細胞様細胞による機能の補完が可能なあらゆる疾患が含まれる。このような肝疾患としては、具体的には、肝硬変、劇症肝炎、胆道閉鎖症、肝癌、肝炎が挙げられる。肝炎には、例えばウイルス性肝炎またはアルコール性肝炎などが含まれる。
【0048】
また本発明のヒト成熟肝細胞様細胞は、例えば肝疾患の治療を目的とした研究分野においても有用である。例えば、人工肝臓の研究開発において、本発明の成熟肝細胞様細胞を用いることができる。さらに、以下に述べるように、本発明の成熟肝細胞様細胞は、医薬品や食品等の開発の分野においても有用である。具体的には、被験化合物の代謝や肝毒性の評価、肝疾患治療剤、肝炎ウイルス感染阻害剤、またはウイルス性肝炎治療剤のスクリーニングに利用できる。
【0049】
本発明の方法により製造されたヒト肝細胞様細胞を利用することで、被験化合物の代謝や肝毒性を評価することができる。すなわち本発明は、次の工程を含む、被験化合物の肝における代謝を検出する方法であって、成熟肝細胞様細胞が、オンコスタチンM、デキサメタゾン、およびTGF-βの存在下で間葉系幹細胞を培養することによって、間葉系幹細胞から分化した成熟肝細胞様細胞である方法を提供する。
(1) 成熟肝細胞様細胞に被験化合物を接触させる工程、および
(2) 成熟肝細胞様細胞における被験化合物の代謝を検出する工程。
【0050】
あるいは本発明は、次の工程を含む、被験化合物の肝毒性を検出する方法であって、成熟肝細胞様細胞が、オンコスタチンM、デキサメタゾン、およびTGF-βの存在下で間葉系幹細胞を培養することによって、間葉系幹細胞から分化した成熟肝細胞様細胞である方法を提供する。
(1) 成熟肝細胞様細胞に被験化合物を接触させる工程、および
(2) 成熟肝細胞様細胞の障害が検出されたときに被験化合物の肝毒性が検出される工程。
【0051】
本発明における被験化合物には、特に制限はない。例えば、生体異物、天然化合物、有機化合物、無機化合物、タンパク質、ペプチドなどの単一化合物、並びに、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物等が挙げられる。生体異物には、生体にとって異物であるあらゆる生体異物が含まれる。例えば薬剤や食品の候補化合物、既存の薬剤や食品が挙げられる。
【0052】
本発明において、被験化合物は、通常、培地や培養液に被験化合物を添加することによって成熟肝細胞様細胞と接触させることができる。その他、成熟肝細胞様細胞内で被験化合物をコードする遺伝子を発現させることによって、両者を接触させることができる。あるいは、被験化合物を産生する細胞との共培養によって、被験化合物を成熟肝細胞様細胞に接触させることもできる。
【0053】
被験化合物の代謝は、当業者に周知の方法で測定することが可能である。例えば被験化合物の代謝産物が検出された場合に、被験化合物が代謝されたと判定される。また、被験化合物の接触により、CYP(チトクロムP450)、MDR、MRP等の酵素遺伝子の発現が誘導された場合や、これら酵素の活性が上昇した場合に、被験化合物が代謝されたと判定することもできる。
【0054】
代謝産物を検出するための方法は公知である。たとえば、成熟肝細胞様細胞の培養物から被験化合物やその代謝産物を抽出し、液体クロマトグラフィーや質量分析などによって分析することができる。予め代謝産物が予測されている場合には、当該代謝産物の存在を、これらの分析方法によって確認することができる。あるいは、炭酸ガスや水などへの代謝が予測される場合には、被験化合物として放射標識した化合物を利用すれば、放射活性を追跡することによって、炭酸ガスや水への代謝を確認することができる。
【0055】
あるいは、CYP、MDR、並びにMRPなどの、薬物代謝に関連する遺伝子の発現を指標にする場合には、これらの遺伝子のmRNAを検出することができる。mRNAは、RT-PCRなどの手法によって増幅し、検出することができる。これらの遺伝子のmRNAの増幅と検出には、たとえば後に述べる実施例に記載されたような方法を利用することができる。あるいは、CYPの酵素活性を指標として、その発現を追跡することもできる。CYPの酵素活性を測定するための試薬が市販されている。
【0056】
一方、肝毒性の評価においては、被験化合物を接触させた成熟肝細胞様細胞の障害の程度を測定する。障害の程度は、例えばヒト肝細胞様細胞の生存率やGOTやGPTなどの肝障害マーカーを指標に測定できる。
【0057】
例えば、ヒト肝細胞様細胞の培養液に被験化合物を添加することにより、ヒト肝細胞様細胞の生存率が低下する場合、該被験化合物は肝毒性を有すると判定される。逆に、生存率に有意な変化がない場合、該被験化合物は肝毒性を有さないと判定される。また、例えば、ヒト肝細胞様細胞の培養液に被験化合物を添加後、培養液中のGOTやGPTが上昇する場合、該被験化合物は肝毒性を有すると判定される。同様に、GOTやGPTに有意な変化がない場合、該被験化合物は肝毒性を有さないと判定される。
なお、すでに肝毒性の有無が判明している化合物を対照として用いることで、被験化合物が肝毒性を定量的に評価することができる。
【0058】
