説明

成膜装置、成膜システムおよび成膜方法

【課題】有機EL素子などの製造工程で形成される各層における相互汚染を回避でき、しかも、フットプリントも小さく、生産性の高い成膜システムを提供する。
【解決手段】基板Gに成膜する成膜装置13であって、処理容器30の内部において、第1の層を成膜させる第1成膜機構35と、第2の層を成膜させる第2成膜機構36を備え、第1成膜機構35は、処理容器30の内部に配置された、成膜材料の蒸気を基板に供給するノズル34と、処理容器の外部に配置された、成膜材料の蒸気を発生させる蒸気発生部45と、蒸気発生部45で発生させた成膜材料の蒸気をノズル34に送る配管46と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に所定材料の層を成膜する成膜装置と成膜システムに関し、更に成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロルミネッセンス(EL;electroluminescence)を利用した有機EL素子が開発されている。有機EL素子は、熱をほとんど出さないのでブラウン管などに比べて消費電力が小さく、また、自発光なので、液晶ディスプレー(LCD)などに比べて視野角に優れている等の利点があり、今後の発展が期待されている。
【0003】
この有機EL素子のもっとも基本的な構造は、ガラス基板上にアノード(陽極)層、発光層およびカソード(陰極)層を重ねて形成したサンドイッチ構造である。発光層の光を外に取り出すために、ガラス基板上のアノード層には、ITO(Indium Tin Oxide)からなる透明電極が用いられる。かかる有機EL素子は、表面にITO層(アノード層)が予め形成されたガラス基板上に、発光層とカソード層を順に成膜することによって製造されるのが一般的である。
【0004】
また、カソード層から発光層への電子の移動の橋渡しを行わせるために、両者の間に仕事関数調整層(電子輸送層)を形成している。この仕事関数調整層は、例えばカソード層側の発光層界面にLiなどのアルカリ金属を蒸着することによって形成される。以上のような有機EL素子を製造する装置としては、例えば特許文献1に示す成膜装置が知られている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−79904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
有機EL素子の製造工程では、各層を形成するために、蒸着やCVD等の成膜工程が行われるが、いずれにしても各層間における相互汚染(コンタミネーション)は回避しなければならない。そこで、相互汚染の問題を回避するために、有機EL素子の各層を形成する成膜機構を、それぞれ別の処理容器内に配置することが行われている。
【0007】
しかし、各成膜機構毎に独立した処理容器を設けると、成膜システム全体が大型化し、フットプリントが増大してしまう。また、各層を成膜するごとに処理容器内から基板を搬出して、別の容器に搬入しなければならず、搬入搬出工程が増えるため、スループットが向上できなくなってしまう。加えて、例えば上記仕事関数調整層の材料であるアルカリ金属は活性が高く、処理容器内の残留水分や窒素、酸素等と反応し、変質が進みやすい。そのため、仕事関数調整層を成膜後、速やかに次のカソード層を成膜してしまうことが望ましい。
【0008】
このような各成膜機構をそれぞれ別の処理容器内に配置した場合の問題を回避するためには、複数の成膜機構を同じ処理容器内に一緒に配置すればよいが、そうすると、上記相互汚染の問題があることは既述した通りである。特に、上記仕事関数調整層の材料であるアルカリ金属は活性が高いために、仕事関数調整層を成膜する成膜機構は、他の成膜機構と同じ処理容器内に一緒に配置することが困難であった。
【0009】
従って本発明の目的は、例えば有機EL素子などの製造工程で形成される各層における相互汚染を回避でき、しかも、フットプリントも小さく、生産性の高い成膜システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、基板に成膜する成膜装置であって、処理容器の内部において、第1の層を成膜させる第1成膜機構と、第2の層を成膜させる第2成膜機構を備え、前記第1成膜機構は、前記処理容器の内部に配置された、成膜材料の蒸気を基板に供給するノズルと、前記処理容器の外部に配置された、成膜材料の蒸気を発生させる蒸気発生部と、前記蒸気発生部で発生させた成膜材料の蒸気を前記ノズルに送る配管と、を備えることを特徴とする、成膜装置が提供される。
