説明

成膜性に優れた金属ナノ粒子分散体の製造方法および金属被膜

【課題】 成膜性に優れた金属ナノ粒子分散体の製造方法、およびこの金属ナノ粒子分散体を用いて得られる、クラックがなく、比抵抗値の小さい金属被膜を提供する。
【解決手段】 銅および/または銀である金属ナノ粒子分散体に、金属ナノ粒子分散体中の金属ナノ粒子100質量部に対し1〜60質量部であるベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ジクミルパーオキシドなどの有機過酸化物を添加する。この金属ナノ粒子分散体を基板に塗布し、100〜600℃の温度で焼成することにより、クラックがなく、比抵抗値の小さい金属被膜が得られる

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜性に優れた金属ナノ粒子分散体の製造方法、およびこの分散体を用いて得られる金属被膜に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ粒子分散体を用いて金属被膜を形成することは一般によく知られている。そして、このような金属ナノ粒子分散体として、例えば、特許文献1、2に記載のものが知られている。
【0003】
特許文献1には、有機酸金属塩とアミン化合物とを反応させて金属ナノ粒子を製造するにあたり、金属核の形成および成長を100℃未満の温度で行ない、得られる金属ナノ粒子をテトラデカンなどの有機溶媒に分散させて金属ナノ粒子分散体とすることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、有機酸金属塩とアミン化合物とを含む溶液に還元剤を作用させて金属ナノ粒子を形成し、得られる金属ナノ粒子をテトラデカンなどの有機溶媒に分散させて金属ナノ粒子分散体とすることが記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2007−197755号公報
【特許文献2】特開2007−321216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載の金属ナノ粒子分散体を用いて得られる金属被膜は良好な性能を発揮する。しかし、その後の研究によれば、成膜性になお改善の余地があることが判明した。
【0007】
かくして、本発明は、成膜性に優れた金属ナノ粒子分散体の製造方法、またこの金属ナノ粒子分散体を用いて得られる、クラックのない、金属被膜を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らの研究によれば、金属ナノ粒子分散体に有機過酸化物を加えることにより前記課題が解決できることがわかった。すなわち、本発明者らは、金属ナノ粒子分散体に有機過酸化物を添加すると成膜性に優れ、クラックのない金属被膜を形成し得る金属ナノ粒子分散体が得られることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、金属ナノ粒子分散体に有機過酸化物を添加することを特徴とする成膜性に優れた金属ナノ粒子分散体の製造方法に関する。また、本発明は、上記金属ナノ粒子分散体を基板に塗布した後、100〜600℃の温度で焼成して得られる金属被膜に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法に従って金属ナノ粒子分散体に有機過酸化物を添加すると金属ナノ粒子分散体の成膜性が向上する。すなわち、本発明の方法によって得られる金属ナノ粒子分散体は、成膜性に優れ、クラックのない金属被膜を形成することができる。また、本発明の方法によって得られる金属ナノ粒子分散体を用いて形成される金属被膜は、比抵抗値が低く、優れた導電性を示す。
【0011】
したがって、本発明の方法によれば、電子デバイスなどの製造に極めて好適に用いられる、成膜性に優れた金属ナノ粒子分散体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で用いる金属ナノ粒子分散体については特に制限はなく、例えば、平均粒子径が1〜100nmの範囲にある金属ナノ粒子分散体であればいずれも用いることができる。具体的には、例えば、前記特許文献1、2に記載の方法によって得られる平均粒子径1〜100nmの金属ナノ粒子を用いることができる。特許文献1に記載の方法を例に挙げて説明すると次のとおりである。
【0013】
銅または銀のカルボン酸、例えば、ギ酸銅またはギ酸銀、酢酸銅または酢酸銀、シュウ酸銅またはシュウ酸銀、オレイン酸銅またはオレイン酸銀、ステアリン酸銅またはステアリン酸銀、およびテトラデカ酸銅またはテトラデカ酸銀に代表される有機酸金属塩と、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミンなどの炭素数8〜14の一級モノアミンに代表されるアミン化合物とを、アミン化合物が有機酸金属塩1モル当たり3〜15モルとなる割合で混合する。
【0014】
次に、還元剤として、ジメチルアミンボラン、tert−ブチルアミンボラン、水素化ホウ素ナトリウム、シュウ酸、アスコルビン酸、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどを、還元剤/有機酸金属塩(モル比)が0.1/1〜1/1となる割合で添加し、100℃未満の温度で必要時間還元処理を行うことにより金属ナノ粒子を生成させる。
