説明

成膜源、成膜装置

【課題】有機材料を変質させることなく、少量ずつ蒸発させられる技術を提供する。
【解決手段】タンク室60内部に配置された粉体の有機材料63を蒸発室20aの内部に移動させ、蒸発室20aの内部で有機材料蒸気を発生させる際に、有機材料63が通過する接続管40内に加熱したシールドガスを導入し、有機材料をシールドガスと共に蒸発室20a内に移動させる。接続管40と蒸発室20aの間の接続部分を小孔42に形成しておき、小孔42からシールドガスを噴出させると蒸発室20a内で発生した有機材料蒸気が接続管40の内部に侵入することがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機薄膜を形成する技術に関し、特に、有機薄膜を形成するための有機材料蒸気を発生する成膜源と、その成膜源を有する成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は近年最も注目される表示素子の一つであり、高輝度で応答速度が速いという優れた特性を有している。
有機EL素子を用いたカラーの表示パネルは、ガラス基板上に赤、緑、青の三色の異なる色で発色する発光領域が配置されている。発光領域は、金属薄膜のアノード電極膜と、有機薄膜のホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層と、金属薄膜の電子注入層及びカソード電極膜とがこの順序で積層されて構成されており、発光層中に添加されている発色剤によって、赤、緑、青、又は補助的な黄色に発色するようになっている。
【0003】
このような有機薄膜を形成するためには、従来では、図4に示すように、多量の有機材料200が配置された蒸気発生源212を真空槽211の内部に配置しておき、蒸気発生源212を加熱して、蒸気発生源212に設けられた多数の小孔224から有機材料200の蒸気を放出させ、真空槽211の内部に搬入された成膜対象物205に次々薄膜を形成するようにしていた。
【0004】
このような蒸気発生源212では、有機材料200が長時間加熱されたままになるため、劣化や変質が起こり、成膜対象物205に形成される有機薄膜の品質を維持することができない。
なお、気体を用いる蒸気発生源には、例えば下記文献に記載されたようなものがある。
【特許文献1】特表2001−523768号公報
【特許文献2】特表2004−510058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、有機材料を変質させることなく、少量ずつ蒸発させられる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、粉体の有機材料が配置されるタンク室と、
前記有機材料を蒸発させる蒸発室と、前記タンク室と前記蒸発室とを接続し、前記タンク室内の前記有機材料が前記蒸発室の内部に移動する際に前記有機材料が通過する接続管と、前記タンク室内から前記接続管内に亘って挿入された供給軸と、前記供給軸の周囲に配置され、上端が前記タンク室内に位置し、下端が前記接続管内に位置する螺旋と前記螺旋の下端は前記蒸発室とは離間して配置され、前記接続管の下端は先窄まりの漏斗部に形成され、前記回転軸が回転すると、前記タンク室内の前記有機材料は前記螺旋の溝を通って下方に移動され、前記漏斗部の下端の小孔から前記蒸発室内に落下するように構成された成膜源である。
また、本発明は、前記接続管の壁面には、前記供給軸の下端よりも前記蒸発室に近い位置に、前記接続管の内部にシールドガスを導入するガス導入孔が設けられた成膜源である。
また、本発明は、前記接続管に導入される前記シールドガスを加熱するガス加熱装置を有する成膜源である。
また、本発明は、前記蒸発室の内部に配置され、水平方向に対して傾斜された蒸発面が設けられた蒸発体と、前記蒸発体を前記有機材料の蒸発温度以上の温度に加熱する蒸発体加熱装置とを有し、前記タンク室から前記接続管を通って移動された前記有機材料は、前記蒸発面上に落下するように構成された成膜源である。
また、本発明は、前記蒸発面上には、突起が設けられた成膜源である。
また、本発明は、上記いずれかの成膜源と、前記蒸発室に接続され、前記蒸発室から供給された有機材料蒸気を真空雰囲気中に放出する放出装置とを有する成膜装置である。
【0007】