被験化合物の代謝や肝毒性の評価には、従来、動物モデル等が用いられていたが、一度に評価できる被験化合物の数に制限があった。また動物モデル等で得られた評価を、そのままヒトに適用できないという問題があった。そのため、ヒト肝がん細胞株や初代正常ヒト培養肝細胞を用いる評価方法が採用されつつある。しかしながら、ヒト肝がん細胞株はがん細胞であるため、ヒト肝がん細胞株で得られた評価が、ヒト正常肝細胞に適用できないという可能性が残る。また、初代正常ヒト培養肝細胞は安定供給やコストの面での問題がある。また、初代正常ヒト培養肝細胞を不死化した細胞株は、不死化していない場合と比較して、CYP3A4の活性が低下していることが示されている(International Journal of Molecular Medicine 14: 663-668, 2004, Akiyama I. et al.)。本発明の方法により製造された成熟肝細胞様細胞を利用することで、このような問題を解決しうる。
【0059】
また、本発明によって得ることができる成熟肝細胞様細胞は、肝疾患治療剤のスクリーニングに利用することができる。すなわち本発明は、次の工程を含む、肝疾患の治療剤のスクリーニング方法であって、成熟肝細胞様細胞が、オンコスタチンM、デキサメタゾン、およびTGF-βの存在下で間葉系幹細胞を培養することによって、間葉系幹細胞から分化した成熟肝細胞様細胞である方法を提供する。
(1) 成熟肝細胞様細胞に被験化合物を接触させる工程、
(2) 被験化合物を接触させた成熟肝細胞様細胞の機能を測定する工程;および
(3) 対照と比較して、成熟肝細胞様細胞の機能を亢進させる作用を有する化合物を選択する工程。
【0060】
本発明においては、被験化合物を接触させた成熟肝細胞様細胞において、細胞機能の亢進が見られた場合に、被験化合物の肝臓に対する治療効果が検出される。本発明のスクリーニング方法において、被験化合物は、先に記載した代謝や肝毒性の評価における被験化合物と同様の操作によって、成熟肝細胞様細胞に接触させることができる。
本発明における成熟肝細胞様細胞の機能は、例えば、グルコース産生能、アンモニア代謝能、アルブミン生産能、尿素合成能、CYP等の酵素の活性を指標に評価することができる。
【0061】
グルコース生産能は、グルコースオキシダーゼ法によって培養上清中のグルコースレベルを分析することで確認できる。アンモニア代謝能は、改変インドフェノール法(Horn DB & Squire CR, Chim. Acta. 14: 185-194. 1966)によって、培養培地中のアンモニアレベルを分析することで確認できる。アルブミン生産能は、血清アルブミン濃度を測定する方法により、培養液中のアルブミン濃度を分析することで確認できる。また、尿素合成能は、例えばColorimetric assay(シグマ社)を使用して確認できる。本発明のCYPは特に制限はないが、例えばCYP1A1、CYP2C8、CYP2C9、CYP3A4などが挙げられる。CYPの活性測定方法は、当業者に周知の方法を使用することができる。
【0062】
本発明のスクリーニング方法において、被験化合物には、肝機能の改善作用を評価すべき任意の化合物を用いることができる。具体的には、天然物質や人工的に合成された化合物のライブラリーを被験化合物とすることができる。天然物質には、植物、動物、昆虫、あるいは微生物などから抽出された成分が含まれる。あるいは市販の化合物ライブラリーを、本発明の方法によってスクリーニングすることもできる。
【0063】
本発明の方法により製造された成熟肝細胞様細胞の機能や形態は、成熟肝細胞により近いため、肝炎ウイルスに感染しうる。したがって本発明の成熟肝細胞様細胞は、肝炎ウイルス感染阻害剤のスクリーニング方法に利用することができる。すなわち本発明は、次の工程を含む、肝炎ウイルスの感染阻害剤のスクリーニング方法であって、成熟肝細胞様細胞が、オンコスタチンM、デキサメタゾン、およびTGF-βの存在下で間葉系幹細胞を培養することによって、間葉系幹細胞から分化した成熟肝細胞様細胞である方法を提供する。
(1) 成熟肝細胞様細胞に被験化合物の存在下で肝炎ウイルスを接触させるか、または成熟肝細胞様細胞に肝炎ウイルスを接触させた後に被験化合物を接触させる工程、
(2) 成熟肝細胞様細胞への肝炎ウイルスの感染のレベルを測定する工程;および
(3) 対照と比較して、成熟肝細胞様細胞への肝炎ウイルスの感染レベルが低い化合物を選択する工程。
【0064】
本発明のスクリーニング方法によって、本発明の成熟肝細胞様細胞に感染するあらゆるウイルスの感染阻害剤をスクリーニングすることができる。具体的には、C型肝炎ウイルス、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルスを対象とすることができる。これら肝炎ウイルスは、株化されたものであってもよいし、肝炎ウイルス感染者から直接単離されたものでもよい。また、精製された状態であってもよいし、クルードな状態(例えば感染者から得られた血清の状態)であってもよい。
【0065】
成熟肝細胞様細胞における肝炎ウイルスの感染の有無は、例えば細胞中の肝炎ウイルス量を指標に検査することができる。細胞中の肝炎ウイルス量は、例えば細胞中の肝炎ウイルスのRNA量を指標に判定できる。肝炎ウイルスのRNA量は、定法に従って測定することができる。また、本発明者らが確立した方法によって測定してもよい(T. Takeuch. et al. Real-Time Detection System for Quantification of Hepatitis C Virus Genome. Gastroenterology 1999, 116:636-642)。
