説明

成膜装置の噴射弁異常判断方法、気化器の噴射弁異常判断方法、成膜装置及び気化器

【課題】噴射弁3の異常を容易に把握するとともに、噴射弁3のメンテナンス時期を容易に把握することである。
【解決手段】液体原料を気化し、基板W上に堆積させて成膜するものであって、前記基板Wを内部に保持する成膜室2と、当該成膜室2内に前記液体原料又は気体を噴射する噴射弁3と、当該噴射弁3に液体原料又は気体を供給する供給路と、当該供給路上に設けられ、前記噴射弁3に供給される液体原料又は気体の流量を検出する流量計5とを備えた成膜装置1における前記噴射弁3の異常判断方法であって、前記噴射弁3を用いたときの前記供給路における前記液体原料又は気体の流量を測定する測定ステップと、前記測定ステップの測定流量と、正常な噴射弁3を用いたときの前記供給路における前記液体原料又は気体の基準流量とを比較して、その比較結果をパラメータとして、前記噴射弁3の異常を判断する異常判断ステップと、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、成膜装置に関し、特に化学気相成長法を用いた成膜装置に関するものであり、さらに当該成膜装置に用いられる噴射弁の異常を判断する異常判断方法に関するものである。また、気化器及び気化器の用いられる噴射弁の異常を判断する異常判断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の成膜装置には、例えば特許文献1に示すように、液体原料を噴射する1つの噴射弁(インジェクタ)が成膜室の上部に設けられ、液体原料を直接成膜室内に噴霧して、減圧沸騰して気化し、基板上に成膜するものがある。
【0003】
このとき、液体原料の成膜室内への供給量は、噴射弁の開度、開閉の回数、開閉の時間及び供給圧力等の条件に左右される。噴射弁が開いた時の開度が一定であれば、他の条件が一定の場合、毎回一定の吐出量が供給される。
【0004】
しかしながら、噴射弁の開度を例えば制御装置等により所定値に制御しているつもりであっても、噴射弁内部に液体原料などが付着することにより、噴射弁の開度が変化してしまうという問題がある。そうすると、開閉回数、開閉時間等の他の条件を一定に制御しても、吐出量が変化してしまい、思い通りに成膜することができないという問題がある。
【0005】
なお、噴射弁開度を管理し、吐出量の再現性を確保するためには、定期的又は毎回の開閉毎に開度の確認が必要である。
【特許文献1】特開2004−197135号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、噴射弁の異常を容易に把握するとともに、噴射弁のメンテナンス時期を容易に把握することをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係る成膜装置の噴射弁異常判断方法は、液体原料を気化し、基板上に堆積させて成膜するものであって、前記基板を内部に保持する成膜室と、当該成膜室内に前記液体原料又は気体を噴射する噴射弁と、当該噴射弁に液体原料又は気体を供給する供給路と、当該供給路上に設けられ、前記噴射弁に供給される液体原料又は気体の流量を検出する流量計とを備えた成膜装置における前記噴射弁の異常判断方法であって、前記噴射弁を用いたときの前記供給路における前記液体原料又は気体の流量を測定する測定ステップと、前記測定ステップの測定流量と、正常な噴射弁を用いたときの前記供給路における前記液体原料又は気体の基準流量とを比較して、その比較結果をパラメータとして、前記噴射弁の異常を判断する異常判断ステップと、を備えていることを特徴とする。
【0008】
このようなものであれば、噴射弁の異常を容易に把握することができ、噴射弁のメンテナンス時期を容易に把握することができるようになる。このことから、例えば膜厚や膜質等の成膜結果が変化する前に噴射弁のメンテナンスをすることができるので、再現性の良い成膜を得ることができる。
【0009】
前記異常判断ステップにおける比較を容易にするためには、測定流量を測定するときの噴射弁の開閉回数、開閉時間、液体原料又は気体の供給圧力等の条件と、基準流量を測定するときの噴射弁の開閉回数、開閉時間、液体原料又は気体の供給圧力等の条件とを同一にすることが望ましい。
