説明

成膜方法

【課題】成膜する層に成膜材料以外の材料が混入することを抑制し、発光素子の性能低下を防ぐ、成膜方法の提供を課題の一つとする。
【解決手段】基板の一方の面上に形成された吸収層と、吸収層上に形成され、基板の一方の面の最表面に形成された、成膜材料を含む材料層とを有する第1の基板の一方の面と、基板の被成膜面の最表面に形成された下地層を有する第2の基板の被成膜面を対向させて配置し、第1の基板の他方の面側から加熱処理を施すことで、加熱された材料層に含まれる成膜材料で、下地層上に成膜材料層を形成する成膜方法であり、成膜材料層の主成分と下地層の主成分に同じ物質を用いる成膜方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に膜を形成する成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロルミネッセンス(Electro Luminescence、以下ELと記す)を利用した発光素子の研究開発が盛んに行われている。これら発光素子の基本的な構成は、一対の電極間に発光性の物質を含む層(以下、EL層と記す)を挟んだものである。この素子に電圧を印加することにより、発光性の物質からの発光が得られる。
【0003】
発光素子を構成するEL層は、少なくとも発光層を有する。また、EL層は、発光層の他に、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層などを有する積層構造とすることもできる。
【0004】
また、EL層を形成するEL材料は低分子系(モノマー系)材料と高分子系(ポリマー系)材料に大別される。一般に、低分子系材料は蒸着法を用いて成膜され、高分子系材料はインクジェット法やスピンコート法などを用いて成膜されることが多い。
【0005】
蒸着法の場合に用いられる蒸着装置は、基板を設置する基板ホルダと、蒸着材料(ここでは、EL材料)を封入したルツボ(または蒸着ボート)と、ルツボ内のEL材料を加熱するヒータと、昇華するEL材料の拡散を防止するシャッターとを有しており、ヒータにより加熱されたEL材料が昇華し、基板に成膜される構成となっている。
【0006】
しかし、実際には均一に膜を成膜するために、被成膜基板を回転させることや、基板とルツボとの間の距離を一定以上離すことが必要となる。また、複数のEL材料を用いてメタルマスクなどのシャドーマスクを介した塗り分けを行う場合には、画素間の間隔を広く設計し、画素間に設けられる絶縁物からなる隔壁の幅を広くすることが必要となる。このため、発光素子を含む発光装置の高精細化(画素数の増大)及び小型化に伴う各表示画素ピッチの微細化が大きな課題となっている。また、同時に生産性の向上や低コスト化を図ることが要求されている。
【0007】
これに対して、熱転写により、発光素子のEL層を形成する方法が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1では、蒸着材料とバインダ材料の混合物で構成される材料層を有する蒸着源基板について記載されている。このような蒸着源基板を加熱処理することにより、蒸着材料層を被成膜基板に形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−291352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の熱転写のように、蒸着源基板を加熱処理することにより、蒸着材料を被成膜基板に形成する方法において、蒸着材料を高レートで成膜させるためには、蒸着源基板と被成膜基板の間の距離を非常に小さくする必要がある。よって、加熱処理の際に、被成膜基板上の下地層は急激に温度が上昇し、下地層上に成膜した蒸着材料層中で、蒸着材料と下地層の材料が混ざってしまうことがある。
【0010】
前述の通り、EL層を、発光層や正孔注入層など、それぞれ異なる機能を有する層の積層構造とすることができるが、この積層構造において、ある層に別の層を形成するEL材料が混入すると、発光素子の発光効率や寿命等の性能が低下することがある。
【0011】
そこで本発明の一態様は、成膜する層に成膜材料以外の材料が混入することを抑制し、発光素子の性能低下を防ぐ、成膜方法の提供を課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、一方の面上に少なくとも吸収層及び材料層が形成され、該一方の面の最表面に該材料層を有する成膜用基板と、被成膜面の最表面に下地層を有する被成膜基板を用い、成膜用基板の他方の面側から加熱処理をすることにより、吸収層にエネルギーを吸収させて発熱させ、加熱された材料層に含まれる成膜材料で被成膜基板の下地層上に成膜材料層を形成する成膜方法であり、下地層の主成分と成膜材料層の主成分に同じ物質を用いる成膜方法により、解決することができる。
【0013】
本発明の一態様は、基板の一方の面上に形成された吸収層と、吸収層上に形成され、基板の一方の面の最表面に形成された、成膜材料を含む材料層とを有する第1の基板の一方の面と、基板の被成膜面の最表面に形成された下地層を有する第2の基板の被成膜面を対向させて配置し、第1の基板の他方の面側から加熱処理を施すことで、吸収層にエネルギーを吸収させて発熱させ、加熱された材料層に含まれる成膜材料で、下地層上に成膜材料層を形成する成膜方法であり、成膜材料層の主成分と下地層の主成分に同じ物質を用いる成膜方法である。
【0014】
また、本発明の一態様は、基板の一方の面上に形成された吸収層と、吸収層上に形成され、基板の一方の面の最表面に形成された、成膜材料を含む材料層とを有する第1の基板の一方の面と、基板の被成膜面の最表面に形成された下地層を有する第2の基板の被成膜面を対向させて配置し、第1の基板の他方の面側から加熱処理を施すことで、吸収層にエネルギーを吸収させて発熱させ、加熱された材料層に含まれる成膜材料で、下地層上に成膜材料層を形成する成膜方法であり、下地層を、成膜材料層に用いる物質で形成する成膜方法である。
【0015】
また、本発明の一態様は、上記構成において、吸収層が、島状またはストライプ状に形成されている成膜方法である。
【0016】
また、本発明の一態様は、上記構成において、材料層が、島状またはストライプ状に形成されている成膜方法である。
【0017】
また、本発明の一態様は、上記構成において、第1の基板と吸収層との間に、開口部を有する反射層が形成されている成膜方法である。
【0018】
また、本発明の一態様は、上記構成において、反射層と吸収層との間に、反射層の開口部と重なる位置に開口部を有する断熱層を形成する成膜方法である。
【0019】
また、本発明の一態様は、上記構成において、吸収層と材料層との間に、保護層が形成されている成膜方法である。
【0020】
また、本発明の一態様は、上記構成において、材料層が、蒸着法、スパッタ法、スピンコート法、印刷法、液滴吐出法、スプレー法、滴下法、インクジェット法、ノズルプリンティング法又はディスペンス法により吸収層上に形成される成膜方法である。
【0021】
また、本発明の一態様は、上記構成において、加熱処理として、光源を用いて第1の基板の他方の面側から光を照射し、吸収層が光を吸収することで加熱される方式を用いる成膜方法である。
【0022】
また、本発明の一態様は、上記構成において、光源としてレーザ発振装置、フラッシュランプ又はハロゲンランプを用いる成膜方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一態様は、成膜する層に成膜材料以外の材料が混入することを抑制し、発光素子の性能低下を防ぐ成膜方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一態様の成膜方法について説明する図。
【図2】本発明の一態様の成膜方法について説明する図。
【図3】本発明の一態様の成膜方法について説明する図。
【図4】実施例の発光素子を説明する図。
【図5】発光素子1及び比較発光素子2の電圧−輝度特性を示す図。
【図6】発光素子1及び比較発光素子2の輝度−電流効率特性を示す図。
【図7】発光素子1及び比較発光素子2の発光スペクトルを示す図。
【図8】発光素子1及び比較発光素子2の信頼性試験の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。したがって、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0026】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様の成膜方法について説明する。本実施の形態では、本発明の一態様の成膜方法を利用して、発光素子のEL層を形成する場合について図1を用いて説明する。本実施の形態において、発光素子のEL層は、正孔輸送層と発光層を有しており、本発明の一態様の成膜方法を用いて、正孔輸送層上に発光層を形成する場合について説明する。また、本実施の形態は、光源を用いて加熱処理を行う場合について説明する。図1(A1)は本発明の一態様の成膜方法で用いる成膜用基板を示す斜視図であり、図1(A2)は本発明の一態様の成膜方法で用いる被成膜基板を示す斜視図であり、図1(B)(C)は本発明の一態様の成膜方法についての概念を示す斜視図である。
【0027】
図1(A1)において、支持基板である第1の基板101の一方の面上に吸収層103が形成されている。また、吸収層103上に、成膜材料を含む材料層105が形成されている。図1(A2)において、第2の基板107の一方の面上に下地層109が形成されている。
【0028】
図1(A1)に示した成膜用基板の作製方法について説明する。
