説明

成膜方法および試験片の製造方法

【課題】優れた成膜精度でカルシウム層を形成することができる成膜方法、優れた成膜精度で形成されたカルシウム層を備える試験片を製造することができる試験片の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の成膜方法は、電子ビームを照射して、基材上にカルシウム層を成膜する方法であり、カルシウムを収納するための容器53として、凹部を有する本体部52と、凹部に蓋をする蓋部51とを有し、蓋部51の厚さ方向に貫通する貫通孔511を備えるものを用い、本体部52の凹部にカルシウムを収納し、凹部を蓋部51で蓋をした状態で、電子ビームを蓋部51に照射することで、加熱されたカルシウムが昇華することにより、貫通孔511を通過し、その後、基板上に、飛来することでカルシウム層が成膜されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜方法および試験片の製造方法、特に、カルシウム腐食法による水蒸気透過度測定方法に用いられる試験片の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水分が透過することで材料の特性が低下する現象が昔から確認されている。例えば、鉄表面に亜鉛やアルミ等のメッキを施したメッキ鋼板や表面処理鋼板では、メッキ材の欠陥を通して水分が浸透しサビを発生させる。また、プラスチック表面に酸化ケイ素、酸化アルミまたはアルミ金属箔を蒸着した食品や薬品の包装材料では蒸着膜の欠陥を通して水蒸気が拡散し、食品または薬品に吸湿する等の問題が発生する。さらに最近では、電子・電気装置の包装材料や液晶表示素子、有機EL表示素子のようなハイレベルな防湿性が要求されるプラスチックフィルムの開発がなされているため、吸湿を防止するためのバリア膜の開発が非常に活発に行なわれている。
【0003】
バリア膜が設けられたプラスチックフィルムの防湿性を評価する方法として、近年、カルシウムの腐食を観察する方法が着目されている(例えば、非特許文献1、2)。
【0004】
この方法は、バリア膜付プラスチックフィルムのバリア欠陥を通して侵入した水分とカルシウムの反応を利用した測定方法である。
【0005】
かかる測定方法では、バリア膜付プラスチックフィルムの内側にカルシウム層を成膜した試験片を恒温恒湿環境下に置き、バリア膜付プラスチックフィルムを透過した水蒸気と反応して腐食したカルシウムの量を画像処理等で測定することにより、バリア膜付プラスチックフィルムの水蒸気透過量を測定する(例えば、特許文献1)。
【0006】
しかしながら、このような試験片を用いた測定方法において、バリア膜付プラスチックフィルムの反対側からカルシウム層に水蒸気が浸入すると、この水蒸気によってもカルシウムが腐食してしまうため、バリア膜付プラスチックフィルムを透過した水蒸気透過量の測定精度が低下するという問題が生じる。
【0007】
そのため、カルシウム層のバリア膜付プラスチックフィルムと反対側の面には、通常、このカルシウム層を覆うようにアルミニウム層(封止層)が設けられている。これにより、バリア膜付プラスチックフィルムの反対側からからのカルシウム層への水蒸気の浸入が防止されるため、バリア膜付プラスチックフィルムを透過した水蒸気透過量の測定精度を向上させることができる。
【0008】
ところが、このアルミニウム層に欠陥部(欠損部)が生じていると、この欠陥部を介して、カルシウム層に水蒸気が浸入し、水蒸気透過量の測定精度が低下することとなるため、欠陥部の形成が的確に防止されていることが求められる。
【0009】
このような欠陥部の形成には、カルシウム層の成膜精度が関与していることが判っているため、優れた成膜精度でカルシウム層を形成することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−318515号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Asia Display/IDW’01 pp.1435〜1438
【非特許文献2】藤本ら、第12回ポリマー材料フォーラム、p.200、2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、優れた成膜精度でカルシウム層を形成することができる成膜方法、優れた成膜精度で形成されたカルシウム層を備える試験片を製造することができる試験片の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような目的は、下記(1)〜(9)に記載の本発明により達成される。
(1) 電子ビームを照射して、基材上にカルシウム層を成膜する成膜方法であって、
蒸着源としてのカルシウムを収納するための容器として、凹部を有する本体部と、前記凹部に蓋をする蓋部とを有し、前記本体部および前記蓋部の少なくとも一方に、その厚さ方向に貫通する貫通孔を備えるものを用い、