【0010】
具体的には、前記異常判断ステップにおいて、前記測定流量が前記基準流量よりも小さい場合に、前記噴射弁の開度が正常時よりも小さい、すなわち噴射弁が異常であると判断するものであることが望ましい。
【0011】
供給路の具体的な実施の態様としては、前記供給路が液体原料を噴射弁に供給する液体原料供給路と、前記成膜室をパージするためにパージガスを供給するためにパージガス供給路とを備えていることが考えられる。このとき、流量計の具体的な設置位置としては、液体原料供給路上に設けても良いし、パージガス供給路上に設けても良い。
【0012】
さらに本発明に係る成膜装置の噴射弁異常判断方法としては、液体原料を気化し、基板上に堆積させて成膜するものであって、前記基板を内部に保持する成膜室と、前記成膜室内に液体原料又は気体を噴射する噴射弁と、前記成膜室内の圧力を測定する圧力計とを備えた成膜装置における前記噴射弁の異常判断方法であって、前記噴射弁を用いて前記成膜室内に液体原料又は気体を所定回数噴射したときの前記成膜室内の圧力上昇値を測定する測定ステップと、前記測定ステップにおける測定値と、正常な噴射弁を用いて前記成膜室内に液体原料又は気体を所定回数噴射したときの圧力上昇値とを比較して、その比較結果をパラメータとして、前記噴射弁の異常を判断する異常判断ステップと、を備えていることを特徴とする。
【0013】
このようなものであれば、流量計を必要とすることなく、従来成膜室内の圧力の調節に用いていた圧力計を用いて、噴射弁の異常を判断することができるようになる。なお、ここで所定回数には、1又は複数回が含まれる。
【0014】
また、本発明に係る気化器の噴射弁異常判断方法としては、液体を気化するための気化室に当該液体を噴射する噴射弁と、当該噴射弁に前記液体又は気体を供給する供給路と、当該供給路上に設けられ、前記噴射弁に供給される液体又は気体の流量を検出する流量計とを備えた気化器における前記噴射弁の異常判断方法であって、前記噴射弁を用いたときの前記供給路における前記液体又は気体の流量を測定する測定ステップと、前記測定ステップの測定流量と、正常な噴射弁を用いたときの前記供給路における前記液体又は気体の基準流量とを比較して、その比較結果をパラメータとして、前記噴射弁の異常を判断する異常判断ステップと、を備えていることを特徴とする。
【0015】
上記方法を実現するための本発明に係る成膜装置は、液体原料を気化し、基板上に堆積させて成膜する成膜装置であって、基板を内部に保持する成膜室と、前記成膜室内に液体原料又は気体を噴射する噴射弁と、前記噴射弁に液体原料又は気体を供給する供給路と、前記供給路上に設けられ、前記噴射弁に供給される液体原料又は気体の流量を測定する流量計と、前記流量計の測定結果を、前記噴射弁の異常を判断可能に出力する出力部と、を備えていることを特徴とする。
【0016】
このようなものであれば、流量計の測定結果が噴射弁の異常を判断可能に表示されているので、オペレータは噴射弁が異常であるか否かの判断を容易にすることができる。よって、噴射弁の異常を容易に把握するとともに、噴射弁のメンテナンス時期を容易に把握することができるようになる。
【0017】
ここで、「判断可能に出力する」とは、視覚的又は聴覚的に出力することをいい、特に視覚的に出力することに関して言うと、例えば液体原料又は気体の質量流量を示す数値と正常な噴射弁を用いたときの基準流量の数値とを同時に表示して比較が行えるように表示することである。また、後述するように、基準流量との比較結果を表示することも含む。
【0018】
また、噴射弁の異常の自動判別を可能にするためには、前記噴射弁が正常であるときの基準流量と、前記流量計の測定流量とを比較して、その比較結果をパラメータとして前記噴射弁に異常があるか否かを判断する判断部をさらに備え、前記出力部が、前記判断部の判断結果を出力するものであることが望ましい。
【0019】
