説明

成膜方法

【課題】長時間にわたって樹脂膜を成膜する場合においても、加熱部材の表面に付着・堆積する残渣の発生量を抑制すること。
【解決手段】基材上に樹脂膜を成膜する際に、加熱された加熱部材10の表面に、液状の樹脂原料30を供給することにより、液状の樹脂原料30を気化させる気化工程を、少なくとも実施し、かつ、加熱部材10が、金属製の加熱部材本体12と、加熱部材本体12の表面の少なくとも一部を覆う撥油性の層14とを有する成膜方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
真空蒸着により樹脂からなる薄膜を形成する場合、たとえば、以下の手順で薄膜を形成する。まず、真空中にて、モノマー等の重合性物質を主成分として含む液状の樹脂原料を加熱して気化する。続いて、気化した樹脂原料を基材の表面に付着させて、未硬化状態の樹脂膜を形成する。その後、この未硬化状態の樹脂膜に対して、たとえば、電子線を照射するなどにより、未硬化状態の樹脂膜を硬化させる。このような成膜技術は、金属層と樹脂層とを交互に積層して作製されるコンデンサなど、各種の製品の製造に幅広く利用されている。
【0003】
ここで、各種の製品の製造に際しては、生産性を確保するため、樹脂膜を高速で堆積できることが重要である。樹脂膜を高速で堆積させる技術としては、樹脂原料をその重力に基づいて、加熱体の表面上を加熱体に対して相対的に流動させながら蒸発させる方法が提案されている(特許文献1)。この技術では、たとえば、110℃に加熱され、水平線に対する傾斜角が20度となるように配置された加熱板に液状の樹脂原料を供給することで、この液状の樹脂原料を気化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3485297号公報(請求項1、段落0011、0079等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、液状の樹脂原料を気化するために用いられる加熱板等の加熱部材は、加熱効率を確保するために、通常、熱伝導率の高い金属からなる加熱部材が用いられる。しかしながら、長時間にわたって樹脂膜を成膜する場合、時間の経過と共に、加熱部材の表面に蒸発しきれずに残った樹脂原料が加熱硬化して付着・堆積する。そして、加熱部材の表面に付着・堆積した樹脂(残渣)は、樹脂膜の形成には利用されず、樹脂原料の利用効率の低下を招く。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、長時間にわたって樹脂膜を成膜する場合においても、加熱部材の表面に付着・堆積する残渣の発生量を抑制することができる成膜方法およびこれを用いた成膜装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は以下の本発明により達成される。すなわち、
本発明の成膜方法は、基材上に樹脂膜を成膜する際に、加熱された加熱部材の表面に、液状の樹脂原料を供給することにより、液状の樹脂原料を気化させる気化工程を、少なくとも実施し、かつ、加熱部材が、金属製の加熱部材本体と、該加熱部材本体の表面の少なくとも一部を覆う撥油性の層とを有することを特徴とする。
【0008】
本発明の成膜方法の一実施態様は、撥油性の層が、フッ素化樹脂を主成分として含むことが好ましい。
【0009】
本発明の成膜方法の他の実施態様は、フッ素化樹脂が、ポリテトラフルオロエチレンであることが好ましい。
【0010】
本発明の成膜方法の他の実施態様は、撥油性の層が、撥油性材料からなるシートであることが好ましい。
【0011】
本発明の成膜方法の他の実施態様は、気化工程を少なくとも経た後に、気化した樹脂原料を、基材の表面に付着させて未硬化状態の樹脂膜を形成する未硬化樹脂膜形成工程と、未硬化状態の樹脂膜に、外部刺激を付与する外部刺激付与工程とを、実施することが好ましい。
【0012】
本発明の成膜方法の他の実施態様は、少なくとも気化工程が真空中で実施されることが好ましい。
【0013】
本発明の成膜方法の他の実施態様は、少なくとも気化工程、未硬化樹脂膜形成工程および外部刺激付与工程が真空中で実施されることが好ましい。
【0014】