【0011】
この成膜装置において、前記蒸気発生部は、前記処理容器の外部に配置された容器と、前記容器の内部において成膜材料源を加熱する加熱機構を備えていても良い。また、成膜材料の蒸気をキャリアガスを用いて蒸気発生部内からノズルに送るようにしても良い。この場合、キャリアガスとしては、例えば基板等に不活性な希ガス(例えばAr)等が用いられる。また、前記容器が開閉自在であっても良い。更に、前記処理容器内を減圧させる真空ポンプと、前記容器内を減圧させる真空ポンプと、前記配管を開閉させる開閉機構と、を備えても良い。その場合、前記容器の容積が、前記処理容器の容積よりも小さくても良い。
【0012】
また、前記処理容器内において、前記第1成膜機構および前記第2成膜機構の各処理位置に基板を搬送する搬送機構を備えても良い。更に、前記第2成膜機構は、スパッタリングによって第2の層を成膜させるものであっても良い。
【0013】
また本発明によれば、基板に成膜する成膜システムであって、上記の成膜装置と、第3の層を成膜させる第3成膜機構を処理容器の内部に備える別の成膜装置と、を備えることを特徴とする、成膜システムが提供される。
【0014】
この成膜システムにおいて、上記の前記成膜装置と前記別の成膜装置との間で基板を搬送する搬送装置を備えても良い。また、前記第3成膜機構は、基板表面に第3の層を蒸着によって成膜させるものであっても良い。
【0015】
また本発明によれば、基板に成膜する成膜方法であって、処理容器の外部で発生させた成膜材料の蒸気を、前記処理容器の内部に配置したノズルから基板に供給して基板に蒸着させることにより第1の層を成膜させた後、前記処理容器の内部において、第2の層を成膜させることを特徴とする、成膜方法が提供される。なお、処理容器の外部で発生させた成膜材料の蒸気を、例えばArなどのキャリアガス(輸送ガス)を用いてにノズルに搬送しても良い。
【0016】
この成膜方法において、前記第2の層をスパッタリングによって成膜させても良い。また、予め、別の処理容器の内部において、第3の層を成膜させても良い。更に、前記第3の層を蒸着によって成膜させても良い。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、同じ処理容器の内部において、第1の層を成膜させる第1成膜機構と、第2の層を成膜させる第2成膜機構を備えているので、成膜装置および成膜システムを小型に構成することが可能となる。また、同じ処理容器内において、第1の層と第2の層を連続して成膜させることができ、スループットを向上させることができ、また、例えば仕事関数調整層を成膜後、速やかに次のカソード層を成膜することも可能となり、仕事関数調整層の変質を防ぐことができるようになる。
【0018】
また、第1成膜機構において、成膜材料の蒸気を発生させる蒸気発生部を、前記処理容器の外部に配置しているので、第1成膜機構に使用される材料が第2成膜機構側に流れることを防止でき、第1の層と第2の層の相互汚染を有効に回避できるようになる。また、第2成膜機構において、基板表面に第2の層をスパッタリングによって成膜させることにより、基板の大型化にも対応できるようになる。
【0019】
また、第3成膜機構と、第1成膜機構および第2成膜機構とを、互いに別の処理容器内に設けることにより、第3の層へのコンタミネーションと、第1の層と第2の層へのコンタミネーションを回避できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照にして説明する。以下の実施の形態では、成膜の一例として、ガラス基板Gの被処理面(例えば上面)にアノード(陽極)層1、発光層2およびカソード(陰極)層4を成膜して製造される有機EL素子Aの製造工程を例にして具体的に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0021】
図1(1)〜(7)は、有機EL素子Aの製造工程の説明図である。図1(1)に示すように、この実施の形態で使用されるガラス基板Gの表面には、アノード(陽極)層1が所定のパターンで予め形成されている。アノード層1には、例えばITO(Indium Tin Oxide)からなる透明電極が用いられる。
