説明

成膜用塗布液および塗膜

【課題】密な塗膜を成膜することのできる成膜用塗布液およびかかる成膜用塗布液を用いて成膜された密な塗膜を提供すること。
【解決手段】 成膜用塗布液は、架橋型のシロキサン重合体と、鎖状のシロキサンオリゴマーとを有するバインダーと、前記バインダー中に分散したシリカ系微粒子とを有している。前記鎖状のシロキサンオリゴマーが前記シリカ系微粒子の表面にグラフト化しており、前記鎖状のシロキサンオリゴマーがグラフト化した前記シリカ系微粒子のゼータ電位の絶対値がpH5〜7において25ミリボルト以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜用塗布液および塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、メガネレンズ等のプラスチックレンズの表面に有機系の反射防止膜を形成する技術が広く知られている。また、有機系の反射防止膜を成膜するための塗布液として、例えば、特許文献1に記載の塗布液が知られている。
特許文献1に記載の塗布液は、次のようにして製造される。まず、フッ素原子を有する有機ケイ素化合物を有機溶剤で希釈し、さらに、そこにエポキシ基を有する有機ケイ素化合物を添加する。その後、必要に応じて水または薄い塩酸、酢酸等を添加して加水分解縮重合を行う。次に、平均粒径1〜150nmのシリカ系微粒子を有機溶剤中にコロイド状に分散した分散液を添加する。その後、必要に応じ、硬化触媒、光重合開始剤、酸発生剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などを添加し十分に撹拌する。以上のようにして塗布液が製造される。
しかしながら、本発明者らが、この塗布液を用いて成膜した反射防止膜について観察や試験を行ったところ、反射防止膜中でシリカ系微粒子が凝集していることを発見した。このようなシリカ系微粒子の凝集が生じると、密な塗膜を形成することが困難となり、耐水性、耐薬品性、耐熱性、耐傷性が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−102096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、密な塗膜を成膜することのできる成膜用塗布液およびかかる成膜用塗布液を用いて成膜された密な塗膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の成膜用塗布液は、架橋型のシロキサン重合体と、鎖状のシロキサンオリゴマーとを有するバインダーと、
前記バインダー中に分散したシリカ系微粒子とを有し、
前記鎖状のシロキサンオリゴマーが前記シリカ系微粒子の表面にグラフト化しており、
前記鎖状のシロキサンオリゴマーがグラフト化した前記シリカ系微粒子のゼータ電位の絶対値がpH5〜7において25ミリボルト以上であることを特徴とする。
これにより、シリカ系微粒子の凝集を効果的に防止でき、緻密な塗膜を成膜することのできる成膜用塗布液を提供することができる。
【0006】
本発明の成膜用塗布液では、前記シリカ系微粒子の平均粒径は、55nm以下であることが好ましい。
これにより、成膜された塗膜がより緻密となる。
本発明の成膜用塗布液では、前記バインダー中の前記架橋型のシロキサン重合体の含有量は、60〜80wt%であることが好ましい。
これにより、成膜された塗膜がより緻密となる。
【0007】
本発明の成膜用塗布液では、前記バインダーには、さらに、リニア型のシロキサン重合体が含まれていることが好ましい。
これにより、成膜された塗膜がより緻密となる。
本発明の成膜用塗布液では、前記バインダー中の前記リニア型のシロキサン重合体の含有量は、20〜30wt%であることが好ましい。
これにより、成膜された塗膜がより緻密となる。
【0008】
本発明の成膜用塗布液では、前記バインダーには、さらに、環状のシロキサンオリゴマーが含まれていることが好ましい。
これにより、成膜用塗布液が安定化する。
本発明の成膜用塗布液では、前記バインダー中の前記環状のシロキサンオリゴマーの含有量は、1〜15wt%であることが好ましい。
これにより、成膜用塗布液の安定化を図りつつ、成膜された塗膜の強度の低下を抑制することができる。
【0009】
本発明の成膜用塗布液では前記シリカ系微粒子は、中空シリカ粒子であることが好ましい。
これにより、より屈折率の低い塗膜を成膜することができる。
本発明の成膜用塗布液では、反射防止膜を成膜するための塗布液であることが好ましい。
これにより、成膜用塗布液によって、例えば、メガネレンズ等のレンズ(プラスチックレンズ)に形成される反射防止膜を成膜することができる。
【0010】
本発明の成膜用塗布液では、少なくとも下記一般式(1)で表されるシラン化合物および下記一般式(2)で表されるハロゲン化シランの少なくとも一方を含むシランカップリング剤に酸性加水分解触媒を加え、pH3.0〜5.0の環境下で前記シラン化合物および前記ハロゲン化シランの少なくとも一方を加水分解・縮重合することにより、鎖状のシロキサンオリゴマーを含有する液体Aを得る第1工程と、
前記第1工程で得られた前記液体Aにシリカ系微粒子を加え、pH5.0〜7.0の環境下で前記シロキサンオリゴマーを加水分解・縮重合する第2工程とにより得られることが好ましい。
SiZ4−(n+p)・・・・・・(1)
(式中、R、Rは、炭素数1〜16の有機基で少なくとも一方がエポキシ基を含む。Zは加水分解性基。n、pは、0〜2の整数であって1≦n+p≦3である。)
3−mSi−Y−SiR3−m・・・・・・(2)
(式中、Rは炭素数1〜6の一価炭化水素基。Yはフッ素原子を1個以上含有する二価有機基。Xは加水分解性基。mは1〜3の整数である。)
これにより、成膜用塗布液を簡単に製造することができる。