第一の本発明の成膜装置は、真空槽と、真空槽内に配置され、かつ、少なくとも一方向に回転可能な回転体と、回転体の外周面に対向配置された樹脂原料蒸発装置と、回転体の回転方向において、樹脂原料蒸発装置が配置された位置よりも回転方向下流側であって、かつ、回転体の外周面に対向配置された外部刺激付与装置と、を少なくとも備え、樹脂原料蒸発装置が、加熱部材と、加熱部材を加熱する加熱源と、加熱部材の表面に、液状の樹脂原料を供給する原料供給手段と、を少なくとも備え、加熱部材が、金属製の加熱部材本体と、該加熱部材本体の表面の少なくとも一部を覆う撥油性の層とを有することを特徴とする。
【0015】
第一の本発明の成膜装置の一実施態様は、回転体の外周面上に樹脂膜を形成することが好ましい。
【0016】
第一の本発明の成膜装置の他の実施態様は、回転体の外周面に配置された基材上に樹脂膜を形成することが好ましい。
【0017】
第二の本発明の成膜装置は、真空槽と、真空槽内において、基材を支持すると共に、基材を少なくとも一方向に搬送可能な基材保持部材と、搬送される基材の表面に対向するように、基材の搬送方向に沿って配置された樹脂原料蒸発装置と、基材の搬送方向において、樹脂原料蒸発装置が配置された位置よりも搬送方向下流側であって、かつ、搬送される基材の表面に対向するように配置された外部刺激付与装置と、を少なくとも備え、樹脂原料蒸発装置が、金属製の加熱部材と、加熱部材を加熱する加熱源と、加熱部材の表面に、液状の樹脂原料を供給する原料供給手段と、を少なくとも備え、加熱部材が、金属製の加熱部材本体と、該加熱部材本体の表面の少なくとも一部を覆う撥油性の層とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、長時間にわたって樹脂膜を成膜する場合においても、加熱部材の表面に付着・堆積する残渣の発生量を抑制することができる成膜方法およびこれを用いた成膜装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第一の本実施形態の成膜方法に用いられる加熱部材の一例を示す模式図である。
【図2】第一の本実施形態の成膜装置の一例を示す概略模式図である。
【図3】第一の本実施形態の成膜装置の他の例を示す概略模式図である。
【図4】第一の本実施形態の成膜装置の他の例を示す概略模式図である。
【図5】第二の本実施形態の成膜装置の一例を示す概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(成膜方法)
第一の本実施形態の成膜方法は、基材上に樹脂膜を成膜する際に、加熱された金属製の加熱部材の表面に、液状の樹脂原料を供給することにより、液状の樹脂原料を気化させる気化工程を、少なくとも実施し、かつ、加熱部材が、金属製の加熱部材本体と、該加熱部材本体の表面の少なくとも一部を覆う撥油性の層とを有することを特徴とする。
【0021】
それゆえ、第一の本実施形態の成膜方法では、加熱部材の表面のうち、撥油性の層で覆われた領域(撥油領域)内に液状の樹脂原料を供給した場合、撥油領域に対する液状の樹脂原料の濡れ性が悪いため、撥油領域内に残渣が付着・堆積し難い。このため、樹脂膜の成膜に利用した樹脂原料のうち、残渣として浪費される分が抑制でき、樹脂原料の利用効率を高めることができる。
【0022】
また、気化工程における樹脂原料の気化効率を向上させるためには、加熱部材の表面に供給された樹脂原料は、その単位体積・単位時間当たりの加熱部材の表面に対する接触面積が大きければ大きいほど好ましい。一方、加熱部材の表面に、一旦、残渣が付着・堆積し始めると、加熱部材の表面には、残渣に起因する凹凸が形成されることになる。そして、この場合、樹脂原料は、残渣によって形成された凹凸面の谷の部分のみに沿って、加熱部材の表面に滞留または加熱部材の表面を高い位置から低い位置へと流れることになる。すなわち、残渣の付着・堆積の進行に伴い、樹脂原料の単位体積・単位時間当たりの加熱部材の表面に対する接触面積は経時的に減少するため、結果的に気化効率も低下する。
【0023】
しかしながら、第一の本実施形態の成膜方法では、加熱部材の表面に残渣が付着・堆積し難いため、長期にわたって気化効率が低下することを抑制できる。それゆえ、基材上に供給される気化した樹脂原料の経時的な供給量の変動を抑制することができ、結果として、樹脂膜の膜厚制御をより正確かつ容易に行える。
【0024】
なお、本願明細書において、「樹脂原料」とは、モノマー、ダイマー、オリゴマー等の重合性有機物質を主成分として含む材料を意味し、必要に応じて、重合開始剤、重合促進剤、重合禁止剤等の各種添加剤が含まれていてもよい。
【0025】
