説明

成膜装置、水晶振動子製造システムおよび成膜方法

【課題】直立した状態の水晶振動子の電極上に形成される薄膜の厚さが鉛直方向にて偏ることを防止する。
【解決手段】主感応膜形成部6は、水晶片82が水平面に対して直立した状態にて水晶振動子81が内部に配置される処理槽61と、補助流体を処理槽61内にて鉛直方向に流しつつ成膜処理を行う形成液供給部62とを備え、薄膜となる物質の微粒子が処理槽61内に供給された後、静止状態の補助流体中において微粒子が鉛直方向の上側または下側である移動方向に移動する平均的な速度にて、成膜処理時に当該移動方向とは反対方向に補助流体を処理槽61内にて連続的に流すことにより、成膜処理時に処理槽61内の補助流体中の微粒子の一部が上昇し、一部が下降し、残りが滞留する状態が形成される。そして、処理槽61内にて滞留する微粒子を電極に付着させて成膜を行うことにより、電極上に形成される薄膜の厚さが鉛直方向にて偏ることを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動子の電極に薄膜を形成する技術、および、特定物質の検出用の水晶振動子を製造する水晶振動子製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特定の物質の濃度を検出する装置において水晶振動子が多く用いられており、板状の水晶片の両主面に1対の電極がそれぞれ形成された水晶振動子において、電極上に当該物質を吸着する感応膜を形成することにより、当該物質の検出用の水晶振動子(すなわち、当該装置における検出部となる水晶振動子)が製造される。感応膜は、例えば、電極上に形成された金属酸化物等の薄膜(以下、「中間膜」という。)上に形成され、特許文献1では、蒸気状態の金属酸化物前駆体を電極に接触させることにより電極上に金属酸化物前駆体の薄膜を形成し、金属酸化物前駆体の薄膜を加水分解することにより金属酸化物の薄膜である中間膜を形成し、その後、水晶振動子を有機材料を含む液が貯溜された処理槽に所定の時間だけ浸漬することにより中間膜上に感応膜を形成する手法が開示されている。
【0003】
また、特許文献1では背景技術として、金属酸化物前駆体の溶液を用いて金属酸化物の薄膜を形成する手法も開示されており、このように、液中に水晶振動子を浸漬することにより電極上に成膜を行う場合には、高価な真空成膜装置を用いて成膜を行う場合に比べて、1回の成膜処理にて多数の水晶振動子に対して、安価に薄膜を形成することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−61752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、1回の成膜処理にて多数の水晶振動子に対して成膜を行うために、水晶片が水平面に対して直立した状態にて水晶振動子を液中に浸漬する場合、液中にて薄膜となる物質の微粒子が浮上または沈降するため、電極上に形成される薄膜の厚さは鉛直方向(上下方向)にて偏ったものとなってしまい(すなわち、上部または下部にて厚くなる。)、この場合、後続の処理(たとえば、洗浄処理)にて薄膜の剥がれが生じ易くなる。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、直立した状態の水晶振動子の電極上に形成される薄膜の厚さが鉛直方向にて偏ることを防止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、板状の水晶片の両主面に1対の電極が形成された水晶振動子において、前記1対の電極の少なくとも1つの電極に薄膜を形成する成膜装置であって、水晶片が水平面に対して直立した状態にて水晶振動子が内部に配置される処理槽と、前記薄膜となる物質である微粒子、または、前記物質を含む微粒子が前記処理槽内に供給され、補助流体を前記処理槽内にて鉛直方向に流しつつ成膜処理を行う補助流体供給部とを備え、静止状態の前記補助流体中において前記微粒子が前記鉛直方向の上側または下側である移動方向に移動する平均的な速度にて、前記補助流体供給部が、前記成膜処理時に前記移動方向とは反対方向に前記補助流体を前記処理槽内にて連続的に流すことにより、前記成膜処理時に前記処理槽内の前記補助流体中の前記微粒子の一部が上昇し、一部が下降し、残りが滞留する状態が形成される。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の成膜装置であって、前記微粒子が前記薄膜となる物質であり、前記補助流体が液体である。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の成膜装置であって、前記水晶振動子が内部に配置される前記処理槽、または、もう1つの処理槽内において、処理液を前記補助流体と同じ方向に同じ速度にて流すことにより、前記薄膜に処理を施す処理液供給部をさらに備える。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の成膜装置であって、前記成膜処理の後に、純水よりも沸点が低い液体である乾燥媒体を前記水晶振動子が配置された前記処理槽内に供給することにより、前記処理槽内において、水を含む前記補助流体、または、水を含むとともに前記補助流体から置換されたリンス液を前記乾燥媒体に置換する乾燥媒体供給部をさらに備える。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の成膜装置であって、前記微粒子が前記薄膜となる物質を含む液滴であり、前記補助流体が気体である。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の成膜装置であって、前記水晶振動子が内部に配置される前記処理槽、または、もう1つの処理槽内に、処理液の液滴を供給するとともに、所定のガスを前記補助流体と同じ方向に同じ速度にて流すことにより、前記薄膜に処理を施す液滴供給部をさらに備える。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項1ないし6のいずれかに記載の成膜装置であって、成膜対象の水晶振動子が、複数の水晶振動子であり、所定の方向に一列に並ぶ水晶振動子を振動子列として、複数の振動子列を前記所定の方向に垂直な配列方向に配列した状態で前記複数の水晶振動子が保持されており、前記処理槽が、前記複数の振動子列が内部にそれぞれ配置される複数の処理槽である。
【0014】
請求項8に記載の発明は、請求項1ないし6のいずれかに記載の成膜装置であって、前記水晶振動子において、前記1対の電極および前記水晶片の前記1対の電極が形成された部位が第1振動子とされ、前記両主面にさらに形成された他の1対の電極および前記水晶片の前記他の1対の電極が形成された部位が第2振動子とされ、前記処理槽内が、前記1対の電極が配置されるとともに前記第1振動子用の薄膜が形成される空間と、前記他の1対の電極が配置されるとともに前記第2振動子用の薄膜が形成される空間とに仕切られている。
【0015】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の成膜装置であって、薄膜が形成された前記第1振動子がアルコール検出用の振動子であり、薄膜が形成された前記第2振動子が前記第1振動子からの出力補正用の振動子である。
【0016】
請求項10に記載の発明は、特定物質の検出用の水晶振動子を製造する水晶振動子製造システムであって、板状の水晶片の両主面に1対の電極が形成された水晶振動子において、前記1対の電極の少なくとも1つの電極上に中間膜を形成する中間膜形成部と、前記中間膜上に前記特定物質を吸着する感応膜を形成する感応膜形成部とを備え、前記中間膜形成部または前記感応膜形成部が、請求項1ないし9のいずれかに記載の成膜装置を備える。
【0017】
請求項11に記載の発明は、板状の水晶片の両主面に1対の電極が形成された水晶振動子において、前記1対の電極の少なくとも1つの電極に薄膜を形成する成膜方法であって、a)水晶片が水平面に対して直立した状態にて水晶振動子を処理槽内に配置する工程と、b)前記薄膜となる物質である微粒子、または、前記物質を含む微粒子を前記処理槽内に供給し、補助流体を前記処理槽内にて鉛直方向に流しつつ成膜処理を行う工程とを備え、静止状態の前記補助流体中において前記微粒子が前記鉛直方向の上側または下側である移動方向に移動する平均的な速度にて、前記b)工程の前記成膜処理時に前記移動方向とは反対方向に前記補助流体を前記処理槽内にて連続的に流すことにより、前記成膜処理時に前記処理槽内の前記補助流体中の前記微粒子の一部が上昇し、一部が下降し、残りが滞留する状態が形成される。