本発明の塗膜は、本発明の成膜用塗布液を用いて成膜されたことを特徴とする。
これにより、密な塗膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の好適な実施形態にかかる塗膜を示す模式的断面図である。
【図2】シリカゾルのpH値と反応速度との関係を示したグラフである。
【図3】実施例および比較例の塗膜の光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の成膜用塗布液および塗膜を添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の好適な実施形態にかかる塗膜を示す模式的断面図、図2は、シリカゾルのpH値と反応速度との関係を示したグラフ、図3は、実施例および比較例の塗膜の光学顕微鏡写真である。なお、以下では、説明の便宜上、図1中の上側を「上」と言い、下側を「下」と言う。
【0013】
1.成膜用塗布液
本発明の成膜用塗布液は、架橋型のシロキサン重合体と、鎖状のシロキサンオリゴマーとを含むバインダーと、このバインダー中に分散したシリカ系微粒子とを有しており、シリカ系微粒子の表面には、前記鎖状のシロキサンオリゴマーがグラフト化している。
シリカ系微粒子の表面に鎖状のシロキサンオリゴマーをグラフト化することにより、バインダーとシリカ系微粒子との親和性が高まるとともに、シリカ系微粒子の凝集を効果的に抑制することができ、これにより、シリカ系微粒子の分散性を高めることができる。そのため、このような構成の成膜用塗布液を用いて成膜した塗膜は、均質で緻密な膜となる。また、同時に、塗膜は、優れた密着性、膜強度、耐水性、耐薬品性、耐熱性および耐傷性を発揮することができる。
【0014】
[バインダー]
前述したように、バインダーには、架橋型のシロキサン重合体と、鎖状のシロキサンオリゴマーとが含まれている。また、この他、リニア型のシロキサン重合体と、環状のシロキサンオリゴマーが含まれていてもよい。
架橋型のシロキサン重合体の分子量(平均分子量)は、特に限定されないが、2500〜15000程度であるのが好ましく、5000〜9000程度であるのがより好ましい。このような数値範囲とすることにより、バインダー中でのシリカ系微粒子の分散性を高く維持するとともに、塗膜の強度を高めることができる。
【0015】
また、バインダー中における架橋型のシロキサン重合体の含有量は、特に限定されないが、60〜80wt%程度であるのが好ましく、70〜80wt%であるのがより好ましい。これにより、架橋型のシロキサン重合体の含有量が適度な量となり、上記効果がより顕著となる。
また、鎖状のシロキサンオリゴマーの分子量(平均分子量)としては、特に限定されないが、500〜5000程度であるのが好ましく、1250〜3250程度であるのがより好ましい。これにより、シリカ系微粒子の凝集を効果的に防止することができるとともに、シリカ系微粒子の分散性がより向上する。
【0016】
また、バインダー中における鎖状のシロキサンオリゴマーの含有量は、特に限定されないが、20〜30wt%程度であるのが好ましい。これにより、鎖状のシロキサンオリゴマーがシリカ系微粒子にグラフト化させるのに適した量となる。すなわち、シリカ系微粒子にグラフト化していな鎖状のシロキサンオリゴマーの発生を抑制でき、より緻密な塗膜を形成することができる。
また、鎖状のシロキサンオリゴマーの主鎖に含まれる珪素の数は、特に限定されないが、3つであるのが好ましい。これにより、上記効果がより顕著となる。
【0017】
また、リニア型のシロキサン重合体を含んでいると、このリニア型のシロキサン重合体が架橋型のシロキサン重合体同士の間や、架橋型のシロキサン重合体とシリカ系微粒子との間に入り込み、これにより、得られる塗膜がより緻密となる。
このようなリニア型のシロキサン重合体の分子量(平均分子量)としては、特に限定されないが、1000〜10000程度であるのが好ましく、2500〜6500程度であるのがより好ましい。これにより、架橋型のシロキサン重合体同士の間や、架橋型のシロキサン重合体とシリカ系微粒子との間に入り込み易くなり、より緻密な塗膜を形成することができる。
また、バインダー中におけるリニア型のシロキサン重合体の含有量は、特に限定されないが、5〜10wt%程度であるのが好ましい。これにより、リニア型のシロキサン重合体の含有量が適度な量となり、上記効果がより顕著となる。
【0018】
また、環状のシロキサンオリゴマーを含んでいると、他のバインダー成分との相乗効果により、成膜用塗布液が安定化する。環状のシロキサンオリゴマーの分子量(平均分子量)としては、特に限定されないが、900〜6000程度であるのが好ましい。
また、バインダー中における環状のシロキサンオリゴマーの含有量は、特に限定されないが、1〜15wt%程度であるのが好ましい。これにより、上記効果がより顕著となる。なお、環状のシロキサンオリゴマーの含有量が前記下限値未満の場合には、成膜用塗布液の安定性が低下するおそれがあり、反対に、上記上限値を超える場合には、得られる塗膜の耐久性が低下するおそれがある。
また、環状のシロキサンオリゴマーの環内に含まれる珪素は、3〜5つ程度であるのが好ましい。これにより、環内に形成され得る空気層の大きさをより小さくすることができるため、塗膜の耐久性の低下をより効果的に防止することができる。
【0019】
[シリカ系微粒子]
シリカ系微粒子としては、特に限定されないが、内部に空洞を有する中空シリカ粒子を用いるのが好ましい。中空シリカ粒子は、SiOで構成されている。このような中空シリカ粒子は、屈折率が低いため、塗膜1の屈折率を充分に低くすることができ、反射防止膜として好適に利用することができる。また、このような中空シリカ粒子は、コロイド領域の微粒子であり分散性に優れているので、シリカ系微粒子が凝集を効果的に防止または抑制することができる。