ここで、加熱部材本体の表面の少なくとも一部を覆う撥油性の層を構成する主成分としては樹脂原料を撥油する性質を有する材料(撥油性材料)であれば特に制限なく利用できる。しかしながら、材料入手の容易性や、加熱に対する耐熱性を有する点などから、撥油性材料としては、フッ素化樹脂を用いることが好ましい。フッ素化樹脂としては、代表的にはポリテトラフルオロエチレンが挙げられるが、この他にも、たとえば、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体なども挙げることができる。しかしながら、撥油性および耐熱性の点では、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が最も好ましい。
【0026】
また、撥油性の層は、公知のコーティング法により形成された皮膜であってもよく、撥油性材料からなるシートであってもよい。この場合、撥油性材料からなるシートとしては、厚みが10μm〜2000μm程度のテフロン(登録商標)シートなどのフッ素化樹脂製シートを用いることができる。撥油性の層は、加熱部材本体の表面の少なくとも一部を被覆するように設けられる。この場合、撥油性の層は、加熱部材本体の表面のうち、気化工程の実施に際して、樹脂原料と接触する領域を少なくとも覆うように設けられていればよく、加熱部材本体の表面の全面を覆うように設けられていてもよい。
【0027】
加熱部材本体を構成する金属材料としては、公知の金属であればいずれも利用できるが、たとえば、銅、真鍮、アルミニウム、ステンレス等を利用できる。
【0028】
加熱部材本体の形状は特に限定されず、たとえば、平板形状や円筒形状などの形状が適宜採用できる。加熱部材本体の形状が平板形状の場合は、たとえば、加熱部材本体の片面全面を覆うように撥油性の層を設けることができる。この場合、気化工程の実施に際しては、加熱部材の撥油性の層が設けられた面に、樹脂原料をノズルから滴下したり、ミスト化して付着させたりすることにより供給する。なお、樹脂原料をノズルから滴下する場合は、樹脂原料が平板状の加熱部材の表面に薄く広がり易いように、平板状の加熱部材の平面を、水平面に対して若干傾斜させることが好ましい。
【0029】
また、加熱部材本体の形状が円筒形状の場合は、たとえば、加熱部材本体の内周面全面または外周面全面を覆うように撥油性材料で被覆することができる。この場合、気化工程の実施に際しては、加熱部材の撥油性の層が設けられた面に、樹脂原料をノズルから滴下したり、ミスト化して付着させたりすることにより供給する。また、撥油性の層が設けられた面全体に樹脂原料を供給したり、樹脂原料が撥油性の層が設けられた面全体に薄く広がり易いように、円筒状の加熱部材を、その中心軸に沿って回転させることが好ましい。
【0030】
なお、第一の本実施形態の成膜方法では、気化工程を実施する際の圧力は特に限定されず、使用する樹脂原料の蒸気圧に応じて適宜選択できる。しかしながら、通常、気化工程は真空中で実施することが特に好ましい。また、気化工程を少なくとも経た後は、気化した樹脂原料を、基材の表面に付着させて未硬化状態の樹脂膜を形成する未硬化樹脂膜形成工程を実施する。そして、その後、未硬化状態の樹脂膜に、外部刺激を付与する外部刺激付与工程を実施する。これにより、未硬化状態の樹脂膜が硬化し、基材の表面に樹脂膜が形成される。ここで、未硬化樹脂膜形成工程は、任意の圧力下で実施できるが、気化工程が真空中で実施される場合には、雰囲気圧力を変更せずに連続的に未硬化樹脂膜形成工程が実施できる観点から、真空中にて実施することが特に好ましい。また、外部刺激としては、使用する樹脂原料の重合機構に応じて適宜選択することができ、たとえば、電子線、紫外線、熱等が利用できる。なお、外部刺激は、必要に応じて2種類以上を組み合わせて利用することもできる。また、外部刺激付与工程は、任意の圧力下で実施できる。しかしながら、未硬化樹脂膜形成工程が真空中で実施される場合には、未硬化樹脂膜形成工程を実施後に、雰囲気圧力を変更せずに連続的に外部刺激付与工程を実施できる点では、外部刺激付与工程も真空中で実施することが特に好ましい。
【0031】
次に、第二の本実施形態の成膜方法について説明する。第二の本実施形態の成膜方法は、基材上に樹脂膜を成膜する際に、加熱された金属製の加熱部材の表面に、液状の樹脂原料を供給することにより、液状の樹脂原料を気化させる気化工程を、少なくとも実施し、かつ、加熱部材が、金属製の加熱部材本体と、加熱部材本体の表面の少なくとも一部を覆い、加熱部材本体を構成する金属よりも熱伝導率が低い層(低熱伝導層)とを有することを特徴とする。