【0029】
はじめに、第1の基板101の一方の面上に吸収層103を形成する。第1の基板101は、吸収層、材料層などの支持基板であり、発光層を被成膜基板に成膜するために照射する光を透過する基板である。よって、第1の基板101は光の透過率が高い基板であることが好ましい。具体的には、発光層を成膜するためにランプ光やレーザ光を用いる場合、第1の基板101として、それらの光を透過する基板を用いることが好ましい。第1の基板101としては、例えば、ガラス基板、石英基板、無機材料を含むプラスチック基板などを用いることができる。
【0030】
吸収層103は、材料層105を加熱するために照射する光を吸収して、熱へと変換する層である。吸収層103は、照射される光に対して70%以下の低い反射率を有し、高い吸収率を有する材料で形成されていることが好ましい。また、吸収層103は、それ自体が熱によって変化しないように、耐熱性に優れた材料で形成されていることが好ましい。吸収層103に用いることができる材料としては、例えば、窒化チタン、窒化タンタル、窒化モリブデン、窒化タングステン、窒化クロム、窒化マンガンなどの金属窒化物や、モリブデン、チタン、タングステン、カーボンなどを用いることが好ましい。
【0031】
吸収層103は、種々の方法を用いて形成することができる。例えば、スパッタリング法で、モリブデン、タンタル、チタン、タングステンなどのターゲット、またはこれらの合金を用いたターゲットを用い、吸収層103を形成することができる。また、吸収層103は一層に限らず複数の層により構成されていても良い。
【0032】
吸収層103の膜厚は、照射される光が透過しない膜厚であることが好ましい。材料によって異なるが、100nm以上2μm以下の膜厚であることが好ましい。特に、吸収層103の膜厚を100nm以上600nm以下とすることで、照射される光を効率良く吸収して発熱させることができる。
【0033】
なお、吸収層103は、材料層105に含まれる成膜材料が昇華温度まで加熱されるのであれば、照射する光の一部が透過しても良い。ただし、照射する光の一部が透過する場合には、光が照射しても分解しない材料を、材料層105に用いることが好ましい。
【0034】
次に、吸収層103上に、少なくとも成膜材料を含む材料層105を形成する。材料層105は、第2の基板107に形成された下地層109上に成膜する成膜材料を含んで形成される層である。また、材料層105に含まれる成膜材料の主成分となる物質には、下地層109の主成分と同じ物質を用いる。
【0035】
材料層105は、1種の成膜材料を用いても良いし、2種以上の成膜材料を用いても良い。また、材料層105は、単層でも良いし、複数の層が積層されていても良い。
【0036】
材料層105は、種々の方法により形成される。例えば、湿式法であるスピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法、ディップコート法、キャスト法、ダイコート法、ロールコート法、ブレードコート法、バーコート法、グラビアコート法、ノズルプリンティング法又は印刷法等を用いることができる。また、乾式法である真空蒸着法、スパッタリング法等を用いることができる。
【0037】
湿式法を用いて材料層105を形成する場合には、所望の成膜材料を溶媒に溶解あるいは分散させ、溶液あるいは分散液を調整すれば良い。溶媒は、成膜材料を溶解あるいは分散させることができ、且つ成膜材料と反応しないものであれば特に限定されない。例えば、クロロホルム、テトラクロロメタン、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、或いはクロロベンゼンなどのハロゲン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、n−プロピルメチルケトン、或いはシクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、ベンゼン、トルエン、或いはキシレンなどの芳香族系溶媒、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸n−ブチル、プロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトン、或いは炭酸ジエチルなどのエステル系溶媒、テトラヒドロフラン、或いはジオキサンなどのエーテル系溶媒、ジメチルホルムアミド、或いはジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド、ヘキサン、又は水等を用いることができる。また、これら溶媒の複数種を混合して用いても良い。湿式法を用いることにより、材料の利用効率を高めることができ、製造コストを低減させることができる。
【0038】
本実施の形態では、被成膜基板に形成された発光素子の正孔輸送層上に発光層を形成するため、材料層105に含まれる成膜材料として、発光物質及び発光物質を分散する有機化合物を用いる。
【0039】
発光物質としては、例えば蛍光を発光する蛍光性化合物や、燐光を発光する燐光性化合物を用いることができる。
【0040】
発光物質としては、以下に示す燐光性化合物を用いることができる。例えば、ビス[2−(4’,6’−ジフルオロフェニル)ピリジナト−N,C2’]イリジウム(III)テトラキス(1−ピラゾリル)ボラート(略称:FIr6)、ビス[2−(4’,6’−ジフルオロフェニル)ピリジナト−N,C2’]イリジウム(III)ピコリナート(略称:FIrpic)、ビス[2−(3’,5’−ビストリフルオロメチルフェニル)ピリジナト−N,C2’]イリジウム(III)ピコリナート(略称:Ir(CFppy)(pic))、ビス[2−(4’,6’−ジフルオロフェニル)ピリジナト−N,C2’]イリジウム(III)アセチルアセトナート(略称:FIracac)、トリス(2−フェニルピリジナト)イリジウム(III)(略称:Ir(ppy))、ビス(2−フェニルピリジナト)イリジウム(III)アセチルアセトナート(略称:Ir(ppy)(acac))、ビス(ベンゾ[h]キノリナト)イリジウム(III)アセチルアセトナート(略称:Ir(bzq)(acac))、ビス(2,4−ジフェニル−1,3−オキサゾラト−N,C2’)イリジウム(III)アセチルアセトナート(略称:Ir(dpo)(acac))、ビス[2−(4’−パーフルオロフェニルフェニル)ピリジナト]イリジウム(III)アセチルアセトナート(略称:Ir(p−PF−ph)(acac))、ビス(2−フェニルベンゾチアゾラト−N,C2’)イリジウム(III)アセチルアセトナート(略称:Ir(bt)(acac))、ビス[2−(2’−ベンゾ[4,5−α]チエニル)ピリジナト−N,C3’]イリジウム(III)アセチルアセトナート(略称:Ir(btp)(acac))、ビス(1−フェニルイソキノリナト−N,C2’)イリジウム(III)アセチルアセトナート(略称:Ir(piq)(acac))、(アセチルアセトナト)ビス[2,3−ビス(4−フルオロフェニル)キノキサリナト]イリジウム(III)(略称:Ir(Fdpq)(acac))、(アセチルアセトナト)ビス(2,3,5−トリフェニルピラジナト)イリジウム(III)(略称:Ir(tppr)(acac))、2,3,7,8,12,13,17,18−オクタエチル−21H,23H−ポルフィリン白金(II)(略称:PtOEP)、トリス(アセチルアセトナト)(モノフェナントロリン)テルビウム(III)(略称:Tb(acac)(Phen))、トリス(1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオナト)(モノフェナントロリン)ユーロピウム(III)(略称:Eu(DBM)(Phen))、トリス[1−(2−テノイル)−3,3,3−トリフルオロアセトナト](モノフェナントロリン)ユーロピウム(III)(略称:Eu(TTA)(Phen))などが挙げられる。
【0041】
また、発光物質としては、以下に示す蛍光性化合物を用いることができる。例えば、N,N’−ビス[4−(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル]−N,N’−ジフェニルスチルベン−4,4’−ジアミン(略称:YGA2S)、4−(9H−カルバゾール−9−イル)−4’−(10−フェニル−9−アントリル)トリフェニルアミン(略称:YGAPA)、4−(9H−カルバゾール−9−イル)−4’−(9,10−ジフェニル−2−アントリル)トリフェニルアミン(略称:2YGAPPA)、N,9−ジフェニル−N−[4−(10−フェニル−9−アントリル)フェニル]−9H−カルバゾール−3−アミン(略称:PCAPA)、ペリレン、2,5,8,11−テトラ−tert−ブチルペリレン(略称:TBP)、4−(10−フェニル−9−アントリル)−4’−(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)トリフェニルアミン(略称:PCBAPA)、N,N’’−(2−tert−ブチルアントラセン−9,10−ジイルジ−4,1−フェニレン)ビス[N,N’,N’−トリフェニル−1,4−フェニレンジアミン](略称:DPABPA)、N,9−ジフェニル−N−[4−(9,10−ジフェニル−2−アントリル)フェニル]−9H−カルバゾール−3−アミン(略称:2PCAPPA)、N−[4−(9,10−ジフェニル−2−アントリル)フェニル]−N,N’,N’−トリフェニル−1,4−フェニレンジアミン(略称:2DPAPPA)、N,N,N’,N’,N’’,N’’,N’’’,N’’’−オクタフェニルジベンゾ[g,p]クリセン−