また、上記成膜装置の噴射弁異常判断方法を実現する別の本発明に係る成膜装置としては、液体原料を気化し、基板上に堆積させて成膜する成膜装置であって、基板を内部に保持する成膜室と、前記成膜室内に液体原料又は気体を噴射する噴射弁と、前記成膜室内の圧力を測定する圧力計と、正常な噴射弁を用いて前記成膜室内に液体原料又は気体を噴射したときの圧力上昇値と、検査対象である噴射弁を用いて前記成膜室内に液体原料又は気体を噴射したときの圧力上昇値とを比較して、その比較結果をパラメータとして前記噴射弁が異常であると判断する判断部とを備えていることを特徴とする。
【0020】
このようなものであれば、流量計を必要とすることなく、従来成膜室内の圧力の調節に用いていた圧力計を用いることで、噴射弁の異常を自動で判断することができるようになる。
【0021】
また、上記方法を実現するための本発明に係る気化器は、液体を気化するための気化室に当該液体を噴射する噴射弁と、当該噴射弁に前記液体又は気体を供給する供給路と、当該供給路上に設けられ、前記噴射弁に供給される液体又は気体の流量を検出する流量計と、前記流量計の測定結果を、前記噴射弁の異常を判断可能に出力する出力部と、を備えていることを特徴とする。
【0022】
このようなものであれば、流量計の測定結果が噴射弁の異常を判断可能に表示されているので、オペレータは気化器の噴射弁が異常であるか否かの判断を容易にすることができる。よって、気化器の噴射弁の異常を容易に把握するとともに、噴射弁のメンテナンス時期を容易に把握することができるようになる。
【発明の効果】
【0023】
このように本発明によれば、噴射弁の実際の開度変化、つまり所定開度における噴射弁の吐出量の変化を把握することにより、噴射弁のメンテナンス時期を容易に把握することができるようになる。さらに、このことから、例えば膜厚や膜質等の成膜結果が変化する前に噴射弁のメンテナンスをすることができるので、再現性の良い成膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
<第1実施形態>
【0025】
以下に本発明の第1実施形態について図面を参照して説明する。
【0026】
本実施形態に係る成膜装置1は、図1に示すように、加工対象である基板W上に二酸化珪素(SiO2)膜を成膜するための成膜装置であり、液体原料を気化し、CVDにより基板W上に薄膜を堆積させることにより成膜するものである。
【0027】
具体的な装置構成は、基板Wを内部に保持する成膜室2と、成膜室2内に液体原料を直接噴射する噴射弁3と、噴射弁3に液体原料を供給する原料供給管4と、原料供給管4に設けられ、噴射弁3に供給される液体原料の質量流量を測定する流量計5と、流量計5からの流量計測信号に基づいて噴射弁3の異常を判断する情報処理装置6と、情報処理装置6からのデータを画面上に出力する出力部12とを備えている。
【0028】
本実施形態の液体原料は、テトラエトキシシラン(TEOS:(Si(OC2H5)4)であり、例えばステンレス製の原料タンク7に保存されている。そして、当該タンク7上部から加圧Nガスが圧入されることにより原料供給管4を通り、噴射弁3に圧送され、その噴射弁3を介して成膜室2内部に供給される。さらに液体原料は、噴射弁3から成膜室2内に噴射されると同時に、減圧沸騰噴霧気化現象が起きて、気化されて成膜室2内に充満する。
【0029】
成膜室2は、保持機構(図示しない)により内部に加工対象となる基板Wを保持するものであり、さらに基板Wを加熱するための基板ヒータ21を有している。
【0030】
また、成膜室2は、成膜室2内の圧力を調節するための調圧バルブ8を介して真空ポンプ9が取り付けられ、成膜室2内の圧力を測定するための圧力計10が取り付けられている。そして、この真空ポンプ9によりその室内の圧力を、約130[Pa]に制御している。また、二酸化珪素(SiO2)膜を充分に酸化させるための酸素(O2)ガスを供給するための酸素供給管(図示しない)も配設されている。この酸素供給管は、図示しないマスフローコントローラ(MFC)により酸素(O2)ガスの供給流量を制御されている。
【0031】
