説明

成膜源、成膜方法、および加熱板、ならびに有機EL素子の製造方法

【課題】成膜材料の有効利用が可能であり、かつ、良好な膜質の膜を成膜することが可能な成膜源を提供する。
【解決手段】成膜源102は、成膜材料121が内部に充填される成膜材料収容部である坩堝122と、充填された成膜材料121の表面に載置される加熱体である加熱板123とを備える。加熱板123には複数の貫通孔125が所定のパターンで形成されている。また、加熱板123の貫通孔125が形成されていない領域には、ヒータ126が配設されている。成膜時には、ヒータ126によって加熱された加熱板123により、坩堝122内の成膜材料121の表面が加熱され、該表面の成膜材料121が蒸発して蒸着成膜が実施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、成膜源、成膜方法、および成膜に用いられる加熱板、ならびに有機EL素子の製造方法に関する。ただし、本発明の利用は、前述の成膜源、成膜方法、および加熱板、ならびに有機EL素子の製造方法には限らない。
【背景技術】
【0002】
各種情報産業機器の表示ディスプレイや発光素子等においては、薄型化が図られるとともに視認性や耐衝撃性等に優れることから、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と略す)の利用が進んでいる。有機EL素子は、基板上に一対の電極に挟持された有機層が形成された構成を有する。有機層は、機能の異なる複数の層が積層されて構成され、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、および電子注入層を含んで構成される。
【0003】
このような有機EL素子の有機層は、例えば、蒸着法により成膜される。蒸着による成膜の際には、成膜材料である有機材料を坩堝等の容器内に充填し、真空状態で容器ごと加熱して有機材料を蒸発させ成膜を行う。加熱方法としては、抵抗加熱、電子ビーム加熱、高周波加熱、レーザ加熱等が用いられる。
【0004】
例えば、抵抗加熱では、容器の外周にヒータ等の熱源が配置され、この熱源から発せられた熱が容器に伝達される。そして、容器を介して、容器内に収容された有機材料に熱が伝達されて有機材料が加熱される。このような有機材料の加熱時には、容器の内壁に近い領域の有機材料が先に加熱され、その後、内側に向かって徐々に加熱が進んでいく。そして、有機材料全体が所定温度に近い温度に昇温されると、容器内の有機材料表面、すなわち、被成膜基板に対向する面である有機材料表面から有機材料が蒸発または昇華して蒸着成膜が行われる。
【0005】
ここで、上記のような有機材料の蒸着による成膜では、容器内の有機材料全体が所定温度に近づくと有機材料の蒸発または昇華が開始するので、有機材料の蒸発または昇華に要する熱量が多くなり、加熱に時間を要する。それゆえ、加熱効率の向上が求められる。また、かかる成膜では、容器内における有機材料の温度分布が不均一となりやすく有機材料の加熱状態の調整が困難である。それゆえ、有機材料の蒸発量または昇華量の制御が困難となり、その結果、成膜レートの制御が困難となるとともに、成膜される膜の特性劣化を招くおそれがある。それゆえ、膜の生産性および品質の向上を図るには、有機材料の良好な加熱制御が求められる。
【0006】
上記要求を満たす方法の一つに、例えば、容器の上下に熱源としてヒータを配置するとともに、容器内に充填された成膜材料の表面近傍に金属板を配設する方法がある(例えば、特許文献1参照。)。かかる方法では、上下に配設されたヒータにより容器を介して成膜材料が加熱され、さらに、上部に配設されたヒータの放射熱が金属板に吸収されるので、この金属板により、成膜材料の表面に効率よく熱が伝達される。
【0007】
【特許文献1】特開昭58−19471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このように金属板を用いた加熱では、金属板からの伝熱による加熱は、成膜材料を均一に加熱するための補助的なものである。したがって、上下に配設されたヒータにより成膜材料全体を均一に加熱する必要があり、よって、成膜材料の蒸発または昇華に多くの熱量を要する。また、前述のように成膜材料の加熱状態の調整が困難であり、成膜材料の温度分布に不均一が生じやすいことから、成膜レートを精度よく制御することが困難である。さらに、成膜材料全体を均一に加熱しようとすると、成膜材料表面以外の部分においても蒸発または昇華が起こり、これが膜質等に影響を及ぼす。
【0009】
例えば、容器の底部側にヒータが配設された場合には、容器の底部側においても、成膜材料の蒸発または昇華が起こる。そして、このような容器底部側の成膜材料の蒸発または昇華は、成膜材料の巻き上げ等を発生させるおそれがあり、この巻き上げ等に伴って成膜材料が容器外部に飛散する。巻き上げ等による成膜材料の飛散は、成膜材料の浪費につながるだけでなく、材料片の膜への混入やそれに続く材料片の剥離を引き起こす。その結果、成膜された膜の膜質が劣化する。そしてさらに、このような成膜における膜質の劣化は、成膜により形成される素子の特性劣化を引き起こす。
【0010】
例えば、数百nmレベルといった高精度の成膜技術が要求される有機EL素子の製造方法において、成膜レートの制御が不十分であったり材料片の混入等の問題が生じると、有機EL素子の生産性が低下するとともに、製造された素子においてリーク電流等が発生し素子特性が劣化する。
【0011】
また、容器外部に配設されたヒータの発する熱を容器を介して伝熱して成膜材料を加熱する構成では、たとえ上記のように金属板を配設していても、容器内に充填された成膜材料のうち、ヒータに近い部分に位置する成膜材料が、ヒータから離れた部分に位置する成膜材料よりも伝達される熱量が多くなり、よって、ヒータに近い部分の容器の内壁では、成膜材料の焦げ付きが生じる。このような焦げ付きによる成膜材料の浪費は、成膜コストの増加につながる。特に、有機材料は高価であることから、有機材料を用いた成膜により形成される有機EL素子では、有機材料の焦げ付きが、有機EL素子の製造コストに大きく影響する。
【0012】
さらに、容器を介した成膜材料への伝熱では容器の内壁に近い部分の成膜材料ほど伝達される熱量が多いことから、成膜材料表面のうち、容器の内壁に近い領域ほど、蒸発または昇華が促進される。したがって、成膜材料表面では、成膜材料の蒸発量または昇華量が局部的に異なり、その結果、容器に残留する成膜材料の増加を招く。例えば、容器の側部内壁近くの成膜材料は伝達される熱量が多いので蒸発または昇華が効率よく行われるが、容器の側部内壁から離れた容器中心付近の成膜材料では、熱の伝達効率が低いため、側部内壁近くの成膜材料に比べて蒸発または昇華の効率が低くなる。その結果、成膜材料が容器の底面に山状に残ってしまい、成膜材料の有効利用が達成されない。
【0013】