【0022】
先ず、図1(2)に示すように、ガラス基板G表面のアノード層1の上に、発光層2を成膜する。この発光層2は、例えばアルミニウムキノリール錯体(aluminato-tris-8-hydroxyquinolate(Alq))をガラス基板G表面に蒸着することにより成膜される。なお、発光層2を成膜する前に、例えばNPB
(N,N-di(naphthalene-1-yl)-N,N-diphenyl-benzidene)からなる図示しない正孔輸送層(HTL;Hole
Transfer Layer)をアノード層1の上に蒸着成膜し、更にその上に、発光層2を成膜した多層構造などに構成される。
【0023】
次に、図1(3)に示すように、発光層2の界面にLiなどのアルカリ金属を蒸着することによって、仕事関数調整層3を所定の形状に成膜する。仕事関数調整層3は、次に説明するカソード層4から発光層2への電子の移動の橋渡しを行わせるための電子輸送層(ETL;Electron Transport Layer)としての役割を果たす。この仕事関数調整層3は、例えばLiなどのアルカリ金属を、パターンマスクを用いて蒸着することにより成膜される。
【0024】
次に、図1(4)に示すように、仕事関数調整層3の上にカソード(陰極)層4を所定の形状に成膜する。このカソード層4は、例えばAg、Mg/Ag合金などを、パターンマスクを用いてスパッタリングすることにより成膜される。
【0025】
次に、図1(5)に示すように、カソード層4に合わせて発光層2を所望の形状に成形する。
【0026】
次に、図1(6)に示すように、電極5に対して電気的に接続するように、カソード層4の接続部4’を形成する。この接続部4’も、例えばAg、Mg/Ag合金などを、パターンマスクを用いてスパッタリングすることにより成膜される。
【0027】
最後に、図1(7)に示すように、窒化膜などからなる封止膜6をCVD等によって成膜し、カソード層4とアノード層1の間に発光層2を挟んだサンドイッチ構造全体を封止して、有機EL素子Aが製造される。
【0028】
図2は、本発明の実施の形態にかかる成膜システム10の説明図である。この成膜システム10は、先に図1で説明した有機EL素子Aを製造するシステムとして構成されている。なお、有機EL素子Aを製造するにあたり、仕事関数調整層3を第1の層、カソード層4を第2の層、発光層2(正孔輸送層なども含む)を第3の層として具体的に説明する。
【0029】
この成膜システム10は、搬送装置11の周りに、基板ロードロック装置12、スパッタリング蒸着成膜装置13、アライメント装置14、発光層2の成形装置15、マスクロードロック装置16、CVD装置17、基板反転装置18、蒸着成膜装置19を配置した構成である。本発明においては、スパッタリング蒸着成膜装置13が、第1の層である仕事関数調整層3と、第2の層であるカソード層4を成膜する成膜装置に相当する。また、蒸着成膜装置19が、第3の層である発光層2を成膜する別の成膜装置に相当する。
【0030】
搬送装置11は、基板Gを搬送するための搬送機構20を備えており、各装置12〜19に対して自由に基板Gを搬入、搬出させることができる。これにより、各装置12〜19間において、搬送装置11によって、任意の順序で基板Gを搬送させることができる。
【0031】
図3は、第1、2の層の成膜装置に相当するスパッタリング蒸着成膜装置13の概略的な構成を示す説明図である。図4は、スパッタリング蒸着成膜装置13が備える、蒸着成膜機構35のノズル34の上面図(a)と、正面図(b)と、側面図(c)である。図5は、スパッタリング蒸着成膜装置13が備える、スパッタリング成膜機構36の概略的な構成を示す説明図である。本発明においては、このスパッタリング蒸着成膜装置13に備えられた蒸着成膜機構35が、第1の層である仕事関数調整層3を成膜させる第1成膜機構に相当する。また、スパッタリング成膜機構36が、第2の層であるカソード層4を成膜させる第2成膜機構に相当する。
【0032】
図3に示すように、スパッタリング蒸着成膜装置13を構成する処理容器30の側面には排気管31が接続してあり、真空ポンプ32の稼動によって、この排気管31を通じて処理容器30内を減圧排気できるようになっている。処理容器30の側面には、ゲートバルブなどによって開閉される図示しない搬入出口が設けてあり、上述した搬送装置11の搬送機構20によって、その搬入出口を介して、スパッタリング蒸着成膜装置13に基板Gが搬入、搬出される。
