説明

成膜装置及び成膜方法

【課題】樹脂基板上に高い密着性と緻密性を有する光学薄膜を成膜する。
【解決手段】成膜基板23を基板ドーム22に配置する。SiOからなる蒸着材料34に電子銃36から電子ビームを照射してこれを加熱し蒸発させると共に負極性の矩形直流電圧を基板ドームに印加した状態で300nm以上の膜厚のSiO膜を形成する。続いて、ZrO等の蒸着材料を電子ビームで加熱すると共にイオンソース40からイオンを供給することによりイオンアシスト効果を付与しZrO膜を形成する。以後、同様の工程で、必要な膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂基板上に成膜する成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学レンズ等の光学系では、レンズ表面での反射による光量損失等を抑制するため反射防止膜が形成されている。また、光学レンズ等としては、近年ガラスに限られず、プラスチックレンズ及び基板が用いられている。
【0003】
特に、PMMA等の合成樹脂から形成された基板上に反射防止膜を形成する場合、合成樹脂は一般に薬品等により侵食されやすい性質があるため、基板上にSiOからなる薄膜を形成した上で、SiO膜の上に高屈折率、低屈折率の積層膜を形成し、反射防止膜を形成することが行われている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−202401号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、PMMA等から構成される樹脂基板上にSiO膜を形成する場合、基板への密着性、熱や湿気等の耐環境性、耐薬品性を十分に確保するためには、例えば200nm以上の膜厚に形成する必要がある。また、良好な充填密度の膜を形成する必要がある。
【0005】
しかし、一般にSiO膜を形成する際に用いられる電子銃(Electron Beam: EB)を用いた真空蒸着法では、電子銃から蒸着材料に対して照射された電子の反射電子、二次電子が、基板に到達することにより、SiO膜の充填密度を下げてしまうという問題がある。
【0006】
また、膜の充填密度を高く形成するためには、基板に高周波電圧を印加しイオンアシストする方法もあるが、合成樹脂からなる基板は融点が低いため、高周波電圧を印加することができないという問題がある。
【0007】
また、PMMA等の水の含有量が多い(PMMAで約2%)物質から構成される基板上に成膜する場合には、成膜過程で電子やイオンが基板に衝突して内部の水分がたたき出され、膜の密着性を低下させるという問題もある。
【0008】
本発明は上述した実情に鑑みてなされたものであり、基板と良好な密着性を備えた膜を成膜する成膜装置及び成膜方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、樹脂基板上に緻密で密着性に優れた膜を成膜する成膜装置及び成膜方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、この発明の第1の観点に係る成膜方法は、
樹脂基板をドームに配置する工程と、
第1の蒸着源を電子ビームで加熱すると共に前記ドームに負極性の電圧を間欠的に印加し、前記第1の蒸着源からの飛散物を前記樹脂基板上に堆積させて第1の蒸着膜を形成する第1の成膜工程と、
第2の蒸着源を電子ビームで加熱すると共にイオンソースからイオンを供給し、前記第2の蒸着源からの飛散物を前記第1の蒸着膜上に堆積させて第2の蒸着膜を形成する第2の成膜工程と、
前記第2の蒸着膜上に、複数の蒸着膜を積層させる積層膜形成工程と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
例えば、前記第1の成膜工程は、前記ドームに負極性の電圧を間欠的に印加することにより、前記電子ビームの反射電子及び二次電子の基板への到達を抑えると共に前記ドームに帯電している電荷を周期的に放電し、さらに、前記第1の蒸着源からの飛散物を負極性の電圧により引き寄せる工程であり、前記第2の成膜工程は、前記ドームにイオンソースからイオンを照射することによりイオンアシスト効果を得ながら、前記第1の蒸着膜上に前記第2の蒸着源の飛散物を堆積する工程である。
【0011】
例えば、前記第1の成膜工程では、10Hz以下の矩形波電圧を前記ドームに印加し、イオンを照射せず、前記第2の成膜工程及び前記積層膜形成工程では、前記ドームを接地し、又は、400kHz以下の周波数の矩形波電圧を前記ドームに印加し、イオンを照射する。
【0012】