【0015】
反応液中の金属ナノ粒子を適宜な方法により分離回収した後、有機溶媒に分散させることにより平均粒子径1〜100nmの金属ナノ粒子分散体が得られる。なお、本発明の「金属ナノ粒子の平均粒子径」とは、透過電子顕微鏡(TEM)を用いて、上記分散体中の金属ナノ粒子の粒子径を測定して求めたものである。
【0016】
上記有機溶媒、すなわち、本発明の金属ナノ粒子分散体の有機溶媒としては、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ペンタン、n−ヘプタン、デカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ヘキサデカンなどの炭素数5〜16の飽和炭化水素類;ベンゼン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;クロロホルム、四塩化炭素などの塩素化合物;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルなどの炭素数1〜6のアルコール類の酢酸エステル類;テルピネオール;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの炭素数1〜6のアルコール類などを用いることができる。なかでも、シクロヘキサン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ヘキサデカン、トルエンおよびキシレンが好適に用いられる。これらは単独でも、あるいは2種以上混合して使用することもできる。
【0017】
上記金属ナノ粒子分散体における金属ナノ粒子の含有量は、分散体の質量基準で、10〜80質量%、好ましくは15〜70質量%、より好ましくは20〜60質量%である。
【0018】
上記金属ナノ粒子を構成する金属としては、銅、銀、白金、パラジウム、ルテニウム、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、インジウム、イリジウム、チタン、アルミニウムなどが用いられるが、なかでも銅および銀が好適に用いられる。本発明の金属ナノ粒子とは、上記金属(0価)のナノ粒子、上記金属の酸化物からなるナノ粒子、およびこれらの混合物を包含するものである。
【0019】
本発明の方法によれば、金属ナノ粒子分散体、例えば、前記のようにして得られる平均粒子径1〜100nmの金属ナノ粒子分散体に有効量の有機過酸化物を添加する。この有機過酸化物としては、ベンゾイルパーオキシド、ジ(4−メチルベンゾイル)パーオキシド、ジイソブチリルパーオキシド、オクタノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、tert−ブチルクミルパーオキシド、ジ−tert−ブチルパーオキシド、ジ−tert−ヘキシルパーオキシドなどが用いられる。なかでも、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシドおよびジクミルパーオキシドが好適に用いられる。
【0020】
有機過酸化物の添加量は、金属ナノ粒子分散体中の金属ナノ粒子100質量部に対し1〜60質量部、好ましくは5〜40質量部、より好ましくは10〜30質量部である。
【0021】
本発明の方法によって得られる金属ナノ粒子分散体を基材に塗布し、例えば、100〜600℃、好ましくは100〜450℃、より好ましくは100〜350℃で焼成することにより金属被膜が得られる。
【0022】
上記金属ナノ粒子分散体としては、前記の方法により得られる金属ナノ粒子分散体をそのまま使用しても、あるいは濃縮もしくは希釈して、または他の有機溶媒で溶媒置換した後使用してもよい。
【0023】
上記温度以外の焼成条件については特に制限はなく、一般に知られている条件下に焼成を行い、金属被膜を形成させればよい。例えば、特開2007−200659号公報に記載の方法にしたがって実施することができる。具体的には、金属ナノ粒子分散体を基板に塗布した後、酸化性雰囲気中において100〜600℃の温度で焼成し、次いで還元性雰囲気中において100〜600℃の温度で焼成する。
【0024】
上記酸化性雰囲気としては、酸素、あるいは酸素ガスと窒素ガスやヘリウムガスなどの不活性ガスとの混合ガス、代表的には空気が用いられる。また、上記還元性雰囲気としては、水素、あるいは水素ガスと窒素ガスやヘリウムガスなどの不活性ガスとの混合ガス(水素濃度:2〜10%)などが挙げられる。
【0025】
本発明の方法によって得られる金属ナノ粒子分散体は、電子デバイスの回路などの製造に好適に用いられる。この分散体から形成される金属被膜は比抵抗値が低く、導電性に優れていることから高性能の電子デバイスなどが得られる。
【実施例】
【0026】
本発明の有利な実施態様を示している以下の実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
(実施例1)
3L(リットル)のセパラブルフラスコに酢酸銅一水和物(和光純薬工業株式会社製)62.8g、オクチルアミン(和光純薬工業株式会社製)244.1g、およびメタノール(和光純薬工業株式会社製)142.2gを40℃にて20分間攪拌混合した。次に、溶液中に1.5L/minの窒素ガスをバブリングさせながら30分間保持して、セパラブルフラスコ内を窒素ガス雰囲気下とした。続いて、1.5L/minの窒素ガスの供給を維持した状態で、上記セパラブルフラスコに10質量%ジメチルアミンボラン−メタノール溶液92.7gを徐々に添加することにより銅の還元処理を実施した。
