説明

成膜法及び成膜装置

【課題】粉末噴射コーティング法を用いて誘電体層を形成する成膜法及び成膜装置において、誘電体層の膜厚ムラを低減させる。
【解決手段】本発明に係る成膜法は、粉末噴射コーティング法を用いて、シート基材5の表面上に誘電体層を形成する方法であり、工程(a)と工程(b)とを有している。工程(a)では、シート基材5の表面を凸面状又は凹面状に湾曲させる。工程(b)では、シート基材5の湾曲した表面上に、粉末噴射コーティング法を用いて誘電体粉末を堆積させることにより、誘電体層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜法及び成膜装置に関し、特に薄膜キャパシタの誘電体層を形成するための成膜技術に関する。
【背景技術】
【0002】
本願に関連する技術として、絶縁基板内にシート状の薄膜キャパシタを埋め込む技術が存在する。この技術により作製された基板は、コンデンサ内蔵基板と呼ばれ、薄膜キャパシタの高密度化が可能である。ここで、薄膜キャパシタは、電極箔と、該電極箔上に形成された誘電体層と、該誘電体層上に形成された電極層とから構成されている。
【0003】
この種の薄膜キャパシタにおいては、誘電体層の形成に、ゾル‐ゲル法、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法、スパッタリング蒸着法、粉末噴射コーティング法等、周知の種々の成膜法が用いられる。ここで、粉末噴射コーティング法は、気体の流れを利用して、粉末を電極箔等のターゲットの表面に噴き付け、これにより該ターゲットの表面上に粉末を堆積させて薄膜を形成する方法である。粉末噴射コーティング法には、PJD(Powder Jet Deposition)法やAD(Aerosol Deposition)法(例えば、特許文献1参照)等の方法が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−249490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
粉末噴射コーティング法は、他の成膜法に比べて緻密な薄膜を形成することが可能であり、誘電体層の形成に適している。その一方で、粉末噴射コーティング法を用いて形成された誘電体層には、膜厚ムラが発生し易かった。具体的には、誘電体層の内、該誘電体層の外周縁に近い領域の膜厚が、中央付近の領域の膜厚よりも小さく又は大きくなり易かった。この様な膜厚ムラが発生すると、誘電体層の表面の内、電極層を形成することが可能な領域の面積(有効面積)が減少することになる。
【0006】
そこで本発明の目的は、粉末噴射コーティング法を用いて誘電体層を形成する成膜法及び成膜装置において、誘電体層の膜厚ムラを低減させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る成膜法は、粉末噴射コーティング法を用いて、シート基材の表面上に誘電体層を形成する方法であり、工程(a)と工程(b)とを有している。工程(a)では、前記シート基材の表面を凸面状又は凹面状に湾曲させる。工程(b)では、前記シート基材の湾曲した表面上に、粉末噴射コーティング法を用いて誘電体粉末を堆積させることにより、前記誘電体層を形成する。
【0008】
上記成膜法の具体的態様において、前記工程(a)では、凸面状又は凹面状を呈する表面を有した曲げ部の該表面に、前記シート基材を密着させることにより、前記曲げ部の表面に沿ってシート基材を湾曲させる。
【0009】
上記成膜法の他の具体的態様において、該成膜法は、前記工程(a)及び工程(b)に並行して実行される工程(c)を更に有している。工程(c)では、前記シート基材を所定方向へ搬送し、又は前記誘電体粉末を噴射させるノズルを所定方向において往復移動させる。そして、工程(a)では、前記所定方向に沿う軸周りに前記シート基材を曲げることにより、該シート基材の表面を凸面状又は凹面状に湾曲させる。
【0010】