例えば、前記第1の蒸着膜は200nm以上のSiO膜、前記第2の蒸着膜はZrO膜である。
【0013】
前記樹脂基板は、例えば、PMMA等の水分含有率が1%以上の物質から構成される。
【0014】
前記樹脂基板を所定のガス雰囲気中に維持し、前記蒸着源からの飛散物を前記ガスと反応させて堆積させるようにしてもよい。
【0015】
前記ドームに印加する電圧は、例えば、1)接地電圧と負極性の電圧とを繰り返す直流電圧、または、2) 平均値が負極性で、負極性の電圧と、正極性の電圧とを繰り返す交流電圧から構成される。
【0016】
或いは、前記ドームに印加する電圧は、たとえば、1)接地電圧と負極性の電圧とを繰り返す直流電圧、または、2) 平均値が負極性で、負極性の電圧と正極性の電圧とを繰り返し、負極性の電圧のピーク電圧の絶対値が正極性の電圧のピーク電圧の絶対値よりも高い交流電圧から構成される。
【0017】
前記第1の成膜工程で前記ドームに印加する電圧は、矩形波状電圧
から構成される。
【0018】
上記目的を達成するため、この発明の第2の観点に係る成膜装置は、
真空槽と、
前記真空槽内に設置され、電極として機能し、更に基板を保持する基板ドームと、
前記基板ドームへ負極性の直流間欠電圧を印加する電源と、
蒸着材料が設置された蒸着源と、
前記蒸着源を加熱する電子銃と、
前記蒸着材料の前記基板への堆積をアシストするイオンを供給するイオンソースと、
を備えることを特徴とする。
【0019】
前記電源と前記電子銃と前記イオンソースとを制御する制御手段を更に備えてもよい。この前記制御手段は、例えば、前記基板ドームに樹脂基板が配置された状態で、前記電子銃に第1の蒸着材料が配置された蒸着源に電子ビームを照射させて第1の蒸着材料を加熱して蒸発させると共に前記電源に前記基板ドームへ負極性の直流間欠電圧を印加させることにより、前記樹脂基板に前記第1の蒸着材料を含む第1の蒸着膜を形成し、前記電子銃に第2の蒸着材料が配置された蒸着源に電子ビームを照射させて第2の蒸着材料を加熱して蒸発させると共に、前記イオンソースにイオンを供給させてイオンアシスト効果を与えることにより、前記第1の蒸着膜上に前記第2の蒸着材料を含む第2の蒸着膜を形成する。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る成膜方法によれば、第1の成膜工程において、ドームに負極性の電圧を印加することにより、蒸着源を加熱するための電子ビームの反射電子や二次電子が基板に到達することを防ぐことができる。イオンアシストを使用せず、二次電子・反射電子も基板に到達しにくいため、PMMAのような水分の含有率の高い材料から構成される樹脂基板に成膜しても、基板から水分がたたき出されることがなく、密着性の高い第1の蒸着膜を形成することができる。また、直流電圧を間欠的に印加することにより、周期的にドームの電荷を放電することが可能となり、チャージアップ等による異常放電を防止できる。また、直流電圧のバイアス効果により、蒸着源からの飛散物が基板上に緻密に堆積し、充填密度の高く密着力の強い膜を成膜することができる。
【0021】
また、第2の成膜工程以降においては、イオン照射と直流電圧のバイアス印加とを併用することにより、基板の昇温を抑止しながらも蒸発粒子にエネルギーを与え、イオンアシスト効果を得て緻密な膜を低温成膜することができる。また、すでに第1の蒸着膜が形成されているので、イオンを使用しても、水分による問題はほとんど発生しない。
【0022】
また、本発明の成膜装置によれば、上述の成膜方法を実行することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の実施の形態に係る反射防止膜、成膜装置及び成膜方法について、図を用いて説明する。
【0024】
本発明の実施の形態に係る反射防止膜52を図2に示す。反射防止膜52は、合成樹脂、例えばアクリル樹脂(PMMA)等から構成された基板51上に形成される。
【0025】
反射防止膜52は、低屈折率の層と高屈折率の層が交互に積層された、いわゆるLHLH・・・膜である。反射防止膜52は、例えば図2に示すように7層から構成される。反射防止膜52は、基板51の上面に形成された第1層61と、第1層61の上面に形成された第2層62と、それぞれ積層された第3層63と、第4層64と、第5層65、第6層66と、第7層67と、を備える。
【0026】
第1層61は、例えばSiOから構成され、基板51と反射防止膜52との密着性を良好にし、更に基板51を外部環境、薬品等から保護する機能を有する。また、薄く形成されると、膨張率の違いによりクラックが生じやすくなる。従って、第1層61は、所定程度の厚み以上に形成されるのが好ましく、例えば200nm以上、より好ましくは300nm以上の厚みに形成される。また、第1層61は、矩形波の直流電圧がバイアス電圧として印加された状態で形成される。