【0020】
シリカ系微粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、55nm以下であるのが好ましく、41nm以上、52nm以下程度であるのがより好ましい。このような数値範囲とすることにより、シリカ系微粒子が成膜用塗布液中で安定して存在することができる。なお、シリカ系微粒子の平均粒径が前記最大値を超えると、塗膜1の表面に不要な凹凸が多く形成され、前記塗膜のヘーズ値が高くなるおそれがある。
シリカ系微粒子の屈折率は、低い程よく、具体的には、1.40以下程度であるのが好ましく、1.35以下であるのがより好ましい。これにより、成膜用塗布液を用いて、より優れた反射防止性能を発揮することのできる塗膜を形成することができる。
【0021】
成膜用塗布液中のシリカ系微粒子の含有量は、特に限定されないが、成膜用塗布液を用いて成膜された塗膜中のシリカ系微粒子の含有量が固形分として5.0重量%以上、30.0重量%以下程度となる量が好ましく、10.0重量%以上、20.0重量%以下程度となる量がより好ましい。これにより、塗膜の反射率を低くすることができ、充分な反射防止性能を発揮することができる。
【0022】
このようなシリカ系微粒子の表面には、前述したように、鎖状のシロキサンオリゴマーがグラフト化している。これにより、シリカ系微粒子のバインダーや溶媒に対する親和性を高くすることができ、分散性を高めることができる。そのため、シリカ系微粒子の凝集を防止することができるとともに、シリカ系微粒子を成膜用塗布液中で均一に分散させることができる。したがって、このような成膜用塗布液を用いて成膜された塗膜は、密なものとなり、密着性、膜強度、耐擦傷性に優れたものとなる。
【0023】
ここで、本発明の成膜用塗布液では、鎖状のシロキサンオリゴマーが表面にグラフト化したシリカ系微粒子のpH5〜7でのゼータ電位の絶対値が、25ミリボルト以上である。このような数値範囲とすることにより、シリカ系微粒子が成膜用塗布液中で安定して存在することができる。そのため、前述のグラフト化との相乗効果により、シリカ系微粒子の凝集が効果的に防止され、このような成膜用塗布液を用いて成膜された塗膜は、緻密で、密着性、膜強度、耐擦傷性に優れたものとなる。
【0024】
2.塗膜
次に、前述した成膜用塗布液によって成膜された塗膜1について説明する。
図1に示すように、塗膜1は、例えば、メガネレンズ等のレンズ基板(プラスチックレンズ)100に形成され、反射防止性能を有する反射防止膜として用いられる。
レンズ基板100は、レンズ生地101と、レンズ生地101の表面に形成されたプライマー層102と、プライマー層102の表面に形成されたハードコート層103とを有しており、ハードコート層103の表面に塗膜1が形成されている。なお、レンズ基板100としては、これに限定されず、プライマー層102およびハードコート層103をそれぞれ省略してもよい。
【0025】
[レンズ基板100]
(レンズ生地101)
レンズ生地101としては、特に限定されず、各種プラスチックレンズを用いることができる。より具体的には、レンズ生地101としては、例えば、チオウレタン系プラスチックレンズ基板(セイコーエプソン(株)製、商品名「セイコースーパーソブリン生地」、屈折率1.67)を用いることができる。
【0026】
(プライマー層102)
プライマー層102は、レンズ生地101とハードコート層103との間に介在し、これらの密着性を向上させるための層である。このプライマー層102は、例えば、レンズ生地101とハードコート層103の双方に密着性を有する(A)成分と、プライマーの屈折率を発現するとともに、フィラーとしてプライマー層102の架橋密度向上に作用して、耐水性、耐候性の向上させるための(B)成分とを含む組成物をレンズ生地101上にコーティングすることで形成することができる。
【0027】
(A)成分としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂等の各種樹脂材料を用いることができる。一方、(B)成分としては、例えば、酸化チタンを含有する金属酸化物微粒子を用いることができ、その平均粒径は、例えば、1nm〜200nm程度である。
【0028】
(ハードコート層103)
ハードコート層103は、レンズ生地101の表面を保護するための層である。このようなハードコート層103としては、特に限定されないが、下記の(C)成分および(D)成分を含む組成物をプライマー層102上にコーティングすることで形成することができる。
【0029】
(C)成分としては、酸化チタンを含有する金属酸化物粒子を用いることができ、その平均粒径は、例えば、1nm〜200nm程度である。また、金属酸化物粒子に含まれる酸化チタンは、ルチル型の結晶構造を有しているのが好ましい。一方、(D)成分としては、一般式:RSiXで示される有機ケイ素化合物(式中、R1は重合可能な反応器を有する炭素数が2以上の有機基、X1は、加水分解基を表わす。)を用いることができる。
以上、レンズ基板100の一例について説明した。なお、レンズ基板100上に塗膜1を形成する前に、レンズ基板100に対してプラズマ処理(大気プラズマ)を施すのが好ましい。
【0030】
[塗膜1]
塗膜1は、レンズ基板100上に成膜等塗布液を塗布し、乾燥することにより得られる。成膜用塗布液を塗布する方法としては、特に限定されず、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法、スリットコーター法、転写法等の塗布方法を用いることができる。この中でも、スピンコート法を用いるのが好ましく、これにより、塗膜1の膜厚の均一性や低発塵性が優れたものとなる。