【0033】
処理容器30の内部には、第1成膜機構に相当する蒸着成膜機構35のノズル34、第2成膜機構に相当するスパッタリング成膜機構36が設けられている。また、図4、5に示すように、処理容器30内には、蒸着成膜機構35とスパッタリング成膜機構36の下方において基板Gを搬送する搬送機構40が設けられている。
【0034】
搬送機構40は、基板Gを保持するステージ42と、ステージ42を、蒸着成膜機構35とスパッタリング成膜機構36の下方において移動させるコンベア43を有している。ステージ42は、基板Gを上面に載せて保持するために、例えば静電チャックなどで構成される。また、このようにステージ42に保持された基板Gの上に図示しないマスクが位置決めされた状態で保持されるようになっている。
【0035】
基板Gおよびマスクは、上述した搬送装置11の搬送機構20によって処理容器30内に搬入される。こうして処理容器30内に搬入された基板Gおよびマスクを、ステージ42の上面に、位置決めした状態で保持するようになっている。
【0036】
搬送機構40は、こうしてステージ42の上面に保持した基板Gを、先ず蒸着成膜機構35の下方に移動させる。そして、蒸着成膜機構35により、基板Gに第1の層である仕事関数調整層3を蒸着によって所望のパターンに成膜させる。次に、ステージ42の上面に保持した基板Gを、スパッタリング成膜機構36の下方に移動させる。そして、スパッタリング成膜機構36により、基板Gに第2の層であるカソード層4をスパッタリングによって所望のパターンに成膜させる。その後、基板Gおよびマスクは、上述した搬送装置11の搬送機構20によって、処理容器30外に搬出される。
【0037】
図3に示すように、第1成膜機構に相当する蒸着成膜機構35は、処理容器30の内部に配置されたノズル34と、処理容器30の外部に配置された蒸気発生部45と、成膜材料の蒸気を蒸気発生部45からノズル34に送る配管46を備えている。
【0038】
蒸気発生部45は、処理容器30の外部に配置された容器50の内部に加熱機構51を配置した構成である。容器50の容積は、処理容器30の容積よりも小さい。
【0039】
加熱機構51は、その内部に第1の層である仕事関数調整層3の材料である例えばLiなどのアルカリ金属の蒸気を発生させるための成膜材料源を収納可能な容器形状に形成されており、加熱機構51全体が、電源52から供給された電圧によって加熱する電気抵抗体で構成されている。こうして、加熱機構51内に収納した成膜材料源を加熱して、仕事関数調整層3の材料の蒸気を発生させる。
【0040】
容器50には、基板Gに対して不活性な例えばArなどの希ガス等からなる輸送ガスを供給する輸送ガス供給管53が接続してある。この輸送ガス供給管53から容器50に供給した輸送ガス(キャリアガス、例えばArなどの希ガス等)と共に、成膜材料の蒸気を蒸気発生部45内から配管46を介してノズル34に送るようになっている。
【0041】
ノズル34の下面には、基板Gの搬送方向(ステージ42の移動方向)に直交するスリット55が開口している。このスリット55の長さは、ノズル34の下方を搬送される基板Gの幅とほぼ等しい。上述したように、輸送ガスと共に蒸気発生部45から送られた成膜材料の蒸気を、ノズル34下面のスリット55から下向きに供給し、蒸着成膜機構35の下方を通過する基板Gの表面にアルカリ金属を蒸着させて、仕事関数調整層3の成膜が行われる。
【0042】
また、容器50の側面には排気管56が接続してあり、真空ポンプ57の稼動によって、この排気管56を通じて容器50内を減圧排気できるようになっている。処理容器30と容器50を連通させている配管46には、開閉機構としての開閉弁58が設けてあり、この開閉弁58を閉じることにより、処理容器30と容器50の内部雰囲気を遮断できるようになっている。なお、開閉弁58の代わりに、ノズル34を開閉させるシャッターを設けても良い。
【0043】
更に、容器50は開閉自在であり、容器50内に配置されたヒータ51に対して仕事関数調整層3の材料である例えばLiなどのアルカリ金属の蒸気を発生させるための成膜材料源を補充する際には、容器50を開放させることができる。
【0044】