このような成膜材料の加熱状態の不均一は、特に、容器の大きさが大きくなると顕著になる。このため、容量の大きな容器に成膜材料を充填して大面積の基板へ成膜を行う大型の有機EL表示パネルの製造では、成膜レートの制御等の点から大量生産が困難となり、また、過加熱による有機材料の焦げ付きや残留材料の増加等の点から、製造コストが増加する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の請求項1にかかる成膜源は、成膜材料を収容する成膜材料収容部と、前記成膜材料収容部に収容された前記成膜材料の表面に配置されて発熱するとともに、前記成膜材料の表面に連通する貫通孔を有する加熱体と、を備える。
【0015】
また、本発明の請求項3にかかる成膜方法は、貫通孔を有し発熱する加熱体を、成膜材料収容部に収容された成膜材料の表面に前記貫通孔を連通させて前記成膜材料の表面に配置し、前記加熱体により前記成膜材料の表面を選択的に加熱することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項5にかかる加熱板は、蒸着成膜における成膜材料の蒸発または昇華に用いられる加熱板であって、一対の主面を貫通する貫通孔を少なくとも一つ有するとともに発熱可能な構成を有し、成膜時には、容器に収容された成膜材料の表面に一方の前記主面を接触させて配置され、前記成膜材料の表面を選択的に加熱することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の請求項6にかかる有機EL素子の製造方法は、対向する一対の電極間に少なくとも発光層を含む複数の有機層が形成された有機EL素子の製造方法であって、前記有機層の形成時に、貫通孔を有し発熱する加熱体を、成膜材料収容部に収容された有機化材料の表面に前記貫通孔を連通させて前記有機材料の表面に配置し、前記成膜材料収容部に収容された前記有機材料の表面を前記加熱体により選択的に加熱して有機材料を蒸着させることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に添付図面を参照して、本発明にかかる成膜源、成膜方法、および加熱板、ならびに有機EL素子の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0019】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1は、成膜材料の有効利用率の向上が図られ、かつ、良好な膜質の膜を良好な生産性で成膜することが可能な成膜源および成膜方法を提供することを目的の一つとする。
【0020】
実施の形態1では、本発明にかかる成膜源およびこれを用いた成膜方法について説明する。実施の形態1にかかる成膜源および成膜方法は、成膜材料の表面に発熱する加熱板を配置し、この加熱板により成膜材料の表面を選択的に加熱して表面部分の成膜材料を蒸発または昇華させるものである。以下の実施例で実施の形態1の具体例を示す。
【実施例1】
【0021】
図1は、本発明の実施例1における成膜方法を説明するための模式図である。ここでは、成膜材料を抵抗加熱法により加熱し、基板の成膜面に蒸着させて薄膜を形成する場合について説明する。
【0022】
図1に示すように、成膜装置は、真空ポンプ104により所定の真空度に保持可能に構成された成膜室100を備える。そして、成膜室100内に、成膜材料121を蒸発させる成膜源102と、この成膜源102に成膜面を対向させて配置された成膜対象である基板101とが配置されている。また、成膜室100内には、成膜源102と基板101との間に成膜用マスク105が配置されるとともに、膜厚モニタ107が配置されている。
【0023】
基板101には、例えば、ガラス基板等が用いられる。ここでは図示を省略しているが、基板101は、成膜室100の内壁に配設された支持部材によって支持されて成膜室100内に保持される。例えば、基板101は、成膜室100の上壁内面に支持された支持部材が背面に取り付けられて保持される。
【0024】
成膜用マスク105は、開口(図示せず)が形成された所定のマスクパターンを有しており、基板101の成膜面の所望の領域に薄膜103を形成することができる。成膜用マスク105は、基板101と同様、図示しない支持部材によって成膜室100内に保持される。また、膜厚モニタ107には、従来構造のモニタが用いられている。
【0025】
図2は、成膜源102の構成を示す模式的な斜視図である。また、図3は、図2のIII−III’線における模式的な断面図である。図2および図3に示すように、成膜源102は、成膜材料121を充填する成膜材料収容部である坩堝122と、坩堝122内に充填された成膜材料121の表面に載置される加熱体である加熱板123とを備える。
【0026】
坩堝122は、成膜室100の底壁に直接載置されてもよく、また、支持部材(図示せず)によって成膜室100内に保持されてもよい。さらに、坩堝122は、配置位置において自転可能に構成されてもよく、また、成膜室100内における配置位置が変化するように構成されてもよい。
【0027】
ここでは、坩堝122がポイントソースとして用いられている。坩堝122は、上端が開口され下端が底壁で封止された円筒形状を有する。坩堝122は、その中心が、成膜用マスク105および基板101の中心と一致するように配置されている。坩堝122の構成材料は特には限定されず、例えば、W,Ta,Mo等の高融点金属、または、Ni、Fe、Co−Ni合金、ステンレス鋼、黒鉛、TiN等の金属やセラミックス等が用いられる。
【0028】
坩堝122内には、成膜する図1の薄膜103に応じた成膜材料121が充填される。この成膜材料121は、加熱により蒸発する材料であってもよく、また、昇華する材料であってもよい。このような成膜材料121は、固体材料であってもよく、また、液体材料であってもよい。ここでは、加熱により蒸発する成膜材料121が用いられている。そして、充填された成膜材料121の表面に、加熱板123が載置されている。
【0029】
なお、載置とは、成膜材料121が固体材料である場合には、材料表面に加熱板123が直接接触して置かれた状態のことである。また、成膜材料121が液体材料である場合には、材料表面に加熱板123全体が浮いた状態、または、加熱板123の下部が成膜材料121の中に沈むとともに残りの部分が材料表面より上に浮かんだ状態のことである。
【0030】
図4は、加熱板123の構成を示す模式図である。図4に示すように、加熱板123は、図3の坩堝122の内径よりも小径に構成された円板形状を有し、坩堝122内に収容可能に構成されている。なお、図2および図3では加熱板123の外周と坩堝122の内壁とが当接しているが、実際には、両者の間には間隙が存在している。蒸発した図2の成膜材料121がこの間隙を透過して図1の基板101側に移動することから、加熱板123では、坩堝122内壁との間に間隙が成膜に適した幅であるように径が設計される。ここでは、加熱板123と坩堝122の内壁との間の間隙の幅が小さい方が好ましいので、加熱板123の外周と坩堝122の内壁とがほぼ完全に当接している。また、加熱板123は、収容された坩堝122の内部において、回転可能に構成されてもよい。
【0031】
加熱板123には、複数の貫通孔125が形成されている。ここでは、同一形状を有する円形の貫通孔125が、所定のパターンで等間隔に整然配置されている。加熱板123に形成される貫通孔125の数、形状および配置位置は、図1の成膜材料121の種類や、成膜源102と基板101との配置関係や、成膜条件等に合わせて適宜設定されるものである。