【0031】
塗膜1の厚さは、特に限定されないが、50nm以上、200nm以下程度であるのが好ましく、80nm以上、120nm以下程度であるのがより好ましく、100nm程度であるのがさらに好ましい。
また、塗膜1の熱膨張係数は、レンズ生地(基材)101の熱膨張係数とほぼ等しいのが好ましい。具体的には、レンズ生地101の熱膨張係数をAとしたとき、塗膜1の熱膨張係数は、0.9A〜1.1A程度であるのが好ましく、1.0Aであるのがより好ましい。これにより、塗膜1が形成されたレンズ基板100が昇温した際に、レンズ生地101および塗膜1が同程度膨張するため、塗膜1に不本意な応力が加わるのを抑制することができる。そのため、塗膜1の破損、具体的には、クラックの発生を効果的に防止または抑制することができる。
【0032】
また、塗膜1のヤング率は、レンズ生地101のヤング率よりも大きいことが好ましい。これにより、外力によってレンズ生地101が撓んだ際、塗膜1も、レンズ生地101の撓みに倣って容易に撓むことができるため、塗膜1に不本意な応力が加わるのを抑制することができる。そのため、塗膜1の破損、具体的には、クラックの発生を効果的に防止または抑制することができる。
また、塗膜1の屈折率としては、特に限定されないが、1.40以下であるのが好ましい。これにより、優れた反射防止性能を発揮することができる。
【0033】
3.成膜用塗布液の製造方法
次に、成膜用塗布液の製造方法について説明する。
成膜用塗布液の製造方法は、下記の第1工程と第2工程とを有している。
[第1工程]
第1工程は、下記一般式(1)で表されるシラン化合物と、下記一般式(2)で表わされるハロゲン化シランとを含むシランカップリング剤に酸性加水分解触媒を加え、pH3.0〜5.0の酸性環境化で、シラン化合物およびハロゲン化シランをそれぞれ加水分解・縮重合することにより、鎖状のシロキサンオリゴマーを含有する液体Aを得る工程である。
【0034】
SiZ4−(n+p)・・・・・・(1)
(式中、R、Rは、炭素数1〜16の有機基で少なくとも一方がエポキシ基を含む。Zは加水分解性基。n、pは、0〜2の整数であって、1≦n+p≦3である。)
3−mSi−Y−SiR3−m・・・・・・(2)
(式中、Rは、炭素数1〜6の炭化水素基を表し、Yは、フッ素原子を1個以上含有する二価の有機基を表し、Xは、加水分解性基を表す。また、mは、1〜3の整数である。)
【0035】
前記式(1)で表される化合物としては、基材への付着性、得られる塗膜の硬度および低反射性、組成物の寿命等の目的に応じて適宜選択されるが、例えば、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルビニルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルフェニルジエトキシシラン、δ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0036】
これらの中でも、前記式(1)で表されるシラン化合物としては、n+p=1であるもの、すなわち、(−SiZ基)を3つ有する3官能型のシラン化合物であるのが好ましい。これにより、後述する鎖状のシロキサンオリゴマーを効率的に生成することができる。
シラン化合物の含有量は、シランカップリング剤全量に対して0.1重量%以上、50.0重量%以下であるのが好ましく、4.0重量%以上、15.0重量%以下であるのがより好ましい。これにより、塗膜1は、より優れた反射防止性、防汚性、撥水性、耐擦傷性、耐薬品性等を発揮することができる。
【0037】
前記式(2)で表されるハロゲン化シランとしては、特に限定されないが、フッ素原子の個数が4個以上50個以下であるのが好ましく、4個以上24個以下であるのがより好ましい。これにより、成膜用塗布液を用いて成膜された塗膜は、優れた反射防止性、防汚性、撥水性、耐擦傷性、耐薬品性等を発揮することができる。
前記式(2)で表わされるハロゲン化シランに含まれるフッ素原子の数が前記下限値未満である場合は、ハロゲン化シランの含有量等によっては、上述した効果を充分に発揮することができないおそれがある。反対に、フッ素原子の数が前記上限値を超えると、ハロゲン化シランの含有量等によっては、塗膜の密度が低下するおそれがある。
【0038】
前記式(2)中のYとしては、例えば、下記の構造のものが好ましい。
−CHCH(CFCHCH
−C−CF(CF)−(CF−CF(CF)−C
(nは、2〜20の整数である。)
また、前記式(2)中のRとしては、炭素数1〜6のアルキル基であればよく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等のアルキル基、フェニル基等が挙げられる。これらの中でも、Rは、優れた耐擦傷性を得る目的から、メチル基であるのが好ましい。
また、前記式(2)中のmは、1〜3の整数であるが、2または3であるのが好ましく、3であるのがより好ましい。これにより、塗膜1をより高硬度なものとすることができる。
【0039】
また、前記式(2)中のXは、加水分解性基を表す。具体例としては、Clなどのハロゲン原子、ORX(RXは、炭素数1〜6の一価炭化水素基)で示されるオルガノオキシ基、特にメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基、イソプロペノキシ基などのアルケノキシ基、アセトキシ基等のアシルオキシ基、メチルエチルケトキシム基等のケトオキシム基、メトキシエトキシ基等のアルコキシアルコキシ基などが挙げられる。これらの中でアルコキシ基が好ましく、特にメトキシ基、エトキシ基のシラン化合物が取り扱い易く、加水分解時の反応の制御もし易いため、好ましい。このようなXとしては、例えば、下記の構造のものが挙げられる。
【0040】