噴射弁3は、液体原料を成膜室2内に直接噴射することにより、その液体原料を減圧沸騰させて気化するものである。そして、噴射弁3は成膜室2の上部に、基板Wの成膜対象面と対向するように設けられている。そして、噴射弁3は、情報処理装置6により、開度、開閉回数及び開閉時間等が制御される。
【0032】
噴射弁3の構成は、図2に示すように、本体部31と、その本体部31に内蔵されたソレノイド32と、当該ソレノイド32の電磁誘導により噴射口31Aを開閉する弁体33とからなり、情報処理装置6により制御されるものである。そして、ヒータ11を用いて本体部31の噴射口31Aの近傍を例えば数十℃程度(室温よりも幾らか高温)に加熱している。なお、図2は噴射口31Aが閉じている状態を示している。
【0033】
弁体33は、本体部31の内部空間31Bに位置し、スプリング34によって噴射口31A側に付勢され、噴射口31Aを閉塞するものであり、その先端部33Aに傘状のフランジ331と環状溝332とを形成するようにしている。
【0034】
このように噴射弁3として電磁弁を用いているので、液体原料の噴射量などの制御を応答性良く正確に行うことが容易になる。
【0035】
原料供給管4は、液体原料を噴射弁3に供給するための原料供給路を形成するものである。また、原料タンク7から液体原料であるTEOSを噴射弁3まで流通させるものであり、例えばステンレス製である。そして、原料タンク7と噴射弁3との間には、原料供給管4を流れる液体原料の質量流量を測定するための流量計5が設けられている。また、供給管4上には流量制御用等の制御弁13が設けられている。
【0036】
なお、前記流量計5及び前記制御弁13を一体にして構成した流体用MFC(マスフローコントローラ)を用いることもできる。
【0037】
流量計5は、例えば原料供給管4内を流通する液体原料の質量流量を測定する質量流量計であり、その測定結果を示す流量測定信号を後述する情報処理装置6に出力するものである。具体的には、例えば熱式流量計、膜式流量計又は差圧式流量計等である。
【0038】
情報処理装置6は、噴射弁3を周期的に開閉させて、液体原料を成膜室2内に間欠的に供給する為に噴射弁3及び制御弁13を制御するとともに、流量測定信号から噴射弁3の異常を判断するものである。その機器構成は、図3に示すように、CPU601、内部メモリ602、入出力インタフェース603、AD変換器604等を備えた汎用又は専用のコンピュータであり、前記内部メモリ602の所定領域に格納してあるプログラムに基づいてCPU601やその周辺機器等が作動することにより、図4に示すように、基準データ格納部DB1、異常判断部61等として機能する。
【0039】
出力部(ディスプレイ)12は、情報処理装置6の異常判断部61からの判断結果データを表示するものである。例えばCRTディスプレイ、液晶ディスプレイ又はプラズマディスプレイ等を用いることができる。
【0040】
基準データ格納部BD1は、基準となる(以下、「正常な」という)噴射弁3を用いたときの液体原料の流量を示す基準流量データを格納するものである。基準流量データは、正常な噴射弁3を情報処理装置6によって所定の開度、開閉時間及び開閉回数に制御したときに、一定の供給圧力で液体原料を前記噴射弁3に供給したときの質量流量を示すものである。ここで、正常な噴射弁3とは、新品未使用の噴射弁3であっても良いし、未使用でなくとも、噴射弁3内部に液体原料などの不純物が付着していない、言うならば、情報処置装置6の制御値通りの開度を示す噴射弁3である。
【0041】
この基準流量データは、予め正常な噴射弁3を同一の成膜装置1に用いて測定することにより記憶させて格納するようにしても良いし、入力手段(図示しない)によって入力して格納するようにしても良いし、外部メモリ等を介して入力して格納するようにしても良い。
【0042】
異常判断部61は、流体流量計5から流量測定信号を取得するとともに、基準データ格納部DB1から基準流量データを取得して、それらデータに基づいて、測定流量と基準流量とを比較するものである。そして、その比較結果に基づいて、噴射弁3に異常があるかを判断して、その判断結果を出力部であるディスプレイ12に表示するものである。判断結果としては、例えば「異常有り」又は「異常無し」等である。
【0043】