【0032】
この場合、経時的な気化効率が安定化するため、長時間にわたって成膜する場合でも成膜レートの低下が抑制できる。その結果、樹脂膜の膜厚制御をより正確かつ容易に行える。この理由は、以下の通りである。まず、既述したように、樹脂膜の成膜を開始する際に、加熱部材の表面が金属材料からなる面である場合において、長時間にわたって樹脂膜を成膜すると、時間の経過と共に、加熱部材の表面に硬化した樹脂が付着・堆積する。一方、金属に比べて樹脂は、熱伝導率が1/100〜1/1000倍程度であり、熱伝導性が非常に悪い。このため、気化工程を開始した直後においては、樹脂原料は、加熱部材の表面に露出する熱伝導率の高い金属面に接触するため、極めて効率的に加熱される。
【0033】
しかしながら、気化工程を開始してから時間が経過すると、加熱部材の表面に露出する金属面は、熱伝導率の極めて悪い残渣(樹脂部材)で覆われ始める。そして、この残渣の厚みや面積は時間の経過と共に増大する。すなわち、気化工程においては、初期のごくわずかな期間は、実質的に金属部材を介して気化のための熱エネルギーが樹脂原料に直接付与されるが、それ以後の期間は、実質的に残渣(樹脂部材)を介して気化のための熱エネルギーが樹脂原料に直接付与される。このため、樹脂原料への伝熱効率は、樹脂原料へ熱エネルギーを直接伝達する材料種が変化する初期、すなわち、金属面が残渣で覆われ始める初期において急激に低下し、その後の期間は、残渣の厚みの増大に応じて徐々に低下することになる。したがって、気化効率も初期において急激に低下し、その後の期間は徐々に低下することになる。以上の点を考慮すれば、経時的な気化効率を安定化させるためには、金属のみから構成される加熱部材の表面を、予め、残渣、残渣と同程度の熱伝導率を有する材料、あるいは、加熱部材を構成する金属よりも熱伝導率が低い材料により被覆しておけばよいと言える。
【0034】
ここで、第二の本実施形態の成膜方法において、低熱伝導層を構成する材料の熱伝導率は、公知の樹脂材料と同程度、すなわち、0.01W/m・k〜1.0W/m・kの範囲内であることが好ましく、0.05W/m・k〜0.4W/m・kの範囲内であることがより好ましい。
【0035】
低熱伝導層を構成する材料としては、公知の樹脂材料を用いることができ、この場合、樹脂材料として残渣そのものを用いてもよい。また、樹脂材料として、残渣以外の樹脂材料を用いる場合は、加熱による劣化を防止するために耐熱性を有することが好ましい。また、残渣以外の樹脂材料としては、特にフッ素化樹脂などの撥油性材料を用いることが好ましい。この場合、第一の本実施形態の成膜方法と同様に、加熱部材の表面への残渣の付着・堆積を抑制し、樹脂原料の利用効率を高めることも極めて容易になる。なお、低熱伝導層が樹脂材料から構成される場合、その厚みは0.01mm〜2.0mm程度とすることが好ましく0.1mm〜1.0mm程度とすることがより好ましい。厚みを0.01mm以上とすることにより、気化工程を開始し始めた初期における気化効率の急激な低下を抑制することが容易となる。また、厚みを2.0mm以下とすることにより、加熱時の熱エネルギーの利用効率の著しい低下を防ぐことができる。
【0036】
なお、低熱伝導層は、金属、セラミックスあるいはガラスなど、残渣よりも熱伝導率が高い材料から構成されていてもよい。但し、この場合、たとえば、低熱伝導層を、微小な中空部を無数に有する多孔質体や、低熱伝導層をガラス繊維などの断熱性の高い無機材料から構成することによって、層全体の熱伝導率を、見かけ上、樹脂材料からなる層と同程度に調整する。
【0037】
また、第二の本実施形態の成膜方法では、気化工程以後の工程については第一の本実施形態の成膜方法と同様に実施できる。
【0038】
本実施形態の成膜方法は、樹脂膜を有する各種の製品の製造に利用することができる。たとえば、本実施形態の成膜方法を利用して、樹脂膜と金属膜とを交互に多数積層した積層体を主要部として有する積層コンデンサを製造することができる。このような積層コンデンサの主要部を成す積層体を製造する場合、本実施形態の成膜方法と、真空蒸着法などを利用した公知の金属成膜方法とを交互に実施すればよい。
【0039】