本発明に係る成膜装置は、シート基材の表面上に誘電体粉末を堆積させることにより、該表面上に誘電体層を形成する装置であり、曲げ部と、粉末噴射部とを備えている。曲げ部は、前記シート基材を曲げることにより、該シート基材の表面を凸面状又は凹面状に湾曲させる。粉末噴射部は、前記曲げ部によって曲げられたシート基材の湾曲した表面に向けて、前記誘電体粉末を噴射する。具体的には、粉末噴射部は、気体と誘電体粉末とを混合すると共に前記気体に流れを発生させることにより、該気体の流れを利用して前記誘電体粉末を噴射する。
【0011】
上記成膜装置の具体的構成において、該成膜装置は、シート基材を所定方向へ搬送する搬送部、又は、前記誘電体粉末を噴射させる粉末噴射部のノズルを所定方向において往復移動させる駆動部を更に備えている。そして、前記曲げ部は、前記所定方向に沿う軸周りに前記シート基材を曲げることにより、該シート基材の表面を凸面状又は凹面状に湾曲させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る成膜法及び成膜装置によれば、誘電体層の膜厚ムラを低減させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る成膜装置を示した図である。
【図2】上記成膜装置においてステージの表面が平坦な構成を、金属箔の搬送方向から見て示した図である。
【図3】図2に示される成膜装置を用いて形成される誘電体層を示した図である。
【図4】図2に示される成膜装置について、ノズルの先端から金属箔の表面までの距離と、誘電体粉末の堆積速度との関係の一例を示した図である。
【図5】上記実施形態に係る成膜装置について、ステージの表面形状の一例を、金属箔の搬送方向から見て示した図である。
【図6】図5に示される成膜装置を用いて形成される誘電体層を示した図である。
【図7】上記実施形態に係る成膜装置について、ステージの表面形状の他の例を、金属箔の搬送方向から見て示した図である。
【図8】図7に示される成膜装置を用いて形成される誘電体層を示した図である。
【図9】図2に示される成膜装置について、ノズルの先端から金属箔の表面までの距離と、誘電体粉末の堆積速度との関係の他の例を示した図である。
【図10】上記成膜装置の第1変形例を示した図である。
【図11】第1変形例に係る成膜装置について、ステージの表面形状の他の例を、金属箔の搬送方向から見て示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態として、シート基材である金属箔の表面上に誘電体層を形成する成膜法、及び該成膜法に用いられる成膜装置について、図面に沿って具体的に説明する。尚、本実施形態の成膜法では、粉末噴射コーティング法であるPJD法が採用されている。
【0015】
図1は、本実施形態の成膜装置を示した図である。図1に示す様に、成膜装置は、搬送部2、ステージ3、及び粉末噴射部4を備えている。
【0016】
搬送部2は、第1駆動ローラ21、第2駆動ローラ22、及び一対のテンションローラ23,23を有している。第1駆動ローラ21には、ロール状に巻回された金属箔5が取り付けられている。一方、第2駆動ローラ22には、金属箔5の先端部が巻き付けられている。第1駆動ローラ21及び第2駆動ローラ22が同方向に回転することにより、第1駆動ローラ21から金属箔5が繰り出される一方で、第2駆動ローラ22によって金属箔5が巻き取られる。テンションローラ23,23は、第1駆動ローラ21と第2駆動ローラ22との間の位置に設けられており、金属箔5に対してテンションを与えている。尚、金属箔5を構成する金属材料には、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、白金(Pt)等、箔を形成することが可能であって、且つ薄膜キャパシタの電極となり得る物質が用いられている。
【0017】
ステージ3は、テンションローラ23,23の間の位置にて、該ステージ3の表面31上を金属箔5が通過することとなる様に設けられている。又、後述する図5及び図7に示す様に、ステージ3の表面31は、凸面状又は凹面状を呈しており、且つ金属箔5の搬送方向Dに沿う軸周りに湾曲している。そして、図示していないが、ステージ3には、真空吸着や静電着等、ステージ3の表面31に金属箔5を密着させるための手段が設けられている。従って、金属箔5は、ステージ3の表面31に沿って湾曲することになる。斯くして、ステージ3は、搬送方向Dに沿う軸周りに金属箔5を曲げることによって該金属箔5の表面を凸面状又は凹面状に湾曲させる曲げ部として機能することになる。尚、ステージ3の表面31の具体的な形状については後述する。