【0018】
請求項12に記載の発明は、請求項11に記載の成膜方法であって、前記微粒子が前記薄膜となる物質であり、前記補助流体が液体であり、前記成膜方法が、前記b)工程の後に、純水よりも沸点が低い液体である乾燥媒体を前記水晶振動子が配置された前記処理槽内に供給することにより、前記処理槽内において、水を含む前記補助流体、または、水を含むとともに前記補助流体から置換されたリンス液を前記乾燥媒体に置換する工程をさらに備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、処理槽内にて滞留する微粒子を電極に付着させて成膜を行うことにより、直立した状態の水晶振動子の電極上に形成される薄膜の厚さが鉛直方向にて偏ることを防止することができる。
【0020】
請求項3および6の発明では、電極上に形成された薄膜の剥がれを抑制しつつ当該薄膜に対して処理を行うことができ、請求項4の発明では、水晶振動子を処理槽から取り出す際に、薄膜の剥がれが生じることを抑制することができる。
【0021】
請求項7の発明では、複数の振動子列において電極上に形成される膜の均一性を向上することができ、請求項8の発明では、2対の電極上に2種類の薄膜をそれぞれ効率よく形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】水晶振動子の正面図である。
【図2】水晶振動子の背面図である。
【図3】水晶振動子製造システムの構成を示す図である。
【図4】キャリアの正面図である。
【図5】キャリアの側面図である。
【図6】ホルダの構成を示す図である。
【図7】主感応膜形成部の構成を示す図である。
【図8】本体部の内部を示す図である。
【図9】主感応膜の形成における設定流速の決定に用いられる装置の構成を示す図である。
【図10】光の減衰量の分布を示す図である。
【図11】処理槽内の微粒子を抽象的に示す図である。
【図12】中間膜形成部の構成を示す図である。
【図13】アルコール検出用の水晶振動子を製造する処理の流れを示す図である。
【図14】主感応膜形成部の他の例を示す図である。
【図15】主感応膜形成部のさらに他の例を示す図である。
【図16】主感応膜形成部のさらに他の例を示す図である。
【図17】仕切部材を示す図である。
【図18】水晶振動子の他の例を示す図である。
【図19】水晶振動子のさらに他の例を示す図である。
【図20】水晶振動子のさらに他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は水晶振動子81の正面図であり、図2は水晶振動子81の背面図である。図1および図2の水晶振動子81は、後述の水晶振動子製造システム1(図3参照)における処理対象となるものである。
【0024】
水晶振動子81は、例えば、直径9ミリメートル(mm)の略円形の板状(円形以外であってもよい。)の水晶片82を有し、図1に示す水晶片82の一の主面821上には、例えば金(Au)にて形成される2つの矩形の電極831,841が形成される。これらの電極831,841は端部(図1中の下側の端部)にて同様の材料にて形成される矩形の補助部851を介して互いに電気的に接続される。図2に示す水晶片82の他の主面822上には、電極831,841にそれぞれ対向する位置に(すなわち、主面822に垂直な方向において重なる位置に)電極831,841と同形状の電極832,842が同様に金にて形成される。電極832,842は離間しており、各電極832,842の外側(水晶片82の外縁側)には、電極832,842と電気的に接続する矩形の補助部852,853が同様の材料にて形成される。
【0025】
水晶振動子81は、所定の金属にて形成される引出線である3本のリード871,872,873を有し、これらのリード871〜873は、図1および図2の横方向に並んだ状態で、絶縁性材料にて形成されるブロック状の部材86(リード871〜873から周囲に突出する部材と捉えることができるため、以下、「フランジ部86」という。)にて固定される。リード871〜873は、フランジ部86の水晶片82側の面861および当該面861とは反対側の面862の双方から突出しており、面862から突出する部位は互いに平行に直線状に伸びている。また、両端のリード872,873の面861から突出する部位は、互いに離れるようにして外側に湾曲し、さらにその先端側にて面861から離れるように面861の垂線におよそ沿う方向に湾曲している。リード871〜873の面861から突出する部位の端部(以下、「サポータ」という。)8711,8721,8731は、水晶振動子81の側面から見て二股に分かれており、水晶片82は各サポータ8711,8721,8731にて挟持され、リード871〜873およびフランジ部86(「ベース」と総称される。)に対して固定される。
【0026】
中央のリード871のサポータ8711は、図1に示す水晶片82の主面821上にて補助部851に導電性接着剤にて接着され、両端のリード872,873のサポータ8721,8731は、図2に示す水晶片82の主面822上にて補助部852,853に導電性接着剤にてそれぞれ接着される。
【0027】
水晶振動子81において、両主面821,822にそれぞれ形成された1対の電極841,842、および、水晶片82の電極841,842が形成された部位は1つの振動子(以下、「第1振動子」と呼ぶ。)881となっており、両主面821,822にそれぞれ形成された他の1対の電極831,832、および、水晶片82の電極831,832が形成された部位も、第1振動子と独立して振動する1つの振動子(以下、「第2振動子」と呼ぶ。)882となっている。
【0028】
図3は、本発明の一の実施の形態に係る水晶振動子製造システム1の構成を示す図である。図3の水晶振動子製造システム1は、水晶振動子81の電極841(図1参照)に所定の薄膜を多層に形成することにより、アルコール検出用の水晶振動子(エチルアルコールを検出する装置(いわゆる、匂いセンサ)における検出部となる水晶振動子)を製造するものである。水晶振動子製造システム1では、後述するように複数の水晶振動子81が保持部であるキャリア9にて保持され、キャリア9内の全ての水晶振動子81に対して同様の処理が行われる(すなわち、バッチ式の処理が行われる。)。
【0029】
図3の水晶振動子製造システム1は、硫酸(HSO)および過酸化水素(H)を含む洗浄液を用いて水晶片82の表面(電極を含む。)のコンタミネーションや有機物等の不要物を除去する前洗浄部31、電極に対してチオール処理等の前処理を施す前処理部32、水晶片82の主面821上の1つの電極841上にエチルアルコールを検出するための多層膜を形成することにより電極841,842にて構成される主感応電極対を形成する主感応電極形成部4、キャリア9を前洗浄部31、前処理部32および主感応電極形成部4に搬送する搬送部2、並びに、水晶振動子製造システム1の各構成要素を制御する全体制御部10を備える。
【0030】
主感応電極形成部4は、電極841上に中間膜を形成する中間膜形成部5、中間膜が形成された直後の水晶片82を純水(実際には、純水の液滴)にて洗浄する洗浄部41、中間膜上にアルコール検出用の膜(すなわち、エチルアルコールを選択的に吸着させるための構造を有する膜であり、以下、「主感応膜」という。)を形成する主感応膜形成部6、並びに、主感応膜が形成された直後の水晶片82を純水にて洗浄する洗浄部42を備える。水晶振動子製造システム1では、処理前のキャリア9が載置される投入部11(ローダ)から、全体処理後のキャリア9が載置される払出部12(アンローダ)に向かって前洗浄部31、前処理部32、並びに、主感応電極形成部4の中間膜形成部5、洗浄部41、主感応膜形成部6および洗浄部42が順に一列に配列され、これらの構成のそれぞれでは、キャリア9を単位とする処理が行われる。
【0031】
ここで、キャリア9について説明する。図4はキャリア9の正面図であり、図5はキャリア9の側面図である。図4および図5に示すように、キャリア9は直方体の複数の辺に対応するフレーム(ただし、直方体の底面の外縁を構成する4つの辺に対応する部位(梁)は存在しない。)により形成されるキャリア本体91、および、それぞれが長いブロック状の複数のホルダ92を有する。
【0032】
図6に示すように、各ホルダ92は2つの分割部材921に分離可能とされ、当該2つの分割部材921の互いに対向する面(1つの部材(ホルダ92)として結合された際に当接する面)に形成される凹部923にてフランジ部86を挟持することにより、複数の水晶振動子81がホルダ92にて保持される。実際には、図5に示すように、複数の水晶振動子81は、水晶片82を下方に向けるとともに水晶片82が水平面に対して直立した状態で、ホルダ92の長手方向に配列して保持される。以下の説明では、各ホルダ92に保持されて、ホルダ92の長手方向に一列に並ぶ水晶振動子81を「振動子列80」と呼ぶ。