図5に示すように、第2成膜機構に相当するスパッタリング成膜機構36は、下方を通過する基板Gの上方に水平に配置された平板形状のターゲット60を有している。ターゲット60は、例えばAg、Mg/Ag合金などである。ターゲット60の周囲には、グランド電極61が配置されており、ターゲット60とグランド電極61の間に電源62から電圧が付加される。また、グランド電極61の外側には、ターゲット60下方に磁界を発生させる図示しない磁石が配置される。また、ターゲット60とグランド電極61の間には、スパッタリングガス供給管63から、スパッタリングガスとして例えばArガスが供給される。こうして、ターゲット60下方に磁界を発生させた状態で、ターゲット60とグランド電極61の間でグロー放電を生じさせて、ターゲット60下方にプラズマを発生させる。このプラズマでスパッタ現象を生じさせることにより、ターゲット60の材料を、スパッタリング成膜機構36の下方を通過する基板Gに付着させ、カソード層4の成膜が行われる。
【0045】
図6は、第3の層の成膜装置に相当する蒸着成膜装置19の概略的な構成を示す説明図である。図7は、この蒸着成膜装置19内に設けられた蒸着成膜機構85の説明図である。本発明においては、この蒸着成膜装置19内に設けられた蒸着成膜機構85が、第3の層である発光層2(正孔輸送層なども含む)を成膜させる第3成膜機構に相当する。
【0046】
蒸着成膜装置19を構成する処理容器70の側面には、ゲートバルブ71によって開閉される搬入出口72が設けてあり、上述した搬送装置11の搬送機構20によって、この搬入出口72を介して、蒸着成膜装置19に基板Gが搬入、搬出される。
【0047】
処理容器70の上方には、ガイド部材75と、このガイド部材75に沿って適宜の駆動源(図示せず)によって移動する支持部材76が設けられている。支持部材76には、静電チャックなどの基板保持部77が取り付けられており、成膜対象である基板Gは基板保持部77の下面に水平に保持される。
【0048】
また搬入出口72と基板保持部77との間には、アライメント機構80が設けられている。このアライメント機構80は、基板位置合わせ用のステージ81を備えており、搬入出口72から処理容器70内に搬入された基板Gは、まずこのステージ81に載置され、そこで所定のアライメントが行われた後、ステージ81が上昇して、基板保持部77に基板Gが受け渡される。
【0049】
処理容器70の内部には、アライメント機構80を挟んで搬入出口72と反対側に、第3成膜機構に相当する蒸着成膜機構85が配置してある。図7に示すように、蒸着成膜機構85は、基板保持部77に保持された基板Gの下面に配置された成膜部86と、発光層2の蒸着材料を収容する蒸発部87を有している。蒸発部87は図示しないヒータを有しており、該ヒータの発熱により、発光層2の蒸着材料の蒸気が蒸発部87内にて発生させられる。
【0050】
蒸発部87には、供給源90からキャリアガスを導入するキャリアガス導入配管91と、蒸発部87内で発生した発光層2の蒸着材料の蒸気を、キャリアガスと一緒に成膜部86に供給する供給配管92が接続されている。キャリアガス導入配管91には、蒸発部87へのキャリアガス導入量を制御する流量調整弁93が設けられている。供給配管92には、蒸発部87における発光層2の蒸着材料の補充時などに閉じられるノーマルオープン弁94が設けられている。
【0051】
成膜部86の内部には、蒸発部87から供給された発光層2の蒸着材料の蒸気を拡散させる拡散板95が設けられている。また、成膜部86の上面には、基板Gの下面に対向するように配置されたフィルタ96が設けられている。
【0052】
その他、図2に示す基板ロードロック装置12は、成膜システム10の内部雰囲気を外部と遮断した状態で、成膜システム10の内部に対して基板Gを搬入、搬出させるものである。アライメント装置14は、基板Gや基盤Gとマスクの位置合わせを行うものであり、このアライメント装置14は、アライメント機構を有していないCVD装置17などのために設けられている。成形装置15は、基板Gの表面に成膜した発光層2を所望の形状に成形するものである。マスクロードロック装置16は、成膜システム10の内部雰囲気を外部と遮断した状態で、成膜システム10の内部に対してマスクを搬入、搬出させるものである。CVD装置17は、窒化膜などからなる封止膜6を、CVD等によって成膜し有機EL素子Aの封止を行うものである。基板反転装置18は、基板Gの上下面を適宜反転させ、基板Gの表面(成膜面)を上に向けた姿勢と下に向けた姿勢とに切り替えるものである。この実施の形態では、蒸着成膜装置19では、基板Gの被処理面を下に向けた姿勢で処理が行われ、スパッタリング蒸着成膜装置13、成形装置15およびCVD装置17では、基板Gの被処理面を上に向けた姿勢で処理が行われる。そのため、搬送装置11は、基板Gを各装置間で搬送する際に、必要に応じて基板Gを基板反転装置18に搬入し、基板Gの上下面を反転させる。