本実施形態の成膜方法において用いられる基材の材質や形状・サイズは、適宜選択することができる。また、基材は、本実施形態の成膜方法を実施する成膜装置を構成する部材の一部を構成するものであってもよく、本実施形態の成膜方法を利用して製造された製品の一部を構成するものであってもよく、ラミネートフィルムを構成する支持基材のように、樹脂膜を一時的に支持することを目的として利用される部材であってもよい。
【0040】
図1は、第一の本実施形態の成膜方法に用いられる加熱部材の一例を示す模式図である。なお、図1中、両矢印Xで示される方向は水平方向、両矢印Yで示される方向は鉛直方向、矢印Y1側が上方、矢印Y2側が下方、を意味する。なお、この点は、後述する図2以降においても同様である。また、図1中に示す加熱部材については断面図を示したものである。図1に示す加熱部材10は、金属製でかつ平板状の加熱部材本体12と、この加熱部材本体12の片面全面を覆うように設けられた撥油性の層14とを有する。気化工程を実施する際には、図1に例示するように、水平方向(図中、両矢印Xで示される方向)に対して、加熱部材10の平面を若干傾斜させ、撥油性の層14が設けられた面(撥油面14A)を上面とした状態で、加熱部材10を配置する。
【0041】
そして、この状態で、不図示の加熱源によって加熱部材10を加熱した後、加熱部材10の撥油面14Aの上端側近傍に、ノズル20から樹脂原料30を滴下する。ここで、加熱部材10の上面の上端側に供給された樹脂原料30は、加熱部材10の上面の上端側から下端側へと流れ広がりつつ加熱部材10により加熱され、気化される。ここで、ノズル20は不図示の樹脂原料供給源に接続されている。
【0042】
なお、気化し切れずに撥油面14Aの最下端に到達した樹脂原料30については、そのまま下方に流下させる。この下方に流下した樹脂原料30は、たとえば、樹脂原料回収用の容器により回収してもよいし、他の加熱部材の表面に再度滴下させて加熱・気化させてもよい。
【0043】
(成膜装置)
次に、本実施形態の成膜装置について説明する。本実施形態の成膜装置は、本実施形態の成膜方法が実施できるのであればその構造は特に限定されないが、具体的には以下に示す構成を有することが特に好ましい。
【0044】
すなわち、第一の本実施形態の成膜装置は、真空槽と、真空槽内に配置され、かつ、少なくとも一方向に回転可能な回転体と、回転体の外周面に対向配置された樹脂原料蒸発装置と、回転体の回転方向において、樹脂原料蒸発装置が配置された位置よりも回転方向下流側であって、かつ、回転体の外周面に対向配置された外部刺激付与装置と、を少なくとも備える。
【0045】
また、第二の本実施形態の成膜装置は、真空槽と、真空槽内において、基材を支持すると共に、基材を少なくとも一方向に搬送可能な基材保持部材と、搬送される基材の表面に対向するように、基材の搬送方向に沿って配置された樹脂原料蒸発装置と、基材の搬送方向において、樹脂原料蒸発装置が配置された位置よりも搬送方向下流側であって、かつ、搬送される基材の表面に対向するように配置された外部刺激付与装置と、を少なくとも備える。
【0046】
これら第一の本実施形態の成膜装置および第二の本実施形態の成膜装置に用いられる樹脂原料蒸発装置は、加熱部材と、加熱部材を加熱する加熱源と、加熱部材の表面に、液状の樹脂原料を供給する原料供給手段と、を少なくとも備え、加熱部材が、金属製の加熱部材本体と、該加熱部材本体の表面の少なくとも一部を覆う撥油性の層とを有する。なお、加熱部材本体の表面に低熱伝導層を設ければ、第二の本実施形態の成膜方法を実施することができる。また、加熱部材本体の表面に設けられる層が、フッ素化樹脂を主成分として含む層のように、撥油性の層および低熱伝導層の双方の機能を有する場合は、第一の本実施形態の成膜方法および第二の本実施形態の成膜方法を同時に実施できる。
【0047】
図2は、第一の本実施形態の成膜装置の一例を示す概略模式図である。図2中、図1に示すものと同じ部材については同じ符号が付してある。また、図2中、加熱部材10の具体的な層構造については記載を省略してある。
【0048】