【0033】
各ホルダ92の端部には水平方向(図5の紙面に垂直な方向)に伸びる貫通孔が形成されており、図4に示すように、複数のホルダ92の貫通孔にはボルト922が通されるとともに、ボルト922の両端部はキャリア本体91の鉛直方向(図4の上下方向)に伸びる2本の梁にそれぞれ固定される。これにより、図4の複数のホルダ92は、ボルト922が伸びる方向(以下、「配列方向」という。)に配列した状態で、キャリア本体91により強固に支持され、複数のホルダ92にそれぞれ保持される複数の振動子列80(図5参照)がホルダ92の長手方向に垂直な配列方向に配列される。図4および図5ではキャリア9を簡略化して図示しており、実際には、キャリア9にて20〜40個のホルダ92が保持され、各ホルダ92には10〜20個の水晶振動子81が取り付けられることにより、キャリア9にて200〜800個の水晶振動子81が水平面上の直交する2方向に配列して保持されている。
【0034】
キャリア本体91の下部において底面に相当する矩形の四隅には下方に突出する4個の脚部913がそれぞれ形成される。また、キャリア本体91の上部には図4の横方向の両外側にそれぞれ突出するとともに、ホルダ92の長手方向に長くされる2つの鍔部912が形成される。
【0035】
キャリア9には、さらに、複数の水晶振動子81のうちの1つの水晶振動子81の発振周波数を取得する測定部(図示省略)が設けられ、測定部の出力値は無線発信器を介して全体制御部10(図3参照)に送信される。後述するアルコール検出用の水晶振動子の製造では、測定部の出力値に基づいて成膜処理の良否の判定(および、必要に応じて成膜処理の終了点の検出)がリアルタイムにて行われる(いわゆる、インサイチュウモニタリングが行われる)ことにより、不良となっているにもかかわらず、当該キャリア9の水晶振動子81に対して後続の処理が行われることが防止される。なお、不良となった水晶振動子81は、強酸性や強アルカリ性の溶液に浸漬することにより、電極上の膜が除去され、再度、アルコール検出用の水晶振動子の製造に用いられる。
【0036】
キャリア9が図3の搬送部2により搬送される際には、搬送部2の支持部21が有する2つの支持アーム211が開いた状態で、支持部21が昇降機構22により図3中にて二点鎖線にて示す位置まで下降し、2つの支持アーム211が鍔部912に係合可能な位置まで閉じた後、支持部21が上昇する。これにより、支持アーム211がキャリア本体91の鍔部912の下面に当接して、キャリア本体91が容易に支持される。続いて、横行機構23により、支持部21が昇降機構22と共にキャリア9に対する次の処理が行われる構成(例えば、洗浄部41)の上方まで移動し、支持部21が下降してキャリア9が内部に載置される。そして、支持アーム211が開いた後、支持部21が上昇して、キャリア9の搬送が完了する。
【0037】
図7は主感応膜形成部6の構成を示す図である。主感応膜形成部6は、シクロデキストリンの微粒子および溶媒(シクロデキストリンの微粒子の移動を補助する液体と捉えられるため、以下、「補助液」という。)を含む液(主感応膜を形成するための液であり、以下、「主感応膜形成液」という。)を貯溜するとともに互いに同様の形状となっている複数の処理槽61、複数の処理槽61が配置される無蓋の箱型の本体部60、並びに、主感応膜形成液を貯溜するとともに排出ライン63および供給ライン64を介して処理槽61および後述の供給槽612にそれぞれ接続される形成液供給部62を備える。既述のように、本実施の形態では、水晶振動子81の電極841が主感応膜形成部6および中間膜形成部5における薄膜の形成対象(すなわち、成膜対象)とされており、他の電極831,832,842、並びに、補助部851〜853は予めマスクにより覆われている。
【0038】
図7に示す複数の処理槽61は本体部60内にて図7の横方向に一列に配列されており、図7および本体部60の内部を処理槽61の配列方向に沿って見た場合の図8に示すように、各処理槽61は、水平かつ配列方向に垂直な方向に長い形状となっている。図7に示すように、複数の処理槽61は、キャリア9におけるホルダ92の配列方向のピッチに等しいピッチにて配列され、後述する主感応膜の形成時には、キャリア9が本体部60内の所定位置に載置されることにより、各水晶振動子81の水晶片82が水平面に対して直立した状態(すなわち、水晶片82の主面の法線が水平方向に平行な状態)にて、複数の振動子列80(図8参照)が複数の処理槽61内にそれぞれ(1対1にて)配置される。これにより、複数の振動子列80が1つの処理槽内に配置される場合に生じる意図しない方向への主感応膜形成液の流動が抑制され、複数の振動子列80において成膜条件が一定となり、電極上に形成される膜の均一性(膜厚および膜質の均一性)が向上される(後述の中間膜形成部5において同様)。
【0039】
また、複数の処理槽61の上部は、処理槽61の長手方向および配列方向に広がる供給槽612の底部に接続される。図7に示す供給ライン64の本体部60側の部位は分岐して複数の分岐供給ライン641となっており、供給槽612の底部において、互いに隣接する2つの処理槽61の間、および、端に位置する処理槽61の外側に分岐供給ライン641が接続される。供給ライン64には、形成液供給部62内の主感応膜形成液を送出する図示省略のポンプが設けられ、主感応膜形成液の液面が処理槽61の上端よりも上方の位置にて形成されるように、形成液供給部62内の主感応膜形成液が分岐供給ライン641を介して供給槽612に供給される。
【0040】
排出ライン63の本体部60側の部位も分岐して複数の分岐排出ライン631となっており、複数の分岐排出ライン631は複数の処理槽61の下部にそれぞれ接続される。分岐排出ライン631には図示省略のバルブが設けられ、バルブを制御することにより処理槽61内を上方から下方に向かって流れる(すなわち、ダウンフローの)主感応膜形成液の流速が調整される。また、処理槽61から排出される主感応膜形成液は形成液供給部62にて回収される。形成液供給部62では、主感応膜形成液の濃度や温度が調整されるとともに、主感応膜形成液中の不要物が除去されることにより、処理槽61から排出された主感応膜形成液の再利用が実現される。
【0041】
ここで、主感応膜形成部6の処理槽61内における主感応膜形成液の流速について述べる。図9は、成膜処理時の主感応膜形成液の流速を決定する際に用いられる装置73の構成を示す図である。
【0042】
流速決定用の装置73は、主感応膜形成液の溶媒(すなわち、補助液)のみを貯溜する透明な容器74、容器74の側方に配置され、容器74に向けて光を出射する光源部75、および、容器74を通過した光源部75からの光を受光する検出部76を備える。光源部75では、鉛直方向(図9中にてZ方向として示す。)に光源が移動可能とされており、検出部76においても受光部がZ方向に移動可能とされる。装置73では、検出部76の受光部が光源部75の光源とZ方向の同位置に配置されるように、光源部75および検出部76が同期して制御される。
【0043】
水晶振動子の製造の事前処理として、成膜処理時の主感応膜形成液の流速を決定する際には、容器74内にて静止状態(すなわち、補助液の流入および流出が無い状態)とされる補助液中に、容器74の下方に設けられる導入管741からシクロデキストリンの微粒子(成膜処理時の主感応膜形成液に含まれるものと同じ粒径分布の微粒子)が導入され、その直後に、光源部75の光源をZ方向の複数の位置に順次配置しつつ、検出部76にて容器74を通過した光の量(単位時間当たりの光の量)が検出される。検出部76では、シクロデキストリンの微粒子を導入する前における光源部75からの光の量(容器74を通過した光の量)も測定されており、これにより、シクロデキストリンの微粒子の導入直後において、容器74内の補助液におけるZ方向の複数の位置での光の減衰量(すなわち、導入前後での光量の減少量)が取得される。装置73では、補助液におけるZ方向の複数の位置での光の減衰量が所定時間置きに取得される。
【0044】
図10は、Z方向に関する光の減衰量の分布を示す図であり、図10中の最も左側がシクロデキストリンの微粒子の導入直後における光の減衰量の分布を示し、左から2番目、左から3番目、最も右側の順にシクロデキストリンの微粒子の導入からの経過時間が長くなっている。
【0045】