【0066】
あるいは本発明によって得られる成熟肝細胞様細胞は、ウイルス性肝炎治療剤のスクリーニングにも有用である。すなわち本発明は、次の工程を含む、ウイルス性肝炎の治療剤のスクリーニング方法であって、成熟肝細胞様細胞が、オンコスタチンM、デキサメタゾン、およびTGF-βの存在下で間葉系幹細胞を培養することによって、間葉系幹細胞から分化した成熟肝細胞様細胞である方法を提供する。
(1) 肝炎ウイルスを感染させた成熟肝細胞様細胞に被験化合物を接触させる工程、
(2) 成熟肝細胞様細胞における肝炎ウイルスの増殖を測定する工程;および
(3) 対照と比較して、肝炎ウイルスの増殖の阻害作用が検出された化合物を選択する工程。
【0067】
本発明の肝炎ウイルスの増殖を阻害する化合物には、次のような化合物が含まれる。
1)被験化合物を接触させてない場合と比較して、肝炎ウイルスの増殖を阻害する化合物、
2)肝炎ウイルスの増殖を完全に阻害する化合物、および
3)肝炎ウイルスを消失させる化合物
肝炎ウイルスの増殖や消失は、細胞中の肝炎ウイルス量を測定することで検査することができる。
【0068】
本発明の肝炎ウイルスの感染阻害剤のスクリーニング方法、あるいはウイルス性肝炎治療剤のスクリーニング方法における被験化合物には、ウイルス感染阻害作用やウイルス性肝炎治療作用を評価すべき任意の化合物を用いることができる。具体的には、天然物質や人工的に合成された化合物のライブラリーを被験化合物とすることができる。天然物質には、植物、動物、昆虫、あるいは微生物などから抽出された成分が含まれる。あるいは市販の化合物ライブラリーを、本発明の方法によってスクリーニングすることもできる。
【0069】
先に述べたとおり、本発明によって得ることができる成熟肝細胞様細胞を宿主として、肝炎ウイルスを培養することができる。すなわち本発明は、成熟肝細胞様細胞に肝炎ウイルスを感染させる工程を含む肝炎ウイルスの培養方法であって、成熟肝細胞様細胞がオンコスタチンM、デキサメタゾン、およびTGF-βの存在下で間葉系幹細胞を培養することによって、間葉系幹細胞から分化した成熟肝細胞様細胞である肝炎ウイルスの培養方法を提供する。本発明に基づく肝炎ウイルスの培養方法において、特に好ましいウイルスはC型肝炎ウイルスである。
【0070】
本発明の肝炎ウイルスの培養方法は、既に単離されたウイルスの継代や増幅に有用である。あるいは本発明を利用して、環境や患者に由来するサンプルから肝炎ウイルスを分離することができる。たとえば、患者の血液試料をサンプルとして本発明のウイルスの培養法を実施することによって、患者由来の肝炎ウイルスを分離することができる。
【0071】
現在、肝炎ウイルスは、ウイルスの遺伝子の増幅によって検出されている。しかし遺伝子増幅法では、ウイルスが感染能力を失っていても、遺伝子が存在している限り、ウイルスとして検出されてしまう。一方、ウイルス感受性細胞を利用するウイルスの分離方法においては、実際に感染性を維持したウイルスを分離することができる。
【0072】
これまでに報告された、in vitroにおけるC型肝炎ウイルスの感染モデルは、感染実験に用いるには不十分であった。そのため、in vitroで肝細胞を用いて、C型肝炎ウイルスの感染阻害剤や肝炎治療剤を開発することは現実的ではなかった。また好適なウイルスの感染モデルが確立されていないために、C型肝炎ウイルスのライフサイクルの研究が進展していないという現状があった。これに対し、本発明者らは、本発明の成熟肝細胞様細胞がC型肝炎ウイルスに感染すること、その感染効率が非常に高いことを見出した。この結果は、本発明の成熟肝細胞様細胞を用いることで、C型肝炎ウイルスの感染阻害剤や肝炎治療剤をスクリーニングできること、C型肝炎ウイルスのライフサイクルの解明ができることを示している。
【実施例】
【0073】
〔実施例1〕ヒト間葉系幹細胞の培養
Medipost Biomedical Research Institute社(韓国)より入手したヒト臍帯血由来間葉系幹細胞を、MF培地(TOYOBO社、日本)にて、加湿大気中5%CO2含 有下、37℃で組織培養用プラスチック皿上で培養し増殖させた。細胞は2〜3日間に1度の割合で継代培養した。
一方、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(Cambrex社、米国)はMSCG培地(Cambrex社、米国)を用いて上記と同様に培養し増殖させた。
【0074】
〔実施例2〕ヒト間葉系幹細胞の分化誘導
〔2−1〕培地の調製
IMDM培地(Sigma社, 米国)に、次の成分を加えて培地を調製した。培地の調製に用いたオンコスタチンMは、ヒトオンコスタチンMを大腸菌で発現させて得られた組み換え体(227アミノ酸残基からなる成熟タンパク質)である。一方、TGF-β1は、CHO細胞で発現させて得られたヒト組み換えTGF-β1(112アミノ酸残基からなる成熟タンパク質)である。
1μM デキサメタゾン(Dexamethasone){Sigma社, 米国},
10ng/ml オンコスタチンM(OSM){Peprotech社, 米国},