(CHO)Si−C−C−C−Si(OCH
(CHO)Si−C−C12−C−Si(OCH
(CHO)Si−C−C16−C−Si(OCH
(CO)Si−C−C−C−Si(OC
(CO)Si−C−C12−C−Si(OC
(CO)(CH)Si−C−C12−C−Si(CH)(OC
【0041】
このようなハロゲン化シランの含有量は、シランカップリング剤全量に対して50.0重量%以上、99.9重量%以下であるのが好ましく、85.0重量%以上、96.0重量%以下であるのがより好ましい。これにより、成膜用塗布液を用いて成膜された塗膜1は、より優れた反射防止性、防汚性、撥水性、耐擦傷性、耐薬品性等を発揮することができる。
【0042】
酸性加水分解触媒は、前記式(1)で表されるシラン化合物と前記式(2)で表わされるハロゲン化シランとを加水分解・縮重合するために加えられる。このような酸性加水分解触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸、シュウ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、乳酸等の有機酸を用いることができる。
pH3.0〜5.0の環境下で、前記式(1)で表されるシラン化合物と前記式(2)で表わされるハロゲン化シランとをそれぞれ加水分解・縮重合すると、3量体である鎖状のシロキサンオリゴマーと、4量体〜6量体程度の環状のシロキサンオリゴマーとが生成され、これらを含む液体Aが得られる。
【0043】
液体A中には、鎖状のシロキサンオリゴマーの方が環状のシロキサンオリゴマーよりも多く含まれている。この理由について以下、詳細に説明する。
図2は、シリカゾルのpH値と反応速度との関係を示したグラフである(表面技術50巻2号161〜164頁、「ゾル−ゲル法のやさしい概要とその用途」、土岐元幸著、参照)。
【0044】
図2に示すように、加水分解反応速度は、pH1〜7にかけて徐々に低くなり、pH7〜14にかけて徐々に高くなる。一方、縮重合反応速度は、pH1〜2にかけて徐々に低くなり、pH2〜7にかけて徐々に高くなり、pH7〜14にかけて再び徐々に低くなる。また、pH4程度で加水分解反応速度と縮重合反応速度がほぼ等しくなる。
本工程のpH環境であるpH3.0〜5.0の領域では、加水分解反応速度と縮重合反応速度が比較的遅くかつその速度がほぼ等しい。このような環境では、前記式(1)で表されるシラン化合物と前記式(2)で表わされるハロゲン化シランの高分子化が進み難く、3量体のシロキサンオリゴマーが主に生成され、4量体〜6量体程度のシロキサンオリゴマーが僅かに生成される。ここで、従来から、3量体のシロキサンオリゴマーは鎖状をなし、4量体以上のシロキサンオリゴマーは環状をなすことが知られている。したがって、液体A中には、鎖状のシロキサンオリゴマーの方が環状のシロキサンオリゴマーよりも多く含まれることとなる。
【0045】
液体A中における、鎖状のシロキサンオリゴマーと環状のシロキサンオリゴマーの重量比としては、特に限定されないが、鎖状のシロキサンオリゴマー:環状のシロキサンオリゴマーが8:2〜9.5:0.5程度であるのが好ましい。これにより、より緻密な塗膜1を成膜することのできる成膜用塗布液が得られる。
なお、上記の反応は、pH3.0〜5.0程度であれば良いが、pH4.0程度であるのがより好ましい。前述したように、pH4.0の環境下では、加水分解反応速度と縮重合反応速度が等しいため、環状のシロキサンオリゴマーの生成を抑えつつ、効率よくより多くの鎖状のシロキサンオリゴマーを生成することができる。
【0046】
第1工程における加水分解・縮重合の反応時間は、特に限定されないが、室温で100時間以上150時間以下程度であるのが好ましく、120時間程度であるのがより好ましい。前述したように、pH3.0〜5.0の環境下では、前記式(1)で表されるシラン化合物の加水分解反応と縮重合反応が共に比較的遅いため、上記のような時間とすることにより、前記反応を充分に行うことができる。前記式(2)で表されるハロゲン化シランについても同様である。
【0047】
[第2工程]
第2工程は、第1工程で得られた液体Aにシリカ系微粒子を加え、pH5.0〜7.0の環境下で液体A中に含まれる鎖状のシロキサンオリゴマーを加水分解・縮重合する工程である。
シリカ系微粒子は、内部に空洞を有する中空シリカ粒子である。この中空シリカ粒子は、SiOで構成されている。このような中空シリカ粒子は、屈折率が低いため、成膜された塗膜の屈折率を充分に低くすることができ、反射防止膜として好適に利用することができる。また、このような中空シリカ粒子は、コロイド領域の微粒子であり分散性に優れているので、中空シリカ粒子の凝集を効果的に防止または抑制することができる。
このような、シリカ系微粒子は、分散媒に分散させた状態で液体Aに加えることができる。これにより、シリカ系微粒子の凝集を効果的に防止することができるとともに、分散媒との相互効果によって、液体Aとの混合物のpHを塩基性側へシフトさせることができる。
【0048】
シリカ系微粒子を分散する分散媒としては、特に限定されないが、中性または塩基性であることが好ましい。これにより、液体Aとの混合物のpHを3.0〜5.0の領域から塩基性側へシフトさせることができる。