【0032】
例えば、成膜時に生じる図1の薄膜103の膜厚の不均一を解消するように貫通孔125が形成されてもよい。具体的に、図1の基板101の中心領域に成膜される薄膜103の膜厚が基板101の外周領域に成膜される薄膜103の膜厚に比べて厚くなる場合には、図4の加熱板123において、中心領域の貫通孔125の数を少なくするか、または、この中心領域の貫通孔125の大きさを小さくし、それと同時に、加熱板123の外周領域の貫通孔125の数を多くするか、または、この外周領域の貫通孔125の大きさを大きくする。それにより、基板101の全体に渡って均一な膜厚の薄膜103を形成することが可能となる。
【0033】
また、加熱されにくい成膜材料121(図3参照)を用いる場合には、加熱効率を向上させるために、例えば、図4の加熱板123における貫通孔125の数を少なくするか、または貫通孔125の大きさを小さくする。それにより、加熱板123と成膜材料121との接触面積が増加し、加熱板123から成膜材料121への伝熱効率が向上する。
【0034】
このような加熱板123は、加熱されやすく保温性の高い材料から構成されるのであれば、構成材料は特には限定されない。例えば、アルミナ(Al23)、ベリリア(BeO)等の高融点酸化物等から構成されてもよい。なお、図3の成膜材料121が固体材料である場合には、加熱板123を材料表面に配置するので加熱板123の構成材料の比重はほとんど考慮しなくてよいが、成膜材料121が液体材料である場合には、少なくとも加熱板123の上部が成膜材料121の表面より上に浮き出る必要があることから、成膜材料121の比重との関係を考慮して材料選択を行う必要がある。
【0035】
図4に示すように、図1の基板101と対向する加熱板123の表面には、隣接する貫通孔125の間を縫って貫通孔125の配列パターンに沿ってヒータ126が配設されている。ここでは、ヒータ126が、Ta、Mo、W等の高融点金属で構成されたフィラメント状またはボート状の抵抗加熱用ヒータで構成されている。加熱板123に配設されたヒータ126は、図1の成膜室100の底壁に形成された貫通孔(図示せず)を介して、成膜室100の外部に配設された加熱用電源たる直流電源124に接続されている。
【0036】
なお、加熱板123におけるヒータ126の配置は、図4に限定されるものではなく、加熱板123全体を効率よく均一に加熱できるように適宜設定される。また、ここでは、加熱板123の表面にヒータ126が配置される場合を示したが、ヒータ126が加熱板123の内部に埋め込まれた構成であってもよい。
【0037】
続いて、本実施例における成膜方法について説明する。まず、図1に示すように、所定の成膜材料121が充填された坩堝122を成膜室100内に配置するとともに、基板101および成膜用マスク105を成膜室100内に配置する。続いて、真空ポンプ104を用いて成膜室100内の排気を行い、成膜室100内を所定の真空状態とする。ここでは、10-4Pa以下の真空状態としている。
【0038】
成膜室100内を真空状態とした後、直流電源124を動作させて図3のヒータ126による加熱板123の加熱を開始し、加熱板123を昇温する。このように加熱板123が加熱されると、加熱板123と接触する成膜材料121の表面に加熱板123から熱が伝達され、該表面の成膜材料121が加熱される。そして、成膜材料121の表面が所定の温度まで加熱されると、該表面の成膜材料121が蒸発し、蒸発した成膜材料121が加熱板123の貫通孔125を透過して基板101の成膜面に向かって移動する。ここでは、このように基板101の成膜面に向かう成膜材料121の流れを、蒸発流106と呼ぶ。
【0039】
成膜材料121の蒸発流106は、成膜用マスク105の開口を透過して基板101の成膜面に到達し、該成膜面に堆積して薄膜103を形成する。それにより、成膜用マスク105のマスクパターンに応じて、基板101の所望の領域に薄膜103が形成される。このような成膜時には、膜厚モニタ107により薄膜103の膜厚検出を行い、その検出値に基づいて成膜レートが制御される。
【0040】
ここで、上記のような加熱板123による成膜材料121の加熱では、成膜材料121の表面のみを蒸発温度まで加熱すればよく、従来のように坩堝122内の成膜材料121全体をほぼ均一な温度に加熱する必要がない。したがって、加熱に要する熱量が低減されて加熱効率の向上が図られる。また、成膜材料121の表面の加熱状態は加熱板123により容易に制御することができるため、成膜効率の向上が図られるとともに、成膜レートの制御を容易にかつ精度よく行うことが可能となる。
【0041】
例えば、図1の膜厚モニタ107による膜厚の検出値に応じて加熱板123の温度調整を行って成膜材料121の加熱状態を制御することにより、適切かつ精度の高い成膜レートの制御を実現することが可能となる。この場合、例えば、加熱板123の温度を検出する温度検出部材をさらに配設してもよく、それにより、より精度の高い成膜レートの制御を実現することができる。
【0042】
また、図5に示すように、加熱板123による加熱では、この加熱板123に接触する成膜材料121が表面から蒸発するので該表面の位置が順次降下するとともに、成膜材料121表面の降下に伴って、該表面に載置された加熱板123の配置位置も順次降下する。ここで、加熱板123に接触する成膜材料121の表面はほぼ均一に加熱されることから、成膜材料121の表面では、全体に渡って蒸発量がほぼ均一となり、よって、成膜材料121の表面はほぼ水平を保った状態で順次降下する。
【0043】
それゆえ、従来のように坩堝122の内壁からの距離に応じて蒸発状態が異なることはなく、よって、図5に示すように、坩堝122の内部に残留する成膜材料121の量を低減することが可能となる。したがって、成膜材料121の利用効率の向上が図られる。また、成膜材料121の表面が選択的に加熱されるので、従来のように坩堝122の内壁に過加熱により成膜材料121が焦げ付くのを防止することができ、成膜材料121の利用効率の向上が図られる。
【0044】
以上のように、本実施例の成膜方法によれば、成膜材料121全体をほぼ均一に加熱する必要がなく、成膜材料121の表面を選択的に加熱して成膜材料121を蒸発させるので、加熱に要する熱量を低減することが可能となる。また、成膜材料121の表面の加熱状態のみを制御することにより成膜材料121の蒸発量を調整することができるため、成膜レートを容易にかつ精度よく調整することが可能となる。したがって、図1の薄膜103の生産性が向上する。
【0045】
また、成膜材料121全体を均一に加熱する必要がないことから、坩堝122の底部からの成膜材料121の蒸発を抑制することが可能となり、よって、成膜材料121の巻き上げ等を防止することが可能となる。その結果、巻き上げ等に起因した図1の薄膜103への成膜材料121の混入および該混入物の剥離の発生を防止することが可能となり、よって、良好な膜質の薄膜103を成膜することが可能となる。
【0046】