2ng/ml TGF-β1{R&D社, 米国},
ITS-A(Insulin, Transpiercing, Seleniumの混合液, Sigma社, 米国),
L-glutamine(Sigma社,米国),
PSA(penicillin, streptomycin, amphotericin Bの混合液, Invitrogen社, 米国)
基礎培地として、上記IMDM培地以外に、F12K(Invitrogen社)あるいはHCM培地(Cambrex社)を使用しても分化誘導において同様な結果を得ることができる。以下、これらの培地を基礎培地に上記成分を加えた培地を、それぞれ次のように記載する。
IMDMを基礎培地にしたもの:IDOT培地;
F12Kを基礎培地にしたもの:FKDOT培地;
HCMを基礎培地にしたもの:HDOT培地
【0075】
〔2−2〕分化誘導
実施例1にて培養したヒト臍帯血由来間葉系幹細胞を、0.05%トリプシン・EDTA溶液(Sigma社,米国)によりプラスチック皿から剥離した。細胞を洗浄の後、上記IDOT培地に懸濁し、1cm2あたり30000〜60000個/cm2の割合でI型コラーゲンコーティングプレート(アサヒテクノガラス社)上に播種した。細胞を播種したプレートを加湿大気中5%CO2含有下、37℃で培養することにより細胞の分化を誘導した。なお、IDOT培地の代わりにHDOT培地を用いても同様の結果を得ることができる。
実施例1にて培養したヒト骨髄由来間葉系幹細胞についても、HDOT培地を用いて上記と同様に分化を誘導した。なお、HDOT培地の代わりにFKDOT培地又はIDOT培地を用いても同様の結果を得ることができる。
【0076】
〔実施例3〕ヒト間葉系幹細胞由来肝臓細胞様細胞の形態学的観察
ヒト臍帯血由来間葉系幹細胞、およびヒト骨髄由来間葉系幹細胞を分化させて得られた細胞を顕微鏡観察した。未分化なヒト間葉系幹細胞や分化誘導因子を入れていない培地で培養した細胞は、線維芽細胞様の細長い形態を示した。一方、デキサメタゾン(Dexamethasone)、オンコスタチンM(OSM)、およびTGF-β1を入れた培地で培養した細胞は、培養開始後2日で既に全体的に丸みを帯びた形態を示す傾向を示した。培養開始後1週間までに細胞質に顆粒を伴い、明るい核と明瞭な核小体をもつ肝細胞様形態となり、その後顆粒は経時的に増加していった。このことは分化誘導因子を入れた培地で培養した細胞は形態上、高い効率で肝細胞様に分化していることを示している。
【0077】
図1において、ヒト臍帯血由来及び骨髄由来の間葉系幹細胞から肝細胞様細胞への形態変化を示す。
図1のAは未分化のヒト臍帯血由来間葉系幹細胞の形態を示しており、線維芽細胞様の形態をしている。Bは分化誘導開始5日目のヒト臍帯血由来間葉系幹細胞の形態を示しており、全体的に丸みを帯びた形態をしていることが分かる。Cは分化誘導開始2日目のヒト骨髄由来間葉系幹細胞の形態を示しており、骨髄由来の間葉系幹の場合も2日目で既に細胞は丸みを帯び始めていることが分かる。Dは分化誘導開始9日目のヒト骨髄由来間葉系幹細胞の形態を示しており、Bと同様に全体的に丸みを帯びた形態をしていることが分かる。また核が白く抜け、核小体がはっきりしているのが分かる。
【0078】
図2において、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞を肝細胞様細胞へ分化誘導させた5日目の形態を示す。図2のIDOT、HDOT、およびFKDOTは、分化因子を添加した基礎培地の違いを表している。左が弱拡像(x100)、右が強拡像(x200)である。いずれの培地で培養した場合も、分化開始5日目で全体的に丸みを帯びた形態をしていることが分かる。また強拡像において、核が白く抜け、核小体がはっきりしているのが分かる。
【0079】
〔実施例4〕遺伝子発現解析
〔4−1〕遺伝子発現解析の実施対象
ヒト間葉系幹細胞をデキサメタゾン(Dexamethasone)、オンコスタチンM(OSM)、およびTGF-β1を添加した培地で培養した細胞の遺伝子発現を、PCR法で解析した。発現を解析した遺伝子は次のとおりである。
アルブミン(ALB);
チロシンアミノトランスフェラーゼ(TAT);
トリプトファン2,3-ジオキシゲナーゼ (TDO2);
シトクロームP450(CYP1A2, CYP3A4, CYP2D6);
トランスサイレチン(TTR);および
β-アクチン
【0080】
〔4−2〕解析方法
まず、未分化のヒト臍帯血由来間葉系幹細胞およびヒト臍帯血由来間葉系幹細胞から分化誘導して得られた肝細胞様細胞から、ISOGEN溶液(ニッポンジーン、日本)を用いて単離された総RNAを、DNaseI(増幅グレード試薬;タカラ、京都、日本)で処理した。RT-PCR反応は、Superscript II Reverse Transcriptase(Invitrogen, 米国)を用いて行った。全て単一バンドのcDNA断片として増幅し、分化マーカーの同定は特異プライマーを用いてPCR法より確認した。RT-PCRに使用したPCRプライマーは次の通りである。またシトクロームP450(CYP1A2, CYP3A4, CYP2D6)遺伝子のプライマーは、タカラバイオ社の Real-time PCR 用のプライマーを使用した。
【0081】
アルブミン(ALB)