このような分散媒としては、例えば、水、有機溶媒またはこれらの混合溶媒が挙げられる。具体的には、純水、超純水、イオン交換水などの水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、メチルイソカルビノールなどのアルコール類、アセトン、2−ブタノン、エチルアミルケトン、ジアセトンアルコール、イソホロン、シクロヘキサノンなどのケトン類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、3,4−ジヒドロ−2H−ピランなどのエーテル類、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、エチレングリコールジメチルエーテルなどのグリコールエーテル類、2−メトキシエチルアセテート、2−エトキシエチルアセテート、2−ブトキシエチルアセテートなどのグリコールエーテルアセテート類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、乳酸エチル、エチレンカーボネートなどのエステル類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ヘキサン、ヘプタン、iso−オクタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、塩化メチレン、1,2−ジクロルエタン、ジクロロプロパン、クロルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、N−メチル−2−ピロリドン、N−オクチル−2−ピロリドンなどのピロリドン類などが挙げられる。
【0049】
シリカ系微粒子が分散する分散液のpHとしては、液体Aと混合した際にその混合物のpHを5.0〜7.0とすることができれば特に限定されないが、pH7.0程度であるのが好ましい。
このような分散液を液体Aに加えることにより、液体A中にシリカ系微粒子を供給するとともに、液体Aと分散液との混合物のpHを5.0〜7.0とし、この環境下で、液体Aに含まれる鎖状のシロキサンオリゴマーを加水分解・縮重合する。
【0050】
図2に示すように、pH5.0〜7.0の領域では、縮重合反応速度の方が加水分解反応速度よりも速いため、前記加水分解・縮重合によって、複数の鎖状のシロキサンオリゴマーが結合してなる架橋型のシロキサン重合体やリニア型のシロキサン重合体が形成される。また、これと同時に、鎖状のシロキサンオリゴマーがシリカ系微粒子の表面にグラフト化する。これにより、架橋型のシロキサン重合体、リニア型のシロキサン重合体、鎖状のシロキサンオリゴマーおよび環状のシロキサンオリゴマーを含むバインダーと、バインダー中に分散するシリカ系微粒子とを有し、シリカ系微粒子の表面に鎖状のシロキサンオリゴマーがグラフト化している液体Bが得られる。
なお、この工程では、特に、架橋型のシロキサン重合体をより多く生成することができる。
【0051】
ここで、第2工程の加水分解反応速度が第1工程の加水分解反応速度よりも遅く、かつ第2工程の縮重合反応速度が第1工程の縮重合反応速度よりも速いことが好ましい。これにより、縮重合反応速度を比較的早いものとすることができると共に、加水分解反応速度と縮重合反応速度の速度差を比較的大きくすることができるため、より確実に、上記のような成分を含む液体Bを生成することができる。すなわち、架橋型のシロキサン重合体をより多く生成することができる。また、シリカ系微粒子の凝集をより効果的に防止または抑制することができる。
【0052】
なお、第2工程の加水分解・縮重合について、加水分解反応の速度としては特に限定されないが、縮重合反応の速度の30%以下であるのが好ましい。これにより、上記効果がより顕著となる。
そして、例えば、液体Bに必要に応じて溶媒を混合することにより、成膜用塗布液が得られる。
【0053】
このように、鎖状のシロキサンオリゴマーをグラフト化し、シリカ系微粒子の表面を処理することにより、シリカ系微粒子のバインダーや溶媒に対する親和性を高くすることができ、分散性を高めることができるため、シリカ系微粒子を成膜用塗布液中で均一に分散することができる。したがって、このような成膜用塗布液を用いて成膜された塗膜は、より緻密なものとなり、密着性、膜強度、耐擦傷性に優れたものとなる。
また、バインダー成分として架橋型のシロキサン重合体を含むため、このような成膜用塗布液を用いて成膜された塗膜は、密着性、膜強度、耐擦傷性に優れたものとなる。
【0054】
第2工程における加水分解・縮重合の反応時間は、特に限定されないが、0℃以上、20℃以下の低温で20時間以上、30時間以下程度であるのが好ましく、10℃で24時間程度であるのがより好ましい。前述したように、pH5.0〜7.0の環境下では、シロキサンオリゴマーの縮重合反応が比較的早いため、上記のような時間とすることにより、上記の反応を確実かつ充分に行うことができる。
【0055】
3.成膜用塗布液を用いた塗膜1の形成方法
塗膜1は、例えば、下記のように形成することができる。
[塗布工程]
まず、レンズ基板100(ハードコート層103)上に成膜用塗布液を塗布する。塗布方法は、特に限定されず、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法、スリットコーター法、転写法等の塗布方法を用いることができる。この中でも、スピンコート法を用いるのが好ましく、これにより、塗布膜の膜厚の均一性や低発塵性が優れたものとなる。
【0056】
[焼成]
次に、レンズ基板100上に塗布された成膜用塗布液を、90℃〜110℃程度の温度で1分〜10分程度仮焼成する。仮焼成は、不活性ガスとしての窒素ガス雰囲気下または空気雰囲気下で行うことができる。
次に、仮焼成された成膜用塗布液を本焼成する。本焼成は、110℃〜130℃程度の温度で1時間〜2時間程度行う。本焼成は、不活性ガスとしての窒素ガス雰囲気下または空気雰囲気下で行うことができる。
以上の工程により、成膜用塗布液を用いて成膜された塗膜1が形成される。
以上、本発明の成膜用塗布液および塗膜について説明したが、本発明は、これに限定さに限定されるものではない。
【実施例】
【0057】
1.準備液、成膜用塗布液の製造
(実施例1)