また、成膜材料121の表面を選択的に加熱するので、坩堝122の内壁への成膜材料121の焦げ付きを防止することが可能となるとともに、坩堝122内に残留する成膜材料121の量の低減化が図られ、成膜材料121の有効利用率の向上が図られる。その結果、成膜コストの低減化が図られ、特に、有機材料を成膜材料121として用いる場合には、高価な有機EL材料を用いると、成膜コストの低減効果が有効に奏される。
【実施例2】
【0047】
図6は、本発明の実施例2における成膜方法において用いられる加熱板の構成を示す模式的な断面図である。図6に示すように、本実施例では、図3の成膜材料121と接触する加熱板123の表面が凹凸形状を有し、それ以外については、図4の実施例1の加熱板123と同様の構成を有する。かかる構成の本実施例の加熱板123では、表面の凹凸形状によって加熱板123と成膜材料121との接触面積が増加するため、成膜材料121への伝熱量の増加が図られる。それにより、成膜効率の向上を図ることができる。
【実施例3】
【0048】
図7は、本発明の実施例3における成膜方法において用いられる加熱板の構成を示す模式図である。図7に示すように、本実施例では、加熱板123がメッシュ状に構成されて貫通孔125が形成されている。かかる構成の加熱板123を用いて図2の成膜材料121の加熱を行う本実施例においても、実施例1と同様の効果が奏される。
【実施例4】
【0049】
図8は、本発明の実施例4における成膜方法において用いられる成膜源の構成を示す模式図である。実施例1では、図3に示すように、円筒形状の坩堝122と円板状の加熱板123によって成膜源102が構成されポイントソースとして用いられる場合について説明したが、本実施例では、図8に示すように、上端が開口した正方形箱型の坩堝122と、坩堝122内に収容可能に構成された正方形板状の加熱板123によって成膜源102が構成されてポイントソースとして用いられる。かかる構成の成膜源102を用いる本実施例においても、実施例1と同様の効果が奏される。
【実施例5】
【0050】
図9は、本発明の実施例5における成膜方法において用いられる成膜源の構成を示す模式図である。図9に示すように、本実施例では、上端が開口した長方形箱型の坩堝122と、坩堝122内に収容可能に構成された長方形板状の加熱板123によって成膜源102が構成されてラインソースとして用いられる。かかる構成の成膜源102を用いる本実施例においても、実施例1と同様の効果が奏される。
【実施例6】
【0051】
図10は、本発明の実施例6における成膜方法において用いられる成膜源の構成を示す模式図である。図10に示すように、本実施例では、大面積を有する長方形状の底面を有する上端が開口した容量の大きな箱形の坩堝122と、坩堝122内に収容可能に構成された長方形板状の加熱板123によって成膜源102が構成されてエリアソースとして用いられる。かかる構成の成膜源を用いる本実施例においても、実施例1と同様の効果が奏される。
【0052】
本実施例のようにエリアソースとして用いられる成膜源102は、大面積基板への成膜に用いられる。ここで、従来の成膜方法では、特に大面積基板への成膜において、成膜レート制御、成膜材料121の焦げ付きや残留が大きな問題となるが、本実施例では、大面積基板への成膜であっても実施例1と同様の効果が奏される。したがって、本発明の効果がより有効に奏される。
【0053】
なお、ここでは大面積を有する加熱板123を一枚配置する場合について説明したが、坩堝122内に複数枚の加熱板123を配置する構成であってもよい。かかる構成においても、上記と同様の効果が奏される。
【実施例7】
【0054】
図11は、本発明の実施例7における成膜方法を説明するための模式図である。図11に示すように、本実施例では、図1の成膜室100内に複数の成膜源102が配置され、これらの成膜源102を同時に用いて蒸着を行い、同一の基板101に成膜が行われる。各成膜源102の構成は、実施例1の図2の成膜源102の構成と同様である。
【0055】
かかる構成では、実施例1において前述したように、各成膜源102において、成膜レートの制御を容易にかつ精度よく実施することが可能となる。それゆえ、全体として成膜レートの制御を容易にかつ精度よく実施することが可能となり、それゆえ、複数の成膜源102を用いる本実施例においても、実施例1と同様の効果が奏される。このような本実施例の構成は、特に、大面積の基板への成膜に有効である。すなわち、各成膜源102を並べて成膜することにより、上記の実施例5に記載のラインソースや上記の実施例6に記載のエリアソースの場合と同様の効果を得ることが可能である。
【0056】
なお、上記においては、各成膜源102に対して別個に直流電源124が配設される場合について説明したが、各成膜源102に対して共通の直流電源124が配設された構成であってもよい。
【実施例8】
【0057】
図12は、本発明の実施例8における成膜方法において用いられる成膜源の構成を示す模式的な断面図である。実施例1では、図2に示すように加熱板123がヒータ126を用いた抵抗加熱により加熱される場合について説明したが、本実施例では、図12に示すように、加熱板1203が誘導加熱により加熱される。以下、本実施例の詳細を説明する。
【0058】
本実施例の成膜源1200は、坩堝1202と、坩堝1202の内部に収容可能に構成された加熱板1203と、坩堝1202の外周に配設された磁界発生装置1201とから構成される。磁界発生装置1201は、例えば、電磁石等によって構成される。ここでは、坩堝1202の外周を取り囲むように巻回されたコイルによって磁界発生装置1201が構成される。
【0059】
加熱板1203の構成材料は、誘導加熱が可能な磁性材料であれば特には限定されない。例えば、磁性ステンレスであるフェライト系ステンレス等で加熱板1203が構成されてもよい。加熱板1203の構成は、図4のヒータ126が配設されていない点を除いて、実施例1の加熱板123と同様の構成を有する。すなわち、加熱板1203には、所定の形状を有する複数の貫通孔125が所定のパターンで形成されている。
【0060】
一方、坩堝1202は、磁界発生装置1201による加熱板1203の誘導加熱に適用可能であり、かつ、誘導加熱時に坩堝1202自体はほとんど加熱されない材料によって構成されている。構成材料以外の坩堝1202の構成は、実施例1の図2の坩堝122と同様である。
【0061】
かかる構成の成膜源1200を用いた本実施例の成膜では、加熱板1203を磁界発生装置1201により誘導加熱する点が、図2のように加熱板123をヒータ126を用いて抵抗加熱する実施例1とは異なる。すなわち、本実施例では、まず、磁界発生装置1201により坩堝1202の外周に磁界を発生させ、この磁界を用いて、磁性体である加熱板1203を選択的に誘導加熱する。このようにして加熱され昇温された加熱板1203の熱は、加熱板1203と接触する成膜材料121の表面に伝達される。それにより、成膜材料121の表面が加熱され、実施例1の場合と同様、成膜材料121が蒸発して蒸着成膜が行われる。
【0062】
かかる構成の本実施例においても、実施例1と同様の効果が奏される。また、本実施例の構成に、実施例2〜7の特徴的構成を適用してもよい。また、上記においては、成膜材料121が誘導加熱により蒸発する場合について説明したが、誘導加熱により昇華する成膜材料121であってもよい。