具体的には、正常な噴射弁3及び検査対象である噴射弁3のそれぞれを開度、開閉時間及び開閉回数等を同一条件で制御する。そして、液体原料の供給圧力を圧力計P1により一定になるように制御した場合に、正常な、すなわち基準となる噴射弁3を用いたときの質量流量である基準流量と、検査対象である噴射弁3を用いたときの質量流量である測定流量とを比較する。そして、その測定流量が基準流量よりも小さい場合には、噴射弁3の開度が正常なものよりも液体原料等の付着により小さくなっている(例えば、噴射弁3の噴射口31Aが詰まっている等)、すなわち異常と判断するものである。
【0044】
ここで、測定流量が基準流量よりも小さいときに噴射弁3の開度が小さいと判断するのは、本実施形態においては、液体原料を供給する圧力が一定のときには、流量計5の測定流量が噴射弁3の開度に依存するからである。つまり、噴射弁3の開度が正常時よりも小さいと流体抵抗が大きくなり、質量流量が小さくなるからである。
【0045】
このように構成した成膜装置1の動作とともに噴射弁異常判断方法について、以下に説明する。
【0046】
まず、正常な噴射弁3を用いて、基準流量を測定する。そして、その基準流量を基準データ格納部BD1に格納させる(ステップS1)。その後、検査対象となる噴射弁3を用いて所定の時間間隔で定期的に、異常判断部61が当該流量計5から測定流量信号を取得するとともに、基準データ格納部BD1から基準流量データを取得する(ステップS2)。
【0047】
そして、異常判断部61が、測定流量と基準流量とを比較して、噴射弁3の開度に異常があるか否かを定期的に判断する(ステップS3)。測定流量が基準流量よりも小さいならば、異常判断部61は、噴射弁3の開度が正常時よりも小さくなっている、すなわち異常と判断して、その判断信号を出力部であるディスプレイ12に出力する(ステップS4)。そして、ディスプレイ12が判断結果を表示する(ステップS5)。
【0048】
このように構成した本実施形態に係る成膜装置1によれば、噴射弁3の開度変化(、つまり噴射弁3の噴射量の変化)を把握することができ、噴射弁3のメンテナンス時期を容易に把握することができるようになる。このことから、例えば膜厚や膜質等の成膜結果が変化する前に噴射弁3のメンテナンスをすることができるので、再現性の良い成膜を得ることができる。
【0049】
<第2実施形態>
【0050】
次に本発明の第2実施形態について図面を参照して説明する。なお、本実施形態において、前記第1実施形態に対応するものには同一の符号を付している。
【0051】
本実施形態に係る成膜装置1は、前記第1実施形態とは異なり、図6に示すように、気体流量計5をパージガス供給管14に設け、パージガスの質量流量を測定するものであり、この測定結果に基づいて噴射弁3の開度が異常か否かを判断するものである。
【0052】
本実施形態に係る基準データ格納部DB1は、正常な噴射弁3を用いたときのパージガスの流量を示す基準流量データを格納するものである。基準流量データは、正常な噴射弁3を情報処理装置6によって所定の開度、開閉時間及び開閉回数に制御したときに、一定の供給圧力でパージガスを前記噴射弁3に供給したときの質量流量を示すものである。
【0053】
異常判断部61は、気体流量計5から流量測定信号を取得するとともに、基準データ格納部DB1から基準流量データを取得して、それらデータに基づいて、測定流量と基準流量とを比較するものである。そして、その比較結果に基づいて、噴射弁3に異常があるかを判断して、その判断結果を出力部であるディスプレイ12に表示するものである。
【0054】
具体的には、正常な噴射弁3及び検査対象である噴射弁3それぞれを、開度、開閉時間及び開閉回数等を同一条件で制御する。そして、パージガスの供給圧力を圧力計P2により一定になるように制御したときに正常な噴射弁3を用いた質量流量である基準流量と、検査対象である噴射弁3を用いたときの質量流量である測定流量とを比較する。その結果、測定流量が基準流量よりも小さい場合には、噴射弁3の開度が正常なものよりも液体原料等の付着により小さくなっている、すなわち異常と判断するものである。
【0055】