本発明は上記のように構成されており、タンク室の内部の有機材料は、供給軸がその中心軸線回りに回転すると、螺旋の溝を通って下方に移動する。
タンク室、接続管、蒸発室内を真空排気しながら、タンク室内の有機材料を少量ずつ蒸発室内に移動させる際に、有機材料が通過する接続管の内部にシールドガスを供給し、先窄まりの漏斗部から、シールドガスと共に有機材料を蒸発室内に導入する。
【0008】
漏斗部の先端から噴出されるシールドガスのガス流によって、蒸発室内で発生した有機材料蒸気は接続管の内部に侵入できず、接続管やタンク室の内部が低温でも、それらの表面に有機材料が析出しないようになっている。
蒸発室内で有機材料が析出しないように、蒸発室の内部表面は有機材料の蒸発温度よりも高い温度に昇温されている。
蒸発室の内部には、水平方向から90°未満の角度で傾斜された蒸発面を有する蒸発体が配置されており、蒸発室内に移動した有機材料は蒸発面上に落下し、蒸発面上を滑り落ちる間に蒸発するようになっている。
【発明の効果】
【0009】
螺旋の下端が、蒸発室と離間しているので、蒸発室に供給される前の有機材料が、変質温度以上に加熱されず、材料の変質や、溶解による螺旋のつまりを防止できる。また、蒸発室内で生成された有機材料蒸気がタンク室内に侵入しないので、タンク室内の有機材料が固まることがなく、有機材料を少量ずつ確実に落下させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1の符号10は本発明の成膜装置を示している。
この成膜装置は真空槽11を有している。
真空槽11の内部には放出装置80と、成膜源12が配置されている。
成膜源12は、図2に示すように、蒸発装置20とタンク室60を有している。
蒸発装置20は蒸発槽21を有しており、タンク室60はタンク容器61を有している。
タンク容器61は蒸発槽21の上方に配置されており、タンク容器61と蒸発槽21の間には、接続管40が配置されている。
【0011】
接続管40はパイプ部41と漏斗部45を有しており、漏斗部45はパイプ部41の下端に配置されている。漏斗部45は先窄まりの下端が下方に向けられ、上端が上方に向けられている。漏斗部45の上端はパイプ部41の下端に接続され、漏斗部45の下端には小孔42が形成されている。
【0012】
蒸発槽21の天井には開孔22が形成され、漏斗部45の下端は開孔22に接続されている。後述するように、蒸発槽21の内部は蒸発室20aとガス加熱室20bに区分けされており、小孔42は蒸発室20aに位置している。
【0013】
タンク容器61の底面には導入孔62が形成されており、パイプ部41の上端は導入孔62に接続され、タンク容器61の内部とパイプ部41の内部は導入孔62によって連通されており、従って、タンク容器61の内部空間と蒸発槽21の内部空間は接続管40によって連通されている。
【0014】
放出装置80は、中空の放出容器81を有している。放出容器81の底面には複数の放出孔85が形成されており、放出容器81の内部空間は放出孔85によって真空槽11の内部空間と連通されている。
放出容器81は、蒸気供給管17によって蒸発槽21に接続されており、放出容器81の内部空間と蒸発槽21の内部空間は蒸気供給管17によって連通されている。
【0015】
真空槽11には真空排気系19が接続されており、真空排気系19によって真空槽11の内部は真空排気されており、放出容器81の内部は放出孔85を介して真空排気されている。
蒸気供給管17には開閉バルブ(不図示)が設けられており、開閉バルブを開状態にして放出容器81と蒸発槽21とを連通させると、蒸発槽21と、接続管40と、タンク容器61の内部空間は、放出容器81を介して真空排気される。
タンク容器61の上部には蓋部64が配置され、タンク容器61は蓋部64によって蓋がされ、タンク容器61内に大気が侵入しないようにされている。
【0016】
蒸発槽21と接続管40とタンク容器61との間の接続も気密にされている。
蒸発槽21と接続管40は真空槽11の内部に配置され、タンク室61の蓋部64が大気と接触されている。タンク室61と真空槽11の間も気密に接続されており、真空槽11が真空排気された状態では、蒸発槽21、接続管40、タンク容器61には大気は侵入せず、内部はそれぞれ真空雰囲気に置かれるように構成されている。
【0017】