前記本体部の前記凹部に前記カルシウムを収納し、前記凹部を前記蓋部で蓋をした状態で、前記電子ビームを前記蓋部に照射することで、加熱された前記カルシウムが昇華することにより、前記貫通孔を通過し、その後、前記基板上に、飛来することで前記カルシウム層が成膜されることを特徴とする成膜方法。
【0014】
(2) 前記貫通孔は、前記蓋部に設けられている上記(1)に記載の成膜方法。
(3) 前記凹部は、前記本体部の上側で開口しており、前記本体部は、その上部に前記蓋部が配置されることにより、前記凹部に蓋がなされる上記(1)または(2)に記載の成膜方法。
【0015】
(4) 前記凹部内の前記カルシウムは、前記蓋部への前記電子ビームの照射により加熱された前記蓋部により、間接的に加熱される上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の成膜方法。
【0016】
(5) 前記蓋部は、少なくともその一部が前記本体部の開口部に嵌入されることで固定される上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の成膜方法。
【0017】
(6) 前記本体部および前記蓋部は、それぞれ、高融点金属材料を主材料として構成される上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の成膜方法。
【0018】
(7) 前記高融点金属材料は、タングステン、ボロンおよびタンタルのうちの少なくとも1種である上記(6)に記載の成膜方法。
【0019】
(8) 前記カルシウム層は、その平均膜厚が50nm以上、300nm以下である上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の成膜方法。
【0020】
(9) バリア膜付プラスチックフィルムと、前記バリア膜付プラスチックフィルムのバリア膜側に設けられたカルシウム層と、該カルシウム層を覆うように設けられたアルミニウム層と、該アルミニウム層を封止する封止層とを有する試験片の製造方法であって、
前記カルシウム層は電子ビームを照射することにより、前記バリア膜付プラスチックフィルム上に成膜され、
蒸着源としてのカルシウムを収納するための容器として、凹部を有する本体部と、前記凹部に蓋をする蓋部とを有し、前記本体部および前記蓋部の少なくとも一方に、その厚さ方向に貫通する貫通孔を備えるものを用い、
前記本体部の前記凹部に前記カルシウムを収納し、前記凹部を前記蓋部で蓋をした状態で、前記電子ビームを前記蓋部に照射することで、加熱された前記カルシウムが昇華することにより、前記貫通孔を通過し、その後、前記バリア膜付プラスチックフィルム上に、飛来することで前記カルシウム層が成膜されることを特徴とする試験片の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の成膜方法によれば、優れた成膜精度でカルシウム層を形成することができる。
また、本発明の試験片の製造方法によれば、優れた成膜精度で形成されたカルシウム層を備える試験片を製造することができる。そのため、かかる試験片を用いたカルシウム腐食法による水蒸気透過度測定方法において、バリア膜付プラスチックフィルムと反対側の面からの水蒸気の浸入が的確に防止されるため、精度の高い水蒸気透過度測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】カルシウム腐食法に用いられる試験片の好適実施形態を模式的に示す縦断面図である。
【図2】試験片を恒温恒湿処理した状態で、撮影した試験片撮影画像の一例である。
【図3】カルシウム層を成膜する際に用いられる電子ビーム蒸着装置の一部を模式的に示す図である。
【図4】蒸着源としてのカルシウムを収納するための容器を示す斜視図である。
【図5】他の構成(第2の構成〜第5の構成)の容器を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の成膜方法および試験片の製造方法について、好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0024】
まず、本発明の成膜方法および試験片の製造方法を説明するのに先立って、これらの方法が適用される、カルシウム腐食法に用いられる試験片10について説明する。
【0025】
<試験片>
図1は、カルシウム腐食法に用いられる試験片の好適実施形態を模式的に示す縦断面図である。なお、以下では、説明の都合上、図1中の上側を「上」、下側を「下」として説明する。
【0026】
試験片10は、バリア膜付プラスチックフィルム11と、バリア膜付プラスチックフィルム11のバリア膜2側に設けられたカルシウム層3と、カルシウム層3を覆うように設けられたアルミニウム層4と、バリア膜付プラスチックフィルム11のバリア膜2側に対向配置された基板6と、バリア膜付プラスチックフィルム11と基板6との間を封止する封止層5とを有している。
【0027】