図2に示す成膜装置100は、真空槽110と、この真空槽110内に配置され、時計回り方向(矢印R方向)に回転可能な円柱状部材からなる回転体120と、この回転体120の外周面に対向配置された樹脂原料蒸発装置130A(130)と、回転体120の回転方向Rにおいて、樹脂原料蒸発装置130Aが配置された位置よりも回転方向下流側であって、かつ、回転体120の外周面に対向配置された外部刺激付与装置140とを少なくとも備えている。なお、真空槽110は、不図示の真空排気装置に接続され、回転体120は不図示の駆動装置により矢印R方向に回転することができる。また、図2中、樹脂原料蒸発装置130Aは、その本体部分132が真空槽110の外部に配置されているが、樹脂原料蒸発装置130A全体が真空槽110内に配置されていてもよい。また、外部刺激付与装置140は、真空槽110内に配置されている。
【0049】
樹脂原料蒸発装置130Aは、本体部分132と、本体部分132に接続され、かつ、回転体120の外周面に対向するノズル部分134とを有する。本体部分132内には、上方側から下方側へと、ノズル20、第一の加熱部材10A(10)、第二の加熱部材10B(10)、および、樹脂原料回収容器136が配置されている。また、本体部分132内には、第一の加熱部材10Aおよび第二の加熱部材10Bを加熱する不図示の加熱装置が配置されている。
【0050】
ここで、第一の加熱部材10Aは、左端側が上方側、右端側が下方側となるように傾斜して配置されており、第二の加熱部材10Bは、左端側が下方側、右端側が上方側となるように傾斜して配置されている。ここで、第一の加熱部材10Aの上面の左端側上方に、不図示の樹脂原料供給源に接続されたノズル20が配置されている。また、第二の加熱部材10Bの上面の右端側上方に、第一の加熱部材10Aの右端が位置するように配置されている。さらに、第二の加熱部材10Bの左端側下方に、樹脂原料回収容器136が配置されている。したがって、ノズル20から供給される樹脂原料30(図2中、不図示)は、加熱されながら、第一の加熱部材10Aの上面の左端側から右端側を経て、第二の加熱部材10Bの右端側から左端側へと流れ落ちる。そして、樹脂原料30が、蒸発できずに第二の加熱部材10Bの左端側に到達した場合は、樹脂原料30は樹脂原料回収容器136により回収されることになる。
【0051】
図2に示す成膜装置100により樹脂膜を成膜する場合、まず、真空槽110内および真空槽110と接続された樹脂原料蒸発装置130Aの本体部分132内を所定の圧力(たとえば、2×10−2Pa〜1×10−2Pa程度)となるまで減圧する。続いて、ノズル20から供給された樹脂原料30を、第一の加熱部材10A、第二の加熱部材10Bにより加熱し、蒸発させる。そして、気化した樹脂原料30は、ノズル部分134から、矢印R方向に回転する回転体120の外周面に吹き付けられる。この際、回転体120の外周面には、未硬化状態の樹脂膜が形成される。そして、回転体120の外周面に形成された未硬化状態の樹脂膜は、回転体120の回転により、外部刺激付与装置140に対向する位置へと搬送された際に、外部刺激付与装置140により硬化させられる。なお、外部刺激付与装置140としては、たとえば、電子線照射装置、紫外線照射装置、プラズマ照射装置、加熱装置などが用いられる。
【0052】
なお、図2に示す成膜装置100では、基材としても機能する回転体120の外周面上に樹脂膜のみが形成される。しかしながら、成膜装置100には、たとえば金属膜などのその他の種類の薄膜を形成できる機能をさらに付加してもよい。この場合、樹脂膜と、その他の種類の薄膜とを積層した多層膜を得ることができる。
【0053】
図3は、第一の本実施形態の成膜装置の他の例を示す概略模式図である。図3中、図2に示すものと同じものについては同じ符号が付してある。図3に示す成膜装置102は、図2に示す成膜装置100に対して、真空槽110内に、さらに、オイル塗布装置150および金属蒸着装置160を設けたものである。成膜装置102では、回転体120の回転方向Rに沿って、樹脂原料蒸発装置130A(130)、外部刺激付与装置140、オイル塗布装置150、および、金属蒸着装置160が、この順に配置されている。図3に示す成膜装置102では、樹脂原料蒸発装置130Aおよび外部刺激付与装置140により、回転体120の外周面に樹脂膜を形成した後、この樹脂膜表面の一部分のみを覆うようにオイル塗布装置150によりフッ素系オイルを塗布する。続いて、表面の一部がオイルによりマスキングされた樹脂膜の表面に対して、金属蒸着装置160により金属を蒸着する。この際、樹脂膜の表面のうち、オイルによりマスキングされていない領域に金属膜が形成されると共に、樹脂膜の表面からオイルが蒸発する。すなわち、所定の形状にパターニングされた金属膜が形成される。すなわち、回転体120が1回転する毎に1層の樹脂膜と1層のパターニングされた金属膜とを、回転体120の外周面上に積層することができる。したがって、図3に示す成膜装置102は、たとえば、金属層と樹脂層とを交互に積層した積層体を主要部として有する積層コンデンサの製造に用いることができる。