2,7,10,15−テトラアミン(略称:DBC1)、クマリン30、9,10−ジフェニル−2−[N−フェニル−N−(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)アミノ]アントラセン(略称:2PCAPA)、N−[9,10−ビス(1,1’−ビフェニル−2−イル)−2−アントリル]−N,9−ジフェニル−9H−カルバゾール−3−アミン(略称:2PCABPhA)、N−(9,10−ジフェニル−2−アントリル)−N,N’,N’−トリフェニル−1,4−フェニレンジアミン(略称:2DPAPA)、N−[9,10−ビス(1,1’−ビフェニル−2−イル)−2−アントリル]−N,N’,N’−トリフェニル−1,4−フェニレンジアミン(略称:2DPABPhA)、9,10−ビス(1,1’−ビフェニル−2−イル)−N−[4−(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル]−N−フェニルアントラセン−2−アミン(略称:2YGABPhA)、N,N,9−トリフェニルアントラセン−9−アミン(略称:DPhAPhA)クマリン545T、N,N’−ジフェニルキナクリドン、(略称:DPQd)、ルブレン、5,12−ビス(1,1’−ビフェニル−4−イル)−6,11−ジフェニルテトラセン(略称:BPT)、2−(2−{2−[4−(ジメチルアミノ)フェニル]エテニル}−6−メチル−4H−ピラン−4−イリデン)プロパンジニトリル(略称:DCM1)、2−{2−メチル−6−[2−(2,3,6,7−テトラヒドロ−1H,5H−ベンゾ[ij]キノリジン−9−イル)エテニル]−4H−ピラン−4−イリデン}プロパンジニトリル(略称:DCM2)、N,N,N’,N’−テトラキス(4−メチルフェニル)テトラセン−5,11−ジアミン(略称:p−mPhTD)、7,14−ジフェニル−N,N,N’,N’−テトラキス(4−メチルフェニル)アセナフト[1,2−a]フルオランテン−3,10−ジアミン(略称:p−mPhAFD)、2−{2−イソプロピル−6−[2−(1,1,7,7−テトラメチル−2,3,6,7−テトラヒドロ−1H,5H−ベンゾ[ij]キノリジン−9−イル)エテニル]−4H−ピラン−4−イリデン}プロパンジニトリル(略称:DCJTI)、2−{2−tert−ブチル−6−[2−(1,1,7,7−テトラメチル−2,3,6,7−テトラヒドロ−1H,5H−ベンゾ[ij]キノリジン−9−イル)エテニル]−4H−ピラン−4−イリデン}プロパンジニトリル(略称:DCJTB)、2−(2,6−ビス{2−[4−(ジメチルアミノ)フェニル]エテニル}−4H−ピラン−4−イリデン)プロパンジニトリル(略称:BisDCM)、2−{2,6−ビス[2−(8−メトキシ−1,1,7,7−テトラメチル−2,3,6,7−テトラヒドロ−1H,5H−ベンゾ[ij]キノリジン−9−イル)エテニル]−4H−ピラン−4−イリデン}プロパンジニトリル(略称:BisDCJTM)などが挙げられる。
【0042】
発光物質を分散する有機化合物としては、発光物質が蛍光性化合物の場合には、蛍光性化合物よりも一重項励起エネルギー(基底状態と一重項励起状態とのエネルギー差)が大きい物質を用いることが好ましい。また、発光物質が燐光性化合物の場合には、燐光性化合物よりも三重項励起エネルギー(基底状態と三重項励起状態とのエネルギー差)が大きい物質を用いることが好ましい。
【0043】
発光物質を分散する有機化合物としては、例えば、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(III)(略称:Alq)、トリス(4−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(III)(略称:Almq)、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリナト)ベリリウム(II)(略称:BeBq)、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(4−フェニルフェノラト)アルミニウム(III)(略称:BAlq)、ビス(8−キノリノラト)亜鉛(II)(略称:Znq)、ビス[2−(2−ベンゾオキサゾリル)フェノラト]亜鉛(II)(略称:Zn(BOX))、ビス[2−(2−ベンゾチアゾリル)フェノラト]亜鉛(II)(略称:Zn(BTZ))などの金属錯体、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(略称:PBD)、1,3−ビス[5−(p−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル]ベンゼン(略称:OXD−7)、3−(4−ビフェニリル)−4−フェニル−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール(略称:TAZ)、2,2’,2’’−(1,3,5−ベンゼントリイル)トリス(1−フェニル−1H−ベンゾイミダゾール)(略称:TPBI)、バソフェナントロリン(略称:BPhen)、バソキュプロイン(略称:BCP)、9−[4−(5−フェニル−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル)フェニル]−9H−カルバゾール(略称:CO11)などの複素環化合物、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:NPBまたはα−NPD)やN,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニル−[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジアミン(略称:TPD)、4,4’−ビス[N−(スピロ−9,9’−ビフルオレン−2−イル)−N―フェニルアミノ]ビフェニル(略称:BSPB)などの芳香族アミン化合物が挙げられる。また、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、ピレン誘導体、クリセン誘導体、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体等の縮合多環芳香族化合物が挙げられ、具体的には、9,10−ジフェニルアントラセン(略称:DPAnth)、N,N−ジフェニル−9−[4−(10−フェニル−9−アントリル)フェニル]−9H−カルバゾール−3−アミン(略称:CzA1PA)、4−(10−フェニル−9−アントリル)トリフェニルアミン(略称:DPhPA)、YGAPA、PCAPA、N,9−ジフェニル−N−{4−[4−(10−フェニル−9−アントリル)フェニル]フェニル}−9H−カルバゾール−3−アミン(略称:PCAPBA)、2PCAPA、6,12−ジメトキシ−5,11−ジフェニルクリセン、N,N,N’,N’,N’’,N’’,N’’’,N’’’−オクタフェニルジベンゾ[g,p]クリセン−2,7,10,15−テトラアミン(略称:DBC1)、9−[4−(N−カルバゾリル)フェニル]−10−フェニルアントラセン(略称:CzPA)、3,6−ジフェニル−9−[4−(10−フェニル−9−アントリル)フェニル]−9H−カルバゾール(略称:DPCzPA)、9,10−ビス(3,5−ジフェニルフェニル)アントラセン(略称:DPPA)、9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン(略称:DNA)、2−tert−ブチル−9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン(略称:t−BuDNA)、9,9’−ビアントリル(略称:BANT)、9,9’−(スチルベン−3,3’−ジイル)ジフェナントレン(略称:DPNS)、9,9’−(スチルベン−4,4’−ジイル)ジフェナントレン(略称:DPNS2)、3,3’,3’’−(ベンゼン−1,3,5−トリイル)トリピレン(略称:TPB3)などを挙げることができる。
【0044】
なお、材料層105に含まれる成膜材料として、発光物質を分散させる有機化合物を2種類以上用いても良いし、有機化合物に分散される発光物質を2種類以上用いても良い。また、2種類以上の発光物質を分散させる有機化合物と2種類以上の発光物質を用いても良い。
【0045】
本実施の形態では、材料層105に含む成膜材料として、9−[4−(N−カルバゾリル)フェニル]−10−フェニルアントラセン(略称:CzPA)、及び9,10−ジフェニル−2−[N−フェニル−N−(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)アミノ]アントラセン(略称:2PCAPA)を用いる。
【0046】
また、材料層105は、成膜材料の他に、高分子化合物を含んでいても良い。材料層105に含まれる高分子化合物としては、シクロオレフィンポリマーが好ましい。シクロオレフィンポリマーは溶媒に溶けやすいため、被成膜基板に成膜した後、成膜用基板上に残った成膜材料を含むシクロオレフィンポリマーを溶媒に再溶解することで、成膜用基板を再利用することが可能である。したがって、材料の消費量及びコストを抑えることができる。また、高分子化合物として、オレフィン、ビニル、アクリル又はポリイミド(PI)等を用いてもよいし、高分子材料のEL材料を用いても良い。高分子材料のEL材料としては、例えば、ポリ(N−ビニルカルバゾール)(PVK)やポリ(p−フェニレンビニレン)(PPV)が挙げられる。また、エポキシ樹脂、アクリル樹脂やシロキサンのような架橋型ポリマーを用いても良い。
【0047】