ここで、測定流量が基準流量よりも小さいときに噴射弁3の開度が小さいと判断するのは、本実施形態においては、パージガスの供給圧力が一定であり、気体流量計5の測定流量が噴射弁3の開度に依存するからである。つまり、噴射弁3の開度が正常時よりも小さいと流体抵抗が大きくなり、質量流量が小さくなるからである。
【0056】
このように構成した本実施形態に係る成膜装置1によれば、液体原料を用いることなく、噴射弁3の開度の異常を判断することができるので、液体原料を節約することができる。つまり、液体原料を用いて噴射弁3の開度異常を判断するためには、主として成膜中に行う必要があるが、パージガスを用いて噴射弁3の開度異常を判断するものであれば、成膜中でなくてもパージ時に噴射弁3の開度異常を判断することができる。
【0057】
<第3実施形態>
【0058】
次に本発明の第3実施形態について図面を参照して以下に説明する。なお、本実施形態において、前記第1、2実施形態に対応するものには同一の符号を付している。
【0059】
本実施形態に係る成膜装置1は、図7に示すように、前記第1、2実施形態とは異なり、流量計5を用いずに、成膜室2内の圧力変化に基づいて噴射弁3の異常を判断することができるものである。
【0060】
本実施形態に係る基準データ格納部BD1は、正常な噴射弁3を用いて例えば密閉状態の成膜室2内に液体原料を所定回数噴射したときの当該成膜室2内の圧力上昇値を示す基準圧力上昇データを格納するものである。基準圧力上昇データは、正常な噴射弁3を情報処理装置6によって所定の開度、開閉時間及び開閉回数に制御したときに、一定の供給圧力で液体原料を前記噴射弁3に供給したときの成膜室2内の圧力上昇値を示すものである。
【0061】
異常判断部61は、圧力計10から圧力測定信号を取得するとともに、基準データ格納部DB1から基準圧力上昇データを取得して、それらデータに基づいて、測定圧力上昇と基準圧力上昇とを比較するものである。そして、その比較結果に基づいて、噴射弁3に異常があるかを判断して、その判断結果を出力部であるディスプレイ12に表示するものである。
【0062】
具体的には、正常な噴射弁3及び検査対象である噴射弁3それぞれを、開度、開閉時間、開閉回数及び成膜室2の密閉状態(調圧状態)等を同一条件で制御する。そして、液体原料の供給圧力を圧力計P1により一定になるように制御したときに正常な噴射弁3を用いたときの基準圧力上昇値と、検査対象である噴射弁3を用いたときの圧力上昇値である測定圧力上昇値とを比較する。そして、その測定圧力上昇値が基準圧力上昇値よりも小さい場合には、噴射弁3の開度が液体原料等の付着により小さくなっていると判断するものである。
【0063】
ここで、測定圧力上昇値が基準圧力上昇値よりも小さいときに噴射弁3の開度が小さいと判断するのは、成膜室2内の圧力は、噴射弁3の噴射量に依存するからである。つまり、噴射弁3の開度が正常時よりも小さいと流体抵抗が大きくなり、噴射弁3の噴射量が小さくなり、成膜室2内の圧力上昇が小さくなるからである。
【0064】
このように構成した本実施形態に係る成膜装置1によれば、原料供給管4又はパージガス供給管14に流体又は気体流量計5を設けることなく、従来の成膜装置1の構成をそのまま用いて噴射弁3の異常判断を行うことができる。
【0065】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0066】
例えば、前記各実施形態では、基準流量又は基準圧力上昇値といった基準値と、測定流量又は測定圧力上昇値といった測定値を測定するときの液体原料又は気体の供給圧力は一定にしているが、異なる供給圧力であっても良い。この場合、単純に基準値と測定値とを比較するだけでは足らず、所定の演算を施す必要がある。
【0067】
また、噴射弁3の開度が異常であると判断した場合に、その異常をオペレータ等に報知する報知手段をさらに備えたものであっても良い。報知手段は、異常判断部61から判断結果データを受信して、音、光等視覚又は聴覚等によって認識可能な方法によりオペレータに報知するものである。これにより、オペレータに噴射弁3のメンテナンスを促すことができる。