5'-GTC ACC AAA TGC TGC ACA GA-3'/配列番号:1
5'-ACG AGC TCA ACA AGT GCA GT-3'/配列番号:2
トリプトファン 2,3-ジオキシゲナーゼ(TDO2)
5'-CTG AAG AAA AAG AGG AAC AG-3'/配列番号:3
5'-TCT GTG CAC CAT GCA CAC AT-3'/配列番号:4
チロシン−アミノトランスフェラーゼ(TAT)
5'-TGA GCA GTC TGT CCA CTG CCT-3'/配列番号:5
5'-ATG TGA ATG AGG AGG ATC TGA G-3'/配列番号:6
トランスサイレチン(TTR)(プレアルブミン、アミロイドーシス タイプ1)
5'-TAC TGG AAG GCA CTT GGC AT-3'/配列番号:7
5'-TTC CTT GGG ATT GGT GAC GA-3'/配列番号:8
P450 7A1
5'-AGG ACG GTT CCT ACA ACA TC-3'/配列番号:9
5'-CGA TCC AAA GGG CAT GTA GT-3'/配列番号:10
βアクチン
5'-CAA GAG ATG GCC ACG GCT GCT-3'/配列番号:11
5'-TCC TTC TGC ATC CTG TCG GCA-3'/配列番号:12
【0082】
〔4−3〕 解析結果
ヒト臍帯血由来間葉系幹細胞をデキサメタゾン(Dexamethasone), オンコスタチンM(OSM), TGF-β1存在下で分化培養することにより、培養開始後6日で既に肝細胞特異的遺伝子(アルブミン、TDO2, TAT )の発現が観られることを見出している。一方、デキサメタゾン(Dexamethasone), オンコスタチンM(OSM), TGF-β1陰性培地で処置した細胞においては、TDO2, TAT 遺伝子発現は出現しなかった。このことはデキサメタゾン(Dexamethasone), オンコスタチンM(OSM), TGF-β1存在下で培養した細胞は遺伝子発現レベルでも高い効率で肝細胞様に分化していることを示している。
培養開始後6日後のRT-PCRの解析結果を図3に示す。図3において、レーン1はヒト臍帯血由来の間葉系幹細胞、レーン2は分化6日後の細胞の解析結果を示し、それぞれAがβ-アクチン、Bがアルブミン、CがTAT,DがTDO2のRT-PCRの解析結果である。分化誘導6日目の細胞において、すでに肝臓細胞特異的な分子であるアルブミン、TAT,TDO2お遺伝子発現が確認された。未分化のヒト臍帯血由来の間葉系幹細胞では、それら遺伝子の発現は確認されなかった。
【0083】
培養開始後12日後のRT-PCRの解析結果を図4に示す。図4において、レーン1は未分化のヒト骨髄由来の間葉系幹細胞、レーン2はヒト骨髄由来の間葉系幹細胞の分化12日目の細胞、レーン3はレーン2とは異なるドナーのヒト骨髄由来の間葉系幹細胞の分化12日目、レーン4はヒト臍帯血由来の間葉系幹細胞の分化12日目、レーン5はレーン4とは異なるドナーのヒト臍帯血由来の間葉系幹細胞の分化12日目、レーン6は未分化のヒト臍帯血由来の間葉系幹細胞のそれぞれRT-PCRの解析結果である。
ヒト骨髄由来の間葉系幹細胞においても分化誘導12日目で、肝臓細胞特異的な分子であるアルブミン、TDO2の遺伝子発現が確認された。ドナーが異なるヒト臍帯血由来の間葉系幹細胞から分化誘導された、どちらの肝細胞様細胞においてもアルブミンの発現増強及び肝臓細胞特異的な分子であるTTRの遺伝子発現が確認された。また分化誘導細胞においてCYP3A4の発現誘導、CYP2D6の発現増強が認められた。
【0084】
〔実施例5〕分化誘導した幹細胞のCYP活性測定
〔5−1〕 CYP活性の測定
ヒト間葉系幹細胞をデキサメタゾン(Dexamethasone), オンコスタチンM(OSM), TGF-β1を入れた培地で培養した細胞のCYP活性をGLO法(プロメガ社)により測定した。活性を測定したCYPは、CYP3A4、およびCYP1A2である。
【0085】
〔5−2〕測定方法
分化誘導を行って得られた細胞をコラゲナーゼ/ディスパーゼを用いてプレートより剥がし、浮遊状態の1×10 cells に対して50 μL 、また細胞を培養しているプレートの場合はプレート中の培地を吸引し、HCM培地で1回洗浄した後、発光基質を含むHCM培地を加えた。発光基質を含むHCM培地は、24 well plateの場合200 μLを、また96 well plateの場合50 μLを加えた。測定に用いた発光基質は次のとおりである。
P450-GloTM CYP1A2 Assay(Promega Cat.# V8772)、または
P450-GloTM CYP3A4 Assay(Promega Cat.# V8801)
プレートを37℃で4時間インキュベートし、反応終了後、細胞培養上清の一部(50μL)を発光(Luminescence)測定用のwhite multi-well plateに移した。さらに、等量のルシフェリン検出試薬(luciferin detection reagent)を加え、10秒間撹拌した。室温で20分間反応させた後、相対発光量 (RLU)を、プレートリーダーにより測定・記録した。なお、活性測定をする際にはサンプルと同様に37℃, 4時間インキュベートした発光基質も測定し、これを細胞非存在下のバックグラウンド値として測定値の補正を行った。