また、材料層105に複数の成膜材料(例えば、第1の成膜材料と第2の成膜材料)を用いる場合、材料層105に用いる高分子化合物としては、ガラス転移温度が下記数式(1)を満たす高分子化合物が好ましい。さらに好ましくは、ガラス転移温度が下記数式(2)を満たす高分子化合物を用いる。なお、下記数式(1)(2)において、第1の成膜材料及び第2の成膜材料の昇華温度は同じ真空度(例えば真空度10−3Pa)で測定することとする。
【0048】
【数1】


(式(1)(2)中、Sは高分子化合物のガラス転移温度(℃)を示し、Tは、第1の成膜材料又は第2の成膜材料の昇華温度(℃)のうち高い温度(℃)を示す)
【0049】
高分子化合物のガラス転移温度が上記数式(1)、好ましくは上記数式(2)を満たす範囲であれば、第1の成膜材料又は第2の成膜材料の昇華温度のうち低い温度に達しても、昇華温度に達した成膜材料は材料層から転写されにくい。これは、高分子化合物によって、第1の成膜材料及び第2の成膜材料が材料層中で移動することを抑制されるためである。そして、第1の成膜材料又は第2の成膜材料の昇華温度のうち高い温度を超えると、第1の成膜材料及び第2の成膜材料は材料層中を移動することが容易となり、被成膜基板上に転写される。よって、第1の成膜材料の転写と第2の成膜材料の転写に時間差が生じにくくなり、被成膜基板上に濃度勾配の少ない発光層を形成することができる。
【0050】
しかし、高分子化合物のガラス転移温度が上記数式(1)の範囲より低いと、第1の成膜材料及び第2の成膜材料は材料層中で移動することを抑制されにくいため、第1の成膜材料又は第2の成膜材料の昇華温度のうち低い温度に達すると、昇華温度の低い成膜材料が先に転写され、その後、昇華温度の高い成膜材料が転写される。また、高分子化合物のガラス転移温度が上記数式(1)の範囲より高いと、第1の成膜材料及び第2の成膜材料の昇華温度のうち高い温度を越えた後も、第1の成膜材料及び第2の成膜材料は材料層中で移動することを抑制され、転写が容易に行われなくなる。
【0051】
よって、高分子化合物としては、ガラス転移温度が上記数式(1)、好ましくは上記数式(2)を満たす高分子化合物を用いることが好ましい。なお、本実施の形態において、転写とは、材料層に含まれる第1の成膜材料又は第2の成膜材料が、被成膜基板上に移されることを示す。
【0052】
なお、高分子化合物としてガラス転移温度が200℃の材料を用い、第1の成膜材料および第2の成膜材料として、昇華温度が210℃の材料および昇華温度が260℃の材料を用いた場合には、良好な転写が実現された。一方で、高分子化合物としてガラス転移温度が200℃の材料を用い、第1の成膜材料および第2の成膜材料として、昇華温度が210℃の材料および昇華温度が302℃の材料を用いた場合には、良好な転写は実現されなかった。このことは、上記式(1)、(2)に合致する条件において、好適なEL層が実現されることを示すものである。
【0053】
高分子化合物は粘度の調整が容易であるため、用途に応じて高分子化合物の溶液の粘度を自由に調整できる。例えば、液滴吐出法により材料層105が形成される場合、高分子化合物の溶液の粘度を高めることで、被成膜面上に高分子化合物が拡がらず、微細なパターンを形成することができる。
【0054】
高分子化合物の溶液の粘度の調整は、高分子化合物の分子量を調整する、又は高分子化合物と溶媒の比率を変えることで実現することができる。一般に、高分子化合物の比率が高くなると、溶液の粘度が高くなる。
【0055】
なお、後の工程で下地層109上に形成される成膜材料層の膜厚は、第1の基板101上に形成された材料層105に依存する。そのため、材料層105の膜厚を制御することにより、下地層109上に形成される成膜材料層の膜厚を容易に制御することができる。なお、成膜材料層の膜厚および均一性が保たれるのであれば、材料層105は必ずしも均一の層である必要はない。例えば、微細な島状に形成されていてもよいし、凹凸を有する層状に形成されていてもよい。
【0056】
また、本実施の形態では吸収層103及び材料層105が第1の基板101の全面に形成された場合について説明したが、吸収層103及び材料層105は選択的に形成されても良い。
【0057】
なお、本実施の形態では、成膜材料を含む材料層が形成された、被成膜基板と同程度の面積を有する支持基板を用いているが、本実施の形態はこれに限定されるものではなく、被成膜基板と同程度の面積を有する支持基板でなくとも良い。
【0058】
なお、成膜用基板は、吸収層103が形成された面の最表面に材料層105が形成されていれば良く、第1の基板101と吸収層103の間や、吸収層103と材料層105の間に他の層が設けられていても良い。
【0059】
次に、図1(A2)に示した被成膜基板の作製方法について説明する。
【0060】
第2の基板107は、加熱処理により所望の層が成膜される被成膜基板である。第2の基板107は、必要な耐熱性を有していて表面に絶縁性を有する基板であれば特定のものに限定されない。例えば、ガラス基板、石英基板、絶縁膜を形成したステンレス基板等が挙げられる。また、加熱処理に耐えうる程度の耐熱性を有するプラスチック基板を用いても良い。
【0061】
なお、図1には示していないが、ここでは本発明の一態様の成膜方法を用いて発光素子を形成する場合について説明するため、第2の基板107上には、発光素子の一方の電極となる第1の電極層を有している。第1の電極層の端部は、絶縁物で覆われていることが好ましい。本実施の形態において、第1の電極層は、発光素子の陽極あるいは陰極となる電極を示している。
【0062】
そして、第1の電極層上に、下地層109が形成されている。下地層109の主成分は、成膜用基板の材料層105に含まれる成膜材料の主成分と同じ物質を用いる。特に、下地層109は、材料層105に含まれる成膜材料を用いて形成することが好ましい。
【0063】
本実施の形態では、下地層109として正孔輸送層を形成する。正孔輸送層は、正孔輸送性の高い物質を含む層であり、正孔輸送性の高い物質としては、例えば、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:NPBまたはα−NPD)やN,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニル−[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジアミン(略称:TPD)、4,4’,4’’−トリス(N,N−ジフェニルアミノ)トリフェニルアミン(略称:TDATA)、4,4’,4’’−トリス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ]トリフェニルアミン(略称:MTDATA)、4,4’−ビス[N−(スピロ−9,9’−ビフルオレン−2−イル)−N―フェニルアミノ]ビフェニル(略称:BSPB)などの芳香族アミン化合物等を用いることができる。ここに述べた物質は、主に10−6cm/Vs以上の正孔移動度を有する物質である。但し、電子よりも正孔の輸送性の高い物質であれば、これら以外のものを用いても良い。なお、正孔輸送性の高い物質を含む層は、単層のものだけでなく、上記物質からなる層が二層以上積層したものとしても良い。
【0064】
本実施の形態では、下地層109に、正孔輸送性の高い材料として、9−[4−(N−カルバゾリル)フェニル]−10−フェニルアントラセン(略称:CzPA)を用いる。
【0065】
本実施の形態では、下地層109が正孔輸送層である場合を説明するが、本発明はこれに限られない。また、本実施の形態において、被成膜基板は、被成膜面の最表面に下地層109を有していれば良く、第1の電極層と下地層109の間に、他の層が形成されていても良い。
【0066】
次に、図1(B)に示すように、第1の基板101において、吸収層103及び材料層105が形成された面に対向する位置に、第2の基板107の下地層109が形成された面を配置する。
【0067】
材料層105の表面と下地層109の表面は、距離dだけの間隔をとって配置される。ここで、距離dは、0mmより大きく2mm以下、好ましくは0mmより大きく0.05mm以下、さらに好ましくは0mmより大きく0.03mm以下とする。距離dを上記の範囲程度まで小さくすることで、成膜材料の利用効率を向上させることができる。本実施の形態では、材料の利用効率を向上させるために、成膜用基板と被成膜基板の間隔を狭くしている(距離dが小さくなるように配置している)が、本実施の形態はこれに限定されるものではない。
【0068】
また、本実施の形態では被成膜基板が一である場合について説明したが、成膜用基板に対向するように複数の被成膜基板を並べて配置しても良い。この場合には複数の被成膜基板と成膜用基板の面積を同じ程度にする。成膜用基板に対して複数の被成膜基板を設けることで、複数の被成膜基板を同時に処理することができる。
【0069】
材料層105の表面と、下地層109の表面は互いに平行となるように配置することが好ましい。
【0070】
第1の基板101と第2の基板107は各々の表面が対向していればよく、これらの基板の水平面に対する角度は特に限定されない。即ち、本発明の一態様に用いる成膜装置はフェイスダウン方式でも良いし、フェイスアップ方式でも良いし、基板縦置き方式でも良い。
【0071】
そして、図1(C)に示すように、第1の基板101の裏面、すなわち一方の面に材料層105が形成された第1の基板101の他方の面側から加熱処理をすることにより、吸収層103にエネルギーを吸収させて発熱させ、加熱された材料層105中の成膜材料が、被成膜基板に成膜される。加熱処理は、第1の基板101の全面を加熱するように行う。加熱処理により、下地層109上に発光素子の発光層である成膜材料層111が形成される。