【実施例9】
【0063】
図13は、本発明の実施例9における成膜方法において用いられる成膜源の構成を示す模式的な断面図である。本実施例では、図13に示すように、加熱板1302が誘電加熱により加熱される点が実施例1とは異なる。以下、本実施例の詳細を説明する。
【0064】
本実施例の成膜源1300は、坩堝1301と、坩堝1301の内部に収容可能に構成された加熱板1302と、この加熱板1302に高周波交流電界を与える高周波電源1303とから構成される。ここでは図示を省略しているが、高周波電源1303は、図1の成膜室100の外部に配設されており、成膜室100の底壁に形成された貫通孔(図1では図示せず)を介して延設された配線によって、成膜室100の内部に配設された加熱板1302に接続されている。
【0065】
加熱板1302の構成材料は、誘電体材料であれば特には限定されないが、加熱効率の点からは誘電率の高い材料が好ましい。加熱板1302は、図4のヒータ126が配設されていない点を除いて、実施例1の加熱板123と同様の構成を有する。すなわち、加熱板1302には、所定の形状を有する複数の貫通孔125が所定のパターンで形成されている。
【0066】
一方、坩堝1301は、加熱板1302の高周波誘電加熱に適用可能であり、かつ、坩堝1301自体は高周波誘電加熱されない構成を有する材料によって構成されている。構成材料以外の坩堝1301の構成は、実施例1の図2の坩堝122と同様である。
【0067】
かかる構成の成膜源1300を用いた本実施例の成膜では、加熱板1302を誘電加熱する点が、加熱板123をヒータ126を用いて抵抗加熱する図2の実施例1とは異なる。すなわち、本実施例では、まず、高周波電源1303を用いて高周波交流電界を加熱板1302に与え、この電界を用いて、誘電体材料から構成された加熱板1302を誘電加熱する。このようにして加熱され昇温された加熱板1302の熱は、加熱板1302と接触する成膜材料121の表面に伝達される。それにより、成膜材料121の表面が加熱され、実施例1の場合と同様、成膜材料121が蒸発して蒸着成膜が行われる。
【0068】
かかる本実施例においても、実施例1と同様の効果が奏される。また、本実施例の構成に、実施例2〜7の特徴的構成を適用してもよい。また、上記においては、成膜材料121が誘電加熱により蒸発する場合について説明したが、誘電加熱により昇華する成膜材料121であってもよい。
【0069】
上記の各実施例1〜9においては、図1に示すように、成膜材料収容部としての坩堝122から、直接、基板101に成膜を行う例を示したが、例えば、図1以外の構成として、成膜材料収容部上部に、蒸発流制御部を一体型または連結管等で連結した分離型の構成としてもよい。本発明の効果は、成膜材料収容部(ここでは坩堝122)から直接基板101に成膜する場合に限定されるものではなく、成膜材料収容部と基板101との間に蒸発流制御部等を配設しこれを介して基板101に成膜を行う場合においても奏される。
【0070】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2は、良好な品質を有する有機EL素子の製造方法を提供することを目的の一つとする。実施の形態2では、実施の形態1にかかる成膜源および成膜方法により作製される有機EL素子により構成された有機EL表示パネルの製造方法について説明する。以下、その具体例を、実施例10に示す。
【実施例10】
【0071】
図14は、実施例10における有機EL表示パネルの製造方法において用いられる成膜装置の概略構成を示す模式図である。また、図15は、図14の成膜装置により製造される有機EL表示パネルの構成を示す模式的な断面図である。ここでは、パッシブ駆動のボトムエミッション型の有機EL表示パネルの製造について説明する。
【0072】
有機EL表示パネルの製造工程は、図15の下部電極1502を形成して前処理基板を形成する前処理工程と、図15の有機層1500および上部電極1509を形成して素子構成基板を形成する成膜工程と、この素子構成基板を封止する封止工程とに大別される。そして、成膜工程および封止工程における種々の処理が、図14の成膜装置を用いて実施される。
【0073】
図14に示す成膜装置では、前処理工程を施された後述の前処理基板に、真空状態で成膜を行い素子構成基板を形成する成膜工程と、不活性ガス雰囲気で素子構成基板の封止を行う封止工程とが実施される。かかる成膜装置は、成膜工程が実施される第1ブロック1401および第2ブロック1402と、封止工程が実施される第3ブロック1403とを備えている。そして、第1〜第3の各ブロック1401〜1403が、搬送経路1404の搬入口1404aから搬出口1404bに向かって順次配設されている。
【0074】
第1〜第3の各ブロック1401〜1403は、搬送経路1404に連通する複数の処理室が搬送経路1404を囲むように配置された構成を有する。具体的に、第1ブロック1401は、処理室である4つの成膜室1405を備え、第2ブロック1402は、処理室である4つの成膜室1406を備えている。また、第3ブロック1403は、外部から封止基板を搬入可能に構成された封止基板搬送室1407と、検査室1408と、封止室1409と、パネル組立室1410とを処理室として備えている。このように、本実施例の成膜装置は、枚葉式の装置である。
【0075】
搬送経路1404には、搬入口1404aと第1ブロック1401との間に基板搬送室1404cが配設され、第1ブロック1401と第2ブロック1402との間および第2ブロック1402と第3ブロック1403との間に受渡室1404d,1404eが配設され、第3ブロック1403と搬出口1404bとの間に排出室1404fが配設されている。さらに、搬送経路1404を介して搬送される基板を各処理室(成膜室1405,1406、封止基板搬送室1407、検査室1408、封止室1409、パネル組立室1410)に分配可能に構成された搬送用ロボット1411が、第1〜第3ブロック1401〜1403の各々に配設されている。
【0076】
有機EL表示パネルの製造時には、まず、前処理工程として、ガラス基板等で構成された図15の支持基板1501に電極膜の成膜およびパターニングが行われて、図15の下部電極1502が形成される。そしてさらに、ここでは図示を省略しているが、下部電極1502からパネル外部に引き出された配線である補助電極が形成される。
【0077】
ここでは、下部電極1502が陽極を構成し、仕事関数の高い材料、例えば、ITO、IZO等の酸化金属膜等の透明導電膜によって構成される。なお、本実施例の有機EL表示パネルはボトムエミッション型であることから、下部電極1502は透明性を有する必要がある。
【0078】
下部電極1502は、支持基板1501上に、所定の間隔でストライプ状に複数本形成される。下部電極1502は、例えば、ITO、IZOにAgやAg合金、Al、Cr等の低抵抗金属を積層した2層構造であってもよく、また、Ag等の保護層としてCu、Cr、Ta等の耐酸化性の高い材料を積層した3層構造であってもよい。このような多層構造の下部電極1502を形成する際には、各層を構成する透明導電膜を順次成膜した後、パターニングを行う。