【0018】
粉末噴射部4は、圧縮ガスと誘電体粉末とを混合すると共に圧縮ガスに流れを発生させることにより、該圧縮ガスの流れを利用して誘電体粉末を噴射する。ここで、粉末噴射部4は、誘電体粉末を噴射させるノズル41を有しており、誘電体粉末は、ノズル41の先端410から高速で吐出される。尚、圧縮ガスには、例えば高圧の窒素ガスが用いられる。又、誘電体粉末には、チタン酸バリウム(BaTiO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、ホウ酸リチウム(Li2B4O7)、チタン酸ジルコン酸鉛(PbZrTiO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、チタン酸ジルコン酸ランタン鉛(PbLaZrTiO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化タンタル(Ta2O5)等を主成分とする種々の誘電体材料を用いることが出来る。
【0019】
図1に示す様に、ノズル41の先端410は、ステージ3の表面31の方へ向けられている。即ち、ノズル41の先端410は、ステージ3によって曲げられた金属箔5の湾曲した表面の方へ向けられている(図5及び図7参照)。
【0020】
上記成膜装置によれば、ノズル41の先端410から噴射された誘電体粉末が、ステージ3上の金属箔5の表面に噴き付けられる。これにより、金属箔5の表面に誘電体粉末が衝突して破砕し、又、誘電体粉末どうしが衝突して破砕し、その結果、金属箔5の表面上に微細な誘電体粒子が緻密に堆積することになる。斯くして、金属箔5の表面上に誘電体層6が形成されることになる(図6及び図8参照)。
【0021】
次に、ステージ3の表面31の形状について、図面に沿って具体的に説明する。ここで、先ず、上記成膜装置においてステージ3の表面31が平坦な場合について、図2及び図3を用いて説明する。図2に示す様に、この成膜装置においては、ステージ3の表面31上において金属箔5の表面は平坦なままである。そして、図3に示す様に、この成膜装置を用いて金属箔5の表面上に誘電体層6を形成した場合、誘電体層6の膜厚は、端に行くに従って小さくなる。即ち、金属箔5の表面上の位置に応じて誘電体層6の膜厚が変化する。従って、誘電体層6に膜厚ムラが生じることになる。
【0022】
これは、金属箔5の表面上の位置に応じて、誘電体粉末の堆積速度Vが変化するからである。具体的には、ノズル41内を誘電体粉末が流れているとき、ノズル41の中心位置での流速に比べて、ノズル41の内周面41a(図2参照)近傍の位置での流速が小さくなる。このため、金属箔5の表面の内、誘電体層6が形成される領域の中心位置P1(図2及び図3参照)での堆積速度Vよりも、該領域の両端近傍の2つの位置P2,P2(図2及び図3参照)での堆積速度Vの方が小さくなる。
【0023】
一方、金属箔5の表面上の位置ごとに、誘電体粉末の堆積速度Vは、ノズル41の先端410から金属箔5の表面までの距離L(図2参照)にも依存し、該距離Lに応じて変化する。これは、金属箔5の表面に誘電体粉末が衝突するときの速度(衝突速度)が、距離Lに応じて変化するからである。具体的には、距離Lを小さくした場合、ノズル41の先端410と金属箔5との間の隙間が小さくなって圧損が生じ、このため衝突速度が小さくなる。又、距離Lを大きくした場合、誘電体粉末は空気抵抗を受け易くなり、このため衝突速度が小さくなる。そして、衝突速度が小さくなると、誘電体粉末の一部が、金属箔5の表面上に堆積されずに浮遊し、従って堆積速度Vが小さくなる。
【0024】
図4は、図2に示される成膜装置について、距離Lと堆積速度Vとの関係の一例を、金属箔5の表面上の位置ごとにグラフで示した図である。図4では、位置P1での距離Lと堆積速度Vとの関係がグラフG1で示され、位置P2での距離Lと堆積速度Vとの関係がグラフG2で示されている。
【0025】