【0072】
ここで、材料層105と下地層109の間隔は狭いため、加熱処理の際に、下地層109は急激に温度が上昇し、下地層109に接して形成された成膜材料層111中で、成膜材料と下地層の材料が混ざってしまうことがある。しかし、本実施の形態では、材料層105に含まれる成膜材料の主成分と下地層109の材料にCzPAを用いている。このように、材料層105に含まれる成膜材料の主成分に、下地層109の主成分と同じ物質を用いる(好ましくは、下地層109を、成膜材料に用いる物質で形成する)ことで、成膜材料層111に、成膜材料以外の材料が混入することを抑制できる。
【0073】
本実施の形態において、加熱処理の温度は、成膜材料の昇華温度を超えて、成膜材料の昇華温度より50℃を超えない範囲で高く設定することが好ましい。また、第1の基板と第2の基板との距離、又は被成膜基板である第2の基板の材質と厚さによっては、熱源の輻射熱の影響を緩和するために、上記の温度範囲内で低めに設定しても良い。なお、ここで加熱処理の温度は第1の基板表面において計測したものである。
【0074】
また、複数の成膜材料を用いる場合、複数の成膜材料の昇華温度のうち、最も高い昇華温度以上の温度となるよう、加熱処理を行うことが好ましい。この場合、昇華温度が最も高い成膜材料の昇華温度を超えて50℃までの温度範囲内で高めの温度に設定することが好ましいが、昇華温度が低い物質の分解温度、被成膜基板との距離、被成膜基板の材質及び厚さを考慮して、上記温度範囲内で低めの温度(ただし、昇華温度が最も高い物質の昇華温度以上とする)に設定しても良い。
【0075】
加熱処理は、ランプやレーザ発振装置により第1の基板101に光を照射する方法により行うことが好ましい。ランプやレーザ発振装置は、第1の基板101の裏面に光を照射できるように設置すれば良い。
【0076】
ランプとしては、フラッシュランプ(キセノンフラッシュランプ、クリプトンフラッシュランプ等)、キセノンランプ、メタルハライドランプに代表される放電灯、ハロゲンランプ、タングステンランプに代表される発熱灯を用いることができる。フラッシュランプは短時間(0.1ミリ秒以上10ミリ秒以下)で非常に強度の高い光を繰り返し、大面積に照射することができるため、第1の基板101の面積にかかわらず、効率よく均一に加熱することができる。また、発光させる時間の間隔を変えることによって第1の基板101の加熱の制御もできる。また、フラッシュランプは、発光待機時の消費電力が低く、長寿命であるため、ランニングコストを低く抑えることができる。
【0077】
また、ランプ以外の光源としては、レーザ発振装置を用いても良い。レーザ光としては、Arレーザ、Krレーザ、エキシマレーザなどの気体レーザ、単結晶のYAG、YVO、フォルステライト(MgSiO)、YAlO、GdVO、若しくは多結晶(セラミック)のYAG、Y、YVO、YAlO、GdVOに、ドーパントとしてNd、Yb、Cr、Ti、Ho、Er、Tm、Taのうち1種または複数種添加されているものを媒質とするレーザ、ガラスレーザ、ルビーレーザ、アレキサンドライトレーザ、Ti:サファイアレーザ、銅蒸気レーザまたは金蒸気レーザのうち一種または複数種から発振されるものを用いることができる。また、レーザ媒体が固体である固体レーザを用いると、メンテナンスフリーの状態を長く保てるという利点や、出力が比較的に安定している利点を有している。
【0078】
また、光照射による成膜は、減圧雰囲気下で行うことが好ましい。従って、成膜室内を5×10−3Pa以下、好ましくは10−4Pa以下の雰囲気とすることが好ましい。なお、本実施の形態では、光源を用いて加熱処理を行ったが、ヒータなどの熱源を用いて加熱処理を行っても良い。
【0079】
以上のように、本実施の形態に記載の成膜方法は、成膜材料層の主成分と、下地層の主成分に同じ物質を用いることから、成膜材料層に成膜材料以外の材料が混入することを防ぐことができる。よって、本発明の一態様の成膜方法を用いて作製する発光素子において、EL層のある層に別の層を形成するEL材料が混入することで生じる、発光素子の発光効率や寿命等の性能の低下を抑制できる。
【0080】
なお、本実施の形態は他の実施の形態と自由に組み合わせることができる。
【0081】
(実施の形態2)
本実施の形態では、本発明の一態様の成膜方法について説明する。なお、本実施の形態では、本発明の一態様の成膜方法を利用して、発光素子のEL層を形成する場合について図2を用いて説明する。本実施の形態において、発光素子のEL層は、正孔輸送層と発光層からなり、本発明の一態様の成膜方法を用いて、正孔輸送層上に発光層を形成する場合について説明する。なお、本実施の形態に示す成膜方法において、特に記載がない場合には、上記実施の形態と同様の材料及び作製方法によって行うものとする。
【0082】
図2には、第1の基板に反射層、断熱層及び保護層を形成する場合の一例を示している。図2(A)において、支持基板である第1の基板301の一方の面上に反射層302が選択的に形成されている。なお、反射層302は開口部308を有している。また、反射層302上に断熱層304が形成されている。なお、断熱層304は反射層302の有する開口部と重なる位置に開口部308が形成されている。また、反射層302及び断熱層304が形成された第1の基板301上に開口部を覆う吸収層303が形成されている。また、吸収層303上に、保護層306が形成されている。また、保護層306上に成膜材料を含む材料層305が形成されている。
【0083】
なお、本明細書において、「重なる」とは、成膜用基板を構成する要素(例えば、反射層や吸収層等)同士が直接接して重なり合う場合だけでなく、間に別の層を介して重なり合う場合も含むものとする。
【0084】
図2(A)に示した成膜用基板の作製方法について以下に説明する。
【0085】
はじめに、第1の基板301の一方の面上に反射層302を選択的に形成する。反射層302は、第1の基板301に照射する光を反射して、反射層302と重なる領域に形成された材料層305に、熱を与えないように遮断する層である。よって、反射層302は、照射する光に対して高い反射率を有する材料で形成されていることが好ましい。具体的には、反射層302は、照射される光に対して、反射率が85%以上、さらに好ましくは、反射率が90%以上の高い反射率を有する材料で形成されていることが好ましい。
【0086】
反射層302に用いることができる材料としては、例えば、アルミニウム、銀、金、白金、銅、アルミニウムを含む合金(例えば、アルミニウム−チタン合金、アルミニウム−ネオジム合金、アルミニウム−チタン合金)、または銀を含む合金(銀−ネオジム合金)などを用いることができる。
【0087】
なお、反射層302は、種々の方法を用いて形成することができる。例えば、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法、真空蒸着法などにより形成することができる。また、反射層302の膜厚は、材料により異なるが、100nm以上とすることが好ましい。100nm以上の膜厚とすることにより、照射した光が反射層302を透過することを抑制することができる。
【0088】
なお、第1の基板301に照射する光の波長により、反射層302に好適な材料の種類は変化する。また、反射層は一層に限らず複数の層により構成されていても良い。また、反射層を設けず第1の基板301上に直接吸収層303を形成しても良い。
【0089】
なお、反射層302と吸収層303の反射率は差が大きいほど好ましい。具体的には、照射する光の波長に対して、反射率の差が25%以上、より好ましくは30%以上であることが好ましい。
【0090】
また、反射層302に開口部を形成する際には種々な方法を用いることができるが、ドライエッチングを用いることが好ましい。ドライエッチングを用いることにより、開口部の側壁が鋭くなり、微細なパターンを成膜することができる。
【0091】
次に反射層302上に断熱層304を選択的に形成する。断熱層304は、反射層302と重なる領域に位置する材料層305が加熱され昇華するのを抑制するための層である。断熱層304としては、例えば、酸化チタン、酸化珪素、酸化窒化珪素、酸化ジルコニウム、炭化チタン等を好ましく用いることができる。ただし断熱層304は、反射層302及び吸収層303に用いる材料よりも熱伝導率の低い材料を用いる。なお、本明細書において、酸化窒化物とは、その組成として、窒素よりも酸素の含有量が多い物質であり、窒化酸化物とは、その組成として、酸素よりも窒素の含有量が多い物質である。
【0092】
断熱層304は、様々な方法を用いて形成することができる。例えば、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法、真空蒸着法、またはCVD法などにより形成することができる。また、断熱層の膜厚は、材料により異なるが、10nm以上2μm以下、好ましくは100nm以上600nm以下とすることができる。断熱層304を10nm以上2μm以下の膜厚とすることにより、反射層302が加熱された場合でも、反射層302の上に位置する材料層に熱が伝導するのを遮断する効果を有する。
【0093】
また、断熱層304は、反射層302の開口部と重なる領域に開口部が形成されている。断熱層304のパターンを形成する際には、種々の方法を用いることができるが、ドライエッチングを用いることが好ましい。ドライエッチングを用いることにより、パターン形成された断熱層304の側壁が鋭くなり、微細なパターンを成膜することができる。
【0094】