【0079】
図15に示すように、支持基板1501上に下部電極1502および補助電極(図示せず)を形成した後、下部電極1502間で露出した支持基板1501の表面に、絶縁膜1503を形成する。さらに、この絶縁膜1503上に、隔壁(図示せず)を形成する。ここでは、後述の上部電極1509と下部電極1502とが交差する発光領域を囲むように、該発光領域を除いてポリイミド、SiN等から構成される絶縁膜1503が形成される。
【0080】
上記の前処理工程により、図15の支持基板1501上に下部電極1502、補助電極(図示せず)、絶縁膜1503、および隔壁(図示せず)が形成されてなる前処理基板が得られる。そして、この前処理基板は、さらに図14の成膜装置に送られて各処理が施される。具体的に、図14の第1ブロック1401および第2ブロック1402に搬送された前処理基板は、搬送用ロボット1411により、成膜室1405,1406に分配される。
【0081】
この成膜室1405,1406は、図1に示す成膜室100と同様の構成を有する。そして、図1の基板101のように成膜室1405,1406内に前処理基板が配設される。成膜室1405,1406では、前処理基板に、実施例1の成膜方法により、図15の有機層1500が形成される。ここでは、図15に示すように、有機層1500として、正孔注入層1504、正孔輸送層1505、発光層1506、電子輸送層1507、および電子注入層1508が順次形成される。
【0082】
正孔注入層1504、正孔輸送層1505、発光層1506、電子輸送層1507、および電子注入層1508は、従来使用されている高分子または低分子の有機材料によって構成される。ここでは、発光層1506における発光は、一重項励起状態から基底状態に戻る際の発光(蛍光)であってもよく、また、三重項励起状態から基底状態に戻る際の発光(りん光)であってもよい。発光の機構に応じて、発光材料が適宜選択される。
【0083】
図15に示すように、図14の第1および第2ブロック1401,1402の成膜室1405,1406に搬送された前処理基板の表面全体に、まず、実施例1の成膜方法により、正孔注入層1504が形成される。そして、この正孔注入層1504上に、さらに、実施例1の成膜方法により、正孔輸送層1505が形成される。
【0084】
上記のようにして形成された正孔注入層1505上に、さらに、実施例1の成膜方法により、発光層1506が形成される。ここで、発光層1506の形成時には、各画素領域に1510R,1510G,1510Bにおいて実現する発光色に応じて、発光層1506を、赤色(R)、緑色(G)および青色(B)に塗り分ける。すなわち、ここでは、発光色の異なる3種類の画素領域、すなわち赤色発光する画素領域1510Rと、緑色発光する画素領域1510Gと、青色発光する画素領域1510Bを隣接して形成するため、画素領域1510Rには赤色発光材料からなる発光層1506Rを形成し、画素領域1510Gには緑色発光材料からなる発光層1506Gを形成し、画素領域1510Bには青色発光材料からなる発光層1506Bを形成する。
【0085】
このような画素領域1510R,1510G,1510Bごとの発光層1506R,1506G,1506Bの塗り分けは、各発光層1506R,1506G,1506Bの成膜時に使用する図1の成膜用マスク105のマスクパターンを適宜選択することにより、容易に実施することが可能である。例えば、画素領域1510Rに選択的に赤色の発光層1506Rを形成する際には、画素領域1510Rに対向する領域のみに開口を有する成膜用マスク105を使用して成膜を行う。それにより、画素領域1510Rでは、開口を透過して赤色発光材料が正孔輸送層1505上に蒸着され、赤色の発光層1506Rが形成される。
【0086】
この時、開口が形成されていないため成膜用マスク105によって図1の蒸発流106が遮られる画素領域1510G,1510Bでは、成膜用マスク105の表面に赤色発光材料が蒸着して堆積するので、成膜用マスク105の除去とともにリフトオフされる。したがって、画素領域1510Rのみに選択的に赤色発光する発光層1506Rを形成することが可能となる。
【0087】
上記と同様、画素領域1510Gに緑色発光する発光層1506Gを形成する際には、画素領域1510Gの対向領域に開口を有する図1の成膜用マスク105を使用し、また、青色発光する画素領域1510Bに青色発光する発光層1506Bを形成する際には、画素領域1510Bの対向領域に開口を有する図1の成膜用マスク105を使用する。また、本実施例では、赤色、緑色、および青色の各発光層1506R,1506G,1506Bを形成する際に、2回以上繰り返し成膜を行い、各画素領域1510R,1510G,1510Bの各発光層1506R,1506G,1506Bにおける未成膜を防止している。
【0088】
このようにして各画素領域1510R,1510G,1510Bの各発光層1506R,1506G,1506Bを形成した後、図15に示すように、各画素領域1510R,1510G,1510Bの表面全体に、実施例1の成膜方法により、電子輸送層1507を形成する。そして、さらにこの電子輸送層1507上に、電子注入層1508を実施例1の成膜方法により形成する。続いて、電子注入層1507の表面に、下部電極1502と直交するストライプ状の上部電極1509を、所定の間隔で複数本形成する。
【0089】
ここでは、上部電極1509が陰極を構成する。上部電極1509は、仕事関数の低い材料で構成するのが好ましく、例えば、アルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Cs)、アルカリ土類金属(Be、Mg、Ca、Sr、Ba)、希土類金属等の金属やその化合物、またはそれらを含む合金からなる金属薄膜から構成される。この場合、上部電極1509は反射膜としての機能も有しており、それにより、支持基板1501側から光の取り出しを行うボトムエミッション型の有機EL表示パネルが実現される。
【0090】
上部電極1509の形成時には、まず、実施例1の成膜方法により、電子注入層1508の表面全体に金属薄膜を形成し、その後、フォトリソグラフィー法等により、金属薄膜を所定の形状にパターニングして上部電極1509を形成する。このようなパターンで上部電極1509を形成することにより、下部電極1502と上部電極1509との交差部が各画素領域1510R,1510G,1510Bに相当し、各画素領域1510R,1510G,1510Bが発光可能な構成、すなわち、複数の画素領域1510R,1510G,1510Bがマトリクス状に配置されたパッシブ駆動の有機EL表示パネルを実現することができる。
【0091】
上部電極1509を形成した後、下部電極1502の場合と同様、上部電極1509からパネル外部に引き出された配線を形成して補助電極(図15では図示せず)を形成する。補助電極の形成時には、上部電極1509の場合と同様、まず、実施例1の成膜方法により、有機層1500および上部電極1509を形成した前処理基板の表面全体に導電膜を成膜し、その後、フォトリソグラフィー法等により、この導電膜のパターニングを行う。