【0053】
さて、以上のように構成された成膜システム10において、基板ロードロック装置12を介して搬入された基板Gが、搬送装置11の搬送機構20によって、先ず、蒸着成膜装置19に搬入される。この場合、図1(1)で説明したように、基板Gの被処理面(成膜面)には、例えばITOからなるアノード層1が所定のパターンで予め形成されている。
【0054】
そして、蒸着成膜装置19では、アライメント機構80で位置合わせした後、基板Gの被処理面を下に向けた姿勢にして基板保持部77に保持する。そして、蒸着成膜装置19の処理容器70内に配置した蒸着成膜機構85において、蒸発部87から供給された発光層2の蒸着材料の蒸気を、成膜部86から基板Gの被処理面(アノード層1の表面)に放出し、図1(2)で説明したように、基板Gの被処理面に第3の層である発光層2(正孔輸送層なども含む)を蒸着によって成膜させる。
【0055】
こうして蒸着成膜装置19において発光層2を成膜させた基板Gは、搬送装置11の搬送機構20によって、次に、スパッタリング蒸着成膜装置13に搬入される。そして、スパッタリング蒸着成膜装置13では、マスクを位置合わせした状態でステージ42上に基板Gを保持する。なお、マスクは、マスクロードロック装置16を介して、成膜システム10内に搬入され、搬送装置11の搬送機構20によって、スパッタリング蒸着成膜装置13に搬入される。
【0056】
次に、スパッタリング蒸着成膜装置13に設けられた搬送機構40が、ステージ42上に保持した基板Gを、先ず蒸着成膜機構35の下方に移動させる。そして、蒸着成膜機構35によって、図1(3)で説明したように、基板Gの被処理面(発光層2の表面)に第1の層である仕事関数調整層3を蒸着によって所望のパターンに成膜させる。
【0057】
次に、ステージ42上に保持した基板Gを、スパッタリング成膜機構36の下方に移動させる。そして、スパッタリング成膜機構36により、図1(4)で説明したように、基板Gの被処理面(仕事関数調整層3の表面)に第2の層であるカソード層4をスパッタリングによって所望のパターンに成膜させる。
【0058】
なお、このようにスパッタリング蒸着成膜装置13において仕事関数調整層3およびカソード層4の成膜を行う際には、排気管31を通じて処理容器30内が減圧排気される。
【0059】
こうしてスパッタリング蒸着成膜装置13において仕事関数調整層3およびカソード層4を成膜させた基板Gは、搬送装置11の搬送機構20によって、次に、成形装置15に搬入される。そして、成形装置15において、図1(5)で説明したように、カソード層4に合わせて発光層2を所望の形状に成形する。
【0060】
こうして成形装置15において発光層2を成形させた基板Gは、搬送装置11の搬送機構20によって、再び、スパッタリング蒸着成膜装置13に搬入されて、図1(6)に示すように、電極5に対する接続部4’が形成される。
【0061】
その後、搬送装置11の搬送機構20によって、CVD装置17に搬入され、CVD装置17において、図1(7)に示すように、窒化膜などからなる封止膜6を成膜封止することにより、カソード層4とアノード層1の間に発光層2を挟んだサンドイッチ構造の有機EL素子Aが製造される。こうして製造された有機EL素子A(基板G)が、基板ロードロック装置12を介して成膜システム10から搬出される。
【0062】
以上の成膜システム10によれば、第1成膜機構である仕事関数調整層3の蒸着成膜機構35を、第3成膜機構である発光層2の蒸着成膜機構85とは別の処理容器30内に設けたことにより、発光層2を成膜するに際して、付着性の高いLiなどのアルカリ金属によるコンタミネーションを回避でき、発光性能に優れた有機EL素子Aを製造することができる。また、蒸着成膜装置19においては、発光層2を成膜させる際にパターンマスクを使用しなくてすむので、金属マスクの接触によるコンタミネーションも防止できる。
【0063】