なお、断熱層304と、反射層302のパターン形成を一度のエッチング工程によって行うと、断熱層304と反射層302に設けられる開口部の側壁をそろえることができ、より微細なパターンを成膜することができるため好ましい。
【0095】
また、本実施の形態において、断熱層304は反射層302と重なる位置のみに形成されているが、反射層302及び反射層302の開口部を覆って断熱層304を形成しても良い。この場合、断熱層304は可視光に対する透光性を有する必要がある。
【0096】
次に、断熱層304上に吸収層303を形成する。吸収層303は、実施の形態1で示した吸収層103と同様の材料を用いることができる。なお、吸収層303は選択的に形成しても良い。例えば、吸収層303を第1の基板301の全面に形成した後に、吸収層303をパターン形成して、反射層302及び断熱層304の開口部を覆うように島状にパターン形成する。この場合、全面に吸収層を形成する場合に比べ、吸収層内を面方向に熱が伝導することを防止できるため、より微細なEL層のパターン形成が可能となり、高性能な発光装置を実現することができる。
【0097】
次に、吸収層303上に保護層306を形成する。保護層306は、吸収層303に用いる物質が昇華し、被成膜基板上に形成するEL層に不純物として混入することを防ぐために形成する。また、保護層306は、吸収層303の酸化や変質、熱による変形を防止する。保護層306を形成することによって、吸収層303の劣化を防ぐことができるため、成膜用基板をより多く繰り返し利用することが可能である。したがって、材料の消費量及びコストを抑えることができる。保護層306としては、例えば、窒化珪素、窒化酸化珪素、酸化チタン、酸化珪素、酸化窒化珪素、酸化ジルコニウム、窒化チタン、炭化チタン、または酸化インジウム−酸化スズ(ITO:Indium Tin Oxide)等により構成されている。保護層306の厚みは、吸収層303を良好に保護することができる程度であることが好ましく、例えば100nm程度とすることができる。なお、保護層306は設けなくても良い。また、保護層306は吸収層303と重なる部分に選択的に形成しても良い。
【0098】
次に、保護層306上に、材料層305を形成する。材料層305は、少なくとも成膜材料を含む。材料層305に含まれる成膜材料は、実施の形態1で示した構成を適用することができる。また、材料層305は選択的に形成しても良い。また、材料層305に含まれる成膜材料の主成分となる物質は、被成膜基板上の下地層311の主成分と同じ物質を用いる。
【0099】
本実施の形態では、材料層305に含む成膜材料として、9−[4−(N−カルバゾリル)フェニル]−10−フェニルアントラセン(略称:CzPA)、及び9,10−ジフェニル−2−[N−フェニル−N−(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)アミノ]アントラセン(略称:2PCAPA)を用いる。
【0100】
次に、図2(A)に示した成膜用基板を用いた成膜方法について、図2(B)及び(C)を用いて説明する。はじめに、図2(B)に示すように、第1の基板301において、材料層305等が形成された面に対向する位置に、第2の基板307の下地層311が形成された面を配置する。
【0101】
なお、ここでは本発明の一態様の成膜方法を用いて発光素子のEL層を形成する場合について説明するため、第2の基板307上には、発光素子の一方の電極となる第1の電極層309を有している。第1の電極層309の端部は、絶縁物312で覆われていることが好ましい。本実施の形態において、第1の電極層は、発光素子の陽極あるいは陰極となる電極を示している。
【0102】
そして、第1の電極層309上に下地層311が形成されている。下地層311の主成分は、成膜用基板上の材料層305に含まれる成膜材料の主成分と同じ物質を用いる。特に、下地層311は、材料層305に含まれる成膜材料を用いて形成することが好ましい。
【0103】
本実施の形態では、正孔輸送層を形成するため、下地層311に、9−[4−(N−カルバゾリル)フェニル]−10−フェニルアントラセン(略称:CzPA)を用いる。
【0104】
本実施の形態では、下地層311が正孔輸送層である場合を説明するが、本発明はこれに限られない。また、本実施の形態において、被成膜基板は、被成膜面の最表面に下地層311を有していれば良く、第1の電極層309と下地層311の間に、他の層が形成されていても良い。
【0105】
材料層305の表面と下地層311の表面は、距離dだけの間隔をとって配置される。ここで、距離dは、0mmより大きく2mm以下、好ましくは0mmより大きく0.05mm以下、さらに好ましくは0mmより大きく0.03mm以下とする。
【0106】
そして、図2(C)のように、第1の基板301の裏面、すなわち一方の面に材料層305が形成された第1の基板301の他方の面側から加熱処理することにより、吸収層303にエネルギーを吸収させて発熱させ、加熱された材料層305中の成膜材料が、第2の基板307上に成膜される。これにより、第2の基板307上に、発光素子の発光層である成膜材料層313が選択的に形成される。
【0107】
ここで、材料層305の表面と下地層311の間隔は狭いため、加熱処理の際に、下地層311は急激に温度が上昇し、下地層311上に形成された成膜材料層313中で、成膜材料と下地層の材料が混ざってしまうことがある。しかし、本実施の形態では、材料層305に含まれる成膜材料の主成分と下地層311の材料にCzPAを用いている。このように、材料層305に含まれる成膜材料の主成分に、下地層311の主成分と同じ物質を用いる(好ましくは、下地層311を、成膜材料に用いる物質で形成する)ことで、成膜材料層313に、成膜材料以外の材料が混入することを抑制できる。
【0108】
本実施の形態において、例えばランプを光源として用いた場合、第1の基板301の裏面から照射された光310は、反射層302が形成された領域においては反射し、反射層302に設けられた開口部308においては透過して、開口部と重なる領域の吸収層303において吸収される。吸収された光が熱エネルギーへと変換されることで、当該領域の吸収層303と接する材料層305が加熱され、成膜材料が被成膜基板上に成膜される。
【0109】
なお、第1の基板301に光310を照射した際に、吸収層303で発生した熱が面方向に伝導して吸収層に接する反射層302が加熱されることがある。また、反射率が85%以上の材料を用いて反射層302を形成したとしても、照射する光の熱量によっては、ある程度の熱の吸収がある。しかしながら、本実施の形態の成膜用基板は、反射層302と材料層305との間に、熱伝導率の低い材料によって形成された断熱層304が設けられているため、反射層302が加熱された場合であっても、断熱層304において、材料層305への熱の伝導を遮断することができる。これによって、選択的に、開口部308と重なる領域の材料層305に含まれる成膜材料を、被成膜基板上に成膜し、成膜材料層313として、所望のパターンの発光層を形成することができる。
【0110】
本実施の形態においては、第1の基板上に形成された材料層のうち、吸収層に接する領域を選択的に加熱するため、材料層全面を加熱する場合と比較して、光を照射する時間は比較的短くて良い。例えば、ハロゲンランプを光源として用いた場合、500℃〜800℃を7〜15秒間程度保持することで、材料層305のうち、開口部308と重なる領域を加熱して成膜材料を被成膜基板へと成膜することができる。
【0111】
なお、本実施の形態では、被成膜基板である第2の基板が、支持基板である第1の基板の下方に位置する場合を図示したが、本実施の形態はこれに限定されない。基板の設置する向きは適宜設定することができる。
【0112】
以上説明したように、第1の基板上に反射層及び断熱層を選択的に形成し、該第1の基板及び該断熱層上に、吸収層、保護層ならびに、成膜材料を含む材料層を形成した場合、成膜材料を含む材料層を選択的に加熱して、被成膜基板に成膜される成膜材料層のパターン形成を行うことが可能となる。
【0113】
また、本実施の形態に記載の成膜方法は、成膜材料層の主成分と、下地層の主成分に同じ物質を用いることから、成膜材料層に成膜材料以外の材料が混入することを防ぐことができる。よって、EL層のある層に別の層を形成するEL材料が混入することで生じる、発光素子の発光効率や寿命等の性能の低下を抑制できる。
【0114】
なお、本実施の形態は、他の実施の形態と自由に組み合わせることができる。
【0115】
(実施の形態3)
本実施の形態では、実施の形態2で説明した本発明の一態様の成膜方法で、成膜用基板を複数用いて発光素子のEL層を形成することにより、フルカラー表示が可能な発光装置の作製方法について説明する。
【0116】
実施の形態1及び実施の形態2では、1回の成膜工程で、被成膜基板に形成された複数の下地層上に、全て同一の材料からなる発光層を形成する場合について示したが、本実施の形態では、被成膜基板に形成された複数の下地層上に、発光の異なる3種類の発光層のいずれかを形成する場合について説明する。
【0117】
まず、実施の形態2において図2(A)に示した成膜用基板を3枚用意する。ただし、それぞれの支持基板には、発光の異なる発光層を形成するための成膜材料を含む材料層が形成されている。具体的には、赤色発光を示す発光層(発光層(R))を形成するための成膜材料を含む材料層(R)を有する成膜用基板(R)と、緑色発光を示す発光層(発光層(G))を形成するための成膜材料を含む材料層(G)を有する成膜用基板(G)と、青色発光を示す発光層(発光層(B))を形成するための成膜材料を含む材料層(B)を有する成膜用基板(B)とを用意する。