【0027】
第2層62は、高屈折率の材料、例えばZrOから構成され、第1層61上に形成される。なお、後述するように第2層62と、第2層62より上面に形成される各層は、イオンソースによってイオンアシストされ、400kHz以下の直流バイアス電圧が印加された状態で形成される。
【0028】
第3層63は、低屈折率の材料、例えばSiOから構成され、第2層62の上に形成される。
第4層64は、高屈折率の材料、例えばZrOから構成され、第3層63の上に形成される。
【0029】
第5層65は、低屈折率の材料、例えばSiOから構成され、第4層64の上に形成される。
第6層66は、高屈折率の材料、例えばTiOから構成され、第5層65の上に形成される。
第7層67は、低屈折率の材料、例えばSiOから構成され、第6層66の上に形成される。
【0030】
本実施の形態の反射防止膜52は、基板51上に、緻密に充填されたSiOから構成される第1層61が形成されるため、基板51を外部環境から保護することができ、良好な耐環境性を備える。更に、第1層61は、200nm以上、好ましくは300nm以上の厚みを備えるため、クラック等の発生を抑え、良好な密着性を備える。また、本実施の形態では、第2層62としてZrOを用いることにより、第1層61との密着性を良好に保つことができる。
【0031】
次に、本発明の実施の形態に係る成膜装置について図を用いて説明する。
本発明の実施の形態に係る成膜装置10を図1に示す。
【0032】
成膜装置10は、図1に示すように、基板ドーム22と、基板ドーム回転機構24と、真空槽30と、ガス導入口31と、給電部32と、基板加熱用ヒータ33と、蒸着材料34を充填する坩堝35と、電子銃36と、シャッター37と、ニュートラライザ38と、排気口39と、イオンソース40と、を備える。また、給電部32と真空槽30との間には、直流電源41が接続されている。
【0033】
真空槽(真空チャンバ)30は、導体から構成され、接地された密閉容器から構成され、基板ドーム22と、基板ドーム回転機構24と、給電部32と、基板加熱用ヒータ33と、坩堝35と、電子銃36と、シャッター37と、ニュートラライザ38と、等を収容し、ガス導入口31と排気口39とを備える。
【0034】
基板ドーム22は、ドーム状の形状を有し、電極として機能する。また、基板ドーム22上には、成膜対象の成膜基板23が載置される。なお、成膜基板23を、基板ドーム22近傍に保持する構成でもよい。
【0035】
基板ドーム回転機構24は、均一な成膜を可能とするため、成膜処理の間、基板ドーム22を回転する。
ガス導入口31は、真空槽30内部にアルゴン(Ar)、酸素(O2)等の放電ガス、プロセスガス、等、任意のガスを導入する。
給電部32は、回転する基板ドーム22に直流電圧を印加する。
基板加熱用ヒータ33は、成膜基板23を加熱する。
【0036】
坩堝35には、プロセスに応じた種類の蒸着材料が充填されている。例えばSiO、SiO、ZrO、TiO等所望の蒸着材料34を用いればよく、複数の坩堝35を配置しそれぞれに異種の蒸着材料34を充填してもよい。
電子銃36は、坩堝35内の蒸着材料34に電子を衝突させ、蒸発温度まで加熱する。
【0037】
シャッター37は、開閉可能に構成され、蒸着完了時に閉じ、蒸着材料を遮蔽する。
ニュートラライザ38は、放電の着火と基板のチャージアップを防止するために電子を放出する。
排気口39は、真空ポンプなどの排気装置に接続され、真空槽30内のガスを排気する。
【0038】
イオンソース40は、真空槽30に設置され、プロセスに応じて所定のエネルギーを有するイオンを真空槽30内に供給する。具体的にはイオンソース40は、基板51上にSiOからなる第1層61を形成する工程では、イオンを供給せず、第2層62以降を形成する工程でイオンを供給する。なお、第2層62以降を形成する際は、イオンソース40のエネルギーを補うようバイアス電圧が印加されるため、イオンソース40から供給されたイオンは、良好に基板ドーム22へと導かれる。即ち、イオンソース40のエネルギーを抑えながら蒸着粒子にエネルギーを与えることが可能となるため、充填密度の高い薄膜を低温成膜することが可能となる。
【0039】
直流電源41は、可変周波数直流電源から構成され、制御部42からの制御信号が指示する電力で、給電部32に、所定周波数のパルスの直流電圧を印加する。直流電源41は、後述するように成膜プロセスに応じて適宜選択され、例えば図3に示すような2Hz程度の周波数の矩形波、400kHz以下程度の周波数の矩形波を印加する。なお、電圧を印加していない間はGNDに落としており、基板ドーム22、真空槽30間に異常放電が発生することを防ぐ。