誘導実験は、分化細胞を播種したプレートにCYPの誘導剤(CYP1A2: Omeprazol、CYP3A4 : Rifampicin)を培養用培地に添加し、1−3日培養後、上記の方法にてCYP活性を測定した。
【0086】
〔5−3〕測定結果
ヒト臍帯血由来間葉系幹細胞を〔2−2〕の方法で分化誘導を行い、経時間的にCYP3A4の活性を測定した。図5に結果を示す。図5において、分化誘導日数に依存的にCYP3A4活性の上昇が確認された。
図6は、CYP3A4活性のヒト初代培養肝臓細胞との比較を示す。レーンAはヒト骨髄由来間葉系幹細胞の分化34日目の細胞、レーンBはヒト初代培養肝臓細胞(第一化学薬品;#77)、レーンCはヒト臍帯血由来の間葉系幹細胞の分化23日目、レーンDはヒト臍帯血由来の間葉系幹細胞の分化20日目、レーンEはレーンC,Dとは異なるドナーのヒト臍帯血由来の間葉系幹細胞の分化20日目のそれぞれCYP3A4の活性を示す。Aのヒト骨髄由来間葉系幹細胞の分化細胞、Cのヒト臍帯血由来の間葉系幹細胞の分化細胞のCYP3A4活性は、ヒト初代培養肝臓細胞とほぼ同等の活性を有していた。
【0087】
次にヒト臍帯血由来間葉系幹細胞を〔2−2〕の方法で分化誘導した細胞のCYPの誘導能を検討した。CYP3A4の誘導剤としてリファンピシン(RIF)を使用した (M. Yueh, M. Kawahara, J. Raucy, Drug Metab. Dispos. 33, 38-48 (2005))。
図7にCYP3A4の誘導能の検討の結果を示す。ヒト臍帯血由来間葉系幹細胞を〔2−2〕の方法で分化誘導した肝細胞様細胞について、リファンピシン1, 3, 10μMを含む培地により2日間〜3日間処理を行い、〔5−2〕の方法にてCYPの活性を測定した。図7のAは分化誘導62日目、Bは17日目の細胞の活性を示す。図7から明らかなように、CYP3A4の活性はリファンピシンの濃度依存的に増大した。リファンピシン10μMで3日間曝露した場合には未誘導時に比べ約2.3倍に増大した(図7B)。
【0088】
図8にCYP1A2の誘導能の検討の結果を示す。ヒト骨髄由来間葉系幹細胞を〔2−2〕の方法で分化誘導した肝細胞様細胞(分化誘導25日目)について、オメプラゾール(OPZ)5,15,50μMを含む培地により2日間処理を行い、〔5−2〕の方法にてCYPの活性を測定した。図8から明らかなように、CYP1A2の活性はオメプラゾール(OPZ)の濃度依存的に増大した。これらの結果は、本発明の方法により得られたヒト肝細胞様細胞ヒトが初代正常ヒト培養肝細胞と同様にヒトCYP450酵素の誘導を起しており、薬剤のスクリーニングに利用できることを示唆している。
【0089】
〔実施例6〕分化誘導したヒト臍帯血由来の間葉系幹細胞から得た肝細胞様細胞のグルコース代謝機能分析
〔6−1〕実験方法
〔2−2〕で得た肝細胞様細胞の生化学的機能を分析する為に、まずインスリンによる肝細胞様細胞の上清中のグルコース濃度について検討を行なった。
得られた肝細胞様細胞を96wellプレートに2.0X104/wellずつ播種し、およそ24時間後にPBSで洗浄し、その後それぞれの濃度のインスリンを添加し、48時間後の培養上清中のグルコース濃度を測定した。なお、グルコース濃度についてはグルコース測定用 グルコースCII-テストワコー(ムタロターゼ・GOD法)(和光純薬工業株式会社)を使用し分光高度計を用いて得た結果からグルコース濃度を求めた。
〔6−2〕実験結果
図9に示すようにそれぞれの培養液中にインスリンを添加することにより、インスリンの濃度依存性にグルコース濃度の低下を認めた。
【0090】
〔実施例7〕ヒト臍帯血由来間葉系幹細胞から分化誘導して得られた肝細胞様細胞のC型肝炎ウイルス感染実験
〔7−1〕実験方法
コラーゲンあるいはマトリゲルをコートした12穴と6穴の細胞培養プレートにヒト臍帯血由来間葉幹細胞から分化誘導して得られた肝細胞様細胞を播種した。細胞が充分に着床した後、 Williams E培地で1回洗浄した。この細胞に感染性HCVが存在していることが確認されているHCV感染者血清を接種した。接種HCV量は、細胞あたりのHCV遺伝子量として、それぞれ0.5及び1.0とした。37度のCO2インキュベータで3時間ウイルスを細胞に吸着後、 Williams E培地で3回洗浄し、未吸着のHCVを除去した。
これに肝細胞様細胞の培養液を添加し、37℃のCO2インキュベータで培養した。ウイルス培養開始後、1から10日間にわたり毎日細胞を採取した。細胞から培養液を除去し、5M濃度の塩酸グアニジンを添加することにより細胞を採取した。塩酸グアニジンで溶解した細胞液は、HCV-RNAを抽出するまで−80℃に保存した。塩酸グアニジンで溶解した細胞液から定法に従ってRNAを抽出し、リアルタイムPCR法によりHCV-RNA量を定量した。HCV-RNA量は、本発明者らが確立し、報告した方法により定量した(T. Takeuch. et al. Real-Time Detection System for Quantification of Hepatitis C Virus Genome. Gastroenterology 1999, 116:636-642)。
【0091】
〔7−2〕実験結果