【0118】
また、実施の形態2において図2(B)に示した複数の第1の電極と下地層を有する被成膜基板を1枚用意する。被成膜基板には、材料層(R)、材料層(G)、又は材料層(B)に含まれる成膜材料の主成分と同じ物質をそれぞれ主成分に用いた、下地層(R)、下地層(G)、及び下地層(B)が形成されている。被成膜基板の第1の電極と下地層の間には正孔注入層等の他の層が形成されていても良い。なお、図2(B)に示したように、被成膜基板上の複数の第1の電極は、その端部が絶縁物414で覆われているため、発光領域は、第1の電極の一部であって、絶縁物と重ならずに露呈している領域に相当する。
【0119】
まず、1回目の成膜工程として、図2(B)と同様に被成膜基板と成膜用基板(R)とを重ね、位置合わせをする。なお、被成膜基板には、位置合わせ用のマーカを設けることが好ましい。また、成膜用基板(R)にも位置合わせ用のマーカを設けることが好ましい。なお、成膜用基板(R)には、吸収層や材料層等が設けられているため、位置合わせのマーカ周辺の吸収層や材料層等は予め除去しておくことが好ましい。
【0120】
そして、成膜用基板(R)の裏面(図2に示す反射層302、断熱層304、吸収層303、保護層306及び材料層305が形成されていない面)側から光を照射する。吸収層が、照射された光を吸収して材料層(R)に熱を与えることで、材料層(R)に含まれる成膜材料が加熱され、被成膜基板上の下地層(R)上に発光層(R)が成膜される。そして、1回目の成膜を終えたら、成膜用基板(R)は、被成膜基板と離れた場所へ移動させる。
【0121】
次いで、2回目の成膜工程として、被成膜基板と成膜用基板(G)とを重ね、位置合わせをする。成膜用基板(G)には、1回目の成膜時で使用した成膜用基板(R)とは1画素分ずらして反射層の開口部が形成されている。
【0122】
そして、成膜用基板(G)の裏面(図2に示す反射層302、断熱層304、吸収層303、保護層306及び材料層305が形成されていない面)側から光を照射する。吸収層が、照射された光を吸収して材料層(G)に熱を与えることで、材料層(G)に含まれる成膜材料が加熱され、被成膜基板上の一部であって、1回目の成膜で発光層(R)が形成された下地層(R)の隣の下地層(G)上に発光層(G)が成膜される。そして、2回目の成膜を終えたら、成膜用基板(G)は、被成膜基板と離れた場所へ移動させる。
【0123】
次いで、3回目の成膜工程として、被成膜基板と成膜用基板(B)とを重ね、位置合わせをする。成膜用基板(B)には、1回目の成膜時に使用した成膜用基板(B)とは2画素分ずらして反射層の開口部が形成されている。
【0124】
そして、成膜用基板(B)の裏面(図2に示す反射層302、断熱層304、吸収層303、保護層306及び材料層305が形成されていない面)側から光を照射する。この3回目の成膜を行う直前の様子が図3(A)の上面図に相当する。図3(A)において、反射層401は開口部402を有している。従って、成膜用基板(B)の反射層401の開口部402を透過した光は、断熱層を透過して、吸収層に吸収される。また、被成膜基板の成膜用基板(B)の開口部402と重なる領域には、下地層(B)が形成されている。なお、図3(A)中に点線で示した領域の下方にある被成膜基板には、既に1回目の成膜により形成された発光層(R)411と2回目の成膜により形成された発光層(G)412が位置している。
【0125】
そして、3回目の成膜により、発光層(B)413が形成される。吸収層が、照射された光を吸収して材料層(B)に熱を与えることで、材料層(B)に含まれる成膜材料が加熱され、被成膜基板上の一部であって、2回目の成膜で発光層(G)412が形成された下地層(G)の隣の下地層(B)上に発光層(B)413が成膜される。3回目の成膜を終えたら、成膜用基板(B)は、被成膜基板と離れた場所へ移動させる。
【0126】
こうして発光層(R)411、発光層(G)412、発光層(B)413を一定の間隔をあけて同一の被成膜基板上に形成することができる(図3(B)参照)。そして、これらの膜上に第2の電極を形成することによって、発光素子を形成することができる。また、これら発光層と第2の電極の間に、電子輸送層等の他の層を形成しても良い。
【0127】
以上の工程で、同一基板上に異なる発光を示す発光素子が形成されることにより、フルカラー表示が可能な発光装置を形成することができる。
【0128】
図3では、成膜用基板に形成された反射層の開口部402の形状を矩形とした例を示したが、特に限定されず、ストライプ状の開口部としても良い。ストライプ状の開口部とした場合、同じ発光色となる発光領域の間にも成膜が行われるが、絶縁物414の上に形成されるため、絶縁物414と重なる部分は発光領域とはならない。
【0129】
また、画素の配列も特に限定されず、1つの画素形状を多角形、例えば六角形としても良い。なお、多角形の画素を形成するためには、多角形の開口部を有する反射層を有する成膜用基板を用いて成膜すれば良い。
【0130】
なお、本実施の形態では、発光の異なる3種類の発光層を形成するために3枚の成膜用基板を用いたが、1枚の成膜用基板に材料層(R)、材料層(G)及び材料層(B)を選択的に形成しても良い。この場合、被成膜基板と成膜用基板との位置合わせが一度のみで良く、材料の利用効率や生産性が高まるため好ましい。
【0131】
本実施の形態に示すフルカラー表示が可能な発光装置の作製において、成膜用基板に形成される材料層の膜厚を制御することによって、被成膜基板上に成膜される膜の膜厚を制御することができる。つまり、成膜用基板上に形成された材料層に含まれる成膜材料を全て加熱することにより被成膜基板上に形成される膜が所望の膜厚となるように予め材料層の膜厚が制御されているため、被成膜基板上に成膜する際の膜厚モニタは不要となる。よって、膜厚モニタを利用した蒸着速度の調節を使用者が行う必要がなく、成膜工程を全自動化することが可能である。そのため、生産性の向上を図ることができる。
【0132】
また、本実施の形態に記載の成膜方法は、成膜材料層の主成分と、下地層の主成分に同じ物質を用いることから、成膜材料層に成膜材料以外の材料が混入することを防ぐことができる。よって、EL層のある層に別の層を形成するEL材料が混入することで生じる、発光素子の発光効率や寿命等の性能の低下を抑制できる。従って、本発明の一態様の成膜方法により作製した発光素子を用いることで、信頼性の高い発光装置を実現できる。
【0133】
なお、本実施の形態に示す構成は、実施の形態1及び実施の形態2に示した構成を適宜組み合わせて用いることができることとする。
【実施例1】
【0134】
本実施例では、本発明の一態様の成膜方法を用いて形成した発光層を有する発光素子の一例について図4を用いて説明する。なお、本実施例で用いた物質の構造式を以下に示す。
【0135】
【化1】

【0136】
以下に、本実施例で作製した発光素子1及び比較発光素子2の作製方法を示す。
【0137】
(発光素子1)
まず、ガラス基板1100上に、酸化珪素を含むインジウム錫酸化物(ITSO)をスパッタリング法にて成膜し、第1の電極1101を形成した。なお、その膜厚は110nmとし、電極面積は2mm×2mmとした。ここで、第1の電極1101は、発光素子の陽極として機能する電極である。
【0138】
次に、基板1100上に発光素子を形成するための前処理として、基板表面を水で洗浄し、200℃で1時間焼成した後、UVオゾン処理を370秒行った。
【0139】
その後、10−4Pa程度まで内部が減圧された真空蒸着装置に基板を導入し、真空蒸着装置内の加熱室において、170℃で30分間の真空焼成を行った後、基板1100を30分程度放冷した。
【0140】
次に、第1の電極1101が形成された面が下方となるように、第1の電極1101が形成された基板1100を真空蒸着装置内に設けられた基板ホルダに固定し、10−4Pa程度まで減圧した後、第1の電極1101上に、抵抗加熱を用いた蒸着法により、9−[4−(N−カルバゾリル)フェニル]−10−フェニルアントラセン(略称:CzPA)と酸化モリブデン(VI)を共蒸着することで、正孔注入層1111を形成した。その膜厚は、50nmとし、CzPAと酸化モリブデン(VI)の比率は、重量比で4:2(=CzPA:酸化モリブデン)となるように調節した。なお、共蒸着法とは、一つの処理室内で、複数の蒸発源から同時に蒸着を行う蒸着法である。
【0141】
次に、正孔注入層1111上に、CzPAを10nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層1112を形成した。
【0142】
さらに、本発明の一態様の成膜方法を用いて、正孔輸送層1112上にCzPAと9,10−ジフェニル−2−[N−フェニル−N−(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)アミノ]アントラセン(略称:2PCAPA)からなる発光層1113を形成した。ここで、CzPA及び2PCAPAの重量比は、1:0.01(=CzPA:2PCAPA)となるように調節した。また、発光層1113の膜厚は30nmとした。
【0143】
その後、発光層1113上にトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(III)(略称:Alq)を10nmの膜厚となるように成膜し、続いてAlq層の上にバソフェナントロリン(略称:BPhen)を膜厚20nmとなるように成膜し、Alq及びBPhenからなる電子輸送層1114を形成した。
【0144】
さらに、電子輸送層1114上に、フッ化リチウム(LiF)を1nmの膜厚で蒸着し、電子注入層1115を形成した。