このような試験片10を用いたカルシウム腐食法では、試験片10を恒温恒湿処理し、バリア膜付プラスチックフィルム11を透過した水蒸気により、カルシウム層3において腐食したカルシウムの量を算出することにより、その水蒸気の透過量を測定する。
【0028】
バリア膜付プラスチックフィルム(水蒸気バリアフィルム)11は、水蒸気透過度を測定するための材料であり、本実施形態では、プラスチックフィルム1と、その下側(カルシウム層3側)の面に設けられたバリア膜2とを有するものである。
【0029】
カルシウム層3は、Caを主材料として構成され、バリア膜付プラスチックフィルム11を透過した水蒸気により腐食するものであり、後述する本発明の成膜方法を用いて成膜される。
【0030】
また、カルシウム層3の平均膜厚は、特に限定されないが、例えば、好ましくは10nm以上、500nm以下に設定され、より好ましくは50nm以上、300nm以下に設定される。後述する本発明の成膜方法によれば、かかる膜厚のカルシウム層3を、優れた成膜精度で、容易に形成することができる。
【0031】
アルミニウム層4は、Alを主材料として構成され、バリア膜付プラスチックフィルム11の下側を透過する水蒸気、すなわち、バリア膜付プラスチックフィルム11を透過しない水蒸気に起因して、カルシウム層3のカルシウムが腐食されるのを防止するバリア層として機能を発揮するものである。換言すれば、カルシウム腐食法の精度を向上させるために設けられたバリア層である。
【0032】
このアルミニウム層4の平均膜厚は、特に限定されないが、例えば、好ましくは0.5μm以上、50μm以下に設定され、より好ましくは1μm以上、10μm以下に設定される。アルミニウム層4の平均膜厚をかかる範囲内に設定することで、アルミニウム層4にバリア層としての機能を確実に付与することができ、アルミニウム層を介した水蒸気の透過を的確に抑制または防止することができる。
【0033】
基板6は、バリア膜付プラスチックフィルム11等を支持するための支持基板(土台)として機能するものであり、封止層5を介してバリア膜付プラスチックフィルム11等の各種部材が固定される。
【0034】
なお、封止層5および基板6は、カルシウム層3の腐食状態を、本実施形態のように、バリア膜付プラスチックフィルム11の上側から観測する場合には、ともに透明である必要はない。
【0035】
この場合、封止層5の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂等のポリイミド系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等のポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、フェノキシ樹脂等の熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。これにより、アルミニウム層4を確実に封止することができる。
【0036】
また、基板6の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、無アルカリガラス、ソーダガラス、結晶性ガラス、石英ガラス等のガラス材料が好ましく用いられる。
【0037】
なお、この基板6は、封止層5の構成材料等によっては、その形成を省略することができる。
【0038】
以上のような試験片10を用いたカルシウム腐食法により、バリア膜付プラスチックフィルム11を透過した水蒸気の透過量が測定されるが、以下、その方法の一例について詳述する。
【0039】
<カルシウム腐食法>
試験片10を用いたカルシウム腐食法では、試験片10を恒温恒湿処理した状態で、適当な時間間隔をあけて、試験片10の上側(観測面側)から試験片10を撮影し、撮影した複数の試験片撮影画像に対し、腐食や異物、ムラ等画像中で特徴となる点を抽出する特徴点抽出処理と、各画像の特徴点を比較して、経時的な面積増加がある特徴点のみを腐食領域として抽出する特徴点比較処理と、各画像の腐食領域の面積から水蒸気透過量を算出し、その値をもとに単位時間あたりの水蒸気透過量変化、つまり、水蒸気透過度算出する水蒸気透過度算出処理とを有する。
【0040】
図2は、試験片10を恒温恒湿処理した状態で、撮影した試験片撮影画像の一例である。
【0041】
<<特徴点抽出処理>>
まず、試験片10を恒温恒湿処理した状態で、適当な時間間隔(本実施形態では、5時間後、18時間後および33時間後)をあけて、試験片10を撮影して、図2に示すような試験片撮影画像を得る。
【0042】
このような試験片撮影画像を得ると、カルシウムが腐食していない領域の中に、腐食領域20や異物30が存在する。なお、腐食していない領域についても、素材、照明、カメラ等各種要因によるムラが存在するが、この試験片撮影画像から特徴点を抽出する。
【0043】
特徴点を抽出する方法としては、二値化処理、多値化処理、微分処理による輪郭抽出等の各種方法やそれらを組み合わせた方法が挙げられる。これらの方法のうち、腐食がどのような画像になるかによって適切に選択すればよく、特徴点抽出処理方法は、限定されない。