図10の最も左側に示すように、シクロデキストリンの微粒子の導入直後では、当該微粒子の存在により容器74の下部のみにて光の減衰量が大きくなっており、微粒子の導入からの経過時間が長くなるに従って、光の減衰量が最も大きくなるZ方向の位置(ピーク位置)が上方((+Z)側)へと移動している。これにより、静止状態の補助液中では、シクロデキストリンの微粒子の移動方向が鉛直方向の上側となる(すなわち、微粒子が浮上する)ことが判る。成膜処理時の主感応膜形成液の流速を決定する本処理では、図10中の光の減衰量の分布におけるピーク位置の移動速度(すなわち、減衰量の分布における最大値の位置が単位時間当たりに移動する平均的な距離)が、シクロデキストリンの微粒子の平均的な移動速度として取得される。なお、平均的な移動速度は、減衰量の平均値等、他の代表値の位置に基づいて求められてもよい。
【0046】
図7の主感応膜形成部6では、後述するアルコール検出用の水晶振動子の製造における主感応膜の成膜処理時に、上記事前処理にて求められたシクロデキストリンの微粒子の平均的な移動速度(以下、「主感応膜の形成における設定流速」という。)にて、処理槽61内の上方から下方に向かって主感応膜形成液が層流状態にて連続的に流される。これにより、図11に抽象的に示すように、処理槽61内の主感応膜形成液中の微粒子69の一部が上昇し、一部が下降し、残りが滞留する状態(流動層状態と捉えることもできる。)が形成されることとなる。なお、図11では、微粒子69から図11中の下側および上側に伸びる同じ長さの矢印A1,A2により、微粒子69に作用する下向きの力(重力および主感応膜形成液の流れから受ける力(流体抵抗)の和)と微粒子69に作用する上向きの力(浮力)とが釣り合っていることを示している。
【0047】
図12は中間膜形成部5の構成を示す図である。中間膜形成部5は、所定の金属酸化物前駆体(例えば、チタンブトキシド)および溶媒を含む液(中間膜を形成するための液であり、以下、「中間膜形成液」という。)の液滴が所定のガス(いわゆる、キャリアガスであり、以下、「補助ガス」という。)と共に内部に供給される複数の処理槽51、複数の処理槽51が配置される無蓋の箱型の本体部50、中間膜形成液の液滴を生成するとともに供給ライン53および排出ライン54を介して処理槽51および後述の回収部512にそれぞれに接続される形成液供給部52を備える。
【0048】
図12に示す中間膜形成部5では、図7の主感応膜形成部6と同様に、互いに同様の形状となっている複数の処理槽51が本体部50内にて図12の横方向に一列に配列されており、各処理槽51は、水平かつ配列方向に垂直な方向に長い形状となっている。互いに隣接する2つの処理槽51の間、および、端に位置する処理槽51の外側には、処理槽51内を通過した中間膜形成液の液滴および補助ガスを回収する回収部512が設けられ、本実施の形態では、各処理槽51を挟む2つの回収部512が、当該処理槽51の全周を囲むように連続しており、当該処理槽51の長手方向(図12の紙面に垂直な方向)の端部近傍からも液滴および補助ガスの回収が可能となっている。
【0049】
図12に示すように、複数の処理槽51は、キャリア9におけるホルダ92の配列方向のピッチに等しいピッチにて配列され、後述する中間膜の形成時には、キャリア9が本体部50内の所定位置に載置されることにより、各水晶振動子81の水晶片82が水平面に対して直立した状態にて、複数の振動子列80が複数の処理槽51内にそれぞれ配置される。
【0050】
また、供給ライン53の本体部50側の部位は分岐して複数の分岐供給ライン531となっており、複数の分岐供給ライン531は複数の処理槽51にそれぞれ接続される。形成液供給部52は、中間膜形成液の液滴を生成する液滴生成部を有し、当該液滴が補助ガスと共に供給ライン53を移動し、処理槽51の下方の流路拡大部511aおよび拡散板511bを介して処理槽51内に一様に供給される。形成液供給部52では、供給ライン53を流れる補助ガスの流速が変更可能とされ、処理槽51内を下方から上方に向かって鉛直方向に沿って流れる(すなわち、アップフローの)補助ガスの流速が調整される。
【0051】
排出ライン54の本体部50側の部位は分岐して複数の分岐排出ライン541となっており、複数の分岐排出ライン541は複数の回収部512にそれぞれ接続される。処理槽51から回収部512内に流入する中間膜形成液の液滴および補助ガスは、分岐排出ライン541を通過して形成液供給部52に排出される。なお、各処理槽51に対して個別に形成液供給部が設けられてもよい。
【0052】
中間膜形成部5の処理槽51内における補助ガスの流速も、既述の主感応膜形成液の流速の決定処理と同様の事前処理にて求められる。具体的には、図9の容器74内にて静止状態とされる補助ガス中に、導入管741に代えて容器74の上方に設けられる導入管から中間膜形成液の液滴が導入され、容器74内の補助ガスにおけるZ方向の複数の位置での光の減衰量が所定時間置きに取得される。このとき、静止状態の補助ガス中では、中間膜形成液の液滴の移動方向が鉛直方向の下側となり(すなわち、液滴が落下する。)、光の減衰量の分布におけるピーク位置の移動速度が、中間膜形成液の液滴の平均的な移動速度として取得される。
【0053】
図12の中間膜形成部5では、後述するアルコール検出用の水晶振動子の製造における中間膜の成膜処理時に、上記事前処理にて求められた中間膜形成液の液滴の平均的な移動速度(以下、「中間膜の形成における設定流速」という。)にて、下方から上方に向かって補助ガスが処理槽51内にて連続的に流される。これにより、処理槽51内の補助ガス中の液滴の一部が上昇し、一部が下降し、残りが滞留する状態が形成されることとなる。
【0054】
以上のように、図3の水晶振動子製造システム1では、主感応電極形成部4の中間膜形成部5および主感応膜形成部6のそれぞれが、所定の薄膜を成膜対象の電極上に形成する成膜装置となっている。実際には、水晶振動子製造システム1では、中間膜形成液および主感応膜形成液に代えて純水が用いられる点を除き、洗浄部41,42が、それぞれ中間膜形成部5および主感応膜形成部6と同様の構成となっており、図3では、洗浄部41にて処理液である純水の液滴を補助ガスと共に処理槽内に供給する液滴供給部411、および、洗浄部42にて処理液である純水を処理槽内に供給する処理液供給部421を破線の矩形にて図示している(形成液供給部52および形成液供給部62において同様)。
【0055】
図13は、水晶振動子製造システム1がアルコール検出用の水晶振動子を製造する処理の流れを示す図である。なお、図13中の破線の矩形にて示すステップS16aの処理は、後述の処理例にて行われるものであり、本処理例では行われない。
【0056】
図3の水晶振動子製造システム1では、複数の水晶振動子81を保持するキャリア9が投入部11に載置されると、搬送部2の支持アーム211によりキャリア本体91の鍔部912を下方から支持しつつ(図4参照)、キャリア9が前洗浄部31内に搬入される。前洗浄部31では、勢いよく流動する洗浄液を用いて水晶片82が洗浄される(ステップS11)。既述のように、電極831,832,842、および、補助部851〜853は予めマスクにより覆われているため、実際には、水晶片82の他の部位(主として電極841の表面)が洗浄されることとなる(後述の処理において同様)。前洗浄部31では、洗浄液による洗浄後、純水による洗浄および乾燥が行われる。
【0057】
続いて、キャリア9は前処理部32へと搬送され、温度および濃度が調整された所定の溶液中に水晶片82が予め定められた時間だけ浸漬されることにより、水晶片82の電極841に対してチオール処理等の前処理が施され、電極841の表面に水酸基が導入される(ステップS12)。これにより、後続の処理にて形成される中間膜と電極841との密着性が確保される。前処理部32においても、前処理の後、純水による洗浄および乾燥が行われる。
【0058】
前処理が完了すると、キャリア9が図12の中間膜形成部5の複数の処理槽51の上方に配置され、続いて、キャリア9が下降して複数の振動子列80が複数の処理槽51の内部にそれぞれ配置される(ステップS13a)。詳細には、各水晶振動子81の水晶片82が処理槽51内に配置される。そして、中間膜形成液の液滴が、形成液供給部52から複数の処理槽51内に同時に供給されることにより、複数の振動子列80の電極841上への中間膜の形成が同時に開始される。
【0059】
このとき、成膜開始直後において、既述の事前処理にて取得される中間膜の形成における設定流速よりも高い流速にて補助ガスが処理槽51内に流されることにより、処理槽51内に成膜に十分な量の中間膜形成液の液滴が供給される。その後、補助ガスの流速を、中間膜の形成における設定流速とすることにより、処理槽51内にて中間膜形成液の液滴の一部が上昇し、一部が下降し、残りが滞留する状態が形成され、主として滞留する液滴が電極841に付着して中間膜が形成される(ステップS13b)。