【0040】
制御部42は、プロセッサ(MPU、CPU等)、RAM、ROM、インタフェースなどをから構成され、この成膜装置10の動作手順を規定する制御データを格納し、成膜装置10内の各部に制御信号を供給して、制御する。
【0041】
次に、成膜装置10が成膜基板23上に成膜する動作を説明する。
まず、基板ドーム22に成膜基板23を設置する。成膜基板23(基板51)は、合成樹脂、例えばPMMAから構成される。続いて、坩堝35には形成する膜に応じた蒸着材料34であるSiO、SiO、ZrO、TiOを配置しておく。
【0042】
次に、真空槽30内を図示しない排気系によって10−4Pa程度の高真空領域まで排気する。基板ドーム回転機構24により基板ドーム22を回転させる。また、必要に応じて基板加熱用ヒータ33を用いて成膜基板23を加熱する。
続いて、また、ガス導入口31から真空槽30内にAr,O等のガスを導入する。ガス流量を安定させ、例えば真空槽30内の圧力を10−2Pa程度の真空状態に維持する。
また、電子銃36から電子ビームを坩堝35内のSiOの蒸着材料34へ照射し、蒸着材料34を蒸発温度まで昇温させる。
【0043】
制御部42からの信号に基づき、直流電源41は、図3に示すような数百V10Hz以下程度の低周波数の矩形波電圧を給電部32に供給する。
【0044】
シャッター37を開くと蒸着材料34であるSiOは真空槽30内を飛散し、成膜基板23上に堆積することで緻密なSiO薄膜を形成する。このとき、陽イオン化したSiOは、基板ドーム22に印加されている負電圧(バイアス電圧)により、例えば、50〜150ev程度エネルギーが付与されて加速される。この効果により、緻密なSiO膜が堆積する。一方、電子銃36から蒸着材料34に照射された電子の反射電子及び二次電子は、負極性のバイアス電圧により、基板ドーム22の近傍には(ほとんど)達しない。このため、高エネルギーな反射電子・二次電子が水分を多量に含むPMMAから構成される成膜基板23に衝突して、水分をたたき出し、膜の密着性を低下させるという事態は起こりにくい。また、矩形状の負極性直流電圧を印加するため、周期的に基板ドーム22が放電されることになり、基板ドーム22に電荷が異常に蓄積して異常放電を起こすといった事態を防止できる。
【0045】
成膜されたSiO膜の膜厚が200nm以上、望ましくは300nm以上としいう目標値に到達したらシャッター37を一旦閉じる。これにより、第1層61が形成される。
【0046】
続いて、電子銃36から電子ビームを坩堝35内のZrOの蒸着材料34へ照射し、蒸着材料34を蒸発温度まで昇温させる。
【0047】
また、イオンソース40を起動して、イオンの供給を開始する。
なお、基板ドーム22には数百V400kHz以下程度の低周波数の矩形波電圧を供給する。直流電圧を間欠的に印加することにより、基板ドーム22の帯電を抑え、イオンアシスト効果を向上させることができる。周波数は400kHz以下程度と任意であるが、成膜基板23の材質に応じて、成膜基板23があまり加熱されない帯域を選択すればよい。
【0048】
この状態において、シャッター37を開くと蒸着材料34であるZrOは真空槽30内を飛散し、イオンにアシストされて、成膜基板23上に堆積することで緻密な薄膜が形成される。
【0049】
成膜されたZrO膜の膜厚が20nm程度の目標値に到達したらシャッター37を一旦閉じる。これにより、第2層62が形成される。
【0050】
以後、同様の動作を繰り返し、SiOから構成される第3層63と、ZrOから構成される第4層64と、SiOから構成される第5層65と、TiOから構成される第6層66と、SiOから構成される第7層67と、を形成する。
【0051】
即ち、坩堝35内の蒸着材料34を切り替えながら、蒸着材料34に電子ビームを照射して、蒸発温度まで昇温させて蒸発させ、イオンソース40からのイオンによるイオンアシスト効果を与え、基板ドーム22にバイアス電圧を印加した状態での成膜をそれぞれ所望の膜厚が得られるまで繰り返す。
【0052】
これらの成膜処理が終了すると、シャッター37を閉じると共に電子銃36、基板加熱用ヒータ33、高周波電源41、ガスの導入、およびニュートラライザ38などを停止させる。冷却後、真空槽30内に大気を導入した後、薄膜が形成された成膜基板23を取り出す。
【0053】