【0044】
試験片撮影画像が図2に示すようなものである場合、特徴点抽出処理方法の一例としては、画像中で腐食していない領域に比べて腐食領域20の色が中心部では白く、外周部では黒くなっていることから、画像明度について2つの閾値をつかう三値化処理をおこない、小さい閾値より明度が小さい領域と大きい閾値より明度が大きい領域を特徴点として抽出する方法が挙げられる。
【0045】
以上のような、特徴点抽出処理を、試験片10の各時間における画像に対して行うことにより、特徴点画像が得られる。
【0046】
<<特徴点比較処理>>
次に、5時間後における特徴点画像(試験片撮影画像)と、18時間後および33時間後における特徴点画像とを比較する。これにより、腐食領域(特徴点)20は、面積が増加しているものと、増加していないものに分類することができる。
【0047】
そこで、面積が増加している特徴点だけを腐食領域15として抽出し、腐食領域画像を作成する。面積が増加していない特徴点は腐食とみなされない領域となり、水蒸気透過度算出の際に除外する。異物やムラは、時間が経過しても面積は変化しないため、特徴点比較後の腐食領域画像からは除去される。
【0048】
したがって、水蒸気の透過により成長している腐食領域15の面積だけを用いて水蒸気透過度の算出を行うことができるため、異なる時刻の画像を比較せずに腐食面積を抽出する一般的な方法に比べて高精度の測定が可能となる。
【0049】
また、特徴点抽出処理において、異物やムラが特徴点として抽出されたとしても特徴点比較処理(本処理)で除去されるため、特徴点抽出処理の感度を上げ、腐食を確実に抽出するようにできる点においても精度の向上が可能となる。
【0050】
<<水蒸気透過度算出処理>>
次に、前記特徴点比較処理から出力された腐食領域画像から腐食総面積を算出し、その全領域が腐食するのに要した水蒸気の量を計算することにより、バリア膜付プラスチックフィルム11の水蒸気透過度を算出する。
【0051】
下記(式1)に示すように、カルシウム1molは2molの水分と反応し、1molの水酸化カルシウムを生成する。
Ca + 2HO → Ca(OH) + H ・・・ (式1)
【0052】
したがって、試験片10の腐食に要した水蒸気の量は、腐食総面積δ、カルシウム層3の厚みt、カルシウムの腐食後の厚み補正係数α(式3)、腐食後の水酸化カルシウムの密度dから求めることができる。
恒温恒湿処理後の水酸化カルシウムのモル量(X):
X=(δ×t×α×d)/M[g/m2/day] ・・・ (式2)
1<α≦(M/d)/(M/d) ・・・ (式3)
水蒸気透過量(Y)=X×18×2[g/m2/day] ・・・ (式4)
【0053】
よって、時刻T1(本実施形態では5時間後)における水蒸気透過量Y1、時刻T2(本実施形態では18時間後または33時間後)における水蒸気透過量Y2、T1とT2の時間差T、測定前のカルシウム層の総面積Aから水蒸気透過度は、下記(式5)に示すとおりとなる。
水蒸気透過度=(Y2−Y1)×(10/A)*(24/T)[g/m2/day]
・・・ (式5)
【0054】
測定開始時のカルシウム総面積 : A[cm2
カルシウムの厚み : t[cm]
厚み補正係数 : α
腐食総面積 : δ[cm2
カルシウムの分子量 : M
水酸化カルシウムの分子量 : M
カルシウムの密度 : d[g/cm3
水酸化カルシウムの密度 : d[g/cm3
測定時間差 : T[hour]
【0055】
上記のようにして、腐食領域15のみを抽出することによって、高精度な水蒸気透過度を測定することができる。
【0056】
<試験片の製造方法>
以上のようなカルシウム腐食法に用いられる試験片10は、例えば、次のようにして製造される(本発明の試験片の製造方法)。
【0057】
図3は、カルシウム層を成膜する際に用いられる電子ビーム蒸着装置の一部を模式的に示す図、図4は、蒸着源としてのカルシウムを収納するための容器を示す斜視図である。
【0058】
[1]まず、カルシウム腐食法により水蒸気透過度を測定すべきバリア膜付プラスチックフィルム11を用意し、このバリア膜付プラスチックフィルム11のバリア膜2側の面にカルシウム層3を形成する。
このカルシウム層3の形成に、本発明の成膜方法が適用される。
【0059】
本発明の成膜方法では、カルシウム層3の形成に、電子ビームを照射する電子ビーム蒸着装置が用いられることから、まず、この電子ビーム蒸着装置について説明する。
【0060】
電子ビーム蒸着装置は、チャンバー(真空チャンバー)(図示せず)と、このチャンバー内に設置され、バリア膜付プラスチックフィルム11を保持する基板ホルダー(図示せず)と、電子を放出するフィラメント57と、前記電子を加速させるアノード58と、カルシウムを収納する容器53と、容器53を保持するルツボ56と、容器53の温度を制御する温度制御装置510とを有している。
【0061】
チャンバーは、チャンバー内の排気をして圧力を制御する排気手段を有しており、これにより、チャンバー内を所望の圧力に設定することができる。