【0060】
中間膜形成部5における成膜処理(すなわち、中間膜の形成)が完了すると、キャリア9は図3の洗浄部41に搬送され、複数の振動子列80が複数の処理槽内にそれぞれ配置される。各処理槽内には、液滴供給部411により純水の液滴が供給されるとともに、中間膜の形成における設定流速とほぼ同じ速度にて、下方から上方に向かって補助ガスが処理槽内にて連続的に流される。本実施の形態では、中間膜形成部5により電極841上に形成される中間膜は、金属酸化物の前駆体の薄膜とされており、洗浄部41により当該前駆体の薄膜に純水の液滴が付与されることにより加水分解が生じて、電極841上に金属酸化物(例えば、二酸化チタン)の薄膜が形成される(ステップS14)。このとき、洗浄部41における補助ガスの流速が、中間膜の形成における設定流速とほぼ同じとされることにより、電極841上に形成された薄膜の剥がれを抑制しつつ、当該薄膜に対して加水分解を生じさせる処理が施されることとなる。なお、電極841上の薄膜への純水の液滴の付与は、洗浄も兼ねたものとなっており、その後、必要に応じて処理槽内に乾燥空気や窒素ガスが緩やかに付与されて乾燥が行われる(洗浄部42において同様)。
【0061】
洗浄部41での処理が完了すると、キャリア9が図7の主感応膜形成部6の複数の処理槽61の上方に配置され、続いて、キャリア9が下降して複数の振動子列80が複数の処理槽61の内部にそれぞれ配置される(ステップS15a)。詳細には、複数の振動子列80の水晶片82(の全体)が、複数の処理槽61内の主感応膜形成液中に浸漬され、複数の振動子列80の電極841上への主感応膜の形成が同時に開始される。
【0062】
このとき、成膜開始直後(水晶片82を処理槽61内に配置する直前であってもよい。)において、既述の事前処理にて取得される主感応膜の形成における設定流速よりも高い流速にて主感応膜形成液が処理槽61内に流されることにより、処理槽61内に成膜に十分な量のシクロデキストリンの微粒子が供給される。その後、主感応膜形成液の流速を、主感応膜の形成における設定流速とすることにより、処理槽61内にてシクロデキストリンの微粒子の一部が上昇し、一部が下降し、残りが滞留する状態が形成され、主として滞留する微粒子が電極841に付着する。これにより、複数の振動子列80において、エチルアルコールと包接錯体を形成するシクロデキストリンの薄膜が、主感応膜として所定の厚さ(例えば、1000〜4000オングストロームの厚さ)にて電極841の中間膜上に形成される(ステップS15b)。
【0063】
主感応膜形成部6における成膜処理(すなわち、主感応膜の形成)が完了すると、キャリア9は図3の洗浄部42に搬送され、複数の振動子列80が複数の処理槽内にそれぞれ配置される。各処理槽内には、処理液供給部421により主感応膜の形成における設定流速とほぼ同じ速度にて、上方から下方に向かって純水が処理槽内にて連続的に流され、主感応膜が形成された直後の水晶片82が純水にて洗浄される(ステップS16)。このとき、洗浄部42における純水の流速が、主感応膜の形成における設定流速とほぼ同じとされることにより、電極841上に形成された未乾燥の薄膜の剥がれを抑制しつつ当該薄膜に対して洗浄処理が施されることとなる。
【0064】
水晶振動子製造システム1の全体制御部10では、キャリア9に対するステップS13a〜S16の処理の回数がカウントされており、所定回数に到達していないことが確認されると(ステップS17)、上記ステップS13a〜S16の処理が繰り返され、電極841の主感応膜上に中間膜および主感応膜が形成される。このようにして、上記ステップS13a〜S16の処理が所定回数(例えば、2回以上10回以下)だけ繰り返されることにより(ステップS17)、電極841上に中間膜および主感応膜が交互積層され、これらの膜を有する電極841と、電極841に対向する電極842との集合である主感応電極対が完成する。なお、製造する水晶振動子に求められる性能等によっては、ステップS13a〜S16の処理は1回のみであってもよい。
【0065】
実際には、複数のキャリア9に対して前洗浄部31、前処理部32、並びに、主感応電極形成部4の中間膜形成部5、洗浄部41、主感応膜形成部6および洗浄部42における処理が並行して行われる。
【0066】
本実施の形態における図1の水晶振動子81では、電極831上に、空気中の水分、および、主感応膜に吸着されるエチルアルコール以外の物質のうち少なくとも一方を吸着させるための有機化合物を含む膜(実際には、エチルアルコールと包接錯体を形成しない膜であり、以下、「副感応膜」という。)が予め形成されている。具体的には、電極831上に無機化合物の中間膜、および、副感応膜が多層に(1層ずつであってもよい。)交互積層されており、これらの膜を有する電極831と、電極831に対向する電極832との集合が、後述するように、主感応電極対からの出力の補正に用いられる副感応電極対となっている。
【0067】
もちろん、図13の処理にて主感応電極対が形成された後に、副感応電極対が形成されてもよく、副感応電極対の形成では、使用する形成液(すなわち、中間膜形成液および副感応膜形成液)の種類が主感応電極形成部4の中間膜形成部5および主感応膜形成部6のものと相違する点を除き、上記水晶振動子製造システム1と同様の構成とされるもの(すなわち、中間膜形成部および副感応膜形成部を有する水晶振動子製造システム)が用いられてもよい。このような水晶振動子製造システムでは、水晶振動子81の電極831が成膜対象とされ、他の電極832,841,842、並びに、補助部851〜853は予めマスクにより覆われる。
【0068】
ここで、主感応電極対および副感応電極対を有する水晶振動子(専用の発振回路と合わせて、ツインセンサとも呼ばれる。)について説明する。既述のように、水晶振動子では、1対の電極841,842(すなわち、主感応電極対)を有する第1振動子881、および、他の1対の電極831,832(すなわち、副感応電極対)を有する第2振動子882が形成されており、第1および第2振動子881,882のそれぞれは、所定の基準環境下(常温および常湿、かつ、エチルアルコールの濃度がほぼ0%)において一定の発振周波数(以下、「基準周波数」という。)を示すものとなっている。
【0069】
また、主感応電極対における主感応膜はエチルアルコールを吸着するものとされ、水晶振動子がエチルアルコールを含む雰囲気中に置かれると、エチルアルコールの吸着により主感応膜の質量が増大する。したがって、当該雰囲気中では第1振動子881における発振周波数が基準周波数から変化する。このとき、第1振動子881における発振周波数の変化は、正確には、エチルアルコールの吸着の影響以外に、基準環境からの温度および湿度の変化、並びに、主感応膜に吸着されるエチルアルコール以外の物質の影響も含んでいる。副感応電極対における副感応膜は水分および主感応膜に吸着されるエチルアルコール以外の物質のうち少なくとも一方を吸着するものとされ、当該雰囲気中では、基準環境からの温度および湿度の変化や、当該物質の影響により第2振動子882における発振周波数が基準周波数から変化する。よって、第1振動子881における発振周波数の変化量から第2振動子882における発振周波数の変化量を引く(または、これらの変化量を用いた所定の演算を行う)ことにより、第1振動子881におけるエチルアルコール以外の要因による周波数変化をキャンセルして、エチルアルコールの濃度を精度よく検出することが可能となる。以上のように、水晶振動子では、第1振動子881がアルコール検出用の振動子となり、第2振動子882が、第1振動子881からの出力補正用の振動子となっている。実際の水晶振動子では、主感応電極対において主感応膜を多層に積層することにより、感度を向上することが実現されている。
【0070】
なお、副感応電極対が副感応膜を有していないアルコール検出用の水晶振動子が製造されてもよく、この場合であっても、副感応電極対を有する第2振動子882では、基準環境からの温度の変化の影響による周波数変化が発生するため、第1振動子881における周波数変化に対する温度補償が可能となる。
【0071】
ところで、水晶片が水平面に対して直立した状態にて水晶振動子を静止状態の液中に浸漬することにより、電極上に成膜を行う場合、当該液中にて薄膜となる物質の微粒子が浮上または沈降するため、電極上に形成される薄膜の厚さは鉛直方向にて偏ったものとなってしまい(すなわち、上部および下部の一方にて、他方よりも膜が厚くなる。)、後続の処理(例えば、洗浄処理)にて、未乾燥の薄膜の剥がれが生じ易くなる。また、成膜用の液を鉛直方向に流しながら成膜を行う場合でも、その流速によっては電極上に形成される薄膜の厚さが鉛直方向にて偏ってしまう。このような現象は、薄膜となる物質を含む液の微小な液滴が供給された空間中にて電極上に薄膜を形成する場合にも同様に生じてしまう。