なお、真空排気系19を蒸発槽21やタンク容器61に接続し、それぞれ真空排気系19によって真空排気してもよいし、真空槽11に接続された真空排気系19とは別の真空排気系を蒸発槽21やタンク容器61に接続し、真空槽11とは別に真空排気してもよい。
【0018】
パイプ部41は断面が円形でありその内部には供給軸71が挿通されている。供給軸71の上部はタンク容器61の内部に突き出されており、下端74は漏斗部45よりも上方に位置している。
【0019】
供給軸71の側面には、突条と突条間の溝で構成された螺旋72が形成されている。
螺旋72の上端はタンク容器61の内部に位置し、下端は供給軸71の下端と同じ高さに位置している。
螺旋72の突条の外周はパイプ部41の内周面と接触するか、少なくとも用いる有機材料の平均粒径よりも大幅に近接するように形成されており、タンク容器61の内部に粉体(粒径0.5mm〜2.0mm)の有機材料を配置しても、有機材料は、螺旋72外周とパイプ部41の間から落下しないように構成されている。符号63は、タンク容器61の内部に配置された有機材料を示している。
【0020】
また、タンク容器61の底面は導入孔62に向けて傾斜が形成されており、タンク容器61内に配置された有機材料63は螺旋72の溝内に入り込むように構成されている。
螺旋72の傾斜は緩く形成されており、供給軸71が静止した状態では、タンク容器61内の有機材料は螺旋72の溝内を滑り落ちないようにされている。
【0021】
タンク容器61内は真空雰囲気に置かれており、タンク容器61内に収容された有機材料63は大気と接触せず、水分等による劣化が生じない。
供給軸71はモータ77が接続されており、モータ77により、供給軸71が中心軸線を中心に回転すると、タンク容器61内部の有機材料は螺旋72の溝内に入り込み、回転量に比例した移動量で下方に移動する。
【0022】
螺旋72の下端では、螺旋72の溝はパイプ部41の内部に開放されており、溝内を移動した有機材料は、螺旋72の下端から下方に落とされる。
従って、モータ77と、供給軸71と、螺旋72と、螺旋72の周囲のパイプ部41によって、タンク容器61内の有機材料を、タンク室60の内部から移動させる材料移動装置が構成されている。
【0023】
パイプ部41の太さは一定であり、漏斗部45は上部は広くパイプ部41と同じ大きさに形成されている。漏斗部45の下部は先窄まりに形成されており、下端には小孔42が形成されている。小孔42の大きさは1mmφ程度であり、パイプ部41の大きさは6mmφ程度であり、小孔42はパイプ部41よりも小さい。
【0024】
漏斗部45の下端は蒸発槽21の開孔22に挿入されており、螺旋72の溝内から落とされた有機材料は、パイプ部41の供給軸71の下端74よりも下方の部分を通って漏斗部45の斜面上に落下し、斜面で集められて小孔42から蒸発槽21の内部に入る。
蒸発槽21の内部には隔壁板39が配置されており、蒸発槽21の内部は蒸発室20aとガス加熱室20bに二分されている。
【0025】
上述したように、蒸発室20aの天井には開孔22が形成されており、開孔22には漏斗部45の下端が接続され、漏斗部45の小孔42によって、蒸発室20aの内部と接続管40の内部が連通されている。
蒸発室20aの開孔22の下方位置には、蒸発体30が配置されている。
【0026】
蒸発体30は、水平方向に対して角度θ(0<θ<90°)傾斜された蒸発面35を有している。蒸発面35は、漏斗部45の小孔42の下方に位置しており、小孔42から蒸発室20a内に落とされた有機材料は蒸発面35上に落下し、有機材料が蒸発面35の広い範囲に散布されるようになっている。
【0027】
蒸発槽21の外周には、線状の蒸発体加熱装置32が密着して巻き回されている。蒸発体加熱装置32は抵抗発熱体であり、加熱電源34によって通電すると発熱し、蒸発槽21の天井、側面、底面が加熱される。蒸発槽21からの熱伝導と放射熱によって、蒸発体30が加熱される。蒸発体30の内部には中空部38が設けられ、熱容量が小さくされており、短時間で昇温する。
【0028】
有機材料が蒸発面35上に落下する前に、予め、蒸発体30は、蒸発面35が有機材料の蒸発温度以上の温度に昇温されるように加熱されており、有機材料が蒸発面35上に落下すると蒸発面35からの熱伝導によって加熱され、蒸発面35上を滑落又は転落しながら蒸発温度以上に昇温し、蒸発面35の下端に達する前に蒸発して有機材料蒸気が放出される。