【0062】
基板ホルダーは、通常、チャンバーの天井部に、容器53に対向配置されるように取り付けられている。この基板ホルダーは、好ましくは回動可能となっている。これにより、基板ホルダーに固定されたバリア膜付プラスチックフィルム11上にカルシウム層3をより均質かつ均一な厚さで成膜することができる。
【0063】
フィラメント57は、このものを通電加熱することにより、電子を放出するものであり、通常、図3に示すような、ヘアピン型をなすタングステン線で構成される。
【0064】
アノード58は、フィラメント57から放出された電子を加速して電子ビーム59を生成するための電極であり、その中心部に孔を備えるものである。なお、アノード58には、通常、電子を加速させるために、数KV程度の電圧が印加される。
【0065】
電子ビーム59は、フィラメント57で発生した電子がアノード58により加速されることにより生成されたものであり、本発明では、容器53(蓋部51)に照射して、この容器53の照射部分を直接加熱するものである。
【0066】
なお、アノード58への数KVの電圧の印加により、数mA〜数百mA程度の容量を有する電子ビーム59を生成することができ、より詳細には、4KVの電圧の印加により、数mA〜数十mA程度の容量を有する電子ビーム59を生成することができる。
【0067】
ルツボ56は、通常の電子ビーム蒸着装置では、電子ビームを直接照射して直接加熱すべき膜材料(蒸着源)を収納すべき耐熱性の収納部であるが、本発明では、膜材料を直接収納するのではなく、膜材料(カルシウム)を収納した容器53を保持するためのものである。
【0068】
容器53は、膜材料(蒸着源)としてのカルシウム54を収納するためのものであり、凹部を有する本体部52と、この凹部に蓋をする蓋部51とを有している。
【0069】
本体部(ハースライナー)52は、その全体形状が有底筒状をなしており、内径および外径の双方が高さ方向に向かってほぼ一定となっている側壁と、その下側に位置する底面とを備えており、その上側で開口する開口部を備える構成となっている。
【0070】
そして、側壁の内面と底面の上側の面とにより凹部が形成されている。この凹部に、図4に示すように、膜材料としてのカルシウム54が収納される。
【0071】
蓋部51は、本体部52の上部に配置することで本体部52の蓋として機能し、その厚さ方向に貫通する貫通孔(本実施形態では2つ)511を備えるものである。
【0072】
本実施形態では、凹部は、本体部52の上側で開口していることから、蓋部51が本体部52の上部に配置されることで、蓋部51により蓋がなされる。
【0073】
また、図4に示すように、蓋部51の外径は、本体部52の側壁の内径とほぼ等しくなっており、これにより、蓋部51が本体部52の凹部内の上側で保持されることとなる。
【0074】
貫通孔511は、容器53の加熱により昇華されたカルシウム54を、カルシウム層3を形成すべきバリア膜付プラスチックフィルム11に対して噴射する(通過させる)ための噴射口として機能する。
【0075】
貫通孔511の口径は、特に限定されないが、好ましくは100μm以上、5000μm以下に設定され、より好ましくは500μm以上、3000μm以下に設定される。これにより、カルシウム54の突沸による影響を受けることなく、昇華されたカルシウム54をより効率よく貫通孔511から噴出させることができる。
【0076】
なお、本体部52および蓋部51は、それぞれ、耐熱性が求められ、膜材料すなわちカルシウム54の加熱(昇華)によっても、カルシウム54との反応が生じないように、カルシウム54の昇華点よりも高い材料で構成され、具体的には、タングステン、ボロン、タンタルのような高融点金属材料を主材料として構成される。
【0077】
温度制御装置510は、容器53の温度(本体部52または蓋部51のいずれか)を熱電対等の温度検出器(高温の場合には光温度検出器)で検出し、検出した温度が容器53の凹部に収納したカルシウム(材料)54を昇華させるのに適した温度(所望の温度)に保持されるように、図示しないアノード58の電圧、電流の制御装置にフィードバックし、容器53の温度を所望の温度に制御するものである。これにより、容器53から間接加熱されるカルシウム54の温度が適切な範囲内に制御される。その結果、昇華されたカルシウム54が蓋部51の貫通孔511から安定的に噴射されるため、対向配置されたバリア膜付プラスチックフィルム11上に、優れた成膜精度でカルシウム層3が成膜される。
【0078】
以上のような構成の電子ビーム蒸着装置を用いて、以下のようにして、バリア膜付プラスチックフィルム11上にカルシウム層3が形成される。
【0079】
[1−1]まず、カルシウム層3の原材料となるカルシウム54を、本体部52の凹部(内部)に収納(装填)した後、蓋部51を本体部52の開口部(上部)に嵌入させることで固定して、カルシウム54がその内部に装填された容器53とする。
【0080】