【0054】
図2に示す成膜装置100および図3に示す成膜装置102は、回転体120を基材として、回転体120の外周面上に樹脂膜、あるいは、樹脂膜およびその他の膜を形成することができる。しかしながら、回転体120以外の部材を基材として用い、この基材上に樹脂膜を形成することもできる。
【0055】
図4は、第一の本実施形態の成膜装置の他の例を示す概略模式図である。図4中、図2に示すものと同じものについては同じ符号が付してある。図4に示す成膜装置104は、図2に示す成膜装置100に対して、真空槽110内に、さらに、基材供給ロール170および基材巻取ロール180を設けたものである。
【0056】
ここで、基材供給ロール170は、回転体120のノズル部分134が配置された側と反対側であって、かつ、下方側に配置され、基材巻取ロール180は、回転体120のノズル部分134が配置された側と反対側であって、かつ、上方側に配置されている。
基材供給ロール170には、予め、帯状の基材190が巻回されている。また、基材190の一端は、基材巻取ロール180に接続されている。そして、基材供給ロール170と、基材巻取ロール180との間の基材190は、回転体120により張架されている。
【0057】
そして、樹脂膜の成膜に際しては、回転体120の矢印R方向への回転に従って回転する基材供給ロール170から供給された基材190が、ノズル部分134および外部刺激付与装置140に対向する位置を通過することにより、基材190の片面に樹脂膜が形成される。そして、樹脂膜が形成された基材190は、不図示の駆動装置により駆動する基材巻取ロール180により巻き取られる。
【0058】
なお、基材190としては、柔軟性のある部材からなる帯状のシートであれば如何様な部材でも利用でき、たとえば、帯状のPETシート(ポリエチレンテレフタラートシート)などを用いることができる。また、成膜装置104内には、基材190の搬送をより安定なものとするために、基材供給ロール170と回転体120との間に位置する基材190、および/または、回転体120と基材巻取ロール180との間に位置する基材190を張架する支持ロールを適宜配置してもよい。
【0059】
図5は、第二の本実施形態の成膜装置の一例を示す概略模式図である。図5中、図2に示すものと同じものについては同じ符号が付してある。図5に示す成膜装置200は、真空槽210と、真空槽210内において、基材220を支持すると共に、基材220を矢印C方向(水平方向左側方向)に少なくとも搬送可能な基材保持部材230と、搬送される基材220の表面に対向するように、搬送方向Cに沿って配置された樹脂原料蒸発装置130B(130)と、搬送方向Cにおいて、樹脂原料蒸発装置130Bが配置された位置よりも搬送方向下流側であって、かつ、搬送される基材220の表面に対向するように配置された外部刺激付与装置140と、を備える。
【0060】
ここで、真空槽210は、水平方向に横長の筒体であり、不図示の真空排気装置に接続されている。また、真空槽210の右端および左端には、スリット状の出入口210R、210Lがそれぞれ設けられている。そして、平板状の基材220を、その下面側で保持する平板状部材からなる基材保持部材230は、不図示の駆動装置により出入口210R側から真空槽210内に搬送され、さらに真空槽210内から出入口210L側へと搬出されるように、搬送方向Cに沿って少なくとも移動することが可能である。出入口210R、210Lには、必要に応じて、不図示の開閉可能なシャッターが設けられるか、および/または、不図示の他の真空槽に接続される。
【0061】
そして、真空槽210内には、基材保持部材230の搬送方向Cの下側に位置するように、搬送方向Cに沿って、樹脂原料蒸発装置130Bおよび外部刺激付与装置140がこの順に配置されている。なお、図5中、樹脂原料蒸発装置130Bは、その本体部分132が真空槽210の外部に配置されているが、樹脂原料蒸発装置130B全体が真空槽210内に配置されていてもよい。なお、図5に示す樹脂原料蒸発装置130Bは、本体部分132に対するノズル部分134の取付け位置が異なる点を除いては、図2〜図4に示す樹脂原料蒸発装置130Aと実質同一の構造を有する装置である。また、外部刺激付与装置140は、真空槽210内に配置されている。