【0029】
なお、蒸発体加熱装置32を発熱させると蒸発槽21からの熱伝導により、漏斗部45の下端は有機材料の蒸発温度に近い温度か、蒸発温度よりも高い温度に加熱されるが、有機材料の温度は低く、有機材料が漏斗部45の斜面と接触するのは短時間であり、有機材料は漏斗部35の斜面上では蒸発温度に達しないため、接続管40の内部で有機材料の蒸気が発生することはない。
【0030】
真空槽11の外部にはガス供給装置25が配置されており、ガス供給装置25は外部配管26によってガス加熱室20bに接続され、ガス供給装置25に蓄積されたシールドガス(ここではアルゴンガス)がガス加熱室20bに供給されるように構成されている。シールドガスは、アルゴンガスやキセノンガス等の希ガスが用いられる。
【0031】
ガス加熱室20bは、内部配管29によって、接続管40に接続されている。
ガス加熱室20bの内部には気体が通過可能な細孔を多数有するフィルタ装置28が配置されている。ガス供給装置25からガス加熱室20bにシールドガスを供給すると、ガス加熱室20b内に導入されたシールドガスはフィルタ装置28の細孔内を流れ、内部配管29を通過して接続管40の内部に導入される。
【0032】
蒸発体加熱装置32は蒸発室20aの周囲とガス加熱室20bの周囲に配置されており、蒸発体加熱装置32を発熱させると蒸発体30と共にフィルタ装置28も加熱され、昇温する。
従って、ガス加熱室20b内に導入されたシールドガスは、フィルタ装置28の細孔を通過する間に加熱され、昇温されたシールドガスが、接続管40の内部に導入される。
接続管40の内部に導入されるシールドガスの温度は、有機材料が変質する温度以下であることが好ましい。具体的には、接続管40の内部に導入されるシールドガスの温度は200℃以下である。
【0033】
符号47は、接続管40に形成されたガス導入孔を示しており、内部配管29は、このガス導入孔47に接続されている。
ガス導入孔47は、漏斗部45の下端の小孔42と供給軸71の下端74の間に位置しており、接続管40内に導入されたシールドガスは、小孔42と下端74の間に形成されたガス導入空間44に導入された後、小孔42から蒸発室20aの内部に噴出される。
【0034】
小孔42から加熱されたシールドガスが噴出されると、接続管40の内部から蒸発室20aの内部に向けて流れるシールドガス流が形成される。蒸発面35で発生した有機材料蒸気は、漏斗部45の小孔42方向に向かって上昇しても、このシールドガス流に押し戻され、小孔42を通過できない。
【0035】
従って、予め小孔42から加熱されたシールドガスを噴出させた状態で、タンク室60内部の有機材料63を、シールドガスと共に小孔42を通過させて蒸発室20aの内部に移動させて有機材料蒸気を発生させ、そして蒸発室20aの内部に有機材料蒸気が存する間はシールドガスを小孔42から噴出させておけば、有機材料蒸気が接続管40の内部に侵入することはない。
蒸発室20a内部の有機材料蒸気は、蒸気供給管17を通って放出装置80の放出容器81の内部に移動し、放出孔85から真空槽11の内部に放出される。
【0036】
図1に示すように、ここでは放出容器81の真下位置には基板ホルダ15が配置されており、基板ホルダ15上には成膜対象物の基板18が水平に配置されている。放出孔85は鉛直下方に向けられており、放出孔85から有機材料蒸気が放出されると、基板18の表面に散布される。放出孔85を上方に向け、成膜対象物を放出容器81の上方に配置してもよい。また、放出容器81を縦型とし、放出孔85を横方向に向け、縦に保持された基板に成膜してもよい。
【0037】
放出された有機材料蒸気が基板18の表面に到達すると、基板18の表面に有機材料の薄膜が成長する。放出容器81は、複数の管が櫛状に配置されており、基板18の概ね全面に蒸気を放出できるように配置されている。
【0038】
真空槽11内の圧力は、基板18と放出容器81の間の距離が、平均自由工程以下になるように制御される。具体的には、真空槽11内の圧力は、1×10-2〜1×10-6Paであることが好ましい。この範囲の圧力で成膜されると、基板18には一般的な真空蒸着により膜が成膜される。
【0039】