これにより、次工程[1−3]において、電子ビーム59の蓋部51への照射により蓋部51が加熱されることに起因して、カルシウム54が昇華したとしても、蓋部51が浮き上がったり、ズレが生じてしまったりするのを的確に抑制または防止することができる。
【0081】
[1−2]次いで、容器53をルツボ56内に配置するとともに、基板ホルダーにバリア膜付プラスチックフィルム11を固定した後に、チャンバー内を所定の圧力に設定する。
【0082】
[1−3]次いで、フィラメント57を通電加熱しつつ、アノード58に電圧を印加することで、電子ビーム59を生成させ、この生成した電子ビーム59を、容器53の蓋部51に照射する。
【0083】
これにより、蓋部51が加熱され、さらに、本体部52の凹部に収納されたカルシウム54が間接的に加熱される。その結果、カルシウム54は昇華され、この昇華したカルシウム54が貫通孔511を通過し、その後、対向配置されたバリア膜付プラスチックフィルム11上に蒸着(飛来)することで、カルシウム層3が成膜される。
【0084】
ここで、本発明では、カルシウム54に電子ビーム59を直接照射することなく、蓋部51に電子ビーム59を照射することで蓋部51を加熱し、この加熱された蓋部51の熱により間接的にカルシウム54を加熱する構成となっている。そのため、カルシウム54の加熱を緩徐に行うことができることから、カルシウム54の加熱に伴う突沸の発生を的確に抑制または防止することができ、その結果、形成されるカルシウム層3の成膜精度の向上が図られる。
【0085】
さらに、昇華したカルシウム54を蓋部51の貫通孔511から噴出する構成としていることから、たとえカルシウム54が突沸したとしても、突沸物がバリア膜付プラスチックフィルム11上に飛着してしまうのを、より的確に抑制または防止することができるため、かかる観点からも、優れた成膜精度でカルシウム層3を成膜することができる。
【0086】
また、本実施形態では、電子ビーム59の照射による蓋部51の加熱に際して、温度制御装置510によりフィードバック制御を行い、電子ビーム59の出力を変えるように構成されている。これにより、容器53の加熱温度を一定の範囲内に維持することができるため、カルシウム54が急激に加熱されるようになるのを確実に防止することができる。その結果、カルシウム54の加熱に伴う突沸の発生がより的確に抑制または防止されるため、カルシウム層3の成膜精度のさらなる向上を図ることができる。
【0087】
[2]次に、カルシウム層3を覆うようにして、アルミニウム層4を形成する。
ここで、前記工程[1]において、カルシウム層3が優れた成膜精度、すなわち均一な膜厚で形成されているため、本工程[2]において、アルミニウム層4に欠陥部(欠損部)が生じることなく、アルミニウム層4を成膜することができる。すなわち、カルシウム層3のアルミニウム層4による封止精度の向上を図ることができる。
【0088】
ところで、このアルミニウム層4の形成にも、前述した電子ビーム蒸着装置を用いた電子ビーム蒸着法を適用することができる。
【0089】
また、蒸着源(原材料)としてアルミニウムを用いる場合、カルシウムと比較して、蒸着源の加熱により突沸が生じる可能性が低いため、容器53の使用を省略することができる。すなわち、ルツボ56に、直接アルミニウムを収納することができる。
【0090】
したがって、電子ビーム蒸着装置として、ルツボ56を、ターレット状に複数(少なくとも2つ)備えるものとし、これらルツボ56が電子ビーム59の照射位置に自動的に真空外から移動し得る機構(ターレット機構)を有するものを用いるのが好ましい。
【0091】
かかる構成の電子ビーム蒸着装置を用いることにより、以下のようにして、カルシウム層3およびアルミニウム層4を形成することができる。
【0092】
すなわち、まず、一のルツボ56には、カルシウムが収納された容器53を配置し、二のルツボ56には、直接アルミニウムを収納する。そして、前記工程[1]において、ターレット機構により、一のルツボ56を電子ビーム59の照射位置に移動させて、バリア膜付プラスチックフィルム11のバリア膜2側の面にカルシウム層3を形成する。その後、本工程[2]において、ターレット機構により、二のルツボ56を電子ビーム59の照射位置に移動させて、カルシウム層3を覆うようにして、アルミニウム層4を形成する。
【0093】
以上のようにして、カルシウム層3およびアルミニウム層4を形成することができ、1つの装置で、真空状態を維持したまま2つの層を連続的に形成することができるため、時間と手間の簡略化を図ることができる。
【0094】
[3]次に、基板6を用意し、基板6と、カルシウム層3およびアルミニウム層4が形成されたバリア膜付プラスチックフィルム11との間に封止層5を形成する。
【0095】
この封止層5は、例えば、封止層5の構成材料として熱可塑性樹脂を用いた場合、基板6と、カルシウム層3およびアルミニウム層4が形成されたバリア膜付プラスチックフィルム11とを対向配置した状態で、これら同士の間に、溶融状態の熱可塑性樹脂を注入した後、これを固化することで形成される。