【0092】
以上のようにして、図14の成膜装置の第1および第2ブロック1401,1402において成膜工程が行われ、前述の前処理工程において得られた前処理基板上に、図15に示すように、正孔注入層1504、正孔輸送層1505、発光層1506、電子輸送層1507、電子注入層1508、上部電極1509、および補助電極(図示せず)が形成される。ここでは、このように第1および第2ブロック1401,1402における処理により得られたかかる構成の基板を、素子構成基板と呼ぶ。この素子構成基板は、さらに、図14の搬送経路1404の受渡室1404eを介して、第3ブロック1403の封止室1409に搬送される。
【0093】
図14に示すように、成膜装置の第3ブロック1403は、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気に保持されている。この第3ブロック1403の封止基板搬送室1407には、ガラス製、金属製、プラスチック製等の平板からなる封止基板が外部から搬入される。封止基板搬送室1407に搬入された封止基板(図示せず)は、搬送用ロボット1411により、封止室1409に搬送される。そして、封止室1409において、封止基板の端部の所定領域に、紫外線硬化型エポキシ樹脂製の接着剤(図示せず)をディスペンサー等(図示せず)を用いて塗布する。この接着剤には、1〜300μmの粒径を有するガラスやプラスチック等のスペーサが適量(例えば、0.1〜0.5重量%程度)混合されている。
【0094】
続いて、この接着剤が塗布された封止基板(図示せず)を、前述のように封止室1409に搬送された素子構成基板(図示せず)に接着剤(図示せず)を介して当接させるとともに、紫外線を封止基板側または素子構成基板の支持基板1501(図15参照)側から照射して接着剤を硬化させる。このようにして、封止基板と素子構成基板とが貼り合わされ、不活性ガスを封入させた状態で封止が行われる。なお、接着剤は、上記以外に、熱硬化型、化学硬化型、光硬化型等の接着剤を適宜選択して使用することができ、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリオレフィン等の接着剤を使用してもよい。
【0095】
上記のようにして封止基板で封止された素子構成基板は、図14に示すように、搬送用ロボット1411により、さらにパネル組立室1410および検査室1408に搬送される。パネル組立室1410では、TABの圧着や、円偏光板の貼付等の処理が行われる。また、検査室1408では、点灯検査やモジュール検査等が実施される。このようにパネル組立室1410および検査室1408で各処理を施され、有機EL表示パネル(図示せず)が作製される。そして、有機EL表示パネルは、第3ブロック1403から搬送経路1404の排出室1404fに搬送された後、成膜装置の外部に搬出される。以上のようにして、成膜装置により、有機EL表示パネルの製造が実施される。
【0096】
以上のように、本実施例の有機EL表示パネルの製造方法によれば、図15に示す上部電極1509、補助電極(図示せず)、正孔注入層1504、正孔輸送層1505、発光層1506、電子輸送層1507、および電子注入層1508を、上記実施例1の成膜方法により形成するため、これらの各構成要素において、良好な特性を実現することが可能となる。特に、正孔注入層1504、正孔輸送層1505、発光層1506、電子輸送層1507、および電子注入層1508において良好な特性が実現可能となることから、リーク電流の低減化等が図られた良好な品質の有機EL表示パネルを作製することが可能となる。
【0097】
また、実施例1において前述したように、成膜材料表面の加熱状態を制御することにより容易にかつ精度よく成膜材料の蒸発量を制御することが可能であり、よって、上記各構成要素の成膜時において、成膜レートを容易にかつ精度よく制御することが可能となる。したがって、良好な膜特性の膜を効率よく成膜することが可能となる。その結果、有機EL表示パネルの生産性の向上が図られる。
【0098】
さらに、実施例1において前述したように、成膜時に利用する成膜源の加熱に要する熱量を従来に比べて低減することができるとともに、成膜材料の焦げ付きや残留を低減して成膜材料の有効利用の促進が図られるので、有機EL表示パネルの製造コストの低減化が図られる。特に、正孔注入層1504、正孔輸送層1505、発光層1506、電子輸送層1507、および電子注入層1508を成膜する際の成膜材料として用いる有機材料は高価であることから、本実施例によれば、コストの低減効果が有効に奏される。
【0099】
なお、上記においては、成膜装置において実施例1の成膜方法を適用する場合について説明したが、成膜装置では、実施例2〜実施例9の成膜方法のいずれを適用してもよく、実施例1〜実施例9の成膜方法を適宜組み合わせて適用することも可能である。これらの場合においても、上記と同様の効果が奏される。
【0100】
また、上記においては、図15の上部電極1509、補助電極(図示せず)、正孔注入層1504、正孔輸送層1505、発光層1506、電子輸送層1507、および電子注入層1508を、全て本発明にかかる成膜方法により成膜する場合について説明したが、本発明にかかる成膜方法と従来のスパッタ法等を組み合わせて適用してもよい。例えば、上部電極1509および補助電極(図示せず)を、スパッタ法により形成してもよい。
【0101】
また、コスト低減化の点からは、正孔注入層1504、正孔輸送層1505、発光層1506、電子輸送層1507、および電子注入層1508を全て本発明にかかる成膜方法により形成することが好ましいが、本発明にかかる成膜方法と、従来の方法、例えば、スピンコーティング法やディッピング法等の塗布法、スクリーン印刷法、インクジェット法等の印刷法等のウェットプロセス、または、レーザ転写法等のドライプロセスと、を組み合わせて成膜を行ってもよい。
【0102】
また、上記においては平板の封止基板を用いているが、ブレス成形やエッチングやブラスト処理等の加工による一段掘り込みや二段掘り込みによって封止面が凹状に形成された封止基板であってもよい。また、封止基板の代わりに、封止膜を形成することにより封止を行ってもよい。このような封止膜は、単層膜であってもよく、また、多層膜であってもよい。封止膜を構成する材料は、無機物および有機物のいずれでもよく、無機物としては、例えば、SiN、AlN、GaN等の窒化物、SiO2、Al23、Ta25、ZnO、GeO等の酸化物、SiON等の酸化窒化物、SiCN等の炭化窒化物、金属フッ素化合物、金属膜等が用いられ、また、有機物としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリパラキシレン、パーフルオロオレフィン、パーフルオロエーテル等のフッ素系高分子、CH3OM、C25OM等の金属アルコキシド、ポリイミド前駆体、ペリレン系化合物等が用いられる。封止膜の層構成や材料の選択は、パネル設計に応じて適宜選択される。
【0103】