放出容器81の周囲にはヒータ88が配置され、ヒータ88によって加熱されており、放出容器81の内部が有機材料蒸気で充満しても、内部表面に有機材料蒸気が析出しないようにされている。
【0040】
なお、蒸発槽21の天井の内側表面には開孔22や小孔42を塞がないように補助発熱体23が配置され、天井には補助発熱体23が露出されている。
補助発熱体23内部にはヒータ線24が配置されており、ヒータ線24は加熱電源34からの通電によって発熱し、補助発熱体23を、蒸発槽21の内部表面の底面や側面の温度よりも高温に昇温させている。
【0041】
蒸発面35で発生した有機材料蒸気は天井側に向けて飛行し、補助発熱体23に衝突し、補助発熱体23から熱を奪うが、その熱はヒータ線24から供給されるから、補助発熱体23が有機材料の蒸発温度よりも低温になることはない。
また、補助発熱体23は、蒸発体30に面して配置されているため、補助発熱体23の温度を制御することにより、輻射により蒸発体30の温度を制御することができる。
【0042】
パイプ部41のうち、供給軸71の周囲に位置する部分には冷却装置(ここでは水冷パイプ)56が設けられており、その部分が冷却装置56によって冷却され、螺旋72の溝内に位置する有機材料が蒸発温度以上に昇温したり、劣化したりしないようにされている。また、有機材料が溶融する場合は螺旋72溝内の有機材料が溶融温度以上に昇温しないようにされている。具体的には、有機材料が変質しないように200℃以下にすることが好ましい。
【0043】
さらに、螺旋72の下端は蒸発槽21より上部に配置されている。螺旋72の下端と、蒸発槽21の間には空間44が形成されているので、蒸発槽21の温度が、螺旋72の下端に伝わるのを制御し、螺旋72の温度が上昇することを防いでいる。これにより、螺旋72の下端付近の有機材料の変質もしくは溶解を防ぐことができる。
【0044】
なお、パイプ部41の周囲のうち、供給軸71の下端74と漏斗部45の間に位置する部分には環状の金属ブロック54が装着されており、この部分では、冷却装置56は金属ブロック54に設けられている。
【0045】
接続管40の金属ブロック54が装着された部分は金属ブロック54を介して冷却され、冷却装置56が直接設けられた部分よりも温度が高くなるため、冷却装置56によって接続管40を冷却しても、接続管40の下端の温度が蒸発温度よりも低くならないようにされている。
【0046】
金属ブロック54と蒸発槽21の間にはセラミックス等の断熱材53が配置され、金属ブロック54は断熱材53によって蒸発槽21上に支持されており、蒸発槽21の熱は金属ブロック54には伝達されない。
【0047】
なお、図3に示すように、蒸発面35には、突起36が多数設けられている。突起36は、蒸発面35の頂上側に鋭角の刃が設けられ、蒸発面35の下端側が広げられている。従って、蒸発面35上に散布された有機材料が蒸発面35上を落下して突起36に接触すると、突起36によって有機材料の流れは二分され、有機材料が蒸発面35上に広く散布される。
その結果、有機材料と蒸発面35との間の接触面積が拡大されるため、有機材料の昇温速度が大きくなり、有機材料は蒸発面35の下端に到着する前に蒸発する。
【0048】
なお、上記実施例では、蒸発槽21を区分けしたガス加熱室20b内にフィルタ装置28を配置し、フィルタ装置28と蒸発体加熱装置32によってシールドガスを加熱するガス加熱装置を構成させたが、蒸発槽21の外部にフィルタ装置28を配置し、そのフィルタ装置28とフィルタ装置28を加熱する装置とでシールドガスを加熱するガス加熱装置を構成してもよい。
【0049】
フィルタ装置28は、多孔質SiC、網状SiCの積層体や金属製網の積層体、その他、気体が透過可能で高温に昇温されても分解したり、気体を放出しない材料で構成することができる。
【0050】
また、細孔内をシールドガスが流れるのではなく、長距離に敷設した細管を加熱しながらシールドガスを流し、シールドガスを加熱するようにしてもよい。
シールドガスについては、有機材料が変質したり化学変化しないガスを用いることができる。希ガスを一般的に用いることができる。
【0051】
接続管40の内部に導入されるシールドガスの温度は、有機材料が変質する温度以下であることが好ましい。具体的には、接続管40の内部に導入されるシールドガスの温度は200℃以下である。
【0052】