【0096】
以上のような工程を経ることで、試験片10を得ることができる。かかる製造方法によれば、優れた成膜精度で形成されたカルシウム層3を備える試験片10とすることができる。そのため、かかる試験片10を用いたカルシウム腐食法による水蒸気透過度測定方法において、バリア膜付プラスチックフィルム11の反対側の面からの水蒸気の浸入が的確に防止されるため、精度の高い水蒸気透過度測定が可能となる。
【0097】
なお、上述したような構成(第1の構成)の容器53の他、以下に示すような他の構成(第2〜第5の構成)の容器53を用い、これらの容器53の凹部にカルシウム54を収納して、カルシウム層3を形成するようにしても良い。
【0098】
<第2の構成>
図5(a)は、第2の構成の容器を示す縦断面図である。なお、以下の説明では、説明の都合上、図5(a)中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0099】
以下、第2の構成の容器について説明するが、前記第1の構成の容器との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0100】
第2の構成の容器53では、蓋部51の構成が異なり、それ以外は、前記第1の構成の容器53と同様である。
【0101】
すなわち、図5(a)に示すように、蓋部51は、その下側の面に、下方向に突出するリング状をなす凸部(突起)を有しており、この凸部が、本体部52の側壁の内面に係止するよう構成されている。これにより、カルシウム54が昇華する際に、容器53の内部に圧力がかかったとしても、蓋部51が浮き上がったり、横方向にズレが生じるのを確実に防止することができる。
【0102】
<第3の構成>
図5(b)は、第3の構成の容器を示す斜視図である。なお、以下の説明では、説明の都合上、図5(b)中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0103】
以下、第3の構成の容器について説明するが、前記第1の構成の容器との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0104】
第3の構成の容器53では、本体部52の構成が異なり、それ以外は、前記第1の構成の容器53と同様である。
【0105】
すなわち、図5(b)に示すように、本体部52には、その下側の面(底面)に、下方向に突出するスペーサ521が設けられている。これにより、直接、本体部52がルツボ56に接触してしまうのを防止することができるため、ルツボ56への熱の拡散を的確に抑制または防止することができる。その結果、容器53によるカルシウム54の間接加熱の加熱効率が向上する。
【0106】
<第4の構成>
図5(c)は、第4の構成の容器を示す斜視図である。なお、以下の説明では、説明の都合上、図5(c)中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0107】
以下、第4の構成の容器について説明するが、前記第1の構成の容器との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0108】
第4の構成の容器53では、蓋部51の構成が異なり、それ以外は、前記第1の構成の容器53と同様である。
【0109】
すなわち、図5(c)に示すように、蓋部51が4つの貫通孔511を有している。このように、貫通孔511の数を多くすることにより、カルシウム54の昇華による内圧の上昇を抑制しつつ、貫通孔511からのカルシウム54の噴出量を増大させることができる。そのため、蓋部51のズレを防止しつつ、カルシウム層3の成膜レートの向上を図ることができる。
【0110】
なお、貫通孔511の数を増やすことにより、上記効果を得ることができるが、貫通孔511の口径を大きくすることによっても同様の効果を得ることができる。
【0111】
さらに、貫通孔511の数およびその形成を適宜設定することにより、所望の形状および厚さを備えるカルシウム層3を形成することができるようになる。
【0112】
<第5の構成>
図5(d)は、第5の構成の容器を示す縦断面図である。なお、以下の説明では、説明の都合上、図5(d)中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0113】
以下、第5の構成の容器について説明するが、前記第1の構成の容器との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0114】
第5の構成の容器53では、蓋部51の構成が異なり、それ以外は、前記第1の構成の容器53と同様である。
【0115】
すなわち、図5(d)に示すように、蓋部51は、その厚さが厚くなっており、その重量が増大している。これにより、カルシウム54が昇華する際に、容器53の内部に圧力がかかったとしても、蓋部51が浮き上がったり、横方向にズレが生じるのを確実に防止することができる。