上述したように、本実施の形態の成膜方法では、第1層61を成膜する際には、基板ドーム22に数百V程度の負極性の矩形波電圧を印加する。このため、蒸着材料34を加熱するための電子ビームの反射電子や二次電子が基板ドーム22近傍、特に成膜基板23に到達することを防ぐことができる。イオンアシストを使用しておらず、二次電子・反射電子も成膜基板23に到達しにくいため、PMMAのような水分の含有率の高い材料から構成される成膜基板23(51)に成膜しても、水が成膜基板23からたたき出されることがなく、密着性の高いSiO膜である第1の膜61を形成することができる。また、直流電源41から基板ドーム22に接地電圧を間欠的に印加することになり、周期的に基板ドーム22に蓄積した電荷を放電することができ、チャージアップ等による異常放電を防止できる。また、直流電圧のバイアス効果により、蒸着材料34からの飛散物(陽イオン)が基板ドーム22に吸引され、成膜基板23上に緻密に堆積し、緻密な第1層61を成膜することができる。
【0054】
また、第2層62〜第7層67を形成する各工程においては、イオンソース40がオンされて、イオンアシスト効果が得られ、基板ドームにバイアス電圧が印加されているので、基板温度を昇温させず緻密な膜を形成することができる。また、すでに第1層61が形成されているので、基板ドーム22を接地し、イオンアシストを使用しても、成膜基板51に含まれている水分による問題はほとんど発生しない。
【0055】
本発明は上述した実施の形態に限られず、様々な変形及び応用が可能である。まず、図2に示した層構造は適宜変更可能であり、形成される多層膜の目的に応じて適宜選択される。例えば、屈折率がHLHL・・・、LHLH・・・或いは、HMLHML・・・となる組み合わせ等任意に選択可能である。
【0056】
また、成膜工程も適宜変更可能である。例えば、上記実施の形態においては、第2層62〜第7層67の形成段階では、基板ドーム22にバイアス電圧を印加したが、基板ドーム22を接地して成膜してもよい。
【0057】
また、第1の膜61を形成する段階で、基板ドーム22に印加する電圧は、低周波数(10Hz以下程度)が望ましいが、これに限定されるものではない。また、実施の形態では図3に示すような所定の負極性の電圧と接地電圧(0V)とを交互に繰り返す矩形波(方形波)状の直流電圧を印加したが、例えば、図4に示すような、所定の負極性の電圧に所定の正極性の電圧とを繰り返す矩形波(方形波)状の交流電圧を印加してもよい。このような波形とすれば、正極性の電圧が印加されているタイミングで、基板ドーム22の電荷を効率良く放電できる。なお、印加電圧は平均値が負極性であると共に、負極性の電圧(ピーク電圧)の絶対値は、正極性の電圧(ピーク電圧)の絶対値よりも大きいことが望ましく、負極性の電圧の印加時間は、正極性の電圧の印加時間よりも長いことが望ましい。なおここでは、矩形波は、立ち上がり時や立ち下がり時の、なまりをともなうものでもよい。
【0058】
また、基板ドーム22に印加する電圧は、矩形波に限定されるものではなく、その波形は任意であり、蓄積した電荷を適宜放電できるように、所望の負極性の電圧を間欠的に印加することが重要である。
【0059】
また、上述した実施の形態で示した蒸着材料、ガス種、圧力、温度、装置構造などは、一例に過ぎず、任意に変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施の形態に係る成膜装置の構成例を模式的に示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る反射防止膜の構成例を示す断面図である。
【図3】基板ドームに印加される直流電圧の波形を示す図である。
【図4】基板ドームに印加される直流電圧の波形を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
10 成膜装置
22 基板ドーム
23 成膜基板
24 基板ドーム回転機構
30 真空槽
31 ガス導入口
32 給電部
33 基板加熱用ヒータ
34 蒸着材料
35 坩堝
36 電子銃
37 シャッター
38 ニュートラライザ
39 排気口
40 イオンソース
41 直流電源
42 制御部
51 基板
52 反射防止膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基板をドームに配置する工程と、
第1の蒸着源を電子ビームで加熱すると共に前記ドームに負極性の電圧を間欠的に印加し、前記第1の蒸着源からの飛散物を前記樹脂基板上に堆積させて第1の蒸着膜を形成する第1の成膜工程と、
第2の蒸着源を電子ビームで加熱すると共にイオンソースからイオンを供給し、前記第2の蒸着源からの飛散物を前記第1の蒸着膜上に堆積させて第2の蒸着膜を形成する第2の成膜工程と、