なお、上記実施例では抵抗発熱体によって蒸発体加熱装置32を構成させたが、蒸発体30やフィルタ装置28を電磁誘導によって誘導電流が流れる材料で構成し、蒸発槽21の外部に誘導加熱コイルを配置し、蒸発体30やフィルタ装置28が置かれた雰囲気に交番磁界を形成して誘導電流を流し、蒸発体30やフィルタ装置28を誘導加熱するようにしてもよい。
【0053】
また、上記実施例では、モータ77と、供給軸71と、螺旋72と、螺旋72の周囲のパイプ部41によって、タンク容器61の内部に配置された有機材料63を、タンク室60の内部から移動させる材料移動装置を構成させたが、タンク室60内の有機材料63を、接続管40を通過させて、蒸発室20a内に少量ずつ供給できる装置であればよく、加熱されたシールドガスは接続管40に導入されるようにすればよい。
【0054】
蒸発面35へ供給される有機材料の分量と、その有機材料によって成膜対象物18表面に形成される有機薄膜の膜厚の関係は予め求められている。有機材料の螺旋72からの単位時間当たりの落下量は、供給軸71の回転速度と比例しており、有機薄膜の膜厚と成膜時間が予め決められている場合、供給軸71の回転速度が求められる。
決められた成膜時間内では供給軸71を一定速度で回転させ、一定の成膜速度で有機薄膜を形成すると、有機薄膜の品質が安定する。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の成膜装置を説明するための図
【図2】本発明の成膜源を説明するための図
【図3】蒸発面を説明するための図
【図4】従来技術の成膜装置
【符号の説明】
【0056】
10……成膜装置
12……成膜源
20a……蒸発室
25……ガス供給装置
30……蒸発体
35……蒸発面
40……接続管
42……小孔
45……漏斗部
60……タンク室
63……有機材料
72……螺旋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体の有機材料が配置されるタンク室と、
前記有機材料を蒸発させる蒸発室と
前記タンク室と前記蒸発室とを接続し、前記タンク室内の前記有機材料が前記蒸発室の内部に移動する際に前記有機材料が通過する接続管と、
前記タンク室内から前記接続管内に亘って挿入された供給軸と、
前記供給軸の周囲に配置され、上端が前記タンク室内に位置し、下端が前記接続管内に位置する螺旋と
前記螺旋の下端は前記蒸発室とは離間して配置され、
前記接続管の下端は先窄まりの漏斗部に形成され、
前記回転軸が回転すると、前記タンク室内の前記有機材料は前記螺旋の溝を通って下方に移動され、前記漏斗部の下端の小孔から前記蒸発室内に落下するように構成された成膜源。
【請求項2】
前記接続管の壁面には、前記供給軸の下端よりも前記蒸発室に近い位置に、前記接続管の内部にシールドガスを導入するガス導入孔が設けられた請求項1記載の成膜源。
【請求項3】
前記接続管に導入される前記シールドガスを加熱するガス加熱装置を有する請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の成膜源。
【請求項4】
前記蒸発室の内部に配置され、水平方向に対して傾斜された蒸発面が設けられた蒸発体と、
前記蒸発体を前記有機材料の蒸発温度以上の温度に加熱する蒸発体加熱装置とを有し、
前記タンク室から前記接続管を通って移動された前記有機材料は、前記蒸発面上に落下するように構成された請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の成膜源。
【請求項5】
前記蒸発面上には、突起が設けられた請求項4記載の成膜源。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の成膜源と、
前記蒸発室に接続され、前記蒸発室から供給された有機材料蒸気を真空雰囲気中に放出する放出装置とを有する成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−161798(P2009−161798A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−340379(P2007−340379)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】