また、スパッタリング蒸着成膜装置13は、第1成膜機構である蒸着成膜機構35と第2成膜機構であるスパッタリング成膜機構36を備えているため、成膜システム10を小型に構成することができる。しかも、同じスパッタリング成膜機構36において、第1の層である仕事関数調整層3と第2の層であるカソード層4を連続して成膜させることができ、スループットを向上させることができ、また、仕事関数調整層3を成膜後、速やかに次のカソード層4を成膜することにより、仕事関数調整層3の変質を防ぐことができるようになる。
【0064】
また、第1成膜機構である蒸着成膜機構35においては、成膜材料の蒸気を発生させる蒸気発生部45を、スパッタリング蒸着成膜装置13の処理容器30の外部に配置しているので、蒸気発生部45で発生させた成膜材料の蒸気を必要以上に処理容器30内に送ることを防止でき、ノズル34から供給した成膜材料の蒸気を基板Gに速やかに蒸着させることにより、例えばLiなどの活性の高いアルカリ金属で処理容器30内を汚染することを回避できるようになる。
【0065】
また、蒸着成膜機構35の蒸気発生部45に仕事関数調整層3の材料(成膜材料源)を補充する場合、処理容器30と容器50を連通させている配管46に設けられた開閉弁58を閉じ、容器50のみを大気開放し、処理容器30内を減圧雰囲気を保ったまま、蒸気発生部45内のヒータ51に成膜材料源を補充することができる。この場合、補充作業を行う際に、大気中から処理容器30内に水分や汚染物質が混入することも回避できる。容器50は処理容器30に比べて容積が小さいので、一旦大気開放しても、その後、真空ポンプ57の吸引排気によってすぐに減圧した状態に戻すことができる。このように、容器50内を減圧排気した後、開閉弁58を開くことにより、処理容器30内における成膜処理をすぐに再開でき、作業効率が良い。
【0066】
また、第2成膜機構であるスパッタリング成膜機構36にあっては、基板Gに第2の層であるカソード層4をスパッタリングによって成膜させることにより、基板Gの大型化にも対応できるようになり、蒸着に比べて均一な成膜が可能となる。更に、図1(7)で示したように、窒化膜などの封止膜6で成膜封止することにより、シール性能の優れた長寿命の有機EL素子Aを製造できるようになる。
【0067】
以上、本発明の好ましい実施の形態の一例を説明したが、本発明は図示の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に相到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。例えば、有機EL素子Aの製造工程を例にして説明したが、本発明は、その他の各種電子デバイス等の成膜に適用することができる。また、有機EL素子Aの製造工程において、仕事関数調整層3を第1の層、カソード層4を第2の層、発光層2を第3の層として説明したが、これら第1〜3の層は仕事関数調整層3、カソード層4、発光層2に限定されない。また、第1〜3成膜機構は、蒸着成膜機構、スパッタリング成膜機構、CVD成膜機構等、種々の成膜機構を適用できる。また、図2に成膜システム10の一例を示したが、各処理装置の組合せは適宜変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、例えば有機EL素子の製造分野に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】有機EL素子の製造工程の説明図である。
【図2】本発明の実施の形態にかかる成膜システムの説明図である。
【図3】スパッタリング蒸着成膜装置の概略的な構成を示す説明図である。
【図4】蒸着成膜機構(第1成膜機構)のノズルの上面図(a)と、正面図(b)と、側面図(c)である。
【図5】スパッタリング成膜機構(第2成膜機構)の概略的な構成を示す説明図である。
【図6】蒸着成膜装置の概略的な構成を示す説明図である。
【図7】蒸着成膜機構(第3成膜機構)の説明図である。
【符号の説明】
【0070】
A 有機EL素子
G 基板
M マスク
1 アノード層
2 発光層(第3の層)
3 仕事関数調整層(第1の層)
4 カソード層(第2の層)
10 成膜システム
11 搬送装置
12 基板ロードロック装置12
13 スパッタリング蒸着成膜装置
14 アライメント装置
15 成形装置
16 マスクロードロック装置
17 CVD装置