前記第2の蒸着膜上に、複数の蒸着膜を積層させる積層膜形成工程と、
を備えることを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記第1の成膜工程は、前記ドームに負極性の電圧を間欠的に印加することにより、前記電子ビームの反射電子及び二次電子の基板への到達を抑えると共に前記ドームに帯電している電荷を周期的に放電し、さらに、前記第1の蒸着源からの飛散物を負極性の電圧により引き寄せる工程であり、
前記第2の成膜工程は、前記ドームにイオンソースからイオンを照射することによりイオンアシスト効果を得ながら、前記第1の蒸着膜上に前記第2の蒸着源の飛散物を堆積する工程である、
ことを特徴とする請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記第1の成膜工程では、10Hz以下の矩形波電圧を前記ドームに印加し、イオンを照射せず、
前記第2の成膜工程及び前記積層膜形成工程では、前記ドームを接地し、又は、400kHz以下の周波数の矩形波電圧を前記ドームに印加し、イオンを照射する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の成膜方法。
【請求項4】
前記第1の蒸着膜は200nm以上のSiO膜、
前記第2の蒸着膜はZrO膜である、
ことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の成膜方法。
【請求項5】
前記樹脂基板は水分含有率が1%以上の物質から構成される、
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の成膜方法。
【請求項6】
前記樹脂基板を所定のガス雰囲気中に維持し、前記蒸着源からの飛散物を前記ガスと反応させて堆積させる
ことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の成膜方法。
【請求項7】
前記ドームに印加する電圧は、1)接地電圧と負極性の電圧とを繰り返す直流電圧、または、2) 平均値が負極性で、負極性の電圧と、正極性の電圧とを繰り返す交流電圧から構成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の成膜方法。
【請求項8】
前記ドームに印加する電圧は、1)接地電圧と負極性の電圧とを繰り返す直流電圧、または、2) 平均値が負極性で、負極性の電圧と正極性の電圧とを繰り返し、負極性の電圧のピーク電圧の絶対値が正極性の電圧のピーク電圧の絶対値よりも高い交流電圧から構成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の成膜方法。
【請求項9】
前記第1の成膜工程で前記ドームに印加する電圧は、矩形波状電圧
から構成される、ことを特徴とする請求項7又は8に記載の成膜方法。
【請求項10】
真空槽と、
前記真空槽内に設置され、電極として機能し、更に基板を保持する基板ドームと、
前記基板ドームへ負極性の間欠電圧を印加する電源と、
蒸着材料が設置された蒸着源と、
前記蒸着源を加熱する電子銃と、
前記蒸着材料の前記基板への堆積をアシストするイオンを供給するイオンソースと、
を備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項11】
前記電源と前記電子銃と前記イオンソースとを制御する制御手段を更に備え、
前記制御手段は、
前記基板ドームに樹脂基板が配置された状態で、
前記電子銃に第1の蒸着材料が配置された蒸着源に電子ビームを照射させて第1の蒸着材料を加熱して蒸発させると共に前記電源に前記基板ドームへ負極性の間欠電圧を印加させることにより、前記樹脂基板に前記第1の蒸着材料を含む第1の蒸着膜を形成し、
前記電子銃に第2の蒸着材料が配置された蒸着源に電子ビームを照射させて第2の蒸着材料を加熱して蒸発させると共に、前記イオンソースにイオンを供給させてイオンアシスト効果を与えることにより、前記第1の蒸着膜上に前記第2の蒸着材料を含む第2の蒸着膜を形成する、
ことを特徴とする請求項10に記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−270336(P2007−270336A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−101071(P2006−101071)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000146009)株式会社昭和真空 (72)
【Fターム(参考)】