【0068】
さらに、前記実施形態では、単位時間に流れる質量で表す流量である質量流量を用いて、噴射弁の異常を判断するものであったが、その他にも単位時間に流れる体積で表す流量である体積流量を用いても良い。
【0069】
加えて、前記第1、2実施形態では測定流量が基準流量よりも小さいときに噴射弁の開度に異常があると判断するものであったが、その他にも測定流量が基準流量よりも所定値以上小さい場合に噴射弁の開度に異常があると判断するものであっても良い。また前記第3実施形態でも同様に、基準圧力上昇値よりも所定値以上小さい場合に噴射弁の開度に以上があると判断するものであっても良い。
【0070】
さらに加えて、前記各実施形態では、噴射弁の開度異常(例えば噴射口の詰まり等)を判断するものであったが、その他にも噴射弁の故障、例えばソレノイド又はスプリングの不具合等などを判断するものであっても良い。
【0071】
その上、前記実施形態では情報処理装置を用いて自動的に且つ定期的に噴射弁の異常を判断するものであったが、その他にも、流量計の測定結果を、常時出力部により出力するようにしても良い。これによれば、オペレータは出力部に表示された測定結果を見て、その測定結果が変化(具体的には、測定値が低下)したときに噴射弁の異常を判断することができるようになる。
【0072】
前記第3実施形態においては、液体原料を成膜室内に噴射したときの圧力上昇値を用いて噴射弁の異常を判断するものであったが、気体を成膜室内に噴射したときの圧力上昇値を用いて噴射弁の異常を判断するようにしても良い。成膜室内に噴射する気体としては、パージガスの他にも反応ガス等でも良い。
【0073】
前記実施形態では、異常判断部が基準値と測定値との比較結果に基づいて噴射弁に異常があるかを判断して、その判断結果を出力部に出力するものであったが、その他にも、基準値と測定値との比較結果を出力部に出力するようにしても良い。この場合、比較結果を出力する場合の具体例としては、基準値と測定値との差又は比などを出力することが考えられる。
【0074】
前記各実施形態では、成膜装置における噴射弁の異常を判断するものであったが、気化器の噴射弁の異常を判断するものであっても良い。このとき、気化器は液体を気化するための気化室に当該液体を噴射する噴射弁と、その噴射弁に液体又は気体を供給する供給路と、その供給路上に設けられ、前記噴射弁に供給される液体又は気体の流量を検出する流量計と、流量計の測定結果を、噴射弁の異常を判断可能に出力する出力部とを備えている。このような構成の気化器における噴射弁の異常判断方法は、前記各実施形態に記載したものと同様である。
【0075】
また、前記各実施形態の噴射弁はソレノイドを用いたものであったが、その他にもピエゾ等の圧電素子などを用いて構成することもできる。
【0076】
その他、前述した各実施形態や変形実施形態の一部又は全部を適宜組み合わせてよいし、本発明は前記各実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の第1実施形態に係る成膜装置の概略構成図。
【図2】同実施形態における噴射弁の断面図。
【図3】同実施形態における情報処理装置の機器構成を示す図。
【図4】同実施形態における情報処理装置の機能構成を示す図。
【図5】同実施形態の噴射弁異常判断方法を示すフローチャート。
【図6】本発明の第2実施形態に係る成膜装置の概略構成図。
【図7】本発明の第3実施形態に係る成膜装置の概略構成図。
【符号の説明】
【0078】
1 ・・・成膜装置
W ・・・基板
2 ・・・成膜室
3 ・・・噴射弁
4A・・・供給路
5 ・・・流量計
6 ・・・情報処理装置
10・・・圧力計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体原料を気化し、基板上に堆積させて成膜するものであって、前記基板を内部に保持する成膜室と、当該成膜室内に前記液体原料又は気体を噴射する噴射弁と、当該噴射弁に液体原料又は気体を供給する供給路と、当該供給路上に設けられ、前記噴射弁に供給される液体原料又は気体の流量を検出する流量計とを備えた成膜装置における前記噴射弁の異常判断方法であって、