ここで、図4に示す様に、グラフG1,G2の何れにも交わるV=V0(定数)の直線G0を考えることにより、次のことが分かる。即ち、距離Lの増加に伴って堆積速度Vが増加する領域(距離Lが小さい領域)においては、堆積速度Vが位置P1,P2の両方で同じ値V0となるのは、位置P1での距離Lの値がLa(1)となり、且つ位置P2での距離Lの値がLb(1)となるときである。このとき、距離Lb(1)は、距離La(1)より大きくなる。
【0026】
一方、距離Lの増加に伴って堆積速度Vが減少する領域(距離Lが大きい領域)においては、堆積速度Vが位置P1,P2の両方で同じ値V0となるのは、位置P1での距離Lの値がLa(2)となり、且つ位置P2での距離Lの値がLb(2)となるときである。このとき、距離Lb(2)は、距離La(2)より小さくなる。
【0027】
そこで、本実施形態の成膜装置においては、ステージ3の表面31の形状が、以下の様に湾曲した形状に設定されている。
図5は、ステージ3の表面31の形状の一例を、金属箔5の搬送方向D(図1参照)から見て示した図である。図6は、図5に示される成膜装置を用いて形成される誘電体層6を示した図である。図5に示す様に、金属箔5の表面上の位置P1において距離Lの値がLa(1)となり、且つ2つの位置P2,P2において距離Lの値がLb(1)(>La(1))となる様に、ステージ3の表面31の形状が、凸面状に湾曲した形状に設定されている。
【0028】
図5に示される成膜装置によれば、金属箔5は、ステージ3の表面31上にて該表面31に沿って凸面状に湾曲する。そして、金属箔5の表面の内、少なくとも位置P1及び位置P2,P2の3つの位置において、堆積速度Vが略一致することになる。従って、金属箔5の表面上の位置に対する誘電体粉末の堆積速度Vの変化が小さくなり、その結果、図6に示す様に、形成される誘電体層6の膜厚ムラが低減することになる。
【0029】
図7は、ステージ3の表面31の形状の他の例を、金属箔5の搬送方向D(図1参照)から見て示した図である。図8は、図7に示される成膜装置を用いて形成される誘電体層6を示した図である。図7に示す様に、金属箔5の表面上の位置P1において距離Lの値がLa(2)となり、且つ2つの位置P2,P2において距離Lの値がLb(2)(<La(2))となる様に、ステージ3の表面31の形状が、凹面状に湾曲した形状に設定されていてもよい。
【0030】
図7に示される成膜装置によれば、金属箔5は、ステージ3の表面31上にて該表面31に沿って凹面状に湾曲する。そして、金属箔5の表面の内、少なくとも位置P1及び位置P2,P2の3つの位置において、堆積速度Vが略一致することになる。従って、金属箔5の表面上の位置に対する誘電体粉末の堆積速度Vの変化が小さくなり、その結果、図8に示す様に、形成される誘電体層6の膜厚ムラが低減することになる。
【0031】
尚、図5に示す如く金属箔5の表面を凸面状に湾曲させることにより、成膜時において、ノズル41の先端410から誘電体粉末と共に吐出される圧縮ガスが、金属箔5の表面に沿って流れてステージ3の斜め後方へと導かれることになる。よって、金属箔5の表面において圧縮ガスが反射され難く、従って、圧縮ガスによる誘電体粉末の流れの妨げが生じ難くなる。
【0032】
又、本実施形態の成膜装置においては、金属箔5を搬送しながら該金属箔5の表面上に誘電体層6が形成される。従って、本実施形態の成膜装置によれば、金属箔5の表面の広い範囲に亘って誘電体層6を形成することが可能である。ここで、金属箔5を一定速度で搬送することにより、搬送方向Dについて誘電体層6の膜厚ムラが小さくなる。又、本実施形態の成膜装置によれば、上述した様に(図6及び図8参照)、搬送方向Dに対して略垂直な方向についての誘電体層6の膜厚ムラが小さくなる。従って、誘電体層6全体に亘って膜厚ムラが低減されることになる。
【0033】
位置P1,P2での距離Lと堆積速度Vとの関係がそれぞれ、図4のグラフG1,G2によって表された関係と異なる場合にも、上述したのと同様の考え方を適用して、ステージ3の表面31の形状を、凸面状又は凹面状に湾曲した形状に設定すればよい。
【0034】