【0027】
上記還元処理後の溶液を5LのSUS製溶液に移し替えた後、メタノール0.6Lと水0.5Lとを添加し、しばらく放置した後、ろ過により銅および有機物からなる沈殿物をろ過により分離した。分離した沈殿物にトルエンを添加して再溶解し、10℃以下まで冷却した後、0.1μmの孔径を有するメンブレンフィルターを用いてろ過した。得られたろ液からトルエンを減圧除去した後、適量のテトラデカン(和光純薬工業株式会社製)を加えて攪拌混合することにより、銅ナノ粒子をテトラデカン中に分散させて銅ナノ粒子分散体を得た。
【0028】
続いて、上記銅ナノ粒子分散体に30質量%ラウロイルパーオキシド−キシレン溶液を徐々に添加し混合して銅ナノ粒子分散体(1)を得た。この銅ナノ粒子分散体(1)中の銅の含有量は28質量%であった。ラウロイルパーオキシドの添加量は分散体中の銅ナノ粒子100質量部に対し14質量部であった。
【0029】
得られた分散体をTEMで観測したところ、平均粒子径5nmの銅ナノ粒子を含有していることが確認された。なお、ラウロイルパーオキシドの添加・混合時に発熱および発泡が認められることから、銅ナノ粒子表面ではなんらかの反応が起こっているものと推測される。
(実施例2)
実施例1で得られた銅ナノ粒子分散体(1)を2.5cmx3.5cmの面積のガラス基板上にスピンコーターを用いて塗布した後、ガラス基板を焼成炉に入れた。焼成炉内に4容量%の水素(残りの96容量%は窒素)を流通させながら室温から200℃まで20分で昇温した。温度が200℃に到達してから10分間保持し還元性雰囲気中での焼成を行った。続いて、温度を200℃に維持した状態で、流通させるガスを5容量%の酸素(残りの95容量%は窒素)に切り替えて10分間保持し、酸化性雰囲気中での焼成を行った。その後、温度を200℃に維持した状態で、流通させるガスを4容量%の水素(残りの96容量%は窒素)に切り替えて20分間保持し、還元性雰囲気中での焼成を行い、膜厚が0.5μmの金属被膜(1)を得た。
【0030】
得られた金属被膜(1)の状態(クラックの有無)を目視により観察したところ、金属光沢があり被膜にクラックは認められなかった。また、金属被膜(1)の比抵抗値を低抵抗率計(ロレスタGP、三菱化学株式会社製)を用いて測定したところ、被膜の比抵抗値は8μΩ・cmであった。結果を表1に示す。
(比較例1)
実施例1において、30質量%ラウロイルパーオキシド−キシレン溶液の代わりにキシレンのみを添加した以外は実施例1と同様にして、銅を28質量%含有する銅ナノ粒子分散体(比較1)を得た。
【0031】
上記銅ナノ粒子分散体(比較1)を2.5cmx3.5cmの面積のガラス基板上にスピンコーターを用いて塗布した後、ガラス基板を焼成炉に入れた。焼成炉内に4容量%の水素(残りの96容量%は窒素)を流通させながら室温から200℃まで20分で昇温した。温度が200℃に到達してから10分間保持し還元性雰囲気中での焼成を行った。続いて、温度を200℃に維持した状態で、流通させるガスを5容量%の酸素(残りの95容量%は窒素)に切り替えて10分間保持し、酸化性雰囲気中での焼成を行った。その後、温度を200℃に維持した状態で、流通させるガスを4容量%の水素(残りの96容量%は窒素)に切り替えて20分間保持し、還元性雰囲気中での焼成を行い、膜厚が0.5μmの金属被膜(比較1)を得た。
【0032】
得られた金属被膜(比較1)の状態(クラックの有無)を目視により観察したところ、被膜にクラックが認められた。また、金属被膜(比較1)の比抵抗値を低抵抗率計(ロレスタGP、三菱化学株式会社製)を用いて測定したところ、被膜の比抵抗値は81μΩ・cmであった。結果を表1に示す。
【0033】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナノ粒子分散体に有機過酸化物を添加することを特徴とする成膜性に優れた金属ナノ粒子分散体の製造方法。
【請求項2】
有機過酸化物がベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシドおよびジクミルパーオキシドから選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の成膜性に優れた金属ナノ粒子分散体の製造方法。
【請求項3】
有機過酸化物の添加量が、金属ナノ粒子分散体中の金属ナノ粒子100質量部に対し1〜60質量部である請求項1または2記載の成膜性に優れた金属ナノ粒子分散体の製造方法。
【請求項4】
金属ナノ粒子の金属が銅および/または銀である請求項1〜3のいずれかに記載の成膜性に優れた金属ナノ粒子分散体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの方法によって得られる成膜性に優れた金属ナノ粒子分散体を基板に塗布した後、100〜600℃の温度で焼成して得られる金属被膜。

【公開番号】特開2010−13721(P2010−13721A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−176971(P2008−176971)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】