前記噴射弁を用いたときの前記供給路における前記液体原料又は気体の流量を測定する測定ステップと、
前記測定ステップの測定流量と、正常な噴射弁を用いたときの前記供給路における前記液体原料又は気体の基準流量とを比較して、その比較結果をパラメータとして、前記噴射弁の異常を判断する異常判断ステップと、を備えている成膜装置の噴射弁異常判断方法。
【請求項2】
前記異常判断ステップにおいて、前記測定流量が前記基準流量よりも小さい場合に、前記噴射弁の開度が正常時よりも小さいと判断するものである請求項1記載の成膜装置の噴射弁異常判断方法。
【請求項3】
液体原料を気化し、基板上に堆積させて成膜するものであって、前記基板を内部に保持する成膜室と、前記成膜室内に液体原料又は気体を噴射する噴射弁と、前記成膜室内の圧力を測定する圧力計とを備えた成膜装置における前記噴射弁の異常判断方法であって、
前記噴射弁を用いて前記成膜室内に液体原料又は気体を噴射したときの前記成膜室内の圧力上昇値を測定する測定ステップと、
前記測定ステップにおける測定値と、正常な噴射弁を用いて前記成膜室内に液体原料又は気体を噴射したときの圧力上昇値とを比較して、その比較結果をパラメータとして、前記噴射弁の異常を判断する異常判断ステップと、を備えている成膜装置の噴射弁異常判断方法。
【請求項4】
液体を気化するための気化室に当該液体を噴射する噴射弁と、当該噴射弁に前記液体又は気体を供給する供給路と、当該供給路上に設けられ、前記噴射弁に供給される液体又は気体の流量を検出する流量計とを備えた気化器における前記噴射弁の異常判断方法であって、
前記噴射弁を用いたときの前記供給路における前記液体又は気体の流量を測定する測定ステップと、
前記測定ステップの測定流量と、正常な噴射弁を用いたときの前記供給路における前記液体又は気体の基準流量とを比較して、その比較結果をパラメータとして、前記噴射弁の異常を判断する異常判断ステップと、を備えている気化器の噴射弁異常判断方法。
【請求項5】
液体原料を気化し、基板上に堆積させて成膜する成膜装置であって、
基板を内部に保持する成膜室と、
前記成膜室内に液体原料又は気体を噴射する噴射弁と、
前記噴射弁に液体原料又は気体を供給する供給路と、
前記供給路上に設けられ、前記噴射弁に供給される液体原料又は気体の流量を測定する流量計と、
前記流量計の測定結果を、前記噴射弁の異常を判断可能に出力する出力部と、を備えている成膜装置。
【請求項6】
前記噴射弁が正常であるときの基準流量と、前記流量計の測定流量とを比較して、その比較結果をパラメータとして前記噴射弁に異常があるか否かを判断する判断部をさらに備え、
前記出力部が、前記判断部の判断結果を出力するものである請求項5記載の成膜装置。
【請求項7】
液体原料を気化し、基板上に堆積させて成膜する成膜装置であって、
基板を内部に保持する成膜室と、
前記成膜室内に液体原料又は気体を噴射する噴射弁と、
前記成膜室内の圧力を測定する圧力計と、
正常な噴射弁を用いて前記成膜室内に液体原料又は気体を噴射したときの圧力上昇値と、検査対象である噴射弁を用いて前記成膜室内に液体原料又は気体を噴射したときの圧力上昇値とを比較して、その比較結果をパラメータとして前記噴射弁が異常であると判断する判断部とを備えている成膜装置。
【請求項8】
液体を気化するための気化室に当該液体を噴射する噴射弁と、
当該噴射弁に前記液体又は気体を供給する供給路と、
当該供給路上に設けられ、前記噴射弁に供給される液体又は気体の流量を検出する流量計と、
前記流量計の測定結果を、前記噴射弁の異常を判断可能に出力する出力部と、を備えている気化器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−7826(P2008−7826A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−180380(P2006−180380)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(000127961)株式会社堀場エステック (88)
【Fターム(参考)】