例えば、図9に示す様に、位置P1での距離Lと堆積速度Vとの関係がグラフG2で表され、位置P2での距離Lと堆積速度Vとの関係がグラフG1で表される場合を考える。この場合、距離Lb(1)が距離La(1)より小さくなる。又、距離Lb(2)が距離La(2)より大きくなる。そこで、金属箔5の表面上の位置P1において距離Lの値がLa(1)となり、且つ2つの位置P2,P2において距離Lの値がLb(1)(<La(1))となる様に、ステージ3の表面31の形状を、凹面状に湾曲した形状に設定する。或いは、金属箔5の表面上の位置P1において距離Lの値がLa(2)となり、且つ2つの位置P2,P2において距離Lの値がLb(2)(>La(2))となる様に、ステージ3の表面31の形状を、凸面状に湾曲した形状に設定してもよい。
【0035】
又、図4や図9に示される位置P1,P2での距離Lと堆積速度Vとの関係に加えて、位置P1,P2とは異なる1又は複数の位置での距離Lと堆積速度Vとの関係をも用いて、ステージ3の表面31の形状を設定してもよい。これにより、金属箔5の表面上の位置に対する堆積速度Vの変化がより小さくなり、その結果、形成される誘電体層6の膜厚ムラが更に低減されることになる。尚、位置P1,P2に限らず、金属箔5の表面上の複数の位置において堆積速度Vを略一致させることにより、金属箔5の表面上の位置に対する堆積速度Vの変化を小さくしてもよい。
【0036】
斯くして、本実施形態の成膜装置においては、ステージ3が、金属箔5を曲げる曲げ部として機能することにより、金属箔5の表面を凸面状又は凹面状に湾曲させ、これにより、ノズル41の先端410から金属箔5の表面までの距離Lを、該表面上の位置に応じて変化させている。
【0037】
そして、上述した成膜装置を用いることにより、搬送工程、曲げ工程、及び成膜工程を有する成膜法が実行されることになる。即ち、搬送工程は、曲げ工程及び成膜工程に並行して実行される工程であり、搬送工程では、金属箔5が所定方向(搬送方向D)へ搬送される。
【0038】
曲げ工程では、金属箔5の搬送方向Dに沿う軸周りに金属箔5を曲げることにより、該金属箔5の表面を凸面状又は凹面状に湾曲させる。これにより、誘電体粉末が噴射されるノズル41の先端410から金属箔5の表面までの距離Lを、該表面上の位置に応じて変化させる。具体的には、金属箔5の表面上の複数の位置において誘電体粉末の堆積速度Vが略一致する様に、該表面上の位置ごとに距離Lを変化させる。
【0039】
成膜工程では、金属箔5の湾曲した表面上に、ノズル41の先端410から噴射された誘電体粉末を堆積させる。これにより、金属箔5の表面上に誘電体層6が形成される。
【0040】
図10は、上記成膜装置の第1変形例を示した図である。図10に示す様に、図1に示される成膜装置において、粉末噴射部4の複数が並列に配置されていてもよい。具体的には、隣接する2つの粉末噴射部4,4は、これらが金属箔5の表面上に形成する誘電体粉末の堆積層の端部どうしが互いに重なり合う様に、配置されている。そして、本変形例の成膜装置によれば、複数の粉末噴射部4〜4によって形成される堆積層の重ね合わせにより、1つの誘電体層6が形成されることになる。
【0041】
又、図10に示される成膜装置においては、ステージ3の表面31の形状が、並列配置された複数の粉末噴射部4〜4の内、最も外側に位置する2つの粉末噴射部4A,4Aに対応する距離Lと堆積速度Vとの関係(図4参照)を用いて、設定されている。具体的には、金属箔5の表面の内、各粉末噴射部4Aによって堆積層が形成される領域の中心位置P1と、該領域の最も外側に位置する端近傍の位置P2とにおいて、誘電体粉末の堆積速度Vが略一致する様に、ステージ3の表面31の一部が凸面状に湾曲している。又、ステージ3の表面31には、金属箔5の表面が2つの中心位置P1,P1間の領域において平坦となる様に、平坦な部分が存在している。尚、ステージ3の表面31の内、凸面状に湾曲している部分は、図11に示す様に凹面状に湾曲していてもよい。
【0042】
本変形例の成膜装置によって形成される誘電体層6の内、金属箔5の表面上の平坦な領域(2つの中心位置P1,P1間の領域)に形成された部分は、堆積層の重ね合わせによって形成された部分である。従って、重なり部分の面積や各粉末噴射部4の吐出量を調整することにより、該部分の膜厚ムラを小さくすることが出来る。又、誘電体層6の内、金属箔5の表面上の湾曲した領域(位置P1,P2間の領域)に形成された部分では、図6や図8に示されるのと同様、膜厚ムラが小さくなる。従って、本変形例の成膜装置によれば、幅の広い誘電体層6を形成しつつ、該誘電体層6全体の膜厚ムラを低減させることが出来る。