18 基板反転装置
19 蒸着成膜装置
20 搬送機構
30 処理容器
31 排気管
32 真空ポンプ
34 ノズル
35 蒸着成膜機構(第1成膜機構)
36 スパッタリング成膜機構(第2成膜機構)
40 搬送機構
45 蒸気発生部
46 配管
50 容器
51 加熱機構
53 輸送ガス供給管
56 排気管
57 真空ポンプ
58 開閉弁
60 ターゲット
85 蒸着成膜機構(第3成膜機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に成膜する成膜装置であって、
処理容器の内部において、第1の層を成膜させる第1成膜機構と、第2の層を成膜させる第2成膜機構を備え、
前記第1成膜機構は、前記処理容器の内部に配置された、成膜材料の蒸気を基板に供給するノズルと、前記処理容器の外部に配置された、成膜材料の蒸気を発生させる蒸気発生部と、前記蒸気発生部で発生させた成膜材料の蒸気を前記ノズルに送る配管と、を備えることを特徴とする、成膜装置。
【請求項2】
前記蒸気発生部は、前記処理容器の外部に配置された容器と、前記容器の内部において成膜材料源を加熱する加熱機構を備えることを特徴とする、請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
成膜材料の蒸気をキャリアガスを用いて蒸気発生部内からノズルに送ることを特徴とする、請求項2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記容器が開閉自在であることを特徴とする、請求項2または3に記載の成膜装置。
【請求項5】
更に、前記処理容器内を減圧させる真空ポンプと、前記容器内を減圧させる真空ポンプと、前記配管を開閉させる開閉機構と、を備えることを特徴とする、請求項2〜4のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項6】
前記容器の容積が、前記処理容器の容積よりも小さいことを特徴とする、請求項5に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記処理容器内において、前記第1成膜機構および前記第2成膜機構の各処理位置に基板を搬送する搬送機構を備えることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項8】
前記第2成膜機構は、スパッタリングによって第2の層を成膜させるものであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項9】
基板に成膜する成膜システムであって、請求項1〜8のいずれかに記載の成膜装置と、第3の層を成膜させる第3成膜機構を処理容器の内部に備える別の成膜装置と、を備えることを特徴とする、成膜システム。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の前記成膜装置と前記別の成膜装置との間で基板を搬送する搬送装置を備えることを特徴とする、請求項9に記載の成膜システム。
【請求項11】
前記第3成膜機構は、基板表面に第3の層を蒸着によって成膜させるものであることを特徴とする、請求項9または10に記載の成膜システム。
【請求項12】
基板に成膜する成膜方法であって、
処理容器の外部で発生させた成膜材料の蒸気を、前記処理容器の内部に配置したノズルから基板に供給して基板に蒸着させることにより第1の層を成膜させた後、前記処理容器の内部において、第2の層を成膜させることを特徴とする、成膜方法。
【請求項13】
前記第2の層をスパッタリングによって成膜させることを特徴とする、請求項12に記載の成膜方法。
【請求項14】
予め、別の処理容器の内部において、第3の層を成膜させることを特徴とする、請求項12または13に記載の成膜方法。
【請求項15】
前記第3の層を蒸着によって成膜させることを特徴とする、請求項14に記載の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−38225(P2008−38225A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−216802(P2006−216802)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】