ステンレス製容器内に、下記式(A)で表されるシラン化合物(アルコキシシラン)2.8重量部に、下記式(B)で表わされるハロゲン化シラン27.8重量部と、0.1×10−3モル/Lの硝酸水溶液152.9重量部とを加え、これをよく混合し、25℃でのpHが4.0の混合液(第1の混合液)を得た。この混合液を25℃で120時間攪拌して固形分10.0重量%の液体である準備液を得た。
【0058】

【0059】
この準備液と、中空シリカ−イソプロパノール分散ゾル(触媒化成工業(株)製;固形分濃度20重量%、平均一次粒子径35nm、外殻厚み8nm)を液体/中空シリカが固形分比70/30となるように配合し、これをよく混合し、25℃でのpHが5.5の混合液(第2の混合液)を得た。この混合液を10℃で24時間攪拌して固形分6.3重量%の成膜用塗布液を得た。
【0060】
(比較例1)
ステンレス製容器内に、上記式(A)で表されるシラン化合物2.8重量部に、上記式(B)で表わされるハロゲン化シラン27.8重量部と、0.1モル/Lの塩酸水溶液152.9重量部とを加え、これをよく混合し、25℃でのpHが1.0の混合液を得た。この混合液を25℃で5分間攪拌して固形分10.0重量%の液体である準備液を得た。
【0061】
この準備液と、中空シリカ−イソプロパノール分散ゾル(触媒化成工業(株)製;固形分濃度20重量%、平均一次粒子径35nm、外殻厚み8nm)を液体/中空シリカが固形分比70/30となるように配合し、これをよく混合し、25℃でのpHが1.0の混合液を得た。この混合液を25℃で24時間攪拌して固形分6.3重量%の成膜用塗布液を得た。
【0062】
2.塗膜の成膜
上述した実施例1および比較例1の成膜用塗布液に、プロピレングリコールモノメチルエーテル420部を加えて希釈してコーティング液を得た。次に、コーティング液をスピンコート法によりレンズ基板上に塗布し、これを100℃で10分間、大気中で仮焼成した。次に、120℃で1時間半、大気中で本焼成した。これにより塗膜を形成した。この塗膜の厚さ(平均厚さ)は、100nmであった。
なお、レンズ基板は、次のようにして得た。
【0063】
(1)プライマー組成物の調製
ステンレス製容器内に、メチルアルコール3700重量部、水250重量部、プロピレングリコールモノメチルエーテル1000重量部を投入し、十分に攪拌したのち、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(アナターゼ型結晶構造、メタノール分散、全固形分濃度20重量%、触媒化成工業(株)、商品名オプトレイク1120Z U−25・A8)2800重量部を加え撹拌混合した。次いでポリウレタン樹脂2200重量部を加えて攪拌混合した後、さらにシリコーン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、商品名L−7604)2重量部を加えて一昼夜撹拌を続けた後、2μmのフィルターでろ過を行い、プライマー組成物を得た。
【0064】
(2)ハードコート組成物の調製
ステンレス製容器内にブチルセロソルブ1000重量部を取り、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン1200重量部を加えて十分攪拌した後、0.1モル/リットル塩酸300重量部を添加して一昼夜攪拌を続け、シラン加水分解物を得た。このシラン加水分解物中にシリコーン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製;商品名L−7001)30重量部を加えて1時間撹拌した後、酸化チタン、酸化スズ、酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、触媒化成工業(株)製;商品名オプトレイク1120Z 8RU−25、A17)7300重量部を加え2時間撹拌混合した。次いでエポキシ樹脂(ナガセ化成(株)製、商品名デナコールEX−313)250重量部を加えて2時間攪拌した後、鉄(III)アセチルアセトナート20重量部を加えて1時間攪拌し、2μmのフィルターでろ過を行い、ハードコート組成物を得た。
【0065】
(3)プライマー層、ハードコート層の形成
チオウレタン系プラスチックレンズ基材(セイコーエプソン(株)製、商品名セイコースーパーソブリン生地、屈折率1.67)を準備した。そして、準備したレンズ基材をアルカリ処理(50℃に保たれた2.0規定水酸化カリウム水溶液に5分間浸漬した後に純水洗浄を行い、次いで25℃に保たれた0.5規定硫酸に1分間浸漬して中和する)し、純水洗浄及び乾燥、放冷を行った。そして、(1)において調製したプライマー組成物中に浸漬し、引き上げ速度30cm/min.で引き上げて80℃で20分焼成し、レンズ基材表面にプライマー層を形成した。そして、プライマー層が形成されたレンズ基材を、(2)において調製したハードコート組成物中に浸漬し、引き上げ速度30cm/min.で引き上げて80℃で30分焼成し、プライマー層上にハードコート層を形成した。その後、125℃に設定したオーブン内で3時間加熱して、プライマー層とハードコート層が形成されたプラスチックレンズを得た。形成されたプライマー層の膜厚は0.5μm、ハードコート層の膜厚は2.5μmであった。
そして、プライマー層とハードコート層が形成されたプラスチックレンズを、プラズマ処理(大気プラズマ)したものを前記レンズ基板として用いた。
【0066】
3.測定
(3−1)ゼータ電位及び平均粒径の測定
実施例1および比較例1の成膜用塗布液について、シリカ系微粒子のゼータ電位および平均粒径を測定した。ゼータ電位および平均粒径の測定は、超音波スペクトロスコピー(米Dispersion Technology社製、DT1200)で行った。その結果、実施例1の成膜用塗布液では、pH5.5におけるシリカ系微粒子のゼータ電位が−33.1ミリボルト、平均粒径が47.5nmであり、比較例1の成膜用塗布液では、pH1.0におけるシリカ系微粒子のゼータ電位が−19.7ミリボルト、平均粒径が58.4nmであった。