【0072】
これに対し、図7の主感応膜形成部6では、主感応膜となる物質であるシクロデキストリンの微粒子が処理槽61内に供給された後、補助流体である主感応膜形成液の溶媒(すなわち、補助液)を、静止状態の補助流体中の微粒子の移動方向とは反対方向に、主感応膜の形成における設定流速にて連続的に流しつつ成膜処理が行われる。同様に、図12の中間膜形成部5では、中間膜となる物質を含む微粒子である中間膜形成液の液滴が処理槽51内に供給された後、補助流体である補助ガスを、静止状態の補助流体中の微粒子の移動方向とは反対方向に、中間膜の形成における設定流速にて連続的に流しつつ成膜処理が行われる。その結果、主感応膜形成部6および中間膜形成部5では、成膜処理時に処理槽61,51内の補助流体中の微粒子の一部が上昇し、一部が下降し、残りが滞留する状態(不要な力が作用していない状態と捉えられる。)が形成され、処理槽61,51内にて滞留する微粒子を、その拡散が律速となる条件下にて電極に付着させて成膜を行うことにより、直立した状態の水晶振動子の電極上に形成される薄膜の厚さが鉛直方向にて偏ることを防止することができる。また、成膜処理中、または、後続の処理にて薄膜の剥がれが生じることを抑制して、アルコール検出用の水晶振動子の製造に係る歩留まりを向上することができる。
【0073】
次に、所定の条件下において補助流体中の微粒子に作用する力について述べる。ここでは、微粒子の形状が半径R[m]の球であるものとし、補助流体の比重をρf[kg/m]、重力加速度をg[m/s]、補助流体の流速をv[m/s]、補助流体の流れの方向(鉛直方向)に垂直な面に投影した微粒子の面積をA(=π・R)[m]、球の抵抗係数をCdとして、微粒子に作用する流体抵抗(補助流体の流れから受ける鉛直方向の力)Fd[kgf]が数1により表されるものとしている。
【0074】
【数1】

【0075】
また、微粒子の体積をV(=4・π・R/3)[m]として、補助流体が液体である場合の微粒子の浮力Fb[kgf]は数2により表され、微粒子の比重をρm[kg/m]として、微粒子の重力G[kgf]は数3により表される。
【0076】
【数2】

【0077】
【数3】

【0078】
主感応膜形成液にて成膜を行う際に、補助流体である主感応膜形成液中の溶媒(補助液)が20℃の水であり、20℃の水の比重ρfを998.23[kg/m]、シクロデキストリンの比重(嵩比重)ρmを700[kg/m]、重力加速度gを9.81[m/s]、数1中の球の抵抗係数Cdを0.4(一定)とした場合に、シクロデキストリンの微粒子に鉛直方向に作用する力(すなわち、流体抵抗Fd、浮力Fbおよび重力G)が釣り合う条件は、シクロデキストリンの粒子径(半径)Rが10[nm]である場合には、補助流体である水を下側に流速0.31[mm/s]にて流すときであり、粒子径Rが100[nm]である場合には、水を下側に流速0.99[mm/s]にて流すときである。なお、これらの場合では、シクロデキストリンの微粒子において浮力と、重力および流体抵抗の和とが釣り合うこととなる。したがって、上記の条件下では、シクロデキストリンの微粒子の粒子径が10〜100[nm]である場合に、補助流体である水を下側に流速0.31〜0.99[mm/s]にて流すと、微粒子の一部が処理槽内にて滞留する状態が形成される。
【0079】
なお、水および二酸化チタンの微粒子を含む中間膜形成液にて成膜を行う際に(補助流体は水(液体)となる。)、二酸化チタンの比重ρmを4000[kg/m]とする場合には、二酸化チタンの微粒子に作用する力が釣り合う条件は、微粒子の粒子径Rが10[nm]である場合には、水を上側に流速0.99[mm/s]にて流す(すなわち、オーバフローとする)ときであり、粒子径Rが100[nm]である場合には、水を上側に流速3.14[mm/s]にて流すときである。なお、これらの場合では、二酸化チタンの微粒子において浮力および流体抵抗の和と、重力とが釣り合うこととなる。したがって、上記の条件下では、二酸化チタンの微粒子の粒子径が10〜100[nm]である場合に、補助流体である水を上側に流速0.99〜3.14[mm/s]にて流すと、微粒子の一部が処理槽内にて滞留する状態が形成される。
【0080】
また、中間膜形成液を液滴状態として成膜を行う際に、補助流体である補助ガスが20℃の空気であり、20℃の空気の比重ρfを1.29[kg/m]とし、微粒子である中間膜形成液の液滴の比重ρmを4000[kg/m]と仮定した場合に、当該微粒子に作用する力が釣り合う条件は、微粒子の粒子径Rが10[nm]である場合には、補助流体である空気を上側に流速31.8[mm/s]にて流すときであり、粒子径Rが100[nm]である場合には、空気を上側に流速100.7[mm/s]にて流すときである。なお、これらの場合では、微粒子において流体抵抗と重力とが釣り合うこととなる。したがって、上記の条件下では、微粒子の粒子径が10〜100[nm]である場合に、補助流体である空気を上側に流速31.8〜101[mm/s]にて流すと、微粒子の一部が処理槽内にて滞留する状態が形成される。
【0081】
なお、補助流体を20℃の空気とし、シクロデキストリンおよび水を含む主感応膜形成液を液滴状態として成膜を行う際に、微粒子である主感応膜形成液の液滴の比重ρmを700[kg/m]と仮定した場合には、当該微粒子に作用する力が釣り合う条件は、微粒子の粒子径Rが10[nm]である場合には、空気を上側に流速13.3[mm/s]にて流すときであり、粒子径Rが100[nm]である場合には、空気を上側に流速42.1[mm/s]にて流すときである。したがって、上記の条件下では、微粒子の粒子径が10〜100[nm]である場合に、補助流体である空気を上側に流速13.3〜42.1[mm/s]にて流すと、微粒子の一部が処理槽内にて滞留する状態が形成される。
【0082】
次に、主感応膜形成部の他の例について説明する。図14は、主感応膜形成部6aの他の例の一部を示す図であり、処理槽61への液体の供給に係る構成のみを示している。図14に示すように、主感応膜形成部6aは、形成液供給部62に加えて、成膜処理の後に処理槽61内に水を含むリンス液(純水自体であってもよい。)を供給して処理槽61内にてリンス液を貯溜させるリンス液供給部65、および、所定の乾燥媒体を処理槽61内に供給して処理槽61内のリンス液を乾燥媒体に置換させる乾燥媒体供給部66を備える。他の構成は、図7の主感応膜形成部6と同様である。なお、図14の主感応膜形成部6aを有する水晶振動子製造システム1では、洗浄部42が省略される。
【0083】
図14の主感応膜形成部6aにおける処理では、図13を参照して説明した場合と同様に(ただし、本処理例では、図13中の破線の矩形にて示すステップS16aの処理も行われる。)、水晶振動子81が配置された処理槽61内にて主感応膜形成液を鉛直方向に流しつつ成膜処理が行われ、中間膜上に主感応膜が形成される(ステップS15a,S15b)。主感応膜の形成が完了した後、形成液供給部62からの主感応膜形成液の供給が停止され、続いて、リンス液供給部65から(供給槽612を介して)処理槽61内にリンス液を供給することにより、処理槽61内の主感応膜形成液がリンス液に置換され、水晶振動子81に対して洗浄処理が施される(ステップS16)。このとき、リンス液は主感応膜の形成における設定流速とほぼ同じ流速にて、主感応膜の形成時と同じ方向(すなわち、鉛直方向の下側)に向かって連続的に流される。その後、乾燥媒体供給部66から処理槽61内に乾燥媒体を供給することにより、処理槽61内のリンス液が乾燥媒体に置換される(ステップS16a)。
【0084】
ここで、乾燥媒体は、エチルアルコール、あるいは、界面活性剤を含むHFE(ハイドロフルオロエーテル)やHFC(ハイドロフルオロカーボン)等の純水よりも沸点が低い液体とされる。主感応膜形成部6aでは、乾燥媒体中の水晶振動子81が処理槽61から取り出され、必要に応じて中間膜の形成、中間膜の洗浄、主感応膜の形成、主感応膜の洗浄、および、処理槽61内の液体の乾燥媒体への置換が繰り返される(ステップS17,S13a〜S16a)。
【0085】