図10にC型肝炎ウイルス(以下HCV)感染後の時間とHCV−RNA量の関係を示す。ヒト臍帯血由来間葉系幹細胞から分化誘導した肝細胞様細胞を用いてHCVの感染培養を行った結果、ウイルスの感染および増殖が確認された。この事実から、本発明の方法で得られる成熟肝細胞様細胞は、HCV感染阻害剤やHCV増殖阻害剤のスクリーニングに利用できることが確かめられた。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、in vitroにおいて、間葉系幹細胞から肝細胞様細胞への分化を誘導しうる方法を提供した。本発明は、幹細胞の肝細胞への分化機構を分子レベルで解明するツールとして有用である。また本発明によって、成熟度の高い肝細胞様細胞が提供された。本発明によって得ることができる肝細胞様細胞は、肝臓に対する化合物の影響の評価に利用することができる。従来は、生体に対する化合物の影響は、しばしば生体を利用して行われていた。たとえば、発がん実験、あるいは食品添加物や抗がん剤などの安全評価試験には、実験動物が利用される。本発明の成熟肝細胞様細胞は、これらの試験方法において、実験動物に代わる新しいアッセイモデルとして利用することができる。
【0093】
例えば、毒性評価試験や食品安全性評価試験などは多くの場合、ラットを用いた検査が主流である。動物を使った検査には、必然的に動物の飼育スペースなどが必要である。そのため、一度に評価できる化合物の数はスペースに制約される。また動物試験においては、通常、ラットで得られた結果に基づいて、ヒトに対する影響が予測される。このとき行われる予測は、特に外挿(extrapolation)と呼ばれる。しかしヒトとラットでは動物種が大きく異なる。したがって、通常、外挿の精度を確認することは容易ではない。また動物の犠牲を伴う試験方法には、社会的な批判もある。そこで近年においては、ヒトの培養細胞を評価試験に用いる方法に移行しつつある。本発明によって、安定的に、かつコスト的にも比較的安価に、試験に必要な肝細胞を得ることができる。
【0094】
本発明で得られるヒト肝細胞様細胞は、肝炎ウイルスを感染させ、そして維持することができる。したがって、本発明の肝細胞様細胞は、肝炎ウイルスの予防あるいは治療の研究に利用することができる。特に、C型肝炎ウイルスはヒトに対する種特異性が高い。現在のところ、ヒトC型肝炎ウイルスを感染させることができる実験動物は、チンパンジーの他に確認されていない。チンパンジーは、ワシントン条約で絶滅の恐れが高い国際希少野生動植物種に指定された動物種である。学術研究を目的とする移動は認められているものの、希少であることには変わりはない。またin vitroにおけるC型肝炎ウイルスの効率的な培養を可能にする細胞系も確立されていない。つまり、C型肝炎ウイルスの研究に必要な、感染モデルや培養方法すら十分でないのが現状である。C型肝炎ウイルスの培養が難しいことは、その予防や治療の研究における大きな障害となっている。
本発明によって得られた肝細胞様細胞には、C型肝炎ウイルスの感染が確認された。したがって、本発明の肝細胞様細胞によって、in vitroの系で、すなわち細胞レベルで、C型肝炎ウイルスの増殖や感染実験を行うことができる。したがって本発明の肝細胞様細胞は、ヒトC型肝炎ウイルスの研究に貢献する。
【0095】
更に、本発明の肝細胞様細胞は、肝臓細胞の機能を高度に再現している。したがって、本発明の肝細胞様細胞は、肝機能を代替する人工臓器に利用することができる。たとえば、本発明の肝細胞様細胞を浸透膜に充填し、血液を循環させることによって、人工肝臓とすることができる。人工透析や人工心肺においては、ヒトに対する抗原性が低い浸透膜が既に実用化されている。更に、血液回路において患者血液を処理し、患者に戻す治療行為も日常的に行われている。このような血液回路中で本発明の肝細胞様細胞を患者血液に接触させることによって、肝臓の代謝機能を代替させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】ヒト臍帯血由来間葉系幹細胞から肝細胞様細胞への形態変化を示す写真である。Aは未分化のヒト臍帯血由来間葉系幹細胞。Bは分化誘導開始5日目のヒト臍帯血由来間葉系幹細胞。Cは分化誘導開始2日目のヒト骨髄由来間葉系幹細胞。Dは分化誘導開始9日目のヒト骨髄由来間葉系幹細胞。
【図2】ヒト骨髄由来間葉系幹細胞を肝細胞様細胞へ分化誘導させた5日目の形態を示す写真である。
【図3】未分化のヒト臍帯血由来間葉系幹細胞と、分化誘導6日後の肝細胞様細胞のRT-PCR解析結果(1がヒト臍帯血由来間葉系幹細胞と分化誘導6日後の肝細胞様細胞)を示す写真である。
【図4】分化誘導12日後の肝細胞様細胞のRT-PCR解析結果を示す写真である。
【図5】分化培養日数の経過に伴うCYP3A4活性の上昇を示す図である。
【図6】ヒト初代培養肝臓細胞と分化誘導後の肝細胞様細胞とのCYP3A4活性を示す図である。
【図7】分化誘導後の肝細胞様細胞においてCYP3A4活性がリファンピシン濃度に依存して上昇することを示す図である。
【図8】分化誘導後の肝細胞様細胞においてCYP1A2活性がオメプラゾール(OPZ)濃度に依存して上昇することを示す図である。
【図9】肝細胞様細胞のグルコース代謝機能分析結果を示す図である。