【0043】
尚、本発明の各部構成は上記実施の形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。例えば、上記成膜装置及び成膜法において、ノズルの先端形状には、円形以外の種々の形状、例えば長方形や楕円形を採用することが出来る。又、上記成膜装置の各種構成及び成膜法の各種態様は、金属箔5に限定されない種々のシート基材の表面上に誘電体層を形成する場合にも適用することが出来る。
【0044】
成膜装置が備える粉末噴射部には、気体の流れを利用して誘電体粉末を噴射することが可能な種々の構成を採用することが出来る。即ち、成膜法において、PJD法に限らず、AD法等、種々の粉末噴射コーティング法を採用することが出来る。
【0045】
更に、上記成膜装置において、曲げ部として機能するステージ3に代えて、搬送部2を構成する一対のテンションローラ23,23(図1参照)として樽形状又は鼓形状のローラを用いてもよい。樽形状のテンションローラ23,23によれば、金属箔5を凸面状に湾曲させることが出来る。一方、鼓形状のテンションローラ23,23によれば、金属箔5を凹面状に湾曲させることが出来る。この構成においては、樽形状又は鼓形状のテンションローラ23,23が曲げ部として機能することになる。尚、曲げ部は、表面31が湾曲したステージ3や、樽形状又は鼓形状のテンションローラ23,23に限られるものではない。
【0046】
上記成膜装置において、搬送部2を用いて金属箔5を搬送することに代えて、駆動部によってノズル41を金属箔5の表面に沿って往復移動させてもよい。この構成においても、金属箔5の表面の広い範囲に亘って、膜厚ムラの小さい誘電体層6が形成されることになる。
【符号の説明】
【0047】
2 搬送部
3 ステージ
31 表面
4 粉末噴射部
41 ノズル
410 先端
5 金属箔
6 誘電体層
D 搬送方向
P1,P2 位置
L 距離
V 堆積速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末噴射コーティング法を用いて、シート基材の表面上に誘電体層を形成する方法であって、
(a)前記シート基材の表面を凸面状又は凹面状に湾曲させる工程と、
(b)前記シート基材の湾曲した表面上に、粉末噴射コーティング法を用いて誘電体粉末を堆積させることにより、前記誘電体層を形成する工程と
を有する、成膜法。
【請求項2】
前記工程(a)では、凸面状又は凹面状を呈する表面を有した曲げ部の該表面に、前記シート基材を密着させることにより、前記曲げ部の表面に沿ってシート基材を湾曲させる、請求項1に記載の成膜法。
【請求項3】
(c)前記工程(a)及び工程(b)に並行して、前記シート基材を所定方向へ搬送し、又は前記誘電体粉末を噴射させるノズルを所定方向において往復移動させる工程を更に有し、
前記工程(a)では、前記所定方向に沿う軸周りに前記シート基材を曲げることにより、該シート基材の表面を凸面状又は凹面状に湾曲させる、
請求項1又請求項2に記載の成膜法。
【請求項4】
シート基材の表面上に誘電体粉末を堆積させることにより、該表面上に誘電体層を形成する成膜装置であって、
前記シート基材を曲げることにより、該シート基材の表面を凸面状又は凹面状に湾曲させる曲げ部と、
前記曲げ部によって曲げられたシート基材の湾曲した表面に向けて、前記誘電体粉末を噴射する粉末噴射部と
を備える、成膜装置。
【請求項5】
前記シート基材を所定方向へ搬送する搬送部、又は、前記誘電体粉末を噴射させる粉末噴射部のノズルを所定方向において往復移動させる駆動部を更に備え、
前記曲げ部は、前記所定方向に沿う軸周りに前記シート基材を曲げることにより、該シート基材の表面を凸面状又は凹面状に湾曲させる、
請求項4に記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−201970(P2012−201970A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70464(P2011−70464)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】