ところで、水晶振動子81が水を含むリンス液中に浸漬された状態で、水晶振動子81を処理槽61から取り出す場合、主感応膜上にリンス液の液滴が付着した状態となり、当該液滴が落下する際に、主感応膜の剥がれが生じる場合がある。これに対し、図14の主感応膜形成部6aでは、主感応膜が形成された水晶振動子81を処理槽61内にてリンス液にて洗浄した後、処理槽61内のリンス液が乾燥媒体に置換される。これにより、水晶振動子81を処理槽61から取り出す際に、主感応膜上の乾燥媒体が速やかに蒸発するとともに、このような液体は、通常、表面張力が弱く、主感応膜上への付着量も少なくなるため、主感応膜の剥がれが生じることを抑制することが可能となる。主感応膜形成部6aでは、リンス液による水晶振動子81の洗浄が省略されてもよく、この場合に、水を含む補助液が用いられるときには、処理槽61内の補助液が乾燥媒体に置換される。
【0086】
次に、水晶振動子製造システム1において主感応膜形成部6に代えて設けられる感応膜形成部について説明する。感応膜形成部では、水晶片82上に主感応膜および副感応膜が同時に形成可能とされる。
【0087】
図15および図16は感応膜形成部6bを示す図である。図15は感応膜形成部6bの処理槽61a内の水晶片82を主面822側から見た図であり、図16は水晶片82を主面821側から見た図である。図15および図16の感応膜形成部6bを有する水晶振動子製造システム1では、図1および図2の水晶振動子81のベース(すなわち、リード871〜873およびフランジ部86)を省略したものが処理対象となっており、感応膜形成部6bは、後述する処理槽61aの構造、および、水晶片82が後述の水晶片支持部71にて支持される点を除き、図7の主感応膜形成部6と同様の構成となっている。
【0088】
図15および図16の感応膜形成部6bでは、水晶片82は電極832,842が図15の横方向(水平方向)に並ぶ状態にて、水晶片支持部71により支持されている。水晶片支持部71は導電性を有する3個の支持要素711,712,713(ただし、耐薬品性を有する絶縁性材料にて被覆されている。)を有し、各支持要素711〜713の先端には水晶片82を挟持するクランプ部721が設けられる。実際には、図17に示すようにキャリア9の各ホルダ92aが、それぞれが水晶片82を保持する複数の水晶片支持部71を支持しており、水晶片82が互いに平行な状態にて、複数の水晶振動子81が振動子列80としてホルダ92aの長手方向に一列に並んでいる。また、感応膜形成部6bには複数の処理槽61aが設けられ、複数の振動子列80が複数の処理槽61a内にそれぞれ配置される。
【0089】
既述のように、図16の水晶片82において、1対の電極841,842の電極841と、他の1対の電極831,832の電極841と同じ主面821に形成される電極831とは、補助部851を介して互いに電気的に接続しており、支持要素711のクランプ部721はこの補助部851に接続される。また、図15に示すように、支持要素712のクランプ部721は電極832に連続する補助部852に接続され、支持要素713のクランプ部721は電極842に連続する補助部853に接続される。支持要素711〜713は測定部(図示省略)に接続され、第1および第2振動子881,882のそれぞれの発振周波数が取得可能とされる。
【0090】
処理槽61a内には、ホルダ92aの長手方向に長い仕切部材67が設けられ(図17参照)、図15および図16に示すように、仕切部材67により処理槽61a内がホルダ92aの長手方向に垂直かつ水平な方向に関して、2つの空間(以下、それぞれ「分割槽613a」および「分割槽613b」と呼ぶ。)に仕切られる。図17の櫛歯状の仕切部材67の複数の切欠き部671にはホルダ92aにて保持される複数の水晶片82がそれぞれ挿入されており、図15および図16に示すように、各水晶片82の1対の電極841,842が一方の分割槽613a内に配置され、他の1対の電極831,832が他方の分割槽613b内に配置される。本処理例では、1対の電極841,842の双方に第1振動子881用の薄膜である主感応膜が形成され、他の1対の電極831,832の双方に第2振動子882用の薄膜である副感応膜が形成される。
【0091】
感応膜形成部6bでは、分割槽613aの上部にて外側(分割槽613bとは反対側)に設けられる供給槽612aを介して分割槽613a内に主感応膜形成液が供給され、分割槽613bの上部にて外側(分割槽613aとは反対側)に設けられる供給槽612bを介して分割槽613b内に副感応膜形成液が供給される。実際には、水晶片82と仕切部材67との間には微小な間隙が存在するため、主感応膜形成液と副感応膜形成液とが僅かに混ざるが、製造される水晶振動子の性能においては特に問題とはならない。図15の感応膜形成部6bを有する水晶振動子製造システム1では、中間膜形成部にも感応膜形成部6bと同様に2つの分割槽が形成されており、2つの分割槽に2種類の中間膜形成液の液滴がそれぞれ供給される。
【0092】
感応膜形成部6b(および中間膜形成部)では、図7の主感応膜形成部6の場合と同様にして、主感応膜の形成における設定流速、および、副感応膜の形成における設定流速が求められ、分割槽613aでは、主感応膜の形成における設定流速にて、静止状態の補助流体中の微粒子の移動方向とは反対方向に補助流体(主感応膜形成液)が連続的に流され、分割槽613bでは、副感応膜の形成における設定流速にて、静止状態の補助流体中の微粒子の移動方向とは反対方向に補助流体(副感応膜形成液)が連続的に流される。これにより、電極上に形成される薄膜の厚さが鉛直方向にて偏ることを防止しつつ、水晶片82の2対の電極上に2種類の薄膜(感応膜形成部6bでは、主感応膜および副感応膜)をそれぞれ効率よく形成することが実現される。
【0093】
なお、感応膜形成部6bの分割槽613aにて主感応膜形成液中に浸漬される1対の電極841,842の一方の電極にマスクが形成され、他方の電極のみが成膜対象とされてもよい(電極831,832において同様)。さらに、図3の水晶振動子製造システム1にて、電極841,842の双方が成膜対象とされ、電極831,832(および、補助部851〜853)のみにマスクが形成されてもよい。以上のように、水晶振動子81の電極に対して薄膜を形成する成膜装置では、1対の電極の少なくとも1つの電極が成膜対象とされる(副感応電極対の形成に係る成膜装置において同様)。
【0094】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0095】
図18に示すように水晶片82の主面821上の電極831,841が分離した水晶振動子81aが、水晶振動子製造システム1における処理対象とされてもよい。ただし、図1に示す水晶片82では、電極831,841が接続していることにより、図18に示す水晶片82のように電極831,841が分離している場合に比べて、電極831,841の表面をより平滑化する(粗さを低くする)ことができ、電極841上により好ましい(欠陥が少ない)薄膜を形成することが容易に可能となる。また、水晶振動子81においてベースを設ける場合には、電極831,841を接続させることにより、部品点数(リードの個数)を少なくすることができ、水晶振動子81の製造に係るコストを削減することができる。
【0096】
また、図19および図20に示すように、水晶片82の両主面821,822に1対の電極831a,832aのみが形成された水晶振動子81bが、水晶振動子製造システム1における処理対象とされてもよく、この場合、当該1対の電極831a,832aの少なくとも一方の電極に薄膜が形成される。
【0097】
また、キャリア9では、キャリア本体91が複数のホルダ92,92aを配列方向に配列した状態で支持することにより、多数の水晶振動子81を直交する2方向に配列しつつ容易に保持することが可能となるが、複数の振動子列80が列方向(各振動子列80にて水晶振動子81が並ぶ方向)に垂直な配列方向に配列されるのであるならば、複数の振動子列80は、キャリア9とは異なる設計の保持部にて保持されてもよい。
【0098】
主感応膜形成部6,6aおよび感応膜形成部6bでは、補助流体供給部である形成液供給部62によりシクロデキストリンの微粒子が、補助流体である主感応膜形成液の溶媒(すなわち、補助液)と共に処理槽61,61a内に供給されるが、シクロデキストリンの微粒子と補助液とが異なる供給部により処理槽内に供給されてもよい。同様に、中間膜形成部5では、補助流体供給部である形成液供給部52により中間膜形成液の液滴が、補助流体である補助ガスと共に処理槽51内に供給されるが、中間膜形成液の液滴と補助ガスとが異なる供給部により処理槽内に供給されてもよい。
【0099】
水晶振動子製造システム1では、主感応膜形成部にて気体の補助流体を用いた成膜が行われ、中間膜形成部にて液体の補助流体を用いた成膜が行われてもよい。
【0100】