【図10】ヒト臍帯血間葉系幹細胞由来から分化誘導した肝細胞様細胞のC型肝炎ウイルス感染実験を示す図である。HCVウイルスを肝細胞様細胞に接種後の時間経過とHCV-mRNA量の関係を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オンコスタチンM、デキサメタゾン、およびTGF-βの存在下で間葉系幹細胞を培養し、間葉系幹細胞を成熟肝細胞様細胞に分化させる工程を含む、成熟肝細胞様細胞の製造方法。
【請求項2】
間葉系幹細胞が、臍帯血、骨髄、脂肪組織、胎盤、および抹消血からなる群から選択されるいずれかの組織に由来する間葉系幹細胞である請求項1に記載の成熟肝細胞様細胞の製造方法。
【請求項3】
間葉系幹細胞が、臍帯血に由来する間葉系幹細胞である請求項2に記載の成熟肝細胞様細胞の製造方法。
【請求項4】
間葉系幹細胞が、骨髄に由来する間葉系幹細胞である請求項2に記載の成熟肝細胞様細胞の製造方法。
【請求項5】
間葉系幹細胞が、少なくとも6日間培養される請求項1に記載の成熟肝細胞様細胞の製造方法。
【請求項6】
オンコスタチンM、デキサメタゾン、およびTGF-βの間葉系幹細胞を培養するための培地における濃度が、それぞれ1〜100ng/mL、0.1〜10μM、そして0.2〜20ng/mLである請求項1に記載の成熟肝細胞様細胞の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項6に記載のいずれかの方法によって製造することができる成熟肝細胞様細胞。
【請求項8】
請求項1〜請求項6に記載のいずれかの方法によって製造することができる成熟肝細胞様細胞を含む、肝臓疾患の治療剤。
【請求項9】
次の工程を含む、被験化合物の肝における代謝を検出する方法であって、成熟肝細胞様細胞が、オンコスタチンM、デキサメタゾン、およびTGF-βの存在下で間葉系幹細胞を培養することによって、間葉系幹細胞から分化した成熟肝細胞様細胞である方法;
(1) 成熟肝細胞様細胞に被験化合物を接触させる工程、および
(2) 成熟肝細胞様細胞における被験化合物の代謝を検出する工程。
【請求項10】
次の工程を含む、被験化合物の肝毒性を検出する方法であって、成熟肝細胞様細胞が、オンコスタチンM、デキサメタゾン、およびTGF-βの存在下で間葉系幹細胞を培養することによって、間葉系幹細胞から分化した成熟肝細胞様細胞である方法;
(1) 成熟肝細胞様細胞に被験化合物を接触させる工程、および
(2) 成熟肝細胞様細胞の障害が検出されたときに被験化合物の肝毒性が検出される工程。
【請求項11】
次の工程を含む、肝疾患の治療剤のスクリーニング方法であって、成熟肝細胞様細胞が、オンコスタチンM、デキサメタゾン、およびTGF-βの存在下で間葉系幹細胞を培養することによって、間葉系幹細胞から分化した成熟肝細胞様細胞である方法;
(1) 成熟肝細胞様細胞に被験化合物を接触させる工程、
(2) 被験化合物を接触させた成熟肝細胞様細胞の機能を測定する工程;および
(3) 対照と比較して、成熟肝細胞様細胞の機能を亢進させる作用を有する化合物を選択する工程。
【請求項12】
次の工程を含む、肝炎ウイルスの感染阻害剤のスクリーニング方法であって、成熟肝細胞様細胞が、オンコスタチンM、デキサメタゾン、およびTGF-βの存在下で間葉系幹細胞を培養することによって、間葉系幹細胞から分化した成熟肝細胞様細胞である方法;
(1) 成熟肝細胞様細胞に被験化合物の存在下で肝炎ウイルスを接触させるか、または成熟肝細胞様細胞に肝炎ウイルスを接触させた後に被験化合物を接触させる工程、
(2) 成熟肝細胞様細胞への肝炎ウイルスの感染のレベルを測定する工程;および
(3) 対照と比較して、成熟肝細胞様細胞への肝炎ウイルスの感染レベルが低い化合物を選択する工程。
【請求項13】
次の工程を含む、ウイルス性肝炎の治療剤のスクリーニング方法であって、成熟肝細胞様細胞が、オンコスタチンM、デキサメタゾン、およびTGF-βの存在下で間葉系幹細胞を培養することによって、間葉系幹細胞から分化した成熟肝細胞様細胞である方法;
(1) 肝炎ウイルスを感染させた成熟肝細胞様細胞に被験化合物を接触させる工程、
(2) 成熟肝細胞様細胞における肝炎ウイルスの増殖を測定する工程;および
(3) 対照と比較して、肝炎ウイルスの増殖の阻害作用が検出された化合物を選択する工程。
【請求項14】
成熟肝細胞様細胞に肝炎ウイルスを感染させる工程を含む肝炎ウイルスの培養方法であって、成熟肝細胞様細胞がオンコスタチンM、デキサメタゾン、およびTGF-βの存在下で間葉系幹細胞を培養することによって、間葉系幹細胞から分化した成熟肝細胞様細胞である肝炎ウイルスの培養方法。
【請求項15】
オンコスタチンM、デキサメタゾン、およびTGF-βを含む、間葉系幹細胞から成熟肝細胞様細胞への分化誘導試薬。

【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−153383(P2009−153383A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−102350(P2006−102350)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【出願人】(500201406)株式会社ECI (12)
【Fターム(参考)】