【0067】
4.評価
(4−1)耐温水性
眼鏡フレーム形状に合わせてレンズ基板(実施例1の塗膜および比較例1の塗膜)を玉摺り加工した後、60℃の温水中に20日間浸漬させた。その後レンズを温水中から取り出して水冷し、水滴を擦り取った後、目視で塗膜の膜剥がれの状態を下記のA〜Dの基準で評価した。その結果を下記の表2に示す。
A:全く膜剥がれがない(剥がれの面積率0%)
B:ほとんど膜剥がれがない(剥がれの面積率1〜19%)
C:やや剥がれが発生(剥がれの面積率20〜49%)
D:膜剥がれが発生(剥がれの面積率50%以上)
【0068】
【表1】

【0069】
表1から明らかなように、実施例1の塗膜は、比較例1の塗膜よりも耐温水性に優れることとなった。これにより、実施例1の塗膜(本発明の塗膜)が比較例1の塗膜(従来の塗膜)に比べて緻密な膜であることが明らかである。
【0070】
(4−2)シリカ系微粒子凝集性
実施例1および比較例1の塗膜を光学顕微鏡(オリンパス株式会社製 システム生物顕微鏡 BX50)を用いて観察した。その結果を図3に示す。なお、図3中の(A)が実施例1を示し、(B)が比較例1を示す。
図3から明らかなように、実施例1の塗膜は、比較例1の塗膜と比較して白く見える点Aの数が極めて少ない。具体的には、0.71mm(縦)×0.95mm(横)の範囲にて、実施例1の塗膜中に発生した点Aが118個であり、比較例1の塗膜中に発生した点Aが727個であった。すなわち、実施例1の塗膜では、比較例1の塗膜と比較して点Aが83.8%減少した。
【0071】
ここで、点Aは、シリカ粒子が凝集した二次粒子である。また、点Aは、比較的大きく、その一部が塗膜の表面から外部に突出している場合が多い。そのため、二次粒子は、塗膜を布等で拭いた拍子に塗膜から剥がれ落ちる可能性が高い。このような二次粒子の剥がれ落ちが生じると、その部分からクラックが発生したり、傷が広がったりし、また、液体等が膜内に侵入し易くなる。すなわち、二次粒子が多いほど、耐熱性や耐傷性が低下する。したがって、実施例1の塗膜は、比較例1の塗膜と比較して耐熱性および耐傷性に優れていることが明らかである。
【符号の説明】
【0072】
1…塗膜 100…レンズ基板 101…レンズ生地 102…プライマー層 103…ハードコート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋型のシロキサン重合体と、鎖状のシロキサンオリゴマーとを有するバインダーと、
前記バインダー中に分散したシリカ系微粒子とを有し、
前記鎖状のシロキサンオリゴマーが前記シリカ系微粒子の表面にグラフト化しており、
前記鎖状のシロキサンオリゴマーがグラフト化した前記シリカ系微粒子のゼータ電位の絶対値がpH5〜7において25ミリボルト以上であることを特徴とする成膜用塗布液。
【請求項2】
前記シリカ系微粒子の平均粒径は、55nm以下である請求項1に記載の成膜用塗布液。
【請求項3】
前記バインダー中の前記架橋型のシロキサン重合体の含有量は、60〜80wt%である請求項1または2に記載の成膜用塗布液。
【請求項4】
前記バインダーには、さらに、リニア型のシロキサン重合体が含まれている請求項1ないし3のいずれかに記載の成膜用塗布液。
【請求項5】
前記バインダー中の前記リニア型のシロキサン重合体の含有量は、20〜30wt%である請求項4に記載の成膜用塗布液。
【請求項6】
前記バインダーには、さらに、環状のシロキサンオリゴマーが含まれている請求項1ないし5のいずれかに記載の成膜用塗布液。
【請求項7】
前記バインダー中の前記環状のシロキサンオリゴマーの含有量は、1〜15wt%である請求項6に記載の成膜用塗布液。
【請求項8】
前記シリカ系微粒子は、中空シリカ粒子である請求項1ないし7のいずれかに記載の成膜用塗布液。
【請求項9】
反射防止膜を成膜するための塗布液である請求項1ないし8のいずれかに記載の成膜用塗布液。
【請求項10】
少なくとも下記一般式(1)で表されるシラン化合物および下記一般式(2)で表されるハロゲン化シランの少なくとも一方を含むシランカップリング剤に酸性加水分解触媒を加え、pH3.0〜5.0の環境下で前記シラン化合物および前記ハロゲン化シランの少なくとも一方を加水分解・縮重合することにより、鎖状のシロキサンオリゴマーを含有する液体Aを得る第1工程と、
前記第1工程で得られた前記液体Aにシリカ系微粒子を加え、pH5.0〜7.0の環境下で前記シロキサンオリゴマーを加水分解・縮重合する第2工程とにより得られる請求項1ないし8のいずれかに記載の成膜用塗布液。
SiZ4−(n+p)・・・・・・(1)
(式中、R、Rは、炭素数1〜16の有機基で少なくとも一方がエポキシ基を含む。Zは加水分解性基。n、pは、0〜2の整数であって1≦n+p≦3である。)
3−mSi−Y−SiR3−m・・・・・・(2)
(式中、Rは炭素数1〜6の一価炭化水素基。Yはフッ素原子を1個以上含有する二価有機基。Xは加水分解性基。mは1〜3の整数である。)
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかに記載の成膜用塗布液を用いて成膜されたことを特徴とする塗膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−7929(P2013−7929A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141156(P2011−141156)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】