水晶振動子製造システム1では、純水以外の他の処理液を用いて、電極上に形成された薄膜に対する各種処理が行われてもよい。また、中間膜形成部および感応膜形成部においても、図14の主感応膜形成部6aのように、処理槽内において成膜処理時の補助流体と同じ方向に同じ速度にて処理液を流すことにより、または、処理槽内に処理液の液滴を供給しつつ成膜処理時の補助流体と同じ方向に同じ速度にて所定のガスを流すことにより、電極上の薄膜に対する処理が行われてもよい。なお、成膜装置である主感応膜形成部、中間膜形成部および感応膜形成部にて形成された薄膜に対する処理を行う洗浄部は、当該成膜装置の一部として捉えることができる。
【0101】
処理槽内にて滞留する微粒子を電極に付着させて成膜を行う上記手法は、主感応膜の形成、および、中間膜の形成のいずれかのみにて用いられてもよい。水晶振動子製造システム1では、主感応膜形成部または中間膜形成部が上記手法を用いる成膜装置を有することにより、アルコール検出用の水晶振動子を安定した品質にて製造することが実現される(副感応膜の形成に係る水晶振動子製造システムにおいて同様)。
【0102】
アルコール検出用の水晶振動子の製造において形成される主感応膜は、シクロデキストリン以外のエチルアルコールと包接錯体を形成する有機化合物を含むものであってもよい。また、副感応電極対では、エチルアルコールに対する反応特性が主感応電極対と相違するのであるならば、副感応膜として様々な薄膜を用いることができる。さらに、水晶振動子製造システム1では、エチルアルコール以外の特定物質(例えば、毒性ガス、可燃性ガス、煙(火災時の煙等)、特定の危険物、環境ホルモン、特定の汚染物質(土壌汚染物質等)、エチルアルコールまたは薬物の摂取による代謝物、疾病による代謝物等)の検出用の水晶振動子が製造されてもよく、水晶振動子製造システム1における成膜装置にて用いられる膜形成液は、水晶振動子の用途に応じた薄膜となる物質を含むものに適宜変更される。
【符号の説明】
【0103】
1 水晶振動子製造システム
5 中間膜形成部
6,6a 主感応膜形成部
6b 感応膜形成部
51,61,61a 処理槽
52,62 形成液供給部
65 リンス液供給部
66 乾燥媒体供給部
69 微粒子
80 振動子列
81,81a,81b 水晶振動子
82 水晶片
411 液滴供給部
421 処理液供給部
613a,613b 分割槽
821,822 主面
831,831a,832,832a,841,842 電極
881 第1振動子
882 第2振動子
S13a,S13b,S15a,S15b,S16a ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の水晶片の両主面に1対の電極が形成された水晶振動子において、前記1対の電極の少なくとも1つの電極に薄膜を形成する成膜装置であって、
水晶片が水平面に対して直立した状態にて水晶振動子が内部に配置される処理槽と、
前記薄膜となる物質である微粒子、または、前記物質を含む微粒子が前記処理槽内に供給され、補助流体を前記処理槽内にて鉛直方向に流しつつ成膜処理を行う補助流体供給部と、
を備え、
静止状態の前記補助流体中において前記微粒子が前記鉛直方向の上側または下側である移動方向に移動する平均的な速度にて、前記補助流体供給部が、前記成膜処理時に前記移動方向とは反対方向に前記補助流体を前記処理槽内にて連続的に流すことにより、前記成膜処理時に前記処理槽内の前記補助流体中の前記微粒子の一部が上昇し、一部が下降し、残りが滞留する状態が形成されることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
請求項1に記載の成膜装置であって、
前記微粒子が前記薄膜となる物質であり、
前記補助流体が液体であることを特徴とする成膜装置。
【請求項3】
請求項2に記載の成膜装置であって、
前記水晶振動子が内部に配置される前記処理槽、または、もう1つの処理槽内において、処理液を前記補助流体と同じ方向に同じ速度にて流すことにより、前記薄膜に処理を施す処理液供給部をさらに備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項4】
請求項2に記載の成膜装置であって、
前記成膜処理の後に、純水よりも沸点が低い液体である乾燥媒体を前記水晶振動子が配置された前記処理槽内に供給することにより、前記処理槽内において、水を含む前記補助流体、または、水を含むとともに前記補助流体から置換されたリンス液を前記乾燥媒体に置換する乾燥媒体供給部をさらに備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項5】
請求項1に記載の成膜装置であって、
前記微粒子が前記薄膜となる物質を含む液滴であり、
前記補助流体が気体であることを特徴とする成膜装置。
【請求項6】
請求項5に記載の成膜装置であって、
前記水晶振動子が内部に配置される前記処理槽、または、もう1つの処理槽内に、処理液の液滴を供給するとともに、所定のガスを前記補助流体と同じ方向に同じ速度にて流すことにより、前記薄膜に処理を施す液滴供給部をさらに備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の成膜装置であって、
成膜対象の水晶振動子が、複数の水晶振動子であり、
所定の方向に一列に並ぶ水晶振動子を振動子列として、複数の振動子列を前記所定の方向に垂直な配列方向に配列した状態で前記複数の水晶振動子が保持されており、
前記処理槽が、前記複数の振動子列が内部にそれぞれ配置される複数の処理槽であることを特徴とする成膜装置。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれかに記載の成膜装置であって、
前記水晶振動子において、前記1対の電極および前記水晶片の前記1対の電極が形成された部位が第1振動子とされ、前記両主面にさらに形成された他の1対の電極および前記水晶片の前記他の1対の電極が形成された部位が第2振動子とされ、
前記処理槽内が、前記1対の電極が配置されるとともに前記第1振動子用の薄膜が形成される空間と、前記他の1対の電極が配置されるとともに前記第2振動子用の薄膜が形成される空間とに仕切られていることを特徴とする成膜装置。
【請求項9】
請求項8に記載の成膜装置であって、
薄膜が形成された前記第1振動子がアルコール検出用の振動子であり、薄膜が形成された前記第2振動子が前記第1振動子からの出力補正用の振動子であることを特徴とする成膜装置。
【請求項10】
特定物質の検出用の水晶振動子を製造する水晶振動子製造システムであって、
板状の水晶片の両主面に1対の電極が形成された水晶振動子において、前記1対の電極の少なくとも1つの電極上に中間膜を形成する中間膜形成部と、
前記中間膜上に前記特定物質を吸着する感応膜を形成する感応膜形成部と、
を備え、
前記中間膜形成部または前記感応膜形成部が、請求項1ないし9のいずれかに記載の成膜装置を備えることを特徴とする水晶振動子製造システム。
【請求項11】
板状の水晶片の両主面に1対の電極が形成された水晶振動子において、前記1対の電極の少なくとも1つの電極に薄膜を形成する成膜方法であって、
a)水晶片が水平面に対して直立した状態にて水晶振動子を処理槽内に配置する工程と、
b)前記薄膜となる物質である微粒子、または、前記物質を含む微粒子を前記処理槽内に供給し、補助流体を前記処理槽内にて鉛直方向に流しつつ成膜処理を行う工程と、
を備え、
静止状態の前記補助流体中において前記微粒子が前記鉛直方向の上側または下側である移動方向に移動する平均的な速度にて、前記b)工程の前記成膜処理時に前記移動方向とは反対方向に前記補助流体を前記処理槽内にて連続的に流すことにより、前記成膜処理時に前記処理槽内の前記補助流体中の前記微粒子の一部が上昇し、一部が下降し、残りが滞留する状態が形成されることを特徴とする成膜方法。
【請求項12】
請求項11に記載の成膜方法であって、
前記微粒子が前記薄膜となる物質であり、
前記補助流体が液体であり、
前記成膜方法が、
前記b)工程の後に、純水よりも沸点が低い液体である乾燥媒体を前記水晶振動子が配置された前記処理槽内に供給することにより、前記処理槽内において、水を含む前記補助流体、または、水を含むとともに前記補助流体から置換されたリンス液を前記乾燥媒体に置換する工程をさらに備えることを特徴とする成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−196128(P2010−196128A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43762(P2009−43762)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【出願人】(501048930)株式会社シームス (34)
【Fターム(参考)】