また、上記においては図15の発光層1506を画素領域1510R,1510G,1510Bごとに塗り分けてフルカラー表示を実現する有機EL表示パネルについて説明したが、白色や青色等の単色発光の発光層1506を備え、各画素領域1510R,1510G,1510Bごとに赤色、緑色、青色の所定のカラーフィルタが配設されてフルカラー表示を実現するカラーフィルタ方式の有機EL表示パネルであってもよい。
【0104】
また、白色や青色等の単色発光の発光層1506と蛍光材料による色変換層とを組み合わせたカラーマッチング方式によりフルカラー表示を実現する有機EL表示パネルであってもよい。さらに、単色の発光層1506の発光領域に電磁波照射等の処理を施して複数の発光色を実現するフォトブリーチング方式や、発光色が異なる発光層1506を有する複数の有機EL素子を積層して一つの画素領域を形成するSOLED(transparent Stacked OLED)方式の有機EL表示パネルであってもよい。
【0105】
また、上記においてはパッシブ駆動の有機EL表示パネルについて説明したが、TFTにより駆動するアクティブ駆動の有機EL表示パネルの製造において、本発明にかかる製造方法を適用してもよい。また、上記においてはボトムエミッション型の有機EL表示パネルに本発明にかかる製造方法を適用する場合について説明したが、トップエミッション型の有機EL表示パネルの製造に本発明の製造方法を適用してもよい。トップエミッション型の有機EL表示パネルでは、例えば、図15の支持基板1501の裏面に反射膜を形成するとともに、透明導電膜で構成された上部電極1509を形成する。
【0106】
また、有機EL表示パネルにおける有機層の構成は、図15の有機層1500の構成に限定されるものではなく、例えば、発光層1506、正孔輸送層1505、および電子輸送層1507は、単層構成でなく多層構成であってもよい。また、正孔輸送層1505および電子輸送層1507のいずれかを省略してもよく、あるいは両方を省略してもよい。また、キャリアブロック層等の有機層を、用途に応じて挿入してもよい。
【0107】
また、本実施例で用いる成膜装置の構成は、図14に限定されるものではなく、例えば、成膜室の配置数や配置位置がこれ以外の構成であってもよい。さらに、ここでは枚葉式(クラスター型)の成膜装置を例示したが、インライン式の成膜装置であってもよい。
【0108】
さらに、本発明にかかる製造方法により製造された有機EL素子は、表示パネル以外の用途でも使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明の実施例1における成膜方法を説明するための模式図である。
【図2】図1の成膜源の構成を示す模式的な斜視図である。
【図3】図2のIII−III’線における模式的な断面図である。
【図4】図2および図3の成膜源の加熱板の構成を示す模式的な斜視図である。
【図5】成膜材料の蒸発が進んだ状態の成膜源を示す模式的な断面図である。
【図6】本発明の実施例2における成膜方法において用いられる加熱板の構成を示す模式的な断面図である。
【図7】本発明の実施例3における成膜方法において用いられる加熱板の構成を示す模式図である。
【図8】本発明の実施例4における成膜方法において用いられる成膜源の構成を示す模式図である。
【図9】本発明の実施例5における成膜方法において用いられる成膜源の構成を示す模式図である。
【図10】本発明の実施例6における成膜方法において用いられる成膜源の構成を示す模式図である。
【図11】本発明の実施例7における成膜方法を説明するための模式図である。
【図12】本発明の実施例8における成膜方法において用いられる成膜源の構成を示す模式的な断面図である。
【図13】本発明の実施例9における成膜方法において用いられる成膜源の構成を示す模式的な断面図である。
【図14】本発明の実施例10における有機EL表示パネルの製造方法において用いられる成膜装置の概略構成を示す模式図である。
【図15】図14の成膜装置により製造される有機EL表示パネルの構成を示す模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0110】
100 成膜室
101 基板
102,1200,1300 成膜源
103 薄膜
104 真空ポンプ
105 成膜用マスク
106 蒸発流
107 膜厚モニタ
121 成膜材料
122,1202,1301 坩堝
123,1203,1302 加熱板
124 直流電源
125 貫通孔
126 ヒータ
1201 磁界発生装置
1303 高周波電源
1501 支持基板
1502 下部電極
1503 絶縁膜
1504 正孔注入層
1505 正孔輸送層
1506 発光層
1507 電子輸送層
1508 電子注入層
1509 上部電極
1510R,1510G,1510B 画素領域


【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜材料を収容する成膜材料収容部と、
前記成膜材料収容部に収容された前記成膜材料の表面に配置されて発熱するとともに、前記成膜材料の表面に連通する貫通孔を有する加熱体と、
を備えたことを特徴とする成膜源。
【請求項2】
前記加熱体を発熱させる熱供給部をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の成膜源。
【請求項3】
貫通孔を有し発熱する加熱体を、成膜材料収容部に収容された成膜材料の表面に前記貫通孔を連通させて前記成膜材料の表面に配置し、前記加熱体により前記成膜材料の表面を選択的に加熱することを特徴とする成膜方法。
【請求項4】
前記成膜材料収容部は、前記成膜材料を収容する容器が複数配置された構成を有し、前記容器の各々に収容された前記成膜材料の表面に前記加熱体がそれぞれ配置され、
前記加熱体の前記発熱により、前記容器の各々において、前記容器に収容された前記成膜材料の表面から前記成膜材料を蒸発または昇華させ、前記蒸発または昇華した成膜材料を同一の基板の表面に堆積させることを特徴とする請求項3に記載の成膜方法。
【請求項5】
蒸着成膜における成膜材料の蒸発または昇華に用いられる加熱板であって、
一対の主面を貫通する貫通孔を少なくとも一つ有するとともに発熱可能な構成を有し、 成膜時には、容器に収容された成膜材料の表面に一方の前記主面を接触させて配置され、前記成膜材料の表面を選択的に加熱することを特徴とする加熱板。
【請求項6】
対向する一対の電極間に少なくとも発光層を含む複数の有機層が形成された有機EL素子の製造方法であって、
前記有機層の形成時に、貫通孔を有し発熱する加熱体を、成膜材料収容部に収容された有機材料の表面に前記貫通孔を連通させて前記有機化材料の表面に配置し、前記成膜材料収容部に収容された前記有機材料の表面を前記加熱体により選択的に加熱して有機材料を蒸着させることを特徴とする有機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−2218(P2006−2218A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−180231(P2004−180231)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000221926)東北パイオニア株式会社 (474)
【Fターム(参考)】