【0062】
図5に示す成膜装置210により樹脂膜を成膜する場合、まず、真空槽210内および真空槽210と接続された樹脂原料蒸発装置130Bの本体部分132内を所定の圧力(たとえば、2×10−2Pa〜1×10−2Pa程度)となるまで減圧する。続いて、樹脂原料蒸発装置130B内にて気化させた樹脂原料30は、ノズル部分134の正面を横切るように通過する基材保持部材230に保持された基材220の表面に吹き付けられる。そして、基材220の表面に形成された未硬化状態の樹脂膜は、基材保持部材230が、外部刺激付与装置140の正面を横切るように通過する際に硬化させられる。
【0063】
なお、図5に示す成膜装置210では、他の種類の薄膜が成膜可能な真空槽を、真空槽210の出入口210Rおよび/または出入口210Lに接続することで、基材220上に樹脂膜を含む多層膜を形成することもできる。
【0064】
以上に説明した図2〜図5に示す成膜装置100、102、104、200では、既述したように、樹脂原料蒸発装置130内および真空槽110、210内を、真空とした上で、成膜プロセスを実施する。しかしながら、図2に示す成膜装置100および図4に示す成膜装置104のように、たとえば、成膜される膜が樹脂膜のみである場合において、使用する樹脂原料の蒸気圧が大気圧下でも十分に高い場合には、樹脂原料蒸発装置130A内および真空槽110内の圧力を大気圧近傍としてもよい。
【符号の説明】
【0065】
10、10A、10B 加熱部材
12 加熱部材本体
14 撥油性の層
14A 撥油面
20 ノズル
30 樹脂原料
100、102、104 成膜装置
110 真空槽
120 回転体
130、130A、130B 樹脂原料蒸発装置
132 本体部分
134 ノズル部分
136 樹脂原料回収容器
140 外部刺激付与装置
150 オイル塗布装置
160 金属蒸着装置
170 基材供給ロール
180 基材巻取ロール
190 基材
200 成膜装置
210 真空槽
210R、210L 出入口
220 基材
230 基材保持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に樹脂膜を成膜する際に、
加熱された加熱部材の表面に、液状の樹脂原料を供給することにより、前記液状の樹脂原料を気化させる気化工程を、少なくとも実施し、かつ、
前記加熱部材が、金属製の加熱部材本体と、該加熱部材本体の表面の少なくとも一部を覆う撥油性の層とを有することを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
請求項1に記載の成膜方法において、
前記撥油性の層が、フッ素化樹脂を主成分として含むことを特徴とする成膜方法。
【請求項3】
請求項2に記載の成膜方法において、
前記フッ素化樹脂が、ポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする成膜方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の成膜方法において、
前記撥油性の層が、撥油性材料からなるシートであることを特徴とする成膜方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の成膜方法において、
前記気化工程を少なくとも経た後に、
気化した前記樹脂原料を、基材の表面に付着させて未硬化状態の樹脂膜を形成する未硬化樹脂膜形成工程と、
前記未硬化状態の樹脂膜に、外部刺激を付与する外部刺激付与工程とを、実施することを特徴とする成膜方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の成膜方法において、
少なくとも前記気化工程が真空中で実施されることを特徴とする成膜方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載のいずれか1つに記載の成膜方法において、
少なくとも前記気化工程、前記未硬化樹脂膜形成工程および前記外部刺激付与工程が真空中で実施されることを特徴とする成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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