【0116】
以上、本発明の成膜方法および試験片の製造方法について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0117】
例えば、本発明の成膜方法および試験片の製造方法には、必要に応じて任意の工程が追加されてもよい。
【0118】
また、前記実施形態では、貫通孔が蓋部に設けられている場合について説明したが、これに限定されず、貫通孔は、容器が備える本体部に設けられていても良い。
【0119】
さらに、本体部は、その上側で開口する開口部を有することとしたが、この場合に限定されず、開口部は、本体部の横側(側壁)で開口していても良い。なお、この場合、蓋部は、本体部の側壁に配置されるため、貫通孔は、本体部の上部(上面)に設けられているのが好ましい。
【符号の説明】
【0120】
1 プラスチックフィルム
2 バリア膜
3 カルシウム層
4 アルミニウム層
5 封止層
6 基板
10 試験片
11 バリア膜付プラスチックフィルム
15 腐食領域
20 腐食領域
30 異物
51 蓋部
510 温度制御装置
511 貫通孔
52 本体部
521 スペーサ
53 容器
54 カルシウム
56 ルツボ
57 フィラメント
58 アノード
59 電子ビーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを照射して、基材上にカルシウム層を成膜する成膜方法であって、
蒸着源としてのカルシウムを収納するための容器として、凹部を有する本体部と、前記凹部に蓋をする蓋部とを有し、前記本体部および前記蓋部の少なくとも一方に、その厚さ方向に貫通する貫通孔を備えるものを用い、
前記本体部の前記凹部に前記カルシウムを収納し、前記凹部を前記蓋部で蓋をした状態で、前記電子ビームを前記蓋部に照射することで、加熱された前記カルシウムが昇華することにより、前記貫通孔を通過し、その後、前記基板上に、飛来することで前記カルシウム層が成膜されることを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記貫通孔は、前記蓋部に設けられている請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記凹部は、前記本体部の上側で開口しており、前記本体部は、その上部に前記蓋部が配置されることにより、前記凹部に蓋がなされる請求項1または2に記載の成膜方法。
【請求項4】
前記凹部内の前記カルシウムは、前記蓋部への前記電子ビームの照射により加熱された前記蓋部により、間接的に加熱される請求項1ないし3のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項5】
前記蓋部は、少なくともその一部が前記本体部の開口部に嵌入されることで固定される請求項1ないし4のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項6】
前記本体部および前記蓋部は、それぞれ、高融点金属材料を主材料として構成される請求項1ないし5のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項7】
前記高融点金属材料は、タングステン、ボロンおよびタンタルのうちの少なくとも1種である請求項6に記載の成膜方法。
【請求項8】
前記カルシウム層は、その平均膜厚が50nm以上、300nm以下である請求項1ないし7のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項9】
バリア膜付プラスチックフィルムと、前記バリア膜付プラスチックフィルムのバリア膜側に設けられたカルシウム層と、該カルシウム層を覆うように設けられたアルミニウム層と、該アルミニウム層を封止する封止層とを有する試験片の製造方法であって、
前記カルシウム層は電子ビームを照射することにより、前記バリア膜付プラスチックフィルム上に成膜され、
蒸着源としてのカルシウムを収納するための容器として、凹部を有する本体部と、前記凹部に蓋をする蓋部とを有し、前記本体部および前記蓋部の少なくとも一方に、その厚さ方向に貫通する貫通孔を備えるものを用い、
前記本体部の前記凹部に前記カルシウムを収納し、前記凹部を前記蓋部で蓋をした状態で、前記電子ビームを前記蓋部に照射することで、加熱された前記カルシウムが昇華することにより、前記貫通孔を通過し、その後、前記バリア膜付プラスチックフィルム上に、飛来することで前記カルシウム層が成膜されることを特徴とする試験片の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−57096(P2013−57096A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195397(P2011−195397)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】