【0145】
最後に、陰極として機能する第2の電極1103として、アルミニウムを200nmの膜厚となるように蒸着することで、本実施例の発光素子1を作製した。
【0146】
なお、上述した蒸着過程において、蒸着は全て抵抗加熱法を用いた。
【0147】
ここで、本発明の一態様の成膜方法を用いた発光層1113の作製方法について、具体的に説明する。
【0148】
支持基板としてガラス基板を用いた。支持基板上に、吸収層としてチタン膜を膜厚150nmで選択的に形成した。そして、吸収層上に保護層として窒化硅素膜を膜厚100nmで形成した。
【0149】
さらに保護層上に湿式法を用いて材料層を形成した。材料層は、成膜材料及び高分子化合物を含む。成膜材料として、2PCAPA及びCzPAを用いた。また、高分子化合物として、ガラス転移温度が285℃のシクロオレフィンポリマーを用い、これらの材料を溶媒として用いるトルエン中に溶解させた。トルエン、シクロオレフィンポリマー、CzPA及び2PCAPAの比率は、重量比で250:5:1:0.1(=トルエン:シクロオレフィンポリマー:CzPA:2PCAPA)となるように調節した。材料層の膜厚は150nmとした。
【0150】
材料層を成膜後、材料層中に残ったトルエンを除去するために、真空雰囲気下で加熱処理を行った。具体的には、真空度1Pa、160℃で1時間、加熱した。
【0151】
次に、支持基板において、吸収層及び材料層が形成された面に対向する位置に、被成膜基板を配置した。被成膜基板は基板1100の最表面に発光素子1の正孔輸送層1112が形成されている面側を支持基板に向けて配置した。このとき、材料層の表面と正孔輸送層1112の表面との距離dは100μmとして配置した。また、光照射による成膜は、減圧雰囲気下で行うことが好ましい。従って、成膜室内を真空度5×10−3Pa以下に保った。そして、支持基板の裏面、すなわち材料層が形成された支持基板の他方の面側からハロゲンランプを9秒間照射することにより、材料層を加熱し、ガラス基板1100の正孔輸送層1112上に発光層1113を形成した。
【0152】
(比較発光素子2)
正孔注入層1111及び正孔輸送層1112以外は、発光素子1と同様に作製した。具体的には、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:NPB)と酸化モリブデン(VI)を共蒸着することで、正孔注入層1111を形成した。その膜厚は、50nmとし、NPBと酸化モリブデン(VI)の比率は、重量比で4:1(=NPB:酸化モリブデン)となるように調節した。また、NPBを10nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層1112を形成した。
【0153】
以上により得られた発光素子1及び比較発光素子2の素子構造を表1に示す。
【0154】
【表1】

【0155】
発光素子1及び比較発光素子2を、窒素雰囲気のグローブボックス内において、発光素子が大気に曝されないようにガラス基板により封止する作業を行った後、これらの発光素子の動作特性について測定を行った。なお、測定は室温(25℃に保たれた雰囲気)で行った。
【0156】
発光素子1及び比較発光素子2の電圧−輝度特性を図5に示す。図5において、横軸は印加した電圧(V)、縦軸は輝度(cd/m)を表している。また、輝度−電流効率特性を図6に示す。図6において、横軸は輝度(cd/m)、縦軸は電流効率(cd/A)を表している。また、1mAの電流を流したときの発光スペクトルを図7に示す。図7において、横軸は波長(nm)、縦軸は強度(任意単位)を表す。また、各発光素子における輝度750cd/cm付近のときの電圧(V)、電流密度(mA/cm)、CIE色度座標(x、y)、電流効率(cd/A)を表2に示す。
【0157】
【表2】

【0158】
図7及び表2のCIE色度座標からわかるように、作製した発光素子1及び比較発光素子2からは、2PCAPAに由来する発光が得られたことがわかった。また、図5からわかるように、発光素子1は比較発光素子2に比べ低電圧下で高い輝度が得られている。
【0159】
次に、発光素子1及び比較発光素子2の信頼性試験を行った。信頼性試験の結果を図8に示す。図8において、縦軸は初期輝度を100%とした時の規格化輝度(%)を示し、横軸は素子の駆動時間(h)を示す。信頼性試験は、初期輝度を1000cd/mに設定し、電流密度が一定の条件で本実施例の発光素子1及び比較発光素子2を駆動した。図8から、発光素子1の1300時間後の輝度は初期輝度の64%を保ち、比較発光素子2の430時間後の輝度は初期輝度の50%を保っていた。発光素子1は、比較発光素子2よりも高い信頼性を示すことが明らかとなった。
【0160】
本実施例の発光層1113の作製方法において、加熱処理の際、材料層と正孔輸送層1112の間隔は狭いため、正孔輸送層1112上に形成された発光層1113中で、発光層1113の材料である成膜材料と正孔輸送層1112の材料が混ざってしまうことがある。本実施例の比較発光素子2は、正孔輸送層1112にNPB、成膜材料にCzPA及び2PCAPAを用いている。そのため、加熱処理の際、発光層1113にNPBが混入し、素子の寿命が低下している。一方、発光素子1は、正孔輸送層1112と成膜材料の主成分にCzPAを用いているため、発光層1113に成膜材料以外の材料が混入することを抑制でき、素子の長寿命化につながった。
【符号の説明】
【0161】
101 第1の基板
103 吸収層
105 材料層
107 第2の基板
109 下地層
111 成膜材料層
301 第1の基板
302 反射層
303 吸収層
304 断熱層
305 材料層
306 保護層
307 第2の基板
308 開口部
309 第1の電極層
310 光
311 下地層
312 絶縁物
313 成膜材料層
401 反射層
402 開口部
411 発光層(R)
412 発光層(G)
413 発光層(B)
414 絶縁物
1100 基板
1101 第1の電極
1103 第2の電極
1111 正孔注入層
1112 正孔輸送層
1113 発光層
1114 電子輸送層
1115 電子注入層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の一方の面上に形成された吸収層と、前記吸収層上に形成され、前記基板の一方の面の最表面に形成された、成膜材料を含む材料層とを有する第1の基板の一方の面と、
基板の被成膜面の最表面に形成された下地層を有する第2の基板の被成膜面を対向させて配置し、
前記第1の基板の他方の面側から加熱処理を施すことで、前記吸収層にエネルギーを吸収させて発熱させ、加熱された前記材料層に含まれる前記成膜材料で前記下地層上に成膜材料層を形成する成膜方法であり、
前記成膜材料層の主成分と前記下地層の主成分に同じ物質を用いる成膜方法。
【請求項2】
基板の一方の面上に形成された吸収層と、前記吸収層上に形成され、前記基板の一方の面の最表面に形成された、成膜材料を含む材料層とを有する第1の基板の一方の面と、
基板の被成膜面の最表面に形成された下地層を有する第2の基板の被成膜面を対向させて配置し、
前記第1の基板の他方の面側から加熱処理を施すことで、前記吸収層にエネルギーを吸収させて発熱させ、加熱された前記材料層に含まれる前記成膜材料で前記下地層上に成膜材料層を形成する成膜方法であり、
前記下地層を、前記成膜材料層に用いる物質で形成する成膜方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記吸収層は、島状またはストライプ状に形成されている成膜方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記材料層は、島状またはストライプ状に形成されている成膜方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項において、
前記第1の基板と前記吸収層との間に、開口部を有する反射層が形成されている成膜方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記反射層と前記吸収層との間に、前記反射層の開口部と重なる位置に開口部を有する断熱層を形成する成膜方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項において、
前記吸収層と前記材料層との間に、保護層が形成されている成膜方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一項において、
前記材料層は、蒸着法、スパッタ法、スピンコート法、印刷法、液滴吐出法、スプレー法、滴下法、インクジェット法、ノズルプリンティング法又はディスペンス法により前記吸収層上に形成される成膜方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか一項において、
前記加熱処理は、光源を用いて前記第1の基板の他方の面側から光を照射し、前記吸収層が光を吸収することで加熱される方式を用いる成膜方法。
【請求項10】
請求項9において、
前記光源としてレーザ発振装置、フラッシュランプ又はハロゲンランプを用いる成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−195870(P2011−195870A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62524(P2010−62524)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】